説明

熱可塑性フィルムの製造方法

【課題】熱可塑性フィルムに対する延伸に特化して過熱水蒸気を用いることにより、フィルム自体の延伸、熱固定に要する時間の縮減を可能とする生産効率を高めた熱可塑性フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】延伸工程を伴う熱可塑性フィルムの製造方法に際し、延伸工程は、テンター式延伸装置1内で100〜400℃の常圧過熱水蒸気を被延伸フィルムに当てて加熱して延伸するものであって、テンター式延伸装置は、予熱部11と、延伸部12と、熱固定部13とを有すると共に、テンター10内を加熱する加熱部31と、テンター内に過熱水蒸気を噴射する過熱水蒸気噴出部32とを有し、過熱水蒸気噴出部を予熱部、延伸部、熱固定部の少なくともいずれかに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性フィルムの製造方法に関し、特にテンター式延伸装置内の熱処理に際して過熱水蒸気を用いる熱可塑性フィルムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
過熱水蒸気とは、飽和水蒸気をさらに加熱することにより、100〜400℃にまで高めた水蒸気である。過熱水蒸気は熱風の約8倍の熱伝導性を有する。現状、過熱水蒸気は、ウェブや紙類の乾燥(特許文献1参照)、食品残さ処理(特許文献2参照)、食品調理(特許文献3参照)等の分野に利用されている。
【0003】
しかしながら、延伸装置による熱可塑性フィルムの延伸に際しては、過熱水蒸気を適用した製法事例はほとんど報告されていない。樹脂製品への適用としては、例えばナイロン繊維の熱固定に過熱水蒸気を利用することが報告されている(特許文献4参照)。
【0004】
従来、延伸装置による熱可塑性フィルムの延伸に際しては、熱風乾燥、熱ロール接触乾燥、赤外線加熱乾燥等によるが一般的であった(例えば、特許文献5参照)。列記の乾燥方法によると、空気が熱媒体として利用されているため、熱伝導効率は思わしくない。また、所望の加熱状態を維持するためには過大に空気を加熱しなければならず、エネルギー効率の損失が問題である。
【0005】
そのため、各々の熱可塑性フィルムの延伸に当たり、十分な加熱、軟化、併せて熱固定の効率を上げるため、いきおい延伸装置自体を大きくしなければならない。この結果、装置等の設備投資が増すと共に、延伸処理に要する時間も伸び、総じて目的とするフィルムの製造原価を上昇させる要因となっていた。
【特許文献1】特許第3677662号公報
【特許文献2】特開2001−293457号公報
【特許文献3】特開2004−162936号公報
【特許文献4】特開2002−4143号公報
【特許文献5】特開平10−249933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、熱可塑性フィルムに対する延伸に特化して過熱水蒸気を用いることにより、フィルム自体の延伸、熱固定に要する時間の縮減を可能とする生産効率を高めた熱可塑性フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、請求項1の発明は、延伸工程を伴う熱可塑性フィルムの製造方法において、前記延伸工程は、テンター式延伸装置内で100〜400℃の常圧過熱水蒸気を被延伸フィルムに当てて加熱して延伸するものであることを特徴とする熱可塑性フィルムの製造方法に係る。
【0008】
請求項2の発明は、前記テンター式延伸装置は、予熱部と、延伸部と、熱固定部とを有すると共に、テンター内を加熱する加熱部と、テンター内に過熱水蒸気を噴射する過熱水蒸気噴出部とを有する請求項1に記載の熱可塑性フィルムの製造方法に係る。
【0009】
請求項3の発明は、前記過熱水蒸気噴出部が、前記予熱部、前記延伸部、前記熱固定部の少なくともいずれかに備えられている請求項2に記載の熱可塑性フィルムの製造方法に係る。
【0010】
請求項4の発明は、前記被延伸フィルムが、ポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、あるいは生分解性ポリマーフィルムである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の熱可塑性フィルムの製造方法に係る。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係る熱可塑性フィルムの製造方法によると、延伸工程を伴う熱可塑性フィルムの製造方法において、前記延伸工程は、テンター式延伸装置内で100〜400℃の常圧過熱水蒸気を被延伸フィルムに当てて加熱して延伸するものであるため、被延伸フィルムの延伸効率は向上し、製造コストの低減に寄与できる。
【0012】
請求項2の発明に係る熱可塑性フィルムの製造方法によると、請求項1の発明において、前記テンター式延伸装置は、予熱部と、延伸部と、熱固定部とを有すると共に、テンター内を加熱する加熱部と、テンター内に過熱水蒸気を噴射する過熱水蒸気噴出部とを有するため、テンター内をほぼ密閉することができ、内部気体のテンターの外部への漏出は少なくなり、加熱効率の向上は容易となる。
【0013】
また、テンター内は過熱水蒸気雰囲気下に保たれることにより、酸素濃度の低下が進み、被延伸フィルムの変性のおそれは低下する。特に、熱曝露時間を短くすることができ、被延伸フィルムの変性のおそれを低減することが可能となり、ひいては延伸設備の小型化が期待できる。
【0014】
請求項3の発明に係る熱可塑性フィルムの製造方法によると、請求項2の発明において、前記過熱水蒸気噴出部が、前記予熱部、前記延伸部、前記熱固定部の少なくともいずれかに備えられているため、被延伸フィルムに対して効率よく加熱を行うことができる。
【0015】
請求項4の発明に係る熱可塑性フィルムの製造方法によると、請求項1ないし3のいずれか1項の発明において、前記被延伸フィルムが、ポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、あるいは生分解性ポリマーフィルムであるため、既存の熱可塑性樹脂フィルムの製法を代替することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下添付の図面に従って本発明を説明する。図1は本発明のテンター式延伸装置の概略斜視図、図2は図1の主要部上面図、図3は図1の主要部側面図、図4は図3の主要部拡大図である。
【0017】
本発明は、熱可塑性フィルムに対する延伸工程を当該フィルム製造工程内に有するフィルムの製造方法である。この延伸工程における延伸とは、広義に一軸延伸法、二軸延伸法を意味するものであり、特に本発明では、テンターを用いる二軸延伸法、中でもTダイ逐次二軸延伸、またはTダイ同時二軸延伸である。逐次二軸延伸、同時二軸延伸は、厚薄精度、機械的物性等の点で優れているためである。そこで、請求項1の発明に規定するように、延伸工程の全部あるいは一部について、テンター式二軸延伸装置のテンター内で行うに際し、延伸対象である被延伸フィルムはテンター内を走行する内に、100〜400℃に加熱された常圧過熱水蒸気の噴射を受けて加熱されることによってフィルムの延伸は行われる。本明細書において過熱水蒸気とは、100〜400℃に加熱された常圧過熱水蒸気を意味するものとして使用する。
【0018】
図1に示すテンター式二軸延伸装置1は、Tダイ逐次二軸延伸法の装置である。Tダイ21より溶融され押し出しされた原料樹脂は、冷却ローラ22により膜状化される。続いて、回転速度が異なる加熱ローラ23間を経由して縦方向(フィルムの進行方向)、すなわち最初の延伸方向(機械方向:MDと称される)に縦延伸される(ロール縦延伸)。そして、テンター10にて、両側端より接続されたクリップ19(図2参照)により幅方向(フィルムの機械方向と直交する方向:TDと称される)に横延伸(テンター横延伸)される。その後、巻き取りローラにより巻き取られ、製品フィルムが得られる。
【0019】
図中、符号W1は未延伸のフィルム、W2は縦延伸後のフィルム、W3はテンターにより横延伸も終えたフィルムである。なお、図示しないTダイ同時二軸延伸法のテンター式二軸延伸装置の場合、テンター内にて、縦方向(機械方向MD)と横方向(幅方向TD)の延伸が同時に行われる。
【0020】
図2を用い、テンター10をさらに説明する。すなわち、請求項2の発明に規定するように、テンター式二軸延伸装置1のテンター10には、予熱部11、延伸部12、熱固定部13が備えられる。開示の形態によると、さらに、熱固定部13に続いて徐冷部14、冷却部15が備えられる。
【0021】
予熱部11はテンターの搬入部に当たる。予熱部11において被延伸フィルムへの加熱が行われることにより、フィルムは軟化する。次の延伸部12における被延伸フィルムの延伸は容易となる。
【0022】
延伸部12では、軟化した被延伸フィルムの幅方向の両端にクリップ19が装着され、横方向(幅方向TD)の延伸が行われる。この間、延伸部12は、被延伸フィルムの延伸容易性が確保される温度域に維持される。
【0023】
熱固定部13では、延伸された被延伸フィルムに対して再加熱が行われる。熱固定(ヒートセット)により、延伸を経て揃えられたフィルム内の分子の配向は、縦向き、横向きのそれぞれの配向に固定化される。この結果、フィルムに加わる事後の熱変化等に対し、フィルムが極端に収縮する等の不良発生を防止することができる。
【0024】
徐冷部14では、熱固定後の被延伸フィルムに対し温度衝撃を与えないため、熱固定部の加熱温度よりも多少低い温度を維持しながら、漸次加熱温度を低下させている。冷却部15では、徐冷を経た被延伸フィルムの冷却が行われる。図示のテンターでは冷却部が搬出部に相当する。
【0025】
徐冷部、冷却部は、必要によりテンターに形成される。これは、フィルムの軟化点等の物性に応じて勘案される。なお、熱固定後(徐冷後)に、フィルムを大気温度下にて自然冷却することにより、図示の冷却部を省略することも可能である。ただし、この場合、装置自体の全長をより長くする必要がある。
【0026】
開示のテンター式延伸装置1にあっては、図3のテンター10の概略側面図に示し、請求項2の発明に規定するように、テンター内部を加熱する加熱部31、テンター内部に過熱水蒸気を噴射する過熱水蒸気噴出部32がテンター内に配される。過熱水蒸気に特有な熱伝導性により、単に空気を介した加熱に比しテンター内の加熱効率が高められている。そのため、請求項3の発明に規定するように、過熱水蒸気噴出部32は、熱源として効果的な装置内部位である予熱部11、延伸部12、熱固定部13の少なくともいずれかに備えられる。
【0027】
図3を用い、テンター内の具体的構成を説明する。テンター10内には、搬送される被延伸フィルムの進行方向に従い、予熱部11、延伸部12、熱固定部13のそれぞれにおいて加熱部31、過熱水蒸気噴出部32、排気吸入部33の順に複数配置される。
【0028】
予熱部11に搬送される被延伸フィルムに対し、まず加熱部31による加熱が行われる。これは過熱水蒸気が水蒸気の状態を維持するための予備加熱の目的である。この例では、予熱部の加熱性能をより高めるため、過熱水蒸気噴出部32が設置される。過熱水蒸気の熱伝導性の良さから予熱部11の温度上昇は容易となる。排気吸入部33を設けることにより、過熱水蒸気の過剰な滞留を防ぐことができ、内部温度の制御も容易となる。
【0029】
延伸部12においては、軟化した被延伸フィルムの延伸を容易とする温度域を維持するため、加熱部31により加熱が行われ、さらに過熱水蒸気噴出部32より過熱水蒸気が噴射される。ここでも、排気吸入部33から過熱水蒸気の回収が行われ、前記と同様の効果が得られる。なお、過熱水蒸気の噴射に起因する延伸の歪み(ボーイング現象)を極力抑制するため、過熱水蒸気の噴射圧力、噴射方向は適切に調整される。
【0030】
熱固定部13では、前記の延伸の後、フィルム組成分子の配向性を安定させる目的から、一定時間熱固定温度を維持する必要がある。つまり、フィルム樹脂の熱固定には一定熱量が必要となる。そこで、加熱部31により加熱と併せて過熱水蒸気噴出部32より過熱水蒸気が噴射される。続く徐冷部14にあっても、熱固定部からの急激な温度低下を避けるため、漸次温度低下させる。この場合、加熱部31により加熱と過熱水蒸気噴出部32より噴射される過熱水蒸気を利用しながら温度制御を行うことが好ましい。むろん、排気吸入部33から過熱水蒸気の回収は行われる。
【0031】
図示のテンター10においては、その内部温度の低下を抑えるため、予熱部の搬入口16及び冷却部の搬出口17は狭小とされる。また、必要によりエアカーテン部18から噴出される遮蔽気体scにより遮蔽性が高められている。このため、テンター内の空気や水蒸気は、その外部への漏出はほぼ抑制される。とりわけ、排気吸入部33を備えることにより、噴射後に温度低下した水蒸気の回収効率を高めることができる。
【0032】
テンター10による過熱水蒸気を用いた延伸、熱固定等の後、被延伸フィルムは巻き取り等を経て製品となる。
【0033】
前出の加熱部31、過熱水蒸気噴出部32、及び排気吸入部33付近の構成について、図4を用い説明する。当該実施形態によると、過熱水蒸気噴出部32から噴射される常圧過熱水蒸気SSは、テンター内への放出、被延伸フィルムwとの接触に伴い、温度低下して排水蒸気Sとなる。自明ながらこの排水蒸気中には、被延伸フィルムから揮発する揮発性有機成分等を含んでいることが多い。テンター10内にこれらの揮発性有機成分等が含まれた水蒸気が滞留すると被延伸フィルムの汚染要因となるおそれもあり得る。排水蒸気Sのテンター内への滞留を防ぐため、速やかに排水蒸気Sは排気吸入部33より回収される。排気吸入部より乾燥チャンバ外に排出された排水蒸気等は、除去部36を経由して有機成分が除去、分離される。除去部36は、例えば揮発性有機溶媒用のフィルター、冷却管等の公知の部材からなる。符号hは加熱部から放出される熱線である。加熱部の加熱方式は適宜であり、電熱線等の遠赤外線加熱、ガス加熱等を適用することができる。
【0034】
排気吸入部33、除去部36を備えることにより、排水蒸気からの揮発成分等の分離が可能となるため、乾燥気体からの分離、処理と比較しても設備、費用上負担が少なくなる。特に、開示の実施形態によると、循環管路35を介して揮発成分が除去された水は再び過熱水蒸気生成部37に送られ、水は再利用される。このため、水の消費量を節約可能となる。過熱水蒸気生成部37には、電磁誘導方式やバーナ方式等の公知の過熱水蒸気生成装置が使用される。
【0035】
従前の加熱空気を介したテンター内の加熱の場合、被延伸フィルムは直接酸素と接触するため、フィルム表面は酸化劣化等の影響を受ける。この結果、表面樹脂の組成変化、不自然な架橋促進を引き起こすこともあり得る。しかし、過熱水蒸気雰囲気下の場合、たとえ被延伸フィルムが熱量を帯びたとしても、低濃度の酸素の影響しか受けなくなる。従って、樹脂変性のおそれは低下する。また、従前、フィルム樹脂の変性を懸念し若干低めの温度下での加熱延伸としなければならないため、加熱設備を過大とする必要があった。これに対して、常圧過熱水蒸気を利用することにより、たとえ被延伸フィルムが高温度域の熱量を受けるとしても熱曝露時間は短くなり、被延伸フィルムの変性のおそれを低減することが可能となる。これらを勘案すると、フィルム製造に要するテンター等の延伸設備の小型化、併せてフィルム製造コストの低減も想定できる。
【0036】
開示の実施形態においては、フィルムの両面を均等に加熱するため、延伸対象(加熱対象)となるフィルムの上面側及び下面側の両方に加熱部、過熱水蒸気噴出部、排気吸入部を配置している。むろん、加熱対象となるフィルムに応じて片面のみの加熱とする場合もありうる。この場合、フィルムの片面側のみに加熱部、過熱水蒸気噴出部、排気吸入部が配置される。また、加熱部、過熱水蒸気噴出部、排気吸入部の配置、個数等は設備に応じて適宜である。例えば、加熱部、あるいは排気吸入部を集約して1箇所とすることも可能である。別形態に、加熱部と過熱水蒸気噴出部とを1つにまとめて、各種の弁の切り換えによって噴射を変えることも可能である。さらには、特許第2606345号に開示されている鉛直方向に延伸する延伸装置に前記の加熱部、過熱水蒸気噴出部、排気吸入部を配置することも可能である。
【0037】
テンター式の二軸延伸装置により延伸を行う被延伸フィルムには、請求項4の発明に規定するように、ポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、生分解性ポリマーフィルム等の樹脂からなるフィルムが用いられる。そこで、従前のテンター式二軸延伸に基づく製法からの代替も可能となる。
【0038】
ポリオレフィンフィルムを例示すると、エチレン単独重合体、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルとの1種または2種以上のランダムまたはブロック共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外のエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、1−ブテン単独重合体、アイオノマー樹脂、さらに前記したこれら重合体の混合物等のポリオレフィン系樹脂、石油樹脂及びテルペン樹脂等の炭化水素系樹脂等から製膜形成される樹脂フィルムである。
【0039】
ポリアミドフィルムを例示すると、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66、ナイロン66/610及びナイロンMXD等のポリアミド系樹脂から製膜形成される樹脂フィルムである。ポリエステルフィルムを例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂から製膜形成される樹脂フィルムである。
【0040】
生分解性ポリマーフィルムを例示すると、ポリ乳酸、カプロラクトン・ブチレンサクシレート、ポリブチレンアジペート・テレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペートサクシネート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート等の種々の生分解性のポリマーから製膜成形される樹脂フィルムである。
【0041】
その他に利用可能な樹脂フィルムとして、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン−アクリロニトリル系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の水素結合性樹脂、ポリカーボネート樹脂等から製膜形成される樹脂フィルムが挙げられる。以上、列記の樹脂種においては、樹脂同士の相溶性等の特性が勘案され、共押し出しによる複層フィルムとして延伸、製膜も行われる。
【0042】
なお、列記の樹脂種からなる被延伸フィルムのうち、高耐熱性樹脂の組成の場合には高温下での延伸が要求されるため、300〜400℃の常圧過熱水蒸気が用いられる。それ以外の樹脂の場合には100〜300℃前後の常圧過熱水蒸気が用いられる。常圧過熱水蒸気の温度は樹脂種に応じて適切に設定される。
【0043】
ポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、あるいはポリエステルフィルム等の樹脂フィルム類にあっては、アミン類をはじめとする帯電防止剤に加え、防曇剤、アンチブロッキング剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、結晶核剤、滑剤、紫外線吸収剤、滑り性付与及びアンチブロッキング性付与を目的とした界面活性剤等の各種の添加剤が当該フィルム内に含有されることが多い。このような場合、常圧過熱水蒸気を用いることにより、各種添加剤の高温度、酸素存在条件下による影響は少なくなると考えられる。
【0044】
上記説明のとおり、本発明の熱可塑性フィルムの製造方法によると、常圧過熱水蒸気に特有の熱伝導性の良さから、極めて高い加熱効率を得ることができる。また、延伸に際して熱曝露される時間も短縮されることから、熱劣化も抑制されうる。当該製法により製造されたフィルムによると、後述する実施例からも明らかなように、既存の製法と比べてもヘイズや表面固有抵抗率の性能面において機能向上が見られる。この他に、蒸着等のドライコーティングあるいはシリコーン等のウェットコーティングをはじめとする各種コーティング膜の密着向上、ブロッキング低減、フィルム表面への低分子量物生成抑制等の効果が期待される。
【実施例】
【0045】
[使用装置,使用材料]
発明者らは、常圧過熱水蒸気を用いた延伸と、従前の加熱空気による延伸との評価を試みた。常圧過熱水蒸気の発生装置にオーブン調理器(シャープ株式会社製「AX−HC1」)を用い、同オーブン調理器のウォーターオーブン・ローストモード(常圧過熱水蒸気発生)の設定を利用し、後記の実施例の加熱を行った。オーブン調理器を用いた加熱において、オーブン内容積の50%以上は過熱水蒸気により満たされている。また、この設定の過熱水蒸気のノズル流量は2m/分以上であった。対照として、前記オーブン調理器のオーブンモード(通常の空気加熱)の設定を利用し、後記の比較例の加熱を行った。
【0046】
延伸対象として、ポリプロピレンフィルム:ポリプロピレン原料FL6H(日本ポリプロ株式会社製)から作成した未延伸シートを用いた(実施例1,比較例1)。また、常圧過熱水蒸気の影響評価のために、二軸延伸生分解性ポリマー樹脂フィルム:厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートサクシネートフィルムを用いた(実施例2,比較例2ないし5)。この二軸延伸生分解性ポリマー樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレートサクシネートを主成分の生分解性ポリマーとし、アルキルスルホン酸ナトリウム、グリセリンモノステアレートを帯電防止剤として含み両帯電防止剤を主成分のポリマーに練り込んだフィルムである。
【0047】
[測定事項]
下記の測定は、23℃,50%RH(相対湿度)の条件下で行った。
【0048】
ヘイズは、JIS−K−7105(1981)に準拠し、日本電色工業株式会社製「Haze Meter NDH2000」を用いて測定した。
【0049】
表面固有抵抗率は、JIS−K−6911に準拠し、高抵抗−抵抗率計(三菱油化株式会社製「MCP−HT260」)を用いて表面固有抵抗率(Ω/□)を測定した。
【0050】
[延伸試験]
未延伸物の延伸に要する時間(秒)並びにヘイズ(%)の差を測定した。前出のオーブン調理器内に、それぞれ等量となるポリプロピレンフィルムの未延伸シートを配置した。これを等量の荷重により引張し、当初より10倍の長さに達するまでに要した時間を測定した。実施例1については同オーブン調理器のウォーターオーブン・ローストモードの条件下で、比較例1についてはオーブンモードの条件下で引張した。その後、10倍長に達したポリプロピレン樹脂片のヘイズを測定した。実施例1は常圧過熱水蒸気による加熱(加熱温度:170℃)であり、比較例1は空気による加熱(加熱温度:170℃)である。これらの結果は、表1のとおりである。
【0051】
【表1】

【0052】
[影響評価]
生分解性ポリマーフィルムに対し、前出のオーブン調理器を用い、ウォーターオーブン・ローストモード(常時過熱水蒸気発生)を用い過熱水蒸気を熱媒体とした加熱(実施例2)と、同オーブン調理器のオーブンモード(通常の空気加熱)を用い、空気を熱媒体とした加熱(比較例3ないし5)とを行い、ヘイズ(%)、表面固有抵抗率(Ω/□)を測定した。実施例2、比較例3ないし5は共に加熱温度を200℃とし、実施例及び比較例の各フィルムについては、それぞれのフィルムの四方を引張して緊張状態に保ちながら加熱処理した。比較例の加熱時間は表2の熱処理時間のとおりである。加熱処理の対照とするため、未加熱処理の比較例2についても同様にヘイズ(%)、表面固有抵抗率(Ω/□)を測定した。
【0053】
【表2】

【0054】
表1の結果より理解されるとおり、過熱水蒸気を用いた延伸は短時間とすることができる(実施例1)。これは、過熱水蒸気の良好な熱伝導性によると考える。また、ヘイズの値が低く抑えられていることから、熱曝露が短時間となり、樹脂分子の酸化等の劣化が抑制されたことが考えられる。同時に、酸素が抑制的な条件であることも要因といえる。
【0055】
表2の結果は、製品となったフィルムについてではあるものの、過熱水蒸気を用いた加熱は、フィルムの性状において、むしろ好転させている。詳細については不明であるものの、酸素抑制条件による加熱が影響していることを示唆する。
【0056】
以上の結果をふまえると、過熱水蒸気を用いた加熱は、フィルム樹脂に効率良く熱を伝導することができると共に、大気中よりも酸素濃度を下げることが可能となる。従って、酸化等の影響を抑制しつつ短時間の加熱とすることが可能となる。これは、不活性ガス雰囲気下による加熱と比しても加熱効率は優れている。ゆえに、熱可塑性フィルムの延伸に要する装置であるテンターの設計にあたり、熱伝導を考慮した全長のテンターから、容易にテンターを小型化した設計とすることも想定できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のテンター式延伸装置の概略斜視図である。
【図2】図1の主要部上面図である。
【図3】図1の主要部側面図である。
【図4】図3の主要部拡大図である。
【符号の説明】
【0058】
1 二軸延伸装置
10 テンター
11 予熱部
12 延伸部
13 熱固定部
14 徐冷部
15 冷却部
19 クリップ
21 Tダイ
23 加熱ローラ
31 加熱部
32 過熱水蒸気噴出部
33 排気吸入部
37 過熱水蒸気生成部
SS 常圧過熱水蒸気
S 排水蒸気
w 被延伸フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸工程を伴う熱可塑性フィルムの製造方法において、
前記延伸工程は、テンター式延伸装置内で100〜400℃の常圧過熱水蒸気を被延伸フィルムに当てて加熱して延伸するものであることを特徴とする熱可塑性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記テンター式延伸装置は、予熱部と、延伸部と、熱固定部とを有すると共に、テンター内を加熱する加熱部と、テンター内に過熱水蒸気を噴射する過熱水蒸気噴出部とを有する請求項1に記載の熱可塑性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記過熱水蒸気噴出部が、前記予熱部、前記延伸部、前記熱固定部の少なくともいずれかに備えられている請求項2に記載の熱可塑性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記被延伸フィルムが、ポリオレフィンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、あるいは生分解性ポリマーフィルムである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の熱可塑性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−213265(P2008−213265A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52764(P2007−52764)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(592184876)フタムラ化学株式会社 (60)
【Fターム(参考)】