説明

溶融塩電池

【課題】エネルギー密度及びエネルギー効率の低下を抑えつつセパレータが破断する虞をなくした溶融塩電池を提供する。
【解決手段】アルミの箔、3DF(多孔性シート)及びアルミの多孔質体の夫々からなる正極集電体の表面粗さRaを、5〜20μm、15〜25μm及び20〜30μmとする。これらの正極集電体を含む正極と、ガラスの不織布からなるセパレータとを組み合わせる場合は、セパレータの厚さを50、60及び80μm以上とし、正極とPTFEのシートからなるセパレータとを組み合わせる場合は、セパレータの厚さを20、30及び30μm以上とする。例えばセパレータの厚さを200μmより薄くしてエネルギー密度及びエネルギー効率の低下を短く抑えた場合であっても、正極及び負極から押圧されたセパレータが破断することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩を電解質に用いた溶融塩電池に関し、より詳しくは、セパレータを正極及び負極間に介装させた溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出を伴わずに電力を発生させる手段として、太陽光、風力等の自然エネルギーを利用した発電が促進されている。自然エネルギーによる発電では、発電量が気候、天候等の自然条件に左右されることが多いのに加えて、電力需要に合わせた発電量の調整が難しいため、負荷に対する電力供給の平準化が不可欠となる。発電された電気エネルギーを充電及び放電させて平準化するには、高エネルギー密度・高効率で大容量の蓄電池が必要とされる。
【0003】
このような条件を満たす蓄電池として、溶融塩電池の一種であるナトリウム硫黄電池が実用化されている。ナトリウム硫黄電池は、電解質に固体溶融塩を用い、正極活物質の硫黄及び多硫化ナトリウムと負極活物質のナトリウムとが高温で溶融した状態で運用されるため、構造上の制約が多い上に取り扱いに難点がある。
【0004】
一方、常温又は130℃以下の比較的低温で動作する蓄電池の開発が進められており、電解質には、有機電解液の他、比較的低温で融解する溶融塩を用いる試みがなされている。このような液体の電解質を用いる蓄電池では、正極及び負極でセパレータを挟持する構成をとり、電解質をこれらに含浸させるのが一般的である(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
電池は、セパレータの厚さが薄いほど電池の体積に占める電極の割合が大きくなってエネルギー密度が高まる上に、正極及び負極間のイオンの移動距離が短くなってエネルギー効率が向上するが、セパレータは厚さが薄いほど材質に依存して機械的な強度が低下する。特に蓄電池では、充放電反応に伴って、正極及び負極が膨張と収縮とを繰り返すことにより、細粒化された活物質が含まれる正極の表面粗さの影響を受けてセパレータが破断する虞もあるが、リチウム電池の分野では、セパレータと接する正極等の表面粗さは比較的粗い状態であっても許容されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−283139号公報
【特許文献2】特開2007−273362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の様に、蓄電池の充放電に伴って正極及び負極が膨張と収縮とを繰り返すことにより、細粒化された活物質が含まれる正極又は負極の表面粗さの影響を受けてセパレータが破断する虞もあるが、溶融塩電池では、セパレータの破断に関してはあまり検討されていない状況であった。さらに、溶融塩電池におけるセパレータの機械的安定性に関して鋭意検討した結果、特に室温より高い融点を有する溶融塩を電解質として使用した場合の溶融塩電池においては、電池動作させる時には加熱して電解質を溶融させ、電池停止時には電解質を凝固させることに伴い、セパレータ内の電解質は膨張収縮することとなり、その影響は正極の表面粗さのセパレータの破断への影響に加重されることを見出した。加えて、セパレータの実用的な厚さの範囲は、製造面からも制約を受ける。100℃に近い温度で動作する溶融塩電池にあっては、セパレータに適用可能な材料が自ずと限定されるため、セパレータの実用的な厚さの範囲が更に狭まる。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エネルギー密度及びエネルギー効率の低下を抑えつつセパレータが破断する虞をなくした溶融塩電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る溶融塩電池は、シート状のセパレータを、平板状の正極及び負極間に介装させた溶融塩電池であって、前記正極は、前記セパレータとの対向面の表面粗さRaが5〜30μmであり、前記セパレータは、厚さが20〜200μmであること
を特徴とする。
【0010】
本発明にあっては、セパレータと対向する正極の表面粗さRaが5〜30μmであるため、溶融塩に対する耐性を備えた材料を用いて、セパレータの厚さを20〜200μmの範囲まで薄くしてエネルギー密度及びエネルギー効率の低下を短く抑えた場合であっても、正極及び負極から押圧されたときに破断することがない。
正極の表面粗さRaが5μmより小さくなる集電体を製造することは困難である。また、正極の表面粗さRaが30μmより大きい場合、正極及び負極が充放電に伴って厚さ方向に伸縮したときに、例えば80μmより薄いガラスの不織布からなるセパレータが破断し易くなる。
【0011】
本発明に係る溶融塩電池は、前記正極及び負極が前記セパレータを押圧する圧力は、0.5MPa以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明にあっては、セパレータが正極及び負極から受ける圧縮荷重が0.5MPa以上であるため、正極及び負極に対する溶融塩の濡れ性が良好に保持されて、エネルギー効率の低下が小さく抑えられる。
【0013】
本発明に係る溶融塩電池は、前記溶融塩の融点が室温より高い温度であることを特徴とする。
【0014】
本発明にあっては、融点が室温より高い溶融塩を用いて、例えばエネルギー密度を高めることができる。また、充電した状態で常温での保存ができる。
【0015】
本発明に係る溶融塩電池は、前記正極は、アルミニウム箔を含み、前記対向面の表面粗さRaが5〜20μmであることを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、アルミニウム(以下、単にアルミという)箔を集電体とする正極の表面粗さRaが5〜20μmであるため、集電体がアルミの他の形態である場合と比較して、セパレータが必要とされる厚さを薄くすることができる。
【0017】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はガラス繊維からなり、前記セパレータがPTFEからなる場合の厚さが20μm以上であり、前記セパレータがガラス繊維からなる場合の厚さが50μm以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、セパレータがPTFE又はガラス繊維からなるため、入手が容易であり耐薬品性にも優れている。また、アルミ箔を集電体とする正極と組み合わせることにより、PTFE及びガラス繊維の夫々からなるセパレータの厚さを20μm及び50μmまで薄くしても破断が生じない。
【0019】
本発明に係る溶融塩電池は、前記正極は、アルミニウムからなる多孔性シートを含み、前記対向面の表面粗さRaが15〜25μmであることを特徴とする。
【0020】
本発明にあっては、アルミからなる多孔性シートを集電体とし、正極の表面粗さRaを15〜25μmとする。
表面粗さRaが15μmより小さい場合、正極活物質を含む合剤の厚さが不十分となり、溶融塩電池のエネルギー密度が低下する。また、表面粗さRaが25μmより大きい場合、正極及び負極が充放電に伴って厚さ方向に伸縮したときに、例えば60μmより薄いガラスの不織布からなるセパレータが破断し易くなる。
【0021】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はガラス繊維からなり、前記セパレータがPTFEからなる場合の厚さが30μm以上であり、前記セパレータがガラス繊維からなる場合の厚さが60μm以上であることを特徴とする。
【0022】
本発明にあっては、本発明にあっては、セパレータがPTFE又はガラス繊維からなるため、入手が容易であり耐薬品性にも優れている。また、アルミからなる多孔性シートを集電体とする正極と組み合わせることにより、PTFE及びガラス繊維の夫々からなるセパレータの厚さを30μm及び60μmまで薄くしても破断が生じない。
【0023】
本発明に係る溶融塩電池は、前記正極は、アルミニウムからなる多孔質体を含み、前記対向面の表面粗さRaが20〜30μmであることを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、アルミからなる多孔質体を集電体とし、正極の表面粗さRaを20〜30μmとする。
表面粗さRaが20μmより小さい場合、多孔質体の空隙の内部に正極活物質の粒状体が入り難くなる。また、表面粗さRaが30μmより大きい場合、正極及び負極が充放電に伴って厚さ方向に伸縮したときに、例えば80μmより薄いガラスの不織布からなるセパレータが破断し易くなる。
【0025】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はガラス繊維からなり、前記セパレータがPTFEからなる場合の厚さが30μm以上であり、前記セパレータがガラス繊維からなる場合の厚さが80μm以上であることを特徴とする。
【0026】
本発明にあっては、本発明にあっては、セパレータがPTFE又はガラス繊維からなるため、入手が容易であり耐薬品性にも優れている。また、アルミからなる多孔質体を集電体とする正極と組み合わせることにより、PTFE及びガラス繊維の夫々からなるセパレータの厚さを30μm及び80μmまで薄くしても破断が生じない。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、セパレータの厚さを20〜200μmの範囲まで薄くしてエネルギー密度及びエネルギー効率の低下を短く抑えた場合であっても、正極及び負極から押圧されたときに破断することがない。
従って、エネルギー密度及びエネルギー効率の低下を抑えつつセパレータが破断する虞をなくすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る溶融塩電池の要部構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】積層した発電要素の構成を模式的に示す横断面図である。
【図3】Aは溶融塩電池の構成を模式的に示す上面図、Bは同溶融塩電池の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図4】Aは溶融塩電池の蓋体の平面図、Bは同蓋体の縦断面図である。
【図5】Aはアルミの多孔性シートを含む正極の一部分を模式的に示す側面視の透視図であり、Bは同多孔性シートを斜め上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図6】アルミの多孔質体を含む正極の一部分を模式的に示す側面視の透視図である。
【図7】セパレータの厚さと圧縮荷重に対する強度との関係の一例を示す図表である。
【図8】セパレータに対する圧縮荷重と溶融塩電池の放電容量との関係の一例を示す図表である。
【図9】正極の形態とセパレータの厚さとの関係の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図1は本発明の実施の形態に係る溶融塩電池の要部構成を模式的に示す斜視図、図2は積層した発電要素の構成を模式的に示す横断面図、図3のAは溶融塩電池の構成を模式的に示す上面図、Bは同溶融塩電池の構成を模式的に示す縦断面図、図4のAは溶融塩電池の蓋体の平面図、Bは同蓋体の縦断面図である。
【0030】
本発明の溶融塩電池では、複数(図では6つ)の矩形平板状の負極21,21,・・21と、複数(図では5つ)の矩形平板状の正極41,41,・・41とが、矩形平板状のセパレータ31,31,・・31(図1では図示せず)の夫々を介して1つずつ交互に相対向するように横方向に積層されている。1組の負極21、セパレータ31及び正極41が1つの発電要素を構成し、本実施の形態では5つの発電要素及び1つの負極21が積層されて、直方体状のアルミ合金からなる電池容器10内に収容されている。電池容器10の内側は、フッ素樹脂コーティングによって絶縁処理が施されている。
【0031】
電池容器10は、上面に開口部1Eを有する容器本体1と、容器本体1の開口部1Eの内周に形成された段部1Gに内嵌されて開口部1Eを塞ぐ矩形平板状の蓋体7とを有している。容器本体1は、平面視で短辺側に位置する2つの側壁1A,1Bと、長辺側に位置する2つの側壁1C,1Dと、底壁1Fとを備えている。容器本体1の4つの側壁1A,1B,1C,1Dの上端部の内側には、全周に亘って上下寸法が蓋体7の板厚に等しい段部1Gが形成してある。蓋体7は直方体状の板体であり、平面視での外形寸法が容器本体1の段部1Gの内周寸法と略同一又は少し小さくしてある。蓋体7を上方から容器本体1の段部1Gに落とし込むことにより、蓋体7が容器本体1の開口部1Eに内嵌される。
【0032】
側壁1Dと最前側の負極21との間には、アルミ合金からなる平板状の押え板9が配されており、更に、側壁1Dと押え板9との間には、波板状のアルミ合金からなる板バネ8が挿設されている。板バネ8は、押え板9を後方に付勢しており、付勢された押え板9が最前側の負極21を後方に略均等に押圧する。そして、その反作用で、最後側の負極21が側壁1Cの内側から前方に略均等に押圧されるようになっている。
【0033】
負極21,21,・・21の上端部には、容器本体1の短辺側に位置する一方の側壁1Aに近い側に、電流を取り出すための矩形のアルミ合金からなる接続タブ22,22,・・22の下端部が接合されている。接続タブ22,22,22及び22,22,22の上部は、平面視が側壁1B側に開いたコの字状をなす接続部材23が有する2つの腕部231及び231の相対向する2面に夫々溶接されている。接続部材23は、面方向が腕部231,231と平行な矩形の接続板部232を有し、該接続板部232の上部中央には、側壁1Aに開設された貫通孔1Hと対向する取付孔233が設けられている。
【0034】
正極41,41,・・41の上端部には、容器本体1の短辺側に位置する他方の側壁1Bに近い側に、電流を取り出すための矩形のアルミ合金からなる接続タブ42,42,・・42の下端部が接合されている。接続タブ42,42及び42,42,42の上部は、平面視が側壁1A側に開いたコの字状をなす接続部材43が有する2つの腕部431及び431の相対向する2面に夫々溶接されている。接続部材43は、面方向が腕部431,431と平行な矩形の接続板部432を有し、該接続板部432の上部中央には、側壁1Bに開設された貫通孔1Hと対向する取付孔433が設けられている。
【0035】
接続部材23及び43の夫々は、負極21,21,・・21及び正極41,41,・・41と外部の電気回路とを接続するための外部電極の役割を果たすものであり、溶融塩6の液面より上側に位置するようにしてある。溶融塩6は、FSA(ビスフルオロスルフォニルアミド)又はTFSA(ビストリフルオロメチルスルフォニルアミド)系アニオンと、ナトリウム及び/又はカリウムのカチオンとからなるが、これに限定されるものではない。
【0036】
負極21,21,・・21は、負極活物質である錫がメッキされたアルミ箔からなる。アルミは、正/負各電極の集電体に適した材料であり、且つ溶融塩6に対して耐腐食性を有する。負極21,21,・・21は活物質を含めた厚さが約0.15mmであり、縦方向及び横方向夫々の寸法が、100mm及び120mmである。
【0037】
正極41,41,・・41は、アルミの多孔性シート又は多孔質体を集電体とし、該集電体にバインダと導電助剤と正極活物質であるNaCrO2 とを含む合剤を充填してプレスすることによって、約1mmの板厚に形成してある。正極41,41,・・41の縦方向及び横方向夫々の寸法は、デンドライトの発生を防止するために、負極21,21,・・21の縦方向及び横方向の寸法より小さくしてあり、正極41,41,・・41夫々の外縁が、セパレータ31,31,・・31を介して負極21,21,・・21の周縁部に対向するようになっている。正極41,41,・・41の集電体は、例えば、繊維状のアルミからなる不織布又はメッシュであってもよい。
【0038】
セパレータ31,31,・・31は、溶融塩電池が動作する温度で溶融塩6に対する耐性を有する多孔質のPTFEのシート又はガラスの不織布からなる。セパレータ31,31,・・31は、負極21,21,・・21及び正極41,41,・・41と共に、直方体状の電池容器10内に満たされた溶融塩6の液面下約10mmの位置から下側に浸漬されている。これにより、多少の液面低下が許容される。セパレータ31,31,・・31は、例えば、ガラスのメッシュ、又は繊維状のアルミナからなる不織布若しくはメッシュであってもよい。
【0039】
溶融塩電池が組み立てられる場合、接続部材23,43によって電気的に並列接続された5つの発電要素及び1つの負極21と、溶融塩6とが、容器本体1内に投入される。その後、貫通孔1H,1Hに対し、側壁1A,1B夫々の両側から、テフロン(登録商標)からなる絶縁性のブッシングの対が嵌入される。そして、各ブッシングの対と取付孔233及び433の夫々とに対して、ボルトが挿通され、各ボルトがナットに螺嵌される(以上のブッシング、ボルト及びナットは図示せず)。更に、容器本体1の開口部1Eに蓋体7が内嵌され、例えば上方からレーザー光が照射されて蓋体7の周縁部が容器本体1に溶接される。
【0040】
このようにして組み立てられた溶融塩電池にあっては、側壁1A,1Bの夫々と、接続部材23及び43とが電気的に絶縁されて締結されている。上記各ボルトは、側壁1A,1Bから電気的に絶縁されているのに対して、接続部材23及び43の夫々と、接続タブ22,22,・・22及び接続タブ42,42,・・42の夫々とを介して負極21,21,・・21及び正極41,41,・・41と電気的に接続されている。従って、各ボルトが、夫々正極端子及び負極端子となる。
【0041】
上述した構成において、図示しない外部の加熱手段を用いて電池容器10全体を85℃〜95℃に加熱することにより、溶融塩6が融解して、溶融塩電池としての充電及び放電が可能となる。外部より、負極端子に対して正極端子に正の電圧を印加して充電した場合、ナトリウムイオンが正極41,41,・・41からセパレータ31,31,・・31を介して負極21,21,・・21に移動し、その結果、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が共に膨脹する。
【0042】
一方、正極端子及び負極端子間に外部の負荷を接続して放電させた場合、ナトリウムイオンが負極21,21,・・21から正極41,41,・・41に移動し、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が共に収縮する。このため、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21は、充放電に伴って体積が変化し、厚さ方向についても伸縮することになる。
【0043】
このように、充放電に伴って正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が厚さ方向(積層方向)に伸縮する場合であっても、最前側の負極21が押え板9に及ぼす前後方向の変位が、板バネ8の前後方向の伸縮によって吸収されるため、板バネ8が押え板9を介して最前側の負極21を押圧する押圧力の変化が抑制される。
【0044】
以下では、正極41の2つの構成例について説明する。
図5のAはアルミの多孔性シートを含む正極41の一部分を模式的に示す側面視の透視図であり、Bは同多孔性シートを斜め上方から撮影した顕微鏡写真である。正極41は、該正極41の形状を安定させつつ正極活物質から集電するためのアルミの多孔性シートからなる3DF(3 Dimensional Foil)410の両面に、平均粒径が約10μmの多数個の粒状体440,440,・・440からなる正極活物質及び導電助剤をバインダによって保持させて形成してある。3DF410には、一の面方向(図では上方)に打ち抜かれた孔411,411,・・411の列と、他の面方向に打ち抜かれた孔412,412,・・412の列とが、面に沿う一の方向(図では左右)に交互に配されており、ナトリウムイオンが容易に通過可能な間隙が適度に存在する。
【0045】
3DF410は、厚さが15〜30μmのアルミ箔を母材とし、孔径が約100μm、孔ピッチが300〜420μmで、孔411,411,・・411、412,412,・・412の周縁部を含めた厚さが30〜250μmとなるように形成される。正極41の一の構成例では、正極41の表面粗さRaが15〜25μmとなるような厚さを有する3DF410を集電体として用いる。表面粗さRaが15μmより小さい場合は、正極活物質を含む合剤の厚さが不十分となり、溶融塩電池のエネルギー密度が低下する。また、表面粗さRaが25μmより大きい場合は、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が充放電に伴って厚さ方向に伸縮したときに、セパレータ31,31,・・31が破損し易くなる。
【0046】
正極41の他の構成例では、アルミからなる多孔質体を集電体として用いる。
図6は、アルミの多孔質体を含む正極41の一部分を模式的に示す側面視の透視図である。正極活物質の粒状体440,440,・・440は図示を省略する。正極41は、該正極41の形状を安定させつつ正極活物質から集電するためのアルミの多孔質体450に、前述したバインダと導電助剤と正極活物質とを含む合剤を充填して形成してある。アルミの多孔質体450は、等方的に連続する空隙を有する立体網状の多孔質体であって、各空隙が12枚の正五角形で囲まれる正十二面体にモデル化され、夫々の正五角形に内接する円の直径(窓径)が、夫々の空隙に外接する外接球の直径(孔径)の約半分の大きさを有している。アルミの多孔質体450は、孔径が約100〜500μmであり、気孔率を最大98%まで大きくすることができる。
【0047】
正極41の他の構成例では、正極41の表面粗さRaが20〜30μmとなるような孔径を有するアルミの多孔質体450を集電体として用いる。表面粗さRaが20μmより小さい場合は、上述した空隙の内部に粒状体440,440,・・440が入り難くなる。また、表面粗さRaが30μmより大きい場合は、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が充放電に伴って厚さ方向に伸縮したときに、セパレータ31,31,・・31が破損し易くなる。
【0048】
次に、各セパレータ31の諸元について説明する。
図7は、セパレータ31の厚さと圧縮荷重に対する強度との関係の一例を示す図表である。図7では、セパレータ31の材料として、繊維状のガラスからなる不織布と、PTFE及び繊維状のアルミナからなるシートとを用いた場合について、厚さの違いに対する圧縮強度の変化を示す。アルミナのシートは、溶融塩6が分解した場合に生成されるフッ酸に対する耐性が高い。
【0049】
ここでの圧縮強度は、正極41及び負極21の両側からセパレータ31を圧縮した場合に、正極41及び負極21間で短絡が生じるときの圧縮荷重の大きさで表される。セパレータ31と対向する正極41は、表面粗さRaが22〜25μmのものを用いた。負極21の表面粗さRaの値は、これより小さく、圧縮強度の測定に影響を与えるものではない。
【0050】
図7において、ガラスの不織布からなるセパレータ31の厚さが80、200及び320μmである場合、圧縮強度が1、8及び19MPaと変化する。つまり、セパレータ31がガラスからなる場合の圧縮強度は、厚さの略2.2乗に比例すると言える。また、PTFEのシートからなるセパレータ31の厚さが30、60及び100μmである場合、圧縮強度が14、18及び24MPaと変化する。つまり、セパレータ31がPTFEからなる場合の圧縮強度は、厚さの略0.4乗に比例すると言える。PTFEのシートの厚さが20μmより小さいものは、製造が難しい。
セパレータ31がアルミナからなる場合の圧縮強度は、ガラスからなる場合の圧縮強度よりやや小さい。
【0051】
次に、溶融塩電池で必要とされる圧縮荷重の大きさについて説明する。
図8は、セパレータ31に対する圧縮荷重と溶融塩電池の放電容量との関係の一例を示す図表である。図8では、ガラスの不織布からなるセパレータ31の厚さが80及び200μmの場合について、セパレータ31に印加される圧縮荷重の違いに対する溶融塩電池としての放電容量の変化を示す。測定時の充放電のレートは0.1Cである。
【0052】
図8において、セパレータ31の厚さが80及び200μmの何れの場合であっても、圧縮荷重の大きさを0.5MPa以上とすることにより、放電容量の値が76〜77mAh/gで一定になる。つまり、セパレータ31の厚さに拘わらず、セパレータ31に印加される圧縮荷重の大きさを0.5MPa以上とすれば、充電容量に対する放電容量の低下、即ちエネルギー効率の低下が抑えられることが示される。また、セパレータ31の厚さが80μmの場合と200μmの場合とで、エネルギー効率の低下に差がないことが示される。
【0053】
このように、セパレータ31に印加される圧縮荷重を大きくすることにより、エネルギー効率の低下が抑えられるのは、正極41及び負極21に対する溶融塩6の濡れ性が良好に保持されるためと推察される。但し、セパレータ31、正極41、負極21、及び容器本体1が破損しない範囲値で、セパレータ31に印加される圧縮荷重の大きさを0.5MPa以上に高めた場合であっても、溶融塩6の濡れ性の大幅な向上は期待できないと推察される。
【0054】
以上に示したセパレータ31の圧縮強度と、溶融塩電池で必要とされる圧縮荷重の大きさとに基づき、正極41の表面粗さに応じて必要とされるセパレータ31の厚さを明らかにする。
図9は、正極41の形態とセパレータ31の厚さとの関係の一例を示す図表である。溶融塩電池では、電蝕を防止するために溶融塩6に浸される金属を可能な限りアルミ又はアルミ合金に統一している。正極41の集電体に用いることができるアルミの形態としては、上述した3DF410及びアルミの多孔質体450のほか、アルミ箔、繊維状のアルミからなるメッシュ及び不織布が挙げられる。
【0055】
正極41の集電体がアルミの3DF410及びアルミの多孔質体450である場合の表面粗さRaは、上述したように、夫々15〜25μm及び20〜30μmである。同集電体がアルミ箔の場合、表面粗さRaは5〜20μmである。また、同集電体が繊維状のアルミからなるメッシュ及び不織布の場合、夫々の表面粗さRaは、24〜35μm及び25〜40μmである。これらは、一般的に入手が容易な材料についての表面粗さRaの数値範囲である。
【0056】
以下では、セパレータ31の材料としてガラスの不織布及びPTFEのシートを用いた場合に、必要とされるセパレータ31の厚さについて、図9を用いて説明する。
尚、正極41及び負極21夫々の厚さが約1000μm及び150μmであることから、エネルギー密度の低下を約15%より小さく抑えるために、本実施の形態では、セパレータ31の厚さの上限を200μmとする(200/1350が15%に相当する)。
【0057】
正極41の集電体が3DF410からなる場合、集電体の表面粗さRaは、図7に示す数値を導出した場合に用いたセパレータ31の表面粗さRa(22〜25μm)と同等以下である。上述したように、ガラスの不織布からなるセパレータ31の圧縮強度は、厚さの略2.2乗に比例する。このことから逆算すれば、圧縮強度が0.5MPaとなるときのガラスの不織布の厚さは、図7より58μmとなる。従って、本実施の形態では、集電体が3DF410からなる場合に、ガラスの不織布からなるセパレータ31に必要とされる厚さを60μmとする。一方、PTFEのシートからなるセパレータ31の厚さは、図7より30μmで十分な圧縮強度を有する。
【0058】
次に、集電体がアルミの多孔質体450、アルミのメッシュ及び不織布の夫々からなる場合、図7に示す圧縮強度を測定した場合と比較して集電体の表面粗さRaが大きいため、図7と同じ厚さのセパレータ31であっても、圧縮強度は図7の場合より小さくなることが想定される。そこで本実施の形態では、集電体が3DF410からなる場合のセパレータ31の厚さを基準とし、ガラスの不織布からなるセパレータ31については、集電体の表面粗さRaの上限値に比例する厚さ(10の位への切り上げ値)80,90,100μmを、必要な厚さとした。このように決めても、ガラスの不織布の圧縮強度が厚さの2.2乗に比例するため、圧縮強度が不足することはない。一方、PTFEのシートからなるセパレータ31については、厚さが30μmでも十分な圧縮強度を有しているため、集電体の表面粗さRaの上限値を下回ることがないような厚さ30,40,40μmを、必要な厚さとした。
【0059】
次に、集電体がアルミ箔からなる場合、図7に示す圧縮強度を測定した場合と比較して集電体の表面粗さRaが小さいため、図7と同じ厚さのセパレータ31であっても、圧縮強度は図7の場合より大きくなることが想定される。そこで本実施の形態では、ガラスの不織布からなるセパレータ31については、集電体が3DF410からなる場合の厚さより10μmだけ薄い50μmを、必要な厚さとした。この厚さであっても、0.35MPaより大きい圧縮強度を有していると考えられる。一方、PTFEのシートからなるセパレータ31については、製造上の下限値に対応する20μmを必要な厚さとした。
尚、セパレータ31がアルミナからなる場合に必要とされる厚さは、図7に示される値から当てはめた参考値である。
【0060】
以上のように本実施の形態によれば、セパレータと対向する正極の表面粗さRaが5〜30μmであるため、ガラスの不織布又はPTFEからなるセパレータの厚さを20〜200μmの範囲まで薄くしてエネルギー密度及びエネルギー効率の低下を短く抑えた場合であっても、正極及び負極から押圧されたときに破断することがない。
従って、エネルギー密度及びエネルギー効率の低下を抑えつつセパレータが破断する虞をなくすことが可能となる。
【0061】
また、セパレータが正極及び負極から受ける圧縮荷重を0.5MPa以上とした場合は、正極及び負極に対する溶融塩の濡れ性が良好に保持されることから、エネルギー効率の低下を抑えることが可能となる。
【0062】
更にまた、アルミ箔を集電体とする正極の表面粗さRaが5〜20μmであるため、集電体が3DF、アルミの多孔質体等の他の形態である場合と比較して、セパレータが必要とされる厚さを薄くすることが可能となる。
【0063】
更にまた、PTFE及びガラス繊維の夫々からなるセパレータと、アルミ箔を集電体とする正極とを組み合わせることにより、セパレータの厚さを20μm及び50μmまで薄くしても破断が生じないようにすることが可能となる。
【0064】
更にまた、アルミの3DFを集電体とする正極の表面粗さRaが15〜25μmであるため、PTFE及びガラス繊維の夫々からなるセパレータと組み合わせることにより、セパレータの厚さを30μm及び60μmまで薄くしても破断が生じないようにすることが可能となる。
【0065】
更にまた、アルミの多孔質体を集電体とする正極の表面粗さRaが20〜30μmであるため、PTFE及びガラス繊維の夫々からなるセパレータと組み合わせることにより、セパレータの厚さを30μm及び80μmまで薄くしても破断が生じないようにすることが可能となる。
【0066】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 容器本体
7 蓋体
10 電池容器
21,21,・・・21 負極
31,31,・・31 セパレータ
41,41,・・41 正極
410 3DF
450 アルミの多孔質体
6 溶融塩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のセパレータを、平板状の正極及び負極間に介装させた溶融塩電池であって、
前記正極は、前記セパレータとの対向面の表面粗さRaが5〜30μmであり、
前記セパレータは、厚さが20〜200μmであること
を特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
前記正極及び負極が前記セパレータを押圧する圧力は、0.5MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項3】
前記溶融塩の融点が室温より高い温度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融塩電池。
【請求項4】
前記正極は、アルミニウム箔を含み、前記対向面の表面粗さRaが5〜20μmであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の溶融塩電池。
【請求項5】
前記セパレータは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はガラス繊維からなり、前記セパレータがPTFEからなる場合の厚さが20μm以上であり、前記セパレータがガラス繊維からなる場合の厚さが50μm以上であることを特徴とする請求項4に記載の溶融塩電池。
【請求項6】
前記正極は、アルミニウムからなる多孔性シートを含み、前記対向面の表面粗さRaが15〜25μmであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の溶融塩電池。
【請求項7】
前記セパレータは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はガラス繊維からなり、前記セパレータがPTFEからなる場合の厚さが30μm以上であり、前記セパレータがガラス繊維からなる場合の厚さが60μm以上であることを特徴とする請求項6に記載の溶融塩電池。
【請求項8】
前記正極は、アルミニウムからなる多孔質体を含み、前記対向面の表面粗さRaが20〜30μmであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の溶融塩電池。
【請求項9】
前記セパレータは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はガラス繊維からなり、前記セパレータがPTFEからなる場合の厚さが30μm以上であり、前記セパレータがガラス繊維からなる場合の厚さが80μm以上であることを特徴とする請求項8に記載の溶融塩電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−243417(P2012−243417A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109762(P2011−109762)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】