説明

無段変速機

【課題】無段変速装置がその変速比幅を超えることを防止するワンウェイクラッチが担持するトルクを軽減して、コンパクト化を図ることが可能な無段変速機を提供する。
【解決手段】無段変速機1にあって、ローモード時に動力伝達を行うロー伝達部材41とハイモード時に動力伝達を行うハイ伝達部材42との間に介在し、ハイ伝達部材42の回転がロー伝達部材41の回転よりも低くなることを規制するワンウェイクラッチFを配設することで、バリエータ10がその変速比幅を超えることを防止することが可能となる。このワンウェイクラッチFを、入力軸2から出力軸3までの動力伝達経路上におけるプラネタリギヤ部22とロー・ハイ切換え機構40との間に配設することで、該ワンウェイクラッチFは、係合状態で、プラネタリギヤ部22で分岐されたトルクT1,T2の一方を担持するだけで足りるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や作業車両等に搭載されて好適な無段変速機に係り、特に無段変速装置と動力循環機構とを備え、通常の変速動作にあって、動力循環を行うIVTモードと、無段変速装置の出力回転に基づくダイレクトモードとを形成するものにあって、無段変速装置の変速比が設定された変速比幅を超えることを規制する一方向回転規制手段を備えた無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トロイダル式無段変速装置(バリエータ)と動力循環用プラネタリギヤとを組合せて構成した無段変速機が提案されている(特許文献1参照)。この無段変速機は、バリエータの変速回転と入力軸からの入力回転とを上記プラネタリギヤで合成したトルク循環を利用し、ギヤニュートラル(GN)を含む正逆変速回転を得るIVTモードと(IVT;infinitely variable transmission)、バリエータの変速回転を利用したダイレクトモードと、バリエータの変速回転と入力回転の増速回転とに基づく2伝達経路を上記プラネタリギヤを利用して合成したトルクスプリットモードとを形成し、搭載される車両の出力回転として適当な変速比を得ている。
【0003】
上記バリエータは、入力ディスクと出力ディスクとそれら両ディスクに挟持されたパワーローラとで構成されており、パワーローラの傾斜に基づく両ディスクとの接触位置により変速比が得られる。また、パワーローラの回転中心を油圧アクチュエータ等により両ディスクの面方向に対して位置制御することで、接触位置の回転数差により自律的にパワーローラの傾斜角度が変化し、これによって変速比の変更が行われている。
【0004】
このようなトロイダル式無段変速機を搭載した車両にあって、例えばフットブレーキによる急制動が生じた場合等のように走行状態が急変すると、上記バリエータにおいて接触位置の回転数差の急変によりパワーローラの傾斜角度も急変することがあり、特に設定された変速比幅の端部近辺にあって該傾斜角度の急変が生じると、いわゆるパワーローラの過傾斜が生じて、パワーローラのスリップや両ディスクからの脱落(飛び出し)等が生じる虞がある。このため、例えばパワーローラのリンク機構に機械的なストッパを設け、パワーローラの傾斜角が変速比幅の端部となる位置で規制することで、上記パワーローラの過傾斜を防止するものが提案されているが、上記リンク機構の加工精度や組立精度、ストッパへの当接時に生じる衝撃に対する各構成部材の剛性等が課題とされている。
【0005】
そこで、上記特許文献1においては、入力軸の回転を上記動力循環用プラネタリギヤに入力する部材(即ち入力ディスクに連動する部材)と、バリエータの出力回転を上記動力循環用プラネタリギヤに入力する部材(即ち出力ディスクに連動する部材)と、の間にワンウェイクラッチを配設し、それによって入力ディスクと出力ディスクと回転数差が上記設定された変速比幅を超えることを規制して、パワーローラの過傾斜を防止することが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−194204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したワンウェイクラッチが係合する際は、バリエータの変速比が最大以上又は最低以下とならないように入力ディスクの回転に対する出力ディスクの回転を抑える場合であり、ワンウェイクラッチにより無段変速機としての伝達経路が形成され、バリエータによるトルク伝達は行わない状態となる。
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に係るトロイダル式無段変速機にあって、特にダイレクトモードを形成している状態では、バリエータ(T)を介した出力トルクが動力循環用プラネタリギヤ(P)を通らずに、クラッチ(C1)を介して直接的に出力軸(16)に出力されるような伝達経路が形成されている状態であり、この状態からワンウェイクラッチ(44)が係合すると、該ワンウェイクラッチがトルクを全て担持して出力軸に伝達することになる。このため、このワンウェイクラッチ(44)は、正常時に使用しない使用頻度の少ないものであるにも拘らず、伝達可能なトルク容量として大きなものが必要となり、部材の肉厚を増した大型のものを用いる必要がある。
【0009】
なお、上記特許文献1に係るトロイダル式無段変速機にあって、無段変速装置(バリエータ)はトロイダル式のものを用いたものであるが、例えば無段変速装置としてベルト式無段変速装置(CVT)を用いたものであっても、上述のワンウェイクラッチによって無段変速装置が設定された変速比幅を超えることを規制する点で同様であり、この場合のワンウェイクラッチは、パワーローラのスリップや脱落ではなく、ベルトのスリップやプーリからの脱落を防止するものとなる。
【0010】
そこで本発明は、ワンウェイクラッチの係合時にあっても該ワンウェイクラッチが担持するトルクを軽減することを可能とし、もってコンパクト化を図ることが可能な無段変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図6参照)、駆動源に接続し得る入力軸(2)と、前記入力軸(2)の入力回転を無段変速し得る無段変速装置(10,210)と、前記入力軸(2)の入力回転と前記無段変速装置(10,210)の出力回転(Vout)とを合成することで動力循環する動力循環機構(22,122,222)と、ロー係合要素(L)とハイ係合要素(H)との係合状態によってローモード又はハイモードに切換えし得るロー・ハイ切換え機構(40)と、前記ロー係合要素(L)又は前記ハイ係合要素(H)を介した回転を出力する出力軸(3)と、を備え、
通常の変速動作にあって、前記ローモードの際に前記動力循環機構(22,122,222)を介した合成回転に基づく出力となる動力循環モードを形成し、前記ハイモードの際に前記無段変速装置(10,210)の出力回転(Vout)を動力循環することなく出力する非動力循環モードを形成する無段変速機(1)において、
前記ローモード時に動力伝達を行うロー伝達部材(41)と前記ハイモード時に動力伝達を行うハイ伝達部材(42)との間に介在し、前記ハイ伝達部材(42)の回転が前記ロー伝達部材(41)の回転よりも低くなることを規制する一方向回転規制手段(F)を、前記入力軸(2)から前記出力軸(3)までの動力伝達経路上における前記動力循環機構(22,122,222)と前記ロー・ハイ切換え機構(40)との間に備えた、
ことを特徴とする無段変速機(1)にある。
【0012】
請求項2に係る本発明(例えば図1乃至図6参照)は、前記無段変速装置(10)の出力回転(Vout)又は前記動力循環機構の出力回転を反転する反転機構(30,130,222)を備え、
前記ローモード及び前記ハイモードの一方で前記反転機構(30,130,222)を介した回転を前記出力軸(3)に出力し得るように構成すると共に、前記ローモードと前記ハイモードとの切換えに基づき前記無段変速装置(10)の変速方向を反転してなり、
前記一方向回転規制手段(F)は、前記反転機構(30,130,222)よりも前記出力軸(3)側に備えられてなる、
請求項1記載の無段変速機(1,1)にある。
【0013】
請求項3に係る本発明は(例えば図1乃至図6参照)、前記ロー係合要素(L)及び前記ハイ係合要素(H)は、それぞれ入力側部材(41,42)と前記出力軸(3)との回転状態を係脱自在なクラッチからなり、
前記ロー伝達部材は、前記ロー係合要素の入力側部材(41)であり、
前記ハイ伝達部材は、前記ハイ係合要素の入力側部材(42)である、
請求項2記載の無段変速機(1)にある。
【0014】
請求項4に係る本発明は(例えば図1及び図2、図5及び図6参照)、前記ロー伝達部材(41)が、前記ハイ伝達部材(42)よりも外周側に配設されてなり、
前記一方向回転規制手段は、アウターレースに、インナーレースに係合し得るスプラグ機構が配設されたワンウェイクラッチ(F)からなり、
前記ワンウェイクラッチ(F)のアウターレースが前記ロー伝達部材(41)に、前記ワンウェイクラッチのインナーレースが前記ハイ伝達部材(42)に接続されてなる、
請求項1ないし3のいずれか記載の無段変速機(1,1)にある。
【0015】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る本発明によると、ロー伝達部材とハイ伝達部材との間に介在して、ハイ伝達部材の回転がロー伝達部材の回転よりも低くなることを規制する一方向回転規制手段を、動力伝達経路上における動力循環機構とロー・ハイ切換え機構との間に備えたので、例えば無段変速装置がその変速比幅を超えようとする状態であって、一方向回転規制手段が係合して無段変速装置がトルク伝達を行わない状態となった際に、動力循環機構を介してロー伝達部材とハイ伝達部材とに動力伝達経路を分岐することができ、該一方向回転規制手段がその分岐された一方の動力伝達経路のトルク分を担持するだけで足りるように構成することができる。これにより、使用頻度の少ない一方向回転規制手段をトルク容量として小さいものにすることができ、無段変速機のコンパクト化を図ることができる。
【0017】
請求項2に係る本発明によると、ロー・ハイ切換え機構によるローモードとハイモードとの切換え時に、無段変速装置の変速方向を反転するため、無段変速装置がその変速比幅を超えようとする状態が(反転しないものに比して)生じ易いが、上記トルク容量として小さくて足りる一方向回転規制手段によって、無段変速装置の変速比幅を超えることを防止することができる。また、一方向回転規制手段は、反転機構よりも出力軸側に備えられているので、ロー伝達部材とハイ伝達部材とが互いに正逆反対の回転で近づき、同回転となる状態で一方向回転規制手段の係合を行うことができ、つまりロー伝達部材の回転の上限とハイ伝達部材の回転の下限とを該一方向回転規制手段で規制することができる。
【0018】
請求項3に係る本発明によると、ロー伝達部材はロー係合要素の入力側部材であり、ハイ伝達部材はハイ係合要素の入力側部材であるので、ローモードとハイモードとの切換え時にロー伝達部材及びハイ伝達部材が同回転となり、かつ、その同回転の状態が無段変速装置の変速比幅の一端であって、上記一方向回転規制手段が、上記同回転をロー伝達部材の回転の上限及びハイ伝達部材の回転の下限として規制して、無段変速装置がその変速比幅を超えようとすることを防止することができる。
【0019】
請求項4に係る本発明によると、ワンウェイクラッチにおいてアウターレースにスプラグ機構が配設されており、ロー伝達部材がハイ伝達部材よりも外周側に配設されて、アウターレースがロー伝達部材に、インナーレースがハイ伝達部材に接続されているので、スプラグ機構がハイ伝達部材に比して低回転となるロー伝達部材に対して配設されることになり、スプラグ機構に対する遠心力を低減することができる。ワンウェイクラッチは、例えば遠心力によりスプラグが起き上がって引き摺りが増すタイプ、又は、例えば遠心力によりスプラグがインナーレースから離れて噛み合い性が低下するタイプ、のどちらかであるが、どちらのタイプであっても、遠心力を低減することができるので、引き摺りの低減や噛み合い性の向上を図ることができる。また特に、ローモードにあってギヤニュートラルを含む動力循環モードを形成するものにあっては、ロー伝達部材の回転数の変化幅が、ニュートラルを挟んだ正逆回転における低回転の変化幅であるので、例えば入力回転に対して一定比で回転する部材にアウターレースを配設したものに比しても、スプラグ機構に生じる遠心力を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る第1の実施の形態を図1及び図2に沿って説明する。図1は第1の実施の形態に係る無段変速機を示す図で、(a)は速度線図、(b)ローモード時の伝達経路を示すスケルトン図、(c)はハイモード時の伝達経路を示すスケルトン図であり、図2は図1の無段変速機におけるワンウェイクラッチの係合時を示す図で、(a)はローモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図、(b)はハイモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図である。なお、図1(b)及び(c)、図2(a)及び(b)において、太線部分はトルク伝達する伝達経路を示すものである。
【0021】
第1の実施の形態に係る無段変速機1は、図1(b)及び(c)に示すように、ミッションケース5内における一軸上にあって、入力側から出力側へ順に、入力軸2と、無段変速装置(バリエータ)10と、ステップピニオン部21及びプラネタリギヤ部(動力循環機構)22を有するプラネタリギヤ機構20と、反転ギヤ機構(反転機構)30と、ロー・ハイ切換え機構40と、出力軸3とを備えて構成されている。
【0022】
バリエータ10は、図1(b)及び(c)に示すように、フルトロイダル式無段変速装置からなり、入力軸2上に連結された入力ディスク11Aと、後述の第1のキャリヤC1(C2)を介して入力軸2に連結された入力ディスク11Bと、内周側において中空軸16に連結された出力ディスク12と、2個の入力ディスク11A,11B及び1個の出力ディスク12の間に挟持されるパワーローラ14A,14Bと、を有する。入力ディスク11A,11B及び出力ディスク12は、それぞれ対向するように円形の一部を形成する円弧状の凹溝11a,12aを有しており、2列のパワーローラを挟んでダブルキャビティ13A,13Bを構成して、入力ディスク同士のスラスト力を打消す構成からなる。
【0023】
パワーローラ14A,14Bは、環状のダブルキャビティ13A,13Bにおける周方向の略々均等な位置に複数個(例えば1つのキャビティに3個)配置されており、不図示の球面軸受、レバー等からなるリンク機構を油圧制御により押圧駆動される。また、入力ディスク11A,11Bは、例えばL字状のブロックと該ブロック上に設置された油圧ピストンとにより閉ループ的に押圧され、パワーローラ14A,14Bを挟持すると共に、その挟持圧が油圧により制御される。そして、上記リンク機構の押圧制御と入力ディスク11A,11Bの挟持圧とにより、パワーローラ14A,14Bが自律的に傾斜することで、入力ディスク11A,11Bと出力ディスク12との接触半径が変更されて、無段に連続して変速する。なお、本バリエータ10にあっては、入力ディスク11A,11Bに対して出力ディスク12が反転するので、速度比は−(マイナス)になる。
【0024】
プラネタリギヤ機構20は、上述したようにステップピニオン部21とプラネタリギヤ部22とを有して構成されている。そのうちのステップピニオン部21は、2個のピニオンP1,P2を有する第1のキャリヤC1(C2)と、ピニオンP1に噛合する第1のサンギヤS1と、ピニオンP2に噛合する第2のサンギヤS2とを有している。それらピニオンP1,P2は、共通のピニオンシャフトに回転自在に回転自在に支持される一体構造からなり、いわゆるステップピニオンを形成している。これらピニオンP1,P2を回転自在に支持する第1のキャリヤC1は、上記プラネタリギヤ部22の第1のリングギヤR3に連結していると共に、入力軸2に連結されており、更に、後側の入力ディスク11Bに連結されている。つまり入力ディスク11A,11B、第1のキャリヤC1、第1のリングギヤR3には、エンジン等の駆動源(不図示)の回転がそのまま伝達される。なお、本無段変速機1は、詳しくは後述するようにギヤニュートラル状態を得ることができるので、トルクコンバータ等を設ける必要はなく、入力軸2に直接エンジン等を接続することができる。
【0025】
上記第1のサンギヤS1は、上記中空軸16を介して出力ディスク12に接続されており、入力軸12の回転がバリエータ10により無段変速されたバリエータ出力回転Voutが伝達される。上記第2のサンギヤS2は、上記プラネタリギヤ部22の第3のサンギヤS3に接続されていると共に、ロー・ハイ切換え機構40のハイクラッチHに入力側部材42を介して接続されており、該ハイクラッチHを介して出力軸3に接続される。
【0026】
なお、本無段変速機1においては、第1及び第2のピニオンP1,P2の歯数をZP1、ZP2、第1及び第2のサンギヤS1,S2の歯数をZS1、ZS2としたときの歯数比(ZS1/ZP1)×(ZP2/ZS2)を1以上として、ハイモード時の出力回転OutH(即ち第2のサンギヤS2の回転)とバリエータ出力回転Vout(即ち第1のサンギヤS1の回転)とが異なるように構成され、バリエータ出力回転Voutが増速されて出力回転OutHとなるが(図2参照)、反対にバリエータ出力回転が減速されて出力回転となるように構成してもよく、更には、上記歯数比(ZS1/ZP1)×(ZP2/ZS2)を同じに構成し、出力回転とバリエータ出力回転とが同じになるようにしてもよい。
【0027】
一方、上記プラネタリギヤ部22は、上記第1のリングギヤR3と、ピニオンP3を回転自在に支持する第2のキャリヤC3と、第3のサンギヤS3とを有するシングルピニオンプラネタリギヤからなる。該第1のリングギヤR3は、上述のように第1のキャリヤC1を介して入力軸2に接続されており、該第3のサンギヤS3は、上記第2のサンギヤS2に連結されている。上記第2のキャリヤC3は、後述の反転ギヤ機構30の第3のキャリヤC4に接続されている。これら第2のキャリヤC3及び第3のキャリヤC4は、ピニオンP3及び後述のピニオンP4,P5を一体的に支持する共通キャリヤで構成してもよい。
【0028】
反転ギヤ機構30は、第2のリングギヤR4と、互いに噛合する2個のピニオンP4,P5を回転自在に支持する第3のキャリヤC4と、第4のサンギヤS4とを有するダブルピニオンプラネタリギヤ31からなる。該第3のキャリヤC4は、上記第2のキャリヤC3に接続されていると共に、第2のリングギヤR4に噛合するピニオンP4と、第4のサンギヤS4に噛合するピニオンP5とを回転自在に支持している。該第2のリングギヤR4は、ミッションケース5に接続されており、常時回転が固定されている。そして、該第4のサンギヤS4は、ロー・ハイ切換え機構40のロークラッチLに入力側部材41を介して接続されており、該ロークラッチLを介して出力軸3に接続される。
【0029】
そして、外周側に配置されたロークラッチLの入力側部材41と、内周側に配置された上述のハイクラッチHの入力側部材42との間に介在して、本発明の要部となるワンウェイクラッチFが配設されている。該ワンウェイクラッチFは、インナーレースと、アウターレースと、それらの間に位置し、該アウターレースに対して配設されたスプラグ機構とを有しており、つまり本第1の実施の形態の本無段変速機1においては、アウターレースがロークラッチLの入力側部材41にスプライン嵌合して、アウターレース及びスプラグ機構が該入力側部材41の回転方向に対して接続され、また、インナーレースがハイクラッチHの入力側部材42にスプライン嵌合して、インナーレースが該入力側部材42の回転方向に対して接続されている。
【0030】
なお、本無段変速機1は、主に自動車、農業機械の作業車両等に用いられ、出力軸3がディファレンシャル装置(不図示)を介して駆動車輪に接続されており、バリエータ10等により反転された出力軸3の回転は、該ディファレンシャル装置によって再度反転されるように構成されている。
【0031】
ついで、上記無段変速機1の作用について図1及び図2に沿って説明する。
【0032】
例えば無段変速機1を搭載した車輌の発進時又は後進時においては、不図示のシフトレバーや油圧制御装置による油圧制御に基づきロー・ハイ切換え機構40が制御されて、ハイクラッチHが解放されると共にロークラッチLが係合され、無段変速機1はローモード状態にされる。すると、図1(a)及び(b)に示すように、エンジン出力軸に連結されている入力軸2の回転が、バリエータ10の入力ディスク11A,11B、ステップピニオン部21の第1のキャリヤC1、及びプラネタリギヤ部22の第1のリングギヤR3に伝達される。このうち入力ディスク11A,11Bに入力された入力軸2の回転はバリエータ10で変速され、出力ディスク12よりバリエータ出力回転Voutが出力されて、第1のサンギヤS1に入力される。
【0033】
第1のサンギヤS1にバリエータ出力回転Voutが入力されると、ステップピニオン部21においてピニオンP1及びピニオンP2を介して、即ちギヤ比S1/P1及びS2/P2に基づき、バリエータ出力回転VoutがピニオンP1,P2を介して僅かな増速回転に変速されて第2のサンギヤS2から出力され、第3のサンギヤS3に入力される。すると、プラネタリギヤ部22においては、第1のリングギヤR3に入力される入力軸2の回転と第3のサンギヤS3の上記増速回転とがトルク循環される形で合成されて、第2のキャリヤC3より出力される。この第2のキャリヤC3の出力回転は、バリエータ10の変速比の幅に応じて、減速の逆転回転からニュートラル位置(GNポイント)を介して減速の正転回転までの幅に変速された出力回転となる。
【0034】
この第2のキャリヤC3の出力回転は、反転ギヤ機構30のダブルピニオンプラネタリギヤ31の第3のキャリヤC4に入力される。該第3のキャリヤC4に入力された回転は、ケース5に固定された第2のリングギヤR4を介して反転され、第4のサンギヤS4より出力される。そして、この第4のサンギヤS4の出力回転OutLは、ローモード状態の出力回転として、入力側部材41及びロークラッチLを介して出力軸3に出力される。
【0035】
以上のような伝達経路を形成するローモード時においては、プラネタリギヤ部22における入力軸2の回転及びバリエータ出力回転Voutの合成回転に基づいて動力循環を行う動力循環モードとなり、バリエータ出力回転Vout(バリエータ10の変速比)が、図1(a)中の一点鎖線で示すギヤニュートラル状態GNである際に、第2のキャリヤC3の回転がニュートラル状態となるため、反転ギヤ機構30において反転された回転もニュートラル状態となって、つまりローモード時の出力回転OutLがニュートラル状態となる。上述したように、この状態においては、エンジン回転数(入力軸2の回転)と出力軸3の回転とが無関係となるので、例えば走行レンジに切換える際にバリエータ10の変速比をギヤニュートラル状態GNに合せた後にロークラッチLを係合することで、回転数差を吸収することが不要であり、トルクコンバータ等の回転数差を吸収する装置を設ける必要がない。
【0036】
ここで、例えば不図示のシフトレバーがリバース(R)レンジであって、このギヤニュートラル状態GNより例えば車速やアクセル開度に応じてバリエータ10の変速比を大きくしていくと(図1(a)中のバリエータ出力回転Voutを下方側にシフトしていくと)、出力軸3の出力回転OutLは、正転回転側に増速していき、ディファレンシャル装置で反転されて、つまり後進側に増速されていく。
【0037】
また反対に、例えば不図示のシフトレバーがドライブ(D)レンジであって、ギヤニュートラル状態GNより例えば車速やアクセル開度に応じてバリエータ10の変速比を小さくしていくと(図1(a)中のバリエータ出力回転Voutを上方側にシフトしていくと)、出力軸3の出力回転OutLは、反転回転側に増速していき、ディファレンシャル装置で反転されて、つまり前進側に増速されていく。
【0038】
なお、以上のローモード時においては、第2のサンギヤS2が第1のサンギヤS1の回転(バリエータ出力回転Vout)に基づきピニオンP1,P2で増速回転され、その第2のサンギヤS2の回転が第3のサンギヤS3に入力されるため、それら第2及び第3のサンギヤS2,S3の回転がハイクラッチHの入力側部材42及びワンウェイクラッチFのインナーレースに伝達されるが、ハイクラッチHが解放されており、かつ通常の走行状態にあっては、ハイクラッチHの入力側部材42の回転(第2及び第3のサンギヤS2,S3の回転)がロークラッチLの入力側部材41の回転(第4のサンギヤS4の回転)よりも、負方向(マイナス方向)の回転状態において低回転になることがないため、該ハイクラッチHの入力側部材42は空転してトルク伝達は行われない。
【0039】
つづいて、上述のローモード状態で出力軸3の出力回転OutLが増速されていき(バリエータ10の変速比が小さくされていき)、図1(a)中の破線で示すシンクチェンジSCの変速比に達して例えば車速やアクセル開度に応じて変速判断がなされると、不図示の油圧制御装置による油圧制御に基づきロー・ハイ切換え機構40が制御されて、ロークラッチLが解放されると共にハイクラッチHが係合され、無段変速機1はハイモード状態にされる。
【0040】
すると、図1(a)及び(c)に示すように、このハイモード状態においても同様に、入力軸2の回転がバリエータ10の入力ディスク11A,11B、及びステップピニオン部21の第1のキャリヤC1に伝達され、出力ディスク12よりバリエータ出力回転Voutが出力されて、第1のサンギヤS1に入力される。第1のサンギヤS1にバリエータ出力回転Voutが入力されると、ステップピニオン部21においてピニオンP1及びピニオンP2を介して、即ちギヤ比S1/P1及びS2/P2に基づき、バリエータ出力回転Voutより僅かな増速回転として第2のサンギヤS2から出力される。そして、この第2のサンギヤS2の出力回転OutHは、ハイモード状態の出力回転として、入力側部材42及びハイクラッチHを介して出力軸3に出力される。このように、ハイモード時においては、プラネタリギヤ部22で動力循環を行うことなく、バリエータ出力回転Voutに基づき回転を出力する非動力循環モードとなる。
【0041】
なお、上記ハイモード時においては、第2のサンギヤS2の出力回転OutHが第3のサンギヤS3に入力され、また、入力軸2の回転が第1のリングギヤR3に入力されるため、第2のキャリヤC3及び第3のキャリヤC4がローモード時と同様に回転されるが、ロークラッチLが解放されており、かつ通常の走行状態にあっては、ハイクラッチHの入力側部材42の回転(第2及び第3のサンギヤS2,S3の回転)がロークラッチLの入力側部材41の回転(第4のサンギヤS4の回転)よりも、負方向(マイナス方向)の回転状態において低回転になることがないため、該ロークラッチLの入力側部材41は空転してトルク伝達は行われない。
【0042】
ところで、上記シンクチェンジSC時におけるローモード状態とハイモード状態との切換えにおいては、バリエータ10の変速比(バリエータ出力回転Vout)が最も小さくなる同じ変速比で切換えが行われるように各ギヤのギヤ比が設定されている。つまりローモード状態においては、バリエータ10の変速比が小さく変速されていくと出力回転OutLが増速され、シンクチェンジSCを境に、ハイモード状態においてはパワーローラ14A,14Bの傾斜方向が反転され、バリエータ10の変速比が大きく変速されていくと出力回転OutHが増速されていく。
【0043】
このシンクチェンジSCの変速比の付近、即ちバリエータ10の変速比が最も小さくなる付近の状態にあって、例えば車両が坂道を走行している場合やフットブレーキによる急制動が行われた場合のように、外的な要因により入力軸2と出力軸3との回転数変化が生じた場合等に、ハイクラッチHの入力側部材42の回転がロークラッチLの入力側部材41の回転よりも負方向(マイナス方向)の回転状態において低回転になろうとする状況が生じることがある。
【0044】
このような場合、本無段変速機1にあっては、上述したワンウェイクラッチFが係合し、バリエータ10が変速比幅を超えようとすること(即ち、パワーローラ14A,14Bの過傾斜や脱落等)を防止する。以下、ローモードにおいてワンウェイクラッチFが係合した場合と、ハイモードにおいてワンウェイクラッチFが係合した場合とに分けて、該ワンウェイクラッチFの係合時における本無段変速機1の作用を説明する。
【0045】
上記ローモード時にあって、入力軸2の回転に対する出力軸3の回転の比(エンジン回転数に対する駆動車輪の速度比)が大きくなり、図1(a)に示すローモードの出力回転OutLの下端より負方向に大きくなろうとすると、反転ギヤ機構30及びプラネタリギヤ部22を介して連動する入力側部材41及び入力側部材42は、互いに回転が近づく形となり、同回転となった時点でワンウェイクラッチFが係合する。
【0046】
このようにローモード時にあってワンウェイクラッチFが係合すると、図2(a)に示すように、上記反転ギヤ機構30、プラネタリギヤ部22、ワンウェイクラッチFによって、シンクチェンジ時の変速比と同じギヤ比の変速段が形成され、バリエータ10によるトルク伝達が行われない状態となる。この状態にあって、エンジンから入力軸2に入力される駆動トルクは、動力循環機構であるプラネタリギヤ部22において、第1のリングギヤR3に入力され、第2のキャリヤC3と第3のサンギヤS3とに分岐され、つまり反転ギヤ機構30を介してロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とに分岐されて出力される。
【0047】
これにより、ロークラッチLの入力側部材41には、反転ギヤ機構30からのトルクT1が入力され、ハイクラッチHの入力側部材42には、プラネタリギヤ部22からのトルクT2が入力され、ワンウェイクラッチFを介してトルクT1及びトルクT2が合流されて、エンジントルクにギヤ比を乗算したトルクT3として出力軸3に伝達される。このため、該ワンウェイクラッチFは、プラネタリギヤ部22で分岐された一方のトルクT2を伝達するだけで足り、該ワンウェイクラッチFが全てのトルクを担持することはない。
【0048】
一方、上記ハイモード時にあっても、入力軸2の回転に対する出力軸3の回転の比(エンジン回転数に対する駆動車輪の速度比)が小さくなり、図1(a)に示すハイモードの出力回転OutHの上端より負方向にあって小さくなろうとすると、反転ギヤ機構30及びプラネタリギヤ部22を介して連動する入力側部材41及び入力側部材42は、互いに回転が近づく形となり、同回転となった時点でワンウェイクラッチFが係合する。
【0049】
このようにハイモード時にあってワンウェイクラッチFが係合した場合も、図2(b)に示すように、上記反転ギヤ機構30、プラネタリギヤ部22、ワンウェイクラッチFによって、シンクチェンジ時の変速比と同じギヤ比の変速段が形成され、バリエータ10によるトルク伝達が行われない状態となる。この状態にあっても、上述のローモード時と同様に、エンジンから入力軸2に入力される駆動トルクは、動力循環機構であるプラネタリギヤ部22において、第1のリングギヤR3に入力され、第2のキャリヤC3と第3のサンギヤS3とに分岐され、つまり反転ギヤ機構30を介してロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とに分岐されて出力される。
【0050】
この場合も、ロークラッチLの入力側部材41には、反転ギヤ機構30からのトルクT1が入力され、ハイクラッチHの入力側部材42には、プラネタリギヤ部22からのトルクT2が入力され、ワンウェイクラッチFを介してトルクT1及びトルクT2が合流されて、エンジントルクにギヤ比を乗算したトルクT4として出力軸3に伝達される。そして、この場合のワンウェイクラッチFは、プラネタリギヤ部22で分岐された一方のトルクT1を伝達するだけで足り、該ワンウェイクラッチFが全てのトルクを担持することはない。
【0051】
以上のように本無段変速機1によると、ワンウェイクラッチFを、動力循環機構であるプラネタリギヤ部22とロー・ハイ切換え機構40との間に備えたので、バリエータ10がその変速比幅を超えようとする状態であって、ワンウェイクラッチFが係合してバリエータ10がトルク伝達を行わない状態となった際に、プラネタリギヤ部22を介してロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とに動力伝達経路を分岐することができ、該ワンウェイクラッチFがその分岐された一方の動力伝達経路のトルク分を担持するだけで足りるように構成することができる。これにより、使用頻度の少ないワンウェイクラッチFをトルク容量として小さいものにすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0052】
また、上述のようなワンウェイクラッチFが係合する状態は、ロー・ハイ切換え機構40によるローモードとハイモードとの切換え時に、バリエータ10の変速方向を反転するため、反転しないものに比して生じ易いが、上述したようにトルク容量として小さくて足りるワンウェイクラッチFによって、該バリエータ10の変速比幅を超えることの防止を図ることができる。これは、特にワンウェイクラッチFが反転ギヤ機構30よりも出力軸3側に備えられていることで、ロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とが互いに正逆反対の回転で近いていき、その同回転となる状態でワンウェイクラッチFの係合を行うことができる。これにより、ロークラッチLの入力側部材41の回転の上限とハイクラッチHの入力側部材42の回転の下限とを該ワンウェイクラッチFで規制することができる。
【0053】
さらに、ワンウェイクラッチFにおいてアウターレースにスプラグ機構が配設されており、ロークラッチLの入力側部材41がハイクラッチHの入力側部材42よりも外周側に配設されて、該アウターレースがロークラッチLの入力側部材41に、該インナーレースがハイクラッチHの入力側部材42に接続されているので、つまりスプラグ機構がハイクラッチHの入力側部材42に比して低回転となるロークラッチLの入力側部材41に対して配設されることになり、スプラグ機構に対する遠心力を低減することができる。一般にワンウェイクラッチFは、例えば遠心力によりスプラグが起き上がって引き摺りが増すタイプ、又は、例えば遠心力によりスプラグがインナーレースから離れて噛み合い性が低下するタイプ、のどちらかであるが、どちらのタイプであっても、遠心力を低減することができるので、引き摺りの低減や噛み合い性の向上を図ることができる。
【0054】
また、本無段変速機1のように、ローモードにあってギヤニュートラルを含む動力循環モードを形成するものにあっては、ロークラッチLの入力側部材41の回転数の変化幅が、図1(a)に示す出力回転OutLのように、ニュートラルを挟んだ正逆回転における低回転の変化幅であるので、例えば入力回転に対して一定比で回転する部材(つまり入力軸2に対して常に一定のギヤ比で回転する部材)にアウターレースを配設した場合に比しても、停車時や発進時はアウターレースがニュートラル乃至僅かな回転数となるため、スプラグ機構に生じる遠心力を大幅に低減することができる。
【0055】
<第2の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第2の実施の形態について図3及び図4に沿って説明する。図3は第2の実施の形態に係る無段変速機を示す図で、(a)は速度線図、(b)ローモード時の伝達経路を示すスケルトン図、(c)はハイモード時の伝達経路を示すスケルトン図であり、図4は図3の無段変速機におけるワンウェイクラッチの係合時を示す図で、(a)はローモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図、(b)はハイモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図である。なお、図3(b)及び(c)、図4(a)及び(b)において、太線部分はトルク伝達する伝達経路を示すものである。また、本第2の実施の形態においては、変更部分を除き、第1の実施の形態と同様な部分に同符号を付して、その説明を省略する。
【0056】
本第2の実施の形態に係る無段変速機1は、図3(b)に示すように、出力ディスク12の外周側に中空軸116が配設されており、該中空軸116が動力循環機構としてのプラネタリギヤ部122の第1のサンギヤS1に接続されていると共に、反転ギヤ機構130の第2のサンギヤS2に接続されている。該プラネタリギヤ部122は、該第1のサンギヤS1と、互いに噛合する2個のピニオンP1,P2を回転自在に支持する第1のキャリヤC1と、第1のリングギヤR1とを有するダブルピニオンプラネタリギヤからなり、該第1のキャリヤC1が入力軸2に接続されている。そして、第1のリングギヤR1は、後述の反転ギヤ機構130の内周側に配設されたロークラッチLの入力側部材41に接続されており、ロー・ハイ切換え機構40のロークラッチLを介して出力軸3に接続される。
【0057】
一方、反転ギヤ機構130は、上記中空軸116に接続された第2のサンギヤS2と、互いに噛合する2個のピニオンP3,P4を回転自在に支持する第2のキャリヤC2と、第2のリングギヤR2とを有するダブルピニオンプラネタリギヤからなり、該第2のリングギヤR2は、ミッションケース5に接続されて、常時回転が固定されている。そして、該第2のキャリヤC2は、ロー・ハイ切換え機構40のハイクラッチHに入力側部材42を介して接続されており、該ハイクラッチHを介して出力軸3に接続される。
【0058】
そして、本第2の実施の形態に係る無段変速機1においても、内周側に配置されたロークラッチLの入力側部材41と、外周側に配置された上述のハイクラッチHの入力側部材42との間に介在して、ワンウェイクラッチFが配設されている。
【0059】
これにより、ローモード状態においては、図3(a)及び(b)に示すように、第1のサンギヤS1にバリエータ出力回転Voutが入力され、プラネタリギヤ部122において、第1のキャリヤC1に入力される入力軸2の回転と第1のサンギヤS1のバリエータ出力回転Voutとがトルク循環される形で合成されて、第1のリングギヤR1より出力される。この第1のリングギヤR1の出力回転は、バリエータ10の変速比の幅に応じて、減速の逆転回転からニュートラル位置(GNポイント)を介して減速の正転回転までの幅に変速された出力回転OutLとなる。そして、この第1のリングギヤR1の出力回転OutLは、ローモード状態の出力回転として、入力側部材41及びロークラッチLを介して出力軸3に出力される。
【0060】
一方、ハイモード状態においては、図3(a)及び(c)に示すように、バリエータ出力回転Voutが、反転ギヤ機構130の第2のサンギヤS2に入力され、該第2のサンギヤS2に入力された回転は、ケース5に固定された第2のリングギヤR2を介して反転され、第2のキャリヤC2より出力される。そして、この第2のキャリヤC2の出力回転OutHは、ハイモード状態の出力回転として、入力側部材42及びハイクラッチHを介して出力軸3に出力される。
【0061】
このように、本第2の実施の形態に係る無段変速機1は、第1の実施の形態の無段変速機1とは反対に、ローモード時の出力回転OutLを反転することなく出力軸3に伝達する構成であり、ハイモード時の出力回転OutHがバリエータ出力回転Voutに対して反転される構成である。従って、無段変速機1の出力回転は、ローモードのリバース(R)レンジ以外、正回転方向であり、ディファレンシャル装置等で反転されることはない。
【0062】
以上のような第2の実施の形態に係る無段変速機1にあっても、シンクチェンジSCの変速比の付近、即ちバリエータ10の変速比が最も小さくなる付近の状態にあって、車両の外的な要因により入力軸2と出力軸3との回転数変化が生じた場合等に、ハイクラッチHの入力側部材42の回転がロークラッチLの入力側部材41の回転よりも正方向(プラス方向)の回転状態において低回転になろうとする状況が生じることがある。
【0063】
例えば上記ローモード時にあって、入力軸2の回転に対する出力軸3の回転の比(エンジン回転数に対する駆動車輪の速度比)が大きくなり、図3(a)に示すローモードの出力回転OutLの上端より正方向に大きくなろうとすると、プラネタリギヤ部122及び反転ギヤ機構130を介して連動する入力側部材41及び入力側部材42は、互いに回転が近づく形となり、同回転となった時点でワンウェイクラッチFが係合する。
【0064】
このようにローモード時にあってワンウェイクラッチFが係合すると、図4(a)に示すように、上記プラネタリギヤ部122、反転ギヤ機構130、ワンウェイクラッチFによって、シンクチェンジ時の変速比と同じギヤ比の変速段が形成され、バリエータ10によるトルク伝達が行われない状態となる。この状態にあって、エンジンから入力軸2に入力される駆動トルクは、動力循環機構であるプラネタリギヤ部122において、第1のキャリヤC1に入力され、第1のサンギヤS1と第1のリングギヤR1とに分岐され、つまりロークラッチLの入力側部材41と反転ギヤ機構130を介してハイクラッチHの入力側部材42とに分岐されて出力される。
【0065】
これにより、ロークラッチLの入力側部材41には、プラネタリギヤ部122からのトルクT2が入力され、ハイクラッチHの入力側部材42には、反転ギヤ機構130からのトルクT1が入力され、ワンウェイクラッチFを介してトルクT1及びトルクT2が合流されてトルクT3として出力軸3に伝達される。即ち、第1の実施の形態と同様に、該ワンウェイクラッチFは、プラネタリギヤ部122で分岐された一方のトルクT1を伝達するだけで足り、該ワンウェイクラッチFが全てのトルクを担持することはない。
【0066】
また、上記ハイモード時にあっても、入力軸2の回転に対する出力軸3の回転の比(エンジン回転数に対する駆動車輪の速度比)が小さくなり、図3(a)に示すハイモードの出力回転OutHの下端より正方向にあって小さくなろうとすると、プラネタリギヤ部122及び反転ギヤ機構130を介して連動する入力側部材41及び入力側部材42は、互いに回転が近づく形となり、同回転となった時点でワンウェイクラッチFが係合する。
【0067】
このようにハイモード時にあってワンウェイクラッチFが係合した場合も、図4(b)に示すように、上記プラネタリギヤ部122、反転ギヤ機構130、ワンウェイクラッチFによって、シンクチェンジ時の変速比と同じギヤ比の変速段が形成され、バリエータ10によるトルク伝達が行われない状態となる。この状態にあっても、上述のローモード時と同様に、エンジンから入力軸2に入力される駆動トルクは、動力循環機構であるプラネタリギヤ部122において、第1のキャリヤC1に入力され、第1のサンギヤS1と第1のリングギヤR1とに分岐され、つまりロークラッチLの入力側部材41と反転ギヤ機構130を介してハイクラッチHの入力側部材42とに分岐されて出力される。
【0068】
この場合も、ロークラッチLの入力側部材41には、プラネタリギヤ部122からのトルクT2が入力され、ハイクラッチHの入力側部材42には、反転ギヤ機構130からのトルクT1が入力され、ワンウェイクラッチFを介してトルクT1及びトルクT2が合流されて、エンジントルクにギヤ比を乗算したトルクT4として出力軸3に伝達される。そして、この場合のワンウェイクラッチFは、プラネタリギヤ部122で分岐された一方のトルクT2を伝達するだけで足り、該ワンウェイクラッチFが全てのトルクを担持することはない。
【0069】
以上のような本無段変速機1にあっても、ワンウェイクラッチFを、動力循環機構であるプラネタリギヤ部122とロー・ハイ切換え機構40との間に備えたので、バリエータ10がその変速比幅を超えようとする状態であって、ワンウェイクラッチFが係合してバリエータ10がトルク伝達を行わない状態となった際に、プラネタリギヤ部122を介してロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とに動力伝達経路を分岐することができ、該ワンウェイクラッチFがその分岐された一方の動力伝達経路のトルク分を担持するだけで足りるように構成することができる。これにより、使用頻度の少ないワンウェイクラッチFをトルク容量として小さいものにすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0070】
また、上述のようなワンウェイクラッチFが係合する状態は、ロー・ハイ切換え機構40によるローモードとハイモードとの切換え時に、バリエータ10の変速方向を反転するため、反転しないものに比して生じ易いが、上述したようにトルク容量として小さくて足りるワンウェイクラッチFによって、該バリエータ10の変速比幅を超えることの防止を図ることができる。これは、特にワンウェイクラッチFが反転ギヤ機構130よりも出力軸3側に備えられていることで、ロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とが互いに正逆反対の回転で近いていき、その同回転となる状態でワンウェイクラッチFの係合を行うことができる。これにより、ロークラッチLの入力側部材41の回転の上限とハイクラッチHの入力側部材42の回転の下限とを該ワンウェイクラッチFで規制することができる。
【0071】
<第3の実施の形態>
ついで、上記第1及び第2の実施の形態を一部変更した第3の実施の形態について図5及び図6に沿って説明する。図5は第3の実施の形態に係る無段変速機を示す図で、(a)は速度線図、(b)ローモード時の伝達経路を示すスケルトン図、(c)はハイモード時の伝達経路を示すスケルトン図であり、図6は図5の無段変速機におけるワンウェイクラッチの係合時を示す図で、(a)はローモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図、(b)はハイモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図である。なお、図5(b)及び(c)、図6(a)及び(b)において、太線部分はトルク伝達する伝達経路を示すものである。また、本第3の実施の形態においては、変更部分を除き、第1及び第2の実施の形態と同様な部分に同符号を付して、その説明を省略する。
【0072】
本第3の実施の形態に係る無段変速機1は、図5(b)に示すように、バリエータ10の代わりにベルト式無段変速装置(CVT)210を用いたものであり、入力軸202及びベルト式無段変速装置(CVT)210のプライマリプーリ211が配設された第1軸と、カウンタ軸235が配設された第2軸と、ベルト式無段変速装置210のセカンダリプーリ212、動力循環機構としてのプラネタリギヤ部222、ロー・ハイ切換え機構40、及び出力軸203が配設された第3軸と、の3軸状に構成されている。
【0073】
上記入力軸202は、上記プライマリプーリ211に接続されており、該プライマリプーリ211とセカンダリプーリ212とには、これら両プーリに挟持されるベルト213が掛け渡されている。プライマリプーリ211及びセカンダリプーリ212は、それぞれ固定シーブと、該固定シーブに対して第1軸及び第3軸方向に可動し得る可動シーブとを有しており、不図示の油圧制御装置の油圧制御によって固定シーブに対する可動シーブの位置(距離)を制御することによりベルト213の挟持半径をそれぞれ変更し、それによって、ベルト式無段変速装置210(回転軸216の出力回転)を、図5(a)のCVT出力回転Voutで示す変速比幅で変速する。
【0074】
一方、上記入力軸202上には、第1のギヤ231が配設されており、該第1のギヤ231は、ケース(不図示)に対して回転自在に支持されたカウンタ軸235上に配設された第2のギヤ232に噛合している。また、第2のギヤ232は、上記回転軸216に回転自在に支持された第3のギヤ233に噛合しており、該第3のギヤ233は、動力循環機構及び反転機構としてのプラネタリギヤ部222のキャリヤCに連結されている。
【0075】
動力循環機構及び反転機構として機能するプラネタリギヤ部222は、上記回転軸216に接続されたサンギヤSと、上述の第3のギヤ233に連結されると共に該サンギヤSに噛合するピニオンPを回転自在に支持するキャリヤCと、該ピニオンPに噛合するリングギヤRとを有するシングルピニオンプラネタリギヤからなる。該リングギヤRは、ロー・ハイ切換え機構40のロークラッチLの入力側部材41に接続されており、該ロークラッチLを介して出力軸203に接続される。また、サンギヤS及び回転軸216は、ハイクラッチHの入力側部材42に接続されており、該ハイクラッチHを介して出力軸203に接続される。
【0076】
そして、本第3の実施の形態に係る無段変速機1においても、外周側に配置されたロークラッチLの入力側部材41と、内周側に配置された上述のハイクラッチHの入力側部材42との間に介在して、ワンウェイクラッチFが配設されている。
【0077】
これにより、ローモード状態においては、図5(a)及び(b)に示すように、サンギヤSにCVT出力回転Voutが入力され、プラネタリギヤ部222において、キャリヤCに入力される入力軸202の回転とサンギヤSのCVT出力回転Voutとがトルク循環される形で合成されて、リングギヤRより出力される。このリングギヤRの出力回転は、ベルト式無段変速装置210の変速比の幅に応じて、減速の逆転回転からニュートラル位置(GNポイント)を介して減速の正転回転までの幅に変速された出力回転OutLとなる。そして、このリングギヤRの出力回転OutLは、ローモード状態の出力回転として、入力側部材41及びロークラッチLを介して出力軸203に出力される。
【0078】
一方、ハイモード状態においては、図5(a)及び(c)に示すように、CVT出力回転Voutが、回転軸216より出力回転OutHとして出力され、そのままハイモード状態の出力回転として、入力側部材42及びハイクラッチHを介して出力軸203に出力される。
【0079】
なお、本第3の実施の形態に係る無段変速機1は、ローモード時の出力回転OutLを反転して出力軸203に伝達する構成であり、ハイモード時の出力回転OutHがCVT出力回転Voutを反転せずにそのまま伝達する構成である。しかしながら、特に本無段変速機1は、例えばFFタイプの車両に用いて好適であって、第1軸乃至第3軸が車両の左右方向となるように搭載されて用いることができるため、エンジン及び本無段変速機1の左右の搭載方向によって、例えばさらに第4軸を設けて反転する等して、正負反転した回転をディファレンシャル装置や駆動車輪に伝達するようにすることが考えられる。
【0080】
以上のような第3の実施の形態に係る無段変速機1にあっても、シンクチェンジSCの変速比の付近、即ちベルト式無段変速装置210の変速比が最も小さくなる付近の状態にあって、車両の外的な要因により入力軸202と出力軸203との回転数変化が生じた場合等に、ハイクラッチHの入力側部材42の回転がロークラッチLの入力側部材41の回転よりも正方向(プラス方向)の回転状態において低回転になろうとする状況が生じることがある。
【0081】
例えば上記ローモード時にあって、入力軸202の回転に対する出力軸203の回転の比(エンジン回転数に対する駆動車輪の速度比)が大きくなり、図5(a)に示すローモードの出力回転OutLの上端より正方向に大きくなろうとすると、プラネタリギヤ部222を介して連動する入力側部材41及び入力側部材42は、互いに回転が近づく形となり、同回転となった時点でワンウェイクラッチFが係合する。なお、本第3の実施の形態においては、このワンウェイクラッチFの係合によって、ベルト式無段変速装置210がその変速比幅を超えてしまうことを防止し、これにより、両プーリ211,212に対するベルト213のスリップやそれらプーリ211,212からのベルト213の脱落を防止することができる。
【0082】
このようにローモード時にあってワンウェイクラッチFが係合すると、図6(a)に示すように、上記プラネタリギヤ部222、及びワンウェイクラッチFによって、シンクチェンジ時の変速比と同じギヤ比の変速段が形成され、ベルト式無段変速装置210によるトルク伝達が行われない状態となる。この状態にあって、エンジンから入力軸202に入力される駆動トルクは、動力循環機構でもあるプラネタリギヤ部222において、キャリヤCに入力され、サンギヤSとリングギヤRとに分岐され、つまりロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とに分岐されて出力される。
【0083】
これにより、ロークラッチLの入力側部材41には、プラネタリギヤ部222のリングギヤRからのトルクT1が入力され、ハイクラッチHの入力側部材42には、プラネタリギヤ部222のサンギヤSからのトルクT2が入力され、ワンウェイクラッチFを介してトルクT1及びトルクT2が合流されてトルクT3として出力軸203に伝達される。即ち、第1及び第2の実施の形態と同様に、該ワンウェイクラッチFは、プラネタリギヤ部222で分岐された一方のトルクT2を伝達するだけで足り、該ワンウェイクラッチFが全てのトルクを担持することはない。
【0084】
また、上記ハイモード時にあっても、入力軸202の回転に対する出力軸203の回転の比(エンジン回転数に対する駆動車輪の速度比)が小さくなり、図5(a)に示すハイモードの出力回転OutHの下端より正方向にあって小さくなろうとすると、プラネタリギヤ部222を介して連動する入力側部材41及び入力側部材42は、互いに回転が近づく形となり、同回転となった時点でワンウェイクラッチFが係合する。なお、これにより上述したように、ベルト式無段変速装置210がその変速比幅を超えてしまうことを防止し、両プーリ211,212に対するベルト213のスリップやそれらプーリ211,212からのベルト213の脱落が防止される。
【0085】
このようにハイモード時にあってワンウェイクラッチFが係合した場合も、図6(b)に示すように、上記プラネタリギヤ部222、及びワンウェイクラッチFによって、シンクチェンジ時の変速比と同じギヤ比の変速段が形成され、ベルト式無段変速装置210によるトルク伝達が行われない状態となる。この状態にあっても、上述のローモード時と同様に、エンジンから入力軸202に入力される駆動トルクは、動力循環機構でもあるプラネタリギヤ部222において、キャリヤCに入力され、サンギヤSとリングギヤRとに分岐され、つまりロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とに分岐されて出力される。
【0086】
この場合も、ロークラッチLの入力側部材41には、プラネタリギヤ部222のリングギヤRからのトルクT1が入力され、ハイクラッチHの入力側部材42には、プラネタリギヤ部222のサンギヤSからのトルクT2が入力され、ワンウェイクラッチFを介してトルクT1及びトルクT2が合流されて、エンジントルクにギヤ比を乗算したトルクT4として出力軸203に伝達される。そして、この場合のワンウェイクラッチFは、プラネタリギヤ部222で分岐された一方のトルクT1を伝達するだけで足り、該ワンウェイクラッチFが全てのトルクを担持することはない。
【0087】
以上のような本無段変速機1にあっても、ワンウェイクラッチFを、動力循環機構であるプラネタリギヤ部222とロー・ハイ切換え機構40との間に備えたので、ベルト式無段変速装置210がその変速比幅を超えようとする状態であって、ワンウェイクラッチFが係合してベルト式無段変速装置210がトルク伝達を行わない状態となった際に、プラネタリギヤ部222を介してロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とに動力伝達経路を分岐することができ、該ワンウェイクラッチFがその分岐された一方の動力伝達経路のトルク分を担持するだけで足りるように構成することができる。これにより、使用頻度の少ないワンウェイクラッチFをトルク容量として小さいものにすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0088】
また、上述のようなワンウェイクラッチFが係合する状態は、ロー・ハイ切換え機構40によるローモードとハイモードとの切換え時に、ベルト式無段変速装置210の変速方向を反転するため、反転しないものに比して生じ易いが、上述したようにトルク容量として小さくて足りるワンウェイクラッチFによって、該ベルト式無段変速装置210の変速比幅を超えることの防止を図ることができる。これは、特にワンウェイクラッチFが反転機構でもあるプラネタリギヤ部222よりも出力軸3側に備えられていることで、ロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42とが互いに正逆反対の回転で近いていき、その同回転となる状態でワンウェイクラッチFの係合を行うことができる。これにより、ロークラッチLの入力側部材41の回転の上限とハイクラッチHの入力側部材42の回転の下限とを該ワンウェイクラッチFで規制することができる。
【0089】
さらに、本第3の実施の形態に係る無段変速機1においても、ワンウェイクラッチFにおいてアウターレースにスプラグ機構が配設されており、ロークラッチLの入力側部材41がハイクラッチHの入力側部材42よりも外周側に配設されて、該アウターレースがロークラッチLの入力側部材41に、該インナーレースがハイクラッチHの入力側部材42に接続されているので、つまりスプラグ機構がハイクラッチHの入力側部材42に比して低回転となるロークラッチLの入力側部材41に対して配設されることになり、スプラグ機構に対する遠心力を低減することができる。一般にワンウェイクラッチFは、例えば遠心力によりスプラグが起き上がって引き摺りが増すタイプ、又は、例えば遠心力によりスプラグがインナーレースから離れて噛み合い性が低下するタイプ、のどちらかであるが、どちらのタイプであっても、遠心力を低減することができるので、引き摺りの低減や噛み合い性の向上を図ることができる。
【0090】
また、本無段変速機1のように、ローモードにあってギヤニュートラルを含む動力循環モードを形成するものにあっては、ロークラッチLの入力側部材41の回転数の変化幅が、図5(a)に示す出力回転OutLのように、ニュートラルを挟んだ正逆回転における低回転の変化幅であるので、例えば入力回転に対して一定比で回転する部材(つまり入力軸2に対して常に一定のギヤ比で回転する部材)にアウターレースを配設した場合(本実施の形態においては、第3のギヤ233とキャリヤCとを連結する部材にアウターレースを配設する場合も考えられる)に比しても、停車時や発進時はアウターレースがニュートラル乃至僅かな回転数となるため、スプラグ機構に生じる遠心力を大幅に低減することができる。
【0091】
なお、以上説明した第1乃至第3の実施の形態に係る本無段変速機1においては、ワンウェイクラッチFをロークラッチLの入力側部材41とハイクラッチHの入力側部材42との間に配設したものを説明したが、動力循環機構とロー・ハイ切換え機構との間における、好ましくは反転機構よりも出力軸3側における、ローモードの回転を伝達する部材とハイモードの回転を伝達する部材との間に介在して配設されていれば、どのようなものであってもよく、つまりワンウェイクラッチFとロー・ハイ切換え機構との間に、その他のギヤ機構や摩擦係合要素(クラッチやブレーキ)等をさらに追加したものであっても、トルクを動力循環機構で分岐してワンウェイクラッチFに入力する点で、本発明の適用範囲内である。
【0092】
また、第1及び第2の実施の形態においては、無段変速装置としてフルトロイダル式無段変速装置を用いたものを一例に説明したが、勿論、ハーフトロイダル式無段変速装置を用いても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】第1の実施の形態に係る無段変速機を示す図で、(a)は速度線図、(b)ローモード時の伝達経路を示すスケルトン図、(c)はハイモード時の伝達経路を示すスケルトン図。
【図2】図1の無段変速機におけるワンウェイクラッチの係合時を示す図で、(a)はローモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図、(b)はハイモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図。
【図3】第2の実施の形態に係る無段変速機を示す図で、(a)は速度線図、(b)ローモード時の伝達経路を示すスケルトン図、(c)はハイモード時の伝達経路を示すスケルトン図。
【図4】図3の無段変速機におけるワンウェイクラッチの係合時を示す図で、(a)はローモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図、(b)はハイモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図。
【図5】第3の実施の形態に係る無段変速機を示す図で、(a)は速度線図、(b)ローモード時の伝達経路を示すスケルトン図、(c)はハイモード時の伝達経路を示すスケルトン図。
【図6】図5の無段変速機におけるワンウェイクラッチの係合時を示す図で、(a)はローモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図、(b)はハイモード時にワンウェイクラッチが係合した際の伝達経路を示すスケルトン図。
【符号の説明】
【0094】
1 無段変速機
2 入力軸
3 出力軸
10 無段変速装置(バリエータ)
22 動力循環機構(プラネタリギヤ部)
30 反転機構(反転ギヤ機構)
40 ロー・ハイ切換え機構
41 ロー伝達部材、ロー係合要素の入力側部材
42 ハイ伝達部材、ハイ係合要素の入力側部材
122 動力循環機構(プラネタリギヤ部)
130 反転機構(反転ギヤ機構)
210 無段変速装置(CVT)
222 動力循環機構、反転機構(プラネタリギヤ部)
F 一方向回転規制手段、ワンウェイクラッチ
L ロー係合要素、ロークラッチ
H ハイ係合要素、ハイクラッチ
Vout 無段変速装置の出力回転


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に接続し得る入力軸と、前記入力軸の入力回転を無段変速し得る無段変速装置と、前記入力軸の入力回転と前記無段変速装置の出力回転とを合成することで動力循環する動力循環機構と、ロー係合要素とハイ係合要素との係合状態によってローモード又はハイモードに切換えし得るロー・ハイ切換え機構と、前記ロー係合要素又は前記ハイ係合要素を介した回転を出力する出力軸と、を備え、
通常の変速動作にあって、前記ローモードの際に前記動力循環機構を介した合成回転に基づく出力となる動力循環モードを形成し、前記ハイモードの際に前記無段変速装置の出力回転を動力循環することなく出力する非動力循環モードを形成する無段変速機において、
前記ローモード時に動力伝達を行うロー伝達部材と前記ハイモード時に動力伝達を行うハイ伝達部材との間に介在し、前記ハイ伝達部材の回転が前記ロー伝達部材の回転よりも低くなることを規制する一方向回転規制手段を、前記入力軸から前記出力軸までの動力伝達経路上における前記動力循環機構と前記ロー・ハイ切換え機構との間に備えた、
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記無段変速装置の出力回転又は前記動力循環機構の出力回転を反転する反転機構を備え、
前記ローモード及び前記ハイモードの一方で前記反転機構を介した回転を前記出力軸に出力し得るように構成すると共に、前記ローモードと前記ハイモードとの切換えに基づき前記無段変速装置の変速方向を反転してなり、
前記一方向回転規制手段は、前記反転機構よりも前記出力軸側に備えられてなる、
請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
前記ロー係合要素及び前記ハイ係合要素は、それぞれ入力側部材と前記出力軸との回転状態を係脱自在なクラッチからなり、
前記ロー伝達部材は、前記ロー係合要素の入力側部材であり、
前記ハイ伝達部材は、前記ハイ係合要素の入力側部材である、
請求項2記載の無段変速機。
【請求項4】
前記ロー伝達部材が、前記ハイ伝達部材よりも外周側に配設されてなり、
前記一方向回転規制手段は、アウターレースに、インナーレースに係合し得るスプラグ機構が配設されたワンウェイクラッチからなり、
前記ワンウェイクラッチのアウターレースが前記ロー伝達部材に、前記ワンウェイクラッチのインナーレースが前記ハイ伝達部材に接続されてなる、
請求項1ないし3のいずれか記載の無段変速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−69941(P2008−69941A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251656(P2006−251656)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【出願人】(301037257)トロトラック・(ディベロップメント)・リミテッド (13)
【Fターム(参考)】