説明

熱可塑性樹脂粒子組成物、並びにこれを用いた熱可塑性樹脂成形品及びその製造方法

【課題】電磁波照射成形を行う際に、熱可塑性樹脂粒子のキャビティへの円滑な充填を行うと共に、焼け等の不具合の発生を防止することができ、外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度に優れる熱可塑性樹脂成形品を製造することができる熱可塑性樹脂粒子組成物、並びにこれを用いた熱可塑性樹脂成形品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂粒子組成物6Aは、ゴム材料からなるゴム型2のキャビティ22内に充填し、ゴム型2を介して0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して加熱溶融させる用途に用いる。熱可塑性樹脂粒子組成物6Aは、粒子径が1〜100μmの小形熱可塑性樹脂粒子62を0.1〜20質量%含有し、残部が粒子径が200〜3000μmの大形熱可塑性樹脂粒子61からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波照射成形用の熱可塑性樹脂粒子組成物、並びにこれを用いた熱可塑性樹脂成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いて所定形状の樹脂成形品を得る方法としては、一般的には、射出成形、ブロー成形、押出成形、プレス成形等の種々の成形方法がある。
これに対し、特に特許文献1においては、ゴム製の成形型を用いて、熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品を真空注型法により成形する際に、成形型に対して熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる樹脂成形方法が開示されている。この樹脂成形方法においては、成形型のキャビティ内に溶融状態の熱可塑性樹脂を充填する際に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を、成形型を介して熱可塑性樹脂に照射し、成形型を構成するゴムと熱可塑性樹脂との物性の違いにより、ゴム製の成形型に比べて、熱可塑性樹脂を積極的に加熱することができる。
また、例えば、特許文献2においては、金型の型面に粉末状のパウダースラッシュ材料を所望の厚さで付着溶融させ、その後、この材料を冷却させて型面に樹脂成形品を付着成形するパウダースラッシュ成形法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−216447号公報
【特許文献2】特開2000−254930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ゴム製の成形型を用いて熱可塑性樹脂の成形を行う際に、樹脂成形品の外観、形状、表面精度等の品質を向上させるためには更なる工夫が必要とされる。特に、成形する樹脂成形品が大型、薄肉等の形状である場合、又は成形に用いる熱可塑性樹脂材料の粘度が高い場合等には、成形型のキャビティへの充填がより難しくなり、上記品質を向上させるための工夫がより必要とされる。また、特許文献2においては、本願の課題とする、ゴム製の成形型に対して熱可塑性樹脂を充填する場合に樹脂の充填圧力を高くできないという問題がなく、上記品質を向上させるための工夫は何らなされていない。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、電磁波照射成形を行う際に、熱可塑性樹脂粒子のキャビティへの円滑な充填を行うと共に、焼け等の不具合の発生を防止することができ、外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度に優れる熱可塑性樹脂成形品を製造することができる熱可塑性樹脂粒子組成物、並びにこれを用いた熱可塑性樹脂成形品及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に充填し、該ゴム型を介して0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して加熱溶融させるための熱可塑性樹脂粒子組成物であって、
粒子径が1〜100μmの小形熱可塑性樹脂粒子を0.1〜20質量%含有し、残部が該小形熱可塑性樹脂粒子よりも大きい大形熱可塑性樹脂粒子からなることを特徴とする熱可塑性樹脂粒子組成物にある(請求項1)。
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂粒子組成物は、ゴム型を介して電磁波を照射して熱可塑性樹脂成形品を製造する電磁波照射成形に優れた効果を発揮する粒子組成物である。
具体的には、本発明の熱可塑性樹脂粒子組成物は、粒子径が1〜100μmの小形熱可塑性樹脂粒子と、それよりも大きい大形熱可塑性樹脂粒子とを含有してなる。これにより、熱可塑性樹脂粒子をゴム型のキャビティ内に充填する際には、小形熱可塑性樹脂粒子がキャビティの内壁面に付着し、大形熱可塑性樹脂粒子は、キャビティ内における小形熱可塑性樹脂粒子の内側を通過させることができる。そのため、キャビティ内への熱可塑性樹脂粒子の充填を円滑に行うことができる。
ここで、本発明のゴム型はゴム材料から形成されており、小形熱可塑性樹脂粒子は、その粒子径が1〜100μmの範囲内であることによって、ゴム材料からなるキャビティの内壁面に付着させることができる。
【0008】
そして、小形熱可塑性樹脂粒子と大形熱可塑性樹脂粒子との含有比率は、前者が0.1〜20質量%であり、後者が80〜99.9質量%である。これにより、大形熱可塑性樹脂粒子の比率を多くし、ゴム型を介して上記電磁波を照射して熱可塑性樹脂粒子組成物を加熱溶融させる際に、この熱可塑性樹脂粒子組成物に焼け等の不具合が生じることを防止することができる。
また、キャビティ内に充填した熱可塑性樹脂粒子組成物は、ゴム型を介して上記電磁波を照射して加熱溶融させ、その後、キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却して、熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。なお、キャビティ内の熱可塑性樹脂粒子組成物を加熱溶融させた後には、必要に応じて、加熱溶融によってキャビティ内に残された空間に、溶融状態の熱可塑性樹脂を充填(補充)することもできる。
【0009】
それ故、本発明の熱可塑性樹脂粒子組成物によれば、電磁波照射成形を行う際に、熱可塑性樹脂粒子のキャビティへの円滑な充填を行うと共に、焼け等の不具合の発生を防止することができ、外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度に優れる熱可塑性樹脂成形品を製造することができる。また、本発明による効果は、成形する熱可塑性樹脂成形品が大型、薄肉等の形状である場合、又は成形に用いる熱可塑性樹脂粒子の粘度が高い場合等に特に顕著に発揮することができる。
【0010】
第2の発明は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物を、上記ゴム型のキャビティ内に充填し、該ゴム型を介して0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して加熱溶融させた後、冷却して得られることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品にある(請求項5)。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂成形品は、上記第1の発明に記載した熱可塑性樹脂粒子組成物を用いて製造(成形)したものである。
それ故、本発明の熱可塑性樹脂成形品によれば、その外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を向上させることができる。
【0012】
第3の発明は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物を用いて熱可塑性樹脂成形品を製造する方法であって、
上記ゴム型のキャビティ内に、上記熱可塑性樹脂粒子組成物を配置する配置工程と、
上記ゴム型を介して上記キャビティ内における上記熱可塑性樹脂粒子組成物に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射し、該熱可塑性樹脂粒子組成物を加熱して溶融させる粒子加熱工程と、
上記キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却して熱可塑性樹脂成形品を得る冷却工程とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の製造方法にある(請求項6)。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂成形品の製造方法においては、上記第1の発明に記載した熱可塑性樹脂粒子組成物と、溶融状態の熱可塑性樹脂とを用いる。
具体的には、まず、配置工程として、ゴム型のキャビティ内に、熱可塑性樹脂粒子組成物を投入する。このとき、小形熱可塑性樹脂粒子がキャビティの内壁面に付着し、大形熱可塑性樹脂粒子は、キャビティ内における小形熱可塑性樹脂粒子の内側を通過させることができる。そのため、キャビティ内への熱可塑性樹脂粒子の充填を円滑に行うことができる。なお、熱可塑性樹脂粒子組成物は、キャビティのほぼ全体に充填することができ、またキャビティの一部に充填することもできる。
【0014】
次いで、粒子加熱工程として、ゴム型を介してキャビティ内における熱可塑性樹脂粒子組成物に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射する。このとき、ゴム型を構成するゴム材料と熱可塑性樹脂粒子組成物との物性の違いにより、ゴム型に比べて、熱可塑性樹脂粒子組成物を選択的に加熱することができる(熱可塑性樹脂粒子組成物の加熱量を多くすることができる)。これにより、ゴム型の温度上昇を抑制して、熱可塑性樹脂粒子組成物を溶融させることができる。
【0015】
それ故、本発明の熱可塑性樹脂成形品の製造方法によれば、外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度に優れた熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。また、特に、成形する熱可塑性樹脂成形品が大型、薄肉等の形状である場合、又は成形に用いる熱可塑性樹脂の粘度が高い場合等に顕著に品質を向上させる効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例において、熱可塑性樹脂成形品の製造方法における配置工程を行った状態を示す説明図。
【図2】実施例において、熱可塑性樹脂成形品の製造方法における真空工程及び粒子加熱工程を行う状態を示す説明図。
【図3】実施例において、熱可塑性樹脂成形品の製造方法における充填工程を行った状態を示す説明図。
【図4】実施例において、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについての光の透過率を示すグラフ。
【図5】実施例において、小形熱可塑性樹脂粒子と大形熱可塑性樹脂粒子とをゴム型のキャビティ内に充填する状態を示す説明図。
【図6】実施例において、大形熱可塑性樹脂粒子のみをゴム型のキャビティ内に充填する状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述した第1〜第3の発明にかかる熱可塑性樹脂粒子組成物、並びにこれを用いた熱可塑性樹脂成形品及びその製造方法における好ましい実施の形態につき説明する。
第1〜第3の発明において、上記小形熱可塑性樹脂粒子の粒子径を1μm未満とすることは製造上困難であり、小形熱可塑性樹脂粒子の粒子径が1μm未満である場合には、熱可塑性樹脂成形品の成形時における取り扱いが困難になる。一方、上記小形熱可塑性樹脂粒子の粒子径が100μm超過である場合には、小形熱可塑性樹脂粒子をキャビティの内壁面に付着させる作用を発揮することが困難になる。
【0018】
また、上記小形熱可塑性樹脂粒子の含有比率が0.1質量%未満である場合には、キャビティの内壁面に付着させる小形熱可塑性樹脂粒子の量が少なくて、キャビティ内における小形熱可塑性樹脂粒子の内側を大形熱可塑性樹脂粒子を通過させる作用を発揮することが困難になる。一方、上記小形熱可塑性樹脂粒子の含有比率が20質量%超過である場合には、熱可塑性樹脂粒子組成物を加熱溶融させる際に、キャビティの内壁面に付着した小形熱可塑性樹脂粒子に焼け等の不具合が生じるおそれがある。
【0019】
また、上記0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波により、ゴム型に比べて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができる理由としては、以下のように考える。
すなわち、ゴム型の表面に照射された0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波は、ゴム型に吸収される割合に比べて、ゴム型を透過して熱可塑性樹脂に吸収される割合が多いと考える。そのため、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波による光のエネルギーが熱可塑性樹脂に優先的に吸収されて、熱可塑性樹脂を選択的に加熱することができると考える。
【0020】
また、上記ゴム型を介して上記熱可塑性樹脂に照射する電磁波としては、波長が0.78〜2μmの波長領域の電磁波だけでなく、これ以外の領域の電磁波も含まれていてもよい。この場合において、ゴム型を介して熱可塑性樹脂に照射する電磁波又は透過電磁波は、波長が0.78〜2μmの波長領域の電磁波を、これ以外の領域の電磁波よりも多く含むことが好ましい。
また、上記熱可塑性樹脂の加熱に、波長が0.78〜2μmの領域の電磁波を用いる理由は、この波長の領域の電磁波は、ゴム型を透過し易い性質を有する一方、熱可塑性樹脂に吸収され易い性質を有するためである。
【0021】
また、上記電磁波は、0.78〜2μmの波長領域に強度のピークを有していることが好ましい。この場合には、電磁波発生源として、出射する電磁波の波長に所定の分布特性を有するハロゲンヒータ、赤外線ランプ等を用いることができる。
上記ゴム型は、ゴム材料としての透明又は半透明のシリコーンゴムから形成することができる。このシリコーンゴムの硬度は、JIS−A規格測定において25〜80とすることができる。
【0022】
上記大形熱可塑性樹脂粒子及び上記小形熱可塑性樹脂粒子は、機械的粉砕法(常温、冷凍粉砕、湿式粉砕、ジェット粉砕)、噴霧法(乾燥、凝固)、強制乳化法(溶融乳化、溶液乳化)、懸濁重合法、乳化重合法等の種々の方法によって作り出すことができる。
例えば、上記大形熱可塑性樹脂粒子及び上記小形熱可塑性樹脂粒子としては、押出機によって得た熱可塑性樹脂のペレットを冷凍粉砕して作り出したものを用いることができる。冷凍粉砕によれば、種々の粒径の熱可塑性樹脂粒子を作り出すことができる。また、熱可塑性樹脂粒子としては、押出機の先端に細口径のダイスを取り付けて、いわゆる水中カット方式で作り出したものを用いることもできる。この押出水中カット方式によれば、0.5mm程度の粒子(熱可塑性樹脂粒子)を簡単かつ安価に作り出すことができる。
また、大形熱可塑性樹脂粒子及び小形熱可塑性樹脂粒子は、必要に応じて、分級、ふるい分け等を行って得ることもできる。
【0023】
上記熱可塑性樹脂粒子組成物に用いる熱可塑性樹脂としては、0.78〜2μmの波長領域の電磁波を吸収し、加熱が促進されるものを用いることができる。
また、大形熱可塑性樹脂粒子と小形熱可塑性樹脂粒子とは、同じ組成を有する熱可塑性樹脂から構成することができる。また、大形熱可塑性樹脂粒子と小形熱可塑性樹脂粒子とは、互いに異なる組成を有する熱可塑性樹脂から構成することができる。ただし、この場合には、機械的強度を高くするため、相溶性の高い熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
また、小形熱可塑性樹脂粒子の粒子径は、3〜90μmとすることがより好ましい。また、上記大形熱可塑性樹脂粒子の粒子径は、例えば200〜3000μmの範囲内とすることができる。この大形熱可塑性樹脂粒子の粒子径は、300〜2000μmとすることがより好ましく、350〜1500μmとすることがさらに好ましい。
また、熱可塑性樹脂粒子組成物における小形熱可塑性樹脂粒子の含有比率は、10質量%以下とすることが好ましく、7質量%以下とすることがより好ましい。
また、小形熱可塑性樹脂粒子及び大形熱可塑性樹脂粒子に用いる熱可塑性樹脂のメルトフローレート(220℃、10kg荷重)は、1〜100g/10minとすることが好ましく、5〜80g/10minとすることがより好ましく、15〜65g/10minとすることがさらに好ましい。
以下に、本発明に用いることができる熱可塑性樹脂について説明する。
【0025】
上記熱可塑性樹脂粒子組成物を構成する熱可塑性樹脂は、熱可塑性を有する重合体を含むものであれば、特に限定されず、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、ASA樹脂(アクリレート・スチレン・アクリロニトリル樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン・スチレン樹脂)等のゴム強化樹脂、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体等のスチレン系(共)重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルの1種以上を用いた(共)重合体等のアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のケトン系樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、感光性樹脂、液晶ポリマー、生分解性プラスチック等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記熱可塑性樹脂のうち、成形品の形成に好適なものとして、ゴム強化樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリカーボネート樹脂のアロイ、ポリエステル系樹脂、ゴム強化樹脂及びポリカーボネート樹脂のアロイ等が挙げられる。
【0026】
また、上記大形熱可塑性樹脂粒子と上記小形熱可塑性樹脂粒子とは、非晶性であることが好ましい(請求項2)。
ところで、熱可塑性樹脂の冷却速度は、ゴム型がゴム材料からなるため、金型の場合に比べて遅くなる。そのため、冷却中に熱可塑性樹脂の結晶性が高くなることがあり、これによって、樹脂成形品の寸法精度が低下したり、樹脂成形品の耐衝撃性が低下したりすることがある。これに対し、大形熱可塑性樹脂粒子及び小形熱可塑性樹脂粒子を非晶性にしたことにより、熱可塑性樹脂成形品の寸法精度の低下及び耐衝撃性の低下等を防止することができる。
【0027】
非晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体等のスチレン系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン−プロピレン−ジエン・スチレン樹脂)、ASA樹脂(アクリレート・スチレン・アクリロニトリル樹脂)等のゴム変性熱可塑性樹脂、又はポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート樹脂(PC)、PC/ゴム変性熱可塑性樹脂アロイ等を用いることができる。その中でも、特にゴム変性熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0028】
また、上記大形熱可塑性樹脂粒子と上記小形熱可塑性樹脂粒子とは、ゴム強化ビニル系樹脂であることが好ましい(請求項3)。
また、上記ゴム強化ビニル系樹脂は、ゴム質重合体(a1)の存在下に、芳香族モノビニル化合物を含むビニル系単量体(a2)を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂(A1)、又は該ゴム強化ビニル系樹脂(A1)と、ビニル系単量体に由来する構造単位を含む(共)重合体(A2)とを混合してなる混合物であることが好ましい(請求項4)。
【0029】
上記ゴム質重合体(a1)は、室温でゴム質であれば、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよいが、ジエン系重合体(ジエン系ゴム質重合体)及び非ジエン系重合体(非ジエン系ゴム質重合体)が好ましい。更に、上記ゴム質重合体(a1)は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記ジエン系重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のスチレン・ブタジエン系共重合体ゴム、スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・イソプレン系共重合体ゴム、天然ゴム等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は50%未満。)されたものであってもよい。上記ジエン系重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
また、上記非ジエン系重合体としては、エチレン単位と、炭素数3以上のα−オレフィンからなる単位を含むエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム、ウレタン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、シリコーン・アクリル系IPNゴム、共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は50%以上。)されたものであってもよい。上記非ジエン系重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
上記ゴム質重合体(a1)として、ジエン系重合体を用いた場合に得られるゴム強化ビニル系樹脂(A1)を含む樹脂は、一般に、「ABS樹脂」といわれている。また、上記ゴム質重合体(a1)として、エチレン・α−オレフィンとエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体との少なくとも一方を用いた場合に得られるゴム強化ビニル系樹脂(A1)を含む樹脂は、一般に、「AES樹脂」といわれている。更に、上記ゴム質重合体(a1)として、アクリル系ゴムを用いた場合に得られるゴム強化ビニル系樹脂(A1)を含む樹脂は、一般に、「ASA樹脂」といわれている。
【0033】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いられるビニル系単量体(a2)は、芳香族ビニル化合物のみでもよいし、この芳香族ビニル化合物と、例えば、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、酸無水物等の、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物とを、それぞれ、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
従って、上記ビニル系単量体(a2)としては、芳香族ビニル化合物の1種以上、あるいは、芳香族ビニル化合物の1種以上と、該芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物の1種以上とを組み合わせた単量体を用いることができる。
【0034】
上記芳香族ビニル化合物としては、少なくとも1つのビニル結合と、少なくとも1つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されることなく用いることができる。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。
【0035】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。また、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、マレイミド系化合物からなる単位を導入する他の方法としては、例えば、無水マレイン酸を共重合し、その後イミド化する方法でもよい。
上記酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
また、上記化合物以外に、必要に応じて、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、アミド基、カルボキシル基、オキサゾリン基等の官能基を有するビニル系化合物を用いることができる。例えば、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ヒドロキシスチレン、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、アクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、N,N−ジエチル−p−アミノメチルスチレン、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、アクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルアミド、アクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
また、上述したように、熱可塑性樹脂にゴム強化ビニル系樹脂を用いる場合には、ゴム強化ビニル系樹脂は、ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のみから構成してもよく、ゴム強化ビニル系樹脂(A1)と、ビニル系単量体の重合によって得られた(共)重合体(A2)とを混合した混合物から構成してもよい。このビニル系単量体としては、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いた化合物、即ち、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、酸無水物及び官能基を有する化合物から選ばれる1種以上を用いることができる。従って、上記(共)重合体(A2)は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いたビニル系単量体(a2)と全く同じ組成の成分を重合して得られる重合体であってもよいし、異なる組成で同じ種類の単量体を重合して得られる重合体であってもよいし、更には、異なる組成で異なる種類の単量体を重合して得られる重合体であってもよい。これらの各重合体が2種以上含まれるものであってもよい。
【0039】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のグラフト率は、好ましくは30〜150質量%、より好ましくは50〜120質量%である。上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のグラフト率が小さすぎると、熱可塑性樹脂成形品の表面外観性及び耐衝撃性が低下することがある。また、グラフト率が大きすぎると、成形加工性が劣る。
ここで、グラフト率とは、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)1グラム中のゴム成分をxグラム、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)1グラムをアセトン(但し、ゴム質重合体(a1)がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを使用。)に溶解させた際の不溶分をyグラムとしたときに、次式により求められる値である。
グラフト率(質量%)={(y−x)/x}×100
【0040】
また、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のアセトン(但し、ゴム質重合体(a1)がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを使用。)による可溶成分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.2〜1dl/g、より好ましくは0.3〜0.8dl/gである。この範囲とすることにより、熱可塑性樹脂成形品の成形加工性に優れ、得られる成形品の耐衝撃性にも優れる。
なお、上記グラフト率及び極限粘度[η]は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)を製造するときの、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、更には重合時間、重合温度等を変えることにより、容易に制御することができる。
【0041】
上記(共)重合体(A2)としては、下記(1)〜(6)に例示される。なお、各単量体は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いられる化合物を適用でき、好ましい化合物も同様である。
(1)芳香族ビニル化合物のみを重合して得られた(共)重合体の1種以上。(2)(メタ)アクリル酸エステル化合物のみを重合して得られた(共)重合体の1種以上。(3)芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。(4)芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。(5)芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び他の化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。(6)芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物を除く他の化合物とを重合して得られた共重合体の1種以上。
これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
従って、上記(共)重合体(A2)の具体例としては、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル・スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体等が挙げられる。
【0043】
上記(共)重合体(A2)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.2〜0.8dl/gである。極限粘度[η]が上記範囲内であると、成形加工性及び耐衝撃性の物性バランスに優れる。なお、この(共)重合体(A2)の極限粘度[η]は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の場合と同様、製造条件を調整することにより制御することができる。
【0044】
上記ゴム強化樹脂のアセトン(但し、ゴム質重合体(a1)がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを使用。)による可溶成分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.2〜0.8dl/gである。極限粘度[η]が上記範囲内であると、成形加工性と耐衝撃性との物性バランスに優れる。
【0045】
また、上記大形熱可塑性樹脂粒子と上記小形熱可塑性樹脂粒子とは、オレフィン系樹脂から構成することもできる。
このオレフィン系樹脂は、炭素数が2以上のα−オレフィンからなる単量体単位を含む重合体であれば、特に限定されない。好ましいオレフィン系樹脂は、炭素数2〜10のα−オレフィンからなる単量体単位を含む重合体である。従って、炭素数2〜10のα−オレフィンからなる単量体単位の1種以上を主として含む(共)重合体、炭素数2〜10のα−オレフィンからなる単量体単位の1種以上と、このα−オレフィンと共重合可能な化合物からなる単量体単位の1種以上とを主として含む共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
上記オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン・ブテン−1共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体が好ましく、プロピレン単位を全単量体単位に対して、50質量%以上含む重合体、即ち、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体がより好ましい。なお、上記エチレン・プロピレン共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体等があるが、ランダム共重合体が特に好ましい。
【0047】
上記オレフィン系樹脂は、結晶性であってもよいし、非晶性であってもよい。好ましくは、室温下、X線回折により、20%以上の結晶化度を有するものである。
上記オレフィン系樹脂の融点(JIS K7121に準拠)は、好ましくは40℃以上である。
また、上記オレフィン系樹脂の分子量は特に限定されないが、成形性の観点から、メルトフローレート(JIS K7210に準拠。以下、「MFR」ともいう。)は、好ましくは0.01〜500g/10分であり、各値に相当する分子量を有するものが好ましい。
上記オレフィン系樹脂としては、アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリエチレン等を用いることもできる。
【0048】
また、上記大形熱可塑性樹脂粒子と上記小形熱可塑性樹脂粒子とは、ポリエステル系樹脂から構成することもできる。
このポリエステル系樹脂は、分子の主鎖中にエステル結合を有する樹脂であれば、特に限定されず、飽和ポリエステル樹脂であってよいし、不飽和ポリエステル樹脂であってもよい。これらのうち、飽和ポリエステル樹脂が好ましい。また、単独重合ポリエステルであってよいし、共重合ポリエステルであってもよい。更に、結晶性樹脂であってよいし、非晶性樹脂であってもよい。
【0049】
上記ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチルテレフタレート、ポリネオペンチルテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレート等の単独重合ポリエステル、アルキレンテレフタレート単位とアルキレンナフタレート単位との少なくとも一方を主として含有する共重合ポリエステル、液晶ポリエステル等が挙げられる。これらのうち、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。また、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
また、上記大形熱可塑性樹脂粒子と上記小形熱可塑性樹脂粒子とは、ポリカーボネート樹脂から構成することもできる。
このポリカーボネート樹脂は、主鎖にカーボネート結合を有するものであれば、特に限定されず、芳香族ポリカーボネートでよいし、脂肪族ポリカーボネートでもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。本発明においては、耐衝撃性、耐熱性等の観点から、芳香族ポリカーボネートが好ましい。なお、このポリカーボネート樹脂は、末端が、R−CO−基、R’−O−CO−基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。このポリカーボネート樹脂は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
上記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、溶媒として塩化メチレンを用い、温度20℃で測定された溶液粘度より換算した場合、好ましくは12,000〜40,000である。この粘度平均分子量が上記範囲にあると、成形加工性に優れ、得られる成形品の耐衝撃性、靭性及び耐薬品性に優れる。
上記ポリカーボネート樹脂は、全体としての粘度平均分子量が上記範囲に入るものであれば、異なる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
上記ポリカーボネート樹脂は、上述のように、ポリエステル系樹脂と、あるいは、ゴム強化樹脂及びポリエステル系樹脂と組み合わせて、アロイとして用いることもできる。
【0052】
また、上記大形熱可塑性樹脂粒子と上記小形熱可塑性樹脂粒子とは、ポリアミド系樹脂から構成することもできる。
このポリアミド系樹脂は、主鎖に酸アミド結合(−CO−NH−)を有する樹脂であれば、特に限定されない。
上記ポリアミド系樹脂としては、ナイロン4、6、7、8、11、12、6.6、6.9、6.10、6.11、6.12、6T、6/6.6、6/12、6/6T、6T/6I等が挙げられる。
なお、ポリアミド系樹脂の末端は、カルボン酸、アミン等で封止されていてもよい。カルボン酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。また、アミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第1級アミン等が挙げられる。
上記ポリアミド系樹脂は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
上記熱可塑性樹脂粒子組成物は、目的、用途等に応じて、添加剤を含有したものとすることができる。この添加剤としては、充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、光拡散剤、結晶核剤、流動改質剤、衝撃改質剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤、光触媒系防汚剤、重合開始剤等が挙げられる。
【0054】
上記充填剤としては、タルク、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、アラミド粒子、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、グラファイト、導電性カーボンブラック、各種ウィスカー等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記充填剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.1〜5質量部である。
【0055】
上記熱安定剤としては、ホスファイト類、ヒンダードフェノール類、チオエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記熱安定剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.01〜2質量部である。
【0056】
上記酸化防止剤としては、ヒンダードアミン類、ハイドロキノン類、ヒンダードフェノール類、硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記酸化防止剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.01〜2質量部である。
【0057】
上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、サリチル酸エステル類、金属錯塩類等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ヒンダードアミン類と併用すると好ましい場合がある。
上記紫外線吸収剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.05〜2質量部である。
【0058】
上記老化防止剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.01〜2質量部である。
上記帯電防止剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.1〜5質量部である。
上記可塑剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.5〜5質量部である。
【0059】
上記滑剤としては、脂肪酸エステル、炭化水素樹脂、パラフィン、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪族アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、金属石鹸、シリコーン、変性シリコーン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記滑剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.5〜5質量部である。
【0060】
上記難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記難燃剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.5〜30質量部である。
なお、本発明の熱可塑性樹脂粒子組成物に難燃剤を含有させる場合には、難燃助剤を用いることが好ましい。この難燃助剤としては、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酒石酸アンチモン等のアンチモン化合物や、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水和アルミナ、酸化ジルコニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化スズ、酸化鉄等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
上記抗菌剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、0.1〜5質量部である。
上記着色剤としては、無機顔料、有機顔料及び染料のいずれを用いてもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
無機顔料としては、亜鉛華、二酸化チタン、べんがら、酸化クロム、鉄黒等の酸化物、カドミウムイエロー、カドミウムオレンジ、カドミウムレッド等の硫化物、黄鉛、亜鉛黄、クロムバーミリオン等のクロム酸塩、紺青等のフェロシアン化物、群青等の珪酸塩、カーボンブラック、金属粉等の無機系色剤が挙げられる。
有機顔料としては、フタロシアニン系顔料、縮合アゾ系顔料、アゾレーキ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、縮合多環系顔料等が挙げられる。
【0062】
上記染料としては、アントラキノン系染料、ペリレン系染料、ペリノン系染料、キノリン系染料、ニトロ系染料、ニトロソ系染料、アゾ系染料、トリフェニル系染料、チアゾール系染料、メチン系染料、オキサジン系染料、インドフェノール系染料、ケトン系染料、チアジン系染料、インジゴ系染料等が挙げられる。
上記着色剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂粒子組成物の量を100質量部とした場合に、通常、10質量部以下、好ましくは0.0005〜5質量部、より好ましくは0.001〜2質量部である。
【0063】
上記光拡散剤としては、アクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、炭酸カルシウム粒子等が挙げられる。
上記光触媒系防汚剤としては、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛等が挙げられる。
上記衝撃改質剤としては、グラフトゴム等が挙げられる。
【0064】
上記第3の発明において、上記粒子加熱工程を行った後、上記冷却工程を行う前には、上記キャビティにおいて残された空間に、溶融状態の熱可塑性樹脂を充填する充填工程を行うことが好ましい(請求項7)。
この場合には、粒子加熱工程を行った後に、熱可塑性樹脂粒子組成物が溶融することによってキャビティ内に残された空間には、充填工程として、溶融状態の熱可塑性樹脂を充填する。このとき、粒子加熱工程の前にゴム型のキャビティ内において熱可塑性樹脂粒子組成物が存在していた部分、ゴム型のキャビティ内の鉛直方向下側に位置する部分、あるいはゴム型のキャビティの表面等には、上記熱可塑性樹脂粒子組成物を溶融させた熱可塑性樹脂が充填されており、新たに充填する溶融状態の熱可塑性樹脂の充填量を少なくすることができる。
【0065】
これにより、充填圧力をあまり高くすることなくキャビティの全体へ熱可塑性樹脂を充填することができ、ゴム型の変形及び開きを効果的に抑制することができる。そのため、ゴム型における分割面(パーティング面)からの樹脂漏れを防止することができ、冷却工程によって熱可塑性樹脂成形品を得たときには、この熱可塑性樹脂成形品の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる。
また、上記大形熱可塑性樹脂粒子と、上記小形熱可塑性樹脂粒子と、上記溶融状態の熱可塑性樹脂とは、同じ組成を有する熱可塑性樹脂から構成することができる。
【0066】
また、上記充填工程においては、上記溶融状態の熱可塑性樹脂を0.1〜5MPaの射出圧力で、上記キャビティにおいて残された空間に充填することが好ましい(請求項8)。
この場合には、射出圧力が適切であり、上記所定の射出圧力でキャビティ内へ熱可塑性樹脂の充填を行う際においても、ゴム型の変形及び開きを効果的に抑制して、外観、形状、表面精度等の品質を向上させた熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。なお、ゴム型のキャビティの全体にほぼ均一に熱可塑性樹脂を充填するためには、射出圧力が0.1MPa以上であることが好ましく、ゴム型の変形及びゴム型のキャビティからの樹脂漏れを防ぐためには、射出圧力は5MPa以下であることが好ましい。
【0067】
また、上記配置工程においては、上記小形熱可塑性樹脂粒子を、開いた状態又は閉じた状態の上記ゴム型のキャビティに先に配置した後、上記大形熱可塑性樹脂粒子を上記ゴム型のキャビティ内に投入することが好ましい(請求項9)。
この場合には、配置工程において、キャビティの内壁面に小形熱可塑性樹脂粒子を効果的に付着させた後、キャビティ内における小形熱可塑性樹脂粒子の内側に大形熱可塑性樹脂粒子を通過させることができる。そのため、キャビティ内への熱可塑性樹脂粒子の充填をより円滑に行うことができる。
また、小形熱可塑性樹脂粒子は、開いた状態のゴム型のキャビティの表面にまぶす(振り掛ける)ことによって容易に配置することができる。
【0068】
また、上記大形熱可塑性樹脂粒子の最大粒子径は、上記キャビティにおける最小幅寸法に対して、0.8倍以下となるよう選定することが好ましい(請求項10)。
この場合には、大形熱可塑性樹脂粒子がキャビティ内に充填され難くなることを防止することができる。
また、大形熱可塑性樹脂粒子の粒子径は、キャビティにおける最小幅寸法に対して、0.7倍以下となるよう選定することがより好ましい。
【0069】
また、上記配置工程前から上記粒子加熱工程前までの少なくともいずれかのタイミングには、上記キャビティ又は該キャビティにおいて残された空間を真空状態にする真空工程を行うことが好ましい(請求項11)。
この場合には、真空工程を行うことによって、キャビティ内への溶融状態の熱可塑性樹脂粒子の充填を一層容易に行うことができると共に、気泡のない外観に優れた熱可塑性樹脂成形品を容易に得ることができる。
なお、真空工程は、配置工程中、配置工程の前後、粒子加熱工程中、粒子加熱工程の前後、上記充填工程中、又は充填工程の前の少なくともいずれかのタイミングで行うことができる。
また、真空状態とは、絶対真空の状態のみを意味するのではなく、大気圧状態に対する減圧状態のこともいう。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明の熱可塑性樹脂粒子組成物、並びにこれを用いた熱可塑性樹脂成形品及びその製造方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の熱可塑性樹脂粒子組成物6Aは、ゴム材料からなるゴム型2のキャビティ22内に充填し、ゴム型2を介して0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して加熱溶融させる用途に用いる。この熱可塑性樹脂粒子組成物6Aは、粒子径が1〜100μmの範囲内の小形熱可塑性樹脂粒子62を0.1〜20質量%含有し、残部が粒子径が200〜3000μmの範囲内の大形熱可塑性樹脂粒子61からなる。
【0071】
本例においては、熱可塑性樹脂粒子組成物6Aを用いて熱可塑性樹脂成形品60を製造する方法につき、図1〜図4を参照して詳説する。
本例において用いる熱可塑性樹脂6(大形熱可塑性樹脂粒子61、小形熱可塑性樹脂粒子62、溶融状態の熱可塑性樹脂粒子6B)は、非晶性を有するゴム強化スチレン系樹脂であるABS樹脂とする。
また、本例のゴム型2は、透明又は半透明のシリコーンゴムからなる。このゴム型2は、成形する熱可塑性樹脂成形品60のマスターモデル(手作りの現物等)を液状のシリコーンゴム内に配置し、このシリコーンゴムを硬化させ、硬化後のシリコーンゴムを切り開いて、このシリコーンゴムからマスターモデルを取り出すことによって作製することができる。
【0072】
また、図1に示すごとく、本例のゴム型2は、1つの分割面20を形成して2つの分割型部21を組み合わせて形成した。これに対し、ゴム型2は、成形する熱可塑性樹脂成形品60の形状が複雑な場合は、3つ以上の分割型部21を組み合わせて形成することもできる。なお、成形時においては、複数の分割型部21は、型開きを防止する手段によって、組み合わせた状態を保持する。
【0073】
本例の熱可塑性樹脂成形品60の製造方法においては、成形装置1を用いて、ゴム型2への熱可塑性樹脂の射出成形を行う。図1〜図3に示すごとく、成形装置1は、以下の圧力容器3、真空ポンプ31、注入シリンダー52、射出シリンダー53、電磁波発生手段4、フィルター43を有している。
【0074】
圧力容器3は、ゴム型2を収容するよう構成してあり、この圧力容器3に接続した真空ポンプ31によって真空状態を形成するよう構成してある。注入シリンダー52は、ゴム型2に形成した注入部23を介してキャビティ22内へ、熱可塑性樹脂粒子組成物6Aにおける大形熱可塑性樹脂粒子61を注入するよう構成してある。射出シリンダー53は、ゴム型2に形成した注入部23を介してキャビティ22内へ、溶融状態の熱可塑性樹脂6Bを所定の圧力で射出するよう構成してある。本例においては、射出シリンダー53からゴム型2内へ射出する溶融状態の熱可塑性樹脂6Bの圧力は、0.1〜5MPaとする。
【0075】
電磁波発生手段4は、電磁波(光)の発生源41と、この発生源41による電磁波をゴム型2の方向へ導くリフレクタ(反射板)42とを有している。本例の電磁波発生手段4としては、近赤外線領域内の約1.2μmの付近に光強度のピークを有する近赤外線ハロゲンヒータを用いる。この近赤外線ハロゲンヒータは、0.78〜4μmの波長領域を含む電磁波を出射するよう構成されている。本例のフィルター43は、波長が2μmを超える電磁波の透過量を減少させる石英ガラスである。
なお、図2、図3において、電磁波発生手段4から出射する電磁波を矢印Xで示す。
【0076】
また、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波(光)に対する吸光度(特定の波長の光に対する吸収強度を示す尺度)は、熱可塑性樹脂として用いるABS樹脂の方が、ゴム製のゴム型2として用いるシリコーンゴムよりも大きくなっている。なお、吸光度は、例えば、島津製作所製UV3100を用いて測定することができる。
【0077】
図4は、透明のシリコーンゴムと半透明のシリコーンゴムについて、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、各シリコーンゴムにおける光の透過率を示すグラフである。同図において、各シリコーンゴムは、200〜2200(nm)の間の波長の光を透過させることがわかる。そのため、この波長の領域である近赤外線(0.78〜2μmの波長領域の光)をシリコーンゴム製のゴム型2の表面に照射すると、当該近赤外線の多くを、ゴム型2を透過させて熱可塑性樹脂に吸収させることができる。そして、ゴム型2に比べて熱可塑性樹脂を選択的に加熱できることがわかる。
【0078】
次に、上記成形装置1を用いて熱可塑性樹脂成形品60の製造を行う順序につき詳説する。
本例の熱可塑性樹脂成形品60の製造方法においては、ゴム型2に熱可塑性樹脂6を充填して熱可塑性樹脂成形品60を成形するに当たり、熱可塑性樹脂粒子組成物6Aと溶融状態の熱可塑性樹脂6Bとを用いる。本例においては、熱可塑性樹脂粒子組成物6Aと溶融状態の熱可塑性樹脂6Bとには、同じ組成を有するABS樹脂を用いる。
【0079】
熱可塑性樹脂成形品60を成形するに当たっては、まず、図1に示すごとく、配置工程として、開いた状態のゴム型2に対し、分割型部21におけるキャビティ22の表面に、粒子径が1〜100μmの小形熱可塑性樹脂粒子62を振り掛けて配置する。次いで、注入シリンダー52を閉じた状態のゴム型2の注入部23にセットし、ゴム型2のキャビティ22内に、粒子径が200〜3000μmの大形熱可塑性樹脂粒子61を投入する。このとき、キャビティ22内に投入する熱可塑性樹脂粒子組成物6Aの含有比率は、大形熱可塑性樹脂粒子61が80〜99.9質量%となり、小形熱可塑性樹脂粒子62が0.1〜20質量%となるようにする。そして、キャビティ22のほぼ全体に、熱可塑性樹脂粒子組成物6Aを配置(充填)する。
【0080】
小形熱可塑性樹脂粒子62をキャビティ22の表面に振り掛けたときには、この小形熱可塑性樹脂粒子62のほとんどは、キャビティ22の内壁面221に付着する。ここで、本例のゴム型2はシリコーンゴムから形成されており、小形熱可塑性樹脂粒子62は、その粒子径が1〜100μmであることによって、シリコーンゴムからなるキャビティ22の内壁面221に効果的に付着させることができる。
【0081】
また、大形熱可塑性樹脂粒子61をキャビティ22内に投入するときには、キャビティ22の内壁面221には小形熱可塑性樹脂粒子62が付着した状態にある。これにより、大形熱可塑性樹脂粒子61は、キャビティ22内における小形熱可塑性樹脂粒子62の内側を通過(落下)させることができる。そのため、キャビティ22内への熱可塑性樹脂粒子61、62の充填を円滑に行うことができる。なお、小形熱可塑性樹脂粒子62及び大形熱可塑性樹脂粒子61は、その自重によって充填する以外にも、振動又は気流を加えて充填することもできる。
【0082】
次いで、図2に示すごとく、真空工程として、真空ポンプ31によって圧力容器3内の真空引きを行い、ゴム型2のキャビティ22において残された空間220を真空状態にする。
次いで、同図に示すごとく、粒子加熱工程として、電磁波発生手段4から出射させた0.78〜4μmの波長領域を含む電磁波をフィルター43を透過させ、フィルター43を透過させた後の透過電磁波を、ゴム型2を介してキャビティ22内における熱可塑性樹脂粒子組成物6Aに照射する。このとき、ゴム型2を構成するゴム材料と熱可塑性樹脂粒子組成物6Aとの物性の違いにより、ゴム型2に比べて、熱可塑性樹脂粒子組成物6Aを選択的に加熱することができる(熱可塑性樹脂粒子組成物6Aの加熱量を多くすることができる)。これにより、ゴム型2の温度上昇を抑制して、熱可塑性樹脂粒子組成物6Aを溶融させることができる。そして、キャビティ22内には、熱可塑性樹脂粒子組成物6Aが溶融することによって、新たに熱可塑性樹脂6を充填するための空間220が形成される。
【0083】
なお、上記粒子加熱工程を行った後のキャビティ22の状態は、成形の条件によって様々な状態となる。例えば、熱可塑性樹脂6の流動性が悪い場合には、溶融した熱可塑性樹脂6がキャビティ22の下方へ沈下し難く、キャビティ22の真中付近に多数の気泡ができた泡おこし状態になっていると考えられる。また、熱可塑性樹脂6の流動性が良い場合には、溶融した熱可塑性樹脂6がキャビティ22の下方へ沈下した状態になっていると考えられる。また、本例のように、上記真空工程を行った場合には、ゴム型2が変形し、キャビティ22内の隙間(空間220)が潰れ、キャビティ22の表面に熱可塑性樹脂6が存在すると考えられる。
【0084】
次いで、図3に示すごとく、充填工程として、射出シリンダー53をゴム型2の注入部23にセットし、キャビティ22において残された空間220に、溶融状態の熱可塑性樹脂6Bを0.1〜5MPaの射出圧力で充填する。また、本例の充填工程においては、ゴム型2を介する熱可塑性樹脂6への上記透過電磁波の照射を継続し、キャビティ22内の熱可塑性樹脂6を加熱する。
【0085】
上記溶融状態の熱可塑性樹脂6Bを充填するとき、ゴム型2のキャビティ22の表面(ゴムの表面)に位置する部分には、上記熱可塑性樹脂粒子組成物6Aを溶融させた熱可塑性樹脂6が充填されており、新たに充填する溶融状態の熱可塑性樹脂6Bの充填量を少なくすることができる。
これにより、充填圧力(射出圧力)をあまり高くすることなくキャビティ22の全体へ熱可塑性樹脂6を充填することができ、ゴム型2の変形及び開きを効果的に抑制することができる。そのため、ゴム型2における分割面(パーティング面)20からの樹脂漏れを防止することができ、冷却工程を行って熱可塑性樹脂成形品60を得たときには、この熱可塑性樹脂成形品60の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる。
また、熱可塑性樹脂粒子組成物6Aと溶融状態の熱可塑性樹脂6Bとには、同じ組成の熱可塑性樹脂6を用いているため、成形後の熱可塑性樹脂成形品60において樹脂の境界面が形成されることを防止することができる。
【0086】
それ故、本例の樹脂成形方法によれば、ゴム型2を用いて熱可塑性樹脂6の成形を行う場合に、熱可塑性樹脂成形品60の外観、形状、表面精度等の品質及び機械的強度を効果的に向上させることができる。また、本例による効果は、成形する熱可塑性樹脂成形品60が大型、薄肉等の形状である場合、又は成形に用いる熱可塑性樹脂6の粘度が高い場合等に特に顕著に発揮することができる。
【0087】
(効果のシミュレーション)
図5、図6には、ゴム型2のキャビティ22内に熱可塑性樹脂粒子61、62を充填する状態を拡大して示す。図5は、上記大形熱可塑性樹脂粒子61及び小形熱可塑性樹脂粒子62をキャビティ22内に充填する場合を示し、図6は、大形熱可塑性樹脂粒子61のみをキャビティ22内に充填する場合を示す。
図6に示すごとく、キャビティ22内に大形熱可塑性樹脂粒子61のみを充填しようとすると、大形熱可塑性樹脂粒子61がキャビティ22の内壁面221に付着し、大形熱可塑性樹脂粒子61の内側をさらに別の大形熱可塑性樹脂粒子61が通過(落下)(矢印Tで示す。)することが困難であると考えられる。
【0088】
これに対し、図5に示すごとく、キャビティ22内に小形熱可塑性樹脂粒子62を充填した後に、大形熱可塑性樹脂粒子61を充填する場合には、小形熱可塑性樹脂粒子62が効果的にキャビティ22の内壁面221に付着し、大形熱可塑性樹脂粒子61が、キャビティ22の内壁面221にほとんど付着することなく、小形熱可塑性樹脂粒子62の内側を通過(落下)(矢印Tで示す。)すると考える。これにより、上記熱可塑性樹脂粒子組成物6Aによれば、キャビティ22のほぼ全体を効果的に充填することができると考える。
【0089】
(確認試験)
本確認試験においては、上記実施例に示した熱可塑性樹脂粒子組成物6Aを用いて熱可塑性成形品を成形することによる品質(表面外観)、機械的強度(耐衝撃性)を向上させる効果について確認を行った。
本確認試験においては、5種類の熱可塑性樹脂粒子(粒子A、B、C、D、E)を準備した。
【0090】
(粒子A) ABS樹脂(テクノポリマー社製「テクノABS330」、MFR42(g/10min))100質量部と、カーボンブラック0.5質量部とを、一軸スクリュータイプ押出機(40mmφ、シリンダー温度220℃)で押し出して、黒色の熱可塑性樹脂粒子を得た。そして、この黒色の熱可塑性樹脂粒子を原料として、GALA社製ストランドカット設備(マイクロペレット用)付き押出機を用いて、数平均粒子径が700μmの粒子Aを得た。
(粒子B) 上記黒色の熱可塑性樹脂粒子を原料とし、冷凍粉砕機(井元製作所社製)を用いて数平均粒子径55μmの粒子Bを得た。なお、粒子Bの粒子径は、1〜100μmの範囲内にある。
(粒子C) 上記黒色の熱可塑性樹脂粒子をそのまま用いて数平均粒子径3500μmの粒子Cを得た。
(粒子D) 上記黒色の熱可塑性樹脂粒子を原料とし、上記冷凍粉砕機(井元製作所製)を用いて冷凍粉砕した後、ふるい分けを行って数平均粒子径1300μmの粒子Dを得た。
(粒子E) 上記黒色の熱可塑性樹脂粒子を原料とし、上記冷凍粉砕機(井元製作所製)を用いて冷凍粉砕した後、ふるい分けを行って数平均粒子径460μmの粒子Eを得た。
なお、粒子A、C、D、Eは、100μm以下の粒子径の熱可塑性樹脂粒子を含んでいない。
【0091】
また、数平均粒子径は、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製「Image Pro Plus」)を使用し、顕微鏡写真を画像解析することにより求めた。画像処理するサンプル数は100個以上とした。
本確認試験においては、シリコーンゴムによって、125mm×12.5mm×3.2mmのサイズの直方形状のキャビティ22を形成した。キャビティ22の最小幅寸法は3.2mmとした。そして、上記実施例に示した成形装置によって、キャビティ22内に上記各粒子A、B、C、D、Eを充填し、加熱溶融を行い、溶融状態の熱可塑性樹脂6Bを追加充填し、その後冷却して、熱可塑性樹脂成形品60のサンプルを得た。
【0092】
表1には、粒子A、B、C、D、Eのいずれかを用いて構成した熱可塑性樹脂粒子組成物6Aから成形した成形品である発明品1〜5、及び粒子A、B、Cのいずれかを用いて構成した熱可塑性樹脂粒子から成形した成形品である比較品1〜3について、表面外観の観察及び耐衝撃性の測定を行った結果を示す。
【0093】
【表1】

【0094】
ここで、品質(表面外観)については、得られた熱可塑性樹脂成形品60の表面外観を目視観察し、歪みや焼けのない良好な成形品が得られた場合を○、表面の一部に歪みのある熱可塑性樹脂成形品60が得られた場合を△、歪み、欠損のある熱可塑性樹脂成形品60が得られた場合を×、評価不能の場合を−として、評価した。
また、機械的強度(耐衝撃性)については、シャルピー衝撃強度を、ISO179に準じて測定した(ノッチ付き、厚さ3.2mm)。
【0095】
表面外観を目視して評価したところ、発明品1〜5についてはいずれも○となり、表面外観及び耐衝撃性ともに優れることがわかった。一方、比較品2については、焼け(焦げ付き)が生じ、表面外観及び耐衝撃性ともに悪い結果となった。この理由は、粒子Bの混合比率が25質量%と大きいためであると考える。また、比較品1、3については、成形ができず、表面外観及び耐衝撃性ともに評価ができなかった。
この結果より、上記実施例に示した大形熱可塑性樹脂粒子61及び小形熱可塑性樹脂粒子62を含有する熱可塑性樹脂粒子組成物6Aを用いることにより、品質及び機械的強度に優れた熱可塑性樹脂成形品60を成形できることがわかった。
【符号の説明】
【0096】
1 成形装置
2 ゴム型
22 キャビティ
4 電磁波発生手段
6 熱可塑性樹脂
60 熱可塑性樹脂成形品
6A 熱可塑性樹脂粒子組成物
61 大形熱可塑性樹脂粒子
62 小形熱可塑性樹脂粒子
6B 溶融状態の熱可塑性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に充填し、該ゴム型を介して0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して加熱溶融させるための熱可塑性樹脂粒子組成物であって、
粒子径が1〜100μmの小形熱可塑性樹脂粒子を0.1〜20質量%含有し、残部が該小形熱可塑性樹脂粒子よりも大きい大形熱可塑性樹脂粒子からなることを特徴とする熱可塑性樹脂粒子組成物。
【請求項2】
請求項1において、上記大形熱可塑性樹脂粒子と上記小形熱可塑性樹脂粒子とは、非晶性であることを特徴とする熱可塑性樹脂粒子組成物。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記大形熱可塑性樹脂粒子と上記小形熱可塑性樹脂粒子とは、ゴム強化ビニル系樹脂であることを特徴とする熱可塑性樹脂粒子組成物。
【請求項4】
請求項3において、上記ゴム強化ビニル系樹脂は、ゴム質重合体の存在下に、芳香族モノビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂(A1)、又は該ゴム強化ビニル系樹脂(A1)と、ビニル系単量体に由来する構造単位を含む(共)重合体(A2)とを混合してなる混合物であることを特徴とする熱可塑性樹脂粒子組成物。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の熱可塑性樹脂粒子組成物を、上記ゴム型のキャビティ内に充填し、該ゴム型を介して0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射して加熱溶融させた後、冷却して得られることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【請求項6】
請求項1〜4に記載の熱可塑性樹脂粒子組成物を用いて熱可塑性樹脂成形品を製造する方法であって、
上記ゴム型のキャビティ内に、上記熱可塑性樹脂粒子組成物を配置する配置工程と、
上記ゴム型を介して上記キャビティ内における上記熱可塑性樹脂粒子組成物に、0.78〜2μmの波長領域を含む電磁波を照射し、該熱可塑性樹脂粒子組成物を加熱して溶融させる粒子加熱工程と、
上記キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却して熱可塑性樹脂成形品を得る冷却工程とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、上記粒子加熱工程を行った後、上記冷却工程を行う前には、上記キャビティにおいて残された空間に、溶融状態の熱可塑性樹脂を充填する充填工程を行うことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、上記充填工程においては、上記溶融状態の熱可塑性樹脂を0.1〜5MPaの射出圧力で、上記キャビティにおいて残された空間に充填することを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項において、上記配置工程においては、上記小形熱可塑性樹脂粒子を、開いた状態又は閉じた状態の上記ゴム型のキャビティに先に配置した後、上記大形熱可塑性樹脂粒子を上記ゴム型のキャビティ内に投入することを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項において、上記大形熱可塑性樹脂粒子の最大粒子径は、上記キャビティにおける最小幅寸法に対して、0.8倍以下となるよう選定することを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項において、上記配置工程前から上記粒子加熱工程前までの少なくともいずれかのタイミングには、上記キャビティ又は該キャビティにおいて残された空間を真空状態にする真空工程を行うことを特徴とする熱可塑性樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−173143(P2010−173143A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16816(P2009−16816)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【出願人】(594014638)日本レックス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】