燃料電池システム
【課題】燃料電池の発電安定性を確保する。
【解決手段】水素と空気が供給されて発電をする燃料電池1と、燃料電池1に生じた不純物を排出用ガス(水素または空気)の供給により排出する排出処理手段と、燃料電池1から出力される電流値を測定する電流計64と、燃料電池1から出力される電圧値を測定する電圧計65と、排出処理手段を制御する制御装置50と、を備え、制御装置50は、燃料電池1の発電中に電流計64および電圧計65により測定された電流値と電圧値とを、予め電流値と電圧値とにより規定された劣化率判定マップと比較することにより、燃料電池1の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化していないときよりも、排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御する。
【解決手段】水素と空気が供給されて発電をする燃料電池1と、燃料電池1に生じた不純物を排出用ガス(水素または空気)の供給により排出する排出処理手段と、燃料電池1から出力される電流値を測定する電流計64と、燃料電池1から出力される電圧値を測定する電圧計65と、排出処理手段を制御する制御装置50と、を備え、制御装置50は、燃料電池1の発電中に電流計64および電圧計65により測定された電流値と電圧値とを、予め電流値と電圧値とにより規定された劣化率判定マップと比較することにより、燃料電池1の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化していないときよりも、排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜を有し、アノード極に水素(燃料)が供給され、カソード極に酸素(酸化剤)を含む空気が供給されて発電をする燃料電池では、劣化により発電性能が低下することが知られている。
燃料電池に対する劣化判定方法は、従来から種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、外部負荷に応じて燃料ガスの流量と酸化剤ガスの流量とを制御して運転する自動運転モードと、燃料ガスの流量と必要に応じて空気の流量とを略一定に制御した状態で、引き出す電流を略一定にした時の出力電圧を測定する評価モードとを選択可能に構成し、評価モードでは、現在の出力電圧と、記憶手段に記憶された過去の出力電圧またはシミュレーションにより計算された出力電圧とを比較し、その比較結果に基づいて燃料電池発電装置の劣化状態を診断することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、燃料電池のセルスタックの出力電流に対する基準とするセルスタックの基準出力電力を予めデータ記憶部に記憶しておき、燃料電池の劣化判定時にセルスタックの出力電流および出力電圧を検出し、これから劣化判定時におけるセルスタックの判定時出力電力を求め、検出されたセルスタックの出力電流に対する基準出力電力をデータ記憶部から抽出し、基準出力電力に対する判定時出力電力の割合を算出し、この割合から燃料電池の劣化を判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−87686号公報
【特許文献2】特開2006−331849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記燃料電池の劣化は固体高分子電解質膜の劣化に大きく依存し、固体高分子電解質膜の劣化が進行するにしたがって、排水性が悪化して燃料電池内に水が溜まり易くなり、発電性能が低下するという特性があり、劣化が進行すると、フラッディングにより次回起動時での発電安定性が悪化するという課題がある。
そのため、燃料電池の劣化に応じて発電安定性を向上させる対策が求められており、それには燃料電池の劣化状態を適確に把握することが必要である。
【0007】
しかしながら、従来の燃料電池の劣化判定方法では、燃料電池の劣化状態を適確に把握することができず、発電安定性を向上させる対策を立てたとしても、結果的にその対策が後手に回ったり、過剰な対策をしてしまう虞がある。
詳述すると、特許文献1に開示された劣化判定方法では、劣化判定をするときには燃料電池を評価モードで運転しなければならず、通常の発電運転状態において劣化判定をすることができない。そのため、評価モードに移行して燃料電池の劣化状態を把握できたときには、劣化が相当に進行してしまい、前記対策が遅れてしまう虞がある。
【0008】
また、特許文献2に開示された劣化判定方法では、通常の発電運転状態のときにも劣化判定をすることはできるが、電力に換算して劣化判定を行うと、電流値が小さい領域では劣化の大きさ(劣化率)が違っても電力値に差が余り現れないため、判定精度が低くなり誤判定する虞もある。その結果、前記対策が過剰なものになる虞がある。
【0009】
そこで、この発明は、燃料電池の劣化状態を適確に把握し、劣化状態に関わらず燃料電池から水を確実に排出可能にして、発電安定性を確保することができる燃料電池システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る燃料電池システムでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、燃料と酸化剤が供給されて発電をする燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、前記燃料電池に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段と、前記燃料電池から出力される電流値を測定する電流測定手段(例えば、後述する実施例における電流計64)と、前記燃料電池から出力される電圧値を測定する電圧測定手段(例えば、後述する実施例における電圧計65)と、前記排出処理手段を制御する制御部(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池の発電中に前記電流測定手段および前記電圧測定手段により測定された電流値と電圧値とを、予め電流値と電圧値とにより規定された劣化率データと比較することにより、前記燃料電池の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化率が小さいときよりも、前記排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御することを特徴とする燃料電池システムである。
【0011】
請求項2に係る発明は、燃料と酸化剤が供給されて発電をする燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、前記燃料電池に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段と、前記燃料電池の累積発電時間、前記燃料電池の温度履歴に応じた評価値、前記燃料電池の反応ガス圧履歴に応じた評価値、前記燃料電池内の湿度履歴に応じた評価値、前記燃料電池の両極に酸化剤が供給された後に該燃料電池を起動した回数、のうち少なくとも一つを計測する計測手段(例えば、後述する実施例におけるステップS111,S122〜S124,S132〜134,S141,S151)と、前記排出処理手段を制御する制御部(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、を備え、前記制御部は、前記計測手段により計測された評価値を、予め計測対象の評価値により規定された劣化率データと比較することにより、前記燃料電池の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化率が小さいときよりも、前記排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御することを特徴とする燃料電池システムである。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記排出処理関連量は、排出用ガス量、排出用ガス導入頻度、酸化剤供給量、燃料供給量のうちの少なくともいずれか一つであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、燃料電池の運転中の電流値と電圧値から燃料電池の劣化率を求めるので、リアルタイムに精度良く、燃料電池の劣化判定をすることができ、その判定結果に応じて排出処理関連量を劣化率が小さいときよりも大きくするように変更するので、劣化状態に関わらず、燃料電池から確実に水を排出することができ、燃料電池の発電安定性を確保することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、計測手段により計測された計測値から燃料電池の劣化率を求めるので、リアルタイムに精度良く、燃料電池の劣化判定をすることができ、その判定結果に応じて排出処理関連量を劣化率が小さいときよりも大きくするように変更するので、劣化状態に関わらず、燃料電池から確実に水を排出することができ、燃料電池の発電安定性を確保することができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、燃料電池の劣化状態に関わらず、燃料電池から確実に水を排出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に係る燃料電池システムの実施例における概略構成図である。
【図2】実施例における燃料電池に対する発電安定化処理を示すフローチャートである。
【図3】実施例における第1の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図4】前記第1の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図5】実施例における第2の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図6】前記第2の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図7】実施例における第3の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図8】前記第3の劣化判定処理において用いられる評価値マップである。
【図9】前記第3の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図10】実施例における第4の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図11】前記第4の劣化判定処理において用いられる評価値マップである。
【図12】前記第4の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図13】実施例における第5の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図14】燃料電池内の湿度履歴の一例を示す図である。
【図15】前記第5の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図16】実施例における第6の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図17】前記第6の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図18】実施例における運転条件補正算出処理を示すフローチャートである。
【図19】前記運転条件補正算出処理において用いられる補正マップである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明に係る燃料電池システムの実施例を図1から図19の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施例における燃料電池システムは、燃料電池車両に搭載された態様である。
図1は、実施例における燃料電池システムの概略構成図である。
燃料電池1は、例えば固体ポリマーイオン交換膜等からなる固体高分子電解質膜をアノード極とカソード極とで両側から挟み込んで形成されたセルを複数積層して構成されており、アノード極に燃料ガス(反応ガス)として水素を供給し、カソード極に酸化剤ガス(反応ガス)として酸素を含む空気を供給すると、アノード極で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を通過してカソード極まで移動して、カソード極で酸素と電気化学反応を起こして発電し、水が生成される。カソード極側で生じた生成水の一部は固体高分子電解質膜を透過してアノード極側に逆拡散するため、アノード極側にも生成水が存在する。
【0018】
空気はスーパーチャージャーなどのコンプレッサ7により所定圧力に加圧され、空気供給流路8を通って燃料電池1内の酸化剤流通路6に導入され、各セルのカソード極に供給される。燃料電池1に供給された空気は発電に供された後、燃料電池1からカソード極側の生成水と共に空気排出流路9に排出され、圧力制御弁10を介して希釈ボックス11へ排出される。つまり、この場合には、カソード極側に流れる空気は、反応ガスであるとともにカソード極側に生じた生成水(不純物)を排出する排出用ガスでもある。そして、コンプレッサ7、空気供給流路8、空気排出流路9、圧力制御弁10は、燃料電池1のカソード極側に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段を構成する。
圧力制御弁10よりも上流の空気排出流路9には、燃料電池1から排出される空気の温度を検出するカソード出口温度センサ61が設けられている。カソード出口温度センサ61は検出した温度値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0019】
一方、水素タンク15から供給される水素は燃料供給流路16を介して燃料電池1内の燃料流通路5に導入され、各セルのアノード極に供給される。燃料供給流路16には、上流側から順に、ガス供給弁17、遮断弁18、レギュレータ19、エゼクタ20が設けられており、水素タンク15から供給された水素はレギュレータ19によって所定圧力に減圧されて燃料電池1の燃料流通路5に供給される。そして、消費されなかった未反応の水素は、燃料電池1からアノードオフガスとして排出され、アノードオフガス流路21を通ってエゼクタ20に吸引され、水素タンク15から供給される新鮮な水素と合流し再び燃料電池1の燃料流通路5に供給される。すなわち、燃料電池1から排出されるアノードオフガスは、アノードオフガス流路21、およびエゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16aを通って、燃料電池1を循環する。
エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16aと空気供給流路8は、掃気弁22を備えたアノード掃気流路23によって接続されており、空気供給流路8からアノード掃気流路23を介して燃料供給流路16に空気を導入可能となっている。
【0020】
アノードオフガス流路21には、アノードオフガスに含まれる凝縮水を捕集するキャッチタンク24が設けられており、エゼクタ20には凝縮水を除去された水素が供給されるようになっている。キャッチタンク24は、排水弁25を備えた排水流路26を介して希釈ボックス11に接続されており、キャッチタンク24に所定量の水が溜まると排水弁25が開き、溜まった水をアノードオフガスで押し出し、希釈ボックス11にアノードオフガスとともに排出する。
【0021】
また、キャッチタンク24よりも下流のアノードオフガス流路21からは、パージ弁27を備えたパージ流路28と、掃気排出弁29を備えた掃気排出流路30とが分岐し、パージ流路28と掃気排出流路30は希釈ボックス11に接続されている。
パージ弁27は、燃料電池1の発電時において、通常は閉じており、所定の条件が満たされたときに開いて、アノードオフガス中に含まれる不純物をアノードオフガスとともに希釈ボックス11へ排出する。
つまり、アノードオフガス(水素)は、燃料電池1を循環する反応ガスであるとともに、燃料電池1のアノード極側に生じた不純物(水や窒素等)を排出する排出用ガスでもある。
【0022】
掃気排出弁29は通常は閉じており、燃料電池システムの停止時に所定条件が満たされたときに開かれて、燃料電池1の燃料流通路5を空気で掃気する、いわゆるアノード掃気を行い、掃気ガスを希釈ボックス11へ排出する。つまり、この場合、アノード極側に流れる空気は、アノード極側に生じた不純物を排出する排出用ガスである。
この実施例において、燃料供給流路16,アノードオフガス流路21、パージ弁27、パージ流路28、排水弁25、排水流路26、コンプレッサ7、掃気弁22、アノード掃気流路23、掃気排出弁29、掃気排出流路30は、燃料電池1のアノード極側に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段を構成する。
【0023】
また、希釈ボックス11には空気供給流路8から分岐した希釈ガス流路31が接続されている。希釈ガス流路31に設けられた開閉弁32は、燃料電池1を通さずに希釈ガス(空気)を希釈ボックス11に供給する場合に開かれる。
そして、排水流路26、パージ流路28、掃気排出流路30を介して希釈ボックス11に排出されたアノードオフガスは、空気排出流路9または希釈ガス流路31を介して希釈ボックス11に流入する空気によって希釈され、希釈されたガスが希釈ボックス11から排気管33を介して大気に排出される。
キャッチタンク24よりも下流のアノードオフガス流路21には、燃料電池1から排出されるアノードオフガスの温度を検出するアノード出口温度センサ62が設けられている。アノード出口温度センサ62は検出した温度値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0024】
さらに、燃料電池1は内部に冷却通路71を備えており、この冷却通路71に冷却水を流通させることによって燃料電池1から熱を奪い、発電に伴う発熱で燃料電池1が所定の上限温度を越えないよう冷却している。冷却通路71は、冷却水ポンプ72とラジエタ73とを備えた冷却水循環流路74に接続されており、冷却通路71と冷却水循環流路74により形成される閉回路を冷却水が循環するようになっている。
詳述すると、冷却水は、冷却水ポンプ72によって昇圧されて燃料電池1の冷却通路71に供給され、燃料電池1との熱交換によって暖められた冷却水は燃料電池1から排出されてラジエタ73に送られる。ラジエータ73において外部に放熱することにより冷却された冷却水は、冷却水ポンプ72に供給され、再び冷却水ポンプ72で昇圧されて燃料電池1に供給される。なお、燃料電池1を冷却する必要がないときには、冷却水ポンプ72を停止して冷却水の循環を停止する。
燃料電池1とラジエタ73との間の冷却水循環流路74には、燃料電池1から排出される冷却水の温度を検出する冷却水出口温度センサ63が設けられている。冷却水出口温度センサ63は検出した温度値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0025】
燃料電池1は、高圧バッテリ(蓄電装置)41や車両駆動用モータなどの外部負荷42に接続されており、燃料電池1で発電した電気を高圧バッテリ41に充電したり、外部負荷42に電力を供給可能となっている。
また、燃料電池1から引き出される電流(出力電流)は電流計(電流測定手段)64によって測定可能となっており、燃料電池1の出力電圧は電圧計(電圧測定手段)65によって測定可能となっている。電流計64および電圧計65は、それぞれ測定された電流値あるいは電圧値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0026】
制御装置50は、イグニッションスイッチ51から入力したオン・オフ信号に基づいて燃料電池システムの起動・停止を制御し、燃料電池1の出力制御等、制御内容に応じて、コンプレッサ7、圧力制御弁10、ガス供給弁17、遮断弁18、掃気弁22、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、開閉弁32、冷却水ポンプ72等を制御する。なお、図1ではこれらの制御信号線を省略している。
【0027】
ところで、前述したように、燃料電池1は、固体高分子電解質膜の劣化が進行するにしたがって、排水性が悪化して燃料電池内に水が溜まり易くなり、発電性能が低下するという特性があり、劣化が進行すると、フラッディングにより次回起動時での発電安定性が悪化してしまう。
そこで、この実施例における燃料電池システムでは、燃料電池1の劣化状態を監視し、劣化が認められたときにはその劣化状態に応じて燃料電池1の各種運転条件を変更することにより、燃料電池1内の水を確実に排出し、発電安定性を確保するようにしている。
【0028】
以下、この実施例における燃料電池1に対する発電安定化処理を、図2のフローチャートに従って説明する。
図2は、発電安定化処理のメインルーチンを示すフローチャートであり、このメインルーチンは、イグニッションスイッチ51のオン信号をトリガーとして制御装置50によって実行される。
【0029】
まず、ステップS01において、燃料電池1に対する劣化判定処理を実行し、燃料電池1の現在の劣化率を求める。劣化判定処理については後で詳述する。
次に、ステップS02に進み、運転条件補正算出処理を実行し、ステップS01において求めた劣化率に応じて各種運転条件の補正値を算出する。ここで、燃料電池1の各種運転条件には次のものが含まれる。
(1)通常の発電運転時における空気供給流量あるいは水素供給圧力
(2)燃料電池1の発電中に間欠的に実施されるパージ弁27の開放による水素排出の頻度あるいは水素排出量
(3)燃料電池1の発電中に間欠的に実施される排水弁25の開放による水排出量
(4)燃料電池1の起動時に実施されるパージ弁27の開放による水素置換を目的とする水素排出流量、
(5)燃料電池1の起動時の空気供給流量
(6)燃料電池1の発電停止後に実施されるアノード極およびカソード極への空気導入による掃気処理時の掃気流量
運転条件補正算出処理については後で詳述する。
【0030】
次に、ステップS03に進み、燃料電池1に対する各種運転条件を、ステップS02で求めた補正後の運転条件に変更して燃料電池1の運転制御を実行する。これにより、燃料電池1の排水性を向上させ、燃料電池1の発電安定性を確保する。なお、劣化率に応じた運転条件の変更は、前記(1)〜(6)のうちの1つの運転条件のみを変更してもよいし、複数の運転条件を変更してもよいし、全ての運転条件を変更してもよい。
【0031】
次に、ステップS04に進み、燃料電池1が発電中か否かを判定し、判定結果が「YES」(発電中)である場合には、ステップS01に戻り、判定結果が「NO」(発電停止)である場合にはステップS05に進み、ステップS01において求めた最新の劣化率を制御装置50の記憶部(図示略)に記憶して、このメインルーチンの実行を終了する。
【0032】
したがって、制御装置50によって、常に燃料電池1に対する劣化判定処理が実行されることとなり、これにより、常に燃料電池1の劣化状態を監視することができる。
なお、ステップS05において記憶された最新の劣化率は、燃料電池1の発電停止中にアノード極およびカソード極に対する掃気処理を実行する際に呼び出されて、掃気流量を決定する。
【0033】
次に、ステップS01において実行される劣化判定処理を、図3から図17の図面を参照して説明する。
燃料電池1の劣化は次の要素のうちのいずれか一つに基づいて算出することが可能である。
(1)燃料電池1の出力電流と出力電圧
(2)燃料電池1の累積発電時間
(3)燃料電池1の温度履歴に応じた評価値
(4)燃料電池1のアノード極側のガス圧履歴に応じた評価値
(5)燃料電池1内の湿度履歴に応じた評価値
(6)燃料電池1のアノード極およびカソード極に酸化剤が供給された後に燃料電池1を起動(以下、両極空気起動と略す)した回数
以下、各要素による劣化判定処理を順に説明する。
【0034】
初めに、燃料電池1の出力電流と出力電圧とに基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図3に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS101において、燃料電池1の温度が所定温度以上か否かを判定する。この所定温度は、燃料電池1が暖機を完了したと判断することができる温度であり、例えば50゜Cとすることができる。また、燃料電池1の温度としては、冷却水出口温度センサ63で検出される冷却水温度を用いるのが好ましいが、アノード出口温度センサ62あるいはカソード出口温度センサ61により検出される温度を用いることも可能である。
【0035】
ステップS101における判定結果が「NO」(所定温度未満)である場合には、燃料電池1が未だ暖機完了しておらず、発電状態が不安定で、劣化判定には不向きであるので、このサブルーチンの実行を終了する。
ステップS101における判定結果が「YES」(所定温度以上)である場合には、燃料電池1が暖機完了しており、発電状態が安定しているので、ステップS102に進み、電流計64および電圧計65により現在の燃料電池1の出力電流値および出力電圧値を取得する。
【0036】
次に、ステップS103に進み、図4に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS102で取得した現在の燃料電池1の出力電流値および出力電圧値に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図4に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、燃料電池の劣化率と、出力電流および出力電圧との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。なお、現在の燃料電池1の出力電流値および出力電圧値と完全一致するデータが劣化率判定マップ上にない場合には、補間法によって劣化率を算出する。
また、最新のただ1組の出力電流値および出力電圧値から劣化率を求めてもよいが、最新に連続して求めた複数組の出力電流値および出力電圧値からIV軌跡を求め、これと劣化率判定マップのIV線とを比較して劣化率を求めてもよい。
このように、電力に換算せず、燃料電池1の出力電流と出力電圧を直接用いて燃料電池1の劣化率を算出するので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
【0037】
次に、燃料電池1の累積発電時間に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図5に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS111において、燃料電池1の運転履歴から現在までの累積発電時間を算出する。
次に、ステップS112に進み、図6に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS111において算出された累積発電時間に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図6に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積発電時間と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積発電時間が多くなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
このように、燃料電池1の累積発電時間に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS111の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0038】
次に、燃料電池1の温度履歴に応じた評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図7に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS121において、燃料電池1の温度が所定温度以上か否かを判定する。燃料電池1の温度としては、冷却水出口温度センサ63で検出される冷却水温度を用いるのが好ましいが、アノード出口温度センサ62あるいはカソード出口温度センサ61により検出される温度を用いることも可能である。この所定温度は、燃料電池1の固体高分子電解質膜がダメージを受けないと判断することができる温度であり、予め実験により求め、例えば70゜Cとすることができる。
【0039】
ステップS121における判定結果が「YES」(所定温度以上)である場合には、ステップS122に進み、最近の燃料電池1の単位時間当たりの平均温度を算出する。
次に、ステップS123に進み、図8に示される単位時間当たりの評価値マップを参照して、ステップS122において算出された単位時間当たりの平均温度に応じた単位時間当たりの評価値を求める。図8に示される単位時間当たりの評価値マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、燃料電池1の温度が固体高分子電解質膜に与えるダメージの大きさを相対評価し、これを数値化して、マップとしたものである。このマップから明らかなように、燃料電池1の温度が所定温度に達するまでは、燃料電池1の固体高分子電解質膜は温度による影響を受けないが、所定温度を超えると温度が高いほどダメージが大きくなる。
【0040】
次に、ステップS124に進み、現在までの累積評価値を算出する。現在までの累積評価値は、前回までの累積評価値にステップS123において算出した今回の評価値を加算することにより求める。
次に、ステップS125に進み、図9に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS124において算出された累積評価値に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図9に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積評価値と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積評価値が大きくなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
【0041】
一方、ステップS121における判定結果が「NO」(所定温度未満)である場合には、燃料電池1の固体高分子電解質膜はダメージを受けないので、ステップS122〜S124の処理をすることなく、ステップS125に進み、前回までの累積評価値に基づいて劣化率を求める。
このように、現時点までの温度に関する累積評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS122〜S124の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0042】
次に、燃料電池1のアノード極側のガス圧履歴に応じた評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図10に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS131において、燃料電池1のアノード極側のガス圧力(以下、アノード圧という)が所定圧力以上か否かを判定する。この所定圧力は、燃料電池1の固体高分子電解質膜がダメージを受けないと判断することができるアノード圧力であり、予め実験により求める。なお、アノード圧は、例えばエゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16にアノード圧センサを設置し、検出することができる。
【0043】
ステップS131における判定結果が「YES」(所定圧力以上)である場合には、ステップS132に進み、最近の燃料電池1の単位時間当たりの平均アノード圧を算出する。
次に、ステップS133に進み、図11に示される単位時間当たりの評価値マップを参照して、ステップS132において算出された単位時間当たりの平均アノード圧に応じた単位時間当たりの評価値を求める。図11に示される単位時間当たりの評価値マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、アノード圧が固体高分子電解質膜に与えるダメージの大きさを相対評価し、これを数値化して、マップとしたものである。このマップから明らかなように、アノード圧が所定圧力に達するまでは、燃料電池1の固体高分子電解質膜はアノード圧による影響を受けないが、所定圧力を超えるとアノード圧が高いほどダメージが大きくなる。
【0044】
次に、ステップS134に進み、現在までの累積評価値を算出する。現在までの累積評価値は、前回までの累積評価値にステップS133において算出した今回の評価値を加算することにより求める。
次に、ステップS135に進み、図12に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS134において算出された累積評価値に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図12に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積評価値と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積評価値が大きくなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
【0045】
一方、ステップS131における判定結果が「NO」(所定温度未満)である場合には、燃料電池1の固体高分子電解質膜はダメージを受けないので、ステップS132〜S134の処理をすることなく、ステップS135に進み、前回までの累積評価値に基づいて劣化率を求める。
このように、現時点までのアノード圧に関する累積評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS132〜S134の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0046】
次に、燃料電池1内の湿度履歴に応じた評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図13に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS141において、燃料電池1の運転履歴から現在までの累積ダメージ湿度を算出する。
累積ダメージ湿度の算出方法を図14を参照して説明する。図14は、燃料電池1の運転中における燃料電池1内の湿度履歴の一例を示したものである。燃料電池1の固体高分子電解質膜は、固体高分子電解質膜にダメージを与えない最適湿度範囲が存在し、この最適湿度範囲を外れた状態で発電を行うと固体高分子電解質膜はダメージを受ける。そこで、燃料電池1内の湿度が最適湿度範囲(例えば、90〜100%)を外れた状態で燃料電池1を運転していた期間について、湿度を時間積分し、その積分値を累積することで、現在までの累積ダメージ湿度を算出する。累積ダメージ湿度は、燃料電池1内の湿度履歴に基づく評価値と言える。なお、燃料電池1の湿度は、例えばキャッチタンク24よりも上流のアノードオフガス流路21に湿度センサを設置するか、あるいは圧力制御弁10よりも上流の空気排出流路9に湿度センサを設置し、これら湿度センサで検出することが可能である。
【0047】
次に、ステップS142に進み、図15に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS141において算出された累積ダメージ湿度に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図15に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積ダメージ湿度と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積ダメージ湿度が大きくなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
このように、現時点までの累積ダメージ湿度に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS141の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0048】
次に、燃料電池1の両極空気起動の回数に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を説明する。
燃料電池1では、次回起動の安定化のために、運転停止中に、燃料電池1のアノード極側およびカソード極側に掃気ガスを流す、いわゆる掃気処理を実施する場合がある。
【0049】
この燃料電池システムにおいては空気を掃気ガスとして用い、例えば停止中に凍結の虞があるときには、コンプレッサ7を駆動し、燃料電池1の酸化剤流通路6に空気を流すことでカソード側に残留する水分を排出し、その後、コンプレッサ7を起動させたまま、掃気弁22と掃気排出弁29を開き、圧力制御弁10を閉じて、燃料電池1の燃料流通路5に空気を流すことでアノード側に残留する水分を排出する。
【0050】
このように掃気処理を実施した場合には、次回の起動時に、発電に先立って燃料電池1の燃料流通路5に水素を供給しパージ弁27から排出してアノード極側の空気を水素で押し出し、アノード極側を水素に置換する水素置換処理を行っている。しかしながら、このように水素置換処理を実行しても、燃料電池1のアノード極側の空気を完全に排出することは困難で、アノード極側に若干の空気が残留している状態で発電が開始される。燃料電池1のアノード極側に空気が存在している状態で発電を開始することを両極空気起動というが、両極空気起動は燃料電池1の固体高分子電解質膜にダメージを与えることが知られている。
そこで、両極空気起動の回数を累積し、その累積回数から燃料電池1の劣化率を求める。
【0051】
燃料電池1の両極空気起動の回数に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図16に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS151において、燃料電池1の運転履歴から現在までに両極空気起動を行った回数(累積両極空気起動回数)を算出する。
次に、ステップS152に進み、図17に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS151において算出された累積両極空気起動回数に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図17に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積両極空気起動回数と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積両極空気起動回数が多くなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
このように、現時点までの累積両極空気起動回数に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS151の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0052】
次に、ステップS02において実行される運転条件補正算出処理を、図18に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS161において、ステップS01の劣化判定処理で求めた劣化率を読み込む。
次に、劣化率に応じて各種運転条件の補正値を、燃料電池1の出力電流値毎に設定された補正マップを参照して算出し、このサブルーチンの実行を終了する。補正マップの一例を図19に示す。
【0053】
なお、この実施例では、燃料電池1の劣化率に応じて次のように運転条件を補正する。
(1)通常の発電運転時における空気供給流量あるいは水素供給圧力あるいは水素供給流量
発電運転時における空気供給流量を劣化率が大きくなるにしたがって増量補正する(図19参照)。このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、発電運転時においてカソード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、発電運転時における空気供給流量(酸化剤供給量)が排出処理関連量となる。
発電運転時における水素供給圧力を劣化率が大きくなるにしたがって増圧補正する(図19参照)。このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、発電運転時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、発電運転時における水素供給圧力が排出処理関連量となる。
【0054】
なお、エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16に水素ポンプを備える燃料電池システムの場合には、水素供給圧力の増圧に代えて、水素供給流量を増量する補正を行ってもよい。このように補正しても、燃料電池1の劣化に関わらず、発電運転時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、発電運転時における水素供給流量(燃料供給量)が排出処理関連量となる。
【0055】
(2)燃料電池1の発電中に間欠的に実施されるパージ弁27の開放による水素排出の頻度あるいは水素排出量
この燃料電池システムでは、発電運転中、燃料電池1から排出されるアノードオフガスをエゼクタ20で吸引し、燃料電池1に再供給し循環させているので、この水素循環流路内で不純物(カソード極からアノード極へ固体高分子電解質膜を透過した窒素や水等)の濃度が徐々に高まるため、所定の頻度でパージ弁27を開放して前記不純物を水素とともに排出している。
このパージ弁27開放による水素排出の頻度(すなわち、パージ弁27開放の頻度)を劣化率が大きくなるにしたがって増加補正する(図19参照)。あるいは、パージ弁27開放による水素排出量(すなわち、パージ弁27の開放継続時間)を増大補正する。あるいは、水素排出の頻度を増加補正すると同時に水素排出量を増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、発電中の水素排出時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、水素排出の頻度(排出用ガス導入頻度)および水素排出量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
【0056】
(3)燃料電池1の発電中に間欠的に実施される排水弁25の開放による水排出量
排水弁25開放による水排出量(すなわち、パージ弁27の開放継続時間)を劣化率が大きくなるにしたがって増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、発電中の水排出時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、水素排出量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
【0057】
(4)燃料電池1の起動時に実施されるパージ弁27の開放による水素置換を目的とする水素排出流量
燃料電池システムでは、起動時に、発電に先立って燃料電池1の燃料流通路5に水素を供給しパージ弁27から排出してアノード極側のガスを新たな水素に置換する水素置換処理を行う場合がある。このときの水素排出流量を劣化率が大きくなるにしたがって増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、起動時の水素置換処理時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、水素排出流量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
(5)燃料電池1の起動時の空気供給流量
燃料電池システムの起動時に、発電に先立って燃料電池1のカソード極に供給する空気供給流量を、劣化率が大きくなるにしたがって増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、起動時の発電前においてカソード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、空気供給流量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
(6)燃料電池1の発電停止後に実施されるアノード極およびカソード極への空気導入による掃気処理時の掃気流量
発電停止中に前述した掃気処理を行う場合にアノード極およびカソード極に供給する掃気ガス(空気)の掃気流量を、劣化率が大きくなるにしたがって増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、掃気処理においてアノード極側およびカソード極側の排水性を向上させることができ、次回起動時の燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、掃気流量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
【符号の説明】
【0058】
1 燃料電池
50 制御装置(制御部、計測手段)
64 電流計(電流測定手段)
65 電圧計(電圧測定手段)
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜を有し、アノード極に水素(燃料)が供給され、カソード極に酸素(酸化剤)を含む空気が供給されて発電をする燃料電池では、劣化により発電性能が低下することが知られている。
燃料電池に対する劣化判定方法は、従来から種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、外部負荷に応じて燃料ガスの流量と酸化剤ガスの流量とを制御して運転する自動運転モードと、燃料ガスの流量と必要に応じて空気の流量とを略一定に制御した状態で、引き出す電流を略一定にした時の出力電圧を測定する評価モードとを選択可能に構成し、評価モードでは、現在の出力電圧と、記憶手段に記憶された過去の出力電圧またはシミュレーションにより計算された出力電圧とを比較し、その比較結果に基づいて燃料電池発電装置の劣化状態を診断することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、燃料電池のセルスタックの出力電流に対する基準とするセルスタックの基準出力電力を予めデータ記憶部に記憶しておき、燃料電池の劣化判定時にセルスタックの出力電流および出力電圧を検出し、これから劣化判定時におけるセルスタックの判定時出力電力を求め、検出されたセルスタックの出力電流に対する基準出力電力をデータ記憶部から抽出し、基準出力電力に対する判定時出力電力の割合を算出し、この割合から燃料電池の劣化を判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−87686号公報
【特許文献2】特開2006−331849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記燃料電池の劣化は固体高分子電解質膜の劣化に大きく依存し、固体高分子電解質膜の劣化が進行するにしたがって、排水性が悪化して燃料電池内に水が溜まり易くなり、発電性能が低下するという特性があり、劣化が進行すると、フラッディングにより次回起動時での発電安定性が悪化するという課題がある。
そのため、燃料電池の劣化に応じて発電安定性を向上させる対策が求められており、それには燃料電池の劣化状態を適確に把握することが必要である。
【0007】
しかしながら、従来の燃料電池の劣化判定方法では、燃料電池の劣化状態を適確に把握することができず、発電安定性を向上させる対策を立てたとしても、結果的にその対策が後手に回ったり、過剰な対策をしてしまう虞がある。
詳述すると、特許文献1に開示された劣化判定方法では、劣化判定をするときには燃料電池を評価モードで運転しなければならず、通常の発電運転状態において劣化判定をすることができない。そのため、評価モードに移行して燃料電池の劣化状態を把握できたときには、劣化が相当に進行してしまい、前記対策が遅れてしまう虞がある。
【0008】
また、特許文献2に開示された劣化判定方法では、通常の発電運転状態のときにも劣化判定をすることはできるが、電力に換算して劣化判定を行うと、電流値が小さい領域では劣化の大きさ(劣化率)が違っても電力値に差が余り現れないため、判定精度が低くなり誤判定する虞もある。その結果、前記対策が過剰なものになる虞がある。
【0009】
そこで、この発明は、燃料電池の劣化状態を適確に把握し、劣化状態に関わらず燃料電池から水を確実に排出可能にして、発電安定性を確保することができる燃料電池システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る燃料電池システムでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、燃料と酸化剤が供給されて発電をする燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、前記燃料電池に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段と、前記燃料電池から出力される電流値を測定する電流測定手段(例えば、後述する実施例における電流計64)と、前記燃料電池から出力される電圧値を測定する電圧測定手段(例えば、後述する実施例における電圧計65)と、前記排出処理手段を制御する制御部(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池の発電中に前記電流測定手段および前記電圧測定手段により測定された電流値と電圧値とを、予め電流値と電圧値とにより規定された劣化率データと比較することにより、前記燃料電池の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化率が小さいときよりも、前記排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御することを特徴とする燃料電池システムである。
【0011】
請求項2に係る発明は、燃料と酸化剤が供給されて発電をする燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、前記燃料電池に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段と、前記燃料電池の累積発電時間、前記燃料電池の温度履歴に応じた評価値、前記燃料電池の反応ガス圧履歴に応じた評価値、前記燃料電池内の湿度履歴に応じた評価値、前記燃料電池の両極に酸化剤が供給された後に該燃料電池を起動した回数、のうち少なくとも一つを計測する計測手段(例えば、後述する実施例におけるステップS111,S122〜S124,S132〜134,S141,S151)と、前記排出処理手段を制御する制御部(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、を備え、前記制御部は、前記計測手段により計測された評価値を、予め計測対象の評価値により規定された劣化率データと比較することにより、前記燃料電池の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化率が小さいときよりも、前記排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御することを特徴とする燃料電池システムである。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記排出処理関連量は、排出用ガス量、排出用ガス導入頻度、酸化剤供給量、燃料供給量のうちの少なくともいずれか一つであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、燃料電池の運転中の電流値と電圧値から燃料電池の劣化率を求めるので、リアルタイムに精度良く、燃料電池の劣化判定をすることができ、その判定結果に応じて排出処理関連量を劣化率が小さいときよりも大きくするように変更するので、劣化状態に関わらず、燃料電池から確実に水を排出することができ、燃料電池の発電安定性を確保することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、計測手段により計測された計測値から燃料電池の劣化率を求めるので、リアルタイムに精度良く、燃料電池の劣化判定をすることができ、その判定結果に応じて排出処理関連量を劣化率が小さいときよりも大きくするように変更するので、劣化状態に関わらず、燃料電池から確実に水を排出することができ、燃料電池の発電安定性を確保することができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、燃料電池の劣化状態に関わらず、燃料電池から確実に水を排出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に係る燃料電池システムの実施例における概略構成図である。
【図2】実施例における燃料電池に対する発電安定化処理を示すフローチャートである。
【図3】実施例における第1の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図4】前記第1の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図5】実施例における第2の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図6】前記第2の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図7】実施例における第3の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図8】前記第3の劣化判定処理において用いられる評価値マップである。
【図9】前記第3の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図10】実施例における第4の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図11】前記第4の劣化判定処理において用いられる評価値マップである。
【図12】前記第4の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図13】実施例における第5の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図14】燃料電池内の湿度履歴の一例を示す図である。
【図15】前記第5の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図16】実施例における第6の劣化判定処理を示すフローチャートである。
【図17】前記第6の劣化判定処理において用いられる劣化率判定マップである。
【図18】実施例における運転条件補正算出処理を示すフローチャートである。
【図19】前記運転条件補正算出処理において用いられる補正マップである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明に係る燃料電池システムの実施例を図1から図19の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施例における燃料電池システムは、燃料電池車両に搭載された態様である。
図1は、実施例における燃料電池システムの概略構成図である。
燃料電池1は、例えば固体ポリマーイオン交換膜等からなる固体高分子電解質膜をアノード極とカソード極とで両側から挟み込んで形成されたセルを複数積層して構成されており、アノード極に燃料ガス(反応ガス)として水素を供給し、カソード極に酸化剤ガス(反応ガス)として酸素を含む空気を供給すると、アノード極で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を通過してカソード極まで移動して、カソード極で酸素と電気化学反応を起こして発電し、水が生成される。カソード極側で生じた生成水の一部は固体高分子電解質膜を透過してアノード極側に逆拡散するため、アノード極側にも生成水が存在する。
【0018】
空気はスーパーチャージャーなどのコンプレッサ7により所定圧力に加圧され、空気供給流路8を通って燃料電池1内の酸化剤流通路6に導入され、各セルのカソード極に供給される。燃料電池1に供給された空気は発電に供された後、燃料電池1からカソード極側の生成水と共に空気排出流路9に排出され、圧力制御弁10を介して希釈ボックス11へ排出される。つまり、この場合には、カソード極側に流れる空気は、反応ガスであるとともにカソード極側に生じた生成水(不純物)を排出する排出用ガスでもある。そして、コンプレッサ7、空気供給流路8、空気排出流路9、圧力制御弁10は、燃料電池1のカソード極側に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段を構成する。
圧力制御弁10よりも上流の空気排出流路9には、燃料電池1から排出される空気の温度を検出するカソード出口温度センサ61が設けられている。カソード出口温度センサ61は検出した温度値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0019】
一方、水素タンク15から供給される水素は燃料供給流路16を介して燃料電池1内の燃料流通路5に導入され、各セルのアノード極に供給される。燃料供給流路16には、上流側から順に、ガス供給弁17、遮断弁18、レギュレータ19、エゼクタ20が設けられており、水素タンク15から供給された水素はレギュレータ19によって所定圧力に減圧されて燃料電池1の燃料流通路5に供給される。そして、消費されなかった未反応の水素は、燃料電池1からアノードオフガスとして排出され、アノードオフガス流路21を通ってエゼクタ20に吸引され、水素タンク15から供給される新鮮な水素と合流し再び燃料電池1の燃料流通路5に供給される。すなわち、燃料電池1から排出されるアノードオフガスは、アノードオフガス流路21、およびエゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16aを通って、燃料電池1を循環する。
エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16aと空気供給流路8は、掃気弁22を備えたアノード掃気流路23によって接続されており、空気供給流路8からアノード掃気流路23を介して燃料供給流路16に空気を導入可能となっている。
【0020】
アノードオフガス流路21には、アノードオフガスに含まれる凝縮水を捕集するキャッチタンク24が設けられており、エゼクタ20には凝縮水を除去された水素が供給されるようになっている。キャッチタンク24は、排水弁25を備えた排水流路26を介して希釈ボックス11に接続されており、キャッチタンク24に所定量の水が溜まると排水弁25が開き、溜まった水をアノードオフガスで押し出し、希釈ボックス11にアノードオフガスとともに排出する。
【0021】
また、キャッチタンク24よりも下流のアノードオフガス流路21からは、パージ弁27を備えたパージ流路28と、掃気排出弁29を備えた掃気排出流路30とが分岐し、パージ流路28と掃気排出流路30は希釈ボックス11に接続されている。
パージ弁27は、燃料電池1の発電時において、通常は閉じており、所定の条件が満たされたときに開いて、アノードオフガス中に含まれる不純物をアノードオフガスとともに希釈ボックス11へ排出する。
つまり、アノードオフガス(水素)は、燃料電池1を循環する反応ガスであるとともに、燃料電池1のアノード極側に生じた不純物(水や窒素等)を排出する排出用ガスでもある。
【0022】
掃気排出弁29は通常は閉じており、燃料電池システムの停止時に所定条件が満たされたときに開かれて、燃料電池1の燃料流通路5を空気で掃気する、いわゆるアノード掃気を行い、掃気ガスを希釈ボックス11へ排出する。つまり、この場合、アノード極側に流れる空気は、アノード極側に生じた不純物を排出する排出用ガスである。
この実施例において、燃料供給流路16,アノードオフガス流路21、パージ弁27、パージ流路28、排水弁25、排水流路26、コンプレッサ7、掃気弁22、アノード掃気流路23、掃気排出弁29、掃気排出流路30は、燃料電池1のアノード極側に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段を構成する。
【0023】
また、希釈ボックス11には空気供給流路8から分岐した希釈ガス流路31が接続されている。希釈ガス流路31に設けられた開閉弁32は、燃料電池1を通さずに希釈ガス(空気)を希釈ボックス11に供給する場合に開かれる。
そして、排水流路26、パージ流路28、掃気排出流路30を介して希釈ボックス11に排出されたアノードオフガスは、空気排出流路9または希釈ガス流路31を介して希釈ボックス11に流入する空気によって希釈され、希釈されたガスが希釈ボックス11から排気管33を介して大気に排出される。
キャッチタンク24よりも下流のアノードオフガス流路21には、燃料電池1から排出されるアノードオフガスの温度を検出するアノード出口温度センサ62が設けられている。アノード出口温度センサ62は検出した温度値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0024】
さらに、燃料電池1は内部に冷却通路71を備えており、この冷却通路71に冷却水を流通させることによって燃料電池1から熱を奪い、発電に伴う発熱で燃料電池1が所定の上限温度を越えないよう冷却している。冷却通路71は、冷却水ポンプ72とラジエタ73とを備えた冷却水循環流路74に接続されており、冷却通路71と冷却水循環流路74により形成される閉回路を冷却水が循環するようになっている。
詳述すると、冷却水は、冷却水ポンプ72によって昇圧されて燃料電池1の冷却通路71に供給され、燃料電池1との熱交換によって暖められた冷却水は燃料電池1から排出されてラジエタ73に送られる。ラジエータ73において外部に放熱することにより冷却された冷却水は、冷却水ポンプ72に供給され、再び冷却水ポンプ72で昇圧されて燃料電池1に供給される。なお、燃料電池1を冷却する必要がないときには、冷却水ポンプ72を停止して冷却水の循環を停止する。
燃料電池1とラジエタ73との間の冷却水循環流路74には、燃料電池1から排出される冷却水の温度を検出する冷却水出口温度センサ63が設けられている。冷却水出口温度センサ63は検出した温度値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0025】
燃料電池1は、高圧バッテリ(蓄電装置)41や車両駆動用モータなどの外部負荷42に接続されており、燃料電池1で発電した電気を高圧バッテリ41に充電したり、外部負荷42に電力を供給可能となっている。
また、燃料電池1から引き出される電流(出力電流)は電流計(電流測定手段)64によって測定可能となっており、燃料電池1の出力電圧は電圧計(電圧測定手段)65によって測定可能となっている。電流計64および電圧計65は、それぞれ測定された電流値あるいは電圧値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0026】
制御装置50は、イグニッションスイッチ51から入力したオン・オフ信号に基づいて燃料電池システムの起動・停止を制御し、燃料電池1の出力制御等、制御内容に応じて、コンプレッサ7、圧力制御弁10、ガス供給弁17、遮断弁18、掃気弁22、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、開閉弁32、冷却水ポンプ72等を制御する。なお、図1ではこれらの制御信号線を省略している。
【0027】
ところで、前述したように、燃料電池1は、固体高分子電解質膜の劣化が進行するにしたがって、排水性が悪化して燃料電池内に水が溜まり易くなり、発電性能が低下するという特性があり、劣化が進行すると、フラッディングにより次回起動時での発電安定性が悪化してしまう。
そこで、この実施例における燃料電池システムでは、燃料電池1の劣化状態を監視し、劣化が認められたときにはその劣化状態に応じて燃料電池1の各種運転条件を変更することにより、燃料電池1内の水を確実に排出し、発電安定性を確保するようにしている。
【0028】
以下、この実施例における燃料電池1に対する発電安定化処理を、図2のフローチャートに従って説明する。
図2は、発電安定化処理のメインルーチンを示すフローチャートであり、このメインルーチンは、イグニッションスイッチ51のオン信号をトリガーとして制御装置50によって実行される。
【0029】
まず、ステップS01において、燃料電池1に対する劣化判定処理を実行し、燃料電池1の現在の劣化率を求める。劣化判定処理については後で詳述する。
次に、ステップS02に進み、運転条件補正算出処理を実行し、ステップS01において求めた劣化率に応じて各種運転条件の補正値を算出する。ここで、燃料電池1の各種運転条件には次のものが含まれる。
(1)通常の発電運転時における空気供給流量あるいは水素供給圧力
(2)燃料電池1の発電中に間欠的に実施されるパージ弁27の開放による水素排出の頻度あるいは水素排出量
(3)燃料電池1の発電中に間欠的に実施される排水弁25の開放による水排出量
(4)燃料電池1の起動時に実施されるパージ弁27の開放による水素置換を目的とする水素排出流量、
(5)燃料電池1の起動時の空気供給流量
(6)燃料電池1の発電停止後に実施されるアノード極およびカソード極への空気導入による掃気処理時の掃気流量
運転条件補正算出処理については後で詳述する。
【0030】
次に、ステップS03に進み、燃料電池1に対する各種運転条件を、ステップS02で求めた補正後の運転条件に変更して燃料電池1の運転制御を実行する。これにより、燃料電池1の排水性を向上させ、燃料電池1の発電安定性を確保する。なお、劣化率に応じた運転条件の変更は、前記(1)〜(6)のうちの1つの運転条件のみを変更してもよいし、複数の運転条件を変更してもよいし、全ての運転条件を変更してもよい。
【0031】
次に、ステップS04に進み、燃料電池1が発電中か否かを判定し、判定結果が「YES」(発電中)である場合には、ステップS01に戻り、判定結果が「NO」(発電停止)である場合にはステップS05に進み、ステップS01において求めた最新の劣化率を制御装置50の記憶部(図示略)に記憶して、このメインルーチンの実行を終了する。
【0032】
したがって、制御装置50によって、常に燃料電池1に対する劣化判定処理が実行されることとなり、これにより、常に燃料電池1の劣化状態を監視することができる。
なお、ステップS05において記憶された最新の劣化率は、燃料電池1の発電停止中にアノード極およびカソード極に対する掃気処理を実行する際に呼び出されて、掃気流量を決定する。
【0033】
次に、ステップS01において実行される劣化判定処理を、図3から図17の図面を参照して説明する。
燃料電池1の劣化は次の要素のうちのいずれか一つに基づいて算出することが可能である。
(1)燃料電池1の出力電流と出力電圧
(2)燃料電池1の累積発電時間
(3)燃料電池1の温度履歴に応じた評価値
(4)燃料電池1のアノード極側のガス圧履歴に応じた評価値
(5)燃料電池1内の湿度履歴に応じた評価値
(6)燃料電池1のアノード極およびカソード極に酸化剤が供給された後に燃料電池1を起動(以下、両極空気起動と略す)した回数
以下、各要素による劣化判定処理を順に説明する。
【0034】
初めに、燃料電池1の出力電流と出力電圧とに基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図3に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS101において、燃料電池1の温度が所定温度以上か否かを判定する。この所定温度は、燃料電池1が暖機を完了したと判断することができる温度であり、例えば50゜Cとすることができる。また、燃料電池1の温度としては、冷却水出口温度センサ63で検出される冷却水温度を用いるのが好ましいが、アノード出口温度センサ62あるいはカソード出口温度センサ61により検出される温度を用いることも可能である。
【0035】
ステップS101における判定結果が「NO」(所定温度未満)である場合には、燃料電池1が未だ暖機完了しておらず、発電状態が不安定で、劣化判定には不向きであるので、このサブルーチンの実行を終了する。
ステップS101における判定結果が「YES」(所定温度以上)である場合には、燃料電池1が暖機完了しており、発電状態が安定しているので、ステップS102に進み、電流計64および電圧計65により現在の燃料電池1の出力電流値および出力電圧値を取得する。
【0036】
次に、ステップS103に進み、図4に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS102で取得した現在の燃料電池1の出力電流値および出力電圧値に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図4に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、燃料電池の劣化率と、出力電流および出力電圧との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。なお、現在の燃料電池1の出力電流値および出力電圧値と完全一致するデータが劣化率判定マップ上にない場合には、補間法によって劣化率を算出する。
また、最新のただ1組の出力電流値および出力電圧値から劣化率を求めてもよいが、最新に連続して求めた複数組の出力電流値および出力電圧値からIV軌跡を求め、これと劣化率判定マップのIV線とを比較して劣化率を求めてもよい。
このように、電力に換算せず、燃料電池1の出力電流と出力電圧を直接用いて燃料電池1の劣化率を算出するので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
【0037】
次に、燃料電池1の累積発電時間に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図5に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS111において、燃料電池1の運転履歴から現在までの累積発電時間を算出する。
次に、ステップS112に進み、図6に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS111において算出された累積発電時間に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図6に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積発電時間と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積発電時間が多くなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
このように、燃料電池1の累積発電時間に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS111の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0038】
次に、燃料電池1の温度履歴に応じた評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図7に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS121において、燃料電池1の温度が所定温度以上か否かを判定する。燃料電池1の温度としては、冷却水出口温度センサ63で検出される冷却水温度を用いるのが好ましいが、アノード出口温度センサ62あるいはカソード出口温度センサ61により検出される温度を用いることも可能である。この所定温度は、燃料電池1の固体高分子電解質膜がダメージを受けないと判断することができる温度であり、予め実験により求め、例えば70゜Cとすることができる。
【0039】
ステップS121における判定結果が「YES」(所定温度以上)である場合には、ステップS122に進み、最近の燃料電池1の単位時間当たりの平均温度を算出する。
次に、ステップS123に進み、図8に示される単位時間当たりの評価値マップを参照して、ステップS122において算出された単位時間当たりの平均温度に応じた単位時間当たりの評価値を求める。図8に示される単位時間当たりの評価値マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、燃料電池1の温度が固体高分子電解質膜に与えるダメージの大きさを相対評価し、これを数値化して、マップとしたものである。このマップから明らかなように、燃料電池1の温度が所定温度に達するまでは、燃料電池1の固体高分子電解質膜は温度による影響を受けないが、所定温度を超えると温度が高いほどダメージが大きくなる。
【0040】
次に、ステップS124に進み、現在までの累積評価値を算出する。現在までの累積評価値は、前回までの累積評価値にステップS123において算出した今回の評価値を加算することにより求める。
次に、ステップS125に進み、図9に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS124において算出された累積評価値に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図9に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積評価値と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積評価値が大きくなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
【0041】
一方、ステップS121における判定結果が「NO」(所定温度未満)である場合には、燃料電池1の固体高分子電解質膜はダメージを受けないので、ステップS122〜S124の処理をすることなく、ステップS125に進み、前回までの累積評価値に基づいて劣化率を求める。
このように、現時点までの温度に関する累積評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS122〜S124の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0042】
次に、燃料電池1のアノード極側のガス圧履歴に応じた評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図10に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS131において、燃料電池1のアノード極側のガス圧力(以下、アノード圧という)が所定圧力以上か否かを判定する。この所定圧力は、燃料電池1の固体高分子電解質膜がダメージを受けないと判断することができるアノード圧力であり、予め実験により求める。なお、アノード圧は、例えばエゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16にアノード圧センサを設置し、検出することができる。
【0043】
ステップS131における判定結果が「YES」(所定圧力以上)である場合には、ステップS132に進み、最近の燃料電池1の単位時間当たりの平均アノード圧を算出する。
次に、ステップS133に進み、図11に示される単位時間当たりの評価値マップを参照して、ステップS132において算出された単位時間当たりの平均アノード圧に応じた単位時間当たりの評価値を求める。図11に示される単位時間当たりの評価値マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、アノード圧が固体高分子電解質膜に与えるダメージの大きさを相対評価し、これを数値化して、マップとしたものである。このマップから明らかなように、アノード圧が所定圧力に達するまでは、燃料電池1の固体高分子電解質膜はアノード圧による影響を受けないが、所定圧力を超えるとアノード圧が高いほどダメージが大きくなる。
【0044】
次に、ステップS134に進み、現在までの累積評価値を算出する。現在までの累積評価値は、前回までの累積評価値にステップS133において算出した今回の評価値を加算することにより求める。
次に、ステップS135に進み、図12に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS134において算出された累積評価値に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図12に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積評価値と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積評価値が大きくなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
【0045】
一方、ステップS131における判定結果が「NO」(所定温度未満)である場合には、燃料電池1の固体高分子電解質膜はダメージを受けないので、ステップS132〜S134の処理をすることなく、ステップS135に進み、前回までの累積評価値に基づいて劣化率を求める。
このように、現時点までのアノード圧に関する累積評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS132〜S134の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0046】
次に、燃料電池1内の湿度履歴に応じた評価値に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図13に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS141において、燃料電池1の運転履歴から現在までの累積ダメージ湿度を算出する。
累積ダメージ湿度の算出方法を図14を参照して説明する。図14は、燃料電池1の運転中における燃料電池1内の湿度履歴の一例を示したものである。燃料電池1の固体高分子電解質膜は、固体高分子電解質膜にダメージを与えない最適湿度範囲が存在し、この最適湿度範囲を外れた状態で発電を行うと固体高分子電解質膜はダメージを受ける。そこで、燃料電池1内の湿度が最適湿度範囲(例えば、90〜100%)を外れた状態で燃料電池1を運転していた期間について、湿度を時間積分し、その積分値を累積することで、現在までの累積ダメージ湿度を算出する。累積ダメージ湿度は、燃料電池1内の湿度履歴に基づく評価値と言える。なお、燃料電池1の湿度は、例えばキャッチタンク24よりも上流のアノードオフガス流路21に湿度センサを設置するか、あるいは圧力制御弁10よりも上流の空気排出流路9に湿度センサを設置し、これら湿度センサで検出することが可能である。
【0047】
次に、ステップS142に進み、図15に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS141において算出された累積ダメージ湿度に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図15に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積ダメージ湿度と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積ダメージ湿度が大きくなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
このように、現時点までの累積ダメージ湿度に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS141の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0048】
次に、燃料電池1の両極空気起動の回数に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を説明する。
燃料電池1では、次回起動の安定化のために、運転停止中に、燃料電池1のアノード極側およびカソード極側に掃気ガスを流す、いわゆる掃気処理を実施する場合がある。
【0049】
この燃料電池システムにおいては空気を掃気ガスとして用い、例えば停止中に凍結の虞があるときには、コンプレッサ7を駆動し、燃料電池1の酸化剤流通路6に空気を流すことでカソード側に残留する水分を排出し、その後、コンプレッサ7を起動させたまま、掃気弁22と掃気排出弁29を開き、圧力制御弁10を閉じて、燃料電池1の燃料流通路5に空気を流すことでアノード側に残留する水分を排出する。
【0050】
このように掃気処理を実施した場合には、次回の起動時に、発電に先立って燃料電池1の燃料流通路5に水素を供給しパージ弁27から排出してアノード極側の空気を水素で押し出し、アノード極側を水素に置換する水素置換処理を行っている。しかしながら、このように水素置換処理を実行しても、燃料電池1のアノード極側の空気を完全に排出することは困難で、アノード極側に若干の空気が残留している状態で発電が開始される。燃料電池1のアノード極側に空気が存在している状態で発電を開始することを両極空気起動というが、両極空気起動は燃料電池1の固体高分子電解質膜にダメージを与えることが知られている。
そこで、両極空気起動の回数を累積し、その累積回数から燃料電池1の劣化率を求める。
【0051】
燃料電池1の両極空気起動の回数に基づいて燃料電池1の劣化率を求める劣化判定処理を、図16に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS151において、燃料電池1の運転履歴から現在までに両極空気起動を行った回数(累積両極空気起動回数)を算出する。
次に、ステップS152に進み、図17に示される劣化率判定マップ(劣化率データ)を参照して、ステップS151において算出された累積両極空気起動回数に応じた劣化率を求め、このサブルーチンの実行を終了する。図17に示される劣化率判定マップは、この燃料電池システムに使用されている燃料電池1と同等の燃料電池に対して予め実験を行い、累積両極空気起動回数と劣化率との関係をデータとして取得し、取得されたデータに基づいてマップ化したものである。このマップから明らかなように、累積両極空気起動回数が多くなるほど劣化が進み、劣化率が大きくなる。
このように、現時点までの累積両極空気起動回数に基づいて燃料電池1の劣化率を求めるので、劣化率をリアルタイムに、高精度に求めることができ、劣化判定精度が向上する。
なお、この実施例においては、制御装置50がステップS151の処理を実行することによって計測手段が実現される。
【0052】
次に、ステップS02において実行される運転条件補正算出処理を、図18に示すサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS161において、ステップS01の劣化判定処理で求めた劣化率を読み込む。
次に、劣化率に応じて各種運転条件の補正値を、燃料電池1の出力電流値毎に設定された補正マップを参照して算出し、このサブルーチンの実行を終了する。補正マップの一例を図19に示す。
【0053】
なお、この実施例では、燃料電池1の劣化率に応じて次のように運転条件を補正する。
(1)通常の発電運転時における空気供給流量あるいは水素供給圧力あるいは水素供給流量
発電運転時における空気供給流量を劣化率が大きくなるにしたがって増量補正する(図19参照)。このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、発電運転時においてカソード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、発電運転時における空気供給流量(酸化剤供給量)が排出処理関連量となる。
発電運転時における水素供給圧力を劣化率が大きくなるにしたがって増圧補正する(図19参照)。このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、発電運転時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、発電運転時における水素供給圧力が排出処理関連量となる。
【0054】
なお、エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16に水素ポンプを備える燃料電池システムの場合には、水素供給圧力の増圧に代えて、水素供給流量を増量する補正を行ってもよい。このように補正しても、燃料電池1の劣化に関わらず、発電運転時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、発電運転時における水素供給流量(燃料供給量)が排出処理関連量となる。
【0055】
(2)燃料電池1の発電中に間欠的に実施されるパージ弁27の開放による水素排出の頻度あるいは水素排出量
この燃料電池システムでは、発電運転中、燃料電池1から排出されるアノードオフガスをエゼクタ20で吸引し、燃料電池1に再供給し循環させているので、この水素循環流路内で不純物(カソード極からアノード極へ固体高分子電解質膜を透過した窒素や水等)の濃度が徐々に高まるため、所定の頻度でパージ弁27を開放して前記不純物を水素とともに排出している。
このパージ弁27開放による水素排出の頻度(すなわち、パージ弁27開放の頻度)を劣化率が大きくなるにしたがって増加補正する(図19参照)。あるいは、パージ弁27開放による水素排出量(すなわち、パージ弁27の開放継続時間)を増大補正する。あるいは、水素排出の頻度を増加補正すると同時に水素排出量を増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、発電中の水素排出時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、水素排出の頻度(排出用ガス導入頻度)および水素排出量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
【0056】
(3)燃料電池1の発電中に間欠的に実施される排水弁25の開放による水排出量
排水弁25開放による水排出量(すなわち、パージ弁27の開放継続時間)を劣化率が大きくなるにしたがって増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、発電中の水排出時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、水素排出量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
【0057】
(4)燃料電池1の起動時に実施されるパージ弁27の開放による水素置換を目的とする水素排出流量
燃料電池システムでは、起動時に、発電に先立って燃料電池1の燃料流通路5に水素を供給しパージ弁27から排出してアノード極側のガスを新たな水素に置換する水素置換処理を行う場合がある。このときの水素排出流量を劣化率が大きくなるにしたがって増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、起動時の水素置換処理時においてアノード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、水素排出流量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
(5)燃料電池1の起動時の空気供給流量
燃料電池システムの起動時に、発電に先立って燃料電池1のカソード極に供給する空気供給流量を、劣化率が大きくなるにしたがって増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、起動時の発電前においてカソード極側の排水性を向上させることができ、燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、空気供給流量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
(6)燃料電池1の発電停止後に実施されるアノード極およびカソード極への空気導入による掃気処理時の掃気流量
発電停止中に前述した掃気処理を行う場合にアノード極およびカソード極に供給する掃気ガス(空気)の掃気流量を、劣化率が大きくなるにしたがって増大補正する。
このように補正すると、燃料電池1の劣化に関わらず、掃気処理においてアノード極側およびカソード極側の排水性を向上させることができ、次回起動時の燃料電池1の発電安定性を確保することができる。この場合、掃気流量(排出用ガス量)が排出処理関連量となる。
【符号の説明】
【0058】
1 燃料電池
50 制御装置(制御部、計測手段)
64 電流計(電流測定手段)
65 電圧計(電圧測定手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と酸化剤が供給されて発電をする燃料電池と、
前記燃料電池に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段と、
前記燃料電池から出力される電流値を測定する電流測定手段と、
前記燃料電池から出力される電圧値を測定する電圧測定手段と、
前記排出処理手段を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の発電中に前記電流測定手段および前記電圧測定手段により測定された電流値と電圧値とを、予め電流値と電圧値とにより規定された劣化率データと比較することにより、前記燃料電池の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化率が小さいときよりも、前記排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
燃料と酸化剤が供給されて発電をする燃料電池と、
前記燃料電池に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段と、
前記燃料電池の累積発電時間、前記燃料電池の温度履歴に応じた評価値、前記燃料電池の反応ガス圧履歴に応じた評価値、前記燃料電池内の湿度履歴に応じた評価値、前記燃料電池の両極に酸化剤が供給された後に該燃料電池を起動した回数、のうち少なくとも一つを計測する計測手段と、
前記排出処理手段を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記計測手段により計測された評価値を、予め計測対象の評価値により規定された劣化率データと比較することにより、前記燃料電池の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化率が小さいときよりも、前記排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
前記排出処理関連量は、排出用ガス量、排出用ガス導入頻度、酸化剤供給量、燃料供給量のうちの少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項1】
燃料と酸化剤が供給されて発電をする燃料電池と、
前記燃料電池に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段と、
前記燃料電池から出力される電流値を測定する電流測定手段と、
前記燃料電池から出力される電圧値を測定する電圧測定手段と、
前記排出処理手段を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の発電中に前記電流測定手段および前記電圧測定手段により測定された電流値と電圧値とを、予め電流値と電圧値とにより規定された劣化率データと比較することにより、前記燃料電池の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化率が小さいときよりも、前記排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
燃料と酸化剤が供給されて発電をする燃料電池と、
前記燃料電池に生じた不純物を排出用ガスの供給により排出する排出処理手段と、
前記燃料電池の累積発電時間、前記燃料電池の温度履歴に応じた評価値、前記燃料電池の反応ガス圧履歴に応じた評価値、前記燃料電池内の湿度履歴に応じた評価値、前記燃料電池の両極に酸化剤が供給された後に該燃料電池を起動した回数、のうち少なくとも一つを計測する計測手段と、
前記排出処理手段を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記計測手段により計測された評価値を、予め計測対象の評価値により規定された劣化率データと比較することにより、前記燃料電池の現在の劣化率を求め、現在の劣化率が大きくなるほど、劣化率が小さいときよりも、前記排出処理手段における排出処理関連量を大きくするように制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
前記排出処理関連量は、排出用ガス量、排出用ガス導入頻度、酸化剤供給量、燃料供給量のうちの少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−54110(P2012−54110A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195999(P2010−195999)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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