説明

燃料噴射弁用の昇圧制御装置

【課題】 コンデンサの電圧の検出値を用いて、燃料噴射弁に印加される電圧を過不足なく昇圧でき、燃料噴射弁の適正な動作を確保しながら、発熱の抑制と省エネルギ化を図ることができる燃料噴射弁用の昇圧制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明の燃料噴射弁用の昇圧制御装置は、バッテリ電圧VBを昇圧するための昇圧回路20と、燃料噴射弁4に印加するために、昇圧された電圧が充電されるコンデンサ25と、コンデンサ電圧VCを検出する電圧検出回路51とを備え、燃料噴射弁4の駆動中のとき、または燃料噴射弁4の非駆動中で、検出されたコンデンサ電圧VCが所定の下限値VREFL以下のときに、昇圧回路20の昇圧動作を実行し、燃料噴射弁4の非駆動中で、コンデンサ電圧VCが所定の上限値VREFH以上のときに、昇圧回路20の昇圧動作を停止させる(図4のステップ5〜9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関などに設けられた電磁式の燃料噴射弁を駆動するために当該燃料噴射弁に印加される電圧の昇圧を制御する燃料噴射弁用の昇圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の昇圧制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この昇圧制御装置は、電源の電圧を昇圧する充電回路と、昇圧された電圧を蓄えるコンデンサを備えており、コンデンサの電圧を燃料噴射弁に印加することによって、燃料噴射弁が駆動される。
【0003】
また、この昇圧制御装置では、燃料噴射弁の駆動を連続して行う際には、電源電圧およびコンデンサ電圧を検出し、それらの検出値から、コンデンサが過充電の上限値になるまでの時間を算出するとともに、この時間に基づき、燃料噴射弁の最初の駆動開始直前にコンデンサが過充電の上限値になるように、コンデンサへの充電開始タイミングが設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4609093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この従来の昇圧制御装置は、コンデンサへの充電開始タイミングを設定するために、電源電圧およびコンデンサ電圧の両方を検出することが必要である。また、両電圧の検出値に基づいて、コンデンサへの充電開始タイミングをあらかじめ設定するので、コンデンサに実際に充電される電圧に過不足が生じやすい。このため、コンデンサに充電された電圧が過剰な場合には、発熱量が増大するとともに、エネルギが無駄に消費されてしまう。逆に、コンデンサに充電された電圧が不足した場合には、燃料噴射弁の動作に支障を来す。
【0006】
また、コンデンサでの過電流などを監視するために、電流検出回路を併用することも知られているが、その場合には、製造コストが増大するとともに、電流検出回路の発熱によって発熱量も増大してしまう。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、コンデンサの電圧の検出値を用いて、燃料噴射弁に印加される電圧を過不足なく昇圧でき、それにより、燃料噴射弁の適正な動作を確保しながら、発熱の抑制と省エネルギ化を図ることができる燃料噴射弁用の昇圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、電磁式の燃料噴射弁4を駆動するために燃料噴射弁4に印加される電圧の昇圧を制御する燃料噴射弁用の昇圧制御装置であって、電源(実施形態における(以下、本項において同じ)バッテリ11)の電圧(バッテリ電圧VB)を昇圧するための昇圧回路20と、燃料噴射弁4に印加するために、昇圧された電圧が充電されるコンデンサ25と、コンデンサ25の電圧(コンデンサ電圧VC)を検出する電圧検出手段(電圧検出回路51)と、燃料噴射弁4の駆動中のとき、または燃料噴射弁4の非駆動中で、検出されたコンデンサ25の電圧が所定の下限値VREFL以下のときに、昇圧回路20の昇圧動作を実行させ、燃料噴射弁4の非駆動中で、コンデンサ25の電圧が所定の上限値VREFH以上のときに、昇圧回路20の昇圧動作を停止させる昇圧動作制御手段(CPU40、図4のステップ5〜9)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、電源の電圧は、昇圧回路によって昇圧され、コンデンサに充電される。昇圧されたコンデンサの電圧は、電磁式の燃料噴射弁に印加され、それにより、燃料噴射弁が駆動され、燃料が噴射される。
【0010】
また、コンデンサ電圧を検出するとともに、燃料噴射弁の駆動中のとき、または燃料噴射弁の非駆動中で、検出されたコンデンサ電圧が所定の下限値以下のときには、昇圧回路の昇圧動作が実行される。これにより、燃料噴射弁を駆動するのに十分な昇圧電圧を確保することができる。
【0011】
また、燃料噴射弁の非駆動中で、検出されたコンデンサ電圧が所定の上限値以上のときには、昇圧回路の昇圧動作が停止される。これにより、余分な昇圧が確実に回避されることで、発熱を抑制できるとともに、エネルギの無駄な消費を防止し、省エネルギ化を図ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の燃料噴射弁用の昇圧制御装置において、昇圧回路20は、電源の電圧を昇圧するためのコイル23と、一端がコイル23の出力側に接続され、他端がアースに接続された第1スイッチ21と、一端がコイル23と第1スイッチ21の間に接続され、他端がコンデンサ25の入力側に接続された第2スイッチ22と、を有し、第1スイッチ21のON/OFFと第2スイッチ22のOFF/ONを互いに同期させながらスイッチングすることによって、昇圧動作を行うように構成され、上限値VREFHおよび下限値VREFLと比較されるコンデンサ23の電圧を、昇圧回路20の昇圧動作中のときに、第1および第2スイッチ21、22のスイッチングに同期した所定のタイミングでサンプリングし、昇圧回路20の昇圧動作中でないときに、所定の周期でサンプリングする電圧サンプリング手段(CPU40、図4のステップ2〜4)をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、昇圧回路は、電源の電圧を昇圧するためのコイルと、第1および第2スイッチを有しており、第1スイッチのON/OFFと第2スイッチのOFF/ONを互いに同期させながらスイッチングすることによって、昇圧動作が行われる。この昇圧回路の昇圧動作中には、上限値および下限値と比較されるコンデンサ電圧を、第1および第2スイッチのスイッチングに同期した所定のタイミングで、サンプリングする。このように、コンデンサ電圧のサンプリングを、第1および第2スイッチのスイッチングに同期した統一された明確なタイミングで行うので、これらのスイッチング間におけるコンデンサ電圧の変動の影響を受けることなく、コンデンサ電圧を精度良く読み込むことができる。
【0014】
また、コンデンサ電圧が安定している昇圧回路の非昇圧動作中には、コンデンサ電圧を所定の周期でサンプリングすることによって、コンデンサ電圧を同様に精度良く読み込むことができる。したがって、以上のように精度良く読み込まれたコンデンサ電圧を用いて、昇圧動作の実行の可否を適切に決定でき、昇圧制御をより適切に行うことができる。その結果、コンデンサの過電流を監視するために従来、設けられていた電流検出回路を省略でき、それにより、製造コストを削減できるとともに、発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】燃料噴射弁を概略的に示す図である。
【図2】燃料噴射弁を駆動する駆動回路を示す回路図である。
【図3】昇圧回路の昇圧動作を示すタイミングチャートである。
【図4】昇圧制御処理を示すフローチャートである。
【図5】昇圧制御処理によって得られる動作例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)4は、例えば、図示しないガソリンエンジン(以下「エンジン」という)に気筒ごとに設けられ、各気筒内に燃料を直接、噴射するのに用いられるものである。
【0017】
このインジェクタ4は、電磁式のものであり、ケーシング5内に収容され、その上端部に固定された電磁石6と、ばね7と、電磁石6の下方に配置されたアーマチュア8と、このアーマチュア8の下側に一体に設けられた弁体9などで構成されている。インジェクタ4には、燃料供給装置(図示せず)から高圧の燃料が供給される。
【0018】
電磁石6は、ヨーク6aと、その外周に巻かれたコイル6bで構成されており、このコイル6bには、図2に示す駆動回路10が接続されている。ばね7は、ヨーク6aとアーマチュア8の間に配置されており、弁体9を閉弁側に付勢する。
【0019】
駆動回路10は、バッテリ11の電圧を昇圧するための昇圧回路20と、コイル6bに電圧を印加し、インジェクタ4を駆動するためのインジェクタ駆動回路30で構成されている。これらの回路20、30の動作は、後述するCPU40によって制御される。なお、バッテリ11は、エンジンを動力源とする発電機(図示せず)を用いて充電される。
【0020】
昇圧回路20は、第1および第2スイッチ21、22、コイル23、ダイオード24およびコンデンサ25で構成されている。第1スイッチ21は、Nチャネル型のFETで構成されており、そのドレインは、バッテリ11に接続されたコイル23の出力側に接続されている。また、第1スイッチ21のソースおよびゲートはそれぞれ、アースおよびCPU40に接続されている。このゲートにCPU40から第1駆動信号SD1が入力されると、第1スイッチ21がONされ、そのドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0021】
第2スイッチ22もまた、Nチャネル型のFETで構成されており、そのドレインは、第1スイッチ21とコイル23の間に接続されている。また、第2スイッチ22のソースおよびゲートはそれぞれ、コンデンサ25の入力側およびCPU40に接続されている。このゲートにCPU40から第2駆動信号SD2が入力されると、第2スイッチ22がONされ、そのドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0022】
また、ダイオード24は、第2スイッチ22と並列に設けられており、そのアノード側が第2スイッチ22のドレインに接続され、カソード側が第2スイッチ22のソースに接続されている。
【0023】
この昇圧回路20では、図3に示すようにして昇圧動作が行われる、まず、第1駆動信号SD1を出力し、第1スイッチ21をONする。これにより、バッテリ11の電圧(以下「バッテリ電圧」という)VBがコイル23に印加されることによって、コイル23にコイル電流ILが流れ、電気エネルギが蓄えられる。
【0024】
この状態から、第1駆動信号SD1の出力を停止し、第1スイッチ21をOFFするとともに、その直後に、第2駆動信号SD2を出力し、第2スイッチ22をONする。これにより、コイル23に蓄えられた電気エネルギが、第2スイッチ22を介してコンデンサ25に供給され、蓄電される。これに伴い、コイル電流ILが低下するとともに、コンデンサ25の電圧(以下「コンデンサ電圧」という)VCが上昇する。
【0025】
その後、第2駆動信号SD2の出力を停止し、第2スイッチ22をOFFするとともに、その直後に、第1駆動信号SD1を出力し、第1スイッチ21をONすることによって、コイル23に電気エネルギが再び蓄えられる。以後、同様に、第1および第2スイッチ21、22の一方のON動作と他方のOFF動作を互いに同期させながら交互に切り換えることによって、昇圧動作が行われる。以下、このような昇圧制御を「同期整流制御」という。なお、図3中のtsmp1〜tsmp4は、後述するコンデンサ電圧VCのサンプリングタイミングを示す。
【0026】
インジェクタ駆動回路30は、Nチャネル型のFETでそれぞれ構成された第3〜第5スイッチ31〜33と、ツェナーダイオード34などで構成されている。
【0027】
第3スイッチ31のドレイン、ソースおよびゲートはそれぞれ、昇圧回路20、電磁石6のコイル6bの一端およびCPU40に接続されている。このゲートにCPU40から第3駆動信号SD3が入力されると、第3スイッチ31がONされ、そのドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0028】
第4スイッチ32のドレイン、ソースおよびゲートはそれぞれ、バッテリ11、コイル6bの一端およびCPU40に接続されている。このゲートにCPU40から第4駆動信号SD4が入力されると、第4スイッチ32がONされ、そのドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0029】
第5スイッチ33のドレイン、ソースおよびゲートはそれぞれ、コイル6bの他端、アースおよびCPU40に接続されている。このゲートにCPU40から第5駆動信号SD5が入力されると、第5スイッチ33がONされ、そのドレイン−ソース間が通電状態になる。
【0030】
ツェナーダイオード34は、アノード側がアースに接続され、カソード側がコイル6bの他端に接続されている。
【0031】
以上の構成により、このインジェクタ駆動回路30では、CPU40からの第3〜第5駆動信号SD3〜SD5に応じて、第3〜第5スイッチ31〜33のON/OFFを切り換え、インジェクタ4のコイル6bへの電圧の印加状態を制御することによって、インジェクタ4の動作が制御される。
【0032】
具体的には、第3〜第5スイッチ31〜33がOFF状態のときには、インジェクタ4のコイル6bが印加されず、コイル6bに駆動電流IACが流れないことで、インジェクタ4の弁体9は、ばね7の付勢力で閉弁位置(図1(a))に位置し、インジェクタ4は閉弁状態に保持される。
【0033】
この状態から、第3および第5スイッチ31、33をONすると、昇圧されたコンデンサ電圧VCがインジェクタ4のコイル6bに印加されることによって、コイル6bに大きな駆動電流IACが流れ、電磁石6が過励磁される(過励磁制御)。この過励磁により、アーマチュア8が、ばね7の付勢力に抗して電磁石6に引き寄せられることで、インジェクタ4が開弁し(図1(b))、インジェクタ4から燃料が噴射される。このように、インジェクタ4を駆動する際、まず過励磁制御を行うことによって、燃料の高い圧力に抗してインジェクタ4を迅速に開弁させるのに十分な磁力が確保される。
【0034】
その後、第3スイッチ31をOFFし、コンデンサ電圧VCの印加を終了するとともに、第4スイッチ32をONすると、バッテリ電圧VBがインジェクタ4のコイル6bに印加される。これにより、コイル6bに小さな駆動電流IACが流れることによって、インジェクタ4は開弁状態に保持され、燃料の噴射が継続される(保持制御)。この保持制御では、バッテリ電圧VBの印加が間欠的に行われ、駆動電流IACは所定の範囲内の小さな値に制御される。
【0035】
この状態から、第4および第5スイッチ32、33をOFFすると、バッテリ電圧VBの印加が終了し、それに応じて弁体9がばね7の付勢力で閉弁位置に復帰することによって、インジェクタ4が閉弁し、燃料の噴射が終了する。また、コイル6bに残留した電流が、ツェナーダイオード14を介してアースに流れることで、電磁石6は非励磁状態になる。
【0036】
また、昇圧回路20には、電圧検出回路51が設けられている。この電圧検出回路51は、コンデンサ電圧VCを検出し、その検出信号をCPU40に出力する。また、CPU40にはさらに、イグニッション・スイッチ(図示せず)から、そのON/OFF状態を表す検出信号が入力される。
【0037】
CPU40は、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などとともに、マイクロコンピュータを構成するものである。CPU40は、第1および第2スイッチ21、22のON/OFFを制御し、昇圧回路20の昇圧動作を制御する昇圧制御や、第3〜第5スイッチ31〜33のON/OFFを制御することによって、インジェクタ4を駆動し、燃料噴射量および燃料噴射時期を制御する燃料噴射制御などを実行する。なお、実施形態では、CPU40は、昇圧動作制御手段および電圧サンプリング手段に相当する。
【0038】
図4は、上述した昇圧制御処理を示すフローチャートである。本処理は、所定の周期ΔT(例えば1ms)で、繰り返し実行される。本処理ではまず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、イグニッション・スイッチがON状態であるか否かを判別する。この答がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
【0039】
上記ステップ1の答がYESで、イグニッション・スイッチがON状態のときには、昇圧フラグF_VCUPが「1」であるか否かを判別する(ステップ2)。後述するように、この昇圧フラグF_VCUPは、昇圧回路20の昇圧動作中のときに「1」にセットされるものである。
【0040】
このステップ2の答がYESで、昇圧動作中のときには、第1駆動信号SD1がONからOFFに変化した直後であるか否かを判別する(ステップ3)。この答がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
【0041】
一方、上記ステップ3の答がYESで、今回が、第1駆動信号SD1がONからOFFに切り換わった直後、すなわち第2駆動信号SD2がOFFからONに切り換わる直前のタイミング(図3のタイミングtsmp1〜tsmp4)に相当するときには、電圧検出回路51で検出されたコンデンサ電圧VCをサンプリングする(ステップ4)。
【0042】
一方、前記ステップ2の答がNOで、昇圧動作中でないときには、上記ステップ4に直接、進み、コンデンサ電圧VCをサンプリングする。
【0043】
このステップ4に続くステップ5では、インジェクタ4の駆動中であるか否かを判別する。この答がYESで、インジェクタ4の駆動中のときには、昇圧フラグF_VCUPを「1」にセットする(ステップ6)ことによって、昇圧動作を実行し、本処理を終了する。具体的には、図3に示すような同期整流制御を実行し、コンデンサ電圧VCを昇圧する。
【0044】
前記ステップ5の答がNOで、インジェクタ4の駆動中でないときには、ステップ4でサンプリングされたコンデンサ電圧VCが、下限値VREFL以下であるか否かを判別する(ステップ7)。この答がYESで、インジェクタ4の非駆動中に、コンデンサ電圧VCが下限値VREFL以下まで低下したときには、コンデンサ電圧VCを上昇させるために、前記ステップ6に進み、昇圧動作を実行する。
【0045】
一方、前記ステップ7の答がNOのときには、コンデンサ電圧VCが、上限値VREFHL以上であるか否かを判別する(ステップ8)。この答がYESのとき、すなわち、インジェクタ4の非駆動中、昇圧動作によって、コンデンサ電圧VCが上限値VREFHL以上まで上昇したときには、昇圧フラグF_VCUPを「0」にセットする(ステップ9)ことによって、昇圧動作を停止し、本処理を終了する。具体的には、第1および第2スイッチ21、22をいずれもOFF状態に保持することによって、コンデンサ電圧VCの昇圧を停止する。
【0046】
一方、前記ステップ8の答がNOで、インジェクタ4の非駆動中、VREFL<VC<VREFHのときには、そのまま本処理を終了する。すなわち、この場合には、それまでの昇圧動作の実行状態または停止状態が維持される。
【0047】
図5は、上述した昇圧制御処理によって得られる動作例を示している。まず、タイミングt1においてインジェクタ4の駆動が開始されると、図4のステップ5の答がYESになることで、昇圧フラグF_VCUPが「1」にセットされ、昇圧動作が開始される。この場合、インジェクタ4の駆動の初期には、コンデンサ電圧VCを用いた過励磁制御が行われるため、インジェクタ4のコイル6bに供給される駆動電流IACは急激に増大し、コンデンサ電圧VCは低下する。
【0048】
その後、過励磁制御が終了し、バッテリ電圧VBを用いた保持制御に移行する(t2)ことによって、駆動電流IACはより小さな範囲に保持される。この保持制御中、昇圧動作が継続されることで、コンデンサ電圧VCは上昇する。
【0049】
また、インジェクタ4の駆動終了時(t3)以降においても、昇圧動作が継続されることで、コンデンサ電圧VCはさらに上昇する。そして、コンデンサ電圧VCが上限値VREFHに達したときに(t4)、図4のステップ8の答がYESになることで、昇圧フラグF_VCUPが「0」にセットされ、昇圧動作が停止される。
【0050】
その後、インジェクタ4の次の駆動が開始されると(t5)、昇圧フラグF_VCUPが「1」にセットされ、昇圧動作が開始される。その後のインジェクタ4の駆動が終了するまで(t5〜t7)の動作は、上述したt1〜t3の場合と同様であり、この間、昇圧動作が継続される。
【0051】
そして、インジェクタ4の駆動終了後、コンデンサ電圧VCが上限値VREFHまで上昇したときに(t8)、昇圧フラグF_VCUPが「0」にセットされ、昇圧動作が停止される。また、この昇圧動作の停止に伴い、コンデンサ電圧VCが下限値VREFLまで低下したときに(t9)、図4のステップ7の答がYESになることで、昇圧フラグF_VCUPが「1」にセットされ、昇圧動作が再開される。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、インジェクタ4の駆動中のとき、またはインジェクタ4の非駆動中で、検出されたコンデンサ電圧VCが所定の下限値VREFL以下のときに、昇圧回路20の昇圧動作を実行するので(図4のステップ5〜7)、インジェクタ4を駆動するのに十分な昇圧電圧を確保することができる。
【0053】
また、インジェクタ4の非駆動中で、コンデンサ電圧VCが所定の上限値VREFH以上のときには、昇圧回路20の昇圧動作を停止するので(ステップ8および9)、余分な昇圧が確実に回避されることで、発熱を抑制できるとともに、バッテリ11の電力の無駄な消費を防止し、燃費を向上させることができる。
【0054】
さらに、昇圧回路20の昇圧動作中には、コンデンサ電圧VCのサンプリングを、第1スイッチ21を駆動する第1駆動信号SD1がONからOFFに切り換わった直後、すなわち第2スイッチ22を駆動する第2駆動信号SD2がOFFからONに切り換わる直前のタイミング(tsmp1〜tsmp4)で行うので(ステップ2〜4)、これらのタイミング間におけるコンデンサ電圧VCの変動の影響を受けることなく、コンデンサ電圧VCを精度良く読み込むことができる。
【0055】
また、コンデンサ電圧VCが安定している昇圧回路20の非昇圧動作中には、コンデンサ電圧VCを、図4の昇圧制御処理の実行周期ΔTでサンプリングすることによって(ステップ2および4)、コンデンサ電圧VCを同様に精度良く読み込むことができる。したがって、精度良く読み込まれたコンデンサ電圧VCを用いて、昇圧動作の実行の可否を適切に決定でき、昇圧制御をより適切に行うことができる。その結果、コンデンサの過電流を監視するために従来、設けられていた電流検出回路を省略でき、それにより、製造コストを削減できるとともに、発熱を抑制することができる。
【0056】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、昇圧回路20に第2スイッチ22が設けられているが、これを削除した回路、すなわち第1スイッチとダイオードで構成された回路でもよい。この構成によっても、請求項1による前述した効果を同様に得ることができる。
【0057】
また、昇圧動作中におけるコンデンサ電圧VCのサンプリングタイミングを、第1スイッチ21がONからOFFに切り換わった直後(第2スイッチ22がOFFからONに切り換わる直前)に設定しているが、これに限らず、第2スイッチ22がONからOFFに切り換わった直後(第1スイッチ21がOFFからONに切り換わる直前)に設定してもよい。
【0058】
さらに、実施形態では、昇圧回路20の非昇圧動作中におけるコンデンサ電圧VCのサンプリングを、昇圧制御処理の実行周期である所定時間ごとに行っているが、エンジンのクランク角を算出し、所定のクランク角ごとに行ってもよい。
【0059】
また、実施形態の燃料噴射弁は、車両用の直噴式のガソリンエンジン用のものであるが、これに限らず、ポート噴射式のエンジンや、ディーゼルエンジン、クランク軸が鉛直に配置された船外機などのような船舶推進機用エンジンなど、産業用の各種の内燃機関に用いられるものでもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
4 インジェクタ(燃料噴射弁)
11 バッテリ(電源)
20 昇圧回路
21 第1スイッチ
22 第2スイッチ
23 コイル
25 コンデンサ
40 CPU(昇圧動作制御手段、電圧サンプリング手段)
51 電圧検出回路(電圧検出手段)
VB バッテリ電圧(電源の電圧)
VC コンデンサ電圧(コンデンサの電圧)
VREFH 上限値
VREFL 下限値
tsmp1〜4 サンプリングタイミング(所定のタイミング)
ΔT 所定の周期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁式の燃料噴射弁を駆動するために当該燃料噴射弁に印加される電圧の昇圧を制御する燃料噴射弁用の昇圧制御装置であって、
電源の電圧を昇圧するための昇圧回路と、
前記燃料噴射弁に印加するために、前記昇圧された電圧が充電されるコンデンサと、
前記コンデンサの電圧を検出する電圧検出手段と、
前記燃料噴射弁の駆動中のとき、または当該燃料噴射弁の非駆動中で、前記検出されたコンデンサの電圧が所定の下限値以下のときに、前記昇圧回路の昇圧動作を実行させ、前記燃料噴射弁の非駆動中で、前記コンデンサの電圧が所定の上限値以上のときに、前記昇圧回路の昇圧動作を停止させる昇圧動作制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射弁用の昇圧制御装置。
【請求項2】
前記昇圧回路は、
前記電源の電圧を昇圧するためのコイルと、
一端が前記コイルの出力側に接続され、他端がアースに接続された第1スイッチと、
一端が前記コイルと前記第1スイッチの間に接続され、他端が前記コンデンサの入力側に接続された第2スイッチと、を有し、
前記第1スイッチのON/OFFと前記第2スイッチのOFF/ONを互いに同期させながらスイッチングすることによって、昇圧動作を行うように構成され、
前記上限値および前記下限値と比較される前記コンデンサの電圧を、前記昇圧回路の昇圧動作中のときに、前記第1および第2スイッチのスイッチングに同期した所定のタイミングでサンプリングし、前記昇圧回路の昇圧動作中でないときに、所定の周期でサンプリングする電圧サンプリング手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の燃料噴射弁用の昇圧制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−36398(P2013−36398A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173541(P2011−173541)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】