説明

熱拡散材料およびその製造方法

【課題】金属焼結体中に微細炭素繊維が粉砕されずに繊維の形状を維持したまま均一に分散した、発熱体の熱を効果的に放散することができる熱拡散材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属焼結体のマトリックス中に微細炭素繊維が均一に分散されてなる熱拡散材料、ならびに、(A)微細炭素繊維の分散液を作製する工程、(B)前記金属焼結体を構成する金属材料からなる金属粒子の表面に有機系の官能基を導入する工程、(C)前記分散液に前記官能基が導入された金属粒子を添加し、前記金属粒子の表面に前記官能基を介して前記微細炭素繊維が吸着した複合粒子を作製する工程、および(D)前記複合粒子を焼結する工程を有する上記熱拡散材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱拡散材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気、機械を取り扱う際には、放熱の問題は常につきまとう。従来、例えばパソコンのCPUを冷却するには、熱伝導性の良い金属材料で作製したヒートシンクを用いた放熱がなされている。
近年、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)やマイクロプロセッサ(MPU)等の電子素子は、高出力化、性能向上に伴い、発熱量が急激に増加している。一方で、小型化に伴い機器内部が高密度化しており、熱を機器内部から外部へと有効に除去することが機器の信頼性の観点から必要となる。
【0003】
また近年、IGBT等の電力制御装置において、半導体素子を既存のSi系半導体から、SiC半導体へと置き換える動きが進んでいる。SiC半導体は、Si系の半導体と比べ、高いバンドギャップ(ワイドギャップ)と絶縁破壊強度を持つ。このSiC半導体を電力制御素子として利用することで、高温動作や低損失化等、特性の大幅な向上を図ることができる。また効率や耐圧の高さから、素子の小型化や、冷却装置の簡略化等により、機器の小型化が図れる。しかし小型化は、素子からの局所的な発熱密度の増大を意味するため、実装基板や放熱部材には、この局所的な発熱を効果的に拡散する熱拡散材料が必要となる。
【0004】
このような材料の熱の拡散性を示す物性値は熱拡散率である。材料の熱伝導率(W/m・K)を、材料の比熱容量(J/kg・K)と密度(kg/m)で除した値で、熱の伝わりやすさを示す指標となる。既存のSi系素子における放熱基板材料として、銅とモリブデンもしくはタングステン等の複合材料が使用されている。熱膨張係数をSi半導体素子と近づけるため、低熱膨張係数を有する金属であるモリブデンといタングステンが使用されている。モリブデンやタングステンの熱伝導率は、銅の3割から4割程度であり、密度も大きいため、熱拡散率が小さくなる。銅−タングステン、銅−モリブデンの複合材料の熱伝導率は200〜230W/m・K程度であるが、SiC半導体等のワイドギャップ半導体においては、少なくとも250W/m・Kを超える熱伝導率が必要であると言われている。このため、熱拡散率や熱膨張係数の観点から、銅と複合化する材料として、既存の複合材料において使用されるモリブデンやタングステン以上の熱伝導率を有し、比熱容量や密度が低い材料が必要になる。また、熱膨張係数の観点からも、タングステンやモリブデンと同程度もしくはそれ以下の値を持つ材料とすることが望ましい。
【0005】
タングステンやモリブデンに替わって銅と複合化する材料として、カーボンナノチューブ(CNT)や気相成長炭素繊維(VGCF)等の微細な炭素材料が好適である。これらの材料は、1000W/m・K以上の熱伝導率を持つことが予測され、また密度も低い。熱膨張係数も長さの方向にはほぼ0であるという特徴がある。
カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維の複合材を作製するにあたっての課題はその分散性である。CNTやVGCF等は、表面エネルギーが高く微細なことから複合化の際に凝集しやすい。カーボン材料が凝集した部分が多くなると、複合化による熱伝導率の向上は望めない。高熱拡散材料作製のためには、複合化における凝集を抑え、分散性を向上させる必要がある。
【0006】
金属と微細カーボン材料を複合化する方法として粉末冶金法がある。粉末冶金法においては、材料調整として金属粉と微細カーボン材料を、遊星ボールミル等を用い、混合粉末を作製する。遊星ボールミル等による強力な機械的外力のもとで混合することで、金属粉に微細カーボン材料が埋め込まれた複合粉末を作製することができる。このような、微細カーボン材料が金属粉に埋め込まれた複合粒子を焼結することで、複合材料とする微細カーボン材料の凝集を抑えた複合材料を得ることができる。
しかしながら、このような方法では、複合化と同時にカーボン材料が粉砕されてしまう。CNTやVGCF等の微細カーボン材料の高い熱伝導率は、炭素原子の六員環構造によっているため、粉砕により構造の乱れた微細炭素材料では複合化による熱拡散率の向上が損なわれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「カーボンナノチューブ・銅複合焼結材料の開発」、P27−30、東京都立産業技術研究所研究報告、第8号(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、金属焼結体中に微細炭素繊維が粉砕されずに繊維の形状を維持したまま均一に分散した、発熱体の熱を効果的に放散することができる熱拡散材料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の熱拡散材料は、金属焼結体のマトリックス中に微細炭素繊維が均一に分散されてなることを特徴とする。
また、下記(A)〜(D)工程を有する上記実施形態の熱拡散材料の製造方法を提供する。
(A)微細炭素繊維の分散液を作製する工程、
(B)前記金属焼結体を構成する金属材料からなる金属粒子の表面に有機系の官能基を導入する工程、
(C)前記分散液に前記官能基が導入された金属粒子を添加し、前記金属粒子の表面に前記官能基を介して前記微細炭素繊維が吸着した複合粒子を作製する工程、
(D)前記複合粒子を焼結する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い熱拡散性と、低熱膨張係数を持つ熱拡散材料を提供するこができる。また、本発明の製造方法によれば、金属材料中にCNTやVGCF等の微細炭素繊維材料を、その凝集を抑えながらかつこれらが粉砕されることなく均一に分散させることで、複合化することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の熱拡散材料は、金属焼結体のマトリックス中に微細炭素繊維が均一に分散されてなることを特徴とする。
本実施形態の熱拡散材料がマトリックスとして含有する金属焼結体を構成する金属材料としては、25℃における熱伝導率が100〜420W/m・Kである金属材料が好ましく、230〜430W/m・Kである金属材料がより好ましい。金属材料の熱伝導率が100W/m・K未満では熱拡散性が不十分になるおそれがある。このように、用いる金属材料を熱伝導率の高い材料とすることで、熱拡散材料における熱拡散率を向上させることができる。ここで、以下、本明細書において熱伝導率は特に断りのない限り25℃における熱伝導率をいうものとする。
【0012】
熱伝導率が上記範囲にある金属として具体的には、銅、アルミニウム、および、銅またはアルミニウムを主体とする合金等が挙げられる。銅を主体とする合金において銅と組み合わせる金属としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、ベリリウム等から選ばれる1種以上が挙げられる。また銅合金における銅とそれ以外の金属の含有割合としては、熱伝導率が上記範囲にあれば特に制限されず、例えば、組み合わせる金属にもよるが、銅が80〜99.9原子%であり、その他の金属が0.1〜20原子%である含有割合が好ましく、銅が95〜99.9原子%であり、その他の金属が0.1〜5原子%である含有割合がより好ましい。
【0013】
また、アルミニウムを主体とする合金においてアルミニウムと組み合わせる金属としては、銅、マグネシウム、ケイ素、亜鉛、マンガン等から選ばれる1種以上が挙げられる。またアルミニウム合金におけるアルミニウムとそれ以外の金属の含有割合としては、熱伝導率が上記範囲にあれば特に制限されず、例えば、組み合わせる金属にもよるが、アルミニウムが80〜99.9原子%であり、その他の金属が0.1〜20原子%である含有割合が好ましく、アルミニウムが95〜99.9原子%であり、その他の金属が0.1〜5原子%である含有割合がより好ましい。
これらの金属材料のうちでも本発明においては、純度99%以上の純銅、純アルミニウムやアルミニウム,マグネシウム,ケイ素からなる合金が好ましい。
【0014】
本実施形態の熱拡散材料が上記金属焼結体のマトリックス中に均一に分散された微細炭素繊維としては、25℃における熱伝導率が、上記金属の熱伝導率より大きいことが好ましい。このような微細炭素繊維として、具体的には、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)等が挙げられる。
微細炭素繊維の熱伝導率は、これが分散される金属焼結体マトリックスの構成金属材料の熱伝導率より大きければ特に制限されないが、400〜3000W/m・Kであること好ましく、1000〜3000W/m・Kであることがより好ましい。また、微細炭素繊維の25〜1000℃における熱膨張係数は、1〜0.5×10−6/℃であることが好ましい。
【0015】
また、微細炭素繊維は単層構造であっても多層構造であってもよい。微細炭素繊維の大きさとしては、直径0.5〜100nm、長さ0.1〜10μm程度が好ましく、直径0.5〜50nm、長さ1〜10μm程度がより好ましい。また、熱拡散材の機械的特性の観点からヤング率1.0TPa、引張り強度1〜10GPa程度の機械的特性を有することが好ましい。
【0016】
微細炭素繊維としては、アーク放電法やレーザーアブレーション法により作製された材料が、炭素原子の結晶性が高く、熱伝導率の点で好ましい。CVD等炭化水素の熱分解等により得られる微細炭素材料では、上記の方法に比べ、生成温度が低いため、結晶性を向上させる処理を施すことが好ましい。このような処理としては、例えば、2000℃程度の温度で黒鉛化処理を行い、結晶性を向上させ、より高い熱伝導率を発揮するように改質することが好ましい。
【0017】
このように高熱伝導率、低熱膨張係数の微細炭素繊維を細断することなく金属焼結体マトリックス中に均一に分散させることにより、発熱体の熱を効果的に放散することができる高熱拡散性の熱拡散材料とすることができる。ここで、本実施形態の熱拡散材料における微細炭素繊維と金属焼結体の含有量の割合は、金属焼結体100質量部に対して、微細炭素繊維が10〜50質量部の割合であることが好ましく、30〜50質量部の割合がより好ましい。金属焼結体100質量部に対する微細炭素繊維の割合が10質量部未満では、十分に高い熱拡散性が得られないことがあり、50質量部を超えると熱拡散材料の靭性低下のおそれがある。
【0018】
本実施形態の熱拡散材料においては、上記金属焼結体のマトリックス中に微細炭素繊維が均一に分散された構成を有することで、熱伝導率を概ね300〜800W/m・Kとすることができる。本実施形態の熱拡散材料における熱伝導率は、400〜800W/m・Kであることがより好ましい。また、本実施形態の熱拡散材料においては、25〜100℃における熱膨張係数を概ね5〜10×10−6/℃とすることができ、熱膨張係数は好ましくは7〜8×10−6/℃である。さらに、本実施形態の熱拡散材料においては、熱拡散率を概ね1.0〜5.0×10−4/sとすることができ、熱拡散率は好ましくは3.0〜5.0×10−4/sである。
このような本実施形態の熱拡散材料は、半導体素子の局所的な発熱を緩和する熱拡散材料として好適に使用できる。
【0019】
本実施形態の熱拡散材料は、例えば、マトリックスとしての金属焼結体を焼結法等の粉末冶金法により形成させる際に、原料金属粒子の表面に微細炭素繊維を吸着させた状態で焼結することにより製造することができる。具体的には、本実施形態の熱拡散材料は、下記(A)〜(D)工程を有する本発明の製造方法により製造することができる。
(A)微細炭素繊維の分散液を作製する工程(以下「分散液作製工程」という)、
(B)前記金属焼結体を構成する金属材料からなる金属粒子の表面に有機系の官能基を導入する工程(以下「官能基導入工程」という)、
(C)前記分散液に前記官能基が導入された金属粒子を添加し、前記金属粒子の表面に前記官能基を介して前記微細炭素繊維が吸着した複合粒子を作製する工程(以下「複合粒子作製工程」という)、
(D)前記複合粒子を焼結する工程(以下「焼結工程」という)。
【0020】
このように本発明の製造方法においては、金属粒子表面に微細炭素繊維を吸着させた複合粒子を作製し、得られた複合粒子をこの状態で焼結することにより、金属焼結体のマトリックス中に微細炭素繊維が均一に分散されてなる本実施形態の熱拡散材料の製造を実現化している。金属粒子表面に微細炭素繊維を吸着させた複合粒子を用いることで、複合材料中での微細炭素繊維同士の凝集が抑制され、さらに微細炭素繊維が細断されることなく、焼結金属と微細炭素繊維が均一に混合した複合材料としての熱拡散材料を製造することが可能となる。これにより、高い熱伝導率ひいては高い熱拡散性を有する本実施形態の熱拡散材料を得ることができる。以下、上記各工程について説明する。
【0021】
(A)分散液作製工程
本発明の製造方法において、金属粒子の表面に微細炭素繊維を吸着させるために、まず、微細炭素繊維を分散媒中に分散させた分散液を作製する。分散液作製に用いる微細炭素繊維は上記の通りである。分散させる分散媒としては、これら微細炭素繊維を均一に分散できる分散媒であれば、特に制限されず、水、各種有機溶媒等が挙げられる。これらのうちでも、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール等が好ましい。用いる分散媒の量としては、微細炭素繊維100質量部に対して、500〜1000質量部が好ましい。
【0022】
ここで、上記微細炭素繊維は、通常、材料自身の凝集性が高いことから安定した分散液を調製するためには、分散性を向上するための各種方法を用いることが好ましい。微細炭素繊維の分散性を向上させる方法としては、例えば、硝酸水溶液で微細炭素繊維に酸処理を施す、もしくは界面活性剤等を利用して溶媒中での分散性を付与する等の方法が挙げられる。界面活性剤として具体的には、硫酸ドデシルナトリウム等が挙げられる。
【0023】
また、分散液の状態にて市販されている微細炭素繊維を利用することができ、本実施形態の熱拡散材料を作製するにたる上記熱伝導率を有する微細炭素繊維であることが既知であれば、市販の分散液を使用してもよい。
【0024】
(B)官能基導入工程
この工程では、本発明の金属焼結体を構成する金属材料からなる金属粒子を準備し、その表面に上記微細炭素繊維を吸着させるための有機系の官能基を導入する。金属粒子を構成する金属材料は上記の通りである。金属粒子の形状は、特に限定されず、球状、樹枝形状等の粒子が使用可能である。
【0025】
金属粒子の平均粒子径としては、上記微細炭素繊維の直径と大きさをできるだけ合わせる観点から、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定される平均粒子径として、100〜3000nm、が好ましく,100〜1000nmであることがより好ましい。本明細書において、金属粒子の平均粒子径とは、特に断りのない限り走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定される平均粒子径をいう。このようなサブミクロンオーダーの粒子径を有する金属粒子を用いることで、以下の(C)複合粒子作製工程において、上記微細炭素繊維と金属粒子が均一に混合されて、金属粒子表面に微細炭素繊維が均一に吸着した複合粒子を得ることができる。
【0026】
このような粒子径の金属粒子は、上記用いる金属材料毎に従来から知られる方法で製造することができる。例えば、金属材料として銅を用いる場合には、硫酸銅等を電気分解することにより得られる電解銅粉を用いることができる。
【0027】
ついで、上記準備された金属粒子の表面に、上記微細炭素繊維を吸着させるために有機系の官能基を導入する。このような官能基としては、微細炭素繊維が吸着可能な官能基であれば特に制限されないが、具体的には、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等が挙げられる。これらの中でもアミノ基が好ましい。アミノ基としては、1級または2級のアミノ基が好ましい。官能基としてアミノ基を用いると、次の(C)工程において、微細炭素繊維が細断されることなくその十分な量が、金属粒子表面上のアミノ基に吸着・凝集されるため、最終的に得られる熱拡散材料において、高い熱拡散性を発揮することが可能となる。
【0028】
金属粒子の表面にこのような官能基を導入する方法としては、このような官能基と金属粒子表面に直接結合または吸着する分子構造とを有する化合物を、所定の条件下で十分に混合し吸着または反応させることで金属粒子の表面に該化合物の金属粒子表面に直接結合または吸着する分子構造部分を結合または吸着させる方法が挙げられる。このような化合物として具体的には、アミノ基を有する有機基とアルコキシル基がケイ素原子に結合した例えば下記式(1)に示されるシランカップリング剤等のケイ素化合物が挙げられる。
【0029】
(HRN−RSiR(OR4−m−n …(1)
ここで、式(1)中、Rは炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基、Rは炭素数1〜3のNH基を主鎖上に含んでいてもよい2価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基、Rは水素原子または炭素数1〜3の1価炭化水素基であり、mは1または2、nは0または1であり、m+nは1または2である。
【0030】
上記式(1)で示されるシランカップリング剤として、具体的には、下記式(1a)で示される3−アミノプロピルトリメトキシシランや、下記式(1b)で示されるN−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
N−(CH−Si−(O−CH …(1a)
N−(CH−NH−(CH−Si−(O−CH …(1b)
【0031】
このようなアミノ基とアルコキシル基を有するシランカップリング剤においては、−ORで示されるアルコキシル基、上記式(1a)、(1b)においてはメトキシ基が、水分により加水分解され、シランカップリング剤同士が部分的に縮合すると同時に、金属粒子表面にもOH基を介して水素結合的に吸着する。その後、これを乾燥処理することで脱水縮合反応により金属粒子表面にシランカップリング剤がその縮合物として固定される。アミノ基はこの反応には関与せず、これによりアミノ基を表面に有する金属粒子が作製できる。
【0032】
金属粒子への有機系の官能基、好ましくはアミノ基の導入量としては、金属粒子に該官能基を介して十分な量の微細炭素繊維が吸着できる量であればよく、例えば、有機系の官能基を導入するための化合物として、3−アミノプロピルトリメトキシシランや、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤を用いた場合には、金属粒子100質量部に対して、1〜10質量部のアミノ基含有シランカップリング剤を用いて表面修飾することが好ましい。金属粒子100質量部に対する、アミノ基含有シランカップリング剤の量が1質量部未満では、金属粒子表面に十分な量のアミノ基が導入できず、結果として得られる熱拡散材料の熱拡散性が十分に向上されないことがあり、10質量部を超えると炭素繊維の吸着を阻害することがある。
【0033】
また、有機系の官能基を導入するための化合物として、上記アミノ基含有シランカップリング剤を用いた場合の具体的な官能基の導入方法としては以下の方法が挙げられる。すなわち、金属粒子とアミノ基含有シランカップリング剤を上記割合となるように秤量したものを合わせ、これに水をアミノ基含有シランカップリング剤1〜2質量部に対して100質量部となるように加え撹拌する。溶媒は水に限るものではなく、アセトン、アルコール等の有機系溶媒の使用も可能である。溶媒を乾燥させ,80℃〜100℃で6〜12時間焼成することにより、表面にアミノ基が導入された金属粒子が得られる。
【0034】
(C)複合粒子作製工程
ついで、上記(A)工程で調製した微細炭素繊維の分散液に上記(B)工程で官能基が導入された金属粒子を添加し、前記金属粒子の表面に前記官能基を介して前記微細炭素繊維が吸着した複合粒子を作製する。
微細炭素繊維の分散液と官能基が導入された金属粒子の配合割合としては、金属粒子100質量部に対する微細炭素繊維の割合が、上記本実施形態の熱拡散材料の金属焼結体100質量部に対する微細炭素繊維の割合と同様となる割合が挙げられる。
【0035】
金属粒子表面の上記官能基に上記微細炭素繊維を吸着、凝集させるためには、微細炭素繊維の分散液と官能基が導入された金属粒子を上記所定の量となるように秤量し、これらを混合撹拌することで行われる。撹拌条件としては、用いる微細炭素繊維が細断されない条件が採用される。例えば、超音波分散等により微細炭素繊維に剪断応力がかからない状態で撹拌する方法が挙げられる。このような撹拌により、個々の金属粒子の表面に微細炭素繊維が粉砕や細断されることなく均一に吸着された複合粒子が得られる。
【0036】
(D)焼結工程
上記(C)工程で得られた複合粒子を粉末冶金法により焼結し一体化することで、熱拡散材料とすることができる。焼結の方法としては固相焼結法や液相焼結法等が使用できるが、より好ましくは、焼結後の材料の熱伝導率や強度の観点からホットプレス法やパルス通電焼結法といった、より高い焼結密度が得られる手法によることが好ましい。特に、金属粒子として、炭素と固溶体を形成し難い銅を用いる場合にはこれらの手法が効果的である。
【0037】
焼結温度、圧力、時間は、用いる金属粒子の金属材料の種類による。例えば、銅の場合、300℃〜700℃,5〜300MPa、1〜5時間が好ましく,500℃〜600℃、200MPa以上、1〜2時間がより好ましい。アルミニウムの場合、400℃〜600℃、5〜120MPa、1〜5時間が好ましく、500℃〜550℃、100MPa以上、1〜2時間がより好ましい。その他の金属や合金の焼結においても、通常これらを金属粒子の状態から焼結体とする際に用いられる焼結条件をそのまま適用することが可能である。
【0038】
このようにして、金属焼結体のマトリックス中に微細炭素繊維が均一に分散されてなる本実施形態の熱拡散材料が得られる。
本発明の製造方法によれば、金属粒子と微細炭素繊維の複合粒子作製過程において、微細炭素繊維の粉砕や細断を起こさず複合化することができ、これを通常の方法で焼結することによって、微細炭素繊維の特性を十分に活かした、高い熱拡散性を有する熱拡散材料を得ることができる。
【0039】
なお、このようにして得られる本実施形態の熱拡散材料においては、微細炭素繊維は原料として添加した際の形状を留めて均一に金属焼結体のマトリックス中に分散しており、金属焼結体のマトリックス中に微細炭素繊維のネットワークが形成されたような構造が得られていると考えられる。
【0040】
ここで、上記(A)工程〜(D)工程を有する本実施形態の熱拡散材料の製造方法においては、さらに、(C)工程と(D)工程の間に、前記複合粒子の表面に、金属皮膜、好ましくは前記金属粒子と同種の金属材料からなる金属皮膜を形成する工程を有することが好ましい。
これは、熱拡散材料において微細炭素繊維の配合比が多くなると、複合粒子においては、金属粒子の表面全体が微細炭素繊維に被覆されてしまい、焼結時における成型過程や焼結性そのものに影響を与えることがあることに対応するための処理である。
【0041】
このようにして、複合粒子の表面に、金属皮膜、好ましくは金属粒子と同種の金属材料からなる金属皮膜を形成する表面処理を施すことで、焼結時における成型過程や焼結性への好ましくない影響を排除することができる。
金属皮膜の構成金属材料は、必ずしも金属粒子と同種の金属材料でなくてもよいが、金属皮膜の構成金属と金属粒子の構成金属の焼結温度が近い金属同士の組合せとすることが好ましく、より好ましくは金属粒子と同様の金属材料である。
表面処理の方法としては、無電解メッキ法が処理性、コストの点から有利である。例えば、銅粒子を使用する場合には、同種の金属を用いた銅メッキ処理を施すことが好ましい。金属皮膜の厚さとしては100〜1000nmが好ましく、500〜600nmがより好ましい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属焼結体のマトリックス中に微細炭素繊維が均一に分散されてなる熱拡散材料。
【請求項2】
25℃における前記微細炭素繊維の熱伝導率が、前記金属の熱伝導率より大きい請求項1記載の熱拡散材料。
【請求項3】
下記(A)〜(D)工程を有する請求項1または2に記載の熱拡散材料の製造方法。
(A)微細炭素繊維の分散液を作製する工程、
(B)前記金属焼結体を構成する金属材料からなる金属粒子の表面に有機系の官能基を導入する工程、
(C)前記分散液に前記官能基が導入された金属粒子を添加し、前記金属粒子の表面に前記官能基を介して前記微細炭素繊維が吸着した複合粒子を作製する工程、
(D)前記複合粒子を焼結する工程。
【請求項4】
さらに、(C)工程と(D)工程の間に、前記複合粒子の表面に、前記金属粒子と同種の金属材料からなる金属皮膜を形成する工程を有する請求項3記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−241255(P2012−241255A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114602(P2011−114602)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】