説明

溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】従来の技術では製造することが困難であった、引張強度が590MPa以上で曲げ性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を備える溶融亜鉛めっき鋼板である。この鋼板は、C:0.03〜0.20%、Si:0.005〜2.0%、Mn:1.2〜3.0%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.003〜1.0%、N:0.01%以下、Bi:0.0001〜0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、残留オーステナイトを2.0〜15面積%含有する鋼組織を有し、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直角方向における平均間隔が300μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。具体的には、本発明は、曲げ性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関し、特に、自動車の車体のようにプレス成形、その中でも、従来困難であった曲げ成形が必要不可欠となる用途に好適な高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。ここで、「溶融亜鉛めっき鋼板」には「合金化溶融亜鉛めっき鋼板」が含まれ、「高強度溶融亜鉛めっき鋼板」には「高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板」が含まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護のために自動車の燃費向上が求められており、車体の軽量化および乗員の安全性確保のため、引張強度が590MPa以上である高強度鋼板、特に、防錆性を考慮した部材では、高強度溶融亜鉛めっき鋼板へのニーズが高まっている。
【0003】
しかし、自動車用部材に供される鋼板は、高強度であるだけでは不十分であり、プレス成形性や溶接性等といった、部品成形時に要求される各種性能を満足するものでなければならない。とりわけ、部品の成形プロセスを考慮すると、曲げ成形の使用頻度が最も高く、それによって様々な形状の部品に成形されるので、曲げ性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板が必要になる。しかしながら、鋼板強度の上昇に伴い、曲げ性は劣化する。
【0004】
高強度鋼板の曲げ性の改善については、従来、鋼組織の制御というアプローチがとられ、特許文献1に記載されているように、低温変態生成相の硬さを低下させ、フェライト相との硬度差を小さくすることが良いとされている。一方、特許文献2や特許文献3には、フェライトの結晶粒を超微細化させると、曲げ性と同様に局部変形能が必要な伸びフランジ性と高強度化が両立できると記載されている。
【0005】
しかしながら、高強度化を目的として、Mnを多量に含有する高強度鋼板の場合、凝固偏析によって局所的な化学組成の変動が生じ、その変動に対応した不均一組織が形成される。したがって、特許文献1により開示された技術では、鋼板全体でフェライト相、低温変態相の硬さそのものを精緻に制御することは極めて困難であるだけでなく、局所的な化学組成の変動に対応した不均一組織によって、図1に示すように、加工部の表面に目視でも観察されるような顕著な凹凸が出現し、その凹凸が不均一変形を助長して割れを誘発し、曲げ性そのものを劣化させる。また、割れに至らない場合であっても、加工部に凹凸が存在すると、部品としての衝突特性が劣化する。
【0006】
また、凝固偏析によって、変態現象が局所的に変化し、結晶粒径も不均一となるので、特許文献2や特許文献3により開示された技術でも、曲げ性を改善することができない。とりわけ、これらの文献に記載の技術では、鋼中に凝固偏析しやすいMnやNiを多量に含有させているので、上述のように曲げ性や部品としての衝突性に劣ることが容易に予想される。
【0007】
組織均一化の点から、単相組織という究極的なアプローチがあり、特許文献4には、究極の均一組織であるマルテンサイト単相組織にすることによって、曲げ性を向上させることができると記載されている。しかしながら、特許文献4により開示された技術のように、鋼組織をマルテンサイト単相にしたのでは、鋼板の平坦性が損なわれ、部品精度が必要な自動車部品として適用が困難となる。
【0008】
また、特許文献5には、フェライト単相組織にすることによって、曲げ性と同様に局部変形能が必要な穴拡げ性と高強度化が両立できると記載されている。しかしながら、特許文献5により開示された技術では、表面粗度と板厚精度を向上させる冷間圧延の工程が必要な高強度冷延鋼板や高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造するプロセスに適用した場合、多量の炭窒化物形成元素を添加することにより、再結晶温度の上昇が起こり、Ac点以上上の高温焼鈍が必要となり、析出物の粗大化が進み、高強度化できないという問題がある。また、結晶粒径も不均一となり、曲げ性を改善することができない。
【0009】
したがって、曲げ性と高強度化を両立させるためには、高強度化のためにMnを多量に含有しても均一組織が得られるような、一見相反することを両立させなければならない。不均一組織の起源である凝固偏析そのものを拡散によって解消するアプローチがある。特許文献6には、鋼材を1250℃以上の高温に10時間以上の長時間保持する溶質化処理によって、偏析が低減されて鋼材が均質化されると記載されている。しかしながら、特許文献6により開示された技術だけでは、凝固偏析が完全に消滅することはないので、残存した偏析によって、不均一組織が形成され、加工部に凹凸を除去できず、曲げ性が十分でない。
【0010】
また、特許文献7や特許文献8には、スラブの厚みtの(1/4)tの位置における平均冷却速度を100℃/min以上として、液相線温度から固相線温度まで冷却する連続鋳造条件の適用によって、偏析が低減されて鋼材が均質化されると記載されている。しかしながら、特許文献7や特許文献8により開示された技術は、所望の冷却速度は達成するために、スラブの厚みが30〜70mmの薄スラブ連続鋳造方法の適用を必要とするので、スラブ厚みが200〜300mmの通常の薄鋼板用連続鋳造の設備で製造できない。
【特許文献1】特開昭62−13533号公報
【特許文献2】特開2004−211126号公報
【特許文献3】特開2004−250774号公報
【特許文献4】特開2002−161336号公報
【特許文献5】特開2002−322539号公報
【特許文献6】特開平4−191322号公報
【特許文献7】特開2007−70649号公報
【特許文献8】特開2007−70659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述したように従来の技術では製造することが困難であった、引張強度が590MPa以上で曲げ性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。ここで、「曲げ性に優れる」とは、180゜曲げ試験の最小曲げ半径が1.0t以下であって、目視レベルで加工後の表面に凹凸が出現しないことを意味する。したがって、特に断りがない限り、本明細書における曲げ性はそのような物性、実部材の観察によって評価される。なお、本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板を、自動車用補強部材の代表例であるフロントサイドメンバーやリアクロスメンバー等のような、より複雑な形状の部品に適用するには、180゜曲げ試験の最小曲げ半径が0.5t以下であって、目視レベルで加工後の表面に凹凸が出現せず、引張試験によって得られる(TS×El)値が12000MPa・%以上であることが好ましい。さらに、本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板を、自動車用補強部材の代表例であるセンターピラー等のように、延性も必要とする部品に適用するには、180゜曲げ試験の最小曲げ半径が0.5t以下であって、目視レベルで加工後の表面に凹凸が出現せず、引張試験によって得られる(TS×El)値が16000MPa・%以上であることがさらに好ましい。一方、これらの部品をさらに軽量化するためには、引張強度が980MPa以上であることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板において、従来の技術では困難であった、凝固偏析に起因する不均一組織の生成を抑制できるように、化学組成および製造条件を見直して最適化することによって所望のMn濃度分布とすることができ、これにより、均一な組織とすることができ、引張強度が590MPa以上の曲げ性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができるという知見に基づくものである。
【0013】
本発明は、鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を備える溶融亜鉛めっき鋼板において、この鋼板は、C:0.03%以上0.20%以下(本明細書においては特に断りがない限り組成に関する「%」は「質量%」を意味するものとする)、Si:0.005%以上2.0%以下、Mn:1.2%以上3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.003%以上1.0%以下、N:0.01%以下、Bi:0.0001%以上0.05%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、残留オーステナイトを2.0面積%以上15面積%以下含有する鋼組織を有し、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直角方向における平均間隔が300μm以下であることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0014】
この本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板では、化学組成が、Feの一部に代えて、Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下およびV:0.05%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0015】
これらの本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板では、化学組成が、Feの一部に代えて、Cr:1%以下、Mo:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0016】
これらの本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板では、化学組成が、Feの一部に代えて、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0017】
これらの本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板では、化学組成が、Feの一部に代えて、B:0.01%以下を含有することが好ましい。
別の観点からは、本発明は、下記工程(A)〜(C)を備えることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
(A)上述した本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板における鋼板の化学組成を有する溶鋼を、表面から10mm深さ位置における凝固速度を100℃/min以上1000℃/min以下として200mm以上300mm以下の厚さのスラブに鋳造する連続鋳造工程;
(B)この連続鋳造工程により得られたスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とし、この熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする熱間圧延工程および冷間圧延工程;ならびに
(C)冷延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域で再結晶焼鈍を施し、その後[亜鉛めっき浴温度−20℃]以上[亜鉛めっき浴温度+100℃]以下の温度域まで冷却し、引き続きこの温度域にめっき浴浸漬時を含めて500秒間以下保持する連続溶融亜鉛めっき工程
さらに別の観点からは、本発明は、上述した本発明にかかる製造方法により得られた溶融亜鉛めっき鋼板に430℃以上600℃以下の温度域で合金化処理を施すことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、590MPa以上の強度を有し、曲げ性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板は、産業上、特に、自動車分野において、広範に使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
はじめに、本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板の化学組成を上述のように規定した理由を説明する。
【0020】
(C:0.03%以上0.20%以下)
Cは、強度向上に寄与する元素であり、鋼板の引張強度を590MPa以上にするために、0.03%以上含有させる。しかし、0.20%を超えてCを含有させると溶接性が劣化する。このため、C含有量は0.03%以上0.20%以下とする。なお、C含有量は好ましくは0.06%以上であり、このようにすることにより引張強度を980MPa以上にすることが容易になる。
【0021】
(Si:0.005%以上2.0%以下)
Siは、延性をさほど劣化させることなく、あるいは延性を向上させて、強度向上に寄与する元素であり、本発明では0.005%以上含有させる。ただし、2.0%を超えてSiを含有させると、めっきの濡れ性やめっきの密着性が劣化する。このため、Si含有量は、0.005%以上2.0%以下とする。なお、0.2%以上のSiを含有させると、TRIP効果により延性が一層向上する。このため、Si含有量は0.2%以上とすることが好ましく、0.6%以上とすることがさらに好ましい。
【0022】
(Mn:1.2%以上3.0%以下)
Mnは、強度向上に寄与する元素であり、鋼板の引張強度を590MPa以上にするために1.2%以上含有させる。ただし、3.0%を超えてMnを含有させると、転炉における鋼の溶解や精錬が困難になるだけでなく、溶接性が劣化する。このため、Mn含有量は1.2%以上3.0%以下とする。ここで、Mnは不均一組織を助長する元素であるが、後述するように、Biを含有させることによって、このようなMnの悪影響が緩和され、組織が均一となり、曲げ性の劣化が抑制されて、強度向上が達成される。なお、引張強度を980MPa以上にするには、Mnを1.8%以上含有させることが好ましい。
【0023】
(P:0.1%以下)
Pは、一般には不可避的に含有される不純物であるが、固溶強化元素でもあり、鋼板の強化に有効であるので、積極的に含有させてもかまわない。しかしながら、P含有量が0.1%超となると溶接性の劣化が著しくなる。このため、P含有量は0.1%以下とする。より確実に鋼板を強化するには、P含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
【0024】
(S:0.01%以下)
Sは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、曲げ性及び溶接性の観点からは低いほど好ましい。このため、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。さらに好ましくは0.003%以下である。
【0025】
(sol.Al:0.003%以上1.0%以下)
Alは、鋼を脱酸させるために添加される元素であり、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させるのに有効に作用する元素でもあるので、sol.Al含有量は0.003%以上とする。ただし、sol.Al含有量が1.0%を超えると、溶接性が劣化するとともに、酸化物系介在物が増加するために表面性状が劣化する。このため、sol.Al含有量は0.003%以上1.0%以下とする。なお、好ましくは0.02%以上0.2%以下である。
【0026】
(N:0.01%以下)
Nは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、曲げ性の観点からは低いほど好ましい。そのため、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.006%以下である。
【0027】
(Bi:0.0001%以上0.05%以下)
Biは、本発明において重要な元素であり、その含有によって、凝固組織が微細化し、Mnを多量に含有させても、組織が均一となり、曲げ性の劣化が抑制される。したがって、所望の曲げ性を確保するために、Biを0.0001%以上含有させる。ただし、0.05%を超えてBiを含有させると、熱間加工性が劣化し、熱間圧延が困難になる。このため、Bi含有量は0.0001%以上0.05%以下とする。なお、曲げ性をさらに向上させるには、Biを0.0010%以上含有させることが好ましい。
【0028】
(Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下およびV:0.05%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上)
Ti、NbおよびVは、いずれも、強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。980MPa以上の引張強度を確保するには、Ti、NbおよびVの1種または2種以上を含有させることが有効である。上記効果をより確実に得るには、Ti、NbおよびVの何れかの元素を0.003%以上含有させることが好ましい。ただし、それぞれ0.05%を超えて含有させると、Ti、NbやVを含む介在物が増加するために表面性状が劣化する。このため、Ti、NbおよびVの含有量はそれぞれ0.05%以下とすることが好ましい。
【0029】
(Cr:1%以下、Mo:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上)
Cr、Mo、CuおよびNiは、いずれも、強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。980MPa以上の引張強度を確保するには、Cr、Mo、CuおよびNiの1種または2種以上含有させることが有効である。上記効果をより確実に得るには、いずれかの元素を0.01%以上含有させることが好ましい。ただし、それぞれ1%を超えてCr、Mo、CuおよびNiを含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるだけでなく、熱延鋼板が硬質となって冷間圧延を行うことが困難となる。このため、Cr、Mo、CuおよびNiの1種または2種以上を上記の量で含有することが好ましい。
【0030】
(Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上)
Ca、Mg、REMおよびZrは、いずれも、介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、曲げ性をさらに向上させる元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。しかし、過剰に含有させると表面性状を劣化させるため、それぞれの元素の含有量を0.01%以下とすることが好ましい。上記効果をより確実に得るには、いずれかの元素を0.001%以上含有させることが好ましい。
【0031】
(B:0.01%以下)
Bは、強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。ただし、0.01%を超えてBを含有すると、熱延鋼板が硬質となって冷間圧延を行うことが困難となる。このため、B含有量は0.01%以下とすることが好ましい。上記効果をより確実に得るには、0.0005%以上含有させることが好ましい。
【0032】
なお、上記した成分以外の残部はFeおよび不純物である。
次に、本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板を構成する鋼板のMn分布および鋼組織の限定理由について説明する。
【0033】
(Mn濃化部の板幅方向の平均間隔:300μm以下)
鋼板のMn分布は、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において、圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直角方向、すなわち板幅方向の平均間隔を300μm以下とする。Mn濃化部の板幅方向の平均間隔を300μm以下とすることにより、凝固偏析が解消され、均一組織が得られ、曲げ加工部に凹凸が発生しにくくなり、曲げ性が向上する。また、Mn濃化部の板幅方向の平均間隔を300μm以下とすることは、換言すると、熱間圧延に供するスラブにおいて不均一組織のもととなる、スラブ表面からスラブ厚の(1/20)深さ位置におけるデンドライト一次アーム間隔を300μm以下とすることである。通常の連続鋳造方法で、上記一次アーム間隔を300μm以下とするには、Biを含有させ、スラブ表面から10mm深さ位置における凝固速度を100℃/min以上とすることが有効である。
【0034】
なお、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において、定常部のMn濃度(Mnst)とMn濃化部のMn濃度(Mnco)とから算出されるMn偏析比(Mnco/Mnst)を1.20以下とすることが好ましい。上記Mn偏析比を1.20以下とすることにより、より均一な組織となり、曲げ加工部における凹凸がさらに発生しにくくなり、一層曲げ性が向上する。Mn偏析比を1.20以下とするには、後述するように、均質化処理を所定の時間施すことが有効である。
【0035】
(残留オーステナイトの面積率:2.0%以上15%以下)
鋼板の鋼組織は、面積率で評価した分率で、残留オーステナイトが2.0%以上15%以下である。残留オーステナイトは、TRIP効果により、不均一変形を抑制し、曲げ性や延性を低下させることなく強度向上に寄与する。しかし、残留オーステナイトの面積率が過剰の鋼組織になると、TRIPにより生成するマルテンサイトの量が多くなり、その組織界面にてマイクロクラックが発生しやすくなり、曲げ性が劣化する。このため、残留オーステナイトの面積率を2.0%以上15%以下とする。
【0036】
さらに、(TS×El)値が12000MPa・%以上の優れた延性を得るために、鋼板の鋼組織は、面積率で評価した分率で、フェライトの面積率が30%以上であることが好ましい。フェライトを面積率で30%以上含むことにより、(TS×El)値が12000MPa・%以上の優れた延性も達成できる、このため、フェライトの面積率を30%以上とすることが好ましい。
【0037】
さらに、(TS×El)値が16000MPa・%以上の優れた延性を得るために、鋼板の鋼組織は、面積率で評価した分率で、残留オーステナイトの面積率が5%以上であり、フェライトの面積率が30%以上であることが好ましい。残留オーステナイトを面積率で5%以上、フェライトを面積率で30%以上含むことにより、(TS×El)値が16000MPa・%以上の優れた延性も達成できる、このため、残留オーステナイトの面積率が5%以上とし、フェライトの面積率を30%以上とすることがさらに好ましい。
【0038】
次に、本発明にかかる溶融亜鉛めっき鋼板の好適な製造方法を説明する。
[連続鋳造工程]
上述した化学組成を有する溶鋼を、転炉や電気炉等の公知の溶製方法で溶製し、スラブ表面から10mm深さ位置における凝固速度を100℃/min以上1000℃/min以下として200mm以上300mm以下の厚さのスラブに連続鋳造する。
【0039】
(凝固速度:100℃/min以上1000℃/min以下)
連続鋳造工程におけるスラブ表面から10mm深さ位置における凝固速度は100℃/min以上1000℃/min以下とする。上記凝固速度が100℃/min未満では、スラブ表面からスラブ厚の(1/20)深さ位置におけるデンドライト一次アーム間隔を300μm以下とすることが困難となり、鋼板の曲げ性を改善することができない場合がある。一方、凝固速度が1000℃/min超では、スラブの表面割れを誘発する場合がある。
【0040】
(スラブ厚:200mm以上300mm以下)
スラブ厚は200mm以上300mm以下とする。スラブ厚が200mm未満では、後述する熱間圧延および冷間圧延における総圧下率を99.0%以上とすることが困難となる。一方、スラブ厚が300mm超では、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において、圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直角方向における平均間隔を300μm以下とすることが困難となる。
【0041】
[熱間圧延工程および冷間圧延工程]
上記連続鋳造工程により得られたスラブに、熱間圧延を施して熱延鋼板とし、この熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする。
【0042】
好ましくは、上記連続鋳造工程により得られたスラブに、1200℃以上1350℃以下の温度域に20分間以上保持する均質化処理を施し、次いで、仕上温度:800℃以上950℃以下、巻取温度:400℃以上750℃以下の熱間圧延を施して熱延鋼板とし、この熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とし、熱間圧延および冷間圧延における総圧下率を99.0%以上とすることである。
【0043】
(均質化処理温度:1200℃以上1350℃以下、均質化処理時間:20分間以上)
熱間圧延に供するスラブには、1200℃以上1350℃以下の温度域に20分間以上保持する均質化処理を施すことが好ましい。熱間圧延に供するスラブを1200℃以上の温度域に20分間以上保持することにより、Mnの偏析に起因する不均一組織がさらに解消され、さらに曲げ性を向上させることができる。なお、均質化処理温度は1350℃以下とすることが、スケールロスの抑制、加熱炉損傷の防止および生産性の向上といった観点から好ましい。
【0044】
均質化処理時間は1.0時間以上3時間以下とすることがさらに好ましい。均質化時間を1.0時間以上とすることにより、Mn偏析比を1.20以下とすることができ、鋼板の曲げ性をより一層向上させることができる。一方、均質化処理時間を3時間以下とすることにより、スケールロスが抑制され、生産性を向上させることができ、製造コスト低減に繋がる。
【0045】
(仕上温度:800℃以上950℃以下)
仕上温度は800℃以上950℃以下とすることが好ましい。仕上温度を800℃以上とすることにより、熱間圧延時の変形抵抗が小さくなり、操業をより容易に行うことができる。また、仕上温度を950℃以下とすることにより、スケールによる疵をより確実に抑制することができ、良好な表面性状を確保することができる。
【0046】
(巻取温度:400℃以上750℃以下)
巻取温度は400℃以上750℃以下とすることが好ましい。巻取温度を400℃以上とすることにより、硬質なベイナイトやマルテンサイトの生成が抑制され、その後の冷間圧延が容易になる。また、巻取温度を750℃以下とすることにより、鋼板表面の酸化が抑制され、良好な表面性状を確保することができる。
【0047】
なお、熱間圧延工程においては、粗圧延後仕上圧延前の粗バーに対して、誘導加熱等により粗バー全長の温度均一化を図ると、特性変動を抑制することができるので好ましい。
【0048】
(熱間圧延および冷間圧延における総圧下率:99.0%以上)
上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板は、通常は酸洗等の常法により脱スケール処理が施され、その後に冷間圧延が施されて冷延鋼板とされる。このときの熱間圧延および冷間圧延における総圧下率を99.0%以上とすることが好ましい。ここで、総圧下率は次式で算出される。
【0049】
総圧下率(%)={1−(冷延鋼板の板厚)/(熱間圧延に供するスラブの板厚)}×100
曲げ加工後に発生する表面凹凸は、圧延方向に展伸したMn濃度の板幅方向の変動だけでなく、Mn濃化部の板厚方向の厚みにも影響される。したがって、Mn濃化帯の厚みを減ずることによって、加工後の表面凹凸をより確実に抑制することができ、その結果曲げ性が改善される。このような効果を得るには、上記総圧下率を99.0%以上とすることが有効である。
【0050】
なお、連続焼鈍後の鋼板の組織を均一にするには、冷間圧延の圧下率は30%以上とすることが好ましい。また、酸洗の前もしくは後に、圧下率5%以下の軽度の圧延を施して形状を修正すると平坦確保の観点から好ましい。また、このような軽度の圧延を酸洗の前に施すと、酸洗性が向上し、表面濃化元素の除去が促進され、表面性状を向上させることができる。
【0051】
[連続溶融亜鉛めっき工程]
上記熱間圧延工程および冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域で再結晶焼鈍を施し、その後[亜鉛めっき浴温度−20℃]以上[亜鉛めっき浴温度+100℃]以下の温度域まで冷却し、引き続きこの温度域にめっき浴浸漬時を含めて500秒間以下保持する連続溶融亜鉛めっき処理を施す。合金化処理を施す場合には、430℃以上600℃以下の温度域で行う。
【0052】
(再結晶焼鈍温度:750℃以上950℃以下)
焼鈍温度は、750℃以上950℃以下とすることが好ましい。焼鈍温度を750℃以上とすることにより、未再結晶の残存が抑制され、均一な組織を確実に得ることができ、さらに曲げ性を向上させることができる。また、焼鈍温度を950℃以下とすることにより、焼鈍炉の損傷を抑制して、生産性を向上させることができる。
【0053】
なお、未再結晶を完全に除去し、良好な曲げ性を安定して確保するには、焼鈍時間を10秒間以上とすることが好ましい。また、生産性の観点からは、焼鈍時間を300秒間以内とすることが好ましい。
【0054】
また、延性を向上させるために0.2%以上のSiを含有させる場合には、めっきの濡れ性や合金化処理性を確保し、溶融亜鉛めっき鋼板について良好な外観をするために、焼鈍中の露点を−30℃以上とすることが好ましい。
【0055】
再結晶焼鈍後、亜鉛めっき浴に浸漬する過程で冷却されるが、この場合の平均冷却速度はその最高到達温度から700℃までを1℃/s以上50℃/s以下とし、引き続いて、700℃から冷却停止温度までを3℃/s以上50℃/s以下とすることが好ましい。700℃までを1℃/s以上50℃/s以下で冷却することによりフェライトの面積率の調整を容易に行うことができる。一方、700℃から冷却停止温度までを3℃/s以上で冷却することにより、強度低下に繋がるパーライト変態を抑制することができる。また、冷却停止温度までを50℃/s超で冷却するには、連続溶融亜鉛めっき設備の大幅な改造が必要となり、製造コストが高まるので、50℃/s以下とすることが好ましい。
【0056】
(冷却停止温度:[亜鉛めっき浴温度−20℃]以上[亜鉛めっき浴温度+100℃]以下)
冷却停止温度は[亜鉛めっき浴温度−20℃]以上[亜鉛めっき浴温度+100℃]以下の温度域とすることが好ましい。冷却停止温度が[亜鉛めっき浴温度−20℃]未満であると、めっき浴浸入時の抜熱が大きく、操業が困難となる。一方、冷却停止温度が[亜鉛めっき浴温度+100℃]よりも高いと、めっき浴の温度上昇に伴い、操業が困難となる。溶融亜鉛めっきは、常法に従って、410℃以上490℃以下の溶融亜鉛めっき浴中に焼鈍した鋼板を浸漬することにより行う。
【0057】
([亜鉛めっき浴温度−20℃]以上[亜鉛めっき浴温度+100℃]以下の保持時間:500秒間以下、ただし、めっき浸漬時も含める。)
[亜鉛めっき浴温度−20℃]以上[亜鉛めっき浴温度+100℃]以下の保持時間を、めっき浸漬時も含め、500秒間以下とする。保持時間が500秒間を超えると、大部分のオーステナイトが消滅し、強度に殆ど寄与しない粗大なセメンタイトが生成するので、所望の引張強度が得られない。なお、延性を向上させるには、保持時間を10秒間以上とすることが好ましい。
【0058】
(合金化処理温度:430℃以上600℃以下)
合金化処理を施す場合には、めっき浴浸漬後に430℃以上600℃以下の温度域で行う。合金化処理温度が430℃未満では、合金化未処理部のムラが発生し、鋼板の表面性状が劣化する。一方、合金化処理温度が600℃を超えると、大部分のオーステナイトが消滅してしまい、所望の引張強度が得られない。なお、合金化処理温度を500℃以上530℃以下とし、かつ合金化処理時間を10秒間以上60秒間以下とすれば、合金化度(めっき層のFe含有量)を8質量%以上13質量%以下として、めっきの密着性を向上させることが容易になるので好ましい。
【0059】
連続溶融亜鉛めっき処理後には、伸び率0.05%以上1%以下の調質圧延を施すことが好ましい。調質圧延によって降伏点伸びの発生を抑制するとともに、プレス時の焼付けやかじりを防止することができる。
【0060】
上述した製造方法により、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において、圧延方向に展伸したMn濃化部の板幅方向の平均間隔が300μm以下であり、残留オーステナイトの面積率が2.0%以上15%以下である溶融亜鉛めっき鋼板を容易に製造することができる。
【0061】
このようにして、本発明により、従来の技術では製造することが困難であった、引張強度が590MPa以上で曲げ性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法が提供される。
【実施例1】
【0062】
さらに、本発明を、実施例を参照しながらより具体的に説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼を転炉で溶製し、スラブ表面から10mm深さ位置における凝固速度が表2に示す条件となるようにして連続鋳造し、厚みが245mmのスラブを作製した。
【0063】
【表1】

【0064】
さらに、表2に示す条件にて熱間圧延を施し、その後酸洗を施し、さらに表2に示す条件にて冷間圧延を施し、板厚が1.2mmの冷延鋼板とした。
【0065】
【表2】

【0066】
得られた冷延鋼板から熱処理用試験材を採取し、表3に示すように連続溶融亜鉛めっき設備におけるヒートパターンに相当する熱処理を施した。
【0067】
なお、冷却停止温度で保持した後の熱処理は、想定めっき浴温を460℃として、この温度まで5秒間かけて冷却し、この温度で10秒間保持し、その後10℃/sの冷却速度で室温まで冷却した。合金化処理を模擬するものは、上記想定めっき浴温に保持したのちに、さらに5秒間かけて合金化処理温度まで昇温し、この温度で10秒間保持し、その後10℃/sの冷却速度で室温まで冷却した。
【0068】
各種製造条件で得られた冷延鋼板に対して、EPMA分析によりMn分布を調査した。また、引張試験や、曲げ稜線が圧延方向となるような曲げ試験を実施し、機械特性を評価した。また、曲げ変形後の外観は、曲げ半径が1.0t(=1.2mm)となるような成形後に、目視にて凹凸の有無を確認した。曲げ半径が1.0tの外観が良好な場合には、さらに曲げ半径が0.5t(=0.6mm)となるような成形を行い、その後目視にて凹凸の有無を確認した。
【0069】
【表3】

【0070】
(実験方法)
(平均凝固速度)
得られたスラブの断面をピクリン酸にてエッチングし、鋳片表皮より内部に10mmの位置において、5箇所のデンドライト2次アーム間隔λ(μm)を測定し、下記式に基づいて、その値からスラブの液相線温度〜固相線温度内の冷却速度A(℃/min)を算出した。
【0071】
λ=710×A−0.39
(EPMA分析)
各種焼鈍板の圧延面を研削およびバフ研磨し、表面から板厚の(1/20)深さ位置の分析面を現出させた分析用サンプルを作製し、EPMAでMn分布を調査した。ビーム径を10μmとし、圧延方向に500μm、圧延方向に対して直角方向に総計8mmの領域を測定し、500μm幅で平均された圧延方向に対して直角方向のMn濃度分布を解析した。得られたMn濃度分布より、極大値をMn濃化部とし、極小値を定常部とし、Mn濃化部の平均間隔とMn偏析比を算出した。
【0072】
(残留オーステナイトの面積率の測定)
各種焼鈍板に板厚の(1/4)分減厚するための化学研磨を施し、化学研磨後の表面に対しX線回折を施し、得られたプロファイルを解析し、残留オーステナイトの面積率を測定した。
【0073】
(フェライトの面積率の測定)
各種焼鈍板の圧延方向および圧延方向に対して直角方向から試験片を採取し、圧延方向断面、圧延方向に対して直角方向断面の組織を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡で撮影し、画像解析によりフェライトの面積率を測定した。
(引張試験)
各種焼鈍板から、圧延方向に対して直角方向からJIS5号引張試験片を採取し、引張強度(TS)と全伸び(El)を測定した。
(曲げ試験)
各種焼鈍板から、曲げ稜線が圧延方向となるように、圧延方向に対して直角方向が長手方向となる曲げ試験片(幅40mm×長さ100mm×板厚1.2mm)を採取した。2.4mmの鋼板を挟んだ180゜曲げ試験を実施し、割れの有無を目視にて確認した。割れが無い試験片に対して、前回より1.2mmだけ薄い1.2mmの鋼板を挟んだ180゜曲げ試験を実施し、同様に割れの有無を確認した。割れが無い場合、さらに、鋼板を挟まない密着曲げを行い、同様に割れの有無を確認した。
【0074】
試験後に割れが認められない鋼板の板厚を曲げ試験片の板厚の2倍(2.4mm)で割ることにより、板厚(t)で規格した最小曲げ半径(表4にRminと表示)を算出した。
【0075】
(曲げ変形後の表面性状)
各種焼鈍板から、曲げ稜線が圧延方向となるように、圧延方向に対して直角方向が長手方向となる曲げ試験片(幅40mm×長さ60mm×板厚1.2mm)を採取した。最小曲げ半径が1.0t以下の場合、先端に1.2mmの半径を持つ90゜のポンチで押し込み、曲げ試験を実施し、表面の凹凸の有無を目視にて確認した。凹凸が有るものを不良、無いものを良好とした。その外観が良好であり、最小曲げ半径が0.5t以下の場合、先端に0.6mmの半径を持つ90゜のポンチで押し込み、曲げ試験を実施し、表面の凹凸の有無を目視にて確認した。凹凸が無いものを良好とした。
(試験結果の説明)
これらの結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
表4における供試材No.1、2、4、6、8、10〜16、18〜20および22は、本発明の条件を全て満足する本発明例の鋼板であり、供試材No.3、5、7、9、17および21は本発明の条件の少なくとも一つを満足しない比較例の鋼板である。
【0078】
供試材No.1、2、4、6、8、10〜16、18〜20および22の本発明例の鋼板は、いずれも、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直角方向における平均間隔が300μm以下であり、残留オーステナイトの面積率が2.0%以上15%以下であり、引張強度が590MPa以上であり曲げ性に優れていた。
【0079】
これに対し、供試材No.3は、連続溶融亜鉛めっきにおける冷却停止温度での保持時間が本発明で規定する範囲の上限を超え、また供試材No.21は合金化処理温度が本発明で規定する範囲の上限を超えるため、残留オーステナイトの面積率が低くなり、所望の引張強度が得られなかった。
【0080】
供試材No.5は、Biを含有しないため、上記平均間隔が300μm超となり、曲げ性が悪かった。
供試材No.7は、連続鋳造における凝固速度が本発明で規定する範囲の下限を下回るため、上記平均間隔が300μm超となり、曲げ性が悪かった。
【0081】
供試材No.9は、Mn含有量が本発明で規定する範囲の下限を下回り、また供試材No.17はC含有量が本発明で規定する範囲の下限を下回るため、所望の引張強度が得られなかった。
【0082】
本発明例の鋼板うち、Biの含有量が上述した好ましい範囲である0.0010%以上0.05%以下にあり、均質化処理時間が上述した好ましい範囲である20分間以上にあり、Mn偏析比が1.20以下であり、さらにフェライトの面積率が30%以上である供試材No.1、2、4、6、8、10〜13、15、16、18および20は、引張強度が590MPa以上であって、TS×El値が12000MPa・%以上であり、延性に優れ、曲げ性に非常に優れた好ましい鋼板である。
【0083】
延性に優れ、曲げ性に非常に優れた好ましいこれらの鋼板のうち、化学組成がさらに好ましい範囲にあり、残留オーステナイトの面積率が好ましい範囲にある供試材No.4、6および18は、引張強度が590MPa以上であって、TS×El値が16000MPa・%以上であり、延性に非常に優れ、曲げ性に非常に優れた好ましい鋼板である。
【0084】
一方、C量とMn量が好ましい範囲にある供試材6、13および22は、引張強度が980MPa以上の曲げ性に非常に優れた好ましい鋼板である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】曲げ変形後の表面性状を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を備える溶融亜鉛めっき鋼板において、前記鋼板は、質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.005〜2.0%、Mn:1.2〜3.0%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.003〜1.0%、N:0.01%以下、Bi:0.0001〜0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、残留オーステナイトを2.0〜15面積%含有する鋼組織を有し、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直角方向における平均間隔が300μm以下であることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下およびV:0.05%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1%以下、Mo:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項1または請求項2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.01%以下を含有する、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
下記工程(A)〜(C)を備えることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法:
(A)請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の化学組成を有する溶鋼を、表面から10mm深さ位置における凝固速度を100〜1000℃/minとして200〜300mm厚のスラブに鋳造する連続鋳造工程;
(B)前記連続鋳造工程により得られたスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とし、前記熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする熱間圧延工程および冷間圧延工程;ならびに
(C)前記冷延鋼板に、750〜950℃の温度域で再結晶焼鈍を施し、その後[亜鉛めっき浴温度−20℃]〜[亜鉛めっき浴温度+100℃]の温度域まで冷却し、引き続き前記温度域にめっき浴浸漬時を含めて500秒間以下保持する連続溶融亜鉛めっき工程。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られた溶融亜鉛めっき鋼板に430〜600℃の温度域で合金化処理を施すことを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−121174(P2010−121174A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295898(P2008−295898)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】