説明

炉のウォーターシール破損検出方法

【課題】ウォーターシールの破損の有無の監視を、炉を消火せずかつ手間も掛けずに容易にしかも常時行い得て、ウォーターシールの破損を早期に検出することができる破損検出方法を提供する。
【解決手段】ウォーキングビーム式の炉においてウォーターシールの破損を検出するに際し、ウォーキングビーム2の各移動ビームポスト3の、炉床開口部1aよりも下方で炉内からの雰囲気ガスに晒される位置に温度センサ9を設け、この温度センサ9で検出した雰囲気温度がシールプレート7,8の正常時の雰囲気温度よりも低下した場合にウォーターシールの破損が発生したと判断するウォーターシールの破損検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーキングビーム式の加熱炉や熱処理炉等の炉においてウォーターシールの破損を早期に検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウォーキングビーム式の加熱炉や熱処理炉等の炉では、被加熱材料を固定ビームと移動ビームとで交互に支持して、移動ビームの昇降および前後移動からなるボックスモーションまたはオーバルモーションにより炉内で歩進移動させることから、移動ビームを支持する移動ビームポストを上下および水平移動可能に遊貫させる開口部を炉床に設けるので、その炉床開口部を通って炉内から漏れ出た雰囲気ガスと炉外とを仕切るためにウォーターシールを用いることが多い(特許文献1参照)。
【0003】
ウォーターシールとは、炉床の下方に配置した樋状のシールトラフ内に炉床開口部周辺から下ろしたシールプレートをシールトラフ内の水に浸漬させるとともに、炉床開口部およびその下方のシールトラフ開口部に遊貫させた移動ビームポストの、炉床開口部とシールトラフ開口部との間の位置からシールトラフ内に下ろしたシールプレートをシールトラフ内の水に浸漬させ、あるいは炉床開口部に遊貫させた移動ビームポストをシールトラフに密貫させてその移動ビームポストでシールトラフを一緒に移動させることで、炉床開口部を通って炉内から漏れ出た雰囲気ガスをシールプレートで包囲してシールトラフ内の水でシールするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−162218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらウォーターシールは、シールトラフ内の水に浸漬したシールプレートが炉内から漏れ出た雰囲気ガスやその雰囲気ガスが溶け込んだ水により腐食あるいは劣化し、破損する場合がある。そして破損による開口部が大きいと、炉床より下の部分は炉内との温度差で負圧になっているため、シールプレートの破損開口部から空気が炉内に侵入して炉内温度が局所的に低下し、被加熱材料ひいては製品の品質に影響を与える可能性がある。
【0006】
特に、ウォーターシールが、炉床開口部およびその下方のシールトラフ開口部に遊貫させた移動ビームポストの、炉床開口部とシールトラフ開口部との間の位置から下ろしたシールプレートをシールトラフ内の水に浸漬させる構造である場合、移動ビームポストから下ろしたシールプレートを、炉床開口部周辺から下ろした外側のシールプレートが囲む二重構造となり、炉床開口部周辺から下ろしたシールプレートが外側に、また移動ビームポストから下ろしたシールプレートがその内側に位置することから、その内側のシールプレートが破損した場合には、外部からの目視では確認できないので、確認のために外側のシールプレートを取り外す必要があり、炉を消火しての大掛かりな作業になるという問題があった。
【0007】
このため、炉を消火せずに行える直接目視以外のウォーターシールの破損検出方法として、炉圧を下げた状態で外側のシールプレート周辺でスモークテストを行い、ウォーターシール内部への煙の吸い込みがあるか否かを調べるという方法も知られている。しかしながらこの方法では、一般的にウォーキングビームの駆動装置上は十分な足場やスペースがないため足場の設置等の準備に手間が掛かる上、炉の燃焼中は雰囲気温度が高いため作業環境が劣悪であることが多いという問題があった。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、ウォーターシールの破損の有無の監視を、炉を消火せずかつ手間も掛けずに容易にしかも常時行い得て、ウォーターシールの破損を早期に検出することができる破損検出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明のウォーターシールの破損検出方法は、ウォーキングビーム式の炉においてウォーターシールの破損を検出するに際し、ウォーキングビームの各移動ビームポストの、炉床開口部よりも下方で炉内からの雰囲気ガスに晒される位置に温度センサを設け、この温度センサで検出した雰囲気温度がシールプレートの正常時の雰囲気温度よりも低下した場合にウォーターシールの破損が発生したと判断することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
加熱炉や熱処理炉等では通常、炉内の被加熱材料付近の雰囲気ガス圧力を10Pa前後に制御しており、被加熱材料付近よりも雰囲気温度が低い炉床付近では雰囲気ガス圧力は0Pa前後まで下がり、炉床よりも下のウォーターシール部分では雰囲気ガス圧力は常に負圧になる。このため、ウォーターシールのシールプレートが破損した場合にはその破損部から外気を吸引し、移動ビームポスト付近の雰囲気ガスの温度は低下する。
【0011】
しかして本発明のウォーターシールの破損検出方法によれば、ウォーキングビームの各移動ビームポストの、炉床開口部よりも下方で炉内からの雰囲気ガスに晒される位置に設けた温度センサで雰囲気温度を検出し、その検出した雰囲気温度がシールプレートの正常時の雰囲気温度よりも低下した場合にウォーターシールの破損が発生したと判断するので、ウォーターシールの破損の有無の監視を、炉を消火せずかつ手間も掛けずに容易にしかも常時行い得て、ウォーターシールの破損を早期にかつ確実に検出することができ、これにより、局所的な炉内温度の低下に起因する大量の製品の熱処理不適合を防止することができる。
【0012】
なお、本発明のウォーターシールの破損検出方法においては、ウォーキングビームの各移動ビームポストの、炉床開口部よりも下方で雰囲気ガスに晒される位置に温度センサを設けるに際し、ウォーターシールが、移動ビームポストの、炉床開口部とシールトラフ開口部との間の位置からシールトラフ内に下ろした内側のシールプレートを、炉床開口部周辺からシールトラフ内に下ろした外側のシールプレートで囲む二重構造となっている場合には、前記温度センサを、その移動ビームポストの、炉床開口部よりも下で、前記内側のシールプレートよりも上の位置に設けることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、ウォーターシールが、移動ビームポストの、炉床開口部とシールトラフ開口部との間の位置から下ろした内側のシールプレートを、炉床開口部周辺から下ろした外側のシールプレートで囲む二重構造となっている場合に、内側、外側のどちらのシールプレートが破損してもそれを早期にかつ確実に検出することができ、これにより、局所的な炉内温度の低下による大量の製品の熱処理不適合を防止することができる。
【0014】
また、本発明のウォーターシールの破損検出方法においては、前記温度センサは熱電対を具えるものであると好ましい。このようにすれば、熱電対は安価で耐熱性および耐久性が高いので、安価な設備で長期間に亘り確実にウォーターシールの破損検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のウォーターシールの破損検出方法の一実施例を適用した炉のウォーターシールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づく実施例によって詳細に説明する。ここに、図1は、本発明のウォーターシールの破損検出方法の一実施例を適用した炉のウォーターシールを示す断面図であり、図1中、符号1はウォーキングビーム式の熱処理炉の炉床、符号2はその炉内で図では下降および後退位置に位置している移動ビームをそれぞれ示す。
【0017】
このウォーキングビーム式の熱処理炉は、図1では左右方向へ延在しており、移動ビーム2は、この熱処理炉の炉内に固定された図示しない固定ビームとともに炉内で複数本ずつ並んで炉に沿って延在している。これら移動ビーム2と固定ビームとは、図示しない被加熱材料を交互に支持して、図の右下に太矢印で示す如き移動ビーム2の昇降および前後移動からなるボックスモーションにより、その被加熱材料を炉内で図では右方から左方へ所定距離ずつ歩進移動させ、その歩進移動の間に被加熱材料は、炉内に供給された雰囲気ガスG中で周囲から図示しない加熱装置により加熱されて所定の熱処理を施される。
【0018】
この移動ビーム2の昇降および前後移動からなるボックスモーションを行わせるため、炉床1には、移動ビーム2を支持する複数本の移動ビームポスト3をそれぞれ上下および水平移動可能に遊貫させる複数の開口部1aが設けられており、それら複数本の移動ビームポスト3は各々、ウォーキングビーム駆動フレーム4に立設されて、そのウォーキングビーム駆動フレーム4を介し図示しない既知の駆動装置により駆動され、図の右下に太矢印で示すように昇降および前後移動される。
【0019】
移動ビームポスト3には、炉床1の各開口部1aを閉止するように蓋5が取り付けられており、移動ビームポスト3が下降している間は蓋5により炉床開口部1aは閉止されているが、移動ビームポスト3の上昇時には炉床1と蓋5との間に隙間が生ずるので、その隙間および炉床開口部1aを通って炉内から雰囲気ガスGが漏れ出す。そこで、この雰囲気ガスGと炉外とを仕切るために、炉床1の下方にはウォーターシールが設けられている。なお、蓋5が設置されていない場合もある。
【0020】
ここにおけるウォーターシールは、炉床の下方に固定配置した樋状のシールトラフ6内に炉床開口部1aの周辺から下ろした外側シールプレート7をシールトラフ6内の水に浸漬させるとともに、炉床開口部1aおよびその下方のシールトラフ開口部6aに遊貫させた移動ビームポスト3の、炉床開口部1aとシールトラフ開口部6aとの間の位置からシールトラフ6内に下ろした内側シールプレート8をシールトラフ6内の水に浸漬させることで、炉床開口部1aを通って炉内から漏れ出た雰囲気ガスGをシールプレート7,8で包囲してシールトラフ6内の水でシールするものである。
【0021】
かかるウォーターシールは、シールトラフ6内の水に浸漬したシールプレート7,8が、炉内から漏れ出た雰囲気ガスGやその雰囲気ガスGが溶け込んだ水により腐食あるいは劣化し、破損する場合があり、特に内側シールプレート8の中間部は、移動ビームポスト3の上下移動に伴い、固定されたシールトラフ6内の水中に浸漬されたりその水中から引き上げられたりするため、腐食あるいは劣化し易い。そして破損による開口部が大きいと、炉床1より下の部分は炉内との温度差で負圧になっているため、シールプレート7,8の破損開口部から空気が炉内に侵入して炉内温度が局所的に低下し、被加熱材料ひいては製品の品質に影響を与える可能性がある。しかもここにおけるウォーターシールは、移動ビームポスト3から下ろした内側シールプレート8を、炉床開口部1a周辺から下ろした外側シールプレート8が囲む二重構造となっていることから、その内側シールプレート8が破損した場合には、外部からの目視では確認できない。
【0022】
そこでこの実施例のウォーターシールの破損検出方法では、上述したウォーキングビーム式の熱処理炉においてウォーターシールの二重構造になった外側および内側シールプレート7,8の破損を検出するために、ウォーキングビームの各移動ビームポスト3の、炉床開口部1aよりも下方で炉内からの雰囲気ガスGに晒される位置、具体的には、各移動ビームポスト3の、炉床開口部1aよりも下で、内側シールプレート8よりも上の位置に温度センサ9を設ける。この温度センサ9としては、例えばケーシング内に熱電対を具えるものを用いることができる。
【0023】
そしてこの実施例のウォーターシールの破損検出方法では、上記温度センサ9を例えば図示しないコンピュータに接続し、このコンピュータは、予め与えられたプログラムに基づき、上記熱処理炉の操業中にこの温度センサ9で検出した温度センサ9の周囲の雰囲気温度と、予めこの温度センサ9で検出してこのコンピュータが保存しているシールプレート7,8の正常時の上記熱処理炉の操業中の温度センサ9の周囲の雰囲気温度とを所定時間(例えば1分)毎に比較し、この比較の結果、熱処理炉の操業中にこの温度センサ9で検出した周囲の雰囲気温度が、シールプレート7,8の正常時の温度センサ9の周囲の雰囲気温度よりも所定温度(例えば30℃)以上低下した場合に、ウォーターシールの外側および内側シールプレート7,8の何れかに破損が発生したと判断して警告信号を出力する。
【0024】
従って、この実施例のウォーターシールの破損検出方法によれば、ウォーキングビームの各移動ビームポスト3の、炉床開口部1aよりも下方で炉内からの雰囲気ガスGに晒される位置に設けた温度センサ9で雰囲気温度を検出し、その検出した雰囲気温度がシールプレート7,8の正常時の雰囲気温度よりも低下した場合にウォーターシールの破損が発生したと判断するので、ウォーターシールの破損の有無の監視を、炉を消火せずかつ手間も掛けずに容易にしかも常時行い得て、ウォーターシールの破損を早期にかつ確実に検出することができ、これにより、局所的な炉内温度の低下に起因する大量の製品の熱処理不適合を防止することができる。
【0025】
しかもこの実施例のウォーターシールの破損検出方法によれば、ウォーターシールが、移動ビームポスト3の、炉床開口部1aとシールトラフ開口部6aとの間の位置からシールトラフ6内に下ろした内側シールプレート8を、炉床開口部1a周辺からシールトラフ内6に下ろした外側シールプレート7で囲む二重構造となっていて、温度センサ9をその移動ビームポスト3の、炉床開口部1aよりも下で、内側シールプレート8よりも上の位置に設けるので、外側および内側のシールプレート7,8の何れが破損してもそれを早期にかつ確実に検出することができ、これにより、局所的な炉内温度の低下による大量の製品の熱処理不適合を防止することができる。
【0026】
さらにこの実施例のウォーターシールの破損検出方法によれば、温度センサ9を、熱電対を具えるものとすると、熱電対は安価で耐熱性および耐久性が高いので、安価な設備で長期間に亘り確実にウォーターシールの破損検出を行うことができる。
【0027】
以上、実施例に基づき説明したが、本発明は上述の例に限定されるものでなく、例えば本発明の方法を適用し得るウォーキングビーム式の炉は、熱処理炉に限られず、被加熱材料の加熱や均熱に供する他の種類の炉であってもよい。
【0028】
また本発明の方法を適用し得るウォーターシールは、炉床の下方に配置した樋状のシールトラフ内に炉床開口部周辺から下ろしたシールプレートをシールトラフ内の水に浸漬させるとともに、炉床開口部に遊貫させた移動ビームポストをシールトラフに密貫させてその移動ビームポストでシールトラフを一緒に移動させることで、炉床開口部を通って炉内から漏れ出た雰囲気ガスを一重のシールプレートで包囲してシールトラフ内の水でシールするものでもよく、その場合にも温度センサを炉床開口部よりも下方で炉内からの雰囲気ガスGに晒される位置として、炉床開口部とシールトラフとの間の適当な位置に設けることで、シールプレートの破損を早期にかつ確実に検出することができる。
【0029】
さらに本発明においては、温度センサで検出した周囲の雰囲気温度とシールプレートの正常時の雰囲気温度との比較や、温度センサで検出した周囲の雰囲気温度がシールプレートの正常時の雰囲気温度よりも所定温度以上低下したか否かの判断、ひいてはウォーターシールのシールプレートの破損が発生したか否かの判断は、コンピュータ以外の電気回路が行ってもよく、あるいは人が行ってもよい。
【0030】
そして本発明においては、温度センサは、熱電対を具えるものに限られず、他の種類のものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
かくして本発明のウォーターシールの破損検出方法によれば、ウォーキングビームの各移動ビームポストの、炉床開口部よりも下方で炉内からの雰囲気ガスに晒される位置に設けた温度センサで雰囲気温度を検出し、その検出した雰囲気温度がシールプレートの正常時の雰囲気温度よりも低下した場合にウォーターシールの破損が発生したと判断するので、ウォーターシールの破損の有無の監視を、炉を消火せずかつ手間も掛けずに容易にしかも常時行い得て、ウォーターシールの破損を早期にかつ確実に検出することができ、これにより、局所的な炉内温度の低下に起因する大量の製品の熱処理不適合を防止することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 炉床
1a 開口部
2 移動ビーム
3 移動ビームポスト
4 ウォーキングビーム駆動フレーム
5 蓋
6 シールトラフ
6a 開口部
7 外側シールプレート
8 内側シールプレート
9 温度センサ
G 雰囲気ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォーキングビーム式の炉においてウォーターシールの破損を検出するに際し、
ウォーキングビームの各移動ビームポストの、炉床開口部よりも下方で炉内からの雰囲気ガスに晒される位置に温度センサを設け、
この温度センサで検出した雰囲気温度がシールプレートの正常時の雰囲気温度よりも低下した場合にウォーターシールの破損が発生したと判断することを特徴とするウォーターシールの破損検出方法。
【請求項2】
ウォーキングビームの各移動ビームポストの、炉床開口部よりも下方で雰囲気ガスに晒される位置に温度センサを設けるに際し、
ウォーターシールが、移動ビームポストの、炉床開口部とシールトラフ開口部との間の位置からシールトラフ内に下ろした内側のシールプレートを、炉床開口部周辺からシールトラフ内に下ろした外側のシールプレートで囲む二重構造となっている場合に、
前記温度センサを、その移動ビームポストの、炉床開口部よりも下で、前記内側のシールプレートよりも上の位置に設けることを特徴とする、請求項1記載のウォーターシールの破損検出方法。
【請求項3】
前記温度センサは、熱電対を具えるものであることを特徴とする、請求項1または2記載のウォーターシールの破損検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−117710(P2012−117710A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266122(P2010−266122)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】