説明

炭素含有タングステン金属の超伝導細線の製造方法

【目的】 ナノサイズの超伝導細線を簡便に作製する。
【構成】 炭素原子を含むタングステン有機金属ガスを収束イオンビームまたは電子線により分解し、タングステン金属を直接基板上に堆積させ、描画するとともに、その際に、タングステン有機金属ガス中の炭素原子をタングステン金属に含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、炭素含有タングステン金属の超伝導細線の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、ナノサイズの超伝導細線を簡便に作製することのできる炭素含有タングステン金属の超伝導細線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでの超伝導細線の製造方法は、
1)カーボンナノチューブに超伝導体を堆積させる方法(たとえば、非特許文献1参照)2)アルミナナノポーラス膜内に超伝導体を電気分解により生成させる方法(たとえば、非特許文献2参照)
3)超伝導薄膜を収束イオンビームにより描画し、イオンエッチングする方法、または電子線リソグラフィーにより描画し、エッチング等の工程を経る方法
が主流であった。
【非特許文献1】C.N.Lau et al., Physical Review Letters, 21, 87(2001)
【非特許文献2】D.Y.Vodolazov et al., Physical Review Letters, 15, 91(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の方法は、多段のステップを必要としており、超伝導細線の製造方法として必ずしも簡便なものではなかった。
【0004】
この出願の発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ナノサイズの超伝導細線を簡便に作製することのできる、画期的な炭素含有タングステン金属の超伝導細線の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、炭素原子を含むタングステン有機金属ガスを収束イオンビームまたは電子線により分解し、タングステン金属を直接基板上に堆積させ、描画するとともに、その際に、タングステン有機金属ガス中の炭素原子をタングステン金属に含有させることを特徴とする炭素含有タングステン金属の超伝導細線の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
この出願の発明の炭素含有タングステン金属の超伝導細線の製造方法によれば、ナノサイズの超伝導細線を簡便に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、実施例を示し、この出願の発明の炭素含有タングステン金属の超伝導細線の製造方法についてさらに詳しく説明する。
【0008】
この出願の発明の炭素含有タングステン金属の超伝導細線の製造方法では、炭素原子を含むタングステン有機金属ガスを収束イオンビームまたは電子線により分解し、タングステン金属を直接基板上に堆積させ、描画するとともに、その際に、タングステン有機金属ガス中の炭素原子をタングステン金属に含有させる。操作としては、真空容器内に基板を配置し、高真空とした真空容器内に炭素原子を含むタングステン有機金属ガスを導入し、基板に向けて収束イオンビームまたは電子線を照射する。この操作によりタングステン有機金属ガスが分解し、タングステン金属が、収束イオンビームまたは電子線の照射された
基板上に堆積し、描画され、超伝導細線が形成される。収束イオンビームまたは電子線による描画は数ナノメートルまでの加工精度を有しており、ナノサイズの超伝導細線の作製が可能である。ナノサイズの超伝導細線が簡便に作製される。
【0009】
基板上に堆積し、描画されるタングステン金属には、上記のとおり、タングステン有機金属中の炭素原子が混入する。タングステン金属の超伝導転移温度は、含有される炭素原子の量により決定される。そこで、炭素原子量は、0.02at%から80at%までを目安として例示することができる。このようなタングステン金属中の炭素原子量は、収束イオンビームまたは電子線のエネルギー、電流量により調節可能である。また、炭素原子量の調節は、タングステン金属堆積後のアニーリング等の後処理によっても行うことができる。
【0010】
さらに、収束イオンビームまたは電子線のエネルギー、電流量の調節により、超伝導細線の厚さ、幅および長さも調節される。厚さ、幅および長さの次元性により素子特性が発現する。
【0011】
作製される超伝導細線は、ナノサイズの超伝導素子として利用することができ、超伝導細線デバイスをはじめ、その配線材料、SQUID(超伝導量子干渉素子)の微小ピックアップコイル、さらに、半導体デバイスとの複合デバイスや半導体デバイスの配線材料、また、複合デバイスの配線材料等として広く活用することができる。
【実施例】
【0012】
Si半導体基板上に絶縁体であるSiO2が形成された表面にGa金属をソースとする
収束イオンビームを照射して炭素含有タングステン金属の超伝導細線を形成した。
【0013】
高真空とした真空容器内にタングステン有機金属(W(CO)6)ガスを導入し、真空
度3×10-5Torrとし、印加電圧30kV、電流100pA、総ドーズ量1nC/μm2の条件で収束イオンビームを照射してタングステン有機金属(W(CO)6)ガスを分解し、基板表面にタングステン金属を堆積させ、描画した。この際、堆積したタングステン金属中に炭素原子が含有される。作製された細線は、図1に示したように、約250nmの幅を有していた。基板表面には幅約2μmの抵抗測定用電極を4本形成しており、細線は、これら抵抗測定用電極を横断するように描画して作製された。細線の電気抵抗の温度変化を4本の抵抗測定用電極を用いて測定した。その結果は図2に示したとおりである。
【0014】
図2に示したように、約5.5Kで超伝導転移し、約4.5Kで抵抗がゼロとなった。超伝導細線であることが確認される。
【0015】
この超伝導細線は、磁化測定において反磁性を示すことが確認された。
【0016】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施例によって限定されるものではない。細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】収束イオンビームにより堆積させ、描画した炭素含有タングステン金属の超伝導細線を示した電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例で作製された炭素含有タングステン金属の電気抵抗特性を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子を含むタングステン有機金属ガスを収束イオンビームまたは電子線により分解し、タングステン金属を直接基板上に堆積させ、描画するとともに、その際に、タングステン有機金属ガス中の炭素原子をタングステン金属に含有させることを特徴とする炭素含有タングステン金属の超伝導細線の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−63424(P2006−63424A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250333(P2004−250333)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】