説明

焦点位置検出装置およびそれを用いた撮像システム

【課題】 Fナンバーに依存せず、高精度なオートフォーカスシステムを位相差方式で実現すること。
【解決手段】 偏心絞りにより瞳分割を行い、1次結像系光学系による位相差方式により焦点位置検出を行うオートフォーカスシステムを持つ撮像システムにおいて、瞳分割の間隔を可変にすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送用カメラ(TVカメラ)、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラなどに用いられる撮影レンズにおける焦点位置情報を得るのに好適な撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビカメラ用の撮像システムには、撮像素子の高画素化、および表示機器の大型化に伴い、より高精細な映像が求められる。特に、フォーカシングにおいては、カメラに搭載されるビューファインダーの制約から、求められる高精細映像を実現するのが非常に困難になっている。そこで、高精度で迅速にオートフォーカス(自動合焦)ができることが要望されている。
【0003】
高精度なオートフォーカスを行う方式の一つとして、「位相差方式」がある。この方式では、光軸に対し偏心させた対の絞りとレンズを用い、光束の一部をそれぞれ結像させる。偏心させた光路を通るため、その光軸と垂直な方向における光束位置の変移は物体距離に依存する。光束位置の変移量を観察することで測距を行う(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】SMPTE Motion Imaging Journal March 2008 P22-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8に従来の位相差方式の模式図を示す。上述のものを含む従来の位相差方式においては、図8に示したように、レンズ絞り801を含み一次結像面へ像を形成する1次結像光学系G1、瞳分割絞り802とそれに対応する眼鏡レンズ803を含む2次結像光学系G2から構成されている。ここでいう眼鏡レンズとは、瞳分割絞りによって分割された光束を、各々の光電変換素子上に結像させるための偏心レンズ対のことをいう。1次結像光学系G1を通り第一結像点を結んだ光束は2次結像光学系に導かれ、光軸に対し対称な位置に配置される瞳分割絞り802により、2つの光束に分割される。2つの光束は、それぞれ眼鏡レンズ803を通り、光電変換素子804に結像される。物体距離に応じて、光束位置が光軸と垂直な方向に移動するため、その移動量から物体距離を測距することができる。光束位置の変移量から直接物体距離を算出することが可能であるため、大ボケ状態からの測距や測距の高速化に対し、優位性がある。
【0006】
しかし、2次結像光学系上に瞳分割絞り802を設けることから、測距をするためには1次結像光学系に制約を設ける必要がある。具体的には、レンズ絞り801と瞳分割絞り802との間に瞳結像的な共役関係を満たす必要がある。ここでいう瞳結像的な共役関係とは、レンズ絞り(801)面上の物体が瞳分割絞り(802)面上に結像するように、1次結像光学系の射出瞳位置を構成することを意味する。このような共役関係を満たすことにより、軸外光束についても、けられることなく、測距することが可能となる。
【0007】
さらに、従来の位相差方式では、瞳分割間隔807(基線長)が固定である。瞳分割間隔807は測距できる最大Fナンバーを決定する。図8において、レンズ絞り801は測距できる最大Fナンバーの位置にある。これ以上絞ると、測距のために用いる光束がけられ、センサーに光が届かないため、測距できない。従って、従来の位相差方式では、2次結像系の瞳分割間隔によって、測距できる最大Fナンバーが決定してしまう。測距できるFナンバーを広く取るためには、瞳分割間隔を短くとる必要がある。
【0008】
加えて、瞳分割間隔807は測距精度にも影響を与える。物体距離に対する2次結像光学系透過後の(光軸に垂直な方向の)光束位置の変移量は、瞳分割間隔807が大きいほど大きい。従って、瞳分割間隔807が大きいほど、測距の精度も上がる。
【0009】
以上3点のポイントが、位相差方式の高精度化の妨げになっている。
【0010】
本発明は上記の諸問題を解決するためになされたものであり、位相差方式において、Fナンバーに依らず、高精度な測距を実現する撮像システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、偏心絞りにより瞳分割を行い、1次結像系光学系による位相差方式により焦点位置検出を行うオートフォーカスシステムを持つ撮像システムにおいて、瞳分割の間隔を可変にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、位相差方式において、Fナンバーに依らず高精度な測距を実現する撮像システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における光学配置の概念図。
【図2】本発明における光学配置の概念図。
【図3】実施例1の軸上光束における瞳分割エリア。
【図4】実施例1の軸外光束における瞳分割エリア。
【図5】実施例2における光学配置の概念図。
【図6】実施例3における瞳分割エリア。
【図7】実施例4における絞り羽根構成。
【図8】従来例における光学配置の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図2に本発明の位相差方式の模式図を示す。本発明の位相差方式は、1次結像光学系に瞳分割絞り202を配置している。ここでいう1次結像光学系とは、本線撮像系と等価な一次結像面へ像を形成する光学系を指す。一次結像面には光電変換素子204、205を配置している。また、瞳分割絞り202により分割された光束をそれぞれ異なる光電変換素子204、205で検出するために、2つの光束を分離するためのミラー203を配置している。瞳分割絞り202は光軸と垂直な方向に開口位置を変化させることができ、瞳分割絞り間隔を可変にする。これは、Fナンバーに応じて瞳分割間隔を可変にすることにより、レンズ絞りを絞ることによる光線のけられをなくすためである。
【0016】
また、瞳分割間隔は測距の精度にも影響を与える。位相差方式の場合、瞳分割間隔が大きいほど測距精度が高い。本発明においては、Fナンバーが小さい場合、即ち、焦点深度が浅く高い測距精度が必要な場合に瞳分割間隔を大きくすることができる。
【0017】
また、瞳分割間隔を可変にするためには2次結像光学系を持たないのが望ましい。2次結像光学系を持ちながら瞳分割間隔を可変にするには、眼鏡レンズをも移動させる必要がある。位相差方式における眼鏡レンズには、位置精度が要求されるため、眼鏡レンズを移動させるのは現実的ではない。絞りのみの移動であれば、液晶による絞りを用いることで、高い精度での瞳分割間隔精度を得ることができる。但し、以下の実施例4に示した絞り羽根やピンホールを用いるような機械絞りにおいても、高い位置精度で瞳分割間隔を可変にすることができれば採用できる。
【実施例1】
【0018】
図1に示す実施例1は、本発明における光学配置の一例である。ズームレンズなどの本線光学系の光路中に、検出光学系へ光束の一部を導く偏光分岐プリズム103が配置されている。分岐プリズムは光束の偏光成分によって分岐する偏光プリズムとなっており、検出光学系側にS偏光の一部、残りのS偏光とP偏光成分を撮像素子105側に分岐している。分岐プリズムの前後には、偏光状態を解消するための偏光解消板102が構成されている。前の偏光解消板は、反射光やPLフィルターを透過した光など、入射する光が偏光している場合を想定して構成している。また後ろの偏光解消板は撮像素子前に色分解光学系やLPFが配置される場合など、撮像において偏光による影響を受けることを想定して配置している。検出光学系に分岐した光束は、液晶絞り106により瞳分割される。この液晶絞りは光軸と垂直な面上において、瞳分割間隔や分割位置を自由に変化させることができる。この瞳分割間隔は、レンズ絞りのFナンバー、測距する画角のヴィネッティング状態に応じて能動的に変化させることができる。使用する光束のうちなるべく広い間隔で瞳分割したほうが測距精度は高い。液晶絞り106によって瞳分割された光束は、結像させるための検出光学系を通り、瞳分割された2つの光束を分離するプリズム108に入る。分離された光束は各々別のセンサー(109,110)上に結像し、その像位置から物体位置を算出する。瞳分割された光束を分離させるのは、合焦した際に、分割した2つの像が重なってしまい精度が低下するのを防ぐことと、合焦位置が物体側にあるのか、像側にあるのかを判別するという2つの目的のためである。また、位相差方式は、光束の一部を用いて測距する方式であるため、物体距離が同じであっても、光束のうちのどの部分を用いるかに応じて収差量が変わる。即ち、分割した2つの像の像面上における光束位置の変移量が変化してしまう。従って、その変化量を考慮した補正値を持つ必要がある。従来の位相差方式においては、瞳分割間隔は固定されており、光束の中で使用する部分が一定であるため、変化量を考慮する必要はなかった。また、同様にズームレンズのように焦点距離に変化のあるレンズに適用する場合も、収差に変動があることから、補正値を持つ必要がある。
【0019】
図3は、実施例1の瞳分割絞り106上において中心画界の測距をする際に、瞳分割をする光束エリアの一例を図示したものである。瞳分割絞り105を光束分離プリズム108側から見た平面図を示した。301がF2.8の中心光束、302がF5.6の中心光束である。中心光束とは画角0の軸上光束を意味する。従来の位相差方式は、瞳分割間隔が固定であるため、例えば301に合わせて303のように間隔を決定すると、F5.6ではけられてしまい、測距できない。そこで、従来の位相差方式においては複数の眼鏡レンズを持ち、さらに光電変換素子上に複数の受光部を作りこむことで対処していた。本発明においては、瞳分割間隔を能動的に変更できるため、図3のようにFナンバーに応じた瞳分割を行うことができる。
【0020】
図4<A>は、実施例1の106上において周辺画界の測距をする際に、瞳分割する光束エリアの一例を図示したものである。図3と同様の平面図で示した。<B>には、軸上光束と軸外光束の模式図を示した(簡単にするために偏光分岐プリズムや本線リレー光学系を省略してある)。<B>における瞳分割絞り面406が<A>にあたる。周辺画界の光束である軸外光束は、<B>のようにヴィネッティングの影響で<A>に示したような変形した光束である場合が多い。特に、一次結像光学系における軸外光束は、レンズ絞り面以外では必ず図4のような変形した光束を取る。従って、本発明において軸外光束を測距する場合、光束の変形の仕方を、測距する画界、瞳分割絞りを挿入する面、Fナンバーから算出し、<A>のように瞳分割位置を決定する必要がある。
【実施例2】
【0021】
図5に示す実施例2は、本発明における光学配置の一例である。実施例1と異なるのは瞳分割絞りが液晶から機械絞り605に変わっている点である。絞りを液晶にしていないので本線からの分岐をする分岐プリズム602は偏光状態に依存しない光束分岐を行うことができる。機械絞りとは実施例4に示した絞り羽根を用いるものや、予め瞳分割間隔を変えた複数のピンホール対を挿抜するなど、機械的に瞳分割間隔を変更できるような絞りである。
【実施例3】
【0022】
図6に示す実施例3は、実施例1に示した瞳分割をする光束エリアを45度傾けたものである。位相差方式の測距の場合、瞳分割する方向と被写体が持つコントラストの濃淡の方向との関係によって測距しにくい組み合わせが存在する。例えば、実施例1において、瞳分割方向と垂直な方向にコントラストの濃淡を持つストライプ模様の物体を撮影した場合、測距できない可能性がある。そのような場合に、本実施例のように瞳分割する方向を傾けることで測距が可能となる。また、このように被写体によって任意の方向の瞳分割を実現するためにはエリアセンサーを用いる必要がある。なぜなら、瞳分割する方向によって、位相差方式における光束位置の変移方向が決まるためである。
【実施例4】
【0023】
図7に示す実施例4は、瞳分割絞りとして機械絞りを用いる際の、絞り羽根形状の一例である。図のような構成の羽根を前後させることで、瞳分割間隔や絞り径などを任意に変更させることができる。
【符号の説明】
【0024】
101 本線光学系ズーム部
102 偏光解消素子
103 偏光分岐プリズム
104 本線光学系リレー部
105 撮像素子
106 瞳分割絞り(液晶素子)
107 検出光学系
108 光束分離プリズム
109 A像光電変換素子
110 B像光電変換素子
111 レンズ絞り
201 レンズ絞り
202 瞳分割絞り
203 光束分離ミラー
204 A像光電変換素子
205 B像光電変換素子
206 瞳分割間隔
301 Fno:2.8の光束
302 Fno:5.6の光束
303 Fno:2.8時の瞳分割位置
304 Fno:5.6時の瞳分割位置
401 軸外光束
402 軸上光束
403 軸外光束(401)の瞳分割位置
404 軸上光束(402)の瞳分割位置
405 物体面
406 瞳分割絞り面(瞳分割絞り109位置に相当)
407 像面(A、B像光線変換素子109,110位置に相当)
501 本線光学系ズーム部
502 分岐プリズム
503 本線光学系リレー部
504 撮像素子
505 瞳分割絞り(機械絞り)
506 検出光学系
507 光束分離プリズム
508 A像光電変換素子
509 B像光電変換素子
510 レンズ絞り
601 Fno:2.8の光束
602 Fno:5.6の光束
603 Fno:2.8時の瞳分割位置
604 Fno:5.6時の瞳分割位置
801 レンズ絞り
802 瞳分割絞り
803 眼鏡レンズ
804 光電変換素子
805 一次結像面
806 二次結像面
807 瞳分割間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心絞りを用いて瞳分割を行い、1次結像光学系による位相差方式により焦点位置検出を行うオートフォーカスシステムを持つ撮像システムにおいて、
瞳分割の間隔を可変にすることを特徴とした撮像システム。
【請求項2】
前記瞳分割の間隔は光学系のFナンバーに応じて変更することを特徴とした請求項1に記載の撮像システム。
【請求項3】
瞳分割の位置は測距する画角に応じて変更することを特徴とした請求項1に記載の撮像システム。
【請求項4】
前記瞳分割の間隔に応じ、収差による影響を補正するための補正値を持つことを特徴とする請求項1乃至3に記載の撮像システム。
【請求項5】
焦点距離に応じ、収差による影響を補正するための補正値を持つことを特徴とする請求項1乃至3に記載の撮像システム。
【請求項6】
光路中に瞳分割した光束を分離させる手段を有し、瞳分割した像をそれぞれ別の撮像素子を用いて検出することを特徴とする請求項1乃至3に記載の撮像システム。
【請求項7】
前記瞳分割をするための偏心絞りに液晶を用いることを特徴とする請求項項1乃至3に記載の撮像システム。
【請求項8】
前記瞳分割の方向を水平方向に対し、傾けることを特徴とする請求項項1乃至3に記載の撮像システム。
【請求項9】
測距を行う光電変換素子として、エリアセンサーを用いることを特徴とする請求項8に記載の撮像システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−102952(P2011−102952A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258755(P2009−258755)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】