説明

熱線遮蔽ポリカーボネートシート、熱線遮蔽ポリカーボネートシート積層体および熱線遮蔽ポリカーボネートシートの製造方法

【課題】優れた可視光線透過能を維持しつつ、波長800〜2500nmの熱線(近赤外線)を吸収することで高い熱線遮蔽能を発揮しながらも、高コストの物理成膜法を用いずに簡便な方法で製造出来る、熱線遮蔽機能を有する様々な形状を実現出来るポリカーボネートシートを提供する。
【解決手段】熱線遮蔽成分として、少なくとも6ホウ化ランタン微粒子とアンチモン添加酸化錫微粒子とを含み、当該6ホウ化ランタン微粒子とアンチモン添加酸化錫微粒子との重量比が、2/100≦6ホウ化ランタン微粒子/アンチモン添加酸化錫微粒子≦15/100の範囲であり、熱分解温度が230℃以上のアクリル主鎖を有する高耐熱性分散剤を含み、当該高耐熱性分散剤と熱線遮蔽成分との重量比が、0.5≦分散剤/熱線遮蔽成分≦10の範囲である熱線遮蔽ポリカーボネートシートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱線遮蔽材に関し、さらに詳しくは、可視光透過性が良好で熱線遮蔽性に優れ、かつ耐衝撃性に優れた熱線遮蔽機能を有するポリカーボネートシートに関するものである。本発明に係る熱線遮蔽機能を有するポリカーボネートシートは、テニスコートやプールの屋根材や壁材、アーケード、天井ドーム等として板状、フィルム状、曲面状、球面状等さまざまな形態で活用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、各種建築物や車両の窓、ドア等のいわゆる開口部分から入射する太陽光線には、可視光線の他に紫外線や赤外線が含まれている。この太陽光線に含まれている赤外線のうち波長800〜2500nmの近赤外線は「熱線」と呼ばれ、暑さの原因であり、開口部分から侵入することにより室内の温度を上昇させる原因になる。そこで近年、各種建築物や車両の窓材等の分野では、可視光線を十分に取り入れながら熱線を遮蔽することで、室内の明るさを維持しつつ温度上昇を抑制する熱線遮蔽材の需要が急増しており、熱線遮蔽材に関する特許が提案されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には透明樹脂フィルムに金属を蒸着してなる熱線反射フィルムをガラス、アクリル板、ポリカーボネート板等の透明基材に接着した熱線遮蔽板が提案されている。
また特許文献1の他にも、透明基材表面に金属または金属酸化物を直接蒸着してなる熱線遮蔽板が数多く提案されている。
この他、たとえば特許文献2および特許文献3にはアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の透明樹脂に熱線反射能を有する粒子を練り込んだ熱線遮蔽板が提案されている。
【0004】
また、本発明者らは特許文献4および特許文献5として、熱線遮蔽成分として6ホウ化物微粒子単独、または、6ホウ化物微粒子とITO微粒子または/およびATO微粒子とを、各種バインダーに含有させた熱線遮蔽用塗布液、およびこの塗布液を各種基材に塗布後、硬化して得られる熱線遮蔽膜を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−277437号公報
【特許文献2】特開平5−78544号公報
【特許文献3】特開平2−173060号公報
【特許文献4】特開2000−96034公報
【特許文献5】特開2000−169765公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された反射フィルムは、反射フィルム自体が非常に高価であるばかりでなく、接着工程等の煩雑な工程を要するので製造コストも高コストとなる。また、透明基材と反射フィルムとの接着性が弱く、経時変化によりフィルムの剥離が生じるといった欠点を有している。
また特許文献1の他であって、透明基材表面に金属または金属酸化物を直接蒸着してなる熱線遮蔽板も、製造に際して高真空や精度の高い雰囲気制御が必要な装置を使用する必要があり、量産性が悪く汎用性に乏しい。
【0007】
特許文献2および特許文献3に記載された熱線遮蔽板では、熱線遮蔽能を高めるために熱線反射粒子を多量に添加する必要がある。しかし、熱線反射粒子の配合量を増大すると可視光線透過能が低下してしまう。一方、熱線反射粒子の添加量を少なくすると可視光線透過能は高まるものの熱線遮蔽能が低下してしまう。結局、熱線遮蔽能と可視光線透過能を同時に満足させることが困難である。しかも熱線反射粒子を多量に配合すると、基材である透明樹脂の物性、殊に耐衝撃強度や靭性が低下するという強度面からの問題も指摘された。
【0008】
特許文献4および特許文献5に記載された本発明者等の発明は、主に板状、シート状、フィルム状の平面状基材への塗布を目的とするものである。この為、曲面状、球面状等の複雑な形状の基材への塗布は、必ずしも容易とは言えなかった。勿論、平面基材に塗布した後、様々な形状に加工することは可能であるが、選択するバインダーと基材の組み合わせによっては、熱線遮蔽膜と基材との密着性が問題となり、ある程度制限を受けるものであった。さらに、6ホウ化ランタン化合物は、水と反応し分解するため、耐水性に問題があり、選択するバインダーによっては、空気中の水分の影響を受け、熱線遮蔽膜の性能が徐々に劣化するという課題があった。
【0009】
本発明は上述の様な状況下でなされたものであって、その解決しようとする課題は、優れた可視光線透過能を維持しつつ、波長800〜2500nmの熱線(近赤外線)を吸収することで高い熱線遮蔽能を発揮しながらも、高コストの物理成膜法を用いずに簡便な方法で製造出来る、熱線遮蔽機能を有する様々な形状を実現出来るポリカーボネートシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解を解決する為、本発明者らは鋭意研究を行ない、熱線遮蔽成分として6ホウ化ランタン微粒子とアンチモン添加酸化錫微粒子を選択し、熱分解温度が230℃以上のアクリル主鎖を有する高耐熱性分散剤を用い、高耐熱性分散剤と熱線遮蔽成分との重量比を所定範囲内とし、ポリカーボネート中に分散させることで、優れた光学特性と熱線遮蔽機能とを有し、且つ様々な形状を実現出来るポリカーボネートシートを得ることが出来ることを知見し本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明に係る第1の構成は、
熱線遮蔽成分が分散されたポリカーボネートシートであって、
熱線遮蔽成分として、少なくとも6ホウ化ランタン微粒子とアンチモン添加酸化錫微粒子とを含み、当該6ホウ化ランタン微粒子とアンチモン添加酸化錫微粒子との重量比が、2/100≦6ホウ化ランタン微粒子/アンチモン添加酸化錫微粒子≦15/100の範囲であり、
熱分解温度が230℃以上のアクリル主鎖を有する高耐熱性分散剤を含み、当該高耐熱性分散剤と熱線遮蔽成分との重量比が、0.5≦分散剤/熱線遮蔽成分≦10の範囲であることを特徴とする熱線遮蔽ポリカーボネートシートである。
第2の構成は、
前記熱線遮蔽成分が、平均粒径200nm以下の微粒子であることを特徴とする第1の構成に記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートである。
第3の構成は、
前記高耐熱性分散剤が、COOH基を有するものであることを特徴とする第1または第2の構成に記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートである。
第4の構成は、
ポリカーボネートシートの少なくとも一方の面に、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収皮膜が形成されていることを特徴とする第1から第3の構成のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートである。
第5の構成は、
第1から第3の構成のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートと、他のシートとが積層されているものであることを特徴とする熱線遮蔽ポリカーボネート積層体である。
第6の構成は、
前記熱線遮蔽ポリカーボネート積層体の少なくとも1層のシートが、紫外線吸収剤を含有するシートまたは紫外線吸収剤を含有する皮膜が形成されているシートであることを特徴とする第5の構成に記載の熱線遮蔽ポリカーボネート積層体である。
第7の構成は、
前記紫外線吸収剤が酸化亜鉛であることを特徴とする第4から第6の構成のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートまたは熱線遮蔽ポリカーボネートシート積層体である。
第8の構成は、
熱線遮蔽成分として少なくとも6ホウ化ランタン微粒子とアンチモン添加酸化錫微粒子が分散された熱線遮蔽ポリカーボネートシートの製造方法であって、
6ホウ化ランタン微粒子と、熱分解温度が230℃以上のアクリル主鎖を有する高耐熱性分散剤とを溶媒に加えて粉砕・分散処理を行い、6ホウ化ランタン微粒子分散液を得る工程と、
当該6ホウ化ランタン微粒子分散液から、溶媒を除去して、6ホウ化ランタン微粒子分散粉を得る工程と、
アンチモン添加酸化錫微粒子と、熱分解温度が230℃以上のアクリル主鎖を有する高耐熱性分散剤とを溶媒に加えて粉砕・分散処理を行い、アンチモン添加酸化錫微粒子分散液を得る工程と、
当該アンチモン添加酸化錫微粒子分散液から、溶媒を除去して、アンチモン添加酸化錫微粒子分散粉を得る工程と、
得られた6ホウ化ランタン微粒子分散粉と、アンチモン添加酸化錫微粒子分散粉と、ポリカーボネート樹脂ペレットとを混合し、熔融混練し、成形して高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを得る工程と、
得られた高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチと、ポリカーボネート樹脂ペレットとを熔融混練した後に成形する工程とを、具備することを特徴とする熱線遮蔽ポリカーボネートシートの製造方法である。
第9の構成は、
前記高耐熱性分散剤が、COOH基を有するものであることを特徴とする第8の構成に記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートの製造方法である。
第10の構成は、
前記熱線遮蔽ポリカーボネートシートの少なくとも一方の面に、紫外線吸収皮膜を形成することを特徴とする第8または第9の構成に記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートは、高コストの物理成膜法や複雑な工程を用いず、且つ、様々な形状に製造可能なことに加えて、熱線遮蔽成分として、1000nm付近の近赤外領域に強い吸収を持つ6ホウ化ランタン微粒子と、1500nm以上の赤外領域に吸収を持つアンチモン添加酸化錫(本発明において「ATO」と記載する場合がある。)微粒子とを併せてポリカーボネート樹脂に分散させており、可視光域に高い透過性能を有しながら、優れた熱線遮蔽機能を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートは、6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子とを、ポリカーボネート樹脂中へ均一に分散させて作製される。
以下、発明を実施するための形態について、(1)6ホウ化ランタン微粒子、(2)ATO微粒子、(3)6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子との混合使用、(4)高耐熱性分散剤、(5)高耐熱性分散剤と熱線遮蔽成分との重量比、(6)ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子と高耐熱性分散剤とが分散した分散液、(7)ポリカーボネート樹脂、(8)ポリカーボネート樹脂への熱線遮蔽成分の分散方法、(9)本発明に係るポリカーボネート樹脂シートの成形方法、(10)本発明に係るポリカーボネート樹脂シートへの紫外線遮蔽効果の付与、の順に詳細に説明する。
【0014】
(1)6ホウ化ランタン微粒子
本発明に使用される熱線遮蔽成分である6ホウ化ランタン微粒子は、当該微粒子の表面が酸化していないことが好ましい。しかし、通常は微粒子の表面が僅かに酸化している場合が多く、また微粒子の分散工程において微粒子表面の酸化が起こることはある程度避けられない。尤も、当該微粒子の表面が酸化していた場合でも、当該微粒子が熱線遮蔽効果を発現する有効性に変わりはない。
またこれらのホウ化物微粒子は、結晶としての完全性が高いほど大きい熱線遮蔽効果が得られる。尤も、結晶性が低くX線回折測定において、ブロードな回折ピークを生じるようなホウ化物微粒子であっても、当該微粒子内部の基本的な結合が、ホウ化物を構成する各金属とホウ素との結合から成り立っているものであるならば熱線遮蔽効果を発現する。
【0015】
例えば、ランタンのホウ化物である6ホウ化ランタンの微粒子は、灰黒色、茶黒色、緑黒色などに着色した粉末である。ここで、6ホウ化ランタン微粒子の粒径が可視光波長に比べて十分小さく、且つポリカーボネートシート中に分散した状態にあれば、当該ポリカーボネートシートに可視光透過性が生じる一方、熱線遮蔽能は十分強く保持される。当該光学的特性を発揮する理由は詳細には理解されていないが、これらホウ化物微粒子中には自由電子の量が多く、当該微粒子内部および表面の自由電子によるバンド間間接遷移の吸収エネルギーのレベルが、丁度、可視光より長波長〜近赤外光の波長付近にあるために、この波長領域の熱線が選択的に反射・吸収されると考えられる。
【0016】
本発明者らは実験により、ホウ化物微粒子を十分細かく且つ均一に分散した膜では、波長400nm〜700nmの間で透過率が極大値を持ち、且つ、波長700〜1800nmの間で極小値を持ことが確認している。ここで、可視光波長の波長が380〜780nmであり、肉眼の視感度が550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、当該ホウ化物微粒子を十分細かく且つ均一に分散した膜は、可視光を有効に透過し、一方それ以外の熱線を有効に反射・吸収することが解る。
【0017】
(2)ATO微粒子
本発明で使用される熱線遮蔽成分であるATO微粒子は、可視光領域で光の吸収、反射がほとんど無く、波長1500nm以上の領域でプラズマ共鳴に由来する反射・吸収が大きい。つまり、ATO微粒子の透過プロファイルは、近赤外領域で長波長側に向かうに従い透過率が減少する。
本発明で使用されるATO微粒子は、例えば、錫を含む水酸化物と、アンチモンを含む水酸化物とを水溶液中で共沈させ、得られた沈殿物を500℃以上1100℃未満の温度で焼成することで得ることができる。
【0018】
(3)6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子との混合使用
上述したように、6ホウ化ランタンの透過プロルファイルは波長1000nm付近にボトムをもち、それより長波長側では徐々に透過率の上昇を示す。この為、6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子とを併わせて使用することで、可視光透過率は減少させずに近赤外領域の熱線を遮蔽することが可能となる。さらに、6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子とを各々単独で使用するよりも、併せて熱線遮蔽成分として使用することで熱線遮蔽特性が向上する。
【0019】
6ホウ化ランタン微粒子の単位重量あたりの熱線遮蔽能力は非常に高く、ATO微粒子と比較して、40分の1以下の使用量でその効果を発揮する。さらに、6ホウ化ランタン微粒子とATOとを併用することで、一定の可視光透過率を保ちながら熱線遮蔽特性のみを向上させることができ、コストも削減できる。また、当該併用により熱線遮蔽成分の添加量を大幅に削減できるので、本発明に係るポリカーボネートシートの摩耗強度や耐衝撃性を向上させることができる。
【0020】
6ホウ化ランタン微粒子重量とATO微粒子重量との比は、2/100≦6ホウ化ランタン微粒子重量/アンチモン添加酸化錫微粒子重量≦15/100の範囲の値であることが望ましい。
当該値が2/100以上あれば、全微粒子の添加量をあまり削減でき、コスト削減効果が大きく、熱線遮蔽特性も保つことが出来る。また当該値が15/100以下あれば、ATOの添加効果が発揮されて波長1500nm以上の赤外領域の吸収が明確になり、熱線遮蔽特性を保つことが出来る。
【0021】
一方、本発明に係るポリカーボネートシートへの6ホウ化ランタンの添加量を増すと、上述したように可視光領域の吸収が顕著になってくる。そこで発想を転換し、6ホウ化ランタンの添加量を制御して当該可視光領域の吸収を適度に発揮させることで、明るさ調製や、プライバシー保護等への応用も出来る。
【0022】
6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子との粒径は200nm以下がよい。当該粒径を200nmよりも小さくすることで、ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子とが分散した分散液(本発明に係るポリカーボネートシート製造の為の途中原料)中において、微粒子同士の凝集を抑え、微粒子の沈降を回避出来るからである。そして、当該200nmよりも小さい微粒子と凝集した粗大粒子の生成回避により、本発明に係るポリカーボネートシート中における光散乱源の生成回避が出来、シートの曇りの発生を回避出来る。
【0023】
(4)高耐熱性分散剤
本発明に係るポリカーボネートシートへの、6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子との分散剤は、熱分解温度が230℃以上あり、且つ、アクリル主鎖を有する高耐熱性分散剤を用いる。
従来、塗料用として一般的に使用されている分散剤は、様々な酸化物微粒子を有機溶剤中に均一に分散する目的で使用されている。しかし本発明者らの検討によれば、これら一般的に使用されている分散剤は200℃以上の高温で使用されることを想定されて設計されていないものが多い。
例えば、本実施形態において、6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子とポリカーボネート樹脂とを溶融混練する際に、当該200℃以上の高温で使用されることを想定されて設計されていない分散剤を使用すると、当該分散剤中の官能基が熱により分解されて分散能が低下すると伴に、黄〜茶色に変色し不具合を起こしてしまう。
【0024】
本発明に係るポリカーボネートシートの製造においては、TG−DTAで測定される熱分解温度が230℃以上、好ましくは250℃以上ある高耐熱性の分散剤を用いることが肝要である。当該高耐熱性分散剤は、分子量20000〜400000程度であることが望ましい。さらには、当該高耐熱性に加え、主鎖としてアクリル主鎖を有し、官能基としてCOOH基を有する分散剤が好ましい。高耐熱性の分散剤においても、アクリル主鎖を有し、官能基としてCOOH基を有する分散剤は、6ホウ化ランタン微粒子やATO微粒子を、ポリカーボネートシートに分散させる分散力が高いからである。
【0025】
当該TG−DTAで測定される熱分解温度が230℃以上、好ましくは250℃以上ある高耐熱性の分散剤を用いる構成について、さらに説明する。
ポリカーボネートは熱可塑性樹脂であって一般的な融点は250℃であり、一般的な混練時の設定温度は290℃である。そうであるなら、6ホウ化ランタン微粒子やATO微粒子をポリカーボネートシートに分散させる為の分散剤には290℃以上の耐熱性が求められると考えられた。
ところが、本発明者らは分散剤の熱分解温度が230℃以上であれば、成形時に当該分散剤が熱分解することなく分散能を維持すると伴に、それ自体が黄〜茶色に変色することもないという知見を得た。
具体的には、ポリカーボネートの一般的な混練設定温度である290℃において、本発明に係る分散剤とポリカーボネート樹脂とを混練する試験を行ったところ、得られた混練物はポリカーボネート樹脂のみの混練物とまったく同じ外観を呈し、無色透明で全く着色しないことが確認された。一方、例えば、後述する比較例5で使用した分散剤(TG−DTAで測定される熱分解温度が200℃)を用いて同様の試験を行った場合、混練物は茶色に着色してしまうことが確認された。
【0026】
さらに本発明に係る高耐熱性分散剤は、アクリル主鎖を有し、且つ、官能基としてCOOH基を有する分散剤であることが好ましい。これは、混練時において、COOH基が6ホウ化ランタン微粒子やATO微粒子の表面に吸着することで、これら6ホウ化ランタン微粒子やATO微粒子の凝集を防ぎ、ポリカーボネート樹脂中で6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子とを均一に分散させる効果を持つからである。また、本発明に掛かる高耐熱性分散剤は、酸価が3〜15gKOH/mgの範囲が望ましい。このような酸価の高耐熱性分散剤は6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子の吸着に適している。
【0027】
(5)高耐熱性分散剤と熱線遮蔽成分との重量比
上記高耐熱性分散剤と熱線遮蔽成分との重量比は、0.5≦分散剤の重量/熱線遮蔽成分の重量≦10の範囲であることが好ましい。当該重量比が0.5以上あれば、熱線遮蔽成分である6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子とを十分に分散することが出来るので、微粒子同士の凝集が発生せず、十分な光学特性が得られるからである。また、当該重量比が10以下あれば、熱線遮蔽ポリカーボネートシートの機械特性(引っ張り強度、曲げ強度、表面高度)が損なわれることがない。
【0028】
(6)ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子と高耐熱性分散剤とが分散した分散液(本発明に係るポリカーボネートシート製造の為の途中原料)
本発明に係るポリカーボネートシート製造の為の途中原料であるホウ化ランタン微粒子とATO微粒子と高耐熱性分散剤とが分散した分散液の分散溶剤は、特に限定されるものではない。当該分散溶剤は配合するポリカーボネート樹脂、ポリカーボネートシートを形成する条件などに合わせて選択可能であり、各種の一般的な有機溶剤が使用可能である。また必要に応じて、酸やアルカリを添加してpH値を調整しても良い。さらに、ポリカーボネート樹脂中の微粒子の分散安定性を一層向上させる観点から、公知の各種の界面活性剤、シランカップリング剤やチタンカップリング剤などを添加することも可能である。尚、これら公知の界面活性剤やカップリング剤等を用いる場合、本発明で使用されるホウ化ランタン微粒子、ATO微粒子および高耐熱性分散剤の機能を阻害しないものを選択することは勿論である。
上記適宜な有機溶剤中に、ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子と高耐熱性分散剤とが混合された混合物を、ビーズミル、ボールミル等の公知の湿式粉砕方法により湿式粉砕して十分に分散させ、分散液を得る。
【0029】
(7)ポリカーボネート樹脂
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、2価フェノール類とカーボネート系前駆体とを、溶液法または熔融法で反応させることによって得られるものである。2価フェノール類としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が代表的な例として挙げられる。中でも、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系が好ましく、特にビスフェノールAを主成分とするものが好ましい。
【0030】
(8)ポリカーボネート樹脂への熱線遮蔽成分の分散方法
熱線遮蔽成分のポリカーボネート樹脂への分散方法は、上記ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子と高耐熱性分散剤とが有機溶剤中に分散した分散液から、適宜な方法で有機溶剤を除去し粉末を得る。そして、得られた粉末をポリカーボネート樹脂に添加し、タンブラー、V型アレンダー、高速ミキサー等で均一に混合し、二軸押出機、単軸押出機を用いて溶融混合することで、熱線遮蔽成分の微粒子がポリカーボネート樹脂へ均一に分散された混合物を調製することが可能である。
【0031】
(9)本発明に係るポリカーボネートシート
本発明に係るポリカーボネートシートは、上記ポリカーボネート樹脂中に微粒子が均一に分散された混合物を、射出成形、押し出し成形、圧縮成形等の公知の方法により、平面状や曲面状に成形することにより作製することが出来る。また、上記ポリカーボネート樹脂中に微粒子が均一に分散された混合物を、造粒装置を用いて一旦ペレット化した後、当該ペレットを、射出成形、押し出し成形、圧縮成形等の公知の方法により、平面状や曲面状に成形することによりポリカーボネートシートを作製することも出来る。
【0032】
本発明に係るポリカーボネートシートの厚さは、板状からフィルム状に至る迄、必要に応じて任意の厚さに調整することが可能である。さらに、平面状態に形成したポリカーボネートシートは、後加工によって、球面状等の任意の形状に成形することが出来る。
【0033】
以上説明したように本発明によれば、熱線遮蔽成分をポリカーボネート樹脂に均一に分散させ、得られた混合物をシート状に形成することで、高コストの物理成膜法や複雑な工程を用いずに、熱線遮蔽機能を有し、かつ可視光域に高い透過性能を有する熱線遮蔽ポリカーボネートシートを提供することが可能である。
【0034】
(10)本発明に係るポリカーボネートシートへの紫外線遮蔽機能付加
本発明に係るポリカーボネートシート上に、紫外線吸収剤が分散された塗布液を塗布して紫外線吸収膜を形成することで、紫外線遮蔽機能を付加し耐侯性を向上させることも好ましい構成である。
また、本発明に係るポリカーボネートシート上に、耐擦傷性ハードコート層を形成しポリカーボネートシートの耐擦傷性を向上させることも好ましい構成である。
【0035】
紫外線吸収剤が分散された塗布液は、紫外線吸収剤が有機溶媒等に分散された状態であるが、さらに、バインダー樹脂を添加してプライマー層形成用塗布液としても良い。紫外線吸収剤は、有機系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−(2−アクリロキシエトキシ)−2−ヒドロキシベンゾフェノンの重合体、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニルトリアジン等や、無機系の酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタンなどの無機紫外線吸収剤を用いることができる。
【0036】
無機系の酸化亜鉛等の微粒子の粒径は、可視光を透過させ、且つ、シートが曇ることを防ぐ観点から6ホウ化ランタン微粒子やATO微粒子と同様に、200nm以下が望ましい。バインダー樹脂は、アクリル樹脂等の公知の樹脂を用いることができ、樹脂に併せて適宜な溶媒を選択すれば良い。溶媒にはアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類等を挙げることができ、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族化合物およびこれ等の混合溶媒等を挙げることができる。当該酸化亜鉛等の微粒子をポリカーボネートシート中へ分散させる為、上述した高耐熱性分散剤の添加量を調整することも好ましい構成である。
【0037】
紫外線吸収剤が分散された塗布液は、紫外線吸収剤や有機溶媒等を、湿式媒体攪拌ミル(例えば、湿式ボールミル、湿式ビーズミル、湿式ペイントシェーカー)等を用いて湿式粉砕することにより製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例を比較例とともに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
各実施例に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの波長2000nm透過率、可視光透過率並びに熱線透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U−4000を用いて測定した。この熱線透過率は熱線遮蔽性能を示す指標である。また、ヘイズ値は村上色彩技術研究所(株)社製HR−200を用い、JIS K 7105に基づいて測定した。
【0039】
[実施例1]
6ホウ化ランタン(LaB)を5質量%、高耐熱性分散剤α(アクリル主鎖にCOOH基をもつ分散剤、TG−DTAで測定した熱分解温度は250℃。)を1質量%、トルエンを94質量%秤量し、0.3mmφZrOビ−ズを入れたペイントシェ−カ−で3時間粉砕・分散処理することによってLaB微粒子分散液(以下、A液と略称する。)を調製した。ここで、LaB微粒子分散液A液内におけるLaB微粒子の分散粒子径を測定したところ、50nmであった。
【0040】
上記A液へ、さらに、高耐熱性分散剤αを添加し、この高耐熱性分散剤αとLaB微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/LaB微粒子]が3となるように調製した。次に、A液からスプレードライヤーを用いてトルエンを除去し、LaB微粒子分散粉を得た(以下、A粉と略称する。)。
【0041】
ATOを5質量%、高耐熱性分散剤α(アクリル主鎖にCOOH基をもつ分散剤、TG−DTAで測定した熱分解温度は250℃、分子量100000、酸価6.5gKOH/mg)を1質量%、トルエンを94質量%秤量し、0.3mmφZrOビ−ズを入れたペイントシェ−カ−で3時間粉砕・分散処理することによってATO微粒子分散液(以下、B液と略称する。)を調製した。ここで、B液内におけるATO微粒子の分散粒子径を測定したところ、70nmであった。
【0042】
上記B液へ、さらに、高耐熱性分散剤αを添加し、この高耐熱性分散剤αとATO微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/ATO微粒子]が3となるように調製した。次に、B液からスプレードライヤーを用いてトルエンを除去し、ATO微粒子分散粉を得た(以下、B粉と略称する。)。
【0043】
得られたA粉と、B粉と、ポリカーボネート樹脂ペレットとを、LaB濃度が0.17質量%、ATO濃度が2.25質量%となるように混合し、ブレンダーを用いて均一な混合物とした。当該混合物を、二軸押出機を用いて280℃で熔融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、熱線遮蔽ポリカーボネートシート用のマスターバッチを得た(以下、マスターバッチAと略称する。)
【0044】
得られたマスターバッチAを2質量%と、ポリカーボネート樹脂ペレット98質量%とを均一に混合し、一軸押出機を用いて280℃で熔融混練した後、Tダイより押し出し、2mm厚に成形することでLaB物微粒子とATO微粒子がポリカーボネート樹脂全体に均一に分散した実施例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
実施例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率9.8%、可視光透過率66.4%、熱線透過率は40.9%で、ヘイズ値は1.3%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0045】
[実施例2]
実施例1で説明したマスターバッチAを40質量%と、ポリカーボネート樹脂ペレット60質量%とを均一に混合し、一軸押出機を用いて280℃で熔融混練した後、Tダイより押し出し、0.1mm厚に成形した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
実施例2に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率9.9%、可視光透過率67.1%、熱線透過率は41.5%で、ヘイズ値は1.6%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0046】
[実施例3]
実施例1で説明したA粉と、B粉と、ポリカーボネート樹脂ペレットとを、LaB濃度が0.105質量%、ATO濃度が5.25質量%、となるように混合した以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
実施例3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率2.8%、可視光透過率66.9%、熱線透過率は41.6%で、ヘイズ値は1.5%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0047】
[実施例4]
実施例1で説明したA粉と、B粉と、ポリカーボネート樹脂ペレットとを、LaB濃度が0.215質量%、ATO濃度が1.45質量%、となるように混合した以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
実施例4に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率19.8%、可視光透過率67.0%、熱線透過率は42.1%で、ヘイズ値は1.4%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0048】
[実施例5]
実施例1で説明した高耐熱性分散剤αとLaB微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/LaB微粒子]を10、高耐熱性分散剤αとATO微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/ATO微粒子]を10となるように調製した以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
【0049】
実施例5に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率9.6%、可視光透過率65.9%、熱線透過率は40.3%で、ヘイズ値は1.3%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0050】
[実施例6]
実施例1で説明した高耐熱性分散剤αとLaB微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/LaB微粒子]を0.5、高耐熱性分散剤αとATO微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/ATO微粒子]を0.5となるように調製した以外は、実施例1と同様にして実施例6に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
実施例6に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率10.2%、可視光透過率66.3%、熱線透過率は41.2%で、ヘイズ値は1.6%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0051】
[実施例7]
実施例1で説明した高耐熱性分散剤αを高耐熱性分散剤β(アクリル主鎖にCOOH基をもつ分散剤、TG−DTAで測定した熱分解温度は230℃、分子量50000、酸価10.5gKOH/mg。)へ代替した以外は、実施例1と同様にして実施例7に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
実施例7に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率9.7%、可視光透過率66.9%、熱線透過率は40.9%で、ヘイズ値は1.3%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0052】
[実施例8]
ZnO微粒子を4.0g、メチルイソブチルケトンを14.0g、および、アクリル系高分子分散剤γ(アクリル主鎖にアミノ基をもつ分散剤、TG−DTAで測定した熱分解温度は200℃、分子量100000)を2.0gを混合して20gの原料液を調製した。当該原料液を、ペイントシェーカーにより18時間攪拌し、ZnO微粒子を粉砕して当該微粒子が分散された酸化亜鉛分散液を調製した。尚、当該酸化亜鉛分散液内に分散されたZnO微粒子の平均粒子径を測定したところ90nmと小さく、良好な分散液であることが確認された。
次に、当該酸化亜鉛分散液を15.5質量%と、アクリル樹脂が溶媒に溶解したモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「プライマーPH−91」84.50wt%とを十分に混合し、ZnO微粒子とアクリル系樹脂バインダーとが含まれた実施例8に係るプライマー層形成用塗布液を得た。
【0053】
ここで、実施例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを準備した。そして、当該熱線遮蔽ポリカーボネートシートへ、実施例8に係るプライマー層形成用塗布液をディップコーティングし、120℃で30分間硬化させることで、実施例8に係る紫外線吸収皮膜が形成された熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
実施例8に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率9.6%、可視光透過率66.5%、熱線透過率は38.9%で、ヘイズ値は1.8%であった。
【0054】
[実施例9]
実施例2で説明した0.1mm厚に成形した熱線遮蔽ポリカーボネートシートを、2mm厚のポリカーボネートシートと共押出した以外は、実施例2と同様にして実施例9に係る熱線遮蔽ポリカーボネート積層体を得た。
実施例9に係る熱線遮蔽ポリカーボネート積層体の光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率9.7%、可視光透過率66.7%、熱線透過率は40.8%で、ヘイズ値は1.4%であった。
【0055】
[比較例1]
実施例1で説明したA粉と、B粉と、ポリカーボネート樹脂ペレットとを、LaB濃度が0.095質量%、ATO濃度が5.90質量%、となるように混合した以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
比較例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率1.7%、可視光透過率66.5%、熱線透過率は45.6%で、ヘイズ値は1.5%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0056】
比較例1においては、6ホウ化ランタン微粒子/アンチモン添加酸化錫微粒子の重量比が1.6/100となり、2/100≦6ホウ化ランタン微粒子/アンチモン添加酸化錫微粒子≦15/100の範囲から外れた為、得られた比較例1に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートは、熱線透過率が高くなり、十分な熱線遮蔽特性が得られなかったものと考えられる。さらに、全微粒子の使用量が多くなり、材料コストが高くなってしまうものであった。
【0057】
[比較例2]
実施例1で説明したA粉と、B粉と、ポリカーボネート樹脂ペレットとを、LaB濃度が0.24質量%、ATO濃度が1.2質量%、となるように混合した以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
比較例2に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率35.1%、可視光透過率67.0%、熱線透過率は42.1%で、ヘイズ値は1.6%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0058】
比較例2においては、6ホウ化ランタン微粒子/アンチモン添加酸化錫微粒子の重量比が20/100となり、2/100≦6ホウ化ランタン微粒子/アンチモン添加酸化錫微粒子≦15/100の範囲から外れた為、得られた比較例2に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートは、波長2000nm透過率が高くなり、近赤外線の長波長領域の吸収が不十分となって、十分な熱線遮蔽特性が得られなかった。
【0059】
[比較例3]
実施例1で説明した高耐熱性分散剤αとLaB微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/LaB微粒子]を15、高耐熱性分散剤αとATO微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/ATO微粒子]を15となるように調製した以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
比較例3に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率9.6%、可視光透過率66.7%、熱線透過率は41.9%で、ヘイズ値は1.6%であった。
【0060】
比較例3においては、分散剤/熱線遮蔽成分の重量比が15となり、分散剤/熱線遮蔽成分=10〜0.5の範囲から外れた為、得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートの表面硬度が低く、爪で擦ると簡単に傷が付いてしまった。
【0061】
[比較例4]
実施例1で説明した高耐熱性分散剤αとLaB微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/LaB微粒子]を0.2、高耐熱性分散剤αとATO微粒子の重量比[高耐熱性分散剤/ATO微粒子]を0.2となるように調製した以外は、実施例1と同様にして比較例4に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
比較例4に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率10.5%、可視光透過率67.5%、熱線透過率は42.1%で、ヘイズ値は12.5%であった。得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートは表面硬度が高く、爪で傷を付けることはできなかった。
【0062】
比較例4においては、分散剤/熱線遮蔽成分の重量比が0.2となり、分散剤/熱線遮蔽成分=10〜0.5の範囲から外れた為、熱線遮蔽成分である6ホウ化ランタン微粒子とATO微粒子とを十分に分散することが出来ず、微粒子同士の凝集が発生し、ヘイズが高くなり、透明性が損なわれてしまったものと考えられる。
【0063】
[比較例5]
実施例1で説明した高耐熱性分散剤αを、分散剤γ(アクリル主鎖にアミノ基をもつ分散剤、TG−DTAで測定した熱分解温度は200℃、分子量100000。)に代替した以外は、実施例1と同様にして比較例5に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートを得た。
比較例5に係る熱線遮蔽ポリカーボネートシートの光学特性を測定したところ、表1に示すように、2000nm透過率9.7%、可視光透過率55.3%、熱線透過率は38.9%で、ヘイズ値は1.3%であった。
【0064】
比較例5においては、熱分解温度が低い分散剤を使用したため、溶融混練時に熱変性した分散剤が黄〜茶色に着色し、得られた熱線遮蔽ポリカーボネートシートが黄変したものと考えられる。
【0065】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱線遮蔽成分が分散されたポリカーボネートシートであって、
熱線遮蔽成分として、少なくとも6ホウ化ランタン微粒子とアンチモン添加酸化錫微粒子とを含み、当該6ホウ化ランタン微粒子とアンチモン添加酸化錫微粒子との重量比が、2/100≦6ホウ化ランタン微粒子/アンチモン添加酸化錫微粒子≦15/100の範囲であり、
熱分解温度が230℃以上のアクリル主鎖を有する高耐熱性分散剤を含み、当該高耐熱性分散剤と熱線遮蔽成分との重量比が、0.5≦分散剤/熱線遮蔽成分≦10の範囲であることを特徴とする熱線遮蔽ポリカーボネートシート。
【請求項2】
前記熱線遮蔽成分が、平均粒径200nm以下の微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシート。
【請求項3】
前記高耐熱性分散剤が、COOH基を有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシート。
【請求項4】
ポリカーボネートシートの少なくとも一方の面に、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシート。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートと、他のシートとが積層されているものであることを特徴とする熱線遮蔽ポリカーボネート積層体。
【請求項6】
前記熱線遮蔽ポリカーボネート積層体の少なくとも1層のシートが、紫外線吸収剤を含有するシートまたは紫外線吸収剤を含有する皮膜が形成されているシートであることを特徴とする請求項5に記載の熱線遮蔽ポリカーボネート積層体。
【請求項7】
前記紫外線吸収剤が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートまたは熱線遮蔽ポリカーボネートシート積層体。
【請求項8】
熱線遮蔽成分として少なくとも6ホウ化ランタン微粒子とアンチモン添加酸化錫微粒子が分散された熱線遮蔽ポリカーボネートシートの製造方法であって、
6ホウ化ランタン微粒子と、熱分解温度が230℃以上のアクリル主鎖を有する高耐熱性分散剤とを溶媒に加えて粉砕・分散処理を行い、6ホウ化ランタン微粒子分散液を得る工程と、
当該6ホウ化ランタン微粒子分散液から、溶媒を除去して、6ホウ化ランタン微粒子分散粉を得る工程と、
アンチモン添加酸化錫微粒子と、熱分解温度が230℃以上のアクリル主鎖を有する高耐熱性分散剤とを溶媒に加えて粉砕・分散処理を行い、アンチモン添加酸化錫微粒子分散液を得る工程と、
当該アンチモン添加酸化錫微粒子分散液から、溶媒を除去して、アンチモン添加酸化錫微粒子分散粉を得る工程と、
得られた6ホウ化ランタン微粒子分散粉と、アンチモン添加酸化錫微粒子分散粉と、ポリカーボネート樹脂ペレットとを混合し、熔融混練し、成形して高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチを得る工程と、
得られた高耐熱性熱線遮蔽成分含有マスターバッチと、ポリカーボネート樹脂ペレットとを熔融混練した後に成形する工程とを、具備することを特徴とする熱線遮蔽ポリカーボネートシートの製造方法。
【請求項9】
前記高耐熱性分散剤が、COOH基を有するものであることを特徴とする請求項8に記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートの製造方法。
【請求項10】
前記熱線遮蔽ポリカーボネートシートの少なくとも一方の面に、紫外線吸収皮膜を形成することを特徴とする請求項8または9に記載の熱線遮蔽ポリカーボネートシートの製造方法。



【公開番号】特開2012−102266(P2012−102266A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253015(P2010−253015)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】