説明

無線タグ通信装置

【課題】マルチパスの発生し得る環境において好適に無線タグの方向を検出する無線タグ通信装置を提供する。
【解決手段】送信アレイアンテナの指向性を制御する送信PAA制御部58と、受信アレイアンテナの指向性を制御する受信ウェイト処理部60と、送信アレイアンテナの指向性及び/又は受信アレイアンテナの指向性を変化させて無線タグとの通信感度が極大となる方向に基づいて無線タグの方向を予備検出する方向予備検出部64と、送信アレイアンテナの指向性の中心方向が方向予備検出部64により予備検出された方向となるように制御すると共に、受信アレイアンテナの指向性を変化させて無線タグとの通信感度が極小となる方向に基づいて無線タグの方向を本検出する方向検出部66とを、備えたものであることから、対象となる無線タグとの間で確実な通信を実現しつつその方向を好適に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線にて情報の書き込みや読み出しができる無線タグとの間で通信を行う無線タグ通信装置に関し、特に、通信対象である無線タグの方向を検出する技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の情報が記憶された小型の無線タグ(応答器)から所定の無線タグ通信装置(質問器)により非接触にて情報の読み出しを行うRFID(Radio Frequency Identification)システムが知られている。このRFIDシステムは、無線タグが汚れている場合や見えない位置に配置されている場合であっても無線タグ通信装置との通信によりその無線タグに記憶された情報を読み出すことが可能であることから、商品管理や検査工程等の様々な分野において実用が期待されている。
【0003】
斯かる無線タグ通信装置の一利用形態として、通信対象である無線タグとの通信の指向性を変化させることによりその無線タグの方向を検知する技術が知られている。例えば、一般的なBFA(Beam Forming Antenna)処理や、MUSIC法やESPRIT法等を用いた方向検知技術がそれである。しかし、BFA処理による方向検知では計算量が少なくて済む反面、分解能が低く通信対象である無線タグの方向を詳細に検出できないという不具合があった。また、MUSIC法やESPRIT法等、分解能が高い方向検知では、処理が複雑であり計算量が多くなるという弊害があった。そこで、通信感度が極小となる方向に基づいて電波の到来方向を推定するヌル走査方式を用いた技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたタグ通信装置がそれである。
【0004】
【特許文献1】特開2006−10345号公報
【0005】
ところで、前記無線タグ通信システムが適用される環境によっては、障害物に起因する反射や回折等により複数の電波受信経路が形成される所謂マルチパス(multipass)が発生する可能性がある。しかし、前記従来の技術では、前記無線タグ通信装置により斯かるマルチパスによる電波すなわち反射波が受信された場合、その反射波と直接波との信号強度の差が小さいことから、対象となる無線タグの方向検出が困難になるという弊害があった。また、ヌル走査方式により無線タグの存在する方向を検出する場合、ヌル方向においては通信感度が比較的低下することから、対象となる無線タグとの間で好適な通信を行うことができなくなり、複数の方向が検出される可能性があった。すなわち、マルチパスの発生し得る環境において好適に無線タグの方向を検出する無線タグ通信装置の開発が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、マルチパスの発生し得る環境において好適に無線タグの方向を検出する無線タグ通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、複数のアンテナ素子を有する送信アレイアンテナにより所定の無線タグに向けて送信信号を送信すると共に、その無線タグから返信される返信信号を複数のアンテナ素子を有する受信アレイアンテナにより受信してその無線タグとの間で情報の通信を行う無線タグ通信装置であって、前記送信アレイアンテナの送信指向性を制御する送信指向性制御部と、前記受信アレイアンテナの受信指向性を制御する受信指向性制御部と、前記送信指向性制御部及び/又は受信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記無線タグとの通信感度が極大となる方向に基づいてその無線タグの方向を予備検出する方向予備検出部と、前記送信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性の中心方向が前記方向予備検出部により予備検出された方向となるように制御すると共に、前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記無線タグとの通信感度が極小となる方向に基づいてその無線タグの方向を本検出する方向検出部とを、備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記送信アレイアンテナの送信指向性を制御する送信指向性制御部と、前記受信アレイアンテナの受信指向性を制御する受信指向性制御部と、前記送信指向性制御部及び/又は受信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記無線タグとの通信感度が極大となる方向に基づいてその無線タグの方向を予備検出する方向予備検出部と、前記送信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性の中心方向が前記方向予備検出部により予備検出された方向となるように制御すると共に、前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記無線タグとの通信感度が極小となる方向に基づいてその無線タグの方向を本検出する方向検出部とを、備えたものであることから、予備検出された無線タグの存在する方向に送信指向性を向けると共に、その方向に対応して受信指向性におけるヌル走査を行うことで、対象となる無線タグが確実に動作した状態を保ったまま、その無線タグの存在する方向を好適に検出することができる。すなわち、マルチパスの発生し得る環境において好適に無線タグの方向を検出する無線タグ通信装置を提供することができる。
【0009】
ここで、好適には、前記受信アレイアンテナにより受信される受信信号の信号強度を検出する信号強度検出部を備え、前記方向予備検出部は、前記送信指向性制御部及び/又は受信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記信号強度検出部により検出される受信信号の信号強度が極大となる方向に基づいてその無線タグの方向を予備検出するものであり、前記方向検出部は、前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記信号強度検出部により検出される受信信号の信号強度が極小となる方向に基づいて前記無線タグの方向を本検出するものである。このようにすれば、実用的な態様で対象となる無線タグの存在する方向の予備検出及び本検出を行うことができる。
【0010】
また、好適には、前記方向検出部は、前記方向予備検出部により前記無線タグとの通信感度が極大となる方向が複数検出された場合には、前記送信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性の中心方向が順次それら複数の方向となるように制御すると共に、それぞれの方向に対応して前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記無線タグとの通信感度が極小となる方向に基づいてその無線タグの方向を本検出するものである。このようにすれば、マルチパスが形成された場合であっても、パスが最も短く返答信号が強い直接波方向に指向性ヌル方向が向くため、好適に無線タグの方向を検出することができる。
【0011】
また、好適には、前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際、対象となる無線タグを指定してその無線タグとの間で通信を行うものである。このようにすれば、通信の重畳が発生するのを好適に防止することができる。
【0012】
また、好適には、前記方向検出部は、前記方向予備検出部により複数の無線タグが検出された場合には、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際、対象となる無線タグを順次指定して前記複数の無線タグとの間で通信を行うものである。このようにすれば、通信の重畳が発生するのを好適に防止できると共に、予備検出された複数の無線タグそれぞれの存在する方向を好適に検出することができる。
【0013】
また、好適には、前記方向検出部は、前記方向予備検出部により少なくとも1つの無線タグが検出された場合にのみ、その無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させるものである。このようにすれば、不要なヌル走査が行われるのを避けることができる。
【0014】
また、好適には、前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際、その受信アレイアンテナに備えられた複数のアンテナ素子のうち2つのアンテナ素子により対象となる無線タグとの間の通信を行うものである。このようにすれば、受信指向性制御の自由度が1となり、受信信号が最も大きい方向にのみ指向性を向けることができる。
【0015】
また、好適には、前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる制御を、ディジタル信号処理により行うものである。このようにすれば、例えばディジタル信号に変換された受信信号をメモリに記憶しておき、その受信信号を読み出して処理を行うことで、対象となる無線タグとの間で繰り返し通信を行うことなく好適にヌル走査を行うことができる。
【0016】
また、好適には、前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際の通信においては、前記方向予備検出部による前記無線タグとの間の通信と略等しい周波数の送信信号を用いるものである。このようにすれば、予備検出と本検出とで送信信号の周波数を略等しくすることでマルチパスの状態に変化が生じず、タグが確実に応答する状態で本検出が行なえることから、対象となる無線タグの存在する方向を更に好適に検出することができる。
【0017】
また、好適には、前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際の通信において、前記方向予備検出部による前記無線タグとの間の通信と等しい周波数の送信信号を用いての第1の通信と、その周波数とは異なる周波数の送信信号を用いての第2の通信とを行い、それら第1の通信結果及び第2の通信結果に基づいて対象となる無線タグの方向を本検出するものである。このようにすれば、マルチパス状態の変化に起因して対象となる無線タグが応答しない可能性を踏まえて、その無線タグの存在する方向を更に好適に検出することができる。
【0018】
また、好適には、前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際の通信においては、前記方向予備検出部による前記無線タグとの間の通信よりも強度の大きな送信信号を用いるものである。このようにすれば、予備検出よりも送信出力を大きくすることで、本検出における対象となる無線タグからの応答をより確実なものとすることができる。
【0019】
また、好適には、前記送信アレイアンテナ及び受信アレイアンテナは、一部乃至は全部のアンテナ素子を共有するものである。このようにすれば、装置の構成を可及的に簡単なものとすることができる。
【0020】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明の無線タグ通信装置が好適に用いられる無線タグ通信システム10を説明する図である。この無線タグ通信システム10は、本発明の一実施例である無線タグ通信装置12と、その無線タグ通信装置12の通信対象である単数乃至は複数(図1では単数)の無線タグ14とから構成される所謂RFID(Radio Frequency Identification)システムであり、上記無線タグ通信装置12はそのRFIDシステムの質問器として、上記無線タグ14は応答器としてそれぞれ機能する。すなわち、上記無線タグ通信装置12から質問波Fc(送信信号)が上記無線タグ14に向けて送信されると、その質問波Fcを受信した上記無線タグ14において所定の情報信号(データ)によりその質問波Fcが変調され、応答波Fr(返信信号)として上記無線タグ通信装置12に向けて返信されることで、その無線タグ通信装置12と無線タグ14との間で情報の通信が行われる。この無線タグ通信システム10は、例えば、所定の通信領域内における物品の管理等に用いられるものであり、上記無線タグ14は、好適には、管理対象である物品に貼られる等してその物品と一体的に設けられている。
【0022】
図2は、上記無線タグ通信装置12の構成を説明する図である。この図2に示すように、本実施例の無線タグ通信装置12は、上記無線タグ14に対する情報の読み書きや、その無線タグ14の方向検知等を実行するためにその無線タグ14との間で情報の通信を行うものであり、送信データをディジタル信号として出力したり、上記無線タグ14からの返信信号に基づいてその無線タグ14からの応答データを読み出す等のディジタル信号処理を実行するDSP(Digital Signal Processor)16と、上記質問波Fcの送信及び応答波Frの受信に共用される複数(図2では4つ)のアンテナ素子18a、18b、18c、18d(以下、特に区別しない場合には単にアンテナ素子18と称する)と、それら複数のアンテナ素子18の一部乃至は全部から構成される送信アレイアンテナ22(図4を参照)から上記質問波Fcを送信するための送信処理を行うと共に、上記複数のアンテナ素子18の一部乃至は全部から構成される受信アレイアンテナ24(図6を参照)により受信される受信信号の受信処理を行う送受信回路20とを、備えて構成されている。
【0023】
上記送受信回路20は、前記質問波Fcの搬送波に対応する所定の周波数信号を出力させる搬送波出力部26と、各アンテナ素子18に対応してその搬送波出力部26から出力された周波数信号に上記DSP16から供給される送信データを乗算する複数(図2では4つ)の送信データ乗算部28a、28b、28c、28d(以下、特に区別しない場合には単に送信データ乗算部28と称する)と、上記DSP16から供給される指令値に応じて各送信データ乗算部28から出力される信号の位相を制御する複数(図4では4つ)の送信移相部30a、30b、30c、30d(以下、特に区別しない場合には単に送信移相部30と称する)と、各送信移相部30から出力される信号を増幅する複数(図4では4つ)の送信増幅部32a、32b、32c、32d(以下、特に区別しない場合には単に送信増幅部32と称する)と、各送信増幅部32から出力される信号を対応するアンテナ素子18に供給すると共に、各アンテナ素子18により受信された受信信号を対応する直交変換部38へ供給する複数(図2では4つ)の送受信分離部34a、34b、34c、34d(以下、特に区別しない場合には単に送受信分離部34と称する)と、各アンテナ素子18と対応する送受信分離部34との間に設けられて所定の周波数帯域の信号を通過させる複数(図2では4つ)のフィルタ36a、36b、36c、36d(以下、特に区別しない場合には単にフィルタ36と称する)とを、備えている。なお、上記送受信分離部34としては、通常、方向性結合器又はサーキュレータ等が好適に用いられる。
【0024】
また、前記送受信回路20は、各アンテナ素子18により受信された受信信号をI相信号(同相成分)及びQ相信号(直交成分)に変換する複数(図2では4つ)の直交変換部38a、38b、38c、38d(以下、特に区別しない場合には単に直交変換部38と称する)と、各直交変換部38から出力されるI相信号を増幅する複数(図2では4つ)のI相増幅部40a、40b、40c、40d(以下、特に区別しない場合には単にI相増幅部40と称する)と、各I相増幅部40から出力されるI相信号をディジタル信号に変換して前記DSP16へ供給する複数のI相A/D変換部42a、42b、42c、42d(以下、特に区別しない場合には単にI相A/D変換部42と称する)と、各直交変換部38から出力されるQ相信号を増幅する複数(図2では4つ)のQ相増幅部44a、44b、44c、44d(以下、特に区別しない場合には単にQ相増幅部44と称する)と、各Q相増幅部44から出力されるQ相信号をディジタル信号に変換して前記DSP16へ供給する複数のQ相A/D変換部46a、46b、46c、46d(以下、特に区別しない場合には単にQ相A/D変換部46と称する)とを、備えている。
【0025】
前記DSP16は、CPU、ROM、及びRAM等から成り、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う所謂マイクロコンピュータであり、各I相A/D変換部42及びQ相A/D変換部46から供給される信号を記憶する受信メモリ部48を備えている。また、前記無線タグ14との間の情報の通信制御及びその無線タグ14の方向検出制御等を行うための制御機能として、送信ビット列生成部50、符号化部52、復号部54、返答ビット列解釈部56、送信PAA(Phased Array Antenna)制御部58、受信ウェイト処理部60、信号強度検出部62、方向予備検出部64、方向検出部66、及び搬送波制御部68を備えている。
【0026】
上記送信ビット列生成部50は、前記無線タグ14への送信信号に対応するコマンドビット列を生成する。また、上記符号化部52は、上記送信ビット列生成部50により生成されたビット列をFSK方式等により符号化して各送信データ乗算部28へ供給する。また、上記復号部54は、上記受信ウェイト処理部60によってウェイトが処理された受信信号をFSK方式等により復号する。また、上記返答ビット列解釈部56は、上記復号部54により復号された信号を解釈して前記無線タグ14の変調に関する情報信号(応答データ)を読み出す。
【0027】
前記送信PAA制御部58は、前記複数の送信移相部30へ指令値を供給して各送信移相部30における移相量を制御する。斯かる指令値により、それら送信移相部30を介して各アンテナ素子18に供給される信号の位相を制御することで、それらアンテナ素子18の一部乃至は全部(好適には全部)から成る送信アレイアンテナ22のフェイズドアレイ制御を行う。すなわち、前記送信PAA制御部58は、前記送信アレイアンテナ22の送信指向性を制御する送信指向性制御部として機能する。
【0028】
前記受信ウェイト処理部60は、前記受信メモリ部48から読み出される各アンテナ素子18により受信された受信信号に対応するI相信号及びQ相信号の位相及び/又は振幅を制御することにより、前記複数のアンテナ素子18の一部乃至は全部(好適には2つ)から成る受信アレイアンテナ24のアダプティブアレイ制御又はフェイズドアレイ制御を行う。すなわち、前記受信ウェイト処理部60は、前記受信アレイアンテナ24の受信指向性をディジタル信号処理により制御する受信指向性制御部として機能する。
【0029】
前記信号強度検出部62は、前記受信アレイアンテナ24により受信される受信信号の信号強度を検出する。具体的には、前記受信メモリ部48から読み出されて前記受信ウェイト処理部60により位相及び/又は振幅が制御されたI相信号及びQ相信号に基づいて、斯かるI相信号及びQ相信号に対応する受信信号の信号強度を算出する。
【0030】
前記方向予備検出部64は、前記送信PAA制御部58及び/又は受信ウェイト処理部60により前記送信アレイアンテナ22の送信指向性及び/又は受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記無線タグ14との通信感度が極大となる方向に基づいてその無線タグ14の方向を予備検出する。また、前記方向検出部66は、前記送信PAA制御部58により前記送信アレイアンテナ22の送信指向性の中心方向(メインローブ方向)が前記方向予備検出部64により予備検出された方向となるように制御すると共に、前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記無線タグ14との通信感度が極小となる方向に基づいてその無線タグ14の方向を本検出する。これら方向予備検出部64による前記無線タグ14の方向の予備検出制御及び方向検出部66による前記無線タグ14の方向の本検出制御については、図4乃至図7等を用いて後述する。
【0031】
前記搬送波制御部68は、前記搬送波出力部26による搬送波の出力を制御する。具体的には、斯かる搬送波出力部26に指令値を供給することで、その搬送波出力部26から出力される搬送波の周波数及び/又は強度を制御する。この搬送波の周波数及び強度は、前記送信アレイアンテナ22から送信される送信信号の周波数及び強度に対応するものであるため、前記搬送波制御部68は、換言すれば、前記送信アレイアンテナ22から送信される送信信号の周波数及び/又は強度を制御するものである。
【0032】
図3は、前記無線タグ14に備えられた無線タグ回路素子72の構成を説明する図である。この図3に示すように、斯かる無線タグ回路素子72は、前記無線タグ通信装置12との間で信号の送受信を行うためのアンテナ部74と、そのアンテナ部74に接続されて前記無線タグ通信装置12との間の情報通信処理を行うためのIC回路部76とを、備えて構成されている。そのIC回路部76は、上記アンテナ部74により受信された前記無線タグ通信装置12からの質問波Fcを整流する整流部78と、その整流部78により整流された質問波Fcのエネルギを蓄積するための電源部80と、上記アンテナ部74により受信された搬送波からクロック信号を抽出して制御部88に供給するクロック抽出部82と、所定の情報信号を記憶し得る情報記憶部として機能するメモリ部84と、上記アンテナ部74に接続されて信号の変調及び復調を行う変復調部86と、上記整流部78、クロック抽出部82、及び変復調部86等を介して上記無線タグ回路素子72の作動を制御するための制御部88とを、機能的に含んでいる。この制御部88は、前記無線タグ通信装置12と通信を行うことにより上記メモリ部84に上記所定の情報を記憶する制御や、上記アンテナ部74により受信された質問波Fcを上記変復調部86において上記メモリ部84に記憶された情報信号に基づいて変調したうえで応答波Frとして上記アンテナ部74から反射返信する制御等の基本的な制御を実行する。
【0033】
図4は、前記送信PAA制御部58による前記送信アレイアンテナ22の送信指向性制御について説明する図であり、θを送信アレイアンテナ22の正面方向と成す角度として、θ=40[°]の方向に通信対象である無線タグ14が位置する場合を例示している。この図4に示すように、前記送信アレイアンテナ22は、好適には、4つの前記アンテナ素子18a、18b、18c、18dから構成されるものであり、前記送信PAA制御部58は、フェイズドアレイ処理により所定の角度毎(図4では30°毎)に送信指向性を変化させる。このような指向性パターンにおいて一般に、通信感度が最大となる部分をメインローブ、その他の極大部分をサイドローブ(図示せず)、ローブ間の極小点(図6を参照)をヌル点とそれぞれ称する。すなわち、前記送信PAA制御部58は、フェイズドアレイ処理により所定の角度毎に送信指向性のメインローブ方向の角度θを変化させる。
【0034】
前記方向予備検出部64は、好適には、上述のように前記送信PAA制御部58により所定角度毎に前記送信アレイアンテナ22の送信指向性を変化させて前記無線タグ14との通信感度が極大となる方向に基づいてその無線タグ14の方向を予備検出する。更に好適には、各送信指向性に対応して前記信号強度検出部62により検出される受信信号の信号強度が極大となる方向に基づいて対象となる無線タグ14の方向を予備検出する。例えば、予め定められたウェイトを順次各送信移相部30に適用することで、図4に示すように、−60乃至60[°]の間で30[°]ずつメインローブ方向を5回変化させて、各メインローブ方向における受信信号強度を検出する。図5は、斯かるメインローブ方向の制御による前記無線タグ14の方向予備検出において、前記送信PAA制御58により制御される送信指向性方向と、前記信号強度検出部62により検出される受信信号強度との関係を示す図である。この図5に示すように、前記信号強度検出部62により検出される受信信号強度は、θ=30[°]において最大となっていることがわかる。ここで、上述したように、通信対象である無線タグ14は、実際にはθ=40[°]の方向に位置する。すなわち、メインローブを制御することによる方向検知では、分解能が低く通信対象である無線タグ14の方向を詳細に検出することは困難であるが、比較的短時間でのその無線タグ14の有無及び大まかな方向検知すなわち予備検出では好適に利用できる。なお、前記方向予備検出部64は、前記受信ウェイト処理部60により所定角度毎に前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記無線タグ14との通信感度が極大となる方向に基づいてその無線タグ14の方向を予備検出するものであってもよい。この場合、前記受信アレイアンテナ24の各アンテナ素子18で受信した受信信号に対し、前記受信ウェイト処理部60において各方向毎に定められたウェイトを乗算した後足し合わせることで受信指向性が変更される。更には、前記送信アレイアンテナ22の送信指向性及び受信アレイアンテナ24の受信指向性を共に変化させて対象となる無線タグ14の方向を予備検出するものであってもよい。
【0035】
図6は、前記受信ウェイト処理部60によりヌルを制御する様子について説明する図であり、図4と同様にθ=40[°]の方向に通信対象である無線タグ14が位置する場合を例示している。この図6に示すように、前記受信アレイアンテナ24は、好適には、2つの前記アンテナ素子18b、18c(或いは18a、18d)から構成されるものであり、前記受信ウェイト処理部60は、アダプティブアレイ処理により斯かる受信アレイアンテナ24の受信指向性におけるヌル方向を所定角度毎(例えば10°毎)に制御する。2つのアンテナ素子18から成る受信アレイアンテナ24では、受信指向性制御の自由度が1となり、ヌル点の方向が1つに定まる。このため、前記受信ウェイト処理部60による受信指向性のヌル方向の制御すなわち前記無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる制御に際しては、前記複数のアンテナ素子18のうち2つのアンテナ素子18により受信アレイアンテナ24を構成するのが好ましい。なお、本実施例において、斯かる受信アレイアンテナ24は、前記受信メモリ部48に記憶された各アンテナ素子18(4つのアンテナ素子18)それぞれに対応する受信信号のうち、対象となるアンテナ素子18(例えば、アンテナ素子18b、18c)に対応する受信信号を読み出すことにより構成される。
【0036】
前記方向検出部66は、好適には、上述のように前記受信ウェイト処理部60により所定角度毎に前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記無線タグとの通信感度が極小となる方向に基づいて該無線タグの方向を本検出する。更に好適には、各受信指向性に対応して前記信号強度検出部62により検出される受信信号の信号強度が極小となる方向に基づいて対象となる無線タグ14の方向を本検出する。また、この本検出における対象となる無線タグ14との間の通信に際して、前記送信PAA制御部58により前記送信アレイアンテナ22の送信指向性の中心方向(メインローブ方向)が前記方向予備検出部64により予備検出された方向となるように制御する。例えば、図6に示すように、前記方向予備検出部64による予備検出において通信感度が最大であったθ=30[°]が送信信号の送信指向性のメインローブ方向となるように制御しつつ、その角度を中心として20乃至40[°]の間(予備検出での誤差範囲)で前述した予備検出による変化角度よりも小さい角度毎、例えば10[°]ずつ角度θを変化(乗算するウェイトを変える)させて前記受信ウェイト処理部60による受信指向性におけるヌル制御を3回行い、通信対象である無線タグ14の詳細な方向を検出する。一般にヌルの特性はメインローブに比べて非常に急峻で狭いため、斯かるヌル方向を制御することにより比較的高い分解能が得られる。この受信指向性のヌル方向の制御に際して、送信指向性のメインローブ方向がそのヌル走査の角度範囲の中心角度方向とされていることで、対象となる無線タグ14との間で確実な通信を実現しつつ詳細にその無線タグ14の存在する方向を検出することができる。図7は、ヌルを制御することによる前記無線タグ14の方向検出において、前記受信ウェイト処理部60により制御される受信指向性方向と、前記信号強度検出部62により検出される受信信号強度との関係を示す図である。この図7に示すように、前記信号強度検出部62により検出される受信信号強度は、θ=40[°]において極小(最小)となっていることがわかり、この方向は通信対象である無線タグ14の位置する方向と一致する。
【0037】
ここで、前記方向検出部66は、好適には、前記方向予備検出部64により前記無線タグ14との通信感度が極大となる方向が複数検出された場合には、前記送信PAA制御部58により前記送信アレイアンテナ22の送信指向性の中心方向が順次それら複数の方向となるように制御すると共に、それぞれの方向に対応して前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記無線タグ14との通信感度が極小となる方向に基づいてその無線タグ14の方向を本検出する。また、好適には、前記方向予備検出部64により複数の無線タグ14が検出された場合には、それら無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる際、通信の重畳が発生するのを防ぐため、対象となる無線タグ14を順次指定してそれら複数の無線タグ14との間で通信を行う。また、好適には、不要なヌル走査が行われるのを避けるため、前記方向予備検出部64により少なくとも1つの無線タグ14が検出された場合にのみ、その無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる。換言すれば、前記方向予備検出部64による予備検出において1つの無線タグ14も検出されなかった場合には、前記方向検出部66によるヌルによる方向検出(本検出)は実行しない。
【0038】
また、前記方向検出部66は、好適には、予備検出と本検出とでマルチパスの状態を変えないようにするために、対象となる無線タグ14との間の通信に用いられる搬送波を制御する。具体的には、本検出すなわち前記無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる際の通信において、前記方向予備検出部64による前記無線タグ14との間の通信と略等しい周波数の送信信号を用いる。すなわち、前記搬送波制御部68を介して、前記搬送波出力部26から出力される搬送波の周波数を予備検出と本検出とで略等しくなるように制御する。好適には、本検出に際しての通信において、前記方向予備検出部64による前記無線タグ14との間の通信と等しい周波数の送信信号を用いての第1の通信と、その周波数と等しい周波数の送信信号を用いての第2の通信とを行い、第2の通信結果に基づいて対象となる無線タグ14の方向を本検出する。また、好適には、本検出における対象となる無線タグからの応答をより確実なものとするために、本検出に際しての通信においては、前記方向予備検出部64による前記無線タグ14との間の通信よりも強度の大きな送信信号を用いる。すなわち、前記搬送波制御部68を介して、本検出に際して前記搬送波出力部26から出力される搬送波の強度が予備検出における強度よりも大きなものとなるように制御する。
【0039】
図8は、前記無線タグ通信装置12のDSP16による無線タグ方向検出制御の要部について説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0040】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記送信アレイアンテナ22の送信指向性及び/又は受信アレイアンテナ24の受信指向性が制御されると共に前記無線タグ14との間の通信が行われ、対象となる無線タグ14の予備検出が行われる。次に、S2において、S1による予備検出において対象となる無線タグ14が検出されたか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が肯定される場合には、S3において、S1の予備検出における前記無線タグ14との通信において受信信号の信号強度が極大となった方向が検出される。次に、SAにおいて、後述する図9に示すようなヌル走査制御が行われる。次に、SBにおいて、後述する図10に示すようなタグ方向決定制御が行われた後、本ルーチンが終了させられる。
【0041】
図9は、上述した図8の無線タグ方向検出制御におけるヌル走査制御の要部を説明するフローチャートである。この制御では、先ず、SA1において、ImaxがS2にて検出された極大方向の数とされると共に、iが1とされる。次に、SA2において、対象となる無線タグ14が指定されてその無線タグ14との間で情報の通信(情報の読み出し)が行われ、その通信における各アンテナ素子18に対応する受信信号(I相信号及びQ相信号)が前記受信メモリ部48に記憶される。この際の無線タグ14との間の通信において、送信信号の送信指向性のメインローブ方向が上述したS2において検出された極大方向となるように制御される。次に、SA2′において、予備検出一方向内における分割数を示すjを0に設定する。次に、SA3において、i番目の極大方向におけるj番目の領域にヌルを向ける受信ウェイトが選択される。次に、SA4において、SA3にて選択された受信ウェイトを適用した場合における受信信号強度(合成信号強度)が算出される。次に、SA4′においてjがJmaxより大きいか否かが判断される。このSA4′の判断が否定される場合には、SA4″において、jに1が加算された後、SA3以下の処理が再び実行されるが、SA4′の判断が肯定される場合は、SA5において、iがImaxより大きいか否かが判断される。このSA5の判断が否定される場合には、SA6において、iに1が加算された後、SA2′以下の処理が再び実行されるが、SA5の判断が肯定される場合には、それをもって図8の無線タグ方向検出制御へ復帰させられる。
【0042】
図10は、前述した図8の無線タグ方向検出制御におけるタグ方向決定制御の要部を説明するフローチャートである。この制御では、先ず、SB1において、SA4において算出された受信信号強度が最小となるときのヌル方向が検出される。次に、SB2において、SB1にて検出されたヌル方向に対応する方向が対象となる無線タグ14の存在する方向として検出された後、図8の無線タグ方向検出制御へ復帰させられる。以上の制御において、S1乃至S3が前記方向予備検出部64の動作に対応する。
【0043】
図11は、前述した図8の無線タグ方向検出制御におけるヌル走査制御の他の一例の要部を説明するフローチャートである。なお、以下の説明において、実施例相互に共通のステップについては同一の符号を付してその説明を省略する。この制御では、先ず、前述したSA2の処理が行われた後、SA7において、J1maxが所定の振幅走査数とされると共に、J1が1とされる。次に、SA8において、J2maxが所定の位相走査数とされると共に、J2が1とされる。次に、SA9において、前記受信アレイアンテナ24を構成するアンテナ素子18に対応するウェイトがJ1∠J2すなわち振幅J1及び位相J2で定義されるウェイトとされる。次に、前述したSA4の処理が行われた後、SA10において、J2がJ2maxより大きいか否かが判断される。このSA10の判断が否定される場合には、SA11において、J2に1が加算された後、SA2以下の処理が再び実行されるが、SA10の判断が肯定される場合には、SA12において、J1がJ1maxより大きいか否かが判断される。このSA12の判断が否定される場合には、SA13において、J1に1が加算された後、前述したSA8以下の処理が再び実行されるが、SA12の判断が肯定される場合には、それをもって図8の無線タグ方向検出制御へ復帰させられる。以上の制御において、SA3及びSA4が前記受信ウェイト処理部60の動作に対応する。
【0044】
図12は、前述した図8の無線タグ方向検出制御におけるタグ方向決定制御の他の一例の要部を説明するフローチャートであり、上述した図11のヌル走査制御に対応して実行されるものである。この制御では、前述したSB1の処理に続いて、SB3において、SB1にて検出されたウェイトを用いた放射パターンが算出される。次に、SB4において、SB3にて算出された放射パターンのヌル方向が対象となる無線タグ14の存在する方向として検出された後、図8の無線タグ方向検出制御へ復帰させられる。このとき、SB1の処理は、所謂PIAA(Power Inversion Adaptive Array)の処理に相当する。
【0045】
図13は、前記無線タグ通信装置12のDSP16による無線タグ方向検出制御の他の一例の要部について説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御では、前述したS3の処理に続いて、S4において、NmaxがS2にて検出された極大方向の数とされると共に、nが1とされる。次に、S5において、S2にて検出された極大方向のうちn番目の極大方向が送信信号の指向性のメインローブ方向となるように制御される。次に、前述したSAの処理が実行された後、S6において、nに1が加算される。次に、S7において、nがNmaxより大きいか否かが判断される。このS7の判断が否定される場合には、上述したS5以下の処理が再び実行されるが、S7の判断が肯定される場合には、前述したSBの処理が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
【0046】
図14は、前記無線タグ通信装置12のDSP16による無線タグ方向検出制御の更に別の一例の要部について説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御では、前述したS2の判断が肯定される場合、すなわち対象となる無線タグ14が検出された場合には、S8において、Mmaxが検出された無線タグ14の個数とされると共に、mが1とされる。次に、S9において、m番目の無線タグ14に対応する受信信号の信号強度が極大となった方向が検出される。次に、S10において、Nmax_mがm番目の無線タグ14に対応して検出された極大方向の数とされると共に、nが1とされた後、前述したS5以下の処理が実行される。また、前述したSBの処理に続いて、S11において、mに1が加算される。次に、S12において、mがMmaxより大きいか否かが判断される。このS12の判断が否定される場合には、上述したS9以下の処理が再び実行されるが、S12の判断が肯定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられる。
【0047】
図15は、前記無線タグ通信装置12のDSP16による無線タグ方向検出制御の更に別の一例の要部について説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御では、前述したS3の処理に続いて、S14において、kが1とされた後、上述したS4以下の処理が実行される。また、前述したS7の判断が肯定される場合、すなわちnがNmaxより大きいと判断される場合には、S15において、kが2であるか否かが判断される。このS15の判断が否定される場合には、S16において、kが2とされた後、S13において、目的の無線タグ14との間の通信に用いられる周波数すなわち前記搬送波出力部26から出力される搬送波の周波数が変更された後、S4以下の処理が実行されるが、S15の判断が肯定される場合には、前述したSB以下の処理が実行される。
【0048】
図16は、前記無線タグ通信装置12のDSP16による無線タグ方向検出制御の更に別の一例の要部について説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。この制御では、前述したS3の処理に続いて、S17において、目的の無線タグ14との間の通信における送信出力すなわち前記搬送波出力部26から出力される搬送波の強度が変更(増加)させられた後、前述したS4以下の処理が実行される。以上の制御において、S1、S5、及びSA2が前記送信PAA制御部58の動作に、S3及びS9が前記信号強度検出部62の動作に、S13及びS17が前記搬送波制御部68の動作に、S4乃至S12、S14乃至S16、SA、及びSBが前記方向検出部66の動作にそれぞれ対応する。
【0049】
このように、本実施例によれば、前記送信アレイアンテナ22の送信指向性を制御する送信指向性制御部としての送信PAA制御部58(S1、S5、及びSA2)と、前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を制御する受信指向性制御部としての受信ウェイト処理部60(SA3及びSA4)と、前記送信PAA制御部58及び/又は受信ウェイト処理部60により前記送信アレイアンテナ22の送信指向性及び/又は受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記無線タグ14との通信感度が極大となる方向に基づいてその無線タグ14の方向を予備検出する方向予備検出部64(S1乃至S3)と、前記送信PAA制御部58により前記送信アレイアンテナ22の送信指向性の中心方向が前記方向予備検出部64により予備検出された方向となるように制御すると共に、前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記無線タグ14との通信感度が極小となる方向に基づいてその無線タグ14の方向を本検出する方向検出部66(S4乃至S12、S14乃至S16、SA、及びSB)とを、備えたものであることから、予備検出された無線タグ14の存在する方向に送信指向性を向けると共に、その方向に対応して受信指向性におけるヌル走査を行うことで、対象となる無線タグ14との間で確実な通信を実現しつつその無線タグ14の存在する方向を好適に検出することができる。すなわち、マルチパスの発生し得る環境において好適に無線タグ14の方向を検出する無線タグ通信装置12を提供することができる。
【0050】
また、前記受信アレイアンテナ24により受信される受信信号の信号強度を検出する信号強度検出部62(S3及びS9)を備え、前記方向予備検出部64は、前記送信PAA制御部58及び/又は受信ウェイト処理部60により前記送信アレイアンテナ22の送信指向性及び/又は受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記信号強度検出部62により検出される受信信号の信号強度が極大となる方向に基づいてその無線タグ14の方向を予備検出するものであり、前記方向検出部66は、前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記信号強度検出部62により検出される受信信号の信号強度が極小となる方向に基づいて前記無線タグ14の方向を本検出するものであるため、実用的な態様で対象となる無線タグ14の存在する方向の予備検出及び本検出を行うことができる。
【0051】
また、前記方向検出部66は、前記方向予備検出部64により前記無線タグ14との通信感度が極大となる方向が複数検出された場合には、前記送信PAA制御部58により前記送信アレイアンテナ22の送信指向性の中心方向が順次それら複数の方向となるように制御すると共に、それぞれの方向に対応して前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させて前記無線タグ14との通信感度が極小となる方向に基づいてその無線タグ14の方向を本検出するものであるため、マルチパスが形成された場合であっても好適に無線タグ14の方向を検出することができる。
【0052】
また、前記方向検出部66は、前記無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる本検出において、対象となる無線タグ14を指定してその無線タグ14との間で通信を行うものであるため、通信の重畳が発生するのを好適に防止することができる。
【0053】
また、前記方向検出部66は、前記方向予備検出部64により複数の無線タグ14が検出された場合には、それら無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる本検出において、対象となる無線タグ14を順次指定して前記複数の無線タグ14との間で通信を行うものであるため、通信の重畳が発生するのを好適に防止できると共に、予備検出された複数の無線タグ14それぞれの存在する方向を好適に検出することができる。
【0054】
また、前記方向検出部66は、前記方向予備検出部64により少なくとも1つの無線タグ14が検出された場合にのみ、その無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる本検出を行うものであるため、不要なヌル走査が行われるのを避けることができる。
【0055】
また、前記方向検出部66は、前記無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる本検出において、その受信アレイアンテナ24に備えられた複数のアンテナ素子18のうち2つのアンテナ素子18により対象となる無線タグ14との間の通信を行うものであるため、受信指向性制御の自由度が1となり、受信信号が最も大きい方向にのみ指向性を向けることができる。
【0056】
また、前記方向検出部66は、前記受信アレイアンテナ24により受信された受信信号を記憶する受信メモリ部48を備え、その受信メモリ部48から読み出された受信信号に基づいて前記無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる制御を、ディジタル信号処理により行うものであるため、対象となる無線タグ14との間で繰り返し通信を行うことなく好適にヌル走査を行うことができる。
【0057】
また、前記方向検出部66は、前記無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる本検出に際しての通信においては、前記方向予備検出部64による前記無線タグ14との間の通信と略等しい周波数の送信信号を用いるものであるため、予備検出と本検出とで送信信号の周波数を略等しくすることでマルチパスの状態に変化を生じさせることなく、対象となる無線タグ14が確実に動作する状況で本検出を行なえることから、対象となる無線タグ14の存在する方向を更に好適に検出することができる。
【0058】
また、前記方向検出部66は、前記無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる本検出に際しての通信において、前記方向予備検出部64による前記無線タグ14との間の通信と等しい周波数の送信信号を用いての第1の通信と、その周波数とは異なる周波数の送信信号を用いての第2の通信とを行い、それら第1の通信結果及び第2の通信結果に基づいて対象となる無線タグ14の方向を本検出するものであるため、マルチパス状態の変化に起因して対象となる無線タグ14が応答しない可能性を踏まえて、その無線タグ14の存在する方向を更に好適に検出することができる。
【0059】
また、前記方向検出部66は、前記無線タグ14との通信感度が極小となるように前記受信ウェイト処理部60により前記受信アレイアンテナ24の受信指向性を変化させる本検出に際しての通信においては、前記方向予備検出部64による前記無線タグ14との間の通信よりも強度の大きな送信信号を用いるものであるため、予備検出よりも送信出力を大きくすることで、本検出における対象となる無線タグ14からの応答をより確実なものとすることができる。
【0060】
また、前記送信アレイアンテナ22及び受信アレイアンテナ24は、一部乃至は全部のアンテナ素子18を共有するものであるため、装置の構成を可及的に簡単なものとすることができる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0062】
例えば、前述の実施例において、前記無線タグ通信装置12は、前記送信信号を送信すると共に返信信号を受信するための送受信共用のアンテナ素子18を備えたものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記送信信号を送信するための送信アンテナ素子と返信信号を受信するための受信アンテナ素子とをそれぞれ個別に備えたものであっても構わない。
【0063】
また、前述の実施例において、送信PAA制御部58、受信ウェイト処理部60、信号強度検出部62、方向予備検出部64、方向検出部66、及び搬送波制御部68等の制御機能は、何れも前記DSP16に機能的に備えられたものであったが、これらはそれぞれ個別の制御装置として設けられるものであってもよい。また、それらの制御は、ディジタル信号処理によるものであるとアナログ信号処理によるものであるとを問わない。
【0064】
また、前述の実施例において、前記無線タグ通信装置12は、前記送信アレイアンテナ22の送信指向性をアナログ信号処理により制御すると共に、前記受信アレイアンテナ24の受信指向性をディジタル信号処理により制御するものであったが、前記送信アレイアンテナ22の送信指向性をディジタル信号処理により制御する態様、前記受信アレイアンテナ24の受信指向性をアナログ信号処理により制御する態様も考えられる。
【0065】
また、前述の実施例において、前記無線タグ通信装置12は、複数の送信データ乗算部28を持つ構造であったが、単一の送信データ乗算部28の出力を複数の送信アンテナの送信移相部30に分配するようにしてもよい。
【0066】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の無線タグ通信装置が好適に用いられる通信システムを説明する図である。
【図2】本発明の一実施例である無線タグ通信装置の構成を説明する図である。
【図3】図2の無線タグ通信装置の通信対象である無線タグの構成を説明する図である。
【図4】図2の送信PAA処理部により送信アレイアンテナの送信指向性のメインローブを制御する様子について説明する図である。
【図5】図4に示す構成においてメインローブを制御することによる無線タグの方向検出における受信指向性方向と受信信号強度との関係を示す図である。
【図6】図2の受信ウェイト処理部により受信アレイアンテナの受信指向性のヌルを制御する様子について説明する図である。
【図7】図6に示す構成においてヌルを制御することによる無線タグの方向検出における受信指向性方向と受信信号強度との関係を示す図である。
【図8】図2の無線タグ通信装置のDSPによる無線タグ方向検出制御の要部について説明するフローチャートである。
【図9】図8の無線タグ方向検出制御におけるヌル走査制御の要部を説明するフローチャートである。
【図10】図8の無線タグ方向検出制御におけるタグ方向決定制御の要部を説明するフローチャートである。
【図11】図8の無線タグ方向検出制御におけるヌル走査制御の他の一例の要部を説明するフローチャートである。
【図12】図8の無線タグ方向検出制御におけるタグ方向決定制御の他の一例の要部を説明するフローチャートであり、図11のヌル走査制御に対応して実行されるものである。
【図13】図2の無線タグ通信装置のDSPによる無線タグ方向検出制御の他の一例の要部について説明するフローチャートである。
【図14】図2の無線タグ通信装置のDSPによる無線タグ方向検出制御の更に別の一例の要部について説明するフローチャートである。
【図15】図2の無線タグ通信装置のDSPによる無線タグ方向検出制御の更に別の一例の要部について説明するフローチャートである。
【図16】図2の無線タグ通信装置のDSPによる無線タグ方向検出制御の更に別の一例の要部について説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0068】
12:無線タグ通信装置
14:無線タグ
18:アンテナ素子
22:送信アレイアンテナ
24:受信アレイアンテナ
58:送信PAA制御部(送信指向性制御部)
60:受信ウェイト処理部(受信指向性制御部)
62:信号強度検出部
64:方向予備検出部
66:方向検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を有する送信アレイアンテナにより所定の無線タグに向けて送信信号を送信すると共に、該無線タグから返信される返信信号を複数のアンテナ素子を有する受信アレイアンテナにより受信して該無線タグとの間で情報の通信を行う無線タグ通信装置であって、
前記送信アレイアンテナの送信指向性を制御する送信指向性制御部と、
前記受信アレイアンテナの受信指向性を制御する受信指向性制御部と、
前記送信指向性制御部及び/又は受信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記無線タグとの通信感度が極大となる方向に基づいて該無線タグの方向を予備検出する方向予備検出部と、
前記送信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性の中心方向が前記方向予備検出部により予備検出された方向となるように制御すると共に、前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記無線タグとの通信感度が極小となる方向に基づいて該無線タグの方向を本検出する方向検出部と
を、備えたものであることを特徴とする無線タグ通信装置。
【請求項2】
前記受信アレイアンテナにより受信される受信信号の信号強度を検出する信号強度検出部を備え、前記方向予備検出部は、前記送信指向性制御部及び/又は受信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性及び/又は受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記信号強度検出部により検出される受信信号の信号強度が極大となる方向に基づいて該無線タグの方向を予備検出するものであり、前記方向検出部は、前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記信号強度検出部により検出される受信信号の信号強度が極小となる方向に基づいて前記無線タグの方向を本検出するものである請求項1の無線タグ通信装置。
【請求項3】
前記方向検出部は、前記方向予備検出部により前記無線タグとの通信感度が極大となる方向が複数検出された場合には、前記送信指向性制御部により前記送信アレイアンテナの送信指向性の中心方向が順次それら複数の方向となるように制御すると共に、それぞれの方向に対応して前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させて前記無線タグとの通信感度が極小となる方向に基づいて該無線タグの方向を本検出するものである請求項1又は2の無線タグ通信装置。
【請求項4】
前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際、対象となる無線タグを指定して該無線タグとの間で通信を行うものである請求項1から3の何れかの無線タグ通信装置。
【請求項5】
前記方向検出部は、前記方向予備検出部により複数の無線タグが検出された場合には、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際、対象となる無線タグを順次指定して前記複数の無線タグとの間で通信を行うものである請求項4の無線タグ通信装置。
【請求項6】
前記方向検出部は、前記方向予備検出部により少なくとも1つの無線タグが検出された場合にのみ、該無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させるものである請求項1から5の何れかの無線タグ通信装置。
【請求項7】
前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際、該受信アレイアンテナに備えられた複数のアンテナ素子のうち2つのアンテナ素子により対象となる無線タグとの間の通信を行うものである請求項1から6の何れかの無線タグ通信装置。
【請求項8】
前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる制御を、ディジタル信号処理により行うものである請求項1から7の何れかの無線タグ通信装置。
【請求項9】
前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際の通信においては、前記方向予備検出部による前記無線タグとの間の通信と略等しい周波数の送信信号を用いるものである請求項1から8の何れかの無線タグ通信装置。
【請求項10】
前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際の通信において、前記方向予備検出部による前記無線タグとの間の通信と等しい周波数の送信信号を用いての第1の通信と、該周波数とは異なる周波数の送信信号を用いての第2の通信とを行い、それら第1の通信結果及び第2の通信結果に基づいて対象となる無線タグの方向を本検出するものである請求項1から8の何れかの無線タグ通信装置。
【請求項11】
前記方向検出部は、前記無線タグとの通信感度が極小となるように前記受信指向性制御部により前記受信アレイアンテナの受信指向性を変化させる際の通信においては、前記方向予備検出部による前記無線タグとの間の通信よりも強度の大きな送信信号を用いるものである請求項1から10の何れかの無線タグ通信装置。
【請求項12】
前記送信アレイアンテナ及び受信アレイアンテナは、一部乃至は全部のアンテナ素子を共有するものである請求項1から11の何れかの無線タグ通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−199316(P2008−199316A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32633(P2007−32633)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】