説明

燃料噴射装置

【課題】エアが液室に侵入してもノズルを正常に作動させることが可能な燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】ピエゾスタック41の伸びを、第1ピストン43、液室45の作動液、および第2ピストン44を介して制御弁3に伝達する燃料噴射装置において、内燃機関の始動から所定期間は、所定期間後よりもピエゾスタック41の伸び量を増加させることにより、エアが液室45に侵入していても制御弁3を正常に作動させることができ、ひいてはノズル2を正常に作動させることができ、内燃機関を確実に始動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を内燃機関に噴射するための燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料噴射装置は、ニードルにより噴孔を開閉するノズルを備え、制御室の燃料圧力によりニードルが閉弁向きに付勢され、制御弁にて制御室の圧力を制御してノズルの開閉弁作動を制御するようになっている。
【0003】
制御弁はピエゾスタックによって駆動されるようになっており、この制御弁とピエゾスタックとの間には、第1ピストンと第2ピストンが直列に配置されている。また、両ピストン間に形成された液室には、作動液として燃料が充填されている。
【0004】
そして、ピエゾスタックが伸長すると第1ピストンが駆動されて液室の圧力が上昇し、その圧力を受けて第2ピストンが駆動され、さらに第2ピストンにより制御弁が駆動されるようになっている。また、ピエゾスタックが伸長したときに制御室内の圧力が低下してノズルから内燃機関に燃料が噴射される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の燃料噴射装置は、ガス欠時若しくは残存燃料が僅かの時、また修理時に組替えた際に、燃料と同時にエアが噴射系内に混入する。そして、そのエアが両ピストン間に形成された液室に侵入すると、ピエゾスタックにて第1ピストンを駆動しても液室の圧力が充分に上昇しなくなるため、制御弁を正常に作動させることができなくなり、ひいてはノズルを正常に作動させることができなくなり、内燃機関を始動できなくなる虞がある。
【0006】
なお、ピエゾスタックや両ピストンが収納されたアクチュエータ室は背圧弁を介して燃料タンクに接続されており、内燃機関の運転中はその背圧弁によりアクチュエータ室や液室は所定圧(約1MPa)に維持される。したがって、内燃機関の運転中はピエゾスタックを収縮させても液室内のエアは圧縮された状態が維持されるため、内燃機関が一旦始動されてしまえばノズルは正常に作動可能になる。一方、内燃機関が停止されると、背圧弁の僅かな漏れによりアクチュエータ室や液室の圧力が低下するため、次回の始動時に内燃機関を始動できなくなる虞がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、エアが液室に侵入してもノズルを正常に作動させることが可能な燃料噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の特徴では、ピエゾスタック(41)の伸びを、第1ピストン(43)、液室(45)の作動液、および第2ピストン(44)を介して制御弁(3)に伝達する燃料噴射装置において、内燃機関の始動から所定期間におけるピエゾスタック(41)の伸び量を、所定期間後のピエゾスタック(41)の伸び量よりも大きくすることを特徴とする。
【0009】
このようにすれば、エアが液室(45)に侵入していてもノズル(2)を正常に作動させることができ、内燃機関を確実に始動させることができる。
【0010】
また、内燃機関の始動から所定期間のみ、ピエゾスタック(41)の伸び量を増加させるため、所定期間後にはピエゾスタック(41)の駆動エネルギーを始動から所定期間の間よりも少なくすることができる。
【0011】
この場合、内燃機関の始動から所定期間におけるピエゾスタック(41)の伸び量を第1ピストン(43)が第2ピストン(44)に当接するまで制御することができる。
【0012】
本発明の第2の特徴では、ピエゾスタック(41)の伸びを、第1ピストン(43)、液室(45)の作動液、および第2ピストン(44)を介して制御弁(3)に伝達する燃料噴射装置において、ピエゾスタック(41)への印加電圧を設定する伸び量制御手段(S101〜103)は、内燃機関の始動から所定期間におけるピエゾスタック(41)への印加電圧を、所定期間後のピエゾスタック(41)への印加電圧よりも高く設定することを特徴とする。このようにすれば、本発明の第1の特徴と同様の効果を得ることができる。
【0013】
この場合、伸び量制御手段(S101〜103)は、内燃機関の始動から所定期間、第1ピストン(43)が第2ピストン(44)に当接して第2ピストン(44)が駆動されるように記ピエゾスタック(41)への印加電圧を設定する始動時電圧設定手段(S101)と、内燃機関の始動から所定期間が経過したか否かを判定する始動完了判定手段(S102)と、この始動完了判定手段(S102)で内燃機関の始動から所定期間が経過したと判定された後に、液室(45)の圧力により第2ピストン(44)が駆動されるようにピエゾスタック(41)への印加電圧を設定する始動後電圧設定手段(S103)とを備えることができる。
【0014】
また、始動完了判定手段(S102)は、内燃機関の回転数が所定値以上になったときに、内燃機関の始動から所定期間が経過したと判定することができる。
【0015】
本発明の第3の特徴では、ピエゾスタック(41)の伸びを、第1ピストン(43)、液室(45)の作動液、および第2ピストン(44)を介して制御弁(3)に伝達し、制御弁(3)により制御室(26)を高圧燃料通路(13)または低圧燃料通路(16)に選択的に連通させ、低圧燃料通路(16)の圧力を背圧弁(120)により所定圧に維持するようにした燃料噴射装置において、第1ピストン(43)および第2ピストン(44)が収納されたアクチュエータ室(17)が低圧燃料通路(16)に連通されており、ピエゾスタック(41)が収縮したときの第1ピストン(43)と第2ピストン(44)との隙間(h)が、ピエゾスタック(41)の伸び量よりも小さく設定されていることを特徴とする。
【0016】
このようにすれば、エアが液室(45)に侵入している状態でピエゾスタック(41)を伸長させた場合、第1ピストン(43)は第2ピストン(44)に当接して第2ピストン(44)を駆動し、第2ピストン(44)を介して制御弁(3)を作動させることができる。この制御弁(3)の作動により、高圧燃料通路(13)から低圧燃料通路(16)への流れが発生して低圧燃料通路(16)およびアクチュエータ室(17)の圧力が高まり、液室(45)に燃料が充填されてエアが液室(45)から排出される、或いは液室(45)内のエアは圧縮された状態が維持される。したがって、次にピエゾスタック(41)を伸長させた場合ノズル(2)を正常に作動させることができ、内燃機関を確実に始動させることができる。
【0017】
また、ピエゾスタック(41)の伸び量を通常よりも大きくする必要がないため、ピエゾスタック(41)の大型化、ピエゾスタック(41)へ投入する電気エネルギの大容量化、さらにはピエゾスタック(41)に電圧を印加するピエゾ駆動回路の大型化を招くことなく実施することができる。
【0018】
この場合、隙間(h)の寸法をシム(50)にて調整することができる。このようにすれば、隙間(h)をピエゾスタック(41)の伸び量よりも小さく設定するのに必要な部品加工精度が確保できない場合でも、隙間(h)をピエゾスタック(41)の伸び量よりも小さく設定することができる。
【0019】
また、第2ピストン(44)は、第1ピストン(43)に対向する面に突起部(44b)を備えることができる。
【0020】
このようにすれば、突起部(44b)が第1ピストン(43)に当接した状態において、第1ピストン(43)における第2ピストン(44)に対向する面のうち突起部(44b)が当接していない部位は受圧面となる。したがって、この受圧面に作用する圧力により、ピエゾスタック(41)が収縮したときに第1ピストン(43)を確実に初期位置に戻すことができる。
【0021】
また、第1ピストン(43)は、第2ピストン(44)に対向する面に突起部(43b)を備えることができる。
【0022】
このようにすれば、突起部(43b)が第2ピストン(44)に当接した状態において、第1ピストン(43)における第2ピストン(44)に対向する面のうち突起部(43b)が形成されていない部位は受圧面となる。したがって、この受圧面に作用する圧力により、ピエゾスタック(41)が収縮したときに第1ピストン(43)を確実に初期位置に戻すことができる。
【0023】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る燃料噴射装置の全体構成を示す断面図である。
【0025】
燃料噴射弁は、内燃機関(より詳細にはディーゼルエンジン、図示せず)のシリンダヘッドに装着され、蓄圧器(図示せず)内に蓄えられた高圧燃料を内燃機関の気筒内に噴射するものである。
【0026】
図1に示すように、燃料噴射弁のボデー1は、蓄圧器からの高圧燃料が導入される燃料入口部11と、燃料噴射弁内部の燃料を燃料タンク100に向けて流出させる燃料出口部12とを備えている。
【0027】
ボデー1の軸方向一端側に、開弁時に燃料を噴射するノズル2が配置されている。このノズル2は、ボデー1に摺動自在に保持されたニードル21と、ニードル21を閉弁向きに付勢するノズルスプリング22と、ニードル21のピストン部21aが挿入されたノズルシリンダ23とを有している。
【0028】
ボデー1の軸方向一端には、高圧燃料通路13を介して燃料入口部11と連通する噴孔24が形成され、この噴孔24から高圧燃料を内燃機関の気筒内に噴出させるようになっている。この噴孔24の上流側にテーパ状の弁座25が形成されており、ニードル21に形成されたシート部21bが弁座25に接離することにより噴孔24が開閉される。
【0029】
ピストン部21aは、ノズルシリンダ23に摺動自在に且つ液密的に挿入されており、ピストン部21aとノズルシリンダ23とにより、内部の燃料圧力が高圧と低圧に切り替えられる制御室26が形成されている。そして、ニードル21は、制御室26内の燃料圧力により閉弁向きに付勢されるとともに、燃料入口部11から高圧燃料通路13を介して噴孔24側に導かれる高圧燃料により開弁向きに付勢される。
【0030】
ボデー1の軸方向中間部には、制御室26の圧力を制御する制御弁3が収納される弁室14が形成されている。この弁室14は、連絡通路15を介して制御室26と常時連通されている。弁室14は、高圧燃料通路13から分岐された高圧連絡通路13aが接続されている。また、弁室14は、低圧燃料通路16を介して燃料出口部12に接続されている。
【0031】
制御弁3は、弁室14と高圧連絡通路13aとの間および弁室14と低圧燃料通路16との間を開閉する弁体31と、弁室14と高圧連絡通路13aとの間が開かれるとともに弁室14と低圧燃料通路16との間が閉じられる向きに弁体31を付勢するバルブスプリング32とを有している。
【0032】
ボデー1の軸方向他端側には、制御弁3を駆動するアクチュエータ4が収納されるアクチュエータ室17が形成されている。このアクチュエータ室17は、低圧連絡通路16aを介して低圧燃料通路16に接続されている。
【0033】
アクチュエータ4は、ピエゾ素子が多数積層されて電荷の充放電により伸縮するピエゾスタック41と、ピエゾスタック41の伸縮変位を制御弁3の弁体31に伝達する伝達部とを備えている。
【0034】
伝達部は以下のように構成されている。アクチュエータシリンダ42に第1ピストン43および第2ピストン44が摺動自在に且つ液密的に挿入されており、第1ピストン43と第2ピストン44との間には、燃料が充填された液室45が形成されている。
【0035】
第1ピストン43は、第1スプリング46によりピエゾスタック41側に向かって付勢されており、ピエゾスタック41により直接駆動されるようになっている。そして、ピエゾスタック41の伸長時には、第1ピストン43により液室45の圧力が高められるようになっている。
【0036】
第2ピストン44は、第2スプリング47により制御弁3の弁体31側に付勢されており、液室45の圧力を受けて作動して弁体31を駆動するようになっている。そして、第2ピストン44は、ピエゾスタック41の伸長時には、高圧化された液室45の圧力を受けて作動して、弁室14と高圧連絡通路13aとの間が閉じられるとともに弁室14と低圧燃料通路16との間が開かれる位置に弁体31を駆動する。一方、ピエゾスタック41の収縮時、すなわち液室45の圧力が低いときには、第2ピストン44は、第2スプリング47に抗して制御弁3のバルブスプリング32により第1ピストン43側に押し戻される。
【0037】
燃料タンク100と燃料出口部12とを接続するリターン経路110には、低圧燃料通路16側の圧力を制御する背圧弁120が配置されている。因みに、蓄圧器内に蓄えられた高圧燃料の圧力が100MPa以上であるのに対し、背圧弁120は低圧燃料通路16側の圧力を1MPa程度に制御する。
【0038】
ピエゾスタック41には、ピエゾ駆動回路130を介して電力が供給されるようになっている。このピエゾ駆動回路130は、ピエゾスタック41の伸び量を変化させるために、ピエゾスタック41への印加電圧を制御可能になっている。また、ピエゾ駆動回路130は、ピエゾスタック41への印加電圧およびピエゾスタック41への通電タイミングが、電子制御回路(以下、ECUという)140により制御される。
【0039】
ECU140は、図示しないCPU、ROM、EEPROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータを備え、マイクロコンピュータに記憶したプログラムに従って演算処理を行うものである。そして、ECU140には、吸入空気量、アクセルペダルの踏み込み量、内燃機関回転数、蓄圧器内の燃料圧等を検出する各種センサ(図示せず)から信号が入力される。
【0040】
図2は、ECU140にて実行されるピエゾスタック41の通電制御処理のうち、ピエゾスタック41への印加電圧を決定する印加電圧決定処理を示す流れ図である。そして、ECU140は、通電制御処理により、印加電圧決定処理にて選定された印加電圧にて、ピエゾスタック41に所定の時期に所定の期間通電を行う。
【0041】
図2に示す処理は、内燃機関を始動させるためにキースイッチがスタータON位置に操作されて、ECU140に電源が投入されることにより開始される。すなわち、内燃機関の始動時には、始動時電圧設定手段としてのステップS101にて、ピエゾスタック41への印加電圧として高印加電圧を選定する。この高印加電圧は、後述する通常印加電圧よりも高電圧であり、高印加電圧が印加されているときのピエゾスタック41の伸び量は、通常印加電圧が印加されているときのピエゾスタック41の伸び量も大きくなる。より詳細には、この高印加電圧は、第1ピストン43を第2ピストン44に直接当接させる程度のピエゾスタック41の伸び量が確保される電圧に設定されている。
【0042】
次いで、始動完了判定手段としてのステップS102では、内燃機関の始動が完了したか否かを判定する。具体的には、内燃機関の回転数が所定値以上になったときに内燃機関の始動が完了したと判定する。その所定値は、クランキング回転数よりも高く且つアイドリング回転数よりも低い回転数(例えば500rpm)に設定されている。
【0043】
そして、内燃機関の始動中、すなわち内燃機関の始動が完了するまでの所定期間中は(ステップS102:NO)、ステップS101に戻る。
【0044】
その後、内燃機関の始動が完了すると(ステップS102:YES)、始動後電圧設定手段としてのステップS103に進み、ピエゾスタック41への印加電圧として通常印加電圧を選定する。そして、図2に示す処理は、内燃機関を停止させるためにキースイッチが内燃機関停止位置に操作されて、ECU140への給電が停止されることにより終了される。したがって、内燃機関の始動完了後は、内燃機関が停止されるまで通常印加電圧が継続して選定される。なお、ステップS101〜S103は、本発明の伸び量制御手段を構成する。
【0045】
次に、図1、図3、および図4に基づいて上記燃料噴射装置の作動を説明する。なお、図3は、内燃機関の始動時においてピエゾスタック41に通電されている状態を示している。図4は、内燃機関の始動完了後においてピエゾスタック41に通電されている状態を示している。
【0046】
まず、内燃機関の始動時の作動について説明する。内燃機関の始動時には、ピエゾスタック41に高印加電圧が印加されるため、ピエゾスタック41の伸び量は通常印加電圧が印加される場合よりも大きくなる。より詳細には、図3に示すように、第1ピストン43が第2ピストン44に直接当接し得るようにピエゾスタック41の伸び量が確保されている。
【0047】
したがって、内燃機関の始動時にピエゾスタック41に通電されると、ピエゾスタック41により第1ピストン43が駆動され、第1ピストン43により第2ピストン44が駆動され、さらに第2ピストン44にて弁体31が駆動されることにより、弁室14と高圧連絡通路13aとの間が閉じられるとともに、弁室14と低圧燃料通路16との間が開かれる。したがって、制御室26は、連絡通路15および弁室14を介して低圧燃料通路に連通される。
【0048】
これにより、制御室26の圧力が低下してニードル21を閉弁向きに付勢する力が小さくなるため、ニードル21が開弁向きに移動し、シート部21bが弁座25から離れて噴孔24が開かれ、噴孔24から内燃機関の気筒内に燃料が噴射される。
【0049】
ここで、液室45にエアが侵入している場合、ピエゾスタック41にて第1ピストン43を駆動しても液室45の圧力が充分に上昇しないが、本実施形態では、内燃機関の始動時には第1ピストン43と第2ピストン44が当接するため、エアが液室45に侵入していても弁体31を正常に作動させることができ、ひいてはノズル2を正常に作動させることができ、内燃機関を確実に始動させることができる。
【0050】
その後、ピエゾスタック41への通電が停止されると、ピエゾスタック41が縮むため第1ピストン43は第1スプリング46によりピエゾスタック41側に戻される。また、バルブスプリング32により、弁体31および第2ピストン44が第1ピストン43側に戻される。
【0051】
これにより、弁室14と高圧連絡通路13aとの間が開かれるとともに、弁室14と低圧燃料通路16との間が閉じられる。したがって、蓄圧器からの高圧燃料が、高圧燃料通路13、高圧連絡通路13a、弁室14、および連絡通路15を介して制御室26に導入される。
【0052】
これにより、制御室26の圧力が上昇してニードル21を閉弁向きに付勢する力が大きくなるため、ニードル21が閉弁向きに移動し、シート部21bが弁座25に着座して噴孔24が閉じられ、燃料噴射が終了する。
【0053】
一方、内燃機関の始動が完了すると、ピエゾスタック41には通常印加電圧が印加されるため、ピエゾスタック41の伸び量は高印加電圧が印加される場合よりも小さくなり、図4に示すように、第1ピストン43は第2ピストン44に直接当接しなくなる。
【0054】
この場合、ピエゾスタック41に通電されると、ピエゾスタック41が伸長して第1ピストン43が駆動され、第1ピストン43により液室45の圧力が高められる。高圧化された液室45の圧力により第2ピストン44が制御弁3の弁体31側に向かって駆動される。そして、第2ピストン44にて弁体31が駆動されることにより、弁室14と高圧連絡通路13aとの間が閉じられるとともに、弁室14と低圧燃料通路16との間が開かれる。
【0055】
これにより、制御室26の圧力が低下してニードル21を閉弁向きに付勢する力が小さくなるため、ニードル21が開弁向きに移動し、シート部21bが弁座25から離れて噴孔24が開かれ、噴孔24から内燃機関の気筒内に燃料が噴射される。
【0056】
ここで、内燃機関の始動が完了した時点では背圧弁120によりアクチュエータ室17や液室45は所定圧(約1MPa)に維持されている。したがって、内燃機関の始動完了後はピエゾスタック41を収縮させても液室45内のエアは圧縮された状態が維持されるため、内燃機関が一旦始動されてしまえば、第1ピストン43が第2ピストン44に直接当接しなくても弁体31を正常に作動させることができ、ひいてはノズル2を正常に作動させることができる。
【0057】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。図5は本実施形態に係る燃料噴射装置における燃料噴射弁の要部を示す断面図である。より詳細には、図5(a)は、内燃機関の始動時にエアが液室45に侵入し、且つピエゾスタック41に通電されていない状態を示しており、図5(b)は、内燃機関の始動時にエアが液室45に侵入し、且つピエゾスタック41に通電されている状態を示している。なお、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
第1実施形態では、内燃機関の始動時にエアが液室45に侵入していても弁体31を駆動できるようにするために、内燃機関の始動時にピエゾスタック41に高印加電圧を印加してピエゾスタック41の伸び量を大きくしたが、本実施形態は、ピエゾスタック41に高印加電圧を印加してピエゾスタック41の伸び量を大きくすることなく、内燃機関の始動時にエアが液室45に侵入していても弁体31を駆動できるようにしたものである。
【0059】
すなわち、本実施形態では、内燃機関の始動時にも通常印加電圧が印加される。そして、図5(a)に示すように、ピエゾスタック41が収縮したときの第1ピストン43と第2ピストン44との隙間hは、ピエゾスタック41の伸び量よりも小さく設定されている。
【0060】
また、第2ピストン44のうちアクチュエータシリンダ42に摺動自在に保持されている部位を第2ピストン本体部44aとすると、第2ピストン本体部44aにおける第1ピストン43に対向する面に、第2ピストン本体部44aよりも小径の突起部44bが設けられている。
【0061】
因みに、本実施形態における隙間hは、第1ピストン43と突起部44bとの間の、第1ピストン43および第2ピストン44がストロークする方向の寸法である。
【0062】
次に、内燃機関の停止中に低圧燃料通路16およびアクチュエータ室17(図1参照)の圧力が略大気圧まで低下し、かつエアが液室45に侵入して液室45内の体積弾性率が低下した場合の作動について説明する。
【0063】
この場合には、ピエゾスタック41に通電されて第1ピストン43が駆動されても、液室45の圧力は、第2ピストン44を駆動させることのできるレベルまで上昇しない。
【0064】
しかし、隙間hがピエゾスタック41の伸び量よりも小さく設定されているため、図5(b)に示すように、ピエゾスタック41に通電されると、第1ピストン43は突起部44bに当接して第2ピストン44を駆動し、さらに第2ピストン44を介して制御弁3の弁体31を駆動する。
【0065】
このときの弁体31の変位量は小さいため、弁室14と高圧連絡通路13aとの間も、弁室14と低圧燃料通路16との間も、ともに開かれた状態になる。したがって、制御室26(図1参照)の圧力は、ノズル2(図1参照)を開弁させることのできるレベルまで上昇しない。
【0066】
但し、弁室14と高圧連絡通路13aとの間も、弁室14と低圧燃料通路16との間も、ともに開かれた状態になっているため、高圧燃料通路13から低圧燃料通路16への流れが発生して低圧燃料通路16およびアクチュエータ室17の圧力が高まり、液室45に燃料が充填されてエアが液室45から排出される、或いは液室45内のエアは圧縮された状態が維持される。したがって、次にピエゾスタック41に通電した場合、液室45の圧力は第2ピストン44を駆動させることのできるレベルまで上昇するため、第1ピストン43が突起部44bに当接することなく、ノズル2を通常通りに作動させることができる。
【0067】
また、ピエゾスタック41の伸び量を通常よりも大きくする必要がないため、換言すると、内燃機関の始動時にも通常印加電圧を印加するため、ピエゾスタック41の大型化、ピエゾスタック41へ投入する電気エネルギの大容量化、さらにはピエゾスタック41に電圧を印加するピエゾ駆動回路130(図1参照)の大型化を招くことなく実施することができる。
【0068】
また、突起部44bが第1ピストン43に当接した状態において、第1ピストン43における第2ピストン44に対向する面のうち突起部44bが当接していない部位は受圧面となる。したがって、この受圧面に作用する圧力により、ピエゾスタック41が収縮したときに第1ピストン43を確実に初期位置に戻すことができる。
【0069】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。図6は本実施形態に係る燃料噴射装置における燃料噴射弁の要部を示す断面図である。なお、第2実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0070】
第2実施形態では、第2ピストン44に突起部44bを設けたが、本実施形態では、図6に示すように、第1ピストン43のうちアクチュエータシリンダ42に摺動自在に保持されている部位を第1ピストン本体部43aとすると、第1ピストン本体部43aにおける第2ピストン44に対向する面に、第1ピストン本体部43aよりも小径の突起部43bが設けられている。
【0071】
そして、ピエゾスタック41が収縮したときの第1ピストン43の突起部43bと第2ピストン44との隙間hは、ピエゾスタック41の伸び量よりも小さく設定されている。
【0072】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。図7は本実施形態に係る燃料噴射装置における燃料噴射弁の要部を示す断面図である。なお、第2実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0073】
第2実施形態では、第2ピストン44に突起部44bを設けたが、本実施形態では、図7に示すように、突起部44bを廃止している。そして、ピエゾスタック41が収縮したときの第1ピストン43と第2ピストン44との隙間hは、ピエゾスタック41の伸び量よりも小さく設定されている。
【0074】
また、ピエゾスタック41と第1ピストン43との間に配設したシム50により、隙間hの寸法を調整するようになっている。これにより、隙間hをピエゾスタック41の伸び量よりも小さく設定するのに必要な部品加工精度が確保できない場合でも、隙間hをピエゾスタック41の伸び量よりも小さく設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料噴射装置の全体構成を示す断面図である。
【図2】図1のECU140にて実行される印加電圧決定処理を示す流れ図である。
【図3】内燃機関の始動時においてピエゾスタック41に通電されている状態を示す要部の断面図である。
【図4】内燃機関の始動完了後においてピエゾスタック41に通電されている状態を示す要部の断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る燃料噴射装置における燃料噴射弁の要部を示す断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る燃料噴射装置における燃料噴射弁の要部を示す断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係る燃料噴射装置における燃料噴射弁の要部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0076】
2…ノズル、3…制御弁、21…ニードル、24…噴孔、26…制御室、41…ピエゾスタック、43…第1ピストン、44…第2ピストン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御室(26)の圧力の増減によりニードル(21)が作動して噴孔(24)を開閉するノズル(2)と、
電荷の充放電により伸縮するピエゾスタック(41)と、
このピエゾスタック(41)により駆動される第1ピストン(43)と、
この第1ピストン(43)との間に形成された液室(45)の圧力を受けて作動する第2ピストン(44)と、
この第2ピストン(44)により駆動されて前記制御室(26)の圧力を制御する制御弁(3)とを備え、
前記ピエゾスタック(41)が伸長したときに前記噴孔(24)が開かれて内燃機関に燃料が噴射される燃料噴射装置において、
前記内燃機関の始動から所定期間における前記ピエゾスタック(41)の伸び量を、前記所定期間後の前記ピエゾスタック(41)の伸び量よりも大きくすることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
前記内燃機関の始動から所定期間における前記ピエゾスタック(41)の伸び量を前記第1ピストン(43)が前記第2ピストン(44)に当接するまで制御することを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
制御室(26)の圧力の増減によりニードル(21)が作動して噴孔(24)を開閉するノズル(2)と、
電荷の充放電により伸縮するピエゾスタック(41)と、
このピエゾスタック(41)により駆動される第1ピストン(43)と、
この第1ピストン(43)との間に形成された液室(45)の圧力を受けて作動する第2ピストン(44)と、
この第2ピストン(44)により駆動されて前記制御室(26)の圧力を制御する制御弁(3)とを備え、
前記ピエゾスタック(41)が伸長したときに前記噴孔(24)が開かれて内燃機関に燃料が噴射される燃料噴射装置において、
前記ピエゾスタック(41)に電圧を印加するピエゾ駆動回路(130)と、
このピエゾ駆動回路(130)から前記ピエゾスタック(41)への印加電圧を設定する伸び量制御手段(S101〜103)とを備え、
伸び量制御手段(S101〜103)は、前記内燃機関の始動から所定期間における前記ピエゾスタック(41)への印加電圧を、前記所定期間後の前記ピエゾスタック(41)への印加電圧よりも高く設定することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項4】
前記伸び量制御手段(S101〜103)は、
前記内燃機関の始動から所定期間、前記第1ピストン(43)が前記第2ピストン(44)に当接して前記第2ピストン(44)が駆動されるように前記ピエゾスタック(41)への印加電圧を設定する始動時電圧設定手段(S101)と、
前記内燃機関の始動から前記所定期間が経過したか否かを判定する始動完了判定手段(S102)と、
この始動完了判定手段(S102)で前記内燃機関の始動から前記所定期間が経過したと判定された後に、前記液室(45)の圧力により前記第2ピストン(44)が駆動されるように前記ピエゾスタック(41)への印加電圧を設定する始動後電圧設定手段(S103)とを備えることを特徴とする請求項3に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記始動完了判定手段(S102)は、前記内燃機関の回転数が所定値以上になったときに、前記内燃機関の始動から前記所定期間が経過したと判定することを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
制御室(26)の圧力の増減によりニードル(21)が作動して噴孔(24)を開閉するノズル(2)と、
電荷の充放電により伸縮するピエゾスタック(41)と、
このピエゾスタック(41)により駆動される第1ピストン(43)と、
この第1ピストン(43)との間に形成された液室(45)の圧力を受けて作動する第2ピストン(44)と、
この第2ピストン(44)により駆動され、前記制御室(26)を高圧燃料通路(13)または低圧燃料通路(16)に選択的に連通させて前記制御室(26)の圧力を制御する制御弁(3)と、
前記低圧燃料通路(16)の圧力を所定圧に維持する背圧弁(120)とを備え、
前記ピエゾスタック(41)が伸長したときに前記噴孔(24)が開かれて内燃機関に燃料が噴射される燃料噴射装置において、
前記第1ピストン(43)および前記第2ピストン(44)が収納されたアクチュエータ室(17)が前記低圧燃料通路(16)に連通されており、
前記ピエゾスタック(41)が収縮したときの前記第1ピストン(43)と前記第2ピストン(44)との隙間(h)が、前記ピエゾスタック(41)の伸び量よりも小さく設定されていることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項7】
前記ピエゾスタック(41)が収縮したときの前記第1ピストン(43)と前記第2ピストン(44)との隙間(h)の寸法を調整するシム(50)を備えることを特徴とする請求項6に記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
前記第2ピストン(44)は、前記第1ピストン(43)に対向する面に突起部(44b)を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の燃料噴射装置。
【請求項9】
前記第1ピストン(43)は、前記第2ピストン(44)に対向する面に突起部(43b)を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−298021(P2007−298021A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311377(P2006−311377)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】