説明

溶接方法、電池並びに組電池の製造方法、および、電池

【課題】 レーザ溶接時の溶接クラックを低減することが可能な溶接方法、この溶接方法を用いた電池及び組電池の製造方法、これらの方法で製造された電池を提供する。
【解決手段】 実施形態によれば、電池の端子と接続バー13とをレーザ溶接する溶接方法が提供される。レーザ溶接を溶接軌跡が複数に分割され、かつ分割された溶接軌跡161〜164それぞれの終端171〜174が、隣接する溶接軌跡の始端と重なるように行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、溶接方法、電池、組電池、電池の製造方法、及び、組電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
角形電池を単セルとして用いた組電池において、単セル間を電気的に接続する手法として、例えば、単セル同士の電極端子間に接続バーをレーザ溶接し、電極端子間を接続バーを介して電気的に接続する方法が挙げられる。レーザ溶接には、電極端子の凸形状に合った嵌め込み可能な丸穴もしくは角穴を接続バーに開け、その穴を電極端子に嵌め込み後にその境界線をレーザ溶接する突合せ方式の溶接方法がある。また、電極端子の上面に接続バーを重ね、重ね合わせて行う溶接方式もある。
【0003】
組電池の信頼性を高めるため、レーザ溶接時の溶接クラックの発生を低減することが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−111246号公報
【特許文献2】特開2010−27546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ溶接時の溶接クラックを低減することが可能な溶接方法、この溶接方法を用いた電池及び組電池の製造方法、および、これらの方法で製造された電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、電池の端子と接続バーとをレーザ溶接する溶接方法が提供される。レーザ溶接を溶接軌跡が複数に分割され、かつ分割された溶接軌跡それぞれの終端が、隣接する溶接軌跡の始端と重なるように行う。
【0007】
また、実施形態によれば、電池の端子と接続バーとをレーザ溶接する溶接方法が提供される。レーザ溶接により第1の溶接軌跡を形成する。次いで、第1の溶接軌跡と対向する箇所にレーザ溶接により第2の溶接軌跡を形成する。第1の溶接軌跡及び第2の溶接軌跡を形成する工程を少なくとも1回行うことにより、電池の端子と接続バーがレーザ溶接される。
【0008】
実施形態によれば、外装缶と、外装缶の開口部に配置された蓋と、蓋に設けられた端子と、端子にレーザ溶接された接続バーを備えた電池の製造方法が提供される。レーザ溶接が、実施形態に係るいずれかの方法で行われる。また、電池を複数個と、電池の端子間を電気的に接続する接続バーとを備えた組電池の製造方法が提供される。端子と接続バーとのレーザ溶接が、実施形態に係るいずれかの方法で行われる。さらに、実施形態によれば、実施形態に係る方法で製造された電池及び組電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係る組電池の部分分解斜視図。
【図2】図1に示す組電池における端子と接続バーとの溶接軌跡を示す模式図。
【図3】実施形態における重ね合せ方式の溶接工程を示す断面図。
【図4】実施形態の方法で溶接された端子と接続バーとの溶接部を模式的に示す断面図。
【図5】図1の単セルに用いられる電極群を示す部分展開斜視図。
【図6】第1の実施形態に係る組電池の部分分解斜視図。
【図7】第2の実施形態に係る組電池における端子と接続バーとの溶接軌跡を示す模式図。
【図8】第3の実施形態に係る電池の部分分解斜視図。
【図9】図8に示す電池の上面図。
【図10】実施例1の溶接方法を示す断面図。
【図11】実施例2の溶接方法を示す断面図。
【図12】実施例1,2の溶接軌跡を示す模式図。
【図13】比較例1,2の溶接軌跡を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る組電池の部分分解斜視図であり、図5は、図1の単セルに用いられる電極群を示す部分展開斜視図である。図1に示すように、組電池1は、複数の単セル2を備える。単セル2は、例えば、角形非水電解質電池が挙げられる。単セル2は、それぞれ、有底角筒形状をなす外装缶3と、外装缶3の開口部に配置された矩形板状の蓋4と、蓋4に設けられた正極端子5及び負極端子6とを備える。外装缶3及び蓋4は、例えば、金属、合金のような導電性材料から形成される。導電性材料には、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄あるいはステンレスなどを挙げることができる。
【0012】
外装缶3内には、図5に示す電極群7と、非水電解液(図示しない)が収容されている。図5に示すように、電極群7は、例えば、シート状の正極8とシート状の負極9との間にセパレータ10を挟んで渦巻状に捲回した後、全体を扁平形状に加圧成形することにより作製される。正極タブ11は、電極群7の正極8に電気的に接続され、電極群7の上端面から上向きに導出されている。一方、負極タブ12は、電極群7の負極9に電気的に接続され、電極群7の上端面から上向きに導出されている。なお、図5の例は、扁平渦巻き形状の電極群であるが、電極群の構造は特に限定されず、例えば、正極と負極をその間にセパレータを介在させながら交互に積層した積層型電極群を使用することが可能である。
【0013】
正極端子5及び負極端子6は、それぞれ、上面が矩形の凸部からなる。正極端子5は、正極タブ11と電気的に接続され、負極端子6は、負極タブ12と電気的に接続されている。負極活物質に炭素系材料を使用するリチウムイオン二次電池の場合、正極端子5は一般的に、アルミニウムあるいはアルミニウム合金が使用され、負極端子6は、銅、ニッケル、ニッケルメッキされた鉄などの金属が使用される。また、負極活物質にチタン酸リチウムを使用する場合は、上記に加え、負極端子6にアルミニウムあるいはアルミニウム合金を使用してもかまわない。
【0014】
図1に示すように、組電池1は、複数の接続バー13を備えている。接続バー13は、単セル2間の配線、あるいは単セル2もしくは組電池1から外部に電気エネルギーを取り出すために使用される。接続バー13は、それぞれ、矩形板状をなし、複数(例えば2個)の貫通孔14a,14bを有する。接続バー13は、金属や合金のような導電性を有する材料から形成されている。具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0015】
一方の接続バー13は、貫通孔14aが、一方の単セル2(図1の奥側)の正極端子5上に重ねられ、貫通孔14bが、他方の単セル2(図1の手前側)の負極端子6上に重ねられている。この接続バー13は単セル2間の配線として使用される。別の接続バー13は、貫通孔14bが、図1の奥側に位置する単セル2の負極端子6上に重ねられている。この接続バー13は、組電池1から外部に電気エネルギーを取り出すために使用される。なお、単セル2間の電気的接続は、直列に限らず、並列接続も可能である。
【0016】
接続バー13と正負極端子5,6との溶接方法を図2〜図4を参照して説明する。図2は、図1に示す組電池における単セルの端子と接続バーとの溶接軌跡を示す模式図で、図3は、図2に示す端子と接続バーとの重ね合せ部にレーザ照射している状態を模式的に示す断面図で、図4は、図2に示す端子と接続バーとの溶接部を模式的に示す断面図である。図2及び図3に示すように、接続バー13の貫通孔14bの周縁と、負極端子6の上面とが重なった部分に、接続バー13の上方からレーザ光15を照射する。レーザ光15は、特に限定されるものではないが、例えば、YAGレーザを挙げることができる。
【0017】
レーザ光15は、その軌跡が複数の円弧に分割されるように照射される。その際、溶接軌跡の始端が、前の工程で形成された溶接軌跡の終端に重なるように行うことが望ましい。例えば図2に示すように、レーザ光15の照射により、第1の溶接軌跡161を円弧状に形成する。第1の溶接軌跡161の終端171が固化する前に、第2の溶接軌跡162をその始端が第1の溶接軌跡161の終端171に重なるように形成する。次いで、第2の溶接軌跡162の終端172が固化する前に、第3の溶接軌跡163をその始端が第2の溶接軌跡162の終端172に重なるように形成する。ひきつづき、第3の溶接軌跡163の終端173が固化する前に、第4の溶接軌跡164をその始端が第3の溶接軌跡163の終端173に重なるように形成する。また、第4の溶接軌跡164の終端174は、第1の溶接軌跡161の始端に重ねる。このようにして正負極端子5,6に接続バー13を重ね合せ方式で溶接する。
【0018】
溶接軌跡を複数に分割することにより、溶接時に、同時に溶融する金属の体積量を減らすことができるため、固化する際に発生する収縮ひずみ量を減少させることができる。また、次の溶接軌跡を形成するまでの期間が休止時間となるため、溶接時に発生する、正負極端子に加わる過度な温度上昇を抑制することができる。しかし、溶接軌跡の終端では、レーザ光により溶融した金属が広がり易いため、金属密度の低い疎な状態に陥りやすい。この状態になると、いわゆる高温割れと呼ばれる溶接クラックが多発する。溶接軌跡の終端が固化する前に、この終端を始端として次の溶接軌跡を形成することによって、金属密度の低い疎な部分が生成するのを回避できるため、溶接クラックを抑制することができる。その結果、電池及び組電池の信頼性を高めることができる。なお、溶接軌跡の分割数は特に限定されず、2以上の値にすることができる。
【0019】
接続バー13にはのぞき窓のないものを使用可能であるが、接続バー13の貫通孔14a,14bに正負極端子5,6を重ね合せ溶接することにより、貫通孔14a,14bがのぞき窓として機能し、重ね合せ溶接時の下部被溶接体(正負極端子5,6)が露出するため、溶接済み部分を観察可能となり、溶接良否を外観で判定できる効果が得られる。
【0020】
図3に例示されるように、負極端子6の上面と接続バー13の貫通孔14bの周縁との間に隙間18を設けることにより、被溶接体の重ね部分に多く発生する気泡の逃げ道を確保する事ができるため、溶接部位161〜164内に発生する空洞部分19の発生を抑制する効果が得られる。隙間18の大きさは、下部被溶接体にレーザ光15並びに溶融金属の熱エネルギーが到達する大きさであれば特に限定されるものではないが、被溶接体の板厚の10分の一程度、例えば0.1mm〜0.2mmの範囲にすることが望ましい。隙間18は、被溶接部の一部に形成しても、全体に形成しても良い。なお、図3は、負極端子6を例にして記載されているが、正極端子5についても同様に適用することができる。
【0021】
第1の実施形態の方法は、重ね合わせ溶接のみならず、突合せ溶接にも適用可能である。突合せ溶接が適用される組電池の例を図6に示す。なお、図1で説明したのと同様な部材は、同符号を付して重複する説明を省略する。組電池20は、複数の単セル2を備える。各単セルの蓋4に設けられた正極端子5及び負極端子6は、それぞれ、上面が円形をした凸部である。正極端子5及び負極端子6は、それぞれ、絶縁部材21を介して蓋4に固定されている。
【0022】
接続バー13の貫通孔14a,14bを正負極端子5,6に挿入し、正負極端子5,6の周縁と貫通孔14a,14bの周縁との境界にレーザ光を照射することにより、突合せ溶接で接続バー13と正負極端子5,6とを接合することができる。溶接軌跡を複数の円弧に分割し、溶接軌跡の始端が、それよりも前の工程で形成された溶接軌跡の終端に重なるようにレーザ溶接を行うことによって、固化する際に発生する収縮ひずみ量を減少させることができ、正負極端子に加わる過度な温度上昇を抑制して絶縁部材21の劣化を抑えることができ、溶接クラックを抑制することができる。
【0023】
以上説明した第1の実施形態によれば、レーザ溶接時の溶接クラックの発生を抑制することができる。
【0024】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、電池の端子と接続バーとのレーザ溶接を、溶接軌跡が複数に分割されるように行う。第1の溶接軌跡を形成した後、第1の溶接軌跡と対向する箇所に第2の溶接軌跡を形成する工程を1回もしくは複数回繰り返すことにより、端子と接続バーとをレーザ溶接する。図7を参照して第2の実施形態を説明する。図7は、組電池における単セルの端子と接続バーとの溶接軌跡を示す模式図である。図1〜図6で説明したのと同様な部材は、同符号を付して重複する説明を省略する。
【0025】
接続バー13の貫通孔14bの周縁と、負極端子6の上面とが重なった部分に、接続バー13の上方からレーザ光を照射する。レーザ光は、特に限定されるものではないが、例えば、YAGレーザを挙げることができる。レーザ光は、その軌跡が複数の円弧に分割されるように照射される。まず、第1の溶接軌跡221を円弧状に形成する。第1の溶接軌跡221が固化した後、負極端子6を間に挟んで第1の溶接軌跡221と対向する箇所に、第2の溶接軌跡222を円弧状に形成する。ひきつづき、第3の溶接軌跡223を円弧状に形成する。第3の溶接軌跡223が固化した後、負極端子6を間に挟んで第3の溶接軌跡223と対向する箇所に、第4の溶接軌跡224を円弧状に形成する。このようにして接続バー13の貫通孔14bの周縁と負極端子6の上面とを重ね合わせ溶接により接合する。
【0026】
第1の溶接軌跡221が固化する際、円弧の外周に向かう方向の収縮ひずみが発生する。第2の溶接軌跡222が固化する際にも円弧の外周に向かう方向の収縮ひずみが発生するが、第1の溶接軌跡221と対向する箇所に第2の溶接軌跡222が形成されているため、第1の溶接軌跡221が固化する際に生じた収縮ひずみを、第2の溶接軌跡222が固化する際の収縮ひずみで緩和することができる。また、第3の溶接軌跡223と対向する箇所に第4の溶接軌跡224を形成することによって、第3の溶接軌跡223が固化する際に生じた収縮ひずみを、第4の溶接軌跡224が固化する際の収縮ひずみで緩和することができる。その結果、溶接時に発生する収縮ひずみ量を少なくすることができるため、溶接クラックの発生を抑制する効果が得られる。これにより、電池及び組電池の信頼性を高めることができる。
【0027】
また、第1,第3の溶接軌跡221,223が固化するまで待機し、第2,4の溶接軌跡222,224の形成前に休止時間を設けることにより、溶接時に発生する、正負極端子5,6に加わる過度な温度上昇を抑制することができる。第1,第2の溶接軌跡221,222の形成工程と第3,第4の溶接軌跡223,224の形成工程との間のような、工程間にも休止時間を設けることにより、正負極端子5,6に加わる過度な温度上昇と、溶接クラックの発生とを抑制する効果を高めることができる。
【0028】
なお、図7では、第1〜第4の溶接軌跡221〜224それぞれの端部を隣接する溶接軌跡に重ねたが、重ねなくても溶接クラック抑制効果を得ることができる。また、図7では、溶接軌跡全体を4分割にしたが、2分割以上であれば分割数は特に限定されるものではない。
【0029】
接続バーにはのぞき窓のないものを使用可能であるが、接続バーの貫通孔に正負極端子を重ね合せ溶接することにより、貫通孔がのぞき窓として機能し、重ね合せ溶接時の下部被溶接体(正負極端子)が露出するため、溶接済み部分を観察可能となり、溶接良否を外観で判定できる効果が得られる。
【0030】
正負極端子の上面と接続バーの貫通孔の周縁との間に隙間を設けることにより、被溶接体の重ね部分に多く発生する気泡の逃げ道を確保する事ができるため、溶接部位内に発生する空洞部分の発生を抑制する効果が得られる。隙間の大きさは、第1の実施形態で説明したのと同様な範囲にすることができる。隙間は、被溶接部の一部に形成しても、全体に形成しても良い。
【0031】
第2の実施形態の方法は、重ね合わせ溶接のみならず、突合せ溶接にも適用可能である。
【0032】
以上説明した第2の実施形態によれば、レーザ溶接時の溶接クラックの発生を抑制することができる。
【0033】
(第3の実施形態)
第1,第2の実施形態の溶接方法は、組電池の製造方法のみならず、電池(単電池)の製造方法にも適用可能である。第3の実施形態によれば、第1または第2の実施形態の溶接方法を用いた電池の製造方法が提供される。図8は、第3の実施形態の方法により製造される電池の部分分解斜視図で、図9は、図8に示す電池に接続バーが溶接された状態を示す上面図である。図1〜図7で説明したのと同様な部材は、同符号を付して重複する説明を省略する。
【0034】
図8に示す電池23は、図1に示す角形非水電解質電池2と同様な種類のものである。接続バー25a,25bは、それぞれ、矩形板状をなし、貫通孔26a,26bを有する。接続バー25a,25bは、金属や合金のような導電性を有する材料から形成されている。具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0035】
図9に示すように、接続バー25aの端部が正極端子5上に重ねられ、また、接続バー25bの端部が負極端子6上に重ねられる。接続バー25a,25bの下面と正負極端子5,6の上面とが重ね合わされた箇所を、重ね合せ方式のレーザ溶接で、かつ第1の実施形態(溶接軌跡を分割し、溶接軌跡の始端を前の工程で形成された溶接軌跡の終端に重ねる)または第2の実施形態(溶接軌跡を分割し、第1の溶接軌跡を形成した後、第1の溶接軌跡と対向する箇所に第2の溶接軌跡を形成する)に従った方法で接合することによって、溶接クラックの発生を抑制することができる。溶接軌跡を図9に符番27で示す。なお、図9では、溶接軌跡27が点線の円形で示されているが、これは、溶接軌跡27の外形が円形であることを示しているに過ぎず、分割された溶接軌跡が重なっていない状態を示しているのではない。
【0036】
接続バー25a,25bは、それぞれ、正負極端子5,6から電気エネルギーを取り出すためのものである。貫通孔26a,26bは、電池23を別の電池と電気的に接続する際に取付孔として使用される。なお、図8及び図9は、重ね合わせ溶接の例であるが、第3の実施形態の電池の製造方法は、単電池の端子に接続バーを重ね合せ方式のレーザ溶接で接合する際に、第1の実施形態または第2の実施形態に従った方法で行うものに限定されない。単電池の端子に接続バーを突合せ方式のレーザ溶接で接合する際に、第1の実施形態または第2の実施形態に従った方法で行うことも、第3の実施形態の電池の製造方法に含まれる。
【0037】
以下、第1〜第3の実施形態で使用可能な正極、負極、セパレータ及び電解液について説明する。
【0038】
正極は、例えば、正極活物質を含むスラリーをアルミニウム箔もしくはアルミニウム合金箔からなる集電体に塗着することにより作製される。正極活物質としては、特に限定されるものではないが、リチウムを吸蔵放出できる酸化物や硫化物、ポリマーなどが使用できる。好ましい活物質としては、高い正極電位が得られるリチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウム燐酸鉄等が挙げられる。また、負極は、負極活物質を含むスラリーをアルミニウム箔もしくはアルミニウム合金箔からなる集電体に塗着することにより作製される。負極活物質としては、特に限定されるものではないが、リチウムを吸蔵放出できる金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、合金等が使用でき、好ましくは、リチウムイオンの吸蔵放出電位が金属リチウム電位に対して0.4V以上貴となる物質である。このようなリチウムイオン吸蔵放出電位を有する負極活物質は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金とリチウムとの合金反応を抑えられることから、負極集電体および負極関連構成部材へのアルミニウムもしくはアルミニウム合金の使用を可能とする。たとえば、チタン酸化物、リチウムチタン酸化物、タングステン酸化物、アモルファススズ酸化物、スズ珪素酸化物、酸化珪素などがあり、中でもリチウムチタン複合酸化物が好ましい。セパレータとしては、微多孔性の膜、織布、不織布、これらのうち同一材または異種材の積層物等を用いることができる。セパレータを形成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合ポリマー、エチレン−ブテン共重合ポリマー等を挙げることができる。
【0039】
電解液は、非水溶媒に電解質(例えば、リチウム塩)を溶解させることにより調製された非水電解液が用いられる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン等を挙げることができる。非水溶媒は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ過リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)等のリチウム塩を挙げることができる。電解質は単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。電解質の非水溶媒に対する溶解量は、0.2mol/L〜3mol/Lとすることが望ましい。
【0040】
以下、図面を参照して実施例を説明する。
【0041】
(実施例1)
アルミニウム合金を円柱状に成型した電極端子30と、板厚が0.5mmの矩形状のアルミニウム板からなる接続バー31とを用意した。接続バー31には、φ10mmの丸穴32を設けた。
【0042】
図10の(a)に示すように、電極端子30の上面に接続バー31の丸穴32の周縁を重ねた。この重なり部分に接続バー31の上方からレーザ光を照射し、重ね合せ方式で溶接した。レーザ光の照射は、図12に示すように、第1の溶接軌跡331を円弧状に形成し、第1の溶接軌跡331が固化した後、電極端子30を間に挟んで第1の溶接軌跡331と対向する箇所に、第2の溶接軌跡332を円弧状に形成した。ひきつづき、第3の溶接軌跡333を、始端が第1の溶接軌跡331の終端と重なり、かつ終端が第2の溶接軌跡332の始端と重なるように円弧状に形成した。第3の溶接軌跡333が固化した後、電極端子30を間に挟んで第3の溶接軌跡333と対向する箇所に、第4の溶接軌跡334を始端が第2の溶接軌跡332の終端と重なり、かつ終端が第1の溶接軌跡331の始端と重なるように円弧状に形成し、電極端子30に接続バー31を接合した。
【0043】
実施例1の方法によると、図10(b)及び図12に示すように、レーザ溶接軌跡を分割して溶接した際の最後の溶接軌跡(第4の溶接軌跡334)の終端部に少量のクラック34が、電池10個中3個の頻度で発生したが、他の箇所にクラックは発生しなかった。
【0044】
(実施例2)
アルミニウム合金を成型し、上面に円形凸部35を有する円柱状の電極端子36を用意した。また、実施例1で使用したのと同様な種類の接続バー31とを用意した。図11の(a)に示すように、電極端子36の凸部35に接続バー31の丸穴32を嵌め込んだ。電極端子36の凸部35と丸穴32の周縁との境界にレーザ光を照射し、突合せ方式で溶接した。レーザ光の照射は、実施例1と同様な方法で行い、電極端子36に接続バー31を接合した。
【0045】
実施例2の方法によると、図11(b)に示すように、レーザ溶接軌跡を分割して溶接した際の最後の溶接軌跡(第4の溶接軌跡334)の終端部に少量のクラック37が、電池10個中3個の頻度で発生したが、他の箇所にクラックは発生しなかった。
【0046】
また、図10(b)と図11(b)に示すように、溶接断面において、実施例1の重ね合せ溶接方式の場合の溶接クラック34と、実施例2の突合せ方式の場合の溶接クラック37では、発生位置が異なる結果となった。溶接方式の違いによるものである。
【0047】
(比較例1)
溶接軌跡を複数に分割せず、円形にすること以外は、実施例1と同様な方法で重ね合せ溶接を行った。
【0048】
(比較例2)
溶接軌跡を複数に分割せず、円形にすること以外は、実施例2と同様な方法で突合せ溶接を行った。
【0049】
実施例及び比較例のレーザ条件は、連続発振タイプのYAGレーザを使用し、1000〜1500Wのレーザ・パワー,10〜15m/分の溶接速度とした。
【0050】
図13に示すように、比較例1,2による溶接結果では、溶接軌跡38が円を描き、固化する際及び円弧が収縮する際に発生する収縮ひずみに起因すると考えられる溶接クラック39と、溶接終端に集中する高温割れと呼ばれる溶接クラック40が表れた。溶接クラック39は、溶接終端以外の任意の位置に表れた。溶接クラックの発生頻度は、比較例1(重ね合せ溶接)では電池10個中10個とも発生した。また、比較例2(突合せ溶接)では、電池10個中6個発生した。
【0051】
以上の実施形態及び実施例によれば、溶接時のクラックの発生を抑制することが可能な溶接方法、この溶接方法を用いた電池及び組電池の製造方法、および、これらの方法で製造された電池を提供することができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1,20…組電池、2…単セル、3…外装缶、4…蓋、5…正極端子、6…負極端子、7…電極群、8…正極、9…負極、10…セパレータ、11…正極タブ、12…負極タブ、13,25a,25b,31…接続バー、14a,14b,26a,26b,32…貫通孔、15…レーザ光、161〜164,221〜224,331〜334…第1〜第4の溶接軌跡、171〜174…溶接軌跡の終端、18…隙間、19…溶接気泡、23…電池、30,36…電極端子、34,37…溶接クラック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の端子と接続バーとをレーザ溶接する溶接方法であって、前記レーザ溶接を溶接軌跡が複数に分割され、かつ分割された溶接軌跡それぞれの終端が、隣接する溶接軌跡の始端と重なるように行うことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
電池の端子と接続バーとをレーザ溶接する溶接方法であって、前記レーザ溶接により第1の溶接軌跡を形成した後、前記第1の溶接軌跡と対向する箇所に前記レーザ溶接により第2の溶接軌跡を形成する工程を少なくとも1回行うことを特徴とする溶接方法。
【請求項3】
前記接続バーが貫通孔を有し、前記貫通孔の周縁と前記端子が重ね合わされた箇所に前記レーザ溶接を施すことを特徴とする請求項1または2記載の溶接方法。
【請求項4】
前記貫通孔の周縁と前記端子との間に隙間が設けられていることを特徴とする請求項3記載の溶接方法。
【請求項5】
前記第1の溶接軌跡の形成と、前記第2の溶接軌跡の形成との間に休止時間を設けることを特徴とする請求項2記載の溶接方法。
【請求項6】
外装缶と、前記外装缶の開口部に配置された蓋と、前記蓋に設けられた端子と、前記端子にレーザ溶接された接続バーを備えた電池の製造方法であって、
前記レーザ溶接を、請求項1〜5いずれか1項記載の方法で行うことを特徴とする電池の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法で製造されたことを特徴とする電池。
【請求項8】
外装缶と、前記外装缶の開口部に配置された蓋と、前記蓋に設けられた端子とをそれぞれ備えた複数個の電池と、前記電池の前記端子間を電気的に接続する接続バーとを備えた組電池の製造方法であって、
前記端子と前記接続バーとを、請求項1〜5いずれか1項記載の方法でレーザ溶接することを特徴とする組電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−43714(P2012−43714A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185567(P2010−185567)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】