滑り軸受および画像形成装置
【課題】低コストで、製造が容易な簡易構造でありながら、断熱スリーブなどが不要で、摺動相手となるローラの材質・表面粗さに影響されず、低摩擦トルク、低摩耗で、モーメント荷重も許容でき、容易に交換できる滑り軸受、およびこれを用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】滑り軸受1は、内輪2と、外輪3とを備えてなるラジアル滑り軸受であり、内輪2が溶製金属からなり、外輪3が樹脂組成物の成形体からなり、内輪2は、外周の軸方向の一部に凹曲面2aを、内周に支持軸と嵌合する軸受孔4をそれぞれ有し、外輪3は、内輪2の外周の凹曲面2aに対向接触して摺動する凸曲面3aを内周の軸方向の一部に有し、内輪2と外輪3とは、凸曲面と凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転する。
【解決手段】滑り軸受1は、内輪2と、外輪3とを備えてなるラジアル滑り軸受であり、内輪2が溶製金属からなり、外輪3が樹脂組成物の成形体からなり、内輪2は、外周の軸方向の一部に凹曲面2aを、内周に支持軸と嵌合する軸受孔4をそれぞれ有し、外輪3は、内輪2の外周の凹曲面2aに対向接触して摺動する凸曲面3aを内周の軸方向の一部に有し、内輪2と外輪3とは、凸曲面と凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は滑り軸受に関し、特に、複写機、複合機、プリンタ(レーザービームプリンタ、インクジェットプリンタなど)、ファクシミリなどの画像形成装置における定着部の定着ローラや加圧ローラなどのローラ(ヒートローラ)もしくは軸の支持に用いる滑り軸受、現像部、感光部、転写部、排紙部、給紙部などの各種ローラもしくは軸の支持に用いる滑り軸受に関する。また、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部に用いる滑り軸受に関する。また、この滑り軸受を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、画像形成装置は、その定着装置において、光学装置で形成された静電潜像にトナーを付着させ、このトナー像をコピー用紙に転写し、さらに定着させるものである。この定着工程では、ヒータを内蔵した定着ローラと加圧ローラとの間にトナー像を通過させる。これにより、トナー像からなる転写像がコピー用紙上に加熱融着によって定着される。
【0003】
定着ローラは、線状ないし棒状のヒータを軸心部に内蔵した軟質の金属製であり、両端に小径の軸部が突出した円筒状に形成されている。定着ローラは、アルミニウム、またはアルミニウム合金(A5056、A6063)などの熱伝導性に優れた金属材料からなる。定着ローラの表面は、旋削や研磨などで仕上げられる。また、定着ローラ表面には、フッ素樹脂などの非粘着性の高い樹脂が被覆してある。定着ローラの表面の温度は、ヒータにより180〜250℃前後に加熱される。一方、加圧ローラは、シリコンゴムなどで被覆された鉄材または軟質材からなり、コピー用紙を定着ローラに押圧して回転駆動するものである。加圧ローラは、加熱ローラからの伝熱により、約70〜150℃に加熱される。あるいは、定着ローラと同様に内部にヒータが設けられ150〜250℃前後に加熱される。以降、上記した定着ローラ、加圧ローラなどのように、内蔵されたヒータ、または、他部材からの伝熱により加熱されるローラを「ヒートローラ」と記す。
【0004】
高温に加熱されるヒートローラは、両端の軸部で深溝玉軸受からなるボールベアリングを介してハウジングに回転自在に支持されており、このボールベアリングとヒートローラの軸部との間に、合成樹脂などからなる断熱スリーブが介在させてある。これは、ヒートローラの加熱時に両端部のボールベアリングから熱が逃げてヒートローラの軸方向に沿う温度分布が不均一になるのを防止するためである。
【0005】
また、ヒートローラの支持軸受としては、樹脂製滑り軸受を用いるものがある。例えば、滑り軸受を、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと記す)樹脂、ポリアミド(以下、PAと記す)樹脂、ポリアミドイミド(以下、PAIと記す)樹脂、ポリイミド(以下、PIと記す)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKと記す)樹脂などの合成樹脂から形成している。
【0006】
樹脂製滑り軸受を使用する場合、樹脂製滑り軸受自体が断熱性を有するため、一般的には、該樹脂製滑り軸受とヒートローラの軸部との間に断熱スリーブを介在させない。通常、画像形成装置の定着部の仕様に応じて、転がり軸受と樹脂製滑り軸受が使い分けられている。一般的に、高PV仕様(P:面圧、V:速度)の中級機、高級機には転がり軸受が、比較的PVの低い普及機には樹脂製滑り軸受が使用されている。
【0007】
しかし、上記した画像形成装置における定着装置のヒートローラ用の軸受である深溝玉軸受は、構造が複雑で製造コストも高価である。また、温度分布の不均一化を防止するために、上述の樹脂製断熱スリーブが必要となり、さらに高価になる。また、ヒートローラの支持軸の取り付け精度誤差やモーメント荷重などに起因する支持軸の撓みにより、軸受が破損するおそれがある。
【0008】
これに対して、PPS樹脂などの樹脂製滑り軸受は、断熱スリーブを介在させることなく使用でき、構造が簡単で射出成形できることから、低コストで生産できるという利点を有する。しかし、この樹脂製滑り軸受は、ボールベアリングと比べて、負荷容量が低く、摩擦トルクが10倍以上も高い。そのため、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置、各種機械に使用する場合、駆動モータの容量を大きくする必要があり、総合的にコストアップとなる。また、摺動相手となるローラの材質、表面粗さに敏感である。相手ローラの摺動面粗さが粗い場合、摩擦トルク、摩耗量が大きくなり、相手ローラが軟質金属製の場合、樹脂製すべり軸受による相手ローラの摩耗損傷が発生し、仕様を満足できない。一般的に、ヒートローラの材質にはアルミニウムなどの軟質金属が使用される。表面粗さは小さくするほど、加工コストがアップする。また、アルミニウムなどの軟質金属では、研磨加工できないため、表面粗さを小さくするにも限界がある。樹脂製滑り軸受の負荷容量が小さいのは、相手ローラの材質、表面粗さによるところもある。
【0009】
また、摩擦トルクを小さくするため、軸受摺動面にグリースを塗布するとしても、荷重を強く受ける部分などではグリース不足となり、仕様を満足できなくなる場合がある。また、通常の樹脂製滑り軸受には、モーメント荷重に対する調芯機能はない。そのため、モーメント荷重に対しては、片当たりとなり、部分的に高面圧となり摩耗が増大する。また、一定の長期間使用後に軸受を交換する場合、摺接する相手ローラ・軸の表面には摺動傷が付いているため、ローラ・軸も同時に交換する必要があり、交換時の費用アップになることも課題である。
【0010】
定着装置のヒートローラ用の軸受以外の、室温下にて使用される現像部、感光部、排紙部、給紙部などで用いる軸受、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部などに用いられる軸受においても、同様の課題を抱えている。
【0011】
これらの問題に対処するための軸受として、外輪と内輪とから構成され、外輪の内周部に形成された環状突起または環状溝と、内輪の外周部に形成された環状溝または環状突起とが係合してなる滑り軸受(特許文献1参照)が知られている。また、外輪と内輪とから構成され、内輪が溶融硬化させた樹脂組成物からなり、内輪と外輪の軸受すきまが、内輪の硬化時の樹脂収縮によって形成してなる滑り軸受(特許文献2参照)が知られている。
【0012】
さらに、これらの問題に対処し得るヒートローラ用軸受として、外輪と内輪とから構成され、外輪または内輪のいずれか一方が合成樹脂製で他方が焼結金属製であり、外輪の内周面と内輪の外周面とが相対的に摺接する滑り軸受(特許文献3参照)が知られている。また、同様の軸受として、内輪と外輪との組み合わせからなり、内輪と外輪との間にグリースが封入され、一方向のみに回転する回転体を支持する滑り軸受であって、内輪の外周面にグリースを保持するグリース保持溝が形成されてなり、該グリース保持溝は、内輪の外周面の全周に設けられたハ字型を示す2列の矩形の複数の溝であり、ハ字の下側が内輪の回転方向に向くように形成されている滑り軸受(特許文献4参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開昭59−39316号公報
【特許文献2】特開平9−32856号公報
【特許文献3】特開2011−74975号公報
【特許文献4】特開2011−74979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1および2に記載の滑り軸受は、外輪の内周面と内輪の外周面が同形状であるため、環状溝と環状突起との係合部の摩耗粉が排出されにくく、逆に堆積し易い。そのため、摩擦係数の上昇、ばらつきが発生するだけでなく、運転すきまがなくなり、異常摩耗、焼き付きを起こし易い。特に、外輪および内輪が合い口のない環状体であるため、摩耗粉の堆積などの原因で、初期の運転すきまがなくなった場合に、合口の開閉による緩和効果はなく、激しい異常摩耗、焼き付きを起こす。また、調芯機能はないため、モーメント荷重に対しては片当たりとなり、部分的に高面圧となり摩耗が増大する。また、特許文献2に記載の滑り軸受は、内輪と外輪の軸受すきまが、内輪の硬化時の樹脂収縮によって形成されているため、グリースなどの潤滑剤の封入は困難である。
【0015】
特許文献3に記載の滑り軸受は、外輪または内輪のいずれか一方が焼結金属製からなるため、溶製金属製の外輪または内輪と比較して粉体間の密着は遥かに弱く、樹脂と摺接した際に、粒子として摩耗脱落するおそれがある。粒子状金属が、ある程度閉塞された内外輪間に介在すると、内外輪間の摩擦面から容易に排出しにくく、ざらつき摩耗となり、摩擦トルクの上昇、摩耗増大を誘発する可能性がある。グリースを封入すると、粒子状金属がグリースに混入し、内外輪間の摩擦面からの排出がより困難になり、摩耗が増大する。また、焼結金属は空孔を有しているので、グリースの基油が焼結金属の空孔に吸い込まれ、グリースの潤滑が低下し、摩擦トルクが上昇するおそれがある。あらかじめ、空孔に油を含浸してあっても、空孔中の油が軸受外部に流出し、その後空孔にグリースの基油が吸い込まれるという現象が起こるおそれがある。また、焼結金属製内外輪の摺接面の面精度は、特に凹凸曲面の場合、機械加工品と比較して劣り、摩擦トルクの安定性の面で懸念が残る。
【0016】
特許文献4に記載の滑り軸受は、内輪の外周面のグリース保持溝がハ字型を示す2列の矩形の複数の溝であり、ハ字の下側が内輪の回転方向に向くように形成されているため、回転方向が一方向でないと効果がなく、使用方法に制限がある。一般的に滑り軸受には、使用中に外れないよう、軸受の外輪がハウジングと摺接しないように、フランジなどの抜け止め・回り止めが設けられる。ローラまたは軸の両端に、フランジ・回り止め付きの滑り軸受を取り付ける際、上記滑り軸受では同一形状であるにも関わらず、一方向回転のみの使用であるため、左右を別の軸受にする必要があり、経済的ではなく、管理上も誤組みが懸念される。また、内輪と外輪を共に合成樹脂製にすると、軸受の高PV化対策にはならない。
【0017】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、低コストで、製造が容易な簡易構造でありながら、断熱スリーブなどが不要で、摺動相手となるローラの材質・表面粗さに影響されず、低摩擦トルク、低摩耗で、モーメント荷重も許容でき、容易に交換できる滑り軸受、およびこれを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の滑り軸受は、内輪と、外輪とを備えてなるラジアル滑り軸受であって、上記内輪および上記外輪のいずれか一方が、軸方向の一部に凹曲面を有する溶製金属からなり、他方が、軸方向の一部に上記凹曲面に対向接触して摺動する凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなり、上記内輪と上記外輪とは、上記凸曲面と上記凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転することを特徴とする。
【0019】
上記内輪および上記外輪は、(1)上記内輪が、外周に上記凹曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する溶製金属からなり、上記外輪が、内周に上記凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなる組み合わせ、または、(2)上記内輪が、外周に上記凸曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する樹脂組成物の成形体からなり、上記外輪が、内周に上記凹曲面を有する溶製金属からなる組み合わせ、であることを特徴とする。
【0020】
上記樹脂組成物の成形体が、少なくとも1ヶ所の合い口を有する環状体であることを特徴とする。また、上記凸曲面を構成する凸部が、上記合い口を基準とした±10°の範囲内には形成されていないことを特徴とする。
【0021】
上記凹曲面の表面粗さが0.3μmRa以下であることを特徴とする。また、上記溶製金属が、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、またはステンレス鋼であることを特徴とする。また、上記溶製金属からなる内輪が転がり軸受用の内輪である、または、上記溶製金属からなる外輪が転がり軸受用の外輪である、ことを特徴とする。
【0022】
上記樹脂組成物のベース樹脂が、熱可塑性PI樹脂、ポリエーテルケトン(以下、PEKと記す)樹脂、PEEK樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(以下、PEKEKKと記す)樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、ポリエチレン(以下、PEと記す)樹脂、およびポリアセタール(以下、POMと記す)樹脂から選ばれる少なくとも1つの合成樹脂であることを特徴とする。
【0023】
上記樹脂組成物が、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂を含むことを特徴とする。また、上記樹脂組成物が、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、マイカ、黒鉛、およびタルクから選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする。また、上記樹脂組成物が導電性カーボンを含み、上記樹脂組成物の成形体の体積抵抗率が1×106Ωcm未満であることを特徴とする。
【0024】
樹脂組成物の成形体からなる外輪に合い口を有する場合、該合い口が突き当たった状態において、上記外輪の内周の凸曲面を構成する凸部内径が、上記内輪の外周の凹曲面を構成する凹部外径よりも大きいことを特徴とする。
【0025】
上記凹曲面の曲率半径と、上記凸曲面の曲率半径とが異なることを特徴とする。
【0026】
上記凸曲面は、該凸曲面の軸方向中央部の全周に非曲面部が形成されていることを特徴とする。また、上記樹脂組成物の成形体が射出成形体であり、上記非曲面部に射出成形におけるパーティングラインが形成されていることを特徴とする。
【0027】
上記内輪および上記外輪の摺動面に潤滑剤が介在していることを特徴とする。また、上記樹脂組成物の成形体の負荷部に、軸方向凹型の潤滑剤保持溝が少なくとも1箇所形成されていることを特徴とする。
【0028】
上記潤滑剤が、フッ素グリース、ウレアグリース、およびリチウムグリースから選ばれる少なくとも1つのグリースであることを特徴とする。また、上記潤滑剤が、導電性を有するグリースであることを特徴とする。
【0029】
上記外輪または内輪が、凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを非摺接面に有することを特徴とする。
【0030】
上記滑り軸受が、画像形成装置における定着部、転写部、現像部、もしくは給排紙の紙送りローラ、または、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部に用いられることを特徴とする。
【0031】
本発明の画像形成装置は、上記本発明の滑り軸受と、該滑り軸受で支持されるローラまたは軸とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の滑り軸受は、上記のとおり、内輪と外輪とを備えてなるラジアル滑り軸受であり、内輪および外輪のいずれか一方が、軸方向の一部に凹曲面を有する溶製金属からなり、他方が、軸方向の一部に上記凹曲面に対向接触して摺動する凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなり、上記内輪と上記外輪とは、凸曲面と凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転するものである。内輪および外輪のいずれか一方が溶製金属製であるので、粒子状金属の摩耗脱落や、基油が空孔に吸い込まれることによる潤滑性能の低下などを防止できる。また、焼結金属製にする場合と比較して凹曲面の面精度に優れ、摩擦トルクが安定する。さらに、内外輪の回転方向の制限がなく、ローラまたは軸の両端で同一の滑り軸受を利用できる。
【0033】
また、内輪・外輪の2部品で構成されており、ボールベアリング(転がり玉軸受)と比較して部品点数が少なく構造が簡単である。そのため、製造が容易で、製造工程、組立時間が短縮でき、安価に提供できる。さらに、内輪および外輪のいずれか一方が樹脂組成物の成形体であるので、ボールベアリングにはない自己断熱性などの効果を有し、別途、断熱スリーブなどが不要になる。また、ボールベリングと同様に、滑り軸受のみの交換が容易に可能となる。
【0034】
また、凹曲面と凸曲面とが対向接触して摺動するので、相手ローラまたは軸と直接摺動する樹脂滑り軸受と異なり、摩擦トルク、摩耗量に相手ローラまたは軸の材質、表面粗さの影響がない。また、内輪と外輪とは、凹凸曲面同士が接触する態様であり、この接触部分以外が非接触で相対的に回転するので、摩擦面の接触面積を小さくすることができ、従来の樹脂滑り軸受よりも摩擦トルクを低くできる。また、内輪および外輪の摺接面が、相補的な凹凸曲面であるので、内輪と外輪の軸方向の位置ずれを防止でき、凸曲面と凹曲面との接触部分以外が非接触であるので、モーメント荷重も許容できる。
【0035】
これらより、本発明の滑り軸受は、摩擦トルクと製造コストの両面において、ボールベアリングと従来の樹脂滑り軸受の中間特性を有し、かつモーメント荷重も許容できる。
【0036】
内輪および外輪のいずれか一方を、少なくとも1ヶ所の合い口を有する環状体(樹脂組成物の成形体)にすることで、溶製金属からなる他方への組付けが容易となる。また、凸曲面を構成する凸部が、上記合い口を基準とした±10°の範囲内には形成されていないので、摩擦トルクの安定化、軸受としての信頼性向上が図れる。
【0037】
溶製金属からなる内輪または外輪の凹曲面の表面粗さを0.3μmRa以下にすることで、低トルク、低摩耗にすることができる。また、溶製金属を、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、またはステンレス鋼にすることで、樹脂組成物の成形体との摺接による該成形体の摩耗損傷がなく、安定した低トルク、低摩耗を長期間維持することができる。
【0038】
上記内輪または外輪として転がり軸受(ボールベアリングなど)用の内輪または外輪を利用することで、樹脂組成物の成形体との摺動面となる凹曲面が、転走面であり、高精度であるため、回転性能の安定化に繋がる。また、汎用品である転がり軸受の内輪または外輪を利用することで、滑り軸受の製造コストが安価になる。
【0039】
内輪および外輪のいずれか一方を形成する樹脂組成物のベース樹脂を、熱可塑性PI樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、PEKEKK樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、PE樹脂、およびPOM樹脂から選ばれる少なくとも1つの合成樹脂にすることで、他方への組付け時の作業性が容易で、組付け時に拡張しても割れない。
【0040】
また、上記樹脂組成物に、固体潤滑剤としてPTFE樹脂を配合することで、摩擦トルクが低く、安定する。内輪と外輪の摺動面に潤滑剤を塗布し、介在させた場合でも、局部的な個体間接触の発生、グリース切れに対して、低摩擦トルクの効果と製品の安全率の向上に寄与する。また、上記樹脂組成物に、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、マイカ、黒鉛、およびタルクから選ばれる少なくとも1つの補強材を配合することで、耐摩耗性がさらに高まる。また、高弾性化によって、摩擦発熱などによる温度上昇に対しても、摩擦トルク、耐摩耗性に影響を受けにくく、良好に使用が可能となる。
【0041】
また、上記樹脂組成物に導電性カーボンを配合し、上記樹脂組成物の成形体の体積抵抗率を1×106Ωcm未満にすることで、滑り軸受を導電軸受にできる。
【0042】
樹脂組成物の成形体からなる外輪に合い口を有する場合、該合い口が突き当たった状態において、上記外輪の内周の凸曲面を構成する凸部内径を、上記内輪の外周の凹曲面を構成する凹部外径よりも大きくすることで、使用中に外輪が内輪に抱きつくことがなく、運転すきまを必ず確保でき、調芯機能も備えることができる。そのため、低トルク、低摩耗を担保できるので、信頼性の高い軸受となる。
【0043】
上記凹曲面の曲率半径と、上記凸曲面の曲率半径とが異なるため、内輪と外輪の接触面積を少なくでき、低トルクとなる。
【0044】
上記凸曲面において、該凸曲面の軸方向中央部の全周に非曲面部を形成することで、凹曲面と2箇所の接触になるため、内外輪との軸方向のガタを抑えることができ、摩擦トルクも安定する。
【0045】
内輪および外輪のいずれか一方が上記樹脂組成物の射出成形体であり、上記非曲面部に射出成形におけるパーティングラインが形成されることで、射出成形が容易であり、パーティングラインによる突状バリ、段差が発生しても他方の摺接面と干渉しない。
【0046】
上記内輪と外輪の摺動面に潤滑剤を塗布し、介在させることで、摩擦トルクがさらに低減され、摩耗量も低下し、性能寿命を大幅に長くできる。特に、上記潤滑剤を、フッ素グリース、ウレアグリース、およびリチウムグリースから選ばれる少なくとも1つのグリースにすることで、安定した潤滑性能を有し、低摩擦トルクとなる。また、上記潤滑剤を導電性グリースにすることで、滑り軸受を導電軸受にできる。
【0047】
上記樹脂組成物の成形体の負荷部に軸方向凹型の潤滑剤保持溝を少なくとも1箇所形成することで、潤滑剤を摺動面に安定的に供給できる。
【0048】
上記外輪または内輪において、凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを非摺接面に設けることで、これを画像形成装置などのベース板金、ハウジングなどへの固定・位置決め部とすることができる。
【0049】
本発明の滑り軸受は、摩擦トルクの低減が図れ、モーメント荷重を許容でき、製造コストがボールベアリングと比較して安価であり、断熱スリーブも不要となるので、画像形成装置における定着部、転写部、現像部、給排紙の紙送りローラ、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部の軸受として好適に利用できる。
【0050】
本発明の画像形成装置は、上記本発明の滑り軸受と、該滑り軸受で支持されるローラまたは軸を備えるので、これらローラや軸における摩擦トルクの低減が図れ、モーメント荷重も許容できる。また、各滑り軸受の製造コストが、ボールベアリングと比較して安価であり、断熱スリーブも不要であるので、装置全体として製造コストの低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の滑り軸受の一例(内輪が溶製金属製)を示す斜視図である。
【図2】図1の滑り軸受の正面図、軸方向の断面図、および一部拡大断面図である。
【図3】本発明の滑り軸受の組み立て工程を示す図である。
【図4】図1の滑り軸受の外輪のみの斜視図である。
【図5】図1の滑り軸受の外輪のみの正面図および合い口部拡大正面図である。
【図6】図1の滑り軸受の内輪のみの斜視図である。
【図7】本発明の画像形成装置の定着ローラ支持部の拡大断面図である。
【図8】本発明の滑り軸受の他の例(外輪が溶製金属製)を示す斜視図である。
【図9】図8の滑り軸受の正面図、軸方向の断面図、および一部拡大断面図である。
【図10】図8の滑り軸受の外輪のみの斜視図である。
【図11】図8の滑り軸受の内輪のみの斜視図である。
【図12】図8の滑り軸受の内輪のみの正面図である。
【図13】180℃における運転すきまと摩擦係数との関係を示す図である。
【図14】試験温度における油の動粘度と摩擦係数との関係を示す図である。
【図15】運転すきまと動粘度の積と、摩擦係数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の滑り軸受は、外輪と内輪の2部材から構成され、径方向の荷重を受けるラジアル滑り軸受である。ここで、内輪および外輪のいずれか一方が、軸方向の一部に凹曲面を有する溶製金属からなり、他方が、軸方向の一部に上記凹曲面に対向接触して摺動する凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなり、内輪と外輪とが、凸曲面と凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転する構造を有する。内輪・外輪における軸方向の一部には、相互に摺動する凸曲面と凹曲面とが設けられているので、内輪・外輪のそれぞれの上記軸方向の一部より軸方向外側の両端部に、非接触となる部分が設けられている。なお、凸曲面と凹曲面の軸方向両外側に非接触部分を確保するため、上記軸方向の一部は、軸方向端部を除く一部とすることが好ましい。
【0053】
内輪および外輪の具体的な組み合わせ態様としては、(1)内輪が、外周に凹曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する溶製金属からなり、外輪が、内周に上記凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなる組み合わせ、または、(2)内輪が、外周に凸曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する樹脂組成物の成形体からなり、外輪が、内周に上記凹曲面を有する溶製金属からなる組み合わせ、が挙げられる。以下、それぞれの態様について説明する。
【0054】
本発明の滑り軸受の一実施例(内輪が溶製金属製)を図1および図2により説明する。図1は本発明の滑り軸受の斜視図であり、図2は滑り軸受の正面図、軸方向断面図(A−A断面)、および軸方向断面図の一部拡大図である。図1および図2に示すように、滑り軸受1は、溶製金属からなる内輪2と、樹脂組成物の成形体である外輪3とを備えてなる。この滑り軸受1は、ラジアル軸受である。図2に示すように、内輪2は、外周に凹曲面2aを、内周に支持軸と嵌合する軸受孔4をそれぞれ有している。外輪3は、内輪2の外周の凹曲面2aに対向接触して摺動する凸曲面3aを有する。凹曲面2aは内輪2の軸方向の一部(中央部)に、凸曲面3aは外輪3の軸方向の一部(中央部)に、それぞれ設けられている。ここで、内輪2の外周の凹曲面2aは、内輪2の外周側で周方向に連続して形成される凹部の表面であり、軸方向断面が弧状(R形状)の凹曲面である。また、外輪3の内周の凸曲面3aは、外輪3の内周側で周方向に連続または不連続で形成される凸部の表面であり、内輪2の凹曲面2aに対応した、軸方向断面が略弧状(R形状、必要に応じて一部に非曲面部あり)の凸曲面である。なお、弧状には、円状、楕円状、その他の任意の曲線状が含まれる。
【0055】
滑り軸受1において、内輪2の外周の凹曲面2aと、外輪3の内周の凸曲面3aとが摺動面である。凹曲面2aと凸曲面3aとが摺接して、内輪2と外輪3とが相対的に回転する。なお、これらの面の少なくとも一部が摺接する。内輪2と外輪3は、凹曲面2aと凸曲面3a以外の部分では、接触しない構造である。内輪2の外周の凹曲面2aと、外輪3の内周の凸曲面3aとを、向かい合わせた組み合わせにて摺接する構造にし、かつ、これら凹曲面2aと凸曲面3aより軸方向外側の両端部を非接触部にすることで、モーメント荷重が発生した場合でも調芯し、許容することができる。また、凸曲面3aと凹曲面2aとが相補的な形状であるので、外輪3および内輪2の軸方向の位置ずれを防止できる。さらに、内輪2の凹曲面2aを上記のような曲面とすることで、内輪に既存の転がり玉軸受用の内輪を利用できる。
【0056】
内輪2の外周の凹曲面2aの曲率半径と、外輪3の内周の凸曲面3aの曲率半径とが異なることが好ましい。ここで、凹曲面および凸曲面の曲率半径とは、それぞれの軸方向断面における弧の曲率半径である。なお、凹曲面および凸曲面(凸曲面がない部分、および潤滑剤保持溝の部分を除く)の曲率半径は、周方向ではそれぞれ一定である。凹曲面2aと凹曲面3aの曲率半径が同一であると、内輪と外輪との接触面積が増加し、摩擦トルクの上昇をまねくおそれがある。また、グリースなどの潤滑剤を摺動面に塗布する場合には、面シールとなり、摩擦面に潤滑剤が供給され難い。また、曲率半径の大小関係は、(凹曲面2aの曲率半径) > (凸曲面3aの曲率半径)であることが好ましい。曲率半径が大きい内輪2の凹曲面2aに、曲率半径が小さい外輪3の凸曲面3aが入り込む方が安定であり、モーメント荷重も受けやすく、調芯しやすい。
【0057】
外輪3の合い口3bが突き当たった状態において、外輪3の内周の凸曲面3aを構成する凸部内径を、内輪2の外周の凹曲面2aを構成する凹部外径よりも大きくすることが好ましい。凸部内径とは凸部頂点位置での外輪内径であり、凹部外径とは凹部頂点位置での内輪外径である。外輪内径の凸部に非曲面部がある場合は、非曲面部を設ける前の仮想凸部頂点位置での外輪内径である。これにより、使用時に外輪が内輪に抱きつくことがなく、必ず運転すきまを確保することができ、調芯しやすくなる。また、負荷部以外での接触を避けることができるため、低トルク、低摩耗を維持できるとともに、信頼性の高い滑り軸受となる。ここで、負荷部とは、軸受が取り付けられたローラ、軸に加わった押し付け荷重により、軸受の内輪と外輪が接触する部分である。
【0058】
使用温度における運転すきまは、内輪外周の凹部外径に対して2/1000〜25/1000であることが好ましい。運転すきまが、2/1000未満では、内輪と外輪の周方向の接触角度大により、接触面積が増加するため、摩擦トルクが高くなる。25/1000をこえると、ガタが大きくなる。さらに好ましくは上限が15/1000以下である。なお、使用温度における運転すきまとは、全体が使用温度になると想定したときの内外輪の熱膨張、ハウジング寸法、軸寸法から算出した運転すきまである。
【0059】
滑り軸受1の組み立て工程を図3に示す。滑り軸受1の組み立て順は、内輪2の外周の凹曲面2aと外輪3の凸曲面3aとが対向接触するように、外輪3を内輪2の最大外径以上で拡張し、弾性変形により内輪2の凹曲面2aに嵌め込む。なお、摺動面にグリースなどの潤滑剤を塗布する場合は、外輪3を内輪2に組み込む前に、予め塗布しておくことが好ましい。このときの、グリースなどの潤滑剤の塗布位置、塗布量は限定されないが、少なくとも負荷部には塗布し、好ましくは内輪と外輪の摺接する全面にいきわたる様に塗布する。
【0060】
樹脂組成物の成形体からなる外輪3について図4および図5に基づき説明する。図4は滑り軸受の外輪のみの斜視図であり、図5は外輪のみの正面図および合い口部拡大正面図である。外輪3は、内周に内輪の外周の凹曲面に対向接触する凸曲面3aを有する環状体である。なお、外輪3の「環状体」とは、図4等に示すように離間した合い口を有し、一部が閉じていないものも含む。外輪は内輪と組み合わせた後、内輪から容易に外れない構造であればよく、環状体の周方向長さは円周の180°をこえていればよい。ただし、グリースを塗布する場合は、グリース漏れ、グリースへの異物混入を避けるために、340°をこえるほうが好ましい。
【0061】
図4および図5に示すように、外輪3は、合い口3bを有する環状体である。合い口3bは少なくとも1ヶ所設ければよく、複数ヶ所設けてもよい。合い口を複数ヶ所設け、複数個をつなぎ合せた外輪にすると、内輪との組み立て工程において、外輪を拡張する必要がないため、靭性がない合成樹脂で外輪を形成する場合に有用である。ただし、外輪の部品点数が多いと価格高になり、組み立て後に内輪から外れないように複数個をつなぎ合わせ、固定する必要があることから、図4等に示すように1ヶ所の合い口を有する1部品にすることが好ましい。また、合い口が1ヶ所の方が、組み立て易く、組み立て後に内輪から容易に外れることがない。
【0062】
図5に示すように、外輪3の内周の凸曲面3aを構成する凸部は、合い口3bを基準とした±10°の範囲内には形成しないことが好ましい。すなわち、この範囲内には、凸曲面3aを有さないことが好ましい。凸曲面を有さない形状とは、特に限定するものではなく、凸曲面を全く設けない以外に、この範囲内の内径が他部分の内径より大きくなっていればよい。ここで、合い口を基準に±X°の範囲とは、円環状の外輪において、合い口(離間した2つの端部で構成される場合は、各端部端面間の円周方向での中心位置)の位置を円周位置で0°とし、これを基準に円環の中心角で±X°となる範囲をいう。図5では、外輪3の該凸部は、合い口3bを基準に±10°の範囲内には形成していない。
【0063】
複数ヶ所の合い口を有する外輪では、合い口が継ぎ目となり、内輪と摺接する内径側に飛び出した状態となる場合がある。そのとき、外輪は負荷部以外に合い口部も内輪と摺接し、摩擦トルクが不安定になる。また、1ヶ所のみの合い口を有する外輪では、合い口が内径側に倒れ込む場合があり、同様に摩擦トルクが不安定になる。外輪の凸曲面を構成する凸部を、合い口を基準とした±10°の範囲内には形成しないことで、合い口部(合い口周辺の外輪内周凸部)が内輪と摺接せず、摩擦トルクの安定化、軸受としての信頼性向上が図れる。なお、滑り軸受において、外輪に内輪が主に摺接するのは最大で負荷部±45°、実質的には±30°程度の範囲内の部分であるため、負荷部±45°以外の凸曲面は必ずしも形成する必要はない。
【0064】
また、図5に示すように、外輪3の内周の凸曲面3aを構成する凸部の両端部は、外輪内周の接線に対して、90°以下の角度にすることが好ましい。より好ましくは60°以下である。なお、図5に示すように両端部を円弧面としている場合は、その断面において円弧両端を結んだ直線が、外輪内周の接線に対して上記角度になるようにすることが好ましい。大きなモーメント荷重を受けた際には、負荷部と180°反対側も内輪と摺接する。そのような場合、内輪が外輪内周凸部の端部に接触する可能性があり、接触時の物理的なエッジ効果が軽減されるからある。また、グリースを塗布した場合には、上記構成により、内周凸部の端部によるグリースのかきとりを防止でき、摩擦面へのグリース供給性が安定化する。図5では、外輪内周凸部の両端部は、外輪内周の接線に対して45°である。
【0065】
図4に示すように、外輪3の凸曲面3aには、該凸曲面3aの軸方向中央部の全周に非曲面部3cを形成することが好ましい。非曲面部3cは、軸方向断面が直線のフラット形状などにできる。図2に示すように、軸方向中央部の全周に非曲面部3cを形成することで、軸方向断面でみると、内輪2の凹曲面2aが、外輪3の凸曲面3aの頂点1ヶ所との接触ではなく、2箇所との接触にすることができ、内外輪の軸方向のガタを抑えることができる。また、摩擦トルクも安定する。
【0066】
また、樹脂組成物の射出成形体からなる外輪3とする場合は、非曲面部3cに射出成形におけるパーティングラインを形成することが好ましい。この構成により、外輪の射出成形が容易であり、パーティングラインに突状バリ、段差が発生しても内輪の摺接面と干渉しないため、摩擦力への悪影響がない。
【0067】
また、グリース、潤滑油などの潤滑剤を内・外輪間に介在させる場合には、非曲面部3cを形成することで、該非曲面部3cと内輪2の外周の凹曲面2aとの間に空間部分が確保される。この部分が潤滑剤保持溝となり、潤滑剤を保持する効果もある(図2参照)。
【0068】
グリース、潤滑油などの潤滑剤を内・外輪間に介在させる場合には、外輪の負荷部に、軸方向凹型の潤滑剤保持溝を少なくとも1ヶ所形成することが好ましい。ここで、「軸方向凹型」とは、外輪の内周の凸曲面を構成する凸部において、該凸部頂点からみて凹部であり、軸方向に該凸部を貫通している形状である。図4では、負荷部となる合い口対向部の1ヶ所に、外輪3の内周の凸曲面3aを構成する凸部を軸方向に貫通する形で、潤滑剤保持溝3dが形成されている。この潤滑剤保持溝3dに潤滑剤を保持できるため、安定して低摩擦化が可能になる。負荷部が一定箇所の場合、潤滑剤保持溝3dは、図4に示すように負荷部に1ヶ所配置することが好ましい。また、装置の構造、軸受の使用箇所・使用方法から、負荷部が変わる、もしくはずれる場合には、内径の全周、もしくは負荷部に対し複数ヶ所の潤滑剤保持溝を設けることもできる。
【0069】
潤滑剤保持溝3dの外輪内周凸部の頂点からの深さ、周方向幅は特に限定されないが、グリースの保持効果を得るためには、深さは0.5mm以上、周方向幅は0.5mm以上であることが好ましい。ただし、周方向幅を広げすぎると、ガタツキ、溝底との接触の可能性が生じるため、周方向幅は外輪内径の10%以下にすることが好ましい。なお、外輪内径は、外輪の内周の凸曲面を構成する凸部内径である。
【0070】
外輪には、定着装置などの装置内での位置決めや、装置への固定をするために、 凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを非摺接面に設けることが好ましい。図4では、凹型の回り止め3eとフランジ3fが設けられている。凹型の回り止め3eは、ハウジングなどに形成される凸部(図示省略)と嵌合する。回り止めなどを設けることで、該部分を画像形成装置などのベース板金、ハウジングなどへの固定・位置決め部にすることができる。この結果、使用中に滑り軸受が定着装置などに対して回転することを防止でき、合い口部が負荷部となる、潤滑剤保持溝が負荷部からずれる、といった不具合の発生を抑制できる。
【0071】
外輪3は、樹脂組成物の成形体である。樹脂組成物のベース樹脂となる合成樹脂の種類は特に限定されないが、少なくとも滑り軸受の使用条件(耐熱性、機械的強度など)に見合う特性、および組み立て性を有する必要がある。また、射出成形可能な合成樹脂であれば、製造が容易であり、安価にすることができるので好ましい。
【0072】
外輪を形成する樹脂組成物のベース樹脂(合成樹脂)としては、熱硬化性PI樹脂、熱可塑性PI樹脂、PEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、PE樹脂、POM樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独で使用しても、2種類以上混合したポリマーアロイとしてもよい。
【0073】
低コスト、製造が容易、断熱スリーブなどが不要、低摩擦トルク、かつ低摩耗特性の滑り軸受にするためには、合成樹脂は射出成形が可能で、リサイクルできる熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。その中でも特に、結晶性の樹脂が、摩擦摩耗特性に優れるので好ましい。このような結晶性の熱可塑性樹脂としては、熱可塑性PI樹脂、PEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、PE樹脂、POM樹脂が挙げられる。これらの樹脂は靭性があるため、合い口が1ヶ所で内輪との組み立て時に拡張した場合でも、割れることがない。また、グリースなどの潤滑剤を塗布した場合でも、おかされることはなく、ソルベントクラックの心配がない。
【0074】
これら熱可塑性樹脂から、滑り軸受の使用部位、条件(耐熱性、機械的強度など)に合致し、最も安価に製造できる樹脂を選定すればよい。例えば、画像形成装置における定着部の定着ローラや加圧ローラなどのヒートローラを支持する滑り軸受には、150℃以上の耐熱性が必要となる。このような条件下では、耐クリープ性、耐荷重性、耐摩耗性などに優れる熱可塑性PI樹脂、PEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂を用いることが好ましい。より詳細には、温度条件が150〜230℃の場合は、連続仕様温度が230℃と耐熱性があり、最も安価なPPS樹脂が最も好ましく、230℃〜250℃の高温条件となる場合は、連続仕様温度が240℃の熱可塑性PI樹脂、連続仕様温度が250℃以上のPEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂が好ましい。
【0075】
また、転写部の転写ベルトガイドなどの軸、現像部のカートリッジなどの軸、給排紙の紙送りローラまたは軸、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部の軸を支持する滑り軸受では、常温使用であるため、安価なPA樹脂、PE樹脂、POM樹脂を選択すればよい。なお、成形収縮、吸水寸法変化が小さく、高寸法精度・高寸法安定性のPOM樹脂、低吸水性の変性PA樹脂がさらに好ましい。
【0076】
本発明に使用できる熱可塑性PI樹脂の市販品としては、融点が約388℃、ガラス転移点が250℃の三井化学社製オーラムが挙げられる。PI樹脂は射出成形時の金型内で結晶化しないため、成形後に結晶化処理(熱処理)することが好ましい。ただし、非晶性でも軸受の使用条件上(耐熱性、耐グリース性など)で問題ない場合は、結晶化処理は必須ではない。ただし、金型温度(200℃程度)を超える温度条件で使用する場合は、結晶化処理は必須である。
【0077】
PEEK樹脂は、ベンゼン環がパラの位置で、カルボニル基とエーテル結合によって連結された下記式(1)に示すポリマー構造を持つ結晶性の熱可塑性樹脂である。下記式(1)の構造を持つPEEK樹脂は、融点が約343℃、ガラス転移点が143℃であり、優れた耐熱性、耐クリープ性、耐荷重性、耐摩耗性、摺動特性などに加え、優れた成形性を有する。本発明に使用できるPEEK樹脂の市販品としては、例えば、ビクトレックス社製PEEK(90P、150P、380P、450Pなど)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製キータスパイア(KT−820P、KT−880Pなど)、ダイセルデグザ社製VESTAKEEP(1000G、2000G、3000G、4000Gなど)などが挙げられる。
【0078】
【化1】
【0079】
PEKEKK樹脂およびPEK樹脂は、PEEK樹脂より高耐熱性樹脂である。PEKEKK樹脂の融点は約387℃、ガラス転移点は162℃である。PEK樹脂の融点は約373℃、ガラス転移点は152℃である。本発明に使用できるPEKEKK樹脂の市販品としてはビクトレックス社製ST−G45、PEK樹脂の市販品としてはビクトレックス社製HT−G22が挙げられる。
【0080】
PPS樹脂は、ベンゼン環がパラの位置で、硫黄結合によって連結された下記式(2)に示すポリマー構造を持つ結晶性の熱可塑性樹脂である。下記式(2)の構造を持つPPS樹脂は、融点が約280℃、ガラス転移点が90℃であり、極めて高い剛性と、優れた耐熱性、寸法安定性、耐摩耗性、摺動特性などを有する。PPS樹脂は、その分子構造により、架橋型、半架橋型、直鎖型、分岐型などのタイプがあるが、本発明ではこれらの分子構造や分子量に限定されることなく使用できる。ただし、内輪との組み立て時に拡張する場合は、靭性が比較的高い半架橋型、もしくは最も高い分岐型を使用することが好ましい。本発明に使用できるPPS樹脂の市販品としては、東ソー社製#160、DIC社製T4AG、LR2Gなどが挙げられる。
【0081】
【化2】
【0082】
本発明に使用できるPA樹脂としては、PA6樹脂(東レ社製アミラン,BASF社製ウルトラミッドBなど)、PA66樹脂(東レ社製アミラン,BASF社製ウルトラミッドAなど)、PA46樹脂(DSM社製スタニール)、PA12樹脂(ダイセル・デグザ社製ダイアミドなど)、PA610樹脂(東レ社製アミラン)、PA612樹脂(デュポン社製ザイテルPA612,デイセルデグザ社製ポリアミド612など)、変性PA6T樹脂(三井化学社製アーレン,BASF社製ウルトラミッドTなど)、変性PA9T樹脂(クラレ社製ジェネスタ)などが挙げられる。これらのPA樹脂は単独で使用しても、2種類以上混合したポリマーアロイとしてもよい。なお、PA樹脂は吸水率が高く、寸法変化を起こしやすいため、上記の中でも吸水率が低い変性PA6T樹脂、変性PA9T樹脂が好ましい。
【0083】
PE樹脂は、低分子量から超高分子量まで幅広い分子量のPE樹脂が上市されている。しかし、超高分子量PEは射出成形することができない。PE樹脂は分子量が高いほど、材料物性、耐摩耗性が高いため、射出成形できる高分子量のPEが好ましい。本発明に使用できるPE樹脂の市販品としては、三井化学社製リュブマーL5000,L4000などが挙げられる。
【0084】
本発明に使用できるPOM樹脂には、ホモポリマー(旭化成社製テナック,デュポン社製デルリン)、コポリマー(旭化成社製テナックC,ポリプラスチックス社製ジュラコンなど)、ブロックコポリマー(旭化成社製テナック)の3種類があるが、特に限定されない。
【0085】
PEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、PE樹脂、POM樹脂は、射出成形時に金型内で結晶化する。そのため、結晶化処理(熱処理)は必要ない。ただし、軸受使用温度が射出成形の金型温度以上の場合、軸受が成形応力の緩和により寸法変化を起こすため、軸受使用温度以上でのアニール処理(熱処理)が必要である。
【0086】
滑り軸受の摩擦トルクを低く安定させるため、外輪を形成する樹脂組成物に固体潤滑剤を配合することが好ましい。特に、固体潤滑剤としてPTFE樹脂を配合することが好ましい。
【0087】
固体潤滑剤の配合比は、樹脂組成物全体に対して3〜40体積%が好ましく、さらに好ましくは10〜30体積%である。3体積%未満では低摩擦化が不十分であり、40体積%をこえると耐摩耗性を低下させるおそれがある。
【0088】
本発明に用いるPTFE樹脂としては、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー、再生PTFEのいずれを採用してもよい。樹脂組成物の流動性を安定させるためには、成形時のせん断により繊維化し難く、溶融粘度を増加させ難い再生PTFEを採用することが好ましい。再生PTFEとは、熱処理(焼成などの熱履歴が加わったもの)粉末、γ線または電子線などを照射した粉末のことである。また、再生PTFEは一度熱処理されているため、摩擦せん断により繊維化などの変態することはない。そのため、摩擦トルクが安定するとともに、耐摩耗性も向上させる。例えば、モールディングパウダーまたはファインパウダーを熱処理した粉末、また、この粉末をさらにγ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーの成形体を粉砕した粉末、また、その後γ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーをγ線または電子線を照射した粉末などのタイプがある。
【0089】
本発明に使用できるPTFE樹脂の市販品としては、喜多村社製:KTL−610、KTL−350、KTL−8N、KTL−400H、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン(登録商標)7−J、旭硝子社製:フルオンG163、L169J、L170J、L173J、ダイキン工業社製:ポリフロンM−15、ルブロンL−5、ヘキスト社製:ホスタフロンTF9205、TF9207などが挙げられる。また、パーフルオロアルキルエーテル基、フルオルアルキル基、またはその他のフルオロアルキルを有する側鎖基で変性されたPTFEであってもよい。
【0090】
滑り軸受の外輪の耐摩耗性を向上させるため、外輪を形成する樹脂組成物に繊維状、燐片状または板状の補強材を配合することが好ましい。特に、150℃以上の高温で使用されるヒートローラ軸受の場合には、高温時の高強度・高弾性化が図れ、有用である。補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、スラグウール、マイカ、タルク、黒鉛、ガラスフレーク、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素などが挙げられる。
【0091】
補強材の配合比は、樹脂組成物全体に対して1〜20体積%が好ましく、さらに好ましくは5〜10体積%である。1体積%未満では耐摩耗性の向上が不十分であり、20体積%をこえると摩擦特性を阻害し、摺動相手材となる内輪を摩耗損傷するおそれがある。また、外輪を拡張して内輪に嵌め込む場合、剛性が高く割れる場合がある。
【0092】
上記補強材の中でも、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、マイカ、タルク、および黒鉛から選ばれる少なくとも1つを配合することが好ましい。これらを用いることで、補強効果を維持しながら、摺動相手材となる内輪の摩耗を抑制できる。また、樹脂成形体である外輪の耐摩耗性および高温での強度と弾性率の保持性をより高めることができる。上記補強材の中で、補強効果を維持しながら、摺動相手材となる内輪の摩耗を抑制できる補強材としては、燐片状であり、潤滑効果も持ち合わせている黒鉛が最も好ましい。なお、繊維状の補強材と合成樹脂との密着性を高めて補強効果を向上させるため、補強材の表面に、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などを含有した処理剤や、シラン系カップリング剤(シラン処理)などを用いて表面処理を施してもよい。
【0093】
本発明に用いる炭素繊維は、原材料から分類されるピッチ系またはPAN系のいずれであってもよいが、高弾性率を有するPAN系炭素繊維の方が好ましい。その焼成温度は特に限定するものではないが、2000℃またはそれ以上の高温で焼成されて黒鉛(グラファイト)化されたものよりも、1000〜1500℃程度で焼成された炭化品のものが、摺接する内輪を摩耗損傷しにくいので好ましい。炭素繊維の平均繊維径は20μm以下、好ましくは5〜15μmである。前記した範囲をこえる太い炭素繊維では、極圧が発生し、内輪の摩耗損傷が大きくなるため好ましくない。
【0094】
本発明に使用できる炭素繊維の市販品としては、ピッチ系として、クレハ社製クレカミルド(M101S、M101F、M101T、M107S、M1007S、M201S、M207S)、大阪ガスケミカル社製ドナカーボ・ミルド(S241、S244、SG241、SG244)が挙げられ、PAN系として、東邦テナックス社製テナックスHTA−CMF0160−0H、CMF0040−0Hなどが挙げられる。
【0095】
本発明に用いるアラミド繊維は、分子構造から分類されるパラ型またはメタ型のいずれのものであってもよい。アラミド繊維は有機物であるため、柔らかく、摺接する内輪を摩耗損傷させ難い。パラ型アラミド繊維の市販品としては、帝人社製トワロンおよびテクノーラ、デュポン社製ケブラーなどが挙げられ、メタ型アラミド繊維の市販品としては、帝人社製コーネックスなどが挙げられる。
【0096】
本発明に用いるウィスカとしては、チタン酸カリウムウィスカ(大塚化学社製)、酸化チタンウィスカ(石原産業社製)、酸化亜鉛ウィスカ(パナソニック社製)、ホウ酸アルミニウムウィスカ(四国化成工業社製)、炭酸カルシウムウィスカ(丸尾カルシウム社製)、ウォラストナイトなどが挙げられる。モース硬度は特に規定しないが、柔らかい方が好ましく、例えば、モース硬度4以下のチタン酸カリウムウィスカ(大塚化学社製)、炭酸カルシウムウィスカ(丸尾カルシウム社製)、ウォラストナイトが好ましい。
【0097】
燐片状または板状の補強材の中では、マイカ、黒鉛、タルクから選ばれる少なくとも1つを配合することが好ましい。炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカと併用添加してもよい。これらを用いることで、摩擦性能を阻害することなく、補強効果による耐摩耗性付与、摺動相手材となる内輪の摩耗抑制ができる。特に黒鉛は固体潤滑剤としての効果もあるので、好ましい。
【0098】
滑り軸受を介して定着ローラを接地するなど、滑り軸受に導電性が必要な場合は、樹脂部分である外輪に導電性を付与するため、外輪を形成する樹脂組成物に導電性カーボンを配合することが好ましい。配合率の調整にて、外輪の体積抵抗率は1×106Ωcm未満にすることが好ましい。
【0099】
導電性カーボンとしては、カーボンナノチューブ、フラーレン、あるいはカーボンパウダー、球状黒鉛があり、いずれも使用できる。これらの中で、カーボンパウダーは形状異方性がなく、コストパフォーマンスに優れるため好ましい。カーボンパウダーとしては、カーボンブラックがある。カーボンブラックとしては、サーマルブラック法、アセチレンブラック法等の分解法、チャンネルブラック法、ガスファーネスブラック法、オイルファーネスブラック法、松煙法、ランプブラック法等の不完全燃焼法のいずれの製法で製造されたものも使用できる。導電性の観点からファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)が好ましく用いられ、このうちケッチェンブラックが導電性に優れるためより好ましい。
【0100】
ケッチェンブラックは、その一次粒子径が30〜38nmであることが好ましい。この一次粒子径範囲であると、少量の配合量であっても十分な体積抵抗値が得られるようになる。また、ケッチェンブラックのBET比表面積は、1000〜1500m2/gが好ましい。この比表面積範囲であると、少量の配合量であっても体積抵抗値の安定性が優れるようになる。このようなケッチェンブラックとしては、ライオン社製ケッチェンブラックEC−600JD(一次粒子径34nm、BET比表面積1270m2/g)が挙げられる。
【0101】
なお、この発明の効果を阻害しない程度に、樹脂組成物に対して周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。例えば、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの摩擦特性向上剤、炭素粉末、酸化鉄、酸化チタンなどの着色剤、黒鉛、金属酸化物粉末などの熱伝導性向上剤を配合できる。
【0102】
以上の諸原材料を混合し、混練する手段は、特に限定するものではなく、粉末原料をヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダー、レディゲミキサー、ウルトラヘンシェルミキサーなどにて乾式混合し、さらに二軸押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレット(顆粒)を得ることができる。また、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。成形方法としては、製造効率の点で射出成形が好ましい。また、成形品に対してアニール処理などの処理を採用してもよい。
【0103】
溶製金属からなる内輪2について図6に基づき説明する。図6は滑り軸受の外輪のみの斜視図である。図6に示すように、内輪2は、外周の凹曲面2aの軸方向断面が弧状(R形状)である。この凹曲面2aが外輪との摺動面となる。このような形状にすることで、モーメント荷重を受けても緩和することができ、安定した受圧により、低トルク・低摩耗とすることができる。
【0104】
内輪2は、既存のボールベアリングなどの転がり軸受用の内輪を転用して用いることができる。この場合、外輪との摺動面となる外周の凹曲面2aが、転がり軸受の内輪転走面であり、高精度であるため、回転性能の安定化に繋がる。また、別途、本発明の滑り軸受用に内輪を製造する必要がなく、製造コストの削減が図れる。
【0105】
内輪2が溶製金属製であるので、焼結金属製の場合のように、粒子状金属の摩耗脱落や、基油が空孔に吸い込まれることによる潤滑性能の低下を防止できる。内輪2の材料は、溶製金属であれば、その種類は特に限定されない。例えば、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、ステンレス鋼、鋳鉄、アルミニウム合金、黄銅などが挙げられる。硬度が高いほど、外輪との摺接による摩耗損傷が少ないので好ましい。このような硬度が高い溶製金属としては、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼が挙げられる。また、高湿、液中など耐食性が必要な環境で使用する場合は、ステンレス鋼(マルテンサイト系、オーステナイト系)が好ましい。摺接による摩耗損傷を軽減するためには、焼入れなどの処理を施し、表面硬度を高めることが好ましい。なお、機能上の問題がなければ、防錆を目的としニッケルめっき、クロムめっきなどの表面処理を施してもよい。
【0106】
通常の転がり軸受の内輪の材料(例えば、高炭素クロム軸受鋼)が、安価に入手できるため特に好ましい。なお、通常の転がり軸受は焼入れを施されているが、機能上の問題がなければ、必ずしも焼入れをする必要はない。
【0107】
内輪2の外周の凹曲面(摺接面)の表面粗さは、0.3μmRa以下とすることが好ましい。表面粗さが小さいほど、加工による微細な凸にて樹脂外輪の掘り起こしの摩耗量が小さく、長寿命になるからである。また、表面粗さが小さいほど、低トルクになる。表面粗さの加工方法としては、旋削、研磨、超仕上げなどがあるが、特に限定されない。さらに好ましくは、表面粗さ0.1μmRa以下である。通常の転がり軸受の内輪は、超仕上げにより表面粗さ0.03μmRa以下であり、より一層の低摩耗化・低トルク化が図れる。
【0108】
内輪および外輪の摺動面(内輪と外輪とが摺動する面)には、潤滑油やグリースなどの潤滑剤を塗布することが好ましい。摺動面に潤滑剤を塗布し、介在させることで、摩擦トルク、摩耗量がさらに低減でき、性能寿命を大幅に長くする。潤滑剤としては、低トルク化できれば特に限定するものではなく、通常、滑り軸受に用いられるグリース、潤滑油(オイル)などを用いることができる。
【0109】
グリースを用いる場合、その基油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリブテン油、ポリ−α−オレフィン油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油、脂環式化合物などの炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、りん酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油などの非炭化水素系合成油などが挙げられる。これらの基油は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。
【0110】
また、グリースを構成する増ちょう剤としては、例えば、アルミニウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん、複合リチウム石けん、複合カルシウム石けん、複合アルミニウム石けんなどの金属石けん系増ちょう剤、ジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系化合物、PTFE樹脂などのフッ素樹脂粉末が挙げられる。これらの増ちょう剤は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。なお、上記各グリースには、必要に応じて公知の添加剤を配合してもよい。
【0111】
一般的に転がり軸受に使用される、フッ素グリース、ウレアグリース、リチウムグリースなどが潤滑性に優れ、市場実績もあり好ましい。本発明に使用できるフッ素グリースの市販品としては、NOKクリューバー社製バリエルタ、ノックスルーブ、ダイキン工業社製デムナムなどが挙げられる。ウレアグリースの市販品としては、協同油脂社製エクセライト、NOKクリューバー社製アンブリゴン、ペタモなどが挙げられる。リチウムグリースの市販品としては、昭和シェル石油社製アルバニアSグリース、協同油脂社製マルテンプSRLなどが挙げられる。基油粘度、グリースちょう度は特に限定するものではなく、滑り軸受の使用条件により、選定すればよい。
【0112】
これらグリースは、滑り軸受の使用部位、条件(耐熱性、機械的強度など)に合致し、最も安価に製造できるものを選定すればよい。例えば、画像形成装置における定着部の定着ローラや加圧ローラなどのヒートローラを支持する滑り軸受には、150℃以上の耐熱性が必要となる。このような条件下では耐熱性が高いフッ素グリース、ウレアグリースを用いることが好ましい。また、転写部の転写ベルトガイドの軸、現像部のカートリッジの軸、給排紙の紙送りローラまたは軸、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部の軸を支持する滑り軸受では、画像形装置内での蓄熱を考慮しても、100℃以下の使用であるため、汎用的で安価なリチウムグリースを選択すればよい。
【0113】
滑り軸受に導電性が必要な場合は、樹脂部分である外輪に導電性を付与し、かつ、内・外輪間に介在させる潤滑剤に導電性を付与する。グリースに導電性を付与するための配合剤は、特に限定するものではなく、黒鉛、導電性カーボンなどが例示できる。しかし、黒鉛の平均粒径は数μm〜数十μmと比較的大きいため、グリースとともにすべり面に入り、ざらつき摩耗形態となり、摺動性に悪影響を及ぼす場合がある。そのため、微粒子である上述の導電性カーボンが摺動性への影響が少なく好ましい。一般的に、転がり軸受に使用される導電性グリースを用いることがより好ましい。例えば、導電性のフッ素グリースとしては、NOKクリューバー社製バリエルタBFX3(導電性カーボン配合処方)、ハーベス社製ハイルーブFG−1222、1223などが挙げられる。
【0114】
また、潤滑油としては、上記グリースの基油と同種のものが挙げられる。潤滑油は、内輪と外輪間から流出する可能性があるため、軸受外に排出され難いグリースの方が好ましい。
【0115】
グリースの基油または潤滑油は、使用温度における動粘度が3〜100mm2/sであることが好ましい。3mm2/s未満では潤滑膜の形成が乏しく、摩擦トルクが高くなる。100mm2/sをこえると、粘性抵抗により、摩擦トルクが高くなるからである。さらに好ましくは、3〜50mm2/sである。
【0116】
潤滑状態は、運転すきまと、グリースの基油もしくは潤滑油の動粘度とに関連している。そのため、使用温度における運転すきま(運転すきま(mm)/内輪外周の凹部外径(mm))と、使用温度におけるグリースの基油または潤滑油の動粘度(mm2/s)との積(単位:mm2/s)は、0.01〜2であることが好ましい。0.01未満では、内外輪の接触面積大と潤滑膜の形成が乏しいことから、摩擦トルクが高くなる。2をこえると油の粘性抵抗で摩擦トルクが高くなる。さらに好ましくは0.02〜1である。
【0117】
本発明の画像形成装置は、本発明の滑り軸受と、該滑り軸受で支持されるローラまたは軸を備えるので、これらローラや軸における摩擦トルクの低減が図れ、モーメント荷重も許容できる。また、本発明の滑り軸受の製造コストが、ボールベアリングと比較して安価であり、断熱スリーブも不要であるので、装置全体として製造コストの低減が図れる。
【0118】
本発明の一実施例に係る画像形成装置を図7に基づいて説明する。図7は、画像形成装置の定着ローラ支持部の拡大断面図である。画像形成装置の定着ローラ5は、アルミニウムで中空に形成され、中空部に配設された加熱ヒータによって200℃程度まで加熱されるようになっている。定着ローラ5の軸部5aが、滑り軸受1の内輪2の軸受孔4に嵌合されて支持されている。滑り軸受1は、断熱スリーブを介さず、直接に定着ローラの軸部を支持している。また、滑り軸受1は、外輪3の外周に設けられたフランジ3fで画像形成装置のハウジング6と係合し、位置決めされている。
【0119】
定着ローラ5が、高温、高荷重のためベンディング(湾曲・撓み)し、モーメント荷重が発生した場合でも、滑り軸受1において、調芯し、これを許容することができる。また、定着ローラ5が帯電し印刷物の品質が劣化することを防止するため、滑り軸受1を上述の導電軸受にすることができる。滑り軸受1を導電軸受にすることで、軸部5aを滑り軸受1およびハウジング6を介して接地し、定着ローラ5に帯電する電気が逃されるように構成できる。また、軸受に非導電性が要求される場合には、断熱スリーブなどの別の絶縁部品を使用することなく、外輪を非導電性の材料にすることで、対処できる。
【0120】
本発明の滑り軸受の他の実施例(外輪が溶製金属製)を図8および図9に示す。図1から図7は溶製金属からなる内輪と樹脂組成物の成形体からなる外輪を組合せた滑り軸受であるのに対して、図8および図9は、溶製金属からなる外輪と樹脂組成物の成形体からなる内輪を組合せた滑り軸受である。図8は本発明の滑り軸受の斜視図であり、図9は滑り軸受の正面図、軸方向断面図(B−B断面)、および軸方向断面図の一部拡大図である。図8および図9に示すように、滑り軸受1’は、溶製金属からなる外輪3と、樹脂組成物の成形体である内輪2とを備えてなる。この滑り軸受1’は、ラジアル軸受である。図9に示すように、内輪2は、外周に凸曲面2bを、内周に支持軸と嵌合する軸受孔4をそれぞれ有している。外輪3は、内輪2の外周の凸曲面2bに対向接触して摺動する凹曲面3gを有する。凹曲面3gは外輪3の軸方向の一部(中央部)に、凸曲面2bは内輪2の軸方向の一部(中央部)に、それぞれ設けられている。ここで、外輪3の内周の凹曲面3gは、外輪3の内周側で周方向に連続して形成される凹部の表面であり、軸方向断面が弧状(R形状)の凹曲面である。また、内輪2の外周の凸曲面2bは、内輪2の外周側で周方向に連続または不連続で形成される凸部の表面であり、外輪3の凹曲面3gに対応した、軸方向断面が略弧状(R形状、必要に応じて一部に非曲面部あり)の凸曲面である。
【0121】
この態様の滑り軸受1’は、図1から図7の滑り軸受と構成部材および凹凸が逆であるが、同様にモーメント荷重を許容することができ、外輪と内輪の軸方向の位置ずれを防止できる。また、図1から図7の滑り軸受と同様に、内輪2の外周の凸曲面2bの曲率半径と、外輪3の内周の凹曲面3gの曲率半径とが異なることが好ましい。
【0122】
この態様の滑り軸受の組み立て順は、外輪3の内周の凹曲面3gと内輪2の凸曲面2bとが対向接触するように、内輪2を外輪3の最小内径以下に縮め、弾性変形により外輪3の凹曲面3gに嵌め込む。従って、組み立て後の内輪2は合い口が開いた状態となる。そのため、万一、初期の運転すきまがなくなるような事態が発生しても、合い口が閉じることで抱きつきを防止できる。
【0123】
使用温度における運転すきまは、内輪外周の凸部外径に対して2/1000〜25/1000であることが好ましい。さらに好ましくは上限が15/1000以下である。
【0124】
溶製金属からなる外輪3について図10に基づき説明する。図10はこの態様の滑り軸受の外輪のみの斜視図である。図10に示すように、外輪3は、内周の凹曲面3gの軸方向断面が弧状(R形状)である。この凹曲面3gが内輪との摺動面となる。このような形状にすることで、モーメント荷重を受けても緩和することができ、安定した受圧により、低トルク・低摩耗とすることができる。
【0125】
外輪3は、既存のボールベアリングなどの転がり軸受用の外輪を転用して用いることができる。この場合、内輪との摺動面となる内周の凹曲面3gが、転がり軸受の外輪転走面であり、高精度であるため、回転性能の安定化に繋がる。また、別途、本発明の滑り軸受用に外輪を製造する必要がなく、製造コストの削減が図れる。
【0126】
この態様の外輪3を形成する溶製金属は、図1〜7に示す態様の内輪を形成するものと同じ金属を使用でき、同様の効果が得られる。また、凹曲面3gの表面粗さについても、図1〜7に示す態様の内輪と同様に0.3μmRa以下とすることが好ましい。
【0127】
樹脂組成物の成形体からなる内輪2について図11および図12に基づき説明する。図11はこの態様の滑り軸受の内輪のみの斜視図であり、図12は内輪のみの正面図である。内輪2は、外周に、外輪の内周の凹曲面に対向接触する凸曲面2bを有する環状体である。なお、内輪の「環状体」とは、図11等に示すように離間した合い口を有し、一部が閉じていないものも含む。内輪2は外輪と組み合わせた後、外輪から容易に外れない構造であればよく、環状体の周方向長さは円周の180°をこえていればよい。ただし、グリースを塗布する場合は、グリース漏れ、グリースへの異物混入を避けるために、340°をこえるほうが好ましい。
【0128】
この態様の内輪2を形成する樹脂組成物は、図1〜7に示す態様の外輪を形成するものと同じ組成物を使用でき、同様の効果が得られる。
【0129】
図11および図12に示すように、内輪2は合い口2dを有する環状体である。合い口2dは少なくとも1ヶ所設ければよく、複数ヶ所設けてもよい。合い口を複数ヶ所設け、複数個をつなぎ合せた内輪にすると、外輪との組み立て工程において、内輪を縮める必要がないため、靭性がない合成樹脂で内輪を形成する場合に有用である。ただし、内輪の部品点数が多いと価格高になり、組み立て後に外輪から外れないように複数個をつなぎ合わせ、固定する必要があることから、1ヶ所の合い口を有する1部品にすることが好ましい。また、合い口が1ヶ所の方が、組み立て易く、組み立て後に外輪から容易に外れることがない。
【0130】
図12に示すように、内輪2の外周の凸曲面2bを構成する凸部は、合い口2dを基準とした±10°の範囲内には形成しないことが好ましい。すなわち、この範囲内には、凸曲面2bを有さないことが好ましい。凸曲面を有さない形状とは、特に限定するものではなく、凸曲面を全く設けない以外に、この範囲内の外径が他部分の外径より小さくなっていればよい。ここで、合い口を基準に±X°の範囲とは、円環状の内輪において、合い口(離間した2つの端部で構成される場合は、各端部端面間の円周方向での中心位置)の位置を円周位置で0°とし、これを基準に円環の中心角で±X°となる範囲をいう。図12では、内輪2の該凸部は、合い口2dを基準に±10°の範囲内には形成していない。
【0131】
複数ヶ所の合い口を有する内輪では、合い口が継ぎ目となり、外輪と摺接する外径側に飛び出した状態となる場合がある。そのとき、内輪は負荷部以外に合い口部も外輪と摺接し、摩擦トルクが不安定になる。また、1ヶ所のみの合い口を有する内輪でも、合い口が外径側に飛び出す場合があり、同様に摩擦トルクが不安定になる。内輪の凸曲面を構成する凸部を、合い口を基準とした±10°の範囲内には形成しないことで、合い口部(合い口周辺の内輪外周凸部)が外輪と摺接せず、摩擦トルクの安定化、軸受としての信頼性向上が図れる。
【0132】
また、図5の場合と同様に、内輪2の外周の凸曲面2bを構成する凸部の両端部は、内輪外周の接線に対して、90°以下の角度にすることが好ましい。より好ましくは60°以下である。なお、図12に示すように両端部を円弧面としている場合は、その断面において円弧両端を結んだ直線が、内輪外周の接線に対して上記角度になるようにすることが好ましい。大きなモーメント荷重を受けた際には、負荷部と180°反対側も外輪と摺接する。そのような場合、外輪が内輪外周凸部の端部に接触する可能性があり、接触時の物理的なエッジ効果が軽減されるからある。また、グリースを塗布した場合には、上記構成により、外周凸部の端部によるグリースのかきとりを防止でき、摩擦面へのグリース供給性が安定化する。図12では、内輪外周凸部の両端部は、内輪外周の接線に対して45°である。
【0133】
図9に示すように、内輪2の凸曲面2bには、該凸曲面2bの軸方向中央部の全周に非曲面部2cを形成することが好ましい。非曲面部2cは、軸方向断面が直線のフラット形状などにできる。図9に示すように、軸方向中央部の全周に非曲面部2cを形成することで、軸方向断面でみると、外輪3の凹曲面3gが、内輪2の凸曲面2bの頂点1ヶ所との接触ではなく、2箇所との接触にすることができ、内外輪の軸方向のガタを抑えることができる。また、摩擦トルクも安定する。また、最大外径が小さくなり、外輪への組み込み性にも優れる。
【0134】
また、樹脂組成物の射出成形体からなる内輪2とする場合は、非曲面部2cに射出成形におけるパーティングラインを形成することが好ましい。この構成により、内輪の射出成形が容易であり、パーティングラインに突状バリ、段差が発生しても外輪の摺接面と干渉しないため、摩擦力への悪影響がない。
【0135】
また、グリース、潤滑油などの潤滑剤を内・外輪間に介在させる場合には、非曲面部2cを形成することで、該非曲面部2cと外輪3の内周の凹曲面3gとの間に空間部分が確保される。この部分が潤滑剤保持溝となり、潤滑剤を保持する効果もある(図9参照)。なお、グリース、潤滑油としては、図1〜7に示す態様の場合と同じものを使用できる。
【0136】
グリース、潤滑油などの潤滑剤を内・外輪間に介在させる場合には、内輪2の外周の負荷部に、軸方向凹型の潤滑剤保持溝2fを少なくとも1ヶ所形成することが好ましい。負荷部が一定箇所の場合、潤滑剤保持溝は、図9に示すように負荷部に1ヶ所配置することが好ましい。また、装置の構造、軸受の使用箇所・使用方法から、負荷部が変わる、もしくはずれる場合には、外径の全周、もしくは負荷部に対し複数ヶ所の潤滑剤保持溝を設けることもできる。
【0137】
潤滑剤保持溝の内輪外周凸部の頂点からの深さ、周方向幅は特に限定されないが、グリースの保持効果を得るためには、深さは0.5mm以上、周方向幅は0.5mm以上であることが好ましい。ただし、周方向幅を広げすぎると、ガタツキ、溝底との接触の可能性が生じるため、周方向幅は内輪外径の10%以下にすることが好ましい。
【0138】
外輪および内輪の非摺接面には、定着装置などの装置内での位置決めや、装置もしくは軸へ固定するために、 凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを設けることが好ましい。図9では、内輪2に凸型の回り止め2e、外輪3に金属止め輪7が設けられている。凸型の回り止め2eは、軸などに形成される凹部(図示省略)と嵌合する。この結果、合い口部2dが負荷部となる、潤滑剤保持溝2fが負荷部からずれる、といった不具合の発生を抑制できる。
【0139】
なお、溶製金属からなる内輪と樹脂組成物の成形体からなる外輪を組合せた滑り軸受は、軸回転にて内輪が回転する用途に、溶製金属からなる外輪と樹脂組成物の成形体からなる内輪を組合せた滑り軸受は、外周のハウジングが回転する外輪回転する用途に、それぞれ適している。
【実施例】
【0140】
[実施例1〜8]
外輪は樹脂材の射出成形品、内輪は溶製金属の機械加工品(旋削加工、研削加工)とし、図1の構成にてグリースを内外輪間に介在させた試験軸受とした。主要寸法は以下の通りである。
内輪:φ25×φ27.5(外周凹部)×7mm
外輪:φ27.78(内周凸部)×φ37×7mm
摺接半径:φ27.5mm
【0141】
内輪の材質・凹曲面の加工方法と表面粗さ、外輪の材質・組成、グリースの種類を表1に示した。実施例1〜8の内輪は、ボールベアリング6805の内輪を転用しており、実施例1〜3、6〜8の内輪は完成品を、実施例4、5の内輪は途中工程品を用いている。グリースは内外輪の摺動曲面全体(両側)に0.3g塗布し、その後に外輪を拡張し図3のように内輪に組み付けた。
【0142】
実施例すべてにおいて、外輪の合い口の内周凸部は、図2、5に示した通りであり、合い口を基準に±10°の範囲内に形成せず、凸部の両端部は外輪内周の接線に対して45°とした。また、内輪の外周の凹曲面の曲率半径はR1.785〜1.81、外輪の内周の凸曲面の曲率半径は1.7〜1.75で、曲率半径は、(内輪の外周凹曲面)>(外輪の内周凹曲面)である。
【0143】
実施例すべてにおいて、外輪の合い口は試験前に既に突き当たった状態とし、外輪の内周の凸部内径は、内輪の外周の凹部外径より大きく、その径差は0.28mmとした。すなわち、この径差が試験軸受の室温時の運転すきま0.28mm(内輪の外周凹部外径に対して10/1000)である。なお、実施例1〜6の180℃における運転すきまは、0.41mm(内輪の外周凹部外径に対して15/1000)である。
【0144】
外輪は合成樹脂の射出成形体であり、外輪の内周の凸曲面は、軸方向中央部の全周に非曲面部が形成され、ここにパーティングラインが形成されている。
【0145】
実施例1〜2、4〜8の外輪の潤滑剤保持溝は、図2、4に示した通りであり、負荷部に周方向幅2×深さ1mmの溝を1ヶ所設けた。実施例3では、この潤滑剤保持溝を形成しなかった。なお、すべての実施例において、外輪には図4に示したフランジおよび凹型回り止めを形成した。
【0146】
実施例および比較例の外輪に用いる樹脂材の原材料を一括して以下に示した。
(1)PPS樹脂〔PPS〕 東ソー社製:サスティール#160(半架橋型)
(2)変性PA6T樹脂〔PA6T〕 三井化学社製:アーレンAE4200
(3)POM樹脂〔POM〕 ポリプラスチックス社製:ジュラコンSW−01
(4)黒鉛〔GRP〕 ティムカルジャパン社製:TIMREX KS6(平均粒径6μm)
(5)PTFE樹脂〔PTFE〕 喜多村社製:KTL−610(再生PTFE)
(6)導電性カーボン〔CB〕 ライオン社製:ケッチェンブラックEC−600JD
【0147】
[比較例1〜4]
比較例1、2はNTN製定着ローラ用ボールベアリング6805ZZ(内径φ25×外径φ37×幅7mm)を試験軸受とした。比較例1には、非導電性フッ素グリース(NOKクリューバー社製ノックスルーブBF4023)を、比較例2には、非導電リチウムグリース(協同油脂社製マルテンプSRL)を封入した。なお、フランジとして止め輪を取り付けた。
【0148】
比較例3、4は射出成形した樹脂製滑り軸受(φ27.5×φ34×7mm)を試験軸受とした。樹脂製滑り軸受の材質を表2に示した。なお、樹脂相手軸と試験軸受の運転すきまは0.28mm(相手軸径に対して10/1000)とした。なお、樹脂製滑り軸受の外周にフランジ、凸型回り止めを形成した。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【0151】
<製造コスト>
滑り軸受の製造コストについて、実施例1を100(基準)とし、実施例1〜6、比較例1、3の製造コスト(算出コスト)を相対比較して表3に示した。
【0152】
【表3】
【0153】
<摩擦摩耗試験>
ラジアル試験機を用いて、試験軸受の摩擦係数を測定した。ラジアル試験機は、相手軸の中央にカートリッジヒータを挿入しており、相手軸を加熱、熱電対にて軸表面温度をコントロールすることができる。試験軸受は専用ハウジングに固定し、その状態で内径に相手軸を通し、専用ハウジングの下部に荷重を加え、相手軸を回転させる。試験条件を表4に示す。試験条件(1)は複写機の定着装置の定着ローラ軸受を想定し高温、試験条件(2)は転写部の軸受を想定し室温(25℃)で試験を行った。20時間後の摩擦係数、摩耗量を表1、2に併記した。
【0154】
【表4】
【0155】
表1に示したとおり、本発明品である実施例1〜8は部品点数が2つと少なく、低摩擦低摩耗であった。特に軸受内輪を使用し、外輪内周に潤滑剤保持溝を形成した実施例1、2、7、8は、非常に低摩擦低摩耗であった。また、部品点数が多いボールベアリングと比較し、製造コストは1/2以下となった。一方、樹脂製滑り軸受である比較例1、2は安価であるが、摩擦係数は2、3倍、摩耗量も5倍と、摩擦摩耗特性に劣っていた。
【0156】
<運転すきまと摩擦係数の関係>
試験片として実施例1の試験軸受(外輪の内径寸法の変更あり)を用い、試験条件として表4の試験条件(1)により、運転すきまと摩擦係数の関係を調べた。実施例1の軸受試験片の外輪の内径寸法の種々変更することで、試験温度180℃における運転すきまを変化させ、180℃における運転すきま(運転すきま(mm)/内輪外周の凹部外径(mm))と試験20時間後の摩擦係数との関係を求めた。結果を図13に示す。図13に示すように、運転すきまが、2/1000未満では摩擦係数が大幅に増大した。
【0157】
<グリースの基油の動粘度と摩擦係数の関係>
試験片として実施例1の試験軸受を用い、試験条件として表4の試験条件(1)(温度変更あり)により、グリースの基油の動粘度と摩擦係数の関係を調べた。表4の試験条件(1)における試験温度を変更(40℃、100℃、180℃、200℃)することで、フッ素グリースの基油の動粘度を2〜390mm2/sの範囲で変化させ、基油の動粘度と試験20時間後の摩擦係数との関係を求めた。結果を図14に示す。図14に示すように、グリースの基油の動粘度とともに摩擦係数が増加する傾向にあることが分かる。
【0158】
<運転すきまとグリースの基油の動粘度との積に対する摩擦係数の変化>
潤滑状態は、運転すきまと、グリースの基油もしくは潤滑油の動粘度とに関連している。そのため、上記試験結果から、運転すきま(運転すきま(mm)/内輪外周の凹部外径(mm))とグリースの基油の動粘度(mm2/s)の積(単位:mm2/s)に対する摩擦係数の変化を図15に示す。図15に示すように、0.1付近に摩擦係数の極小値があり、積の減少、増加とともに増加した。摩擦係数を低く安定させるには、この積が0.01〜2(mm2/s)の範囲であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の滑り軸受は、摩擦トルクが低く自己断熱性効果を有しながら、ボールベアリングと比較して部品点数が少なく構造が簡単であり、製造も容易であり、相手となるローラまたは軸の材質・表面粗さに摩擦摩耗特性が影響されず、モーメント荷重も許容できる滑り軸受である。摩擦トルクと製造コストの両面において、ボールベアリングと従来の樹脂製滑り軸受の中間特性を有するので、複写機、複合機、プリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置における定着部の定着ローラや加圧ローラなどのヒートローラ、現像部、感光部、転写部、排紙部、給紙部など各種ローラもしくは軸などの支持に用いる滑り軸受、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部などに用いる滑り軸受として好適に利用できる。複写機、複合機、プリンタ、ファクシミリ以外の各種産業機械・装置、自動車および電装補機においても、使用条件(PV、温度など)が適していれば、ボールベアリング、従来の樹脂製滑り軸受の代替品として利用可能である。なお、軸受の運動形態(一方向回転、揺動回転)、内輪回転・外輪回転は特に限定されない。ただし、外輪内周の凸曲面が部分的に形成されていない場合には、外輪回転すると凸曲面のエッジが内輪と接触する。よって、外輪回転にて使用するときには、外輪内周の凸曲面は全周にわたって形成することが好ましい。同様に、内輪外周の凸曲面が部分的に形成されていない場合も、内輪回転にて使用するときには、内輪外周の凸曲面は全周にわたって形成することが好ましい。
【符号の説明】
【0160】
1、1’ 滑り軸受
2 内輪
2a 凹曲面
2b 凸曲面
2c 非曲面部
2d 合い口
2e 回り止め
2f 潤滑剤保持溝
3 外輪
3a 凸曲面
3b 合い口
3c 非曲面部
3d 潤滑剤保持溝
3e 回り止め
3f フランジ
3g 凹曲面
4 軸受孔
5 定着ローラ
6 ハウジング
7 金属止め輪
【技術分野】
【0001】
本発明は滑り軸受に関し、特に、複写機、複合機、プリンタ(レーザービームプリンタ、インクジェットプリンタなど)、ファクシミリなどの画像形成装置における定着部の定着ローラや加圧ローラなどのローラ(ヒートローラ)もしくは軸の支持に用いる滑り軸受、現像部、感光部、転写部、排紙部、給紙部などの各種ローラもしくは軸の支持に用いる滑り軸受に関する。また、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部に用いる滑り軸受に関する。また、この滑り軸受を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、画像形成装置は、その定着装置において、光学装置で形成された静電潜像にトナーを付着させ、このトナー像をコピー用紙に転写し、さらに定着させるものである。この定着工程では、ヒータを内蔵した定着ローラと加圧ローラとの間にトナー像を通過させる。これにより、トナー像からなる転写像がコピー用紙上に加熱融着によって定着される。
【0003】
定着ローラは、線状ないし棒状のヒータを軸心部に内蔵した軟質の金属製であり、両端に小径の軸部が突出した円筒状に形成されている。定着ローラは、アルミニウム、またはアルミニウム合金(A5056、A6063)などの熱伝導性に優れた金属材料からなる。定着ローラの表面は、旋削や研磨などで仕上げられる。また、定着ローラ表面には、フッ素樹脂などの非粘着性の高い樹脂が被覆してある。定着ローラの表面の温度は、ヒータにより180〜250℃前後に加熱される。一方、加圧ローラは、シリコンゴムなどで被覆された鉄材または軟質材からなり、コピー用紙を定着ローラに押圧して回転駆動するものである。加圧ローラは、加熱ローラからの伝熱により、約70〜150℃に加熱される。あるいは、定着ローラと同様に内部にヒータが設けられ150〜250℃前後に加熱される。以降、上記した定着ローラ、加圧ローラなどのように、内蔵されたヒータ、または、他部材からの伝熱により加熱されるローラを「ヒートローラ」と記す。
【0004】
高温に加熱されるヒートローラは、両端の軸部で深溝玉軸受からなるボールベアリングを介してハウジングに回転自在に支持されており、このボールベアリングとヒートローラの軸部との間に、合成樹脂などからなる断熱スリーブが介在させてある。これは、ヒートローラの加熱時に両端部のボールベアリングから熱が逃げてヒートローラの軸方向に沿う温度分布が不均一になるのを防止するためである。
【0005】
また、ヒートローラの支持軸受としては、樹脂製滑り軸受を用いるものがある。例えば、滑り軸受を、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと記す)樹脂、ポリアミド(以下、PAと記す)樹脂、ポリアミドイミド(以下、PAIと記す)樹脂、ポリイミド(以下、PIと記す)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKと記す)樹脂などの合成樹脂から形成している。
【0006】
樹脂製滑り軸受を使用する場合、樹脂製滑り軸受自体が断熱性を有するため、一般的には、該樹脂製滑り軸受とヒートローラの軸部との間に断熱スリーブを介在させない。通常、画像形成装置の定着部の仕様に応じて、転がり軸受と樹脂製滑り軸受が使い分けられている。一般的に、高PV仕様(P:面圧、V:速度)の中級機、高級機には転がり軸受が、比較的PVの低い普及機には樹脂製滑り軸受が使用されている。
【0007】
しかし、上記した画像形成装置における定着装置のヒートローラ用の軸受である深溝玉軸受は、構造が複雑で製造コストも高価である。また、温度分布の不均一化を防止するために、上述の樹脂製断熱スリーブが必要となり、さらに高価になる。また、ヒートローラの支持軸の取り付け精度誤差やモーメント荷重などに起因する支持軸の撓みにより、軸受が破損するおそれがある。
【0008】
これに対して、PPS樹脂などの樹脂製滑り軸受は、断熱スリーブを介在させることなく使用でき、構造が簡単で射出成形できることから、低コストで生産できるという利点を有する。しかし、この樹脂製滑り軸受は、ボールベアリングと比べて、負荷容量が低く、摩擦トルクが10倍以上も高い。そのため、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置、各種機械に使用する場合、駆動モータの容量を大きくする必要があり、総合的にコストアップとなる。また、摺動相手となるローラの材質、表面粗さに敏感である。相手ローラの摺動面粗さが粗い場合、摩擦トルク、摩耗量が大きくなり、相手ローラが軟質金属製の場合、樹脂製すべり軸受による相手ローラの摩耗損傷が発生し、仕様を満足できない。一般的に、ヒートローラの材質にはアルミニウムなどの軟質金属が使用される。表面粗さは小さくするほど、加工コストがアップする。また、アルミニウムなどの軟質金属では、研磨加工できないため、表面粗さを小さくするにも限界がある。樹脂製滑り軸受の負荷容量が小さいのは、相手ローラの材質、表面粗さによるところもある。
【0009】
また、摩擦トルクを小さくするため、軸受摺動面にグリースを塗布するとしても、荷重を強く受ける部分などではグリース不足となり、仕様を満足できなくなる場合がある。また、通常の樹脂製滑り軸受には、モーメント荷重に対する調芯機能はない。そのため、モーメント荷重に対しては、片当たりとなり、部分的に高面圧となり摩耗が増大する。また、一定の長期間使用後に軸受を交換する場合、摺接する相手ローラ・軸の表面には摺動傷が付いているため、ローラ・軸も同時に交換する必要があり、交換時の費用アップになることも課題である。
【0010】
定着装置のヒートローラ用の軸受以外の、室温下にて使用される現像部、感光部、排紙部、給紙部などで用いる軸受、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部などに用いられる軸受においても、同様の課題を抱えている。
【0011】
これらの問題に対処するための軸受として、外輪と内輪とから構成され、外輪の内周部に形成された環状突起または環状溝と、内輪の外周部に形成された環状溝または環状突起とが係合してなる滑り軸受(特許文献1参照)が知られている。また、外輪と内輪とから構成され、内輪が溶融硬化させた樹脂組成物からなり、内輪と外輪の軸受すきまが、内輪の硬化時の樹脂収縮によって形成してなる滑り軸受(特許文献2参照)が知られている。
【0012】
さらに、これらの問題に対処し得るヒートローラ用軸受として、外輪と内輪とから構成され、外輪または内輪のいずれか一方が合成樹脂製で他方が焼結金属製であり、外輪の内周面と内輪の外周面とが相対的に摺接する滑り軸受(特許文献3参照)が知られている。また、同様の軸受として、内輪と外輪との組み合わせからなり、内輪と外輪との間にグリースが封入され、一方向のみに回転する回転体を支持する滑り軸受であって、内輪の外周面にグリースを保持するグリース保持溝が形成されてなり、該グリース保持溝は、内輪の外周面の全周に設けられたハ字型を示す2列の矩形の複数の溝であり、ハ字の下側が内輪の回転方向に向くように形成されている滑り軸受(特許文献4参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開昭59−39316号公報
【特許文献2】特開平9−32856号公報
【特許文献3】特開2011−74975号公報
【特許文献4】特開2011−74979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1および2に記載の滑り軸受は、外輪の内周面と内輪の外周面が同形状であるため、環状溝と環状突起との係合部の摩耗粉が排出されにくく、逆に堆積し易い。そのため、摩擦係数の上昇、ばらつきが発生するだけでなく、運転すきまがなくなり、異常摩耗、焼き付きを起こし易い。特に、外輪および内輪が合い口のない環状体であるため、摩耗粉の堆積などの原因で、初期の運転すきまがなくなった場合に、合口の開閉による緩和効果はなく、激しい異常摩耗、焼き付きを起こす。また、調芯機能はないため、モーメント荷重に対しては片当たりとなり、部分的に高面圧となり摩耗が増大する。また、特許文献2に記載の滑り軸受は、内輪と外輪の軸受すきまが、内輪の硬化時の樹脂収縮によって形成されているため、グリースなどの潤滑剤の封入は困難である。
【0015】
特許文献3に記載の滑り軸受は、外輪または内輪のいずれか一方が焼結金属製からなるため、溶製金属製の外輪または内輪と比較して粉体間の密着は遥かに弱く、樹脂と摺接した際に、粒子として摩耗脱落するおそれがある。粒子状金属が、ある程度閉塞された内外輪間に介在すると、内外輪間の摩擦面から容易に排出しにくく、ざらつき摩耗となり、摩擦トルクの上昇、摩耗増大を誘発する可能性がある。グリースを封入すると、粒子状金属がグリースに混入し、内外輪間の摩擦面からの排出がより困難になり、摩耗が増大する。また、焼結金属は空孔を有しているので、グリースの基油が焼結金属の空孔に吸い込まれ、グリースの潤滑が低下し、摩擦トルクが上昇するおそれがある。あらかじめ、空孔に油を含浸してあっても、空孔中の油が軸受外部に流出し、その後空孔にグリースの基油が吸い込まれるという現象が起こるおそれがある。また、焼結金属製内外輪の摺接面の面精度は、特に凹凸曲面の場合、機械加工品と比較して劣り、摩擦トルクの安定性の面で懸念が残る。
【0016】
特許文献4に記載の滑り軸受は、内輪の外周面のグリース保持溝がハ字型を示す2列の矩形の複数の溝であり、ハ字の下側が内輪の回転方向に向くように形成されているため、回転方向が一方向でないと効果がなく、使用方法に制限がある。一般的に滑り軸受には、使用中に外れないよう、軸受の外輪がハウジングと摺接しないように、フランジなどの抜け止め・回り止めが設けられる。ローラまたは軸の両端に、フランジ・回り止め付きの滑り軸受を取り付ける際、上記滑り軸受では同一形状であるにも関わらず、一方向回転のみの使用であるため、左右を別の軸受にする必要があり、経済的ではなく、管理上も誤組みが懸念される。また、内輪と外輪を共に合成樹脂製にすると、軸受の高PV化対策にはならない。
【0017】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、低コストで、製造が容易な簡易構造でありながら、断熱スリーブなどが不要で、摺動相手となるローラの材質・表面粗さに影響されず、低摩擦トルク、低摩耗で、モーメント荷重も許容でき、容易に交換できる滑り軸受、およびこれを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の滑り軸受は、内輪と、外輪とを備えてなるラジアル滑り軸受であって、上記内輪および上記外輪のいずれか一方が、軸方向の一部に凹曲面を有する溶製金属からなり、他方が、軸方向の一部に上記凹曲面に対向接触して摺動する凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなり、上記内輪と上記外輪とは、上記凸曲面と上記凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転することを特徴とする。
【0019】
上記内輪および上記外輪は、(1)上記内輪が、外周に上記凹曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する溶製金属からなり、上記外輪が、内周に上記凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなる組み合わせ、または、(2)上記内輪が、外周に上記凸曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する樹脂組成物の成形体からなり、上記外輪が、内周に上記凹曲面を有する溶製金属からなる組み合わせ、であることを特徴とする。
【0020】
上記樹脂組成物の成形体が、少なくとも1ヶ所の合い口を有する環状体であることを特徴とする。また、上記凸曲面を構成する凸部が、上記合い口を基準とした±10°の範囲内には形成されていないことを特徴とする。
【0021】
上記凹曲面の表面粗さが0.3μmRa以下であることを特徴とする。また、上記溶製金属が、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、またはステンレス鋼であることを特徴とする。また、上記溶製金属からなる内輪が転がり軸受用の内輪である、または、上記溶製金属からなる外輪が転がり軸受用の外輪である、ことを特徴とする。
【0022】
上記樹脂組成物のベース樹脂が、熱可塑性PI樹脂、ポリエーテルケトン(以下、PEKと記す)樹脂、PEEK樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(以下、PEKEKKと記す)樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、ポリエチレン(以下、PEと記す)樹脂、およびポリアセタール(以下、POMと記す)樹脂から選ばれる少なくとも1つの合成樹脂であることを特徴とする。
【0023】
上記樹脂組成物が、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂を含むことを特徴とする。また、上記樹脂組成物が、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、マイカ、黒鉛、およびタルクから選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする。また、上記樹脂組成物が導電性カーボンを含み、上記樹脂組成物の成形体の体積抵抗率が1×106Ωcm未満であることを特徴とする。
【0024】
樹脂組成物の成形体からなる外輪に合い口を有する場合、該合い口が突き当たった状態において、上記外輪の内周の凸曲面を構成する凸部内径が、上記内輪の外周の凹曲面を構成する凹部外径よりも大きいことを特徴とする。
【0025】
上記凹曲面の曲率半径と、上記凸曲面の曲率半径とが異なることを特徴とする。
【0026】
上記凸曲面は、該凸曲面の軸方向中央部の全周に非曲面部が形成されていることを特徴とする。また、上記樹脂組成物の成形体が射出成形体であり、上記非曲面部に射出成形におけるパーティングラインが形成されていることを特徴とする。
【0027】
上記内輪および上記外輪の摺動面に潤滑剤が介在していることを特徴とする。また、上記樹脂組成物の成形体の負荷部に、軸方向凹型の潤滑剤保持溝が少なくとも1箇所形成されていることを特徴とする。
【0028】
上記潤滑剤が、フッ素グリース、ウレアグリース、およびリチウムグリースから選ばれる少なくとも1つのグリースであることを特徴とする。また、上記潤滑剤が、導電性を有するグリースであることを特徴とする。
【0029】
上記外輪または内輪が、凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを非摺接面に有することを特徴とする。
【0030】
上記滑り軸受が、画像形成装置における定着部、転写部、現像部、もしくは給排紙の紙送りローラ、または、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部に用いられることを特徴とする。
【0031】
本発明の画像形成装置は、上記本発明の滑り軸受と、該滑り軸受で支持されるローラまたは軸とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の滑り軸受は、上記のとおり、内輪と外輪とを備えてなるラジアル滑り軸受であり、内輪および外輪のいずれか一方が、軸方向の一部に凹曲面を有する溶製金属からなり、他方が、軸方向の一部に上記凹曲面に対向接触して摺動する凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなり、上記内輪と上記外輪とは、凸曲面と凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転するものである。内輪および外輪のいずれか一方が溶製金属製であるので、粒子状金属の摩耗脱落や、基油が空孔に吸い込まれることによる潤滑性能の低下などを防止できる。また、焼結金属製にする場合と比較して凹曲面の面精度に優れ、摩擦トルクが安定する。さらに、内外輪の回転方向の制限がなく、ローラまたは軸の両端で同一の滑り軸受を利用できる。
【0033】
また、内輪・外輪の2部品で構成されており、ボールベアリング(転がり玉軸受)と比較して部品点数が少なく構造が簡単である。そのため、製造が容易で、製造工程、組立時間が短縮でき、安価に提供できる。さらに、内輪および外輪のいずれか一方が樹脂組成物の成形体であるので、ボールベアリングにはない自己断熱性などの効果を有し、別途、断熱スリーブなどが不要になる。また、ボールベリングと同様に、滑り軸受のみの交換が容易に可能となる。
【0034】
また、凹曲面と凸曲面とが対向接触して摺動するので、相手ローラまたは軸と直接摺動する樹脂滑り軸受と異なり、摩擦トルク、摩耗量に相手ローラまたは軸の材質、表面粗さの影響がない。また、内輪と外輪とは、凹凸曲面同士が接触する態様であり、この接触部分以外が非接触で相対的に回転するので、摩擦面の接触面積を小さくすることができ、従来の樹脂滑り軸受よりも摩擦トルクを低くできる。また、内輪および外輪の摺接面が、相補的な凹凸曲面であるので、内輪と外輪の軸方向の位置ずれを防止でき、凸曲面と凹曲面との接触部分以外が非接触であるので、モーメント荷重も許容できる。
【0035】
これらより、本発明の滑り軸受は、摩擦トルクと製造コストの両面において、ボールベアリングと従来の樹脂滑り軸受の中間特性を有し、かつモーメント荷重も許容できる。
【0036】
内輪および外輪のいずれか一方を、少なくとも1ヶ所の合い口を有する環状体(樹脂組成物の成形体)にすることで、溶製金属からなる他方への組付けが容易となる。また、凸曲面を構成する凸部が、上記合い口を基準とした±10°の範囲内には形成されていないので、摩擦トルクの安定化、軸受としての信頼性向上が図れる。
【0037】
溶製金属からなる内輪または外輪の凹曲面の表面粗さを0.3μmRa以下にすることで、低トルク、低摩耗にすることができる。また、溶製金属を、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、またはステンレス鋼にすることで、樹脂組成物の成形体との摺接による該成形体の摩耗損傷がなく、安定した低トルク、低摩耗を長期間維持することができる。
【0038】
上記内輪または外輪として転がり軸受(ボールベアリングなど)用の内輪または外輪を利用することで、樹脂組成物の成形体との摺動面となる凹曲面が、転走面であり、高精度であるため、回転性能の安定化に繋がる。また、汎用品である転がり軸受の内輪または外輪を利用することで、滑り軸受の製造コストが安価になる。
【0039】
内輪および外輪のいずれか一方を形成する樹脂組成物のベース樹脂を、熱可塑性PI樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、PEKEKK樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、PE樹脂、およびPOM樹脂から選ばれる少なくとも1つの合成樹脂にすることで、他方への組付け時の作業性が容易で、組付け時に拡張しても割れない。
【0040】
また、上記樹脂組成物に、固体潤滑剤としてPTFE樹脂を配合することで、摩擦トルクが低く、安定する。内輪と外輪の摺動面に潤滑剤を塗布し、介在させた場合でも、局部的な個体間接触の発生、グリース切れに対して、低摩擦トルクの効果と製品の安全率の向上に寄与する。また、上記樹脂組成物に、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、マイカ、黒鉛、およびタルクから選ばれる少なくとも1つの補強材を配合することで、耐摩耗性がさらに高まる。また、高弾性化によって、摩擦発熱などによる温度上昇に対しても、摩擦トルク、耐摩耗性に影響を受けにくく、良好に使用が可能となる。
【0041】
また、上記樹脂組成物に導電性カーボンを配合し、上記樹脂組成物の成形体の体積抵抗率を1×106Ωcm未満にすることで、滑り軸受を導電軸受にできる。
【0042】
樹脂組成物の成形体からなる外輪に合い口を有する場合、該合い口が突き当たった状態において、上記外輪の内周の凸曲面を構成する凸部内径を、上記内輪の外周の凹曲面を構成する凹部外径よりも大きくすることで、使用中に外輪が内輪に抱きつくことがなく、運転すきまを必ず確保でき、調芯機能も備えることができる。そのため、低トルク、低摩耗を担保できるので、信頼性の高い軸受となる。
【0043】
上記凹曲面の曲率半径と、上記凸曲面の曲率半径とが異なるため、内輪と外輪の接触面積を少なくでき、低トルクとなる。
【0044】
上記凸曲面において、該凸曲面の軸方向中央部の全周に非曲面部を形成することで、凹曲面と2箇所の接触になるため、内外輪との軸方向のガタを抑えることができ、摩擦トルクも安定する。
【0045】
内輪および外輪のいずれか一方が上記樹脂組成物の射出成形体であり、上記非曲面部に射出成形におけるパーティングラインが形成されることで、射出成形が容易であり、パーティングラインによる突状バリ、段差が発生しても他方の摺接面と干渉しない。
【0046】
上記内輪と外輪の摺動面に潤滑剤を塗布し、介在させることで、摩擦トルクがさらに低減され、摩耗量も低下し、性能寿命を大幅に長くできる。特に、上記潤滑剤を、フッ素グリース、ウレアグリース、およびリチウムグリースから選ばれる少なくとも1つのグリースにすることで、安定した潤滑性能を有し、低摩擦トルクとなる。また、上記潤滑剤を導電性グリースにすることで、滑り軸受を導電軸受にできる。
【0047】
上記樹脂組成物の成形体の負荷部に軸方向凹型の潤滑剤保持溝を少なくとも1箇所形成することで、潤滑剤を摺動面に安定的に供給できる。
【0048】
上記外輪または内輪において、凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを非摺接面に設けることで、これを画像形成装置などのベース板金、ハウジングなどへの固定・位置決め部とすることができる。
【0049】
本発明の滑り軸受は、摩擦トルクの低減が図れ、モーメント荷重を許容でき、製造コストがボールベアリングと比較して安価であり、断熱スリーブも不要となるので、画像形成装置における定着部、転写部、現像部、給排紙の紙送りローラ、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部の軸受として好適に利用できる。
【0050】
本発明の画像形成装置は、上記本発明の滑り軸受と、該滑り軸受で支持されるローラまたは軸を備えるので、これらローラや軸における摩擦トルクの低減が図れ、モーメント荷重も許容できる。また、各滑り軸受の製造コストが、ボールベアリングと比較して安価であり、断熱スリーブも不要であるので、装置全体として製造コストの低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の滑り軸受の一例(内輪が溶製金属製)を示す斜視図である。
【図2】図1の滑り軸受の正面図、軸方向の断面図、および一部拡大断面図である。
【図3】本発明の滑り軸受の組み立て工程を示す図である。
【図4】図1の滑り軸受の外輪のみの斜視図である。
【図5】図1の滑り軸受の外輪のみの正面図および合い口部拡大正面図である。
【図6】図1の滑り軸受の内輪のみの斜視図である。
【図7】本発明の画像形成装置の定着ローラ支持部の拡大断面図である。
【図8】本発明の滑り軸受の他の例(外輪が溶製金属製)を示す斜視図である。
【図9】図8の滑り軸受の正面図、軸方向の断面図、および一部拡大断面図である。
【図10】図8の滑り軸受の外輪のみの斜視図である。
【図11】図8の滑り軸受の内輪のみの斜視図である。
【図12】図8の滑り軸受の内輪のみの正面図である。
【図13】180℃における運転すきまと摩擦係数との関係を示す図である。
【図14】試験温度における油の動粘度と摩擦係数との関係を示す図である。
【図15】運転すきまと動粘度の積と、摩擦係数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の滑り軸受は、外輪と内輪の2部材から構成され、径方向の荷重を受けるラジアル滑り軸受である。ここで、内輪および外輪のいずれか一方が、軸方向の一部に凹曲面を有する溶製金属からなり、他方が、軸方向の一部に上記凹曲面に対向接触して摺動する凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなり、内輪と外輪とが、凸曲面と凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転する構造を有する。内輪・外輪における軸方向の一部には、相互に摺動する凸曲面と凹曲面とが設けられているので、内輪・外輪のそれぞれの上記軸方向の一部より軸方向外側の両端部に、非接触となる部分が設けられている。なお、凸曲面と凹曲面の軸方向両外側に非接触部分を確保するため、上記軸方向の一部は、軸方向端部を除く一部とすることが好ましい。
【0053】
内輪および外輪の具体的な組み合わせ態様としては、(1)内輪が、外周に凹曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する溶製金属からなり、外輪が、内周に上記凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなる組み合わせ、または、(2)内輪が、外周に凸曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する樹脂組成物の成形体からなり、外輪が、内周に上記凹曲面を有する溶製金属からなる組み合わせ、が挙げられる。以下、それぞれの態様について説明する。
【0054】
本発明の滑り軸受の一実施例(内輪が溶製金属製)を図1および図2により説明する。図1は本発明の滑り軸受の斜視図であり、図2は滑り軸受の正面図、軸方向断面図(A−A断面)、および軸方向断面図の一部拡大図である。図1および図2に示すように、滑り軸受1は、溶製金属からなる内輪2と、樹脂組成物の成形体である外輪3とを備えてなる。この滑り軸受1は、ラジアル軸受である。図2に示すように、内輪2は、外周に凹曲面2aを、内周に支持軸と嵌合する軸受孔4をそれぞれ有している。外輪3は、内輪2の外周の凹曲面2aに対向接触して摺動する凸曲面3aを有する。凹曲面2aは内輪2の軸方向の一部(中央部)に、凸曲面3aは外輪3の軸方向の一部(中央部)に、それぞれ設けられている。ここで、内輪2の外周の凹曲面2aは、内輪2の外周側で周方向に連続して形成される凹部の表面であり、軸方向断面が弧状(R形状)の凹曲面である。また、外輪3の内周の凸曲面3aは、外輪3の内周側で周方向に連続または不連続で形成される凸部の表面であり、内輪2の凹曲面2aに対応した、軸方向断面が略弧状(R形状、必要に応じて一部に非曲面部あり)の凸曲面である。なお、弧状には、円状、楕円状、その他の任意の曲線状が含まれる。
【0055】
滑り軸受1において、内輪2の外周の凹曲面2aと、外輪3の内周の凸曲面3aとが摺動面である。凹曲面2aと凸曲面3aとが摺接して、内輪2と外輪3とが相対的に回転する。なお、これらの面の少なくとも一部が摺接する。内輪2と外輪3は、凹曲面2aと凸曲面3a以外の部分では、接触しない構造である。内輪2の外周の凹曲面2aと、外輪3の内周の凸曲面3aとを、向かい合わせた組み合わせにて摺接する構造にし、かつ、これら凹曲面2aと凸曲面3aより軸方向外側の両端部を非接触部にすることで、モーメント荷重が発生した場合でも調芯し、許容することができる。また、凸曲面3aと凹曲面2aとが相補的な形状であるので、外輪3および内輪2の軸方向の位置ずれを防止できる。さらに、内輪2の凹曲面2aを上記のような曲面とすることで、内輪に既存の転がり玉軸受用の内輪を利用できる。
【0056】
内輪2の外周の凹曲面2aの曲率半径と、外輪3の内周の凸曲面3aの曲率半径とが異なることが好ましい。ここで、凹曲面および凸曲面の曲率半径とは、それぞれの軸方向断面における弧の曲率半径である。なお、凹曲面および凸曲面(凸曲面がない部分、および潤滑剤保持溝の部分を除く)の曲率半径は、周方向ではそれぞれ一定である。凹曲面2aと凹曲面3aの曲率半径が同一であると、内輪と外輪との接触面積が増加し、摩擦トルクの上昇をまねくおそれがある。また、グリースなどの潤滑剤を摺動面に塗布する場合には、面シールとなり、摩擦面に潤滑剤が供給され難い。また、曲率半径の大小関係は、(凹曲面2aの曲率半径) > (凸曲面3aの曲率半径)であることが好ましい。曲率半径が大きい内輪2の凹曲面2aに、曲率半径が小さい外輪3の凸曲面3aが入り込む方が安定であり、モーメント荷重も受けやすく、調芯しやすい。
【0057】
外輪3の合い口3bが突き当たった状態において、外輪3の内周の凸曲面3aを構成する凸部内径を、内輪2の外周の凹曲面2aを構成する凹部外径よりも大きくすることが好ましい。凸部内径とは凸部頂点位置での外輪内径であり、凹部外径とは凹部頂点位置での内輪外径である。外輪内径の凸部に非曲面部がある場合は、非曲面部を設ける前の仮想凸部頂点位置での外輪内径である。これにより、使用時に外輪が内輪に抱きつくことがなく、必ず運転すきまを確保することができ、調芯しやすくなる。また、負荷部以外での接触を避けることができるため、低トルク、低摩耗を維持できるとともに、信頼性の高い滑り軸受となる。ここで、負荷部とは、軸受が取り付けられたローラ、軸に加わった押し付け荷重により、軸受の内輪と外輪が接触する部分である。
【0058】
使用温度における運転すきまは、内輪外周の凹部外径に対して2/1000〜25/1000であることが好ましい。運転すきまが、2/1000未満では、内輪と外輪の周方向の接触角度大により、接触面積が増加するため、摩擦トルクが高くなる。25/1000をこえると、ガタが大きくなる。さらに好ましくは上限が15/1000以下である。なお、使用温度における運転すきまとは、全体が使用温度になると想定したときの内外輪の熱膨張、ハウジング寸法、軸寸法から算出した運転すきまである。
【0059】
滑り軸受1の組み立て工程を図3に示す。滑り軸受1の組み立て順は、内輪2の外周の凹曲面2aと外輪3の凸曲面3aとが対向接触するように、外輪3を内輪2の最大外径以上で拡張し、弾性変形により内輪2の凹曲面2aに嵌め込む。なお、摺動面にグリースなどの潤滑剤を塗布する場合は、外輪3を内輪2に組み込む前に、予め塗布しておくことが好ましい。このときの、グリースなどの潤滑剤の塗布位置、塗布量は限定されないが、少なくとも負荷部には塗布し、好ましくは内輪と外輪の摺接する全面にいきわたる様に塗布する。
【0060】
樹脂組成物の成形体からなる外輪3について図4および図5に基づき説明する。図4は滑り軸受の外輪のみの斜視図であり、図5は外輪のみの正面図および合い口部拡大正面図である。外輪3は、内周に内輪の外周の凹曲面に対向接触する凸曲面3aを有する環状体である。なお、外輪3の「環状体」とは、図4等に示すように離間した合い口を有し、一部が閉じていないものも含む。外輪は内輪と組み合わせた後、内輪から容易に外れない構造であればよく、環状体の周方向長さは円周の180°をこえていればよい。ただし、グリースを塗布する場合は、グリース漏れ、グリースへの異物混入を避けるために、340°をこえるほうが好ましい。
【0061】
図4および図5に示すように、外輪3は、合い口3bを有する環状体である。合い口3bは少なくとも1ヶ所設ければよく、複数ヶ所設けてもよい。合い口を複数ヶ所設け、複数個をつなぎ合せた外輪にすると、内輪との組み立て工程において、外輪を拡張する必要がないため、靭性がない合成樹脂で外輪を形成する場合に有用である。ただし、外輪の部品点数が多いと価格高になり、組み立て後に内輪から外れないように複数個をつなぎ合わせ、固定する必要があることから、図4等に示すように1ヶ所の合い口を有する1部品にすることが好ましい。また、合い口が1ヶ所の方が、組み立て易く、組み立て後に内輪から容易に外れることがない。
【0062】
図5に示すように、外輪3の内周の凸曲面3aを構成する凸部は、合い口3bを基準とした±10°の範囲内には形成しないことが好ましい。すなわち、この範囲内には、凸曲面3aを有さないことが好ましい。凸曲面を有さない形状とは、特に限定するものではなく、凸曲面を全く設けない以外に、この範囲内の内径が他部分の内径より大きくなっていればよい。ここで、合い口を基準に±X°の範囲とは、円環状の外輪において、合い口(離間した2つの端部で構成される場合は、各端部端面間の円周方向での中心位置)の位置を円周位置で0°とし、これを基準に円環の中心角で±X°となる範囲をいう。図5では、外輪3の該凸部は、合い口3bを基準に±10°の範囲内には形成していない。
【0063】
複数ヶ所の合い口を有する外輪では、合い口が継ぎ目となり、内輪と摺接する内径側に飛び出した状態となる場合がある。そのとき、外輪は負荷部以外に合い口部も内輪と摺接し、摩擦トルクが不安定になる。また、1ヶ所のみの合い口を有する外輪では、合い口が内径側に倒れ込む場合があり、同様に摩擦トルクが不安定になる。外輪の凸曲面を構成する凸部を、合い口を基準とした±10°の範囲内には形成しないことで、合い口部(合い口周辺の外輪内周凸部)が内輪と摺接せず、摩擦トルクの安定化、軸受としての信頼性向上が図れる。なお、滑り軸受において、外輪に内輪が主に摺接するのは最大で負荷部±45°、実質的には±30°程度の範囲内の部分であるため、負荷部±45°以外の凸曲面は必ずしも形成する必要はない。
【0064】
また、図5に示すように、外輪3の内周の凸曲面3aを構成する凸部の両端部は、外輪内周の接線に対して、90°以下の角度にすることが好ましい。より好ましくは60°以下である。なお、図5に示すように両端部を円弧面としている場合は、その断面において円弧両端を結んだ直線が、外輪内周の接線に対して上記角度になるようにすることが好ましい。大きなモーメント荷重を受けた際には、負荷部と180°反対側も内輪と摺接する。そのような場合、内輪が外輪内周凸部の端部に接触する可能性があり、接触時の物理的なエッジ効果が軽減されるからある。また、グリースを塗布した場合には、上記構成により、内周凸部の端部によるグリースのかきとりを防止でき、摩擦面へのグリース供給性が安定化する。図5では、外輪内周凸部の両端部は、外輪内周の接線に対して45°である。
【0065】
図4に示すように、外輪3の凸曲面3aには、該凸曲面3aの軸方向中央部の全周に非曲面部3cを形成することが好ましい。非曲面部3cは、軸方向断面が直線のフラット形状などにできる。図2に示すように、軸方向中央部の全周に非曲面部3cを形成することで、軸方向断面でみると、内輪2の凹曲面2aが、外輪3の凸曲面3aの頂点1ヶ所との接触ではなく、2箇所との接触にすることができ、内外輪の軸方向のガタを抑えることができる。また、摩擦トルクも安定する。
【0066】
また、樹脂組成物の射出成形体からなる外輪3とする場合は、非曲面部3cに射出成形におけるパーティングラインを形成することが好ましい。この構成により、外輪の射出成形が容易であり、パーティングラインに突状バリ、段差が発生しても内輪の摺接面と干渉しないため、摩擦力への悪影響がない。
【0067】
また、グリース、潤滑油などの潤滑剤を内・外輪間に介在させる場合には、非曲面部3cを形成することで、該非曲面部3cと内輪2の外周の凹曲面2aとの間に空間部分が確保される。この部分が潤滑剤保持溝となり、潤滑剤を保持する効果もある(図2参照)。
【0068】
グリース、潤滑油などの潤滑剤を内・外輪間に介在させる場合には、外輪の負荷部に、軸方向凹型の潤滑剤保持溝を少なくとも1ヶ所形成することが好ましい。ここで、「軸方向凹型」とは、外輪の内周の凸曲面を構成する凸部において、該凸部頂点からみて凹部であり、軸方向に該凸部を貫通している形状である。図4では、負荷部となる合い口対向部の1ヶ所に、外輪3の内周の凸曲面3aを構成する凸部を軸方向に貫通する形で、潤滑剤保持溝3dが形成されている。この潤滑剤保持溝3dに潤滑剤を保持できるため、安定して低摩擦化が可能になる。負荷部が一定箇所の場合、潤滑剤保持溝3dは、図4に示すように負荷部に1ヶ所配置することが好ましい。また、装置の構造、軸受の使用箇所・使用方法から、負荷部が変わる、もしくはずれる場合には、内径の全周、もしくは負荷部に対し複数ヶ所の潤滑剤保持溝を設けることもできる。
【0069】
潤滑剤保持溝3dの外輪内周凸部の頂点からの深さ、周方向幅は特に限定されないが、グリースの保持効果を得るためには、深さは0.5mm以上、周方向幅は0.5mm以上であることが好ましい。ただし、周方向幅を広げすぎると、ガタツキ、溝底との接触の可能性が生じるため、周方向幅は外輪内径の10%以下にすることが好ましい。なお、外輪内径は、外輪の内周の凸曲面を構成する凸部内径である。
【0070】
外輪には、定着装置などの装置内での位置決めや、装置への固定をするために、 凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを非摺接面に設けることが好ましい。図4では、凹型の回り止め3eとフランジ3fが設けられている。凹型の回り止め3eは、ハウジングなどに形成される凸部(図示省略)と嵌合する。回り止めなどを設けることで、該部分を画像形成装置などのベース板金、ハウジングなどへの固定・位置決め部にすることができる。この結果、使用中に滑り軸受が定着装置などに対して回転することを防止でき、合い口部が負荷部となる、潤滑剤保持溝が負荷部からずれる、といった不具合の発生を抑制できる。
【0071】
外輪3は、樹脂組成物の成形体である。樹脂組成物のベース樹脂となる合成樹脂の種類は特に限定されないが、少なくとも滑り軸受の使用条件(耐熱性、機械的強度など)に見合う特性、および組み立て性を有する必要がある。また、射出成形可能な合成樹脂であれば、製造が容易であり、安価にすることができるので好ましい。
【0072】
外輪を形成する樹脂組成物のベース樹脂(合成樹脂)としては、熱硬化性PI樹脂、熱可塑性PI樹脂、PEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、PE樹脂、POM樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独で使用しても、2種類以上混合したポリマーアロイとしてもよい。
【0073】
低コスト、製造が容易、断熱スリーブなどが不要、低摩擦トルク、かつ低摩耗特性の滑り軸受にするためには、合成樹脂は射出成形が可能で、リサイクルできる熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。その中でも特に、結晶性の樹脂が、摩擦摩耗特性に優れるので好ましい。このような結晶性の熱可塑性樹脂としては、熱可塑性PI樹脂、PEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、PE樹脂、POM樹脂が挙げられる。これらの樹脂は靭性があるため、合い口が1ヶ所で内輪との組み立て時に拡張した場合でも、割れることがない。また、グリースなどの潤滑剤を塗布した場合でも、おかされることはなく、ソルベントクラックの心配がない。
【0074】
これら熱可塑性樹脂から、滑り軸受の使用部位、条件(耐熱性、機械的強度など)に合致し、最も安価に製造できる樹脂を選定すればよい。例えば、画像形成装置における定着部の定着ローラや加圧ローラなどのヒートローラを支持する滑り軸受には、150℃以上の耐熱性が必要となる。このような条件下では、耐クリープ性、耐荷重性、耐摩耗性などに優れる熱可塑性PI樹脂、PEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂を用いることが好ましい。より詳細には、温度条件が150〜230℃の場合は、連続仕様温度が230℃と耐熱性があり、最も安価なPPS樹脂が最も好ましく、230℃〜250℃の高温条件となる場合は、連続仕様温度が240℃の熱可塑性PI樹脂、連続仕様温度が250℃以上のPEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂が好ましい。
【0075】
また、転写部の転写ベルトガイドなどの軸、現像部のカートリッジなどの軸、給排紙の紙送りローラまたは軸、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部の軸を支持する滑り軸受では、常温使用であるため、安価なPA樹脂、PE樹脂、POM樹脂を選択すればよい。なお、成形収縮、吸水寸法変化が小さく、高寸法精度・高寸法安定性のPOM樹脂、低吸水性の変性PA樹脂がさらに好ましい。
【0076】
本発明に使用できる熱可塑性PI樹脂の市販品としては、融点が約388℃、ガラス転移点が250℃の三井化学社製オーラムが挙げられる。PI樹脂は射出成形時の金型内で結晶化しないため、成形後に結晶化処理(熱処理)することが好ましい。ただし、非晶性でも軸受の使用条件上(耐熱性、耐グリース性など)で問題ない場合は、結晶化処理は必須ではない。ただし、金型温度(200℃程度)を超える温度条件で使用する場合は、結晶化処理は必須である。
【0077】
PEEK樹脂は、ベンゼン環がパラの位置で、カルボニル基とエーテル結合によって連結された下記式(1)に示すポリマー構造を持つ結晶性の熱可塑性樹脂である。下記式(1)の構造を持つPEEK樹脂は、融点が約343℃、ガラス転移点が143℃であり、優れた耐熱性、耐クリープ性、耐荷重性、耐摩耗性、摺動特性などに加え、優れた成形性を有する。本発明に使用できるPEEK樹脂の市販品としては、例えば、ビクトレックス社製PEEK(90P、150P、380P、450Pなど)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製キータスパイア(KT−820P、KT−880Pなど)、ダイセルデグザ社製VESTAKEEP(1000G、2000G、3000G、4000Gなど)などが挙げられる。
【0078】
【化1】
【0079】
PEKEKK樹脂およびPEK樹脂は、PEEK樹脂より高耐熱性樹脂である。PEKEKK樹脂の融点は約387℃、ガラス転移点は162℃である。PEK樹脂の融点は約373℃、ガラス転移点は152℃である。本発明に使用できるPEKEKK樹脂の市販品としてはビクトレックス社製ST−G45、PEK樹脂の市販品としてはビクトレックス社製HT−G22が挙げられる。
【0080】
PPS樹脂は、ベンゼン環がパラの位置で、硫黄結合によって連結された下記式(2)に示すポリマー構造を持つ結晶性の熱可塑性樹脂である。下記式(2)の構造を持つPPS樹脂は、融点が約280℃、ガラス転移点が90℃であり、極めて高い剛性と、優れた耐熱性、寸法安定性、耐摩耗性、摺動特性などを有する。PPS樹脂は、その分子構造により、架橋型、半架橋型、直鎖型、分岐型などのタイプがあるが、本発明ではこれらの分子構造や分子量に限定されることなく使用できる。ただし、内輪との組み立て時に拡張する場合は、靭性が比較的高い半架橋型、もしくは最も高い分岐型を使用することが好ましい。本発明に使用できるPPS樹脂の市販品としては、東ソー社製#160、DIC社製T4AG、LR2Gなどが挙げられる。
【0081】
【化2】
【0082】
本発明に使用できるPA樹脂としては、PA6樹脂(東レ社製アミラン,BASF社製ウルトラミッドBなど)、PA66樹脂(東レ社製アミラン,BASF社製ウルトラミッドAなど)、PA46樹脂(DSM社製スタニール)、PA12樹脂(ダイセル・デグザ社製ダイアミドなど)、PA610樹脂(東レ社製アミラン)、PA612樹脂(デュポン社製ザイテルPA612,デイセルデグザ社製ポリアミド612など)、変性PA6T樹脂(三井化学社製アーレン,BASF社製ウルトラミッドTなど)、変性PA9T樹脂(クラレ社製ジェネスタ)などが挙げられる。これらのPA樹脂は単独で使用しても、2種類以上混合したポリマーアロイとしてもよい。なお、PA樹脂は吸水率が高く、寸法変化を起こしやすいため、上記の中でも吸水率が低い変性PA6T樹脂、変性PA9T樹脂が好ましい。
【0083】
PE樹脂は、低分子量から超高分子量まで幅広い分子量のPE樹脂が上市されている。しかし、超高分子量PEは射出成形することができない。PE樹脂は分子量が高いほど、材料物性、耐摩耗性が高いため、射出成形できる高分子量のPEが好ましい。本発明に使用できるPE樹脂の市販品としては、三井化学社製リュブマーL5000,L4000などが挙げられる。
【0084】
本発明に使用できるPOM樹脂には、ホモポリマー(旭化成社製テナック,デュポン社製デルリン)、コポリマー(旭化成社製テナックC,ポリプラスチックス社製ジュラコンなど)、ブロックコポリマー(旭化成社製テナック)の3種類があるが、特に限定されない。
【0085】
PEKEKK樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、PA樹脂、PE樹脂、POM樹脂は、射出成形時に金型内で結晶化する。そのため、結晶化処理(熱処理)は必要ない。ただし、軸受使用温度が射出成形の金型温度以上の場合、軸受が成形応力の緩和により寸法変化を起こすため、軸受使用温度以上でのアニール処理(熱処理)が必要である。
【0086】
滑り軸受の摩擦トルクを低く安定させるため、外輪を形成する樹脂組成物に固体潤滑剤を配合することが好ましい。特に、固体潤滑剤としてPTFE樹脂を配合することが好ましい。
【0087】
固体潤滑剤の配合比は、樹脂組成物全体に対して3〜40体積%が好ましく、さらに好ましくは10〜30体積%である。3体積%未満では低摩擦化が不十分であり、40体積%をこえると耐摩耗性を低下させるおそれがある。
【0088】
本発明に用いるPTFE樹脂としては、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー、再生PTFEのいずれを採用してもよい。樹脂組成物の流動性を安定させるためには、成形時のせん断により繊維化し難く、溶融粘度を増加させ難い再生PTFEを採用することが好ましい。再生PTFEとは、熱処理(焼成などの熱履歴が加わったもの)粉末、γ線または電子線などを照射した粉末のことである。また、再生PTFEは一度熱処理されているため、摩擦せん断により繊維化などの変態することはない。そのため、摩擦トルクが安定するとともに、耐摩耗性も向上させる。例えば、モールディングパウダーまたはファインパウダーを熱処理した粉末、また、この粉末をさらにγ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーの成形体を粉砕した粉末、また、その後γ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーをγ線または電子線を照射した粉末などのタイプがある。
【0089】
本発明に使用できるPTFE樹脂の市販品としては、喜多村社製:KTL−610、KTL−350、KTL−8N、KTL−400H、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン(登録商標)7−J、旭硝子社製:フルオンG163、L169J、L170J、L173J、ダイキン工業社製:ポリフロンM−15、ルブロンL−5、ヘキスト社製:ホスタフロンTF9205、TF9207などが挙げられる。また、パーフルオロアルキルエーテル基、フルオルアルキル基、またはその他のフルオロアルキルを有する側鎖基で変性されたPTFEであってもよい。
【0090】
滑り軸受の外輪の耐摩耗性を向上させるため、外輪を形成する樹脂組成物に繊維状、燐片状または板状の補強材を配合することが好ましい。特に、150℃以上の高温で使用されるヒートローラ軸受の場合には、高温時の高強度・高弾性化が図れ、有用である。補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、スラグウール、マイカ、タルク、黒鉛、ガラスフレーク、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素などが挙げられる。
【0091】
補強材の配合比は、樹脂組成物全体に対して1〜20体積%が好ましく、さらに好ましくは5〜10体積%である。1体積%未満では耐摩耗性の向上が不十分であり、20体積%をこえると摩擦特性を阻害し、摺動相手材となる内輪を摩耗損傷するおそれがある。また、外輪を拡張して内輪に嵌め込む場合、剛性が高く割れる場合がある。
【0092】
上記補強材の中でも、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、マイカ、タルク、および黒鉛から選ばれる少なくとも1つを配合することが好ましい。これらを用いることで、補強効果を維持しながら、摺動相手材となる内輪の摩耗を抑制できる。また、樹脂成形体である外輪の耐摩耗性および高温での強度と弾性率の保持性をより高めることができる。上記補強材の中で、補強効果を維持しながら、摺動相手材となる内輪の摩耗を抑制できる補強材としては、燐片状であり、潤滑効果も持ち合わせている黒鉛が最も好ましい。なお、繊維状の補強材と合成樹脂との密着性を高めて補強効果を向上させるため、補強材の表面に、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などを含有した処理剤や、シラン系カップリング剤(シラン処理)などを用いて表面処理を施してもよい。
【0093】
本発明に用いる炭素繊維は、原材料から分類されるピッチ系またはPAN系のいずれであってもよいが、高弾性率を有するPAN系炭素繊維の方が好ましい。その焼成温度は特に限定するものではないが、2000℃またはそれ以上の高温で焼成されて黒鉛(グラファイト)化されたものよりも、1000〜1500℃程度で焼成された炭化品のものが、摺接する内輪を摩耗損傷しにくいので好ましい。炭素繊維の平均繊維径は20μm以下、好ましくは5〜15μmである。前記した範囲をこえる太い炭素繊維では、極圧が発生し、内輪の摩耗損傷が大きくなるため好ましくない。
【0094】
本発明に使用できる炭素繊維の市販品としては、ピッチ系として、クレハ社製クレカミルド(M101S、M101F、M101T、M107S、M1007S、M201S、M207S)、大阪ガスケミカル社製ドナカーボ・ミルド(S241、S244、SG241、SG244)が挙げられ、PAN系として、東邦テナックス社製テナックスHTA−CMF0160−0H、CMF0040−0Hなどが挙げられる。
【0095】
本発明に用いるアラミド繊維は、分子構造から分類されるパラ型またはメタ型のいずれのものであってもよい。アラミド繊維は有機物であるため、柔らかく、摺接する内輪を摩耗損傷させ難い。パラ型アラミド繊維の市販品としては、帝人社製トワロンおよびテクノーラ、デュポン社製ケブラーなどが挙げられ、メタ型アラミド繊維の市販品としては、帝人社製コーネックスなどが挙げられる。
【0096】
本発明に用いるウィスカとしては、チタン酸カリウムウィスカ(大塚化学社製)、酸化チタンウィスカ(石原産業社製)、酸化亜鉛ウィスカ(パナソニック社製)、ホウ酸アルミニウムウィスカ(四国化成工業社製)、炭酸カルシウムウィスカ(丸尾カルシウム社製)、ウォラストナイトなどが挙げられる。モース硬度は特に規定しないが、柔らかい方が好ましく、例えば、モース硬度4以下のチタン酸カリウムウィスカ(大塚化学社製)、炭酸カルシウムウィスカ(丸尾カルシウム社製)、ウォラストナイトが好ましい。
【0097】
燐片状または板状の補強材の中では、マイカ、黒鉛、タルクから選ばれる少なくとも1つを配合することが好ましい。炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカと併用添加してもよい。これらを用いることで、摩擦性能を阻害することなく、補強効果による耐摩耗性付与、摺動相手材となる内輪の摩耗抑制ができる。特に黒鉛は固体潤滑剤としての効果もあるので、好ましい。
【0098】
滑り軸受を介して定着ローラを接地するなど、滑り軸受に導電性が必要な場合は、樹脂部分である外輪に導電性を付与するため、外輪を形成する樹脂組成物に導電性カーボンを配合することが好ましい。配合率の調整にて、外輪の体積抵抗率は1×106Ωcm未満にすることが好ましい。
【0099】
導電性カーボンとしては、カーボンナノチューブ、フラーレン、あるいはカーボンパウダー、球状黒鉛があり、いずれも使用できる。これらの中で、カーボンパウダーは形状異方性がなく、コストパフォーマンスに優れるため好ましい。カーボンパウダーとしては、カーボンブラックがある。カーボンブラックとしては、サーマルブラック法、アセチレンブラック法等の分解法、チャンネルブラック法、ガスファーネスブラック法、オイルファーネスブラック法、松煙法、ランプブラック法等の不完全燃焼法のいずれの製法で製造されたものも使用できる。導電性の観点からファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)が好ましく用いられ、このうちケッチェンブラックが導電性に優れるためより好ましい。
【0100】
ケッチェンブラックは、その一次粒子径が30〜38nmであることが好ましい。この一次粒子径範囲であると、少量の配合量であっても十分な体積抵抗値が得られるようになる。また、ケッチェンブラックのBET比表面積は、1000〜1500m2/gが好ましい。この比表面積範囲であると、少量の配合量であっても体積抵抗値の安定性が優れるようになる。このようなケッチェンブラックとしては、ライオン社製ケッチェンブラックEC−600JD(一次粒子径34nm、BET比表面積1270m2/g)が挙げられる。
【0101】
なお、この発明の効果を阻害しない程度に、樹脂組成物に対して周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。例えば、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの摩擦特性向上剤、炭素粉末、酸化鉄、酸化チタンなどの着色剤、黒鉛、金属酸化物粉末などの熱伝導性向上剤を配合できる。
【0102】
以上の諸原材料を混合し、混練する手段は、特に限定するものではなく、粉末原料をヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダー、レディゲミキサー、ウルトラヘンシェルミキサーなどにて乾式混合し、さらに二軸押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレット(顆粒)を得ることができる。また、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。成形方法としては、製造効率の点で射出成形が好ましい。また、成形品に対してアニール処理などの処理を採用してもよい。
【0103】
溶製金属からなる内輪2について図6に基づき説明する。図6は滑り軸受の外輪のみの斜視図である。図6に示すように、内輪2は、外周の凹曲面2aの軸方向断面が弧状(R形状)である。この凹曲面2aが外輪との摺動面となる。このような形状にすることで、モーメント荷重を受けても緩和することができ、安定した受圧により、低トルク・低摩耗とすることができる。
【0104】
内輪2は、既存のボールベアリングなどの転がり軸受用の内輪を転用して用いることができる。この場合、外輪との摺動面となる外周の凹曲面2aが、転がり軸受の内輪転走面であり、高精度であるため、回転性能の安定化に繋がる。また、別途、本発明の滑り軸受用に内輪を製造する必要がなく、製造コストの削減が図れる。
【0105】
内輪2が溶製金属製であるので、焼結金属製の場合のように、粒子状金属の摩耗脱落や、基油が空孔に吸い込まれることによる潤滑性能の低下を防止できる。内輪2の材料は、溶製金属であれば、その種類は特に限定されない。例えば、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、ステンレス鋼、鋳鉄、アルミニウム合金、黄銅などが挙げられる。硬度が高いほど、外輪との摺接による摩耗損傷が少ないので好ましい。このような硬度が高い溶製金属としては、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼が挙げられる。また、高湿、液中など耐食性が必要な環境で使用する場合は、ステンレス鋼(マルテンサイト系、オーステナイト系)が好ましい。摺接による摩耗損傷を軽減するためには、焼入れなどの処理を施し、表面硬度を高めることが好ましい。なお、機能上の問題がなければ、防錆を目的としニッケルめっき、クロムめっきなどの表面処理を施してもよい。
【0106】
通常の転がり軸受の内輪の材料(例えば、高炭素クロム軸受鋼)が、安価に入手できるため特に好ましい。なお、通常の転がり軸受は焼入れを施されているが、機能上の問題がなければ、必ずしも焼入れをする必要はない。
【0107】
内輪2の外周の凹曲面(摺接面)の表面粗さは、0.3μmRa以下とすることが好ましい。表面粗さが小さいほど、加工による微細な凸にて樹脂外輪の掘り起こしの摩耗量が小さく、長寿命になるからである。また、表面粗さが小さいほど、低トルクになる。表面粗さの加工方法としては、旋削、研磨、超仕上げなどがあるが、特に限定されない。さらに好ましくは、表面粗さ0.1μmRa以下である。通常の転がり軸受の内輪は、超仕上げにより表面粗さ0.03μmRa以下であり、より一層の低摩耗化・低トルク化が図れる。
【0108】
内輪および外輪の摺動面(内輪と外輪とが摺動する面)には、潤滑油やグリースなどの潤滑剤を塗布することが好ましい。摺動面に潤滑剤を塗布し、介在させることで、摩擦トルク、摩耗量がさらに低減でき、性能寿命を大幅に長くする。潤滑剤としては、低トルク化できれば特に限定するものではなく、通常、滑り軸受に用いられるグリース、潤滑油(オイル)などを用いることができる。
【0109】
グリースを用いる場合、その基油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリブテン油、ポリ−α−オレフィン油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油、脂環式化合物などの炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、りん酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油などの非炭化水素系合成油などが挙げられる。これらの基油は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。
【0110】
また、グリースを構成する増ちょう剤としては、例えば、アルミニウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん、複合リチウム石けん、複合カルシウム石けん、複合アルミニウム石けんなどの金属石けん系増ちょう剤、ジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系化合物、PTFE樹脂などのフッ素樹脂粉末が挙げられる。これらの増ちょう剤は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。なお、上記各グリースには、必要に応じて公知の添加剤を配合してもよい。
【0111】
一般的に転がり軸受に使用される、フッ素グリース、ウレアグリース、リチウムグリースなどが潤滑性に優れ、市場実績もあり好ましい。本発明に使用できるフッ素グリースの市販品としては、NOKクリューバー社製バリエルタ、ノックスルーブ、ダイキン工業社製デムナムなどが挙げられる。ウレアグリースの市販品としては、協同油脂社製エクセライト、NOKクリューバー社製アンブリゴン、ペタモなどが挙げられる。リチウムグリースの市販品としては、昭和シェル石油社製アルバニアSグリース、協同油脂社製マルテンプSRLなどが挙げられる。基油粘度、グリースちょう度は特に限定するものではなく、滑り軸受の使用条件により、選定すればよい。
【0112】
これらグリースは、滑り軸受の使用部位、条件(耐熱性、機械的強度など)に合致し、最も安価に製造できるものを選定すればよい。例えば、画像形成装置における定着部の定着ローラや加圧ローラなどのヒートローラを支持する滑り軸受には、150℃以上の耐熱性が必要となる。このような条件下では耐熱性が高いフッ素グリース、ウレアグリースを用いることが好ましい。また、転写部の転写ベルトガイドの軸、現像部のカートリッジの軸、給排紙の紙送りローラまたは軸、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部の軸を支持する滑り軸受では、画像形装置内での蓄熱を考慮しても、100℃以下の使用であるため、汎用的で安価なリチウムグリースを選択すればよい。
【0113】
滑り軸受に導電性が必要な場合は、樹脂部分である外輪に導電性を付与し、かつ、内・外輪間に介在させる潤滑剤に導電性を付与する。グリースに導電性を付与するための配合剤は、特に限定するものではなく、黒鉛、導電性カーボンなどが例示できる。しかし、黒鉛の平均粒径は数μm〜数十μmと比較的大きいため、グリースとともにすべり面に入り、ざらつき摩耗形態となり、摺動性に悪影響を及ぼす場合がある。そのため、微粒子である上述の導電性カーボンが摺動性への影響が少なく好ましい。一般的に、転がり軸受に使用される導電性グリースを用いることがより好ましい。例えば、導電性のフッ素グリースとしては、NOKクリューバー社製バリエルタBFX3(導電性カーボン配合処方)、ハーベス社製ハイルーブFG−1222、1223などが挙げられる。
【0114】
また、潤滑油としては、上記グリースの基油と同種のものが挙げられる。潤滑油は、内輪と外輪間から流出する可能性があるため、軸受外に排出され難いグリースの方が好ましい。
【0115】
グリースの基油または潤滑油は、使用温度における動粘度が3〜100mm2/sであることが好ましい。3mm2/s未満では潤滑膜の形成が乏しく、摩擦トルクが高くなる。100mm2/sをこえると、粘性抵抗により、摩擦トルクが高くなるからである。さらに好ましくは、3〜50mm2/sである。
【0116】
潤滑状態は、運転すきまと、グリースの基油もしくは潤滑油の動粘度とに関連している。そのため、使用温度における運転すきま(運転すきま(mm)/内輪外周の凹部外径(mm))と、使用温度におけるグリースの基油または潤滑油の動粘度(mm2/s)との積(単位:mm2/s)は、0.01〜2であることが好ましい。0.01未満では、内外輪の接触面積大と潤滑膜の形成が乏しいことから、摩擦トルクが高くなる。2をこえると油の粘性抵抗で摩擦トルクが高くなる。さらに好ましくは0.02〜1である。
【0117】
本発明の画像形成装置は、本発明の滑り軸受と、該滑り軸受で支持されるローラまたは軸を備えるので、これらローラや軸における摩擦トルクの低減が図れ、モーメント荷重も許容できる。また、本発明の滑り軸受の製造コストが、ボールベアリングと比較して安価であり、断熱スリーブも不要であるので、装置全体として製造コストの低減が図れる。
【0118】
本発明の一実施例に係る画像形成装置を図7に基づいて説明する。図7は、画像形成装置の定着ローラ支持部の拡大断面図である。画像形成装置の定着ローラ5は、アルミニウムで中空に形成され、中空部に配設された加熱ヒータによって200℃程度まで加熱されるようになっている。定着ローラ5の軸部5aが、滑り軸受1の内輪2の軸受孔4に嵌合されて支持されている。滑り軸受1は、断熱スリーブを介さず、直接に定着ローラの軸部を支持している。また、滑り軸受1は、外輪3の外周に設けられたフランジ3fで画像形成装置のハウジング6と係合し、位置決めされている。
【0119】
定着ローラ5が、高温、高荷重のためベンディング(湾曲・撓み)し、モーメント荷重が発生した場合でも、滑り軸受1において、調芯し、これを許容することができる。また、定着ローラ5が帯電し印刷物の品質が劣化することを防止するため、滑り軸受1を上述の導電軸受にすることができる。滑り軸受1を導電軸受にすることで、軸部5aを滑り軸受1およびハウジング6を介して接地し、定着ローラ5に帯電する電気が逃されるように構成できる。また、軸受に非導電性が要求される場合には、断熱スリーブなどの別の絶縁部品を使用することなく、外輪を非導電性の材料にすることで、対処できる。
【0120】
本発明の滑り軸受の他の実施例(外輪が溶製金属製)を図8および図9に示す。図1から図7は溶製金属からなる内輪と樹脂組成物の成形体からなる外輪を組合せた滑り軸受であるのに対して、図8および図9は、溶製金属からなる外輪と樹脂組成物の成形体からなる内輪を組合せた滑り軸受である。図8は本発明の滑り軸受の斜視図であり、図9は滑り軸受の正面図、軸方向断面図(B−B断面)、および軸方向断面図の一部拡大図である。図8および図9に示すように、滑り軸受1’は、溶製金属からなる外輪3と、樹脂組成物の成形体である内輪2とを備えてなる。この滑り軸受1’は、ラジアル軸受である。図9に示すように、内輪2は、外周に凸曲面2bを、内周に支持軸と嵌合する軸受孔4をそれぞれ有している。外輪3は、内輪2の外周の凸曲面2bに対向接触して摺動する凹曲面3gを有する。凹曲面3gは外輪3の軸方向の一部(中央部)に、凸曲面2bは内輪2の軸方向の一部(中央部)に、それぞれ設けられている。ここで、外輪3の内周の凹曲面3gは、外輪3の内周側で周方向に連続して形成される凹部の表面であり、軸方向断面が弧状(R形状)の凹曲面である。また、内輪2の外周の凸曲面2bは、内輪2の外周側で周方向に連続または不連続で形成される凸部の表面であり、外輪3の凹曲面3gに対応した、軸方向断面が略弧状(R形状、必要に応じて一部に非曲面部あり)の凸曲面である。
【0121】
この態様の滑り軸受1’は、図1から図7の滑り軸受と構成部材および凹凸が逆であるが、同様にモーメント荷重を許容することができ、外輪と内輪の軸方向の位置ずれを防止できる。また、図1から図7の滑り軸受と同様に、内輪2の外周の凸曲面2bの曲率半径と、外輪3の内周の凹曲面3gの曲率半径とが異なることが好ましい。
【0122】
この態様の滑り軸受の組み立て順は、外輪3の内周の凹曲面3gと内輪2の凸曲面2bとが対向接触するように、内輪2を外輪3の最小内径以下に縮め、弾性変形により外輪3の凹曲面3gに嵌め込む。従って、組み立て後の内輪2は合い口が開いた状態となる。そのため、万一、初期の運転すきまがなくなるような事態が発生しても、合い口が閉じることで抱きつきを防止できる。
【0123】
使用温度における運転すきまは、内輪外周の凸部外径に対して2/1000〜25/1000であることが好ましい。さらに好ましくは上限が15/1000以下である。
【0124】
溶製金属からなる外輪3について図10に基づき説明する。図10はこの態様の滑り軸受の外輪のみの斜視図である。図10に示すように、外輪3は、内周の凹曲面3gの軸方向断面が弧状(R形状)である。この凹曲面3gが内輪との摺動面となる。このような形状にすることで、モーメント荷重を受けても緩和することができ、安定した受圧により、低トルク・低摩耗とすることができる。
【0125】
外輪3は、既存のボールベアリングなどの転がり軸受用の外輪を転用して用いることができる。この場合、内輪との摺動面となる内周の凹曲面3gが、転がり軸受の外輪転走面であり、高精度であるため、回転性能の安定化に繋がる。また、別途、本発明の滑り軸受用に外輪を製造する必要がなく、製造コストの削減が図れる。
【0126】
この態様の外輪3を形成する溶製金属は、図1〜7に示す態様の内輪を形成するものと同じ金属を使用でき、同様の効果が得られる。また、凹曲面3gの表面粗さについても、図1〜7に示す態様の内輪と同様に0.3μmRa以下とすることが好ましい。
【0127】
樹脂組成物の成形体からなる内輪2について図11および図12に基づき説明する。図11はこの態様の滑り軸受の内輪のみの斜視図であり、図12は内輪のみの正面図である。内輪2は、外周に、外輪の内周の凹曲面に対向接触する凸曲面2bを有する環状体である。なお、内輪の「環状体」とは、図11等に示すように離間した合い口を有し、一部が閉じていないものも含む。内輪2は外輪と組み合わせた後、外輪から容易に外れない構造であればよく、環状体の周方向長さは円周の180°をこえていればよい。ただし、グリースを塗布する場合は、グリース漏れ、グリースへの異物混入を避けるために、340°をこえるほうが好ましい。
【0128】
この態様の内輪2を形成する樹脂組成物は、図1〜7に示す態様の外輪を形成するものと同じ組成物を使用でき、同様の効果が得られる。
【0129】
図11および図12に示すように、内輪2は合い口2dを有する環状体である。合い口2dは少なくとも1ヶ所設ければよく、複数ヶ所設けてもよい。合い口を複数ヶ所設け、複数個をつなぎ合せた内輪にすると、外輪との組み立て工程において、内輪を縮める必要がないため、靭性がない合成樹脂で内輪を形成する場合に有用である。ただし、内輪の部品点数が多いと価格高になり、組み立て後に外輪から外れないように複数個をつなぎ合わせ、固定する必要があることから、1ヶ所の合い口を有する1部品にすることが好ましい。また、合い口が1ヶ所の方が、組み立て易く、組み立て後に外輪から容易に外れることがない。
【0130】
図12に示すように、内輪2の外周の凸曲面2bを構成する凸部は、合い口2dを基準とした±10°の範囲内には形成しないことが好ましい。すなわち、この範囲内には、凸曲面2bを有さないことが好ましい。凸曲面を有さない形状とは、特に限定するものではなく、凸曲面を全く設けない以外に、この範囲内の外径が他部分の外径より小さくなっていればよい。ここで、合い口を基準に±X°の範囲とは、円環状の内輪において、合い口(離間した2つの端部で構成される場合は、各端部端面間の円周方向での中心位置)の位置を円周位置で0°とし、これを基準に円環の中心角で±X°となる範囲をいう。図12では、内輪2の該凸部は、合い口2dを基準に±10°の範囲内には形成していない。
【0131】
複数ヶ所の合い口を有する内輪では、合い口が継ぎ目となり、外輪と摺接する外径側に飛び出した状態となる場合がある。そのとき、内輪は負荷部以外に合い口部も外輪と摺接し、摩擦トルクが不安定になる。また、1ヶ所のみの合い口を有する内輪でも、合い口が外径側に飛び出す場合があり、同様に摩擦トルクが不安定になる。内輪の凸曲面を構成する凸部を、合い口を基準とした±10°の範囲内には形成しないことで、合い口部(合い口周辺の内輪外周凸部)が外輪と摺接せず、摩擦トルクの安定化、軸受としての信頼性向上が図れる。
【0132】
また、図5の場合と同様に、内輪2の外周の凸曲面2bを構成する凸部の両端部は、内輪外周の接線に対して、90°以下の角度にすることが好ましい。より好ましくは60°以下である。なお、図12に示すように両端部を円弧面としている場合は、その断面において円弧両端を結んだ直線が、内輪外周の接線に対して上記角度になるようにすることが好ましい。大きなモーメント荷重を受けた際には、負荷部と180°反対側も外輪と摺接する。そのような場合、外輪が内輪外周凸部の端部に接触する可能性があり、接触時の物理的なエッジ効果が軽減されるからある。また、グリースを塗布した場合には、上記構成により、外周凸部の端部によるグリースのかきとりを防止でき、摩擦面へのグリース供給性が安定化する。図12では、内輪外周凸部の両端部は、内輪外周の接線に対して45°である。
【0133】
図9に示すように、内輪2の凸曲面2bには、該凸曲面2bの軸方向中央部の全周に非曲面部2cを形成することが好ましい。非曲面部2cは、軸方向断面が直線のフラット形状などにできる。図9に示すように、軸方向中央部の全周に非曲面部2cを形成することで、軸方向断面でみると、外輪3の凹曲面3gが、内輪2の凸曲面2bの頂点1ヶ所との接触ではなく、2箇所との接触にすることができ、内外輪の軸方向のガタを抑えることができる。また、摩擦トルクも安定する。また、最大外径が小さくなり、外輪への組み込み性にも優れる。
【0134】
また、樹脂組成物の射出成形体からなる内輪2とする場合は、非曲面部2cに射出成形におけるパーティングラインを形成することが好ましい。この構成により、内輪の射出成形が容易であり、パーティングラインに突状バリ、段差が発生しても外輪の摺接面と干渉しないため、摩擦力への悪影響がない。
【0135】
また、グリース、潤滑油などの潤滑剤を内・外輪間に介在させる場合には、非曲面部2cを形成することで、該非曲面部2cと外輪3の内周の凹曲面3gとの間に空間部分が確保される。この部分が潤滑剤保持溝となり、潤滑剤を保持する効果もある(図9参照)。なお、グリース、潤滑油としては、図1〜7に示す態様の場合と同じものを使用できる。
【0136】
グリース、潤滑油などの潤滑剤を内・外輪間に介在させる場合には、内輪2の外周の負荷部に、軸方向凹型の潤滑剤保持溝2fを少なくとも1ヶ所形成することが好ましい。負荷部が一定箇所の場合、潤滑剤保持溝は、図9に示すように負荷部に1ヶ所配置することが好ましい。また、装置の構造、軸受の使用箇所・使用方法から、負荷部が変わる、もしくはずれる場合には、外径の全周、もしくは負荷部に対し複数ヶ所の潤滑剤保持溝を設けることもできる。
【0137】
潤滑剤保持溝の内輪外周凸部の頂点からの深さ、周方向幅は特に限定されないが、グリースの保持効果を得るためには、深さは0.5mm以上、周方向幅は0.5mm以上であることが好ましい。ただし、周方向幅を広げすぎると、ガタツキ、溝底との接触の可能性が生じるため、周方向幅は内輪外径の10%以下にすることが好ましい。
【0138】
外輪および内輪の非摺接面には、定着装置などの装置内での位置決めや、装置もしくは軸へ固定するために、 凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを設けることが好ましい。図9では、内輪2に凸型の回り止め2e、外輪3に金属止め輪7が設けられている。凸型の回り止め2eは、軸などに形成される凹部(図示省略)と嵌合する。この結果、合い口部2dが負荷部となる、潤滑剤保持溝2fが負荷部からずれる、といった不具合の発生を抑制できる。
【0139】
なお、溶製金属からなる内輪と樹脂組成物の成形体からなる外輪を組合せた滑り軸受は、軸回転にて内輪が回転する用途に、溶製金属からなる外輪と樹脂組成物の成形体からなる内輪を組合せた滑り軸受は、外周のハウジングが回転する外輪回転する用途に、それぞれ適している。
【実施例】
【0140】
[実施例1〜8]
外輪は樹脂材の射出成形品、内輪は溶製金属の機械加工品(旋削加工、研削加工)とし、図1の構成にてグリースを内外輪間に介在させた試験軸受とした。主要寸法は以下の通りである。
内輪:φ25×φ27.5(外周凹部)×7mm
外輪:φ27.78(内周凸部)×φ37×7mm
摺接半径:φ27.5mm
【0141】
内輪の材質・凹曲面の加工方法と表面粗さ、外輪の材質・組成、グリースの種類を表1に示した。実施例1〜8の内輪は、ボールベアリング6805の内輪を転用しており、実施例1〜3、6〜8の内輪は完成品を、実施例4、5の内輪は途中工程品を用いている。グリースは内外輪の摺動曲面全体(両側)に0.3g塗布し、その後に外輪を拡張し図3のように内輪に組み付けた。
【0142】
実施例すべてにおいて、外輪の合い口の内周凸部は、図2、5に示した通りであり、合い口を基準に±10°の範囲内に形成せず、凸部の両端部は外輪内周の接線に対して45°とした。また、内輪の外周の凹曲面の曲率半径はR1.785〜1.81、外輪の内周の凸曲面の曲率半径は1.7〜1.75で、曲率半径は、(内輪の外周凹曲面)>(外輪の内周凹曲面)である。
【0143】
実施例すべてにおいて、外輪の合い口は試験前に既に突き当たった状態とし、外輪の内周の凸部内径は、内輪の外周の凹部外径より大きく、その径差は0.28mmとした。すなわち、この径差が試験軸受の室温時の運転すきま0.28mm(内輪の外周凹部外径に対して10/1000)である。なお、実施例1〜6の180℃における運転すきまは、0.41mm(内輪の外周凹部外径に対して15/1000)である。
【0144】
外輪は合成樹脂の射出成形体であり、外輪の内周の凸曲面は、軸方向中央部の全周に非曲面部が形成され、ここにパーティングラインが形成されている。
【0145】
実施例1〜2、4〜8の外輪の潤滑剤保持溝は、図2、4に示した通りであり、負荷部に周方向幅2×深さ1mmの溝を1ヶ所設けた。実施例3では、この潤滑剤保持溝を形成しなかった。なお、すべての実施例において、外輪には図4に示したフランジおよび凹型回り止めを形成した。
【0146】
実施例および比較例の外輪に用いる樹脂材の原材料を一括して以下に示した。
(1)PPS樹脂〔PPS〕 東ソー社製:サスティール#160(半架橋型)
(2)変性PA6T樹脂〔PA6T〕 三井化学社製:アーレンAE4200
(3)POM樹脂〔POM〕 ポリプラスチックス社製:ジュラコンSW−01
(4)黒鉛〔GRP〕 ティムカルジャパン社製:TIMREX KS6(平均粒径6μm)
(5)PTFE樹脂〔PTFE〕 喜多村社製:KTL−610(再生PTFE)
(6)導電性カーボン〔CB〕 ライオン社製:ケッチェンブラックEC−600JD
【0147】
[比較例1〜4]
比較例1、2はNTN製定着ローラ用ボールベアリング6805ZZ(内径φ25×外径φ37×幅7mm)を試験軸受とした。比較例1には、非導電性フッ素グリース(NOKクリューバー社製ノックスルーブBF4023)を、比較例2には、非導電リチウムグリース(協同油脂社製マルテンプSRL)を封入した。なお、フランジとして止め輪を取り付けた。
【0148】
比較例3、4は射出成形した樹脂製滑り軸受(φ27.5×φ34×7mm)を試験軸受とした。樹脂製滑り軸受の材質を表2に示した。なお、樹脂相手軸と試験軸受の運転すきまは0.28mm(相手軸径に対して10/1000)とした。なお、樹脂製滑り軸受の外周にフランジ、凸型回り止めを形成した。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【0151】
<製造コスト>
滑り軸受の製造コストについて、実施例1を100(基準)とし、実施例1〜6、比較例1、3の製造コスト(算出コスト)を相対比較して表3に示した。
【0152】
【表3】
【0153】
<摩擦摩耗試験>
ラジアル試験機を用いて、試験軸受の摩擦係数を測定した。ラジアル試験機は、相手軸の中央にカートリッジヒータを挿入しており、相手軸を加熱、熱電対にて軸表面温度をコントロールすることができる。試験軸受は専用ハウジングに固定し、その状態で内径に相手軸を通し、専用ハウジングの下部に荷重を加え、相手軸を回転させる。試験条件を表4に示す。試験条件(1)は複写機の定着装置の定着ローラ軸受を想定し高温、試験条件(2)は転写部の軸受を想定し室温(25℃)で試験を行った。20時間後の摩擦係数、摩耗量を表1、2に併記した。
【0154】
【表4】
【0155】
表1に示したとおり、本発明品である実施例1〜8は部品点数が2つと少なく、低摩擦低摩耗であった。特に軸受内輪を使用し、外輪内周に潤滑剤保持溝を形成した実施例1、2、7、8は、非常に低摩擦低摩耗であった。また、部品点数が多いボールベアリングと比較し、製造コストは1/2以下となった。一方、樹脂製滑り軸受である比較例1、2は安価であるが、摩擦係数は2、3倍、摩耗量も5倍と、摩擦摩耗特性に劣っていた。
【0156】
<運転すきまと摩擦係数の関係>
試験片として実施例1の試験軸受(外輪の内径寸法の変更あり)を用い、試験条件として表4の試験条件(1)により、運転すきまと摩擦係数の関係を調べた。実施例1の軸受試験片の外輪の内径寸法の種々変更することで、試験温度180℃における運転すきまを変化させ、180℃における運転すきま(運転すきま(mm)/内輪外周の凹部外径(mm))と試験20時間後の摩擦係数との関係を求めた。結果を図13に示す。図13に示すように、運転すきまが、2/1000未満では摩擦係数が大幅に増大した。
【0157】
<グリースの基油の動粘度と摩擦係数の関係>
試験片として実施例1の試験軸受を用い、試験条件として表4の試験条件(1)(温度変更あり)により、グリースの基油の動粘度と摩擦係数の関係を調べた。表4の試験条件(1)における試験温度を変更(40℃、100℃、180℃、200℃)することで、フッ素グリースの基油の動粘度を2〜390mm2/sの範囲で変化させ、基油の動粘度と試験20時間後の摩擦係数との関係を求めた。結果を図14に示す。図14に示すように、グリースの基油の動粘度とともに摩擦係数が増加する傾向にあることが分かる。
【0158】
<運転すきまとグリースの基油の動粘度との積に対する摩擦係数の変化>
潤滑状態は、運転すきまと、グリースの基油もしくは潤滑油の動粘度とに関連している。そのため、上記試験結果から、運転すきま(運転すきま(mm)/内輪外周の凹部外径(mm))とグリースの基油の動粘度(mm2/s)の積(単位:mm2/s)に対する摩擦係数の変化を図15に示す。図15に示すように、0.1付近に摩擦係数の極小値があり、積の減少、増加とともに増加した。摩擦係数を低く安定させるには、この積が0.01〜2(mm2/s)の範囲であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の滑り軸受は、摩擦トルクが低く自己断熱性効果を有しながら、ボールベアリングと比較して部品点数が少なく構造が簡単であり、製造も容易であり、相手となるローラまたは軸の材質・表面粗さに摩擦摩耗特性が影響されず、モーメント荷重も許容できる滑り軸受である。摩擦トルクと製造コストの両面において、ボールベアリングと従来の樹脂製滑り軸受の中間特性を有するので、複写機、複合機、プリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置における定着部の定着ローラや加圧ローラなどのヒートローラ、現像部、感光部、転写部、排紙部、給紙部など各種ローラもしくは軸などの支持に用いる滑り軸受、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部などに用いる滑り軸受として好適に利用できる。複写機、複合機、プリンタ、ファクシミリ以外の各種産業機械・装置、自動車および電装補機においても、使用条件(PV、温度など)が適していれば、ボールベアリング、従来の樹脂製滑り軸受の代替品として利用可能である。なお、軸受の運動形態(一方向回転、揺動回転)、内輪回転・外輪回転は特に限定されない。ただし、外輪内周の凸曲面が部分的に形成されていない場合には、外輪回転すると凸曲面のエッジが内輪と接触する。よって、外輪回転にて使用するときには、外輪内周の凸曲面は全周にわたって形成することが好ましい。同様に、内輪外周の凸曲面が部分的に形成されていない場合も、内輪回転にて使用するときには、内輪外周の凸曲面は全周にわたって形成することが好ましい。
【符号の説明】
【0160】
1、1’ 滑り軸受
2 内輪
2a 凹曲面
2b 凸曲面
2c 非曲面部
2d 合い口
2e 回り止め
2f 潤滑剤保持溝
3 外輪
3a 凸曲面
3b 合い口
3c 非曲面部
3d 潤滑剤保持溝
3e 回り止め
3f フランジ
3g 凹曲面
4 軸受孔
5 定着ローラ
6 ハウジング
7 金属止め輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪とを備えてなるラジアル滑り軸受であって、
前記内輪および前記外輪のいずれか一方が、軸方向の一部に凹曲面を有する溶製金属からなり、
他方が、軸方向の一部に前記凹曲面に対向接触して摺動する凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなり、
前記内輪と前記外輪とは、前記凸曲面と前記凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転することを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
前記内輪および前記外輪は、(1)前記内輪が、外周に前記凹曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する溶製金属からなり、前記外輪が、内周に前記凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなる組み合わせ、または、(2)前記内輪が、外周に前記凸曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する樹脂組成物の成形体からなり、前記外輪が、内周に前記凹曲面を有する溶製金属からなる組み合わせ、であることを特徴とする請求項1記載の滑り軸受。
【請求項3】
前記樹脂組成物の成形体が、少なくとも1ヶ所の合い口を有する環状体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の滑り軸受。
【請求項4】
前記凸曲面を構成する凸部が、前記合い口を基準とした±10°の範囲内には形成されていないことを特徴とする請求項3記載の滑り軸受。
【請求項5】
前記凹曲面の表面粗さが0.3μmRa以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項6】
前記溶製金属が、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、またはステンレス鋼であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項7】
前記溶製金属からなる内輪が転がり軸受用の内輪である、または、前記溶製金属からなる外輪が転がり軸受用の外輪である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項8】
前記樹脂組成物のベース樹脂が、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、およびポリアセタール樹脂から選ばれる少なくとも1つの合成樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項10】
前記樹脂組成物が、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、マイカ、黒鉛、およびタルクから選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項11】
前記樹脂組成物が導電性カーボンを含み、前記樹脂組成物の成形体の体積抵抗率が1×106Ωcm未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項12】
前記外輪が樹脂組成物の成形体であり、前記合い口が突き当たった状態において、前記外輪の内周の凸曲面を構成する凸部内径が、前記内輪の外周の凹曲面を構成する凹部外径よりも大きいことを特徴とする請求項3ないし請求項11のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項13】
前記凹曲面の曲率半径と、前記凸曲面の曲率半径とが異なることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項14】
前記凸曲面は、該凸曲面の軸方向中央部の全周に非曲面部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項15】
前記樹脂組成物の成形体が射出成形体であり、前記非曲面部に射出成形におけるパーティングラインが形成されていることを特徴とする請求項14記載の滑り軸受。
【請求項16】
前記内輪および前記外輪の摺動面に潤滑剤が介在していることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項17】
前記樹脂組成物の成形体の負荷部に、軸方向凹型の潤滑剤保持溝が少なくとも1箇所形成されていることを特徴とする請求項16記載の滑り軸受。
【請求項18】
前記潤滑剤が、フッ素グリース、ウレアグリース、およびリチウムグリースから選ばれる少なくとも1つのグリースであることを特徴とする請求項16または請求項17記載の滑り軸受。
【請求項19】
前記外輪または内輪が、凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを非摺接面に有することを特徴とする請求項1ないし請求項18のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項20】
前記滑り軸受が、画像形成装置における定着部、転写部、現像部、もしくは給排紙の紙送りローラ、または、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部に用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項19のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項21】
請求項1ないし請求項20のいずれか1項記載の滑り軸受と、該滑り軸受で支持されるローラまたは軸とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
内輪と、外輪とを備えてなるラジアル滑り軸受であって、
前記内輪および前記外輪のいずれか一方が、軸方向の一部に凹曲面を有する溶製金属からなり、
他方が、軸方向の一部に前記凹曲面に対向接触して摺動する凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなり、
前記内輪と前記外輪とは、前記凸曲面と前記凹曲面との接触部分以外が非接触で相対的に回転することを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
前記内輪および前記外輪は、(1)前記内輪が、外周に前記凹曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する溶製金属からなり、前記外輪が、内周に前記凸曲面を有する樹脂組成物の成形体からなる組み合わせ、または、(2)前記内輪が、外周に前記凸曲面を、内周に支持軸と嵌合する軸受孔をそれぞれ有する樹脂組成物の成形体からなり、前記外輪が、内周に前記凹曲面を有する溶製金属からなる組み合わせ、であることを特徴とする請求項1記載の滑り軸受。
【請求項3】
前記樹脂組成物の成形体が、少なくとも1ヶ所の合い口を有する環状体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の滑り軸受。
【請求項4】
前記凸曲面を構成する凸部が、前記合い口を基準とした±10°の範囲内には形成されていないことを特徴とする請求項3記載の滑り軸受。
【請求項5】
前記凹曲面の表面粗さが0.3μmRa以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項6】
前記溶製金属が、高炭素クロム軸受鋼、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼、またはステンレス鋼であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項7】
前記溶製金属からなる内輪が転がり軸受用の内輪である、または、前記溶製金属からなる外輪が転がり軸受用の外輪である、ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項8】
前記樹脂組成物のベース樹脂が、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、およびポリアセタール樹脂から選ばれる少なくとも1つの合成樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項9】
前記樹脂組成物が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項10】
前記樹脂組成物が、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ、マイカ、黒鉛、およびタルクから選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項11】
前記樹脂組成物が導電性カーボンを含み、前記樹脂組成物の成形体の体積抵抗率が1×106Ωcm未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項12】
前記外輪が樹脂組成物の成形体であり、前記合い口が突き当たった状態において、前記外輪の内周の凸曲面を構成する凸部内径が、前記内輪の外周の凹曲面を構成する凹部外径よりも大きいことを特徴とする請求項3ないし請求項11のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項13】
前記凹曲面の曲率半径と、前記凸曲面の曲率半径とが異なることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項14】
前記凸曲面は、該凸曲面の軸方向中央部の全周に非曲面部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項15】
前記樹脂組成物の成形体が射出成形体であり、前記非曲面部に射出成形におけるパーティングラインが形成されていることを特徴とする請求項14記載の滑り軸受。
【請求項16】
前記内輪および前記外輪の摺動面に潤滑剤が介在していることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項17】
前記樹脂組成物の成形体の負荷部に、軸方向凹型の潤滑剤保持溝が少なくとも1箇所形成されていることを特徴とする請求項16記載の滑り軸受。
【請求項18】
前記潤滑剤が、フッ素グリース、ウレアグリース、およびリチウムグリースから選ばれる少なくとも1つのグリースであることを特徴とする請求項16または請求項17記載の滑り軸受。
【請求項19】
前記外輪または内輪が、凹型の回り止め、凸型の回り止め、および、フランジから選ばれる少なくとも1つを非摺接面に有することを特徴とする請求項1ないし請求項18のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項20】
前記滑り軸受が、画像形成装置における定着部、転写部、現像部、もしくは給排紙の紙送りローラ、または、インクジェットプリンタのインクカートリッジ用キャリッジのベルト駆動部に用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項19のいずれか1項記載の滑り軸受。
【請求項21】
請求項1ないし請求項20のいずれか1項記載の滑り軸受と、該滑り軸受で支持されるローラまたは軸とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−79714(P2013−79714A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277563(P2011−277563)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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