説明

焼入れ硬化層の評価方法及びその装置

【課題】焼入れ硬化層の深さ等を高精度に評価できて、高度な焼入れ品質が要求される焼入れ部品でも好適に使用可能な焼入れ硬化層の評価方法及びその装置を提供する。
【解決手段】焼入れ部品の硬化層形成部分を誘導加熱して硬化層を形成した後に、前記硬化層の画像を撮像すると共に硬化層の電気的特性値を測定し、該画像データと電気的特性値とに基づいて硬化層の深さ等を評価することを特徴とする。また、前記画像が、X線による透過画像もしくは光CT、磁気共鳴による断層画像であり、前記電流的特性値が、電流値と周波数の少なくとも一つであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱により金属の表層部に施した焼入れ硬化層の深さ等を非破壊的に評価(検査)するための焼入硬化層の評価方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の評価装置としては、例えば特許文献1に開示されている。この評価装置は、硬化層表面から深さ方向に超音波を送受信する直接接触式の超音波振動子と、超音波振動子を駆動し受信した超音波反射信号を増幅する超音波送受信部と、超音波反射信号の有無を検出する信号検出部と、信号検出部で検出した反射波の個数をカウントする計数部と、計数部でカウントした個数を基準値と比較する判定部と、判定部の比較結果に基づいて警報を発する警報部と、を備えたものである。
【特許文献1】特開平11−118769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような評価装置にあっては、超音波振動子を硬化層表面に直接接触させて超音波の反射波により硬化層の深さを評価する方法であるため、非破壊的な評価が可能になるものの、焼入れ硬化層の透過状態や断層状態等の内部状態を把握することが困難で、硬化層の深さ等の評価を精度良く行うことが難しく、例えば高度な焼入れ品質が要求される焼入れ部品に適用し難いという問題点を有している。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、焼入れ硬化層の深さ等を高精度に評価できて、高度な焼入れ品質が要求される焼入れ部品でも好適に使用可能な焼入れ硬化層の評価方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の評価方法は、焼入れ部品の硬化層形成部分を誘導加熱して硬化層を形成した後に、前記硬化層の画像を撮像すると共に硬化層の電気的特性値を測定し、該画像データと電気的特性値とに基づいて硬化層の深さ等を評価することを特徴とし、この場合、請求項2に記載の発明のように、前記画像が、X線による透過画像もしくは光CT、磁気共鳴による断層画像であり、前記電気的特性値が、電流値と周波数の少なくとも一方であることが好ましい。
【0006】
また、請求項3に記載の評価装置は、焼入れ部品の硬化層形成部分を誘導加熱して得られた硬化層の画像を撮像する撮像手段と、前記硬化層の電気的特性値を測定する測定手段と、前記撮像手段の画像データと前記測定手段の電気的特性値とに基づいて硬化層の深さ等を評価する制御手段と、を備えることを特徴とする。そして、この場合、請求項4に記載の発明のように、前記焼入れ部品の近傍で硬化層形成部分に配置された加熱コイルに所定の高周波電流を供給可能なトランジスタインバータを備えたり、請求項5に記載の発明のように、前記測定手段が、測定電源から予め設定した所定の電力を前記焼入れ部品の少なくとも硬化層に供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、誘導加熱により硬化層を形成した後に、硬化層の画像を撮像すると共に硬化層の電気的特性値を測定し、その画像データと電気的特性値とに基づいて硬化層の深さ等を評価するため、画像と電流値等の特性値に基づいて硬化層の状態を判定できて、硬化層の深さ等を高精度に評価でき、高度な焼入れ品質が要求される焼入れ部品でも好適に使用することが可能となる。
【0008】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、画像がX線による透過画像もしくは光CT、磁気共鳴による断層画像であり、電気的特性値が電流値や周波数であるため、硬化層の良好な画像を容易に得ることができると共に、焼入れ品質に影響する電流値等によって硬化層の深さ等をより精度良く判定することができる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明によれば、誘導加熱により形成された硬化層の画像を撮像する撮像手段と、硬化層の電気的特性値を測定する測定手段と、画像データと電気的特性値とに基づいて硬化層の深さ等を評価する制御手段とを備えるため、画像と電気的特性値に基づいて硬化層の状態を判定できて、硬化層の深さ等を高精度に評価でき、高度な焼入れ品質が要求される焼入れ部品でも好適に使用することが可能となる。
【0010】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、焼入れ部品の近傍に配置された加熱コイルに高周波電流を供給するトランジスタインバータを備えるため、評価装置自体の小型化や使い勝手の向上を図ることができる。
【0011】
また、請求項5に記載の発明によれば、請求項3または4に記載の発明の効果に加え、測定手段により、測定電源から予め設定した所定の電力が焼入れ部品の少なくとも硬化層に供給されるため、加熱用電源とは別に設けた測定電源により硬化層の電気的特性値を簡単かつ精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図4は、本発明に係わる評価装置の一実施形態を示し、図1がその概略構成図、図2が該評価装置を使用した評価方法の工程図、図3がその説明図、図4が評価装置の変形例を示す説明図である。
【0013】
図1において、評価装置1は、焼入れ部品である自動車用ジョイントW(ワークWという)の硬化層形成部分Waの周囲に所定間隔を有して配置された加熱コイル2と、ワークWの硬化層形成部分Waの軸方向の両側(図において上下)に対向配置されたX線源3及びイメージプレート4と、前記加熱コイル2が接続されたトランジスタインバータ5と、一対の電極6a、6bを介して硬化層Wb(図3参照)に所定の電圧を供給する測定用電源6と、前記X線源3が接続されたX線駆動部7と、前記イメージプレート4が接続されたデータ処理部8と、このデータ処理部8とX線駆動部7及び前記トランジスタインバータ5、測定用電源6が接続された制御部9等を備えている。
【0014】
前記加熱コイル2は、例えば硬化層形成部分Waの幅寸法(図1の上下寸法)に応じて、外周面が絶縁処理された銅パイプを所定回数巻回することにより円筒形状(もしくは馬蹄形状)に形成されており、銅パイプの内部には冷却水が循環供給されるようになっている。また、前記X線源3は、人体に影響のないX線をイメージプレート4方向に照射し、イメージプレート4は、X線源3から照射されてワークWを透過したX線が画像として撮像されるようになっている。そして、このイメージプレート4上の画像データが、データ処理部8によりデジタル処理されて制御部9に入力されるようになっている。
【0015】
前記トランジスタインバータ5は、例えばFET等のスイッチング素子を有する4つのアームがフルブリッジに接続されたインバータ回路を有し、所定周波数の高周波電流を出力し得るように構成されている。また、前記測定用電源6は、例えば所定周波数の交流電圧を発生し、その出力端子に接続された一対の電極6a、6bを介してワークWの所定部位である硬化層Wbに供給すると共に、この供給した電圧により硬化層Wbを流れる電流値等の電気的特性値を測定(検出)して制御部9に入力するようになっている。なお、図示はしないが、測定用電源6の電極6a、6bは、ワークWに対して接離可能に配置されている。さらに、前記制御部9は、マイコン等により形成され、前記トランジスタインバータ5やX線駆動部7等を制御すると共に、データ処理部8や測定用電源6から入力されるデータに基づいて、硬化層Wbの深さの善し悪し(良否)を判定するようになっている。
【0016】
次に、この評価装置1を使用した評価方法の一例を図2の工程図に基づいて説明する。先ず、図示しないセット台上にワークWをセット(K1)し、制御部9の制御信号によりトランジスタインバータ5をオン(K2)させて加熱コイル2に高周波電流を供給すると共に、加熱コイル2内に冷却水を供給する。このとき、トランジスタインバータ5から加熱コイル2に供給される高周波電流の値や時間は、ワークWの硬化層Wbの深さや面積等の形態に応じて制御部9の記憶部等に予め記憶設定されている。
【0017】
トランジスタインバータ5がオンして、加熱コイル2に高周波電流が供給されると、ワークWの硬化層形成部分Waに渦電流が誘起されて該部分Waが瞬時に誘導加熱され、その後、例えばワークWの近傍に配置した図示しない冷却ジャケットから冷却水を噴射することにより、硬化層形成部分Waが焼入れされて硬化層Wbが形成される。
【0018】
そして、硬化層Wbが形成されたら、制御部9の制御信号によりX線駆動部7を介してX線源3をオン(K3)させ、X線を図1の二点鎖線で示すように硬化層Wbに照射する。この照射されたX線が硬化層Wbを透過してその透過画像がイメージプレート4上に撮像され、この画像データがデータ処理部8により、例えば二値化処理等のデータ処理(K4)される。このとき、イメージプレート4上に撮像される硬化層Wb部分の画像データは、例えば図3に示すようになり、この画像データのうち、図に示す直交する2つの直線L1、L2上の硬化層Wbの合計4カ所の深さh1〜h4が測定されることになる。なお、この深さの測定位置は、4カ所に限らず適宜に増減することができる。
【0019】
硬化層Wbの深さが測定されると、制御部9の制御信号により測定用電源6がオンすると共に電極6a、6bが硬化層Wb部分に当接して、硬化層Wbに測定電圧が供給され、硬化層Wbを流れる電流値が測定(K5)されて、その測定値が制御部9に入力されて記憶される。これにより、硬化層Wbの画像データが得られると共に電流値が測定され、この両データに基づいて制御部9により硬化層Wbの深さの良否が判定(K6)される。この判定は、ワークに応じて予め深さと電流値の基準値と許容範囲を設定し、測定した深さと電流値が共に許容範囲内の場合に、「良品」と判定され、測定した深さと電流値の少なくとも一つが許容範囲外である場合に「不良品」として判定される。そして、ワークWの良否が判定されたら、ワークWをセット台から取り出す(K7)ことにより、一連の評価工程が終了する。
【0020】
なお、以上の工程においては、X線源3とイメージプレート4を使用してワークWの硬化層Wbの透過画像を撮像したが、例えばX線の代わりに光CTや磁気共鳴を用いて画像として断層画像を撮像するようにしても良い。この場合は、例えば図4に示すように、搬送ライン11上にセットしたワークWを誘導加熱位置S1で上下動可能な加熱コイル2により誘導加熱及び冷却して焼入れし、硬化層Wbが形成されたワークWを下流側の画像撮像位置S2に配置した磁気共鳴装置12(もしくは光CT装置)内を通過させて、硬化層Wbの断層画像を撮像し、その後、画像撮像位置S2の下流側に設けた電流測定位置S3に測定用電源6の上下動可能な電極6a、6bをワークWに対して接離可能に配置して、硬化層Wbの電流値を測定するようにすれば良い。また、以上の工程においては、画像の撮像後に電流値を測定するようにしたが、電流測定後に画像を撮像するようにする等、各工程の一部を適宜に入れ替えることも可能である。
【0021】
このように、上記実施形態の評価装置1においては、トランジスタインバータ5から加熱コイル2に供給される高周波電流による誘導加熱で硬化層Wbを形成し、その後にX線源3とイメージプレート4により画像を撮像すると共に、硬化層Wbの電流値を測定し、その画像データと電流値により硬化層Wbの深さが評価されるため、画像と電流値に基づく判定が可能となり、硬化層Wbの深さを非破壊的に高精度に評価できて、高度な焼入れ品質が要求されるワークWであっても好適に使用することができる。
【0022】
特に、画像データがX線の透過や光CTあるいは磁気共鳴の断層のいずれかを用いて撮像されるため、良好な画像を容易に得ることができると共に、深さの評価が焼入れ品質に大きく影響する電流値に基づいても行われるため、硬化層Wbの深さをより高精度に評価することができる。また、誘導加熱が小型に形成可能なトランジスタインバータ5によって行われるため、評価装置1自体の小型化を図ることができると共に、検査時に従来のようにワークに接触させる部材を必要とせず、取り扱いが容易となり、検査時間が短縮化される等、評価工程の簡略化を図ること等もできる。
【0023】
なお、上記実施形態においては、硬化層Wbの画像をX線の透過画像や光CT、磁気共鳴による断層画像を使用したが、本発明はこれに限定されず、他の適宜の方法で硬化層Wbを撮像した画像を使用することもできる。また、上記実施形態においては、硬化層Wbの電気的特性値として電流値を使用したが、測定電圧の周波数等の電気的特性値を使用することも可能である。
【0024】
さらに、上記実施形態においては、評価装置1が誘導加熱用電源としてのトランジスタインバータ5を備える構成としたが、例えばトランジスタインバータ5と加熱コイル2を他と別体とすることもでき、この場合は、測定用電源6や制御部9等により評価装置1を形成できて、その小型化を図ることが可能となり、既存のインバータ装置等に付設して簡単に使用することが可能となる。また、上記実施形態における、トランジスタインバータ5や制御部9の構成等も一例であって、トランジスタインバータ5の代わりに他の適宜の加熱用電源を使用する等、本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、自動車用部品としてのジョイント等に限らず、焼入れ硬化層を必要とする全ての焼入れ部品の評価にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係わる評価装置の一実施形態を示す概略構成図
【図2】同該評価装置を使用した評価方法の工程図
【図3】同その説明図
【図4】同評価装置の変形例を示す説明図
【符号の説明】
【0027】
1・・・評価装置、2・・・加熱コイル、3・・・X線源、4・・・イメージプレート、5・・・トランジスタインバータ、6・・・測定用電源、6a、6b・・・電極、7・・・X線駆動部、8・・・データ処理部、9・・・制御部、11・・・搬送ライン、12・・・磁気共鳴装置、W・・・ワーク、Wa・・・硬化層形成部分、Wb・・・硬化層、h1〜h4・・・深さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入れ部品の硬化層形成部分を誘導加熱して硬化層を形成した後に、前記硬化層の画像を撮像すると共に硬化層の電気的特性値を測定し、該画像データと電気的特性値とに基づいて硬化層の深さ等を評価することを特徴とする焼入れ硬化層の評価方法。
【請求項2】
前記画像が、X線による透過画像もしくは光CT、磁気共鳴による断層画像であり、前記電気的特性値が、電流値と周波数の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の焼入れ硬化層の評価方法。
【請求項3】
焼入れ部品の硬化層形成部分を誘導加熱して得られた硬化層の画像を撮像する撮像手段と、前記硬化層の電気的特性値を測定する測定手段と、前記撮像手段の画像データと前記測定手段の電気的特性値とに基づいて硬化層の深さ等を評価する制御手段と、を備えることを特徴とする焼入れ硬化層の評価装置。
【請求項4】
前記焼入れ部品の近傍で硬化層形成部分に配置された加熱コイルに所定の高周波電流を供給可能なトランジスタインバータを備えることを特徴とする請求項3に記載の焼入れ硬化層の評価装置。
【請求項5】
前記測定手段が、測定電源から予め設定した所定の電力を前記焼入れ部品の少なくとも硬化層に供給することを特徴とする請求項3または4に記載の焼入れ硬化層の評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−92582(P2009−92582A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265277(P2007−265277)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(591195994)株式会社ミヤデン (21)
【Fターム(参考)】