説明

燃料噴射装置

【課題】燃料フィルタの目詰まり発生後におけるドライバビリティの低下を防止する。
【解決手段】差圧センサで検出した燃料フィルタ12の前後差圧が所定値を超えている場合は、燃料フィルタ12が目詰まり状態であると判定し、燃料フィルタ12を通過する燃料量を所定量以下に制限する。これにより、燃料が燃料フィルタ12を通過する際の圧損が小さくなり、燃料フィルタ12の下流側圧力の低下が抑制される。したがって、気泡が発生しにくくなり、高圧ポンプ6の吸入量不足が発生しにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を内燃機関に噴射する燃料噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料噴射装置は、フィードポンプにより燃料タンクから燃料を汲み上げ、その燃料を高圧ポンプにより加圧するようになっている。また、燃料を濾過する燃料フィルタの目詰まりを目詰まり検出器により検出し、目詰まり発生時にはランプを点灯させて乗員に報知するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−57331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の燃料噴射装置は、燃料フィルタの目詰まり発生時にランプを点灯させて乗員に報知するものの、内燃機関への燃料供給はそのまま継続される。そして、目詰まりにより圧損が大きくなると燃料フィルタの下流側圧力が低下するため、燃料フィルタの下流側に気泡が発生しやすくなり、高圧ポンプがその気泡を吸い込んで高圧ポンプの吸入量不足が発生し、ひいては噴射量不足が発生する。その結果、内燃機関のスムーズな運転が阻害されてドライバビリティが低下したり、また甚だしい場合はエンジンストールが発生するという問題があった。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、燃料フィルタの目詰まり発生後におけるドライバビリティの低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、フィードポンプ(5)および燃料フィルタ(12)を介して供給される燃料をインジェクタ(2)から噴射させる燃料噴射装置において、燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いが所定目詰まり度合いに達したときに、燃料フィルタ(12)を通過する燃料量を所定量以下に制限することを特徴とする。
【0007】
これによると、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達すると、燃料フィルタ(12)を通過する燃料量を所定量以下に制限するため、燃料が燃料フィルタ(12)を通過する際の圧損が小さくなり、燃料フィルタ(12)の下流側圧力の低下が抑制され、気泡が発生しにくくなる。その結果、燃料フィルタ(12)の目詰まり発生後においても、内燃機関のスムーズな運転が可能となり、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、フィードポンプ(5)および燃料フィルタ(12)を介して高圧ポンプ(6)に供給される燃料の流量を吸入調量弁(7)にて調節し、高圧ポンプ(6)にて加圧された高圧燃料をコモンレール(1)に蓄える燃料噴射装置であって、燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いを検出する目詰まり検出器(18、22)と、目詰まり検出器(18、22)にて検出した燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いが所定目詰まり度合いに達したときに、燃料フィルタ(12)を通過する燃料量を所定量以下に制限する燃料量制限手段(S160)とを備えることを特徴とする。
【0009】
これによると、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達すると、燃料フィルタ(12)を通過する燃料量を所定量以下に制限するため、燃料が燃料フィルタ(12)を通過する際の圧損が小さくなり、燃料フィルタ(12)の下流側圧力の低下が抑制される。したがって、気泡が発生しにくくなり、高圧ポンプ(6)の吸入量不足が発生しにくくなる。その結果、燃料フィルタ(12)の目詰まり発生後においても、内燃機関のスムーズな運転が可能となり、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の燃料噴射装置において、フィードポンプ(5)は、内燃機関に駆動され内燃機関の回転に同期して作動するものであり、燃料量制限手段(S160)は、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達したときの内燃機関の最高回転数を、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達していないときよりも低く制限することを特徴とする。
【0011】
これによると、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達すると、内燃機関の最高回転数の制限によってフィードポンプ(5)の最高回転数も制限されるため、フィードポンプ(5)の吐出量が制限され、ひいては燃料フィルタ(12)を通過する燃料量が制限される。したがって、燃料フィルタ(12)の目詰まり発生後においても、内燃機関のスムーズな運転が可能となり、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、請求項2または3に記載の燃料噴射装置において、吸入調量弁(7)は、フィードポンプ(5)から高圧ポンプ(6)に至る燃料流路の面積を調整して燃料の流量を調節するものであり、燃料量制限手段(S160)は、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達したときの燃料流路の最大面積が、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達していないときよりも小さくなるように、吸入調量弁(7)の作動を制御することを特徴とする。
【0013】
これによると、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達すると、燃料流路の最大面積が小さく制限されることによって高圧ポンプ(6)の最大吸入量が少なくなり、燃料フィルタ(12)を通過する燃料量が制限される。したがって、燃料フィルタ(12)の目詰まり発生後においても、内燃機関のスムーズな運転が可能となり、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、請求項2ないし4のいずれか1つに記載の燃料噴射装置において、燃料量制限手段(S160)は、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達したときの最大噴射量を、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達していないときよりも少なく制限することを特徴とする。
【0015】
これによると、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達すると、最大噴射量が少なく制限されることによって、高圧ポンプ(6)に対する要求吐出量が少なくなり、ひいては燃料フィルタ(12)を通過する燃料量が制限される。したがって、燃料フィルタ(12)の目詰まり発生後においても、内燃機関のスムーズな運転が可能となり、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、請求項2ないし5のいずれか1つに記載の燃料噴射装置において、燃料量制限手段(S160)は、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達したときのコモンレール(1)内の最高燃料圧力を、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達していないときよりも低く制限することを特徴とする。
【0017】
これによると、燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達すると、コモンレール(1)内の最高燃料圧力が低く制限されることによって、高圧ポンプ(6)に対する要求吐出量が少なくなり、ひいては燃料フィルタ(12)を通過する燃料量が制限される。したがって、燃料フィルタ(12)の目詰まり発生後においても、内燃機関のスムーズな運転が可能となり、ドライバビリティの低下を防止することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明のように、目詰まり検出器(18)は、燃料フィルタ(12)の前後差圧により燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いを検出するものであってもよい。
【0019】
請求項8に記載の発明のように、目詰まり検出器(22)は、燃料フィルタ(12)と吸入調量弁(7)との間の圧力により燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いを検出するものであってもよい。
【0020】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料噴射装置の構成を示す図である。
【図2】ECU100において実行される燃料量制限制御のフローチャートである。
【図3】エンジン回転数と所定値K1との関係を示す特性図である。
【図4】(a)はエンジン回転数と燃料噴射量との関係を示す特性図、(b)は燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffとエンジン最高回転数Nmrとの関係を示す特性図である。
【図5】(a)は第1変形例の説明に供する吸入調量弁7の駆動電流と吸入調量弁7の吐出量との関係を示す特性図、(b)は燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffと吸入調量弁7の吐出量上限値QPmaxとの関係を示す特性図である。
【図6】(a)は第2変形例の説明に供する吸入調量弁7の駆動電流と吸入調量弁7の開口面積との関係を示す特性図、(b)は燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffと吸入調量弁7の電流下限値Iscvlとの関係を示す特性図である。
【図7】(a)は第3変形例の説明に供するエンジン回転数と燃料噴射量との関係を示す特性図、(b)は燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffと噴射量最大値Qfullとの関係を示す特性図である。
【図8】(a)は第4変形例の説明に供するエンジン回転数と目標レール圧との関係を示す特性図、(b)は燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffと目標レール圧最高値Pmaxとの関係を示す特性図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る燃料噴射装置の構成を示す図である。
【図10】ECU100において実行される燃料量制限制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0023】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は第1実施形態に係る燃料噴射装置の構成を示す図である。
【0024】
この燃料噴射装置は、高圧燃料を蓄えるコモンレール1、コモンレール1内の高圧燃料をディーゼルエンジン(以下、エンジンという)の各燃焼室に噴射するインジェクタ2、コモンレール1に高圧燃料を供給する燃料供給装置3、さらには制御装置100(以下、ECUという)を備えて構成されている。
【0025】
ECU100は、図示しないCPU、ROM、EEPROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータを備え、マイクロコンピュータに記憶したプログラムに従って演算処理を行うものである。
【0026】
コモンレール1は、燃料供給装置3より供給された高圧燃料を目標レール圧に保持して蓄える畜圧手段である。なお、目標レール圧は、例えば、アクセル開度信号、エンジン回転数信号といったエンジンの運転状態に基づいて、ECU100によって決定される。
【0027】
さらに、コモンレール1には、コモンレール1内の燃料圧力が予め定めた上限値を超えたときに開弁してコモンレール1の燃料圧力を逃がすプレッシャリミッタ1aが取り付けられている。プレッシャリミッタ1aより流出した燃料は、燃料配管1bを介して、後述する燃料供給装置3の燃料タンク4に戻される。
【0028】
インジェクタ2は、高圧燃料をエンジンの燃焼室に噴射する燃料噴射手段である。インジェクタ2には、高圧配管2aを介してコモンレール1の高圧燃料が供給され、コモンレール1から供給された燃料のうち噴射されない余剰燃料は、燃料配管2bを介して燃料タンク4へ戻される。なお、このインジェクタ2はECU100に接続されており、ECU100の制御信号によって、燃料の噴射時期および噴射量が制御される。
【0029】
燃料供給装置3は、燃料を溜めておく燃料タンク4、燃料タンク4から燃料を汲み上げるフィードポンプ5、フィードポンプ5から供給される燃料を加圧してコモンレール1へ圧送する高圧ポンプ6、フィードポンプ5から高圧ポンプ6へ供給される燃料流量を調整する吸入調量弁7等を有して構成される。
【0030】
フィードポンプ5は、吸入配管4aを介して燃料タンク4から汲み上げた燃料を高圧ポンプ6に供給するものである。本実施形態では、フィードポンプ5として内接歯車ポンプであるトロコイドポンプを採用しており、後述する高圧ポンプ6のカム軸61に連結され、このカム軸61から回転駆動力が伝達される。このカム軸61は、エンジンによって駆動されてエンジンの回転に同期して回転する。したがって、フィードポンプ5は、エンジンの回転に同期して作動する。
【0031】
吸入配管4aには、燃料タンク4より吸入された燃料を濾過して異物を除去するプレフィルタ8、および、車両の組立時等に配管内のエア抜きを行うために手動操作により燃料タンク4から燃料を汲み上げて圧送するプライミングポンプ9が配置されている。
【0032】
フィードポンプ5の下流側には、燃料通路5aを介して、燃料フィルタ12が接続されている。この燃料フィルタ12により、フィードポンプ5から吐出される燃料が濾過される。
【0033】
フィードポンプ5と燃料フィルタ12との間と、プライミングポンプとフィードポンプ5との間は、リターン通路14にて接続されている。このリターン通路14には、フィードポンプ5から吐出される燃料の圧力を所定圧以下に調整するリリーフ弁16が配置されている。このリリーフ弁16は、フィードポンプ5から吐出される燃料の圧力が所定圧を超えると開弁し、フィードポンプ5より吐出された燃料の一部が、リターン通路14を介してフィードポンプ5の吸入側に戻される。
【0034】
燃料フィルタ12の下流側には、燃料通路12aを介して吸入調量弁7が接続されている。吸入調量弁7は、弁開度を連続的に変更可能に構成されたリニアソレノイド式の電磁弁であり、換言すると、吸入調量弁7は、フィードポンプ5から高圧ポンプ6に至る燃料流路の面積を調整して燃料の流量を調節するものであり、エンジンの運転状態に基づいてECU100から出力される制御信号によって弁開度(すなわち燃料流路の面積)が制御される。
【0035】
燃料フィルタ12と並列に、目詰まり検出器としての差圧センサ18が配置されている。この差圧センサ18は、燃料フィルタ12の前後差圧に応じた電気信号をECU100に出力し、ECU100は、差圧センサ18からの電気信号に基づいて燃料フィルタ12の目詰まり度合いを判定する。
【0036】
燃料フィルタ12と吸入調量弁7との間と、プライミングポンプとフィードポンプ5との間は、燃料通路12bにて接続されている。この燃料通路12bには、レギュレートバルブ20が配置されている。レギュレートバルブ20は、弁開度を調整する弁体部、弁体部を閉弁させるように付勢するバネ手段等を有して構成され、機械的機構によって吸入調量弁7の上流側の燃料圧力を一定以下に制御するものである。また、燃料通路12bには、レギュレートバルブ20の上流側から後述する高圧ポンプ6のカム室64へ燃料を導く燃料通路12cが接続されている。
【0037】
高圧ポンプ6は、図1の一点鎖線の枠内に示すように、エンジンによって駆動されるカム軸61、カム軸61から駆動力が伝達されてシリンダの内部を往復運動するプランジャ62等を有して構成される。
【0038】
カム軸61には、カム軸61の回転運動を直線運動に変換してプランジャ62に伝達するカム63が連結されており、カム63はポンプハウジングに形成されるカム室64に配置される。そして、前述の燃料通路12cを介してカム室64へ導かれる燃料は、カム室64内の摺動部に対して潤滑油として作用する。カム室64からオーバフローした余剰燃料は、燃料通路6aを介して、燃料タンク4へ戻される。
【0039】
シリンダの内部には、プランジャ62の往復運動に応じて容積変化する加圧室65が形成されている。この加圧室65には、燃料通路7aを介して加圧室65へ供給される燃料が通過する吸入通路65a、および、加圧室65からコモンレール1側へ吐出される燃料が通過する吐出通路65bが接続されている。
【0040】
また、吸入通路65aには、加圧室65に燃料が吸入される際に開弁する吸入弁66が配置され、吐出通路65bには、加圧室65より燃料が吐出される際に開弁する吐出弁67が配置されている。そして、吐出通路65bは、燃料通路1cを介してコモンレール1に接続される。
【0041】
上記構成において、エンジン運転時には、エンジンの作動に伴って高圧ポンプ6のカム軸61が回転する。前述の如く、カム軸61にはフィードポンプ5が連結されているので、カム軸61からフィードポンプ5へ回転駆動力が伝達されてフィードポンプ5が駆動される。
【0042】
これによって、フィードポンプ5は、吸入配管4aを介して燃料タンク4から燃料を汲み上げる。フィードポンプ5から圧送された燃料は、燃料通路5aを介して燃料フィルタ12へ流入し、燃料フィルタ12を通過する際に濾過され、さらに、燃料通路12aを介して吸入調量弁7へ流入する。
【0043】
吸入調量弁7の弁開度は、ECU100から出力された制御信号によって制御されているので、エンジンの作動に必要十分な流量の燃料が、燃料通路7aを通過して高圧ポンプ6へ流入する。
【0044】
さらに、カム軸61とともにカム63が回転すると、高圧ポンプ61のプランジャ62が往復運動する。この往復運動によってプランジャ62がシリンダの内部をカム軸61側へ移動すると、加圧室65の容積が拡大して加圧室65の圧力が低下する。これにより、吸入弁66が開弁して吸入調量弁7の下流側の燃料が燃料通路7a→吸入通路65aの順に流れ加圧室65に吸入される。
【0045】
また、プランジャ62がシリンダの内部を反カム軸側へ移動すると、加圧室65の容積が縮小して加圧室65に吸入された燃料が加圧される。加圧された燃料圧力が吐出弁67の開弁圧を超えると、吐出弁67が開弁して、加圧室65の燃料が吐出通路65b→燃料通路1cを通過してコモンレール1へ圧送される。
【0046】
これにより、コモンレール1に高圧燃料が蓄えられる。そして、コモンレール1に蓄えられた高圧燃料は、ECU100の制御信号によって駆動されるインジェクタ2からエンジンの各燃焼室に噴射される。
【0047】
本実施形態では、燃料フィルタ12が所定目詰まり度合いに達した場合に、燃料フィルタ12を通過する燃料量を所定量以下に制限するための、燃料量制限制御を行う。図2はECU100において実行される燃料量制限制御のフローチャートである。
【0048】
図2の制御処理は、エンジン1の始動時に図示しないキースイッチの操作によりECU100に電源が投入されると開始され、エンジン1の停止時にキースイッチの操作によりECU100への電力供給が停止されると終了する。
【0049】
まず、S100(Sはステップを表す)ではエンジンが始動されたか否かを判定する。具体的には、エンジン回転数が所定回転数以上であればS100にて肯定判定され、S110に進む。なお、所定回転数は、アイドリング回転数相当、ないしはアイドリング回転数よりも僅かに低い回転数である。
【0050】
S110では、差圧センサ18が正常であるか否かを判定する。そして、例えば断線やショートが発生していなければS110にて肯定判定され、S120に進む。
【0051】
S120では、燃料フィルタ12の前後差圧を検出する条件が成立しているか否かを判定し、燃料フィルタ12を通過する燃料量が比較的多くなる運転状態のときにS120にて肯定判定される。具体的には、エンジン回転数が所定範囲のときにS120にて肯定判定される。なお、所定範囲は、例えばエンジンの最高出力発生時回転数の50〜60%に設定する。
【0052】
また、S120では、エンジン負荷または燃料噴射量が所定範囲内であることを、成立要件として追加してもよい。さらに、S120では、エンジンが定常運転状態であること、具体的には、エンジン回転数変動が所定値以内で、且つエンジン負荷または燃料噴射量の変動が所定値以内であることを、成立要件として追加してもよい。さらにまた、S120では、エンジンが暖機完了状態であること、具体的には、燃料温度やエンジン冷却水温が所定値以上であることを、成立要件として追加してもよい。
【0053】
S120にて否定判定された場合は、S120にて肯定判定されるまでS110およびS120の判定が繰り返し実行される。
【0054】
そして、S120にて肯定判定されるとS130に進み、このS130では、差圧センサ18にて検出した燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffを読み込む。
【0055】
続いて、S140では、燃料フィルタ12が目詰まり状態であるか否かを判定する。具体的には、S130で読み込んだ燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffが所定値K1を超えている場合は、燃料フィルタ12が目詰まり状態である(すなわち、所定目詰まり度合いに達している)と判断され、S140にて肯定判定される。
【0056】
ここで、本実施形態のフィードポンプ5はエンジンの回転に同期して作動するため、エンジンの回転数が高くなるのに伴って、フィードポンプ5の吐出量が増加し、ひいては燃料フィルタ12を通過する燃料量が増加し、燃料フィルタ12の前後差圧が大きくなる。そこで、図3に示すように、エンジンの回転数が高くなるのに伴って、所定値K1を大きくすることにより、燃料フィルタ12の目詰まり状態をより正確に判定することができる。
【0057】
S140にて肯定判定されるとS150に進み、このS150では、燃料フィルタ12が目詰まり状態であることを乗員に報知するためにランプを点灯する。 続いて、S160に進み、燃料量制限手段としてのS160では、燃料フィルタ12を通過する燃料量を所定量以下に制限する。
【0058】
ここで、図4(a)はエンジンの全回転域で調速作用を行なういわゆるオールスピード制御におけるエンジン回転数と燃料噴射量との関係を示す特性図であり、この図4(a)に示すように、燃料フィルタ12が目詰まり状態時のエンジン最高回転数Nmrを、燃料フィルタ12が目詰まり状態ではない(すなわち、所定目詰まり度合いに達していない)場合のエンジン最高回転数Nmrよりも低く設定する。なお、燃料フィルタ12が目詰まり状態時のエンジン最高回転数Nmrは、例えばエンジンの最高出力発生時回転数の70%に設定する。
【0059】
また、図4(b)に示すように、燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffが大きくなるのに伴って、燃料フィルタ12が目詰まり状態時のエンジン最高回転数Nmrを低くしてもよい。
【0060】
これにより、フィードポンプ5の吐出量が制限され、ひいては燃料フィルタ12を通過する燃料量が所定量以下に制限されるため、燃料が燃料フィルタ12を通過する際の圧損が小さくなり、燃料フィルタ12の下流側圧力の低下が抑制される。したがって、気泡が発生しにくくなり、高圧ポンプ6の吸入量不足が発生しにくくなる。その結果、燃料フィルタ12の目詰まり発生後においても、エンジンのスムーズな運転が可能となり、ドライバビリティの低下を防止し、またエンジンストールを防止することができる。
【0061】
(第1実施形態の変形例)
なお、上記実施形態においては、S160において、燃料フィルタ12が目詰まり状態時のエンジン最高回転数Nmrを、燃料フィルタ12が目詰まり状態ではない場合のエンジン最高回転数Nmrよりも低く制限したが、図5〜図8に示す第1〜第4変形例のようにしてもよい。
【0062】
すなわち、図5(a)は、ノーマリーオープンタイプの吸入調量弁7を用いた場合の、吸入調量弁7の駆動電流と吸入調量弁7の吐出量との関係を示す特性図であり、この図5(a)に示すように、燃料フィルタ12が目詰まり状態時の吸入調量弁7の吐出量上限値QPmaxを、燃料フィルタ12が目詰まり状態ではない場合の吐出量上限値QPmaxよりも低く設定する。また、燃料フィルタ12が目詰まり状態時の吐出量上限値QPmaxは一定であってもよいし、あるいは、図5(b)に示すように、燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffが大きくなるのに伴って吐出量上限値QPmaxを低くしてもよい。
【0063】
これによると、燃料フィルタ12が目詰まり状態になると、高圧ポンプ6の最大吸入量が少なくなるため、燃料フィルタ12を通過する燃料量が制限され、燃料が燃料フィルタ12を通過する際の圧損が小さくなり、燃料フィルタ12の下流側圧力の低下が抑制される。
【0064】
また、図6(a)は、ノーマリーオープンタイプの吸入調量弁7の駆動電流と吸入調量弁7の開口面積との関係を示す特性図であり、この図6(a)に示すように、燃料フィルタ12が目詰まり状態時の吸入調量弁7の電流下限値Iscvlを、燃料フィルタ12が目詰まり状態ではない場合の電流下限値Iscvlよりも高く設定する。また、燃料フィルタ12が目詰まり状態時の電流下限値Iscvlは一定であってもよいし、あるいは、図6(b)に示すように、燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffが大きくなるのに伴って、電流下限値Iscvlを高くしてもよい。
【0065】
これによると、燃料フィルタ12が目詰まり状態になると、高圧ポンプ6の最大吸入量が少なくなるため、燃料フィルタ12を通過する燃料量が制限され、燃料が燃料フィルタ12を通過する際の圧損が小さくなり、燃料フィルタ12の下流側圧力の低下が抑制される。
【0066】
さらに、図7(a)はエンジン回転数と燃料噴射量との関係を示す特性図であり、この図7(a)に示すように、燃料フィルタ12が目詰まり状態時の噴射量最大値Qfullを、燃料フィルタ12が目詰まり状態ではない場合の噴射量最大値Qfullよりも低く設定する。また、燃料フィルタ12が目詰まり状態時の噴射量最大値Qfullは一定であってもよいし、あるいは、図7(b)に示すように、燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffが大きくなるのに伴って、噴射量最大値Qfullを低くしてもよい。
【0067】
これによると、燃料フィルタ12が目詰まり状態になると、最大噴射量が少なく制限されて、高圧ポンプ6に対する要求吐出量が少なくなるため、燃料フィルタ12を通過する燃料量が制限され、燃料が燃料フィルタ12を通過する際の圧損が小さくなり、燃料フィルタ12の下流側圧力の低下が抑制される。
【0068】
さらにまた、図8(a)はエンジン回転数と目標レール圧との関係を示す特性図であり、この図8(a)に示すように、燃料フィルタ12が目詰まり状態時の目標レール圧最高値Pmaxを、燃料フィルタ12が目詰まり状態ではない場合の目標レール圧最高値Pmaxよりも低く設定する。また、燃料フィルタ12が目詰まり状態時の目標レール圧最高値Pmaxは一定であってもよいし、あるいは、図8(b)に示すように、燃料フィルタ12の前後差圧Pdiffが大きくなるのに伴って、目標レール圧最高値Pmaxを低くしてもよい。
【0069】
これによると、燃料フィルタ12が目詰まり状態になると、コモンレール1内の最高燃料圧力が低く制限されて、高圧ポンプ6に対する要求吐出量が少なくなるため、燃料フィルタ12を通過する燃料量が制限され、燃料が燃料フィルタ12を通過する際の圧損が小さくなり、燃料フィルタ12の下流側圧力の低下が抑制される。
【0070】
なお、本実施形態および第1〜第4変型例は、実施可能な範囲で任意に組み合わせが可能である。この場合、燃料フィルタ12が目詰まり状態時のエンジン最高回転数Nmrを燃料フィルタ12が目詰まり状態ではない場合のエンジン最高回転数Nmrよりも低く制限する制御と、第1〜第4変型例の制御とを組み合わせるのが望ましい。
【0071】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。図9は第2実施形態に係る燃料噴射装置の構成を示す図、図10はECU100において実行される燃料量制限制御のフローチャートである。
【0072】
本実施形態は、差圧センサ18に代えて圧力センサ22を採用したものである。なお、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0073】
図9に示すように、目詰まり検出器としての圧力センサ22は、燃料フィルタ12と吸入調量弁7との間に配置されている。この圧力センサ22は、燃料フィルタ12と吸入調量弁7との間の圧力(以下、フィルタ下流側圧力という)に応じた電気信号をECU100に出力し、ECU100は、圧力センサ22からの電気信号に基づいて燃料フィルタ12の目詰まり度合いを判定する。
【0074】
図10に示すように、エンジンが始動され(S100:YES)、圧力センサ22が正常(S110:YES)であれば、S120aに進む。
【0075】
S120aでは、第1実施形態のS120と同様にして、フィルタ下流側圧力を検出する条件が成立しているか否かを判定する。
【0076】
そして、S120aにて肯定判定されるとS130aに進み、このS130aでは、圧力センサ22にて検出したフィルタ下流側圧力を読み込む。
【0077】
続いて、S140aでは、燃料フィルタ12が目詰まり状態であるか否かを判定する。具体的には、S130aで読み込んだフィルタ下流側圧力が所定値K2以下である場合は、燃料フィルタ12が目詰まり状態である(すなわち、所定目詰まり度合いに達している)と判断され、S140aにて肯定判定される。
【0078】
S140aにて肯定判定されるとS150に進み、このS150では、燃料フィルタ12が目詰まり状態であることを乗員に報知するためにランプを点灯する。
【0079】
続いて、S160に進み、このS160では、燃料フィルタ12を通過する燃料量を所定量以下に制限する。これにより、燃料が燃料フィルタ12を通過する際の圧損が小さくなり、フィルタ下流側圧力の低下が抑制される。したがって、気泡が発生しにくくなり、高圧ポンプ6の吸入量不足が発生しにくくなる。その結果、燃料フィルタ12の目詰まり発生後においても、エンジンのスムーズな運転が可能となり、ドライバビリティの低下を防止し、またエンジンストールを防止することができる。 (他の実施形態)
上記各実施形態では、コモンレール1を備える燃料噴射装置を示したが、本発明は、コモンレール1を備えていない燃料噴射装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 コモンレール
2 インジェクタ
4 燃料タンク
5 フィードポンプ
6 高圧ポンプ
7 吸入調量弁
12 燃料フィルタ
18 差圧センサ(目詰まり検出器)
22 圧力センサ(目詰まり検出器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク(4)から燃料を汲み上げて圧送するフィードポンプ(5)と、
前記フィードポンプ(5)の下流側に配置されて燃料を濾過する燃料フィルタ(12)と、
前記燃料フィルタ(12)の下流側に配置されて燃料を内燃機関に噴射するインジェクタ(2)とを備える燃料噴射装置において、
前記燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いが所定目詰まり度合いに達したときに、前記燃料フィルタ(12)を通過する燃料量を所定量以下に制限することを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
燃料タンク(4)から燃料を汲み上げて圧送するフィードポンプ(5)と、
前記フィードポンプ(5)の下流側に配置されて燃料を濾過する燃料フィルタ(12)と、
前記フィードポンプ(5)および燃料フィルタ(12)を介して供給される燃料を加圧して吐出する高圧ポンプ(6)と、
前記燃料フィルタ(12)と前記高圧ポンプ(6)との間に配置されて、前記高圧ポンプ(6)に供給される燃料の流量を調節する吸入調量弁(7)と、
前記高圧ポンプ(6)から供給される高圧燃料を蓄えるコモンレール(1)と、
前記コモンレール(1)から供給される高圧燃料を内燃機関に噴射するインジェクタ(2)と、
前記燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いを検出する目詰まり検出器(18、22)と、
前記目詰まり検出器(18、22)にて検出した前記燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いが所定目詰まり度合いに達したときに、前記燃料フィルタ(12)を通過する燃料量を所定量以下に制限する燃料量制限手段(S160)とを備えることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項3】
前記フィードポンプ(5)は、前記内燃機関に駆動され前記内燃機関の回転に同期して作動するものであり、
前記燃料量制限手段(S160)は、前記燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達したときの前記内燃機関の最高回転数を、前記燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達していないときよりも低く制限することを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記吸入調量弁(7)は、前記フィードポンプ(5)から前記高圧ポンプ(6)に至る燃料流路の面積を調整して燃料の流量を調節するものであり、
前記燃料量制限手段(S160)は、前記燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達したときの前記燃料流路の最大面積が、前記燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達していないときよりも小さくなるように、前記吸入調量弁(7)の作動を制御することを特徴とする請求項2または3に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記燃料量制限手段(S160)は、前記燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達したときの最大噴射量を、前記燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達していないときよりも少なく制限することを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1つに記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記燃料量制限手段(S160)は、前記燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達したときの前記コモンレール(1)内の最高燃料圧力を、前記燃料フィルタ(12)が所定目詰まり度合いに達していないときよりも低く制限することを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1つに記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
前記目詰まり検出器(18)は、前記燃料フィルタ(12)の前後差圧により前記燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いを検出することを特徴とする請求項2ないし6のいずれか1つに記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
前記目詰まり検出器(22)は、前記燃料フィルタ(12)と前記吸入調量弁(7)との間の圧力により前記燃料フィルタ(12)の目詰まり度合いを検出することを特徴とする請求項2ないし6のいずれか1つに記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−64082(P2011−64082A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213133(P2009−213133)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】