説明

熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法、及び熱伝導シートを用いた放熱装置

【課題】高い熱伝導性と接着性を併せ持つ熱伝導シートを提供すること。
【解決手段】ガラス転移温度(Tg)が0℃以下である有機高分子化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、及び鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有する組成物を含み、前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法、並びに熱伝導シートを用いた放熱装置及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多層配線板、半導体パッケージにおける配線の高密度化や、電子部品の搭載密度が大きくなり、また、半導体素子も高集積化し、単位面積あたりの発熱量が大きくなったため、半導体パッケージからの熱放散を良くすることが望まれるようになっている。
【0003】
半導体パッケージとアルミニウムや銅等のヒートシンク、半導体チップとアルミニウムや銅等のヒートスプレッダなど、発熱体と放熱体との間に、熱伝導グリース、又は熱伝導シートを挟んで密着させることで熱を放散する放熱装置が、一般に簡便に使用されている。しかし、熱伝導グリースよりは、熱伝導シートの方が放熱装置を組み立てる際の作業性に優れている。熱放散を良くするには、熱伝導シートに高い熱伝導性が求められるが、従来の熱伝導シートの熱伝導性は必ずしも十分とは言えなかった。
【0004】
そのため、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させる目的で、マトリックス材料中に熱伝導性の大きな無機粉末を配合し、それをシート面に対して垂直に配向させた熱伝導シートが提案されている。例えば、特許文献1には、シート面に対してほぼ垂直方向に、無機充填材が配向した熱伝導シートが開示されている。特許文献2には、ゲル状物質に分散されたグラファイト小片が、シート面に対して垂直配向した構造が記載されている。
【0005】
一方、熱伝導シートには、被着体との密着が良いほど熱伝導性が向上するため、密着性も求められている。また、CPUにおける半導体チップとヒートスプレッダなどの被着面間のギャップ変動への追従性も求められている。これらの目的を満たす熱伝導シートとして、熱硬化性樹脂を接着成分とする、接着性を有するシートが提案されている。例えば、特許文献3には、熱硬化性樹脂組成物中に無機質フィラーを含有させた熱伝導シートが開示されている。特許文献4には、熱伝導性充填材を含有させた熱可塑性樹脂をマトリックス成分とし、それにエポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を加えた熱伝導シートが開示されている。しかしながら、これら接着性を有する熱伝導シートの熱伝導性は、必ずしも十分とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−26202号公報
【特許文献2】特開2006−332305号公報
【特許文献3】特開平10−173097号公報
【特許文献4】特開2008−106231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、従来の熱伝導シートは熱伝導性と接着性の両立が不十分であった。本発明は、従来技術の課題に鑑み、高い熱伝導性と接着性を併せ持つ熱伝導シート及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、高い放熱能力を有する放熱装置及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有した有機高分子化合物(A)をマトリックス成分とし、前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を熱伝導シートの厚み方向に配向させることで高い熱伝導性を有し、更に、エポキシ樹脂(B)、前記エポキシ樹脂の硬化剤(C)を添加することで接着性が付与されることを見い出した。
【0009】
すなわち、本発明は、ガラス転移温度(以下Tgと記す)が0℃以下である有機高分子化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、及び鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有する組成物を含み、
前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向している、熱伝導シート、に関する。
【0010】
また、本発明の熱伝導シートの好ましい態様として、前記有機高分子化合物(A)の重量平均分子量が、25万〜100万である、上記記載の熱伝導シート、
前記有機高分子化合物(A)が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含む、上記記載の熱伝導シート、
エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)が、フェノール樹脂、芳香族アミン樹脂、酸無水物、イミダゾール化合物から選ばれる少なくとも1種以上を含む、上記記載の熱伝導シート、
前記組成物中に、前記有機高分子化合物(A)が20〜60体積%、及び前記エポキシ樹脂(B)が5〜25体積、前記エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)が0.25〜25体積%で含有される上記記載の熱伝導シート、
前記組成物中に、前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)が25〜75体積%で含有される、上記記載の熱伝導シート、などが挙げられる。
【0011】
また、本発明は、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、及び鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有する組成物を、
前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の質量平均径の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に対して平行方向に前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)が配向した一次シートを作製する工程、
前記一次シートを積層して成形体を得る工程、
前記一次シート面から出る法線に対し、前記成形体を0度以上30度以下の角度範囲でスライスして熱伝導シートを得る工程、
を含む、熱伝導シートの製造方法に関する。
【0012】
さらに、本発明は、上記記載の熱伝導シート、又は上記記載の製造方法により得られた熱伝導シートを、発熱体と放熱体との間に介在させ、前記熱伝導シートを前記発熱体(被着体)と前記放熱体(被着体)とに接着させて成る放熱装置、
上記記載の熱伝導シート、又は上記記載の製造方法により得られた熱伝導シートを介して、基板上の半導体チップ(発熱体)とヒートスプレッダ(放熱体)とを接着させて成る半導体装置に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱伝導シートは、高い熱伝導性と高い接着性を併せ持つため、放熱用途に好適である。
また、本発明の熱伝導シートの製造方法は、高い熱伝導性と高い接着性を併せ持つ熱伝導シートを、生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、且つ確実に製造できる。
更に、本発明の放熱装置及び本発明の半導体装置は、高い放熱能力を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
<熱伝導シート>
本発明における熱伝導シートは、Tgが0℃以下である有機高分子化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、前記エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、及び鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有する組成物を含み、
前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向していることを特徴としている。
【0015】
この熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み、熱をかけることにより、組成物中のエポキシ樹脂(B)と前記エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)が、シートと被着体の界面に滲み出して硬化するため、接着性を発現する。
以下、本発明の熱伝導シートに用いられる材料を説明する。
【0016】
(有機高分子化合物(A))
本発明における有機高分子化合物(A)のTgは0℃以下であり、好ましくは−50〜0℃、より好ましくは−50〜−30℃である。有機高分子化合物のTgが上記範囲内であると、シート形状を保つための強度が得られやすく、また、被着体へ充分に密着可能な程度の柔軟性が得られやすい。熱伝導シートの柔軟性が低下すると、被着体に対する初期密着性が悪くなるため、熱伝導性が低下する傾向がある。
なお、Tgは動的粘弾性測定(DMA)を行い、それによって導き出されるtanδにより算出することができる。
【0017】
本発明における有機高分子化合物(A)の重量平均分子量は25万〜100万であり、好ましくは40万〜60万である。25万未満の場合、シートとしての取り扱いに十分な膜強度が得られず、100万を超える場合、シートの成形が困難となる傾向がある。有機高分子化合物(A)の重量平均分子量が上記範囲内であると、シート形状を保つための強度が得られやすく、また、被着体へ充分に密着可能な程度の柔軟性が得られやすい。
なお、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0018】
本発明における有機高分子化合物(A)は、Tgが0℃以下であれば特に制限はないが、例えば、アクリル酸ブチル又は/及びアクリル酸エチルを主原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(所謂アクリルゴム)、ポリジメチルシロキサン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂シリコーンゴム)、ポリイソプレン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂イソプレンゴム)、クロロプレンを主原料成分とした高分子化合物(所謂クロロプレンゴム)、又はポリブタジエン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂ブタジエンゴム)等、柔軟で、一般的に「ゴム」と総称される高分子化合物が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、アクリル酸ブチル又は/及びアクリル酸エチルを主原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得易く、化学的安定性及び加工性に優れ、且つ比較的廉価であるために好ましい。
【0020】
本発明における有機高分子化合物(A)として、具体的には、ナガセケムテックス株式会社製のアクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(商品名:HTR−280改2DR、Tg=−39℃、重量平均分子量:53万)、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体(商品名:HTR−811DR、Tg=−43℃、重量平均分子量:42万)、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/グリシジルメタクリレート共重合体(商品名:HTR−811E改1DR、Tg=−45℃、重量平均分子量:50万)、日本ゼオン株式会社製のエポキシ基含有アクリルゴム(商品名:Nipol AR31、Tg=−15℃)等が挙げられる。
【0021】
有機高分子化合物(A)の含有量は、好ましくは組成物全体積の20〜60体積%、より好ましくは30〜45体積%である。含有量が20体積%未満の場合、シートの成形が困難となり、60体積%を超える場合、シートの熱伝導性が低下する傾向にある。
【0022】
なお、本明細書における有機高分子化合物(A)の含有量(体積%)は、次式により求めた値である。また、本発明においては、後述するエポキシ樹脂(B)、前記エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)、及びその他の任意成分(E)の含有量(体積%)も、次式と同様に求めた値とする。
有機高分子化合物(A)の含有量(体積%)=(Aw/Ad)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+(Dw/Dd)+(Ew/Ed)+…)×100
Aw:有機高分子化合物(A)の質量組成(質量%)
Bw:エポキシ樹脂(B)の質量組成(質量%)
Cw:エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)の質量組成(質量%)
Dw:黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の質量組成(質量%)
Ew:その他の任意成分(E)の質量組成(質量%)
Ad:有機高分子化合物(A)の比重(本発明においては1.2で計算する)
Bd:エポキシ樹脂(B)の比重(本発明においては1.2で計算する)
Cd:エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)の比重(本発明においては1.2で計算する)
Dd:黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の比重(本発明においては2.1で計算する)
Ew:その他の任意成分(E)の比重(本発明においては1.2で計算する)
【0023】
(エポキシ樹脂(B))
本発明におけるエポキシ樹脂として、具体的には、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名:YDF−8170C、YDF−870GS)、(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名:エピコート806、807)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、EPICLON N−770、N−775、N−865)、(ジャパンエポキシレジン株式会社製、エピコート152、154)、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名:YDCN−704、YDCN−704A、YDCN−700−2、YDCN−700−3、YDCN−700−5、YDCN−700−7、YDCN−700−10)、多官能エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX−611,EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622)等が挙げられる。
【0024】
エポキシ樹脂(B)の含有量は、好ましくは組成物全体積の5〜25体積%、より好ましくは7.5〜17.5体積%である。含有量が5体積%未満の場合、シートの接着性が低下する傾向にあり、25体積%を超える場合、シートの熱伝導性が低下する傾向にある。
【0025】
(エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C))
本発明においては、エポキシ樹脂(B)の硬化剤、及び必要に応じ硬化促進剤(C)を用いる。硬化剤としては、接着性の観点から、フェノール樹脂、芳香族アミン樹脂、酸無水物、イミダゾール化合物等が好ましい。中でも、使いやすさの点でフェノール樹脂及びイミダゾール化合物が好ましい。また、硬化剤としてフェノール樹脂を用いる場合は、充分に硬化させる点で、必要に応じて硬化促進剤を用いても構わない。
【0026】
フェノール樹脂として、具体的には、フェノールノボラック樹脂(三井化学株式会社製、商品名:ミレックスXLC−LL、XLC−3L、XLC−4L)、(DIC株式会社製、商品名:フェノライトTD−2131、TD−2106、TD−2093、TD−2091、TD−2090)、クレゾールノボラック樹脂(DIC株式会社製、商品名:フェノライトKA−1160、KA−1163、KA−1165)、ビスフェノールA型ノボラック樹脂(DIC株式会社製、商品名:フェノライトVH−4150、VH−4170、VH−4240、KH−6021)等が挙げられる。
【0027】
イミダソール化合物として、具体的には、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0028】
硬化剤としてフェノール樹脂を用いる場合、充分に硬化させる点で、硬化促進剤を用いることが好ましい。硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール化合物、リン化合物等が挙げられる。
【0029】
イミダゾール化合物として、具体的には、上記のイミダゾール化合物等が挙げられる。リン化合物として、具体的には、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
硬化促進剤の添加量は、エポキシ樹脂(B)と硬化剤の合計重量の0.25〜2質量%であり、好ましくは0.5〜1質量%である。0.25質量%未満の場合、シートの接着性が低下する傾向にあり、2質量%を超える場合、シートのポットライフが低下する傾向にある。
【0030】
エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)の含有量は、好ましくは組成物全体積に対して0.25〜25体積%である。硬化剤及び硬化促進剤としてフェノール樹脂及びイミダゾール化合物を用いる場合は、好ましくは組成物全体積の5〜25体積%、より好ましくは7.5〜17.5体積%である。5体積%未満の場合、シートの接着性が低下する傾向にあり、25体積%を超える場合、シートのポットライフが低下する傾向にある。また、硬化剤としてイミダゾール化合物を用いる場合は、好ましくは組成物全体積の0.25〜5体積%、より好ましくは0.5〜2体積%である。含有量が0.25体積%未満の場合、シートの接着力が低下する傾向にあり、5体積%を超える場合、シートのポットライフが低下する傾向にある。
【0031】
(黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D))
本発明における黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)は、熱伝導性の向上の観点から、鱗片状、楕球状又は棒状であり、中でも、鱗片状が好ましい。
【0032】
本発明における鱗片状、楕球状又は棒状の黒鉛粒子として、例えば、鱗片黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、酸処理黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末又は炭素繊維フレーク等の黒鉛粒子等が挙げられ、また、本発明における鱗片状の六方晶窒化ホウ素粒子として、板状窒化ホウ素粉末、又は鱗片状窒化ホウ素粉末等の六方晶窒化ホウ素粒子が挙げられる。
【0033】
特に、黒鉛粒子が好ましく、有機高分子化合物(A)と混合した際に、鱗片状になり易いものがより好ましい。具体的には、薄片化黒鉛粉末又は膨張黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子が配向させ易く、高い熱伝導性が得られ易いために好ましい。
【0034】
また、本発明において用いられる黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)は、その結晶中の六員環面が、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向しており、これはX線回折測定により確認することができる。具体的には、以下の方法で確認する。
【0035】
まず、鱗片状、楕球状又は棒状の黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、シートの面方向に対し、実質的に平行配向した測定用サンプルシートを作製する。サンプルシートの作製方法は、まず、10体積%以上の黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)と樹脂との混合物をシート化する。ここでの「樹脂」とは、有機高分子化合物(A)に相当する樹脂を使用するが、非晶質樹脂のようなX線回折の妨げになるピークが現れない樹脂についても使用することが可能である。次に、この混合物のシートが元の厚みの1/10以下となるようにプレスし、プレスしたシートを積層し、この積層体を更に1/10以下まで押し潰す操作を3回以上繰り返す。この操作により、作製した測定用サンプルシート中では、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、測定用サンプルシートの面方向に対し、実質的に平行配向した状態になる。
【0036】
上記の方法で作製したサンプルシートの表面に対し、X線回折測定を行うと、2θ=77度付近に現れる黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27度付近に現れる黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる。
【0037】
これより、本発明において「結晶中の六員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している」とは、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)、及び有機高分子化合物(A)を含有した組成物のシート化物であって、鱗片状、楕球状又は棒状の黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、シートの面方向に対し、実質的に平行配向したシート化物の表面に対し、X線回折測定を行い、2θ=77度付近に現れる黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27度付近に現れる黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる状態をいう。
【0038】
本発明の熱伝導シートは、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シートの厚み方向に配向しており、この配向がないと十分な熱伝導性が得られない。
【0039】
本発明において「熱伝導シートの厚み方向に配向」とは、熱伝導シートの厚み方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)について見えている方向から、長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が60〜90度になる状態をいう。なお、「黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の長軸の方向」とは、熱伝導シートの厚み方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、見えている方向から黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)断面の最も長い径(長径)を特定し、その特定された長径の方向をいう。したがって、「熱伝導シートの厚み方向に配向」とは、任意の50個の黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子断面における長径の方向と、熱伝導シート表面との間の角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が60〜90度になる状態をいう。なお、本発明において、熱伝導シートに含まれる黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の形状が鱗片状である場合、シート断面を観察する際には、鱗片の面に対し、垂直、又はほぼ垂直となるシート断面を観察するものとする。
【0040】
黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の長径の平均値は、熱伝導性の向上の観点から、好ましくは0.02〜2mm、より好ましくは0.1〜1mm、特に好ましくは0.25〜0.5mmである。
なお、本発明において「長径の平均値」とは、熱伝導シートの厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)について見えている方向から長径を測定し、平均値を求めた結果をいう。
【0041】
黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の含有量は、好ましくは組成物全体積の25〜75体積%、より好ましくは30〜60体積%である。25体積%未満の場合、シートの熱伝導性が低下する傾向にあり、75体積%を超える場合、シートの成形が困難になる傾向がある。
【0042】
また、本発明の熱伝導シートは、必要に応じてリン酸エステル等の難燃剤、ウレタンアクリレート等の靭性改良剤、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ向上剤、シリコーン油等の消泡剤、及び無機イオン交換体等のイオントラップ剤等を適宜添加することができる。
【0043】
また、本発明の熱伝導シートにおいて、粘着面を保護するために、使用前の熱伝導シートの粘着面を保護フィルムで覆っておいても良い。保護フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、又はメチルペンテンフィルム等の樹脂、コート紙、コート布、又はアルミニウム等の金属が使用できる。これらの保護フィルムは2種以上を組み合わせて多層フィルムとしてもよく、また、保護フィルムの表面がシリコーン系、又はシリカ系等の離型剤等で処理されたものが好ましく用いられる。
【0044】
本発明の熱伝導シートを得る方法は、特に限定されない。例えば、以下に説明する熱伝導シートの製造方法により得ることができる。
【0045】
<熱伝導シートの製造方法>
本発明の熱伝導シートの製造方法は、一次シートを作製する工程、この一次シートを積層して成形体を得る工程、及びこの成形体をスライスする工程を含む。
具体的には、本発明の熱伝導シートの製造方法は、下記工程(1)〜(3)を含む。
【0046】
(1)Tgが0℃以下である有機高分子化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、及び鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有する組成物を、
前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の質量平均径の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面(一次シート面)に対して平行方向に前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)が配向した一次シートを作製する工程。
(2)前記一次シートを積層して成形体を得る工程。
(3)前記一次シート面から出る法線に対し、前記成形体を0度以上30度以下の角度範囲でスライスして熱伝導シートを得る工程。
以下、各工程について説明する。
【0047】
(1)一次シートの作製工程
まず、有機高分子化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、及び黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有する組成物を得る。組成物はこれらを混合することにより得られるが、混合方法は特に制限はなく、例えば、二軸ロールによる混練、ニーダーによる混練、ブラベンダによる混練、又は押出機による混練等が可能である。また、有機高分子化合物(A)を溶剤に溶かしておき、そこに他の成分を加えて撹拌した後、乾燥する方法も可能である。
【0048】
次いで、前記組成物を、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の質量平均径の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に対して平行方向(完全に平行方向である必要はない)に、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)が配向した一次シートを作製する。
【0049】
組成物を成形又は塗工する際の厚みは、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の質量平均径の20倍以下、好ましくは0.2〜2倍とする。0.2倍未満となる場合、または、20倍を超える場合、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の配向が不十分になり、結果として、最終的に得られるシートの熱伝導性が低くなる傾向がある。組成物を成形又は塗工する際の厚みは、具体的には、0.1〜10mmが好ましく、0.1〜2mmがより好ましい。0.1mm未満となる場合、または、10mmを超える場合、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒素化ホウ素粒子(D)の配向が不十分であり、結果として、最終的に得られるシートの熱伝導性が低くなる傾向がある。
【0050】
なお、本発明において「質量平均径」とは、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を網目の異なる数種類のふるいにかけて分級し、各ふるいに残った黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の重量を測定し、累積質量分布曲線を求め、累積質量分布曲線において累積質量が50%に達する径のことを意味する。
【0051】
質量平均径の好ましい範囲は、最終的に得られる熱伝導シートの厚みにより異なるが、最終的に得られる熱伝導シートの厚みの1/100〜10倍が好ましく、1/10〜7倍がより好ましく、1〜4倍が特に好ましい。1/100未満の場合、シートの熱伝導性が低下する傾向にあり、10倍を超える場合、シートが不均質になり、効率的にスライスすることが難しくなる傾向がある。
【0052】
質量平均径は、具体的には、0.25〜2mmが好ましく、0.5〜1mmがより好ましい。0.25mm未満であるとシートの熱伝導性が低下するする傾向があり、2mmを超えるとシートが不均質になり、効率的にスライスすることが難しくなる傾向がある。
【0053】
前記組成物を、圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工することにより、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を、主たる面に対して平行方向に配向した一次シートを作製するが、圧延成形又はプレス成形が、確実に黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を配向させ易いので好ましい。
【0054】
本発明において、「黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を、主たる面に対して平行方向に配向した一次シート」とは、シートの主たる面に対して、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)が寝ているように配向した状態のシートをいう。シート面内での黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の向きは、前記組成物を成形する際に、組成物の流れる方向を調整することによってコントロールされる。つまり、組成物を圧延ロールに通す方向、組成物をプレスする方向、組成物を押し出す方向、又は組成物を塗工する方向を調整することで、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の向きがコントロールされる。黒鉛粒子及び/又は六方晶窒化ホウ素粒子(D)は、基本的に異方性を有する粒子であるため、組成物を圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工することにより、通常、粒子の向きは揃って配置される。
【0055】
また、一次シートを作製する際、有機高分子化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、及び黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有する組成物の、成形前の形状が塊状物である場合は、塊状物の厚み(d0)に対し、成形後の一次シートの厚み(dp)がdp/d0<0.15になるように圧延成形、プレス成形又は押出成形することが好ましい。dp/d0<0.15となるように成形することにより、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)が、シートの主たる面に対して平行方向に配向させ易くなる。
【0056】
(2)成形体を得る工程
次いで、前記一次シートを積層し、成形体を得る。一次シートを積層する方法は特に制限はないが、例えば、複数枚の一次シートを積層する方法、又は一次シートを折り畳む方法等が挙げられる。積層する際は、シート面内での黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の向きを揃えて積層する。積層する際の一次シートの形状は、特に制限はないが、例えば、矩形状の一次シートを積層した場合は角柱状の成形体が得られ、また、円形状の一次シートを積層した場合は円柱状の成形体が得られる。積層枚数に制限はなく、所望とする熱伝導シートのサイズに応じて積層することができる。例えば、10〜100枚とすることができる。
【0057】
複数の一次シートを積層する方法、又は一次シートを折り畳む方法に代えて、一次シートを捲回して成形体を得ることも可能である。一次シートを捲回する方法も特に制限はないが、前記一次シートを黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の配向方向を軸にし、捲回すればよい。捲回の形状は特に制限はないが、例えば、円筒形でも角筒形でも良い。
【0058】
一次シートを積層する際の圧力は、この後の工程である一次シート面から出る法線に対して0〜30度の角度でスライスする都合上、スライス面が潰れて所要面積を下回らない程度に弱く、且つシート間がうまく接着する程度に強くなるよう調整される。通常、この調整で積層面又は捲回面間の接着力を充分に得られるが、不足する場合、溶剤又は接着剤等を薄く一次シートに塗布した上で積層を行っても良い。
【0059】
(3)スライス工程
次いで、前記成形体を一次シート面から出る法線に対し0〜30度で、好ましくは0〜15度でスライスし、所定の厚さを持った熱伝導シートを得る。30度を超える場合、シートの熱伝導率が低下する傾向がある。
【0060】
前記成形体が複数枚の一次シートを積層する方法、又は一次シートを折り畳む方法等により得た積層体である場合、一次シートの積層方向と垂直、又はほぼ垂直となるようにスライスすれば良い。また、前記成形体が一次シートを捲回する方法により得られた捲回体である場合、捲回の軸に対して垂直、又はほぼ垂直となるようにスライスすれば良い。また、円形状の一次シートを積層した円柱状の成形体の場合、上記角度の範囲内でかつら剥きのようにスライスしても良い。
【0061】
スライスする方法は特に制限はなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、又はナイフ加工法等が挙げられるが、熱伝導シートの厚みの平行を保ちやすい点でナイフ加工法が好ましい。また、スライスする際の切断具も特に制限はないが、鋭利な刃を備えたスライサー又はカンナが、得られる熱伝導シートの表面近傍の黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の配向を乱し難く、且つ薄いシートも作製し易いので好ましい。
【0062】
スライスする際は、有機高分子化合物(A)のTg+30℃〜Tg+70℃で行い、Tg+30℃〜Tg+60℃で行うことが好ましい。Tg+30℃未満の場合、成形体が固く脆くなりすぎてスライスし難くなり、また、スライス直後にシートが割れ易くなる傾向がある。一方、Tg+70℃を超える場合、成形体が柔らかくなりすぎてスライスし難くなり、また、黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の配向が乱れる傾向がある。
【0063】
熱伝導シートの厚みは、用途等により適宜設定することが可能であるが、好ましくは0.1〜3mm、より好ましくは0.1〜1mmである。0.1mm未満の場合、シートとしての取り扱いが難しくなる傾向にあり、3mmを超える場合、シートの熱伝導性が低くなる傾向にある。成形体のスライス幅がシートの厚さとなり、スライス面がシートにおける発熱体や放熱体との当接面となる。
【0064】
<放熱装置>
本発明の放熱装置は、先に説明した本発明の熱伝導シート、又は本発明の製造方法により得られた熱伝導シートを、被着体である発熱体と放熱体との間に介在させ、熱伝導シートをこれら被着体に接着させることで得られる。
【0065】
発熱体としては、その表面温度が200℃を超えないものが好ましい。この表面温度が200℃を超える可能性が高いもの、例えば、ジェットエンジンのノズル近傍、窯陶釜内部周辺、溶鉱炉内部周辺、原子炉内部周辺又は宇宙船外殻等に使用すると、本発明の熱伝導シート、又は本発明の製造方法により得られた熱伝導シート中の樹脂成分が分解してしまう可能性がある。
【0066】
本発明の熱伝導シート、又は本発明の製造方法により製造された熱伝導シートが、特に好適に使用できる温度範囲は−10〜120℃であり、半導体チップ、ディスプレイ、LED又は電灯等が好適な発熱体の例として挙げられる。
【0067】
放熱体としては、例えば、アルミニウムや銅のフィンや板等を利用したヒートスプレッダ又はヒートシンク、ヒートパイプに接続されているアルミニウムや銅のブロック、内部に冷却液体をポンプで循環させているアルミニウムや銅のブロック、又はペルチェ素子及びこれを備えたアルミニウムや銅のブロック等が挙げられる。
【0068】
本発明の放熱装置は、本発明の熱伝導シート、又は本発明の製造方法により得られた熱伝導シートを介して、発熱体と放熱体とを接着させることで成立する。例えば、放熱装置としては、例えば、半導体チップとヒートスプレッダとを接着させてなる半導体装置が挙げられる。発熱体、熱伝導シート、及び放熱体を十分に密着させた状態で接着できる方法であれば、接着させる方法に特に制限はないが、150〜200℃に加熱して接着させる方法が簡便であり、一般的である。また、十分に密着させた状態で接着させるため、低圧力をかけた状態で加熱する方法が好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を説明する。なお、各実施例において熱伝導率及び接着力は以下の方法により求めた。
【0070】
(熱伝導率の測定)
熱伝導シートを厚さ約1mmの銅板間に挟み、0.3MPaの圧力をかけた状態で170℃/1時間の条件で接着させてサンプルを作製し、続いて、このサンプルの25℃での熱伝導率を、熱拡散率測定装置(NETZCH社製、装置名:LFA447)を用いて測定した。
【0071】
(接着力の測定)
熱伝導シートとアルミニウム箔とを、0.3MPaの圧力をかけた状態で170℃/1時間の条件で接着させ、続いて、25℃での熱伝導シートとアルミニウム箔との90度ピール強度を、レオメーター(株式会社東洋精機製作所製、装置名:ストログラフE−S)を用い、引張速度:50mm/分の条件で測定した。
【0072】
(実施例1)
有機高分子化合物(A)として、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、共重合質量比:82/10/3/5、Tg:−39℃、重量平均分子量:53万):168g、エポキシ樹脂(B)として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名:YDF−8170C、エポキシ当量:156g/eq.):30g、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)としては、硬化剤として、キシレン変性フェノールノボラック樹脂(三井化学株式会社製、商品名:ミレックスXLC−LL、水酸基当量:172g/eq.):32g、硬化促進剤として、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(四国化成株式会社製、商品名:2PZ−CN):0.3g、黒鉛粒子(D)として、鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、質量平均径:500μm、上記のX線回折測定を用いた方法により、結晶中の六員環面が、鱗片の面方向に配向していることを確認した。):270gを、二軸ロール(関西ロール社製)で混練(100℃)し、組成物を混練シートの形態で得た。
【0073】
組成物全体積に対する各成分の配合比率を、前述の計算式を用いて計算すると、有機高分子化合物(A)が43.7体積%、エポキシ樹脂(B)が7.8体積%、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)が8.4体積%(硬化促進剤が、エポキシ樹脂(B)とエポキシ樹脂(B)の硬化剤(C)との合計質量に対して0.5質量%)、及び黒鉛粒子(D)が40.1体積%であった。
【0074】
この混練シートを離型処理したPETフィルムに挟み、ロール成形機(日立機械エンジニアリング株式会社製、装置名:V2S−SR型シーティング熱ロール機)を用い、厚さ約1mmの一次シート(dp/d0=0.1)を得た。
【0075】
得られた一次シートを、30mm×150mmの大きさにカッターで切り出し、切り出したシートを45枚積層し、厚さが35mmになるよう、積層方向に常温で10分間圧力をかけ、成形体を得た。
【0076】
次いで、この成形体を0℃に冷却(有機高分子化合物(A)のTg+39℃)した後、35mm×150mmの積層断面を木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、装置名:超仕上げかんな盤スーパーメカ)を用いてスライス(一次シート面から出る法線に対して0度の角度でスライス)し、縦35mm×横150mm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(I)を得た。
なお、実施例中、Tgは、動的粘弾性測定装置(DMA)(TAインストゥルメンツ社製、ARES−2KSTD)を用い、昇温速度:5℃/分、測定周波数:1.0Hzの条件で測定した。
【0077】
この熱伝導シート(I)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(D)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度及び長径を測定したところ、角度の平均値は90度であり、黒鉛粒子(D)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は0.25mmであった。
【0078】
この熱伝導シート(I)の熱伝導率は30W/mKと良好な値を示し、また、接着力も0.5N/mmと良好な値を示した。
【0079】
(実施例2)
有機高分子化合物(A)として、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−811DR、共重合質量比:76/19/5、Tg:−43℃、重量平均分子量:42万)を用いた以外は実施例1と同様に操作し、縦35mm×横150mm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(II)を得た。
【0080】
この熱伝導シート(II)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(D)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度及び長径を測定したところ、角度の平均値は85度であり、黒鉛粒子(D)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は0.30mmであった。
【0081】
この熱伝導シート(II)の熱伝導率は32W/mKと良好な値を示し、また、接着力も0.45N/mmと良好な値を示した。
【0082】
(実施例3)
有機高分子化合物(A)として、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、共重合質量比:82/10/3/5、Tg:−39℃、重量平均分子量:53万):137g、エポキシ樹脂(B)として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名:YDF−8170C、エポキシ当量:156g/eq.):45g、前記エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)としては、硬化剤として、キシレン変性フェノールノボラック樹脂(三井化学株式会社製、商品名:ミレックスXLC−LL、水酸基当量:172g/eq.):48g、硬化促進剤として、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール(四国化成株式会社製、商品名:C11Z−CN):0.5g、黒鉛粒子(D)として、鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、質量平均径:500μm、上記のX線回折測定を用いた方法により、結晶中の六員環面が鱗片の面方向に配向していることを確認した。):270gを、二軸ロール(関西ロール社製)で混練(100℃)し、組成物を混練シートの形態で得た。
【0083】
組成物全体積に対する各成分の配合比率を、前述の計算式を用いて計算すると、有機高分子化合物(A)が35.6体積%、エポキシ樹脂(B)が11.7体積%、前記エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)が12.6体積%(硬化促進剤が(B)と(C)の合計重量に対して0.5質量%)、及び黒鉛粒子(D)が40.1体積%であった。
【0084】
以下、実施例1と同様に操作し、縦35mm×横150mm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(III)を得た。
【0085】
この熱伝導シート(III)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(D)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度及び長径を測定したところ、角度の平均値は88度であり、黒鉛粒子(D)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は0.29mmであった。
【0086】
この熱伝導シート(III)の熱伝導率は30W/mKと良好な値を示し、また、接着力も0.53N/mmと良好な値を示した。
【0087】
(実施例4)
有機高分子化合物(A)として、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体「HTR−280改2DR」(ナガセケムテックス株式会社製):91g、エポキシ樹脂(B)として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂「YDF−8170C」(東都化成株式会社製):32g、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)としては、硬化剤として、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール(四国化成株式会社製、商品名:C11Z−CN):1.6g、黒鉛粒子(D)として、鱗片状の膨張黒鉛粉末「HGF−L」(日立化成工業株式会社製、上記のX線回折測定を用いた方法により、結晶中の六員環面が、鱗片の面方向に配向していることを確認した。):146gを、二軸ロール(関西ロール社製)で混練(100℃)し、組成物を混練シートの形態で得た。
【0088】
組成物全体積に対する各成分の配合比率を、各成分の比重から計算すると、有機高分子化合物(A)が43.8体積%、エポキシ樹脂(B)が15.3体積%、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)が0.8体積%、及び黒鉛粒子(D)が40.1体積%であった。
【0089】
以下、実施例1と同様に操作し、縦35mm×横150mm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(IV)を得た。
【0090】
この熱伝導シート(IV)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(D)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度及び長径を測定したところ、角度の平均値は90度であり、黒鉛粒子(D)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は0.28mmであった。
【0091】
この熱伝導シート(IV)の熱伝導率は28W/mKと良好な値を示し、また、接着力も0.4N/mmと良好な値を示した。
【0092】
(比較例1)
有機高分子化合物(A)として、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体「HTR−280改2DR」(ナガセケムテックス株式会社製)の代わりに、「SG−700AS」(ナガセケムテックス株式会社製、Tg:5℃、重量平均分子量:40万)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作し、縦35cm×横150mm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(V)を得た。しかし、得られた熱伝導シート(V)は非常に硬く脆く、取り扱い難い状態であった。
【0093】
この熱伝導シート(V)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(D)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度及び長径を測定したところ、角度の平均値は79度であり、黒鉛粒子(D)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は0.22mmであった。
【0094】
この熱伝導シート(V)の接着力は0.45N/mmと良好な値を示したが、熱伝導率は9W/mKと低い値を示した。
【0095】
(比較例2)
エポキシ樹脂(B)の代わりに、ポリブテン(日油株式会社製、商品名:ニッサンポリブテン200N)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作し、縦35cm×横150mm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(VI)を得た。
【0096】
この熱伝導シート(VI)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(D)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度及び長径を測定したところ、角度の平均値は87度であり、黒鉛粒子(D)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は0.31mmであった。
【0097】
この熱伝導シート(VI)の熱伝導率は33W/mKと良好な値を示したが、接着力は0.03N/mmと低い値を示した。
【0098】
(比較例3)
エポキシ樹脂(B)及びエポキシ樹脂(B)の硬化剤(C)を用いないこと以外は実施例1と同様に操作し、縦35mm×横150mm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(VII)を得た。
【0099】
この熱伝導シート(VII)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(D)について見えている方向から、長軸面方向の熱伝導シート表面に対する角度及び長径を測定したところ、角度の平均値は90度であり、黒鉛粒子(D)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。また、長径の平均値は0.25mmであった。
【0100】
この熱伝導シート(VII)の熱伝導率は35W/mKと良好な値を示したが、接着力は0.05N/mmと低い値を示した。
【0101】
(比較例4)
黒鉛粒子(D)として、鱗片状の膨張黒鉛粉末の代わりに、球状の天然黒鉛粉末(質量平均径:20μm)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作し、縦35mm×横150mm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(VIII)を得た。
【0102】
この熱伝導シート(VIII)の接着力は0.5N/mmと良好な値を示したが、熱伝導率は2W/mKと低い値を示した。
【0103】
(比較例5)
実施例1において作製した一次シートを、熱伝導シート(IX)として評価した。
【0104】
この熱伝導シート(IX)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(D)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度及び長径を測定したところ、角度の平均値は5度であり、黒鉛粒子(D)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していないことが認められた。
【0105】
この熱伝導シート(IX)の接着力は1.2N/mmと良好な値を示したが、熱伝導率は5W/mKと低い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の熱伝導シートは、高い熱伝導性と高い接着性を併せ持つため、放熱用途に好適である。また、本発明の熱伝導シートにおいて、(A)〜(D)の成分や含有量をさらに特定することにより、さらに高い熱伝導性と高い接着性を達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度(Tg)が0℃以下である有機高分子化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、及び鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有する組成物を含み、
前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シート。
【請求項2】
前記有機高分子化合物(A)の重量平均分子量が、25万〜100万である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記有機高分子化合物(A)が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物を含む、請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)が、フェノール樹脂、芳香族アミン樹脂、酸無水物、イミダゾール化合物から選ばれる少なくとも1種以上を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記組成物中に、前記有機高分子化合物(A)が20〜60体積%、前記エポキシ樹脂(B)が5〜25体積%、及び前記エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)が0.25〜25体積%で含有される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記組成物中に、前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)が25〜75体積%で含有される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
ガラス転移温度(Tg)が0℃以下である有機高分子化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、エポキシ樹脂(B)の硬化剤及び必要に応じ硬化促進剤(C)、及び鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)を含有する組成物を、
前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)の質量平均径の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形、又は塗工し、主たる面に対して平行方向に前記黒鉛粒子又は/及び六方晶窒化ホウ素粒子(D)が配向した一次シートを作製する工程、
前記一次シートを積層して成形体を得る工程、
前記一次シート面から出る法線に対し、前記成形体を0度以上30度以下の角度範囲でスライスして熱伝導シートを得る工程、
を含む、熱伝導シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱伝導シート、又は請求項7に記載の製造方法により得られた熱伝導シートを、発熱体と放熱体との間に介在させ、前記熱伝導シートを前記発熱体と前記放熱体とに接着させて成る放熱装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱伝導シート、又は請求項7に記載の製造方法により得られた熱伝導シートを介して、基板上の半導体チップとヒートスプレッダとを接着させて成る半導体装置。

【公開番号】特開2012−15273(P2012−15273A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149452(P2010−149452)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】