無段変速機搭載車の制御装置
【課題】停車時、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間の短縮化を図ることができると共に、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、再発進加速性を向上させること。
【解決手段】無段変速機搭載車の制御装置は、エンジン1と、ベルト式無段変速機構4と、前進クラッチ31と、停車判定手段(図2のステップS1)と、停車時ロー変速制御手段(図2)と、を備える。停車時ロー変速制御手段(図2)は、前進クラッチ31が締結されている動力伝達状態において、停車判定手段(ステップS1)により停車状態であると判定され、且つ、ベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を開始する。
【解決手段】無段変速機搭載車の制御装置は、エンジン1と、ベルト式無段変速機構4と、前進クラッチ31と、停車判定手段(図2のステップS1)と、停車時ロー変速制御手段(図2)と、を備える。停車時ロー変速制御手段(図2)は、前進クラッチ31が締結されている動力伝達状態において、停車判定手段(ステップS1)により停車状態であると判定され、且つ、ベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を開始する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最ロー領域から外れたプーリー比による停車時、プーリー比をロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を行う無段変速機搭載車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機搭載車の場合には、例えば、走行→減速→停車→再発進を繰り返すとき、ドライバー操作や路面状況等により、プーリー比が最ロー状態に戻らないで停車してしまうことがある。このように最ロー状態以外のプーリー比で停車したとき、そのままのプーリー比で再発進しようとすると、発進トルクが不足することにより、発進加速性が劣ってしまう。
【0003】
そこで、従来、停車からの再発進に先立って最ロー側のプーリー比を得ると共にプーリーとベルトの滑り防止を図ることを目的とし、最ロー領域から外れたプーリー比による停車時、プーリー比をロー側に向けて強制的に変速する停車時ロー変速制御を行う無段変速機搭載車の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来装置は、
(a) ベルト式無段変速機構のプーリー比が最ロー状態ではないこと。
(b) ベルト式無段変速機構の回転要素が停止している状態であること。
(c) ベルト式無段変速機構が動力を伝達していない状態であること。
という、プーリー比条件(a)、回転要素停止条件(b)、ニュートラル条件(c)の3条件が全て成立すると、ベルト式無段変速機機構のプーリー比を強制的にロー側へ変速する停車時ロー変速制御を開始するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−181180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来装置にあっては、停車時ロー変速制御の開始条件に、ベルト式無段変速機構が動力を伝達していない状態であるというニュートラル条件(c)を含んでいる。このため、Dレンジを選択したままでの停車時には、締結されている前進クラッチを開放することによりニュートラル条件(c)が成立することになる。したがって、従来の停車時ロー変速制御は、下記に述べるデメリットがある。
(1) Dレンジのままで停車する場合、条件(a),(b)が成立しても、停車時ロー変速制御を開始するには、前進クラッチの開放制御を開始し、その後、ニュートラル条件(c)が成立するまでの時間を待つ必要があり、停車時ロー変速制御の開始が遅い。
(2) 停車時ロー変速制御が開始されても、ベルト式無段変速機構が動力を伝達していない状態であり、プライマリプーリーとベルトの間には静摩擦力(>動摩擦力)が作用している。このため、ベルトをプーリー径方向に移動させる(最ロー側に変速させる)には、大きな静摩擦力を超える強制力が必要であり、最ローへの変速進行速度が遅い。
(3) 停車時ロー変速制御中に再発進要求(例えば、アクセル踏み込み操作)があった場合、再発進のために動力伝達を開始するには、開放されている前進クラッチの締結を待つ必要があり、動力伝達の復帰応答が遅い。
【0007】
このように、停車時ロー変速制御の開始条件にニュートラル条件を含むと、Dレンジのままで停車したとき、停車からの制御開始するまでに待ち時間を要するし、且つ、制御開始してから最ロー状態になるまでに長い変速時間を要する。このため、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間が長くなる、という問題があった。
【0008】
さらに、停車時ロー変速制御の開始条件にニュートラル条件を含むと、停車からの制御開始応答が遅く、且つ、再発進要求に対する動力伝達の復帰応答が遅くなる。このため、Dレンジのままで停車した後、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合には、再発進要求から発進駆動力が得られるまでにタイムラグが発生し、再発進加速性に劣ってしまう、という問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、停車時、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間の短縮化を図ることができると共に、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、再発進加速性を向上させることができる無段変速機搭載車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の無段変速機搭載車の制御装置は、駆動源と、無段変速機構と、摩擦締結要素と、停車判定手段と、停車時ロー変速制御手段と、を備える手段とした。
前記無段変速機構は、プライマリプーリーと、セカンダリプーリーと、前記プライマリプーリーと前記セカンダリプーリーとに巻き掛けられた動力伝達部材と、を有する。
前記摩擦締結要素は、前記駆動源から前記無段変速機構への駆動力伝達系に介装され、締結力制御により動力伝達状態が制御される。
前記停車判定手段は、車両が停車状態であるか否かを判定する。
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において、前記停車判定手段により停車状態であると判定され、且つ、前記無段変速機構のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を開始する。
【発明の効果】
【0011】
よって、停車時ロー変速制御手段では、摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において、停車状態であると判定され、且つ、無段変速機構のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御が開始される。
即ち、走行レンジのままで停車する場合、動力伝達状態であるため、停車条件とプーリー比条件の成立により停車時ロー変速制御が開始されるというように、停車からの制御開始応答が速い。停車時ロー変速制御において、駆動源からの動力伝達により微小に回転しているプライマリプーリーと停止状態の動力伝達部材の間には動摩擦力(<静摩擦力)が作用している。このため、小さな動摩擦力を超える力を与えるだけで動力伝達部材がプーリー径方向に移動するというように、最ロー側への変速速度が速い。停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、動力伝達状態が維持されているため、動力伝達の開始応答が速い。
このように、停車時ロー変速制御の開始条件に動力伝達条件を含むと、走行レンジのままで停車したとき、停車から制御開始までの待ち時間が短縮されるし、制御開始してから最ロー状態になるまでの変速時間が短縮される。
さらに、停車時ロー変速制御の開始条件に動力伝達条件を含むと、動力伝達状態で停車するとロー変速制御が応答良く開始されるし、再発進要求に対して動力伝達の開始応答が速い。このため、走行レンジのままで停車した後、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合には、再発進要求から発進駆動力が得られるまでのタイムラグが短縮される。
この結果、停車時、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間の短縮化を図ることができると共に、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、再発進加速性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車の駆動系と制御系を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図3】比較例の停車時ロー変速制御と本発明の停車時ロー変速制御の比較作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・車速・加減速度・目標プーリー比・実プーリー比の各特性を示すタイムチャートである。
【図4】実施例1のベルト式無段変速機構での停車時ロー変速動作メカニズムを示す説明図である。
【図5】実施例1においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図6】実施例1においてロー領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図7】実施例2のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図8】実施例2においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図9】実施例3のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図10】実施例3においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図11】実施例4のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図12】実施例4においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図13】実施例5のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図14】実施例5においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の無段変速機搭載車の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車(無段変速機搭載車の一例)の駆動系と制御系を示す全体システム図である。以下、図1に基づき全体システム構成を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1(駆動源)と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、ベルト式無段変速機構4(無段変速機構)と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
【0015】
前記エンジン1は、ドライバーのアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号によりエンジン回転数や燃料噴射量が制御可能であり、エンジン回転数制御(アイドル回転アップ制御)を行う回転数制御アクチュエータ10を有する。
【0016】
前記トルクコンバータ2は、トルク増大機能を有する流体伝動装置であり、トルク増大機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたタービンランナ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたポンプインペラ24と、ワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
【0017】
前記前後進切替機構3は、ベルト式無段変速機構4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31(摩擦締結要素)と、後退ブレーキ32と、を有する。前記ダブルピニオン式遊星歯車30は、サンギヤがトルクコンバータ出力軸21に連結され、キャリアが変速機入力軸40に連結される。前進クラッチ31は、Dレンジ選択時にクラッチ圧により締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のサンギヤとキャリアを直結する。前記後退ブレーキ32は、Rレンジ選択時にブレーキ油圧により締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のリングギヤをケースに固定する。
【0018】
前記ベルト式無段変速機構4は、ベルト接触径の変化により変速機入力軸40の入力回転数と変速機出力軸41の出力回転数の比であるプーリー比を無段階に変化させる無段変速機能を有する。このベルト式無段変速機構4は、プライマリプーリー42と、セカンダリプーリー43と、ベルト44(動力伝達部材)と、を有する。
【0019】
前記プライマリプーリー42は、プライマリ固定シーブ42aと、プライマリ可動シーブ42bと、により構成される。プライマリ固定シーブ42aには、固定シーブ軸42eが一体に形成され、プライマリ可動シーブ42bには、固定シーブ軸42eと同軸心配置で中空円筒状の可動シーブ軸42fが一体に形成される。そして、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧により、固定シーブ軸42eに対して可動シーブ軸42fおよびプライマリ可動シーブ42bが軸方向に摺動する。
【0020】
前記セカンダリプーリー43は、セカンダリ固定シーブ43aと、セカンダリ可動シーブ43bと、により構成される。セカンダリ固定シーブ43aには、固定シーブ軸43eが一体に形成され、セカンダリ可動シーブ43bには、固定シーブ軸43eと同軸心配置で中空円筒状の可動シーブ軸43fが一体に形成される。そして、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧により、固定シーブ軸43eに対して可動シーブ軸43fおよびセカンダリ可動シーブ43bが軸方向に摺動する。
【0021】
前記ベルト44は、プライマリプーリー42のV字形状をなす一対のプライマリシーブ面42c,42dと、セカンダリプーリー43のV字形状をなす一対のセカンダリシーブ面43c,43dと、に巻き掛けられている。このベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、2組の積層リングに対する挟み込みにより互いに連接して環状に設けられた多数のエレメントと、により構成される。
【0022】
前記終減速機構5は、ベルト式無段変速機構4の変速機出力軸41からの変速機出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、変速機出力軸41とアイドラ軸50と左右のドライブ軸51,51に介装され、減速機能を持つ第1ギヤ52と、第2ギヤ53と、第3ギヤ54と、第4ギヤ55と、差動機能を持つディファレンシャルギヤ56を有する。
【0023】
実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御系は、図1に示すように、両調圧方式による油圧制御ユニットである変速油圧コントロールユニット7と、電子制御ユニットであるCVTコントロールユニット8と、を備えている。
【0024】
前記変速油圧コントロールユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriと、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecと、を作り出すユニットである。この変速油圧コントロールユニット7は、オイルポンプ70と、レギュレータ弁71と、ライン圧ソレノイド72と、第1減圧弁73と、第1ソレノイド74と、第2減圧弁75と、第2ソレノイド76と、を備えている。
【0025】
前記レギュレータ弁71は、オイルポンプ70から吐出圧を元圧とし、ライン圧PLを調圧する弁である。このレギュレータ弁71は、ライン圧ソレノイド72を有し、オイルポンプ70から圧送された油の圧力を、CVTコントロールユニット8からの指令に応じて所定のライン圧PLに調圧し、ライン圧油路77に導く。このオイルポンプ70は、トルクコンバータ出力軸21からのエンジン駆動トルクを受けてポンプ駆動する。
【0026】
前記第1減圧弁73は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧とし、プライマリ圧室45に導くプライマリ圧Ppriを減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この第1減圧弁73は、CVTコントロールユニット8からの指示電流により動作する第1ソレノイド74を備える。
【0027】
前記第2減圧弁75は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧とし、セカンダリ圧室46に導くセカンダリ圧Psecを減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この第2減圧弁75は、CVTコントロールユニット8からの指示電流により動作する第2ソレノイド76を備える。
【0028】
前記CVTコントロールユニット8は、プーリー比変速制御やライン圧制御や前後進切替制御やロックアップ制御や停車時ロー変速制御、等を行うユニットである。このCVTコントロールユニット8は、プライマリ回転センサ80、セカンダリ回転センサ81、セカンダリ圧センサ82、油温センサ83、インヒビタースイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、車速センサ87、タービン回転センサ88等からのセンサ・スイッチ情報を入力する。なお、CVTコントロールユニット8は、エンジンコントロールユニット90からエンジン回転センサ91により取得されたエンジン回転数情報等の必要情報を入力し、エンジンコントロールユニット90へエンジン回転数制御指令(アイドル回転アップ制御指令)等を出力する。このCVTコントロールユニット8で行われる停車時ロー変速制御については、後で詳しく説明する。以下、プーリー比変速制御・ライン圧制御・前後進切替制御・ロックアップ制御の概略を説明する。
【0029】
前記プーリー比変速制御は、変速機入力回転数やアクセル開度等に応じて決められる目標プーリー比を達成するようにプライマリ圧室45へのプライマリ圧Ppriと、セカンダリ圧室46へのセカンダリ圧Psecを設定する。そして、設定したプライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecを得る指示電流を第1ソレノイド74と第2ソレノイド76に出力する制御である。
【0030】
前記ライン圧制御は、ベルト式無段変速ユニットの各油圧要素(ロックアップクラッチ20、前進クラッチ31、後退ブレーキ32、プライマリプーリー42、セカンダリプーリー43)での必要油圧のうち最大油圧を目標ライン圧として設定する。そして、設定した目標ライン圧を得る指示電流をライン圧ソレノイド72に出力する制御である。
【0031】
前記前後進切替制御は、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32を締結/開放する制御である。また、前記ロックアップ制御は、走行状況がロックアップ領域であるか否かの判断に応じてロックアップクラッチ20を締結/開放する制御である。
【0032】
図2は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図2の各ステップについて説明する。なお、このフローチャートは、前進クラッチ31の締結により動力伝達状態であるDレンジの選択時に処理される。
以下、停車時ロー変速制御で用いる「クラッチ半締結制御」とは、前進クラッチ31を締結状態として動力伝達するが、クラッチ締結トルクを入力トルクに対し滑りの無い完全締結状態よりも低くし、前進クラッチ31を経過する動力伝達量を規定する制御をいう。つまり、前進クラッチ31への入力トルクが所定の動力伝達量(=クラッチ締結トルク)を超える場合、動力伝達量超過分はクラッチ滑りにより吸収される。
【0033】
ステップS1では、Dレンジにて走行している車両が停止しているか否かの停車判定を行う。YES(停車判定)の場合はステップS2へ進み、NO(走行判定)の場合はステップS4へ進む(停車判定手段)。
ここで、停車判定は、車速VSP<所定値(車速の停車判定閾値)、且つ、アクセルオフ(アクセル足離し時)、且つ、ブレーキオン(ブレーキ操作時)の3つの条件成立により判定する。
【0034】
ステップS2では、ステップS1での停車判定に続き、停車判定時のベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域以外のハイプーリー比領域であるか否かのプーリー比ハイ停止判定を行う。YES(プーリー比<所定値:プーリー比ハイ停止判定)の場合はステップS3へ進み、NO(プーリー比≧所定値:プーリー比最ロー領域判定)の場合はステップS4へ進む。
ここで、ステップS2の所定値は、停車時ロー変速制御を実行する必要がない最ロープーリー比、あるいは、最ロープーリー比に近い値に設定される。つまり、停車判定時のベルト式無段変速機構4のプーリー比が、最ロー領域以外(プーリー比<所定値)の全てのプーリー比領域であるとハイプーリー比領域と判定される。
【0035】
ステップS3では、ステップS2でのプーリー比ハイ停止判定に続き、プーリー比ハイ停止判定後のベルト式無段変速機構4のプーリー比が所定値以上であるか否かのプーリー比ロー領域判定を行う。YES(プーリー比≧所定値:プーリー比ロー領域到達判定)の場合はステップS6へ進み、NO(プーリー比<所定値:プーリー比ロー領域未達判定)の場合はステップS5へ進む。
ここで、ステップS3の所定値は、前進クラッチ31が締結されている動力伝達状態においてベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力を超えるプーリー比閾値の値に設定される。
【0036】
ステップS4では、ステップS1での走行判定、あるいは、ステップS2でのプーリー比最ロー領域判定に続き、直前に停車時ロー変速制御(プーリーロー変速制御、エンジンアイドル回転アップ制御、クラッチ半締結制御)が実行されているときに停車時ロー変速中止制御が実行され、リターンへ進む。
この停車時ロー変速中止制御には、下記の3つの制御を有する。
ステップS4-1は、プーリーロー変速停止制御を行うステップであり、プーリーロー変速制御が実行されているとき、プーリーロー変速制御を停止し、通常のプーリー比変速制御に戻す。
ステップS4-2は、エンジンアイドル回転通常復帰制御を行うステップであり、エンジンアイドル回転アップ制御が実行されているとき、エンジンアイドル回転数のアップ分を低下させる制御によりエンジンアイドル回転数を通常回転数に復帰させる。
ステップS4-3は、クラッチ締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31のクラッチ締結油圧を低下させる半締結制御が実行されているとき、前進クラッチ31のクラッチ締結油圧を入力トルクに対して滑らない締結油圧状態に戻す。
なお、直前に停車時ロー変速制御が実行されていないときには、通常のプーリー比変速制御とエンジンアイドル回転数制御とクラッチ締結制御が維持される。
【0037】
ステップS5では、ステップS3でのプーリー比ロー領域未達判定に続き、停車時ロー変速制御(エンジンアイドル回転アップ制御、プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達する前の停車時ロー変速制御は、ロー変速制御とエンジン回転数制御との協調制御により行われ、下記の2つの制御を有する。
ステップS5-1は、エンジンアイドル回転アップ制御を行うステップであり、プーリーロー変速制御の変速進行速度を促進するエンジン回転数と通常のエンジンアイドル回転数の差をアップ分とし、エンジンアイドル回転数をアップ分だけ上昇させる。
ステップS5-2は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、セカンダリ圧Psecをライン圧PLとし、プライマリ圧Ppriをドレーン圧とすることで、ベルト式無段変速機構4のプーリー比をロー側に向けて変速する。
【0038】
ステップS6では、ステップS3でのプーリー比ロー領域到達判定に続き、停車時ロー変速制御(クラッチ半締結制御、エンジンアイドル回転アップ制御、プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達した後の停車時ロー変速制御は、ロー変速制御とエンジン回転数制御とクラッチ制御との協調制御により行われ、下記の3つの制御を有する。
ステップS6-1は、クラッチ半締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量までステップ的に低下させる。
ステップS6-2は、エンジンアイドル回転アップ制御を行うステップであり、ステップS5-1と同様である。
ステップS6-3は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、ステップS5-2と同様である。
【0039】
ここで、ステップS6には、ロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御中、プライマリプーリー42とベルト44との間で周方向スリップが生じるか否かを予測する周方向スリップ予測部(周方向スリップ予測手段)を有する。そして、周方向スリップが生じることが予測される場合、ステップS4へ進み、ロー側に向けての変速を中止するようにしている。なお、周方向スリップが生じるか否かは、プライマリプーリー42の回転速度の変化量から予測する。
【0040】
次に、作用を説明する。
実施例1の無段変速機搭載車の制御装置における作用を、「停車時ロー変速制御の比較作用」、「停車時ロー変速動作メカニズムの比較」、「停車時ロー変速制御の開始条件」、「ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用」、「ロー領域開始による停車時ロー変速制御作用」に分けて説明する。
【0041】
なお、以下の説明における「ベルトスリップ」については、「微小スリップ」と「周方向スリップ」という文言を区別して用いる。両者ともベルトの滑る方向は、プーリー回転に対して周方向という点で共通であるものの、スリップ量としては、微小スリップ<<<周方向スリップである。即ち、「微小スリップ」は、ベルトやプーリーに損傷を与えることのないスリップ量として用いる。これに対し、「周方向スリップ」は、ベルトやプーリーに損傷を与えるスリップ量として用いる。
【0042】
[停車時ロー変速制御の比較作用]
Dレンジを選択したままでの停車時において、プーリー比条件(a)と停車条件(b)が成立すると、締結されている前進クラッチを開放することによりニュートラル条件(c)を成立させ、3条件(a),(b),(c)が全て成立すると、ベルト式無段変速機機構のプーリー比を強制的にロー側へ変速する停車時ロー変速制御を開始するものを比較例とする。
【0043】
以下、比較例の停車時ロー変速制御と本発明の停車時ロー変速制御の比較作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図3のタイムチャートに基づいて説明する。
なお、図3において、時刻t0は走行中にアクセルをON→OFFとするタイミングを示す。時刻t1はブレーキをOFF→ONとして減速を開始するタイミングを示す。時刻t2は実際に停車するタイミングを示す。時刻t3は停車判定タイミングを示す。時刻t5はDレンジを選択したままでの停車時ロー変速制御中、ブレーキをON→OFFにすると同時にアクセルをOFF→ONとし、再発進を行うタイミングを示す。
【0044】
比較例の場合、停車時ロー変速制御の開始条件に、ベルト式無段変速機構が動力を伝達していない状態であるというニュートラル条件(c)を含んでいる。このため、下記に述べるデメリットがある。
(1) 時刻t3にて条件(a),(b)が成立しても、停車時ロー変速制御を開始するには、前進クラッチ31の開放制御を開始し、その後、ニュートラル条件(c)が成立するまでの時間を待つ必要があり、時刻t4から停車時ロー変速制御が開始されるというように、制御開始タイミングが遅い。
(2) 時刻t4にて停車時ロー変速制御が開始されても、ベルト式無段変速機構4が動力を伝達していない状態であり、プライマリプーリー42とベルト44の間には静摩擦力(>動摩擦力)が作用している。このため、ベルト44をプーリー径方向に移動させる(最ロー側に変速させる)には、大きな静摩擦力を超える強制力が必要であり、実プーリー比が変化する傾きが小さく、最ローへの変速進行速度が遅い。
(3) 停車時ロー変速制御中の時刻5にて再発進要求があった場合、再発進のために動力伝達を開始するには、開放されている前進クラッチ31の締結を待つ必要があり、時刻t6から車速や加速度の上昇がみられるというように、動力伝達の復帰応答が遅い。
【0045】
したがって、比較例のように、停車時ロー変速制御の開始条件にニュートラル条件(c)を含むと、Dレンジのままで停車したとき、停車からの制御開始するまでに待ち時間を要するし、且つ、制御開始してから最ロー状態になるまでに長い変速時間を要する。このため、再発進要求がある時刻t5にてプーリー比が最ロー状態となっていないことから明らかなように、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間が長くなる。
【0046】
さらに、比較例のように、停車時ロー変速制御の開始条件にニュートラル条件(c)を含むと、停車からの制御開始応答が遅く(時刻t4)、且つ、再発進要求に対する動力伝達の復帰応答が遅くなる(時刻t6)。このため、Dレンジのままで停車した後、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合には、再発進要求から発進駆動力が得られるまでにタイムラグ(t5〜t6)が発生し、再発進加速性に劣ってしまう。
【0047】
これに対し、本発明の停車時ロー変速制御では、前進クラッチ31が締結されている動力伝達状態において、停車状態であると判定され、且つ、ベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御が開始されるようにした。
即ち、本発明の場合、停車時ロー変速制御の開始条件に、前進クラッチ31を締結状態とすることによるベルト式無段変速機構4が動力伝達状態であるという動力伝達条件を含んでいる。このため、下記に述べるメリットがある。
(1) Dレンジのままで停車する場合、動力伝達状態であるため、停車条件とプーリー比条件が時刻t3にて成立すると、時刻t3から停車時ロー変速制御が開始されるというように、停車からの制御開始応答(t2〜t3)が、比較例の制御開始応答(t2〜t4)に比べて速い。
(2) 停車時ロー変速制御において、駆動源からの動力伝達により微小に回転しているプライマリプーリー42と停止状態のベルト44の間には動摩擦力(<静摩擦力)が作用している。このため、小さな動摩擦力を超える力を与えるだけでベルト44がプーリー径方向に移動するというように、実プーリー比が変化する傾きが大きく、最ロー側への変速速度が速い。
(3) 停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、比較例のように、完全開放されている前進クラッチ31の締結を待つ必要がなく、前進クラッチ31の締結維持により動力伝達状態が維持されているため、時刻t5から車速や加速度の上昇がみられるというように、動力伝達の開始応答が速い。
【0048】
したがって、本発明のように、停車時ロー変速制御の開始条件に動力伝達条件を含むと、Dレンジのままで停車したとき、停車から制御開始までの待ち時間が短縮されるし、制御開始してから最ロー状態になるまでの変速時間が短縮される。このため、停車時、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間の短縮化が図られる。
【0049】
さらに、本発明のように、停車時ロー変速制御の開始条件に動力伝達条件を含むと、動力伝達状態で停車するとロー変速制御が応答良く開始されるし、再発進要求に対して動力伝達の開始応答が速い。このため、Dレンジのままで停車した後、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合には、再発進要求から発進駆動力が得られるまでのタイムラグが短縮され、良好な再発進加速性が確保される。
【0050】
[停車時ロー変速動作メカニズムの比較]
上記のように、比較例の場合は最ローへの変速進行速度が遅いのに対し本発明の場合は最ロー側への変速速度が速いというように最ローへの変速進行速度が相違する。以下、変速進行速度が相違する原因を含めて停車時ロー変速動作メカニズムを比較する。
【0051】
まず、比較例の場合、前進クラッチ31を完全開放状態として停車時ロー変速が開始されるため、プライマリプーリー42への入力トルクはゼロである。したがって、プライマリプーリー42とセカンダリプーリー43とベルト44は、いずれも回転せずに停止状態であり、プライマリプーリー42とベルト44の間には静摩擦力が作用する。この状態において、セカンダリプーリー43へのセカンダリ圧Psecを高め、プライマリプーリー42へのプライマリ圧Ppriを低くし、セカンダリプーリー43におけるベルト挟持力を、プライマリプーリー42におけるベルト挟持力よりも大きくすることで、停車時ロー変速を実行することになる。
【0052】
しかし、比較例の停車時ロー変速では、上記のように、プライマリプーリー42とベルト44の間には静摩擦力(>動摩擦力)が作用している。このため、プライマリプーリー42に対しベルト44をプーリー内径方向に縦滑りにより移動させる(最ロー側に変速させる)には、大きな静摩擦力を超える強制力が必要である。この場合、セカンダリプーリー43側でベルト44がプーリー外径方向に縦滑り移動することにより、プライマリプーリー42のシーブ面42c,42dに対しベルト44から静摩擦力を超える力が作用するとベルト44が縦滑りにより内径方向に所定量移動する。しかし、ベルト44の縦滑り内径方向移動によりシーブ面42c,42dに対するベルト44からの張力が低下すると、ベルト44の内径方向移動が停止する。つまり、プライマリプーリー42側では、ベルト44の内径方向への移動と停止という動作を繰り返すスティックスリップのような状態で内径方向に少しずつ縦滑り移動するという変速動作メカニズムを示す。
したがって、最ローへ向かう変速進行速度が遅くなるのに加え、プライマリプーリー42のシーブ面42c,42dに対しベルト44から静摩擦力を超える力が作用しなくなるとロー変速が停止してしまう。
【0053】
これに対し、本発明の場合、前進クラッチ31が締結状態のままで停車時ロー変速が開始されることで、エンジン1からのトルクが、トルクコンバータ2と前進クラッチ31を経過してプライマリプーリー42に入力される。この入力トルクにより、プライマリプーリー42は微小に回転する(セカンダリプーリー43およびベルト44は、回転せずに停止状態である)。したがって、プライマリプーリー42とベルト44の間には微小スリップが生じ、プライマリプーリー42とベルト44の間には動摩擦力が作用する。この状態において、図4に示すように、セカンダリプーリー43へのセカンダリ圧Psecをライン圧PLにより高め、プライマリプーリー42へのプライマリ圧Ppriをドレーンにより低くし、セカンダリプーリー43におけるベルト挟持力を、プライマリプーリー42におけるベルト挟持力よりも大きくすることで、停車時ロー変速を実行することになる。
【0054】
したがって、本発明の停車時ロー変速では、上記のように、プライマリプーリー42とベルト44の間には動摩擦力(<静摩擦力)が作用している。このため、プライマリプーリー42に対しベルト44をプーリー内径方向に移動させる(最ロー側に変速させる)には、小さな動摩擦力を超える力を与えるだけで周方向に微小スリップしながらベルト44がプーリー内径方向に移動する。即ち、図4に示すように、セカンダリ圧Psec(=ライン圧PL)を加えることにより、セカンダリプーリー43のセカンダリ可動シーブ43bの移動によってベルト44が縦滑りによりプーリー外径方向に移動する。このベルト44のプーリー外径方向移動により、プライマリプーリー42のシーブ面42c,42dに対しベルト44から動摩擦力を超える力が作用する。この力にしたがって周方向に微小スリップしているベルト44は、プーリー内径方向にスムーズに移動する。つまり、セカンダリプーリー43側でベルト44がプーリー外径方向に縦滑り移動して巻き付き半径Rsが拡大すると、これに呼応してプライマリプーリー42側で微小スリップ状態のベルト44がプーリー内径方向にスムーズに縦滑り移動して巻き付き半径Rpが縮小するという変速動作メカニズムを示す。
したがって、最ローへ向かう変速進行速度が速くなるのに加えて、ベルト44とプライマリプーリー42との間での低い動摩擦力による連続的なロー側への変速動作で、最ロー域に達する停止時ロー変速が確保される。
【0055】
[停車時ロー変速制御の開始条件]
本発明の停車時ロー変速制御は、
(a) ベルト式無段変速機構4が動力伝達状態であること。
(b) 停車状態であると判定されていること。
(c) ベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域ではないこと。
という、動力伝達状態条件(a)、停車条件(b)、プーリー比条件(c)の3条件が全て成立することを制御開始条件としている。
【0056】
この3条件のうち、動力伝達状態条件(a)は、本発明の停車時ロー変速制御に特有の条件であり、プーリー比条件(c)は、公知例や比較例と共通する条件である。そこで、本発明の停車時ロー変速制御において、制御開始条件として停車条件(b)を含めている理由について以下説明する。
【0057】
車両減速中は、ロックアップクラッチ20および前進クラッチ31を締結状態としてエンジンブレーキを得るようにしている。このような車両減速状態では、駆動源であるエンジン1、あるいは、駆動輪6,6から急激なトルク変化が入力された場合、急激なトルク変化を吸収するフューズとなる部位がなく、ベルト44に周方向スリップが生じる可能性がある。したがって、ベルト44の周方向スリップが生じる可能性のある車両減速中においては、停車時ロー変速制御による最ローへの変速を行わないようにする必要がある。
【0058】
よって、図2のステップS1では、車速VSP<所定値(車速の停車判定閾値)、且つ、アクセルオフ(アクセル足離し時)、且つ、ブレーキオン(ブレーキ操作時)の3つの条件成立により停車であると判定し、停車時ロー変速制御を実行する。しかし、3つの条件のうち、少なくともいずれか1つの条件が成立しないと、停車時ロー変速制御を実行しないようにしている。
【0059】
ここで、車速VSPの情報は、ベルト式無段変速機構4の出力軸に設けられ、軸回転数をパルス信号に変換し、所定時間内に読み込まれたパルス数のカウント値を車速情報とする車速センサ87から取得する。このため、例えば、5km/h程度以上の車速域では、カウントされるパルス数が複数存在し、精度良く車速情報が得られる。しかし、極低速域や停車域では、所定時間内に読み込まれるパルス数が数個〜ゼロとなり、車速検出精度に劣る。そこで、VSP=0という停車状態を検出する場合には、例えば、車速センサ87から1つのパルス数をカウントすると、次のパルスをカウントするまでに要する時間を測定する。そして、2つのパルス間の所要時間が、停車判定時間を超えると、VSP=0の停車状態であると検出する。この検出手法を用いると、既存の車速センサ87(パルス式)を用いながら、車速センサ情報による停車判定を精度良く行うことができる。
【0060】
[ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用]
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御を開始する場合、ロー変速制御を継続しながら最ロー領域に至るまでベルト微小スリップを維持することが必要である。以下、これを反映するハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
【0061】
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS5→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS5では、停車時ロー変速制御として、エンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0062】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS3において、プーリー比がロー領域にあると判定されたら、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS6では、停車時ロー変速制御として、クラッチ半締結制御とエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0063】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS4では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0064】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS4→へと進み、ステップS4での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0065】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図5のタイムチャートに基づいて説明する。
【0066】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図5の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0067】
次に、時刻t4においてプーリー比がロー領域にあると判定されると、ロー変速とアイドルアップ要求に、クラッチ半締結を加えた停車時ロー変速制御が開始され、プライマリプーリー42やベルト44に損傷を与える周方向スリップが抑制される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。
【0068】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図5の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を目標プーリー比に維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0069】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t3から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecの油圧制御によるロー変速に、エンジン1のアイドルアップ要求を加える理由を説明する。
【0070】
エンジン回転数Neを上昇させるとプライマリプーリー42への入力トルクが増加するため、プライマリプーリー42とベルト44との間の動摩擦力がさらに小さくなる。これによって、プライマリプーリー42とベルト44との間での微小スリップ量が増加することになる(ただし、周方向スリップではない)。したがって、停車時ロー変速制御の開始後に最ローとなるまでの時間を、油圧制御によりロー変速を行う場合に比べ、さらに短縮される。即ち、エンジン1のアイドルアップ要求を加える理由は、動摩擦力のさらなる低減によりロー変速の進行を促進できることによる。
【0071】
ちなみに、公知技術(特開2002-181180号公報)においては、ロー変速制御の促進に際して、ベルト挟持圧を高くして力ずくでベルトを移動させることを目的としており、ベルト挟持圧の増加のためエンジン回転数Neを上昇、即ち、オイルポンプの回転(吐出圧)を増加させている。このような公知技術に対して、実施例1では、ロー変速制御の促進に際して、プライマリプーリー42とベルト44との間の動摩擦力を低減させることを目的としており、動摩擦力の低下、即ち、プライマリプーリー42への入力トルクの増加のために、エンジンNeを上昇させている。この点において特徴を有する。
【0072】
また、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t4から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、ロー変速とアイドルアップ要求に、クラッチ半締結を加える理由を説明する。
【0073】
プーリー比がハイ領域であるときには、プライマリプーリー42とベルト44の接触半径が大きいことでプライマリプーリー42でのベルトクランプ力が確保される。しかし、プーリー比がハイ領域から徐々にロー側へと変速してゆくと、プライマリプーリー42とベルト44の接触半径が小さくなり、プライマリプーリー42でのベルトクランプ力が低下してゆく。したがって、プライマリプーリー42への入力トルクを一定のまま保っておくと、ベルトクランプ力≧入力トルクという関係からベルトクランプ力<入力トルクという関係に移行し、これに伴って、プライマリプーリー42とベルト44が、微小スリップ状態から周方向スリップ状態に移行する。
【0074】
そこで、プーリー比の監視により、ベルトクランプ力<入力トルクという関係に移行しそうなタイミングを判定し、ロー領域が判定されると前進クラッチ31を半締結にする。このクラッチ半締結制御により、エンジン1およびトルクコンバータ2からの動力伝達量を前進クラッチ31により制限し、プライマリプーリー42への入力トルクを低下させることができる。そして、プライマリプーリー42への入力トルクの低下により、ベルトクランプ力<入力トルクという関係へ移行させないで、ベルトクランプ力≧入力トルクという関係に戻すことができる。
【0075】
即ち、クラッチ半締結を加える理由は、第一に、プライマリプーリー42においてベルトクランプ力≧入力トルクという関係状態を保持することで、ベルト44の周方向スリップを防止し、ベルト44およびプライマリプーリー42の損傷を防止できることによる。第二に、前進クラッチ31を完全開放させないことで、停車時ロー変速制御中の再発進加速性を向上できることによる。
【0076】
[ロー領域開始による停車時ロー変速制御作用]
プーリー比がロー領域であるときに停車時ロー変速制御を開始する場合、ロー変速制御を行いつつベルト周方向スリップを抑制することが必要である。以下、これを反映するロー領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
【0077】
プーリー比がロー領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS6では、停車時ロー変速制御として、クラッチ半締結制御とエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0078】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS4では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0079】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS4→へと進み、ステップS4での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0080】
以下、ロー領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図6のタイムチャートに基づいて説明する。
【0081】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求とクラッチ半締結による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図6の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0082】
次に、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。そして、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図5の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を目標プーリー比に維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0083】
以上のロー領域開始による停車時ロー変速制御作用において、ロー変速とアイドルアップ要求によりロー側に向けた停車時ロー変速制御の開始と同時にクラッチ半締結制御を開始する理由を説明する。
【0084】
まず、上記のように、ロー領域においては、プライマリプーリー42側でベルト44の周方向スリップを抑制するには、前進クラッチ31の動力伝達量を低下させ、プライマリプーリー42への入力トルクを低下させることが必要である。
【0085】
しかし、前進クラッチ31への半締結指示に対して前進クラッチ31が実際に半締結状態となるまでにはライムラグがある。つまり、図6のクラッチ圧特性の指示圧特性に対して実圧特性は遅れて低下するというように、両者の応答性に差がある。したがって、最ローに向けたロー変速制御の開始と同時に前進クラッチ31の半締結指示を行うことで、最ローに向けた変速開始後しばらくの間、前進クラッチ31は動力伝達状態のままであり、その後、前進クラッチ31は半締結状態となる。したがって、最ロー変速開始初期は、プライマリプーリー42に入力されるトルクにより最ローに向けた変速が促進される。その後において、ベルト44の周方向スリップを防止すべく前進クラッチ31が半締結状態へと推移することになる。
【0086】
即ち、停車時ロー変速制御の開始と同時にクラッチ半締結制御を開始する理由は、クラッチ制御のタイムラグに対し複雑な制御を用いることなく、最ロー変速を行うと共にベルト44の周方向スリップを抑制できることによる。
【0087】
次に、効果を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0088】
(1)駆動源(エンジン1)と、
プライマリプーリー42と、セカンダリプーリー43と、前記プライマリプーリー42と前記セカンダリプーリー43とに巻き掛けられた動力伝達部材(ベルト44)と、を有する無段変速機構(ベルト式無段変速機構4)と、
前記駆動源(エンジン1)から前記ベルト式無段変速機構4への駆動力伝達系に介装され、締結力制御により動力伝達状態が制御される摩擦締結要素(前進クラッチ31)と、
車両が停車状態であるか否かを判定する停車判定手段(ステップS1)と、
前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)が締結されている動力伝達状態において、前記停車判定手段(ステップS1)により停車状態であると判定され、且つ、前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を開始する停車時ロー変速制御手段(図2)と、
を備える。
このため、停車時、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間の短縮化を図ることができると共に、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、再発進加速性を向上させることができる。
【0089】
(2)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)が締結されている動力伝達状態において前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力(動力伝達部材のクランプ力)を超えるプーリー比閾値を所定値として設定しておき、ロー側に向けて変速している停車時ロー変速制御の実行中、前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が前記所定値以上になると(ステップS3でYES)、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)の動力伝達量を低下させる半締結制御を開始する(ステップS6)。
このため、(1)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することによる周方向スリップの発生を低減し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を低減することができる。
【0090】
(3)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合に前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させる(ステップS6-1)。
このため、(2)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)を完全開放させないことで、停車時ロー変速制御中の再発進加速性を向上させることができる。
【0091】
(4)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)が締結されている動力伝達状態において前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力を超えるプーリー比閾値を所定値として設定しておき、停車時ロー変速制御開始条件が成立したときに前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が前記所定値以上であると、ロー側に向けて変速制御を開始すると同時に、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)の動力伝達量を低下させる半締結制御を開始する。
このため、(1)の効果に加え、摩擦締結要素(前進クラッチ31)が指示タイミングから実際に半締結状態になるまでのタイムラグが考慮され、複雑な制御を用いることなく、停車時ロー変速制御を促進することができると共に、ベルト44の周方向スリップを抑制することができる。
【0092】
(5)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記セカンダリプーリー43におけるベルト挟持力を前記プライマリプーリー42におけるベルト挟持力より大きくすることで、プーリー比をロー側に向けて変速する。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、ベルト式無段変速機構4のプーリー比をロー側へ変速させることができる。
【0093】
(6)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記セカンダリプーリー43へのセカンダリ圧Psecをユニット油圧の中で最高圧のライン圧PLとし、前記プライマリプーリー42へのプライマリ圧Ppriをドレーン圧とすることで、プーリー比をロー側に向けて変速する。
このため、(5)の効果に加え、ベルト式無段変速機構4のプーリー比のロー側変速の進行速度を速くすることができる。
【0094】
(7)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、プーリー比をロー側に向けて変速するロー変速制御を行うとき、前記停車判定手段(ステップS1)により停車状態であると判定された際の前記駆動源(エンジン1)の回転数より上昇させる駆動源回転数上昇制御を行う。
このため、(1)〜(6)の効果に加え、プライマリプーリー42とベルト44の動摩擦力を小さくすることで、停車時ロー変速制御を開始した後、最ロー領域のプーリー比になるまでの所要時間を、回転数上昇制御を行わない場合に比べて短縮することができる。
【0095】
(8)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、停車時ロー変速制御開始条件の成立によりロー変速制御を開始すると、ロー変速制御の開始と同時に前記駆動源回転数上昇制御を開始する。
このため、(7)の効果に加え、ロー変速制御の開始後に駆動源回転数上昇制御を開始する場合に比べ、停車から最ロー領域のプーリー比になるまでの所要時間を短縮することができる。
【0096】
(9)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、ロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御中、前記プライマリプーリー42と前記ベルト44との間で周方向スリップが生じるか否かを予測する周方向スリップ予測手段を備え、該周方向スリップ予測手段により前記周方向スリップが生じることが予測される場合、ロー側に向けての変速を中止する(ステップS6)。
このため、(1)〜(8)の効果に加え、ベルト式無段変速機構4のプライマリプーリー42とベルト44の損傷を最小限に抑え、プライマリプーリー42とベルト44の保護と耐久信頼性の確保を図ることができる。
【0097】
(10)前記周方向スリップ予測手段は、前記プライマリプーリー42の回転速度の変化量から周方向スリップが生じるか否かを予測する。
このため、(9)の効果に加え、プライマリプーリー42の回転速度の変化量が規定量を超えると周方向スリップが生じることを予測するというように、周方向スリップが発生するか否かの予測を精度良く行うことができる。
【実施例2】
【0098】
実施例2は、停車時ロー変速制御において、エンジンアイドル回転アップ制御を省略した例である。
【0099】
まず、構成を説明する。
図7は、実施例2のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図7の各ステップについて説明する。なお、ステップS21,ステップS22,ステップS23は、図2のステップS1,ステップS2,ステップS3と同じ処理ステップであるので説明を省略する。
【0100】
ステップS24では、ステップS21での走行判定、あるいは、ステップS22でのプーリー比最ロー領域判定に続き、直前に停車時ロー変速制御(プーリーロー変速制御、クラッチ半締結制御)が実行されているときに停車時ロー変速中止制御が実行され、リターンへ進む。
この停車時ロー変速中止制御には、下記の2つの制御を有する。
ステップS24-1は、プーリーロー変速停止制御を行うステップであり、プーリーロー変速制御が実行されているとき、プーリーロー変速制御を停止し、通常のプーリー比変速制御に戻す。
ステップS24-3は、クラッチ締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31のクラッチ締結油圧を低下させる半締結制御が実行されているとき、前進クラッチ31のクラッチ締結油圧を入力トルクに対して滑らない締結油圧状態に戻す。
なお、直前に停車時ロー変速制御が実行されていないときには、通常のプーリー比変速制御とクラッチ締結制御が維持される。
【0101】
ステップS25では、ステップS23でのプーリー比ロー領域未達判定に続き、停車時ロー変速制御(プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達する前の停車時ロー変速制御は、プーリーロー変速制御の単独制御により行われる。つまり、ステップS5-2は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、セカンダリ圧Psecをライン圧PLとし、プライマリ圧Ppriをドレーン圧とすることで、ベルト式無段変速機構4のプーリー比をロー側に向けて変速する。
【0102】
ステップS26では、ステップS23でのプーリー比ロー領域到達判定に続き、停車時ロー変速制御(クラッチ半締結制御、プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達した後の停車時ロー変速制御は、ロー変速制御とクラッチ制御との協調制御により行われ、下記の2つの制御を有する。
ステップS26-1は、クラッチ半締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させる。
ステップS26-3は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、ステップS25-2と同様である。
なお、図1の全体システム構成は、実施例1と同様であるので図示ならびに説明を省略する。
【0103】
次に、実施例2におけるハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図7のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS25→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS25では、停車時ロー変速制御として、プーリーロー変速制御が実行される。
【0104】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS23において、プーリー比がロー領域にあると判定されたら、図7のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS26→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS26では、停車時ロー変速制御として、クラッチ半締結制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0105】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図7のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS24→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS24では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0106】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図7のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS24→へと進み、ステップS24での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0107】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図8のタイムチャートに基づいて説明する。
【0108】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図8の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0109】
次に、時刻t4においてプーリー比がロー領域にあると判定されると、ロー変速にクラッチ半締結を加えた停車時ロー変速制御が開始され、プライマリプーリー42やベルト44に損傷を与える周方向スリップが抑制される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、クラッチ締結)が開始される。
【0110】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図8の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0111】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t3から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecの油圧制御によるロー変速に、エンジン1のアイドルアップ要求を加えないようにした。このアイドルアップ要求を加えないことでの実施例1との差異を説明する。
【0112】
エンジンアイドル回転アップ制御を行う場合と行わない場合とでは、図8のエンジン回転数特性に示すように、エンジン回転数差ΔNeが生じる。このため、エンジン1により回転駆動するオイルポンプからの吐出油量が減少してライン圧PLが低下する。したがって、セカンダリプーリー43へのセカンダリ圧Psec(=ライン圧PL)が、図8の実セカンダリ圧特性に示すように、セカンダリ圧差ΔPsecだけ低下し、図8の実プーリー比特性に示すように、ロー変速の進行速度がプーリー比傾き差Δkだけ落ちることになる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0113】
よって、実施例2のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、実施例1の(1)〜(6)および(9),(10)の効果を得ることができる。プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)を完全開放させないことで、停車時ロー変速制御中の再発進加速性を向上させることができる。
【実施例3】
【0114】
実施例3は、クラッチ半締結制御において、前進クラッチ31の目標とする動力伝達量に向かって徐々に低下させるようにした例である。
【0115】
まず、構成を説明する。
図9は、実施例3のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図9の各ステップについて説明する。なお、ステップS31〜ステップS35の各ステップは、図2のステップS1〜ステップS5と同じ処理ステップであるので説明を省略する。
【0116】
ステップS36では、ステップS33でのプーリー比ロー領域到達判定に続き、停車時ロー変速制御(クラッチ半締結制御、エンジンアイドル回転アップ制御、プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達した後の停車時ロー変速制御は、ロー変速制御とエンジン回転数制御とクラッチ制御との協調制御により行われ、下記の3つの制御を有する。
ステップS36-1は、クラッチ半締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量へと徐々に低下させる(ランプ制御)。
ステップS36-2は、エンジンアイドル回転アップ制御を行うステップであり、ステップS35-1と同様である。
ステップS36-3は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、ステップS35-2と同様である。
なお、図1の全体システム構成は、実施例1と同様であるので図示ならびに説明を省略する。
【0117】
次に、実施例3におけるハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図9のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS32→ステップS33→ステップS35→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS35では、停車時ロー変速制御として、エンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0118】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS33において、プーリー比がロー領域にあると判定されたら、図9のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS32→ステップS33→ステップS36→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS36では、停車時ロー変速制御として、クラッチ半締結制御とエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0119】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図9のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS32→ステップS34→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS34では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0120】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図9のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS34→へと進み、ステップS34での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0121】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図10のタイムチャートに基づいて説明する。
【0122】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図10の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0123】
次に、時刻t4においてプーリー比がロー領域にあると判定されると、ロー変速とアイドルアップ要求にクラッチ半締結を加えた停車時ロー変速制御が開始され、プライマリプーリー42やベルト44に損傷を与える周方向スリップが抑制される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。
【0124】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図10の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0125】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t4から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、クラッチ半締結制御として、緩やかな下降勾配により徐々に低下させる制御を採用した。そこで、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量へと一気に低下させる実施例1との差異を説明する。
【0126】
まず、プーリー比の監視により、ベルトクランプ力<入力トルクという関係に移行しそうなタイミングを判定し、ロー領域が判定されると前進クラッチ31のクラッチ半締結制御を開始する。このクラッチ半締結制御の開始域では、僅かに動力伝達量を低下させる、つまり、プライマリプーリー42への入力トルクを僅かに低下させることにより、ベルトクランプ力<入力トルクという関係へ移行させないで、ベルトクランプ力≧入力トルクという関係を保持することができる。言い換えると、プーリー比が最ローになったときにプーリー比が最ローでの動力伝達量まで低下させれば良く、一気にプーリー比が最ローでの動力伝達量まで低下させる必要がない。
【0127】
したがって、動力伝達量を緩やかな下降勾配により徐々に低下させ、プライマリプーリー42においてベルトクランプ力≧入力トルクという関係状態を保持することで、ベルト44の周方向スリップを防止し、ベルト44およびプライマリプーリー42の損傷を防止することができる。さらに、図10のクラッチ圧特性に示すように、クラッチ圧差ΔPcが残ることで、実施例1よりも前進クラッチ31の締結状態が保たれ、例えば、時刻t4の直後に再発進要求があったとき、再発進加速性を向上させることができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0128】
次に、効果を説明する。
実施例3のべルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0129】
(11)前記停車時ロー変速制御手段(図9)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)の動力伝達量を、ロー側へ向けての変速進行状況にしたがって、前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量へと徐々に低下させる。
このため、実施例1の(1),(2)および(4)〜(10)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)の締結状態を最大限保つことで、停車時ロー変速制御の開始直後に再発進要求があっても再発進加速性を向上させることができる。
【実施例4】
【0130】
実施例4は、クラッチ半締結制御が開始されると目標とする動力伝達量に達するまで停車時ロー変速制御を一時停止するようにした例である。
【0131】
まず、構成を説明する。
図11は、実施例4のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図11の各ステップについて説明する。なお、ステップS41〜ステップS45の各ステップは、図2のステップS1〜ステップS5と同じ処理ステップであるので説明を省略する。
【0132】
ステップS46では、ステップS43でのプーリー比ロー領域到達判定に続き、前進クラッチ31のクラッチ半締結制御において目標とする動力伝達量に達していないか否かを判断する。YES(クラッチ半締結未完)の場合はステップS47へ進み、NO(クラッチ半締結達成)の場合はステップS45へ進む。
【0133】
ステップS47では、ステップS46でのクラッチ半締結未完であるとの判断に続き、プーリーロー変速制御を停止し、ステップS48へ進む。
【0134】
ステップS48では、ステップS47でのプーリーロー変速制御の停止に続き、クラッチ半締結制御を実行し、リターンへ進む。
このステップS48でのクラッチ半締結制御は、実施例1と同様に、前進クラッチ31の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量へとステップ的に低下させる制御である。
なお、図1の全体システム構成は、実施例1と同様であるので図示ならびに説明を省略する。
【0135】
次に、実施例4におけるハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS42→ステップS43→ステップS45→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS45では、停車時ロー変速制御として、エンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0136】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS43において、プーリー比がロー領域にあると判定され、且つ、前進クラッチ31の半締結制御が未完であるときは、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS42→ステップS43→ステップS46→ステップS47→ステップS48→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS47では、プーリーロー変速制御が停止され、ステップS48では、クラッチ半締結制御が実行される。
【0137】
そして、クラッチ半締結制御の実行により目標とする動力伝達量に達すると、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS42→ステップS43→ステップS46→ステップS45→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS45では、クラッチ半締結状態でエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0138】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS42→ステップS44→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS44では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0139】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS44→へと進み、ステップS44での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0140】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図12のタイムチャートに基づいて説明する。
【0141】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図11の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0142】
次に、時刻t4においてプーリー比がロー領域にあると判定されると、ロー変速制御を停止し、クラッチ半締結制御を開始する(なお、アイドルアップ要求は継続される)。そして、クラッチ半締結制御の実行により時刻t4'にて目標とする動力伝達量に達すると、ロー変速の停止が解除されてロー変速を再開し、ロー変速とアイドルアップ要求にクラッチ半締結を加えた停車時ロー変速制御が開始され、プライマリプーリー42やベルト44に損傷を与える周方向スリップが抑制される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。
【0143】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図12の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0144】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t4から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、クラッチ半締結制御が目標とする動力伝達量に達するまでの間(時刻t4〜t4')、ロー変速制御を一時的に停止する制御を採用した。そこで、ロー変速制御を一時的に停止することがない実施例1との差異を説明する。
【0145】
実施例4における停車時ロー変速制御は、ロー変速停止領域(時刻t4〜t4')を挟み、ベルト44の周方向スリップが発生しないプーリー比領域制御(時刻t3〜t4)と、ベルト44の周方向スリップが発生するプーリー比領域制御(時刻t4'〜t5)と、の2つの制御に分割される。
【0146】
したがって、ベルト44の周方向スリップが発生しないプーリー比領域制御(時刻t3〜t4)においては、再発進加速性の向上およびプーリー比を最ローとするまでに要する時間を短縮することができる。そして、ベルト44の周方向スリップが発生するプーリー比領域制御(時刻t4'〜t5)においては、前進クラッチ31の動力伝達量を目標動力伝達量まで低下させた後、最ローに向けた変速を行うことでベルト44の周方向スリップを確実に防止することができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0147】
次に、効果を説明する。
実施例4のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0148】
(12)前記停車時ロー変速制御手段(図11)は、前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が前記所定値以上になると最ローに向けた変速を停止し(ステップS47)、プーリー比が最ローである場合に前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させた後、最ローに向けた変速を再開する。
このため、実施例1の(1),(2)および(4)〜(10)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を確実に防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)を完全開放させないことで、停車時ロー変速制御中の再発進加速性を向上させることができる。
【実施例5】
【0149】
実施例5は、プーリー比ロー領域判定値と目標動力伝達量を複数用意し、クラッチ半締結制御が開始されると目標動力伝達量に達するまで停車時ロー変速制御を一時停止する制御を段階的に行うようにした例である。
【0150】
まず、構成を説明する。
図13は、実施例5のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図13の各ステップについて説明する。なお、ステップS51,ステップS52,ステップS54,ステップS55の各ステップは、図2のステップS1,ステップS2,ステップS4,ステップS5と同じ処理ステップであるので説明を省略する。
【0151】
ステップS53では、ステップS52でのプーリー比ハイ停止判定に続き、プーリー比ハイ停止判定後のベルト式無段変速機構4のプーリー比が所定値以上であるか否かのプーリー比ロー領域判定を行う。YES(プーリー比≧所定値:プーリー比Ni到達判定)の場合はステップS56へ進み、NO(プーリー比<所定値:プーリー比Ni未達判定)の場合はステップS55へ進む。
ここで、ステップS53の所定値は、前進クラッチ31が締結されている動力伝達状態においてベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力を超えるプーリー比閾値をロー領域開始の所定プーリー比N1として設定する。そして、所定プーリー比N1と最ロープーリー比との間を複数に分割し、Ni=N1,N2,N3…のように設定する。
【0152】
ステップS56では、ステップS53でのプーリー比Ni到達判定に続き、前進クラッチ31のクラッチ半締結制御において目標とする動力伝達量に達していないか否かを判断する。YES(クラッチ半締結未完)の場合はステップS57へ進み、NO(クラッチ半締結達成)の場合はステップS60へ進む。
【0153】
ステップS57では、ステップS56でのクラッチ半締結未完であるとの判断に続き、プーリーロー変速制御を停止し、ステップS58へ進む。
【0154】
ステップS58では、ステップS57でのプーリーロー変速制御の停止に続き、クラッチ半締結制御を実行し、リターンへ進む。
このステップS58でのクラッチ半締結制御は、所定プーリー比N1に対応したクラッチ圧をP1として設定する。そして、所定クラッチ圧P1と最ローでのクラッチ圧との間を複数に分割し、Pi=P1,P2,P3…のように設定する。
【0155】
ステップS59では、処理開始直後のイニシャライズ処理として、段階番号iをi=1に設定し、ステップS51へ進む。
【0156】
ステップS60では、ステップS56でのクラッチ半締結達成に続き、段階番号iをi=i+1とし、ステップS55へ進む。
なお、図1の全体システム構成は、実施例1と同様であるので図示ならびに説明を省略する。
【0157】
次に、実施例5におけるハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS52→ステップS53→ステップS55→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS55では、停車時ロー変速制御として、エンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0158】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS53において、プーリー比が所定プーリー比N1以上であると判定され、且つ、前進クラッチ31の所定クラッチ圧P1までの半締結制御が未完であるときは、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS52→ステップS53→ステップS56→ステップS57→ステップS58→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS57では、プーリーロー変速制御が停止され、ステップS58では、前進クラッチ31への油圧を所定クラッチ圧P1まで低下させるクラッチ半締結制御が実行される。
【0159】
そして、クラッチ半締結制御の実行により前進クラッチ31への油圧が所定クラッチ圧P1に達すると、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS52→ステップS53→ステップS56→ステップS60→ステップS55→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS55では、クラッチ半締結状態でエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。このとき、ステップS60にてi=i+1に書き換えられ、上記の所定プーリー比N1と所定クラッチ圧P1に基づく処理が、所定プーリー比N2と所定クラッチ圧P2に基づいて行われる。その後、順次、所定プーリー比Niと所定クラッチ圧Piが+1ずつ書き換えられて繰り返される。
【0160】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS52→ステップS54→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS54では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0161】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS54→へと進み、ステップS54での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0162】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図14のタイムチャートに基づいて説明する。
【0163】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図13の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって段階的に上昇する。
【0164】
次に、時刻t4においてプーリー比が所定プーリー比N1になった判定されると、ロー変速制御を停止し、クラッチ半締結制御を開始する(なお、アイドルアップ要求は継続される)。そして、クラッチ半締結制御の実行により時刻t4-1にて所定クラッチ圧P1に達すると、ロー変速の停止が解除されてロー変速が再開される。同様に、時刻t4-2においてプーリー比が所定プーリー比N2になった判定されると、ロー変速制御を停止し、再びクラッチ半締結制御を開始する。そして、クラッチ半締結制御の実行により時刻t4-3にて所定クラッチ圧P2に達すると、ロー変速の停止が解除されてロー変速が再開される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。
【0165】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図14の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0166】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t4から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、クラッチ半締結制御を段階的に行い、クラッチ半締結制御により動力伝達量を低下している間はロー変速制御を一時的に停止する制御を採用した。そこで、段階的なクラッチ半締結制御やロー変速制御を一時的に停止することがない実施例1との差異を説明する。
【0167】
実施例5における停車時ロー変速制御は、ロー変速停止領域(時刻t4〜t4-1、時刻t4-2〜t4-3)を挟み、ベルト44の周方向スリップが発生するプーリー比領域制御(時刻t4-1〜t4-2、時刻t4-3〜t5)が2段階的に行われる。
【0168】
したがって、ベルト44の周方向スリップが発生しないプーリー比領域制御(時刻t3〜t4)においては、再発進加速性の向上およびプーリー比を最ローとするまでに要する時間を短縮することができる。そして、ベルト44の周方向スリップが発生するプーリー比領域制御(時刻t4〜t5)においては、前進クラッチ31の動力伝達量を目標動力伝達量まで低下させた後、停止していたロー変速を再開するという動作を繰り返すことでベルト44の周方向スリップを確実に防止することができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0169】
次に、効果を説明する。
実施例5のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0170】
(13)前記停車時ロー変速制御手段(図13)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)が締結されている動力伝達状態において前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力を超えるプーリー比閾値として複数の所定値N1,N2…を設定しておき、前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が第1所定値N1以上になると最ローに向けた変速を停止し、プーリー比が次の第2所定値N2である場合に前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量(所定クラッチ圧P1)まで低下させた後、最ローに向けた変速を再開するというように、設定された複数の所定値N1,N2…に対応して変速停止と動力伝達量低下を繰り返す。
このため、実施例1の(1),(2)および(4)〜(10)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を確実に防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)の締結状態を段階的に保つことで、停車時ロー変速制御の開始直後に再発進要求があっても再発進加速性を向上させることができる。
【0171】
以上、本発明の無段変速機搭載車の制御装置を実施例1〜実施例5に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0172】
実施例1〜5では、プライマリプーリー42の回転速度の変化量から周方向スリップが生じるか否かを予測する例を示した。しかし、周方向スリップが生じるか否かをプーリー比の変化から予測するようにしても良い。
【0173】
実施例1〜5では、無段変速機構として、ベルト44を動力伝達部材とするベルト式無段変速機構4の例を示した。しかし、無段変速機構として、チェーンを動力伝達部材とするチェーン式無段変速機構であっても良い。また、ベルト式無段変速機構4は、油圧制御によりプーリー比を変更する例を示した。しかし、油圧以外で電気的に得られる挟持力制御によりプーリー比を変更する例であっても良い。
【0174】
実施例1〜5では、摩擦締結要素として、前進走行レンジであるDレンジの選択時に締結される前進クラッチ31を用いる例を示した。しかし、摩擦締結要素として、後退走行レンジであるRレンジの選択時に締結される後退ブレーキ32を用いる例としても良い。さらに、前進クラッチ31と後退ブレーキ32を摩擦締結要素とし、前進走行時にも後退走行時にも停車時ロー変速制御を行うようにする例であっても良い。
【0175】
実施例1〜5では、本発明の制御装置を駆動源にエンジンを搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の制御装置は、ベルト式無段変速機構やチェーン式無段変速機構が搭載されている車両であれば、ハイブリッド車や電気自動車や燃料電池車等の駆動源がエンジン車とは異なる他の車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0176】
1 エンジン(駆動源)
3 前後進切替機構
31 前進クラッチ(摩擦締結要素)
32 後退クラッチ
4 ベルト式無段変速機構(無段変速機構)
42 プライマリプーリー
43 セカンダリプーリー
44 ベルト(動力伝達部材)
45 プライマリ圧室
46 セカンダリ圧室
7 変速油圧コントロールユニット
8 CVTコントロールユニット
80 プライマリ回転センサ
81 セカンダリ回転センサ
82 セカンダリ圧センサ
83 油温センサ
84 インヒビタースイッチ
85 ブレーキスイッチ
86 アクセル開度センサ
87 車速センサ
88 タービン回転センサ
90 エンジンコントロールユニット
91 エンジン回転センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、最ロー領域から外れたプーリー比による停車時、プーリー比をロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を行う無段変速機搭載車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機搭載車の場合には、例えば、走行→減速→停車→再発進を繰り返すとき、ドライバー操作や路面状況等により、プーリー比が最ロー状態に戻らないで停車してしまうことがある。このように最ロー状態以外のプーリー比で停車したとき、そのままのプーリー比で再発進しようとすると、発進トルクが不足することにより、発進加速性が劣ってしまう。
【0003】
そこで、従来、停車からの再発進に先立って最ロー側のプーリー比を得ると共にプーリーとベルトの滑り防止を図ることを目的とし、最ロー領域から外れたプーリー比による停車時、プーリー比をロー側に向けて強制的に変速する停車時ロー変速制御を行う無段変速機搭載車の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来装置は、
(a) ベルト式無段変速機構のプーリー比が最ロー状態ではないこと。
(b) ベルト式無段変速機構の回転要素が停止している状態であること。
(c) ベルト式無段変速機構が動力を伝達していない状態であること。
という、プーリー比条件(a)、回転要素停止条件(b)、ニュートラル条件(c)の3条件が全て成立すると、ベルト式無段変速機機構のプーリー比を強制的にロー側へ変速する停車時ロー変速制御を開始するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−181180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来装置にあっては、停車時ロー変速制御の開始条件に、ベルト式無段変速機構が動力を伝達していない状態であるというニュートラル条件(c)を含んでいる。このため、Dレンジを選択したままでの停車時には、締結されている前進クラッチを開放することによりニュートラル条件(c)が成立することになる。したがって、従来の停車時ロー変速制御は、下記に述べるデメリットがある。
(1) Dレンジのままで停車する場合、条件(a),(b)が成立しても、停車時ロー変速制御を開始するには、前進クラッチの開放制御を開始し、その後、ニュートラル条件(c)が成立するまでの時間を待つ必要があり、停車時ロー変速制御の開始が遅い。
(2) 停車時ロー変速制御が開始されても、ベルト式無段変速機構が動力を伝達していない状態であり、プライマリプーリーとベルトの間には静摩擦力(>動摩擦力)が作用している。このため、ベルトをプーリー径方向に移動させる(最ロー側に変速させる)には、大きな静摩擦力を超える強制力が必要であり、最ローへの変速進行速度が遅い。
(3) 停車時ロー変速制御中に再発進要求(例えば、アクセル踏み込み操作)があった場合、再発進のために動力伝達を開始するには、開放されている前進クラッチの締結を待つ必要があり、動力伝達の復帰応答が遅い。
【0007】
このように、停車時ロー変速制御の開始条件にニュートラル条件を含むと、Dレンジのままで停車したとき、停車からの制御開始するまでに待ち時間を要するし、且つ、制御開始してから最ロー状態になるまでに長い変速時間を要する。このため、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間が長くなる、という問題があった。
【0008】
さらに、停車時ロー変速制御の開始条件にニュートラル条件を含むと、停車からの制御開始応答が遅く、且つ、再発進要求に対する動力伝達の復帰応答が遅くなる。このため、Dレンジのままで停車した後、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合には、再発進要求から発進駆動力が得られるまでにタイムラグが発生し、再発進加速性に劣ってしまう、という問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、停車時、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間の短縮化を図ることができると共に、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、再発進加速性を向上させることができる無段変速機搭載車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の無段変速機搭載車の制御装置は、駆動源と、無段変速機構と、摩擦締結要素と、停車判定手段と、停車時ロー変速制御手段と、を備える手段とした。
前記無段変速機構は、プライマリプーリーと、セカンダリプーリーと、前記プライマリプーリーと前記セカンダリプーリーとに巻き掛けられた動力伝達部材と、を有する。
前記摩擦締結要素は、前記駆動源から前記無段変速機構への駆動力伝達系に介装され、締結力制御により動力伝達状態が制御される。
前記停車判定手段は、車両が停車状態であるか否かを判定する。
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において、前記停車判定手段により停車状態であると判定され、且つ、前記無段変速機構のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を開始する。
【発明の効果】
【0011】
よって、停車時ロー変速制御手段では、摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において、停車状態であると判定され、且つ、無段変速機構のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御が開始される。
即ち、走行レンジのままで停車する場合、動力伝達状態であるため、停車条件とプーリー比条件の成立により停車時ロー変速制御が開始されるというように、停車からの制御開始応答が速い。停車時ロー変速制御において、駆動源からの動力伝達により微小に回転しているプライマリプーリーと停止状態の動力伝達部材の間には動摩擦力(<静摩擦力)が作用している。このため、小さな動摩擦力を超える力を与えるだけで動力伝達部材がプーリー径方向に移動するというように、最ロー側への変速速度が速い。停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、動力伝達状態が維持されているため、動力伝達の開始応答が速い。
このように、停車時ロー変速制御の開始条件に動力伝達条件を含むと、走行レンジのままで停車したとき、停車から制御開始までの待ち時間が短縮されるし、制御開始してから最ロー状態になるまでの変速時間が短縮される。
さらに、停車時ロー変速制御の開始条件に動力伝達条件を含むと、動力伝達状態で停車するとロー変速制御が応答良く開始されるし、再発進要求に対して動力伝達の開始応答が速い。このため、走行レンジのままで停車した後、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合には、再発進要求から発進駆動力が得られるまでのタイムラグが短縮される。
この結果、停車時、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間の短縮化を図ることができると共に、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、再発進加速性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車の駆動系と制御系を示す全体システム図である。
【図2】実施例1のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図3】比較例の停車時ロー変速制御と本発明の停車時ロー変速制御の比較作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・車速・加減速度・目標プーリー比・実プーリー比の各特性を示すタイムチャートである。
【図4】実施例1のベルト式無段変速機構での停車時ロー変速動作メカニズムを示す説明図である。
【図5】実施例1においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図6】実施例1においてロー領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図7】実施例2のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図8】実施例2においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図9】実施例3のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図10】実施例3においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図11】実施例4のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図12】実施例4においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図13】実施例5のCVTコントロールユニットにて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図14】実施例5においてハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明するレンジ位置・アクセル開度・ブレーキ・油温・車速・加減速度・エンジン回転・プライマリ回転・目標プーリー比・実プーリー比・目標セカンダリ圧・実セカンダリ圧・目標プライマリ圧・実プライマリ圧・クラッチ圧の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の無段変速機搭載車の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車(無段変速機搭載車の一例)の駆動系と制御系を示す全体システム図である。以下、図1に基づき全体システム構成を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1(駆動源)と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、ベルト式無段変速機構4(無段変速機構)と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
【0015】
前記エンジン1は、ドライバーのアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号によりエンジン回転数や燃料噴射量が制御可能であり、エンジン回転数制御(アイドル回転アップ制御)を行う回転数制御アクチュエータ10を有する。
【0016】
前記トルクコンバータ2は、トルク増大機能を有する流体伝動装置であり、トルク増大機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたタービンランナ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたポンプインペラ24と、ワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
【0017】
前記前後進切替機構3は、ベルト式無段変速機構4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31(摩擦締結要素)と、後退ブレーキ32と、を有する。前記ダブルピニオン式遊星歯車30は、サンギヤがトルクコンバータ出力軸21に連結され、キャリアが変速機入力軸40に連結される。前進クラッチ31は、Dレンジ選択時にクラッチ圧により締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のサンギヤとキャリアを直結する。前記後退ブレーキ32は、Rレンジ選択時にブレーキ油圧により締結し、ダブルピニオン式遊星歯車30のリングギヤをケースに固定する。
【0018】
前記ベルト式無段変速機構4は、ベルト接触径の変化により変速機入力軸40の入力回転数と変速機出力軸41の出力回転数の比であるプーリー比を無段階に変化させる無段変速機能を有する。このベルト式無段変速機構4は、プライマリプーリー42と、セカンダリプーリー43と、ベルト44(動力伝達部材)と、を有する。
【0019】
前記プライマリプーリー42は、プライマリ固定シーブ42aと、プライマリ可動シーブ42bと、により構成される。プライマリ固定シーブ42aには、固定シーブ軸42eが一体に形成され、プライマリ可動シーブ42bには、固定シーブ軸42eと同軸心配置で中空円筒状の可動シーブ軸42fが一体に形成される。そして、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧により、固定シーブ軸42eに対して可動シーブ軸42fおよびプライマリ可動シーブ42bが軸方向に摺動する。
【0020】
前記セカンダリプーリー43は、セカンダリ固定シーブ43aと、セカンダリ可動シーブ43bと、により構成される。セカンダリ固定シーブ43aには、固定シーブ軸43eが一体に形成され、セカンダリ可動シーブ43bには、固定シーブ軸43eと同軸心配置で中空円筒状の可動シーブ軸43fが一体に形成される。そして、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧により、固定シーブ軸43eに対して可動シーブ軸43fおよびセカンダリ可動シーブ43bが軸方向に摺動する。
【0021】
前記ベルト44は、プライマリプーリー42のV字形状をなす一対のプライマリシーブ面42c,42dと、セカンダリプーリー43のV字形状をなす一対のセカンダリシーブ面43c,43dと、に巻き掛けられている。このベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、2組の積層リングに対する挟み込みにより互いに連接して環状に設けられた多数のエレメントと、により構成される。
【0022】
前記終減速機構5は、ベルト式無段変速機構4の変速機出力軸41からの変速機出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、変速機出力軸41とアイドラ軸50と左右のドライブ軸51,51に介装され、減速機能を持つ第1ギヤ52と、第2ギヤ53と、第3ギヤ54と、第4ギヤ55と、差動機能を持つディファレンシャルギヤ56を有する。
【0023】
実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御系は、図1に示すように、両調圧方式による油圧制御ユニットである変速油圧コントロールユニット7と、電子制御ユニットであるCVTコントロールユニット8と、を備えている。
【0024】
前記変速油圧コントロールユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriと、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecと、を作り出すユニットである。この変速油圧コントロールユニット7は、オイルポンプ70と、レギュレータ弁71と、ライン圧ソレノイド72と、第1減圧弁73と、第1ソレノイド74と、第2減圧弁75と、第2ソレノイド76と、を備えている。
【0025】
前記レギュレータ弁71は、オイルポンプ70から吐出圧を元圧とし、ライン圧PLを調圧する弁である。このレギュレータ弁71は、ライン圧ソレノイド72を有し、オイルポンプ70から圧送された油の圧力を、CVTコントロールユニット8からの指令に応じて所定のライン圧PLに調圧し、ライン圧油路77に導く。このオイルポンプ70は、トルクコンバータ出力軸21からのエンジン駆動トルクを受けてポンプ駆動する。
【0026】
前記第1減圧弁73は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧とし、プライマリ圧室45に導くプライマリ圧Ppriを減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この第1減圧弁73は、CVTコントロールユニット8からの指示電流により動作する第1ソレノイド74を備える。
【0027】
前記第2減圧弁75は、レギュレータ弁71により作り出されたライン圧PLを元圧とし、セカンダリ圧室46に導くセカンダリ圧Psecを減圧制御により調圧するノーマリーハイのスプールバルブである。この第2減圧弁75は、CVTコントロールユニット8からの指示電流により動作する第2ソレノイド76を備える。
【0028】
前記CVTコントロールユニット8は、プーリー比変速制御やライン圧制御や前後進切替制御やロックアップ制御や停車時ロー変速制御、等を行うユニットである。このCVTコントロールユニット8は、プライマリ回転センサ80、セカンダリ回転センサ81、セカンダリ圧センサ82、油温センサ83、インヒビタースイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、車速センサ87、タービン回転センサ88等からのセンサ・スイッチ情報を入力する。なお、CVTコントロールユニット8は、エンジンコントロールユニット90からエンジン回転センサ91により取得されたエンジン回転数情報等の必要情報を入力し、エンジンコントロールユニット90へエンジン回転数制御指令(アイドル回転アップ制御指令)等を出力する。このCVTコントロールユニット8で行われる停車時ロー変速制御については、後で詳しく説明する。以下、プーリー比変速制御・ライン圧制御・前後進切替制御・ロックアップ制御の概略を説明する。
【0029】
前記プーリー比変速制御は、変速機入力回転数やアクセル開度等に応じて決められる目標プーリー比を達成するようにプライマリ圧室45へのプライマリ圧Ppriと、セカンダリ圧室46へのセカンダリ圧Psecを設定する。そして、設定したプライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecを得る指示電流を第1ソレノイド74と第2ソレノイド76に出力する制御である。
【0030】
前記ライン圧制御は、ベルト式無段変速ユニットの各油圧要素(ロックアップクラッチ20、前進クラッチ31、後退ブレーキ32、プライマリプーリー42、セカンダリプーリー43)での必要油圧のうち最大油圧を目標ライン圧として設定する。そして、設定した目標ライン圧を得る指示電流をライン圧ソレノイド72に出力する制御である。
【0031】
前記前後進切替制御は、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32を締結/開放する制御である。また、前記ロックアップ制御は、走行状況がロックアップ領域であるか否かの判断に応じてロックアップクラッチ20を締結/開放する制御である。
【0032】
図2は、実施例1のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図2の各ステップについて説明する。なお、このフローチャートは、前進クラッチ31の締結により動力伝達状態であるDレンジの選択時に処理される。
以下、停車時ロー変速制御で用いる「クラッチ半締結制御」とは、前進クラッチ31を締結状態として動力伝達するが、クラッチ締結トルクを入力トルクに対し滑りの無い完全締結状態よりも低くし、前進クラッチ31を経過する動力伝達量を規定する制御をいう。つまり、前進クラッチ31への入力トルクが所定の動力伝達量(=クラッチ締結トルク)を超える場合、動力伝達量超過分はクラッチ滑りにより吸収される。
【0033】
ステップS1では、Dレンジにて走行している車両が停止しているか否かの停車判定を行う。YES(停車判定)の場合はステップS2へ進み、NO(走行判定)の場合はステップS4へ進む(停車判定手段)。
ここで、停車判定は、車速VSP<所定値(車速の停車判定閾値)、且つ、アクセルオフ(アクセル足離し時)、且つ、ブレーキオン(ブレーキ操作時)の3つの条件成立により判定する。
【0034】
ステップS2では、ステップS1での停車判定に続き、停車判定時のベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域以外のハイプーリー比領域であるか否かのプーリー比ハイ停止判定を行う。YES(プーリー比<所定値:プーリー比ハイ停止判定)の場合はステップS3へ進み、NO(プーリー比≧所定値:プーリー比最ロー領域判定)の場合はステップS4へ進む。
ここで、ステップS2の所定値は、停車時ロー変速制御を実行する必要がない最ロープーリー比、あるいは、最ロープーリー比に近い値に設定される。つまり、停車判定時のベルト式無段変速機構4のプーリー比が、最ロー領域以外(プーリー比<所定値)の全てのプーリー比領域であるとハイプーリー比領域と判定される。
【0035】
ステップS3では、ステップS2でのプーリー比ハイ停止判定に続き、プーリー比ハイ停止判定後のベルト式無段変速機構4のプーリー比が所定値以上であるか否かのプーリー比ロー領域判定を行う。YES(プーリー比≧所定値:プーリー比ロー領域到達判定)の場合はステップS6へ進み、NO(プーリー比<所定値:プーリー比ロー領域未達判定)の場合はステップS5へ進む。
ここで、ステップS3の所定値は、前進クラッチ31が締結されている動力伝達状態においてベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力を超えるプーリー比閾値の値に設定される。
【0036】
ステップS4では、ステップS1での走行判定、あるいは、ステップS2でのプーリー比最ロー領域判定に続き、直前に停車時ロー変速制御(プーリーロー変速制御、エンジンアイドル回転アップ制御、クラッチ半締結制御)が実行されているときに停車時ロー変速中止制御が実行され、リターンへ進む。
この停車時ロー変速中止制御には、下記の3つの制御を有する。
ステップS4-1は、プーリーロー変速停止制御を行うステップであり、プーリーロー変速制御が実行されているとき、プーリーロー変速制御を停止し、通常のプーリー比変速制御に戻す。
ステップS4-2は、エンジンアイドル回転通常復帰制御を行うステップであり、エンジンアイドル回転アップ制御が実行されているとき、エンジンアイドル回転数のアップ分を低下させる制御によりエンジンアイドル回転数を通常回転数に復帰させる。
ステップS4-3は、クラッチ締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31のクラッチ締結油圧を低下させる半締結制御が実行されているとき、前進クラッチ31のクラッチ締結油圧を入力トルクに対して滑らない締結油圧状態に戻す。
なお、直前に停車時ロー変速制御が実行されていないときには、通常のプーリー比変速制御とエンジンアイドル回転数制御とクラッチ締結制御が維持される。
【0037】
ステップS5では、ステップS3でのプーリー比ロー領域未達判定に続き、停車時ロー変速制御(エンジンアイドル回転アップ制御、プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達する前の停車時ロー変速制御は、ロー変速制御とエンジン回転数制御との協調制御により行われ、下記の2つの制御を有する。
ステップS5-1は、エンジンアイドル回転アップ制御を行うステップであり、プーリーロー変速制御の変速進行速度を促進するエンジン回転数と通常のエンジンアイドル回転数の差をアップ分とし、エンジンアイドル回転数をアップ分だけ上昇させる。
ステップS5-2は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、セカンダリ圧Psecをライン圧PLとし、プライマリ圧Ppriをドレーン圧とすることで、ベルト式無段変速機構4のプーリー比をロー側に向けて変速する。
【0038】
ステップS6では、ステップS3でのプーリー比ロー領域到達判定に続き、停車時ロー変速制御(クラッチ半締結制御、エンジンアイドル回転アップ制御、プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達した後の停車時ロー変速制御は、ロー変速制御とエンジン回転数制御とクラッチ制御との協調制御により行われ、下記の3つの制御を有する。
ステップS6-1は、クラッチ半締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量までステップ的に低下させる。
ステップS6-2は、エンジンアイドル回転アップ制御を行うステップであり、ステップS5-1と同様である。
ステップS6-3は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、ステップS5-2と同様である。
【0039】
ここで、ステップS6には、ロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御中、プライマリプーリー42とベルト44との間で周方向スリップが生じるか否かを予測する周方向スリップ予測部(周方向スリップ予測手段)を有する。そして、周方向スリップが生じることが予測される場合、ステップS4へ進み、ロー側に向けての変速を中止するようにしている。なお、周方向スリップが生じるか否かは、プライマリプーリー42の回転速度の変化量から予測する。
【0040】
次に、作用を説明する。
実施例1の無段変速機搭載車の制御装置における作用を、「停車時ロー変速制御の比較作用」、「停車時ロー変速動作メカニズムの比較」、「停車時ロー変速制御の開始条件」、「ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用」、「ロー領域開始による停車時ロー変速制御作用」に分けて説明する。
【0041】
なお、以下の説明における「ベルトスリップ」については、「微小スリップ」と「周方向スリップ」という文言を区別して用いる。両者ともベルトの滑る方向は、プーリー回転に対して周方向という点で共通であるものの、スリップ量としては、微小スリップ<<<周方向スリップである。即ち、「微小スリップ」は、ベルトやプーリーに損傷を与えることのないスリップ量として用いる。これに対し、「周方向スリップ」は、ベルトやプーリーに損傷を与えるスリップ量として用いる。
【0042】
[停車時ロー変速制御の比較作用]
Dレンジを選択したままでの停車時において、プーリー比条件(a)と停車条件(b)が成立すると、締結されている前進クラッチを開放することによりニュートラル条件(c)を成立させ、3条件(a),(b),(c)が全て成立すると、ベルト式無段変速機機構のプーリー比を強制的にロー側へ変速する停車時ロー変速制御を開始するものを比較例とする。
【0043】
以下、比較例の停車時ロー変速制御と本発明の停車時ロー変速制御の比較作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図3のタイムチャートに基づいて説明する。
なお、図3において、時刻t0は走行中にアクセルをON→OFFとするタイミングを示す。時刻t1はブレーキをOFF→ONとして減速を開始するタイミングを示す。時刻t2は実際に停車するタイミングを示す。時刻t3は停車判定タイミングを示す。時刻t5はDレンジを選択したままでの停車時ロー変速制御中、ブレーキをON→OFFにすると同時にアクセルをOFF→ONとし、再発進を行うタイミングを示す。
【0044】
比較例の場合、停車時ロー変速制御の開始条件に、ベルト式無段変速機構が動力を伝達していない状態であるというニュートラル条件(c)を含んでいる。このため、下記に述べるデメリットがある。
(1) 時刻t3にて条件(a),(b)が成立しても、停車時ロー変速制御を開始するには、前進クラッチ31の開放制御を開始し、その後、ニュートラル条件(c)が成立するまでの時間を待つ必要があり、時刻t4から停車時ロー変速制御が開始されるというように、制御開始タイミングが遅い。
(2) 時刻t4にて停車時ロー変速制御が開始されても、ベルト式無段変速機構4が動力を伝達していない状態であり、プライマリプーリー42とベルト44の間には静摩擦力(>動摩擦力)が作用している。このため、ベルト44をプーリー径方向に移動させる(最ロー側に変速させる)には、大きな静摩擦力を超える強制力が必要であり、実プーリー比が変化する傾きが小さく、最ローへの変速進行速度が遅い。
(3) 停車時ロー変速制御中の時刻5にて再発進要求があった場合、再発進のために動力伝達を開始するには、開放されている前進クラッチ31の締結を待つ必要があり、時刻t6から車速や加速度の上昇がみられるというように、動力伝達の復帰応答が遅い。
【0045】
したがって、比較例のように、停車時ロー変速制御の開始条件にニュートラル条件(c)を含むと、Dレンジのままで停車したとき、停車からの制御開始するまでに待ち時間を要するし、且つ、制御開始してから最ロー状態になるまでに長い変速時間を要する。このため、再発進要求がある時刻t5にてプーリー比が最ロー状態となっていないことから明らかなように、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間が長くなる。
【0046】
さらに、比較例のように、停車時ロー変速制御の開始条件にニュートラル条件(c)を含むと、停車からの制御開始応答が遅く(時刻t4)、且つ、再発進要求に対する動力伝達の復帰応答が遅くなる(時刻t6)。このため、Dレンジのままで停車した後、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合には、再発進要求から発進駆動力が得られるまでにタイムラグ(t5〜t6)が発生し、再発進加速性に劣ってしまう。
【0047】
これに対し、本発明の停車時ロー変速制御では、前進クラッチ31が締結されている動力伝達状態において、停車状態であると判定され、且つ、ベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御が開始されるようにした。
即ち、本発明の場合、停車時ロー変速制御の開始条件に、前進クラッチ31を締結状態とすることによるベルト式無段変速機構4が動力伝達状態であるという動力伝達条件を含んでいる。このため、下記に述べるメリットがある。
(1) Dレンジのままで停車する場合、動力伝達状態であるため、停車条件とプーリー比条件が時刻t3にて成立すると、時刻t3から停車時ロー変速制御が開始されるというように、停車からの制御開始応答(t2〜t3)が、比較例の制御開始応答(t2〜t4)に比べて速い。
(2) 停車時ロー変速制御において、駆動源からの動力伝達により微小に回転しているプライマリプーリー42と停止状態のベルト44の間には動摩擦力(<静摩擦力)が作用している。このため、小さな動摩擦力を超える力を与えるだけでベルト44がプーリー径方向に移動するというように、実プーリー比が変化する傾きが大きく、最ロー側への変速速度が速い。
(3) 停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、比較例のように、完全開放されている前進クラッチ31の締結を待つ必要がなく、前進クラッチ31の締結維持により動力伝達状態が維持されているため、時刻t5から車速や加速度の上昇がみられるというように、動力伝達の開始応答が速い。
【0048】
したがって、本発明のように、停車時ロー変速制御の開始条件に動力伝達条件を含むと、Dレンジのままで停車したとき、停車から制御開始までの待ち時間が短縮されるし、制御開始してから最ロー状態になるまでの変速時間が短縮される。このため、停車時、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間の短縮化が図られる。
【0049】
さらに、本発明のように、停車時ロー変速制御の開始条件に動力伝達条件を含むと、動力伝達状態で停車するとロー変速制御が応答良く開始されるし、再発進要求に対して動力伝達の開始応答が速い。このため、Dレンジのままで停車した後、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合には、再発進要求から発進駆動力が得られるまでのタイムラグが短縮され、良好な再発進加速性が確保される。
【0050】
[停車時ロー変速動作メカニズムの比較]
上記のように、比較例の場合は最ローへの変速進行速度が遅いのに対し本発明の場合は最ロー側への変速速度が速いというように最ローへの変速進行速度が相違する。以下、変速進行速度が相違する原因を含めて停車時ロー変速動作メカニズムを比較する。
【0051】
まず、比較例の場合、前進クラッチ31を完全開放状態として停車時ロー変速が開始されるため、プライマリプーリー42への入力トルクはゼロである。したがって、プライマリプーリー42とセカンダリプーリー43とベルト44は、いずれも回転せずに停止状態であり、プライマリプーリー42とベルト44の間には静摩擦力が作用する。この状態において、セカンダリプーリー43へのセカンダリ圧Psecを高め、プライマリプーリー42へのプライマリ圧Ppriを低くし、セカンダリプーリー43におけるベルト挟持力を、プライマリプーリー42におけるベルト挟持力よりも大きくすることで、停車時ロー変速を実行することになる。
【0052】
しかし、比較例の停車時ロー変速では、上記のように、プライマリプーリー42とベルト44の間には静摩擦力(>動摩擦力)が作用している。このため、プライマリプーリー42に対しベルト44をプーリー内径方向に縦滑りにより移動させる(最ロー側に変速させる)には、大きな静摩擦力を超える強制力が必要である。この場合、セカンダリプーリー43側でベルト44がプーリー外径方向に縦滑り移動することにより、プライマリプーリー42のシーブ面42c,42dに対しベルト44から静摩擦力を超える力が作用するとベルト44が縦滑りにより内径方向に所定量移動する。しかし、ベルト44の縦滑り内径方向移動によりシーブ面42c,42dに対するベルト44からの張力が低下すると、ベルト44の内径方向移動が停止する。つまり、プライマリプーリー42側では、ベルト44の内径方向への移動と停止という動作を繰り返すスティックスリップのような状態で内径方向に少しずつ縦滑り移動するという変速動作メカニズムを示す。
したがって、最ローへ向かう変速進行速度が遅くなるのに加え、プライマリプーリー42のシーブ面42c,42dに対しベルト44から静摩擦力を超える力が作用しなくなるとロー変速が停止してしまう。
【0053】
これに対し、本発明の場合、前進クラッチ31が締結状態のままで停車時ロー変速が開始されることで、エンジン1からのトルクが、トルクコンバータ2と前進クラッチ31を経過してプライマリプーリー42に入力される。この入力トルクにより、プライマリプーリー42は微小に回転する(セカンダリプーリー43およびベルト44は、回転せずに停止状態である)。したがって、プライマリプーリー42とベルト44の間には微小スリップが生じ、プライマリプーリー42とベルト44の間には動摩擦力が作用する。この状態において、図4に示すように、セカンダリプーリー43へのセカンダリ圧Psecをライン圧PLにより高め、プライマリプーリー42へのプライマリ圧Ppriをドレーンにより低くし、セカンダリプーリー43におけるベルト挟持力を、プライマリプーリー42におけるベルト挟持力よりも大きくすることで、停車時ロー変速を実行することになる。
【0054】
したがって、本発明の停車時ロー変速では、上記のように、プライマリプーリー42とベルト44の間には動摩擦力(<静摩擦力)が作用している。このため、プライマリプーリー42に対しベルト44をプーリー内径方向に移動させる(最ロー側に変速させる)には、小さな動摩擦力を超える力を与えるだけで周方向に微小スリップしながらベルト44がプーリー内径方向に移動する。即ち、図4に示すように、セカンダリ圧Psec(=ライン圧PL)を加えることにより、セカンダリプーリー43のセカンダリ可動シーブ43bの移動によってベルト44が縦滑りによりプーリー外径方向に移動する。このベルト44のプーリー外径方向移動により、プライマリプーリー42のシーブ面42c,42dに対しベルト44から動摩擦力を超える力が作用する。この力にしたがって周方向に微小スリップしているベルト44は、プーリー内径方向にスムーズに移動する。つまり、セカンダリプーリー43側でベルト44がプーリー外径方向に縦滑り移動して巻き付き半径Rsが拡大すると、これに呼応してプライマリプーリー42側で微小スリップ状態のベルト44がプーリー内径方向にスムーズに縦滑り移動して巻き付き半径Rpが縮小するという変速動作メカニズムを示す。
したがって、最ローへ向かう変速進行速度が速くなるのに加えて、ベルト44とプライマリプーリー42との間での低い動摩擦力による連続的なロー側への変速動作で、最ロー域に達する停止時ロー変速が確保される。
【0055】
[停車時ロー変速制御の開始条件]
本発明の停車時ロー変速制御は、
(a) ベルト式無段変速機構4が動力伝達状態であること。
(b) 停車状態であると判定されていること。
(c) ベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域ではないこと。
という、動力伝達状態条件(a)、停車条件(b)、プーリー比条件(c)の3条件が全て成立することを制御開始条件としている。
【0056】
この3条件のうち、動力伝達状態条件(a)は、本発明の停車時ロー変速制御に特有の条件であり、プーリー比条件(c)は、公知例や比較例と共通する条件である。そこで、本発明の停車時ロー変速制御において、制御開始条件として停車条件(b)を含めている理由について以下説明する。
【0057】
車両減速中は、ロックアップクラッチ20および前進クラッチ31を締結状態としてエンジンブレーキを得るようにしている。このような車両減速状態では、駆動源であるエンジン1、あるいは、駆動輪6,6から急激なトルク変化が入力された場合、急激なトルク変化を吸収するフューズとなる部位がなく、ベルト44に周方向スリップが生じる可能性がある。したがって、ベルト44の周方向スリップが生じる可能性のある車両減速中においては、停車時ロー変速制御による最ローへの変速を行わないようにする必要がある。
【0058】
よって、図2のステップS1では、車速VSP<所定値(車速の停車判定閾値)、且つ、アクセルオフ(アクセル足離し時)、且つ、ブレーキオン(ブレーキ操作時)の3つの条件成立により停車であると判定し、停車時ロー変速制御を実行する。しかし、3つの条件のうち、少なくともいずれか1つの条件が成立しないと、停車時ロー変速制御を実行しないようにしている。
【0059】
ここで、車速VSPの情報は、ベルト式無段変速機構4の出力軸に設けられ、軸回転数をパルス信号に変換し、所定時間内に読み込まれたパルス数のカウント値を車速情報とする車速センサ87から取得する。このため、例えば、5km/h程度以上の車速域では、カウントされるパルス数が複数存在し、精度良く車速情報が得られる。しかし、極低速域や停車域では、所定時間内に読み込まれるパルス数が数個〜ゼロとなり、車速検出精度に劣る。そこで、VSP=0という停車状態を検出する場合には、例えば、車速センサ87から1つのパルス数をカウントすると、次のパルスをカウントするまでに要する時間を測定する。そして、2つのパルス間の所要時間が、停車判定時間を超えると、VSP=0の停車状態であると検出する。この検出手法を用いると、既存の車速センサ87(パルス式)を用いながら、車速センサ情報による停車判定を精度良く行うことができる。
【0060】
[ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用]
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御を開始する場合、ロー変速制御を継続しながら最ロー領域に至るまでベルト微小スリップを維持することが必要である。以下、これを反映するハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
【0061】
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS5→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS5では、停車時ロー変速制御として、エンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0062】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS3において、プーリー比がロー領域にあると判定されたら、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS6では、停車時ロー変速制御として、クラッチ半締結制御とエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0063】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS4では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0064】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS4→へと進み、ステップS4での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0065】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図5のタイムチャートに基づいて説明する。
【0066】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図5の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0067】
次に、時刻t4においてプーリー比がロー領域にあると判定されると、ロー変速とアイドルアップ要求に、クラッチ半締結を加えた停車時ロー変速制御が開始され、プライマリプーリー42やベルト44に損傷を与える周方向スリップが抑制される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。
【0068】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図5の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を目標プーリー比に維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0069】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t3から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecの油圧制御によるロー変速に、エンジン1のアイドルアップ要求を加える理由を説明する。
【0070】
エンジン回転数Neを上昇させるとプライマリプーリー42への入力トルクが増加するため、プライマリプーリー42とベルト44との間の動摩擦力がさらに小さくなる。これによって、プライマリプーリー42とベルト44との間での微小スリップ量が増加することになる(ただし、周方向スリップではない)。したがって、停車時ロー変速制御の開始後に最ローとなるまでの時間を、油圧制御によりロー変速を行う場合に比べ、さらに短縮される。即ち、エンジン1のアイドルアップ要求を加える理由は、動摩擦力のさらなる低減によりロー変速の進行を促進できることによる。
【0071】
ちなみに、公知技術(特開2002-181180号公報)においては、ロー変速制御の促進に際して、ベルト挟持圧を高くして力ずくでベルトを移動させることを目的としており、ベルト挟持圧の増加のためエンジン回転数Neを上昇、即ち、オイルポンプの回転(吐出圧)を増加させている。このような公知技術に対して、実施例1では、ロー変速制御の促進に際して、プライマリプーリー42とベルト44との間の動摩擦力を低減させることを目的としており、動摩擦力の低下、即ち、プライマリプーリー42への入力トルクの増加のために、エンジンNeを上昇させている。この点において特徴を有する。
【0072】
また、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t4から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、ロー変速とアイドルアップ要求に、クラッチ半締結を加える理由を説明する。
【0073】
プーリー比がハイ領域であるときには、プライマリプーリー42とベルト44の接触半径が大きいことでプライマリプーリー42でのベルトクランプ力が確保される。しかし、プーリー比がハイ領域から徐々にロー側へと変速してゆくと、プライマリプーリー42とベルト44の接触半径が小さくなり、プライマリプーリー42でのベルトクランプ力が低下してゆく。したがって、プライマリプーリー42への入力トルクを一定のまま保っておくと、ベルトクランプ力≧入力トルクという関係からベルトクランプ力<入力トルクという関係に移行し、これに伴って、プライマリプーリー42とベルト44が、微小スリップ状態から周方向スリップ状態に移行する。
【0074】
そこで、プーリー比の監視により、ベルトクランプ力<入力トルクという関係に移行しそうなタイミングを判定し、ロー領域が判定されると前進クラッチ31を半締結にする。このクラッチ半締結制御により、エンジン1およびトルクコンバータ2からの動力伝達量を前進クラッチ31により制限し、プライマリプーリー42への入力トルクを低下させることができる。そして、プライマリプーリー42への入力トルクの低下により、ベルトクランプ力<入力トルクという関係へ移行させないで、ベルトクランプ力≧入力トルクという関係に戻すことができる。
【0075】
即ち、クラッチ半締結を加える理由は、第一に、プライマリプーリー42においてベルトクランプ力≧入力トルクという関係状態を保持することで、ベルト44の周方向スリップを防止し、ベルト44およびプライマリプーリー42の損傷を防止できることによる。第二に、前進クラッチ31を完全開放させないことで、停車時ロー変速制御中の再発進加速性を向上できることによる。
【0076】
[ロー領域開始による停車時ロー変速制御作用]
プーリー比がロー領域であるときに停車時ロー変速制御を開始する場合、ロー変速制御を行いつつベルト周方向スリップを抑制することが必要である。以下、これを反映するロー領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
【0077】
プーリー比がロー領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS6では、停車時ロー変速制御として、クラッチ半締結制御とエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0078】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS4では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0079】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS4→へと進み、ステップS4での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0080】
以下、ロー領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図6のタイムチャートに基づいて説明する。
【0081】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求とクラッチ半締結による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図6の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0082】
次に、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。そして、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図5の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を目標プーリー比に維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0083】
以上のロー領域開始による停車時ロー変速制御作用において、ロー変速とアイドルアップ要求によりロー側に向けた停車時ロー変速制御の開始と同時にクラッチ半締結制御を開始する理由を説明する。
【0084】
まず、上記のように、ロー領域においては、プライマリプーリー42側でベルト44の周方向スリップを抑制するには、前進クラッチ31の動力伝達量を低下させ、プライマリプーリー42への入力トルクを低下させることが必要である。
【0085】
しかし、前進クラッチ31への半締結指示に対して前進クラッチ31が実際に半締結状態となるまでにはライムラグがある。つまり、図6のクラッチ圧特性の指示圧特性に対して実圧特性は遅れて低下するというように、両者の応答性に差がある。したがって、最ローに向けたロー変速制御の開始と同時に前進クラッチ31の半締結指示を行うことで、最ローに向けた変速開始後しばらくの間、前進クラッチ31は動力伝達状態のままであり、その後、前進クラッチ31は半締結状態となる。したがって、最ロー変速開始初期は、プライマリプーリー42に入力されるトルクにより最ローに向けた変速が促進される。その後において、ベルト44の周方向スリップを防止すべく前進クラッチ31が半締結状態へと推移することになる。
【0086】
即ち、停車時ロー変速制御の開始と同時にクラッチ半締結制御を開始する理由は、クラッチ制御のタイムラグに対し複雑な制御を用いることなく、最ロー変速を行うと共にベルト44の周方向スリップを抑制できることによる。
【0087】
次に、効果を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0088】
(1)駆動源(エンジン1)と、
プライマリプーリー42と、セカンダリプーリー43と、前記プライマリプーリー42と前記セカンダリプーリー43とに巻き掛けられた動力伝達部材(ベルト44)と、を有する無段変速機構(ベルト式無段変速機構4)と、
前記駆動源(エンジン1)から前記ベルト式無段変速機構4への駆動力伝達系に介装され、締結力制御により動力伝達状態が制御される摩擦締結要素(前進クラッチ31)と、
車両が停車状態であるか否かを判定する停車判定手段(ステップS1)と、
前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)が締結されている動力伝達状態において、前記停車判定手段(ステップS1)により停車状態であると判定され、且つ、前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を開始する停車時ロー変速制御手段(図2)と、
を備える。
このため、停車時、プーリー比を最ロー状態とするまでに要する時間の短縮化を図ることができると共に、停車時ロー変速制御中に再発進要求があった場合、再発進加速性を向上させることができる。
【0089】
(2)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)が締結されている動力伝達状態において前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力(動力伝達部材のクランプ力)を超えるプーリー比閾値を所定値として設定しておき、ロー側に向けて変速している停車時ロー変速制御の実行中、前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が前記所定値以上になると(ステップS3でYES)、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)の動力伝達量を低下させる半締結制御を開始する(ステップS6)。
このため、(1)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することによる周方向スリップの発生を低減し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を低減することができる。
【0090】
(3)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合に前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させる(ステップS6-1)。
このため、(2)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)を完全開放させないことで、停車時ロー変速制御中の再発進加速性を向上させることができる。
【0091】
(4)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)が締結されている動力伝達状態において前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力を超えるプーリー比閾値を所定値として設定しておき、停車時ロー変速制御開始条件が成立したときに前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が前記所定値以上であると、ロー側に向けて変速制御を開始すると同時に、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)の動力伝達量を低下させる半締結制御を開始する。
このため、(1)の効果に加え、摩擦締結要素(前進クラッチ31)が指示タイミングから実際に半締結状態になるまでのタイムラグが考慮され、複雑な制御を用いることなく、停車時ロー変速制御を促進することができると共に、ベルト44の周方向スリップを抑制することができる。
【0092】
(5)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記セカンダリプーリー43におけるベルト挟持力を前記プライマリプーリー42におけるベルト挟持力より大きくすることで、プーリー比をロー側に向けて変速する。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、ベルト式無段変速機構4のプーリー比をロー側へ変速させることができる。
【0093】
(6)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、前記セカンダリプーリー43へのセカンダリ圧Psecをユニット油圧の中で最高圧のライン圧PLとし、前記プライマリプーリー42へのプライマリ圧Ppriをドレーン圧とすることで、プーリー比をロー側に向けて変速する。
このため、(5)の効果に加え、ベルト式無段変速機構4のプーリー比のロー側変速の進行速度を速くすることができる。
【0094】
(7)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、プーリー比をロー側に向けて変速するロー変速制御を行うとき、前記停車判定手段(ステップS1)により停車状態であると判定された際の前記駆動源(エンジン1)の回転数より上昇させる駆動源回転数上昇制御を行う。
このため、(1)〜(6)の効果に加え、プライマリプーリー42とベルト44の動摩擦力を小さくすることで、停車時ロー変速制御を開始した後、最ロー領域のプーリー比になるまでの所要時間を、回転数上昇制御を行わない場合に比べて短縮することができる。
【0095】
(8)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、停車時ロー変速制御開始条件の成立によりロー変速制御を開始すると、ロー変速制御の開始と同時に前記駆動源回転数上昇制御を開始する。
このため、(7)の効果に加え、ロー変速制御の開始後に駆動源回転数上昇制御を開始する場合に比べ、停車から最ロー領域のプーリー比になるまでの所要時間を短縮することができる。
【0096】
(9)前記停車時ロー変速制御手段(図2)は、ロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御中、前記プライマリプーリー42と前記ベルト44との間で周方向スリップが生じるか否かを予測する周方向スリップ予測手段を備え、該周方向スリップ予測手段により前記周方向スリップが生じることが予測される場合、ロー側に向けての変速を中止する(ステップS6)。
このため、(1)〜(8)の効果に加え、ベルト式無段変速機構4のプライマリプーリー42とベルト44の損傷を最小限に抑え、プライマリプーリー42とベルト44の保護と耐久信頼性の確保を図ることができる。
【0097】
(10)前記周方向スリップ予測手段は、前記プライマリプーリー42の回転速度の変化量から周方向スリップが生じるか否かを予測する。
このため、(9)の効果に加え、プライマリプーリー42の回転速度の変化量が規定量を超えると周方向スリップが生じることを予測するというように、周方向スリップが発生するか否かの予測を精度良く行うことができる。
【実施例2】
【0098】
実施例2は、停車時ロー変速制御において、エンジンアイドル回転アップ制御を省略した例である。
【0099】
まず、構成を説明する。
図7は、実施例2のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図7の各ステップについて説明する。なお、ステップS21,ステップS22,ステップS23は、図2のステップS1,ステップS2,ステップS3と同じ処理ステップであるので説明を省略する。
【0100】
ステップS24では、ステップS21での走行判定、あるいは、ステップS22でのプーリー比最ロー領域判定に続き、直前に停車時ロー変速制御(プーリーロー変速制御、クラッチ半締結制御)が実行されているときに停車時ロー変速中止制御が実行され、リターンへ進む。
この停車時ロー変速中止制御には、下記の2つの制御を有する。
ステップS24-1は、プーリーロー変速停止制御を行うステップであり、プーリーロー変速制御が実行されているとき、プーリーロー変速制御を停止し、通常のプーリー比変速制御に戻す。
ステップS24-3は、クラッチ締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31のクラッチ締結油圧を低下させる半締結制御が実行されているとき、前進クラッチ31のクラッチ締結油圧を入力トルクに対して滑らない締結油圧状態に戻す。
なお、直前に停車時ロー変速制御が実行されていないときには、通常のプーリー比変速制御とクラッチ締結制御が維持される。
【0101】
ステップS25では、ステップS23でのプーリー比ロー領域未達判定に続き、停車時ロー変速制御(プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達する前の停車時ロー変速制御は、プーリーロー変速制御の単独制御により行われる。つまり、ステップS5-2は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、セカンダリ圧Psecをライン圧PLとし、プライマリ圧Ppriをドレーン圧とすることで、ベルト式無段変速機構4のプーリー比をロー側に向けて変速する。
【0102】
ステップS26では、ステップS23でのプーリー比ロー領域到達判定に続き、停車時ロー変速制御(クラッチ半締結制御、プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達した後の停車時ロー変速制御は、ロー変速制御とクラッチ制御との協調制御により行われ、下記の2つの制御を有する。
ステップS26-1は、クラッチ半締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させる。
ステップS26-3は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、ステップS25-2と同様である。
なお、図1の全体システム構成は、実施例1と同様であるので図示ならびに説明を省略する。
【0103】
次に、実施例2におけるハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図7のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS25→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS25では、停車時ロー変速制御として、プーリーロー変速制御が実行される。
【0104】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS23において、プーリー比がロー領域にあると判定されたら、図7のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS26→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS26では、停車時ロー変速制御として、クラッチ半締結制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0105】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図7のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS24→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS24では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0106】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図7のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS24→へと進み、ステップS24での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0107】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図8のタイムチャートに基づいて説明する。
【0108】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図8の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0109】
次に、時刻t4においてプーリー比がロー領域にあると判定されると、ロー変速にクラッチ半締結を加えた停車時ロー変速制御が開始され、プライマリプーリー42やベルト44に損傷を与える周方向スリップが抑制される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、クラッチ締結)が開始される。
【0110】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図8の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0111】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t3から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecの油圧制御によるロー変速に、エンジン1のアイドルアップ要求を加えないようにした。このアイドルアップ要求を加えないことでの実施例1との差異を説明する。
【0112】
エンジンアイドル回転アップ制御を行う場合と行わない場合とでは、図8のエンジン回転数特性に示すように、エンジン回転数差ΔNeが生じる。このため、エンジン1により回転駆動するオイルポンプからの吐出油量が減少してライン圧PLが低下する。したがって、セカンダリプーリー43へのセカンダリ圧Psec(=ライン圧PL)が、図8の実セカンダリ圧特性に示すように、セカンダリ圧差ΔPsecだけ低下し、図8の実プーリー比特性に示すように、ロー変速の進行速度がプーリー比傾き差Δkだけ落ちることになる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0113】
よって、実施例2のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、実施例1の(1)〜(6)および(9),(10)の効果を得ることができる。プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)を完全開放させないことで、停車時ロー変速制御中の再発進加速性を向上させることができる。
【実施例3】
【0114】
実施例3は、クラッチ半締結制御において、前進クラッチ31の目標とする動力伝達量に向かって徐々に低下させるようにした例である。
【0115】
まず、構成を説明する。
図9は、実施例3のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図9の各ステップについて説明する。なお、ステップS31〜ステップS35の各ステップは、図2のステップS1〜ステップS5と同じ処理ステップであるので説明を省略する。
【0116】
ステップS36では、ステップS33でのプーリー比ロー領域到達判定に続き、停車時ロー変速制御(クラッチ半締結制御、エンジンアイドル回転アップ制御、プーリーロー変速制御)を実行し、リターンへ進む。
このプーリー比がロー領域に到達した後の停車時ロー変速制御は、ロー変速制御とエンジン回転数制御とクラッチ制御との協調制御により行われ、下記の3つの制御を有する。
ステップS36-1は、クラッチ半締結制御を行うステップであり、前進クラッチ31の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量へと徐々に低下させる(ランプ制御)。
ステップS36-2は、エンジンアイドル回転アップ制御を行うステップであり、ステップS35-1と同様である。
ステップS36-3は、プーリーロー変速制御を行うステップであり、ステップS35-2と同様である。
なお、図1の全体システム構成は、実施例1と同様であるので図示ならびに説明を省略する。
【0117】
次に、実施例3におけるハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図9のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS32→ステップS33→ステップS35→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS35では、停車時ロー変速制御として、エンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0118】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS33において、プーリー比がロー領域にあると判定されたら、図9のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS32→ステップS33→ステップS36→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS36では、停車時ロー変速制御として、クラッチ半締結制御とエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0119】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図9のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS32→ステップS34→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS34では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0120】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図9のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS34→へと進み、ステップS34での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0121】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図10のタイムチャートに基づいて説明する。
【0122】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図10の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0123】
次に、時刻t4においてプーリー比がロー領域にあると判定されると、ロー変速とアイドルアップ要求にクラッチ半締結を加えた停車時ロー変速制御が開始され、プライマリプーリー42やベルト44に損傷を与える周方向スリップが抑制される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。
【0124】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図10の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0125】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t4から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、クラッチ半締結制御として、緩やかな下降勾配により徐々に低下させる制御を採用した。そこで、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量へと一気に低下させる実施例1との差異を説明する。
【0126】
まず、プーリー比の監視により、ベルトクランプ力<入力トルクという関係に移行しそうなタイミングを判定し、ロー領域が判定されると前進クラッチ31のクラッチ半締結制御を開始する。このクラッチ半締結制御の開始域では、僅かに動力伝達量を低下させる、つまり、プライマリプーリー42への入力トルクを僅かに低下させることにより、ベルトクランプ力<入力トルクという関係へ移行させないで、ベルトクランプ力≧入力トルクという関係を保持することができる。言い換えると、プーリー比が最ローになったときにプーリー比が最ローでの動力伝達量まで低下させれば良く、一気にプーリー比が最ローでの動力伝達量まで低下させる必要がない。
【0127】
したがって、動力伝達量を緩やかな下降勾配により徐々に低下させ、プライマリプーリー42においてベルトクランプ力≧入力トルクという関係状態を保持することで、ベルト44の周方向スリップを防止し、ベルト44およびプライマリプーリー42の損傷を防止することができる。さらに、図10のクラッチ圧特性に示すように、クラッチ圧差ΔPcが残ることで、実施例1よりも前進クラッチ31の締結状態が保たれ、例えば、時刻t4の直後に再発進要求があったとき、再発進加速性を向上させることができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0128】
次に、効果を説明する。
実施例3のべルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0129】
(11)前記停車時ロー変速制御手段(図9)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)の動力伝達量を、ロー側へ向けての変速進行状況にしたがって、前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量へと徐々に低下させる。
このため、実施例1の(1),(2)および(4)〜(10)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)の締結状態を最大限保つことで、停車時ロー変速制御の開始直後に再発進要求があっても再発進加速性を向上させることができる。
【実施例4】
【0130】
実施例4は、クラッチ半締結制御が開始されると目標とする動力伝達量に達するまで停車時ロー変速制御を一時停止するようにした例である。
【0131】
まず、構成を説明する。
図11は、実施例4のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図11の各ステップについて説明する。なお、ステップS41〜ステップS45の各ステップは、図2のステップS1〜ステップS5と同じ処理ステップであるので説明を省略する。
【0132】
ステップS46では、ステップS43でのプーリー比ロー領域到達判定に続き、前進クラッチ31のクラッチ半締結制御において目標とする動力伝達量に達していないか否かを判断する。YES(クラッチ半締結未完)の場合はステップS47へ進み、NO(クラッチ半締結達成)の場合はステップS45へ進む。
【0133】
ステップS47では、ステップS46でのクラッチ半締結未完であるとの判断に続き、プーリーロー変速制御を停止し、ステップS48へ進む。
【0134】
ステップS48では、ステップS47でのプーリーロー変速制御の停止に続き、クラッチ半締結制御を実行し、リターンへ進む。
このステップS48でのクラッチ半締結制御は、実施例1と同様に、前進クラッチ31の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合にベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量へとステップ的に低下させる制御である。
なお、図1の全体システム構成は、実施例1と同様であるので図示ならびに説明を省略する。
【0135】
次に、実施例4におけるハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS42→ステップS43→ステップS45→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS45では、停車時ロー変速制御として、エンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0136】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS43において、プーリー比がロー領域にあると判定され、且つ、前進クラッチ31の半締結制御が未完であるときは、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS42→ステップS43→ステップS46→ステップS47→ステップS48→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS47では、プーリーロー変速制御が停止され、ステップS48では、クラッチ半締結制御が実行される。
【0137】
そして、クラッチ半締結制御の実行により目標とする動力伝達量に達すると、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS42→ステップS43→ステップS46→ステップS45→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS45では、クラッチ半締結状態でエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0138】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS42→ステップS44→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS44では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0139】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図11のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS44→へと進み、ステップS44での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0140】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図12のタイムチャートに基づいて説明する。
【0141】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図11の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって上昇する。
【0142】
次に、時刻t4においてプーリー比がロー領域にあると判定されると、ロー変速制御を停止し、クラッチ半締結制御を開始する(なお、アイドルアップ要求は継続される)。そして、クラッチ半締結制御の実行により時刻t4'にて目標とする動力伝達量に達すると、ロー変速の停止が解除されてロー変速を再開し、ロー変速とアイドルアップ要求にクラッチ半締結を加えた停車時ロー変速制御が開始され、プライマリプーリー42やベルト44に損傷を与える周方向スリップが抑制される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。
【0143】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図12の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0144】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t4から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、クラッチ半締結制御が目標とする動力伝達量に達するまでの間(時刻t4〜t4')、ロー変速制御を一時的に停止する制御を採用した。そこで、ロー変速制御を一時的に停止することがない実施例1との差異を説明する。
【0145】
実施例4における停車時ロー変速制御は、ロー変速停止領域(時刻t4〜t4')を挟み、ベルト44の周方向スリップが発生しないプーリー比領域制御(時刻t3〜t4)と、ベルト44の周方向スリップが発生するプーリー比領域制御(時刻t4'〜t5)と、の2つの制御に分割される。
【0146】
したがって、ベルト44の周方向スリップが発生しないプーリー比領域制御(時刻t3〜t4)においては、再発進加速性の向上およびプーリー比を最ローとするまでに要する時間を短縮することができる。そして、ベルト44の周方向スリップが発生するプーリー比領域制御(時刻t4'〜t5)においては、前進クラッチ31の動力伝達量を目標動力伝達量まで低下させた後、最ローに向けた変速を行うことでベルト44の周方向スリップを確実に防止することができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0147】
次に、効果を説明する。
実施例4のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0148】
(12)前記停車時ロー変速制御手段(図11)は、前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が前記所定値以上になると最ローに向けた変速を停止し(ステップS47)、プーリー比が最ローである場合に前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させた後、最ローに向けた変速を再開する。
このため、実施例1の(1),(2)および(4)〜(10)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を確実に防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)を完全開放させないことで、停車時ロー変速制御中の再発進加速性を向上させることができる。
【実施例5】
【0149】
実施例5は、プーリー比ロー領域判定値と目標動力伝達量を複数用意し、クラッチ半締結制御が開始されると目標動力伝達量に達するまで停車時ロー変速制御を一時停止する制御を段階的に行うようにした例である。
【0150】
まず、構成を説明する。
図13は、実施例5のCVTコントロールユニット8にて実行される停車時ロー変速制御処理の構成および流れを示す(停車時ロー変速制御手段)。以下、図13の各ステップについて説明する。なお、ステップS51,ステップS52,ステップS54,ステップS55の各ステップは、図2のステップS1,ステップS2,ステップS4,ステップS5と同じ処理ステップであるので説明を省略する。
【0151】
ステップS53では、ステップS52でのプーリー比ハイ停止判定に続き、プーリー比ハイ停止判定後のベルト式無段変速機構4のプーリー比が所定値以上であるか否かのプーリー比ロー領域判定を行う。YES(プーリー比≧所定値:プーリー比Ni到達判定)の場合はステップS56へ進み、NO(プーリー比<所定値:プーリー比Ni未達判定)の場合はステップS55へ進む。
ここで、ステップS53の所定値は、前進クラッチ31が締結されている動力伝達状態においてベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力を超えるプーリー比閾値をロー領域開始の所定プーリー比N1として設定する。そして、所定プーリー比N1と最ロープーリー比との間を複数に分割し、Ni=N1,N2,N3…のように設定する。
【0152】
ステップS56では、ステップS53でのプーリー比Ni到達判定に続き、前進クラッチ31のクラッチ半締結制御において目標とする動力伝達量に達していないか否かを判断する。YES(クラッチ半締結未完)の場合はステップS57へ進み、NO(クラッチ半締結達成)の場合はステップS60へ進む。
【0153】
ステップS57では、ステップS56でのクラッチ半締結未完であるとの判断に続き、プーリーロー変速制御を停止し、ステップS58へ進む。
【0154】
ステップS58では、ステップS57でのプーリーロー変速制御の停止に続き、クラッチ半締結制御を実行し、リターンへ進む。
このステップS58でのクラッチ半締結制御は、所定プーリー比N1に対応したクラッチ圧をP1として設定する。そして、所定クラッチ圧P1と最ローでのクラッチ圧との間を複数に分割し、Pi=P1,P2,P3…のように設定する。
【0155】
ステップS59では、処理開始直後のイニシャライズ処理として、段階番号iをi=1に設定し、ステップS51へ進む。
【0156】
ステップS60では、ステップS56でのクラッチ半締結達成に続き、段階番号iをi=i+1とし、ステップS55へ進む。
なお、図1の全体システム構成は、実施例1と同様であるので図示ならびに説明を省略する。
【0157】
次に、実施例5におけるハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を説明する。
プーリー比がハイ領域であるときに停車時ロー変速制御の開始条件が成立する場合は、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS52→ステップS53→ステップS55→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS55では、停車時ロー変速制御として、エンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。
【0158】
そして、停車時ロー変速制御の進行によりステップS53において、プーリー比が所定プーリー比N1以上であると判定され、且つ、前進クラッチ31の所定クラッチ圧P1までの半締結制御が未完であるときは、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS52→ステップS53→ステップS56→ステップS57→ステップS58→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS57では、プーリーロー変速制御が停止され、ステップS58では、前進クラッチ31への油圧を所定クラッチ圧P1まで低下させるクラッチ半締結制御が実行される。
【0159】
そして、クラッチ半締結制御の実行により前進クラッチ31への油圧が所定クラッチ圧P1に達すると、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS52→ステップS53→ステップS56→ステップS60→ステップS55→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS55では、クラッチ半締結状態でエンジンアイドル回転アップ制御とプーリーロー変速制御が実行される。このとき、ステップS60にてi=i+1に書き換えられ、上記の所定プーリー比N1と所定クラッチ圧P1に基づく処理が、所定プーリー比N2と所定クラッチ圧P2に基づいて行われる。その後、順次、所定プーリー比Niと所定クラッチ圧Piが+1ずつ書き換えられて繰り返される。
【0160】
そして、停車時ロー変速制御の実行によりプーリー比が最ロー領域になると、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS52→ステップS54→リターンへと進む流れが繰り返される。即ち、ステップS54では、停車時ロー変速中止制御として、プーリーロー変速停止とエンジンアイドル回転通常復帰とクラッチ締結の各制御が行われる。
【0161】
さらに、停車時ロー変速制御後にドライバーが再発進を意図し、ブレーキ解除操作を行うと、図13のフローチャートにおいて、ステップS51→ステップS54→へと進み、ステップS54での停車時ロー変速中止制御が終了していると、目標プーリー比に実プーリー比を追従させる通常のプーリー比変速制御が行われる。
【0162】
以下、ハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用を、走行→減速→停車→再発進のパターンをあらわす図14のタイムチャートに基づいて説明する。
【0163】
時刻t0において走行中にアクセルをON→OFFとし、時刻t1においてブレーキをOFF→ONとすることで、車両は時刻t1から減速を開始する。そして、時刻t2において実際に停車すると、時刻t3において停車判定され、同時に、ロー変速とアイドルアップ要求による停車時ロー変速制御が開始される。この停車時ロー変速制御により時刻t3以降は、図13の実プーリー比特性に示すように、実プーリー比が目標プーリー比(最ロープーリー比)に向かって段階的に上昇する。
【0164】
次に、時刻t4においてプーリー比が所定プーリー比N1になった判定されると、ロー変速制御を停止し、クラッチ半締結制御を開始する(なお、アイドルアップ要求は継続される)。そして、クラッチ半締結制御の実行により時刻t4-1にて所定クラッチ圧P1に達すると、ロー変速の停止が解除されてロー変速が再開される。同様に、時刻t4-2においてプーリー比が所定プーリー比N2になった判定されると、ロー変速制御を停止し、再びクラッチ半締結制御を開始する。そして、クラッチ半締結制御の実行により時刻t4-3にて所定クラッチ圧P2に達すると、ロー変速の停止が解除されてロー変速が再開される。そして、時刻t5において実プーリー比が目標プーリー比に到達すると、停車時ロー変速中止制御(プーリーロー変速停止、エンジンアイドル回転通常復帰、クラッチ締結)が開始される。
【0165】
次に、時刻t6においてブレーキON→OFFにすると、図14の車速特性に示すように、トルクコンバータ2のクリープトルクにより車両が発進を開始する。そして、時刻t7においてアクセルOFF→ONにすると、実プーリー比を維持したままで、エンジン回転数およびプライマリ回転数の上昇にしたがって車速が上昇し、再発進加速性が確保される。
【0166】
以上のハイ領域開始による停車時ロー変速制御作用において、時刻t4から時刻t5まで停車時ロー変速制御を実行するにあたり、クラッチ半締結制御を段階的に行い、クラッチ半締結制御により動力伝達量を低下している間はロー変速制御を一時的に停止する制御を採用した。そこで、段階的なクラッチ半締結制御やロー変速制御を一時的に停止することがない実施例1との差異を説明する。
【0167】
実施例5における停車時ロー変速制御は、ロー変速停止領域(時刻t4〜t4-1、時刻t4-2〜t4-3)を挟み、ベルト44の周方向スリップが発生するプーリー比領域制御(時刻t4-1〜t4-2、時刻t4-3〜t5)が2段階的に行われる。
【0168】
したがって、ベルト44の周方向スリップが発生しないプーリー比領域制御(時刻t3〜t4)においては、再発進加速性の向上およびプーリー比を最ローとするまでに要する時間を短縮することができる。そして、ベルト44の周方向スリップが発生するプーリー比領域制御(時刻t4〜t5)においては、前進クラッチ31の動力伝達量を目標動力伝達量まで低下させた後、停止していたロー変速を再開するという動作を繰り返すことでベルト44の周方向スリップを確実に防止することができる。
なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0169】
次に、効果を説明する。
実施例5のベルト式無段変速機搭載エンジン車の制御装置にあっては、下記の効果を得ることができる。
【0170】
(13)前記停車時ロー変速制御手段(図13)は、前記摩擦締結要素(前進クラッチ31)が締結されている動力伝達状態において前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力を超えるプーリー比閾値として複数の所定値N1,N2…を設定しておき、前記ベルト式無段変速機構4のプーリー比が第1所定値N1以上になると最ローに向けた変速を停止し、プーリー比が次の第2所定値N2である場合に前記ベルト式無段変速機構4への入力トルクがベルトクランプ力以下となる動力伝達量(所定クラッチ圧P1)まで低下させた後、最ローに向けた変速を再開するというように、設定された複数の所定値N1,N2…に対応して変速停止と動力伝達量低下を繰り返す。
このため、実施例1の(1),(2)および(4)〜(10)の効果に加え、プライマリプーリー42への入力トルクに対してベルトクランプ力が不足することにより発生する周方向スリップの発生を確実に防止し、プライマリプーリー42およびベルト44の損傷を防止することができる。さらに、摩擦締結要素(前進クラッチ31)の締結状態を段階的に保つことで、停車時ロー変速制御の開始直後に再発進要求があっても再発進加速性を向上させることができる。
【0171】
以上、本発明の無段変速機搭載車の制御装置を実施例1〜実施例5に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0172】
実施例1〜5では、プライマリプーリー42の回転速度の変化量から周方向スリップが生じるか否かを予測する例を示した。しかし、周方向スリップが生じるか否かをプーリー比の変化から予測するようにしても良い。
【0173】
実施例1〜5では、無段変速機構として、ベルト44を動力伝達部材とするベルト式無段変速機構4の例を示した。しかし、無段変速機構として、チェーンを動力伝達部材とするチェーン式無段変速機構であっても良い。また、ベルト式無段変速機構4は、油圧制御によりプーリー比を変更する例を示した。しかし、油圧以外で電気的に得られる挟持力制御によりプーリー比を変更する例であっても良い。
【0174】
実施例1〜5では、摩擦締結要素として、前進走行レンジであるDレンジの選択時に締結される前進クラッチ31を用いる例を示した。しかし、摩擦締結要素として、後退走行レンジであるRレンジの選択時に締結される後退ブレーキ32を用いる例としても良い。さらに、前進クラッチ31と後退ブレーキ32を摩擦締結要素とし、前進走行時にも後退走行時にも停車時ロー変速制御を行うようにする例であっても良い。
【0175】
実施例1〜5では、本発明の制御装置を駆動源にエンジンを搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の制御装置は、ベルト式無段変速機構やチェーン式無段変速機構が搭載されている車両であれば、ハイブリッド車や電気自動車や燃料電池車等の駆動源がエンジン車とは異なる他の車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0176】
1 エンジン(駆動源)
3 前後進切替機構
31 前進クラッチ(摩擦締結要素)
32 後退クラッチ
4 ベルト式無段変速機構(無段変速機構)
42 プライマリプーリー
43 セカンダリプーリー
44 ベルト(動力伝達部材)
45 プライマリ圧室
46 セカンダリ圧室
7 変速油圧コントロールユニット
8 CVTコントロールユニット
80 プライマリ回転センサ
81 セカンダリ回転センサ
82 セカンダリ圧センサ
83 油温センサ
84 インヒビタースイッチ
85 ブレーキスイッチ
86 アクセル開度センサ
87 車速センサ
88 タービン回転センサ
90 エンジンコントロールユニット
91 エンジン回転センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
プライマリプーリーと、セカンダリプーリーと、前記プライマリプーリーと前記セカンダリプーリーとに巻き掛けられた動力伝達部材と、を有する無段変速機構と、
前記駆動源から前記無段変速機構への駆動力伝達系に介装され、締結力制御により動力伝達状態が制御される摩擦締結要素と、
車両が停車状態であるか否かを判定する停車判定手段と、
前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において、前記停車判定手段により停車状態であると判定され、且つ、前記無段変速機構のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を開始する停車時ロー変速制御手段と、
を備えることを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力を超えるプーリー比閾値を所定値として設定しておき、ロー側に向けて変速している停車時ロー変速制御の実行中、前記無段変速機構のプーリー比が前記所定値以上になると、前記摩擦締結要素の動力伝達量を低下させる半締結制御を開始する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合に前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させる
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素の動力伝達量を、ロー側へ向けての変速進行状況にしたがって、前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力以下となる動力伝達量へと徐々に低下させる
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記無段変速機構のプーリー比が前記所定値以上になると最ローに向けた変速を停止し、プーリー比が最ローである場合に前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させた後、最ローに向けた変速を再開する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項6】
請求項2に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力を超えるプーリー比閾値として複数の所定値を設定しておき、前記無段変速機構のプーリー比が第1所定値以上になると最ローに向けた変速を停止し、プーリー比が次の第2所定値である場合に前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させた後、最ローに向けた変速を再開するというように、設定された複数の所定値に対応して変速停止と動力伝達量低下を繰り返す
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力を超えるプーリー比閾値を所定値として設定しておき、停車時ロー変速制御開始条件が成立したときに前記無段変速機構のプーリー比が前記所定値以上であると、ロー側に向けて変速制御を開始すると同時に、前記摩擦締結要素の動力伝達量を低下させる半締結制御を開始する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れか1項に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記セカンダリプーリーにおける動力伝達部材挟持力を前記プライマリプーリーにおける動力伝達部材挟持力より大きくすることで、プーリー比をロー側に向けて変速する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記セカンダリプーリーへのセカンダリ圧をユニット油圧の中で最高圧のライン圧とし、前記プライマリプーリーへのプライマリ圧をドレーン圧とすることで、プーリー比をロー側に向けて変速する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までの何れか1項に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、プーリー比をロー側に向けて変速するロー変速制御を行うとき、前記停車判定手段により停車状態であると判定された際の前記駆動源の回転数より上昇させる駆動源回転数上昇制御を行う
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、停車時ロー変速制御開始条件の成立によりロー変速制御を開始すると、ロー変速制御の開始と同時に前記駆動源回転数上昇制御を開始する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までの何れか1項に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、ロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御中、前記プライマリプーリーと前記動力伝達部材との間で周方向スリップが生じるか否かを予測する周方向スリップ予測手段を備え、該周方向スリップ予測手段により前記周方向スリップが生じることが予測される場合、ロー側に向けての変速を中止する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記周方向スリップ予測手段は、前記プライマリプーリーの回転速度の変化量から周方向スリップが生じるか否かを予測する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項1】
駆動源と、
プライマリプーリーと、セカンダリプーリーと、前記プライマリプーリーと前記セカンダリプーリーとに巻き掛けられた動力伝達部材と、を有する無段変速機構と、
前記駆動源から前記無段変速機構への駆動力伝達系に介装され、締結力制御により動力伝達状態が制御される摩擦締結要素と、
車両が停車状態であるか否かを判定する停車判定手段と、
前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において、前記停車判定手段により停車状態であると判定され、且つ、前記無段変速機構のプーリー比が最ロー領域でないとき、停車状態であると判定された時点のプーリー比よりもロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御を開始する停車時ロー変速制御手段と、
を備えることを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力を超えるプーリー比閾値を所定値として設定しておき、ロー側に向けて変速している停車時ロー変速制御の実行中、前記無段変速機構のプーリー比が前記所定値以上になると、前記摩擦締結要素の動力伝達量を低下させる半締結制御を開始する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素の動力伝達量を、プーリー比が最ローである場合に前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させる
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素の動力伝達量を、ロー側へ向けての変速進行状況にしたがって、前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力以下となる動力伝達量へと徐々に低下させる
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記無段変速機構のプーリー比が前記所定値以上になると最ローに向けた変速を停止し、プーリー比が最ローである場合に前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させた後、最ローに向けた変速を再開する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項6】
請求項2に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力を超えるプーリー比閾値として複数の所定値を設定しておき、前記無段変速機構のプーリー比が第1所定値以上になると最ローに向けた変速を停止し、プーリー比が次の第2所定値である場合に前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力以下となる動力伝達量まで低下させた後、最ローに向けた変速を再開するというように、設定された複数の所定値に対応して変速停止と動力伝達量低下を繰り返す
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記摩擦締結要素が締結されている動力伝達状態において前記無段変速機構への入力トルクが前記動力伝達部材のクランプ力を超えるプーリー比閾値を所定値として設定しておき、停車時ロー変速制御開始条件が成立したときに前記無段変速機構のプーリー比が前記所定値以上であると、ロー側に向けて変速制御を開始すると同時に、前記摩擦締結要素の動力伝達量を低下させる半締結制御を開始する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れか1項に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記セカンダリプーリーにおける動力伝達部材挟持力を前記プライマリプーリーにおける動力伝達部材挟持力より大きくすることで、プーリー比をロー側に向けて変速する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、前記セカンダリプーリーへのセカンダリ圧をユニット油圧の中で最高圧のライン圧とし、前記プライマリプーリーへのプライマリ圧をドレーン圧とすることで、プーリー比をロー側に向けて変速する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までの何れか1項に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、プーリー比をロー側に向けて変速するロー変速制御を行うとき、前記停車判定手段により停車状態であると判定された際の前記駆動源の回転数より上昇させる駆動源回転数上昇制御を行う
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、停車時ロー変速制御開始条件の成立によりロー変速制御を開始すると、ロー変速制御の開始と同時に前記駆動源回転数上昇制御を開始する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までの何れか1項に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記停車時ロー変速制御手段は、ロー側に向けて変速する停車時ロー変速制御中、前記プライマリプーリーと前記動力伝達部材との間で周方向スリップが生じるか否かを予測する周方向スリップ予測手段を備え、該周方向スリップ予測手段により前記周方向スリップが生じることが予測される場合、ロー側に向けての変速を中止する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載された無段変速機搭載車の制御装置において、
前記周方向スリップ予測手段は、前記プライマリプーリーの回転速度の変化量から周方向スリップが生じるか否かを予測する
ことを特徴とする無段変速機搭載車の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−197904(P2012−197904A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63631(P2011−63631)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]