説明

溶接部耐食性に優れた溶接めっき鋼管

【目的】耐食性に優れ、加工性も良好な溶射層で溶接部を補修した溶接めっき鋼管を提供する。
【構成】Zn−Al−Mg合金めっき層11が設けられているめっき鋼帯から造管された溶接めっき鋼管Pであり、溶接後のビードカットでめっき層11が除去された溶接部及び溶接部近傍にAl−Mg合金の溶射補修層14が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部耐食性及び加工性に優れた溶接めっき鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
Znめっき鋼帯,Zn−Al合金めっき鋼帯,Zn−Al−Mg合金めっき鋼帯等のめっき鋼帯から造管された溶接めっき鋼管は、耐食性に優れている特性を活用し、過酷な腐食環境に曝される各種構造部材,配管,排ガス用管等として使用されており、最近では農業用ビニールハウスの骨組みや地中埋設管等への適用も進められている。
溶接めっき鋼管は、たとえば図1に示す造管ラインで製造される。めっき鋼帯Sをロールフォーミング又はロールレスフォーミングでオープンパイプ状に成形した後、めっき鋼帯Sの幅方向端部を高周波コイル1で加熱し、スクイズロール2で加熱圧着する。加熱圧着によって幅方向両端部が融合され溶接めっき鋼管Pになるが、溶接部に半径方向に突出したビードBが形成される。そこで、ビードカッタ3,4でビードBを切削することにより、溶接めっき鋼管Pの周面を平滑化する。しかし、溶接部は、ビード切削によってめっき層も除去されるため、下地鋼が露出した表面になっている。
【0003】
溶接部耐食性を回復させるため、下地鋼が露出した溶接部に溶射補修層を設ける方法が採用されている。本出願人等も、Al溶射,Zn又はZn−Al合金溶射の二連溶射で溶接部を補修する方法を紹介した(特許文献1)。この方法では、溶接めっき鋼管Pの搬送方向に沿ってAl溶射ガン5,Zn又はZn−Al合金溶射ガン6を配置し、溶射ガン5,6に送り込まれたAl芯線7,Zn又はZn−Al合金芯線8をフレーム加熱し、溶融金属として溶接部に被着させる。
【特許文献1】特開平8−127855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
下地鋼が露出した溶接部がZn−Al合金の溶射補修層で被覆されることにより溶接部耐食性は向上するが、過酷な腐食環境下で溶接めっき鋼管を使用するとき依然として溶接部又は溶接部近傍を起点にする腐食や白錆が散見される。腐食や白錆は、溶接めっき鋼管を用いた各種構造部材,配管,排ガス用管等の外観を著しく低下させ、場合によっては必要機能が損なわれることもある。環境悪化が深刻な最近では、腐食,白錆等の欠陥発生に対する対策が一層強く要求されている。
【0005】
また、溶接めっき鋼管に対する溶射補修層の密着性が十分でないと、溶接鋼管の加工時や取扱い,施工の際に溶射補修層が亀裂,剥離,脱落することがある。亀裂,剥離,脱落の欠陥が生じると、欠陥部を介して腐食性成分が下地鋼に到達しやすくなり、溶射補修層の防食機能が損なわれる。形成した溶射補修層がポーラスな場合にも、腐食や白錆が発生しやすい。
【0006】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、下地鋼に対する密着性及び耐食性に優れたAl−Mg合金の溶射補修層を溶接部に形成することにより、過酷な腐食環境下で長期間使用されても腐食や白錆の発生がなく耐久性に優れた溶接めっき鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶接めっき鋼管は、その目的を達成するため、Zn−Al−Mg合金めっき層が設けられているめっき鋼帯から造管された溶接めっき鋼管であり、溶接後のビードカットでめっき層が除去された溶接部及び溶接部近傍にAl−Mg合金の溶射補修層が設けられていることを特徴とする。
Al−Mg合金は、溶接めっき鋼管の加工性を確保するためMg含有量を20質量%以下に規制することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の溶接めっき鋼管は、溶接後のビードカットでめっき層が除去された溶接部及び溶接部近傍にAl−Mg合金の溶射補修層を形成している。溶射補修層は、溶接部の露出下地鋼やめっき層表面にある酸化皮膜に対するAl,Mgの親和力が高いことから溶接部に強固に付着し、バリア機能の高い保護膜として働く。そのため、溶接部を起点とする腐食や白錆の発生がなく、長期にわたって美麗な外観を呈する構造用部材,配管,排ガス用管,農業用ビニールハウスの骨組み等として好適な溶接めっき鋼管として使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
溶接めっき鋼管は、ビードカットされた溶接部に溶射補修層が設けられている。溶接部10及びその周辺では、溶接後のビードカットにより溶接ビード及びめっき層11が除去されているが、露出した下地鋼12及び溶接金属13の上に溶射補修層14が盛られている(図2)。溶射顕熱を利用して密着性の高い溶射補修層14を形成するためには、溶接後の高温状態にある溶接部に溶射補修層14を設けることが好ましい。厚い溶射補修層14は、Al−Mg合金→Al−Mg合金,Al−Mg合金→Al又はAl−Mg合金→Alの二連溶射で形成できる。
めっき層11には、Zn−6%Al−3%Mg等のZnベース合金めっき層等がある。めっき層11が形成されているめっき鋼帯Sのオープンパイプを溶接すると、溶接熱で加熱されためっき層11の表面に薄い酸化皮膜が生成する。ビードカットでめっき層11が除去された溶接部では、露出した下地鋼12の表面に薄い酸化皮膜が生成している。
【0010】
溶接部に盛られる溶射補修層は、酸素親和力の大きなAl,Mgを含む合金である。Al,Mgは、露出した下地鋼12及びめっき層11の表層にある酸化皮膜の酸素と反応し、酸化物となって下地鋼12,めっき層11に強固に結合する。Al単独の溶射でも酸化皮膜との反応が生じるが、更に酸素親和力の大きく鉄酸化物との親和性が高いMgがあるため反応が促進され、めっき層11,下地鋼12の表面にAl,Mgの酸化物からなる緻密な皮膜が形成される。この皮膜を介して溶射層が形成されるため、めっき層11,下地鋼12に溶射補修層14が強固に結合される。
溶射補修層14のAl,Mgは、Znの腐食生成物に対しても影響を及ぼし、導電性で保護作用のない酸化亜鉛ZnOの生成を抑え、緻密で保護作用のある塩基性塩化亜鉛Zn(OH)Cl・HOの生成を促進させる。しかも、溶射補修層14の表面にバリア作用や腐食防止機能のあるAl,Mgの酸化物皮膜が形成される。そのため、溶射補修層14によって溶接部の耐食性が格段に向上する。
【0011】
溶射補修層14を好ましくは10μm以上の膜厚で形成すると、ビードカットされた溶接部及び溶接部近傍が溶射補修層14で均一に覆われ、溶接部耐食性の向上が確実になる。しかし、30μmを超える厚膜は、溶射金属を浪費するばかりでなく、下地鋼12に対する溶射補修層14の密着性にも悪影響が現れる。
密着性,耐食性に優れた溶射補修層14で溶接部が覆われるため、曲げ,拡管,縮管等の加工によって溶接めっき鋼管Pを製品形状に加工した後でも溶射補修層14が健全な状態に保たれ、溶接部を起点にする腐食や白錆の発生が抑えられる。なかでも、溶射補修層14のMg含有量を20質量%以下にするとき、溶射補修層14の加工性が確保され、成形加工時に亀裂,剥離等が溶射補修層14に生じることが防止される。Mg含有量を20質量%以下に規制することは、変色防止にも有効である。
【0012】
二連溶射で溶射補修層14を形成する場合、Al−Mg合金を2段階で溶射する方法,Al溶射後にAl−Mg合金を溶射する方法,Al−Mg合金溶射後にAlを溶射する方法の何れも採用可能である。なかでも、Al−Mg合金溶射後にAlを溶射すると、溶射補修層14の表層Mg濃度が低下し、溶射補修層14の変色も抑えられる。何れの場合も、溶接後の高温状態(具体的には、450℃以上)にある溶接部に溶射補修層14を設けることが、溶接部に対する溶射補修層14の密着性を向上させる上で好ましい。
【0013】
耐変色性は、農業用ビニールハウスの骨組み等に溶接めっき鋼管Pを使用する用途では重要な特性である。すなわち、農業用ビニールハウス内では農薬が頻繁に噴霧され、高温多湿な環境にあるため、溶射補修層14の表層にMgが濃化していると、雰囲気の腐食性成分とMgとの反応によって溶射補修層14が黒変化し、外観が著しく劣化する。この点、最初にAl−Mg合金を、次いでAlを溶射することにより、表層のMg濃度が抑えられ、耐変色性の良好な溶射補修層14が形成される。
【0014】
溶射補修層14を形成した後、必要に応じ無機系又は有機系の化成処理液を用いて溶接部及び溶接部近傍を防錆処理する。無機系化成処理には、クロメート処理,リン酸塩処理,環境負荷の低減を目的としたクロムフリータイプの無機系防錆処理等がある。クロムフリー無機系防錆処理の一例として、バルブメタル(Zr,V,Mo,Ti等)の酸化物,水酸化物,フッ化物等の複合皮膜をめっき表層に形成させることで防錆性能が向上する。有機系化成処理には、ウレタン系樹脂,エポキシ樹脂,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン−アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂,ポリスチレン等のスチレン系樹脂,ポリエステル或いはこれらの共重合物又は変生物,アクリル系樹脂等を単独或いは複合添加した化成処理液を用いることが可能であり、更に、防錆添加剤としてリン系化合物や硫黄系化合物を用いることが有効である。
【実施例】
【0015】
実施例1;
目付け量90g/mでZn−6%Al−3%Mg合金を溶融めっきした板厚1.2mmのめっき鋼帯Sを直径25.4mmのオープンパイプに成形し、幅方向両端部を突合せ溶接した。溶接部には、溶接めっき鋼管Pの周面から最高で1.5mm突出した外面ビードが形成されていた。ビード突出部を切削した後、溶接めっき鋼管Pの表面を観察したところ、溶接線を中心として幅4.0mmの範囲でめっき層11が除去されており、溶接線両側4.0mmの範囲でめっき層11が薄くなっていた。
【0016】
めっき層11が除去された溶接部に、表1に示す二連溶射で幅10mmの溶射補修層14を形成した。Al−Mg合金芯線としては、直径が1.4mmで、5%のMgを含むものを使用した。Al芯線としては、直径が1.4mmで純度99.9%のAl線材を使用した。比較例1では単一工程の溶射によってZn溶射層を、比較例2では二連溶射によってZn溶射層を形成した。溶射に際しては、何れの場合もC+Oのフレームで芯線を加熱し、溶射ガン5,6から溶融金属として溶接部に被着させた。
【0017】

【0018】
溶射補修層14が形成された溶接めっき鋼管Pから長さ150mmの筒状試験片を切り出し、促進腐食試験,乾湿複合腐食試験に供した。
促進腐食試験では、温度35℃の5%NaCl水溶液を試験片の溶射補修層14に噴霧し、塩水噴霧を所定時間経過した後で溶接部表面を観察し、白錆発生面積率を測定した。
乾湿複合腐食試験では、塩水噴霧(35℃,5%NaCl)2時間→乾燥(60℃,30%RH)4時間→湿潤(50℃,95%RH)2時間を1サイクルとし、所定サイクル数繰り返した後で溶接部表面を観察し、赤錆発生面積率を測定した。
【0019】
表2の試験結果にみられるように、Al−Mg合金の溶射補修層14を形成した本発明例1〜7では、Zn溶射層を設けた比較例1,2に比較して白錆発生が大幅に抑えられていた。また、塩水噴霧を長時間継続した後や、乾湿複合腐食試験を250サイクル繰り返した後でも赤錆は皆無であり、溶接部は当初の美麗な表面に維持されていた。更に、溶射補修層14のMg含有量が20質量%以下に抑えられているので、溶射補修層14の変色がなく、溶接めっき鋼管Pを曲げ加工しても曲げ外側の溶射補修層14に亀裂や剥離が発生しなかった。
【0020】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電縫鋼管を製造する造管ラインに組み込んだ溶接部の補修装置
【図2】溶射補修層が盛られた溶接部の断面を示す模式図
【符号の説明】
【0022】
S:めっき鋼帯 P:溶接めっき鋼管 B:ビード
1:高周波コイル 2:スクイズロール 3,4:ビードカッタ 5,6:溶射ガン 7,8:溶射用芯線
10:溶接部 11:めっき層 12:下地鋼 13:溶接金属 14:溶射補修層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn−Al−Mg合金めっき層が設けられているめっき鋼帯から造管された溶接めっき鋼管であり、溶接後のビードカットでめっき層が除去された溶接部及び溶接部近傍にAl−Mg合金の溶射補修層が設けられていることを特徴とする溶接部耐食性に優れた溶接めっき鋼管。
【請求項2】
溶射補修層のAl−Mg合金が20質量%以下のMgを含んでいる請求項1記載の溶接めっき鋼管。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−191800(P2007−191800A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98833(P2007−98833)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【分割の表示】特願2002−130504(P2002−130504)の分割
【原出願日】平成14年5月2日(2002.5.2)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(592260572)日新鋼管株式会社 (26)
【Fターム(参考)】