説明

燃料噴射弁用制振インシュレータ

【課題】内燃機関の運転時であれ、燃料噴射弁の燃料噴射位置はもとより、燃料噴射弁の制振機能を好適に維持することのできる燃料噴射弁用制振インシュレータを提供する。
【解決手段】燃料噴射弁用制振インシュレータは、燃料噴射弁11に生じる振動を制振する。制振インシュレータ30は、シリンダヘッドの肩部18と、燃料噴射弁11にあって肩部に対向するテーパ面24との間に介在されるものであり、テーパ面24に当接する円環形状のトレーランスリング33と、トレーランスリング33と肩部18の間に配置される弾性部材36とを備える。弾性部材36には、それぞれ円環状のコイルスプリング34とスリーブ35とが併設するように埋め込まれている。スリーブ35は、コイルスプリング34の螺旋を構成する個々の小リング部の外径よりも低く形成され、トレーランスリング33側及び肩部18側の少なくとも一方が弾性部材36に埋没されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射弁に生じる振動を制振する燃料噴射弁用制振インシュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば燃焼室内に燃料が噴射されるタイプの内燃機関、いわゆる筒内噴射式の内燃機関にあってはシリンダヘッドの挿入孔に燃料噴射弁の先端寄り部分が挿通支持され、また燃料噴射弁の基端寄り部分がデリバリパイプ(燃料噴射弁カップ)に挿通支持されることによって、シリンダヘッドとデリバリパイプとの間に燃料噴射弁が架設される。そして通常、このような燃料噴射弁には、燃料の噴射や停止によってデリバリパイプを介して供給されている燃圧に変動が生じると、その燃圧変動に基づく振動や燃料噴射弁の作動振動が発生する。そこで、燃料噴射弁とシリンダヘッドの挿入孔との間には、こうした燃料噴射弁の振動を吸収、抑制する制振インシュレータが取付けられていることが多い。
【0003】
一方、シリンダヘッドとデリバリパイプとは本来別体の部品であるために、例えば部品の製造や加工にかかる公差、製造時の組み付けにかかる公差、内燃機関の運転に伴う熱変形や各種振動などを要因としてそれらの相対位置が変化することが避けられない。すなわち、シリンダヘッドとデリバリパイプとの間に架設されている上記燃料噴射弁も、その軸心がシリンダヘッドの挿入孔の軸心に対して傾斜され、燃料噴射弁の上記シリンダヘッドやデリバリパイプに支持される位置に位置ずれが生じるようになる。そして、このような位置ずれは、燃料噴射弁の基端側にあっては、上記デリバリパイプ(燃料噴射弁カップ)との間での燃料漏れを防いでいるO−リングの一部にゆるみを生じさせるなど燃料漏れの発生にもつながりかねない。
【0004】
そこで、燃料噴射弁の振動を吸収、抑制するとともに、こうした燃料噴射弁の軸心の傾斜による影響の軽減を意図したインシュレータが提案されており、その一例として特許文献1に記載されているインシュレータが知られている。この特許文献1に記載のインシュレータは、図7に示すように、シリンダヘッド51の肩部54と、前記肩部54に対向するようにテーパ状に拡径された燃料噴射弁55のテーパ状段差部57との間に挟まれる環状の調整エレメント60を備えている。燃料噴射弁55の噴射ノズル56は、シリンダヘッド51の挿入孔52(受容孔)に挿通配置され、シリンダヘッド51の肩部54は、挿入孔52の側壁53に拡開されている。調整エレメント60は、挿入孔52の上記肩部54に沿って延びる第1の脚61と、燃料噴射弁55の上記テーパ状段差部57に沿って延びる第2の脚62とを有している。そして上記第1の脚61が挿入孔52の肩部54に面接触し、上記第2の脚62が燃料噴射弁55のテーパ状段差部57に面接触することで、燃料噴射弁55をシリンダヘッド51に対して弾性支持する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4191734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなインシュレータによれば、組付け時に燃料噴射弁55の軸心C2がシリンダヘッド51の挿入孔52とデリバリパイプとの間で偏心させられたとしても、燃料噴射弁55のテーパ状段差部57に従ってたわむ第2の脚62によって生じる力に基づき、第1の脚61が、挿入孔52の肩部54に沿って移動する。このことによって、上記挿入孔52やデリバリパイプに対する燃料噴射弁55の位置関係が適正に補償されるようになる。その一方、内燃機関の運転時には、上述した燃圧に基づく高い圧力が燃料噴射弁55のテーパ状段差部57を通じて調整エレメント60に印加される。このとき、調整エレメント60は、燃圧による金属疲労が蓄積したり、想定外の押圧力を受けて塑性変形したりすることなどにより、燃料噴射弁55をシリンダヘッド51に対して弾性支持できなくなるおそれもある。このように弾性支持されなくなった燃料噴射弁55は、シリンダヘッド51に対する燃料噴射弁55の上下方向の位置が移動することとなるため、燃料噴射位置も変化するなど最適な燃焼状態を維持できなくなるおそれがある。また、弾性を失った調整エレメント60は、燃料噴射弁55が生じる燃圧に基づく振動を減衰せずにシリンダヘッド51に伝達することとなる。これによって、伝達した振動を要因としたノイズが内燃機関から発生したり、内燃機関のセンサが伝達した振動をノッキングとして誤検出したりすることなどが懸念される。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の運転時であれ、燃料噴射弁の燃料噴射位置はもとより、燃料噴射弁の制振機能を好適に維持することのできる燃料噴射弁用制振インシュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果を記載する。
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、燃料噴射弁に生じる振動を制振する燃料噴射弁用制振インシュレータであって、前記燃料噴射弁は、シリンダヘッドに設けられる挿入孔に挿通する状態で前記シリンダヘッドに装着され、前記挿入孔の入口部分には肩部が環状に拡開形成され、前記燃料噴射弁は、前記肩部に対向するテーパ面を有するようにテーパ状に拡径した段差部を備え、前記制振インシュレータは前記段差部と前記肩部との間に介在され、前記制振インシュレータは、前記テーパ面に当接する円環形状のトレーランスリングと、前記トレーランスリングと前記肩部の間に配置される弾性部材とを備え、前記弾性部材は、前記燃料噴射弁に生じる振動を制振すべく、前記トレーランスリングの底面に対応する円環形状に形成され、前記弾性部材には、前記弾性部材の円環形状に対応して円環状に配列されたコイルスプリングと、前記コイルスプリングに並設された円環状のスリーブとが埋め込まれ、前記スリーブは、その高さが前記コイルスプリングの螺旋を構成する個々の小リング部の外径よりも低く形成されているとともに、その前記トレーランスリング側及び前記肩部側の少なくとも一方が前記弾性部材に埋没されていることを要旨とする。
【0010】
このような構成によれば、コイルスプリングが押圧などにより大きく変形して燃料噴射弁の位置がスリーブにより維持されるようになる場合、スリーブはトレーランスリング側及び肩部側の少なくとも一方が弾性部材に埋没していることから、燃料噴射弁とシリンダヘッドとの間には、スリーブとともに弾性部材が介在されるようになる。これにより、燃料噴射弁からスリーブを介してシリンダヘッドに伝達される振動を、その経路の途中に介在される弾性部材によって低減することができる。すなわち、コイルスプリングが大きく変形されたとしても、スリーブにより燃料噴射弁の位置が維持されることはもとより、内燃機関に伝達される振動も抑制されるようになる。その結果、燃料噴射弁の位置がスリーブにより維持されるような場合であれ、燃料噴射弁から内燃機関に伝達される振動が抑制され、伝達された振動を要因に内燃機関から生じるノイズが低減されたり、伝達された振動を内燃機関のノックセンサがノッキングとして誤検出したりすることなどが抑制される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータにおいて、前記スリーブの剛性は、前記コイルスプリングの剛性よりも高いことを要旨とする。
【0012】
このような構成によれば、燃料噴射弁から強い押圧力を受けたときに塑性変形される程に大きく変形されるおそれのあるコイルスプリングの塑性変形に至る過剰な変形を確実に防止することができるようになる。これにより、制振インシュレータの制振特性を適切に維持することができるようになる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータにおいて、前記コイルスプリングと前記スリーブは、互いに接触しない状態に維持されて、前記弾性部材に埋め込まれていることを要旨とする。
【0014】
このような構成によれば、コイルスプリングへのスリーブの干渉が低減される。よって、コイルスプリングに付与されている制振特性がスリーブの干渉によって変化されてしまうおそれが軽減される。これによって、制振インシュレータの制振特性を適切に維持することができるようになる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータにおいて、前記スリーブは、前記コイルスプリングの外周側に位置することを要旨とする。
【0016】
このような構成によれば、コイルスプリングを小型化することができる。また、スリーブを外側に配置すれば、スリーブの大きさをシリンダヘッドの挿入孔に落下する大きさよりも大きくすることもできるようになる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータにおいて、前記スリーブは、前記トレーランスリング側が前記弾性部材に埋没されていることを要旨とする。
【0018】
このような構成によれば、スリーブとトレーランスリングとの間に弾性部材が介在されることとなるため、燃料噴射弁からトレーランスリングへ伝達された振動が、弾性部材により抑制されてからスリーブに伝達されるようになる。これにより、スリーブから内燃機関への振動伝達も抑制されるため、燃料噴射弁がスリーブにより支持されるような場合であれ、燃料噴射弁から内燃機関への振動伝達が抑制されるようになる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータにおいて、前記スリーブは、前記肩部側が前記弾性部材に埋没されていることを要旨とする。
【0020】
このような構成によれば、スリーブと肩部との間に弾性部材が介在されることとなるため、燃料噴射弁からスリーブに伝達された振動が、弾性部材により抑制されてから肩部に伝達されるようになる。このように、スリーブから内燃機関への振動伝達が抑制されるため、燃料噴射弁がスリーブにより支持されるような場合であれ、燃料噴射弁から内燃機関への振動伝達が抑制されるようになる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータにおいて、前記制振インシュレータは更に、前記弾性部材と前記肩部の間に介在される円環状の金属製プレートを有し、前記金属製プレートは、前記トレーランスリングの内周側から、前記トレーランスリングと前記弾性部材を一体に挟持するように構成されていることを要旨とする。
【0022】
このような構成によれば、弾性部材に強く接合させることが容易ではないトレーランスリングの、弾性部材に対する相対位置が、プレートによって内周面から規定される。よって、弾性部材へのトレーランスリングの適正な積層を容易にして、このような制振インシュレータの実施可能性の向上が図られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る制振インシュレータの一実施形態が適用される燃料噴射装置の概要を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の制振インシュレータの平面構造を示す平面図。
【図3】同実施形態の制振インシュレータの図2の3−3線における断面構造を示す断面図。
【図4】同実施形態の制振インシュレータの端面構造を示す端面図。
【図5】本発明に係る制振インシュレータのその他の実施形態の端面構造を示す端面図。
【図6】本発明に係る制振インシュレータのまた他の実施形態の端面構造を示す端面図。
【図7】従来の制振インシュレータの断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る制振インシュレータの第1の実施形態について図1〜図4に従って説明する。
【0025】
図1に示すように、燃料噴射装置10には燃料噴射弁11が設けられている。燃料噴射弁11の先端(図1にて下方)寄り部分はシリンダヘッド12の挿入孔15に挿通されることによって支持されるとともに、燃料噴射弁11の基端(図1にて上方)寄り部分は、デリバリパイプ13が有する燃料噴射弁カップ14によって支持されている。このようにして燃料噴射弁11はシリンダヘッド12とデリバリパイプ13の間に架設されている。
【0026】
シリンダヘッド12の挿入孔15は、シリンダヘッド12の外面12A(図1の上側)から、筒内噴射式の内燃機関の燃焼室に面する内面12B(図1の下側)に向うにつれて孔径が順に細くなる多段状の孔として、シリンダヘッド12の外面12Aから内面12Bに貫通形成されている。すなわち、シリンダヘッド12の外面12Aに開口する入口である挿入孔15の入口部17の孔径が最も大きく、内面12Bに開口する挿入孔15の先端孔部16の孔径が最も小さくなっている。これにより挿入孔15の孔径が変化する部分には、それぞれ孔径の差に基づく段差部が形成されることから、例えば、入口部17と該入口部17に連続する中孔部19との間には、段差部としての肩部18が形成される。つまり肩部18は、中孔部19の外面12A側端部を環状に拡開させたようなかたちに形成されている。挿入孔15の先端孔部16が筒内噴射式の燃焼室に連通されていることから、挿入孔15の先端孔部16には燃料噴射弁11の噴射ノズル23が挿入装着される。これにより先端孔部16は、噴射ノズル23から噴出される高圧燃料を燃焼室に導入するようになっている。
【0027】
デリバリパイプ13は、噴射圧力にまで蓄圧された高圧燃料を燃料噴射弁11に供給するものであることから、デリバリパイプ13は、燃料噴射弁11の基端部が挿入装着される燃料噴射弁カップ14を有している。燃料噴射弁カップ14に燃料噴射弁11の基端部が挿入されると、当該燃料噴射弁11の基端部と燃料噴射弁カップ14の内周面14Aとの間の燃料シール性は、両者間に配置されるO−リング29によって確保される。
【0028】
燃料噴射弁11は、デリバリパイプ13から供給された高圧燃料を、シリンダヘッド12によって区画される燃焼室に所定のタイミングで噴射するものである。燃料噴射弁11のハウジングは、軸方向中央から先端側(挿入孔15側)と基端側(燃料噴射弁カップ14側)それぞれに向かって順に細くなる多段円筒形状をしている。
【0029】
すなわち燃料噴射弁11のハウジングの中央は大径部20であり、大径部20から基端に向かって順に、大径部20よりも小径の基端中継部26と、基端中継部26より小径の基端挿入部27と、基端挿入部27より小径の基端被シール部28とを備えている。基端中継部26には、燃料噴射を制御するために燃料噴射弁11に内蔵されている電磁弁などへ駆動信号を伝達させるための配線が接続されるコネクタ26Jが設けられている。基端被シール部28は、O−リング29を挿入支持している。
【0030】
O−リング29は、燃料に対して耐性を有するゴムなどの弾性部材によって略円環状に形成されているとともに、高圧燃料圧力への耐圧も有している。O−リング29の内周は、基端被シール部28の外周面に密着されるようになっていることから、O−リング29の内周と基端被シール部28の外周面との密着によって、燃料噴射弁11とO−リング29との間における高圧燃料の燃料漏れを防止するシール性を発揮する。また、O−リング29の外周は、デリバリパイプ13の燃料噴射弁カップ14の内周面14Aに密着する大きさに形成されている。これにより燃料噴射弁11の基端部がデリバリパイプ13の燃料噴射弁カップ14に挿入されると、燃料噴射弁11のO−リング29の外周は、燃料噴射弁カップ14の内周面14Aに密着するため、高圧燃料に対するシール性を発揮する。このようにO−リング29が、基端被シール部28の外周面と、燃料噴射弁カップ14の内周面14Aとのそれぞれにシール性を発揮することによって、燃料噴射弁11と燃料噴射弁カップ14との間には、高圧燃料に対する燃料シール性が確保されるようになっている。
【0031】
また、燃料噴射弁11のハウジングは、大径部20から先端に向かって順に、大径部20よりも細い径の中径部21と、中径部21より細い径の小径部22とを備えている。小径部22の先端には、燃料を噴射する噴射ノズル23が設けられている。小径部22において、噴射ノズル23よりも基端側には、挿入孔15の壁面との間のシール性を確保することによって燃焼室の気密性を維持するためのシール部25が設けられている。
【0032】
大径部20と中径部21の間には、大径部20の外径と中径部21の外径との差に基づく段差部が形成されており、この段差部には、先端側に向って絞られる形状のテーパ面24が設けられている。すなわち、燃料噴射弁11のテーパ面24は、燃料噴射弁11が挿入孔15に挿入されたとき、シリンダヘッド12の挿入孔15の入口部17に位置する肩部18に、所定の傾斜をもって対向する。なお、燃料噴射弁11の中心軸(軸心C)に対する、テーパ面24の角度は、軸心Cに平行な軸心平行線C1に対する角度として示すと30度〜60度が好ましいが、0度より大きく90度より小さい値から選択可能である。
【0033】
燃料噴射弁11のテーパ面24と、挿入孔15の肩部18との間には、環状の制振インシュレータ30が設けられている。制振インシュレータ30は、デリバリパイプ13を介して供給されている燃料の燃圧に燃料噴射弁11による燃料の噴射や停止によって変動が生じたとき、その燃圧変動に基づいて燃料噴射弁11に生じる振動を吸収、抑制するためのものである。
【0034】
図2及び図3に示すように、制振インシュレータ30は、外径Ra及び内径Rbの円環状をしている。制振インシュレータ30の外径Raは、制振インシュレータ30が環状の肩部18に載ることを可能ならしめる大きさに形成されている。また制振インシュレータ30の内径Rbは、燃料噴射弁11の中径部21が制振インシュレータ30との間に遊びのある状態で制振インシュレータ30を挿通することを許容する大きさに形成されている。図1に示すように、中径部21の燃料噴射弁11の先端側部分には、制振インシュレータ30の内径Rbよりも大きな外径を有するリング21Rが設けられている。中径部21によって挿通された状態の制振インシュレータ30は、リング21Rによって燃料噴射弁11の中径部21からの離脱が防止されている。
【0035】
図3に示すように、制振インシュレータ30は、環状の制振部材31と、制振部材31の下部(図3において下側)と内周部(図3の軸心C側)を包み込むような断面チャネル状に形成された環状のプレート32と、制振部材31の上部(図3において上側)に設けられた環状のトレーランスリング33とを備えている。すなわち、プレート32は、制振部材31が積層されるプレート底部37を有し、制振部材31の上にトレーランスリング33がさらに積層されている。
【0036】
図4に示すように、制振部材31は、燃料噴射弁11の振動を吸収、抑制するための部材であり、環状のコイルスプリング34と、コイルスプリング34よりも外周側に配置された環状のスリーブ35と、それらコイルスプリング34とスリーブ35とを一体に埋め込んだゴムなどから環状に形成された弾性部材36とを備えている。つまりコイルスプリング34は、螺旋状の長尺体を、燃料噴射弁11を取り囲むように曲げて環状にした形状にされている。図4は、コイルスプリング34の小リング部としての螺旋のうちの一巻分を示し、この一巻分が多数、連続的に繋げられることによってコイルスプリング34の螺旋が構成される。このコイルスプリング34の螺旋の螺旋径(一巻分の外径)である高さH1、及び螺旋の螺旋径(一巻分の外径)である幅W2も、図4に示されている。なお、コイルスプリング34は押圧されないとき、高さH1と幅W2は略同じ長さであるが、上下方向へ押圧されることによりその高さは、高さH1より低くなり、その幅は幅W2より広くなる、すなわちH1<W2の関係となるようにその螺旋一巻き分のリング形状が変形される。コイルスプリング34は、ステンレス、ピアノ線に代表されるばね鋼を素材として作成されている。
【0037】
弾性部材36は、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、フロロシリコーンゴム、アクリルゴムを主原料として、カーボンブラック、シリカ、クレー、炭カルセライトなどの充填材、および各ゴムに適した老化防止剤、加工助剤、加硫剤を配合したゴム、あるいはTPEなどのエラストマーなどが材料として用いられている。弾性部材36は、その内部にコイルスプリング34を埋め込むため、上下方向の高さはコイルスプリング34の高さと同じ高さH1であり、径方向の幅はコイルスプリング34の幅W2を含み同幅W2よりも広い幅W1の形状に形成されている。
【0038】
スリーブ35は、コイルスプリング34よりも高い剛性を有するものであり、例えば、鉄やステンレスなどを含む金属や剛性の高いエンジニアリングプラスチックなどからなり、幅方向(径方向)に幅W3の厚みを有する環状に形成されている。なお、スリーブ35の内径は、スリーブ35の内周側に配置されるコイルスプリング34に接触しない大きさにされている。よって、スリーブ35とコイルスプリング34との間には幅方向(径方向)に弾性部材36の充填された隙間W4が設けられる。すなわちスリーブ35を、コイルスプリング34に接触しないように構成している。よって、コイルスプリング34の有する振動の吸収、制振特性が、コイルスプリング34のスリーブ35への当接によって変化してしまうおそれが軽減される。ひいては制振部材31としても、スリーブ35の影響の小さい好適な振動の吸収、制振特性を発揮することができる。また、スリーブ35の外周側は周方向(径方向)に幅W5の弾性部材36により覆われている。
【0039】
スリーブ35は、その高さH2がコイルスプリング34の断面形状の螺旋径の外径(高さH1)よりも低く形成されている(H2<H1)とともに、上下方向における下端がコイルスプリング34の螺旋径の下端の高さに揃えられている。よって、上下方向における上側にはスリーブ35とコイルスプリング34の間に高さH3(=H1−H2)が設けられるとともに、弾性部材36に埋め込まれているスリーブ35の上側には高さH3の弾性部材36が充填されている。すなわち、スリーブ35の上下方向の上端側は、弾性部材36に埋没されている。これにより制振部材31とトレーランスリング33とが接合されると、スリーブ35の上側とトレーランスリング33のリング底面40との間には、高さH3に対応する厚みの弾性部材36が配置(介在)されるようになる。
【0040】
このようにして制振部材31には、弾性部材36による振動吸収および制振特性と、コイルスプリング34による振動吸収および制振特性とに基づいて、燃料噴射弁11に生じる振動の吸収、制振に適した特性が付与されるようになっている。
【0041】
なお、弾性部材36とコイルスプリング34とは、弾性を維持し得る所定内の負荷が印加される場合であれば適正な弾性変形によって適切な振動の吸収、制振特性を発揮するが、その所定の負荷を越えた負荷が印加される場合、塑性変形して弾性が失われて振動の吸収、制振特性を適切に発揮できないようになる。すなわち、弾性部材36とコイルスプリング34とが燃料噴射弁11からの押圧力によって上下方向に押しつぶされるかたちに変形する場合、その変形量が所定変形量以下であるうちは弾性部材36とコイルスプリング34は自由に変形するが、所定変形量を越えるように変形されると弾性部材36やコイルスプリング34が塑性変形されてしまう。例えば、高い押圧力が印加され、制振部材31の高さが、高さH1から高さH2まで変形されたとしても、制振部材31は適正な弾性変形が維持される。つまり、制振部材31の弾性変形と塑性変形の境目を示す所定の変形量は高さH3である。一方、所定の押圧力を超える押圧力により変形量が高さH3を超えて、制振部材31の高さが高さH2よりも低くなるように変形されると、制振部材31は適正な弾性変形が維持されずに塑性変形してしまうおそれが増大する。
【0042】
そこで本実施形態では、スリーブ35が、所定の負荷を超えた負荷がかかっても弾性部材36とコイルスプリング34が所定の変形量(高さH3)を超えて過剰に変形することを防止している。すなわち、弾性部材36とコイルスプリング34とが燃料噴射弁11からの押圧力によって上下方向に押しつぶされるかたちに変形する場合、その変形量が所定変形量以下であるうちは弾性部材36とコイルスプリング34は自由に変形する。そして、過剰な押圧力などにより、所定変形量を越えるような負荷がかかるなどした場合、スリーブ35によって弾性部材36とコイルスプリング34の所定変形量を超える変形は防止される。これによって、制振部材31に突発的に高い圧力が印加されるような場合であれ、スリーブ35によって弾性部材36やコイルスプリング34の塑性変形が防止され、弾性部材36やコイルスプリング34の弾性力が維持される。
【0043】
なお、スリーブ35が、弾性部材36とコイルスプリング34の過剰変形を防止する際、トレーランスリング33からの押圧力や振動をスリーブ35が支持するようになる。このとき、スリーブ35とトレーランスリング33との間に高さH3で配置されていた弾性部材36が変形されつつも介在し続ける。このため、スリーブ35とトレーランスリング33とが直に接することが防止され、スリーブ35とトレーランスリング33とが直に接するような場合に比較して、トレーランスリング33からスリーブ35へ伝達される振動が抑制されるようになる。
【0044】
プレート32は、ステンレス、例えば絞り加工のしやすいステンレス材であるSUS430などの金属から形成されている。図4に示すように、プレート32は断面チャネル形状に形成されているとともに、プレート底部37と、プレート底部37の内周側から上方に制振部材31に沿って延びるプレート内壁部38と、プレート内壁部38の上端から外周側に折り曲げられてトレーランスリング33の内周部の一部を覆うプレート被覆部39とを備えている。すなわちプレート32はトレーランスリング33の内周側からトレーランスリング33と制振部材31とを一体に狭持している。
【0045】
プレート底部37の上面には制振部材31が圧接される一方、プレート底部37の下面は、挿入孔15の肩部18に当接される。これによって、プレート32は、挿入孔15の肩部18に対して好適な横方向の摺動性が維持されるとともに、制振部材31などからプレート32が受けた力は、環状の肩部18に均等に分配されるようにしている。肩部18は、アルミニウムなどから形成されるシリンダヘッド12の一部であるため、肩部18の硬度はコイルスプリング34よりも低い。よって、もし肩部18にコイルスプリング34が直接接触してしまうと、肩部18の力の集中した部分が削られたり、変形したりする不都合を生じるおそれもあると仮想される。しかし本実施形態では、プレート32がコイルスプリング34から受ける力は、環状の肩部18に対応する環状のプレート底部37を介して、肩部18に周方向に分散して伝達される。よって、プレート32は、コイルスプリング34が肩部18に直接に接するような場合に生じうる不都合の発生を防止している。
【0046】
プレート底部37の外周側の端部には、プレス加工による返り部37Rが形成されている。すなわち返り部37Rは、プレート底部37の底面から、外周側に向かって斜めに切り上がっている。制振インシュレータ30は、入口部17の外周面から離れた肩部18の段差の中央付近の位置から、肩部18上を摺動して、入口部17の外周面まで移動することができるようになっている。このようなとき、制振インシュレータ30のプレート底部37は、返り部37Rが設けられていることにより、肩部18の外周端に削り残され盛り上がっている部分に引っかかったり、乗り上げたりすることがないようになっている。すなわち、返り部37Rは、肩部18の外周端に削り残されて盛り上がっている部分に、接しないような形状に形成されている。なお、返り部37Rが接しないようにする肩部18の外周端の盛り上がりは、意図的に形成されたものであってもよい。
【0047】
このような返り部37Rによって、制振インシュレータ30が、肩部18の外周に当接するまで移動したとしても、プレート底部37の外周端は、肩部18の外周端の盛り上がっている部分に干渉しないようになる。つまり返り部37Rは、プレート底部37が肩部18の外周端の盛り上がり部分に引っかかることなどによってプレート32の移動特性が低下してしまうことを防ぐ。さらには、トレーランスリング33が燃料噴射弁11のテーパ面24に当接する位置(図4では肩部18から高さHiの位置)が、プレート底部37が盛り上がり部分へ乗り上がって傾くことによって変化してしまうようなことを、返り部37Rは防ぐようにしている。
【0048】
プレート内壁部38は、プレート底部37の内周端から、制振部材31に沿って立ち上がるように形成されていることから、燃料噴射弁11の中径部21に沿うかたちに上方に延出されるようになっている。
【0049】
プレート被覆部39は、プレート内壁部38の先端部が、制振部材31に積層されたトレーランスリング33の内周斜面42を途中まで覆うように延設される。さらにプレート被覆部39は、トレーランスリング33の内周斜面42に当接されており、内周斜面42に、外周側かつ下向きの力を付与している。これによりプレート被覆部39は、トレーランスリング33と制振部材31の接続を補強するとともに、トレーランスリング33と制振部材31の間の相対位置変化を防ぐようにしている。
【0050】
トレーランスリング33は、燃料噴射弁11のテーパ面24に当接することによって、シリンダヘッド12に対して燃料噴射弁11を支持する。トレーランスリング33は、ステンレス、例えば硬いステンレス材であるSUS304などの金属から形成されている。なお、トレーランスリング33の材料となる金属は、燃料噴射弁11のテーパ面24と同等の硬度を有する金属が採用されているが、その他の硬度の部材、例えばコイルスプリング34と同等の硬度を有する金属などを採用することもできる。
【0051】
図4に示すように、トレーランスリング33の断面は、輪止め様の略台形形状である。つまりトレーランスリング33は、制振部材31に接続されるリング底面40と、環の外周にリング底面40に対して垂直なリング外周面41と、リング外周面41の上端から環の中心に向う水平なリング上面46と、リング上面46の内周縁から環の中心に向かって凹状のテーパを構成する内周斜面42とを備えている。詳述すると、径方向に対して、リング底面40の長さよりもリング上面46の長さが短いため、リング底面40の内周縁と、リング上面46の内周縁とを結ぶ内周斜面42は環の中心に向かって凹状のテーパを構成する。内周斜面42は、連結部43とテーパ面45を備えている。
【0052】
リング底面40は、制振部材31の上面に当接されている。リング底面40は、トレーランスリング33が燃料噴射弁11から受ける押圧力を、環状の当該リング底面40の全体を通じて周方向に分散して制振部材31の上面に伝達することで、制振部材31に押圧力が均等に印加されるようにする。その結果、制振部材31が局部的に集中する力によって塑性変形される不都合などが生じることが防がれる。
【0053】
リング外周面41の外径は、プレート32のプレート底部37の外径Ra、及び制振部材31の外径と略同じ径に形成されている。つまりリング外周面41の外径は、制振インシュレータ30の外径Raと略同じになっていることから、挿入孔15の入口部17における制振インシュレータ30の径方向の移動範囲を狭めないように設定されている。リング外周面41の高さは、燃料噴射弁11を支持する高さとして予め肩部18からの距離として規定されている高さHiに燃料噴射弁11を支持することのできる高さにされている。すなわちリング外周面41の上端から水平に延びるリング上面46の肩部18からの高さも、高さHiとされている。
【0054】
内周斜面42は、リング底面40の内周縁と、リング上面46の内周縁との間に設けられている。連結部43は、内周斜面42の内側に位置し、プレート32のプレート被覆部39に当接している。テーパ面45は、内周斜面42の外側に位置し、燃料噴射弁11のテーパ面24に対向する。テーパ面45とリング上面46は、燃料噴射弁11のテーパ面24に対向する当接部44を構成する。つまりテーパ面45は、トレーランスリング33の一段のテーパ面である。また連結部43は、当接部44よりも内周側に位置しており、連結部43の大部分は、燃料噴射弁11のテーパ面24には対向していない。詳しくは、連結部43の内周縁は、リング底面40の内周縁に、トレーランスリング33の内周面を介して連続する。プレート32のプレート被覆部39は、この連結部43に当接するように、外周側に折り曲げられている。つまり連結部43には、プレート被覆部39から外周側且つ下方(制振部材31の方向)への力が付与される。よって、トレーランスリング33の制振部材31への圧接が補強され、制振部材31との相対位置関係は変化しないように維持される。
【0055】
テーパ面45の外周縁と、リング上面46の内周縁との接続部には、稜線47(断面図では頂点)が形成されている。テーパ面45の角度β1は、燃料噴射弁11のテーパ面24の角度αよりも小さく設定されている。なお、軸心平行線C1に対するリング上面46の角度β12は、テーパ面24の角度αよりも大きく、略直角に設定されている。よって、テーパ面45の角度(テーパ角)β1と、リング上面46の角度(テーパ角)β12とはそれぞれ、燃料噴射弁11のテーパ面24の角度(テーパ角)αとは異なる角度とされるとともに、それらの角度β1,β12の間に角度αが含まれるようになる(β1<α<β12)。これによって、テーパ面45とリング上面46の間の境界線としての稜線47は、燃料噴射弁11のテーパ面24に点接触する頂点として見えるため、実際には、稜線47は、燃料噴射弁11のテーパ面24に線接触する。一方、これらのことからトレーランスリング33の面であって、同トレーランスリング33の内周面や、リング底面40や、リング外周面41は、燃料噴射弁11のテーパ面24に対向しない面を構成する。
【0056】
[制振インシュレータの作用]
本実施形態の制振インシュレータは、燃料噴射弁11のテーパ面24から押圧力が印加されると、トレーランスリング33の稜線47にテーパ面24の角度αに応じて軸心平行線C1に沿う方向への力(負荷の軸方向分力。すなわち軸方向負荷)が印加される。軸心平行線C1に沿う方向への力は、制振部材31とプレート32とを介して肩部18に伝達される。よって、燃料噴射弁11からの押圧力により制振部材31が押圧変形されることに応じて燃料噴射弁11がシリンダヘッド12の挿入孔15に入り込むこととなる。換言すれば、シリンダヘッド12に対して燃料噴射弁11が、より先端方向(下方)に移動することになり、シリンダヘッド12による燃料噴射弁11の支持高さは、高さHiに維持されず、下がることとなる。
【0057】
しかし、制振部材31には高さH2のスリーブ35が埋め込まれているため、制振部材31の高さは高さH2より低くならない。すなわち、シリンダヘッド12による燃料噴射弁11の支持高さは、高さHiから高さH3を引いたものよりも高く維持される。また高さH2は、制振部材31の弾性変形を維持することの可能な所定の変形量以下の変形量を保証する高さである。よってスリーブ35は、制振部材31が高さH2よりも低い高さに変形されることにより制振特性が低下されたり、塑性変形されたりするおそれを払拭する。これにより、スリーブ35は、制振部材31の変形を高さH1から高さH2までの間に規制するとともに、制振部材31が制振性能を好適に発揮することを保証する。
【0058】
また、制振部材31が高さH2に近づいたとしても、スリーブ35とトレーランスリング33との間には弾性部材36が変形されつつも介在している。これにより、トレーランスリング33からスリーブ35へ伝達される燃料噴射弁11の振動が、介在されている弾性部材36により多少なりとも抑制されるようにもなる。すなわち、燃料噴射弁11の振動が内燃機関から異音を発生させたり、内燃機関のノックセンサを誤作動させたりするおそれが抑制されるようになる。
【0059】
さらに、スリーブ35の内周面は、高さH2まで押圧されたとしてもコイルスプリング34に接触しない。これによって、コイルスプリング34の有する振動の吸収、制振特性が、コイルスプリング34のスリーブ35への接触によって変化してしまうおそれが払拭される。制振部材31は、スリーブ35の影響が小さい状態で、好適に振動の吸収、制振特性を発揮することができる。
【0060】
また、制振部材31が高さH2に近づくと、燃料噴射弁11の押圧力をスリーブ35はプレート底部37の上面を介して挿入孔15の肩部18に押圧力を伝達する。このため、挿入孔15の肩部18に対するプレート32の好適な横方向の摺動性が維持されるとともに、スリーブ35の押圧力がプレート32を介して肩部18に均等に分配される。これによって、シリンダヘッド12の一部としてアルミニウムなどから形成される肩部18に、肩部18より硬度の高いスリーブ35が直接接触することにより肩部18が削られたり、変形されたりする不都合を生じないようにしている。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の制振インシュレータによれば、以下に列記するような効果が得られるようになる。
【0062】
(1)コイルスプリング34が押圧などにより大きく変形して燃料噴射弁11の位置がスリーブ35により維持されるようになることもある。このとき、スリーブ35はトレーランスリング33側及び肩部18側の少なくとも一方が弾性部材36に埋没していることから、燃料噴射弁11とシリンダヘッド12との間には、スリーブ35とともに弾性部材36が介在されるようになる。これにより、燃料噴射弁11からスリーブ35を介してシリンダヘッド12に伝達される振動を、その経路の途中に介在される弾性部材36によって低減することができる。すなわち、コイルスプリング34が大きく変形されたとしても、スリーブ35により燃料噴射弁11の位置が維持されることはもとより、内燃機関に伝達される振動も抑制されるようになる。その結果、燃料噴射弁11の位置がスリーブ35により維持されるような場合であれ、燃料噴射弁11から内燃機関に伝達される振動が抑制され、伝達された振動を要因に内燃機関から生じるノイズが低減されたり、伝達された振動を内燃機関のノックセンサがノッキングとして誤検出したりすることなどが抑制される。
【0063】
(2)燃料噴射弁11から強い押圧力を受けたときに塑性変形される程に大きく変形されるおそれのあるコイルスプリング34の塑性変形に至る過剰な変形を確実に防止することができるようになる。これにより、制振インシュレータ30の制振特性を適切に維持することができるようになる。
【0064】
(3)コイルスプリング34とスリーブ35を互いに接触しない状態に維持し、コイルスプリング34へのスリーブ35の干渉が低減される。よって、コイルスプリング34に付与されている制振特性がスリーブ35の干渉によって変化されてしまうおそれが軽減される。これによって、制振インシュレータ30の制振特性を適切に維持することができるようになる。
【0065】
(4)スリーブ35をコイルスプリング34の外周側に位置させたことにより、コイルスプリング34を小型化することができる。また、スリーブ35を外側に配置すれば、スリーブ35の大きさをシリンダヘッド12の挿入孔に落下する大きさよりも大きくすることもできるようになる。
【0066】
(5)スリーブ35のトレーランスリング33側を弾性部材36に埋没させたことから、スリーブ35とトレーランスリング33との間に弾性部材36が介在されることとなるため、燃料噴射弁11からトレーランスリング33へ伝達された振動が、弾性部材36により抑制されてからスリーブ35に伝達されるようになる。これにより、スリーブ35から内燃機関への振動伝達も抑制されるため、燃料噴射弁11がスリーブ35により支持されるような場合であれ、燃料噴射弁11から内燃機関への振動伝達が抑制されるようになる。
【0067】
(6)プレート32によりトレーランスリング33と弾性部材36を一体に挟持するようにしたため、弾性部材36に強く接合させることが容易ではないトレーランスリング33の、弾性部材36に対する相対位置が、プレート32によって内周面から規定される。よって、弾性部材36へのトレーランスリング33の適正な積層を容易にして、このような制振インシュレータ30の実施可能性の向上が図られるようになる。
【0068】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、例えば以下のような態様にて実施することもできる。
【0069】
・上記実施形態では、リング底面40とスリーブ35との間に弾性部材36が介在している場合について例示した。しかしこれに限らず、スリーブとプレート底部との間に弾性部材を介在させるようにしてもよい。例えば、図5に示すように、高さH1のコイルスプリング34の上端の高さと、高さH2のスリーブ35の上端の高さとを揃えることにより、スリーブ35とプレート底部37の間に高さH3の弾性部材36を介在させるようにしてもよい。すなわち、スリーブ35の上下方向の下端側が弾性部材36に埋没されていてもよい。これによっても、制振部材31の高さが高さH2に近づくように変形した場合であれ、スリーブ35とプレート底部37との間の弾性部材36によってスリーブ35からプレート底部37を介して肩部18に伝達される振動が抑制されるようになる。これによって、制振インシュレータの構成の自由度が向上されるようになる。
【0070】
・また、リング底面とスリーブとの間、及び、スリーブとプレート底部との間にそれぞれ弾性部材を介在させるようにしてもよい。例えば、図6に示すように、高さH1のコイルスプリング34の上下方向の中間位置と、高さH2のスリーブ35の上下方向の中間位置とを揃えることにより、リング底面40とスリーブ35との間に高さH32の弾性部材36を、スリーブ35とプレート底部37の間に高さH33の弾性部材36をそれぞれ介在させるようにしてもよい。すなわち、スリーブ35の上下方向の下端側及び上端側が共に弾性部材36に埋没されてもよい。これによっても、制振部材31の高さが高さH2に近づくように変形した場合であれ、リング底面40とスリーブ35との間、及び、スリーブ35とプレート底部37との間のそれぞれの弾性部材36によってリング底面40から肩部18に伝達される振動が抑制されるようになる。これによって、制振インシュレータの構成の自由度が向上されるようになる。
【0071】
・上記実施形態では、入口部17を、制振インシュレータ30が軸心補償のために移動するために必要最小な大きさに形成する場合について例示した。しかしこれに限らず、入口部を、制振インシュレータが軸心補償のために移動するために必要最小な大きさより大きく形成してもよい。
【0072】
・上記実施形態では、リング上面46の角度β12は、軸心平行線C1に対して略直角(90度)の角度である場合について例示した。しかしこれに限らず、リング上面の角度は、軸心平行線C1に対して90度未満の角度であってもよい。これによっても、リング上面とテーパ面とによって稜線を形成することができる。これにより、テーパ面やリング上面の設計自由度が高められることともに、稜線の設計自由度も向上し、このような制振インシュレータとしての設計自由度が向上されるようになる。
【0073】
・上記実施形態における各高さH1〜H3は、例えば、制振部材31(弾性部材36)の高さH1を1.75mm、スリーブ35の高さH2を1.6mm、弾性部材36が介在する高さH3を0.15mmとすることができる。なお、高さH3を0.15mm±0.1mmとするように他の高さを含め調整してもよい。このように、弾性部材が介在する高さH3は、制振部材の高さH1の4分の1以下であればよく、10分の1以下であるとよりよい。
【0074】
・上記実施形態では、コイルスプリング34の外周側にスリーブ35が配置される場合について例示したが、これに限らず、コイルスプリングの内周側にスリーブが配置されるようにしてもよい。これにより、制振インシュレータの設計自由度が向上されるようになる。
【0075】
・上記実施形態では、コイルスプリング34とスリーブ35とが互いに離間されている場合について例示した。しかしこれに限らず、コイルスプリングとスリーブとが接触していたり、または、接触するようなことがあってもよい。
【0076】
・上記実施形態では、制振部材31と肩部18との間にプレート底部37が設けられる場合について例示した。しかしこれに限らず、肩部に対して燃料噴射弁を好適に支持することができるのであれば、制振部材と肩部との間にプレート底部が設けられていなくてもよい。これにより、制振インシュレータの設計自由度が向上されるようになる。
【0077】
・この発明の適用される内燃機関は、筒内噴射式の内燃機関であれば、ガソリン機関でも、ディーゼル機関でもよい。
【符号の説明】
【0078】
10…燃料噴射装置、11…燃料噴射弁、12…シリンダヘッド、12A…外面、12B…内面、13…デリバリパイプ、14…燃料噴射弁カップ、14A…内周面、15…挿入孔、16…先端孔部、17…入口部、18…肩部、19…中孔部、20…大径部、21…中径部、21R…リング、22…小径部、23…噴射ノズル、24…テーパ面、25…シール部、26…基端中継部、26J…コネクタ、27…基端挿入部、28…基端被シール部、30…制振インシュレータ、31…制振部材、32…プレート、33…トレーランスリング、34…コイルスプリング、35…スリーブ、36…弾性部材、37…プレート底部、37R…返り部、38…プレート内壁部、39…プレート被覆部、40…リング底面、41…リング外周面、42…内周斜面、43…連結部、44…当接部、45…テーパ面、46…リング上面、47…稜線、51…シリンダヘッド、52…挿入孔、53…側壁、54…肩部、55…燃料噴射弁、56…噴射ノズル、57…テーパ状段差部、60…調整エレメント、61…第1の脚、62…第2の脚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁に生じる振動を制振する燃料噴射弁用制振インシュレータであって、
前記燃料噴射弁は、シリンダヘッドに設けられる挿入孔に挿通する状態で前記シリンダヘッドに装着され、前記挿入孔の入口部分には肩部が環状に拡開形成され、前記燃料噴射弁は、前記肩部に対向するテーパ面を有するようにテーパ状に拡径した段差部を備え、前記制振インシュレータは前記段差部と前記肩部との間に介在され、
前記制振インシュレータは、前記テーパ面に当接する円環形状のトレーランスリングと、前記トレーランスリングと前記肩部の間に配置される弾性部材とを備え、
前記弾性部材は、前記燃料噴射弁に生じる振動を制振すべく、前記トレーランスリングの底面に対応する円環形状に形成され、
前記弾性部材には、前記弾性部材の円環形状に対応して円環状に配列されたコイルスプリングと、前記コイルスプリングに並設された円環状のスリーブとが埋め込まれ、
前記スリーブは、その高さが前記コイルスプリングの螺旋を構成する個々の小リング部の外径よりも低く形成されているとともに、その前記トレーランスリング側及び前記肩部側の少なくとも一方が前記弾性部材に埋没されている
ことを特徴とする燃料噴射弁用制振インシュレータ。
【請求項2】
前記スリーブの剛性は、前記コイルスプリングの剛性よりも高い
請求項1に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータ。
【請求項3】
前記コイルスプリングと前記スリーブは、互いに接触しない状態に維持されて、前記弾性部材に埋め込まれている
請求項1又は2に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータ。
【請求項4】
前記スリーブは、前記コイルスプリングの外周側に位置する
請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータ。
【請求項5】
前記スリーブは、前記トレーランスリング側が前記弾性部材に埋没されている
請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータ。
【請求項6】
前記スリーブは、前記肩部側が前記弾性部材に埋没されている
請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータ。
【請求項7】
前記制振インシュレータは更に、前記弾性部材と前記肩部の間に介在される円環状の金属製プレートを有し、
前記金属製プレートは、前記トレーランスリングの内周側から、前記トレーランスリングと前記弾性部材を一体に挟持するように構成されている
請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃料噴射弁用制振インシュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−229680(P2012−229680A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99703(P2011−99703)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】