説明

無極性樹脂基材に適用可能な塗料、これを用いる複層塗膜形成法及び塗装樹脂製品

【課題】ポリオレフィン樹脂等の無極性樹脂の基材10に対し、プライマーの塗装を行うことなく、活性エネルギー線で硬化するクリアー塗料を使用しても良好な塗膜表面が得られる塗料及びこの塗料を用いる複層塗膜形成法を提供すると共に、この塗料を用いることで塗装工程時間の十分な短縮が図れる塗装樹脂製品を提供する。
【解決手段】無極性樹脂よりなる基材上に、アクリル成分のTgが60℃以上のアクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂と、OH基含有アクリル樹脂とを不揮発分の質量比が70/30〜50/50となる配合で含む着色ベース塗料を基材上に塗装し、塗膜中の不揮発分が70〜100質量%となるよう乾燥し、塗着粘度が15〜50mPa・sであるクリヤー塗料を着色ベース塗膜上に塗装し、酸素濃度が5質量%以下の雰囲気下で活性エネルギー線を照射して、クリヤー塗膜の硬化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無極性樹脂基材に適用可能な塗料、この塗料を用いる複層塗膜形成法及び、この塗料を塗装してなる塗装樹脂製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、自動車においては、燃費向上等の観点から軽量化が積極的に図られ、部品に樹脂材料が多用されるようになっている。なかでも、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂は、安価である上に成形性及び耐薬品性等の物性もに優れていることから、自動車部品に広く用いられている。
一方、自動車はさまざまな環境で使用されることから、高い耐候性が求められるのはもちろんのこと、消費財としての意匠性も兼ね備えることが求められている。そのような自動車を構成する自動車部品についても、高い耐候性と共に意匠性を兼ね備える必要があり、自動車部品の表面には塗装が施されている。
従って、樹脂製の自動車部品にも、当然のように表面に塗装が施され、より良好な塗膜外観等を確保するため、着色ベース塗料を塗装した上からクリヤー塗料を塗装する複層塗膜が施されている。その上、ポリオレフィン樹脂のように分子中にヘテロ原子を含まない無極性樹脂よりなる自動車部品は、一般的に上塗り塗膜との密着性が悪いので、着色ベース塗料の塗装の前にプライマーの塗装が行われている。
【0003】
複層塗膜のクリアー塗料に溶剤入りのいわゆるラッカー塗料を用いると、塗膜中の溶剤を蒸発させるための時間が必要となり、工程時間が長くなる上に、溶剤に有機化合物が用いられると環境に負荷を強いること等から、クリヤー塗料に溶剤を用いない又は溶剤含有量が少ない活性エネルギー線硬化型のクリヤー塗料が提案されている。(特許文献1、2)
一方、ポリオレフィン樹脂よりなる基材に対してプライマーの塗装を行うと、工程時間が長くなる上に、工程が一つ多くなりコスト高となることから、プライマーの塗装を行うことなく使用できるいわゆるプライマーレス塗料が提案されている。(特許文献3)
【特許文献1】特開平8−155381号公報
【特許文献2】特開平6−63494号公報
【特許文献3】特開平10−195370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、活性エネルギー線硬化型のクリヤー塗料とポリオレフィン樹脂用のプライマーレス塗料は、個々に提案されているが、ポリオレフィン樹脂等の無極性樹脂用のプライマーレスの塗料であって、しかもクリヤー塗料を活性エネルギー線で硬化させる塗料は、提案されていない。
【0005】
これは、活性エネルギー線硬化型のクリヤー塗料には、活性エネルギー線の照射により重合する光重合成モノマーが含まれており、他方、無極性樹脂用のプライマーレス塗料には、プライマーに含まれる樹脂成分が大量に添加されることから、プライマーレス塗料を塗装した上から活性エネルギー線硬化型のクリヤー塗料を塗装するとクリヤー塗料中に含まれている光重合性モノマーにより、プライマーレス塗料の塗膜が侵され、外観(鮮映性)低下が生じるからである。
【0006】
従って、ポリオレフィン樹脂等の無極性樹脂製の塗装樹脂製品については、塗装工程時間の十分な短縮が図れていない。
【0007】
そこで、本発明は、ポリオレフィン樹脂等の無極性樹脂よりなる基材に対し、プライマーの塗装を行うことなく、活性エネルギー線で硬化するクリアー塗料を使用しても良好な塗膜表面が得られる着色ベース塗料、この着色ベース塗料を塗装してなる塗膜上に塗装するクリヤー塗料及びこれらの塗料を用いる複層塗膜形成法を提供すると共に、これらの塗料を用いることで塗装工程時間の十分な短縮が図れる塗装樹脂製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の着色ベース塗料は、アクリル成分のTg(ガラス転移温度)が60℃以上のアクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂(A1)と、OH基(水酸基)含有アクリル樹脂(A2)とを不揮発分の質量比(A1/A2)が70/30〜50/50となる配合で含み、塗膜は乾燥により膜化する。
また、本発明の着色ベース塗料は、アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂(A1)とOH基含有アクリル樹脂(A2)と塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)との不揮発分の合計質量(A1+A2+B1)に対し、塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)の不揮発分を3〜14質量%含むことができる。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のクリアー塗料は、前記の着色ベース塗料を塗装してなる着色ベース塗膜上に塗装するクリアー塗料であって、光重合性官能基が1分子中に2.5個以上で重量平均分子量(Mw)が1100〜3000のウレタンアクリレート樹脂(C)と、光重合性モノマー(D)とを、不揮発分の質量比(C/D)が10/90〜40/60となる配合で含み、塗膜は活性エネルギー線により硬化することで膜化する。
また、本発明のクリアー塗料は、蒸発速度60以上の有機溶剤を不揮発分基準で25質量%以下の割合で含むことができる。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の複層塗膜形成方法は、無極性樹脂よりなる基材上に、前記の着色ベース塗料を塗装してなる着色ベース塗膜と前記のクリヤー塗料を塗装してなるクリヤー塗膜とを積層形成する複層塗膜形成法であって、
着色ベース塗料を、基材上に塗装し、塗膜中の不揮発分が70〜100質量%となるよう乾燥し、
塗着粘度が15〜50mPa・sであるクリヤー塗料を、着色ベース塗膜上に塗装し、
酸素濃度が5質量%以下の雰囲気下で活性エネルギー線を照射して、クリヤー塗膜の硬化を行うことを特徴とする。
また、本発明の複層塗膜形成方法は、クリヤー塗料の塗装時の塗料温度を20〜65℃にすることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の塗装樹脂製品は、無極性樹脂よりなる基材と、基材上に前記の着色ベース塗料を塗装し乾燥により膜化した着色ベース塗膜と、着色ベース塗膜上に前記のクリヤー塗料を塗装し活性エネルギー線により膜化したクリヤー塗膜とを有する塗装樹脂製品。
また、本発明の塗装樹脂製品は、無極性樹脂が、ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の着色ベース塗料によれば、ポリオレフィン樹脂等の無極性樹脂よりなる基材にプライマーの塗装を行うことなく塗装でき、かつ、塗膜上に活性エネルギー線で硬化するクリアー塗料を塗装しても良好な塗膜表面が得られる。
本発明のクリヤー塗料によれば、活性エネルギー線で硬化することができ、かつ、着色ベース塗膜上に塗装しても着色ベース塗膜の表面が良好である。
本発明の複層塗膜形成方法によれば、ポリオレフィン樹脂等の無極性樹脂よりなる基材上に良好な複層塗膜が得られる。
本発明の塗装樹脂製品によれば、塗装工程時間の十分な短縮が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の塗料、この塗料を用いる複層塗膜形成方法及びこの塗料を塗装してなる塗装樹脂製品について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0014】
[着色ベース塗料]
本発明の着色ベース塗料は、アクリル成分のTg(ガラス転移温度)が60℃以上のアクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂(A1)と、OH基(水酸基)含有アクリル樹脂(A2)とを、不揮発分(NV)の質量比(A1/A2)が70/30〜50/50となる配合で含み、塗膜は乾燥により膜化するものである。
【0015】
また、本発明の着色ベース塗料は、アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂(A1)とOH基含有アクリル樹脂(A2)と塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)との不揮発分の合計質量(A1+A2+B1)に対し、塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)の不揮発分を3〜14質量%含むことができる。
【0016】
着色ベース塗料に含まれる、アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂(A1)と、OH基含有アクリル樹脂(A2)との配合割合は、不揮発分の質量比(A1/A2)が70/30〜50/50であることが好ましい。この質量比(A1/A2)が、70/30を超える、即ち、A2の割合が小さくなるとクリヤー塗膜との層間密着が低下するおそれがあり、50/50未満である、即ち、A1の割合が小さくなると、基材との付着性及び仕上り塗膜の外観(鮮映性)が低下するおそれがある。より好ましくは、65/35〜55/45である。
【0017】
アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂(A1)は、側鎖であるアクリル成分のTgが、60℃以上である。アクリル成分のTgが60℃未満であると、クリヤー塗料の塗装時にクリヤー塗料に含まれる光重合成モノマーにより着色ベース塗膜が侵され、仕上り塗膜の外観(鮮映性)が低下するおそれがある。
【0018】
OH基含有アクリル樹脂(A2)は、OH価が15〜50mgKOH/gであることが好ましく、20〜45mgKOH/gであることがより好ましい。OH価が15mgKOH/g未満であると着色ベース塗膜とクリヤー塗膜との層間密着性が低下する傾向があり、50mgKOH/gを超えると塗膜外観に問題が生じてくる傾向がある。
【0019】
OH基含有アクリル樹脂(A2)は、メタ型を含むものであり、前述の条件を備える限り、特に制限はなく、一般に用いられる(メタ)アクリル系モノマーおよび必要に応じて他のエチレン不飽和モノマーからなる単量体成分を公知の方法で(共)重合させることにより得られる(共)重合体からなる。
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、およびこれらのエステル化物(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、n−ブチルエステル、i−ブチルエステル、t−ブチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、ラウリルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、イソボロニルエステル、2−ヒドロキシエチルエステル、2−ヒドロキシプロピルエステル、2−ヒドロキシブチルエステル、4−ヒドロキシブチルエステル、(β−メチル)グリシジルエステル、ポリエチレングルコール等多価アルコールとのモノエステル等);(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有アクリルモノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物;等が挙げられる。
前記他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、N−ビニルピロリドン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0020】
着色ベース塗料において、アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂(A1)とOH基含有アクリル樹脂(A2)と塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)との不揮発分の合計質量(A1+A2+B1)に対し、塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)の不揮発分を3〜14質量%含むものであることが好ましい。樹脂の不揮発分の合計質量(A1+A2+B1)に対する塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)の不揮発分の含有率が3質量%未満では、基材との密着性及び塗膜鮮映性が低下する傾向があり、14質量%を超えると、クリヤー塗膜との層間付着性が低下する傾向がある。
【0021】
塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)としては、特に制限はなく、例えば、塩素化ポリエチレン樹脂や塩素化ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。市販品では、スーパークロン822(日本製紙社の商品名)、ハードレンEH202(東洋化成社の商品名)、ハードレンM128P(東洋化成社の商品名)、ハードレン14ML(東洋化成社の商品名)等が挙げられる。
【0022】
着色ベース塗料は、必要に応じ、前記3つの樹脂(A1)、(A2)、(B1)以外の樹脂、例えば、前記OH基含有アクリル樹脂(A2)以外のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等を含むことができる。
【0023】
着色ベース塗料は、美装性や隠蔽性を発揮させたりするために、着色材として着色顔料および/または光輝顔料を含むものである。上記着色顔料としては、限定する訳ではないが、有機系として、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ペンズイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、金属錯体顔料等を挙げることができ、また、無機系として、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等を挙げることができる。上記光輝顔料としては、限定する訳ではないが、ホワイトマイカ、着色マイカ、干渉マイカ等のマイカ系顔料やアルミニウムフレーク顔料、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、グラファイト顔料、金属チタンフレーク顔料、ステンレスフレーク顔料、板状酸化鉄顔料、金属めっきガラスフレーク顔料、金属酸化物被覆めっきガラスフレーク顔料、ホログラム顔料およびコレステリック液晶ポリマーからなるフレーク状顔料等を挙げることができる。上記着色ベース塗料は、これらの着色顔料や光輝顔料の群より選ばれた少なくとも1種の顔料を含むものである。また、着色ベース塗料は、必要により体質顔料を含むことができる。体質顔料としては、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカ等が挙げられる。
【0024】
着色ベース塗料には、必要に応じて、レベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、黄変防止剤、消泡剤、増粘剤、帯電防止剤、沈降防止剤等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0025】
[クリアー塗料]
本発明のクリアー塗料は、前記の着色ベース塗料を塗装してなる着色ベース塗膜上に塗装するクリアー塗料であって、光重合性官能基が1分子中に2.5個以上で重量平均分子量(Mw)が1100〜3000のウレタンアクリレート樹脂(C)と、光重合性モノマー(D)とを、不揮発分の質量比(C/D)が10/90〜40/60となる配合で含み、塗膜は活性エネルギー線により硬化することで膜化するクリアー塗料である。
【0026】
また、本発明のクリアー塗料は、蒸発速度60以上の有機溶剤を不揮発分基準で25質量%以下の割合で含むことができる。
【0027】
クリアー塗料に含まれる、ウレタンアクリレート樹脂(C)と光重合性モノマー(D)との配合割合は、不揮発分の質量比(C/D)で、10/90〜40/60であることがクリヤー塗料自身の硬化性、クリヤー塗膜の耐薬品性、膜強度、肉持ち感および耐候性を確保する上で必要であり、15/85〜35/65であることがより好ましい。
【0028】
ウレタンアクリレート樹脂(C)は、1分子中に光重合性官能基が2.5個以上であることが、それ自身の硬化性と着色ベース塗膜との密着性を確保する上で必要であり、3個以上であることがより好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が1100〜3000であることが適性塗料粘度および塗膜強度を確保する上で必要であり、1500〜2500であることがより好ましい。
【0029】
さらに、ウレタンアクリレート樹脂(C)は、メタ型を含むものであり、前述の条件を備える限り、特に制限はなく、例えば、i)分子内に2個以上のイソシアナート基を持つ化合物に、分子内に1個以上の水酸基と1個以上の二重結合基を持つ化合物とを当量反応させて得られる化合物、ii)多価アルコールと1塩基酸および/または多塩基酸および/またはその酸無水物との縮合物に、分子内に2個以上のイソシアナート基を持つ化合物を反応させたのち、さらに分子内に1個以上の水酸基と1個以上の二重結合基を持つ化合物を反応させて得られる化合物、iii)多価アルコールに、分子内に2個以上のイソシアナート基を持つ化合物を反応させたのち、さらに分子内に1個以上の水酸基と1個以上の二重結合基を持つ化合物を反応させて得られる化合物、等が挙げられる。前記i)〜iii)において、分子内に2個以上のイソシアナート基を持つ化合物としては、芳香族イソシアナート化合物以外のものが望ましい。また、前記i)〜iii)において、分子内に1個以上の水酸基と1個以上の二重結合基を持つ化合物としては、例えば、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等や、市販品では、プラクセルF(M)Aシリーズ(ダイセル化学社の商品名)等が挙げられる。また、前記ii)〜iii)において、多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリカーボネートジオール、ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールプロパン等や、市販品では、プラクセルジオールシリーズ(ダイセル化学社の商品名)、プラクセルトリオールシリーズ(ダイセル化学社の商品名)等が挙げられる。
【0030】
クリヤー塗料は、必要に応じ、上記ウレタンアクリレート樹脂(C)以外の樹脂、例えば、アクリル主鎖系、ポリエステル主鎖系、エポキシ主鎖系、ポリエーテル主鎖系のポリアクリレート樹脂等の光硬化性樹脂を含むことができる。
【0031】
反応性希釈剤として用いられる光重合性モノマー(D)としては、特に制限はなく、例えば、着色ベース塗料の部分で説明したモノマー類、すなわち、(メタ)アクリル酸、およびこれらのエステル化物(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、n−ブチルエステル、i−ブチルエステル、t−ブチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、ラウリルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、イソボロニルエステル、2−ヒドロキシエチルエステル、2−ヒドロキシプロピルエステル、2−ヒドロキシブチルエステル、4−ヒドロキシブチルエステル、(β−メチル)グリシジルエステル、ポリエチレングルコール等多価アルコールとのモノエステル等);(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有アクリルモノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物;等が挙げられる。
他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、N−ビニルピロリドン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられるほか、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコールなどのジオールのモノあるいはジ(メタ)アクリレート、グリセリン、トリメチロールエタンやトリメチロールプロパン等のトリオールのジあるいはトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリあるいはテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのテトラ、ペンタあるいはヘキサ(メタ)アクリレート等も挙げられる。
【0032】
クリヤー塗料は、光重合性を確保するために、光重合開始剤を含む。光重合開始剤の含有率は、クリヤー塗料中の樹脂分(光重合性モノマーを含む)に対し、1〜15質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、活性エネルギー線による硬化が不充分となり、耐侯性や基材への密着性が低下する恐れがあり、他方、15質量%を超えると、過剰な光重合開始剤が残存して、耐侯性が低下したり塗膜を変色させたりする要因となる恐れがある。光重合開始剤の種類としては、特に制限はなく、一般に用いられる光重合開始剤が本発明でも用いられるが、具体例を挙げれば、以下のとおりである。
ベンゾイン系:ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等。
【0033】
ベンゾフェノン系:ベンゾフェノン、ベンゾフェノンメチルエーテル、メチルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン等。
アントラキノン系:2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン等。
ケトン系:2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパン、1−〔4−(4−ベンゾイルフェニルサルファニル)フェニル〕―2−メチル−2(4−メチルフェニルサルファ)プロパン−1−オン等。
【0034】
ホスフィン系:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルフェニルホスフィンオキサイド等。
その他:フェニルグリオキシリック酸メチルエステル、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等。
なお、紫外線吸収剤の存在下での硬化の場合は、光重合開始剤として、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等350nm以上の波長範囲に最大吸収波長を持つ光重合開始剤とベンゾフェノン等の水素引き抜き型光重合開始剤とを併用することが好ましい。
【0035】
クリヤー塗料は、活性エネルギーによる硬化性を付与するために、紫外線吸収剤を含む。紫外線吸収剤の含有率は、クリヤー塗料中の樹脂分に対し、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。0.1質量%未満であると、耐候性が不充分となる恐れがあり、他方、10質量%を超えると、活性エネルギー線による硬化が著しく阻害され、耐侯性や基材への密着性が低下する恐れがある。紫外線吸収剤の種類としては、特に制限はなく、一般に用いられる紫外線吸収剤が本発明でも用いられるが、具体例を挙げれば、以下のとおりである。
トリアジン系:2−[4−[(2−ヒドロキシー3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシー3−トリデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシー4−イソーオクチロキシフェニル)−S−トリアジン等。
【0036】
トリアゾール系:2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α、αジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等
ベンゾフェノン系:2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシー4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシー4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン等。
サリシレート系:フェニルサリシレート、4−t−ブチルフェニルサリシレート、4−t−オクチルフェニルサリシレート等。
【0037】
クリヤー塗料は、光安定性を確保するために、光安定剤を含むことができる。光安定剤の含有率は、クリヤー塗料中の樹脂分に対し、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。光安定剤の種類としては、特に制限はなく、一般に用いられる光安定剤が本発明でも用いられるが、具体例を挙げれば、以下のとおりである。
ヒンダードアミン系:ビス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(N−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート等。
シアノアクリレート系:エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート等。
【0038】
クリヤー塗料は、スプレー適正を確保するために、必要であれば、前記の光重合性モノマー(D)のほかに有機溶剤を添加することもできる。このとき、クリヤー塗料の回収再使用を考えると有機溶剤の使用は少ないのがよい。また、クリヤー塗膜形成の時間短縮のためには蒸発速度の速い有機溶剤であることが望ましい。具体的には、酢酸n−ブチルエステルの蒸発速度(質量)を100としたときの相対的蒸発速度60以上の有機溶剤を不揮発分基準で25質量%以下の割合で用いるのが好ましい。このような有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール(370)、イソプロピルアルコール(205)、エチルアルコール(203)、n−プロピルアルコール(130)、2−ブチルアルコール(115)、i−ブチルアルコール(83)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(66)、n−ヘキサン(1000)、シクロヘキサン(720)、トルエン(195)、エチルシクロヘキサン(145)、キシレン(68)、アセトン(720)、メチルエチルケトン(465)、メチルイソブチルケトン(160)、酢酸エチルエステル(525)、酢酸イソプロピルエステル(435)、酢酸2−ブチルエステル(180)、酢酸n−ブチルエステル(100)、酢酸2−アミルエステル(87)等を挙げることができる。なお、上記溶剤の丸括弧内の数字は、蒸発速度を表す。
【0039】
クリヤー塗料には、必要に応じて、黄変防止剤、消泡剤、増粘剤、帯電防止剤、防曇剤、レベリング剤、着色顔料、体質顔料、染料等を適宜含有させることもできる。
【0040】
[基材]
基材は、分子中にヘテロ原子を含まない無極性樹脂よりなる。無極性樹脂としては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂やポリスチレン樹脂等が挙げられ、前記着色ベース塗料の付着性がよいポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0041】
[複層塗膜形成方法]
本発明の複層塗膜形成方法は、無極性樹脂よりなる基材上に、前記の着色ベース塗料を塗装してなる着色ベース塗膜と前記のクリヤー塗料を塗装してなるクリヤー塗膜とを積層形成する複層塗膜形成法であって、
着色ベース塗料を、基材上に塗装し、塗膜中の不揮発分が70〜100質量%となるよう乾燥し、
塗着粘度が15〜50mPa・sであるクリヤー塗料を、着色ベース塗膜上に塗装し、
酸素濃度が5質量%以下の雰囲気下で活性エネルギー線を照射して、クリヤー塗膜の硬化を行うことを特徴とする方法である。
【0042】
また、本発明の複層塗膜形成方法は、クリヤー塗料の塗装時の塗料温度を20〜65℃にすることが好ましい。
【0043】
本発明の複層塗膜形成方法によれば、外観(鮮映性)の低下を防ぐとともに耐溶剤性、密着性、硬度、塗膜強度、耐候性や耐薬品性を高め、塗装工程の時間短縮を可能とさせ、かつ、必要に応じ、クリヤー塗料の回収をして塗料の無駄をも生じさせないようにできる。
【0044】
着色ベース塗料およびクリヤー塗料を塗装する方法としては、特に制限はなく、例えば、エアースプレー塗装、エアーレススプレー塗装、浸漬塗装、シャワーコート塗装、ロールコーター塗装、回転ベル塗装等の公知の塗装方法を採用すればよい。なお、スプレー塗装や回転ベル塗装の場合は静電塗装であってもよい。
【0045】
また、着色ベース塗料又はクリヤー塗料の塗装は、1回だけでなく複数回行ってもよい。複数回塗装の場合には、塗装回毎に、同じ塗装方法を用いてもよいし、異なる塗装方法を用いてもよい、また、同一の塗料を用いてもよいし、異なる塗料を用いてもよい。複数回塗装を行うことにより、着色ベース塗膜又はクリヤー塗膜の複層化が図れる。
【0046】
クリヤー塗料による塗装を、着色ベース塗膜中の不揮発分が70〜100質量%となった段階で行うことは、着色ベース塗膜とクリヤー塗膜との界面制御性(鮮映性の低下防止)を確保し、着色ベース塗膜の凝集破壊や層間剥離を防ぐ上で必要なことであり、着色ベース塗膜中の不揮発分が80〜100質量%となった段階で行うことがより好ましい。なお、着色ベース塗料を複数回塗装して、着色ベース塗膜を複層化する場合には、最上層の着色ベース塗膜中の不揮発分が上記範囲になった段階で行う。
【0047】
着色ベース塗膜中の不揮発分が70〜100質量%とするための条件は、塗料に使用するスプレーシンナーの設計、塗装工場の乾燥ブース条件(熱風温度、風速、ラインスピード等)、その他についての事前テストで設定することができる。
【0048】
クリヤー塗料による塗装を、クリヤー塗料の塗着粘度が15〜50mPa・sとなるようにして行う(その際、必要に応じ、50mPa・sを超えるものは65℃以下の温度での加温により行う)ことは、着色ベース塗膜とクリヤー塗膜との界面制御性(鮮映性の低下防止)を確保しつつクリヤー塗料の垂れを防止する上で必要なことであり、20〜40mPa・sとなるようにして行うことがより好ましい。
ところで、クリヤー塗料の塗着粘度を前記の適性範囲に調整するための最も簡便な方法は、先にも述べた、クリヤー塗料の回収再使用を考えると、光重合性モノマー量で塗着粘度を調整することであるが、クリヤー塗料の硬化性、塗膜物性を確保する上で、光重合性モノマーの添加量には上限がある。そこで、クリヤー塗料の加温のみにより塗着粘度の適正化を図るか、または、光重合性モノマーの添加量は必要最少量に止め、クリヤー塗料の加温によることとの併用で塗着粘度の適正化を図ることが有効である。
【0049】
このとき、クリヤー塗料の熱安定性及び作業性を考えると、クリヤー塗料の塗装時の塗料温度は20〜65℃とすることが好ましく、35〜60℃とすることがより好ましい。
【0050】
活性エネルギー線による硬化を、酸素濃度が5質量%以下の雰囲気下で行うことは、外観品質、すなわち、着色ベース塗膜とクリヤー塗膜との界面制御性(鮮映性の低下防止)と、硬化の均一性、塗膜強度、塗膜と基材との密着性、耐候性および耐薬品性を確保する上で必要なことであり、酸素濃度が2質量%以下の雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0051】
活性エネルギー線を照射する方法は、特に制限されず、通常の方法によればよい。例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を光源として用い紫外線を照射する方法が挙げられる。なお、本発明において、活性エネルギー線とは、紫外線に限定されるものではなく、例えば、可視光線、電子線等であってもよい。活性エネルギー線として紫外線を照射する場合の積算光量は、500〜5000mJ/cmであることが好ましく、1500〜4000mJ/cmであることがより好ましい。
【0052】
着色ベース塗膜の膜厚(硬化後の厚み)は、特に限定する訳ではないが、8〜30μmとすることが好ましく、10〜20μmとすることがより好ましい。
【0053】
クリヤー塗膜の膜厚(硬化後の膜厚)は、特に限定する訳ではないが、10〜50μmとすることが好ましく、20〜40μmとすることがより好ましい。クリヤー塗膜の膜厚が10μm未満であると、鮮映性、着色ベース塗膜との層間密着性が不充分になる恐れがあり、他方、50μmを超えると、活性エネルギー線が着色ベース塗膜に接する側まで充分に届きにくくなるため、着色ベース塗膜に接する部分の架橋密度が低くなり、耐侯性が低下したり、着色ベース塗膜の凝集破壊を生ずる恐れがある。
【0054】
本発明の複層塗膜形成方法によれば、短時間で、高外観品質(鮮映性)、かつ、耐溶剤性、密着性、硬度、塗膜強度、耐候性や耐薬品性といった外装部品に要求される諸品質に優れた複層塗膜を得ることができる。
【0055】
本発明の複層塗膜形成方法は、例えば、以下のように行うことができる。脱脂洗浄した基材に対して乾燥後の膜厚が8〜30μmとなるように着色ベース塗料を塗装する。そして、高温(例えば、80℃)で強制乾燥したのち、50℃以下になるまで冷却する。次いで、クリヤー塗料の塗着粘度が15〜50mPa・sとなるように塗装時の塗料温度を20〜65℃の範囲で調整したクリヤー塗料を、硬化後の膜厚が10〜50μmとなるよう、塗装する。次いで、高圧水銀灯やメタルハライドランプ等のランプを用い、5質量%以下の酸素雰囲気下で、紫外線光量500〜5000mJ/cmの紫外線を照射することにより塗装塗膜を硬化させて、着色ベース塗膜とクリヤー塗膜からなる複層塗膜を形成する。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、特に断りのない限り、「質量部」を単に「部」と、「質量%」を単に「%」と記すものとする。
以下の実施例・比較例に用いた着色ベース塗料とクリヤー塗料を構成する樹脂として、表1〜3に記載するものを使用した。
【0057】
【表1】

【0058】
<アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂の合成例>
アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂A1−1は、表1に示した配合により合成を行った。
具体的には、攪拌機、温度計、還流管、滴下ロート、窒素導入管及びサーモスタット付き加熱・冷却装置を備えた反応容器に、酸無水物変性塩素化ポリオレフィン樹脂(スーパークロン822:不揮発分含有率20%、日本製紙社の商品名)100部を仕込み、攪拌しながら、内部温度を110℃に昇温した。
内部溶液温度が110℃になってから、メチルメタクリレート67.2部、メタクリル酸0.8部、n−ブチルメタクリレート12部からなる単量体混合物と、プロピレングリコールモノメチルエーテル4部、トルエン12部、酢酸n−ブチル5部、パーオキサイド系重合開始剤であるt−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート2.2部からなる重合開始剤溶液とを、それぞれ別々の滴下ロートに仕込み、反応容器内を110℃に維持し、攪拌しながら3時間かけて滴下した。
その後、さらにプロピレングリコールモノメチルエーテル1部、トルエン2部、酢酸n−ブチル1部、t−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部からなる後重合開始剤溶液を、反応容器内を110℃に維持し、攪拌しながら2時間かけて滴下し、グラフト重合反応を終了した。
続いて、内部温度を60℃まで下げてから、プロピレングリコールモノメチルエーテル8部、トルエン17部、酢酸n−ブチル8部を順に反応容器内に注入し、樹脂溶液を室温に下げ合成を完了した。
表1に示すように、下記に述べる方法で求めた、この合成物の固形分率は42%であり、アクリル部の共重合ポリマーのTgは95℃であった。
なお、アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂A1−2、A1−3についても、表1に示した配合によりA1−1と同じ方法を用いて合成を行った。また、これらの固形分率及びアクリル部の共重合ポリマーのTgを測定した。
【0059】
<樹脂溶液の固形分率>
樹脂溶液の固形分率(R)をJIS−K5601−1−2に準じて、樹脂溶液を105℃で3時間の加熱乾燥した後の残存固形分量(a)と乾燥前の樹脂溶液量(b)とから下記の式により求めた。
【0060】
【数1】

【0061】
<アクリル部のTg>
アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂の側鎖であるアクリル部の共重合ポリマーのTg(ガラス転移温度)については、表1に示した配合のアクリル単量体のみの重合(酸無水物変性塩素化ポリオレフィンを含まない)を実施し、その樹脂溶液から溶剤揮発分を減圧留去した固形のアクリル共重合樹脂を試料として用いた。
上記試料のガラス転移温度の測定には、示差走査熱量計(DSC)(熱分析装置SSC/5200H:セイコー電子社の商品名)を用い、以下に示す操作を行うことにより測定し、ガラス転移温度を求めた。
一工程:20℃→100℃(昇温速度 10℃/min)
二工程:100℃→50℃(降温速度 10℃/min)
三工程:−50℃→100℃(昇温速度 10℃/min)
で測定し、三工程目の昇温時よりTgを求めた。
【0062】
【表2】

【0063】
<OH基含有アクリル樹脂の合成例>
OH基含有アクリル樹脂A2−1は、表2に示した配合により合成を行った。
具体的には、攪拌機、温度計、還流冷却装置の備わった通常のアクリル樹脂反応槽に、トルエン40部及びn−ブタノール10部を仕込み、攪拌しながら、内部温度を105℃に昇温した。
内部溶液温度が105℃になってから、メチルメタクリレート18部、エチルアクリレート47部、プラクセルFM−1(ダイセル化学工業社の商品名)15部、N−ビニルピロリドン20部、トルエン18部からなる単量体混合溶液と、キシロール2部、t−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート0.7部からなる重合開始剤溶液とを、反応容器内を105℃に維持し、攪拌しながら並行して3時間かけ滴下した。
さらに、105℃で30分間保持した後、トルエン2部、t−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部からなる後重合開始剤溶液を30分間で滴下した。その後、105℃に保ったまま2時間攪拌を続けた後、冷却し、このものにトルエン28部を加え希釈した。
表2に示すように、この合成物の固形分率は50%であり、下記に述べる方法で求めたOH価は35mgKOH/gであった。
なお、OH基含有アクリル樹脂A2−2、A2−3についても、表2に示した配合によりA2−1と同じ方法を用いて合成を行った。また、これらの固形分率及びOH価を測定した。
【0064】
<OH価>
OH基含有アクリル樹脂溶液のOH価を求めるに際し、ビュウレット、ホールピペット、エアーコンデンサー付き三角フラスコ、及び98±2℃に設定可能な定温浴槽を準備した。
また、測定試薬として、ピリジン300mlに無水フタル酸42gを完全溶解させ、70℃で2時間熟成し、褐色ビンで保存している無水フタル酸のピリジン溶液と、ピリジンと、1/2N水酸化ナトリウム溶液と、フェノールフタレインのピリジン溶液とを用意した。
測定は、先ず、10gの樹脂溶液試料を上記三角フラスコに1mg単位まで正確に量り採り、これに無水フタル酸のピリジン溶液25mlをホールピペットを用いて正確に加えた後、上記フラスコを90℃±2℃の定温浴槽につけ、時々緩やかに攪拌しながら2時間加熱した。
その後、上記フラスコを室温冷却してからエアーコンデンサーを取り外し、このエアーコンデンサーをピリジンで洗浄し、この洗液も加えた上記フラスコに1/2N水酸化ナトリウム溶液50mlを正確に加えた。
次に、上記フラスコに指示薬としてフェノールフタレインのピリジン溶液を10滴加えた後、1/2N水酸化ナトリウム溶液で滴定した。なお、滴定の終点としては、15秒間紅色を保つ点とした。
また、樹脂溶液を用いないで、上記と同一の条件で空試験を行った。
以上の試験結果よりOH価(mgKOH/g)を下記の式で求めた。
【0065】
【数2】


A:試料の滴定に要した1/2N水酸化ナトリウム溶液の量(ml)
B:空試験の滴定に要した1/2N水酸化ナトリウム溶液の量(ml)
f:1/2N水酸化ナトリウム溶液のファクター
S:試料量(g)
【0066】
【表3】

【0067】
<ウレタンアクリレート樹脂UA−1の合成例>
攪拌羽根、温度計、温度制御機及び冷却管を備えたフラスコに、酢酸エチルエステル498部とトリメチロールエタン240部(2モル)及びジブチル錫ジラウレート2部を仕込み、60℃に昇温。次いで、ヘキサメチレンジイソシアネート1008部(6モル)を、フラスコ内の温度を60℃に保ちながら60分かけて滴下し、さらに60分同温度に保温した。空気を吹き込みながら、2−ヒドロキシアクリレート730.8部(6.3モル)及びハイドロキノン2部を60分かけて滴下し、さらに60分同温度に保温した。残存イソシアネート基がないことを確認した後、温度50℃で減圧下、酢酸エチルエステルを除去することによって、不揮発分99%、重量平均分子量980、光重合成官能基数3のウレタンアクリレート樹脂UA−1を得た。
【0068】
表1、2に記載の樹脂を用いて、表4〜7の配合で、以下の調整方法により、着色ベース塗料b−1〜b−13、s−1、w−1及びp−1を調整するとともに、表3に記載の原料を用いて、表9、10の配合で、クリヤー塗料UV−1〜UV−9を調整した。
【0069】
<着色ベース塗料の調整例>
攪拌機付き容器にアクリルグラフト塩素化ポリプロピレン樹脂(A1)とOH基含有アクリル樹脂(A2)とトルエン、そして、必要に応じイソプロピルアルコール、塩素化ポリプロピレン樹脂(B1)も仕込み、攪拌下、黒顔料ペースト、アルミ顔料、白顔料ペースト及びマイカ顔料のいずれかの顔料と、トルエンを順次添加し、攪拌下で30分間保持して、着色ベース塗料を得た。なお、顔料ペーストは、表11、12の配合で原料を予備混合した後、サンドグラインダーミルで30分間分散させることで調製した。
【0070】
<クリヤー塗料の調製例>
攪拌機付き容器に光重合成モノマー(D)を仕込み、攪拌下でセルロースアセテートブチレート樹脂を少しずつ添加して、30分間保持した。その後、攪拌下で、光重合開始剤、紫外線吸収剤、光安定剤、表面調整剤およびウレタンアクリレート(C)と、必要に応じて酢酸ブチルエステルを添加し、30分間保持して、クリヤー塗料を得た。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
【表7】

【0075】
【表8】

【0076】
【表9】

【0077】
【表10】

【0078】
【表11】

【0079】
【表12】

【0080】
〔実施例1〜13、比較例1〜13、参考例1〜4〕
70mm×100mmで厚み3mmのPP樹脂板を基材とし、その表面をイソプロピルアルコール洗浄したあと、上で準備しておいた着色ベース塗料を用い、スプレー方式で、基材表面に乾燥膜厚が15μmとなるよう着色ベース塗装を行い、70℃で熱風乾燥したのち、上で準備しておいたクリヤー塗料を用い、スプレー方式で、着色ベース塗膜の上に硬化膜厚が30μmとなるようクリヤー塗装を行い、2000mJ/cmの紫外線照射によって複層塗膜の同時硬化を行った。
得られた結果を表13に示す。
なお、クリヤー塗料スプレー時の着色ベース塗膜中の不揮発分、クリヤー塗料の塗装時の塗料温度と塗着粘度、及び、紫外線照射による複層塗膜同時硬化時の雰囲気(酸素濃度)は、表13に記載されている。
紫外線照射は、フュージョンUVシステムズ社のDバルブ(メタルハライドランプ)(MH)とHバルブ(高圧水銀灯)(Hg)を使用して行った。MH−Hg併用時の紫外線積算光量、各1000mJ/cm、合計2000mJ/cmであった。このとき使用した光量計はHIT社の商品名「POWER PUCK」である。
【0081】
【表13】

【0082】
実施例及び比較例における測定項目と塗膜性能の評価は、下記方法で行った。
【0083】
<着色ベース塗膜中の不揮発分>
試験対象となる着色ベース塗料を用いて、アルミニウム箔(質量:X)上に所定の乾燥膜厚(以下の実施例・比較例では15μm)となるよう塗装し、70℃の乾燥温度で表13に示す乾燥時間保持した後、揮発成分が逃げないよう、直ちに、アルミニウム箔を折たたんで質量(Y)を測定し、ついで、折りたたんだアルミニウム箔を広げて、JIS−K5601−1−2に準じて105℃で3時間加熱した後の質量(Z)を測定し、下式に従い求めた値(W)を当該着色ベース塗料中の不揮発分とする。
【0084】
【数3】

【0085】
<クリヤー塗料の塗着粘度>
試験対象となる各クリヤ塗料において、表13に示す温度で、ブリキ板上に乾燥膜厚30μmとなるようにクリヤー塗装し、2分間放置後に直ちに掻きとって、R型粘度計(東機産業社の商品名、RE550L型)を用い、その時のクリヤー塗料温度と同温度での粘度を測定して、その値を当該クリヤー塗料の当該温度での塗着粘度とした。
【0086】
<耐溶剤性>
アセトンを含ませたネル布で試験片の表面を30往復こすり、塗膜表面の状態を目視で観察し、下記の評価をした。
○:異常なし
△:塗膜表面に艶引けが認められた
×:塗膜表面が溶解した
【0087】
<塗膜外観>
鮮明度光沢計(財団法人日本色彩研究所の商品名、PGD−Iv型)で塗膜表面の鮮明度を測定し、以下の評価をした。
○:PGD値 0.4以上
△:PGD値 0.3−0.2
×:PGD値 0.1以下
【0088】
<密着性>
得られた複層塗膜に1mm間隔で碁盤目状に基材に達するまでの切込みを入れて100個の升目を作成し、その上に接着テープを貼り付けて急激に剥がした時の残存する升目の数を数えて下記の評価をした。
○:100/100
△:99−90/100
×:90未満/100
【0089】
<塗膜硬度(鉛筆硬度)>
芯先端を平らにした鉛筆(三菱鉛筆社の商品名「ユニ」)を硬度の低いものから高いものに順次取り替えつつ、それぞれ、45度の角度で芯先端を塗膜表面に当てて表面を引き掻く動作をし、基材に達する掻き傷が得られた時の鉛筆硬度により、下記の評価をした。
○:F以上
△:HB−B
×:2B以下
【0090】
<耐屈曲性>
耐屈曲性は、JIS−K5601−5−1に基づく「円筒形マンドレル法」により行った。
幅25mm、長さ150mm、厚さ3mmのポリプロピレン樹脂の板を用い、イソプロピルアルコールで洗浄後、実施例等の着色ベース塗膜と同じ乾燥膜厚である15μmになるよう、各着色ベース塗料を塗装し、70℃の雰囲気で熱風乾燥を行って試験片を作成した。
上記試験片を室温(23±2℃)に3時間保持後、直ちに図1に示すように、マンドレルに沿うよう折り曲げ、塗膜のワレの有無を目視で判定した。なお、本評価には径15mmのマンドレルを使用した。また、試験片の板厚は、3±0.2mmになるようにし、部品から切り出した試験片が規定の板厚より厚い場合には、紙やすり等で磨き、薄い場合にはマンドレルと試験片の隙間に素材を挟んで規定板厚にした。
○:ワレなし
×:ワレあり
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明にかかる複層塗膜形成方法は、無極性樹脂基材に外観品質の高い複層塗膜を得させる方法であり、例えば、自動車外装用のプラスチック材料部品(フロントグリル、スポイラー、ホイールキャップ、ドアミラー、ドアハンドル、ガーニシュなど)その他の屋外で太陽光に曝される状態で使用される諸製品のほか、ラジカセ筐体などの弱電ハウジング、パソコン筐体、携帯電話筐体その他の諸製品の塗膜形成に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】耐屈曲性試験の模式図である。
【符号の説明】
【0093】
10 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル成分のTgが60℃以上のアクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂(A1)と、OH基含有アクリル樹脂(A2)とを不揮発分の質量比(A1/A2)が70/30〜50/50となる配合で含み、塗膜は乾燥により膜化する着色ベース塗料。
【請求項2】
前記アクリルグラフト塩素化ポリオレフィン樹脂(A1)と前記OH基含有アクリル樹脂(A2)と塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)との不揮発分の合計質量(A1+A2+B1)に対し、前記塩素化ポリオレフィン樹脂(B1)の不揮発分を3〜14質量%含む請求項1記載の着色ベース塗料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の着色ベース塗料を塗装してなる着色ベース塗膜上に塗装するクリヤー塗料であって、
光重合性官能基が1分子中に2.5個以上で重量平均分子量(Mw)が1100〜3000のウレタンアクリレート樹脂(C)と、光重合性モノマー(D)とを、不揮発分の質量比(C/D)が10/90〜40/60となる配合で含み、塗膜は活性エネルギー線により硬化することで膜化するクリアー塗料。
【請求項4】
蒸発速度60以上の有機溶剤を不揮発分基準で25質量%以下の割合で含む請求項3記載のクリヤー塗料。
【請求項5】
無極性樹脂よりなる基材上に請求項1又は2に記載の着色ベース塗料を塗装してなる着色ベース塗膜と請求項3又は4に記載のクリヤー塗料を塗装してなるクリヤー塗膜とを積層形成する複層塗膜形成法であって、
前記着色ベース塗料を、前記基材上に塗装し、塗膜中の不揮発分が70〜100質量%となるよう乾燥し、
塗着粘度が15〜50mPa・sである前記クリヤー塗料を前記着色ベース塗膜上に塗装し、
酸素濃度が5質量%以下の雰囲気下で活性エネルギー線を照射して前記クリヤー塗膜の硬化を行うことを特徴とする複層塗膜形成法。
【請求項6】
前記クリヤー塗料の塗装時の塗料温度を20〜65℃にする請求項5記載の複層塗膜形成法。
【請求項7】
無極性樹脂よりなる基材と、前記基材上に請求項1又は2に記載の着色ベース塗料を塗装し乾燥により膜化した着色ベース塗膜と、前記着色ベース塗膜上に請求項3又は4に記載のクリヤー塗料を塗装し活性エネルギー線により膜化したクリヤー塗膜とを有する塗装樹脂製品。
【請求項8】
前記無極性樹脂が、ポリオレフィン樹脂である請求項7記載の塗装樹脂製品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−156464(P2008−156464A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346467(P2006−346467)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(593135125)日本ビー・ケミカル株式会社 (52)
【Fターム(参考)】