説明

熱型光検出器、熱型光検出装置、電子機器および熱型光検出器の製造方法

【課題】 熱型光検出器の検出感度を向上させること。
【解決手段】 熱型光検出器は、基板10と、基板に対して空洞部102を介して支持される支持部材215と、記支持部材上に形成されている熱検出素子220と、熱検出素子220および支持部材215上において、熱検出素子220に接して形成されている第1光吸収層270と、第1光吸収層上において第1光吸収層に接して形成され、かつ、第1光吸収層よりも高い屈折率を有する第2光吸収層272と、支持部材215の表面と第2光吸収層272の上面との間で第1波長が共振し、第1光吸収層270と第2光吸収層272とが接する界面RLと第2光吸収層272の上面との間で前記第1波長とは異なる第2波長が共振する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱型光検出器、熱型光検出装置、電子機器および熱型光検出器の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
光センサーとして、熱型光検出器が知られている。熱型光検出器は、物体から放射された光を光吸収層によって吸収し、光を熱に変換し、温度の変化を熱検出素子によって測定する。熱型光検出器には、光吸収にともなう温度上昇を直接検出するサーモパイル、電気分極の変化として検出する焦電型素子、温度上昇を抵抗変化として検出するボロメーター等がある。熱型光検出器は、測定できる波長帯域が広い特徴がある。近年、半導体製造技術(MEMS技術等)を利用して、より小型の熱型光検出器を製造する試みがなされている。
【0003】
熱型光検出器の検出感度の向上、ならびに応答性の改善のためには、光吸収層で効率的に熱を発生させること、ならびに光吸収層で発生した熱を、効率的に熱検出素子に伝達することが重要である。
【0004】
焦電型の赤外線センサーの構造の一例は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載される例では、空洞部上に焦電素子を搭載する絶縁膜が形成され、この絶縁膜上に焦電素子が形成されている。焦電素子は、焦電材料を上下の電極で挟んだ構成を有している。
【0005】
また、赤外線センサーにおいて光共振器を構成する例は、例えば、特許文献2に記載されている。特許文献2に記載される例では、ボロメーター型の赤外線センサーにおいて、反射膜と感熱膜との間の距離を、λ/4の整数倍(λは光の波長)とすることによって、光の共振を生じさせ、感熱膜における光吸収効率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−279103公報
【特許文献2】特開2010−127891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載される技術では、光共振による効果が得られるのは、入射光に含まれる光のうちの、波長λ付近の波長についてのみである。
【0008】
本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、簡単な構成によって、熱型光検出器の検出波長帯域を広げることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の熱型光検出器の一態様は、基板と、前記基板に対して空洞部を介して支持される支持部材と、前記支持部材上に形成されている熱検出素子と、前記熱検出素子および前記支持部材上において、前記熱検出素子に接して形成されている第1光吸収層と、前記第1光吸収層上において前記第1光吸収層に接して形成され、かつ、前記第1光吸収層よりも高い屈折率を有する第2光吸収層と、を有し、前記支持部材の表面と前記第2光吸収層の上面との間で第1波長が共振し、前記第1光吸収層と前記第2光吸収層とが接する界面と、前記第2光吸収層の上面との間で、前記第1波長とは異なる第2波長が共振する。
【0010】
本態様では、異なる共振波長をもつ2個の光共振器を構成する。異なる2つの波長において共振ピークが生じることから、熱型光検出器が検出可能な光の波長帯域(波長幅)を広げることができる。
【0011】
第1波長λに対する第1光共振器は、支持部材の表面と第2光吸収層の上面との間において形成される。平面視で支持部材の領域に入射する入射光の一部は、第1光吸収層および第2光吸収層の少なくとも一方に吸収され、また、一部の光は第1光吸収層と第2光吸収層との界面で反射し、また、第2光吸収層で吸収されなかった光の一部は、支持部材の表面に到達し、到達した光の一部は反射される。支持部材の表面で反射した光の一部は、第1光吸収層および第2光吸収層の少なくとも一方に吸収され、吸収されなかった光は、第2光吸収層の上面で反射して、再び下方に向かう。この動作が繰り返されて、第1波長λの光の共振が生じる。
【0012】
このとき、入射した波長λの光と、支持部材の表面で反射した波長λの光とが相互干渉よって打ち消され、第1光吸収層ならびに第2光吸収層における実効吸収率が高まる。すなわち、第1光共振器を構成することによって、各光吸収層における実効吸収率を高めることができる。
【0013】
また、第2波長をλとしたとき、第1光吸収層と第2光吸収層とが接する界面(第2光吸収層の下面ということもできる)と、第2光吸収層の上面との間で、第1波長とは異なる第2波長λに対する第2光共振器が構成される。
【0014】
上述のとおり、平面視で支持部材の領域に入射する入射光の一部は、第1光吸収層と第2光吸収層との界面で反射される。第2光吸収層の屈折率は第1光吸収層の屈折率よりも高いことから、第1光吸収層と第2光吸収層との界面での光の反射が確実に生じる。この界面で反射した光は第2光吸収層に吸収され、吸収されなかった光は第2光吸収層の上面で反射して再び下方に向かう。この動作が繰り返されて、第2波長λの光の共振が生じる。
【0015】
これによって、入射した波長λの光と、第1光吸収層と第2光吸収層との界面(第2光吸収層の下面)で反射した波長λの光とが相互干渉よって打ち消され、第2光吸収層における実効吸収率を高めることができる。
【0016】
本態様では、支持部材の表面、第1光吸収層と第2光吸収層とが接する界面、ならびに第2光吸収層の上面を利用して、異なる波長に共振する2つの光共振器を構成することから構造が簡単であり、熱型光検出器の製造が容易である。
【0017】
また、上述のとおり、異なる2つの波長において共振ピークが生じることから、熱型光検出器が検出可能な光の波長帯域(波長幅)を広げることができる。したがって、例えば、簡単な構成によって、熱型光検出器の検出波長帯域を広げることができる。
【0018】
(2)本発明の熱型光検出器の他の態様では、前記支持部材の表面と、前記第2光吸収層の上面とが平行であり、かつ、前記第1光吸収層と前記第2光吸収層とが接する界面と、前記第2光吸収層の上面とが平行であり、前記第1波長をλとしたとき、前記支持部材の表面と第2光吸収層の上面との間の距離がm・(λ/4)(mは1以上の整数)の関係を満足し、前記第2波長をλとしたとき、前記第1光吸収層と前記第2光吸収層とが接する界面と、前記第2光吸収層の上面との間の距離を、n・(λ/4)(nは1以上の整数)の関係を満足する。
【0019】
本態様では、第1光吸収層および第2光吸収層の膜厚を調整して、異なる共振波長をもつ2個の光共振器を構成する。本態様では、第1光共振器および第2光共振器として、いわゆるλ/4光共振器を採用する。第1波長をλとしたとき、支持部材の、支持部材の表面と第2光吸収層の上面との間の距離が、m(λ/4)(mは1以上の整数)の関係を満足するように、第1光吸収層および第2光吸収層の膜厚が調整される。すなわち、第1光吸収層および第2光吸収層の合計の膜厚が、m・(λ/4)(mは1以上の整数)の関係を満足する厚みに調整される。
【0020】
また、第2波長をλとしたとき、第2光吸収層の下面と第2光吸収層の上面との間の距離(すなわち、第2光吸収層の膜厚)を、n・(λ/4)に設定することによって、第2光共振器を構成する。
【0021】
本態様では、2層の光吸収層の膜厚調整をするだけでよいことから、熱型光検出器の製造が容易である。
【0022】
本態様では、支持部材の表面と、第2光吸収層の上面とが平行であり、かつ、第1光吸収層と第2光吸収層とが接する界面と、第2光吸収層の上面とが平行である。これらの面を利用して、異なる2つの波長に共振する共振器を構成する。よって、簡単な構成で、2層の光吸収層における光吸収効率を高めることができる。
【0023】
(3)本発明の熱型光検出器の他の態様では、前記支持部材の表面は、前記第1光吸収層よりも高い屈折率を有する材料層の表面である。
【0024】
本態様では、支持部材の表面を構成する材料層として、第1光吸収層よりも高い屈折率を有する材料層を用いる。第1光吸収層よりも高い屈折率を有する材料層を、支持部材の構成要素とし、その材料層の表面を反射面として利用するものである。その材料層によって支持部材の全部を構成してもよく、また、その材料層が、支持部材を構成する積層された複数の材料層のうちの最上層(第1光吸収層側の層)を構成してもよい。
【0025】
これによって、支持部材の表面での光の反射を確実に生じさせることができる。よって、第1光共振器による光共振が生じやすくなる。
【0026】
(4)本発明の熱型光検出器の他の態様では、前記支持部材の表面は、光を反射する光反射特性を有する材料層の表面である。
【0027】
本態様では、光を反射する光反射特性を有する材料層を支持部材の構成要素とし、その材料層の表面を反射面として利用する。その材料層によって支持部材の全部を構成してもよく、また、その材料層が、支持部材を構成する積層された複数の材料層のうちの最上層(第1光吸収層側の層)を構成してもよい。
【0028】
これによって、例えば、支持部材の表面に到達する光の大部分を反射させることができる。よって、第1光共振器による光共振が生じやすくなる。
【0029】
(5)本発明の熱型光検出器の他の態様では、前記熱検出素子に接続される配線の、前記支持部材の表面上に延在する部分の少なくとも一部は、前記第1光吸収層によって覆われている。
【0030】
本態様では、第1光吸収層が、熱検出素子に接続される配線の、支持部材の表面上に延在する部分の少なくとも一部を覆っている。配線は金属材料で構成されるが、金属材料は熱伝導性にも優れる。よって、第1光吸収層に覆われた配線部分(支持部材の表面上に延在する部分の少なくとも一部)は、熱検出素子から遠い位置で発生した熱を集熱して、熱検出素子に効率的に伝達する役割も果たす。よって、本態様によれば、熱検出素子の熱検出感度が向上する。
【0031】
(6)本発明の熱型光検出器の他の態様では、前記熱検出素子は、焦電材料層を、前記支持部材側の第1電極ならびに前記第2光吸収層側の第2電極によって挟んだ構造をもつ焦電キャパシターと、前記第1電極に接続される第1コンタクト電極と、前記第2電極に接続される第2コンタクト電極と、を有し、前記第2コンタクト電極の平面視における面積は、前記第2電極の平面視における面積よりも大きい。
【0032】
本態様では、熱検出素子は、焦電キャパシターによって構成される。焦電キャパシターは、焦電材料層を、支持部材側の第1電極ならびに第2光吸収層側の第2電極によって挟んだ構造を有する。また、第2電極に接続される第2コンタクト電極の平面視における面積は、第2電極の平面視における面積よりも大きく設定される。
【0033】
第2コンタクト電極は金属材料で構成されるが、金属材料は熱伝導性にも優れる。よって、第2コンタクト電極の平面視における面積を、焦電キャパシターの第2電極(上部電極)の平面視における面積よりも大きくすることによって、第2光吸収層の広範囲で発生する熱を集熱して、熱検出素子に効率的に伝達する効果が期待できる。よって、本態様によれば、熱検出素子の熱検出感度が向上する。
【0034】
(7)本発明の熱型光検出器の他の態様では、前記第2光吸収層は前記第2コンタクト電極に接して形成される。
【0035】
本態様によれば、第2光吸収層(第2光共振器)で吸収した熱を、損失少なく熱検出素子に伝達することができる。
【0036】
(8)本発明の電子機器の一態様は、上記いずれかに記載の熱型光検出器が複数、2次元配置されている。
【0037】
これによって、複数の熱型光検出器(熱型光検出素子)が2次元に配置された(例えば、直交2軸の各々に沿ってアレイ状に配置された)、熱型光検出装置(熱型光アレイセンサー)が実現される。
【0038】
(9)本発明の電子機器の一態様は、上記いずれかの熱型光検出器と、前記熱型光検出器の出力を処理する制御部と、を有する。
【0039】
上記いずれかの熱型光検出器は、例えば、検出波長帯域が広く、また光の検出感度が高い。よって、この熱型光検出器を搭載する電子機器の性能が高まる。電子機器としては、例えば、赤外線センサー装置、サーモグラフィー装置、車載用夜間カメラや監視カメラ等が挙げられる。なお、制御部は、例えば、画像処理部やCPUで構成することができる。
【0040】
(10)熱型光検出器の製造方法の一態様は、基板の主面上に絶縁層を含む構造体を形成し、前記構造体の少なくとも最上層の一部を除去して凹部を形成し、前記凹部の内表面上にエッチングストッパー膜を形成した後、前記凹部内に犠牲層を形成する工程と、前記犠牲層を含む前記構造体上に支持部材を形成し、前記支持部材上に熱検出素子を形成する工程と、前記熱検出素子および前記支持部材上において、前記熱検出素子に接して第1光吸収層を形成する工程と、前記第1光吸収層上において前記第1光吸収層に接して、前記第1光吸収層よりも高い屈折率を有する第2光吸収層を形成する工程と、を含み、前記第1光吸収層の厚みと前記第2光吸収層の厚みとを合算した厚みを、第1波長をλとしたとき、m・(λ/4)(mは1以上の整数)の関係を満足する厚みとし、前記第2光吸収層の厚みを、第2波長をλとしたとき、n・(λ/4)(nは1以上の整数)の関係を満足する厚みとする。
【0041】
本態様では、基板の主面に絶縁層を含む構造体を形成し、構造体の一部に形成した凹部に犠牲層を埋め込んだ後、支持部材を形成し、さらに、支持部材上に、熱検出素子および光反射層、第1光吸収層、および第1光吸収層よりも高い屈折率をもつ第2光吸収層を積層形成する。第1光吸収層の上面は、平坦化処理によって平坦化される。犠牲層を除去することによって空洞部が形成される。これによって、支持部材は、基板に対して空洞部を介して支持される。支持部材の表面、第1光吸収層と前記第2光吸収層とが接する界面ならびに第2光吸収層の上面は互いに平行であることが好ましい。
【0042】
また、第1光吸収層ならびに第2光吸収層の各膜厚は、第1光吸収層の厚みと第2光吸収層の厚みとを合算した厚みが、第1波長をλとしたとき、m・(λ/4)(mは1以上の整数)の関係を満足するように調整される。また、第2光吸収層の厚みは、第2波長をλとしたとき、n・(λ/4)(nは1以上の整数)の関係を満足するように調整される。
【0043】
第1波長λに共振する第1光共振器を構成することによって、第1光吸収層ならびに第2光吸収層における光の実効吸収率が高まる。また、第2波長λに共振する第2光共振器を構成することによって、第2光吸収層における光の実効吸収率が高まる。また、2つの波長の共振ピークが重なることによって、熱型光検出器の検出波長帯域を広げることができる。
【0044】
また、本態様では、第1光吸収層と第2光吸収層の膜厚を調整するだけで、2波長共振器を構成することができる。よって、熱型光検出器の構造が簡単であり、製造が容易である。本態様によれば、例えば、半導体製造技術(例えばMEMS技術)を用いて、小型かつ検出感度の高い熱型光検出器を容易に実現することができる。
【0045】
このように、本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、簡単な構成によって、熱型光検出器の検出波長帯域を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1(A)〜図1(C)は、熱型光検出器の一例の断面構造と、第1光吸収層、第2光吸収層ならびに支持部材で使用される材料の例を示す図
【図2】図2(A)および図2(B)は、2つの光共振器が構成される場合における熱型光検出器の検出感度の一例、ならびに支持部材上に延在する配線部分による集熱効果を示す図
【図3】図3(A)および図3(B)は、熱型光検出器の製造方法の一例を示すデバイスの断面図
【図4】図4(A)および図4(B)は、熱型光検出器の製造方法の一例を示すデバイスの断面図
【図5】熱型光検出器の製造方法の一例を示すデバイスの断面図
【図6】熱型光検出器の他の例を示す図
【図7】熱型光検出装置(熱型光検出アレイ)の回路構成の一例を示す回路図
【図8】電子機器の構成の一例を示す図
【図9】電子機器の構成の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0048】
(第1実施形態)
図1(A)〜図1(C)は、熱型光検出器の一例の断面構造と、第1光吸収層、第2光吸収層ならびに支持部材で使用される材料の例を示す図である。図1(A)では、単独の熱型光検出器を示しているが、複数の熱型光検出器を、例えばマトリクス状に配置して、熱型光検出器アレイ(すなわち熱型検出装置)を構成することもできる。図1(A)に示される熱型光検出器は、焦電型赤外線検出器(光センサーの一種)200である(但し、一例であり、これに限定されるものではない)。
【0049】
(全体構成)
図1(A)に示される熱型光検出器200は、最上層において空洞部(凹部)102が形成されている多層構造体150と、多層構造体150上に形成されている素子構造体160と、を有する。
【0050】
素子構造体160は、基板20に対して空洞部102を介して支持される支持部材215と、支持部材(メンブレン)215上に形成されている熱検出素子220と、熱検出素子220および支持部材215上において、熱検出素子220に接して形成されている第1光吸収層270と、第1光吸収層270上において第1光吸収層270に接して形成され、かつ、第1光吸収層270よりも高い屈折率を有する第2光吸収層272と、を有している。
【0051】
支持部材215の表面と前記第2光吸収層272の上面との間で、第1波長λに対する第1光共振器が構成されており、第1光吸収層270と第2光吸収層272とが接する界面RLと、第2光吸収層272の上面との間で、第1波長λとは異なる第2波長λに対する第2光共振器が構成されている。すなわち、支持部材215の表面と第2光吸収層271の上面との間で第1波長λが共振する。また、第1光吸収層270と第2光吸収層272とが接する界面RLと第2光吸収層272の上面との間で、第1波長λとは異なる第2波長λが共振する。
【0052】
また、多層構造体150は、基板(ここではシリコン基板とする)20と、基板20の第1主面(ここでは表面とする)上に形成された多層配線構造129とを有する。多層配線構造129は、第1絶縁層30と、第2絶縁層40と、第3絶縁層50とを有する。多層配線構造129における、最上層である第3絶縁層50の一部には空洞部(凹部)102が形成されている。
【0053】
空洞部102の内表面(底面および側面)は、エッチングストッパー膜(例えばSi膜)130a,130bが設けられている。このエッチングストッパー膜130a,130bは、空洞部102を形成するために犠牲層(図1(A)では不図示、図4の参照符号135)を除去する工程において、エッチングの対象外の層が除去されるのを防止する役割を果たす。また、多層配線構造129の表面(メンブレン215の裏面)にも、エッチングストッパー膜130cを設けることができる。このエッチングストッパー膜130cは、例えば、犠牲層除去工程における、支持部材(メンブレン)215のエッチングを防止する機能をもつ(但し、メンブレンの材料によっては不要の場合がある)。
【0054】
また、基板20の、平面視で熱検出素子220と重なる領域(つまり、基板20の、熱検出素子220の下に位置する領域)には、例えば、信号読み出し用の回路を構成する回路要素(トランジスタ等)が形成されている。これによって、熱型光検出器200の専有面積を削減することができる。
【0055】
すなわち、基板20には、MOSトランジスターのソース層21と、ドレイン層22が形成されている。基板20の表面にはゲート絶縁膜23が形成されている。ゲート電極24の両サイドには、サイドウオール25が設けられている。ゲート電極24には、例えば配線26が接続される。
【0056】
また、多層配線構造129は、金属からなるプラグM1と、第2層目配線M2と、プラグM3と、第3層目配線M4と、プラグM5とを含む。支持部材(メンブレン)215に設けられたコンタクトホールには、金属からなるプラグM6が埋め込まれている。熱検出素子220の構成要素である第1配線222は、プラグM6およびM5を経由して、多層配線構造150における第3層目配線M4に接続されている。
【0057】
また、熱検出素子220は焦電キャパシター230を有する。支持部材(メンブレン)210上には、配向膜238が形成されており、この配向膜238上に、焦電キャパシター230が形成されている。焦電キャパシター230は、下部電極(第1電極)234と、下部電極上に形成される焦電材料層(例えば焦電体としてのPZT層:チタン酸ジルコン酸鉛層)232と、焦電材料層232上に形成される上部電極(第2電極)236と、を含む。
【0058】
下部電極(第1電極)234ならびに上部電極(第2電極)236は共に、例えば、3層の金属膜を積層することによって形成することができる。例えば、焦電材料層(PZT層)232から遠い位置から順に、例えばスパッタリングにて形成されるイリジウム(Ir)、イリジウム酸化物(IrOx)及びプラチナ(Pt)の三層構造とすることができる。また、焦電材料層232としては、上述のとおり、例えばPZT(Pb(Zi,Ti)O:チタン酸ジルコン酸鉛)を用いることができる。この焦電材料層232は、例えば、スパッタリング法やMOCVD法等で成膜することができる。下部電極(第1電極)234および上部電極(第2電極)236の膜厚は、例えば0.4μm程度であり、焦電材料層232の膜厚は、例えば0.1μm程度である。
【0059】
焦電キャパシター230は、絶縁膜250によって覆われている。この絶縁膜250には、第1コンタクトホール252および第2コンタクトホール254が設けられている。第1コンタクトホール252には、第1コンタクト電極226の一部が埋め込まれており、この第1コンタクト電極226には、第1配線222が接続されている。また、第2コンタクトホール254には、第2コンタクト電極228の一部が埋め込まれており、この第2コンタクト電極228には、第2配線229が接続されている。
【0060】
第1配線222の一部は、支持部材(メンブレン)215の表面上に延在する延在部分Q1を有する。また、第2配線229の一部は、支持部材(メンブレン)215の表面上に延在する延在部分Q2を有する。延在部分Q1およびQ2上には、第1光吸収層270および第2光吸収層272が存在する。ここで、「〜上」という表現は、直上であってもよく、あるいは、上部(別の層が介在する場合)であってもよい。他の箇所においても同様に、広義に解釈することができる。
【0061】
焦電キャパシター230の上方から入射する光(平面視で支持部材215の領域に入射する入射光)は、第1光吸収層270および第2光吸収層272によって吸収され、熱に変換される。この熱は、焦電材料層(焦電体)232に伝達され、その結果、焦電効果(パイロ電子効果)によって、焦電材料層(焦電体)232に電気分極量の変化が生じる。この電気分極量の変化に伴う電流を検出することによって、入射した光の強度を検出することができる。
【0062】
(光共振器について)
上述のとおり、図1(A)に示される熱型光検出器200では、異なる共振波長をもつ2個の光共振器が構成される。異なる2つの波長λ,λ2において共振ピークが生じることから、熱型光検出器200が検出可能な光の波長帯域(波長幅)を広げることができる。
【0063】
第1波長λに対する第1光共振器は、支持部材215の表面と第2光吸収層272の上面との間において形成される。また、第2波長をλとしたとき、第1光吸収層270と第2光吸収層272とが接する界面RL(第2光吸収層272の下面ということもできる)と、第2光吸収層272の上面との間で、第1波長λとは異なる第2波長λに対する第2光共振器が構成される。第1光共振器ならびに第2光共振器は、いわゆるλ/4光共振器である。
【0064】
すなわち、支持部材215の表面と第2光吸収層272の上面とが平行であり、かつ、第1光吸収層270と第2光吸収層272とが接する界面RLと、第2光吸収層272の上面とが平行である。これらの面を利用して、異なる2つの波長に共振する共振器を構成する。よって、簡単な構成で、2層の光吸収層における光吸収効率を高めることができる。
【0065】
ここで、第1波長をλとしたとき、支持部材215の表面と第2光吸収層272の上面との間の距離がm・(λ/4)(mは1以上の整数)の関係を満足し、また、第2波長をλとしたとき、第2光吸収層の下面と第2光吸収層の上面との間の距離(すなわち、第2光吸収層の膜厚)は、n・(λ/4)(nは1以上の整数)の関係を満足する。
【0066】
具体的には、第1光吸収層270の膜厚をH2とし、第2光吸収層272の膜厚をH3としたとき、第1光吸収層270および第2光吸収層272の合計の膜厚H3は、m・(λ/4)の関係を満足する厚みに調整され、これによって第1光共振器が構成される。また、第2波長をλとしたとき、第2光吸収層272の膜厚H3は、n・(λ/4)の関係を満足する厚みに調整され、これによって第2光共振器が構成される。
【0067】
この構成によれば、互いに平行に配置された、支持部材215の表面、第1光吸収層270と第2光吸収層272とが接する界面RLならびに第2光吸収層272の上面を利用して、異なる2つの波長λ,λに共振する光共振器を簡単に構成することができる。つまり、簡単な構成を用いて、2層の光吸収層270,272における光吸収効率を高めることができる。第1光吸収層270および第2光吸収層272の各膜厚を調整するだけでよいことから、熱型光検出器200の構造が複雑化せず、製造が容易である。
【0068】
平面視で支持部材215の領域に入射する入射光の一部は、第1光吸収層270および第2光吸収層272の少なくとも一方に吸収され、また、一部の光は第1光吸収層270と第2光吸収層272との界面RL(反射界面)で反射し、また、第2光吸収層272で吸収されなかった光の一部は、支持部材215の表面に到達し、到達した光の一部は反射される。支持部材215の表面で反射した光の一部は、第1光吸収層270および第2光吸収層272の少なくとも一方に吸収され、吸収されなかった光は、第2光吸収層272の上面で反射して、再び下方に向かう。この動作が繰り返されて、第1波長λの光の共振が生じる。
【0069】
このとき、入射した波長λの光と、支持部材215の表面で反射した波長λの光とが相互干渉よって打ち消され、第1光吸収層270ならびに第2光吸収層272における実効吸収率が高まる。すなわち、第1光共振器を構成することによって、各光吸収層270,272における実効吸収率を高めることができる。
【0070】
また、平面視で支持部材215の領域に入射する入射光の一部は、第1光吸収層270と第2光吸収層272との界面で反射される。第2光吸収層272の屈折率は第1光吸収層270の屈折率よりも高いことから、第1光吸収層270と第2光吸収層272との界面RLでの光の反射が確実に生じる。この界面(反射界面)RLで反射した光は第2光吸収層272に吸収され、吸収されなかった光は第2光吸収層272の上面で反射して再び下方に向かう。この動作が繰り返されて、第2波長λの光の共振が生じる。
【0071】
これによって、入射した波長λの光と、第1光吸収層270と第2光吸収層272との界面RL(第2光吸収層272の下面)で反射した波長λの光とが相互干渉よって打ち消され、第2光吸収層272における実効吸収率を高めることができる。
【0072】
このように、異なる2つの波長において共振ピークが生じることから、熱型光検出器200が検出可能な光の波長帯域(波長幅)を広げることができる。したがって、簡単な構成によって、熱型光検出器の検出波長帯域を広げることができる。
【0073】
具体的には、第1波長λを4μmに設定し、第2波長λを12μmに設定することができる。この場合、第1光吸収膜270の膜厚は例えば3μmとすればよく、また、第2光吸収膜272の膜厚は例えば1μmとすればよい。
【0074】
(第1光吸収層、第2光吸収層ならびに支持部材で使用される材料の例について)
第1光吸収層270、第2光吸収層272ならびに支持部材215で使用される材料の例が、図1(B)および図1(C)に示されている。図1(B)の例では、支持部材215は、下層のシリコン窒化膜(SiN)211a/シリコン酸化膜(SiO)211b/上層のシリコン窒化膜(SiN)211cの3層の積層膜で構成される。また、第1光吸収層270および第2光吸収層272は共にシリコン酸化膜で構成される。但し、各光吸収層を成膜する際の成膜条件を異ならせることによって、第1光吸収層270の屈折率を、第2光吸収層272の屈折率よりも高く設定している。第2光吸収層272は低屈折率層であり、第1光吸収層270は第1高屈折率層である。
【0075】
また、支持部材215の表面は、第1光吸収層270よりも高い屈折率を有する材料層であるSiN層(第2高屈折率層)211cの表面である。
【0076】
例えば、第2光吸収層(低屈折率層)272の屈折率を1.3とし、第1光吸収層(第1高屈折率層)270の屈折率を1.2とし、SiN層(第2高屈折率層)211cの屈折率を2.0とすることができる。
【0077】
支持部材215の表面は、最も高い屈折率をもつ材料層であるSiN層(第2高屈折率層)211cの表面であることから、支持部材215の表面での光の反射を確実に生じさせることができる。よって、第1光共振器による光共振(波長λにおける共振)が生じ易くなる。
【0078】
また、低屈折率の第2光吸収層272(低屈折率層)の下に、より高い屈折率を有する第2光吸収層270(第1高屈折率層)が存在することから、第1光吸収層270と第2光吸収層272とが接する界面RLでは、光の反射が生じる。よって、第2光共振器による光共振(波長λにおける共振)が生じ易くなる。
【0079】
図1(B)の例は一例であり、これに限定されるものではない。広義には、光を反射する光反射特性を有する材料層を支持部材の構成要素とし、その材料層の表面を反射面として利用することができる。その材料層によって支持部材215の全部を構成してもよく、また、その材料層が、支持部材215を構成する積層された複数の材料層のうちの最上層(第1光吸収層270側の層)を構成してもよい(図1(A)の例)。
【0080】
また、図1(C)の例では、支持部材215の表面は、光を反射する光反射特性を有する材料層213dの表面である。光反射特性を有する材料層213dとしては、例えばチタン(Ti)等の、光を全反射する金属材料を使用することができる。また、高い屈折率を有するチタン酸化物(TiO)等を用いることもできる。
【0081】
また、図1(C)の例では、第1光吸収層270をシリコン窒化膜SiN(高屈折率層)で構成し、第2光吸収層272をシリコン酸化膜SiO(低屈折率層)で構成している。例えば、第2光吸収層(低屈折率層)272の屈折率を1.4とし、第1光吸収層270(高屈折率層)の屈折率を2.0とし、また、支持部材215の表面を提供する材料層213dとして、光を全反射する金属材料(Ti等)を使用することができる。
【0082】
図1(C)の例では、光を反射する光反射特性を有する材料層を支持部材215の構成要素とし、その材料層の表面を反射面として利用している。その材料層によって支持部材215の全部を構成してもよく、また、その材料層が、支持部材215を構成する積層された複数の材料層のうちの最上層(第1光吸収層側の層)を構成してもよい(図1(C)の例)。
【0083】
図1(C)の例では、支持部材215の表面に到達する光の大部分を確実に反射させることができる。よって、第1光共振器による光共振が生じ易くなる。
【0084】
(光吸収特性の例と、支持部材上に延在する配線部分による集熱効果について)
図2(A)および図2(B)は、2つの光共振器が構成される場合における熱型光検出器の検出感度の一例、ならびに支持部材上に延在する配線部分による集熱効果を示す図である。
【0085】
図2(A)は、2つの光共振器が構成される場合における、熱型光検出器の検出感度の一例を示している。図2(A)に示すように、熱型光検出器の検出感度を有する波長帯域を広げることができる。図2(A)に示される例では、第1光共振器による共振ピークP1が波長λ(例えばλ=4μm)に出現し、第2光共振器による共振ピークP2が波長λ(例えばλ=12μm)に出現している。これらのピーク特性が合成されることによって、熱型光検出器200の検出感度P3が広がる。つまり、広い波長域において検出感度をもつ熱型光検出器200が実現される。
【0086】
図2(B)は、支持部材(メンブレン)215上に延在する配線部分Q1,Q2による集熱効果を示している。なお、図2(B)には、図1(A)に示される熱型光検出器200の要部が示されている。
【0087】
図2(B)に示されるように、熱検出素子220に接続される配線(第1配線222ならびに第2配線229)の、支持部材(メンブレン)215の表面上に延在する部分(Q1,Q2)の少なくとも一部は、第1光吸収層270によって覆われている。
【0088】
第1配線222ならびに第2配線229は例えばアルミニウム等の金属で構成されている。金属は一般に熱伝導性にも優れる。よって、第1光吸収層270に覆われた配線部分(支持部材の表面上に延在する部分の少なくとも一部Q1,Q2)は、熱検出素子220から遠い位置で発生した熱を集熱して、熱検出素子220に効率的に伝達する役割も果たす。よって、熱検出素子220の熱検出感度が向上する。
【0089】
図2(B)において、第1配線222および第2配線229によって集熱される熱が、太線の矢印で示されている。図2(B)から明らかなように、第1配線222および第2配線229の、熱検出素子220(焦電キャパシター230)の側面上を通過する部分も第1光吸収層270によって覆われており、よって、この部分においても、集熱効果が期待できる。
【0090】
(熱型光検出器の製造方法の一例について)
以下、図3〜図5を参照して、熱型光検出器の製造方法の一例について説明する。
【0091】
図3(A)および図3(B)は、熱型光検出器の製造方法の一例を示すデバイスの断面図である。図3(A)の工程では、基板20の第1主面上に、多層配線構造129の構成要素である第1絶縁層30、第2絶縁膜40aを積層形成する。
【0092】
基板20には、MOSトランジスターのソース層21と、ドレイン層22が形成されている。基板20の表面にはゲート絶縁膜23が形成されている。ゲート電極24の両サイドには、サイドウオール25が設けられている。ゲート電極24には、例えば配線26が接続される。また、第1絶縁層30の一部には、タングステン(W)等の金属からなるプラグM1が形成される。また、第1絶縁層30上には、Al等からなる第2層目配線M2が形成される。
【0093】
図3(B)の工程では、第2絶縁層40aを、例えばCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)による平坦化処理によって平坦化する。これによって、平坦化された第2絶縁層40が形成される。
【0094】
図4(A)および図4(B)は、熱型光検出器の製造方法の一例を示すデバイスの断面図である。図4(A)の工程は、図3(B)の工程に続く工程である。
【0095】
図4(A)の工程では、第2絶縁層40上に第3絶縁層50を形成し、第3絶縁層50の表面の一部に凹部102を形成し、凹部102の内表面上にエッチングストッパー膜(SiN)130(130a〜130c)を形成した後、凹部102に犠牲層(例えばSiO層)135を埋め込む。
【0096】
次に、図4(B)に示すように、支持部材(メンブレン)215と、熱検出素子220(焦電キャパシター230、第1コンタクト電極226、絶縁層250、第2コンタクト電極228、第1配線222ならびに第2配線229を含む)とを形成し、続いて、第1光吸収層となるSiO層270を形成する。さらに、SiO層270上に第2光吸収層となるSiO層272を形成する。SiO層270の表面を平坦化した後、SiO層272を形成することもできる。この場合、SiO層270とSiO層272との界面(反射界面)RLの平坦性が高まる。
【0097】
ここで、SiO層272およびSiO層272を成膜するにあたって、成膜条件を異ならせて、SiO層272の屈折率が、SiO層270の屈折率よりも高くなるようにする。なお、これは一例であり、材料を異ならせて屈折率に差が生じるようにしてもよい。
【0098】
また、SiO層270の厚み(高さ)はH2であり、SiO層272上の厚み(高さ)はH1である。SiO層270の厚みとSiO層272の厚みとを合算した厚みはH3である。上述のとおり、H1=m・(λ/4)の関係が成立する。また、H3=n・(λ/4)の関係が成立する。
【0099】
また、先に説明した図3(B)の工程にて、CMP等によって第1絶縁層40が平坦化されていることから、第1絶縁層40上に積層して形成される各層の表面も平坦な表面となる。よって、支持部材215の表面、SiO層270とSiO層272とが接する界面RLならびにSiO層272の上面は互いに平行となる。
【0100】
図5は、熱型光検出器の製造方法の一例を示すデバイスの断面図である。図5の工程は、図4(B)の工程に続く工程である。図5の工程では、SiO層270およびSiO層272をパターニングする。これによって、第1光吸収層270および第2光吸収層272が形成される。
【0101】
次に、犠牲層135を除去して空洞部(熱分離空洞)102を形成する。このようにして、2波長に共振する共振器を有する熱型光検出器200が完成する。上述のとおり、第1波長λに対する第1光共振器は、支持部材215の表面と第2光吸収層272の上面との間において形成される。また、第1光吸収層270と第2光吸収層272とが接する界面RL(第2光吸収層272の下面ということもできる)と、第2光吸収層272の上面との間で、第1波長λとは異なる第2波長λに対する第2光共振器が構成される。第1光共振器ならびに第2光共振器は、いわゆるλ/4光共振器である。このλ/4光共振器は、第1光吸収層270および第2光吸収層272の膜厚を調整するだけで構成することができる。よって、熱型光検出器200の構造が複雑化せず、熱型光検出器200の製造が容易である。
【0102】
このように、基板20の主面上に絶縁層を含む構造体(多層配線構造体)130を形成し、構造体130の少なくとも最上層である第3絶縁層50の一部を除去して凹部102を形成し、凹部102の内表面上にエッチングストッパー膜130a〜130cを形成した後、凹部102内に犠牲層135を形成し、続いて、犠牲層135を含む構造体130上に支持部材(メンブレン)215を形成し、支持部材(メンブレン)215上に熱検出素子220を形成し、続いて、熱検出素子220および支持部材(メンブレン)215上において、熱検出素子220に接して第1光吸収層270を形成し、第1光吸収層270上において第1光吸収層270に接して、第1光吸収層270よりも高い屈折率を有する第2光吸収層272を形成することによって、熱型光検出器200を形成することができる。
【0103】
第1光吸収層270の厚みH2と第2光吸収層272の厚みH3とを合算した厚みH1を、m・(λ/4)の関係を満足する厚みとし、また、第2光吸収層272の厚みH3を、n・(λ/4)の関係を満足する厚みとすることによって、容易に2つの光共振器を構成することができる。
【0104】
第1波長λに共振する第1光共振器を構成することによって、第1光吸収層ならびに第2光吸収層における光の実効吸収率が高まる。また、第2波長λに共振する第2光共振器を構成することによって、第2光吸収層における光の実効吸収率が高まる。また、2つの波長の共振ピークが重なることによって、熱型光検出器の検出波長帯域を広げることができる。
【0105】
また、第1光吸収層270と第2光吸収層272の膜厚を調整するだけで、2波長共振器を構成することができる。よって、熱型光検出器の構造が簡単であり、製造が容易である。このように、例えば、半導体製造技術(例えばMEMS技術)を用いて、小型かつ検出感度の高い熱型光検出器200を容易に実現することができる。
【0106】
(第2実施形態)
図6は、本発明の熱型光検出器の他の例の構成を示す図である。図6に示される熱型光検出器の基本的な構造は、図1に示される熱型光検出器の構造と同じである。但し、図6の例では、平面視での第2コンタクト電極228の面積(大きさ)が、焦電キャパシター230を構成する第2電極(上部電極)236の平面視での面積(大きさ)よりも大きく設定されており、この点で、図1の例とは異なる。
【0107】
図6の上側には、図1の例(第1実施形態)における第2コンタクト電極228の平面視における形状と、本実施形態(第2実施形態)における第2コンタクト電極228の平面視における形状と、が示されている。
【0108】
先に説明したように、熱検出素子220は、焦電材料層232を、支持部材215側の第1電極234ならびに第2光吸収層272側の第2電極236によって挟んだ構造をもつ焦電キャパシター230と、第1電極234に接続される第1コンタクト電極226と、第2電極236に接続される第2コンタクト電極228と、を有している。
【0109】
図1の例(第1実施形態)では、第2コンタクト電極228の平面視における面積は、第2電極(上部電極)236の平面視での面積よりも小さい。これに対して、本実施形態(第2実施形態)では、第2コンタクト電極228の平面視における面積を、第2電極(上部電極)236の平面視での面積よりも意図的に大きく設定している。
【0110】
第2コンタクト電極228は、Al等の金属材料で構成されるが、金属材料は一般に熱伝導性にも優れる。よって、第2コンタクト電極228の平面視における面積を、焦電キャパシターの第2電極(上部電極)236の平面視における面積よりも大きくすることによって、第2光吸収層272の広範囲で発生する熱を集熱して、熱検出素子220に効率的に伝達する効果が期待できる。
【0111】
図6では、第2コンタクト電極228によって集熱される熱が、太線の矢印で示されている。よって、本実施形態によれば、熱検出素子220の熱検出感度が向上する。
【0112】
また、図6の熱型光検出器では、第2光吸収層272は第2コンタクト電極228に接して形成されている。よって、第2光吸収層272(第2光共振器)で吸収した熱を、損失少なく熱検出素子に伝達することができる。また、第1光吸収層270の高さH2を、第2コンタクト電極228の高さ位置に揃える(つまり、第1光吸収層の高さH2を、図中のH2’とする)ことが望ましく、この場合、第2光共振器(第2光吸収層)で吸収した熱を、損失少なく、効率的に熱検出素子220に伝達することができる。
【0113】
(第3実施形態)
図7は、熱型光検出装置(熱型光検出アレイ)の回路構成の一例を示す回路図である。図7の例では、複数の光検出セル(すなわち、熱型光検出器200a〜200d等)が、2次元的に配置されている。複数の光検出セル(熱型光検出器200a〜200d等)の中から一つの光検出セルを選択するために、走査線(W1a,W1b等)と、データ線(D1a,D1b等)が設けられている。
【0114】
第1の光検出セルとしての熱型光検出器200aは、熱形光検出素子5としての圧電コンデンサーZCと、素子選択トランジスターM1aと、を有する。圧電コンデンサーZCの両極の電位関係は、PDr1に印加する電位を切り換えることによって反転することができる(この電位反転によって、機械的なチョッパーを設ける必要がなくなる)。なお、他の光検出セルも同様の構成である。
【0115】
データ線D1aの電位は、リセットトランジスターM2をオンすることによって初期化することができる。検出信号の読み出し時には、読み出しトランジスターM3がオンする。焦電効果によって生じる電流は、I/V変換回路510によって電圧に変換され、アンプ601によって増幅され、A/D変換器700によってデジタルデータに変換される。
【0116】
本実施形態では、複数の熱型光検出器が2次元的に配置された(例えば、直交2軸(X軸およびY軸)の各々に沿ってアレイ状に配置された)、熱型光検出装置(熱型光アレイセンサー)が実現される。
【0117】
(第4実施形態)
図8は、電子機器の構成の一例を示す図である。電子機器としては、例えば、赤外線センサー装置、サーモグラフィー装置、車載用夜間カメラや監視カメラ等が挙げられる。
【0118】
図8に示されるように、電子機器は、光学系400と、センサーデバイス410(前掲の実施形態における熱型光検出器200に相当する)と、画像処理部420と、処理部430と、記憶部440と、操作部450と、表示部460と、を含む。なお本実施形態の電子機器は図8の構成に限定されず、その構成要素の一部(例えば光学系、操作部、表示部等)を省略したり、他の構成要素を追加したりする等の種々の変形実施が可能である。
【0119】
光学系400は、例えば1または複数のレンズや、これらのレンズを駆動する駆動部などを含む。そしてセンサーデバイス410への物体像の結像などを行う。また必要であればフォーカス調整なども行う。
【0120】
センサーデバイス410は、上述した本実施形態の光検出器を二次元配列させて構成され、複数の行線(走査線(あるいはワード線))と複数の列線(データ線)が設けられる。センサーデバイス410は、二次元配列された光検出器に加えて、行選択回路(行ドライバー)と、列線を介して光検出器からのデータを読み出す読み出し回路と、A/D変換部等を含むことができる。二次元配列された各光検出器からのデータを順次読み出すことで、物体像の撮像処理を行うことができる。
【0121】
画像処理部420は、センサーデバイス410からのデジタルの画像データ(画素データ)に基づいて、画像補正処理などの各種の画像処理を行う。画像処理部420は、センサーデバイス410(熱型光検出器200)の出力を処理する制御部に相当する。処理部430は、電子機器の全体の制御や電子機器内の各ブロックの制御を行う。この処理部430は、例えばCPU等により実現される。記憶部440は、各種の情報を記憶するものであり、例えば処理部430や画像処理部420のワーク領域として機能する。操作部450は、ユーザが電子機器を操作するためのインターフェースとなるものであり、例えば各種ボタンやGUI(Graphical User Interface)画面などにより実現される。
【0122】
表示部460は、例えばセンサーデバイス410により取得された画像やGUI画面などを表示するものであり、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの各種のディスプレイにより実現される。
【0123】
このように、1セル分の熱型光検出器を赤外線センサー等のセンサーとして用いる他、1セル分の熱型光検出器を直交二軸方向に二次元配置することでセンサーデバイス(熱型光検出装置)410を構成することができ、こうすると熱(光)分布画像を提供することができる。このセンサーデバイス410を用いて、サーモグラフィー、車載用の夜間視認カメラあるいは監視カメラなどの電子機器を構成することができる。
【0124】
先に説明したように、本発明にかかる熱型光検出器は、光の検出感度が高い。よって、この熱型光検出器を搭載する電子機器の性能が高まる。
【0125】
図9は、電子機器の構成の他の例を示す図である。図9の電子機器800は、熱型光検出器200と、加速度検出素子503と、を搭載したセンサーユニット600を有する。センサーユニット600には、さらにジャイロセンサー等を搭載することもできる。センサーユニット600によって、異なる種類の物理量を測定することが可能である。センサーユニット600から出力される各検出信号は、CPU700によって処理される。CPU700は、熱型光検出器200の出力を処理する制御部に相当する。
【0126】
以上説明したように、本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、例えば、熱型光検出器の検出感度を、格段に向上させることができる。
【0127】
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【0128】
また、上述の実施形態では、熱検出素子として、焦電キャパシターが用いられているが、これに代えて、サーモパイル素子やボロメーター素子を用いることもできる。
【符号の説明】
【0129】
20 基板(例えばシリコン基板)、30 第1絶縁層、40 第2絶縁層、
50 第3絶縁層、
100 多層構造体、102 空洞部(熱分離空洞部)、
129 多層配線構造、130a〜130d エッチングストッパー膜、
150 多層構造体、200 熱型光検出器、215 支持部材(メンブレン)、
222 第1配線、226 第1コンタクト電極、228 第2コンタクト電極、
229 第2配線、230 焦電キャパシター、232 焦電材料層(PZT層等)、
234 第1電極(下部電極)、236 第2電極(上部電極)、250 絶縁層、
252、254 第1コンタクトホールおよび第2コンタクトホール、
270 第1光吸収層、272 第2光吸収層、
Q1 第1配線222の、支持部材の表面上に延在する部分、
Q2 第2配線229の、支持部材の表面上に延在する部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に対して空洞部を介して支持される支持部材と、
前記支持部材上に形成されている熱検出素子と、
前記熱検出素子および前記支持部材上において、前記熱検出素子に接して形成されている第1光吸収層と、
前記第1光吸収層上において前記第1光吸収層に接して形成され、かつ、前記第1光吸収層よりも高い屈折率を有する第2光吸収層と、を有し、
前記支持部材の表面と前記第2光吸収層の上面との間で第1波長が共振し、
前記第1光吸収層と前記第2光吸収層とが接する界面と、前記第2光吸収層の上面との間で、前記第1波長とは異なる第2波長が共振することを特徴とする熱型光検出器。
【請求項2】
請求項1記載の熱型光検出器であって、
前記支持部材の表面と、前記第2光吸収層の上面とが平行であり、かつ、
前記第1光吸収層と前記第2光吸収層とが接する界面と、前記第2光吸収層の上面とが平行であり、
前記第1波長をλとしたとき、前記支持部材の表面と第2光吸収層の上面との間の距離がm・(λ/4)(mは1以上の整数)の関係を満足し、
前記第2波長をλとしたとき、前記第1光吸収層と前記第2光吸収層とが接する界面と、前記第2光吸収層の上面との間の距離を、n・(λ/4)(nは1以上の整数)の関係を満足することを特徴とする熱型光検出器。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の熱型光検出器であって、
前記支持部材の表面は、前記第1光吸収層よりも高い屈折率を有する材料層の表面であることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の熱型光検出器であって、
前記支持部材の表面は、光を反射する光反射特性を有する材料層の表面であることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の熱型光検出器であって、
前記熱検出素子に接続される配線の、前記支持部材の表面上に延在する部分の少なくとも一部は、前記第1光吸収層によって覆われていることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の熱型光検出器であって、
前記熱検出素子は、焦電材料層を、前記支持部材側の第1電極ならびに前記第2光吸収層側の第2電極によって挟んだ構造をもつ焦電キャパシターと、前記第1電極に接続される第1コンタクト電極と、前記第2電極に接続される第2コンタクト電極と、を有し、
前記第2コンタクト電極の平面視における面積は、前記第2電極の平面視における面積よりも大きいことを特徴とする熱型光検出器。
【請求項7】
請求項6に記載の熱型光検出器であって、
前記第2光吸収層は前記第2コンタクト電極に接して形成されることを特徴とする熱型光検出器。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の熱型光検出器が複数、2次元配置されていることを特徴とする熱型光検出装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の熱型光検出器と、前記熱型光検出器の出力を処理する制御部と、を有することを特徴とする電子機器。
【請求項10】
基板の主面上に絶縁層を含む構造体を形成し、前記構造体の少なくとも最上層の一部を除去して凹部を形成し、前記凹部の内表面上にエッチングストッパー膜を形成した後、前記凹部内に犠牲層を形成する工程と、
前記犠牲層を含む前記構造体上に支持部材を形成し、前記支持部材上に熱検出素子を形成する工程と、
前記熱検出素子および前記支持部材上において、前記熱検出素子に接して第1光吸収層を形成する工程と、
前記第1光吸収層上において前記第1光吸収層に接して、前記第1光吸収層よりも高い屈折率を有する第2光吸収層を形成する工程と、を含み、
前記第1光吸収層の厚みと前記第2光吸収層の厚みとを合算した厚みを、第1波長をλとしたとき、m・(λ/4)(mは1以上の整数)の関係を満足する厚みとし、
前記第2光吸収層の厚みを、第2波長をλとしたとき、n・(λ/4)(nは1以上の整数)の関係を満足する厚みとすることを特徴とする熱型光検出器の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−154685(P2012−154685A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12060(P2011−12060)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】