説明

炊飯器

【課題】従来の蒸気炊飯器より、さらにふっくらと膨らみ、軟らかく、旨味の増したおいしいご飯を得ることは難しい。
【解決手段】鍋と、鍋を加熱する鍋加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、鍋の温度に基づいて加熱手段に与える加熱量を制御する制御手段と、鍋内の米及び玄米の蛋白質を変性する蒸気を投入する蛋白質処理工程を備えることにより、その後浸水させたときに、米及び玄米への吸水速度を高め、含水率を上昇させることができ、炊き上げ・むらし工程においては、蛋白質処理工程により、米及び玄米中心部まで水が吸水されやすくなることから、糊化反応も促進され、炊飯終了後、ふっくらの膨らみ、軟らかいおいしいご飯を得ることができる。さらに、蛋白質変性により、分子構造がほぐれ、蛋白質を構成しているアミノ酸の遊離量が増加し、旨味が増したおいしいご飯を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気を用いて炊飯する機能を備えた炊飯器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の炊飯器においては、浸水工程、炊き上げ工程、蒸らし工程と順次実施し、炊飯を行い、この浸水工程の前に蒸気による予備浸水工程を設け、浸水工程における米への吸水を促進し、その後炊き上げ工程、蒸らし工程で加熱を行うことにより、糊化反応を促進し、おいしいご飯を炊き上げるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−168546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の構成においては、浸水工程の前に予備浸水工程を設けて、浸水工程における米への吸水を促進することで、その後炊き上げ、蒸らし工程での加熱に伴う糊化反応が促進され、おいしいご飯になるが、米表面に多く存在する蛋白質の変性までは促進されず、その結果、米中心部までの完全な吸水や、炊き上がったご飯の旨味を増す、遊離アミノ酸の増量は実現されていなかった。
【0004】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、米中心部までの吸水の実現で、糊化反応のさらなる促進と、遊離アミノ酸の増量により、さらに軟らかい、旨味の増したおいしいご飯を得ることができる炊飯器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の炊飯器は、炊飯工程に蛋白質処理工程を有し、この蛋白質処理工程において、鍋内に、蒸気発生手段により、蛋白質を変性させる蒸気を投入することができるようにしたものである。
【0006】
蛋白質を変性させる蒸気を予め鍋内に投入することにより、鍋内の米及び玄米(胚芽米、分づき米を含む)の蛋白質が変性し、その後浸水させることにより、米及び玄米への吸水を、従来よりさらに高め、中心部までの吸水を実現させることが可能になり、引き続き行われる炊き上げ工程、むらし工程での糊化反応がさらに促進し、中心部まで十分糊化し、ふっくらとした、軟らかいく、おいしいご飯を得ることができる。そして、さらに蛋白質の変性により、炊飯後、蛋白質を構成しているアミノ酸の遊離量が増加し、旨味の増したおいしいご飯を得ることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の炊飯器は、炊飯工程に蛋白質処理工程を設けることによって、調理物である米及び玄米の蛋白質が変性し、結果、吸水、糊化反応が促進され、ふっくらとした、軟らかいご飯が炊飯できるとともに、アミノ酸の遊離量が増加した旨味の増したご飯を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
第1の発明は、調理物を収容する鍋と、この鍋を加熱する鍋加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、鍋の温度に基づいて加熱手段に与える加熱量を制御する制御手段と前記鍋内部の調理物の蛋白質を変性させる蛋白質処理工程を備えた炊飯器とすることにより、鍋内部に収容した米及び玄米の蛋白質を変性させることで、従来の蒸気炊飯器より、米及び玄米への吸水を高め、糊化反応を促進させることが可能となり、ふっくらとした、軟らかいご飯を得ることができる。さらに蛋白質の変性により、アミノ酸の遊離量が増加し、旨味の高いご飯を得ることができる。
【0009】
第2の発明は、特に第1の発明において、鍋内部に蒸気を投入する蒸気発生手段と、蒸気発生手段により発生させた蒸気を加熱する蒸気加熱手段と、発生させた蒸気温度を測定する蒸気温度測定手段を有し、蛋白質処理工程において、蒸気温度測定手段が測定した蒸気温度に基づいて、制御手段にて、蒸気加熱手段に与える加熱量を制御することで、蒸気の温度を101℃以上150℃以下に一定時間制御し、調理物が入った鍋内にその蒸気を投入することで、調理物の蛋白質の熱変性を促進することができる。
【0010】
第3の発明は、特に第2の発明において、炊飯に必要な水を貯水する水タンクを備えた炊飯器とすることにより、調理物が入った鍋内に、調理物の蛋白質を変性する蒸気を投入した後、引き続き、自動的に、水を給水し炊飯することが可能になり、ふっくらとした、軟らかい、旨味の増したご飯を自動的に炊飯することができる。
【0011】
第4の発明は、特に第3の発明において、炊飯に必要な水を貯水する水タンクを加熱する水タンク加熱手段を備えた炊飯器とすることにより、炊飯するとき、米及び玄米が入った鍋内に、調理物の蛋白質を変性する蒸気を投入した後、引き続き、予め加熱した水タンクの水を鍋内部に供給することができるので、米及び玄米の吸水、糊化及び蛋白質の変性がさらに効率よく高まり、結果、さらにふっくらとした、軟らかい、遊離アミノ酸が増加した旨味の増したご飯を得ることができる。
【0012】
第5の発明は、特に、第1から4のいずれか1つの発明において、浸水工程を炊飯工程として有する炊飯器とすることにより、炊飯するとき、浸水工程の前に蛋白質処理工程を行うことにより、米及び玄米の蛋白質が変性し、その後行う浸水工程では、従来の浸水工程より米及び玄米への吸水がさらに促進し、継続して炊き上げ・むらし工程を行うことにより、糊化反応も促進し、自動的にふっくらとした、軟らかい、旨味を増したご飯を得ることができる。
【0013】
第6の発明は、特に第5の発明において、炊飯するとき、浸水工程において、水タンク加熱手段により、予め加熱しておいた水タンクの水を、蛋白質処理工程の後の浸水工程開始時に、給水手段により、鍋内部に供給し、さらに継続して炊き上げ・むらし工程行うことにより、米及び玄米への吸水、糊化及び蛋白質の変性がさらに効率よく促進し、さらにふっくらとした、軟らかい、遊離アミノ酸が増加した旨味の増したご飯を得ることができる。
【0014】
第7の発明は、特に第6の発明において、蛋白質処理工程の後の浸水工程開始時に、鍋内部に水タンクから供給する水を、30℃以上60℃以下にすることにより、炊飯するとき、米及び玄米の吸水が、さらに効率よく上昇し、結果、さらにふっくらとした軟らかい、旨味の多いご飯を得ることができる。
【0015】
以下、本実施の形態について、図を用いて説明する。尚、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における炊飯器を示すものである。
【0017】
図に示すように本実施の形態における炊飯器は、調理物(米・玄米や水)を収容する鍋10と、この鍋10を加熱して、調理物の調理を行う電磁加熱コイルなどからなる加熱手段11と、鍋10の温度を測定する温度センサーからなる温度測定手段12と、温度測定手段12が測定した鍋10の温度に基づいて、炊飯の各工程を順次実行できるように、加熱手段11に与える加熱量を制御する制御部13とを備えている。
【0018】
また、鍋10とは別に、水を貯蔵しておく水タンク14と水タンク14を加熱する水タンク加熱手段15を備え、この水タンク14からポンプ16により、蒸気発生室17に水が供給され、蒸気発生室加熱手段18により、蒸気発生室17内部の水が加熱され、蒸気が生成される。蒸気発生室17に供給される水量は、制御部13で制御され、流量は、流量調節器19にて調節される。この蒸気発生室17で生成された蒸気は、蒸気通路パイプ20にて、鍋10上部の蒸気加熱室21に送られ、その後鍋10内部の投入される。
【0019】
蒸気加熱室21は、蒸気加熱室加熱手段22により加熱され、蒸気加熱室加熱手段22に与える加熱量は、蒸気の温度を測定する温度センサーからなる蒸気温度測定手段23が測定した蒸気の温度に基づいて、制御部13にて制御される。
【0020】
ここで、米3合(450g)を鍋10に収容した場合を例にとって、本実施の形態1における炊飯器の炊飯工程を説明する。
【0021】
まず、鍋10に米を収容し、図には示していないが、炊飯器筐体の一部に設けた炊飯開始ボタンを押すことにより炊飯が開始される。
【0022】
すなわち、温度測定手段12で測定した鍋10の温度に基づいて、炊飯工程の蛋白質処理工程、浸水程工程、炊き上げ工程、むらし工程が順次実行される。まず、蛋白質処理工程においては、水タンク14から蒸気発生室17に必要量の水が供給され、供給された水を用いて、蒸気発生室加熱手段18により、蒸気が生成され、生成された蒸気は、蒸気通路パイプ20を通過して、蒸気加熱室21に送られ、蒸気加熱室21では、蒸気温度測定手段23の情報に基づいて、蒸気温度が130℃で維持されるように制御部13にて制御される。130℃に維持された蒸気は、鍋10内部に5分間投入される。
【0023】
ここでの蒸気の温度は、蛋白質の熱変性が促進される101℃以上、加熱された蒸気が調理物である米及び玄米に接したとき、熱で乾燥され、炊き上がったときに硬くなりすぎない150℃以下に保持され、130℃に限定されるものではない。
【0024】
その後、蛋白質処理工程において、蒸気発生室17に必要量な水が供給された後、水タンク14内の水は、水タンク加熱手段15により、55℃まで加熱され、蛋白質処理工程での鍋内への蒸気投入が終了し、浸水工程開始時に、この加熱された55℃の水が、鍋10内部に供給され、浸水工程が行われる。その後炊き上げ工程、むらし工程が順次行われ、炊飯が終了する。
【0025】
【表1】

【0026】
(表1)は、炊き上がったご飯に関するデータである。
【0027】
本実施の形態1における炊飯器で得られたご飯は、(表1)に示したように、通常の炊飯器や従来の蒸気炊飯器を用いて炊飯したご飯より外観もふっくらと膨らみ、軟らかく、旨味も増していた。従来の蒸気炊飯器では、通常の炊飯器を用いて炊飯したご飯より軟らかくなったものの、ふっくらとした外観の実現や、旨味を増すことはできなかった。
【0028】
これは、次の理由によるものである。
【0029】
【表2】

【0030】
(表2)は、浸水工程終了後の米の含水率に関するデータである。
【0031】
本実施の形態1における炊飯器では、蛋白質処理工程の後の浸水工程終了後において、(表2)に示したように、鍋内に、130℃に制御された蒸気を5分間投入し、その後、浸水工程で55℃の水に20分間浸水させることにより、米の含水率は、52%に上昇し、通常の炊飯器の浸水温度55℃、浸水工程時間20分のときの27%、従来の蒸気炊飯器の浸水温度55℃、浸水工程時間20分のときの50%と比較して高く、含水率が上昇していた。
【0032】
つまり、蛋白質処理工程において、鍋内に130℃の蒸気を投入することにより、米表面に多く存在する、主に水に不溶性の成分で構成され、米への吸水の妨げとなっている米蛋白質の熱変性が促進され、その結果、引き続き行われる浸水工程において、吸水が促進し、含水率が上昇したと考えられる。さらに炊き上げ工程、むらし工程では、吸水を行うとともに、米のβ澱粉をα澱粉に転移させる米の糊化が行われているが、鍋内の蒸気投入による米蛋白質の変性により、米中心部まで水が吸水され、糊化反応もさらに促進され、結果、炊き上がったご飯もさらにふくらみが良く、軟らかくすることができた。
【0033】
【表3】

【0034】
(表3)は、炊き上がったご飯の蛋白質に関するデータである。
【0035】
本実施の形態1おける炊飯器で炊き上がったご飯の蛋白質は、(表3)に示したように、蛋白質を構成しているアミノ酸に反応するニンヒドリン溶液の変色度であらわすと、明確に通常の炊飯器や従来の蒸気炊飯器よりその変色が大きく、アミノ酸の遊離量が多いことがわかる。これは、130℃の蒸気を投入することにより、蛋白質の変性による分子構造のほぐれが促進され、その結果、遊離アミノ酸量が増加したと考えられる。
【0036】
以上述べたところから明らかなように、本実施の形態1の炊飯器は、浸水工程を炊飯工程として有する炊飯器において、鍋と、鍋を加熱する鍋加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、鍋の温度に基づいて加熱手段に与える加熱量を制御する制御手段と水を貯水する水タンクと水タンクを加熱する水タンク加熱手段と水タンクの水を鍋内に供給する給水手段と鍋内に蒸気を投入する蒸気発生手段を備え、炊飯するとき、浸水工程の前に蛋白質処理工程を行うことにより、鍋内部に、101℃以上150℃以下の蒸気を投入され、米表面の蛋白質が変性され、結果、蛋白質処理工程の後の浸水工程終了後の含水率が高まり、加えて、浸水工程時に予め加熱しておいた水タンクの水を、浸水工程開始時に鍋内に供給することによりさらに効率よく吸水させることが可能になった。また米表面の蛋白質の変性に伴い、米中心部まで水が吸水されやすくなったことから、炊き上げ工程、むらし工程での糊化反応も促進され、ふっくらとした、軟らかいご飯を得ることができた。さらに、鍋内に蛋白質を変性する蒸気を投入することにより、炊飯終了後、遊離アミノ酸の増量した、旨味の増したご飯を得ることができた。
【0037】
但し、鍋内に、101℃以上150℃以下の蒸気を投入できる構成を有する炊飯器であれば、蛋白質処理工程を行った米及び玄米に、使用者が別途水を給水し、炊飯を行うことにより、実施の形態1と同様、炊飯終了後、ふっくらとふくらみ、軟らかく、旨味の増したご飯を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明にかかる炊飯器は、鍋を加熱する鍋加熱手段と、鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、鍋の温度に基づいて加熱手段に与える加熱量を制御する制御手段を備えることにより、食品以外の有機物を加熱するとき、鍋内に投入する蒸気発生手段を備えることにより、蒸気を投入しながら加熱反応を行う用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施の形態1の炊飯器の断面図
【符号の説明】
【0040】
10 鍋
11 加熱手段
12 温度測定手段
13 制御部
14 水タンク
15 水タンク加熱手段
16 ポンプ
17 蒸気発生室
18 蒸気発生室加熱手段
19 流量調節器
20 蒸気通路パイプ
21 蒸気加熱室
22 蒸気加熱室加熱手段
23 蒸気温度測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋と、前記鍋を加熱する鍋加熱手段と、前記鍋の温度を測定する鍋温度測定手段と、前記鍋の温度に基づいて前記加熱手段に与える加熱量を制御する制御手段と前記鍋内部の調理物の蛋白質を変性させる蛋白質処理工程を備えた炊飯器。
【請求項2】
前記鍋内部に蒸気を投入する蒸気発生手段と前記蒸気発生手段により発生させた蒸気を加熱する蒸気加熱手段と発生させた蒸気温度を測定する蒸気温度測定手段を有し、前記蛋白質処理工程において、前記蒸気温度測定手段が測定した蒸気温度に基づいて、前記制御手段にて、前記蒸気加熱手段に与える加熱量を制御することで、101℃以上150℃以下で一定時間制御することを特徴とする請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
水を貯水する水タンクと前記水タンクの水を前記鍋内部に供給する給水手段を備えた請求項2記載の炊飯器。
【請求項4】
前記水タンクを加熱する水タンク加熱手段を備えた請求項3記載の炊飯器。
【請求項5】
浸水工程を炊飯工程として有し、前記浸水工程の前に前記蛋白質処理工程を有する請求項1から4いずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項6】
前記浸水工程において、前記水タンク加熱手段により、予め加熱しておいた前記水タンクの水を、前記蛋白質処理工程の後の前記浸水工程開始時に、前記給水手段により、鍋内部に供給することを特徴とする請求項5記載の炊飯器。
【請求項7】
前記浸水工程において、前記蛋白質処理工程の後の前記浸水工程開始時に、鍋内部に前記水タンクから供給する水は、30℃以上60℃以下であることを特徴とする請求項6記載の炊飯器。

【図1】
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【公開番号】特開2007−151853(P2007−151853A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351675(P2005−351675)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】