説明

潤滑油組成物

【課題】低温時の粘度上昇を低く抑え、低温特性に優れる、剪断よる粘度低下の少ない粘度改良用ポリマーを含む潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】エチレン・αオレフィン共重合体(A)30〜90重量%と特定の特性を有する1種以上の合成油(B)または特定の特性を有する鉱物油(C)から選ばれる1種類以上の成分からなる潤滑油基剤を10〜70重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%とする)含有することを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン・αオレフィン共重合体を含む潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
石油製品は一般に温度が変わると粘度が大きく変化する、いわゆる粘度の温度依存性を有している。例えば、粘度の温度依存性が小さいことが好ましい。そこで潤滑油には、粘度の温度依存性を小さくする目的で、潤滑油基剤に可溶な、ある種のポリマーが粘度改良剤として用いられている。近年では、このような粘度改良剤としてαオレフィン重合体が広く用いられているが、潤滑油の性能バランスを更に改善するため種々の改良がなされている。(特許文献1)
【0003】
上記のような粘度指数向上剤は一般に高温時に適正な粘度を保持するために用いられるが、最近では、環境負荷低減の一環として省エネ・省資源が強く思考される中で、特に低温時の粘度上昇を低く抑え(低温特性に優れる)、耐久性に優れる粘度改良剤が求められている。一般の潤滑油用途においては、優れた低温特性を得るためには、ポリマー濃度をできるだけ低く抑えることが有効であること、また、経済性の面でも有利であることなどから、できるだけ高分子量のポリマーを用いる方法が知られているが、分子量を高くすると剪断安定性が悪化するという問題がある。工業用潤滑油用途、特に風力発電用ギヤ油では、より高度な低温特性と剪断安定性が要求され、両性能のバランスを考慮した品質が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開 WO00/34420
【0005】
一方、潤滑油基剤としては、API品質分類により、鉱物油はグループ(I)〜(III)の3段階に分類され、更に、ポリ・αオレフィン(PAO)がグループ(IV)、その他がグループ(V)に分類されている。 自動車用の各種潤滑油用途では、要求性能の高度化及び環境負荷低減に対応するため、従来から広く使用されているグループ(I)鉱油から、グループ (II)及び(III)鉱油、或いはポリ・αオレフィンの如く合成油の使用率が高まっている。一方、工業用潤滑油用途においても、長寿命や高耐久性が求められ、前記のグループ(III)鉱油或いはポリ・αオレフィンが使用されている。特に近年の風力発電用ギヤ油においては、耐久性の主要パラメータとして剪断安定性が強く求められている。ここに求められる剪断安定性は従来の高分子量タイプの粘度調整剤での対応は困難であり、ポリブテン等の比較的低分子量のαオレフィン重合体が使用されている。しかしながら、用途によってはポリブテンの粘度特性、とりわけ低温での十分な流動性に改善の余地があった。また風力発電用ギヤ油においては、従来の要求特性に加えて、高いマイクロピッチン防止性能が求められている。マイクロピッチングは高荷重下における転がり弾性流体潤滑(EHL)領域で過度のストレスのサイクルによってギヤ損傷の寸前で引き起こされる疲労プロセスである。本発明者らは、このような状況において鋭意研究の結果、エチレン含量、粘度、分子量分布が特定の範囲にあるエチレン・α−オレフィン共重合体と特定の粘度、粘度指数、流動点を有する1種以上の合成油及び/又は鉱物油を基剤とを組み合わせることにより、上記のような問題を解決することを見出して、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、低温粘度特性および剪断安定性のバランスに優れ、高いマイクロピッチング防止性能を有する工業用潤滑油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
下記(A1)〜(A3)の特性を有するエチレン・αオレフィン共重合体(A)を30〜90重量%、(B1)〜(B3)の特性を有する合成油(B)または(C1)〜(C3)の特性を有する鉱物油(C)から選ばれる1種類以上の成分からなる潤滑油基剤を10〜70重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%とする)含有することを特徴とする潤滑油組成物;
(A1)エチレン含量が30〜70モル%の範囲にあること
(共重合体(A)中のエチレン含量とαオレフィン含量の総和を100モル%とする)
(A2)100℃動粘度は30〜350mm2/sの範囲にあること
(A3)Mw/Mnが2.5以下であること

(B1)100℃における動粘度が2〜20mm2/sであること
(B2)粘度指数が130以上であること
(B3)流動点が−30℃以下であること

(C1)100℃における動粘度が2〜10mm2/sであること
(C2)粘度指数が120以上であること
(C3)流動点が−10℃以下であること
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は低温粘度特性と剪断安定性に優れることから、省エネ・省資源等に優れる潤滑油組成物であり、好適には工業用潤滑油、特に風力発電用潤滑油として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
エチレン・αオレフィン共重合体(A)
本発明におけるエチレン・αオレフィン共重合体(A)は、以下のような特性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体からなり、潤滑油組成物の粘度を好適に調整することができる。
【0010】
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)のエチレン含量は、通常30〜70モル%の範囲にある。低温特性と耐熱性のバランスの点から、好ましくは40〜70モル%、更に好ましくは45〜65モル%である。
【0011】
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)のエチレン含量は、「高分子分析ハンドブック」(朝倉書店 発行 P163〜170)に記載の方法に従って13C−NMRで測定される。
【0012】
また、エチレン・α−オレフィン共重合体(A)を構成するα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、デセン−1、ウンゼセン−1、ドデセン−1、トリデセン−1、テトラデセン−1、ペンタデセン−1、ヘキサデセン−1、ヘプタデセン−1、オクタデセン−1、ノナデセン−1、エイコセン−1等の炭素数3〜20のα−オレフィンなどを例示することができる。エチレン・α−オレフィン共重合体(A)中には、これらα−オレフィンが1種又は2種以上含まれてもよい。これらα−オレフィンの内では、潤滑油組成物に対して良好な低温粘度特性、剪断安定性、耐熱性を与える点で、炭素数3〜10が好ましく、特にプロピレンが好ましい。
このようなエチレン・α−オレフィン共重合体(A)は下記(A1)、(A2)、および(A3)の特性を有している。
【0013】
(A1)エチレン含量
エチレン・α−オレフィン共重合体(B)のエチレン含量は、30〜70モル%、好ましくは40〜70モル%の範囲、より好ましくはより好ましくは45〜65モル%であることが好ましい。
【0014】
(A2)動粘度(100℃)
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の100℃における動粘度(以下、『動粘度(100℃)』とも記載する)は、30〜350mm2/s、好ましくは40〜200mm2/s、特に好ましくは50〜150mm2/sの範囲にある。
動粘度(100℃)が上記範囲内にあるエチレン・α−オレフィン共重合体(A)を含有する潤滑油組成物の剪断安定性と低温特性およびマイクロピッチング防止性のバランスに優れる。
【0015】
(A3)分子量分布(Mw/Mn)
エチレン・α−オレフィン共重合体(B)は、分子量分布を示す指標であるMw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が2.5以下、好ましくは2.4以下、より好ましくは2.2の範囲にあることが望ましい。分子量分布は2.5を超えると潤滑油粘度の剪断安定性が低下する。
【0016】
本発明に係わるエチレン・α−オレフィン共重合体は、バナジウム、ジルコニウム、チタニウムなどの遷移金属化合物と、有機アルミニウム化合物(有機アルミニウムオキシ化合物)および/またはイオン化イオン性化合物とからなる触媒が使用できる。 このようなオレフィン重合用触媒としては、例えばW000/34420に記載されている。
【0017】
潤滑油基剤
本発明で使用される潤滑油基剤は、一般に脱ワックス等の精製工程を経て用いられ、精製の仕方により幾つかの等級があり、本等級はAPI(米国石油協会)分類で規定される。表1に各グループに分類される潤滑油基剤の特性を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1におけるグループ(IV)に属するポリα−オレフィンは、炭素数8以上のα−オレフィンを少なくとも原料モノマーとして重合して得られる炭化水素ポリマーであって、例えばデセン−1を重合して得られるポリデセンなどが例示される。この様なα−オレフィンオリゴマーは、チーグラー触媒、ルイス酸を触媒としたカチオン重合、熱重合、ラジカル重合によって製造することができる。
第1表におけるグループ(V)に属する潤滑油基剤としては、アルキルベンゼン類、アルキルナフタレン類、エステル油等を例示できる。
アルキルベンゼン類、アルキルナフタレン類は通常大部分がアルキル鎖長が炭素原子数6〜14のジアルキルベンゼンまたはジアルキルナフタレンであり、このようなアルキルベンゼン類またはアルキルナフタレン類は、ベンゼンまたはナフタレンとオレフィンとのフリーデルクラフトアルキル化反応によって製造される。アルキルベンゼン類またはアルキルナフタレン類の製造において使用されるアルキル化オレフィンは、線状もしくは枝分かれ状のオレフィンまたはこれらの組み合わせでもよい。これらの製造方法は、たとえば、米国特許第3909432号に記載されている。
エステル油としては、一塩基酸とアルコールから製造されるモノエステル;二塩基酸とアルコールとから、またはジオールと一塩基酸または酸混合物とから製造されるジエステル;ジオール、トリオール(たとえばトリメチロールプロパン)、テトラオール(たとえばペンタエリスリトール)、ヘキサオール(たとえばジペンタエリスリトール)などと一塩基酸または酸混合物とを反応させて製造したポリオールエステルなどが挙げられる。これらのエステルの例としては、トリデシルペラルゴネート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、トリメチロールプロパントリヘプタノエート、ペンタエリスリトールテトラヘプタノエートなどが挙げられる。
【0020】
本発明に係る合成油(B)は、下記の(B1)〜(B3)の特性を有するAPI品質分類のグループ(IV)または(V)に属する潤滑油基剤であり、中でもグループ(IV)に属するポリα−オレフィンが好ましいが、20重量%以下の割合で同様の動粘度を有し、グループ(V)に属するポリオールエステル、ジエステル等の合成油を含有してもよい。
【0021】
(B1)100℃における動粘度が2〜20mm2/s、好ましくは4〜10mm2/sであること
(B2)粘度指数が120以上、好ましくは130以上であること
(B3)流動点が−30℃以下、好ましくは−40℃以下であること
【0022】
又、鉱物油(C)は下記の(C1)〜(C3)の特性を有する潤滑油基剤であり、API品質分類のグループ(III)に分類される潤滑油基剤である。
当該グループ(III)に分類される潤滑油基剤は、水素化分解法等により精製度が高く、かつ粘度指数が高い潤滑油基剤である。
(C1)100℃における動粘度が2〜10mm2/s、好ましくは4〜8mm2/sであること
(C2)粘度指数が120以上、好ましくは125以上であること
(C3)流動点が−10℃以下、好ましくは−15℃以下であること

なお、本発明における潤滑油基剤は、合成油(B)または鉱物油(C)から選ばれる1種類以上の成分からなり、合成油(B)のみ1種類ないし2種類以上であってもよいし、鉱物油(C)のみ1種類ないし2種類以上であってもよく、合成油(B)1種類ないし2種類以上と鉱物油(C)1種類ないし2種類以上を混合したものであってもよい。
また、上述における各特性は下記の方法で測定したものである。
(B1、C1):ASTM D445(JIS K2283)に準じて測定
(B2、C2):ASTM D2270(JIS K2283)に準じて測定
(B3、C3):ASTM D97(JIS K2269)に準じて測定

【0023】
潤滑油組成物
本発明の潤滑油組成物は、前記合成油(B)または前記鉱物油(C)から選ばれる1種類以上の成分からなる潤滑油基剤10〜70重量%と、前記エチレン・α−オレフィン共重合体(A)30〜90重量%(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%とする)を含む組成物である。また、好ましくは、前記エチレン・α−オレフィン共重合体(A)が、40〜80重量%、より好ましくは40〜70重量%含まれる組成物である。
このような潤滑油組成物は、優れた剪断安定性を有すると共に、潤滑油基剤としてポリαオレフィン等の合成油及び/又は高度に精製された高粘度指数鉱油を含有することにより、良好な低温特性と剪断安定性を発現することを特徴としている。
なお、本発明の潤滑油組成物は、必要に応じ、流動点降下剤、極圧剤、摩擦調整剤、油性剤、酸化防止剤、消泡剤、錆止め剤、腐食防止剤等の添加剤を(A)+(B)+(C)=100重量部に対して、一般的には20重量部以下の割合で配合することができる。これらの添加剤の中でも、極圧剤、流動点降下剤を添加することが好ましく、(特に鉱物油(C)が20重量%以上含まれている場合において)、極圧剤と流動点降下剤の2成分で(A)+(B)+(C)=100重量部に対して、10重量部以下添加することがより好ましい。
ここで、必要に応じて併用される添加剤について説明する。
【0024】
流動点降下剤
流動点降下剤としては、メタクリル酸アルキルの重合体または共重合体、アクリル酸アルキルの重合体または共重合体、フマル酸アルキルの重合体または共重合体、マレイン酸アルキルの重合体または共重合体、アルキル芳香族系の化合物などを挙げることができる。このうちでも特にメタクリル酸アルキルの重合体または共重合体を含む流動点降下剤であるポリメタクリレート系流動点降下剤が好ましく、メタクリル酸アルキルのアルキル基の炭素数は12〜20が好ましく、その添加量は、(A)+(B)+(C)=100重量部に対して好ましくは0.05〜2重量部である。これらは、流動点降下剤として市販されているものを入手することができる。例えば市販の銘柄名としては三洋化成社製 アクルーブ146、アクルーブ136、東邦化学社製 ルブラン141 ルブラン171などが挙げられる。
【0025】
極圧剤
極圧剤としては、硫化油脂、硫化オレフィン、スルフィド類、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などが挙げられる。
【0026】
摩擦調整剤
摩擦調整剤としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の有機モリブデン化合物に代表される有機金属系摩擦調整剤が挙げられる。
また、油性剤としては、炭素数8〜22のアルキル基を有する脂肪酸、脂肪酸エステル、高級アルコール等が挙げられる。
【0027】
酸化防止剤
酸化防止剤として具体的には、2,6−ジ−t−ブチル−4メチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤;ジオクチルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤などが挙げられる。また、消泡剤としては、ジメチルシロキサン、シリカゲル分散体等のシリコン系消泡剤;アルコール、エステル系消泡剤など挙げることができる。
【0028】
錆止め剤
錆止め剤としては、カルボン酸、カルボン酸塩、エステル、リン酸などが挙げられる。また、腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾールとその誘導体、チアゾール系化合物などを挙げることができる。
また、腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系の化合物等が挙げられる。
【0029】
本発明の潤滑油組成物は特に剪断安定性と低温粘度特性に優れるので、工業用潤滑油として有効である。工業用潤滑油としてはISO220〜ISO680の粘度範囲のものが挙げられるが、風力発電用ギヤ油として特に有効である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、実施例における各種物性は以下のようにして測定した。
【0031】
エチレン含量
日本電子LA500型核磁気共鳴装置を用い、オルトジクロルベンゼンとベンゼンーd6との混合溶媒(オルトジクロルベンゼン/ベンゼン−d6=3/1〜4/1(体積比))中、120℃、パルス幅45°パルス、パルス繰り返し時間5.5秒で測定した。
【0032】
動粘度(40℃、100℃)
ASTM D 445に基づいて測定を行った。尚、本実施例では配合油の粘度が各ISO分類に基づて以下のように調整した。
・ ISO220:動粘度(40℃)が220±22mm2/sになるように配合調製した。
・ ISO320:動粘度(40℃)が320±32mm2/sになるように配合調製した。
・ ISO460:動粘度(40℃)が460±46mm2/sになるように配合調製した。

【0033】
分子量分布(Mw/Mn)
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、オルトジクロロベンゼン溶媒で、140℃で測定した。
【0034】
低温粘度(−30℃、−40℃)
BF(ブルックフィールド)粘度計を用いてASTM D341に基づいて測定を行った。
【0035】
剪断安定性(粘度低下率%)
KRL剪断試験機を用いてCEC−L−45(CEC:欧州の自動車用燃料・潤滑油試験法の
管理機構)に基づいて試験を行い、40℃の粘度の低下率を評価した。
剪断安定性は潤滑油中の共重合体成分が金属摺動部で剪断を受け、分子鎖が切断することによる動粘度損失の尺度である。
【0036】
マイクロピッチング不合格負荷段階
Flender社の規格に基くFVA-54マイクロピッチング試験機により、ステージ5から10へ段階的に荷重を上げ、各荷重ステージ毎にギヤ歯面のマイクロピッチングの発生面積をパーセントで表し、歯車全体の重量減も測定する。(回転速度:1500rpm、温度:90℃)
(重合例1)
【0037】
充分窒素置換した容量2リットルの攪拌翼付連続重合反応器に、脱水精製したヘキサン1リットルを張り、96mmol/Lに調整した、エチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C2H5)1.5・Cl1.5)のヘキサン溶液を500ml/hの量で連続的に1時間供給した後、更に触媒として16mmol/lに調整したVO(OC2H5)Cl2のヘキサン溶液を500ml/hの量で、ヘキサンを500ml/hの量で連続的に供給した。一方重合器上部から、重合液器内の重合液が常に1リットルになるように重合液を連続的に抜き出した。次にバブリング管を用いてエチレンガスを27L/hの量で、プロピレンガスを26L/hの量で水素ガスを100L/hの量で供給した。共重合反応は、重合器外部に取り付けられたジャケットに冷媒を循環させることにより35℃で行った。
上記条件で反応を行うと、エチレン・プロピレン共重合体を含む重合溶液が得られた。得られた重合溶液は、塩酸で脱灰した後に、大量のメタノールに投入して、エチレン・プロピレン共重合体を析出させた後、130℃で24時間減圧乾燥を行った。得られたポリマーの性状を表1に示す。
(重合例2)
【0038】
エチレンガス量35L/h、ポロピレンガス量35L/h、水素ガス仕込み量を80L/hに変えた以外は重合例1と同様に行った。得られたポリマーの性状を表1に示す。
(重合例3)
【0039】
エチレンガス量45L/h、ポロピレンガス量45L/h、水素ガス仕込み量を80L/hに変えた以外は重合例1と同様に行った。得られたポリマーの性状を表1に示す。
【0040】
【表2】

【実施例1】
【0041】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体を79.0重量%、潤滑油基剤として、APIグループ(IV)に分類される100℃動粘度が5.825mm2/sのポリ・αオレフィン(NESTE OIL社製NEXBASE 2006)を10.7重量%、APIグループ(V)に分類される脂肪酸エステルDIDA(大八化学社製)を10.3重量%、極圧剤HITEC307(AFTON社製)を(エチレン・プロピレン共重合体(A)と潤滑油基剤の総量を100重量部として)2.8重量部用いてISO220相当粘度に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表3に示す。
【実施例2】
【0042】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体79.0重量%の代わりに)重合例2で得られたエチレン・プロピレン共重合体を55.1重量%、潤滑油基剤として、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(10.7重量%の代わりに)34.6重量%用いた以外は実施例1と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表3に示す。
【実施例3】
【0043】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体79.0重量%の代わりに)重合例3で得られたエチレン・プロピレン共重合体を47.2重量%、潤滑油基剤として、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(10.7重量%の代わりに)42.5重量%用いた以外は実施例1と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表3に示す。
【実施例4】
【0044】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体79.0重量%の代わりに)重合例2で得られたエチレン・プロピレン共重合体を64.7重量%、潤滑油基剤として、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(10.7重量%の代わりに)25.0重量%用いた以外は実施例1と同様に配合しISO320相当粘度に調整した。配合油の潤滑油物性を表3に示す。
【実施例5】
【0045】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体79.0重量%の代わりに)重合例3で得られたエチレン・プロピレン共重合体を55.5重量%、潤滑油基剤として、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(10.7重量%の代わりに)34.2重量%用いた以外は実施例3と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表3に示す。
【実施例6】
【0046】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体79.0重量%の代わりに)重合例2で得られたエチレン・プロピレン共重合体を75.7重量%、潤滑油基剤として、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(10.7重量%の代わりに)14.0重量%用いた以外は実施例1と同様に配合しISO460相当粘度に調整した。配合油の潤滑油物性を表3に示す。
【実施例7】
【0047】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体79.0重量%の代わりに)重合例3で得られたエチレン・プロピレン共重合体を64.9重量%、潤滑油基剤として、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(10.7重量%の代わりに)24.8重量%用いた以外は実施例1と同様に配合しISO460相当粘度に調整した。配合油の潤滑油物性を表3に示す。

【0048】
【表3】


(比較例1)
【0049】
市販液状ポリブテン15Rを76.0重量%、潤滑油基剤として、APIグループ(IV)に分類されるポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を13.7重量%、APIグループ(V)に分類される脂肪酸エステルDIDA(ジイソデシルアジペート)を10.3重量%、(これらの総量を100重量部として)極圧剤HITEC307を2.8重量部用いてISO220相当粘度に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表4に示す。
(比較例2)
【0050】
市販液状ポリブテン35Rを(ポリブテン15R76.0重量%の代わりに)61.9重量%、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(13.7重量%の代わりに)27.8重量%用いた以外は比較例1と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表4に示す。
(比較例3)
【0051】
市販液状ポリブテン15Rを(76.0重量%の代わりに)83.6重量%、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(13.7重量%の代わりに)6.1重量%用いた以外は比較例1と同様に配合し、ISO320相当粘度に調整した。配合油の潤滑油物性を表4に示す。
(比較例4)
【0052】
市販液状ポリブテン35Rを(ポリブテン15R76.0重量%の代わりに)68.3重量%、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(13.7重量%の代わりに)21.4重量%用いた以外は比較例3と同様に配合し調整した。配合油の潤滑油物性を表4に示す。
(比較例5)
【0053】
市販のオレフインコポリマー系粘度調整剤M−1010を(ポリブテン15R76.0重量%の代わりに)28.3重量%、ポリ・αオレフィン(NEXBASE 2006)を(13.7重量%の代わりに)61.4重量%用いた以外は比較例3と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表4に示す。

【0054】
【表4】


【実施例8】
【0055】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体を69.6重量%、潤滑油基剤として、APIグループ(III)に分類される鉱物油YUBASE−6を30.4重量%、(エチレン・プロピレン共重合体(A)と潤滑油基剤の総量を100重量部として)極圧剤HITEC307を2.8重量部、(エチレン・プロピレン共重合体(A)と潤滑油基剤の総量を100重量部として)流動点降下剤アクルーブ146を0.5重量部用いてISO220相当粘度に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表5に示す。
【実施例9】
【0056】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体を69.6重量%の代わりに)重合例2で得られたエチレン・プロピレン共重合体を48.6重量%、潤滑油基剤として、鉱物油YUBASE−6を(30.4重量%の代わりに)51.4重量%用いた以外は実施例8と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表5に示す。
【実施例10】
【0057】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体を69.6重量%の代わりに)重合例3で得られたエチレン・プロピレン共重合体を41.5重量%、潤滑油基剤として、鉱物油YUBASE−6を(30.4重量%の代わりに)58.5重量%用いた以外は実施例8と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表5に示す。
【実施例11】
【0058】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体を69.6重量%の代わりに)重合例2で得られたエチレン・プロピレン共重合体を59.5重量%、潤滑油基剤として、鉱物油YUBASE−6を(30.4重量%の代わりに)40.5重量%用いた以外は実施例8と同様に配合しISO320相当粘度に調整した。配合油の潤滑油物性を表5に示す。
【実施例12】
【0059】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体を69.6重量%の代わりに)重合例3で得られたエチレン・プロピレン共重合体を50.6重量%、潤滑油基剤として、鉱物油YUBASE−6を(30.4重量%の代わりに)49.4重量%用いた以外は実施例8と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表5に示す。
【実施例13】
【0060】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体を69.6重量%の代わりに)重合例2で得られたエチレン・プロピレン共重合体を68.8重量%、潤滑油基剤として、鉱物油YUBASE−6を(30.4重量%の代わりに)31.2重量%用いた以外は実施例8と同様に配合しISO460相当粘度に調整した。配合油の潤滑油物性を表5に示す。
【実施例14】
【0061】
エチレン・プロピレン共重合体(A)として、(重合例1で得られたエチレン・プロピレン共重合体を69.6重量%の代わりに)重合例3で得られたエチレン・プロピレン共重合体を58.7重量%、潤滑油基剤として、鉱物油YUBASE−6を(30.4重量%の代わりに)41.3重量%用いた以外は実施例8と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表5に示す。

【0062】
【表5】


(比較例6)
【0063】
市販液状ポリブテン15Rを68.1重量%、潤滑油基剤として、APIグループ(III)に分類される鉱物油YUBASE−6を31.9重量%、(これらの総量を100重量部として)極圧剤HITEC307を2.8重量部、(これらの総量を100重量部として)流動点降下剤アクルーブ146を0.5重量部用いてISO220相当粘度に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表6に示す。
(比較例7)
【0064】
市販液状ポリブテン35Rを(ポリブテン15Rを68.1重量%の代わりに)55.2重量%、鉱物油YUBASE−6を(31.9重量%の代わりに)44.8重量%用いた以外は比較例6と同様に配合調整した。配合油の潤滑油物性を表6に示す。
(比較例8)
【0065】
市販液状ポリブテン15Rを(68.1重量%の代わりに)75.0重量%、鉱物油YUBASE−6を(31.9重量%の代わりに)25.0重量%用いた以外は比較例6と同様に配合し、ISO320相当粘度に調整した。配合油の潤滑油物性を表6に示す。
(比較例9)
【0066】
市販液状ポリブテン35Rを(ポリブテン15Rを68.1重量%の代わりに)60.3重量%、鉱物油YUBASE−6を(31.9重量%の代わりに)39.7重量%用いた以外は比較例3と同様に配合し調整した。配合油の潤滑油物性を表6に示す。
(比較例10)
【0067】
市販液状ポリブテン15Rを(68.1重量%の代わりに)89.8重量%、鉱物油YUBASE−6を(31.9重量%の代わりに)10.2重量%用いた以外は比較例6と同様に配合し調整した。配合油の潤滑油物性を表6に示す。
【0068】
(比較例11)
【0069】
市販液状ポリブテン35Rを(ポリブテン15Rを68.1重量%の代わりに)72.7重量%、鉱物油YUBASE−6を(31.9重量%の代わりに)27.3重量%用いた以外は比較例6と同様に配合し調整した。配合油の潤滑油物性を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
表3〜表6に示されるように、特定のエチレン・αオレフィン共重合体と、特定の潤滑油基剤を含有する本願発明の潤滑油組成物は、類似の炭化水素系重合体として潤滑油用途で用いられるポリブテンと比較して、低温特性の点で圧倒的に優れている。さらに、各種潤滑油用途で広く用いられるオレフィンコポリマー系などの高分子量タイプの粘度調整剤と比較しても、特に剪断安定性の点で大きく優れている。
このため、本願発明の潤滑油組成物は、工業用潤滑油用途のなかでも、低温粘度特性と剪断安定性のバランスが特に要求される風力発電用ギヤ油用途にとりわけ好適である。当該用途において、本願発明の潤滑油組成物は、省エネルギー性と耐久性を両立し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の潤滑油組成物は低温粘度特性と剪断安定性に優れることから、省エネ・省資源等に優れる潤滑油組成物であり、好適には工業用潤滑油、とりわけ風力発電用潤滑油として有効である。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A1)〜(A3)の特性を有するエチレン・αオレフィン共重合体(A)を30〜90重量%、(B1)〜(B3)の特性を有する合成油(B)または(C1)〜(C3)の特性を有する鉱物油(C)から選ばれる1種類以上の成分からなる潤滑油基剤を10〜70重量%を(ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%とする)含有することを特徴とする潤滑油組成物;
(A1)エチレン含量が30〜70モル%の範囲にあること
(共重合体(A)中のエチレン含量とαオレフィン含量の総和を100モル%とする)
(A2)100℃動粘度は30〜350mm2/sの範囲にあること
(A3)Mw/Mnが2.5以下であること

(B1)100℃における動粘度が2〜20mm2/sであること
(B2)粘度指数が130以上であること
(B3)流動点が−30℃以下であること

(C1)100℃における動粘度が2〜10mm2/sであること
(C2)粘度指数が120以上であること
(C3)流動点が−10℃以下であること

【請求項2】
前記共重合体(A)が、エチレンと、炭素数3〜10のα−オレフィンからなる共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記合成油(B)がポリ・αオレフィン(PAO)またはエステル油から選ばれる潤滑油基剤であることを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記潤滑油組成物に、更に流動点降下剤を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記潤滑油組成物の40℃における粘度が190〜750mm2/sの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記潤滑油組成物が、風力発電用ギヤ油組成物である請求項1〜5いずれか1項に記載の工業用潤滑油組成物




【公開番号】特開2011−190377(P2011−190377A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58675(P2010−58675)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】