説明

燃料電池システム

【課題】簡素な構成で付臭剤を処理できる水素安全に優れた燃料電池システムを提供する。
【解決手段】目的を達成するための燃料電池システムであって、燃料タンク12と燃料電池16との間に、水素化装置14を配置する。すなわち、電解質膜の両面に触媒層が設けられてなる膜電極接合体を備える燃料電池と、燃料タンクからガス流路を介し触媒層に至るまでのガスの流通経路に備えられる、非硫黄系の付臭剤を水素化する水素化触媒を備える。また、燃料電池が発する熱を水素化触媒に供給する熱供給手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに関し、特に、付臭剤が添加された水素ガスを燃料として用いる燃料電池を備えるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2004−134272号公報に開示されているように、燃料ガスとして付臭剤添加水素ガスを用いる燃料電池が知られている。上記従来のシステムによれば、安全に水素を取り扱う観点から、燃料タンク内に、水素と付臭剤とを混入して貯留している。そして、付臭剤の匂いを検知することで、水素系の密閉が確保されているか否かを判別することができるとされる。
【0003】
燃料電池の内部には、発電反応を生じさせるための触媒層が備えられている。水素と付臭剤の混合ガスを燃料電池に供給した場合、触媒層が付臭剤によって被毒され、反応性が低下するおそれがある。そこで、上記従来の技術では、燃料タンクと燃料電池との間に、付臭剤を吸着する吸着機構を設けている。これにより、水素と付臭剤の混合ガスから付臭剤を除去し、燃料電池の発電が阻害されるのを回避している。
【0004】
また、吸着材の吸着能力は、付臭剤の吸着量が多くなるほど低下する。上記従来の技術によれば、これに対処するために、必要に応じて、水素による還元分解を利用することにより吸着材の吸着能を回復することとしている。このように、上記従来の技術によれば、触媒被毒による燃料電池の発電阻害を継続的に防止しつつ、水素安全に優れた燃料電池システムを得ることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−134272号公報
【特許文献2】特開2005−203108号公報
【特許文献3】特開2004−111167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のシステムに係る吸着機構は、吸着材と、当該吸着材の吸着能を回復するための機構とを含んでいる。吸着能回復用の機構は、付臭剤の分解を促すための触媒やブロワその他の種々の機構から構成される。このように、上記従来のシステムでは吸着機構を構成する要素が多数あり、これに起因して、システムの複雑化、大型化を招くおそれがある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、簡素な構成で付臭剤を処理できる水素安全に優れた燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池システムであって、
電解質膜の両面に触媒層が設けられてなる膜電極接合体を備える燃料電池と、
前記触媒層に接続するガス流路と、
前記ガス流路に接続し、該ガス流路を介して前記触媒層に燃料ガスを供給する燃料タンクと、
前記燃料タンクから前記ガス流路を介し前記触媒層に至るまでのガスの流通経路に備えられる、非硫黄系の付臭剤を水素化する水素化触媒と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記燃料電池が発する熱を前記水素化触媒に供給する熱供給手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記燃料電池は、複数の前記膜電極接合体がセパレータを挟んで積層されてなる燃料電池スタックであって、
前記ガス流路は、前記燃料電池スタックの内部を延びて前記複数の前記膜電極接合体のそれぞれの触媒層に接続するマニホールドと、該燃料電池スタックの外部に備えられ該マニホールドと前記燃料タンクとを接続する管路とを含み、
前記水素化触媒をその内部に備え、前記燃料電池スタックに一体化されて前記マニホールドと前記管路との間に介在する水素化セルを備えることを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第1乃至3のいずれかの発明において、
前記燃料電池は、複数の前記膜電極接合体がセパレータを挟んで積層されてなる燃料電池スタックであって、
前記ガス流路は、前記燃料電池スタックの内部を延びて前記複数の前記膜電極接合体のそれぞれの触媒層に接続するマニホールドを含み、
前記水素化触媒が、前記マニホールドに備えられることを特徴とする。
【0012】
また、第5の発明は、第1乃至4のいずれかの発明において、
ガス拡散層と、該ガス拡散層に積層され該ガス拡散層と接する面に溝を有する板材とを含んで構成され、該ガス拡散層が前記触媒層を向くように該触媒層に重ねて設けられるガス流通部材を備え、
前記ガス流路と前記溝とが接続され、該溝は該ガス流路と前記触媒層との間に介在しており、
前記水素化触媒が、前記溝の内面に備えられることを特徴とする。
【0013】
また、第6の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池であって、
電解質膜の両面に、触媒と担体とを含んでなる触媒層が設けられた膜電極接合体と、
前記触媒層に重ねて設けられ、ガスの流入口と、該ガス流入口からその内部を延びて該触媒層に接続するガス流路とを備えるガス流通部材と、
を備える燃料電池であって、
前記触媒層のうち前記ガス流入口の近傍に位置する第1の部位と、該触媒層のうち該第1の部位以外の第2の部位とは、触媒の材料が異なるものとされており、
該第1の部位の触媒の材料は、水素原子からプロトンを生じさせる活性作用が該第2の部位の触媒の材料よりも低く、かつ、非硫黄系の付臭剤を水素化する活性作用が該第2の部位の触媒の材料と同等以上である材料とされていることを特徴とする燃料電池。
【0014】
また、第7の発明は、第6の発明において、
前記触媒層の前記第1の部位の触媒は、ニッケルモリブデン系(NiMo系)触媒またはコバルトモリブデン系(CoMo系)触媒を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、燃料タンクに非硫黄系の付臭剤と水素との混合ガスを貯留し、燃料電池の発電の際に、当該混合ガス中の付臭剤を水素化したうえで燃料電池に供給することができる。付臭剤を水素化して燃料電池に供給する手法によれば、簡素な構成で、付臭剤による燃料電池のアノードの触媒に対する被毒の影響を低減することができる。これにより、水素安全に優れた燃料電池システムを、簡素な構成で実現することができる。
【0016】
第2の発明によれば、燃料電池の内部で生ずる反応によって発生する熱を、水素化触媒の反応用の熱として利用することができる。
【0017】
第3の発明によれば、水素化触媒を内部に備える水素化セルを燃料電池スタックと一体化することにより、省スペース化が実現できる。よって、個別の専用の水素化装置を必要とせず、水素安全に優れた燃料電池システムを簡素な構成で実現することができる。
【0018】
第4の発明によれば、燃料電池スタック内部のそれぞれの電解質膜へと流れるガスに含まれる付臭剤を、効率よく、水素化を行うことができる。
【0019】
第5の発明によれば、ガス流通部材が備えるガス流路としての溝に水素化触媒をコーティングしているので、燃料電池の内部に直接、水素化触媒を備えることができる。その結果、個別の専用の水素化装置を必要とせず、簡素なシステムで付臭剤の水素化を行うことができる。
【0020】
第6の発明によれば、非硫黄系の付臭剤が混入された水素を燃料として用いる燃料電池システムにおいて、付臭剤が流入するガス流入口近傍の第1の部位を付臭剤水素化用の部位として構成することで、発電反応に寄与すべき第2の部位の触媒層を被毒から守ることができる。これにより、燃料電池の発電が阻害されるのを防ぐことができる。そして、燃料電池の内部において当該付臭剤の水素化を行うことができるので、付臭剤水素化機能を備える燃料電池システムを簡素な構成で実現することができる。
【0021】
第7の発明によれば、第1の部位の触媒における付臭剤水素化機能を、貴金属材料に比して安価な材料を用いて実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の燃料電池システムを説明するための図である。図1の燃料電池システム10は、燃料タンク12を含んでいる。燃料タンク12には、水素と非硫黄系の付臭剤との混合ガスが貯留されている。付臭剤により水素漏れを検知する手法によれば、水素洩れ検知専用のセンサなどの省略が可能であるという利点がある。本実施形態では、付臭剤として、アクリル酸エチルを用いることとする。
【0023】
燃料タンク12の下流は、管路13に接続している。管路13には、図示しないシャット弁、レギュレータ等の燃料供給機構が備えられている。管路13は、水素化装置14に接続している。水素化装置14は、後述する図2で述べるように、燃料タンク12内の付臭剤を水素化するための装置である。水素化装置14の下流は、管路15を介して、燃料電池16のアノードガス入口18に接続されている。
【0024】
燃料電池16は、複数の単位燃料電池が積層されてなる燃料電池スタックである。単位燃料電池は、図示は省略するが、膜電極接合体を一対の集電用板材で挟んだ構成になっている。膜電極接合体は、固体高分子電解質膜の両面に触媒が一体化されたものである。膜電極接合体の各面には、さらに、カーボンシート等で作られたガス拡散層が一体化されている。集電用の板材は、隣接する2枚の膜電極接合体の間を仕切るセパレータとしても機能している。
【0025】
単位燃料電池は、当該膜電極接合体の一方の面側がアノードとして、他方の面側がカソードとして機能する。単位燃料電池は、発電時には、アノードに水素を、カソードに空気の供給をそれぞれ受け、膜電極接合体を介して生ずる電気化学的反応により発電する。
【0026】
複数の単位燃料電池は、それぞれ、アノード側のガス流路を備えている。図示しないが、実施の形態1では、集電用の板材(セパレータ)の表面に溝を形成し、アノード側ガス流路として用いる。この溝に水素を流通させることにより、溝を流通する水素がガス拡散層を介してアノードの電極触媒層に至る。
【0027】
また、燃料電池16の内部では、単位燃料電池が積層されて各単位燃料電池のアノード側のガス流路が合流し、アノード側マニホールド(図示せず)が形成されている。アノードガス入口18は、このアノード側マニホールドに連通している。なお、燃料電池16のような、膜電極接合体、ガス拡散層、セパレータおよびマニホールドを備える燃料電池の構成は既に公知であるため、その詳細な説明は省略する。
【0028】
燃料電池16は、上述したアノード側マニホールドの下流と連通するアノードガス出口20を備えている。アノードガス出口20の下流は、パージ弁22に接続している。パージ弁22の下流は、図示しない排気系に接続している。
【0029】
本実施形態では、燃料電池16に燃料ガスを供給し、当該燃料ガスをアノード側のガス流路内に留めつつ発電を行うこととする。そして、必要に応じ、パージ弁22を開放して、アノード側のガス流路内のパージを行う。このようなシステムは、アノードデッドエンド型システムとも呼称される。
【0030】
図2(a)(b)は、水素化装置14の構成を説明するための図である。水素化装置14の内部には、図2(a)に示す水素化触媒28が備えられている。水素化触媒28は、触媒活性点26が担持された担体24がひだ状に折り込まれたものである。図2(a)では、水素化触媒28の一部分を拡大して示している。図2(b)は、水素化装置14の外形形状を示す図である。図2(b)に示すように、水素化装置14は円筒状の外形を備え、その内部に水素化触媒28を備えている。
【0031】
本実施形態では、セラミックス製の支持体を担体24として用い、この支持体に触媒活性点26としての白金を塗布することにより、水素化触媒を形成することとする。なお、水素化装置14を構成するための材料、手法などは、例えば、特開2004−134272号公報に開示されているものを用いることができる。
【0032】
また、図1に示すように、燃料電池システム10は、燃料電池16の発する熱を水素化装置14に供給できるように構成されている。具体的には、実施の形態1では、燃料電池16の内部を通って水素化装置14に至るように冷却液流路19を設ける。冷却液流路19内を流れる冷却液が、燃料電池16から熱を奪うとともに、水素化装置14へと熱を供給する。このようにして、燃料電池16の熱が水素化触媒28まで伝達されるようにする。なお、例えば、水素化装置14と燃料電池16の外周部の構成をともに熱伝導性を有する材料で構成し、それらを隣接して配置して接触させることで熱の授受を行っても良い。
【0033】
[実施の形態1の動作、作用]
以下、実施の形態1の燃料電池システム10の動作ならびに作用について説明する。上述したように、燃料タンク12には、安全性などの観点から、非硫黄系の付臭剤が混入されている。燃料電池システム10の発電時には、燃料タンク12から水素と付臭剤の混合ガスが下流へと供給される。
【0034】
付臭剤が直接燃料電池に供給された場合、燃料電池内の触媒が付臭剤によって被毒され、燃料電池の発電を阻害するおそれがある。これを防ぐために、付臭剤の吸着処理を行う吸着機構を備えるシステムが開示されているが、吸着機構を構成する要素が多数あり、これに起因して、システムの複雑化、大型化を招くおそれがある。従って、システムの複雑化、大型化を防ぎつつ、付臭剤による水素安全の確保および燃料電池の良好な発電状態の維持という背反する要求を同時に満たすことが望ましい。
【0035】
そこで、本実施形態では、以下述べる手法により、上記の要求に応えることとする。図3は、実施の形態1にかかる付臭剤処理の手法を説明するための図であって、付臭剤の水素化の効果について説明するための図である。水素化とは、水素を還元剤として化合物に水素原子を付加する還元反応のことである(水添、水素添加、水素還元とも呼称される)。
【0036】
具体的には、図3は、電極として白金を用いて、サイクリックボルタンメトリー(Cyclic Voltammetry:CV)法による測定を行った結果を示す図である。白金を浸漬する溶液にアクリル酸エチルを添加する前および後について、それぞれ測定した結果が示されている。図3(a)の左側(横軸の0.2近傍)において、添加前(細線)に比べて添加後(太線)の電流密度(縦軸)が減少している。この点から、アクリル酸エチルの添加によって白金が被毒されたと判断することができる。
【0037】
図3(b)は、上述の図3(a)と同様の実験を、アクリル酸エチルに代えて、当該アクリル酸エチルの水素化体であるプロピオン酸エチルを用いて行った結果を示す図である。プロピオン酸エチルの場合について、添加前(細線)と添加後(太線)とを比較すると、横軸の0.2近傍における電流密度の値の減少が、プロピオン酸エチルの添加前後で殆ど見られない。このように、図3(a)、(b)の結果が示すように、プロピオン酸エチルは、アクリル酸エチルに比して、白金に対する被毒性が小さい。
【0038】
アクリル酸エチルなどの二重結合を持った不飽和炭化水素化合物は、π電子を含んでいる。π電子は触媒表面に吸着し易いという特性があり、この特性が付臭剤の触媒被毒の要因となっている。一方、このような吸着の特性は、付臭剤の水素化によって低下する。具体的には、上記図3に示すように、アクリル酸エチルの水素化体であるプロピオン酸エチルは、アクリル酸エチルに比して被毒性が低くなる。つまり、水素化反応を利用することにより、付臭剤の触媒への吸着性を低下させることができる。
【0039】
また、図4は、燃料電池反応条件下で白金触媒を用いた場合の、アクリル酸エチル水素化反応の添加率を示す図である。図4では、具体的には、80℃の温度条件における、白金触媒による水素化の反応前後でのアクリル酸エチルの濃度変化を示す図である。図4に示すように、反応前100%であったアクリル酸エチルが、水素化反応後、20%のアクリル酸エチルと80%のプロピオン酸エチルとなっている。このように、燃料電池反応条件下程度の温度雰囲気で、触媒を用いることにより、アクリル酸エチルを水素化し、プロピオン酸エチルを得ることができる。
【0040】
本願発明者は、これらの点に着目し、付臭剤による水素安全の確保とともに、燃料ガス中の付臭剤を水素化し、燃料電池の触媒被毒を防止するという効果的な手法に想到した。実施の形態1では、具体的には、燃料タンク12の下流であって燃料電池16の上流位置に、水素化装置14を設ける。水素化装置14は、上述したように、水素化触媒28をその内部に備えている。
【0041】
このような構成によれば、混合ガス中の付臭剤が水素化装置14を通過する過程で、触媒活性点26における反応により水素化される。水素化された付臭剤は、その後水素化装置14下流へと流出し、水素と共に燃料電池16に供給される。前述したように、水素化された付臭剤は、被毒性が抑制されている。このため、燃料電池16の触媒層の被毒が防止され、燃料電池の発電が阻害されるのを防ぐことができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、触媒反応により水素化の促進がなされており、水素化された付臭剤が水素化装置14の下流へと流出する。従って、吸着機構などとは異なり、付臭剤を処理するにあたり付臭剤を捕捉、蓄積するといった手法が取られていない。このような手法によれば、水素化装置14の定期的な交換や、蓄積された付臭剤を処理する特別の機構(例えば、付臭剤排気用の配管など)を設けることが要求されず、燃料電池システム全体の構成が複雑化するのを回避することができる。
【0043】
なお、燃料電池16の系内における水素化済付臭剤の濃度が上昇した場合には、適当なタイミングでパージ弁22を開くこととする。このようにすることで、窒素などの他の不純物質と一緒にパージすることができる。また、燃料電池システム10では、燃料電池16の下流へと流出するオフガス中の付臭剤が既に水素化されている。付臭剤が水素化されると、その臭質が変化し、甘い臭いとなる。このため、付臭剤の危険臭がなくなるので、本実施形態のシステムでは、燃料電池16下流に脱臭機構を配置しなくともよいという利点がある。
【0044】
また、本実施形態では、水素化装置14、燃料電池16の発する熱を水素化装置14に供給できるように構成されている。炭化水素化合物における二重結合の水素化反応は熱を必要とするため、本実施形態によれば、燃料電池16の発電反応に伴う熱を水素化に活用することができる。また、上記の水素化反応は、温度が50℃程度あれば進行する。発電反応に伴う燃料電池16の温度は、80℃〜100℃程度となりうるので、この熱を水素化触媒に供給することで、水素化反応のための熱を十分に供給することができる。この点は、図4で述べたように、燃料電池発電状況下における白金触媒を用いた水素化の効果からも明らかである。これにより、加熱用の専用装置の簡略化、小型化が可能であり、システムの構成をさらに簡略なものとすることができる。
【0045】
なお、本実施形態のように水素化触媒を備えることにより、燃料ガス中に存在するCOやHSなどの不純物を吸着することができる。カルボン酸基やエステル基を持った分子に対して水素化分解が進むと、被毒性のあるCOが副生物として生成される。この副反応を防ぐことは熱力学的に困難であり、一般的な吸着剤(活性炭など)ではCOは吸着されず、燃料電池内に流れ込んでしまう。本実施形態によれば、上述した付臭剤の被毒性低減とともに、燃料電池16にこれらの副生成物が流入するのを防ぐことができ、燃料電池16の耐久性の低下を防止することができる。
【0046】
また、本実施形態のように担体24をひだ状に折り込む構成とすることで、燃料ガスを水素化装置14を通過させつつ燃料電池16に供給する際に、圧力損失の低減もはかることができる。なお、実施の形態1では、水素化装置14を燃料電池16の上流かつ直近の位置に配置している。水素漏れの検知をなるべく確実に行うために、燃料電池16の外部においては付臭剤の機能をできるだけ利用するという観点もある。このような観点から、実施の形態1のように、付臭剤を水素化する位置(水素化装置14の位置)を燃料電池16に近づけたり、また、燃料電池16と水素化装置14との間に他の制御機器(他の配管、弁など)を含ませないことも効果的である。
【0047】
尚、上記説明した実施の形態1では、燃料電池16が、前記第1の発明の「燃料電池」に、燃料タンク12が、前記第1の発明の「燃料タンク」に、管路13、15および燃料電池16内のマニホールドやセパレータの溝などの、燃料タンク12と燃料電池16内の電極触媒層とをつなぐガスの経路が、前記第1の発明の「ガス流路」に、それぞれ相当している。そして、水素化装置14内の水素化触媒28が、前記第1の発明の「水素化触媒」に相当している。
【0048】
また、上記説明した実施の形態1では、冷却液流路19を通る冷却液による熱の授受が、前記第2の発明における「熱供給手段」に相当している。
【0049】
[実施の形態1の変形例]
(第1変形例)
実施の形態1では、水素に添加する非硫黄系の付臭剤として、アクリル酸エチルを用いた。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。上記述べたように、付臭剤中のπ電子が触媒表面に吸着し易いという点が、付臭剤が触媒を被毒する要因となっている。このような付臭剤を水素化することにより、付臭剤の触媒への吸着性を低下させることが可能である。この点に着目すれば、本発明に用いることが可能な付臭剤はアクリル酸エチルになんら限定されるものではない。
【0050】
例えば、特開2004−134272号公報に開示の付臭剤を始めとする、種々の不飽和炭化水素化合物を含む付臭剤を、本発明に用いることができる。なお、非硫黄系の付臭剤は、硫黄系の付臭剤に比して、吸着力が小さいという特徴がある。このため、本発明のように、水素化を経た付臭剤が燃料電池内に流入するようなシステムでは、非硫黄系の付臭剤を用いることが好適であるということができる。
【0051】
(第2変形例)
本実施形態では、燃料電池システムを、燃料電池16に燃料ガスを供給し、当該燃料ガスを内部に留めつつ発電を行うシステムとした(アノードデッドエンド型システム)。しかしながら、本発明は必ずしもこのようなシステムに限られない。燃料電池のアノード側のガス流路を含む循環系を備え、当該循環系内で水素を循環させるようなシステムに対しても、本発明を適用することができる。
【0052】
(第3変形例)
実施の形態1では、水素化装置14の構成を、触媒活性点26が担持された担体24がひだ状に折り込まれたものをその内部に備える構成とした。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。例えば、ハニカム形状の基材に触媒活性点を担持させたものを用いても良い。当該ハニカム基材の材料としては、金属、セラミックスなどの非導電性材料など種々の材料を適用することができる。
【0053】
(第4変形例)
実施の形態1では、燃料電池16の発電により発生する熱を、水素化装置14へと供給することとした。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。必要に応じ、ヒータなど他の加熱機構を用いてもよい。また、水素化装置14の加熱方法としては、例えば、燃料電池システム10が車両に搭載された場合には、ブレーキからの摩擦熱、ブレーキの回生エネルギ、その車両運転時に生ずる熱を利用することもできる。これにより、実施の形態1と同様に加熱機構を簡略化、省略でき、また、ラジエータの小型化も可能となるという利点もある。
【0054】
(第5変形例)
本実施形態では、セラミックス製の支持体を担体24に用い、触媒活性点26としての白金を支持体に塗布することにより、水素化触媒を形成することとしている。しかしながら、安価な点などの優位性を考慮し、貴金属以外の材料を触媒活性点として用いることができる。
【0055】
例えば、触媒活性点26の材料は、ニッケルモリブデン系(NiMo系)触媒、コバルトモリブデン系(CoMo系)触媒、白金合金触媒、金属酸化物触媒(WO、MoO、V)、Pd系触媒、Auナノクラスター触媒などから、適宜選択することができる。担体24の材料は、アルミナ、チタニア、シリカなど、または種々の金属材料から適宜選択することができる。また、例えば、白金、白金合金、金属酸化物とそれらの炭化物、窒化物、硫化物なども用いることができる。また、パラジウムとパラジウムの合金、金のナノ粒子も用いることができる。これらを、アルミナやチタニアなどの担体に担持することとすればよい。
【0056】
なお、単位燃料電池内部のガス流路の形状や構成には限定はない。集電体と膜電極接合体との間に導電性材料からなる多孔体層を設け、多孔体層内の連続する気孔によってガス流路を形成してもよい。
【0057】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2の燃料電池システムの構成を説明するための図である。実施の形態2のシステムは、実施の形態1と同様に、付臭剤と水素が混入された燃料タンク112を備えている。燃料タンク112は、管路114を介して、燃料電池スタック116に接続している。燃料電池スタック116は、複数の単位燃料電池132とともに、水素化セル130を備えている。実施の形態2のシステムは、水素化セル130によって付臭剤の水素化を行う点に特徴を有している。
【0058】
燃料電池スタック116は、複数の単位燃料電池132が積層されて構成されている。単位燃料電池132は、実施の形態1の燃料電池16が備える単位燃料電池と同様に、膜電極接合体、ガス拡散層、セパレータを含んで構成される。よって、図5では、これらの構造については省略している。
【0059】
単位燃料電池132のそれぞれは、その内部にアノード側ガス流路134を備えている。アノード側ガス流路134は、具体的には、単位燃料電池132のセパレータに形成された溝である。燃料電池スタック116は、その内部に、単位燃料電池132のアノード側ガス流路134が合流するマニホールド140を備えている。マニホールド140は、単位燃料電池132の積層方向に貫通して延びている。
【0060】
燃料電池スタック116の一端には、水素化セル130が備えられている。水素化セル130は、その内部に水素化触媒を備えている。この水素化セル130の内部の構成は、単位燃料電池132におけるアノード側ガス流路と触媒層のみを備える構成とすることができる。触媒層は、実施の形態1と同様に、触媒活性点、担体について種々の材料を用いることができる。
【0061】
実施の形態2のシステムの発電時には、図5の燃料タンク112から供給された付臭剤と水素との混合ガスが、水素化セル130に流入する。水素化セル130を通過する過程で、付臭剤が水素化され。その結果、水素と水素化済付臭剤とが、マニホールド140へと流入し、それぞれの単位燃料電池132のアノードへと供給されることとなる。
【0062】
実施の形態2によれば、燃料電池スタック116に水素化セル130を取り付けている。この点において、実施の形態1のように水素化装置を別途設ける手法に比して、コンパクトなシステム構成となり、省スペース化が達成できる。また、水素化セルを燃料電池スタックに取り付けているため、燃料電池スタックから水素化触媒への熱の授受を効率よく行うことができる。
【0063】
なお、上述した実施の形態2では、水素化セル130を、単位燃料電池132におけるアノード側ガス流路と触媒層のみを備える構成としている。水素化セル130の構成を単位燃料電池132の構成に類似(共通化)させることとすれば、部材の共通化による製造上の利点や、燃料電池スタック全体の小型化などの利点も得られる。しかしながら、水素化セル130の構成はこれに限定されるものではない。水素化触媒を内部に備え、内部にガスを流通させる過程で当該水素化触媒による付臭剤の水素化を実現できればよく、例えば、ガス流路や触媒層の形状、位置、材質その他の設計要素は、必要に応じて適宜変更することができる。
【0064】
なお、水素漏れの検知をなるべく確実に行うという観点からは、付臭剤を水素化する位置は、水素が反応する部位、つまり燃料電池の電極触媒層に近づけることも効果的である。この点、実施の形態2では、水素化セル130が燃料電池スタック116に一体的に装着されているので、付臭剤による水素安全の効果を得つつ、燃料電池内の触媒被毒の防止も行うことができる。
【0065】
尚、上記述べた実施の形態2では、燃料電池スタック116が、前記第3の発明における「燃料電池スタック」に、マニホールド140が、前記第3の発明における「マニホールド」に、水素化セル130が、前記第3の発明における「水素化セル」に、それぞれ相当している。
【0066】
なお、実施の形態2の水素化セル130を設ける代わりに、マニホールド140の入口部位に水素化触媒を配置する構成としてもよい。これにより、燃料電池内部において付臭剤の水素化を行うことができ、付臭剤による水素安全の効果を最大限に得つつ、燃料電池内の触媒被毒の防止も行うことができる。具体的には、例えば、実施の形態1の水素化触媒28と同様の構成をマニホールド140内に配置することで、このような構成が実現できる。
【0067】
この場合には、燃料電池スタック116が、前記第4の発明における「燃料電池スタック」に、マニホールド140が、前記第4の発明における「マニホールド」に、マニホールド140に備えられる水素化触媒が、「前記水素化触媒が、前記マニホールドに備えられる」という構造に、それぞれ相当することとなる。
【0068】
実施の形態3.
図6は、実施の形態3の燃料電池システムの構成を説明する図であって、実施の形態3にかかる単位燃料電池内部の構成を説明するための図である。実施の形態3のシステムは、実施の形態1と同様に、非硫黄系の付臭剤と水素を含む燃料タンク、複数の単位燃料電池が積層されてなる燃料電池、パージ弁などを備える。
【0069】
実施の形態3は、付臭剤の水素化を、実施の形態1の水素化装置ではなく、以下説明する燃料電池内部に備えられる水素化触媒によって行う点に特徴を有している。以下の説明では、実施の形態3の特徴点である燃料電池内部の構成についてのみ説明し、その他実施の形態1と同様の点については説明を省略する。
【0070】
図6は、実施の形態3にかかる燃料電池システムの単位燃料電池232のアノードの構成を示す図である。単位燃料電池232は、電解質膜240を備えている。電解質膜240の一方の面には、電極触媒層242、ガス拡散層244、セパレータ246が積層されている。セパレータ246には、ガス流路248が設けられている。
【0071】
ガス流路248は、実施の形態1、2で述べたのと同様に、セパレータ246に溝として設けられている。図6では、ガス流路248を紙面間通方向に水素が流通し、当該水素がガス拡散層244を介して電極触媒層242に至る(図6の矢印)。ガス流路248は、実施の形態1、2で述べたのと同様に、その一端が、マニホールド、管路、レギュレータ、シャット弁等を介して燃料タンクへと接続している。
【0072】
セパレータ246のガス流路248には、水素化触媒層250がコーティングされている。水素化触媒層250は、白金を導電性の担体(カーボンなど)に担持したものをペースト状とし、セパレータ246の表面に塗布することにより形成することができる。
【0073】
実施の形態3によれば、燃料タンクから供給された付臭剤と水素の混合ガスが、ガス流路248を流通する過程で、水素化触媒層250と接触する。水素化触媒層250によって、付臭剤が水素化され、被毒性が低減される。その結果、電極触媒層242が被毒されるのを防ぐことができ、燃料電池の発電が阻害されるのを防ぐことができる。
【0074】
なお、実施の形態3の変形例として、水素化触媒層250をガス流路248の内面にのみ塗布することができる。これにより、セパレータ246とガス拡散層244との接触部位には水素化触媒層250は備えられない構成となる。この場合には、セパレータ246とガス拡散層244とで直接的に電気伝導可能となるので、水素化触媒層250に導電性が求められない。
【0075】
従って、例えば、実施の形態3のように担体としてカーボンを用いず、チタニア、アルミナ、シリカなど、金属酸化物、セラミックスを含む広範な選択肢の中から担体の材料を選ぶことができる。よって、安価である点や、高強度である点、耐性が高い点などを考慮して、低導電性材料、非導電性材料を含む選択肢の中から、適宜、触媒活性点と単体の材料を選んで水素化触媒を形成することができる。
【0076】
なお、上述したように、水素漏れの検知をなるべく確実に行うという観点においては、付臭剤を水素化する位置は、水素が反応する部位、つまり燃料電池の電極触媒層に近づけることも効果的である。この点、実施の形態3では、燃料電池内部において付臭剤の水素化を行っているので、付臭剤による水素安全の効果を得つつ、燃料電池内の触媒被毒の防止も行うことができる。
【0077】
尚、実施の形態3では、ガス拡散層244が、前記第5の発明における「ガス拡散層」に、セパレータ246が、前記第5の発明における「板材」に、ガス流路248が、前記第5の発明における「溝」に、それぞれ相当している。そして、実施の形態3では、水素化触媒層250によって、前記第5の発明における「前記水素化触媒が、前記溝の内面に層状にコーティングされて備えられる」という構造が実現されている。
【0078】
実施の形態4.
図7は、実施の形態4の燃料電池システムにかかる単位燃料電池332の構成を説明するための図である。実施の形態4のシステムは、実施の形態3と同様に、非硫黄系の付臭剤と水素を含む燃料タンク、複数の単位燃料電池が積層されてなる燃料電池、パージ弁などを備える。以下の説明では、実施の形態4の特徴点である、単位燃料電池332のアノード側の構成についてのみ説明し、実施の形態3と同様の点については説明を省略する。
【0079】
図7に示す構成は、実施の形態3の単位燃料電池232の構成のうち図6に示す部位に相当するものである。図7の単位燃料電池332では、水素化触媒層250が備えられておらず、その代わりに、セパレータ246とガス拡散層244との間に水素化触媒層350が挿入されている。この点で、実施の形態4は、実施の形態3に相違する。水素化触媒層350は、白金を導電性の担体(カーボンなど)に担持したものをペースト状とし、これをガス拡散層244表面に塗布することにより形成することができる。
【0080】
このような構成によれば、水素は水素化触媒層350、ガス拡散層244を通過して電極触媒層242へ至るものの、付臭剤は水素化触媒層350による水素化を経た後にのみ電極触媒層242側へと至る。従って、被毒性の高い水素化前の状態の付臭剤が電極触媒層242に至ることが防止される。
【0081】
なお、ガス拡散層に水素化触媒層を形成した場合、ガス拡散層が露出している状態に比して、表面が平滑になる。このため、セパレータに対する接触抵抗が小さくなり、電気抵抗が低くなるなどの利点もある。なお、水素化触媒層は、ガス拡散層内に配置することとしてもよい。つまり、ガス拡散層をカーボンシートによって形成する場合には、膜電極接合体、カーボンシート、水素化触媒層、第2のカーボンシート、セパレータのように順次積層してもよい。
【0082】
尚、実施の形態4では、ガス拡散層244、ガス流路248を含んで図示しない燃料タンクまで通ずるガスの流通経路が、前記第1の発明における「ガス流路」に相当している。そして、水素化触媒層350が、前記第1の発明における「水素化触媒」に相当している。
【0083】
なお、実施の形態1乃至4にかかる燃料電池と異なる構造を備える燃料電池であっても、燃料タンクから燃料電池内の触媒層に至るガスの流通経路途中に水素化触媒を備えることで、本発明の作用、効果を得ることができる。
【0084】
具体的には、ガス流路に、水素化触媒を単一の部品として配置する手法、あるいはガス流路の内面に水素化触媒をコーティングするという手法により、ガスの流通経路途中に水素化触媒を備えるという構成を実現することができる。よって、上記述べた実施の形態とは異なる種々の形状の管路、マニホールド、セパレータ、ガス拡散層などを含むガス流路を備える燃料電池システムに対しても、このガス流路中に水素化触媒を設けることで、本発明の作用、効果を得る構成を実現することができる。
【0085】
実施の形態5.
図8は、本発明の実施の形態5にかかる燃料電池432の構成を説明する図である。燃料電池432は、上記述べた実施の形態1乃至4における単位燃料電池と同様に、膜電極接合体、ガス拡散層、溝が設けられた集電用板材とが積層されて構成される。以下の説明では、実施の形態5の特徴点である、燃料電池432のアノード側の構成についてのみ説明する。
【0086】
また、実施の形態5の燃料電池は、実施の形態3と同様の燃料電池システムにおいて使用される。具体的には、複数の燃料電池432を積層して燃料電池スタックとし、実施の形態3と同様に、非硫黄系の付臭剤と水素を含む燃料タンク、パージ弁などを備えるシステムを構築することができる。
【0087】
図8は、燃料電池432のアノードの電極触媒層442を示す図である。図示を省略するが、実際には、図8の電極触媒層442の紙面裏面側には、電解質膜が備えられている。また、同じく図示を省略するが、図8の紙面表面側には、電極触媒層442と重ねてガス拡散層が設けられる。そして、当該ガス拡散層のさらに紙面表面側には、ガス流路としての溝を有するセパレータが配置される。
【0088】
図8では、説明の便宜上、セパレータのガス流路を簡略に線で示し、符号448を付している。実際には、所定の幅および深さを有する溝が、この線に沿って、セパレータに備えられている。以下、便宜的に、符号448を付した線をガス流路448として説明を行う。図8に示すように、実施の形態5にかかるガス流路448は、燃料電池432の面内を蛇行するように設けられている。
【0089】
符号440は、実施の形態4の燃料電池の内部に備えられるマニホールドの一部を示している。マニホールド440は、燃料電池432を含む複数の単位燃料電池にそれぞれ接続する。図8では、単位燃料電池432に接続する部位のみを図示している。マニホールド440は、上流で管路(図示せず)を介して燃料タンク(図示せず)に接続している。システムの発電時には、燃料タンク(図示せず)からマニホールド440を介してガス流路448に水素が供給される。そして、ガス流路448を示す線に付した矢印の方向に水素が流通し、水素が電極触媒層側に供給される。
【0090】
実施の形態5では、ガス流路448とマニホールド440との接続位置の近傍に、水素化触媒層450を設ける。実施の形態5では、実施の形態1乃至4にかかる種々の水素化の機構に代えて、この水素化触媒層450を付臭剤の水素化用の機構として用いる。具体的には、図8に示すように、紙面裏面側に位置する電解質膜(図示せず)上に、電極触媒層442を全体的に形成し、ガス流路448の入口部位に局所的に水素化触媒層450を形成する。ガス流路448に沿ってガスの流通経路を見た場合、水素化触媒層450よりも、電極触媒層442が下流側に位置する。
【0091】
水素化触媒層450は、NiMo系触媒を触媒活性点材料とし、アルミナを担体として、これらをペースト状にしたものを電解質膜上に塗布して形成することができる。この手法は、従来の燃料電池の電極触媒層を作製する手法、つまり、白金にカーボンを担持させて電極触媒層442を作製する手法と同様に行うことができる。
【0092】
水素化触媒層450は、付臭剤を水素化することにより、電極触媒層442の被毒を防止する観点から設けられる層である。このため、水素化触媒層450は、電極触媒層442とは異なり、電気伝導性が求められない。よって、本実施形態では、担体としてアルミナを用いることとしている。また、電極触媒層442のように、水素原子をプロトンと電子に分離する反応についての良好な反応性が求められるものではない。従って、本実施形態では、NiMo系触媒を触媒活性点材料として用いている。
【0093】
システムの発電時、単位燃料電池432に水素と付臭剤の混合ガスが供給された際には、ガス流路448に流入するガスに含まれる付臭剤は、水素化触媒層450で水素化される。その結果、電極触媒層442が被毒されることを防止でき、電極触媒層442における発電反応が阻害されるのを防ぐことができる。
【0094】
尚、実施の形態5では、図示しないセパレータが、前記第6の発明における「ガス流通部材」に、また、実施の形態5では、ガス流路448のマニホールド440と接続する部位が、前記第6の発明における「ガス流入口」に、ガス流路448が前記第6の発明における「ガス流路」に、それぞれ相当している。また、実施の形態5では、水素化触媒層450が、前記第6の発明における「第1の部位」に、電極触媒層442が、前記第6の発明における「第2の部位」に、それぞれ相当している。
【0095】
図9は、実施の形態5の変形例を示す図である。図9の単位燃料電池532は、集電体と膜電極接合体との間に導電性材料からなる多孔体層(図示せず)を設け、当該多孔体層をガス流路として用いる点で、図8の単位燃料電池432に相違する。多孔体層内には、連続する多数の気孔が形成されており、この気孔を通じてガスを流通させることができる。
【0096】
多孔体層をガス流路として用いる場合には、図9に示す矢印のように、ガスの入口から放射上にガスが流れる。このような多孔体層を備える単位燃料電池についても、水素化触媒層450による水素化の機能により、付臭剤による触媒被毒の発生を防止することができる。なお、多孔体層をガス流路として用いる技術は既に公知であるため、その詳細な説明は省略する。
【0097】
なお、上述したように、水素化触媒層450は導電性を備えていなくともよい。また、水素化触媒層450は、水素からプロトンを生成する活性作用が、電極触媒層442ほどには高くなくともよい。従って、触媒活性点として白金などの高価な貴金属を用いることも必須とはならない。よって、例えば、チタニア、アルミナ、シリカなど、金属酸化物、セラミックスを含む広範な選択肢の中から、触媒、担体の材料を選ぶことができる。すなわち、安価である点や、高強度である点、耐性が高い点などを考慮して、低導電性材料、非導電性材料を含む選択肢の中から、適宜、触媒活性点と単体の材料を選んで水素化触媒を形成することができる。
【0098】
なお、上記説明した実施の形態1乃至5の思想の全てを、一つのシステムに利用することもできる。つまり、燃料タンクから燃料電池までのガスの流通経路途中に、水素化装置14、水素化セル130を配置し、なおかつ、燃料電池内部に、水素化触媒層250、350(または450)をそれぞれ設けることができる。また、実施の形態1乃至5の思想の中から、1以上の思想を選択的に利用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の実施の形態1の燃料電池システムの構成を説明するための図である。
【図2】実施の形態1にかかる水素化装置の構成を説明するための図である。
【図3】実施の形態1の原理および効果を説明するための実験結果である。
【図4】実施の形態1の原理および効果を説明するための実験結果である。
【図5】実施の形態2の燃料電池システムの構成を説明するための図である。
【図6】実施の形態3の燃料電池システムにかかる単位燃料電池の構成を説明するための図である。
【図7】実施の形態4の燃料電池システムにかかる単位燃料電池の構成を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態5の燃料電池の構成を説明するための図である。
【図9】実施の形態5の変形例の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0100】
10 燃料電池システム
12 燃料タンク
14 水素化装置
16 燃料電池
18 アノードガス入口
20 アノードガス出口
22 パージ弁
24 担体
26 触媒活性点
28 水素化触媒
112 燃料タンク
116 燃料電池スタック
130 水素化セル
132、232、332,432、532 単位燃料電池
134 アノード側ガス流路
140 マニホールド
240 電解質膜
242、442 電極触媒層
244 ガス拡散層
246 セパレータ
248、448 ガス流路
250、350、450 水素化触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に触媒層が設けられてなる膜電極接合体を備える燃料電池と、
前記触媒層に接続するガス流路と、
前記ガス流路に接続し、該ガス流路を介して前記触媒層に燃料ガスを供給する燃料タンクと、
前記燃料タンクから前記ガス流路を介し前記触媒層に至るまでのガスの流通経路に備えられる、非硫黄系の付臭剤を水素化する水素化触媒と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料電池が発する熱を前記水素化触媒に供給する熱供給手段を備えることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池は、複数の前記膜電極接合体がセパレータを挟んで積層されてなる燃料電池スタックであって、
前記ガス流路は、前記燃料電池スタックの内部を延びて前記複数の前記膜電極接合体のそれぞれの触媒層に接続するマニホールドと、該燃料電池スタックの外部に備えられ該マニホールドと前記燃料タンクとを接続する管路とを含み、
前記水素化触媒をその内部に備え、前記燃料電池スタックに一体化されて前記マニホールドと前記管路との間に介在する水素化セルを備えることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池は、複数の前記膜電極接合体がセパレータを挟んで積層されてなる燃料電池スタックであって、
前記ガス流路は、前記燃料電池スタックの内部を延びて前記複数の前記膜電極接合体のそれぞれの触媒層に接続するマニホールドを含み、
前記水素化触媒が、前記マニホールドに備えられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池システム。
【請求項5】
ガス拡散層と、該ガス拡散層に積層され該ガス拡散層と接する面に溝を有する板材とを含んで構成され、該ガス拡散層が前記触媒層を向くように該触媒層に重ねて設けられるガス流通部材を備え、
前記ガス流路と前記溝とが接続され、該溝は該ガス流路と前記触媒層との間に介在しており、
前記水素化触媒が、前記溝の内面に備えられることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池システム。
【請求項6】
電解質膜の両面に、触媒と担体とを含んでなる触媒層が設けられた膜電極接合体と、
前記触媒層に重ねて設けられ、ガスの流入口と、該ガス流入口からその内部を延びて該触媒層に接続するガス流路とを備えるガス流通部材と、
を備える燃料電池であって、
前記触媒層のうち前記ガス流入口の近傍に位置する第1の部位と、該触媒層のうち該第1の部位以外の第2の部位とは、触媒の材料が異なるものとされており、
該第1の部位の触媒の材料は、水素原子からプロトンを生じさせる活性作用が該第2の部位の触媒の材料よりも低く、かつ、非硫黄系の付臭剤を水素化する活性作用が該第2の部位の触媒の材料と同等以上である材料とされていることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
前記触媒層の前記第1の部位の触媒は、ニッケルモリブデン系(NiMo系)触媒またはコバルトモリブデン系(CoMo系)触媒を含むことを特徴とする請求項6記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−262800(P2008−262800A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104534(P2007−104534)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】