説明

燃料噴射制御システム

【課題】 補正量の学習前も学習後も適正な指令が得られる燃料噴射制御システムを提供する。
【解決手段】 指令記憶手段3は補正量学習手段5が補正量を学習する前である学習前時のための学習前用指令と補正量学習手段5が補正量を学習した後である学習後時のための学習後用指令とを記憶し、指令噴射量決定手段4は学習前時には学習前用指令を参照し、学習後時には学習後用指令を参照する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ噴射式の燃料噴射制御システムに係り、補正量の学習前も学習後も適正な指令が得られる燃料噴射制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの気筒ごとに燃料噴射手段を設け、燃料噴射手段への通電時間を制御して噴射量を制御する場合、燃料噴射制御システムは、現在のエンジン制御パラメータに基づいて、燃料噴射手段が噴射するべき指令噴射量及び噴射回数を決定する。その際、計算の煩雑さを軽減するために、エンジン制御パラメータに対応して燃料噴射手段が噴射するべき指令噴射量をマップと呼ばれる指令記憶手段に記憶するのが一般的である。マップにはエンジン制御パラメータに対応して燃料噴射手段が噴射するべき指令噴射量を記憶しておく。エンジン制御パラメータに基づいてマップを参照すれば指令噴射量が得られる。
【0003】
燃料噴射制御システムは、1燃焼サイクルに1度だけ、噴射するべき指令噴射量の全量を噴射するのではなく、パイロット噴射あるいはアフター噴射と呼ばれる予備的な噴射をメイン噴射の前後に適宜回数行う。これをマルチ噴射と呼ぶ。マルチ噴射では指令噴射量を複数回に分けて噴射することになる。その噴射パターン(指令噴射量及び噴射回数)をマップ化した指令記憶手段をマルチ噴射パターンマップと呼ぶ。
【0004】
噴射量が通電時間に比例するという基本原理から、指令噴射量は通電時間で与えられる。しかし、実際には、燃料噴射手段の個体により噴射量と通電時間との比にばらつき(個体差)があるので、燃料噴射手段が実際に噴射する実噴射量が指令噴射量通りになるよう気筒ごとに補正が必要となる。
【0005】
必要な補正量は燃料噴射手段の個体により異なるが、同じ燃料噴射手段の個体において必要な補正量が短時間のうちに大きく変動することはない。そこで、従来は、燃料噴射手段が実際に噴射する実噴射量が指令噴射量通りになるよう指令噴射量に対する補正量を学習し、学習後はその学習した補正量で指令噴射量を補正するようになっている。指令噴射量が通電時間で与えられるので、補正量も指令噴射量の通電時間を短縮したり延長したりする通電補正時間で与えられる。
【0006】
学習した補正量は不揮発性メモリに記憶しておく。これにより、電源オフ後も学習した補正量が保持され、次に電源オンしたときには、再度の学習をすることなく、記憶してある補正量を用いることができる。
【0007】
また、燃料噴射制御システムは、アイドル運転時に、実際に今エンジンが回転しているエンジン回転数(以下、実エンジン回転数という)を該燃料噴射制御システムが目標としているエンジン回転数(以下、目標エンジン回転数という)に合わせるために、目標エンジン回転数と実エンジン回転数との偏差に比例係数(以下、アイドルフィードバック係数という)を掛けてフィードバック量を決定し、そのフィードバック量を指令噴射量に重畳することにより、実エンジン回転数が目標エンジン回転数に近づくように目標エンジン回転数に補正をかけている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−11511号公報
【特許文献2】特開2000−8908号公報
【特許文献3】特開2005−16486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の燃料噴射制御システムでは、アイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップは補正量の学習前も学習後も同じである。しかし、アイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップは、当然、噴射が正確に行われる状態(実噴射量が指令噴射量通りである状態)を前提として作製されている。つまり、学習後の状態に合わせてある。従って、アイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップが補正量の学習前も学習後も同じであるということは、噴射が正確に行われない状態(実噴射量が指令噴射量通りでない状態)である学習前に、学習後を前提としたアイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップが使われているということである。
【0010】
従来、このために、アイドリングハンチングや気筒間変動が起きていた。アイドリングハンチングや気筒間変動が起きると、学習ができなくなってしまう。
【0011】
逆に、学習前の噴射が正確に行われない状態に合わせたアイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップを仮に作製したとしても、今度は、このようなアイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップを噴射が正確に行われる状態となった学習後に使用してしまうと、学習した意味が半減してしまう。
【0012】
また、アイドル運転時に極端に大きなフィードバック量が与えられると、エンジンが停止または発振(エンジン回転数が安定せずふらつくこと)する場合がある。反面、フィードバック量が小さすぎると、エンジン回転数が目標値に安定するのに時間がかかる。
【0013】
また、同じ燃料噴射手段の個体において必要な補正量が短時間のうちに大きく変動することはないと前述したが、燃料噴射手段の寿命等の長いスパンでは燃料噴射手段の状態が変化することが考えられる。従って、学習した補正量を不揮発性メモリに記憶して延々と使い続けると、燃料噴射手段の状態と補正量とが整合しなくなることがある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、補正量の学習前も学習後も適正な指令が得られる燃料噴射制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明は、エンジン制御パラメータに対応して燃料噴射手段が噴射するべき指令噴射量及び噴射回数を記憶する指令記憶手段と、現在のエンジン制御パラメータに基づいて上記指令記憶手段を参照して指令噴射量及び噴射回数を決定する指令噴射量決定手段と、上記燃料噴射手段が実際に噴射する実噴射量が指令噴射量通りになるよう指令噴射量に対する補正量を学習する補正量学習手段とを備えた燃料噴射制御システムにおいて、上記指令記憶手段は上記補正量学習手段が補正量を学習する前である学習前時のための学習前用指令と上記補正量学習手段が補正量を学習した後である学習後時のための学習後用指令とを記憶し、上記指令噴射量決定手段は学習前時には学習前用指令を参照し、学習後時には学習後用指令を参照するものである。
【0016】
同じエンジン制御パラメータに対する学習前用指令における平均噴射回数は学習後用指令における平均噴射回数に比べて小さい値であってもよい。
【0017】
アイドル時に、目標とする目標エンジン回転数と実エンジン回転数とを比較し、その偏差に比例係数を掛けてフィードバック量を決定し、そのフィードバック量を指令噴射量に重畳することにより、実エンジン回転数が目標エンジン回転数に近づくようにアイドルフィードバック手段を有し、該アイドルフィードバック手段は、学習前時のための学習前用比例係数と学習後時のための前記学習前用比例係数より大きい学習後用比例係数とを記憶し、学習前時には学習前用比例係数を用い、学習後時には学習後用比例係数を用いてフィードバック量を決定してもよい。
【0018】
上記補正量学習手段は、学習が終了したときその学習した補正量と共に学習済みか否かをメモリに記憶し、この学習済みか否かのデータに基づいて学習済みであると判断したときには学習を行わず、上記指令噴射量決定手段は、この学習済みか否かのデータに基づいて学習前時か学習後時かを判定するものとし、さらに、あらかじめ設定されている再学習条件となったか否かを判定する再学習判定手段を有し、上記再学習判定手段が再学習条件となったことを判定した際には、上記学習済みか否かのデータを学習前の状態にすることで上記補正量学習手段及び上記指令噴射量決定手段を学習前時に戻す学習前戻し手段を設けてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0020】
(1)補正量の学習前も学習後も適正な指令が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0022】
図1に示されるように、本発明に係る燃料噴射制御システム1は、エンジン制御パラメータに対応して燃料噴射手段2が燃焼サイクル中に噴射するべき指令噴射量及び噴射回数を記憶する指令記憶手段3と、現在のエンジン制御パラメータに基づいて上記指令記憶手段3を参照して指令噴射量及び噴射回数を決定する指令噴射量決定手段4と、上記燃料噴射手段2が実際に噴射する実噴射量が指令噴射量通りになるよう指令噴射量に対する補正量を学習する補正量学習手段5とを備えた燃料噴射制御システム1において、上記指令記憶手段3は上記補正量学習手段5が補正量を学習する前である学習前時のための学習前用指令と上記補正量学習手段5が補正量を学習した後である学習後時のための学習後用指令とを記憶し、上記指令噴射量決定手段4は学習前時には学習前用指令を参照し、学習後時には学習後用指令を参照するものである。
【0023】
エンジン制御パラメータは、エンジン回転数、エンジントルク、アクセル開度、空気燃料比、排気ガス還流量など従来より燃料噴射制御システム1に入力されている公知の数量をいくつでも組み合わせて使用してよいが、ここでは、簡単のためエンジン回転数とトルクだけを例にとって説明する。
【0024】
燃料噴射手段2は、噴射量が通電時間にほぼ比例する種々の燃料噴射手段を使用してよいが、ここでは、噴射ノズルの弁をソレノイドで開閉するソレノイド式のインジェクタとする。
【0025】
補正量学習手段5は、公知のものであり、カム角センサ(図示せず)が示す噴射気筒について、指令噴射量決定手段4が燃料噴射手段2に対して出した指令噴射量とエンジン回転数センサ(図示せず)が示す当該噴射気筒によるエンジン回転数とを比較して燃料噴射手段2における実噴射量の過不足を推定して補正量を求めることができる。
【0026】
指令記憶手段3、指令噴射量決定手段4、補正量学習手段5、及び後述するアイドルフィードバック手段7、学習前戻し手段9は、ECU6と呼ばれるエンジン制御用のコンピュータ内にソフトウェアによって実現される。
【0027】
指令記憶手段3は、学習前用指令を記憶する学習前マップ3aと、学習後用指令を記憶する学習後マップ3bとに分かれている。各マップは、指令噴射量、噴射回数、噴射量パターン、噴射タイミング、噴射インターバルを記憶するマルチ噴射パターンマップであるが、ここでは、簡単のため噴射回数だけを例にとって説明する。
【0028】
この燃料噴射制御システム1は、アイドル時に、目標とする目標エンジン回転数と実エンジン回転数とを比較し、その偏差に比例係数(アイドルフィードバック係数)を掛けてフィードバック量を決定し、そのフィードバック量を指令噴射量に重畳することにより、実エンジン回転数が目標エンジン回転数に近づくようにするアイドルフィードバック手段7を有し、該アイドルフィードバック手段7は、学習前時のための比較的小さい学習前用比例係数と学習後時のための比較的大きい学習後用比例係数とを記憶し、学習前時には学習前用比例係数を用い、学習後時には学習後用比例係数を用いてフィードバック量を決定するようになっている。
【0029】
この燃料噴射制御システム1では、上記補正量学習手段5は、学習が終了したときその学習した補正量を不揮発性メモリ8に記憶すると共に学習済みであることを示すデータ(例えば、学習済フラグ)を不揮発性メモリ8に記憶し、この学習済フラグがある間は学習を行わず、上記指令噴射量決定手段4及び上記アイドルフィードバック手段7は、この学習済フラグにより学習前時か学習後時かを判定するものとしてある。なお、学習済みか否かをデータとして記憶する方法は学習済フラグに限らない。学習値を2桁の16進数で表す場合に、未学習の状態において学習値を“FF”とすることで未学習を表しておくと、学習値を読み出してその値が“FF”であったときに未学習であるという判定ができる。この方法では学習済フラグが不要なのでメモリ容量を節約することができる。
【0030】
そして、この燃料噴射制御システム1は、あらかじめ設定されている再学習条件となったか否かを判定する再学習判定手段(図示せず)を有し、上記再学習判定手段が再学習条件となったことを判定した際には、上記学習済みか否かのデータを学習前の状態にすることで上記補正量学習手段5及び上記指令噴射量決定手段4を学習前時に戻す学習前戻し手段9を設けてある。
【0031】
不揮発性メモリ8は、EEPROM、フラッシュメモリなどで構成することができる。
【0032】
図2(a)に学習前マップを、図2(b)に学習後マップを示す。図示のように、いずれのマップにおいても、エンジン制御パラメータをエンジン回転数とエンジントルクだけにしたので、各マップは二次元的に表現することができる。所望したエンジントルク(N)の行において所望したエンジン回転数(rpm)の列に位置する欄を参照すれば、その欄に記憶されている噴射回数(回)が読み出せるようになっている。エンジントルクやエンジン回転数がこれらのマップの行、列の中間的な値のときは、エンジントルクやエンジン回転数を行、列の値に丸めてマップを参照するか、エンジントルクやエンジン回転数を挟む両側の欄の値から近似式によって噴射回数を求めるとよい。
【0033】
2つのマップの同じ欄を比較すると、学習前マップの噴射回数は学習後マップの噴射回数より小さいか等しい。つまり、同じエンジン制御パラメータに対する学習前用指令における噴射回数は学習後用指令における噴射回数に比べて小さい値となっている。つまり、マップにおける噴射量の平均値、より詳細に言えば、学習を行う通常運転時におけるマップの噴射回数の平均値は学習後のマップの噴射回数の平均値より小さい。その理由を一例により説明しておく。
【0034】
今、排気量が1700cm3のエンジンを想定する。アイドル時における1気筒の1燃焼サイクルに必要な噴射量は4mm3である。学習前では、噴射が正確に行われない(実噴射量が指令噴射量通りでない)。仮に、燃料噴射手段2として実噴射量が指令噴射量より1回噴射あたり1mm3多くなる個体があったとする。この燃料噴射手段2を3回噴射させると、合計3mm3多くなる。つまり、1燃焼サイクル合計で実噴射量が指令噴射量より3mm3多くなることになる。この増加分は指令噴射量4mm3に比較して、かなり大きい量であるため、アイドル運転を維持することができない。逆に、1回あたりの噴射量が少なくなる個体においては、1燃焼サイクル合計の実噴射量がとても少なくなり、やはりアイドル運転を維持することができなくなることがある。
【0035】
これに対し、本発明では、学習前の噴射回数を小さめにしておく。例えば、先の例で1回噴射だけにしておけば、1燃焼サイクル合計で実噴射量が指令噴射量より1mm3多いだけですむ。よって、アイドル運転を維持することができる。アイドル運転が維持できるから、そのアイドル時に補正量の学習を行うことができる。
【0036】
しかし、学習後は、噴射が正確に行われる(実噴射量が指令噴射量通り)ようになるので、1燃焼サイクルに何回噴射しても誤差が増大することは起きない。よって、アイドル時にも噴射回数を大きくして当初の目的であるマルチ噴射を行うことが可能となる。
【0037】
図3にアイドルフィードバック手段7が行うフィードバック量決定処理の等価回路を示す。この等価回路は、目標エンジン回転数と実エンジン回転数とを比較する比較器31と、学習前用比例係数を記憶する学習前係数部32と、学習後用比例係数を記憶する学習後係数部33と、これら2つのメモリの読み出し値を学習前後で切り替えてフィードバック量として出力するスイッチ34とからなる。
【0038】
学習前用比例係数が比較的小さいのに対し、学習後用比例係数は比較的大きい。その理由のひとつは、学習前はエンジン(アイドル運転中)が停止しないようにすること、つまりエンジンの安定性を重視するからである。比例係数が大きいと、目標エンジン回転数と実エンジン回転数との偏差が大きいときに、フィードバック量が非常に大きくなり、エンジン停止を招くことがあり得るが、比例係数が小さいことでこれを回避できる。
【0039】
もうひとつの理由は、学習後は、エンジン回転数が最終目標であるアイドル回転数に早く収束してアイドル時の噴射量が最適噴射量になることを重視するからである。比例係数が小さいと、目標エンジン回転数と実エンジン回転数との偏差に対してフィードバック量があまり大きくならないので収束が遅いが、比例係数がおおきいことで収束を早くすることができる。
【0040】
図4に制御の流れを示す。以下、この流れに従って燃料噴射制御システムの動作を説明する。
【0041】
この制御の流れは電源オン(イグニションキーがオン)でスタートする。スタート後、すぐにステップS1で、ECU6は、不揮発性メモリ8に記憶されている学習済フラグを読み出し、ECU6内の作業領域に格納する。なお、ECU6の出荷時には学習済フラグ=0(クリア)である。
【0042】
ステップS2で、ECU6は、学習済フラグ=1かどうか(学習が済んだかどうか)を判定する。NOであれば現在が学習前時ということである。YESであれば現在が学習後時ということである。
【0043】
学習前時ならば、ステップS3で、指令噴射量決定手段4が学習前マップを参照して指令噴射量及び噴射回数を決定する。また、このとき、アイドル運転時であるならば、アイドルフィードバック手段7が学習前用比例係数を用いてフィードバック量を決定し、目標エンジン回転数を計算する。つまり、学習前の噴射が正確に行われない状態(実噴射量が指令噴射量通りでない状態)で最適化したアイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップを用いて指令噴射量を求めたり、指令噴射量に対する補正量を求めることになる。
【0044】
ステップS4では、ECU6は、補正量学習手段5による学習が終了したか否かを判断する。NOの判断であれば、ステップS6に飛ぶ。
【0045】
ここで、補正量学習手段5は、理想燃料噴射量に対して特定回転数を設定しておき、エンジン回転数がその特定回転数で安定する指示燃料噴射量を理想燃料噴射量として学習を終了するとよい。
【0046】
例えば、理論値で5mm3で700回転するエンジンの場合、3mm3多く噴射してしまうインジェクタであった場合には、学習中に指示噴射量を5mm3から徐々に減少させてゆくと指示噴射量が2mm3時に700回転で安定する。ここで700回転で安定したことから、このときの指示噴射量(通電時間等)をこれ以降5mm3と認識する補正をかけることで、実噴射量と指示噴射量との差を埋めることができる。このエンジン回転が安定することで学習終了として判断する。
【0047】
ステップS4がYESの判断であれば、ステップS7で学習済フラグ=1(学習が済んだ)とする。ステップS6に進む。
【0048】
ステップS6では、ECU6は、イグニションキーがオフかどうか判断する。これは電源がオフになるとメモリのバックアップができないから、イグニションキーがオフの段階でメモリのバックアップを行おうというものである。NOであれば、イグニションキーがオンであるので、エンジン運転が続いていることがわかり、ステップS2に戻る。YESであれば、イグニションキーがオフであるので、エンジン運転は停止されたことになる。よって、ステップS8で、ECU6は、ECU6内の作業領域内の学習済フラグを不揮発性メモリ8に記憶して、電源オフに備える。
【0049】
ステップS2で学習後時という判断のときは、ステップS9で、指令噴射量決定手段4が学習後マップを参照して指令噴射量及び噴射回数を決定する。また、このとき、アイドル運転時であるならば、アイドルフィードバック手段7が学習後用比例係数を用いてフィードバック量を決定し、目標エンジン回転数を計算する。つまり、学習後の噴射が正確に行われる状態(実噴射量が指令噴射量通りである状態)で最適化したアイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップを用いて指令噴射量を求めたり、指令噴射量に対する補正量を求めることになる。
【0050】
ステップS10では、学習前戻し手段9による燃料噴射手段2の劣化判定を行う。具体的には、劣化判定変数が所定の判定基準値を超えたとき、燃料噴射手段2が劣化した(再学習が必要な程度状態が変化した)と判断する。劣化判定変数としては、アイドルフィードバック積分項、車両の走行距離などがある。また、アイドル回転数のばらつき検知、気筒間補正値のばらつき検知などを行い、これらのばらつきの大きさを劣化判定変数としてもよい。また、燃料噴射手段2を交換した場合、あるいは燃料噴射系に影響のある部品(ポンプ、ECM等)を交換した場合にも、再学習が必要であるので、これらの部品交換の際にECU6に対してそのイベントを伝える情報を入力できるようにしておき、この情報についてもステップS10で判定するとよい。
【0051】
ステップS10の判定がNOであるならば、補正量を再学習する必要はないので、ECU6はステップS6に飛ぶ。ステップS10の判定がYESであるならば、補正量を再学習する必要があるので、ステップS11で学習済フラグ=0(クリア)とした後、ステップS6に飛ぶ。学習済フラグをクリアした影響はステップS2に表れ、再学習が発生することになる。
【0052】
以上説明したように、補正量を学習する前の噴射が正確に行われない状態においては、その状態で最適化したアイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップを用いて指令噴射量を求めたり、指令噴射量に対する補正量を求め、一方、補正量を学習した後の噴射が正確に行われるようになった状態においては、その状態で最適化したアイドルフィードバック係数やマルチ噴射パターンマップを用いて指令噴射量を求めたり、指令噴射量に対する補正量を求めることになる。すなわち、学習前であっても学習後であっても指令噴射量決定手段4、アイドルフィードバック手段7から適正な指令が得られる。
【0053】
学習前の噴射回数は学習後の噴射回数に比べて小さい値としたので、指令噴射量に対する実噴射量の誤差が増大することがなくなる。とりわけ、指令噴射量がもともと小さいアイドル時にアイドル維持が可能となる。
【0054】
アイドルフィードバック手段7が学習前時には比較的小さい学習前用比例係数を用い学習後時には比較的大きい学習後用比例係数を用いるので、学習前時にはエンジン回転の安定性が保たれ、学習後時にはエンジン回転数の適正値への迅速な収束が期待できる。
【0055】
学習前戻し手段9が燃料噴射手段2の劣化を判定して学習済フラグをクリアして諸制御を学習前時に戻すので、燃料噴射手段2の劣化に応じた補正量が再学習できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態を示す燃料噴射制御システムのブロック構成図である。
【図2】本発明に用いる指令記憶手段の具体例を示すものであり、(a)は学習前マップ、(b)は学習後マップの図である。
【図3】本発明に用いるアイドルフィードバック手段が行うフィードバック量決定処理の等価回路図である。
【図4】本発明の燃料噴射制御システムにおける制御の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1 燃料噴射制御システム
2 燃料噴射手段
3 指令記憶手段
4 指令噴射量決定手段
5 補正量学習手段
6 ECU(コンピュータ)
7 アイドルフィードバック手段
8 不揮発性メモリ
9 学習前戻し手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン制御パラメータに対応して燃料噴射手段が噴射するべき指令噴射量及び噴射回数を記憶する指令記憶手段と、現在のエンジン制御パラメータに基づいて上記指令記憶手段を参照して指令噴射量及び噴射回数を決定する指令噴射量決定手段と、上記燃料噴射手段が実際に噴射する実噴射量が指令噴射量通りになるよう指令噴射量に対する補正量を学習する補正量学習手段とを備えた燃料噴射制御システムにおいて、上記指令記憶手段は上記補正量学習手段が補正量を学習する前である学習前時のための学習前用指令と上記補正量学習手段が補正量を学習した後である学習後時のための学習後用指令とを記憶し、上記指令噴射量決定手段は学習前時には学習前用指令を参照し、学習後時には学習後用指令を参照することを特徴とする燃料噴射制御システム。
【請求項2】
同じエンジン制御パラメータに対する学習前用指令における平均噴射回数は学習後用指令における平均噴射回数に比べて小さい値であることを特徴とする請求項1記載の燃料噴射制御システム。
【請求項3】
アイドル時に、目標とする目標エンジン回転数と実エンジン回転数とを比較し、その偏差に比例係数を掛けてフィードバック量を決定し、そのフィードバック量を指令噴射量に重畳することにより、実エンジン回転数が目標エンジン回転数に近づくようにアイドルフィードバック手段を有し、該アイドルフィードバック手段は、学習前時のための学習前用比例係数と学習後時のための前記学習前用比例係数より大きい学習後用比例係数とを記憶し、学習前時には学習前用比例係数を用い、学習後時には学習後用比例係数を用いてフィードバック量を決定することを特徴とする請求項1又は2記載の燃料噴射制御システム。
【請求項4】
上記補正量学習手段は、学習が終了したときその学習した補正量と共に学習済みか否かをメモリに記憶し、この学習済みか否かのデータに基づいて学習済みであると判断したときには学習を行わず、上記指令噴射量決定手段は、この学習済みか否かのデータに基づいて学習前時か学習後時かを判定するものとし、さらに、あらかじめ設定されている再学習条件となったか否かを判定する再学習判定手段を有し、上記再学習判定手段が再学習条件となったことを判定した際には、上記学習済みか否かのデータを学習前の状態にすることで上記補正量学習手段及び上記指令噴射量決定手段を学習前時に戻す学習前戻し手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の燃料噴射制御システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−51582(P2007−51582A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237358(P2005−237358)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】