説明

漁船団の船舶間通信システム

【課題】 漁船団内の複数の船舶間で操業に関する情報を他船団に漏洩することなく共有し、ベテランが居なくとも共有情報に基づいて効率的な操業を実現させることができる漁船団の船舶間通信システムを提供する。
【解決手段】 網船10、魚探船20a、20b、および運搬船40a、40bには、情報処理装置11、21、および41と、無線ルータ12、22、および42とが備えられている。網船10、魚探船20a、20b、および運搬船40a、40bの情報処理装置11、21、および41は、魚群探知機24による探知結果を含む操業に関する情報を、その秘匿性を維持した状態で、無線ルータ12、22、および42および移動通信ネットワーク100を介して相互に通信する。網船10の情報処理装置11は、通信された情報に基づいて、巻き網船団の操業を無線ルータ12および移動通信ネットワーク100を介して指揮統制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網船、魚探船、および運搬船から成る巻き網船団等の漁船団による操業を支援して操業の高効率化を図るための漁船団の船舶間通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な巻き網船団は、例えば、1隻の網船(母船)と、1〜2隻以上の魚探船(灯船ともいう)と、1〜2隻以上の運搬船とにより構成されている。一般に、網船は、巻き網の網入れ(敷網または配網ともいう)および巻き網の巻き上げ機構を備えており、巻き網船団の母船の役割を担う。魚探船は、魚群探知機を備えている。運搬船は、巻き網内の魚を吸い上げる機構および吸い上げた魚を貯蔵する船倉を備えている。
【0003】
従来、網船に乗船する漁労長が無線機を使用して魚探船、運搬船各船に対して操業に関する全ての指示を行っている。ここで、従来の巻き網船団の操業フローについて説明する。出漁前に海洋情報、魚群情報を収集し、船団の出漁計画を立案し、操業場所、魚種、推定漁獲量、水揚げ港等を決めてから出漁する。出漁後、先ず、例えば2隻の魚探船が魚群探知機を使用して操業海域周辺の魚群探索を行い、その都度、探索状況、魚群状況を無線機を使用して網船に乗っている漁労長に通話で連絡する。漁労長は、先の出漁計画と2隻の魚探船からの状況報告とに基づいて操業ポイントを決定し、そのポイントで操業を開始する。このときに、1隻の運搬船は、網船が敷網機構および巻き上げた巻き網内から魚を吸い上げて船倉に納め、船倉が満タンになると、水揚げ港に向かう。操業中に漁労長は、魚探船に次の探索海域を指示し、探索を行わせ、操業終了と共に次の操業ポイントに移動する。こうした作業を目標漁獲量を達成するまで繰り返す。
【0004】
尚、漁船団ではないが、タンカーの船団(フリート)の運行を支援するシステムについては、例えば、特許文献1に船舶船団コントロールシステムが開示されている。この船舶船団コントロールシステムは、陸上管理センタと船団を構成する複数の船舶との間で情報送受を行う。陸上管理センタには、荷役計画を策定するために必要な情報を記憶したデータベースと、荷役オーダに応じて配船計画を自動的に立案する配船計画システムと、その配船計画に基づいて荷役計画を策定すると共に、策定した荷役計画を一旦シミュレートして良好であることが確認された荷役計画に関する情報を各船舶に送信する自動荷役計画システムとが配置されている。
【0005】
また、船団の操業を支援する技術ではないが、魚群探知機による情報をこれに接続された送信装置から受信装置に対して無線送信する技術として、例えば、特許文献2に魚群魚群探知情報無線伝送表示システムが開示されている。この魚群魚群探知情報無線伝送表示システムは、遊漁船(レジャー釣り船)に搭載された魚群探知機および無線送信機の組み合わせから魚群探知情報を距離20〜30メートルの範囲で送信し、遊漁船に乗った釣り客が携帯する画像表示器付きの無線受信機で受信および画像表示するシステムである。
【0006】
【特許文献1】特開2003−346299号公報
【特許文献2】特開2003−344530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の漁船団の操業において、各船舶間の連絡は無線機による口頭通話で行われているため、操業ポイント情報、魚群情報等の漁船団を保有する漁業者にとっては企業秘密に類する情報が他業者によって傍受され、傍受した情報を元に他業者が先に網入れしてしまうことが間々あった。
【0008】
また、魚群探知機の影像から魚種や漁獲を推定するには長い経験が必要であるため、魚探船に所謂ベテランの乗船が不可欠であるものの、漁業者の高齢化に伴い、ベテランを確保することが難しいという実情にある。
【0009】
さらに、操業計画の際には、漁業者の事務所において、海洋情報や過去の魚群情報等の資料に基づいて、ベテランが、その経験と所謂勘を頼りに予め立案するが、突然の海洋情報やリアルタイムな魚群情報の変化もあり得るため、いわば当たり外れが多い操業になりがちであった。この対策として、船団が実際に洋上に航行中に最新の情報に応じて操業計画を変更することが望ましいものの、上述のごとく船舶間の情報伝達は無線機による口頭通話であるため、操業計画を迅速、的確に変更することは困難である。
【0010】
一方、近年、船団を組んだ大規模な漁による漁獲量は、世界的な取り決め等により、所定量に制限されている現状にある。このため、限られた漁獲量を如何に効率よく達成できるかは、漁業者にとって重要なことである。つまり、操業の一層の高効率化が望まれている。
【0011】
尚、特許文献1では、洋上の船団と陸上管理センタとを通信網で接続し、船団全体を効果的に指揮統制しようとするものであるが、荷役業務の船舶であり、巻き網船団のコントロールに供することはできない。また、船団の各船舶の指揮統制には船団とは遠隔にある陸上管理センタが必須であり、航行域のリアルな情報を反映した指揮統制は必ずしも期待できるものではない。
【0012】
また、特許文献2では、魚群探知機情報の無線伝送システムを提案しているが、これはレジャー釣り船に乗船している釣り客に対して魚群探知機から得られた魚群深度や水深等の情報を距離20〜30メートルの範囲内、つまり、一隻の船舶内で配信するものであり、情報を他の船舶に送信する機能は有していない。
【0013】
それ故、本発明の課題は、漁船団内の役割分担された複数の船舶間で操業に関する情報を他船団に漏洩することなく共有し、ベテランが居なくとも共有情報に基づいて効率的な操業を実現させることができる漁船団操業支援システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、巻き網の敷網機構および巻き上げ機構を備えた母船としての網船と、魚群探知機を備えた魚探船と、巻き網内の魚を吸い上げる機構および吸い上げた魚を貯蔵する船倉を備えた運搬船とから成る巻き網船団に適用され、巻き網船団による操業を支援するための漁船団の船舶間通信システムにおいて、前記網船、前記魚探船、および前記運搬船にはそれぞれ、情報処理装置と、無線ルータとが備えられ、前記網船、前記魚探船、および前記運搬船の各前記情報処理装置は、前記魚群探知機による探知結果を含む操業に関する情報を、その秘匿性を維持した状態で、前記無線ルータおよびネットワークを介して相互に通信し、前記網船の前記情報処理装置は、前記通信された情報に基づいて、巻き網船団の操業を前記無線ルータおよび前記ネットワークを介して指揮統制することを特徴とする漁船団の船舶間通信システムが得られる。
【0015】
本発明によればまた、前記魚探船の前記情報処理装置は、前記魚群探知機による探知結果を、前記網船に前記無線ルータおよび前記ネットワークを介して送信し、前記運搬船の前記情報処理装置は、前記船倉の貯蔵状況を表す情報を、前記網船に前記無線ルータおよび前記ネットワークを介して送信し、前記網船の前記情報処理装置は、前記魚群探知機による探知結果を、前記魚探船から前記ネットワークおよび前記無線ルータを介して受信し、該探知結果に基づいて最新の操業計画を自動的に立案し、該操業計画を表す情報を前記魚探船および前記運搬船に前記無線ルータおよび前記ネットワークを介して送信することで巻き網船団の操業を指揮統制する前記漁船団の船舶間通信システムが得られる。
【0016】
本発明によればさらに、魚群を探知する魚探船と、当該魚探船からの探知結果にしたがって網を入れ、かつ、網を巻き上げる網船とを含む漁船団の船舶間通信システムにおいて、前記魚探船は、時々刻々変化する探知結果を得る手段と、探知位置情報を得る手段と、前記探知結果および前記探知位置情報を前記漁船団に割り当てられた識別情報と共に出力する手段とを有し、前記網船は、受信した探知結果および探知維持情報とに基づいて操業を行うことを特徴とする漁船団の船舶間通信システムが得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明による漁船団の船舶間通信システムは、漁船団内の複数の船舶間で操業に関する情報を他船団に漏洩することなく共有し、ベテランが居なくとも共有情報に基づいて効率的な操業を、ひいては生産性の向上を実現させることができる。
【0018】
また、情報に基づく操業の実施により、定量的漁業活動ができる。
【0019】
データベースに現場の情報を蓄積することで、今後の出漁計画の立案に有益であると共に、企業のノウハウが高まる。
【0020】
より具体的には、船団の各船に情報処理装置を設け、相互にネットワークで接続することにより、データベースに基づく効率的な操業が実現できる、魚群探知機の影像情報を配信することで、魚探船にベテラン漁師を乗船させる必要がなくなる。また、ネットワークによる情報交換、情報通信を行うことで、従来の無線機による連絡のように企業秘密を傍受される問題も回避できる。
【0021】
また、船団の各船を他社に情報漏洩しないネットワークで接続し、相互に情報、情報、指揮等の通信を行い、さらに、魚探船の魚群探知機の影像をデジタルカメラで撮影し、網船に送り、網船に乗っている漁労長が目で見て判断できるようにし、各船の端末装置はデータベース機能を持たせて操業に必要な情報をいつでも利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
【0023】
本発明の実施例による漁船団操業支援システムは、巻き網の敷網機構および巻き上げ機構を備えた母船としての網船10と、魚群探知機24を備えた2隻の魚探船20a、20bと、巻き網内の魚を吸い上げる機構および吸い上げた魚を貯蔵する船倉を備えた2隻の運搬船40a、40bとから成る巻き網船団に適用され、巻き網船団による操業を支援するためのものである。
【0024】
図1を参照して、本漁船団操業支援システムにおいては、網船10には、画像ディスプレイを備えた情報処理装置11と、情報処理装置11に接続された無線ルータ12とが備えられている。魚探船20a、20bにはそれぞれ、画像ディスプレイを備えた情報処理装置21と、情報処理装置21に接続された無線ルータ22とが備えられている。運搬船40a、40bにはそれぞれ、画像ディスプレイを備えた情報処理装置41と、情報処理装置41に接続された無線ルータ42とが備えられている。
【0025】
網船10、魚探船20a、20b、および運搬船40a、40bの各情報処理装置11、21、および41は、魚探船20a、20bの各魚群探知機24による探知結果を含む操業に関する情報を、その秘匿性を維持した状態で、無線ルータ12、22、42および移動通信ネットワーク100を介して相互に通信する。
【0026】
網船10の情報処理装置11は、通信された情報に基づいて、無線ルータ12および移動通信ネットワーク100を介して魚探船20a、20b、運搬船40a、40bに対して指揮情報を送信し、巻き網船団の操業を指揮統制する。
【0027】
尚、指揮情報の各項目には、各船舶の識別情報が付加されている。例えば、2隻の魚探船のうちの一方である魚探船20aの識別情報が付加された項目は「目標総漁獲高まで残りXトンであるから、Xトンの漁獲を見込める次の操業ポイントを探索せよ」との指令である。また、2隻の運搬船のうちの一方である運搬船40aの識別情報が付加された項目は「現在敷網中の巻き網の漁獲見込みはYトンであり、船倉容量残りがYトン以上である貴船は、魚の吸い上げに備えてこのまま待機せよ」との指令である一方、2隻の運搬船のうちの他方である運搬船40bの識別情報が付加された項目は「現在敷網中の巻き網の漁獲見込みはYトンであり、船倉容量残りがYトン未満である貴船は、現在の貯蔵魚を積み下ろすべく、イロハ港に向けて出航せよ」との指令である。
【0028】
より具体的には、魚探船20a、20bの情報処理装置21は、魚群探知機24による探知結果を、網船10に無線ルータ22および移動通信ネットワーク100を介して送信する。
【0029】
運搬船40a、40bの情報処理装置41は、船倉の貯蔵状況を表す情報を、網船10に無線ルータ42および移動通信ネットワーク100を介して送信する。
【0030】
網船10の情報処理装置11は、魚群探知機24による探知結果を、魚探船20a、20bから移動通信ネットワーク100および無線ルータ12を介して受信し、探知結果に基づいて最新の操業計画を自動的に立案し、操業計画を表す情報を魚探船20a、20bおよび運搬船40a、40bに無線ルータ12および移動通信ネットワーク100を介して送信する。
【0031】
網船10にはさらに、情報処理装置11に接続され、操業に関する情報を更新可能に記憶するためのデータベース13が備えられている。尚、データベースは、網船10のみに限らず、魚探船20a、20b、運搬船40a、40bにも設けてもよい。各データベースには、最低限、各船舶に必要な情報のみを記憶すればよい。
【0032】
魚探船20a、20bはさらに、図示はしないが、魚群探知機24による探知結果としての画像情報を情報処理装置で処理可能な形式に変換するための手段を有している。この手段は、例えば、魚群探知機24の画像出力端子と情報処理装置21の情報入力端子とを仲介するインターフェースや、魚群探知機24に画像出力端子が無い場合にはデジタルカメラによって構成することができる。尚、画像情報は、洋上での無線ネットワーク通信が通常帯域幅が狭く容量および伝送速度共に低いため、可能な限り、情報圧縮することが好ましい。
【0033】
魚探船20a、20bにはさらに、魚探船の位置情報を生成し、情報処理装置に供給するためのGPS(Global Positioning System)装置25が備えられている。魚探船20a、20bはまた、この他、水深、潮流の向き、潮速、波高、水温、水質等の海洋情報や、天気、気圧、風速、風向き、風速、気温、湿度等の気象情報を測定や検出するセンサ類をも備えており、魚群情報や位置情報と共に、網船10に対して送信する。
【0034】
尚、GPS装置は、魚探船20a、20bにだけではなく、網船10、運搬船40a、40bにも備えられていることが好ましい。この場合、各船は相互に自船の位置情報を送受し、他船の位置を把握できる。
【0035】
移動通信ネットワーク100は、少なくとも一部にイントラネットを含んでいてもよい。尚、本発明におけるイントラネットとは、一船団を一企業と見立て、船団内の船舶間の通信をインターネット技術を利用して行うものをいう。移動通信ネットワーク100はまた、少なくとも一部に人工衛星波を利用した無線ネットワーク(通信人工衛星および人工衛星用地上局をも含む)を含んでいてもよい。この無線ネットワークは、具体的には、例えばN−STAR衛星移動通信やインマルサット衛星移動通信等を利用可能である。移動通信ネットワーク100はさらに、少なくとも一部にインターネットを含んでいてもよい。いずれにしても、移動通信ネットワーク100は、無線によるデータ通信を実行可能なものであればよい。ただし、送受信情報が他船団(他漁業者)から不正傍受不可能とする策を施す。
【0036】
さらに、本システムにおいては、船団の操業を運営する漁業者の陸上の事務所60に設けられた情報処理装置61およびルータ62を有している。情報処理装置61は、操業に関する情報を、その秘匿性を維持した状態で、ルータ62、イントラネット200、およびNTT専用線またはISDN(Integrated Services Digital Network)である回線300等を介して、少なくとも網船10の情報処理装置11と通信する。事務所60にはさらに、情報処理装置61に接続され、操業に関する情報を更新可能に記憶するためのデータベース63が備えられている。データベース63には、網船10のデータベース13に記憶される情報と同期した情報に加え、さらに多くの過去の操業の情報や、他の船団の操業情報をも記憶しておき、操業計画の立案に役立てることができる。
【0037】
イントラネット200は、移動通信ネットワーク100と別体であっても、あるいは、一体であってもよい。イントラネット200は、移動通信ネットワーク100とは別体の場合には勿論、移動通信ネットワーク100と接続可能であることを必須とする。また、イントラネット200は、少なくとも一部にイントラネットを含んでいさえすれば、人工衛星波を利用した無線ネットワーク、あるいはインターネットをさらに含んでいてもよい。ルータ62は、イントラネット200の事務所60側端の形式によって、有線ルータか無線ルータが選択される。
【0038】
回線300を介して接続された移動通信ネットワーク100およびイントラネット200は、その全体を1つのイントラネットと見なすこともできる。
【0039】
次に、本システムを利用した巻き網船団の操業を例に、本システムの動作を説明する。
【0040】
図1を参照して、事務所60の情報処理装置61は、データベース63に記憶された、以前の出漁時に網船10の情報処理装置11から移動通信ネットワーク100およびイントラネット200を介して得た情報を参照するなどして、今回の操業計画を立案し、網船10に送信する。網船10の情報処理装置11は、データベースに立案された操業計画を記憶する。
【0041】
巻き網船団は、操業計画に基づいて出漁する。即ち、網船10、2隻の魚探船20a、20b、および2隻の運搬船40a、40bは、操業計画にある所定海域に向けて出航する。
【0042】
所定海域上において、網船10は、情報処理装置11から無線ルータ12を経由して移動通信ネットワーク100に巻き網船団の操業計画、各船の配置等の情報を発信し、魚探船20a、20bおよび運搬船40a、40bは、網船10の指令を移動通信ネットワーク100を通して受信し、指令に従って行動する。
【0043】
魚探船20a、20bは、所定海域で魚群探知機24を作動させて魚群探索を行い、魚群を発見すると、魚群探知機24の影像をデジタルカメラ等の画像変換手段を介して情報処理装置21に供給する。情報処理装置21では、画像情報を圧縮すると共に、GPS装置25が測定した位置情報ならびに各種センサで検出した海洋情報や気象情報と共に、移動通信ネットワーク100を経由して網船10に通知する。
【0044】
網船10に乗っている漁労長もしくは情報処理装置11の操作者は、2隻の魚探船20a、20bから得た情報から、どちらの魚探船が探索したポイントで操業するかを決定し、そのポイントに網船10および運搬船40a、40bを移動させ、巻き網操業を開始する。このとき、2隻の魚探船20a、20bはそれぞれ、新たな魚群を探しに別の海域に移動する。運搬船40a、40bは、巻き網から魚を水上げし、船倉に納める。運搬船40a、40bの情報処理装置41は、収穫魚を効率よく市場に搬送するために、市場状況を把握した上で最適な港に向けて移動を行う。
【0045】
網船10は、今回の操業の結果を、移動通信ネットワーク100を介して、事務所60に通知する。事務所60の情報処理装置61は、得られた情報を今後の操業計画立案のために、データベース63に記憶する。
【0046】
このように、探索、操業、収穫、移動がネットワークを介して各船に効率よく指揮管制される。
【0047】
より詳しくは、本システムは、例えば、次のような手順で動作する。
【0048】
1.操業計画〜船団出港
(1)事務所60または網船10にて出漁海域の解析、決定
事務所60の情報処理装置61または網船10の情報処理装置11にて、データベース63または13を参照しつつ、操業計画(出漁海域の解析)を行う。
【0049】
図2は、情報処理装置61または情報処理装置11の画像ディスプレイ上の表示画像例である。尚、本例において、画像ディスプレイはタッチパネル式になっており、これにより入力がなされるが、情報処理装置に付随して設けた物理的なボタン、キーボード、カーソルキー、マウス、パッド、トラックボール等の入力デバイスにより入力するようにしてもよい。
【0050】
事務所60または網船10の操作者は、図2に示す画面を見ながら、基本解析条件(魚種・エリア・時期・月齢)を入力する。
【0051】
条件の入力後、解析開始を指示し、データベース63または13を基に、最も採算性の良い出漁エリアの抽出を行う。
【0052】
情報処理装置61または情報処理装置11の画像ディスプレイ上には、図3に示すようなデータ解析結果が表示される。
【0053】
図3において、解析の結果、採算性が良いと考えられる順に、上位3エリアが抽出されている。この結果を基に、出漁エリアを決定する。
【0054】
尚、再解析の場合は、図3中の“前画面へ戻る”ボタンを押し、入力条件や解析モードを変更した上で再度解析を実行する。
【0055】
出漁エリアが決定したならば、“配信“ボタンを押す。
【0056】
(2)事務所60から網船10、魚探船20a、20b、運搬船40a、40bに、または、網船10から魚探船20a、20b、運搬船40a、40bに解析結果通知
通知を受けた各船は、各情報処理装置の画像ディスプレイ上の“漁場マップ”画面(図4)にて、出漁エリアを確認する。尚、図4中、魚探船20a、20bは、魚探船A、Bと表記し、運搬船40a、40bは、運搬船C、Dと表記している。
【0057】
2.船団出港〜第1回の操業
(1)網船10から魚探船20a、20bに情報送信
網船10は、図4に示す漁場マップを基に、各船の適正配置を検討し、適正配置画面により魚探船20a、20bに探索エリアおよび探索の指示を通知する。この通知の際に、網船10(または事務所60)の情報処理装置は、図5に示すような通知文送受信画面を用いる。尚、図5中、魚探船20a、20bは、魚探船A、Bと表記し、運搬船40a、40bは、運搬船C、Dと表記している。また、図示はしないが、魚探船20a、20bや運搬船40a、40bの情報処理装置においても、図5に示したような通知文送受信画面が表示される。
【0058】
尚、探索エリア情報に、各捜索海域の海洋情報(水温、塩分、潮流、プランクトン量)ならびに気象情報を海図上の位置に対応づけたものを付加して送付してもよい。
【0059】
(2)魚探船20a、20bから網船10に情報送信
魚探船20a、20bは、指示された海域にて、魚群の探索を実施する。
【0060】
魚群を発見したならば、図6に示す“魚群発見メッセージ通知”画面にて入力を行い、“通知”ボタンを押して網船10に通知する。
【0061】
併せて、魚探情報(魚種、魚群サイズ(縦、横、高さ)、魚影(濃いまたは薄い))や魚探の画像、また、探索海域の最新の海洋情報、最新の気象情報を網船10に伝送する。
【0062】
(3)網船10から運搬船40a、40bに情報送信(船団全体の最適配置)
網入れ後、迅速に収穫するために、魚探船20a、20bの位置に対する運搬船40a、40bの位置を指示する。この指示の際に、網船10(または事務所60)の情報処理装置は、図5に示すような通知文送受信画面を用いる。
【0063】
(4)網船10の網入れポイント決定、移動
網船10は、図7に示す“魚群発見メッセージ受信”画面を確認する。併せて、送信されてきた魚探画像等を確認検討し、収穫量を見積もり、魚探船20a、20bの各探索情報ポイントに対応する第1または第2の操業ポイントを決定し、移動すると共に、網を入れる。
【0064】
網船10は、運搬船40a、40bのいずれか一方もしくは両方に第1または第2の操業ポイントへの移動を指示する。
【0065】
ここで、収穫量見積は、「魚種×魚群サイズ×魚影」より算出される。尚、一般的には、単価の高い魚種または市場で求められる魚種を選択すべきであるが、「魚群サイズ×魚影」を含めて定量的な見積もりを行って操業ポイントを決定する。
【0066】
3.網船の第1回操業〜第2回操業
(1)網船10から魚探船20a、20bに情報送信
新しい探索海域を指示する。
【0067】
(2)網船10から運搬船40a、40bに情報送信
運搬開始するか待機するか、また、運搬開示の場合は収穫した魚を何処の港に出荷するかを指示する。
【0068】
収穫魚の市場価格、場所による相場上、輸送コストを計算し、利益の大きい方に出荷する。市場価格は、事務所60からの情報等から得る。
【0069】
網船10のデータベースを今回の収穫結果により更新する。
【0070】
(3)魚探船20a、20bから網船10に情報送信
探索海域の最新の海洋情報、最新の気象情報を送信する。
【0071】
魚探情報(魚種、魚群サイズ(縦、横、高さ)、魚影(濃いまたは薄い))を送信する。
【0072】
(4)魚探船20a、20bから網船10に情報送信
以降、上記と同様の手順を繰り返す。
【0073】
4.操業終了後
(1)データベースの情報更新
操業終了後に、事務所60の情報処理装置61または網船10の情報処理装置11にて、魚種・エリア(操業エリア)・時期・気象海象・その他コメントを、図8に示すデータベース入力画面より、データベース63または13に入力する。
【0074】
数多くのデータベースの蓄積により、出漁前の解析精度が上がる。同じくデータベースの入力データ項目を多く持つことにより、解析精度が上がる。網船10は、出漁中であっても随時解析を行い、より確かな操業エリアを抽出することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上、一実施例を挙げて本発明を具体的に説明してきたが、本発明が、その要旨を有している限り、種々に変形可能であることは、当業者にとっては明らかなことである。例えば、巻き網漁以外の漁をなす漁船団に適用可能である。この場合の説明は、本明細書における網船、魚探船、および運搬船に代えて、船団における各用途、機能別に分類された複数の船舶に置き換えて読む。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施例による漁船団の船舶間通信システムを示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例による漁船団の船舶間通信システムの動作を説明するための図である。
【図3】本発明の実施例による漁船団の船舶間通信システムの動作を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例による漁船団の船舶間通信システムの動作を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例による漁船団の船舶間通信システムの動作を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例による漁船団の船舶間通信システムの動作を説明するための図である。
【図7】本発明の実施例による漁船団の船舶間通信システムの動作を説明するための図である。
【図8】本発明の実施例による漁船団の船舶間通信システムの動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0077】
10 網船
11 情報処理装置
12 無線ルータ
13 データベース
20a、20b 魚探船
21 情報処理装置
22 無線ルータ
24 魚群探知機
25 GPS装置
40a、40b 運搬船
41 情報処理装置
42 無線ルータ
60 事務所
61 情報処理装置
62 ルータ
63 データベース
100 移動通信ネットワーク
200 イントラネット
300 回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き網の敷網機構および巻き上げ機構を備えた母船としての網船と、魚群探知機を備えた魚探船と、巻き網内の魚を吸い上げる機構および吸い上げた魚を貯蔵する船倉を備えた運搬船とから成る巻き網船団に適用され、巻き網船団による操業を支援するための漁船団の船舶間通信システムにおいて、
前記網船、前記魚探船、および前記運搬船にはそれぞれ、情報処理装置と、無線ルータとが備えられ、
前記網船、前記魚探船、および前記運搬船の各前記情報処理装置は、前記魚群探知機による探知結果を含む操業に関する情報を、その秘匿性を維持した状態で、前記無線ルータおよびネットワークを介して相互に通信し、
前記網船の前記情報処理装置は、前記通信された情報に基づいて、巻き網船団の操業を前記無線ルータおよび前記ネットワークを介して指揮統制することを特徴とする漁船団の船舶間通信システム。
【請求項2】
前記魚探船の前記情報処理装置は、前記魚群探知機による探知結果を、前記網船に前記無線ルータおよび前記ネットワークを介して送信し、
前記運搬船の前記情報処理装置は、前記船倉の貯蔵状況を表す情報を、前記網船に前記無線ルータおよび前記ネットワークを介して送信し、
前記網船の前記情報処理装置は、前記魚群探知機による探知結果を、前記魚探船から前記ネットワークおよび前記無線ルータを介して受信し、該探知結果に基づいて最新の操業計画を自動的に立案し、該操業計画を表す情報を前記魚探船および前記運搬船に前記無線ルータおよび前記ネットワークを介して送信することで巻き網船団の操業を指揮統制する請求項1に記載の漁船団の船舶間通信システム。
【請求項3】
前記網船にはさらに、前記情報処理装置に接続され、操業に関する情報を更新可能に記憶するためのデータベースが備えられている請求項1または2に記載の漁船団の船舶間通信システム。
【請求項4】
前記魚探船はさらに、前記魚群探知機による探知結果としての画像情報を前記情報処理装置で処理可能な形式に変換するための手段を有する請求項1乃至3のいずれか1つに記載の漁船団の船舶間通信システム。
【請求項5】
前記魚探船にはさらに、魚探船の位置情報を生成し、前記情報処理装置に供給するためのGPS装置(Global Positioning System)装置が備えられている請求項1乃至4のいずれか1つに記載の漁船団の船舶間通信システム。
【請求項6】
船団の操業を運営する漁業者の陸上の事務所に設けられた情報処理装置およびルータをさらに有し、該情報処理装置は、操業に関する情報を、その秘匿性を維持した状態で、前記ルータおよびネットワークを介して、少なくとも前記網船の前記情報処理装置と通信する請求項1乃至5のいずれか1つに記載の漁船団の船舶間通信システム。
【請求項7】
前記事務所にはさらに、前記情報処理装置に接続され、操業に関する情報を更新可能に記憶するためのデータベースが備えられている請求項6に記載の漁船団の船舶間通信システム。
【請求項8】
前記ネットワークは、少なくとも一部にイントラネットを含む請求項1乃至7のいずれか1つに記載の漁船団の船舶間通信システム。
【請求項9】
前記ネットワークは、少なくとも一部に人工衛星波を利用した無線ネットワークを含む請求項1乃至8のいずれか1つに記載の漁船団の船舶間通信システム。
【請求項10】
前記ネットワークは、少なくとも一部にインターネットを含む請求項1乃至9のいずれか1つに記載の漁船団の船舶間通信システム。
【請求項11】
魚群を探知する魚探船と、当該魚探船からの探知結果にしたがって網を入れ、かつ、網を巻き上げる網船とを含む漁船団の船舶間通信システムにおいて、
前記魚探船は、時々刻々変化する探知結果を得る手段と、探知位置情報を得る手段と、前記探知結果および前記探知位置情報を前記漁船団に割り当てられた識別情報と共に出力する手段とを有し、
前記網船は、受信した探知結果および探知維持情報とに基づいて操業を行うことを特徴とする漁船団の船舶間通信システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−6217(P2006−6217A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188712(P2004−188712)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(503216214)安達株式会社 (2)
【出願人】(504246557)三和コンピュータ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】