説明

濃度測定装置

【課題】 試料の旋光度を測定する事により試料内の旋光性物質の濃度を測定する濃度測定に於いて、試料中の測定阻害成分をフィルターで除去した後、フィルターから出てくる試料の旋光度を連続的に旋光度を監視することは定常状態を検知できるため有用である。しかし、定常状態になったとはいえ、流れ続けている試料を測定するのでその値は変動しやすい。
【解決手段】 旋光度が定常状態になったことを検知した場合、送液を一定時間停止させ、停止状態の試料を改めて旋光度測定する。その結果、高精度な尿糖濃度測定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は旋光性を利用した旋光性物質の濃度測定装置に関し、特に、連続的に旋光度を監視して測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、尿糖測定は試験紙法や酵素電極法のような化学反応による検出方法が広く用いられている。しかし、試験紙を用いる手法では尿を扱わなければならない煩わしさが伴う。また、GOD固定化酵素電極法などの酵素法は電極を試料に接触させる必要があり、装置の一部の交換、緩衝液の追加などの処置を行う必要があり、一定期間毎のメンテナンスを必要とする。
【0003】
一方、旋光度等光学的手法に基づいた尿糖測定は、直接試料に触れることなく測定することが可能であるため、特にメンテナンス等を必要とせず、長い期間において測定が可能である。また旋光度などを用いる光学的な方式では測定に際して被験者が尿に触れる危険性もなく、無自覚で測定可能という利点もある。
【0004】
旋光度より試料中の旋光性物質の濃度を求める方法の原理は式1に基づく。
θ(λ)=α(λ)・c・L (式1)
ここで、θ(λ)は光線の波長をλとしたときの旋光度、α(λ)は光線の波長をλとしたときの旋光性物質の比旋光度、cは試料中における旋光性物質の濃度、Lは試料の光路長である。式1において、比旋光度α(λ)は旋光性物質固有の係数であり、光線の波長λや温度によって変化する値ではあるが、濃度測定前に既知の値である。また、試料の光路長Lも同様に濃度測定前に既知の値であるため、試料に光線を入射したときの旋光度θ(λ)を測定することにより、旋光性物質の濃度cを求めることが出来る。
【0005】
上記の方法により旋光度測定より濃度を求めることは可能である。しかし、実際の測定試料は所望の旋光性物質以外の旋光性物質が混在することが多い。例えば、尿糖測定の場合は、尿中にはタンパク質の一種であるアルブミンや、複数のアミノ酸が排泄される。また、サプリメントの摂取などにより基準値以上のアスコルビン酸が排泄されることもある。そこで、尿糖以外の旋光性物質を除去する必要があるのだが、除去する方法としては化学的な手法と濾過などの物理的な手法が考えられる。
【0006】
例えば特許文献1のように、電荷を発生させて尿中の浮遊固形物質を局在化させることで除去する方法などが知られている。また、特許文献2にあるように合成吸着剤や活性炭などは、非常に吸着能が高いためフィルターとして有効である。また、イオン性物質を除去するためにはイオン交換作用のあるイオン交換樹脂などが有効である。
【0007】
【特許文献1】特開2002−107356号公報(図1)
【特許文献2】特開平7−116658号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の方法によりフィルターを用いて所望の旋光性物質以外の旋光性物質を除去する場合、フィルターを通って出てくる試料の旋光度を連続的に監視し、定常状態になったことを感知することで、流路についた水分やフィルターのもつ余計な水分などの影響を受けず
に測定可能となる。しかし、定常状態になったとはいえ、流れ続けている試料を測定するのでその値は変動しやすい。
【0009】
そこで本発明は上記の課題を解決し、より高精度な濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するために、本発明による濃度測定装置は旋光度測定セルへ試料を連続的に送液し、旋光度が定常状態になった後に改めて旋光度を測定する場合には、旋光度測定セルへの試料の送液を停止させた状態で試料の旋光度を測定することを特徴とする。
【0011】
また、旋光度を連続的に監視する監視手段を有し、監視手段によって監視される旋光度が定常状態になったことを感知したところで、試料の送液を停止することが好ましい。
【0012】
また、試料中の測定対象物質の旋光度測定を妨げる妨害物質を除去するフィルターを有していることが好ましい。
【0013】
また、監視手段によって、旋光度が定常状態になったことを感知した場合に、測定者に通知する出力手段を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の濃度測定装置における試料は尿であり、測定対象物質が尿糖である場合により有用である。
【0015】
(作用)
例えば、尿の旋光度を測定することにより尿糖値を測定する濃度測定装置において、尿糖以外の旋光性物質の除去を行うフィルターを通った後の試料の旋光度を連続的に監視し定常状態の値を検知することは有用である。旋光度が定常状態になったことを検知した場合、送液を一定時間停止させ、停止状態の試料を改めて旋光度測定することでより高精度な尿糖濃度測定が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明のように、本発明の濃度測定装置においては、下記に記載する効果を有する。
【0017】
定常状態検知後、送液を一定時間停止させ、停止状態の試料を旋光度測定することで、精度良く濃度測定ができる。
【0018】
また、定常状態を検知した後、直ちに送液を停止させることは、必要量以上の試料が
流路に入ることを防ぐため、流路の汚れを軽減することも可能となる。
【0019】
また、定常状態を検知した後、直ちに送液を停止させることは、測定に必要な試料の計量を厳密に行う必要がなく、装置の小型化が可能となる。
【0020】
また、出力手段により定常状態を検知したことをユーザーに知らせることで、必要量
以上の試料を採取部にむける必要が無くなり煩わしさの軽減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の濃度測定装置の最適な実施形態を説明する。
【0022】
(第一の実施形態)
まず、図1は本発明の実施形態の例である。図1において採取部1は、試料が採取される容器である。採取部1には採取感知センサー2が取り付けられており、試料の有無を感知する。例えば、光による光学的検出や電極による電気的検出方法が考えられる。採取感知センサー2により試料が感知されると、制御回路3に信号が送られる。試料感知の信号を受け、制御回路3は送液バルブ4を開き、送液ポンプ5を起動する信号を送る。送液バルブ4と送液ポンプ5によって、試料は送液チューブ6を通り、フィルター7を通過する。フィルター7は、試料中の測定対象物質の旋光度測定を妨げる妨害物質を除去する機能をもったものである。フィルター7を通り、妨害物質が除去された試料は、旋光度測定セル8へと送液される。旋光度測定セル8で旋光度は連続的に監視されており、そのデータは制御回路3へ送られる。また、試料は旋光度測定セル8に取り付けられた廃液用ノズル9より、廃棄される。
【0023】
例えば、尿中の尿糖濃度を測定することを考える。尿中旋光成分には、グルコースだけでなく、アルブミン等のタンパク質、アミノ酸、アスコルビン酸などがある。尿をフィルター7に通すことで、尿糖以外の旋光成分を除去する必要があり、それら妨害物質を除去するには、合成吸着剤や活性炭などの高い吸着能力を持った吸着剤が有効である。また、イオン性の旋光成分はイオン交換樹脂のようなイオン交換作用をもったもので除去するとよい。妨害物質が陰イオン型のアミノ酸(H2N−CHR−COO-)であり、強塩基性陰イオン交換樹脂で除去する場合の化学式1は以下の通りである。
R−N・OH- + H2N−CHR'−COO-
R−N・COO-−CHR'−NH2 + OH-

ここで R−N・OH-は強塩基性陰イオン交換樹脂を示し、R'はアミノ酸特有の有機
分子を示す。
【0024】
フィルター7に充填剤として、合成吸着剤、活性炭、イオン交換樹脂またはこれらを組み合わせたものを用いることで、試料中の測定対象物質の旋光度測定を妨げる妨害物質を除去が可能となる。
【0025】
図2は本発明の旋光度測定部における実施形態の例である。図2において例えばレーザダイオードなどの光源11より出射された光線をコリメートレンズ12に入射する。コリメートレンズ12によって平行光となった光線を次に偏光子13に入射する。偏光子13によって光線は偏光子13の透過軸方向に光軸を持つ直線偏光となる。次に偏光子13を透過してきた直線偏光を電気光学的な旋光度変調素子14に入射する。図2に示す本実施形態においては、電気光学的な旋光度変調素子14としてホモジニアス配向の液晶素子15とλ/4波長板16を用いている。ここで、液晶素子15へ印加する電圧を変化させることにより、直線偏光の偏光軸方向を回転させること、すなわち旋光させることが出来る。
【0026】
旋光度変調素子14によって旋光度が変調された光線は次に旋光度測定セル8に入射する。ここで、旋光度測定セル8内に試料がある場合、旋光度測定セル8を通過する光線は、試料を通過する際、その試料内の旋光性物質によって未知の変位量だけ旋光する。このときの変位量は上述の式1のように試料内の旋光性物質の濃度、試料を通過する光線の光路長に比例する。
【0027】
旋光度測定セル8を通過した光線は次に検光子17に入射する。検光子17においては、検光子17の透過軸方向の光成分のみが透過し、光検出器18の受光部に到達する。光検出器18は受光した光線の強度を電圧信号として出力するものである。このとき、例えば、検光子17を回転させる、もしくは旋光度変調素子14によって直線偏光の旋光度の
変調範囲や変調量を変化させるなどの手段を用い、そのときの光検出器18を観察することによって、試料の旋光度を測定することが出来る。マイクロコンピューター等の監視手段19が光検出器18で受光した光線の強度を示す電圧信号を常に受信することで、旋光度を連続的に監視することができる。
【0028】
また、上述の実施形態における電気光学的な旋光度変調手段としては液晶素子とλ/4波長板を用いているが、例えばファラデーセル、光弾性変調子またはポッケルセルなど、その他の素子を用いた場合にも本手法は有効である。
【0029】
試料が、送液されてから経過時間tに伴なう旋光度値の変化を図3に示す。初めは、フィルター中に含まれる水分や、流路に付着した水分などが、旋光度測定セルに入るため旋光度は安定しないが、徐々に定常状態となる。
【0030】
例えば、試料として尿を用いると、旋光度Q1は尿糖以外の旋光成分がフィルターによって除去された値、つまり尿糖の旋光度である。
【0031】
監視手段19によって定常状態が確認された直後にその信号は制御回路3に送られる。制御回路3は送液バルブ4と送液ポンプ5の起動を停止する信号を送る。すると、送液は止まり旋光度測定セル8の中の試料は、停止した状態になる。
【0032】
改めて、試料が停止した状態下で、ある一定時間旋光度を測定し、一定時間中に得られた旋光度を平均し、その値を濃度算出用の旋光度として利用する。このようにすることで、値が変動しやすい流れた状態の試料の旋光度を測定するのではなく、止まった状態の試料の旋光度を測定できるため、より精度の高い濃度を求めることが可能となる。
【0033】
試料を旋光度測定セル内で停止した状態で測定するためには、送液を停止するタイミングが重要である。一定体積の試料を流したら自動的に送液を停止するような手段や、一定時間の間、試料を流したら自動的に送液を停止するような手段も考えられるが、一定体積や一定時間を計測するための装置が必要なってしまい、装置が大型になってしまう可能性がある。また、送液を停止するタイミングに旋光度測定セル内に気泡が入り、測定できない状態になるかもしれない。そのような装置の大型化や気泡による測定不能を防ぐためにも、旋光度を連続的に監視し、定常状態を確認した後に送液を停止し、改めて旋光度を測定する方法は有用である。
【0034】
送液するための手段である送液ポンプは無脈流のポンプのほうが安定した送液が可能であるため、連続的に試料を送液し測定する方法においては無脈流の送液ポンプが必要不可欠であるが、無脈流のポンプは脈流のあるポンプに比べて高価である。しかし、旋光度を監視し定常状態を確認した後に、改めて停止状態の試料を測定する方法であれば、監視する段階では、脈流のない安定した送液でなくてもよく、高価な脈流のない送液ポンプを用いなくてもよいため安価で装置の提供が可能となる。
【0035】
また、監視手段19が定常状態を監視した直後に、制御回路3によって送液バルブ4と送液ポンプ5の起動を停止させることは、必要量以上の試料が流路に入ることを防ぐことを可能とするため、流路の汚れを軽減することも可能となる。
【0036】
また、監視手段19が定常状態を監視した直後に、制御回路3によって送液バルブ4と送液ポンプ5の起動を停止させることは、試料を計量する必要がないことを意味し、装置の小型化にもつながる。
【0037】
ここで、上述の実施形態においては試料として尿および測定対象物質として尿糖とてい
るが、これに限るものではなく、様々な成分が混在している試料中で特定の旋光性物質の濃度を測定する際には有効である。
【0038】
(第二の実施形態)
次に第二の実施形態について図4を用いて説明する。旋光度を測定する系に関しては第一の実施形態と同様のものとする。監視手段19によって定常状態が確認された場合、その信号は制御回路3に送られ、制御回路3は出力手段21に信号を送り、ユーザーに知らせる。出力手段としては、ランプや音などが考えられる。
【0039】
例えば、尿中の尿糖濃度を測定することを考える。尿糖測定装置として便座や便器に組み込まれている可能性が高く、ユーザーは採取部に向けて尿をする必要がある。これは、多少の煩わしさが伴う。定常状態が確認されたことをユーザーに通知することで、煩わしさの軽減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第一の実施形態における濃度測定装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の旋光度測定部の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の濃度測定装置の実施形態における経過時間と旋光度との関係を示す図である。
【図4】本発明の第二の実施形態における濃度測定装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0041】
1 採取部
2 採取感知センサー
3 制御回路
4 送液バルブ
5 送液ポンプ
6 送液チューブ
7 フィルター
8 旋光度測定セル
9 廃液用ノズル
11 光源
12 コリメートレンズ
13 偏光子
14 旋光度変調素子
15 液晶素子
16 λ/4波長板
17 検光子
18 光検出器
19 監視手段
21 出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋光性を利用して試料中に含まれる旋光性物質の濃度を測定する濃度測定装置であって、予め、旋光度測定セルへ前記試料を連続的に送液し、旋光度が定常状態になった後に改めて旋光度を測定する場合には、前記旋光度測定セルへの前記試料の送液を停止させた状態で前記試料の旋光度を測定する濃度測定装置。
【請求項2】
旋光度を連続的に監視する監視手段を有し、該監視手段によって監視される旋光度が定常状態になったことを感知したところで、前記試料の送液を停止することを特徴とする請求項1に記載の濃度測定装置。
【請求項3】
前記試料中の測定対象物質の旋光度測定を妨げる妨害物質を除去するフィルターを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の濃度測定装置。
【請求項4】
前記監視手段によって、旋光度が定常状態になったことを感知した場合に、測定者に通知する出力手段を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の濃度測定装置。
【請求項5】
前記試料は尿であり、前記測定対象物質が尿糖であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の濃度測定装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−85974(P2007−85974A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277355(P2005−277355)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】