説明

溶接方法

【課題】製造コストを低減することができる溶接方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、デフケース10の接合面18とリングギヤ12の接合面20との突き合わせ部24にレーザ光30集光して照射することによって溶接ワイヤ32を溶かしながらデフケース10とリングギヤ12とのレーザ溶接を行う溶接方法において、デフケース10の接合面18とリングギヤ12の接合面20とに開先加工を施さないで、かつ、レーザ光30の集光径を0.2mm以下とすること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光によって溶加材を溶かしながらレーザ溶接を行う溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄を材質とするデフケースと鋼材を材質とするリングギヤとの溶接においては、溶接部の品質確保のために、溶接時において溶接ワイヤを供給する必要がある。また、溶接部において高強度を実現するため、溶接ビードの溶け込み深さは十分に確保することが必要である。
【0003】
従来のレーザ光(集光径:約φ0.6mm)を用いたレーザ溶接では、溶接部におけるレーザ光のエネルギー密度が不十分であるため、溶接ビードの溶け込み深さが小さくなってしまった。そこで、デフケースの接合面とリングギヤの接合面とに開先加工を施し、溶接ビードの溶け込み深さを大きくしていた。
【0004】
例えば、特許文献1では、デフケースの接合面とリングギヤの接合面とに予め開先加工を施して、デフケースの接合面とリングギヤの接合面とを突き合わせたときの突き合わせ部にU字、Y字またはV形状の溝を形成されるようにしておき、溶接時にはレーザ光を照射して溶接ワイヤの溶融物を当該溝内に供給することにより、溶接ビードの必要な溶け込み深さを確保して溶接する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−514511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、デフケースの接合面とリングギヤの接合面とに予め開先加工として精密な寸法の溝を形成する必要があり、製造コストが増大してしまう。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、製造コストを低減することができる溶接方法を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、第1部材の面と第2部材の面との突き合わせ部にレーザ光を集光して照射することによって溶加材を溶かしながら前記第1部材と前記第2部材とのレーザ溶接を行う溶接方法において、前記第1部材の面と前記第2部材の面とに開先加工を施さないで、かつ、前記レーザ光の集光径を0.2mm以下とすること、を特徴とする。
【0009】
この態様によれば、第1部材の面と第2部材の面とに開先加工を施さないので、加工コストが生じないことから、製造コストを低減することができる。また、レーザ光の集光径をφ0.2mm以下とすることにより、必要な溶け込み深さを確保することができる。
なお、開先加工とは、第1部材の面と第2部材の面を突き合わせたときに突き合わせ部分に溝などが形成されるように、予め第1部材の面や第2部材の面を斜めに加工したり、第1部材の面や第2部材の面に段差や凹みを形成するように加工することである。
【0010】
本発明の一態様として、前記レーザ溶接を行うことによって形成される溶接ビードの溶け込み深さを5mm以上とすること、が好ましい。
【0011】
この態様によれば、溶接部分の強度を確保することができる。
【0012】
本発明の一態様として、前記レーザ光の出力は10.0kW以下であり、前記レーザ溶接による溶接速度をXm/minとし、前記レーザ光の出力をYkwとするときに、以下の数1の関係を満たすこと、が好ましい。
【数1】

【0013】
この態様によれば、必要な溶け込み深さを確保することができる。
【0014】
本発明の一態様として、前記第1部材は鋳造材であり、前記第2部材は鋼材であること、が好ましい。
【0015】
この態様によれば、溶加材を使用した鋳造材と鋼材とのレーザ溶接において、製造コストを低減することができる。
【0016】
本発明の一態様として、前記第1部材はデファレンシャルギヤのハウジング部材であるデフケースであり、前記第2部材は前記デファレンシャルギヤのリングギヤであること、が好ましい。
【0017】
この態様によれば、デフケースとリングギヤとのレーザ溶接において、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る溶接方法によれば、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】溶接前におけるデフケースとリングギヤとの突き合わせ部分周辺の断面図である。
【図2】溶接後におけるデフケースとリングギヤとの突き合わせ部分周辺の断面図である。
【図3】溶接ビードの溶け込み深さの評価結果を示す溶接部分の断面図である。
【図4】溶接ビードの溶け込み深さの評価結果を示す表である。
【図5】必要な溶接ビードの溶け込み深さを得るためのレーザ出力および溶接速度の条件について示す図である。
【図6】他の実施例におけるデフケースとリングギヤとの突き合わせ部分周辺の溶接前と溶接後の断面図である。
【図7】他の実施例におけるデフケースとリングギヤとの突き合わせ部分周辺の溶接前と溶接後の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明は第1部材と第2部材との溶接方法に関するものであるが、本実施例では、その一例として、自動車のデファレンシャルギヤにおけるデフケース(ハウジング部材)とリングギヤとの溶接方法に関して説明する。
【0021】
図1は、溶接前におけるデフケース10とリングギヤ12との突き合わせ部分周辺の断面図である。図1(a)に示すように、リングギヤ12の内周面14とデフケース10の圧入面16とが接するようにリングギヤ12をデフケース10の圧入面16に圧入する。そして、図1(b),(c)に示すように、デフケース10の接合面18とリングギヤ12の接合面20とを突き合わせる。なお、図1(c)は、図1(b)において一点鎖線で囲んだ部分の拡大図である。また、本実施例では、デフケース10の材質は鋳鉄であり、リングギヤ12の材質はSCM材などの鋼材である。また、リングギヤ12の歯部22には、ハイポイドギヤが形成されている。
【0022】
図1に示すように、本実施例では、デフケース10の接合面18やリングギヤ12の接合面20において、デフケース10とリングギヤ12との配列方向に段差を形成したり、凹みを形成したり、面を斜めに加工したりするなどの開先加工が施されていない。そのため、デフケース10の接合面18およびリングギヤ12の接合面20は、平坦状に形成されている。したがって、デフケース10の接合面18とリングギヤ12の接合面20との突き合わせ部24に、溝などが設けられていない。また、図1(c)に示すように、リングギヤ12において内周面14と接合面20との間には面取り部26が形成され、デフケース10とリングギヤ12との間に空洞部28が設けられている。
【0023】
このようなデフケース10とリングギヤ12において、図1(c)に示すように、デフケース10の接合面18とリングギヤ12の接合面20との突き合わせ部24に対し、リングギヤ12の外周側から高集光レーザ機(不図示)によりレーザ光30を集光して照射する。このとき、同時に、突き合わせ部24に溶加材として溶接ワイヤ32を供給する。このように、突き合わせ部24にレーザ光30を集光して照射することによって溶接ワイヤ32を溶かしながら、デフケース10とリングギヤ12とのレーザ溶接を行う。なお、本実施例では、高集光レーザ機として、ファイバレーザ発振機やディスクレーザ発振機などを使用する。また、レーザ光30として、連続発振レーザ(CWレーザ)を使用する。また、溶接ワイヤ32として、ステンレスワイヤやニッケル合金ワイヤなどのニッケル含有ワイヤを使用する。
【0024】
そして、図2(a),(b)に示すように、デフケース10の接合面18とリングギヤ12の接合面20との突き合わせ部24において、リングギヤ12の外周側の端部34(図1(c)参照)と空洞部28側の端部36(図1(c)参照)との間を貫通するように、溶接ビード38を形成する。なお、図2(b)は、図2(a)において一点鎖線で囲んだ部分の拡大図である。また、溶接ビード38は、突き合わせ部24におけるデフケース10およびリングギヤ12と、溶接ワイヤ32と、を溶融させて形成した溶接金属層である。このように、本実施例では、デフケース10の接合面18およびリングギヤ12の接合面20には開先加工を施していないので、製造コストを低減することができる。
【0025】
ここで、高集光レーザ機により照射されるレーザ光30の集光径の大きさにより、溶接ビード38の溶け込み深さが異なるが、本実施例では、レーザ光30の集光径をφ0.2mm以下とすることを提案する。ここで、溶接ビード38の溶け込み深さとは、溶接ビード38の最頂点(最深部)と突き合わせ部24における端部34との距離と定義する。
【0026】
集光径がφ0.5mm、φ0.2mm、φ0.02mmの3種類のレーザ光30を用いて、溶接ビード38の溶け込み深さを評価した。評価の方法としては、デフケース10と同じ材質の部材の面とリングギヤ12と同じ材質の部材の面とを突き合わせて、その突き合わせ部に溶接ワイヤを供給しながらレーザ光30を照射し、溶接ビード38の溶け込み深さを測定した。なお、集光径がφ0.5mm、φ0.2mmのレーザ光30(連続発振レーザ)についてはレーザ出力が4kW、溶接速度が1.2m/minの条件で評価を行った。また、集光径がφ0.02mmのレーザ光30(連続発振レーザ)については、レーザ出力が2kW、溶接速度が1.2m/minの条件で評価を行った。
【0027】
すると、図3(a)に示すように、レーザ光30の集光径をφ0.5mmとした場合には、溶接ビード38は、幅方向(図3の左右方向)に広がって形成され、深さ方向(図3の下方向)にはあまり進んで形成されなかった。このとき、図4に示すように、溶け込み深さd0は約2.5mmであった。
【0028】
一方、図3(b)に示すように、レーザ光30の集光径をφ0.2mmとした場合には、レーザ光30の集光径をφ0.5mmとした場合と比べて、溶接ビード38は、幅方向にあまり広がって形成されずに、深さ方向に進んで形成された。このとき、図4に示すように、溶け込み深さd1は約5.8mmであった。
【0029】
また、図3(c)に示すように、レーザ光30の集光径をφ0.02mmとした場合には、レーザ光30の集光径をφ0.2mmとした場合に比べて、溶接ビード38は、幅方向に広がって形成されずに、深さ方向にさらに進んで形成された。このとき、図4に示すように、溶け込み深さd2は約8.6mmであった。
【0030】
ここで一例として、リングギヤ12に加わる最大トルクが6000Nm以上の場合を想定し、必要な溶け込み深さを5mm以上とする。このとき、図3や図4の評価結果より、レーザ光30の集光径をφ0.5mmとした場合には溶け込み深さd0が5mm未満となり、必要な溶け込み深さを確保できない。その一方で、レーザ光30の集光径をφ0.2mmやφ0.02mmとした場合には溶け込み深さd1,d2は5mm以上となり、必要な溶け込み深さを確保できる。
【0031】
また、レーザ光30の集光径をφ0.02mmとした場合では、レーザ出力が2kWでその溶け込み深さd2は約8.6mmとなり、レーザ光30の集光径をφ0.2mmとした場合よりも小さなレーザ出力で必要な溶け込み深さを得ることができた。そのため、レーザ光30の集光径をφ0.02mmとすることにより、レーザ光30の集光径をφ0.2mmとした場合よりもさらに、製造コストを軽減することができる。
【0032】
以上のように、本実施例では、高集光レーザ機により照射するレーザ光30の集光径をφ0.2mm以下とすることにより、デフケース10の接合面18およびリングギヤ12の接合面20に開先加工を施さなくても、必要な溶け込み深さを得ることができる。そのため、製造コストを低減することができる。
【0033】
また、前記(図3)と同様の評価の方法もと、レーザ光30の集光径をφ0.2mmとした場合において、レーザ出力と溶接速度について条件を変えて溶接ビードの溶け込み深さの評価を行い、図5に示すような結果が得られた。図5に示すように、溶接速度を「X」m/min、レーザ出力を「Y」kWとするときに、以下の数1の式を満たす条件において、溶け込み深さが5mm以上となり、必要な溶け込み深さを得ることができることが分かった。
【数1】

【0034】
なお、本実施例におけるデフケース10とリングギヤ12との溶接方法においては、溶接速度は1.2m/min以上で4.8m/min以下とし、レーザ出力は3.5kW以上で10.0kW以下とすること、を推奨する。
【0035】
また、図3と図4の評価結果に示すように、レーザ光30の集光径をφ0.02mmとした場合には、レーザ光30の集光径をφ0.2mmとした場合よりも小さなレーザ出力で必要な溶け込み深さを得ることができた。そのため、レーザ光30の集光径をφ0.2mm未満、例えばレーザ光30の集光径をφ0.02mmとすれば、さらに製造コストを低減することができる。
【0036】
なお、図6に示すようなデフケース40とリングギヤ42との溶接の例においても、前記の実施例を適用することができる。なお、リングギヤ42の歯部44には、ヘリカルギヤが形成されている。まず、図6(a),(b)に示すように、デフケース40の接合面46とリングギヤ42の内周面48とが接するように、デフケース40の接合面46にリングギヤ42の内周面48を圧入する。
【0037】
次に、図6(b)に示すように、このデフケース40の接合面46にリングギヤ42の内周面48を圧入した部分である圧入部50の端部52側から、溶接ワイヤ32を供給しながら高集光レーザ機によりレーザ光30を照射する。なお、圧入部50の端部52に対峙する端部54側から、高集光レーザ機によりレーザ光30を照射してもよい。そして、図6(c)に示すように、圧入部50における端部52と端部54との間を貫通するように溶接ビード56を形成する。
【0038】
このような図6における実施例においても、高集光レーザ機により照射するレーザ光30の集光径をφ0.2mm以下とすることにより、デフケース40の接合面46およびリングギヤ42の内周面48に開先加工を施さなくても、必要な溶け込み深さを得ることができる。そのため、製造コストを低減することができる。
また、前記の実施例と同様に、レーザ光30の集光径をφ0.2mm未満、例えばレーザ光30の集光径をφ0.02mmとすれば、さらに製造コストを低減することができる。
【0039】
また、図7に示すようなデフケース60とリングギヤ62との溶接の例においても、前記の実施例を適用することができる。なお、リングギヤ62の歯部64には、ハイポイドギヤが形成されている。まず、図7(a),(b)に示すように、デフケース60の接合面66とリングギヤ62の接合面68とが接するように、デフケース60の接合面66にリングギヤ62の接合面68を圧入する。本実施例では、デフケース60の接合面66は、不図示のドライブシャフトが挿入される挿入孔の中心軸方向(図7に示す中心線方向)に沿って設けられている。また、リングギヤ62の接合面68は、リングギヤ62の中心軸方向(図7に示す中心線方向)に沿って設けられている。
【0040】
次に、図7(b)に示すように、このデフケース60の接合面66にリングギヤ62の接合面68を圧入した部分である圧入部70の端部72側から、溶接ワイヤ32を供給しながら高集光レーザ機によりレーザ光30を照射する。そして、図7(c)に示すように、圧入部70における端部72と端部74(端部72に対峙する端部)との間を貫通するように溶接ビード76を形成する。
【0041】
このような図7における実施例においても、高集光レーザ機により照射するレーザ光30の集光径をφ0.2mm以下とすることにより、デフケース60の接合面66およびリングギヤ62の接合面68に開先加工を施さなくても、必要な溶け込み深さを得ることができる。そのため、製造コストを低減することができる。
また、前記の実施例と同様に、レーザ光30の集光径をφ0.2mm未満、例えばレーザ光30の集光径をφ0.02mmとすれば、さらに製造コストを低減することができる。
【0042】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0043】
10 デフケース
12 リングギヤ
14 内周面
16 圧入面
18 接合面
20 接合面
24 突き合わせ部
30 レーザ光
32 溶接ワイヤ
34 端部
36 端部
38 溶接ビード
40 デフケース
42 リングギヤ
46 接合面
48 内周面
50 圧入部
52 端部
54 端部
56 溶接ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の面と第2部材の面との突き合わせ部にレーザ光を集光して照射することによって溶加材を溶かしながら前記第1部材と前記第2部材とのレーザ溶接を行う溶接方法において、
前記第1部材の面と前記第2部材の面とに開先加工を施さないで、かつ、前記レーザ光の集光径をφ0.2mm以下とすること、
を特徴とする溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載する溶接方法において、
前記レーザ溶接を行うことによって形成される溶接ビードの溶け込み深さを5mm以上とすること、
を特徴とする溶接方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載する溶接方法において、
前記レーザ光の出力は10.0kW以下であり、
前記レーザ溶接による溶接速度をXm/minとし、前記レーザ光の出力をYkwとするときに、以下の数1の関係を満たすこと、を特徴とする溶接方法。
【数1】

【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載する溶接方法において、
前記第1部材は鋳造材であり、前記第2部材は鋼材であること、
を特徴とする溶接方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載する溶接方法において、
前記第1部材はデファレンシャルギヤのハウジング部材であるデフケースであり、前記第2部材は前記デファレンシャルギヤのリングギヤであること、
を特徴とする溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−161506(P2011−161506A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30345(P2010−30345)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】