説明

熱間静水圧圧縮成形における又はそれに関連する改良

部材を製造するための方法が提供される。この方法は、形成される部材の内部寸法に対応するフォーマを製造するステップと、フォーマの少なくとも1つの表面上に第2の材料の層を設けるステップと、フォーマを閉じ込め容器内に配置し、閉じ込め容器を第1の材料で満たすステップと、閉じ込め容器を熱間静水圧圧縮成形にかけ、第2の材料が第1の材料に拡散させるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間静水圧圧縮成形技術に関するものである。さらに、本発明は、この改善された技術を用いて製造される特定の製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの工業プロセスは、高圧、極端な温度、pH、摩耗及び/又は腐食のために厳しい環境で行われる。これらの条件は、このプロセスが実施される容器の寿命を制限する。そうした容器を製造するための材料の選択は、受けるであろうプロセス条件によって決まる。しかしながら、最も回復力のある材料は最も高価な材料でもあることがしばしばであり、したがって、材料の選択は通常、費用と寿命の兼ね合いになる。
【0003】
そうしたプロセスの1つの実例は、燃料油を製造するための高分子量炭化水素の接触分解である。このプロセスは通常、高温の高クロム鋼管の中で約1100℃において処理される。鋼管内では、細かい粉末状の触媒粒子が長鎖炭化水素と混合される。触媒粒子がコークスになり、還元による再生のために除去される。内部で反応が行われる管も、存在する炭素による影響を受け、これによって、グリーン・ロットとして知られる状態が生じる可能性がある。これは、内部で接触分解が行われる管の耐用寿命を制限する。
【0004】
グリーン・ロットは、基本的な鋼の結晶粒組織が炭素で過飽和になった結果として生じる鋼の炭化である。結晶粒組織が飽和すると、それ以上の炭素は粒界に堆積する可能性があり、抑制されない状態にしておくと、管の破損が生じる虞がある。鋼の炭化に対する閾値温度は800℃の範囲内であり、それは接触分解の標準的な処理温度よりもかなり低い。
【0005】
管は、接触分解装置を停止したときしか交換して装置から出すことができないため、管の寿命は停止の間隔の制限因子になる。さらに、1つの管における破損が、隣接する管及びプラントの他の部分にも損傷を引き起こすため、無計画な停止から保護するために、管はその理論上の寿命の限界よりかなり前に交換される。
【0006】
現在のところ、接触分解装置で使用するための管は、通常は内部に孔を有する鋳造物である金属ビレットからなる複雑な製造プロセスを経る。鋳片は約2mの長さの管に鍛造されるが、鋳造プロセスの間に孔が形成されなかった場合には、鍛造中に孔を形成することができる。その場合、管は、孔の中に長手方向の溝を形成するために、孔を通る工具を用いて鍛造される。まっすぐな溝から螺旋状の伸開線を生成するために、管が加熱され捻られる。次いで、125mm〜160mmの範囲の外径を回転させ、複数の2mの長さのものを互いに溶接して完全な長さの管組立体を作製する。管組立体は10mの長さとすることができる。
【0007】
厳しい環境で行われるプロセスの他の実例は、海中の掘削、舶用ディーゼルの汲み出し、オイル又は他の製品を含む様々な用途に用いられるマッド・モータ及びプログレッシブ・キャビティ・ポンプである。マッド・モータでは、中央のキャビティが高圧の泥で満たされる。プログレッシブ・キャビティ・ポンプでは、汲み上げられる流体が高圧である場合がある。ポンプ又はモータの管路は、通常はまっすぐであるが、1:100の範囲の曲率を採用することが可能でなければならない。これによって、管の一方の側が引張り応力を受け、他方の側が圧縮を受けるため、応力が高まる。本来の応力集中部である接合部を最小限に抑えるために、マッド・モータ及びプログレッシブ・キャビティ・ポンプ用の管は、通常はきわめて長い。
【0008】
厳しい環境の異なる実例は、かなりの引張り応力の下で動作する軸受である。例えば航空機工業では、航空機が着陸状態に入ると、着陸装置はかなりの応力を受ける。航空機の脚部内の軸受は、軽量である共に、使用時のきわめて高い応力に耐えることが可能でなければならない。
【0009】
通常かなりの応力を受ける物品の他の実例は、押出し成形プロセスに使用されるダイスである。押出し成形は、ポリマー、ゴム及び木材系の複合材を含む様々な材料について、一定の断面積の製品を製造するのに適用可能な技術である。通常使用されるダイスはカットアウト部を有する外側ブロックを備え、カットアウト部は、そこを通って押し出される材料に所望の形状を与えるように調和して配置される。ブロックは、押出し成形プロセスの圧力に耐えるように、高い機械的強度を有していなければならない。
【0010】
部材の形成に使用可能なプロセスは、熱間静水圧圧縮成形(HIP)である。熱間静水圧圧縮成形は、型のキャビティの中に閉じ込められ、静水圧圧縮成形を受ける金属粉末から形成されたネット・シェイプ又はニアネット・シェイプの部材が得られる単段プロセスである。
【0011】
HIPプロセスによって実質的に均質な物質が得られ、またHIPプロセスによって固められる金属粉末中への原子の拡散によって、型、又は形成される部材の他の構造上の形状を決めるために型の中に設けられた任意のインサートから、材料が移動することを防止するために、拡散バリアとして窒化ホウ素を使用することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、厳しい環境での動作に関連する前述の問題の少なくともいくつかに対処するためになされた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書では、第1の材料から形成され、且つ第2の材料を第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を有する少なくとも1つの表面を有する部材について記述する。第1の材料は、金属又は合金とすることができ、部材は圧縮された金属粉末から製造することができる。金属は、鉄を含む金属、チタン、ニッケル、ニッケル合金又はアルミニウムとすることができる。部材は、ネット・シェイプ又はニアネット・シェイプの製造プロセスを用いて製造可能であり、また十分なサイズ、例えば少なくとも2メートルの長さのものとすることができる。
【0014】
第1の材料に第2の材料を拡散させることができると、第2の材料の濃度を、部材の表面からの距離に伴って徐々に変えることが可能になるため有利である。結果として、2つの材料の間に単一の決まった境界は存在せず、そのため、プロセス条件の下で、第2の材料の層が剪断変形して第1の材料から離れることがなくなる。第1の材料で製造された部材の表面に別のコーティング又は層を形成するのではなく、本明細書に記載されるプロセスを用いて部材の表面構造を変えることができる。したがって、製造された部材は、第2の材料からなる別のコーティングを備えることはないが、第1の材料の表面に拡散した第2の材料を有することができる。
【0015】
本発明によれば、第1の材料から形成され、且つ第2の材料を第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を持つ少なくとも1つの表面を有する接触分解装置用の管が提供される。
【0016】
接触分解装置用の管が形成される第1の材料に第2の材料を拡散させることができると、第2の材料の濃度を管の表面からの距離に伴って徐々に変えることが可能になるため有利である。結果として、2つの材料の間に単一の決まった境界は存在せず、そのため、プロセス条件の下で、第2の材料の層が剪断変形して第1の材料から離れることがなくなる。
【0017】
接触分解装置用の管は、HIPプロセスによって形成することができる。第1の材料及び第2の材料は、一緒にHIPプロセスにかけられ、その結果、管の内部形状は、その内部でHIPプロセスが行われる閉じ込め容器(containment)内に設けられるフォーマの形状によって決まる。結果として、第2の材料の提供に続くプロセス・ステップは不要であり、また第2の材料の提供による管の形状の変化も生じない。HIPプロセスは、ネット・シェイプ又はニアネット・シェイプの部材をもたらし、したがって、プロセスによって、必要な約+/−0.5mmの精度の範囲内で接触分解装置用の管を簡単に形成することができる。
【0018】
接触分解装置用の管は、螺旋状の伸開線を備えることができる。螺旋状の伸開線を設けることによって表面積が増加し、また乱流も増大し、したがって、管内で触媒と反応物の混合が促進される。
【0019】
第2の材料はホウ素を含むことができる。鉄ホウ化物は、鋼の炭化を抑えることが知られている。しかしながら、鉄ホウ化物はきわめて不安定であり、したがって、この形で導入することができない。したがって第2の材料は、ホウ素及び少なくとも1つの安定剤を含むことができる。HIPプロセスの間、ホウ素が鋼に拡散し、鋼の鉄の一部と鉄ホウ化物を形成する。
【0020】
第2の材料はアルミニウムを含むことができ、第1の材料は鉄を含む材料とすることができる。HIPプロセスの間、アルミニウムが鉄と反応して、鋼の炭化をしっかり抑える鉄アルミナイドを形成する。
【0021】
さらに本発明によれば、マッド・モータ又はプログレッシブ・キャビティ・ポンプに使用するための部品が提供され、この部品は、第1の材料から形成され、且つ第2の材料を第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を有する少なくとも1つの表面を有する。
【0022】
マッド・モータ又はプログレッシブ・キャビティ・ポンプ用の部品は、HIPプロセスによって形成することができる。マッド・モータ又はキャビティ・ポンプは、+/−20μm(ミクロン)の精度で形成する必要があり、これはHIPプロセスに適合している。
【0023】
この部品は、マッド・モータに使用するためのものであれ、プログレッシブ・キャビティ・ポンプに使用するためのものであれ、凸半球形の端部及び凹半球形の端部を備えることができる。部品の凸半球形の端部は、凹半球形の端部と同じ半径を有し、2つの部品が互いに隣接して設けられると、第1の部品の凸半球形の端部が、第2の部品の凹半球形の端部と連結する。こうして、かなりの面積の面接触が存在するようになる。部品の半球形の端部によって、部品が互いに回転し、全体としてマッド・モータ又はキャビティ・ポンプに比較的小さい曲率半径を与えるようにすることも可能である。
【0024】
部品は、凸半球形の端部に隣接する鍔部を備えることができる。鍔部は、部品の本体の半径よりも1mmの範囲内で大きい半径を有することができる。凹半球形の端部に隣接する鍔部を設けることもできる。鍔部とそれぞれの端部の間に、部品が互いに回転したとき、半球形の端部の縁部が外殻とぶつからないことを保証するように構成された、短い肩部が存在してもよい。
【0025】
各部品の内部は、モータを通る泥又はポンプを通る流体が流れやすいように、螺旋状の伸開線を備えることができる。
【0026】
複数の部品を隣接して配置し、外殻の中に収容することができる。外殻の長さは20mの範囲内にすることができ、また各部品の長さは1mの範囲内にすることができる。外殻内に複数の部品を設けることによって、所与のメンテナンス周期の間に摩耗の徴候を示す部品だけを交換すればよくなるため、メンテナンスにモジュール式の手法が可能になる。これは、マッド・モータが互いに溶接された比較的少数の部分、例えば5つの部分から形成される最技術とはかなり異なる。本発明によれば、隣接する部品間に溶接部がないため、損傷を受けていない部品を外殻に再び導入することができる。使用時には、各部品の鍔部が外殻の内面と連結する。これによって、部品の本体が外殻と接触しないことが保証されるが、外殻の曲率のためにかなりの圧縮力及び引張り力が生じるようになる、
【0027】
外殻は、US4140合金鋼又はEN24などの鋼とすることができ、部品は、Sagitite(登録商標)などニッケル系合金のものとすることができる。鋼は、鋼の等級に応じて11.5〜13×10−6の熱膨張係数を有する。それに対して、Sagitite(登録商標)は9×10−6の熱膨張係数を有する。したがって、マッド・モータは、ある温度で複数の部品を鋼の外殻に導入し、外殻を端部キャップで閉じ、次いでマッド・モータを冷却させることによって組み立てることができる。熱膨張係数が異なるため、鋼の方がより収縮し、部品を外殻の中にしっかり閉じ込める。
【0028】
さらに本発明によれば、航空機用の着陸装置の脚部が提供され、脚部は、第1の材料から形成され、且つ第2の材料を第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を有する少なくとも1つの表面を有する。航空機用の着陸装置の脚部は、高い圧縮剛性を必要とする。
【0029】
第1の材料はチタン合金とすることができ、第2の材料は二ホウ化チタンとすることができる。チタン合金はTiAlとすることができる。チタンは、ある温度で他の化合物を強く吸収するので、剛性を与えるために熱処理することができない。二ホウ化チタンは、表面の上部3mmにわたって拡散し、そこで金属間化合物相の複雑なネットワークを生成する。
【0030】
着陸装置の脚部は、HIPプロセスによって形成することができる。HIPプロセスの後、完成した外面を形成するために、外面を等温鍛造することができる。
【0031】
さらに本発明によれば、押出し成形機に使用するためのダイスが提供され、ダイスは、第1の材料から形成され、且つ第2の材料を第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を有する少なくとも1つの表面を有する。
【0032】
第1の材料は、中程度の強度の合金、例えば鋼とすることができる。これは、ダイスの重量及びコストを全体的に低減する助けとなる。その場合、第2の材料は、押出し成形プロセスの圧力に耐えることができるずっと硬い合金とすることができる。
【0033】
ダイスは、第1、第2、場合によっては第3及び第4の材料の層さえももたらすように、一連の同心の充填材を用いたHIPプロセスによって製造することができる。HIPプロセスにおいてダイスをネット・シェイプとして製造することを保証するために、フォーマを設けることができる。或いは、HIPプロセスが完了したときにダイスがネット・シェイプではない場合には、引き続き貫通孔を機械加工して形状を完成させることができる。
【0034】
さらに本発明によれば、部材を製造するための方法が提供される。この方法は、形成される部材の内部寸法に対応するフォーマを製造するステップと、フォーマの少なくとも1つの表面上に第2の材料の層を設けるステップと、フォーマを閉じ込め容器内に配置し、閉じ込め容器を第1の材料で満たすステップと、閉じ込め容器を熱間静水圧圧縮成形にかけ、第2の材料が第1の材料に拡散するようにするステップとを含む。
【0035】
特に第1の材料に拡散することが企図された第2の材料を提供することは、HIPプロセスにおけるパラダイムの変化を意味している。現在、第2の材料が少しでも提供される場合は、特に形成される部材への拡散を防止するために提供されている。
【0036】
第1の材料及び/又は第2の材料は、金属粉末とすることができる。或いは第2の材料は、例えば鋼部材に摩耗面を与える、特定のセラミックとすることができる。例えばジルコニウムは鋼の中に拡散することができないが、ニッケルは鋼の中に拡散することができる。したがって、ジルコニアに加えてニッケルを第2の材料に組み込むことによって、鋼部材にアフニウム(affnium)で安定化したジルコニアの表面を設けることができる。
【0037】
第2の材料を提供することにより、所与の部材に関する現在のやり方と比べると、第1の材料の選択を変えることが可能になる。第2の材料を第1の材料に拡散させると、部材の特性はもはや、部材のバルクを製造する材料だけでは決まらないことになる。結果として、第1の材料と第2の材料の間にその場(in situ)で形成された表面の層が、全体として部材に必要な表面特性をもたらすのであれば、第1の材料としてより経済的な材料を選択することが可能になる。
【0038】
HIPプロセスの後、フォーマを部材から取り外すことができる。フォーマは、炭素又は鋼のものとすることができる。炭素は、機械加工及び除去が容易である。さらに炭素は、比較的安定であり且つ予測可能である。したがって、炭素は鋼部材に適している。その一方で、炭素はチタン部材の中に拡散し、したがってチタン部材の場合には、鋼のフォーマを用いることができる。鋼とチタンの間の熱膨張係数の違いによって、部材及びフォーマを封入する閉じ込め容器を冷却した後、鋼のフォーマがチタン部材から容易に解放されるようになる。
【0039】
第2の材料は、窒化ホウ素及びクロムを含むことができる。第2の材料をフォーマ上に、溶射、プラズマ溶射、水溶射又は気相堆積によって堆積させることができる。
【0040】
第1の材料は、Sagitite(登録商標)などのニッケル合金とすることができる。Cr23の体積分率が部材の芯部内よりも表面の近くで高くなるように、クロム及び炭素が低合金の第1の材料に拡散する。Cr23がin situで生成され、完成部材の耐摩耗性及び表面の硬さを高めるピン状の構造をもたらす。
【0041】
第2の材料はニッケルを含むことができ、第1の材料はアルミニウムを含むことができる。HIPプロセスの間、ニッケルがアルミニウムと反応してニッケルアルミナイドを形成する。これは、ニッケルがアルミニウム部材の表面特性を改善する、ピストンなどの用途に特に適している。
【0042】
第2の粉末は、部材の上部1000μm〜2000μm(すなわち1〜2mm)にわたって拡散する。
【0043】
第2の粉末は、均質に又は層状の形で適用可能な複数の構成部分を有することができる。第2の粉末の各構成部分が、その独自の材料特性に従って第1の粉末に拡散する。HIPプロセスの前には独立して存在することができなかった化学種を生成するために、第2の粉末の構成部分が、互いに並びに第1の粉末とも反応するようにすることができる。
【0044】
部材を製造するプロセスであるHIPステップは、温度を所定の値まで上昇させ、次いで粉末の応力を解放するために、温度をその所定の値に保持するステップを含むことができる。温度は1時間半にわたって保持することができるが、わずか1時間又は最大4時間にわたって保持してもよい。時間は、製造される部材に所望される結晶粒成長の程度に応じて選択することができる。例えば鉄を含む材料及びアルミニウム系材料では、閉じ込め容器が長時間にわたってある温度に維持された場合、結晶粒成長が過剰になる。
【0045】
温度の所定の値は、例えば溶接された鋼から製造することができる、したがって、閉じ込め容器に対する応力緩和を可能にする720℃において柔軟である閉じ込め容器に適するように設定される。
【0046】
次に、単に例として示す添付図面を参照して、本発明をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による接触分解装置用の管を示す図。
【図2】本発明による複数の部品を備えたマッド・モータ又はキャビティ・ポンプを示す図。
【図3a】本発明による航空機の着陸装置の脚部を示す図。
【図3b】本発明による押出し成形に使用するためのダイスを示す図。
【図4】本発明によるプロセスを用いて、前述の図1〜3に示すものなど、部材を製造するのに必要な構成部分の分解図。
【図5】HIPプロセス中の条件について、温度及び圧力の分布を示す図。
【図6A】HIPプロセス前の材料を通る断面の概略図。
【図6B】HIPプロセス後の材料を通る断面の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、本発明による接触分解装置用の管10を示している。管10は、2mの長さL、及び125mm〜160mmの直径Dを有する。使用時には、1組5本の管10が互いに接合され、全体で10mのプロセス長さを形成する。
【0049】
管10は円筒形であり、外面12及び内部形状14を有する。接触分解装置内で管10を他の管に隣接して置きやすくするために、外面12は実質的に滑らかである。内部形状14は、中央の孔16及び螺旋状の伸開線18を含む。螺旋状の伸開線は乱流を促して反応物と触媒の混合を生じさせ、その結果、層流又はほぼ層流の条件で得られるよりも効率的な分解がもたらされる。
【0050】
図2は、外殻22及び複数の部品24を有する、分割されたマッド・モータ又はプログレッシブ・キャビティ・ポンプ20を示している。部品24のそれぞれが、本体25、凹半球形の端部26及び凸半球形の端部27を有する。半球形の端部26、27に隣接して、1対の鍔部28、29が設けられる。部品24は、1mの長さ及び120mmの半径を有する。添付図面には示していない代替的な実例では、長さが1.5m、直径が200mmである。
【0051】
半球形の端部26、27を設けることによって、部品が互いに移動することが可能になる。図示した実例では、部品24の直径よりもかなり大きい曲率半径を有している。これによって、隣接する部品間の移動範囲が制限されるが、外殻22にかかる圧力にも対処する。鋼で製造された外殻22は、部品24の鍔部28、29の外側半径にぴったり一致する内側半径を有する。半球形の端部26、27がその一部を形成する円の直径は、通常は30.48m(100フィート)につき1mである、完成したマッド・モータ又はキャビティ・ポンプの最大曲げ半径によって決まる。よりきつい曲げを可能にするために、直径を小さくすることができるが、半径がきつくなるほど外殻に対する応力は大きくなる。
【0052】
本体25が本体25とその長さに沿って接触するように大きさを定められた場合に受けることになる、かなりの引張り応力及び圧縮応力を回避するために、本体25は鍔部28、29の直径よりも1mm小さい直径を有し、鍔部は外殻22に接触するが、本体25は接触しないままになるようにする。
【0053】
鍔部28、29は、半球形の端部26、27から少なくとも1mmのところに位置決めされるので、部品24が殻22内で互いに対して回転しても、半球形の端部の縁部が外殻22とぶつかることはない。
【0054】
螺旋状の伸開線(図示せず)が、部品24の中央を貫通する。伸開線は5つの溝を有することができるが、それよりも多くの、最大9又は11の溝を有してもよい。或いは、より少ない溝を有してもよい。溝のそれぞれを通る経路の直径は、15〜25mmの範囲の直径を有し、その直径は、少なくとも一部は、全体として溝の数及び部品24の直径によって決まる。
【0055】
図3aは、円形の脚の下部32及び細長い脚部34を有する航空機の着陸装置の脚部30を示している。脚部30はチタンで形成される。脚の下部32の中央には、使用時に軸受が貫通する開口部36が存在する。脚の下部32の内面38は第2の材料による拡散を受け、それによって、脚部30の表面の形態を変化させて、金属間化合物相の複雑なネットワークを組み込むことが可能になり、その結果、表面は、そうした処理が施されなかった脚部よりも耐摩耗性がかなり高くなる。
【0056】
図3bは、押出し成形プロセスに使用するためのダイス31の実例を示している。ダイス31は、成形された表面35によって貫通して切り取られた外側ブロック33を備えている。表面35の形状は、ダイスから押し出される製品の所望の形状に一致している。表面35は主に、押出しに伴う応力に対してより回復力のある第2の材料から形成される。外側ブロック33のバルクは、より軽量の合金から形成される。外側ブロック35は貫通孔37を備えている。
【0057】
図4は、本発明によるプロセスを用いて、接触分解装置用の管10、又は分割されたマッド・モータ20に用いるための部品24、又は航空機の着陸装置の脚部30などの部材を製造するステップを示している。第1のステップでは、閉じ込め容器42及びフォーマ44が製造される。閉じ込め容器42は、形成される部材の所望の外面に対応可能な内面46を有するように構成されるか、又は少なくとも形成される部材の最大サイズを包含するようにする。フォーマ44は、部材の内部形状に対応するように成形される。例えば、図1を参照して前述した接触分解装置用の管、又は図2を参照して前述した分割されたマッド・モータ20用の部品24の場合、フォーマ44は螺旋状の伸開線として成形される。HIPの条件の下では炭素が比較的安定であり且つ断定し得るものであるため、部材が鋼であるときには、フォーマ44は通常炭素である。
【0058】
次に、閉じ込め容器の内面46又はフォーマ44が1つ又は複数のコーティングで被覆される、コーティング・ステップが続く。フォーマ44は、HIPプロセスの間に炭素がフォーマ44から形成される部材に移動することを防止するために、従来からHIPプロセスに用いられている窒化ホウ素で被覆される。さらにフォーマ44は、形成される部材の表面層に拡散することが企図される材料の1つ又は複数の層で被覆される。こうした層又はコーティング48は、有機バインダとして提供されるテープ上に分離されたペースト、ゲルとして提供することができる。次いで、HIPステップの前に有機バインダが除去される。コーティング48は、フォーマ44の全体、又はフォーマ44の一部のみを覆うように提供することができる。このため、異なる表面が異なる表面特性を有することが可能になる。これにより、高価な化合物が部材の表面全体を覆うように提供されるのではなく、必要な場所のみに導入されることが保証される。フォーマ44の上に、材料の複数の層を設けることができる。例えば2、3、4、5、6、8、12又は32の層を設けることができる。複数の層が設けられる場合には、HIPプロセスの間に一部の層が、他の層の成分が部材に拡散するのを妨げるため、層の順序は好ましい拡散の程度に従って選択される。
【0059】
或いは、添付図面に図示されていない代替的な実例では、第2の材料の別個の層を設けるのではなく、いくつかの成分を単一の均質なコーティングとして提供することが可能であり、様々な成分の拡散特性の違いによって、異なる成分が第1の材料を通って異なる量で拡散することが可能になる。均質なコーティングの成分の選択に応じて、1つ又は複数の成分が、第1の材料と反応することなく第1の材料を通って拡散することができる。新しい物質をその場(in situ)で形成できるものもあり、そうした新しい物質は、コーティングに導入された成分の拡散特性に関係付けられる濃度勾配の影響を受ける。
【0060】
HIPプロセスにおいて、形成される部材の外面の形態を他の材料の拡散によって変える必要がある場合、また閉じ込め容器が、形成される部材の外側の構成にぴったり一致するように構成される場合には、こうした材料は、閉じ込め容器42の内面46に提供される。閉じ込め容器42が炭素でないときには、窒化ホウ素層によって、形成される部材に炭素が移動するのを防止する必要はない。さらに、閉じ込め容器42の内面46に使用されるコーティング48は、フォーマ44上に提供されるものと異なってもよい。
【0061】
閉じ込め容器42及びフォーマ44にコーティングが提供された後、フォーマ44は閉じ込め容器42の中に配置され、閉じ込め容器42は、部材が形成される主要な材料の粉末49で満たされる。次いで、閉じ込め容器42が閉じられ、コーティング48が形成される部材の表面層に拡散するように、熱間静水圧圧縮成形にかけられる。コーティング48の物質に応じて、表面層は最大2mmに及ぶことがある。コーティング48内の物質は、部材の中に移動することができるが、化学的に同じ状態に留まることができる。しかしながら、この技術は、コーティング48の物質が表面領域で粉末49と反応し、フォーマ44からの距離に伴って変わる濃度で異なる合金を生成する状況において最も効果的である。
【0062】
閉じ込め容器が減圧され、周囲温度に戻された後、部材が閉じ込め容器42から取り出され、フォーマ44が部材から取り外される。フォーマ44が炭素である場合には、機械にかけて外すことができる。フォーマ44が鋼であり、部材が主にチタンである場合には、通常、閉じ込め容器が周囲の温度及び圧力に戻されるまでに、フォーマ44が解放された状態になる。フォーマ44が銅である場合には、完成部材から電解によってエッチアウトすることができる。
【0063】
閉じ込め容器42が、完成部材の形状にぴったり一致するように構成されていない場合には、フォーマを取り外した後、部材をさらに処理することがある。例えば部材がチタンである場合には、部材を等温鍛造することができ、或いは部材が鋼である場合には、部材を回転させることができる。
【0064】
HIPプロセスに用いられる加熱及び冷却の過程は、形成される部材から応力を緩和する機会を最大にするように、またコーティング48が部材の表面層に拡散することを可能にするように設計される。図5には、温度(実線)及び圧力(点線)の概略図が示されている。
【0065】
まず、温度及び圧力を、温度が保持温度に達するまで、約10℃/分の上昇率で増加させる。応力を解放させるために、温度は保持点で1時間維持される。溶接された鋼の閉じ込め容器の場合、保持温度は720℃の範囲内である。
【0066】
応力解放ステップが完了した後、温度及び圧力を固相線の80%の範囲で増加させる。これは、ニッケルの場合には1000℃、鋼の場合には1090℃で行われ、この温度及び圧力で熱間静水圧圧縮成形が行われる。HIPプロセスの継続時間は、形成される部材の断面厚さ、及び部材が形成される粉末の粒径によって決まる。
【0067】
HIPプロセスが完了すると、温度が第2の所定の値に達するまで、温度を3〜10℃/分の割合で下げる。温度は、1時間以内でこの第2の値に維持される。温度は、部材の主要な材料によって決まる。例えば、温度は通常750℃〜720℃であるが、ニッケル合金の場合には800℃と高くすることができ、高クロム鋼の場合には540℃と低くすることができる。
【0068】
温度をこの第2の所定の値に保持することによって、設けられた表面層が部材に拡散する。この保持ステップの間に、部材内で相変化が起こる。
【0069】
拡散の保持が完了した後、温度を下げることができる。これは、部材がフォーマに対する応力を解放することを可能にするために、3℃/分以下でゆっくりと行われる。こうして、完成部材内の応力が最小限に抑えられる。
【0070】
完成部材から閉じ込め容器及びフォーマ内へ応力を解放させるために、温度は、冷却の間に一旦、第1の所定の値に保持される。その後、周囲の条件に達するまで、温度及び圧力が一緒に低下する。
【0071】
図6A及び図6Bは、それぞれHIPプロセスの前及び後のコーティング48の分布を概略的に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材を製造する方法であって、
形成される前記部材の内部寸法に対応するフォーマを製造するステップと、
前記フォーマの少なくとも1つの表面に第2の材料の層を設けるステップと、
前記フォーマを閉じ込め容器内に配置し、前記閉じ込め容器を第1の材料で満たすステップと、
前記閉じ込め容器を熱間静水圧圧縮成形にかけ、前記第2の材料を前記第1の材料に拡散させるステップとを含む、部材を製造する方法。
【請求項2】
前記HIPプロセスの後に、前記フォーマを前記部材から取り外す、請求項1に記載された部材を製造する方法。
【請求項3】
前記第1の材料及び/又は前記第2の材料が金属粉末である、請求項1又は請求項2に記載された部材を製造する方法。
【請求項4】
前記第2の材料がセラミックである、請求項1又は請求項2に記載された部材を製造する方法。
【請求項5】
前記第2の材料が窒化ホウ素及びクロムを含む、請求項1又は請求項2に記載された部材を製造する方法。
【請求項6】
前記第2の材料を前記フォーマ上に、溶射、プラズマ溶射、水溶射、又は気相成長によって堆積させることができる、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載された部材を製造する方法。
【請求項7】
前記第1の材料が、Sagitite(登録商標)などのニッケル合金である、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された部材を製造する方法。
【請求項8】
前記第2の材料がニッケルを含み、前記第1の材料がアルミニウムを含む、請求項1又は請求項2に記載された部材を製造する方法。
【請求項9】
前記第2の粉末を、前記部材の上部の1000μm〜2000μmにわたって拡散させる、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載された部材を製造する方法。
【請求項10】
前記第2の粉末が、均質に結合された複数の構成部分を有する、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載された部材を製造する方法。
【請求項11】
前記第2の粉末が、層状の形で結合された複数の構成部分を有する、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載された部材を製造する方法。
【請求項12】
前記部材を製造する方法の前記HIPステップが、温度を所定の値まで上昇させ、次いで前記粉末の応力を解放するために、前記温度を前記所定の値に保持するステップを含む、請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載された部材を製造する方法。
【請求項13】
第1の材料から形成され、且つ第2の材料を前記第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を有する少なくとも1つの表面を有する部材であって、金属又は金属合金から製造された部材。
【請求項14】
前記部材が、第1の材料から形成され、且つ第2の材料を前記第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を有する少なくとも1つの表面を有する接触分解装置用の管である、請求項13に記載された部材。
【請求項15】
前記管がHIPプロセスによって形成された、請求項14に記載された接触分解装置用の管。
【請求項16】
螺旋状の伸開線をさらに備える、請求項14又は請求項15に記載された接触分解装置用の管。
【請求項17】
前記第2の材料がホウ素を含む、請求項14から請求項16までのいずれか一項に記載された接触分解装置用の管。
【請求項18】
前記第2の材料がアルミニウムを含み、前記第1の材料が鉄を含む材料である、請求項14から請求項16までのいずれか一項に記載された接触分解装置用の管。
【請求項19】
前記部材がマッド・モータに使用するための部品であり、前記部品が、第1の材料から形成され、且つ第2の材料を前記第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を有する少なくとも1つの表面を有する、請求項13に記載された部材。
【請求項20】
前記部品がHIPプロセスによって形成された、請求項19に記載された部品。
【請求項21】
前記部品が、凸半球形の端部及び凹半球形の端部を備える、請求項19又は請求項20に記載された部品。
【請求項22】
本体、及び前記凸半球形の端部に隣接する鍔部をさらに備える、請求項21に記載された部品。
【請求項23】
前記鍔部が、前記本体の半径よりも1mm大きい半径を有する、請求項22に記載された部品。
【請求項24】
前記凹半球形の端部に隣接する鍔部をさらに備える、請求項22又は請求項23に記載された部品。
【請求項25】
螺旋状の伸開線をさらに備える、請求項19から請求項24までのいずれか一項に記載された部品。
【請求項26】
請求項19から請求項25までのいずれか一項に記載の複数の部品を収容する外殻を備えるマッド・モータ。
【請求項27】
請求項19から請求項25までのいずれか一項に記載された複数の部品を収容する外殻を備えるプログレッシブ・キャビティ・ポンプ。
【請求項28】
前記外殻が鋼であり、前記部品がニッケル系合金である請求項26に記載のマッド・モータ、又は請求項27に記載されたプログレッシブ・キャビティ・ポンプ。
【請求項29】
ある温度で複数の部品を鋼の外殻に導入するステップと、前記外殻を端部キャップで閉じるステップと、前記マッド・モータ又は前記キャビティ・ポンプを冷却させるステップとを含む、請求項26から請求項28までのいずれか一項に記載されたマッド・モータ又はプログレッシブ・キャビティ・ポンプを製造する方法。
【請求項30】
前記部材が航空機用の着陸装置の脚部であり、前記脚部が、第1の材料から形成され、且つ第2の材料を前記第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を有する少なくとも1つの表面を有する、請求項13に記載された部材。
【請求項31】
前記第1の材料がチタン合金であり、前記第2の材料が二ホウ化チタンである、請求項30に記載された着陸装置の脚部。
【請求項32】
前記チタン合金がTiAlである、請求項31に記載された着陸装置の脚部。
【請求項33】
前記脚部がHIPプロセスによって形成された、請求項30から請求項32までのいずれか一項に記載された着陸装置の脚部。
【請求項34】
前記部材が押出し成形機に使用するためのダイスであり、前記ダイスが、第1の材料から形成され、且つ第2の材料を前記第1の材料に拡散させたことによって変化した表面構造を有する少なくとも1つの表面を有する、請求項13に記載された部材。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図6A】
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【図6B】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−515852(P2013−515852A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545447(P2012−545447)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/GB2010/052186
【国際公開番号】WO2011/077150
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(512164713)アドバンスト インタラクティブ マテリアルズ サイエンス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】