説明

熱伝導性シリコーンゲル組成物、その製造方法及び熱伝導性シリコーンゲル

【課題】電気・電子部品及びこれらを搭載した回路基板を含むモジュール内に充填可能で、かつ硬化後、優れた応力緩和特性と熱伝導性を発揮することができる熱伝導性シリコーンゲル組成物の製造方法、及び該方法により得られる熱伝導性シリコーンゲル組成物、並びに該組成物より得られる熱伝導性シリコーンゲルを提供する。
【解決手段】シリコーンゲル組成物を調製する際に、熱伝導性充填剤と、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとを同時に熱処理した後、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと硬化触媒を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品及びこれらを搭載した回路基板を使用環境から保護するために好適に使用される熱伝導性シリコーンゲルを与える熱伝導性シリコーンゲル組成物の製造方法、及び該方法により得られる熱伝導性シリコーンゲル組成物、並びに該組成物より得られる熱伝導性シリコーンゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゲルは、従来IC等の電気・電子部品及びこれらを搭載した回路基板を、使用環境から発生する応力から保護する目的で使用されている。近年では、電子部品回路の高集積化、高電圧化に伴い、IC、回路から発生する熱量も増大しており、併せて熱応力の緩和も要求されるようになってきている。
【0003】
熱応力の緩和目的として、熱伝導性の良好な充填剤を使用すればよいことが知られている。このような充填剤としては、シリカ粉末、酸化アルミニウム粉末、炭化珪素粉末、窒化珪素粉末、窒化アルミニウム粉末、酸化マグネシウム粉末、ダイヤモンド粉末、鉄、ステンレススチール、銅等の金属粉末、並びにカーボン粉末等が知られている。
【0004】
しかしながら、上記充填剤のうち、金属粉末、カーボン粉末は電気伝導性があり、電気絶縁を目的とする封止用シリコーンゲル組成物に使用することはできない。炭化珪素粉末、ダイヤモンド粉末はいずれも硬度が高い材料であり、これらの粉末により充填された基板内の配線や素子が摩耗、切断するおそれがある。窒化珪素粉末、窒化アルミニウム粉末、酸化マグネシウム粉末等は電気絶縁性の観点から使用可能であるが、いずれも加水分解性を示し、長期の安定性に欠ける。
【0005】
上記のような観点から、実際に使用可能な充填剤としては、シリカ粉末、酸化アルミニウム粉末が挙げられるが、シリカ粉末は熱伝導性が十分でなく、高い熱伝導性を与えようとすると、シリコーン組成物の粘度等の作業性が大幅に低下する。また、酸化アルミニウム粉末を使用した場合、アルミナ表面に残存するAl−OHの影響により、珪素原子に結合した水素原子と反応し、脱水素反応を起こすことが知られており、シリコーンゲルのような低架橋密度の材料では、脱水素反応の影響が無視できない。その対策として、シリルケテンアセタール等で処理した酸化アルミニウムを使用すること(特許第2741436号公報:特許文献1)や、酸化アルミニウムのpHを規定したシリコーンゲル組成物の提案がなされている(特許第3676544号公報:特許文献2)。
【0006】
しかしながら、前記シリルケテンアセタールによる表面処理酸化アルミニウムでは、熱経時での硬さ変化が懸念され、応力緩和を主目的とするシリコーンゲルでは使用が困難である。pHを規定した酸化アルミニウムでは、無機酸の処理剤を使用しており、残存する無機酸により経時での脱水素反応が発生し、経時での硬さ変化を抑制することが困難である。
【0007】
そのため、流動性と長期保存性に優れ、硬化した後は優れた応力緩和特性と共に、経時での硬さ変化が少ない熱伝導性シリコーンゲル組成物の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2741436号公報
【特許文献2】特許第3676544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、電気・電子部品及びこれらを搭載した回路基板を含むモジュール内に充填可能で、かつ硬化後、優れた応力緩和特性と熱伝導性を発揮することができる熱伝導性シリコーンゲル組成物の製造方法、及び該方法により得られる熱伝導性シリコーンゲル組成物、並びに該組成物より得られる熱伝導性シリコーンゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、シリコーンゲル組成物を調製する際に、酸化アルミニウム等の熱伝導性充填剤と、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとを同時に熱処理した後、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと硬化触媒を添加することにより、保存性が向上し、経時での硬さ変化が抑えられることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記に示す熱伝導性シリコーンゲル組成物、その製造方法及び熱伝導性シリコーンゲルを提供する。
〔請求項1〕
(a)下記平均組成式(1)
a1bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rはアルケニル基を表し、R1は脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基を表し、aは0.0001〜0.2の数であり、bは1.7〜2.2の数であり、但しa+bは1.9〜2.4を満たす数である。)
で表され、珪素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)下記平均組成式(2)
2cdSiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、R2は脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、また、cは0.7〜2.2、dは0.001〜0.5で、かつc+dが0.8〜2.5を満足する正数である。)
で表され、分子中に珪素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1〜20質量部、
(c)熱伝導性充填剤:100〜1,000質量部
を100℃以上の温度で加熱処理を行い、冷却した混合物に、
(d)下記平均組成式(3)
3efSiO(4-e-f)/2 (3)
(式中、R3は脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、また、eは0.7〜2.2、fは0.001〜0.5で、かつe+fが0.8〜2.5を満足する正数である。)
で表され、分子中に珪素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分のアルケニル基に対し0.01〜3個となる量、
(e)白金系金属触媒:(a)成分に対して白金質量で1〜200ppm
を添加することを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル組成物の製造方法。
〔請求項2〕
(c)成分が酸化アルミニウムである請求項1記載の熱伝導性シリコーンゲル組成物の製造方法。
〔請求項3〕
請求項1又は2記載の製造方法により得られた熱伝導性シリコーンゲル組成物。
〔請求項4〕
請求項3記載の熱伝導性シリコーンゲル組成物の硬化物であって、JIS K−2220で規定される針入度が1〜80である熱伝導性シリコーンゲル。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、保存性が向上し、経時での硬さ変化が抑えられる熱伝導性シリコーンゲル組成物が得られ、該組成物の硬化物である熱伝導性シリコーンゲルは、電気・電子部品及びこれらを搭載した回路基板を保護するために好適に使用し得、優れた応力緩和特性と熱伝導性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の組成物の(a)成分は、組成物の主剤(ベースポリマー)となる成分である。(a)成分は、下記平均組成式(1)で表され、一分子中に珪素原子に結合したアルケニル基(以下、「珪素原子結合アルケニル基」という)を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。前記珪素原子結合アルケニル基は、一分子中に少なくとも2個有することが好ましく、2〜50個有することがより好ましく、2〜20個有することが特に好ましい。これらの珪素原子結合アルケニル基は、分子鎖末端の珪素原子に結合していても、分子鎖非末端(即ち、分子鎖末端以外)の珪素原子に結合していても、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。
【0014】
a1bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rはアルケニル基を表し、R1は脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基を表し、aは0.0001〜0.2の数であり、bは1.7〜2.2の数であり、但しa+bは1.9〜2.4を満たす数である。)
【0015】
上記式(1)中、Rは、通常、炭素原子数が2〜6、好ましくは2〜4のアルケニル基を表す。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等の低級アルケニル基が挙げられ、ビニル基が好ましい。
【0016】
1は、通常、炭素原子数が1〜10、好ましくは1〜6の、脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素等のハロゲン原子で置換された、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられるが、合成の容易さ等の観点から、メチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基が好ましい。
【0017】
上記式(1)中、aは0.0001〜0.2の数であり、0.0005〜0.1の数であることが好ましく、bは1.7〜2.2の数であり、1.9〜2.0の数であることが好ましく、a+bは1.9〜2.4を満たす数であり、1.95〜2.05を満たす数であることが好ましい。
【0018】
(a)成分のオルガノポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、直鎖状;分子鎖の一部に、RSiO3/2単位、R1SiO3/2単位、SiO2単位(式中、R及びR1で表される基は、上記で定義したとおりである)等を含む分岐状;環状;三次元網状(樹脂状)及びこれらの組み合わせのいずれでもよいが、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0019】
(a)成分のオルガノポリシロキサンの粘度は、好ましくは50〜100,000mPa・sであり、より好ましくは100〜10,000mPa・sである。この粘度が50〜100,000mPa・sである場合には、得られる硬化物は、強度、流動性、作業性により優れたものとなる。なお、粘度は、回転粘度計により測定した25℃における値である(以下、同じ)。
【0020】
以上の要件を満たす(a)成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、下記一般式(1a):
【化1】


(式中、R4は、独立に、非置換又は置換の1価炭化水素基を表し、但しR4の少なくとも2個はアルケニル基であり、hは20〜2,000の整数である。)
で表されるものが挙げられる。
【0021】
この式(1a)中、R4で表される非置換又は置換の1価炭化水素基は、前記R(アルケニル基)及びR1(脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基)で定義したものと同じであり、その炭素原子数、具体例等も同じである。また、hは、好ましくは40〜1,200、より好ましくは50〜600の整数である。
【0022】
上記式(1a)で表されるオルガノポリシロキサンの具体例としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖片末端トリメチルシロキシ基・片末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖片末端トリメチルシロキシ基・片末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
本成分のオルガノポリシロキサンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0023】
上述したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、それ自体公知のものであり、従来公知の方法で製造される。
【0024】
本発明の組成物の(b)成分は、珪素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するものであり、酸化アルミニウム等の熱伝導性充填剤の表面処理剤兼架橋剤として作用するものである。即ち、高温で熱処理する際に、(c)成分中の表面に残存したAl−OHや無機酸の表面処理剤残渣と脱水素反応により一部が消費され、残存した珪素原子に結合した水素原子が(a)成分中のアルケニル基と反応するものであり、本発明に必須の成分である。
【0025】
該(b)成分は、下記平均組成式(2)で表され、一分子中に珪素原子に結合した水素原子(以下、「珪素原子結合水素原子」という)を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンが一分子中に有する珪素原子結合水素原子は、好ましくは3〜500個、より好ましくは5〜100個、特に好ましくは10〜80個である。
【0026】
2cdSiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、R2は脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、また、cは0.7〜2.2、dは0.001〜0.5で、かつc+dが0.8〜2.5を満足する正数である。)
【0027】
上記式(2)中、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、その炭素原子数は、通常1〜10、好ましくは1〜6である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、へキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換した3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも好ましくはアルキル基、アリール基、3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基である。
【0028】
また、cは0.7〜2.2の正数であり、1.0〜2.1の正数であることが好ましい。dは0.001〜0.5の正数であり、0.005〜0.1の正数であることが好ましい。c+dは0.8〜2.5の範囲であり、1.0〜2.5の範囲を満たすことが好ましく、1.5〜2.2の範囲を満たすことがより好ましい。
【0029】
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの一分子中の珪素原子の数(即ち、重合度)は、通常10〜1,000個であるが、組成物の取扱作業性及び得られる硬化物の特性が良好となる点から、好ましくは20〜500個、より好ましくは20〜100個である。
【0030】
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、上記要件を満たすものであれば特に限定されず、また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、従来公知の方法で合成される。
【0031】
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度は、通常、1〜10,000mPa・s、好ましくは3〜2,000mPa・s、より好ましくは10〜1,000mPa・sであり、室温(25℃)で液状のものが望ましい。
【0032】
上記式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位からなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(C652SiO単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位からなる共重合体、(CH3)(C65)HSiO1/2単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位からなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH32SiO単位とC65SiO3/2単位からなる共重合体、(CH3)(CF324)HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位とCH3SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH3)(CF324)HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位とCH3SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位と(CH32SiO単位とCF324SiO3/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0033】
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(a)成分100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部、更に好ましくは1〜8質量部である。配合量が少なすぎると保存安定性向上効果が不十分となることがあり、配合量が多すぎると得られる熱伝導性シリコーンゲルの物性が不安定となることがある。
【0034】
(c)成分の熱伝導性充填剤は、シリコーンゲルに熱伝導性を付与させるための成分で、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、金属アルミニウム、水酸化アルミニウム等が例示され、酸化アルミニウム粉末が好ましい。酸化アルミニウム粉末は、レーザー回折法測定による平均粒子径が1〜100μmのものが好ましく、より好ましくは5〜50μmのものであり、更に好ましくは丸み状を帯びた粒子である。また、120℃×48時間純水で加熱抽出し、水層をイオンクロマトグラフィーで測定した場合のNaイオンが500ppm以下、硫酸イオンが100ppm以下のものも好ましい。
【0035】
(c)成分の熱伝導性充填剤は、(a)成分100質量部当たり100〜1,000質量部、好ましくは200〜900質量部、更に好ましくは300〜800質量部である。配合量が上記範囲内であると熱伝導性及びゲル特性の両方に優れたシリコーンゲルを与える熱伝導性シリコーンゲル組成物とすることができる。
【0036】
本発明は、これら(a)〜(c)成分を100℃以上、好ましくは100〜250℃、より好ましくは100〜200℃、更に好ましくは110〜180℃、特に好ましくは120〜160℃の加熱下で、好ましくは10分以上混合する。熱処理時間の上限は特にはないが、好ましくは10〜600分、より好ましくは30〜300分、特に好ましくは50〜180分熱処理する。
熱処理温度が100℃未満の場合、(b)成分の珪素原子に結合した水素原子と(c)成分中のAl−OH基や残存無機酸等の保存安定性を低下させる反応性基や反応性物質との反応の進行が遅くなり、熱処理温度が250℃を超える高温の場合、(a)成分や(b)成分のポリマー自身の劣化が発生するおそれがある。
また、熱処理時間が短すぎると、(b)成分の珪素原子に結合した水素原子と(c)成分中のAl−OH基等の反応性基や残存無機酸等の保存安定性を低下させる反応性基や反応性物質との反応が十分に進行せず、保存安定性向上効果が不十分となることがある。
【0037】
(d)成分は、下記平均組成式(3)
3efSiO(4-e-f)/2 (3)
(式中、R3は脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、また、eは0.7〜2.2、fは0.001〜0.5で、かつe+fが0.8〜2.5を満足する正数である。)
で表され、分子中に珪素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0038】
上記式(3)中、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、その炭素原子数は、通常1〜10、好ましくは1〜6である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、へキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換した3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも好ましくはアルキル基、アリール基、3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基である。
【0039】
また、eは0.7〜2.2の正数であり、1.0〜2.1の正数であることが好ましい。fは0.001〜0.5の正数であり、0.005〜0.1の正数であることが好ましい。e+fは0.8〜2.5の範囲であり、1.0〜2.5の範囲を満たすことが好ましく、1.5〜2.2の範囲を満たすことがより好ましい。
【0040】
(d)成分は、上記式(3)で表されるものであるが、(b)成分と同じものが例示され、(b)成分と全く同じものを使用しても、構造や重合度の異なるものを使用してもよい。(b)成分は(c)成分の表面処理剤として使用されるのに対し、(d)成分は(a)成分中のアルケニル基と反応して、硬化物を得るための架橋剤として使用される。
【0041】
そのため、(d)成分の使用量は、(a)成分のアルケニル基1個に対して、0.01〜3個の範囲にあることが好ましく、好ましくは0.05〜2個、より好ましくは0.2〜1.5個となる量である。(d)成分が少なすぎると安定してシリコーンゲルが得られないことがあり、多すぎると針入度の大きい(軟らかい)シリコーンゲルが得られないことがある。
【0042】
上述した(b)、(d)成分は、(b)成分と(d)成分のSiH基の合計量が、(a)成分中のアルケニル基1個に対して、0.3〜7個、特に0.5〜3個の割合となるように用いることが好ましい。
【0043】
(e)成分の白金系金属触媒は、(a)成分のアルケニル基と(b)成分の珪素原子に結合した水素原子が付加反応を促進する触媒である。例えば、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、アルデヒド類、ビニルシロキサン類、もしくはアセチレン化合物との配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等が使用されるが、好ましくは白金系であり、最も好適には塩化白金酸とビニルシロキサンの配位化合物が使用される。
(e)成分の配合量は、触媒量でよいが、通常(a)成分に対して質量換算で1〜200ppmであり、好ましくは2〜50ppmである。(e)成分の配合量をこの範囲内とすることが、適切な硬化性が得られることから好ましい。
【0044】
その他の配合剤
本発明の組成物には、上述した(a)〜(e)成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲において、それ自体公知の種々の添加剤を配合することができる。
例えば、硬化速度や保存安定性を調節するための反応制御剤、具体的にはメチルビニルシクロテトラシロキサン等のビニル基含有オルガノポリシロキサン、トリアリルイソシアネートアルキルマレエート、アセチレンアルコール及びこれらのシラン類、シロキサン変性物;ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール、酸化第一鉄、酸化第二鉄等を単独又は組み合わせで配合することができる。その配合量はシリコーンゲル組成物あたり、質量換算で0.01〜100,000ppmであることが好ましい。
【0045】
本発明の組成物は、上述した(a)〜(c)成分を加熱混合した混合物を、好ましくは0〜60℃、より好ましくは室温に冷却したものに、上記(d)、(e)成分及び必要によりその他の配合剤を添加し、均一に混合することにより得ることができる。
上記で得られた組成物の硬化条件は、通常行われているシリコーンゲル組成物の硬化条件と同様でよい。
【0046】
得られた硬化物は、ゲル状であり、このゲル状硬化物は、JIS K−2220で規定される針入度が1〜80、特に10〜60であることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部は質量部を示し、Viはビニル基を示す。
【0048】
[実施例1]
粘度が600mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン100部、下記一般式(4)で示され、25℃における粘度が100mPa・sのトリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジメチルポリシロキサン、1.0部、表1に記載の酸化アルミニウムA 500部を混合し、140℃で1時間加熱混合した。
次いで、この混合物を室温まで十分冷却した後、更に、下記一般式(5)で示され、25℃での粘度が30mPa・sであるトリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジメチルポリシロキサン3.5部(このときH/Vi=0.6であった。)、塩化白金酸のビニルシロキサン錯体(Pt含有量 1質量%)0.1部、エチニルシクロヘキサノール0.15部を均一に混合し、熱伝導性シリコーンゲル組成物1を得た。
【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

【0051】
[比較例1]
実施例1において、上記一般式(4)で表されるトリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジメチルポリシロキサンと上記一般式(5)で表されるトリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジメチルポリシロキサンを同時に熱処理冷却後に添加する以外は同様にして、シリコーンゲル組成物2を得た。
【0052】
[比較例2]
実施例1に記載の熱処理温度を90℃にする以外は同様にして、組成物3を得た。
【0053】
【表1】

【0054】
上記実施例、比較例に記載の組成物1〜3を十分脱泡した後、120℃×60分加熱硬化してゲル状の硬化物を得、その針入度と体積抵抗率を下記に示す方法により測定した。また、これらの組成物を5℃の冷蔵庫内に6ヶ月間放置後、120℃×60分加熱硬化してゲル状の硬化物を得、上記と同様に針入度を測定した。これらの結果を表2に示した。
【0055】
〔針入度の測定方法〕
JIS K−2220に準じて測定
〔体積抵抗率の測定方法〕
JIS K−6249に準じて測定
【0056】
【表2】

【0057】
上記の結果から明らかなように、初期に良好な絶縁性が得られるシリコーンゲル組成物であっても、長期間保存すると処理剤の影響より、経時でゲル組成物の硬さに変化が見られる。本発明の製造方法によれば、良好な絶縁性と長期間の保存安定性を有する熱伝導性シリコーンゲル組成物が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の製造方法により得られた組成物を硬化することにより得られる熱伝導性シリコーンゲルは、長期間保存した後でもシリコーンゲルの特徴である充填剤の作用を受けることなく、安定した針入度、低弾性率を維持することができるため、ICやハイブリッドIC等の電子部品の放熱兼保護用途で信頼性の向上が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記平均組成式(1)
a1bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、Rはアルケニル基を表し、R1は脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基を表し、aは0.0001〜0.2の数であり、bは1.7〜2.2の数であり、但しa+bは1.9〜2.4を満たす数である。)
で表され、珪素原子に結合したアルケニル基を一分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)下記平均組成式(2)
2cdSiO(4-c-d)/2 (2)
(式中、R2は脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、また、cは0.7〜2.2、dは0.001〜0.5で、かつc+dが0.8〜2.5を満足する正数である。)
で表され、分子中に珪素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1〜20質量部、
(c)熱伝導性充填剤:100〜1,000質量部
を100℃以上の温度で加熱処理を行い、冷却した混合物に、
(d)下記平均組成式(3)
3efSiO(4-e-f)/2 (3)
(式中、R3は脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、また、eは0.7〜2.2、fは0.001〜0.5で、かつe+fが0.8〜2.5を満足する正数である。)
で表され、分子中に珪素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分のアルケニル基に対し0.01〜3個となる量、
(e)白金系金属触媒:(a)成分に対して白金質量で1〜200ppm
を添加することを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル組成物の製造方法。
【請求項2】
(c)成分が酸化アルミニウムである請求項1記載の熱伝導性シリコーンゲル組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により得られた熱伝導性シリコーンゲル組成物。
【請求項4】
請求項3記載の熱伝導性シリコーンゲル組成物の硬化物であって、JIS K−2220で規定される針入度が1〜80である熱伝導性シリコーンゲル。

【公開番号】特開2011−122084(P2011−122084A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281806(P2009−281806)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】