説明

潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受

【課題】 低トルクの潤滑剤含有ポリマ円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】 外輪3と、内輪2と、外輪3と内輪2との間に介装される複数の円すいころ4と、円すいころ4を保持する保持器5と、外輪3、内輪2、円すいころ4および保持器5により形成される空間内に充填された潤滑剤含有ポリマ6を備え、内輪2は、その外周側に円すいころ4を収容する凹部を有しており、当該凹部は内輪2の大鍔部側の面と小鍔部側の面とを備え、前記大鍔部側の面および円すいころ4の端面が間に潤滑剤含有ポリマ6を介在せず摺接するように構成した潤滑剤含有ポリマ円すいころ軸受1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤含有ポリマを充填した円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、円すいころ軸受の外輪、内輪および円すいころにより形成される間隙には、潤滑性を付与するために、潤滑油やグリースが充填される。これらの潤滑油やグリースは液状または半固体状の物質であり、軸受回転中に飛散したり、流動化してしまうという問題があるため、これを防止すべく、円すいころ軸受をシール板等で密封する方法が一般に行われているが、この方法は小型の特殊用途の軸受では、適用が困難であった。
【0003】
この問題を解決するため、近年では、グリースとポリエチレンとからなる潤滑剤含有ポリマを軸受の外輪、内輪および円すいころにより形成される間隙に充填する方法が提案されている。この潤滑剤含有ポリマの充填方法としては、軸受の端面と潤滑剤含有ポリマが一致するフルパックが一般的であり、製造方法としては、適当な治具で挟み込み、加熱処理により成型する加熱成型法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭63−23239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、適当な治具で挟み込んで、加熱処理により成型した潤滑剤含有ポリマを充填した円すいころ軸受には、以下の特有の問題点があった。
【0005】
潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の製造行程において、溶融した潤滑剤含有ポリマを充填すると、これが円すいころの端面と内輪の凹部における大鍔部側の面との間に入り込んでしまう。動作時において、外輪に対してアキシャル荷重またはラジアル荷重を受けると、当該荷重が外輪から円すいころに伝達し、さらにこの荷重が円すいころから内輪に伝達した状態となり、この状態では円すいころの端面と内輪の凹部における大鍔部側の面との間に潤滑剤含有ポリマが入り込んでいるため、円すいころの動きが阻害され、軸受の回転に伴うトルクが高くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決することを目的とし、内輪の凹部の大鍔部側の面と円すいころの端面との間に潤滑剤含有ポリマが入り込まずに両者が摺接しており、低トルクの潤滑剤含有ポリマ円すいころ軸受を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受は、外輪と、内輪と、当該外輪と内輪との間に介装される複数の円すいころと、当該円すいころを保持する保持器と、前記外輪、内輪、円すいころおよび保持器により形成される空間内に充填された潤滑剤含有ポリマと、を備えた潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受であって、前記内輪は、その外周側に前記円すいころを収容する凹部を有しており、当該凹部は内輪の大鍔部側の面と小鍔部側の面とを備え、前記大鍔部側の面および円すいころの端面が間に潤滑剤含有ポリマを介在せず摺接していることを特徴とする。
【0008】
本発明で使用可能な潤滑剤含有ポリマとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂の群から選定された合成樹脂に、ポリα−オレフィン油等のパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテル油等のエーテル油、フタル酸エステル等のエステル油等のいずれか単独またはこれらを混合して調整した潤滑剤を添加し、これを樹脂の融点以上で加熱して可塑化し、その後冷却することで固形状にしたものである。潤滑剤の中に予め酸化防止剤、錆止め剤、摩耗防止剤、あわ消し剤、極圧剤等の添加剤を加えて使用してもよい。
【0009】
潤滑剤含有ポリマの組成比としては、全重量に対してポリオレフィン系樹脂を10〜50重量%、潤滑剤90〜50重量%である。ポリオレフィン系樹脂を10重量%以上とすることにより、より所望の硬さおよび強度が得られ、軸受の回転などにより負荷がかかった時に初期の形状をより維持し易くなり、軸受の内部空間から脱着し易くなる。また、ポリオレフィン系樹脂を50重量%以下として、潤滑剤の量を上げることにより、軸受への潤滑剤の供給量が多くなり、より軸受の寿命を長くすることができる。
【0010】
上記のポリオレフィン樹脂の群の平均分子量は、700〜5×106の範囲が好ましい。平均分子量700〜1×104というワックスに分類されるものと、平均分子量1×104〜1×106という比較的低分子量のものと、平均分子量1×106〜5×106という超高分子量のものとを単独または混合して用いる。比較的低分子量のものと潤滑剤との組み合わせによって、ある程度の機械的強度、潤滑剤供給能力、保油性を持つ潤滑剤含有ポリマが得られる。この中の比較的低分子量のものの一部をワックスに分類されるものに置き換えると、ワックスに分類されるものと潤滑油との分子量の差が小さいために潤滑油との親和性が高くなり、結果として潤滑剤含有ポリマの保油性が向上し、長期間にわたっての潤滑剤の供給が可能になる。一方、その反面機械的強度は低下する。また、超高分子量のものに置き換えると、超高分子量のものと潤滑油との分子量の差が大きいために潤滑油との親和性が低くなり、結果として保油性が低下し、潤滑剤含有ポリマからの潤滑剤の滲み出しが速くなる。これにより、潤滑剤含有ポリマから供給可能な潤滑剤量に達する時間が短くなり、軸受の寿命が短くなる。一方、機械的強度は向上する。
【0011】
ワックスとしては、ポリエチレンワックスのようなポリオレフィン系樹脂の他、パラフィン系合成ワックス等の炭化水素系のものであれば使用できる。
【0012】
成形性、機械的強度、保油性、潤滑剤供給量のバランスを考慮すると、潤滑剤含有ポリマの組成比は、ワックスに分類されるものが0〜5重量%、比較的低分子量のものが8〜48重量%、超高分子量のものが2〜20重量%、3つの樹脂分の合計が10〜50重量%(残りが潤滑剤90から50重量%)が好適である。
【0013】
機械的強度の一つとして、本発明の潤滑剤含有ポリマの硬さ「HDA」は、65〜95の範囲にあることが好ましく、より好ましくは、70〜90の範囲である。硬さ「HDA」を65以上とすることにより、軸受の回転によって破損するのをより防止することができる。また、硬さ「HDA」を95以下とすることにより、円すいころを拘束する力を抑え、軸受のトルクが大きくなったり、軸受の回転による発熱が大きくなって軸受の温度が高くなるのをより防止することができる。
【0014】
本発明の潤滑剤含有ポリマの機械的強度を向上させるため、前記ポリオレフィン系樹脂に、以下のような熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂を添加したものを使用してもよい。
【0015】
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ABS樹脂等の各樹脂を使用することができる。
【0016】
熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の各樹脂を使用することができる。
【0017】
これらの樹脂は、単独または組み合わせて用いてもよい。これらの樹脂を添加する際には、ポリオレフィン系樹脂と、それ以外の樹脂とを、より均一な状態で分散させるために、必要に応じて適当な相溶化剤を加えてもよい。
【0018】
また、機械的強度を向上させるために、充填剤を添加してもよい。この充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウムウイスカーやホウ酸アルミニウムウイスカー等の無機ウイスカー類、あるいはガラス繊維や金属繊維等の無機繊維類およびこれらを布状に編組したもの、また有機化合物では、カーボンブラック、黒鉛粉末、カーボン繊維、アラミド繊維やポリエステル繊維等を添加してもよい。
【0019】
さらに、ポリオレフィン系樹脂の熱による劣化を防止する目的で、N,N'-ジフェニル-p-フェニルジアミン、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)等の老化防止剤、また、光による劣化を防止する目的で、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤を添加してもよい。
【0020】
以上のすべての添加剤(ポリオレフィン系樹脂と潤滑剤以外)の添加量としては、添加剤全体として、成形原料全量の20重量%以下であることが、潤滑剤の供給能力を維持するうえで好ましい。
【0021】
本発明で用いることのできるポリマ材料としては、前述したようなポリオレフィン系樹脂をベースにしたものの他、射出成形可能な熱可塑性樹脂であれば使用でき、その中で含油量を多くすることができるものとしては、例えば、ポリエステル系エラストマー等がある。
【0022】
また、本発明による潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受を製造する金型としては、上部金型と下部金型とからなる潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の製造金型であって、当該上部金型と下部金型とが密着して、外輪、内輪、当該内輪と外輪との間に介装される複数の円すいころおよび当該円すいころを保持する保持器を格納する間隙が形成され、前記間隙内の上部金型側または下部金型側の少なくとも一方に弾性部材を備え、上記格納状態において、外輪と内輪とにより前記円すいころがその軸方向に押圧される構成となるように、前記上部金型および前記下部金型が前記弾性部材を介して外輪および内輪を円すいころの軸方向から押圧するようになっているものを使用することもできる。このような製造金型を使用することにより、低トルクの潤滑剤含有ポリマ円すいころ軸受を製造することが可能となる。
【0023】
また、このような製造金型は、上部金型と下部金型とを密着させて、両金型の合わせ目が確実に当接するようになっており、かつ、弾性部材を具えていることにより、溶融ポリマの間隙内への射出圧力を緩和させ、内輪外周部および外輪内周部に円すいころの圧痕が付くのを防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受は、上記構成としたことにより、円すいころ端面と内輪の凹部の大鍔部側の面との間に潤滑剤含有ポリマが存在しないので、低トルクでスムーズに回転し、良好な潤滑性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る、潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の一部を示す断面図である。
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る、潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の製造金型を示す模式図である。図3は、本発明の第3の実施の形態に係る、潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の製造金型を示す模式図である。図4は、本発明の第2の実施の形態に係る、上部金型を図2の上方から見た平面図である。図5は、本発明の第2の実施の形態に係る、下部金型を図2の下方から見た底面図である。
【0027】
(第1の実施の形態)
本発明の潤滑剤含有ポリマを充填した円すいころ軸受につき、図1に基づいて説明する。
【0028】
図1の断面図に示すように、本実施の形態に係る潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受1は、外輪3、内輪2、外輪と内輪との間に介装された転動体である円すいころ4、円すいころ4を保持する保持器5、および潤滑剤ポリマ6を備えている。外輪3および内輪2は、図1に示された断面形状が回転軸I−I'を中心に各々回転した軌跡からなる中空の回転体をなしている。内輪2はその外周側に円すいころ4を斜めに収容する凹部を有しており、当該円すいころ4を収容する部分においては内輪2の径方向に厚肉な部分と薄肉な部分とがある。内輪2の凹部は、大鍔部側の面21と小鍔部側の面22とを有している。一方、外輪3もその径方向に厚肉な部分と薄肉な部分とを有している。保持器5は、折れ曲がり部を有している。
【0029】
軸受1の外輪3が、ラジアル荷重(図1中、矢印A)またはスラスト荷重(図1中、矢印B)を受けると、その力が外輪3から円すいころ4に伝達され、そして円すいころ4から内輪2に伝達される。ここで、円すいころ4の端面と大鍔部側の面21とはすべり接触であるため、摩擦係数をできるだけ小さくすることが望ましい。一方、円すいころ4の端面から内輪2の小鍔部側の面22へ向かう方向にはスラスト荷重またはラジアル荷重の分力はかからないので、この部分では摩擦は小さい。
【0030】
本実施の形態では、円すいころ4の端面および内輪2の凹部の大鍔部側の面21が間に潤滑剤含有ポリマを介在せず摺接していることにより、潤滑剤含有ポリマの存在による円すいころの動きが阻害されるという問題もなく、かつ、潤滑剤含有ポリマから潤滑油がしみ出して当該摺接部分に供給されるので、軸受の回転に伴うトルクを低くすることができる。
【0031】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の潤滑剤含有ポリマを充填した円すいころ軸受の製造方法につき、図2に基づいて説明する。
【0032】
図2に示すように、製造金型10は、上部金型12と下部金型11とからなり、上部金型12は軸受を収容する部分より軸側の面12Aと、軸受を収容する部分より軸から離れた側の面12Bを有しており、下部金型11は面12Aおよび面12Bにそれぞれ対向する面11A、面11Bを有している。上部金型12と下部金型11は、両者が密着することにより、外輪3、内輪2、円すいころ4および保持器5を格納するためのそれぞれ上部金型凹部および下部金型凹部を有している。上部金型12には弾性部材を備えるための間隙があり、この間隙の中に弾性部材15が備えられており、当該弾性部材15を介して外輪の厚肉な部分を押圧するようになっている。上部金型12には、保持器5の折れ曲がり部の上方に位置し、上方から前記上部金型凹部へ向けて導通された、溶融した潤滑剤含有ポリマ(以下、溶融ポリマという)を射出させるための射出用ゲート13が設けられている。下部金型11には、前記下部金型凹部にガス逃げ穴8がある。
【0033】
図4は、上部金型12を図2の上方から見た平面図であり、図5は、下部金型11を 図2の下方から見た底面図である。
【0034】
図4に示すように、上部金型12は放射状に形成されたランナ部18を有しており、当該ランナ部18の末端部分には、溶融ポリマを外輪、内輪、円すいころおよび保持器により形成される空間内に射出するための射出用ゲート13が設けられている。射出用ゲート13の中心には、溶融ポリマをこれに注入するためのピンゲートが設けられている。図4に例示した他、ランナ部18を円形状とすることも可能であるが、円形状よりも放射状とすることにより、溶融ポリマの導通される部分の容積が小さくなるので材料の節約となるうえ、内部の軸受が受ける射出圧を低減させることができるメリットがある。
【0035】
図5に示すように、下部金型11は、上記射出用ゲート13の中間位置に対応する同一鉛直線上にガス逃げ孔8を有するため、間隙内のガスが製造金型の外へ追い出され、間隙内に溶融ポリマを完全に充填することが可能となっている。
【0036】
次に、製造金型を用いた、潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の製造方法について 図2に基づいて説明する。
【0037】
まず、下部金型凹部に外輪3、内輪2、円すいころ4および保持器5を格納する。内輪2については、薄肉な部分が図の上側に厚肉な部分が図の下側にくるように格納し、外輪3については、厚肉な部分が図の上側に薄肉な部分が図の下側にくるように格納する。
【0038】
格納した後、上部金型12を下部金型11に密着させ、上部金型の面12Aと面12Bがそれぞれ、下部金型の面11Aと面11Bと密着するようにする。この状態において、ネジ16を締め付けることにより上部金型12と下部金型11とを固定する。このとき、上部金型12は、外輪3の厚肉な部分と弾性部材15を介して当接される。これにより、上部金型12から弾性部材15へ力がかかり、この力が弾性部材15から外輪3に伝達し、外輪3から円すいころ4に伝達し、そして円すいころ4から内輪2に伝達し、さらには内輪2から下部金型11へ伝達して、下部金型11と内輪2の厚肉な部分とが押圧され、これにより円すいころ4の端面が内輪2の大鍔部側の面21に押圧される。これに伴い、上部金型12と内輪2の薄肉な部分との間では0.1〜0.5mm程度の間隙が形成され、下部金型11と外輪3の薄肉な部分との間では0.1〜0.5mm程度の間隙が形成される。保持器5の先端と上部金型12または下部金型11との間ではいずれもそれぞれ0.5〜2mm程度の間隙を有している。
【0039】
弾性部材15は、上部金型12と下部金型11とが固定された際に、円すいころ4の端面を内輪の大鍔部側の面21に押し付けて隙間をなくして溶融ポリマが入り込むのを防ぐ作用があり、さらには、溶融ポリマの間隙内への射出圧力を緩和させ、内輪2の外周部および外輪3の内周部に円すいころ4の圧痕が付くのを防止する作用も有している。弾性部材15としては、コイルばね、板ばね、形状記憶合金などの弾性部材を用いる。
【0040】
次に、溶融した潤滑剤含有ポリマを、上記射出用ゲート13を通して、間隙内へ射出させることにより間隙内に充填させる。溶融した潤滑剤含有ポリマは射出用ゲート13を通して間隙内へ導通され、保持器5の折れ曲がり部に当たったのち、保持器5と内輪2との間および保持器5と外輪3との間に分かれて間隙内に充填される。
【0041】
射出用ゲート13を保持器5の折れ曲がり部の上方に位置させていることにより、射出した溶融ポリマが保持器5を介して内輪の小鍔部側の面22へ流れ、小鍔部側の面22付近の円すいころ4の上面を下へ押す方向に力がかかる。この力が伝達することにより、円すいころ4の端面を大鍔部側の面21に押し付ける方向に力がかかり、円すいころ4の端面と大鍔部側の面21との当接が、より密着したものとなる効果がある。これは、外輪の厚肉な部分を押圧する弾性部材15を取り付ける金型と、射出用ゲート13を設ける金型を、ともに同じ上部金型とすることにより可能となる。
【0042】
上記の溶融ポリマの射出は、製造金型を垂直に配置した縦形射出成形機が好ましい。縦形射出成形機は横形射出成形機に比べて、外輪、内輪、円すいころおよび保持器を格納した後溶融ポリマを充填させる際に、製造金型内において保持器が偏った状態で溶融ポリマが充填され固化されるおそれが少ない上、占有床面積が小さくて済むという利点がある。縦形射出成形機としては、例えば、特開平8−309793号公報記載の射出成形機にホッパを改良し、金型を縦型に配置したものなどを用いる。
【0043】
これに対し、図6は比較例であり、製造金型30は、内輪2、外輪3、円すいころ4、および弾性部材152を上下逆に格納させた点が上記第2の実施の形態とは異なっている。すなわち、内輪2の厚肉な部分が図の上方(大鍔部側の面212が上方)で薄肉な部分が図の下方(小鍔部側の面222が下方)に、外輪3の薄肉な部分が上方で厚肉な部分が下方に、円すいころ4のテーパの幅広部が上方に配置されており、上部金型122に溶融ポリマを射出させるための射出用ゲート132が設けられ、下部金型112に弾性部材152が取り付けられている。すなわち、射出用ゲート132を設ける金型と弾性部材152を取り付ける金型が異なる。
【0044】
本比較例においては、射出された溶融ポリマの流動圧力、すなわち射出成形圧力が弾性部材152が外輪3の厚肉な部分を押す力より大きくなると、円すいころ4の端面と大鍔部側の面212との間に間隙が形成されてしまい、この間隙に潤滑剤含有ポリマ62が充填されてしまう。
【0045】
なお、弾性部材152のバネの力を大きくすることにより、上部金型122と下部金型112とが固定された際に、内輪の大鍔部側の面212を円すいころ4の端面に押し付けて両者の隙間をなくして溶融ポリマが入り込むのを防ぐこともできるが、バネを大きくする必要があり、金型が大きくなったり、射出成形条件が制限されて実用的ではない。
【0046】
(第3の実施の形態)
本発明の潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の異なる製造方法につき、図3R>3に基づいて説明する。
【0047】
図3に示すように、製造金型20は、上部金型121は外輪3の厚肉な部分と当接されており、下部金型111が内輪2の厚肉な部分と弾性部材151を介して当接されている点が上記第2の実施の形態とは異なっている。すなわち、内輪2の厚肉な部分を押圧する弾性部材151を取り付ける金型と、射出用ゲート131を設ける金型とをそれぞれ逆側の下部金型111と上部金型121とに別々に設ける。
【0048】
本実施の形態の場合においても、上記第2の実施の形態と同様に、弾性部材151が押圧する力と溶融ポリマの流れによる圧力とは、ともに円すいころ4の端面を内輪の大鍔部側の面211に押し付ける方向に働く。このことにより、弾性部材151は、上部金型121と下部金型111とが固定された際に、内輪の大鍔部側の面211を円すいころ4の端面に押し付けて両者の隙間をなくして溶融ポリマが入り込むのを防ぐ作用があり、さらには、溶融ポリマの間隙内への射出圧力を緩和させ、内輪2の外周部および外輪3の内周部に円すいころ4の圧痕が付くのを防止する作用も有している。
【0049】
(実施例1)
本実施例では、潤滑剤含有ポリマとして、以下の組成を有するものを用いた。
組成
(1)高密度ポリエチレン(比較的低分子量に分類):10重量%
(2)超高分子量ポリエチレン(超高分子量に分類):12.5重量%
(3)ポリエチレンワックス(ワックスに分類):2.5重量%
(4)鉱油:75重量%
【0050】
まず、通常の方法で円すいころ軸受を組立て、これを脱脂洗浄した。次に、この円すいころ軸受の内輪の外周面、外輪の内周面、円すいころの外縁および保持器の表面にフッ素系離型剤(ダイキン工業株式会社 ダイフリーGA−6010)をスプレー塗布して離型剤の塗膜を形成させた。この円すいころ軸受を、図2に示すように、内輪2の薄肉な部分を上側に厚肉な部分を下側に、外輪3の厚肉な部分を上側に薄肉な部分を下側にくるように下部金型11の凹部に格納し、これに上部金型12を密着させ、ネジ16を締め付けた。
【0051】
次いで、図2に図示しない射出成形機のホッパに潤滑剤含有ポリマを圧送し、融点以上に加熱し溶融させたものをスクリューで押圧して、上部金型12に形成された射出用ゲート13から間隙内に溶融ポリマを射出した。このとき、上部金型12と内輪2の薄肉な部分との間、および下部金型11と外輪3の薄肉な部分との間では間隙が形成されているため、溶融ポリマはこの間隙にも注入される。射出された溶融ポリマは、製造金型10内で金型温度に近づくように冷却され固化する。その後、製造金型10から取り出して、潤滑剤含有ポリマ充填用円すいころ軸受(内径120mm、外径180mm、幅38mm)を得た。
【0052】
得られた潤滑剤含有ポリマ充填用円すいころ軸受を分解して調査したところ、円すいころ4の端面と内輪2の大鍔部側の面21との間には潤滑剤含有ポリマが充填されておらず摺接していたが、一方、円すいころ4の端面と内輪2の小鍔部側の面22との間には潤滑剤含有ポリマ6が入り込んでいるのが観察された。また、外輪3の内周面を観察したところ、射出による圧痕はほとんど見られず、若干みられても極軽度のものであった。
【0053】
(比較例)
比較例では、図6に示すように、円すいころ軸受を、内輪2の薄肉な部分を下側に厚肉な部分を上側に、外輪3の厚肉な部分を下側に薄肉な部分を上側にくるように製造金型30に格納した他は、実施例1と同様にして潤滑剤含有ポリマ充填用円すいころ軸受を得た。
【0054】
得られた潤滑剤含有ポリマ充填用円すいころ軸受を分解して調査したところ、円すいころ4の端面と内輪2の大鍔部側の面212との間には潤滑剤含有ポリマが充填されており、一方、円すいころ4の端面と内輪2の小鍔部側の面222との間には潤滑剤含有ポリマ62が充填されていないのが観察された。
【0055】
これは、射出された溶融ポリマの流動圧力により内輪の大鍔部側の面212付近の円すいころ4の端面が図の下方に押されることによって、大鍔部側の面212と円すいころ4の端面との間に間隙が形成されてしまい、この間隙に潤滑剤含有ポリマ62が充填されてしまったものである。
【0056】
(起動トルク比較テスト)
実施例1および比較例で得られた軸受について、予圧荷重を変化させながら、起動トルクを測定した。図7は各予圧荷重における比較例の起動トルクを100%とした際の実施例1の起動トルクをプロットした図である。
【0057】
図7を見ると、実施例1では比較例に対して起動トルクの相対値が低く、また、予圧荷重の増大に伴って起動トルクの相対値が低下した。
【0058】
考察するに、一般に潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受は、潤滑剤含有ポリマが充填されているため、円すいころの動きが阻害され、潤滑剤含有ポリマが充填されていない軸受に比べて、起動トルクが高くなる傾向があるが、予圧荷重が増大するにつれ、円すいころの端面と内輪および外輪との接触抵抗が大きくなり、潤滑剤含有ポリマの阻害抵抗を無視できるようになる傾向にあると考えられる。比較例では、円すいころの端面と内輪外周部の大鍔部側の面との間に潤滑剤含有ポリマが充填されているので、回転時における円すいころの端面と内輪外周部との摩擦が大きくなり、予圧荷重の増大に伴って起動トルクが無充填状態の起動トルクに近づこうとするのを抑制する。したがって、起動トルクの相対値としては、予圧荷重が大きくなるほど実施例1と比較例との差が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る、潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の一部を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る、潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の製造金型を示す模式図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る、潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の製造金型を示す模式図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る、上部金型を図2の上方から見た平面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る、下部金型を図2の下方から見た底面図である。
【図6】比較例に係る、潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の製造金型を示す模式図である。
【図7】予圧荷重の変化に伴う起動トルクの相対値の変化を示した図である。
【符号の説明】
【0060】
1 潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受
2 内輪
3 外輪
4 円すいころ
5 保持器
6、61、62 潤滑剤含有ポリマ
8、81、82 ガス逃げ穴
10、20、30 潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受の製造金型
11、111、112 下部金型
12、121、122 上部金型
13、131、132 射出用ゲート
15、151、152 弾性部材
16、161、162 ネジ
18 ランナ部
21、211、212 大鍔部側の面
22、221、222 小鍔部側の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、当該外輪と内輪との間に介装される複数の円すいころと、当該円すいころを保持する保持器と、前記外輪、内輪、円すいころおよび保持器により形成される空間内に充填された潤滑剤含有ポリマと、を備えた潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受であって、
前記内輪は、その外周側に前記円すいころを収容する凹部を有しており、当該凹部は内輪の大鍔部側の面と小鍔部側の面とを備え、前記大鍔部側の面および円すいころの端面が間に潤滑剤含有ポリマを介在せず摺接していることを特徴とする潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受。
【請求項2】
該潤滑剤含有ポリマのディロメータAスケールで測定される硬度(HDA)が65以上95以下であることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤含有ポリマ充填円すいころ軸受。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−29590(P2006−29590A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241017(P2005−241017)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【分割の表示】特願2000−148709(P2000−148709)の分割
【原出願日】平成12年5月19日(2000.5.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】