炭素繊維強化樹脂製中空ロール及びその製造方法並びに炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロール
【課題】熱寸法安定性に優れており、高精細な印刷に好適であって、かつ軽量化を実現するとともに、曲げ剛性を向上させることができるようにしたCFRP(炭素繊維強化樹脂)製中空ロール及びその製造方法並びにCFRP製中空ロールを具備した炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールを提供する。
【解決手段】炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールに用いられる炭素繊維強化樹脂製中空ロールであって、前記中空ロールが中空ロール本体と該中空ロール本体の内周面に複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造とからなり、前記中空ロールの軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定するようにした。
【解決手段】炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールに用いられる炭素繊維強化樹脂製中空ロールであって、前記中空ロールが中空ロール本体と該中空ロール本体の内周面に複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造とからなり、前記中空ロールの軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)製中空ロール及びその製造方法並びに該炭素繊維強化樹脂製中空ロールを具備した炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP)は、炭素繊維で強化された樹脂、即ち炭素繊維とマトリックス樹脂(エポキシ樹脂が主流)との複合材料である。物性的には、強化材である炭素繊維の物性とマトリックス樹脂の物性により多種多様である。炭素繊維は繊維方向に対し高張力鋼と同程度の引張強さを有し、又チタニウムより高い弾性率を有し、しかもアルミニウムの60%の比重であって、高い比強度、つまり軽くて強いという性能を有している。一般にCFRPの熱膨張係数は巻付け角度(ヘリカル巻きの際の軸方向に対する巻付け角度θを図5に示す。図5において、i1、i2はヘリカル巻き材である。)により異なり、図6に示すような特徴を有している(非特許文献1)。このCFRPを用いた円筒体の製造方法も開示されている(特許文献1〜4)。
【0003】
グラビア印刷では、グラビア製版ロール(グラビアシリンダー)に対し、製版情報に応じた微小な凹部(グラビアセル)を形成して版面を製作し当該グラビアセルにインキを充填して被印刷材料に転写するものである。一般的なグラビア製版ロールにおいては、アルミニウムや鉄などの金属製中空ロールの表面に版面形成用の銅メッキ層にエッチングによって製版情報に応じて多数の微小な凹部(グラビアセル)を形成し、次いでグラビア製版ロールの耐刷力を増すための表面強化被覆層を形成し、製版(版面の製作)が完了する。
【0004】
グラビア製版ロールにおいては、寸法安定性を確保することが必要であり、熱膨張係数の小さい材料(アルミニウムの熱膨張係数:2.386×10−5/℃、鉄の熱膨張係数:1.15×10−5/℃)が使用されてきたが、近年は高精細な印刷の必要性が増大し、さらなる熱寸法安定性に優れた材料が求められているとともに、グラビア製版ロールの大型化によって従来の金属製中空ロールではその重量が極端に増大するため材料の軽量化が必要とされている。
【0005】
そこで、上述した熱寸法安定性に優れかつ軽量化を図ることのできる材料としてCFRPをグラビア製版ロールの中空ロールとして利用する試みが提案されている(特許文献5)。確かに、CFRP製中空ロールは熱寸法安定性に優れかつ軽量化も達成できるものの、通常使用されるグラビア製版ロールの中空ロールの径サイズ(例えば、半径10cm以上)のCFRP製中空ロールで、軽量化を図るために薄肉円筒(例えば、円筒半径に対する肉厚の割合が0.1以下の円筒)では周方向に対する押しつぶし反力、いわゆる圧壊強度が著しく低下するという問題があり、実用性のあるCFRP製中空ロールを具備したグラビア製版ロールはいまだ製造されていないのが現状である。
【0006】
【非特許文献1】日本航空宇宙学会誌(第26巻第296号39〜47頁、1978年9月)
【非特許文献2】日本航空宇宙学会他共催第49回構造強度に関する講演会講演集157頁〜159頁「アイソグリッドで補強されたCFRP円筒の開発」(発表日:2007年7月25日)
【特許文献1】特公昭63−5247
【特許文献2】特開昭51−8376
【特許文献3】特開平10−16072
【特許文献4】特許第257238号
【特許文献5】特開2007−175953
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、従来のCFRP製中空ロールの問題点を解消すべく鋭意研究を重ねた結果、CFRP製中空ロールの内周面に所定の角度で交差する補強材を設けることによって、CFRP製中空ロールの熱寸法安定性を維持しつつ、軽量化を図り、かつ曲げ剛性を向上させることができる方策を見出し本発明を完成したものである。なお、CFRP製中空ロールの内周面に補強材を設ける技術自体についての開示は既に行われている(非特許文献2)。本発明は、熱寸法安定性に優れており、高精細な印刷に好適であって、かつ軽量化を実現するとともに、曲げ剛性を向上させることができるようにしたCFRP(炭素繊維強化樹脂)製中空ロール及びその製造方法並びにCFRP製中空ロールを具備した炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールは、炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールに用いられる炭素繊維強化樹脂製中空ロールであって、前記中空ロールが中空ロール本体と該中空ロール本体の内周面に複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造とからなり、前記中空ロールの軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定することを特徴とする。
【0009】
本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールにおいて、前記中空ロール本体の軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定するとともに前記補強構造の軸方向の線膨張係数を1×10−6/℃〜−1×10−6/℃に設定し、前記中空ロール本体の軸方向の線膨張係数と前記補強構造の軸方向の線膨張係数とが互いに打ち消し合うように設定することが好ましい。
【0010】
本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールにおいて、前記中空ロール本体が炭素繊維強化樹脂フィラメントをフィラメントワインディング法によって軸方向に巻き角度θと−θでヘリカル巻きしたヘリカル巻き構造を有し、前記巻き角度θを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定するのが好適である。
【0011】
図6からわかるように、軸方向の巻き角度θを所定範囲に設定することによって、前記中空ロールの軸方向の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。このとき、前記中空ロールに対する周方向の巻き角度θ1=90−θであるので、この周方向の巻き角度θ1は同様に所定範囲に設定されることとなる。この場合も同様に、図6からわかるように、周方向の巻き角度θ1を所定範囲に設定することによって、前記中空ロールの周方向の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0012】
前記複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造が、軸方向に配置角度βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔を介して斜めに配置される第1の補強材群と、軸方向に配置角度−βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔を介して斜めに配置される第2の補強材群とを互いに交差させた状態で配置させてなる補強構造であって、前記配置角度βを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定するのが好適である。
【0013】
この補強構造においても、図6のグラフが適用でき、軸方向の配置角度βを所定範囲に設定することによって、前記補強材の軸方向の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0014】
本発明における中空ロールの材料として用いられる炭素繊維強化樹脂(CFRP)を構成する炭素繊維としては特別の限定なく使用できるが、例えばトレカT300(東レ株式会社製炭素繊維の商品名)が好適に使用できる。なお、前記中空ロール本体と前記補強材とは互いに同質の炭素繊維強化樹脂材料を用いてもよいし、又は異質の炭素繊維強化樹脂材料を用いることもできる。
【0015】
CFRPのマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、好ましくは耐熱性エポキシ樹脂を挙げることができるが、エポキシ樹脂は、耐熱性及び耐水性に優れ、かつ炭素繊維との接着性において優れており、好適に用いられる。なお、通常のエポキシ樹脂の耐熱性は130℃程度であり、耐熱性エポキシ樹脂の耐熱性は250℃程度である。後述するDLC層や二酸化珪素被膜の強化被覆層を形成する場合には200℃前後の高温処理を行う場合があるので、その場合にはマトリックス樹脂として耐熱性エポキシ樹脂を使用する必要がある。また、通常のエポキシ樹脂を使用する場合にはDLC層や二酸化珪素被膜の強化被覆層を形成するにあたり130℃に満たない温度で処理する必要があることはいうまでもない。
【0016】
炭素繊維とマトリックス樹脂との配合割合についても特別の限定はないが、炭素繊維(体積%):マトリックス樹脂(体積%)=60:40〜75:25程度とすればよい。
【0017】
フィラメントワインディング法は、大別すると、炭素繊維フィラメントを樹脂を含浸させた後、回転するマンドレル上に巻付けて加熱硬化させるウエットフィラメントワインディング法と、炭素繊維フィラメントのトウプレグを回転するマンドレル上に巻きつけていくドライフィラメントワインディング法とがあるが、本発明に対してはいずれの方法も適用可能である。
【0018】
本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールの製造方法は、アイソグリッド型の複数の溝部を穿設した雌型金型を用意する工程と、該雌型金型の溝部に発泡プラスチック製又はプラスチック製角棒を挿入して雄型金型とする工程と、該雄型金型にシリコーンゴムを流し込んで平行四辺形の雌型シリコーン型を成形する工程と、マンドレルに該シリコーン型を巻付ける工程と、該シリコーン型に炭素繊維強化樹脂製補強材を積層する工程と、該炭素繊維強化樹脂製補強材の上から炭素繊維強化樹脂製表面層を積層する工程と、該炭素繊維強化樹脂製補強材と炭素繊維強化樹脂製表面層を加熱硬化処理を行って炭素繊維強化樹脂製円筒殻成形品とする工程と、前記マンドレルから該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造を除去する工程と、該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造からシリコーン型を除去する工程と、該円筒殻成形品を中空ロールとする工程とを含むことを特徴とする。なお、アイソグリッド型の複数の溝部とは、図7に示すように、所定の間隔で穿設された複数の第1の溝部と同じく所定の間隔で穿設された複数の第2の溝部とからなり、当該第1の溝部と第2の溝部とが菱形形状を示すように所定の角度で交差するように形成されることを意味するものである。
【0019】
本発明の中空ロールの内周面補強材として用いられる炭素繊維強化樹脂としては特別の限定はないが、トウプレグ(例えば、三菱レイヨン株式会社製)等を用いることができる。
【0020】
本発明の炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールは、炭素繊維強化樹脂製中空ロールと、該中空ロールの表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、該銅メッキ層の表面を被覆する強化被覆層とを含むグラビア製版ロールであって、前記中空ロールとして本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールを用いることを特徴とする。
【0021】
本発明の炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールにおいて、前記強化被覆層としては、DLC層、二酸化珪素被膜又はクロムめっき層が好適に用いられる。前記二酸化珪素被膜は、ペルヒドロポリシラザン溶液を用いて形成するのが好ましい。これらの強化被覆層としては所定の硬度を有することが必要であるが、例えばビッカース硬度で800〜4000の範囲の硬度の被覆層を形成すれば充分である。
【0022】
前記強化被覆層としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)層、二酸化珪素被膜又はクロムメッキ層を適用可能である。前記DLC層はCVD法又はPVD法によって好適に形成される。前記二酸化珪素被膜はペルヒドロポリシラザン溶液を用いて形成するのが好適である。クロムメッキ層は常法によって形成すればよい。
【0023】
前記銅メッキ層の厚さとしては、50〜200μm程度、グラビアセルの深度は5〜150μm程度とすればよい。前記DLC層又はクロムめっき層の厚さは0.1〜10μmを適用することができる。前記二酸化珪素被膜の厚さとしては、0.1〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μmであることが好ましい。
【0024】
CVD法としては、炭化水素系原料ガスを用いて常圧で成膜するAPCVD(Atmospheric Pressure Chemical Vapor Deposition)法、0.05Torr程度の減圧で成膜するLPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法、常圧よりやや低い600Torr程度の圧力のSACVD(Subatmospheric Pressure Chemical Vapor Deposition)法、超高真空のUHVCVD(Ultra-High-Vacuum Chemical Vapor Deposition)法、600〜1000℃の高温の熱CVD法、高周波プラズマエネルギーを用い200〜450℃で成膜するプラズマCVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)法、紫外線による励起を利用した光CVD法、ソースに有機金属を用いた化合物結晶成長用のMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法等が知られているが、プラズマCVD法が好適である。
【0025】
前記炭化水素系原料ガスとしては、従来公知のシクロヘキサン、ベンゼン、アセチレン、メタン、ブチルベンゼン、トルエン、シクロペンタン等を用いることが出来る。また、銅メッキ層とDLC層との間にCVD密着層、又は下地金属メッキ層及びCVD密着層を介在させることによってDLC層の密着性が向上する。
【0026】
前記CVD密着層が、アルミニウム(Al)、リン(P)、チタン(Ti)、及び珪素(Si)からなる群から選ばれる一種又は二種以上から形成されるのが好ましい。前記下地金属メッキ層としては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び鉄(Fe)からなる群から選ばれる金属のメッキ層を適用すればよい。
【0027】
前記銅メッキ層の厚さが50〜200μm、前記グラビアセルの深度が5〜150μm、前記下地金属メッキ層の厚さが0.1〜5μm、前記密着層の厚さが0.1〜1μm、及び前記DLC層の厚さが0.1〜10μmであるのが好ましい。
【0028】
前記CVD密着層をCVD法で形成するために、トリメチルアルミニウム、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラエトキシド、テトラメチルシラン、亜リン酸トリメチル、ヘキサメチルジシロキサンからなる群から選ばれる一種又は二種以上のガス種を用いるのが好適である。
【0029】
PVD法としては、スパッタリング法、真空蒸着法(エレクトロンビーム法)、イオンプレーティング法、MBE(分子線エピタキシー)法、レーザーアブレーション法、イオンアシスト成膜法等を挙げることができるが、スパッタリング法が好適である。なお、前記銅メッキ層とDLC層との間に、タングステン(W)、チタン(Ti)、珪素(Si)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)等からなる0.1〜1μm程度の厚さのPVD密着層(金属層)を形成するのが好ましい。さらに、PVD密着層とDLC層との間に当該PVD密着層を構成する金属の炭化金属層を形成するのがさらに好ましい。前記炭化金属層が、好ましくは炭化金属傾斜層であって、該炭化金属傾斜層における炭素の組成比が前記金属層側から前記DLC層方向に対して炭素の比率が徐々に増大するように設定されているのがよい。さらに、前記銅メッキ層とDLC層との間に、0.1〜3μm程度の厚さのクロム(Cr)メッキ層等の下地層を形成することによっても密着性を向上させることができる。
【0030】
前記銅メッキ層の厚さが50〜200μm、前記グラビアセルの深度が5〜150μm、前記PVD密着層(金属層)の厚さが0.1〜1μm、前記炭化金属層の厚さが0.1〜1μm、及び前記DLC層の厚さが0.1〜10μmであることが好ましい。前記PVD密着層(金属層)、前記炭化金属層、好ましくは炭化金属傾斜層及び前記DLC層をスパッタリング法によってそれぞれ形成することが好適である。
【0031】
前記二酸化珪素被膜を形成する方法としては、前記銅メッキ層の表面にペルヒドロポリシラザン溶液を塗布し所定の膜厚の塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、前記塗布されたペルヒドロポリシラザン塗布膜を過熱水蒸気によって所定の条件で加熱処理して所定の硬度の二酸化珪素被膜を前記銅メッキ層の表面に形成する工程と、を有し、前記加熱処理が第1次及び第2次加熱処理を含む複数段の加熱処理であり、第1次加熱処理の条件を100℃〜170℃、1分〜30分、及び第2次加熱処理の条件を140℃〜200℃、1分〜30分とし、第2次加熱処理の温度を第1次加熱処理の温度よりも高く設定するようにした構成を採用するのが好適である。上記第2次加熱処理の温度を第1次加熱処理の温度よりも5℃以上、好ましくは10℃以上高く設定するのがよい。
【0032】
前記加熱処理によって形成された二酸化珪素被膜の表面を冷水又は温水で洗浄する工程をさらに設けることによって、得られた二酸化珪素被膜の硬度をさらに向上させることが可能である。
【0033】
上記ペルヒドロポリシラザンを溶解する溶剤としては公知のものを用いればよいが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エーテル、THF、塩化メチレン、四塩化炭素、アニソール、デカリン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、ソルベッソ、デカヒドロナフタリン、メチルターシャリーブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、エチルシクロヘキサン、リモネン、ヘキサン、オクタン、ノナン,デカン、C8−C11アルカン混合物、C18−C11芳香族炭化水素混合物、C8以上の芳香族炭化水素を5重量%以上25重量%以下含有する脂肪族/脂環式炭化水素混合物、及びジブチルエーテルなどを用いることができる。
【0034】
上記した各種溶剤に溶解されて作製されるペルヒドロポリシラザン溶液は、そのままでも過熱水蒸気による加熱処理によって二酸化珪素へ転化するが、反応速度の増加、反応時間の短縮、反応温度の低下、形成される二酸化珪素被膜の密着性の向上等を図る目的で触媒を用いるのが好ましい。これらの触媒も公知であり、例えばアミンやパラジウムが用いられるが、具体的には、有機アミン、例えばC1−5のアルキル基が1−3個配置された第1−第3級の直鎖状脂肪族アミン、フェニル基が1−3個配置された第1−第3級の芳香族アミン、ピリジン又はこれにメチル、エチル基等のアルキル基が核置換された環状脂肪族アミン等が挙げられ、さらに好ましいものとして、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノブチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン等を挙げることができる。これらの触媒はペルヒドロポリシラザン溶液に予め添加しておいてもよく、また過熱水蒸気による加熱処理の際の処理雰囲気中に気化状態で含有させることもできる。
【0035】
前記二酸化珪素被膜形成工程が、ペルヒドロポリシラザン溶液をスプレーコート方式又はインクジェット方式によって前記銅メッキ層表面に塗布し所定の膜厚の塗布膜を形成する塗布膜形成処理と、前記塗布されたペルヒドロポリシラザン塗布膜を過熱水蒸気によって所定時間加熱して所定の硬度の二酸化珪素被膜とする被膜形成熱処理とからなることが好ましい。前記加熱処理が第1次及び第2次加熱処理を含む複数段の加熱処理とするのが好適である。
【0036】
上記した強化被覆層としてDLC層や二酸化珪素被膜を形成する際には200℃を超える高温処理を行う場合があるが、その場合には前記したマトリックス樹脂として耐熱性エポキシ樹脂を用いることによって250℃程度の高温処理を適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、熱寸法安定性に優れており、高精細な印刷に好適であって、かつ軽量化を実現するとともに、曲げ剛性を向上させることができるようにした炭素繊維強化樹脂(CFRP)製中空ロール及びその製造方法並びに該炭素繊維強化樹脂製中空ロールを具備した炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0039】
図1は本発明のCFRP(炭素繊維強化樹脂)製中空ロールを具備した炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールの製造方法の工程の一例を模式的に示す説明図で、(a)はCFRP製中空ロール(版母材)の全体断面図、(b)は中空ロールの表面に銅メッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(c)は銅メッキ層表面に凹部(グラビアセル)を形成した状態を示す部分拡大断面図、(d)は銅メッキ層の表面に強化被覆層を形成した状態を示す部分拡大断面図である。図2は図1に示した製造方法の工程順を示すフローチャートである。図3は本発明のCFRP製中空ロールの側面説明図である。図4は本発明のCFRP製中空ロールの内周面の補強材の配設状態を示す断面説明図である。図5はヘリカル巻きにおける角度表示を示す説明図である。図6はヘリカル巻き角度と熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【0040】
図1において、符号10は版母材で、炭素繊維強化樹脂(CFRP)製中空ロールが用いられる(図1(a)及び図2のステップ100)。図3に示すように、前記CFRP製中空ロール10はCFRP製中空ロール本体10Bを有している。該中空ロール本体10Bは、軸方向(x)に巻き角度θと−θで炭素繊維強化樹脂フィラメント(例えば、ドライフィラメントワインディング法であればトウプレグ)20A,20Bをフィラメントワインディング法によってヘリカル巻きしたヘリカル巻き構造20で形成されており、前記軸方向(x)の巻き角度θを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定するものである。図6からわかるように、軸方向(x)の巻き角度θを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定することによって、前記中空ロール10の軸方向(x)の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0041】
このとき、図3に示すように、前記中空ロール本体10Bに対する周方向(y)の巻き角度θ1=90−θであるので、この周方向(y)の巻き角度θ1は60度〜30度、好ましくは50度〜40度の範囲に設定されることとなる。この場合も同様に、図6からわかるように、周方向(y)の巻き角度θ1を60度〜30度、好ましくは50度〜40度の範囲に設定することによって、前記中空ロール本体10Bの周方向(y)の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0042】
図4に示すように、前記中空ロール本体10Bの内周面には複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材22A,22Bからなる補強構造24が形成されており、かつ前記中空ロール10の軸方向(x)の線膨張係数は−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定されている。
【0043】
前記複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材22A,22Bを配置してなる補強構造24は、軸方向(x)に配置角度βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔dを介して斜めに配置される第1の補強材群22A、22Aと、軸方向に配置角度−βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔dを介して斜めに配置される第2の補強材群22B、22Bと、を互いに交差させた状態で配置させてなる補強構造であって、前記配置角度βを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定するものである。
【0044】
この補強構造24においても、図6のグラフが適用でき、軸方向(x)の配置角度βを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定することによって、前記補強材22A,22Bの軸方向の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0045】
前記中空ロール本体10Bの軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定するとともに前記補強構造24の軸方向の線膨張係数を1×10−6/℃〜−1×10−6/℃に設定し、前記中空ロール本体10Bの軸方向の線膨張係数と前記補強構造24の軸方向の線膨張係数とが互いに打ち消し合うように設定することによって、本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロール10の線膨張係数を所望の範囲に設定することが可能になる。
【0046】
前記中空ロール本体10Bと前記補強材22A,22Bとは、互いに同質の炭素繊維強化樹脂材料によって構成してもよいし、また異質の炭素繊維強化樹脂材料によって構成することもできる。
【0047】
本発明における中空ロールの表面層材料として用いられる炭素繊維強化樹脂(CFRP)を構成する炭素繊維としては特別の限定はなく、市販のものはいずれも使用できるが、例えばトレカT300(東レ株式会社製炭素繊維の商品名)が好適に使用できる。また、CFRPのマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、好ましくは耐熱性エポキシ樹脂を挙げることができるが、エポキシ樹脂は、耐熱性及び耐水性に優れ、かつ炭素繊維との接着性において優れており、好適に用いられる。
【0048】
なお、通常のエポキシ樹脂の耐熱性は130℃程度であり、耐熱性エポキシ樹脂の耐熱性は250℃程度である。後述するDLC層や二酸化珪素被膜の強化被覆層を形成する場合には200℃前後の高温処理を行う場合があるので、その場合にはマトリックス樹脂として耐熱性エポキシ樹脂を使用する必要がある。
【0049】
炭素繊維とマトリックス樹脂との配合割合についても特別の限定はないが、炭素繊維(体積%):マトリックス樹脂(体積%)=60:40〜75:25程度とすればよい。
【0050】
次いで、該中空ロール10の表面には銅メッキ処理によって銅メッキ層12が形成される(図1(b)及び図2のステップ102)。なお、炭素繊維強化樹脂製中空ロールに対して銅メッキする場合には、プリント配線板(ガラスエポキシ樹脂積層板)で一般に用いられる無電解銅メッキ法によって薄層(0.3μm程度)の銅メッキ層を形成し、その後に通常の銅メッキ処理によって銅メッキ層を形成するのが好適である。
【0051】
無電解銅メッキ法の工程の一例は次の通りである。1.クリ−ナー⇒2.水洗⇒3.エッチング((NH4)2S2O8 250g/L)⇒4.水洗⇒5.キャタリスト(Pd:0.15g/L,Sn:12g/L,36%HCl:160g/L)⇒6.水洗⇒7.アクセレーター(5%H2SO4)⇒8.水洗⇒9.無電解銅メッキ(メッキ浴の組成としては、例えば、後記する実施例に示したものが用いられる)
【0052】
該銅メッキ層12の表面には多数の微小な凹部(グラビアセル)14が形成される(図1(c)及び図2のステップ104)。グラビアセル14の形成方法としては、エッチング法(版胴面に感光液を塗布して直接焼き付けた後、エッチングしてグラビアセル14を形成する)や電子彫刻法(デジタル信号によりダイヤモンド彫刻針を機械的に作動させ銅表面にグラビアセル14を彫刻する)等の公知の方法を用いることができるが、エッチング法が好適である。グラビアセルの深さは版の使用目的に対応して決めればよい。
【0053】
ついで、表面にグラビアセル14が形成された銅メッキ層12の表面に強化被覆層16を形成する(図1(d)及び図2のステップ106)。これによって、グラビア製版ロール(グラビア版)11が完成する。
【0054】
前記強化被覆層16としてはDLC層、二酸化珪素被膜又はクロムメッキ層を適用することができる。DLC層はCVD法やPVD法によって形成すればよい。二酸化珪素被膜はペルヒドロポリシラザン溶液を用いる方法で形成するのが好ましい。また、クロムメッキ層は常法により形成することができる。
【0055】
ペルヒドロポリシラザン溶液の塗布層の形成方法としては、ペルヒドロポリシラザン溶液をスプレーコート方式やインクジェット方式で塗布すればよい。
【0056】
上記ペルヒドロポリシラザンを溶解する溶剤としては前述した公知のものを用いればよい。また、必要に応じて、前述した公知の触媒を用いることができる。続いて、前記ペルヒドロポリシラザン塗布層に対して過熱水蒸気による熱処理を行うことにより二酸化珪素被膜とする。前記過熱水蒸気の温度は100〜300℃が用いられる。また、前述した複数段の加熱処理を行うこともできる。前記加熱処理によって形成された二酸化珪素被膜の表面を冷水又は温水で洗浄する工程をさらに設けることによって、得られた二酸化珪素被膜の硬度をさらに向上させることが可能である。前記二酸化珪素被膜の厚さは0.1〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μmであることが好適である。
【0057】
続いて、本発明のCFRP製グラビア製版ロールの製造に用いられるCFRP製中空ロールの製造方法について図7〜図16を参照して説明する。図7はCFRP製中空ロールの補強材を作製するために用いられる雌型金型の一例を示す平面図である。図8は図7の雌型金型の溝に差し込まれる角棒体の一例を示す平面図である。図9は雌型の小シリコーン型の一例を示す平面図である。図10は4枚の小シリコーン型を繋ぎ合わせて形成された大きいシリコーン型を示す平面図である。図11はマンドレルにシリコーン型を巻付けた状態を示す側面図である。図12は図11の要部を拡大して示す要部拡大斜視図である。図13はマンドレルに巻き付けられたシリコーン型にCFRP補強材を巻付け積層した状態を示す側面図である。図14はCFRP補強材の上から表面層を積層した状態を示す側面図である。図15は作製されたCFRP中空ロールの一部を切り欠いて示す斜視説明図である。図16はCFRP製中空ロールの製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【0058】
まず、アルミニウム製等の雌型金型30を用意する(図7及び図16のステップ200)。該雌型金型30には、所定間隔dを介して互いに平行でかつ所定の角度で傾斜するように設けられた複数本の溝32Aと、該溝32Aと交差するとともに所定間隔dを介して互いに平行でかつ所定の角度で傾斜するように設けられた複数本の溝32Bとが、アイソグリッド型に穿設されている。該溝32Aは長さ方向xの軸に対して所定の配置角度βで傾斜し、また該溝32Bは長さ(軸)方向xに対して所定の配置角度−βで傾斜している。この配置角度βは完成したCFRP製中空ロールの熱膨張係数に影響を与えるものであり、配置角度βは30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定される。図7において、Lは金型30の長さ、Wは金型30の幅である。
【0059】
次に、該溝32Aに対応する形状に成型された発泡プラスチック製又はプラスチック製の複数の長尺の角棒34A、及び該溝32Bに対応する形状に成型された発泡プラスチック製又はプラスチック製の複数の短尺の間隔棒34Bからなる角棒体36を用意する(図8及び図16のステップ202)。この角棒34A及び間隔棒34Bを上記した雌型金型30の溝32A,32Bに差し込んで雄型金型(図示せず)とした。
【0060】
この雄型金型にシリコーンゴムを流し込んで、図9に示す平行四辺形の雌型の小シリコーン型38を成形した(図16のステップ204)。この小シリコーン型38には前記角棒34A,34Bに対応して溝部40A,40Bが形成されている。なお、図9において、42はネジ穴である。使用した金型30よりも大きいシリコーン型44を成形するため、この小シリコーン型38は、図10に示す一点鎖線m,nに沿って繋ぎ合わされる。繋ぎ目はシリコーンで接着し、溝部40A,40Bに重なるようにして目立たなくする(図16のステップ206)。なお、大きな金型を使用すれば、最初から大きいサイズのシリコーン型が成形できるので、小シリコーン型を繋ぎ合せる手間が省けることはいうまでもない。
【0061】
中空ロールの成形はフィラメントワインディング装置を用いて行う。図11及び図12に示すように、マンドレル46にシリコーン型44を巻付け、継ぎ目48に沿ってネジ50で固定する(図16のステップ208)。この継ぎ目48はシリコーン型44の溝部40A同士及び溝部40B同士が互いに重なるように設置される。固定されたシリコーン型44の外方に位置するマンドレル46の部分には複数本のガイドピン52が突設されている。このガイドピン52は炭素繊維強化樹脂製補強材22A,22Bを積層する際に使用されるものである。
【0062】
炭素繊維強化樹脂製補強材22A,22Bとしては、あらかじめ樹脂の含浸されているトウプレグ(例えば、三菱レイヨン株式会社製トウプレグ)を用いればよい。前記溝部40A及び溝部40Bに沿って2方向で補強材22A,22Bを、例えば、6層ずつ積層する(図16のステップ210)。この補強材22A,22Bを積層し終えたらシリコーン型44を固定しているネジ50を外す。
【0063】
続いて、補強材22A,22Bを硬化させずに、シリコーン型44の上から、図14に示すように、軸方向(x)に巻き角度θと−θで炭素繊維強化樹脂(例えば、ドライフィラメントワインディング法であればトウプレグ)20A,20Bをフィラメントワインディング法によってヘリカル巻きしてヘリカル巻き構造の表面層20を積層する(図16のステップ212)。熱膨張係数を所定の範囲に収めるためには、前記軸方向(x)の巻き角度θを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定することが必要である。
【0064】
前記表面層20を積層し終えると、常法により熱処理(例えば、130℃、1時間)を行って、前記補強材22A,22B及び表面層20を硬化させることによって円筒殻成形品(中空ロール素材)10Aが成形される(図16のステップ214)。硬化成形処理を行った後、まずマンドレル46から該円筒殻成形品10A及びシリコーン型44の合体構造を脱型除去する(図16のステップ216)。次に、円筒殻成形品10A及びシリコーン型44の合体構造からシリコーン型44を取り除いて(図16のステップ218)、円筒殻成形品(中空ロ−ル素材)10Aを得ることができる(図15及び図16のステップ220)。この円筒殻成形品(中空ロール素材)10Aの寸法等を整えて、CFRP製中空ロール10を製造することができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0066】
(製造実施例1)
まず、図7に示したようなアルミニウム製の雌型金型を用意した。該雌型金型のサイズは、長さL:193mm、幅W:314mm、溝幅:2mm、溝深さ:3mmとした。また、溝の配置角度βは42.3度とした。次に、図8に示したような発泡プラスチック製の角棒体を上記した雌型金型の溝に差し込んで雄型金型とした。
【0067】
この雄型金型にシリコーンゴムを流し込んで、図9に示すような平行四辺形の雌型の小シリコーン型を成形した。図10に示すように複数個の小シリコーン型を、繋ぎ目をシリコーンで接着して繋ぎ合わせ、シリコーン型を形成した。
【0068】
中空ロールの成形は市販のフィラメントワインディング装置を用いて行った。図11及び図12に示すように、マンドレルにシリコーン型を巻付け、継ぎ目に沿ってネジで固定した。この継ぎ目はシリコーン型の溝部同士及び溝部同士が互いに重なるように設置した。
【0069】
炭素繊維強化樹脂製補強材としては、あらかじめ樹脂の含浸されているトウプレグ(三菱レイヨン株式会社製WDE−3D−1TRH5012K)を用いた。前記シリコーン型の溝部に沿って2方向で補強材を6層ずつ積層した。この補強材を積層し終えたらシリコーン型を固定しているネジを外した。
【0070】
続いて、補強材を硬化させずに、シリコーン型の上から、図14に示すように、軸方向(x)に巻き角度θと−θでCFRPプリプレグフィラメント(Vf65%、炭素繊維:トレカT300(東レ株式会社製炭素繊維の商品名)+マトリックス樹脂:耐熱性エポキシ樹脂)を用い、フィラメントワインディング法によってヘリカル巻きしてヘリカル巻き構造の表面層を積層した。巻き角度θは42.3度とした。
【0071】
前記表面層の積層が終了した後、130℃、1時間の熱処理を行って、前記補強材及び表面層を硬化させることによって円筒殻成形品(中空ロール素材)が成形された。この硬化成形処理を行った後、まずマンドレルから該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造を脱型除去した。次に、円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造からシリコーン型を取り除いて、円筒殻成形品(中空ロール素材)を得た。
【0072】
この円筒殻成形品(中空ロール素材)の寸法等を整えて、CFRP製中空ロールを製造した。このCFRP製中空ロールにおいては、円周600mm、面長1100mmであった。このCFRP製中空ロールに対してその表面を均一面とする処理をして被製版ロールとした。このCFRP製被製版ロールにおいては、中空ロール及び補強材のいずれにおいてもその軸方向線膨張係数は0であり、またその周方向線膨張係数は約5×10−6/℃となっていた。
【0073】
(実施例1)
製造実施例1で得られたCFRP製被製版ロール表面にプリント配線板(ガラスエポキシ樹脂積層板)で一般に用いられる無電解銅メッキ法(無電解銅メッキ浴は後記したものを使用した)によって銅メッキ(0.3μm程度の厚さ)し、次に自動製版システムで用いられる光沢硫酸銅電気メッキ槽に装着し、陽極室をコンピュータシステムによる自動スライド装置で20mmまで被製版ロールに近接させ、メッキ液をオーバーフローさせ、被製版ロールを全没させて18A/dm2、6.0Vで80μmの銅メッキ層を形成した。メッキ時間は20分、メッキ表面はブツやピットの発生がなく、均一な銅メッキ層を得た。
【0074】
使用した無電解銅メッキ浴
CuSO4・5H2O 0.04mg/L
EDTA 0.08mg/L
HCHO 0.1mg/L
NaOH pH12.5
ジピリジル 20ppm
PEG 50ppm
【0075】
得られた被製版ロールの銅メッキ層の表面にエッチング法によって深度5μmの凹部(グラビアセル)を形成した。
【0076】
このグラビアセルを形成した被製版ロールの銅メッキ層の上面に厚さ1μmのクロムメッキ層を形成した。
【0077】
上記クロムメッキ層の上面にスパッタリング法によってタングステン(W)層を形成した。スパッタリング条件は次の通りである。タングステン(W)試料:固体タングステンターゲット、雰囲気:アルゴンガス雰囲気、成膜温度:80〜250℃、成膜時間:60分、成膜厚さ:0.1μm。
【0078】
次に、タングステン層(W)の上面に炭化タングステン層(WC)を形成した。スパッタリング条件は次の通りである。タングステン(W)試料:固体タングステンターゲット、雰囲気:アルゴンガス雰囲気で炭化水素ガスを徐々に増加、成膜温度:80〜250℃、成膜時間:60分、成膜厚さ:0.1μm。
【0079】
さらに、炭化タングステン層の上面にスパッタリング法によってダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜を被覆形成した。スパッタリング条件は次の通りである。DLC試料:固体カーボンターゲット、雰囲気:アルゴンガス雰囲気、成膜温度:80〜250℃、成膜時間:150分、成膜厚さ:1μm。このようにして、グラビア製版ロール(グラビアシリンダー)を完成した。
【0080】
続いて、得られたグラビアシリンダーに対して印刷インキとしてシアンインキ(ザーンカップ粘度18秒、サカタインクス社製水性インクスーパーラミピュア藍800PR−5)を適用しOPP(Oriented Polypropylene Film:2軸延伸ポリプロピレンフィルム)を用いて印刷テスト(印刷速度:120m/分)を行った。得られた印刷物は版カブリがなく、50,000mの長さまで印刷できた。パターンの精度は変化がなかった。このグラビア版のハイライト部からシャドウ部のグラデーションは、常法に従って作製した従来のグラビア版と変わらなかったことからインキ転移性は問題ないと判断される。
【0081】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で被製版ロールの銅メッキ層表面にグラビアセルを形成し、次いで銅メッキ層の上面に二酸化珪素被膜の形成を以下のように行った。ペルヒドロポリシラザンの20%ジブチルエーテル溶液(製品名:アクアミカ(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)の登録商標)NL120A、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製)を、上記銅メッキ層の表面に対してHVLPスプレー塗布を行った。当該銅メッキ層の表面に均一に塗布された塗布膜厚は0.8μmであった。このペルヒドロポリシラザンが塗布されたシリンダーに対して過熱水蒸気を用いて二段階の加熱処理(140℃5分+170℃5分)を施して二酸化珪素被膜を形成した。この被膜はカッターナイフで傷が付かない程度の極めて高い被膜硬度を有していた。このようにして、グラビアシリンダーを完成した。このグラビアシリンダーを用いて印刷テストを行ったところ、実施例1と同様に良好な印刷性能を示した。
【0082】
(実施例3)
DLC膜(W層及びWC層からなる下地層を含めて)をスパッタリング法で形成した替わりにプラズマCVD法によって0.1μmのAl層(下地層)及び1μmのDLC層を形成した以外は、実施例1と同様にしてグラビア製版ロールを製造して、印刷テストを行ったところ実施例1と同様の良好な結果が得られることを確認した。
【0083】
(実施例4)
DLC膜(W層及びWC層からなる下地層を含めて)をスパッタリング法で形成した替わりにプラズマCVD法によって0.2μmのNiメッキ層(下地層)及び1μmのDLC層を形成した以外は、実施例1と同様にしてグラビア製版ロールを製造して、印刷テストを行ったところ実施例1と同様の良好な結果が得られることを確認した。
【0084】
(実施例5)
スパッタリング法によって厚さ1μmのDLC層(下地層なし)を形成した以外は、実施例1と同様にしてグラビア製版ロールを製造して、印刷テストを行ったところ実施例1とほぼ同様の良好な結果が得られることを確認した。
【0085】
(実施例6)
グラビアセルを形成した被製版ロールの銅メッキ層の上面に厚さ1μmの下地層(クロムメッキ層)を形成し、その上面にスパッタリング法によって厚さ1μmのダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜を被覆形成した以外は、実施例1と同様にしてグラビア製版ロールを製造して、印刷テストを行ったところ実施例1とほぼ同様の良好な結果が得られることを確認した。
【0086】
(実施例7)
強化被覆層としてPVDDLC層(W層及びWC層を含めて)の替わりに常法によってクロムメッキ層を形成した以外は実施例1と同様の手順でグラビアシリンダーを製造した。このグラビアシリンダーを用いて印刷テストを行ったところ、実施例1と同様に良好な印刷性能を示した。
【0087】
本発明においてはグラビア版胴に対する強化被覆層としては、DLC膜(スパッタ法又はCVD法による)、二酸化珪素被膜(ペルヒドロポリシラザン溶液使用)及び従来のクロムメッキ層が使用可能である。
【0088】
CVDDLC膜の形成については、下地層としてAl層(実施例3)及びNiメッキ層(実施例4)を適用した例を示したが,P,Ti,Si等のCVD密着層、又はCo,Fe等の下地金属メッキ層を介在させる場合についても同様に確認してある。
【0089】
PVDCVD膜の形成については、下地層としてW層及びWC層(実施例1)及びクロムメッキ層(実施例6)を適用した例を示したが、W、Ti、Si、Cr、Ta、Zr等の金属層、及びこれらの金属層と炭化金属層の組合わせからなる下地層を介在させる場合についても同様に確認してある。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明のCFRP(炭素繊維強化樹脂)製中空ロールを具備したグラビア製版ロールの製造方法の工程の一例を模式的に示す説明図で、(a)はCFRP製中空ロール(版母材)の全体断面図、(b)は中空ロールの表面に銅メッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(c)は銅メッキ層表面に凹部(グラビアセル)を形成した状態を示す部分拡大断面図、(d)は銅メッキ層の表面に強化被覆層を形成した状態を示す部分拡大断面図である。
【図2】図1に示した製造方法の工程順を示すフローチャートである。
【図3】本発明のCFRP製中空ロールの側面説明図である。
【図4】本発明のCFRP製中空ロールの内周面の補強材の配設状態を示す断面説明図である。
【図5】ヘリカル巻きにおける角度表示を示す説明図である。
【図6】ヘリカル巻き角度と熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【図7】CFRP製中空ロールの補強材を作製するために用いられる雌型金型の一例を示す平面図である。
【図8】図7の雌型金型の溝に差し込まれる角棒体の一例を示す平面図である。
【図9】雌型の小シリコーン型の一例を示す平面図である。
【図10】4枚の小シリコーン型を繋ぎ合わせて形成された大きいシリコーン型を示す平面図である。
【図11】マンドレルにシリコーン型を巻付けた状態を示す側面図である。
【図12】図11の要部を拡大して示す要部拡大斜視図である。
【図13】マンドレルに巻き付けられたシリコーン型にCFRP補強材を巻付け積層した状態を示す側面図である。
【図14】CFRP補強材の上から表面層を積層した状態を示す側面図である。
【図15】作製されたCFRP中空ロールの一部を切り欠いて示す斜視説明図である。
【図16】CFRP製中空ロールの製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0091】
10:版母材(中空ロール)、10A:円筒殻成形品(中空ロ−ル素材)、10B:中空ロール本体、11:グラビア製版ロール、12:銅メッキ層、14:グラビアセル、16:強化被覆層、20:ヘリカル巻き構造(表面層)、20A,20B:CFRPプリプレグ、22A,22B:補強材、24:補強構造、30:雌型金型、32A,32B:溝、34A:角棒、34B:間隔棒、36:角棒体、38:小シリコーン型、40A,40B:溝部、42:ネジ穴、44:シリコーン型、46:マンドレル、48:継ぎ目、50:ネジ、52:ガイドピン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)製中空ロール及びその製造方法並びに該炭素繊維強化樹脂製中空ロールを具備した炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP)は、炭素繊維で強化された樹脂、即ち炭素繊維とマトリックス樹脂(エポキシ樹脂が主流)との複合材料である。物性的には、強化材である炭素繊維の物性とマトリックス樹脂の物性により多種多様である。炭素繊維は繊維方向に対し高張力鋼と同程度の引張強さを有し、又チタニウムより高い弾性率を有し、しかもアルミニウムの60%の比重であって、高い比強度、つまり軽くて強いという性能を有している。一般にCFRPの熱膨張係数は巻付け角度(ヘリカル巻きの際の軸方向に対する巻付け角度θを図5に示す。図5において、i1、i2はヘリカル巻き材である。)により異なり、図6に示すような特徴を有している(非特許文献1)。このCFRPを用いた円筒体の製造方法も開示されている(特許文献1〜4)。
【0003】
グラビア印刷では、グラビア製版ロール(グラビアシリンダー)に対し、製版情報に応じた微小な凹部(グラビアセル)を形成して版面を製作し当該グラビアセルにインキを充填して被印刷材料に転写するものである。一般的なグラビア製版ロールにおいては、アルミニウムや鉄などの金属製中空ロールの表面に版面形成用の銅メッキ層にエッチングによって製版情報に応じて多数の微小な凹部(グラビアセル)を形成し、次いでグラビア製版ロールの耐刷力を増すための表面強化被覆層を形成し、製版(版面の製作)が完了する。
【0004】
グラビア製版ロールにおいては、寸法安定性を確保することが必要であり、熱膨張係数の小さい材料(アルミニウムの熱膨張係数:2.386×10−5/℃、鉄の熱膨張係数:1.15×10−5/℃)が使用されてきたが、近年は高精細な印刷の必要性が増大し、さらなる熱寸法安定性に優れた材料が求められているとともに、グラビア製版ロールの大型化によって従来の金属製中空ロールではその重量が極端に増大するため材料の軽量化が必要とされている。
【0005】
そこで、上述した熱寸法安定性に優れかつ軽量化を図ることのできる材料としてCFRPをグラビア製版ロールの中空ロールとして利用する試みが提案されている(特許文献5)。確かに、CFRP製中空ロールは熱寸法安定性に優れかつ軽量化も達成できるものの、通常使用されるグラビア製版ロールの中空ロールの径サイズ(例えば、半径10cm以上)のCFRP製中空ロールで、軽量化を図るために薄肉円筒(例えば、円筒半径に対する肉厚の割合が0.1以下の円筒)では周方向に対する押しつぶし反力、いわゆる圧壊強度が著しく低下するという問題があり、実用性のあるCFRP製中空ロールを具備したグラビア製版ロールはいまだ製造されていないのが現状である。
【0006】
【非特許文献1】日本航空宇宙学会誌(第26巻第296号39〜47頁、1978年9月)
【非特許文献2】日本航空宇宙学会他共催第49回構造強度に関する講演会講演集157頁〜159頁「アイソグリッドで補強されたCFRP円筒の開発」(発表日:2007年7月25日)
【特許文献1】特公昭63−5247
【特許文献2】特開昭51−8376
【特許文献3】特開平10−16072
【特許文献4】特許第257238号
【特許文献5】特開2007−175953
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、従来のCFRP製中空ロールの問題点を解消すべく鋭意研究を重ねた結果、CFRP製中空ロールの内周面に所定の角度で交差する補強材を設けることによって、CFRP製中空ロールの熱寸法安定性を維持しつつ、軽量化を図り、かつ曲げ剛性を向上させることができる方策を見出し本発明を完成したものである。なお、CFRP製中空ロールの内周面に補強材を設ける技術自体についての開示は既に行われている(非特許文献2)。本発明は、熱寸法安定性に優れており、高精細な印刷に好適であって、かつ軽量化を実現するとともに、曲げ剛性を向上させることができるようにしたCFRP(炭素繊維強化樹脂)製中空ロール及びその製造方法並びにCFRP製中空ロールを具備した炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールは、炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールに用いられる炭素繊維強化樹脂製中空ロールであって、前記中空ロールが中空ロール本体と該中空ロール本体の内周面に複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造とからなり、前記中空ロールの軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定することを特徴とする。
【0009】
本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールにおいて、前記中空ロール本体の軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定するとともに前記補強構造の軸方向の線膨張係数を1×10−6/℃〜−1×10−6/℃に設定し、前記中空ロール本体の軸方向の線膨張係数と前記補強構造の軸方向の線膨張係数とが互いに打ち消し合うように設定することが好ましい。
【0010】
本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールにおいて、前記中空ロール本体が炭素繊維強化樹脂フィラメントをフィラメントワインディング法によって軸方向に巻き角度θと−θでヘリカル巻きしたヘリカル巻き構造を有し、前記巻き角度θを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定するのが好適である。
【0011】
図6からわかるように、軸方向の巻き角度θを所定範囲に設定することによって、前記中空ロールの軸方向の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。このとき、前記中空ロールに対する周方向の巻き角度θ1=90−θであるので、この周方向の巻き角度θ1は同様に所定範囲に設定されることとなる。この場合も同様に、図6からわかるように、周方向の巻き角度θ1を所定範囲に設定することによって、前記中空ロールの周方向の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0012】
前記複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造が、軸方向に配置角度βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔を介して斜めに配置される第1の補強材群と、軸方向に配置角度−βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔を介して斜めに配置される第2の補強材群とを互いに交差させた状態で配置させてなる補強構造であって、前記配置角度βを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定するのが好適である。
【0013】
この補強構造においても、図6のグラフが適用でき、軸方向の配置角度βを所定範囲に設定することによって、前記補強材の軸方向の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0014】
本発明における中空ロールの材料として用いられる炭素繊維強化樹脂(CFRP)を構成する炭素繊維としては特別の限定なく使用できるが、例えばトレカT300(東レ株式会社製炭素繊維の商品名)が好適に使用できる。なお、前記中空ロール本体と前記補強材とは互いに同質の炭素繊維強化樹脂材料を用いてもよいし、又は異質の炭素繊維強化樹脂材料を用いることもできる。
【0015】
CFRPのマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、好ましくは耐熱性エポキシ樹脂を挙げることができるが、エポキシ樹脂は、耐熱性及び耐水性に優れ、かつ炭素繊維との接着性において優れており、好適に用いられる。なお、通常のエポキシ樹脂の耐熱性は130℃程度であり、耐熱性エポキシ樹脂の耐熱性は250℃程度である。後述するDLC層や二酸化珪素被膜の強化被覆層を形成する場合には200℃前後の高温処理を行う場合があるので、その場合にはマトリックス樹脂として耐熱性エポキシ樹脂を使用する必要がある。また、通常のエポキシ樹脂を使用する場合にはDLC層や二酸化珪素被膜の強化被覆層を形成するにあたり130℃に満たない温度で処理する必要があることはいうまでもない。
【0016】
炭素繊維とマトリックス樹脂との配合割合についても特別の限定はないが、炭素繊維(体積%):マトリックス樹脂(体積%)=60:40〜75:25程度とすればよい。
【0017】
フィラメントワインディング法は、大別すると、炭素繊維フィラメントを樹脂を含浸させた後、回転するマンドレル上に巻付けて加熱硬化させるウエットフィラメントワインディング法と、炭素繊維フィラメントのトウプレグを回転するマンドレル上に巻きつけていくドライフィラメントワインディング法とがあるが、本発明に対してはいずれの方法も適用可能である。
【0018】
本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールの製造方法は、アイソグリッド型の複数の溝部を穿設した雌型金型を用意する工程と、該雌型金型の溝部に発泡プラスチック製又はプラスチック製角棒を挿入して雄型金型とする工程と、該雄型金型にシリコーンゴムを流し込んで平行四辺形の雌型シリコーン型を成形する工程と、マンドレルに該シリコーン型を巻付ける工程と、該シリコーン型に炭素繊維強化樹脂製補強材を積層する工程と、該炭素繊維強化樹脂製補強材の上から炭素繊維強化樹脂製表面層を積層する工程と、該炭素繊維強化樹脂製補強材と炭素繊維強化樹脂製表面層を加熱硬化処理を行って炭素繊維強化樹脂製円筒殻成形品とする工程と、前記マンドレルから該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造を除去する工程と、該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造からシリコーン型を除去する工程と、該円筒殻成形品を中空ロールとする工程とを含むことを特徴とする。なお、アイソグリッド型の複数の溝部とは、図7に示すように、所定の間隔で穿設された複数の第1の溝部と同じく所定の間隔で穿設された複数の第2の溝部とからなり、当該第1の溝部と第2の溝部とが菱形形状を示すように所定の角度で交差するように形成されることを意味するものである。
【0019】
本発明の中空ロールの内周面補強材として用いられる炭素繊維強化樹脂としては特別の限定はないが、トウプレグ(例えば、三菱レイヨン株式会社製)等を用いることができる。
【0020】
本発明の炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールは、炭素繊維強化樹脂製中空ロールと、該中空ロールの表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、該銅メッキ層の表面を被覆する強化被覆層とを含むグラビア製版ロールであって、前記中空ロールとして本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロールを用いることを特徴とする。
【0021】
本発明の炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールにおいて、前記強化被覆層としては、DLC層、二酸化珪素被膜又はクロムめっき層が好適に用いられる。前記二酸化珪素被膜は、ペルヒドロポリシラザン溶液を用いて形成するのが好ましい。これらの強化被覆層としては所定の硬度を有することが必要であるが、例えばビッカース硬度で800〜4000の範囲の硬度の被覆層を形成すれば充分である。
【0022】
前記強化被覆層としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)層、二酸化珪素被膜又はクロムメッキ層を適用可能である。前記DLC層はCVD法又はPVD法によって好適に形成される。前記二酸化珪素被膜はペルヒドロポリシラザン溶液を用いて形成するのが好適である。クロムメッキ層は常法によって形成すればよい。
【0023】
前記銅メッキ層の厚さとしては、50〜200μm程度、グラビアセルの深度は5〜150μm程度とすればよい。前記DLC層又はクロムめっき層の厚さは0.1〜10μmを適用することができる。前記二酸化珪素被膜の厚さとしては、0.1〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μmであることが好ましい。
【0024】
CVD法としては、炭化水素系原料ガスを用いて常圧で成膜するAPCVD(Atmospheric Pressure Chemical Vapor Deposition)法、0.05Torr程度の減圧で成膜するLPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法、常圧よりやや低い600Torr程度の圧力のSACVD(Subatmospheric Pressure Chemical Vapor Deposition)法、超高真空のUHVCVD(Ultra-High-Vacuum Chemical Vapor Deposition)法、600〜1000℃の高温の熱CVD法、高周波プラズマエネルギーを用い200〜450℃で成膜するプラズマCVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)法、紫外線による励起を利用した光CVD法、ソースに有機金属を用いた化合物結晶成長用のMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法等が知られているが、プラズマCVD法が好適である。
【0025】
前記炭化水素系原料ガスとしては、従来公知のシクロヘキサン、ベンゼン、アセチレン、メタン、ブチルベンゼン、トルエン、シクロペンタン等を用いることが出来る。また、銅メッキ層とDLC層との間にCVD密着層、又は下地金属メッキ層及びCVD密着層を介在させることによってDLC層の密着性が向上する。
【0026】
前記CVD密着層が、アルミニウム(Al)、リン(P)、チタン(Ti)、及び珪素(Si)からなる群から選ばれる一種又は二種以上から形成されるのが好ましい。前記下地金属メッキ層としては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び鉄(Fe)からなる群から選ばれる金属のメッキ層を適用すればよい。
【0027】
前記銅メッキ層の厚さが50〜200μm、前記グラビアセルの深度が5〜150μm、前記下地金属メッキ層の厚さが0.1〜5μm、前記密着層の厚さが0.1〜1μm、及び前記DLC層の厚さが0.1〜10μmであるのが好ましい。
【0028】
前記CVD密着層をCVD法で形成するために、トリメチルアルミニウム、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラエトキシド、テトラメチルシラン、亜リン酸トリメチル、ヘキサメチルジシロキサンからなる群から選ばれる一種又は二種以上のガス種を用いるのが好適である。
【0029】
PVD法としては、スパッタリング法、真空蒸着法(エレクトロンビーム法)、イオンプレーティング法、MBE(分子線エピタキシー)法、レーザーアブレーション法、イオンアシスト成膜法等を挙げることができるが、スパッタリング法が好適である。なお、前記銅メッキ層とDLC層との間に、タングステン(W)、チタン(Ti)、珪素(Si)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)等からなる0.1〜1μm程度の厚さのPVD密着層(金属層)を形成するのが好ましい。さらに、PVD密着層とDLC層との間に当該PVD密着層を構成する金属の炭化金属層を形成するのがさらに好ましい。前記炭化金属層が、好ましくは炭化金属傾斜層であって、該炭化金属傾斜層における炭素の組成比が前記金属層側から前記DLC層方向に対して炭素の比率が徐々に増大するように設定されているのがよい。さらに、前記銅メッキ層とDLC層との間に、0.1〜3μm程度の厚さのクロム(Cr)メッキ層等の下地層を形成することによっても密着性を向上させることができる。
【0030】
前記銅メッキ層の厚さが50〜200μm、前記グラビアセルの深度が5〜150μm、前記PVD密着層(金属層)の厚さが0.1〜1μm、前記炭化金属層の厚さが0.1〜1μm、及び前記DLC層の厚さが0.1〜10μmであることが好ましい。前記PVD密着層(金属層)、前記炭化金属層、好ましくは炭化金属傾斜層及び前記DLC層をスパッタリング法によってそれぞれ形成することが好適である。
【0031】
前記二酸化珪素被膜を形成する方法としては、前記銅メッキ層の表面にペルヒドロポリシラザン溶液を塗布し所定の膜厚の塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、前記塗布されたペルヒドロポリシラザン塗布膜を過熱水蒸気によって所定の条件で加熱処理して所定の硬度の二酸化珪素被膜を前記銅メッキ層の表面に形成する工程と、を有し、前記加熱処理が第1次及び第2次加熱処理を含む複数段の加熱処理であり、第1次加熱処理の条件を100℃〜170℃、1分〜30分、及び第2次加熱処理の条件を140℃〜200℃、1分〜30分とし、第2次加熱処理の温度を第1次加熱処理の温度よりも高く設定するようにした構成を採用するのが好適である。上記第2次加熱処理の温度を第1次加熱処理の温度よりも5℃以上、好ましくは10℃以上高く設定するのがよい。
【0032】
前記加熱処理によって形成された二酸化珪素被膜の表面を冷水又は温水で洗浄する工程をさらに設けることによって、得られた二酸化珪素被膜の硬度をさらに向上させることが可能である。
【0033】
上記ペルヒドロポリシラザンを溶解する溶剤としては公知のものを用いればよいが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エーテル、THF、塩化メチレン、四塩化炭素、アニソール、デカリン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、ソルベッソ、デカヒドロナフタリン、メチルターシャリーブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、エチルシクロヘキサン、リモネン、ヘキサン、オクタン、ノナン,デカン、C8−C11アルカン混合物、C18−C11芳香族炭化水素混合物、C8以上の芳香族炭化水素を5重量%以上25重量%以下含有する脂肪族/脂環式炭化水素混合物、及びジブチルエーテルなどを用いることができる。
【0034】
上記した各種溶剤に溶解されて作製されるペルヒドロポリシラザン溶液は、そのままでも過熱水蒸気による加熱処理によって二酸化珪素へ転化するが、反応速度の増加、反応時間の短縮、反応温度の低下、形成される二酸化珪素被膜の密着性の向上等を図る目的で触媒を用いるのが好ましい。これらの触媒も公知であり、例えばアミンやパラジウムが用いられるが、具体的には、有機アミン、例えばC1−5のアルキル基が1−3個配置された第1−第3級の直鎖状脂肪族アミン、フェニル基が1−3個配置された第1−第3級の芳香族アミン、ピリジン又はこれにメチル、エチル基等のアルキル基が核置換された環状脂肪族アミン等が挙げられ、さらに好ましいものとして、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノブチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン等を挙げることができる。これらの触媒はペルヒドロポリシラザン溶液に予め添加しておいてもよく、また過熱水蒸気による加熱処理の際の処理雰囲気中に気化状態で含有させることもできる。
【0035】
前記二酸化珪素被膜形成工程が、ペルヒドロポリシラザン溶液をスプレーコート方式又はインクジェット方式によって前記銅メッキ層表面に塗布し所定の膜厚の塗布膜を形成する塗布膜形成処理と、前記塗布されたペルヒドロポリシラザン塗布膜を過熱水蒸気によって所定時間加熱して所定の硬度の二酸化珪素被膜とする被膜形成熱処理とからなることが好ましい。前記加熱処理が第1次及び第2次加熱処理を含む複数段の加熱処理とするのが好適である。
【0036】
上記した強化被覆層としてDLC層や二酸化珪素被膜を形成する際には200℃を超える高温処理を行う場合があるが、その場合には前記したマトリックス樹脂として耐熱性エポキシ樹脂を用いることによって250℃程度の高温処理を適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、熱寸法安定性に優れており、高精細な印刷に好適であって、かつ軽量化を実現するとともに、曲げ剛性を向上させることができるようにした炭素繊維強化樹脂(CFRP)製中空ロール及びその製造方法並びに該炭素繊維強化樹脂製中空ロールを具備した炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0039】
図1は本発明のCFRP(炭素繊維強化樹脂)製中空ロールを具備した炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールの製造方法の工程の一例を模式的に示す説明図で、(a)はCFRP製中空ロール(版母材)の全体断面図、(b)は中空ロールの表面に銅メッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(c)は銅メッキ層表面に凹部(グラビアセル)を形成した状態を示す部分拡大断面図、(d)は銅メッキ層の表面に強化被覆層を形成した状態を示す部分拡大断面図である。図2は図1に示した製造方法の工程順を示すフローチャートである。図3は本発明のCFRP製中空ロールの側面説明図である。図4は本発明のCFRP製中空ロールの内周面の補強材の配設状態を示す断面説明図である。図5はヘリカル巻きにおける角度表示を示す説明図である。図6はヘリカル巻き角度と熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【0040】
図1において、符号10は版母材で、炭素繊維強化樹脂(CFRP)製中空ロールが用いられる(図1(a)及び図2のステップ100)。図3に示すように、前記CFRP製中空ロール10はCFRP製中空ロール本体10Bを有している。該中空ロール本体10Bは、軸方向(x)に巻き角度θと−θで炭素繊維強化樹脂フィラメント(例えば、ドライフィラメントワインディング法であればトウプレグ)20A,20Bをフィラメントワインディング法によってヘリカル巻きしたヘリカル巻き構造20で形成されており、前記軸方向(x)の巻き角度θを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定するものである。図6からわかるように、軸方向(x)の巻き角度θを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定することによって、前記中空ロール10の軸方向(x)の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0041】
このとき、図3に示すように、前記中空ロール本体10Bに対する周方向(y)の巻き角度θ1=90−θであるので、この周方向(y)の巻き角度θ1は60度〜30度、好ましくは50度〜40度の範囲に設定されることとなる。この場合も同様に、図6からわかるように、周方向(y)の巻き角度θ1を60度〜30度、好ましくは50度〜40度の範囲に設定することによって、前記中空ロール本体10Bの周方向(y)の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0042】
図4に示すように、前記中空ロール本体10Bの内周面には複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材22A,22Bからなる補強構造24が形成されており、かつ前記中空ロール10の軸方向(x)の線膨張係数は−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定されている。
【0043】
前記複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材22A,22Bを配置してなる補強構造24は、軸方向(x)に配置角度βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔dを介して斜めに配置される第1の補強材群22A、22Aと、軸方向に配置角度−βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔dを介して斜めに配置される第2の補強材群22B、22Bと、を互いに交差させた状態で配置させてなる補強構造であって、前記配置角度βを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定するものである。
【0044】
この補強構造24においても、図6のグラフが適用でき、軸方向(x)の配置角度βを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定することによって、前記補強材22A,22Bの軸方向の線膨張係数を所定範囲に収めることができる。
【0045】
前記中空ロール本体10Bの軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定するとともに前記補強構造24の軸方向の線膨張係数を1×10−6/℃〜−1×10−6/℃に設定し、前記中空ロール本体10Bの軸方向の線膨張係数と前記補強構造24の軸方向の線膨張係数とが互いに打ち消し合うように設定することによって、本発明の炭素繊維強化樹脂製中空ロール10の線膨張係数を所望の範囲に設定することが可能になる。
【0046】
前記中空ロール本体10Bと前記補強材22A,22Bとは、互いに同質の炭素繊維強化樹脂材料によって構成してもよいし、また異質の炭素繊維強化樹脂材料によって構成することもできる。
【0047】
本発明における中空ロールの表面層材料として用いられる炭素繊維強化樹脂(CFRP)を構成する炭素繊維としては特別の限定はなく、市販のものはいずれも使用できるが、例えばトレカT300(東レ株式会社製炭素繊維の商品名)が好適に使用できる。また、CFRPのマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、好ましくは耐熱性エポキシ樹脂を挙げることができるが、エポキシ樹脂は、耐熱性及び耐水性に優れ、かつ炭素繊維との接着性において優れており、好適に用いられる。
【0048】
なお、通常のエポキシ樹脂の耐熱性は130℃程度であり、耐熱性エポキシ樹脂の耐熱性は250℃程度である。後述するDLC層や二酸化珪素被膜の強化被覆層を形成する場合には200℃前後の高温処理を行う場合があるので、その場合にはマトリックス樹脂として耐熱性エポキシ樹脂を使用する必要がある。
【0049】
炭素繊維とマトリックス樹脂との配合割合についても特別の限定はないが、炭素繊維(体積%):マトリックス樹脂(体積%)=60:40〜75:25程度とすればよい。
【0050】
次いで、該中空ロール10の表面には銅メッキ処理によって銅メッキ層12が形成される(図1(b)及び図2のステップ102)。なお、炭素繊維強化樹脂製中空ロールに対して銅メッキする場合には、プリント配線板(ガラスエポキシ樹脂積層板)で一般に用いられる無電解銅メッキ法によって薄層(0.3μm程度)の銅メッキ層を形成し、その後に通常の銅メッキ処理によって銅メッキ層を形成するのが好適である。
【0051】
無電解銅メッキ法の工程の一例は次の通りである。1.クリ−ナー⇒2.水洗⇒3.エッチング((NH4)2S2O8 250g/L)⇒4.水洗⇒5.キャタリスト(Pd:0.15g/L,Sn:12g/L,36%HCl:160g/L)⇒6.水洗⇒7.アクセレーター(5%H2SO4)⇒8.水洗⇒9.無電解銅メッキ(メッキ浴の組成としては、例えば、後記する実施例に示したものが用いられる)
【0052】
該銅メッキ層12の表面には多数の微小な凹部(グラビアセル)14が形成される(図1(c)及び図2のステップ104)。グラビアセル14の形成方法としては、エッチング法(版胴面に感光液を塗布して直接焼き付けた後、エッチングしてグラビアセル14を形成する)や電子彫刻法(デジタル信号によりダイヤモンド彫刻針を機械的に作動させ銅表面にグラビアセル14を彫刻する)等の公知の方法を用いることができるが、エッチング法が好適である。グラビアセルの深さは版の使用目的に対応して決めればよい。
【0053】
ついで、表面にグラビアセル14が形成された銅メッキ層12の表面に強化被覆層16を形成する(図1(d)及び図2のステップ106)。これによって、グラビア製版ロール(グラビア版)11が完成する。
【0054】
前記強化被覆層16としてはDLC層、二酸化珪素被膜又はクロムメッキ層を適用することができる。DLC層はCVD法やPVD法によって形成すればよい。二酸化珪素被膜はペルヒドロポリシラザン溶液を用いる方法で形成するのが好ましい。また、クロムメッキ層は常法により形成することができる。
【0055】
ペルヒドロポリシラザン溶液の塗布層の形成方法としては、ペルヒドロポリシラザン溶液をスプレーコート方式やインクジェット方式で塗布すればよい。
【0056】
上記ペルヒドロポリシラザンを溶解する溶剤としては前述した公知のものを用いればよい。また、必要に応じて、前述した公知の触媒を用いることができる。続いて、前記ペルヒドロポリシラザン塗布層に対して過熱水蒸気による熱処理を行うことにより二酸化珪素被膜とする。前記過熱水蒸気の温度は100〜300℃が用いられる。また、前述した複数段の加熱処理を行うこともできる。前記加熱処理によって形成された二酸化珪素被膜の表面を冷水又は温水で洗浄する工程をさらに設けることによって、得られた二酸化珪素被膜の硬度をさらに向上させることが可能である。前記二酸化珪素被膜の厚さは0.1〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.1〜1μmであることが好適である。
【0057】
続いて、本発明のCFRP製グラビア製版ロールの製造に用いられるCFRP製中空ロールの製造方法について図7〜図16を参照して説明する。図7はCFRP製中空ロールの補強材を作製するために用いられる雌型金型の一例を示す平面図である。図8は図7の雌型金型の溝に差し込まれる角棒体の一例を示す平面図である。図9は雌型の小シリコーン型の一例を示す平面図である。図10は4枚の小シリコーン型を繋ぎ合わせて形成された大きいシリコーン型を示す平面図である。図11はマンドレルにシリコーン型を巻付けた状態を示す側面図である。図12は図11の要部を拡大して示す要部拡大斜視図である。図13はマンドレルに巻き付けられたシリコーン型にCFRP補強材を巻付け積層した状態を示す側面図である。図14はCFRP補強材の上から表面層を積層した状態を示す側面図である。図15は作製されたCFRP中空ロールの一部を切り欠いて示す斜視説明図である。図16はCFRP製中空ロールの製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【0058】
まず、アルミニウム製等の雌型金型30を用意する(図7及び図16のステップ200)。該雌型金型30には、所定間隔dを介して互いに平行でかつ所定の角度で傾斜するように設けられた複数本の溝32Aと、該溝32Aと交差するとともに所定間隔dを介して互いに平行でかつ所定の角度で傾斜するように設けられた複数本の溝32Bとが、アイソグリッド型に穿設されている。該溝32Aは長さ方向xの軸に対して所定の配置角度βで傾斜し、また該溝32Bは長さ(軸)方向xに対して所定の配置角度−βで傾斜している。この配置角度βは完成したCFRP製中空ロールの熱膨張係数に影響を与えるものであり、配置角度βは30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定される。図7において、Lは金型30の長さ、Wは金型30の幅である。
【0059】
次に、該溝32Aに対応する形状に成型された発泡プラスチック製又はプラスチック製の複数の長尺の角棒34A、及び該溝32Bに対応する形状に成型された発泡プラスチック製又はプラスチック製の複数の短尺の間隔棒34Bからなる角棒体36を用意する(図8及び図16のステップ202)。この角棒34A及び間隔棒34Bを上記した雌型金型30の溝32A,32Bに差し込んで雄型金型(図示せず)とした。
【0060】
この雄型金型にシリコーンゴムを流し込んで、図9に示す平行四辺形の雌型の小シリコーン型38を成形した(図16のステップ204)。この小シリコーン型38には前記角棒34A,34Bに対応して溝部40A,40Bが形成されている。なお、図9において、42はネジ穴である。使用した金型30よりも大きいシリコーン型44を成形するため、この小シリコーン型38は、図10に示す一点鎖線m,nに沿って繋ぎ合わされる。繋ぎ目はシリコーンで接着し、溝部40A,40Bに重なるようにして目立たなくする(図16のステップ206)。なお、大きな金型を使用すれば、最初から大きいサイズのシリコーン型が成形できるので、小シリコーン型を繋ぎ合せる手間が省けることはいうまでもない。
【0061】
中空ロールの成形はフィラメントワインディング装置を用いて行う。図11及び図12に示すように、マンドレル46にシリコーン型44を巻付け、継ぎ目48に沿ってネジ50で固定する(図16のステップ208)。この継ぎ目48はシリコーン型44の溝部40A同士及び溝部40B同士が互いに重なるように設置される。固定されたシリコーン型44の外方に位置するマンドレル46の部分には複数本のガイドピン52が突設されている。このガイドピン52は炭素繊維強化樹脂製補強材22A,22Bを積層する際に使用されるものである。
【0062】
炭素繊維強化樹脂製補強材22A,22Bとしては、あらかじめ樹脂の含浸されているトウプレグ(例えば、三菱レイヨン株式会社製トウプレグ)を用いればよい。前記溝部40A及び溝部40Bに沿って2方向で補強材22A,22Bを、例えば、6層ずつ積層する(図16のステップ210)。この補強材22A,22Bを積層し終えたらシリコーン型44を固定しているネジ50を外す。
【0063】
続いて、補強材22A,22Bを硬化させずに、シリコーン型44の上から、図14に示すように、軸方向(x)に巻き角度θと−θで炭素繊維強化樹脂(例えば、ドライフィラメントワインディング法であればトウプレグ)20A,20Bをフィラメントワインディング法によってヘリカル巻きしてヘリカル巻き構造の表面層20を積層する(図16のステップ212)。熱膨張係数を所定の範囲に収めるためには、前記軸方向(x)の巻き角度θを30度〜60度、好ましくは40度〜50度の範囲に設定することが必要である。
【0064】
前記表面層20を積層し終えると、常法により熱処理(例えば、130℃、1時間)を行って、前記補強材22A,22B及び表面層20を硬化させることによって円筒殻成形品(中空ロール素材)10Aが成形される(図16のステップ214)。硬化成形処理を行った後、まずマンドレル46から該円筒殻成形品10A及びシリコーン型44の合体構造を脱型除去する(図16のステップ216)。次に、円筒殻成形品10A及びシリコーン型44の合体構造からシリコーン型44を取り除いて(図16のステップ218)、円筒殻成形品(中空ロ−ル素材)10Aを得ることができる(図15及び図16のステップ220)。この円筒殻成形品(中空ロール素材)10Aの寸法等を整えて、CFRP製中空ロール10を製造することができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0066】
(製造実施例1)
まず、図7に示したようなアルミニウム製の雌型金型を用意した。該雌型金型のサイズは、長さL:193mm、幅W:314mm、溝幅:2mm、溝深さ:3mmとした。また、溝の配置角度βは42.3度とした。次に、図8に示したような発泡プラスチック製の角棒体を上記した雌型金型の溝に差し込んで雄型金型とした。
【0067】
この雄型金型にシリコーンゴムを流し込んで、図9に示すような平行四辺形の雌型の小シリコーン型を成形した。図10に示すように複数個の小シリコーン型を、繋ぎ目をシリコーンで接着して繋ぎ合わせ、シリコーン型を形成した。
【0068】
中空ロールの成形は市販のフィラメントワインディング装置を用いて行った。図11及び図12に示すように、マンドレルにシリコーン型を巻付け、継ぎ目に沿ってネジで固定した。この継ぎ目はシリコーン型の溝部同士及び溝部同士が互いに重なるように設置した。
【0069】
炭素繊維強化樹脂製補強材としては、あらかじめ樹脂の含浸されているトウプレグ(三菱レイヨン株式会社製WDE−3D−1TRH5012K)を用いた。前記シリコーン型の溝部に沿って2方向で補強材を6層ずつ積層した。この補強材を積層し終えたらシリコーン型を固定しているネジを外した。
【0070】
続いて、補強材を硬化させずに、シリコーン型の上から、図14に示すように、軸方向(x)に巻き角度θと−θでCFRPプリプレグフィラメント(Vf65%、炭素繊維:トレカT300(東レ株式会社製炭素繊維の商品名)+マトリックス樹脂:耐熱性エポキシ樹脂)を用い、フィラメントワインディング法によってヘリカル巻きしてヘリカル巻き構造の表面層を積層した。巻き角度θは42.3度とした。
【0071】
前記表面層の積層が終了した後、130℃、1時間の熱処理を行って、前記補強材及び表面層を硬化させることによって円筒殻成形品(中空ロール素材)が成形された。この硬化成形処理を行った後、まずマンドレルから該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造を脱型除去した。次に、円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造からシリコーン型を取り除いて、円筒殻成形品(中空ロール素材)を得た。
【0072】
この円筒殻成形品(中空ロール素材)の寸法等を整えて、CFRP製中空ロールを製造した。このCFRP製中空ロールにおいては、円周600mm、面長1100mmであった。このCFRP製中空ロールに対してその表面を均一面とする処理をして被製版ロールとした。このCFRP製被製版ロールにおいては、中空ロール及び補強材のいずれにおいてもその軸方向線膨張係数は0であり、またその周方向線膨張係数は約5×10−6/℃となっていた。
【0073】
(実施例1)
製造実施例1で得られたCFRP製被製版ロール表面にプリント配線板(ガラスエポキシ樹脂積層板)で一般に用いられる無電解銅メッキ法(無電解銅メッキ浴は後記したものを使用した)によって銅メッキ(0.3μm程度の厚さ)し、次に自動製版システムで用いられる光沢硫酸銅電気メッキ槽に装着し、陽極室をコンピュータシステムによる自動スライド装置で20mmまで被製版ロールに近接させ、メッキ液をオーバーフローさせ、被製版ロールを全没させて18A/dm2、6.0Vで80μmの銅メッキ層を形成した。メッキ時間は20分、メッキ表面はブツやピットの発生がなく、均一な銅メッキ層を得た。
【0074】
使用した無電解銅メッキ浴
CuSO4・5H2O 0.04mg/L
EDTA 0.08mg/L
HCHO 0.1mg/L
NaOH pH12.5
ジピリジル 20ppm
PEG 50ppm
【0075】
得られた被製版ロールの銅メッキ層の表面にエッチング法によって深度5μmの凹部(グラビアセル)を形成した。
【0076】
このグラビアセルを形成した被製版ロールの銅メッキ層の上面に厚さ1μmのクロムメッキ層を形成した。
【0077】
上記クロムメッキ層の上面にスパッタリング法によってタングステン(W)層を形成した。スパッタリング条件は次の通りである。タングステン(W)試料:固体タングステンターゲット、雰囲気:アルゴンガス雰囲気、成膜温度:80〜250℃、成膜時間:60分、成膜厚さ:0.1μm。
【0078】
次に、タングステン層(W)の上面に炭化タングステン層(WC)を形成した。スパッタリング条件は次の通りである。タングステン(W)試料:固体タングステンターゲット、雰囲気:アルゴンガス雰囲気で炭化水素ガスを徐々に増加、成膜温度:80〜250℃、成膜時間:60分、成膜厚さ:0.1μm。
【0079】
さらに、炭化タングステン層の上面にスパッタリング法によってダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜を被覆形成した。スパッタリング条件は次の通りである。DLC試料:固体カーボンターゲット、雰囲気:アルゴンガス雰囲気、成膜温度:80〜250℃、成膜時間:150分、成膜厚さ:1μm。このようにして、グラビア製版ロール(グラビアシリンダー)を完成した。
【0080】
続いて、得られたグラビアシリンダーに対して印刷インキとしてシアンインキ(ザーンカップ粘度18秒、サカタインクス社製水性インクスーパーラミピュア藍800PR−5)を適用しOPP(Oriented Polypropylene Film:2軸延伸ポリプロピレンフィルム)を用いて印刷テスト(印刷速度:120m/分)を行った。得られた印刷物は版カブリがなく、50,000mの長さまで印刷できた。パターンの精度は変化がなかった。このグラビア版のハイライト部からシャドウ部のグラデーションは、常法に従って作製した従来のグラビア版と変わらなかったことからインキ転移性は問題ないと判断される。
【0081】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で被製版ロールの銅メッキ層表面にグラビアセルを形成し、次いで銅メッキ層の上面に二酸化珪素被膜の形成を以下のように行った。ペルヒドロポリシラザンの20%ジブチルエーテル溶液(製品名:アクアミカ(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)の登録商標)NL120A、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製)を、上記銅メッキ層の表面に対してHVLPスプレー塗布を行った。当該銅メッキ層の表面に均一に塗布された塗布膜厚は0.8μmであった。このペルヒドロポリシラザンが塗布されたシリンダーに対して過熱水蒸気を用いて二段階の加熱処理(140℃5分+170℃5分)を施して二酸化珪素被膜を形成した。この被膜はカッターナイフで傷が付かない程度の極めて高い被膜硬度を有していた。このようにして、グラビアシリンダーを完成した。このグラビアシリンダーを用いて印刷テストを行ったところ、実施例1と同様に良好な印刷性能を示した。
【0082】
(実施例3)
DLC膜(W層及びWC層からなる下地層を含めて)をスパッタリング法で形成した替わりにプラズマCVD法によって0.1μmのAl層(下地層)及び1μmのDLC層を形成した以外は、実施例1と同様にしてグラビア製版ロールを製造して、印刷テストを行ったところ実施例1と同様の良好な結果が得られることを確認した。
【0083】
(実施例4)
DLC膜(W層及びWC層からなる下地層を含めて)をスパッタリング法で形成した替わりにプラズマCVD法によって0.2μmのNiメッキ層(下地層)及び1μmのDLC層を形成した以外は、実施例1と同様にしてグラビア製版ロールを製造して、印刷テストを行ったところ実施例1と同様の良好な結果が得られることを確認した。
【0084】
(実施例5)
スパッタリング法によって厚さ1μmのDLC層(下地層なし)を形成した以外は、実施例1と同様にしてグラビア製版ロールを製造して、印刷テストを行ったところ実施例1とほぼ同様の良好な結果が得られることを確認した。
【0085】
(実施例6)
グラビアセルを形成した被製版ロールの銅メッキ層の上面に厚さ1μmの下地層(クロムメッキ層)を形成し、その上面にスパッタリング法によって厚さ1μmのダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜を被覆形成した以外は、実施例1と同様にしてグラビア製版ロールを製造して、印刷テストを行ったところ実施例1とほぼ同様の良好な結果が得られることを確認した。
【0086】
(実施例7)
強化被覆層としてPVDDLC層(W層及びWC層を含めて)の替わりに常法によってクロムメッキ層を形成した以外は実施例1と同様の手順でグラビアシリンダーを製造した。このグラビアシリンダーを用いて印刷テストを行ったところ、実施例1と同様に良好な印刷性能を示した。
【0087】
本発明においてはグラビア版胴に対する強化被覆層としては、DLC膜(スパッタ法又はCVD法による)、二酸化珪素被膜(ペルヒドロポリシラザン溶液使用)及び従来のクロムメッキ層が使用可能である。
【0088】
CVDDLC膜の形成については、下地層としてAl層(実施例3)及びNiメッキ層(実施例4)を適用した例を示したが,P,Ti,Si等のCVD密着層、又はCo,Fe等の下地金属メッキ層を介在させる場合についても同様に確認してある。
【0089】
PVDCVD膜の形成については、下地層としてW層及びWC層(実施例1)及びクロムメッキ層(実施例6)を適用した例を示したが、W、Ti、Si、Cr、Ta、Zr等の金属層、及びこれらの金属層と炭化金属層の組合わせからなる下地層を介在させる場合についても同様に確認してある。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明のCFRP(炭素繊維強化樹脂)製中空ロールを具備したグラビア製版ロールの製造方法の工程の一例を模式的に示す説明図で、(a)はCFRP製中空ロール(版母材)の全体断面図、(b)は中空ロールの表面に銅メッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(c)は銅メッキ層表面に凹部(グラビアセル)を形成した状態を示す部分拡大断面図、(d)は銅メッキ層の表面に強化被覆層を形成した状態を示す部分拡大断面図である。
【図2】図1に示した製造方法の工程順を示すフローチャートである。
【図3】本発明のCFRP製中空ロールの側面説明図である。
【図4】本発明のCFRP製中空ロールの内周面の補強材の配設状態を示す断面説明図である。
【図5】ヘリカル巻きにおける角度表示を示す説明図である。
【図6】ヘリカル巻き角度と熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【図7】CFRP製中空ロールの補強材を作製するために用いられる雌型金型の一例を示す平面図である。
【図8】図7の雌型金型の溝に差し込まれる角棒体の一例を示す平面図である。
【図9】雌型の小シリコーン型の一例を示す平面図である。
【図10】4枚の小シリコーン型を繋ぎ合わせて形成された大きいシリコーン型を示す平面図である。
【図11】マンドレルにシリコーン型を巻付けた状態を示す側面図である。
【図12】図11の要部を拡大して示す要部拡大斜視図である。
【図13】マンドレルに巻き付けられたシリコーン型にCFRP補強材を巻付け積層した状態を示す側面図である。
【図14】CFRP補強材の上から表面層を積層した状態を示す側面図である。
【図15】作製されたCFRP中空ロールの一部を切り欠いて示す斜視説明図である。
【図16】CFRP製中空ロールの製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0091】
10:版母材(中空ロール)、10A:円筒殻成形品(中空ロ−ル素材)、10B:中空ロール本体、11:グラビア製版ロール、12:銅メッキ層、14:グラビアセル、16:強化被覆層、20:ヘリカル巻き構造(表面層)、20A,20B:CFRPプリプレグ、22A,22B:補強材、24:補強構造、30:雌型金型、32A,32B:溝、34A:角棒、34B:間隔棒、36:角棒体、38:小シリコーン型、40A,40B:溝部、42:ネジ穴、44:シリコーン型、46:マンドレル、48:継ぎ目、50:ネジ、52:ガイドピン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールに用いられる炭素繊維強化樹脂製中空ロールであって、前記中空ロールが中空ロール本体と該中空ロール本体の内周面に複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造とからなり、前記中空ロールの軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定することを特徴とする炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項2】
前記中空ロール本体の軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定するとともに前記補強構造の軸方向の線膨張係数を1×10−6/℃〜−1×10−6/℃に設定し、前記中空ロール本体の軸方向の線膨張係数と前記補強構造の軸方向の線膨張係数とが互いに打ち消し合うように設定することを特徴とする請求項1記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項3】
前記中空ロール本体が炭素繊維強化樹脂フィラメントをフィラメントワインディング法によって軸方向に巻き角度θと−θでヘリカル巻きしたヘリカル巻き構造を有し、前記巻き角度θを30度〜60度の範囲に設定することを特徴とする請求項1又は2記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項4】
前記複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造が、軸方向に配置角度βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔を介して斜めに配置される第1の補強材群と、軸方向に配置角度−βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔を介して斜めに配置される第2の補強材群とを互いに交差させた状態で配置させてなる補強構造であって、前記配置角度βを30度〜60度の範囲に設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項5】
前記中空ロール本体と前記補強材とが互いに同質又は異質の炭素繊維強化樹脂材料によって構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロールを製造する方法であって、アイソグリッド型の複数の溝部を穿設した雌型金型を用意する工程と、該雌型金型の溝部に発泡プラスチック製又はプラスチック製角棒を挿入して雄型金型とする工程と、該雄型金型にシリコーンゴムを流し込んで平行四辺形の雌型シリコーン型を成形する工程と、マンドレルに該シリコーン型を巻付ける工程と、該シリコーン型に炭素繊維強化樹脂製補強材を積層する工程と、該炭素繊維強化樹脂製補強材の上から炭素繊維強化樹脂製表面層を積層する工程と、該炭素繊維強化樹脂製補強材と炭素繊維強化樹脂製表面層を加熱硬化処理を行って炭素繊維強化樹脂製円筒殻成形品とする工程と、前記マンドレルから該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造を除去する工程と、該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造からシリコーン型を除去する工程と、該円筒殻成形品を中空ロールとする工程とを含むことを特徴とする炭素繊維強化樹脂製中空ロールの製造方法。
【請求項7】
炭素繊維強化樹脂製中空ロールと、該中空ロールの表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、該銅メッキ層の表面を被覆しかつビッカース硬度が800〜4000である強化被覆層とを含むグラビア製版ロールであって、前記中空ロールとして請求項1〜5のいずれか1項記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロールを用いることを特徴とする炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロール。
【請求項8】
前記強化被覆層がDLC層、二酸化珪素被膜又はクロムめっき層であることを特徴とする請求項7記載の炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロール。
【請求項9】
前記二酸化珪素被膜をペルヒドロポリシラザン溶液を用いて形成することを特徴とする請求項8記載の炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロール。
【請求項1】
炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロールに用いられる炭素繊維強化樹脂製中空ロールであって、前記中空ロールが中空ロール本体と該中空ロール本体の内周面に複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造とからなり、前記中空ロールの軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定することを特徴とする炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項2】
前記中空ロール本体の軸方向の線膨張係数を−1×10−6/℃〜1×10−6/℃に設定するとともに前記補強構造の軸方向の線膨張係数を1×10−6/℃〜−1×10−6/℃に設定し、前記中空ロール本体の軸方向の線膨張係数と前記補強構造の軸方向の線膨張係数とが互いに打ち消し合うように設定することを特徴とする請求項1記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項3】
前記中空ロール本体が炭素繊維強化樹脂フィラメントをフィラメントワインディング法によって軸方向に巻き角度θと−θでヘリカル巻きしたヘリカル巻き構造を有し、前記巻き角度θを30度〜60度の範囲に設定することを特徴とする請求項1又は2記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項4】
前記複数本の炭素繊維強化樹脂製補強材を配置してなる補強構造が、軸方向に配置角度βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔を介して斜めに配置される第1の補強材群と、軸方向に配置角度−βで前記中空ロールの内周面に互いに所定間隔を介して斜めに配置される第2の補強材群とを互いに交差させた状態で配置させてなる補強構造であって、前記配置角度βを30度〜60度の範囲に設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項5】
前記中空ロール本体と前記補強材とが互いに同質又は異質の炭素繊維強化樹脂材料によって構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロール。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロールを製造する方法であって、アイソグリッド型の複数の溝部を穿設した雌型金型を用意する工程と、該雌型金型の溝部に発泡プラスチック製又はプラスチック製角棒を挿入して雄型金型とする工程と、該雄型金型にシリコーンゴムを流し込んで平行四辺形の雌型シリコーン型を成形する工程と、マンドレルに該シリコーン型を巻付ける工程と、該シリコーン型に炭素繊維強化樹脂製補強材を積層する工程と、該炭素繊維強化樹脂製補強材の上から炭素繊維強化樹脂製表面層を積層する工程と、該炭素繊維強化樹脂製補強材と炭素繊維強化樹脂製表面層を加熱硬化処理を行って炭素繊維強化樹脂製円筒殻成形品とする工程と、前記マンドレルから該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造を除去する工程と、該円筒殻成形品及びシリコーン型の合体構造からシリコーン型を除去する工程と、該円筒殻成形品を中空ロールとする工程とを含むことを特徴とする炭素繊維強化樹脂製中空ロールの製造方法。
【請求項7】
炭素繊維強化樹脂製中空ロールと、該中空ロールの表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、該銅メッキ層の表面を被覆しかつビッカース硬度が800〜4000である強化被覆層とを含むグラビア製版ロールであって、前記中空ロールとして請求項1〜5のいずれか1項記載の炭素繊維強化樹脂製中空ロールを用いることを特徴とする炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロール。
【請求項8】
前記強化被覆層がDLC層、二酸化珪素被膜又はクロムめっき層であることを特徴とする請求項7記載の炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロール。
【請求項9】
前記二酸化珪素被膜をペルヒドロポリシラザン溶液を用いて形成することを特徴とする請求項8記載の炭素繊維強化樹脂製グラビア製版ロール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−126090(P2009−126090A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304602(P2007−304602)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(000131625)株式会社シンク・ラボラトリー (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(000131625)株式会社シンク・ラボラトリー (52)
【Fターム(参考)】
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