説明

熱可塑性組成物の製造方法及び成形体の製造方法

【課題】植物性材料を多く含有しながら射出成形に適すると共に高い機械的特性を発揮できる熱可塑性組成物の製造方法及びこれを用いた成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】回転軸5の円周方向に複数の混合羽根10が立設された混合具を備えた混合溶融装置1を用いて、混合羽根10の回転による剪断力により、熱可塑性樹脂(PP等)を溶融させながら、熱可塑性樹脂とケナフ材料とを混合して混合物を得る混合工程を備え、この工程では、回転軸5の回転数を略一定に維持すると共に回転軸5に生じる負荷の極大値を経由した後、負荷が低下する間にも混合を継続し、負荷の極大値における混合物の温度よりも高い温度範囲(ケナフ繊維では3〜25℃、ケナフコアでは3〜50℃)で排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性組成物の製造方法及び成形体の製造方法に関する。更に詳しくは、ケナフ材料を50〜95質量%と多く含有する熱可塑性組成物の製造方法及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ケナフ等の成長が早く、二酸化炭素吸収量が多い植物性材料は、二酸化炭素排出量削減及び二酸化炭素の固定化等の観点から注目され、樹脂との複合用途で期待されている。
しかし、特に多量の植物性材料を樹脂に混合し、更には、得られた複合材料を成形するには大きな困難を伴う。これは複合材料に従来の樹脂と同等の十分な流動性を付与することが難しいからである。多量の植物材料を含む複合材料を扱う技術としては下記特許文献1〜3が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−105245号公報
【特許文献2】特開2000−219812号公報
【特許文献3】特開2008−093956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、ケナフ繊維の含有量が50質量%を超える場合に、樹脂組成物の流動性が著しく低下するので射出成形において、満足する製品形状や製品形態が得られない等の問題が発生することが示されている。即ち、50質量%を超える多量の植物性材料を混合することが難しいことが示されている。
また、上記特許文献2では、樹脂にロジンや可塑剤を加えず、植物繊維のみを配合した場合には植物繊維が均一に分散され難く、樹脂と植物繊維の間の親和性が悪いことなどから、強度等に劣り、又品質の均一性にも欠け、実用性に乏しい材料しか得られないことが示されている。即ち、50質量%以上の多量の植物性材料を混合できるものの、添加剤を要することが示されている。
上記特許文献3には、植物性材料をペレット化して利用し、植物性材料が50質量%と多く含まれた成形体を射出成形により製造する方法が開示されているものの、更に射出成形に適した熱可塑性組成物が求められている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ケナフ材料を50〜95質量%と多く含有しながら射出成形性に優れると共に機械的特性に優れた成形体が得られる熱可塑性組成物の製造方法及びこれを用いた成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は以下に示す通りである。
(1)ケナフ材料と熱可塑性樹脂とを含有し、該ケナフ材料及び該熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に該ケナフ材料を50〜95質量%含有する熱可塑性組成物の製造方法であって、
回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた混合溶融装置を用いて、該混合羽根の回転による剪断力により、熱可塑性樹脂を溶融させながら、該熱可塑性樹脂と上記ケナフ材料とを混合して混合物を得る混合工程を備え、
上記混合工程では、上記回転軸の回転数を略一定に維持して混合を行うと共に該回転軸に生じる負荷の極大値を経由した後、該負荷が低下する間にも混合を継続し、該負荷の極大値における該混合物の温度よりも高い温度範囲で該混合物を上記混合溶融装置から排出する熱可塑性組成物の製造方法であって、
上記温度範囲は、上記ケナフ材料がケナフ繊維である場合には3〜25℃であり、上記ケナフ材料がケナフコアである場合には3〜50℃であることを特徴とする熱可塑性組成物の製造方法。
(2)加熱することなく押し固めて上記混合物をペレット化するペレット化工程を備え、
上記ペレット化工程では、ダイと該ダイに接して回転されるローラーとを備えたローラー式成形機を用い、該ローラーにより上記混合物を該ダイ内に圧入した後、該ダイから押し出して上記ペレットを形成する上記(1)に記載の熱可塑性組成物の製造方法。
(3)上記混合工程で得られた上記混合物を除熱して固化した後、該固化された混合物を破砕する破砕工程を備え、
上記破砕された混合物を上記ペレット化工程によりペレット化する上記(2)に記載の熱可塑性組成物の製造方法。
(4)上記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン及び/又はエチレン・プロピレン共重合体である上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の熱可塑性組成物の製造方法。
(5)上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の熱可塑性組成物の製造方法により得られた熱可塑性組成物を射出成形して成形体を得ることを特徴とする成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性組成物の製造方法によれば、ケナフ材料を50〜95質量%と多く含有しながら射出成形性に優れた熱可塑性組成物を得ることができる。更に、この熱可塑性組成物を用いることで成形性及び機械的特性(とりわけ耐衝撃性)に優れた成形体を得ることができる。また、成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するケナフを材料として多く含むため、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献できる。
加熱することなく押し固めて混合物をペレット化するペレット化工程を備え、ペレット化工程では、ダイとダイに接して回転されるローラーとを備えたローラー式成形機を用い、ローラーにより混合物をダイ内に圧入した後、ダイから押し出してペレットを形成する場合は、熱可塑性樹脂を軟化又は溶融させるための加熱を要することなくペレット化を行うことができる。このため、熱可塑性組成物に対する熱履歴を抑制でき、得られる成形体においては優れた機械的特性を発現できる。
混合工程で得られた混合物を除熱して固化した後、固化された混合物を破砕する破砕工程を備え、破砕された混合物をペレット化工程によりペレット化する場合は、ペレット化工程におけるペレット生産性が向上する。更には、得られる成形体においてケナフ材料を配合したことによる補強効果を特に良好に得ることができる。
熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン及び/又はエチレン・プロピレン共重合体である場合は、優れた環境特性を備える熱可塑性組成物が得られると共に、高い機械的特性を得ることができる。
本発明の成形体の製造方法によれば、ケナフ材料を50〜95質量%と多く含有する熱可塑性組成物からなる成形体を射出成形により得ることができる。更に、成形性及び機械的特性に優れ、なかでも特に耐衝撃性に優れた成形体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1]熱可塑性組成物の製造方法
本発明の熱可塑性組成物の製造方法は、ケナフ材料と熱可塑性樹脂とを含有し、該ケナフ材料及び該熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に該ケナフ材料を50〜95質量%含有する熱可塑性組成物の製造方法であって、
回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた混合溶融装置を用いて、該混合羽根の回転による剪断力により、熱可塑性樹脂を溶融させながら、該熱可塑性樹脂と上記ケナフ材料とを混合して混合物を得る混合工程を備え、
上記混合工程では、上記回転軸の回転数を略一定に維持して混合を行うと共に該回転軸に生じる負荷の極大値を経由した後、該負荷が低下する間にも混合を継続し、該負荷の極大値における該混合物の温度よりも高い温度範囲で該混合物を上記混合溶融装置から排出する熱可塑性組成物の製造方法であって、
上記温度範囲は、上記ケナフ材料がケナフ繊維である場合には3〜25℃であり、上記ケナフ材料がケナフコアである場合には3〜50℃であることを特徴とする熱可塑性組成物の製造方法。
【0009】
上記「混合工程」は、混合溶融装置を用いて熱可塑性樹脂とケナフ材料とを混合して混合物を得る工程である。
上記「ケナフ材料」は、ケナフに由来する材料(ケナフそのもの及びケナフを加工して得られた材料を含む)である。本発明におけるケナフとは、木質茎を有する早育性の一年草であり、アオイ科に分類される植物である。学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等が含まれ、更に、通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が含まれる。このケナフは成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するため、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献できる。
【0010】
上記ケナフ材料として用いる植物体(ケナフ)の部位は特に限定されず、非木質部、木質部、葉部、茎部及び根部等の植物体を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよく2ヶ所以上の異なる部位を併用してもよい。
更に、本発明の熱可塑性組成物内に含まれるケナフ材料(混合後のケナフ材料)の形状は特に限定されず、繊維状であってもよく、非繊維状(粉末状、破砕物状、チップ状及び不定形状等が含まれる)であってもよい。
【0011】
また、混合に用いるケナフ材料{混合前のケナフ材料}の形状は特に限定されず、繊維状及び非繊維状の形態が挙げられる。このうち繊維状のケナフ材料(以下、単に「ケナフ繊維」ともいう)は、ケナフから取り出された繊維であり、且つ長さ(繊維長)Lに対する径(繊維径)tの割合L/tが5.0〜20,000であるものをいう。このケナフ繊維において、上記繊維長Lは、通常、0.5〜300mmであり、上記繊維径tは、通常、0.01〜1mmである。この繊維長は、JIS L1015における直接法と同様に、1本のケナフ繊維を伸張させずにまっすぐに伸ばし、置尺上で測定した値(L)である。一方、繊維径は、繊維長を測定した当該ケナフ繊維について、繊維の長さ方向の中央における繊維径を光学顕微鏡を用いて測定した値(t)である。
【0012】
更に、ケナフ繊維の平均繊維長及び平均繊維径等は特に限定されないが、平均繊維長は、20mm以下が好ましい。平均繊維長が20mm以下のケナフ繊維を用いることで、ケナフ繊維を用いることによる前記効果をよりよく得ることができる。この平均繊維長は1〜15mmがより好ましく、1.5〜10mmが更に好ましく、2〜7mmが特に好ましい。この平均繊維長は、JIS L1015に準拠して、直接法にて無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、伸張させずにまっすぐに伸ばし、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。
【0013】
一方、上記平均繊維径は、0.2mm以下が好ましい。平均繊維径が0.2mm以下のケナフ繊維を用いることで、ケナフ繊維を用いることによる前記効果をよりよく得ることができる。この平均繊維径は0.01〜0.15mmがより好ましく、0.01〜0.1mmが特に好ましい。この平均繊維径は、無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、繊維の長さ方向の中央における繊維径を光学顕微鏡を用いて実測し、合計200本について測定した平均値である。
【0014】
また、ケナフ材料のうち、上記非繊維状のケナフ材料(以下、単に「非繊維状ケナフ」ともいう)は、植物体から取り出された上記繊維状には含まれない形態のケナフ材料である。即ち、例えば、非繊維状としては、粉末状(粒状及び球状等を含む)、チップ状(板状及び薄片状等を含む)及び不定形状(粉砕物状等を含む)などの形態が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0015】
この非繊維状ケナフ材料の大きさは特に限定されないが、例えば、最大長さ(粒状の場合は最大粒径)は20mm以下(通常0.1mm以上、更には0.3〜20mm、より更には0.3〜15mm、特に0.5〜10mm)とすることが好ましい。
更に、その形状が粉末状である場合には、平均粒径は5.0mm以下(通常0.1mm以上、更には0.2〜5.0mm、より更には0.3〜4.0mm、特に0.3〜3.0mm、とりわけ0.5〜2.0mm)とすることが好ましい。尚、平均粒径とは、粒度分布測定装置によって測定された粒度分布におけるD50の値である。
尚、本方法により得られる熱可塑性組成物では、上記混合前のケナフ材料の形状及び大きさは、熱可塑性樹脂組成物内でそのまま維持されてもよく、維持されなくてもよい。維持されない場合としては、混合時に更に細かく粉砕されて熱可塑性組成物内に含まれる場合が挙げられる。
【0016】
また、ケナフ材料のうち非繊維状のものとしてはケナフコアが挙げられる。ケナフコアにはケナフの芯材部分そのもの、及びこれを加工(破砕・粉砕等)したものが含まれる。
ケナフは靭皮と称される外層部分とコアと称される芯材部分とからなるが、このうち靭皮は、強靱な繊維を有するために利用価値が高い(即ち、ケナフ繊維として繊維化できる)のに対して、コアはケナフ全体の60体積%程をも占めるにも関わらず、繊維化にすることができない。更に、見掛け比重が小さく嵩高いために取扱い性が悪く、樹脂等との混練が難しく、コアは廃棄又は燃料化されることが多い。しかし、本方法によれば、ケナフコアを利用することができる。
【0017】
上記「熱可塑性樹脂」は、熱可塑性を有する樹脂である。熱可塑性樹脂としては、特に限定されず種々のものを用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリエステル樹脂{(ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル樹脂)、(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂)}、ポリスチレン、アクリル樹脂(メタクリレート及び/又はアクリレート等を用いて得られた樹脂)、ポリアミド樹脂(ナイロン等)、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0018】
更に、上記ポリエステル樹脂のなかでは、生分解性を有するポリエステル樹脂(以下、単に「生分解性樹脂」ともいう)が好ましい。生分解性樹脂としては、(1)乳酸、リンゴ酸、グルコース酸及び3−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体、並びに、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体、などのヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、(2)ポリカプロラクトン、及び、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体、などのカプロラクトン系脂肪族ポリエステル、(3)ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート及びポリブチレンアジペート、などの二塩基酸ポリエステル、等が挙げられる。
これらのなかでは、ポリ乳酸、乳酸と乳酸を除く他の上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、及び上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体が好ましく、特にポリ乳酸が好ましい。これらの生分解性樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。尚、上記乳酸にはL−乳酸及びD−乳酸を含むものとし、これらの乳酸は単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0019】
更に、熱可塑性樹脂として、単独で又は他の熱可塑性樹脂と併用して、熱可塑性エラストマーを用いることができる。熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が例示される。これらの中ではオレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0020】
オレフィン系熱可塑性エラストマーの形態は特に限定されないが、オレフィン系樹脂成分(ハードセグメントとして機能)とゴム成分(ソフトセグメントとして機能)とを含み、ゴム成分がオレフィン系樹脂成分内に分散されてなるものが好ましい。
このうち、オレフィン系樹脂成分は、オレフィンを主成分とする樹脂であること以外特に限定されない。このオレフィン系樹脂成分としては、オレフィンの単独重合体、オレフィンを含む共重合体(オレフィン共重合体を構成する構成単位全体を100モル%とした場合に70モル%以上のオレフィンに由来する構成単位を有する共重合体)が挙げられる。前者(オレフィンの単独重合体)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレン・プロピレン共重合体(エチレン・プロピレンランダム共重合体など)等が挙げられる。一方、後者(オレフィンを含む共重合体)としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体及びエチレン・アクリル酸アルキル共重合体等が挙げられる。これらのオレフィン系樹脂成分は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、上記ゴム成分の組成は特に限定されず、種々のゴム成分を用いることができる。即ち、例えば、オレフィン系ゴム(EPR、EPDM等)、スチレン系ゴム、ウレタン系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのゴム成分のなかでは、オレフィン系ゴム及びスチレン系ゴムが好ましい。
【0021】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香族ビニル化合物{スチレン、アルキル置換スチレン(α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン等)、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等}に由来する構成単位を含む共重合体であり、通常、この芳香族ビニル化合物に由来する構成単位{通常、全構成単位中に5モル%(通常50モル%以下)を越えて含有}は、芳香族ビニル重合体ブロックとして含有されてハードセグメントとして機能する。スチレン系熱可塑性エラストマーは水素添加されていてもよく、水素添加されていなくてもよいが、水素添加型スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。また、上記芳香族ビニル重合体ブロック以外の重合体部分は、通常、共役ジエン(ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等)を用いて形成される。
【0022】
このスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、水素添加型スチレン・ブタジエンランダム共重合体(HSBR)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS,水素添加型スチレン・ブタジエンブロック共重合体)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS,水素添加型スチレン・イソプレンブロック共重合体)、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)等が挙げられる。
【0023】
上記各種の熱可塑性樹脂のなかでは、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂及びポリエステル樹脂のうちのポリ乳酸を含む他の樹脂との混合樹脂{ポリ乳酸アロイ(ポリスチレン、ABS、ナイロン、ポリカーボネート、ポリプロピレン及びポリブチレンサクシネートのうちの少なくとも1種とポリ乳酸との混合樹脂等)}のうちの少なくとも1種であることが好ましい。更にこのなかでもポリオレフィンが好ましく、特にポリプロピレン(単独重合体)、ポリプロピレンを含むポリオレフィンの混合樹脂、及びプロピレンに由来する構成単位を含むオレフィン共重合樹脂のうちの少なくともいずれかの樹脂が好ましい。このうちポリプロピレンを含むポリオレフィンの混合樹脂としては、ポリプロピレンとポリエチレンとの混合樹脂が挙げられる。更に、プロピレンに由来する構成単位を含むオレフィン共重合樹脂としては、エチレン・プロピレン共重合体(ランダム共重合体及びブロック共重合体を含む)が挙げられる。これらのポリオレフィンは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、ポリプロピレン(単独重合体)及び/又はエチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。
【0024】
更に、混合工程では、上記熱可塑性樹脂の一部に酸変性された熱可塑性樹脂を用いることができる。即ち、上記各酸変性されていない熱可塑性樹脂(非酸変性熱可塑性樹脂)と、酸変性熱可塑性樹脂とを併用することができる。
酸変性熱可塑性樹脂は、酸基を有する熱可塑性樹脂である。この酸変性熱可塑性樹脂としては、熱可塑性樹脂に酸基を導入したものが挙げられる(尚、以下では酸基が導入されていない状態の重合体を「ベースポリマー」ともいう)。このベースポリマーとしては、前記熱可塑性樹脂として挙げた各種熱可塑性樹脂のうちの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでは前記非酸変性熱可塑性樹脂と同様にポリオレフィンが好ましい。
【0025】
更に、上記ベースポリマーは、非酸変性熱可塑性樹脂と同質であることが好ましい。この「同質」とは、[i]同じ種類の熱可塑性樹脂であって、構成単位(単量体単位)が同じであること、[ii]同じ種類の熱可塑性樹脂であって、構成単位が異なること、又は、[iii]同じ又は異なる種類の熱可塑性樹脂であって、同じ構成単位を少なくとも1種有し且つ互いに相溶性を有する熱可塑性樹脂であること、を意味する。「同じ種類の熱可塑性樹脂」とは、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等の分類において共通することを意味する。
【0026】
上記[i]としては、同一の単独重合体又は共重合体であって、分子量、粘度等の化学的性質又は物理的性質が異なる場合が挙げられる。このうち共重合体である例としては、共通する2以上の構成単位を有し、その割合が異なる場合が挙げられる。上記[ii]としては、一方がポリエチレンであり、他方がポリプロピレンである場合等が挙げられる。上記[iii]の例としては、一方がポリエチレンであり、他方がエチレン・プロピレン共重合体である場合等が挙げられる。上記[ii]及び[iii]において、熱可塑性樹脂(B)及びベースポリマーの各々の構成単位全体の50モル%以上を占める主構成単位は同じであることが好ましい。
【0027】
また、酸変性熱可塑性樹脂を形成する酸基の種類は特に限定されないが、通常、無水カルボン酸残基(−CO−O−OC−)及び/又はカルボン酸残基(−COOH)である。この酸基は共重合段階で導入されたものであってもよく、グラフト導入されたものであってもよい。また、酸基はどのような化合物により導入されたものであってもよく、その化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸、及びメタクリル酸等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、無水マレイン酸及び無水イタコン酸が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0028】
酸変性熱可塑性樹脂に導入される酸基の量は特に限定されないものの、酸価において5以上であることが好ましい。これにより、酸変性熱可塑性樹脂の添加量を抑制しつつ高い添加効果を得ることができるからである。この酸価は、10〜80がより好ましく、15〜70が更に好ましく、20〜60が特に好ましい。尚、この酸価はJIS K0070によるものである。更に、その重量平均分子量は10,000〜200,000であることが好ましい。これにより熱可塑性樹脂組成物全体への性状変化を抑制しつつ、高い添加効果が得られ、更に優れた耐衝撃性を付与できる。この重量平均分子量は、15,000〜150,000がより好ましく、25,000〜120,000が更に好ましく、35,000〜100,000が特に好ましい。尚、この重量平均分子量はGPC法によるものである。
【0029】
上記混合工程で混合するケナフ材料と熱可塑性樹脂との量比は、得られる混合物内においてケナフ材料の割合が50〜95質量%となるものであればよいが、50〜90質量%が好ましく、51〜85質量%がより好ましく、52〜80質量%が更に好ましく、53〜75質量%特に好ましい。上記範囲では本発明の方法による成形性向上及び耐衝撃性向上の各効果を特に得易い。
【0030】
上記「混合溶融装置」は、回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた装置であり、この混合溶融装置の混合羽根の回転による剪断力により、熱可塑性樹脂を溶融させながら、熱可塑性樹脂とケナフ材料とを混合して混合物を得ることができる装置である。更に、この混合溶融装置は、通常、上記混合を行うための混合室を備える。そして、上記混合具はこの混合室内に少なくとも混合羽根が配置される。更に、前述のように、回転軸に生じる負荷を測定するためにこの負荷を測定できる負荷測定手段を備える。この負荷測定手段は、回転軸に生じる負荷を直接測定できるように、混合溶融装置自体に付設することができる。更に、通常、回転軸を駆動するために備えられている駆動源(モーター等)に負荷測定手段を付設し、駆動源の負荷を測定することによって間接的に回転軸の負荷が測定されるようであってもよい。
このような混合溶融装置としては、特に下記混合溶融装置が好ましい。
【0031】
この混合溶融装置{以下、図1、図4(図4は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレット図1を引用)及び図5(図5は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレット図2を引用)参照}としては、国際公開04/076044号パンフレットに記載の混合溶融装置1が好ましい。即ち、混合溶融装置1は、材料供給室13と、該材料供給室13に連接された混合室3と、該材料供給室13と該混合室3とを貫通して回転自在に設けられた回転軸5と、該材料供給室13内の該回転軸5に配設され且つ該材料供給室13に供給された混合材料(ケナフ材料等)を該混合室3へ搬送するらせん状羽根12と、該混合室3内の該回転軸5に配設され且つ該混合材料を混合する混合羽根10a〜10fと、を備える混合溶融装置が好ましい。
更に、この混合溶融装置には、上記回転軸5を回転させるための駆動源(モーター等)8が付設されており、駆動源8はプーリー6及びVベルト7を介して回転連絡されていることが好ましい。また、この駆動源8には負荷測定手段21が付設されていることが好ましい。更に、この負荷測定手段21は、駆動源8に電気的に接続されて、駆動源8の主軸に作用される負荷(トルク)を測定できるものであることが好ましい。
【0032】
上記混合溶融装置では、混合材料を混合溶融装置1(材料供給室13)へ投入し、混合溶融装置1の混合羽根10a〜10fを回転させることで、混合羽根により生じる剪断力や、ケナフ材料及び熱可塑性樹脂が共に混合室3の内壁へ向かって押し付けるように打撃し且つ押し進められ、材料同士の衝突するエネルギー(熱量)により短時間で熱可塑性樹脂が軟化され、更には溶融され、ケナフ材料と混合され、更には混練される。また、得られる熱可塑性組成物には射出成形が可能な優れた流動性が発現される。
【0033】
上記混合羽根10a〜10fは、上記回転軸5の円周方向の一定角度間隔の部位における軸方向において対向すると共に、回転方向において互いの対向間隔が狭まるような取付け角で該回転軸5に配設された少なくとも2枚の混合羽根(10a〜10f)によって構成され、該混合羽根10a〜10fの該回転軸5に対する取付け角は、該回転軸5に取り付けられる該混合羽根10a〜10fの根元部から半径方向外方の先端部まで同一であることが好ましく、更には、上記混合羽根10a〜10fが矩形板状をなすことが好ましい。
また、上記混合室3は、該混合室3を構成する壁に冷却媒体を循環させることができる混合室冷却手段を備えることがより更に好ましい。この構成により、混合室3内の過度な温度上昇を抑制でき、熱可塑性樹脂の分解及び熱劣化を抑制(更には防止)できる。
【0034】
そして、本発明の製造方法における混合工程は、上記混合溶融装置の回転軸の回転数を略一定に維持して混合を行うと共に、回転軸(図1、図4及び図5の符号5)に生じる負荷の極大値を経由した後、負荷が低下する間にも混合を継続し、負荷の極大値における混合物の温度よりも高い温度範囲で混合物を混合溶融装置から排出する工程である。
【0035】
上記回転数は、略一定であればよく、その回転数自体は特に限定されず、混合羽根の大きさ及び混合物の性質等により適宜のものとすることができる。この略一定とは、回転数の変動率が7%以下(0%を含む)であることを意味する。この変動率は4%以下(0%を含む)であることが好ましい。また、具体的な回転数としては、例えば、混合羽根の直径が20〜30cmである場合には、1000〜2500rpmとすることが好ましく、1650〜2050rpmとすることがより好ましい。
尚、回転数の変動率が7%以下とは、設定した回転数に到達してから回転軸を停止するための指令を出すまでの間における平均回転数をRとし、その間の最大回転数をRとし、その間の最小回転数をRとした場合に、|R−R|/R≦0.07であり、且つ、|R−R|/R≦0.07であることを意味する。
【0036】
更に、上記ケナフ材料がケナフ繊維である場合、上記温度範囲(混合溶融装置から排出した時の混合物の温度をTとし、混合中に混合溶融装置において最大負荷を生じた時の混合物の温度をTとした場合に、温度範囲Tδ=T−Tである)は3〜25℃である。ケナフ繊維においては、Tδが3〜25℃の範囲で混合溶融装置から排出することによって、得られる熱可塑性組成物に優れた流動性が発現されて射出成形性に優れた熱可塑性組成物となる。特に回転軸に生じる負荷の極大値において混合物を排出した場合に比べて高い流動性が得られる。更に加えて、Tδが3〜25℃の範囲で混合溶融装置から排出することによって、得られた熱可塑性組成物を用いた成形体では曲げ弾性率は維持されながら耐衝撃性が向上される。特に回転軸に生じる負荷の極大値において混合物を排出した場合に比べて高いシャルピー衝撃強度が得られる。
【0037】
更に、ケナフ繊維を用いる場合、上記温度範囲は3〜25℃であればよいが、4〜23℃がより好ましく、5〜20℃が更に好ましい。これら好ましい範囲においてはとりわけ優れた耐衝撃性を得ることができる。また、特に混合溶融装置から排出した時の混合物の温度Tは特に限定されないものの、例えば、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン及び/又はエチレン・プロピレン共重合体を用いる場合には、215〜245℃であることが好ましく、220〜240℃であることがより好ましく、222〜240℃であることが更に好ましい。これら好ましい範囲においてはとりわけ優れた耐衝撃性を得ることができる。また、このような温度範囲となるのは、混合羽根の直径が20〜30cmである場合には、回転軸に生じる負荷の極大値に到達した時点から、例えば、2〜70秒の間混合を継続することによって得ることができる。この混合継続時間は3〜65秒とすることがより好ましい。
【0038】
また、上記ケナフ材料がケナフコアである場合、上記温度範囲は3〜50℃である。ケナフコアにおいては、Tδが3〜50℃の温度範囲で排出することによって、上記ケナフ繊維における場合と同様の効果が得られる。更に、ケナフコアでは、上記温度範囲は3〜50℃であればよいが、4〜50℃がより好ましく、10〜45℃が更に好ましい。これら好ましい範囲においてはとりわけ優れた耐衝撃性を得ることができる。また、Tは特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン及び/又はエチレン・プロピレン共重合体を用いる場合には、215〜285℃であることが好ましく、227〜280℃であることがより好ましく、235〜270℃であることが更に好ましい。これら好ましい範囲においてはとりわけ優れた耐衝撃性を得ることができる。また、このような温度範囲となるのは、混合羽根の直径が20〜30cmである場合には、回転軸に生じる負荷の極大値に到達した時点から、例えば、2〜20秒の間混合を継続することによって得ることができる。この混合継続時間は3〜17秒とすることがより好ましい。
【0039】
本発明の方法におけるその他の混合条件は特に限定されないが、例えば、混合室外壁の温度を200℃以下(より好ましくは150℃以下、更に好ましくは120℃以下)に制御することが好ましく、更には、50℃以上(より好ましくは60℃以上、更に好ましくは80℃以上)に制御することが好ましい。また、この温度は10分以内(より好ましくは5分以内)に到達させることが好ましい。更に、上記温度範囲とするのは15分以内(より好ましくは10分以内)とすることが好ましい。短時間で高温にし、更には、短時間で混合を終えることで、熱可塑性樹脂の劣化を効果的に抑制できる。
また、上記温度の制御は、前記回転軸の回転数以外にも、混合溶融装置の混合羽根の回転速度を制御することによって行うことができる。より具体的には、混合羽根の先端の回転速度を5m/秒〜50m/秒となるように制御することが好ましい。この範囲に制御することで、効率よく熱可塑性樹脂を軟化・溶融させつつ、ケナフ材料とより強力に(より均一に)混合することができる。
【0040】
本発明の熱可塑性組成物の製造方法では上記混合工程に加えて、得られた熱可塑性組成物をペレット化するペレット化工程を備えることができる。
ペレット化工程を備える場合、このペレット化工程は、混合工程において得られた熱可塑性組成物(混合物)をペレット化することができる工程であればよく、ペレット化方法等は特に限定されないが、加熱することなく押し固めて混合物をペレット化する工程であることが好ましい。加熱せず押し固めてペレット化することで、混合工程で得られた混合物を再度溶融させて二軸押出し機等の一般的な方法を用いてペレット化を行う場合に比べて、混合物への熱履歴を低減できるために得られる成形体の機械的特性をより高く維持できる。
【0041】
この加熱せず押し固めてペレット化する方法としては、どのような装置及び手段を用いてもよりが、特に各種圧縮成形方法を用いることが好ましい。この圧縮成形方法としては、例えば、ローラー式成形方法及びエクストルーダ式成形方法などが挙げられる。
ローラー式成形方法は、ダイとこのダイに接して回転されるローラーとを備えたローラー式成形機を用い、ローラーにより混合物をダイ内に圧入した後、ダイから押し出してペレットを形成する方法である。ローラー式成形機には、ダイの形状が異なるディスクダイ式(ローラーディスクダイ式成形機)とリングダイ式(ローラーリングダイ式成形機)が挙げられる。一方、エクストルーダ式成形方法は、エクストルーダ式成形機を用いる方法であり、スクリューオーガの回転により混合物がダイ内に圧入された後、ダイから押し出してペレットを形成する方法である。
これらの圧縮成形方法のなかでは、特にローラーディスクダイ式成形方法を用いる方法が好ましい。この圧縮成形方法で用いられるローラーディスクダイ式成形機は圧縮効率が高く特に好適である。
【0042】
更に、本方法では下記特定のローラーディスクダイ式成形機500(全体構成を図1に、主要部を図6に例示)を用いてペレット化することが特に好ましい。即ち、複数の貫通孔511が穿設されたディスクダイ51と、該ディスクダイ51上で転動されて該貫通孔511内に非圧縮物(混合物)を押し込むプレスローラ52と、該プレスローラ52を駆動する主回転軸53と、を備え、上記ディスクダイ51は、上記貫通孔511と同方向に貫通された主回転軸挿通孔512を有し、上記主回転軸53は、上記主回転軸挿通孔512に挿通され且つ該主回転軸53に垂直に設けられたプレスローラ固定軸54を有し、上記プレスローラ52は、上記プレスローラ固定軸54に回転可能に軸支されて上記主回転軸53の回転に伴って上記ディスクダイ51の表面で転動されるローラーディスクダイ式成形部50を有するローラーディスクダイ式成形機(ペレット化装置)500である。
このローラーディスクダイ式成形機500では、上記構成に加えて更に、上記プレスローラ52は表面に凹凸521を備えるものであることが好ましい。また、主回転軸53の回転に伴って回転される切断用ブレード55を備えることが好ましい。
【0043】
上記ローラーディスクダイ式成形機500では、例えば、図6のローラーディスクダイ式成形部50においては、主回転軸53の上方から投入された破砕混合物をプレスローラ52が備える表面凹凸521が捉えて貫通孔511内に押し込み、ディスクダイ51の裏面側から押し出される。押し出された紐状の混合物は、切断用ブレード55により適宜の長さに切断されてペレット化され、下方に落下されて熱可塑性組成物(図1の符号56)として回収される。
得られるペレットの形状及び大きさは特に限定されないが、柱状(その他の形状であってもよいが、円柱状が好ましい)であることが好ましい。また、その最大長さは1mm以上(通常20mm以下)とすることが好ましく、1〜10mmがより好ましく、2〜7mmが特に好ましい。
【0044】
更に、本発明の熱可塑性組成物の製造方法では上記ペレット化工程を備える場合には、
混合工程とペレット化工程との間に、上記混合工程で得られた混合物を除熱して固化した後、固化された混合物を破砕する破砕工程を備えることができる。
即ち、破砕工程は、混合工程で得られた混合物を除熱して固化した後、固化された混合物を破砕する工程である。この混合物を破砕する方法は特に限定されず、例えば、乾式破砕方法及び湿式破砕方法を用いることができるが、乾式破砕方法が好ましい。乾式方法では、混合物中に含まれたケナフ材料の吸湿・吸水による乾燥を要さないからである。
【0045】
また、破砕に用いることができる破砕機(図1の符号300)は、剪断式破砕機であってもよく、切断式破砕機であってもよく、衝撃式破砕機であってもよく、圧縮式破砕機であってもよく、更にその他の方法による破砕機であってもよい。即ち、破砕機としては、カッターミル、ターボミル、フェザミル、ロートプレックスミル、ラバチョッパ、ハンマーミル及びジョークラッシャー等が挙げられる。これらの破砕機は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。併用する場合としては、1つの破砕機で塊状物を粗砕して粗砕物を得た後、別の破砕機で得られた粗砕物を更に細かく細分化する場合等が挙げられる。
これらのなかでは、より細かく破砕(粉砕)でき、本方法における最適な粒度をより確保し易いために剪断式破砕機が好ましい。
【0046】
破砕混合物(図1の符号301)の大きさは特に限定されず、後述するペレット化工程に供することができればよいが、最大辺長が25mm以下(通常1mm以上)であることが好ましく、1〜20mmがより好ましく、1〜15mmが更に好ましく、2〜7mmが特に好ましい。この範囲であれば後続するペレット化工程におけるペレット生産性に優れ、更には、得られる成形体においてもケナフ材料による補強効果を特に良好に得ることができる。
尚、破砕機に換えて粉砕機により混合物を粉末状となるまで粉砕した場合には、ケナフ材料を含有させることによる熱可塑性樹脂強度の補強効果を十分に引き出し難い傾向になる。このため、上記適度な大さに破砕することが好ましい。
更に、破砕工程では、破砕による温度上昇を抑制することが好ましく、特に破砕時の混合物の温度は100℃以下(通常0℃以上、更に好ましくは80℃以下)にすることが好ましい。この範囲では熱可塑性樹脂の劣化を効果的に抑制でき、得られる成形体の機械的特性を高く維持できる。
【0047】
本方法では、混合工程、ペレット工程及び破砕工程以外に他の工程を備えることができる。他の工程としては、混合工程で用いるケナフ材料を押し固めてケナフ材料ペレットを得る工程(ケナフ材料ペレット化工程)が挙げられる。このケナフ材料ペレット化工程では、前記破砕混合物をペレット化するペレット化工程と同様にローラーディスクダイ式成形機500を用いることができる。
上記ケナフ材料ペレット化工程を備える場合は、ケナフ材料の比重を熱可塑性樹脂に近づけることができ、ケナフ材料と熱可塑性樹脂との間の比重差を小さくできる。このため、混合の際の材料の偏在を抑制でき、ケナフ材料と熱可塑性樹脂とが相互により均一に分散された混合物を得ることができる。そして、得られる成形体はより優れた機械的特性を得ることができる。また、ケナフ材料の見掛け比重を大きくすることで嵩高さを小さくでき取扱い性が向上され、混合溶融装置への投入も容易となるなど熱可塑性組成物を製造する際の効率が向上される。
【0048】
尚、本発明の製造方法では、ケナフ材料及び熱可塑性樹脂以外にも他の成分を配合できる。他の成分としては、各種帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤等も配合できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これら他の成分は、どの工程で配合してもよい。但し、本発明の方法ではケナフ材料と熱可塑性樹脂との混合を促進するための添加剤は何ら用いる必要がない。
【0049】
[2]成形体の製造方法
本発明の成形体の製造方法は、前記方法により得られた熱可塑性組成物を射出成形して成形体を得ることを特徴とする。即ち、本成形体の製造方法は、熱可塑性組成物を射出成形して成形体を得る成形工程を備える。
本製造方法の射出成形における射出成形機(図1の符号600)、これに付設された金型(図1の符号61)並びに各種成形条件及び使用する装置等は特に限定されず、目的とする成形体及び性状、使用されている熱可塑性樹脂の種類等により適宜のものとすることが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法により得られる成形体の形状、大きさ及び厚さ等は特に限定されない。また、その用途も特に限定されない。この成形体は、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等として用いられる。このうち自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等が挙げられる。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー及びカウリング等が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
[1]熱可塑性組成物の製造
繊維長さ3mmのケナフ繊維(実施例1〜4及び比較例1〜2)及び粒径1mm以下のケナフコア(実施例5〜6及び比較例3〜4)と、PP(エチレン・プロピレン共重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「NBX03HRS」)と、を表1(ケナフ繊維)及び表2(ケナフコア)に示す量比で、混合溶融装置1(株式会社エムアンドエフ・テクノロジー製、WO2004−076044号に示された器機)の材料供給室(図4の符号13)に投入(ケナフ材料と熱可塑性樹脂とで合計700gを表1の量比で投入)した後、混合室(容量5L、図4の符号3)内で混合し混練した。この混合に際して混合羽根(直径25cm、図6の符号10a〜10f)の回転数は1750rpmに設定した。そして、混合羽根にかかる負荷(トルク)が上昇し、極大値に達した時点を起点(0秒)として、表1及び表2に示す各秒数の間(継続混合時間)、回転数1750rpmを維持して混合を継続し、時間経過と同時に混合溶融装置1から混合物を排出した(混合工程)。得られた混合物の温度(排出温度)は、混合溶融装置から排出後、即座に樹脂温度計(株式会社佐藤計量器製作所製、型式「SK−1120」)の熱電対センサを混合物に接触させて測定した温度値である。
【0052】
得られた上記混合物は、除熱して固化させた後、破砕機(株式会社ホーライ製、形式「Z10−420」)を用いて5.0mm程度(5.0mmメッシュを通過するサイズ)に破砕して破砕混合物を得た(破砕工程)。
更に、上記破砕工程により得られた破砕混合物をローラーディスクダイ式成形機500{株式会社菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径(図6の符号511)4.2mm}に、フィダー周波数20Hzで投入し、各破砕混合物を直径約4mm且つ長さ約5mmの円柱状のペレットにした(ペレット化工程)。その後、得られたペレットをオーブンにて100℃で24時間乾燥させて、実施例1〜6及び比較例1〜4の各熱可塑性組成物を得た。
【0053】
尚、上記混合工程で用いたケナフコアは、破砕機(株式会社ホーライ製、形式「Z10−420」)で破砕したものであり、その粒径は、JIS Z8801に準拠して、目開き1.0mmの円孔板篩を通過したものである。また、ケナフ繊維は、JIS L1015に準拠して、直接法にて無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
[2]成形体の製造
上記[1]で得られた実施例1〜6及び比較例1〜4の各熱可塑性組成物を射出成形機(住友重機械工業株式会社製、形式「SE100DU」)に各々投入し、シリンダ温度190℃、型温度40℃の条件で射出成形して厚さ4mm、幅10mm、長さ110mmの長方形板状の試験片を得た。
【0057】
[3]特性の評価
上記[2]で成形した試験片を用いて曲げ弾性率(JIS 7171に準拠)及びシャルピー衝撃強度{JIS K7111−1に準拠(ノッチ無し)}を測定した。このうち曲げ弾性率については、各試験片を支点間距離(L)64mmとした2つの支点(曲率半径5mm)で支持しつつ、支点間中心に配置した作用点(曲率半径5mm)から速度2mm/分にて荷重の負荷を行い測定した。また、上記シャルピー衝撃強度においては、衝撃エネルギーが4Jのハンマヘッドを用いて、ハンマの空振り時の角度と測定時の角度から吸収エネルギーを算出した。この結果を表1及び表2に併記した。
更に、上記表1(ケナフ繊維)に基づき、実施例1〜4及び比較例1〜2のシャルピー衝撃強度と前記温度範囲との相関をグラフとして図2に示した。同様に、上記表2(ケナフコア)に基づき、実施例5〜6及び比較例3〜4のシャルピー衝撃強度と前記温度範囲との相関をグラフとして図3に示した。
【0058】
[4]実施例の効果
表1及び図1より、ケナフ材料としてケナフ繊維を用いた場合、温度範囲Tδ=17℃をピークとしてシャルピー衝撃強度が顕著に向上されることが分かる。即ち、例えば、継続混合を行っていない比較例1のシャルピー衝撃強度6.5KJ/mに対して、60秒間継続混合を行った実施例4ではシャルピー衝撃強度は10.5KJ/mであり、比較例1に対して実施例4は約62%もの格別顕著なシャルピー衝撃強度の向上が認められた。一方、継続混合を過度に行った比較例2では、逆に比較例1よりもシャルピー衝撃強度は低下する結果となった。
【0059】
一方、表2及び図2より、ケナフ材料としてケナフコアを用いた場合、温度範囲Tδ=43℃をピークとしてシャルピー衝撃強度が顕著に向上されることが分かる。即ち、例えば、継続混合を行っていない比較例3のシャルピー衝撃強度3.9KJ/mに対して、僅かに15秒間の継続混合を行った実施例6ではシャルピー衝撃強度は4.6KJ/mであり、比較例3に対して実施例6は約18%もの顕著なシャルピー衝撃強度の向上が極めて短時間の継続混合を行うだけで認められることが分かった。一方、継続混合を過度に行った比較例4では、逆に比較例3よりもシャルピー衝撃強度は低下する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の熱可塑性組成物の製造方法並びに成形体の製造方法は、自動車関連分野及び建築関連分野などにおいて広く利用される。特に自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等に好適であり、なかでも自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等に好適である。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー及びカウリング等が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材にも好適である。具体的には、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本熱可塑性組成物の製造方法から本成形体の製造方法までの各工程を模式的に示す説明図である。
【図2】実施例においてケナフ材料としてケナフ繊維を用いた場合の温度範囲Tδとシャルピー衝撃強度との相関を示すグラフである。
【図3】実施例においてケナフ材料としてケナフコアを用いた場合の温度範囲Tδとシャルピー衝撃強度との相関を示すグラフである。
【図4】混合溶融装置の一例を示す模式的な断面図である。
【図5】混合溶融装置に配設された混合羽根の一例を示す模式的な側面図である。
【図6】ローラーディスクダイ式成形機の要部の一例を示す模式的な斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1;混合溶融装置、3;混合室、5;回転軸、10及び10a〜10f;混合羽根、12;らせん状羽根、6;プーリー、7;Vベルト、8;駆動源(モーター)、13;材料供給室、21;負荷測定手段、
300;破砕機、301;破砕混合物、
500;ローラーディスクダイ式成形機(ペレット化装置)、50;ローラーディスクダイ式成形部(ペレット化部)、51;ディスクダイ、511;貫通孔、512;主回転軸挿通孔、52;プレスローラ、521;凹凸部、53;主回転軸、54;プレスローラ固定軸、55;切断用ブレード、56;熱可塑性組成物(ペレット形状)、
600;射出成形機、61;金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケナフ材料と熱可塑性樹脂とを含有し、該ケナフ材料及び該熱可塑性樹脂の合計を100質量%とした場合に該ケナフ材料を50〜95質量%含有する熱可塑性組成物の製造方法であって、
回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた混合溶融装置を用いて、該混合羽根の回転による剪断力により、熱可塑性樹脂を溶融させながら、該熱可塑性樹脂と上記ケナフ材料とを混合して混合物を得る混合工程を備え、
上記混合工程では、上記回転軸の回転数を略一定に維持して混合を行うと共に該回転軸に生じる負荷の極大値を経由した後、該負荷が低下する間にも混合を継続し、該負荷の極大値における該混合物の温度よりも高い温度範囲で該混合物を上記混合溶融装置から排出する熱可塑性組成物の製造方法であって、
上記温度範囲は、上記ケナフ材料がケナフ繊維である場合には3〜25℃であり、上記ケナフ材料がケナフコアである場合には3〜50℃であることを特徴とする熱可塑性組成物の製造方法。
【請求項2】
加熱することなく押し固めて上記混合物をペレット化するペレット化工程を備え、
上記ペレット化工程では、ダイと該ダイに接して回転されるローラーとを備えたローラー式成形機を用い、該ローラーにより上記混合物を該ダイ内に圧入した後、該ダイから押し出して上記ペレットを形成する請求項1に記載の熱可塑性組成物の製造方法。
【請求項3】
上記混合工程で得られた上記混合物を除熱して固化した後、該固化された混合物を破砕する破砕工程を備え、
上記破砕された混合物を上記ペレット化工程によりペレット化する請求項2に記載の熱可塑性組成物の製造方法。
【請求項4】
上記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン及び/又はエチレン・プロピレン共重合体である請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の熱可塑性組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の熱可塑性組成物の製造方法により得られた熱可塑性組成物を射出成形して成形体を得ることを特徴とする成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−23356(P2010−23356A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187838(P2008−187838)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】