説明

熱伝導シート、その製造方法及びこれを用いた放熱装置

【課題】高い熱伝導性を持ち、必要に応じて密着性、接着性等の性能を容易に追加することが可能な熱伝導シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
金属箔層と有機高分子化合物層とを含む多層構造を有する熱伝導シートにおいて、前記金属箔層が前記熱伝導シートの面に対して一方向に二層以上で積層されており、前記有機高分子化合物層が少なくとも有機高分子化合物を含有しており、前記各々の金属箔層間が前記有機高分子化合物層で結合されており、且つ前記金属箔層は前記熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート、その製造方法及びこれを用いた放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多層配線板及び半導体パッケージにおける配線密度や電子部品の搭載密度が高まり、また半導体素子の高集積化が進み、そのような発熱体の単位面積あたりの発熱量は大きくなってきている。そのため、発熱体からの熱放散効率を向上させる技術が望まれている。
【0003】
熱放散の一般的な方法として、半導体パッケージのような発熱体とアルミや銅からなる放熱体との間に熱伝導グリース又は熱伝導シート等の熱伝導材料を挟み密着させて、外部に熱を伝達する方法が採用されている。放熱装置を組み立てる際の作業性の観点では、熱伝導シートが優れている。そのため、熱伝導シートに向けた様々な開発が検討されている。
【0004】
例えば、熱伝導性を向上させる目的で、金属箔、金属粒子、金属酸化物等の無機材料と、有機高分子化合物等の有機材料とを複合させた熱伝導性複合材料組成物及びその成形加工品が提案されている。そのような無機材料の中で、金属箔、金属粒子のような導電性材料は特に熱伝導性が高く、その熱伝導性を活用するために様々な検討がなされている。
【0005】
特許文献1では、中間層に金属箔や金属メッシュを用いることで、シートの強度を高めて取扱い性を向上させつつ、金属箔の熱伝導性を利用している。また、特許文献2では、金属粒子をシート中に分散させることで、シートの熱伝導性を向上させている。さらに、特許文献3では、金属と同様に導電性材料である黒鉛を用いており、シートの膜厚方向に貫通した黒鉛層を設けることで膜厚方向の熱伝導性を向上させている。
しかし、これまでの検討では金属の高い熱伝導性を十分に活用できておらず、さらなる検討が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−234952号公報
【特許文献2】特開2000−129215号公報
【特許文献3】特開2009−55021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献1に開示された熱伝導シートでは、中間層以外の部分には樹脂組成物が用いられており、その樹脂組成物により熱伝導性が妨げられて、金属部分の高熱伝導性を十分に利用することは難しい。
【0008】
これに対し、特許文献2に開示された熱伝導シートでは、金属粒子を用いているため、一定の熱伝導性は確保できるが、シート成形性の観点から金属粒子の充填量に限界があるため、更なる高熱伝導性化は困難になる。
【0009】
また、特許文献3に開示された熱伝導シートでは、膜厚方向に貫通する黒鉛層を有するため、黒鉛の高熱伝導性を十分に活用できている。しかし黒鉛は、銅や銀等の金属と比較すると熱伝導性に劣り、また、黒鉛の粉落ち等の不安も残る。さらに、黒鉛層に用いられている膨張黒鉛シートを作成する工程が必要となり、簡便に熱伝導シートを作製することが難しい。
【0010】
上述のように、熱伝導シートに向けて様々な検討がなされているが、導電性材料の高熱伝導性を有効活用するという観点では、いずれの方法も満足いくものではない。
本発明は、このような状況に鑑みて、導電性材料の高熱伝導性を十分に活用した熱伝導シートを提供することを目的とする。また、そのような熱伝導シートを簡便且つ確実に製造する方法、さらにそのような熱伝導シートを使用して、高い放熱能力を持つ放熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の通りである。
(1)金属箔層と有機高分子化合物層とを含む多層構造を有する熱伝導シートにおいて、前記金属箔層が前記熱伝導シートの面に対して一方向に二層以上で積層されており、前記有機高分子化合物層が少なくとも有機高分子化合物を含有しており、前記各々の金属箔層間が前記有機高分子化合物層で結合されており、且つ前記金属箔層は前記熱伝導シートの厚み方向に配向していることを特徴とする熱伝導シート。
(2)前記一方向に二層以上で積層された金属箔層は、シートの厚さ方向に対し、0〜50度の角度で配向していることを特徴とする上記(1)に記載の熱伝導シート。
【0012】
(3)前記有機高分子化合物が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の熱伝導シート。
(4)上記金属箔層が銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、金、銀、ニッケル、パラジウム、クロム、モリブデン及びこれらの合金の少なくとも一つを含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の熱伝導シート。
【0013】
(5)前記金属箔層と前記有機高分子化合物層とを含む多層構造を有する熱伝導シートの製造方法であって、
前記金属箔層と前記有機高分子化合物層を交互に積層して多層構造を有する成形体を形成する工程と、前記成形体をその主面から出る法線に対して0〜30度の角度でスライスする工程と、を有する熱伝導シートの製造方法。
(6)前記金属箔層と前記有機高分子化合物層を含む多層構造を有する熱伝導シートの製造方法であって、
前記金属箔層と前記有機高分子化合物層との積層体を前記金属箔層の配向方向を軸にして捲回して多層構造を有する成形体を形成する工程と、前記成形体をその主面から出る法線に対して0〜30度の角度でスライスする工程と、を有することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
(7)上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に介在させた構造を有することを特徴とする放熱装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱伝導シートは、高い熱伝導性を持ち、必要に応じて密着性、接着性等の性能を容易に追加することが可能であるため、それらを例えば電気・電子回路近傍の放熱用途に適用して、発熱部からの効率の良い放熱を実現することが可能となる。
【0015】
また、本発明の熱伝導シートの製造方法によれば、従来法と比較して、生産性、コスト、エネルギー効率、及び確実性の点で有利に、高い熱伝導性と密着性とを併せ持った熱伝導シートを提供することが可能となる。
さらに、本発明の放熱装置によれば、完全且つ効率の良い放熱を実現することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
<熱伝導シート>
本発明の熱伝導シートは、金属箔層と有機高分子化合物層とを含む多層構造を有し、前記金属箔層が前記熱伝導シートの面に対して一方向に二層以上で積層されており、前記有機高分子化合物層が少なくとも有機高分子化合物を含有しており、前記各々の金属箔層間が前記有機高分子化合物層で結合されていることを特徴とする。
具体的な製造方法としては、金属箔層と有機高分子化合物層とを一方向に二層以上で積層又は捲回して得られた成形体を厚さ方向に垂直に、又は角度をつけて切断することで作製される。なお、金属箔層は、得られる熱伝導シートの面方向に対して、一方向となるように二層以上で積層される。製造方法の詳細は後述する。
【0017】
本発明において、金属箔層が「熱伝導シートの厚み方向に配向」しているとは、金属箔層が熱伝導シートの厚みに対して完全に平行且つ熱伝導シート面に対して完全に垂直である必要はなく、金属箔層が熱伝導シートの面方向よりも厚み方向に配向していると言える範囲で配向していればよい。好ましくは、金属箔がシート厚さ方向に対し、0〜50度の角度で配向していることが好ましい。
具体的には、熱伝導シートの正八角形に切った各辺の厚み方向の断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)又は光学顕微鏡を用いて観察し、任意の10層の金属箔層について、熱伝導シート厚さ方向から面方向へ傾斜している角度(90度を超える場合は補角を採用)を測定し、その平均値が0〜50度の角度の範囲になる状態をいう。
【0018】
以下にそれぞれの層について説明する。
<金属箔層>
金属箔層は、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、金、銀、ニッケル、パラジウム、クロム、モリブデン等の金属やこれらの金属を少なくとも一つ含む合金等から構成される金属箔からなる。金属箔層として、上記金属箔を打ち抜き加工により複数の孔を開けたものや上記金属のワイヤーを織物状にしたもの、メッシュ加工した金属メッシュ等も用いることが可能である。
金属箔層の厚みに制限はないが、取扱い上の観点から厚さ1μm〜1000μmが好ましい。更に、有機高分子化合物層との接着力を高めるために、化学的粗化、コロナ放電、サンデイング、メッキ、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等によってその表面を機械的又は化学的に処理したものであってもよい。
【0019】
<有機高分子化合物層>
本発明になる熱伝導シートの有機高分子化合物層は、有機高分子化合物を含有すれば特に制限はないが、適当なタック強度を有しシート状での取扱い性が良好であることから、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含有していることが好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物としては、(メタ)アクリル酸エステルと反応性を有するモノマーとを重合させてなるポリマーであり、官能性モノマーを共重合させた官能基含有ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が好ましい。
官能性モノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられ、これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。官能性モノマーを組み合わせて使用する場合の混合比率は、官能基含有ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物のガラス転移温度(以下「Tg」という)を考慮して決定する。官能基含有ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物のTgは50℃以下であることが好ましい。Tgが50℃以下であると、有機高分子化合物層のタック性が適当であり、取扱い性(樹脂が硬くなり柔軟性が低下する等)に問題を生じないからである。
【0020】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の重量平均分子量は、10万以上が好ましく、30万〜300万がより好ましく、40万〜100万が特に好ましい。重量平均分子量が10万以上であると、耐熱性が高く、シート状にしたときの強度、可とう性及びタック性が適当である。
なお、本発明において、重量平均分子量とは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーで測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値を示す。
【0021】
本発明において使用されるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物としては、例えば、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−860P−3(ブチルアクリレートとアクリロニトリル、エチルアクリレートとアクリロニトリル等の共重合体)等が挙げられる。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、パール重合、溶液重合等の重合方法を使用することができる。 また、有機高分子化合物を構成する成分として、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の他に、高分子量成分、熱硬化性成分、硬化促進剤、フィラー、カップリング剤等を含んでも良い。
高分子量成分としては、ポリイミド、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノキシ樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられるが、これらに制限するものではない。
【0022】
本発明の熱伝導シートにおける有機高分子化合物層は、熱硬化性成分を含有し、硬化性を付与することも可能である。熱硬化性成分としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、フェノール樹脂及びその樹脂硬化剤等があるが、耐熱性が高い点で、エポキシ樹脂が好ましい。また、これらの樹脂は、単独で又は2種類以上を組み合わせて、使用することができる。
熱硬化成分中の樹脂硬化剤としては特に限定されず、通常用いられている公知の硬化剤を使用することができる。具体的には、例えば、アミン類、ポリアミド、酸無水物、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素、ビスフェノール類、フェノール樹脂等が挙げられ、特に吸湿時の耐電食性に優れる点で、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂が好ましい。
【0023】
有機高分子化合物層の任意成分である硬化促進剤としては、特に制限はなく、イミダゾール類、ジシアンジアミド誘導体、ジカルボン酸ジヒドラジド類、トリフェニルホスフィン等を用いることができる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。硬化促進剤の添加量は、硬化性と保存安定性の両立という点で、熱硬化性成分及び樹脂硬化剤100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.2〜3質量部がより好ましい。
【0024】
また、本発明の熱伝導シートの有機高分子化合物層には、その取扱い性向上、熱伝導性向上、導電性付与、溶融粘度の調整及びチキソトロピック性付与等を目的として、金属フィラー、無機フィラー、有機フィラー等のフィラーを添加することもできる。
金属フィラーとしては、特に制限はなく、例えば金、銀、銅、アルミニウム、鉄、インジウム、錫等及びそれらの合金等が使用できる。
無機フィラーとしては、特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、窒化ほう素、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が挙げられ、フィラーの形状についても特に制限はない。
有機フィラーとしては、特に制限はなく、エポキシ樹脂粉、各種ポリマー粉、微細シリコーンゴム等のゴム粉等が挙げられる。
【0025】
これらのフィラーは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらフィラーのなかでも、熱伝導性向上のためには、銀、銅、アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ほう素、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が好ましい。また、溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与の目的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が好ましい。
【0026】
上記フィラーの使用量は、有機高分子化合物層100質量部に対して1〜2000質量部が好ましい。1質量部未満であると添加効果が得られない傾向があり、2000質量部を超えると、有機高分子化合物層の貯蔵弾性率の上昇、接着性の低下、ボイド残存による電気特性の低下等の問題を起こす傾向がある。
また、本発明の熱伝導シートの有機高分子化合物層には、異種材料間の界面結合を良くするために、各種カップリング剤を添加することもできる。カップリング剤としては、例えば、シラン系、チタン系、アルミニウム系等が挙げられ、これらのなかでも添加効果が高い点でシラン系カップリング剤が好ましい。
【0027】
本発明では有機高分子化合物層を形成する組成物を溶剤に溶解又は分散してワニスとして用いることが好ましい。フィラーを添加した際のワニスの製造には、フィラーの分散性を考慮して、らいかい機、3本ロール、ボールミル、ビーズミル等を使用するのが好ましく、これらを組み合わせて使用することもできる。また、フィラーと低分子量の原料をあらかじめ混合した後、高分子量の原料を配合することによって、混合する時間を短縮することもできる。さらに、ワニスとした後、真空脱気等によってワニス中の気泡を除去することもできる。
【0028】
上記のワニス化するための溶剤としては、特に制限はないが、作製時の揮発性等を考慮すると、例えば、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン等の比較的低沸点の溶剤を使用するのが好ましい。また、塗膜性を向上させる等の目的で、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、シクロヘキサノン等の比較的高沸点の溶剤を使用することもできる。これらの溶剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
なお、有機高分子化合物層の厚みに制限はないが、取扱い上の観点から厚さ1〜1000μmが好ましい。
【0029】
<保護フィルム>
本発明の熱伝導シートの形状保持、異物混入防止の観点から、本発明では熱伝導シートの使用に先立ち、最外面を保護しておくことが好ましい。最外面の保護は、例えば、熱伝導シートを形成する際に、その最外面に保護フィルムを設けることによって実施される。
保護フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテンフィルム等の樹脂、コート紙、コート布、アルミ等の金属が挙げられる。これら保護フィルムは、2種以上のフィルムから構成される多層フィルムであってもよく、フィルムの表面がシリコーン系、シリカ系等の離型剤等で処理されたものが好ましく使用される。
【0030】
<熱伝導シートの製造方法>
本発明の熱伝導シートは、金属箔層と有機高分子化合物層とを含む多層構造を有していることを特徴としている。
上記熱伝導シートの製造工程に関しても本発明の範囲内である。本発明の熱伝導シートの製造工程には、下記工程を含む。
(a)金属箔層と有機高分子化合物層を交互に積層して多層構造を有する成形体を形成する工程と、
(b)前記成形体をその主面から出る法線に対して0〜30度の角度でスライスする工程。
あるいは、上記(a)工程の代わりに下記(a’)工程を採用してもよい。
(a’)前記金属箔層と前記有機高分子化合物層との積層体を前記金属箔層の配向方向を軸にして捲回して多層構造を有する成形体を形成する工程。
【0031】
以下、各工程について説明する。
上記(a)の多層構造を有する成形体を形成する工程は、金属箔層と有機高分子化合物層を積層することによって実施することが可能である。積層の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、独立した複数の各層を構成するシート状のものを順に重ね合わせる形態に限らず、金属箔層と有機高分子化合物層とを少なくとも各一層ずつ備えた積層体をその端を切断せずに折りたたむ形態であってもよい。
【0032】
各層を構成するシート状のものとは、金属箔層の場合は、金属箔や金属のワイヤー等を織物状としたもの、金属メッシュ等(以下、「金属箔層用シート」ともいう)が挙げられる。有機高分子化合物層の場合は、例えば基材上に有機高分子化合物を含有するワニスを塗工して、硬化性成分を有する場合は硬化処理することで得られたシート状のもの(以下、「有機高分子化合物層用シート」ともいう)を積層に用いてもよい。また、金属箔層の上に有機高分子化合物を含有するワニスを直接塗工して、有機高分子化合物層を成膜することも可能である。
【0033】
また、(a)工程の積層の別の形態として、(a’)工程を採用しても良く具体的には、金属箔層と有機高分子化合物層とを少なくとも各一層ずつ備えた積層体を捲回させて成形体を形成することも可能である。捲回の形態は成形体の形状が円筒形となるものに限らず、角筒形等他の形状となるものであってもよい。なお、積層体は金属箔層と有機高分子化合物層とを各一層ずつ有する構成であればよいが、一層ずつ以上の層構成であってもよい。
【0034】
多層構造を形成する方法は、各層を重ね合わせてプレス機やラミネート機を用いて圧着する方法、また上述のように金属箔層上に有機高分子化合物を含有するワニスを塗工して有機高分子化合物層を積層する方法等が挙げられる。
また、多層構造を形成する際に、金属箔層と有機高分子化合物層以外の層を含むことも可能である。また、金属箔層用シートと有機高分子化合物層用シートを交互にする必要はないが、金属箔層の熱伝導性と有機高分子化合物層の接着性や密着性のバランスの観点から交互にすることが好ましい。
【0035】
成形体の形状は、後の(b)工程で、主面からでる法線に対し、0〜30度の角度で成形体をスライスする際に不都合が生じなければ、いかなる形状であってもよい。例えば、各層用のシートの形状を円形に成形し、それらを積層することによって円柱状の成形体を作製し、その後の(b)工程でのスライスを「かつら剥き」のような方法で実施することも可能である。
【0036】
上記(a)工程における積層時の圧力や捲回時の引っ張り力は、後に実施される(b)スライス工程において、成形体のスライス面が潰れて金属箔層の配向が崩れない程度に弱く、且つ成形体における金属箔層と有機高分子化合物層が適度に接着する程度に強くなるように調整することが望ましい。通常、成形体を形成時の圧力や引っ張り力を調整することによって、金属箔層−有機高分子化合物層間の充分な接着を得ることが可能である。しかし、金属箔層−有機高分子化合物層間の接着力が不足する場合、溶剤又は接着剤等を金属箔層−有機高分子化合物層の間に薄く塗布した後に積層又は捲回を実施してもよい。
【0037】
上記(b)の成形体をスライスする工程は、成形体をその主面から出る法線に対して0〜30度の角度で、熱伝導シートが所定の厚さを有するようにスライスすることによって実施される。スライス時に使用可能な切断具は、特に限定されるものではないが、鋭利な刃を備えたスライサー及びカンナ等を使用することが好ましい。鋭利な刃を備えた切断具を使用することによって、スライス後に得られる熱伝導シートの金属箔層の配向が乱れ難く、且つ厚みの薄い熱伝導シートを容易に作製することが可能となる。
【0038】
前記スライスする角度が30度以下の場合、得られた熱伝導シートの熱伝導率が良好である。前記成形体が積層体である場合は、金属箔層用シート及び有機高分子化合物層用シートの積層方向とは垂直もしくはほぼ垂直となるように(上記角度の範囲内で)スライスすればよい。また、前記成形体が捲回体である場合は捲回の軸に対して垂直もしくはほぼ垂直となるように(上記角度の範囲内で)スライスすればよい。上述したように、円形状の金属箔層用シート及び有機高分子化合物層用シートを積層した円柱状の成形体の場合は、上記角度の範囲内でかつら剥きのようにスライスしてもよい。
上記成形体を法線に対して0〜30度の角度でスライスすることにより、得られる熱伝導シートは、シートの厚み方向に対して金属箔層が0〜50度の角度で配向することになる。
【0039】
(b)工程は、熱伝導シートを構成する組成物のガラス転移温度(Tg)よりも50℃高い温度(Tg+50℃)〜Tgよりも20℃低い温度(Tg−20℃)の範囲で実施することが好ましい。スライス時の温度がTg+50℃以下であると、成形体が柔軟になってスライスが実施し難くなることを防ぐだけでなく、熱伝導シート内の金属箔層の配向が乱れることも防ぐ。
一方、スライス時の温度がTg−20℃以上であると、成形体が固く脆くなり、スライスが実施し難くなることもなく、スライス直後に熱伝導シートが割れることを回避しやすい。スライスを実施するより好ましい温度は、Tg+40℃〜Tg−10℃の温度範囲である。
【0040】
<放熱装置>
本発明は放熱装置も範囲内である。本発明の放熱装置は、発熱体と放熱体との間に本発明の熱伝導シートを介在させた構造を有する。
本発明の放熱装置に使用可能な発熱体としては、少なくともその表面温度が200℃を超えないものであり、本発明の熱伝導シートを好適に使用できる温度は−10℃〜120℃の範囲である。発熱体の表面が200℃を超える可能性が高い、例えば、ジェットエンジンのノズル近傍、窯陶釜内部周辺、溶鉱炉内部周辺、原子炉内部周辺、宇宙船外殻等における放熱装置への適用は、熱伝導シート内の有機高分子化合物が分解してしまう可能性が高いので適さない傾向がある。本発明の放熱装置に好適な発熱体としては、例えば、半導体パッケージ、ディスプレイ、LED、電灯等が挙げられる。
【0041】
一方、本発明の放熱装置に使用可能な放熱体は、特に限定されるものではなく、放熱装置に適用される代表的なものであってよい。例えば、アルミや銅製のフィン又は板等を利用したヒートシンク、ヒートパイプに接続されているアルミや銅製のブロック、内部に冷却液体をポンプで循環させているアルミや銅製のブロック、ペルチェ素子及びこれを備えたアルミや銅製のブロック等が挙げられる。
【0042】
アルミや銅に代わって、熱伝導率10W/mK以上の素材、例えば、銀、鉄、インジウム等の金属、黒鉛、ダイヤモンド、窒化アルミ、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミ等の素材を利用したものも好ましい。
本発明の放熱装置は、上述の発熱体と放熱体との間に本発明の熱伝導シートを設置し、各々の面を接触させて固定することによって成立する。熱伝導シートの固定は、各接触面を十分に密着させた状態で固定できる方法であれば、特に限定されずに、如何なる方法を用いてもよい。但し、各接触面の十分な密着を持続させる観点から、押し付け力が持続するような方法が好ましい。例えば、ばねを用いてねじ止めする方法、クリップを用いて挟み込む方法が挙げられる。本発明の放熱装置によれば、高い放熱効率を達成することが可能である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
なお、各実施例において熱伝導性の指標とした熱伝導率と、密着性の指標としたタック強度は、以下の方法により求めた。
【0045】
(熱伝導率の測定)
測定する熱伝導シートを1cm×1cmの大きさにカッターで切断し、その切断片を一方の面がトランジスタ(2SC2233)、他方の面がアルミニウム放熱ブロックに接するように配置し、試験サンプルを作製した。次いで、トランジスタを押し付けながら、試験サンプルに電流を通じ、トランジスタの温度(T1、単位℃)及び放熱ブロックの温度(T2、単位℃)を測定し、測定値及び印可電力(W、単位W)から、下式に沿って、熱抵抗(X、単位℃/W)を測定した。
【0046】
【数1】

【0047】
得られた熱抵抗(X)、切断片の膜厚(d、単位μm)、及び熱伝導率の既知試料による補正係数Cから、下式に沿って、熱伝導率(Tc、単位W/mK)を見積もった。
【0048】
【数2】

【0049】
(タック強度の測定)
レスカ株式会社製タッキング試験機を用いて、JIS Z0237−1991に記載の方法(プローブ径5.1mmφ、引き剥がし速度10mm/s、接触荷重100gf/cm、接触時間1s)により測定した。
【0050】
(実施例1)
YDCN−703(東都化成株式会社製、商品名:o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210)42.3質量部、フェノライトLF2882(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名:ビスフェノールAノボラック樹脂)23.9質量部、HTR−860P−3(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:エポキシ基含有アクリルゴム、分子量80万、Tg−7℃)140質量部、キュアゾール2PZ−CN(四国化成工業株式会社製、商品名:1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール)0.4質量部及びNUCA−187(日本ユニカー株式会社製、商品名:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.7質量部からなる組成物に、メチルエチルケトンを加えて攪拌混合し、真空脱気して有機高分子化合物含有ワニスを得た。
【0051】
この有機高分子化合物含有ワニスを厚さ50μmの離型処理ポリエチレンテレフタレート(帝人株式会社製、商品名:ピューレックスS−31)上に塗布し、100℃で10分間、140℃で5分間加熱乾燥し、前記ポリエチレンテレフタレートから剥離することで、厚さ10μmのフィルム状の有機高分子化合物層用シートを得た。
このフィルム状有機高分子化合物層用シートと、金属箔層用シートとしての電解銅箔(古河サーキットフォイル(株)製、商品名「F0−WS」、箔厚9μm)とを、ラミネーターを用いて60℃で交互にラミネートすることで、厚み10mmの多層構造を有する成形体を得た。
【0052】
この成形体をドライアイスで冷却した後、−10℃の温度において、積層断面をカンナを用いてスライス(銅箔面から出る法線に対し5度の角度)することで、実施例1の熱伝導シートを得た。
得られた熱伝導シートの断面を光学顕微鏡で観察し、熱伝導シート表面に対する金属箔層の角度を測定したところ8度であり、金属箔層は熱伝導シートの厚み方向に0〜50度の角度で配向していることが認められた。
得られた熱伝導シートの熱伝導率は32W/mK、タック強度は0.21Nと共に良好な値を示した。
【0053】
(実施例2)
実施例1で得られた有機高分子化合物含有ワニスを、金属箔層用シートとしての電解銅箔(古河サーキットフォイル(株)製、商品名「F0−WS」、箔厚9μm)上に塗布し、100℃で10分間、140℃で5分間加熱乾燥し、厚さ10μmの有機高分子化合物層付き銅箔を得た。
この有機高分子化合物層付き銅箔を、ラミネーターを用いて60℃で交互にラミネートすることで、厚み10mmの多層構造を有する成形体を得た。この成形体をドライアイスで冷却した後、−10℃の温度において、積層断面をカンナを用いてスライス(銅箔面から出る法線に対し5度の角度)することで、実施例2の熱伝導シートを得た。
【0054】
得られた熱伝導シートの断面を光学顕微鏡で観察し、熱伝導シート表面に対する金属箔の角度を測定したところ6度であり、金属箔は熱伝導シートの厚み方向に0〜50度の角度で配向していることが認められた。得られた熱伝導シートの熱伝導率は43W/mK、タック強度は0.25Nと共に良好な値を示した。
【0055】
(比較例1)
実施例1で得られたフィルム状の有機高分子化合物層用シートを比較例1の熱伝導シートとし、タック強度を測定したところ0.45Nと良好であったが、熱伝導率は0.6W/mKと低い値を示した。
【0056】
(比較例2)
実施例2で得られた有機高分子化合物層付き銅箔を比較例2の熱伝導シートとし、熱伝導率を測定したところ1.4W/mKと低い値を示し、樹脂面のタック強度は0.42Nと良好であったが、銅箔面は0Nと密着性を示さなかった。
【0057】
(比較例3)
実施例1で用いた電解銅箔(古河サーキットフォイル社製、商品名「F0−WS」、箔厚9μm)を比較例3の熱伝導シートとした。タック強度が0Nと密着性が低く、熱伝導率を測定したところ11W/mKと低い値を示した。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により、高い熱伝導性を持ち、必要に応じて密着性、接着性等の性能を容易に追加することが可能な熱伝導シートを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔層と有機高分子化合物層とを含む多層構造を有する熱伝導シートにおいて、前記金属箔層が前記熱伝導シートの面に対して一方向に二層以上で積層されており、前記有機高分子化合物層が少なくとも有機高分子化合物を含有しており、前記各々の金属箔層間が前記有機高分子化合物層で結合されており、且つ前記金属箔層は前記熱伝導シートの厚み方向に配向していることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項2】
前記一方向に二層以上で積層された金属箔層は、シートの厚さ方向に対し、0〜50度の角度で配向していることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記有機高分子化合物が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
上記金属箔層が銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、金、銀、ニッケル、パラジウム、クロム、モリブデン及びこれらの合金の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記金属箔層と前記有機高分子化合物層とを含む多層構造を有する熱伝導シートの製造方法であって、
前記金属箔層と前記有機高分子化合物層を交互に積層して多層構造を有する成形体を形成する工程と、前記成形体をその主面から出る法線に対して0〜30度の角度でスライスする工程と、を有する熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記金属箔層と前記有機高分子化合物層を含む多層構造を有する熱伝導シートの製造方法であって、
前記金属箔層と前記有機高分子化合物層との積層体を前記金属箔層の配向方向を軸にして捲回して多層構造を有する成形体を形成する工程と、前記成形体をその主面から出る法線に対して0〜30度の角度でスライスする工程と、を有することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に介在させた構造を有することを特徴とする放熱装置。

【公開番号】特開2011−178008(P2011−178008A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43775(P2010−43775)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】