説明

溶接方法および溶接装置

二つのエッジ部分(54a,54b)間に溶接シーム(52)を形成する溶接装置及び溶接法であり、前記エッジ部分(54a,54b)は、根本部分(58)及び傾斜部分(60)を有するY接合部を形成し、前記根本部分(58)は、ハイブリッドレーザー・アーク溶接ヘッド(2)によってプラズマ及び溶融金属の単一の相互作用域(24)にレーザービーム(10)及びアーク(22)をあてることを含むハイブリッドレーザー・アーク溶接法で溶接される。ハイブリッドレーザー・アーク溶接ヘッド(2)及びサブマージアーク溶接ヘッド(4)は、Y接合部を溶接するために、共通のキャリア機構(46,50)に配置される。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、二つのエッジ部分の間において傾斜した接合部に溶接シームを形成する溶接方法(溶接法)に関する。特に、この発明は、1または複数のワークピースが比較的厚く、厚みが20mmを超える場合において、接合対象の1または複数のワークピースの二つのエッジ部分の間の傾斜した接合部に溶接シームを形成する溶接方法に関する。この発明はさらに、このような溶接法を行うための溶接装置に関する。
【背景】
【0002】
ハイブリッドレーザー・アーク溶接法[Hybrid laser electric arc welding processes]は、製造業において広く使用される。ハイブリッドレーザー・アーク溶接法はレーザー溶接法とアーク溶接法の組み合わせであって、レーザービームとアークが、接合対象の1または複数のワークピースにおける一つの相互作用域に向けられる。レーザービームは、総計約1MW/cm程度になる高い強度をもたらしうる。レーザービームは、幅に対して深さの大きいキーホールとして知られる蒸気キャビティを形成する。一般的にアークは、約1kW/cm程度の実質上低い強度をもたらす。しかしながら、アークの焦点スポットは実質上大きい。その結果、アーク溶接プロセスによるシームは広い。この理由で、ギャップを埋めるにはアーク溶接法を使用した場合が相当よい。ハイブリッドレーザー・アーク溶接法では、二つの溶接法の利点が組み合わせられる。その結果、各溶接法を単独で行う場合と比較して、より速い溶接速度および接合深さが得られる。それぞれの溶接法からの入力比率はいずれの溶接法がハイブリッドレーザー・アーク溶接法に影響するかを決定する。ハイブリッドレーザー・アーク溶接法は、シールドガスの下で行われ、そこでレーザービームとアークが本質的に同じ位置でワークピースに作用する。
【0003】
ハイブリッドレーザー・アーク溶接法の一例はUS7288737に示される。これは、少なくとも互いに溶接されるエッジ部分間の傾斜部分に溶融した材料を堆積させる、レーザー/MIGハイブリッド溶接に関する。US7288737に示される方法は複数のワークピースの二つのエッジ部分の間に60mmまでの厚みを有する溶接シームを形成するのに適すると提案されている。
【0004】
しかしながら、先行技術の方法を用いて高品質の接合部を形成することは困難であることが示された。厚いワークピースのエッジ部分間に溶接シームを形成する場合に、安定的な溶接法の達成の困難性を含む問題が起こりうる。不安定な溶接法において、ワークピースへの進入が変化し、蒸気で充満したキャビティが潰れて溶融金属が1または複数のワークピースの裏側に染み通る危険性がある。裏張りは、エッジ部分間のギャップから溶融材料が流出し、失われ、再度必要になりうることを回避するために、よく知られる方法である。しかし、裏張りはアクセスの制限によって物理的に妨げられる場合がある。
【0005】
厚いワークピースの間に溶接シームを形成する際に生じうる別の問題は、接合部周りの硬く脆い領域の形成により溶接シームが悪化する可能性があるということである。急冷中に硬く脆い領域がシームに形成される。接合対象のワークピースの厚みが増加すると、局所的な硬く脆い領域の形成の問題が増加するかもしれないということが示された。この局所的な硬く脆い領域の形成の問題は、高強度鋼、すなわち降伏強さが355Mpaを超える鉄鋼、を溶接する場合にもまた増加する。そのような材料を使用する場合、接合部の周りの領域での材料硬度のピークは、低強度の材料の溶接と比較して高くなる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上述の問題を緩和することを目的とする。
【0007】
この目的は請求項1に記載の溶接方法によって達成される。発明は二つのエッジ部分間に溶接シームを形成するための溶接法に関する。このエッジ部分は根本部分[root portion]と傾斜部分[bevel portion]を有するY接合部を成す。本発明に係る溶接方法では根本部分はハイブリッドレーザー・アーク溶接法によって溶接される。ハイブリッドレーザー・アーク溶接法は、レーザービーム及びアークを、根本部分に配されるプラズマ及び溶融金属の単一の相互作用域に向ける。ハイブリッドプロセスは高温および低い熱入力を特徴としている。したがって、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法の使用により、オーバーヒート域を含む熱影響域が比較的狭くなり、この熱影響域で接合点の硬度が増す。ハイブリッドレーザー・アーク溶接法に影響された領域での硬度を低下させるため、本発明では傾斜部はサブマージアーク溶接法で溶接される。さらに、ハイブリッドレーザー・アーク溶接ヘッドおよびサブマージアーク溶接ヘッドは、共通のキャリア機構上に配置される。したがって単一のパスにおけるY接合部の溶接が可能になる。サブマージアーク溶接法は熱入力が高い割に入力電力が低い特徴がある。サブマージアーク溶接法でワークピースへ移動した熱は、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法により熱影響を受けた領域を熱処理し、ハイブリッドレーザー・アーク溶接によって形成された硬く脆い領域の硬度のピークを低減する。
【0008】
本発明のプロセスは特に、根本部分の厚みが8mmを超え、好ましくは10mmを超える、接合部を溶接するのに適している。厚いルートシームを形成する際に良好にレーザーをワークピースに進出させるために、好ましくは、レーザーの強さは、溶接速度が1m/分である場合に、1mmルート厚さあたり1kWになるべきである。すなわち、8mmの接合部には溶接速度が1m/分である場合に、好ましくは8kWになるべきである。対応して、10mmの接合部には、溶接速度が1m/分である場合に、レーザーの強さは好ましくは10kWになるべきである。この要件は7−30mmの厚さのルートに適用可能であるかもしれない。
【0009】
溶接法を安定的に保ち、蒸気キャビティの蒸気圧が溶融金属の液溜まりに耐えるとともに、十分な架け渡し機能を供給するために、アーク溶接法での入力はレーザーの強さと均衡するべきであり、ハイブリッドプロセスにおけるアーク溶接法での力はレーザーにより供給される力と同等になるべきである。したがって、ハイブリッドプロセスにおけるアーク溶接に対するレーザーの力の割合は、好ましくは0.9〜1.1の間になるべきである。
【0010】
レーザービームとアークの個々の影響は根本部分の厚みによって分配され、溶接速度は、したがって、好ましくは1Ws/mに相当するべきである。
【0011】
8mmを超える根本部分を溶接する際のレーザーからの入力において、アーク溶接法からの入力は、接合部における硬度のピークの高さを十分に低減するための高い熱入力を提供するほどに十分に高くなることができない。ハイブリッド法に続くサブマージアーク溶接法の使用で、硬度のピークを十分にならすための十分に大きな熱入力を達成することができる。
【0012】
熱入力は傾斜部分の容積に比例するので、必要な熱入力は傾斜部分の深さに依存する。15mmを超え、好ましくは20mmを超える深さを有する傾斜部分のために、厚い根本部分に適切な熱入力が供給される。根本部分の厚さと傾斜部分の深さの比は0.4〜0.6の範囲であることが特に好ましい。
【0013】
上述の溶接法は、15mmを超え、好ましくは30―60mmの厚さのワークピースに、単一の溶接パスによって、二つのエッジ部分の間に溶接シームを形成することを可能にする。このエッジ部分は、根本部分及び傾斜部分を有するY接合部を形成する。本発明の溶接法は、したがって、厚い物品への溶接シームの効率的な生産を可能にする。ここで、硬く脆い領域での硬度のピークレベルが十分に下がるので、溶接シームの品質は維持され得る。
【0014】
本発明の溶接法は、少なくとも一つのエッジが、355Mpaを超す降伏強さを有する高強度のワークピースの一部である場合に、溶接シームを形成するのに特に適している。
【0015】
サブマージアーク溶接法の熱影響域がハイブリッドレーザー・アーク溶接法の熱影響域を包含するように、サブマージ・アーク溶接法の溶接パラメータがされ得る。
【0016】
発明の方法は、Y接合部を形成するエッジ部分間における溶接シームの形成に関する。Y接合部には根本部分及び傾斜部分がある。傾斜部分は接合対象の1または複数のワークピースの第1の側に配され、根本部分は接合対象の1または複数のワークピースの反対の第2の側にまで延びる。
【0017】
また、発明は、根本部分及び傾斜部分を有するY接合部を溶接する溶接装置に関する。作業工程において、傾斜部分が接合対象の1または複数のワークピースの第1の側に配置されるとともに、根本部分は接合されるワークピースの反対の第2の側に延びる。溶接装置は、前述の根本部分を溶接するために設けられたハイブリッド溶接ヘッドを含む。施工においてハイブリッド溶接ヘッドは前述の第1の側に対向して搭載される。溶接装置はさらに、前述の第1の側に向けて搭載されたサブマージアーク溶接ヘッドを含む。両ハイブリッド溶接ヘッド及びサブマージアーク溶接ヘッドは、共通のキャリア機構に搭載される。したがって、ハイブリッド溶接ヘッド及びサブマージアーク溶接ヘッドは接合対象である1または複数のワークピースの同じ側から作用する。したがって、この溶接装置は、単一の溶接パスで、厚いワークピースにおけるシームの溶接を可能にする。そこで、根本部分の単一のパスはハイブリッドレーザー・アーク溶接法で接合され、傾斜部分はサブマージアーク溶接法で接合される。共通のキャリア機構は、固定キャリア機構あるいは可動キャリア機構である。共通のキャリア機構の目的は、根本部分を溶接するハイブリッドレーザー・アーク溶接法と、傾斜部分を溶接するサブマージアーク溶接法とを組み合わせ、単一のパスでY接合部の溶接を可能にすることである。ここで、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法の両溶接ヘッドは、ワークピースの傾斜側に配される。この目的のため、共通のキャリア機構は、例えば複数の溶接ヘッドを運搬する単一のブラケット、フレーム、アーム、キャリッジなどにより適切にユニット化され得る。また、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法の両溶接ヘッドがワークピースの傾斜側に配され、根本部分を溶接するハイブリッドレーザー・アーク溶接法と傾斜部分を溶接するサブマージアーク溶接法とを組み合わせ単一のパスでY接合部の溶接を可能にするという目的を満たすとともに複数の要素が複数の溶接ヘッドを溶接シームに対して一致して移動させられるのであれば、代わりに、共通のキャリア機構が複数のブラケット、フレーム、アーム、キャリッジ等の複数の要素で構成され、一方の溶接ヘッドが一方の要素で運搬されるとともに他方が他の要素で運搬されもよい。
【0018】
溶接装置はさらに、共通のキャリア機構と接合対象の1または複数のワークピースとを相対移動させるために設けられたアクチュエータを含む。
【0019】
ハイブリッド溶接ヘッド及びサブマージアーク溶接ヘッドは、接合対象の1または複数のワークピースの上あるいは上方で推進する共通のキャリア機構に搭載され得る。あるいは、ハイブリッド溶接ヘッド及びサブマージ溶接ヘッドが固定された共通のキャリア機構に搭載され、接合対象の1または複数のワークピースを推進させるアクチュエータを配してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
発明の実施例は付された図面に関連して下記に記述される。
【図1】図1は、ハイブリッド溶接ヘッドとサブマージ溶接ヘッドを含む溶接装置の断面を示す。
【図2】図2は、本発明における、共通の固定キャリア機構に搭載された溶接装置を示す概要を示す。
【図3】図3は、本発明における、共通の可動キャリア機構に搭載された溶接装置を示す概要を示す。
【図4】図4は、第1及び第2のワークピースのエッジ部分間にシームを形成する溶接法(溶接方法)を示す概要を示す。
【図5】図5は、傾斜部分と根本部分を有するY接合部を形成する二つのワークピースのエッジ部分の図形を示す。
【図6】図6は、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法とサブマージアーク溶接法の組合せで形成された溶接シーム熱影響域の図形を示す。
【図7a】図7aは、両ハイブリッドレーザー・アーク溶接法およびサブマージアーク溶接法が完了した後の接合部の材料硬度の分布を示す。
【図7b】図7bは、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法が完了した後、サブマージアーク溶接法が始まる前の接合部の材料硬度の分布を示す。
【図8】図8は、発明にかかる溶接法の温度の図表を示す。
【詳細な説明】
【0021】
図1に、ハイブリッド溶接ヘッド2及びサブマージ溶接ヘッド4を含む溶接装置1が示される。溶接装置は接合対象の一組のワークピース6における二つのエッジ部分間で溶接シームを形成する。ハイブリッド溶接ヘッドは、Y接合部の根本部分内に焦点を合わせられるレーザービーム10を発する光学システム8を含む。レーザービーム10はYAGレーザーあるいはCO2レーザーによって生じうる。ハイブリッド溶接ヘッドは、突出する電極14を含むアーク溶接ヘッド12をさらに含む。アーク溶接ヘッド12は、ガスメタルアーク溶接ヘッド、タングステン不活性ガス溶接ヘッドあるいはプラズマアーク溶接ヘッドであり得る。溶接域18にシールドガス16が注がれる。示される実施形態では、シールドガス16は、アーク溶接ヘッド12にあるノズル20を通じて注がれる。両アーク22及びレーザービーム10は、シールドガス16に覆われた単一の相互作用域24に作用する。ハイブリッド溶接ヘッドの様々な変形が知られている。これらの変形は、レーザービームの先及び/又は後に位置するアーク溶接ヘッドを含み得る。実施形態は単一のアーク溶接ヘッドがレーザービームの後に位置している。施工において、レーザービームは、一般にキーホールと呼ばれる深く狭いキャビティ26を形成し、そこに蒸発した(vaporized)金属が存在する。キーホール26は溶融金属28で囲まれている。ハイブリッド溶接ヘッドは、当業者に知られる任意の従来のタイプでありうる。したがって、より詳細には記述されない。
【0022】
サブマージアーク溶接ヘッド4は矢印30で示される溶接方向においてハイブリッド溶接ヘッド2よりも後ろに位置する。サブマージ溶接ヘッド4は、フラックス粉アプリケーター32と、溶接対象域を覆うフラックス粉の層38を貫通する消耗し得る電極36a.36bを供給する1以上の電極ヘッド34a,34bと、を含む。サブマージ溶接ヘッド4は、更なる利用のためにプロセスの終わりにフラックス粉を集めるフラックス粉収集装置40をさらに含む。1または2以上の電極ヘッドを含む様々なタイプのサブマージ溶接ヘッドが知られている。示される実施形態では、二つの電極ヘッドが用いられる。各電極ヘッドは、消耗し得る電極36a,36bから溶融金属が供給される溶接プール42a,42bを創る。各電極36a、36bはアーク37a、37bを生成する。溶接法(溶接プロセス)の間、溶融金属44の領域は溶接シームを構築する。サブマージアーク溶接ヘッドは、当業者に知られる任意の従来のタイプでありうる。したがって、より詳細には記述されない。
【0023】
図2では、共通の固定キャリア機構46上に搭載された溶接装置1の概略図が示される。ハイブリッド溶接ヘッド2及びサブマージ溶接ヘッド4は両方とも、ワークピース6の同じ側に作用する。共通の固定キャリア機構46はハイブリッド溶接ヘッド2及びサブマージアーク溶接ヘッド4を運搬する。ハイブリッド溶接ヘッド2及びサブマージアーク溶接ヘッド4は互いに間隔Dを介して搭載されている。間隔Dはレーザービームからサブマージアーク溶接ヘッドにおける第1の電極36aの位置までの寸法を取る。サブマージアーク溶接プロセスを遅らせうるワークピースからの超過熱エネルギー量の分散を許すことなくY接合部の根本部分に形成されたシームが十分に冷えるように、間隔Dは好ましくはxmm〜ymmの範囲に選択される。図に示される実施形態では、共通の固定キャリア機構46を通過して1または複数のワークピース6を移動させることにより、共通の固定キャリア機構46と接合対象の1または複数のワークピース6との相対移動を可能にする、アクチュエータ48が配置される。図3に示される実施形態では、望ましくはワークピース6上にキャリア機構50運搬するホイールを含むアクチュエータ機構によって1または複数のワークピース6に対して相対移動可能な共通の可動キャリア機構50に、溶接ヘッド2,4を配し、相対移動が遂行される。
【0024】
図4には、第1及び第2のワークピース6a,6bのエッジ部分54a,54b間にシーム52を形成するための溶接法の概略図が示される。エッジ部分54a,54bは、根本部分58および傾斜部分60を有するY接合部56を形成する。プラズマと溶融金属の単一の相互作用域24にレーザービーム10及びアーク22を向けることを含むハイブリッドレーザー・アーク溶接法によって、根本部分58は溶接される。図4の位置Aにおけるワークピース6a,6b間の根本部分内にレーザービームを向けることでルート溶接を行う。根本部分58にはキーホール26が形成されている。キーホール26は好ましくは根本部分を通って進入することを許容されるべきである。したがって、キーホールは十分な進入の自己的なレーザー溶接プロセスにて形成される。
【0025】
レーザービームの周辺にアークを発生させるためにアーク溶接ヘッド12が設けられる。アーク溶接ヘッドは、ガスメタルアーク溶接ヘッド、タングステン不活性ガス溶接ヘッド、または、プラズマアーク溶接ヘッドでありうる。アーク溶接ヘッドは、根本部分58内に入り込みシームを形成する溶融金属を供給する。図4の位置Bにおいて、根本部分は溶融金属で満たされ、位置Cにおいて根本部分の金属は固体である。位置CとDとの間において、フラックス粉が適用される。フラックス粉はしたがって、適切には、根本部分58が固化した後に供給される。フラックス粉は、傾斜部分60を覆う層38として存在する。位置Dでは、第1のアークはサブマージアーク溶接プロセスで形成される。アークは第1の電極36aによって形成される。第1の電極36aは傾斜部分60に液溜まり62を形成する量の金属を溶融する。示される実施形態では、位置Eに配置された第2の電極は、傾斜部分62が溶融材で満たされるように液溜まり56を増加させる。位置Eに示されるように、溶接装置の単一のパスによって傾斜部分は溶融金属で満たされて完全な接合部を形成する。サブマージアーク溶接プロセスに用いられる電極の数は、したがって、傾斜部分のサイズに応じて適切に選択され得る。
【0026】
図5において二つのワークピース6a,6bのエッジ部分54a,54bの図形が示され、そのエッジが根本部分及び傾斜部分60を有するY接合部を構成する。ワークピース6a,6bは、15mmを超え、好ましくは30−60mmの間の、厚みTを有する。根本部分は、8mmを超え、好ましくは10mmを超える、厚さRを有する。傾斜部分は、15mmを超え、好ましくは20mmを超える、深さを有する。
【0027】
根本部分の厚さと傾斜部分の深さの比は、適正には0.4〜0.6の間で選択される。
【0028】
Y接合部の図形は、サブマージアークプロセスからの十分な熱入力を許容し、ハイブリッドレーザー・アーク溶接で根本部分の周りに発生した硬度のピークを低減させるとともに、単一のパスでシームが形成可能であるように、選択される。
【0029】
ハイブリッドレーザー・アーク溶接法では、レーザービームは、7kWを超過する効力をもたらし、また、アークは、7kWを超過する効力をもたらす。レーザービーム及びアークは実質的に等しい結果をもたらす。レーザービームとアークの個々の効力は根本部分の厚さに依存して選択される。好ましくは、レーザービームおよびアークの個々の効力は、根本部分の厚さによって配分され、溶接スピードは本質的に1Ws/mに相当する。
【0030】
図6では、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法及びサブマージアーク溶接法の組み合わせで形成された溶接シーム68における熱影響域64,66の図形が示される。傾斜部分60は、ワークピース6a,6bの第1の側70に配置され、根本部分58はワーク6a、6bの反対の第2の側72にまで延びている。サブマージアーク溶接法の溶接パラメータは、好ましくは、サブマージアーク溶接法による熱影響域66が対向する第2の側72にまで下に延びるように選択される。ハイブリッドレーザー・アーク溶接法による熱影響域64は、根本部分58の周りに及び、好ましくは反対の第2の側72にまでずっと延びる。
【0031】
サブマージアーク溶接法の溶接パラメータは、図に示されるように、サブマージアーク溶接法による熱影響域66がハイブリッドレーザー・アーク溶接法による熱影響域64を包含するように、選択される。
【0032】
図7aには、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法及びサブマージアーク溶接法の両方が完了した後の接合部の材料硬度分布が示される。
【0033】
図7bには、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法が完了した後、サブマージアーク溶接法が始まる前の接合部の材料硬度分布が示される。
【0034】
図7a,7bの溶接シームは、根本部分を溶接する単一パスのハイブリッド溶接法が、単一パスのサブマージアーク溶接法と組み合わされて完全なシームが形成される溶接法の実験によって得られた結果である。
【0035】
接合部は12mm厚のCMn鋼のY接合部である。St355グレード材料のサブマージアーク法はハイブリッドレーザー・アーク法と組合せで用いられる。実施例の目的で、4kWのレーザーが用いられた。したがって、根本部分は4mm厚さを有するように選択される。傾斜部分は60°の開角を有する。プレート寸法は、150×400mmである。プレート間の前角は5°である。
【0036】
この方法では溶接実験を実行する際にガスメタルアーク溶接(GMAW)方法と組み合わせてレーザーを使用した。GMAW方法のエネルギー源はアリスト[Arist]MIG 500Wである。レーザー源はランプ供給の、D70処理光学を備えたトランプ[Trumpf]HL 4006 DのNd:Yag共鳴装置である。
【0037】
SAW方法は、SAWの一対のセットアップを備えた溶接トラクターで行われる。エネルギー源はLAF635が連結された二つのスコット[Scott]である。
【0038】
ハイブリッドレーザー・アーク溶接法への熱入力は、レーザービームからの0,2kJ/mmの寄与を有する0,7kJ/mmである。サブマージアーク溶接法からの熱入力は2.4kJ/mmである。
【0039】
硬度の測定は、図7aに示されるルートのハイブリッドレーザー・アーク溶接法を完了し、図7bに示される傾斜部分のサブマージアーク溶接法が完了した後に行われる。
【0040】
最適な結果は、影響されない材料である母材における溶接域の冶金の特性に実質的に到達するであろう。ハイブリッドレーザー・アーク溶接は、黒鋼における高いマルテンサイト量、及び二相ステンレス鋼における高いフェライト含有量を有する、硬く脆い接合部を作る。
【0041】
図7aの材料硬度分布は、ハイブリッドレーザー・アーク溶接法の完成後の接合点が熱影響域において410HVを超える高さに達することを示す。硬度はこのように溶接シーム上で急激に変化し、熱影響域外の熱影響を受けない材料とは実質的に異なる治金特性を有する。その領域での硬度の派生は最大200HV超えに達する。
【0042】
サブマージアーク溶接法が溶接シームを完成した後、シームの熱影響域での硬度がサブマージアーク溶接法における熱入力よって、熱影響域での硬度がならされる。高度は熱影響域において最大100HVに達する。硬度の派生の最大はその領域において約50HVの範囲である。
【0043】
テストは、提案の方法が、熱影響領域上において材料硬度の最大値が低く及び変化が小さい高強度鋼に高品質の溶接点を形成することを示す。
【0044】
図8では、本発明の溶接法の温度グラフが示される。点線80は接合点の中心位置の温度を示す。ハイブリッドレーザー・アーク溶接ヘッド82の位置において、溶接が起こる。溶接域において、使用される材料に依存する約1500℃の温度で金属が溶融する。溶接ヘッド82は矢印84で示される方向に伝わる。ハイブリッドレーザー・アーク溶接ヘッドが通過した際、溶接点は冷やされはじめ、マルテンサイト形成が生じるマルテンサイト臨界温度Mに達する。これはレーザー溶接ヘッドが通過した後約3秒で生じる。接合される材料と同等の炭素の値に依存するマルテンサイト臨界温度Mは、約300〜800℃である。接合点がマルテンサイト温度に達した後、サブマージアーク溶接ヘッド86は溶接工程を開始し、溶接シームに高い熱入力を生成する。サブマージアーク溶接法の間の熱入力は、好ましくはハイブリッドレーザー・アーク溶接法の間の熱入力の少なくとも3倍の高さである。
【0045】
溶接スピードは約1m/sとし、適正には、ハイブリッドレーザー・アーク溶接ヘッドおよびサブマージアーク溶接ヘッドを互いに5〜100cmの範囲、好ましくは10−50cm程度、の間隔で配置する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つのエッジ部分(54a,54b)間に溶接シーム(52)を形成し、
前記エッジ部分(54a,54b)は、根本部分(58)及び傾斜部分(60)を有するY接合部を形成し、前記根本部分(58)は、ハイブリッドレーザー・アーク溶接ヘッド(2)によってプラズマ及び溶融金属の単一の相互作用域(24)にレーザービーム(10)及びアーク(22)をあてることを含むハイブリッドレーザー・アーク溶接法で溶接され、前記単一の相互作用域(24)は前記根本部分(58)に配置されるとともに、前記傾斜部分(60)はサブマージアーク溶接ヘッド(4)によってサブマージアーク溶接法にて溶接され、前記ハイブリッドレーザー・アーク溶接ヘッド(2)及びサブマージアーク溶接ヘッド(4)は共通のキャリア機構(46,50)に配置される、ことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記根本部分(58)は、8mmを超え、好ましくは10mmを超える厚さを有することを特徴とする請求項1の溶接方法。
【請求項3】
前記傾斜部分(60)は、15mmを超え、好ましくは20mmを超える深さを有することを特徴とする請求項1または2の溶接方法。
【請求項4】
前記根本部分(58)の厚さと前記傾斜部分(60)の深さとの比率は、0.4〜0.6の間であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの溶接方法。
【請求項5】
前記レーザービーム(10)は7kWを超える効力をもたらし、前記アーク(22)は7kWを超す効力をもたらすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの溶接方法。
【請求項6】
前記レーザービーム(10)及び前記アーク(22)は実質的に同等の効力をもたらすことを特徴とする請求項5の溶接方法。
【請求項7】
前記レーザービーム(10)及び前記アーク(22)の個々の効力は、前記根本部分(58)の厚さによって配分され、溶接速度は実質的に1W/mに相当することを特徴とする請求項6の溶接方法。
【請求項8】
前記根本部分(58)及び前記傾斜部分(60)は単一のパスで溶接されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの溶接方法。
【請求項9】
少なくとも一つのエッジ(54a,54b)は355MPaを超す降伏強さを有する高強度鋼のワークピース(6)の一部であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかの溶接方法。
【請求項10】
サブマージアーク溶接法の溶接パラメータは、サブマージアーク溶接法の熱影響域(66)がハイブリッドレーザー・アーク溶接法の熱影響域(64)を包含するように選択されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかの溶接方法。
【請求項11】
傾斜部分(60)は接合対象の1または複数のワークピース(6)の第1の側(70)に配され、根本部分(58)は1または複数のワークピース(6)の反対側の第2の側(72)に延び、サブマージアーク溶接法の溶接パラメータはサブマージアーク溶接法の熱影響域(66)が前記反対の第2の側(72)にまで延びるように選択されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかの溶接方法。
【請求項12】
根本部分(58)及び傾斜部分(60)を有するY接合部を溶接する溶接装置であって、
施工において、前記傾斜部分(60)は接合対象の1または複数のワークピースの第1の側(70)に配され、前記根本部分(58)は接合対象の1または複数のワークピースの前記反対の第2の側(72)に延び、
施工において前記第1の側(70)に対向して搭載され、前記根本部分(58)を溶接するハイブリッド溶接ヘッド(2)を含み、
施工において前記第1の側(70)に対向して搭載されるサブマージアーク溶接ヘッド(4)をさらに備え、
前記ハイブリッドレーザー・アーク溶接ヘッド(4)及びサブマージアーク溶接ヘッド(4)は共通のキャリア機構(46,50)に配置される、ことを特徴とする溶接装置(1)。
【請求項13】
溶接装置(1)は、共通のキャリア機構と接合対象の1または複数のワークピース(6)との相対移動を可能にするアクチュエータ(48)をさらに備える、ことを特徴とする請求項12の溶接装置。
【請求項14】
ハイブリッド溶接ヘッド(2)及びサブマージアーク溶接ヘッド(4)は、接合対象の1または複数のワークピース(6)の上及び上方で推進される共通の可動キャリア機構(50)に搭載されることを特徴とする請求項14の溶接装置。
【請求項15】
ハイブリッド溶接ヘッド(2)及びサブマージアーク溶接ヘッド(4)は共通の固定キャリア機構(46)に搭載され、前記アクチュエータ(48)が接合対象の1または複数のワークピースを推進させるように備えられたことを特徴とする請求項14の溶接装置。
【請求項16】
請求項1−11のいずれかの溶接方法を行うために設けられたことを特徴とする請求項12−16のいずれかの溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−514181(P2013−514181A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543484(P2012−543484)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067289
【国際公開番号】WO2011/072734
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(311001015)イーエスエービー・エービー (2)
【Fターム(参考)】