説明

燃料電池発電システム

【課題】水を供給する動力を不要とし、エネルギー効率の高い燃料電池発電システムを提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池発電システムは、酸素を還元する正極11と、水素を酸化する負極12と、正極11と負極12との間に配置された固体電解質膜13とを含む燃料電池100、及び、水素発生材料23を収容した水素発生容器21と、水27を収容した水供給容器22とを含み、水素発生材料23と水27とが反応することにより、水素を発生させる水素発生装置200を備え、負極12と水素発生容器21とは、水素供給パイプ24により連結され、水供給容器22と水素発生容器21とは、水供給パイプ28a、28bにより連結され、水供給容器22の内部圧力が、大気圧に維持され、水素発生容器21の内部圧力が、大気圧よりも負圧になったときに、この負圧により水供給容器22から水素発生容器21に水27を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池と、水と反応して水素を発生させる水素発生材料を用いた水素発生装置とからなる燃料電池発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話等のコードレス機器の普及に伴い、その電源である電池は、ますます小型化、高容量化が要望されている。現在、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、小型軽量化が図れる電池として実用化されており、ポータブル電源としての需要が増大している。しかし、このリチウムイオン二次電池は、一部のコードレス機器に対して、十分な連続使用時間を保証することができないという問題がある。
【0003】
上記問題の解決に向けて、例えば固体高分子型燃料電池(PEFC)等の燃料電池の開発が進められている。燃料電池は、燃料及び酸素の供給を行えば、連続的に使用することが可能である。電解質に固体高分子電解質、正極活物質に空気中の酸素、負極活物質に燃料を用いるPEFCは、リチウムイオン二次電池よりもエネルギー密度が高い電池として注目されている。
【0004】
PEFCに用いる燃料に関しては、いくつかの候補が挙げられているが、それぞれの燃料に技術的課題がある。燃料としてメタノールを用い、直接電極でメタノールを反応させる直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、容易に小型化できる電池であり、将来のポータブル電源として期待されている。しかし、DMFCには、負極のメタノールが固体電解質を透過して正極に達するクロスオーバーによって電圧が低下し、高いエネルギー密度が得られなくなるという問題がある。一方、燃料として水素を用いた燃料電池としては、例えば、水素を蓄えた高圧タンク又は水素収蔵合金タンクを用いた電池が一部で実用化されている。しかし、このようなタンクを用いた電池はその体積及び質量が大きくなり、エネルギー密度が低下するため、ポータブル電源に適さない。また、燃料として炭化水素系燃料を用いた電池には、この燃料を改質して水素を取り出す改質装置を用いた電池がある。しかし、この種の電池は改質装置へ熱を供給したり、改質装置を断熱したりする等の必要があるため、ポータブル電源に適さない。
【0005】
このような状況において、燃料電池の燃料源である水素を製造する方法として、常温で水とアルミニウム、酸化カルシウム等との化学反応により水を分解させて水素を発生させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−231466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法によれば、所定量の水を一度にアルミニウム及び酸化カルシウムへ導入することで水素を発生させているが、これでは燃料電池の発電量に応じて必要な水素をその都度供給することはできない。燃料電池の発電量に応じて必要な水素をその都度発生させるためには、水を適時供給することが必要となるが、特許文献1では水の供給手段としてポンプ等の動力を提案している。しかし、水の供給手段としてポンプ等を用いると、そのポンプ等を駆動させるための電力が必要になるだけでなく、装置全体が大きくなり、エネルギー密度及びコンパクト化の両面からポータブル電源としては適さない。
【0007】
本発明は、燃料電池と、水と反応して水素を発生させる水素発生材料を用いた水素発生装置とからなる燃料電池発電システムにおいて、水を供給する動力を不要とし、エネルギー効率の高い燃料電池発電システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池発電システムは、酸素を還元する正極と、水素を酸化する負極と、前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質とを含む燃料電池、及び、水素発生材料を収容した水素発生容器と、水を収容した水供給容器とを含み、前記水素発生材料と前記水とが反応することにより、水素を発生させる水素発生装置を備えた燃料電池発電システムであって、前記負極と前記水素発生容器とは、燃料供給流路により連結され、前記水供給容器と前記水素発生容器とは、水供給流路により連結され、前記水供給容器の内部圧力が、大気圧に維持され、前記水素発生容器の内部圧力が、大気圧よりも負圧になったときに、前記負圧により前記水供給容器から前記水素発生容器に前記水を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、燃料電池と、水と反応して水素を発生させる水素発生材料を用いた水素発生装置とからなる燃料電池発電システムにおいて、水を供給する動力を不要とし、エネルギー効率の高い燃料電池発電システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の燃料電池発電システムは、燃料電池と水素発生装置とを備えている。燃料電池は、酸素を還元する正極と、水素を酸化する負極と、正極と負極との間に配置された固体電解質とを備えている。また、水素発生装置は、水素発生材料を収容した水素発生容器と、水を収容した水供給容器とを備え、水素発生材料と水とが反応することにより、水素を発生させることができる。さらに、燃料電池の負極と水素発生装置の水素発生容器とは、燃料供給流路により気密に連結され、水素発生装置の水供給容器と水素発生容器とは、水供給流路により気密に連結され、水供給容器の内部圧力は、大気圧に維持されている。
【0011】
本発明の燃料電池発電システムでは、燃料電池が発電によって水素を消費することにより、水素発生容器の内部圧力が、大気圧より小さくなると、即ち水素発生容器の内部圧力が、大気圧に維持されている水供給容器の内部圧力よりも負圧になると、その負圧により水供給容器から水素発生容器に水を供給することができる。これにより、ポンプ等の動力がなくても、燃料電池の発電量に応じて必要な水素をその都度発生させることができるため、エネルギー効率の高い燃料電池発電システムを提供できる。
【0012】
上記水供給容器の内部圧力を大気圧に維持する手段は特に限定されないが、水供給容器に大気導入口を設けることにより、水の供給により水供給容器の内部圧力が低下した場合に大気導入口から大気を取り込むことができ、水供給容器の内部圧力を大気圧に維持することができる。
【0013】
また、上記水供給容器を大気圧により変形可能な材料で形成することにより、水の供給により水供給容器の内部圧力が低下した場合に水供給容器が大気圧によって圧縮され、水供給容器の体積を減少させることができ、水供給容器の内部圧力を大気圧に維持することができる。
【0014】
上記水供給流路は、逆流防止弁を備えることが好ましい。これにより、水素発生容器に供給された水が逆流するのを防止できる。
【0015】
また、上記水供給流路は、流量制御部を備えることが好ましい。水素発生材料と水との反応が開始しても、水の供給量が過多となれば反応温度が低下して反応速度が低下する場合があり、逆に水の供給量が過少となれば反応効率が低下する場合があるため、水の供給量を調整することが好ましいからである。
【0016】
上記燃料供給流路は、圧力開放弁を備えることが好ましい。水素発生材料と水との反応速度が増加して水素が過剰に発生して燃料電池発電システム内の圧力が上昇した場合に、装置の破壊を防止するためである。
【0017】
上記大気導入口は、気液分離膜を備えることが好ましい。これにより、大気導入口から大気を取り込む際に、大気中の異物の混入を防止できる。
【0018】
上記水素発生材料は、水と反応して水素を発生させることが可能な材料であれば特に限定されないが、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウム及びこれらの元素を主体とする合金からなる群から選ばれる少なくとも1つの水素発生物質を含むことが好ましい。これらは、少なくとも加温時に水と反応して水素を発生させることができるからである。
【0019】
以下、本発明の燃料電池発電システムの実施の形態を図面に基づき説明する。
【0020】
図1は、本発明の燃料電池発電システムの一例を示す概念図である。図1において、本実施形態の燃料電池発電システムは、燃料電池100と水素発生装置200とを備えている。
【0021】
燃料電池100の負極12と、水素発生装置200の水素発生容器21(後述)とは、燃料供給流路となる水素供給パイプ24を介して気密状態で連結されている。ここで、気密状態で連結とは、負極12に水素供給パイプ24が連通しており、且つ水素発生容器21の水導入口21bを密封した場合に、水素発生容器21と水素供給パイプ24との内部圧力を大気圧より低い圧力に維持できることをいう。
【0022】
また、水素発生装置200の水供給容器22と水素発生容器21とは、水供給流路となる水供給パイプ28a、28bを介して連結されている。
【0023】
さらに、水供給容器22には大気導入口22bが設けられ、水供給容器22の内部圧力が大気圧に維持されている。これにより、燃料電池100が発電によって水素を消費することにより、水素発生容器21の内部圧力が大気圧より小さくなると、即ち水素発生容器21の内部圧力が、大気圧に維持されている水供給容器22の内部圧力よりも負圧になると、その負圧により水供給容器22から水供給パイプ28a、28bを通して水素発生容器21に水27を供給することができる。これにより、ポンプ等の動力がなくても、燃料電池100の発電量に応じて必要な水素をその都度発生させることができるため、エネルギー効率の高い燃料電池発電システムを提供できる。
【0024】
燃料電池100は、酸素を還元する正極11と、水素を酸化する負極12と、正極11と負極12との間に配置された固体電解質膜13とを備え、正極11、負極12及び固体電解質膜13は、一体として積層されて膜電極接合体10を構成している。
【0025】
正極11は、燃料電池の正極として一般に用いられるものであれば、その材料や構成等によって特に限定されないが、本実施形態では正極触媒層11aと正極拡散層11bとを積層した構成としている。正極触媒層11aは、例えば、触媒を担持した導電性材料を用いて形成できる。上記触媒としては、例えば、白金微粒子や、鉄、ニッケル、コバルト、錫、ルテニウム及び金から選ばれた少なくとも一種類の金属と白金との合金微粒子等を用いることができる。上記導電性材料としては、主として炭素材料が用いられ、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を用いることができる。一般的には、導電性材料の表面に上記触媒を分散させて担持させた触媒担持カーボンを用いる。また、正極拡散層11bとしては、多孔性の電子伝導性材料から形成でき、例えば多孔性の炭素材料を用いて形成できる。
【0026】
負極12は、燃料電池の負極として一般に用いられるものであれば、その材料や構成等によって特に限定されないが、本実施形態では負極触媒層12aと負極拡散層12bとを積層した構成としている。負極触媒層12aは、例えば、触媒を担持した導電性材料を用いて形成できる。上記触媒としては、例えば、白金微粒子や、ルテニウム、インジウム、イリジウム、スズ、鉄、チタン、金、銀、クロム、ケイ素、亜鉛、マンガン、モリブデン、タングステン、レニウム、アルミニウム、鉛、パラジウム及びオスミウムから選ばれた少なくとも一種類の金属と白金との合金微粒子等を用いることができる。上記導電性材料としては、上述した正極触媒層11aの導電性材料と同じ材料を用いることができる。また、負極拡散層12bとしては、多孔性の電子伝導性材料から形成でき、例えば多孔性の炭素材料を用いて形成できる。
【0027】
固体電解質膜13は、燃料電池の電解質として一般に用いられるものであれば、その材料や構成等によって特に限定されず、正極11と負極12との間に配置され、プロトンを輸送することができ、電子伝導性のない材料で形成できる。例えば、ポリパーフルオロスルホン酸樹脂膜、スルホン化ポリエーテルスルホン酸樹脂膜、スルホン化ポリイミド樹脂膜、硫酸ドープポリベンズイミダゾール膜、固体電解質であるリン酸ドープSiO2、高分子とリン酸ドープSiO2のハイブリッド、高分子と酸化物に酸性溶液を含浸したゲル電解質等を用いることができる。
【0028】
膜電極接合体10の正極拡散層11b側の面には、導電性材料で形成された正極集電板14が配置されている。正極集電板14には、正極11に空気(酸素)を供給するための空気孔14aが設けられている。また、正極集電板14は、導電性材料で形成された正極リード線15と電気的に接続されている。
【0029】
また、膜電極接合体10の負極極拡散層12b側の面には、導電性材料で形成された負極集電板16が配置されている。負極集電板16には、負極12に燃料(水素)を供給するための水素導入孔16aが設けられている。また、負極集電板16は、導電性材料で形成された負極リード線17と電気的に接続されている。さらに、負極集電板16には、水素供給パイプ24が、水素導入孔16aを介して負極12と連通するように配置されている。
【0030】
正極集電板14、膜電極接合体10及び負極集電板16は、弾性材より形成されたシール材18を介して加圧状態で積層されている。これにより、燃料電池100の内部が気密状態に維持され、水素が外部に漏れることを防止できる。
【0031】
水素発生装置200は、水素発生容器21と水供給容器22とを備えている。水素発生容器21の内部には、水素発生材料23が収納されている。また、水素発生容器21は、水素導出口21aと水導入口21bとを備えている。水素導出口21aには、水素供給パイプ24が取り付けられ、水素供給パイプ24は、前述のとおり、燃料電池100の負極12と、水素発生装置200の水素発生容器21とを気密状態で連結している。また、水導入口21bには、水供給パイプ28aが連結されている。
【0032】
水素供給パイプ24の端部には、圧力開放弁25が設置されている。また、水素供給パイプ24の途中には、冷却部26が設けられている。水素発生容器21内における水素発生材料23と水との反応は発熱反応であるため、水素発生容器21内の温度は100℃近くになる場合があり、水素供給パイプ24には水と共に水蒸気も排出されるが、冷却部26を設けることにより、水蒸気を水に戻すことができ、より純度の高い水素を燃料電池100に供給することができる。冷却部26は放熱特性が高ければ、その構造、材質等は特に限定されない。なお、燃料電池発電システムの小型軽量化を図るために、冷却部26の設置を省略することができる。
【0033】
水素発生容器21の材質、形状等は特に限定されないが、水素発生材料23と水とを反応させる反応容器として用いられるので、供給される水及び発生する水素が外部に漏れない構造であることが必要であると共に、水導入口21bを密封した場合に、水素発生容器21と水素供給パイプ24との内部圧力を大気圧より低い圧力に維持できる必要がある。そのため水素発生容器21に用いる材質は、水及び水素が漏れにくく、耐熱性を有する材質、即ち、100℃程度に加熱しても破損しない材質が好ましい。例えば、アルミニウム、チタン、ニッケル等の金属及びポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の樹脂、アルミナ、シリカ、チタニア等のセラミックス、及び耐熱ガラス等の材料を用いることができる。また、水素発生容器21に用いる形状は、角柱状、円柱状等が採用できる。
【0034】
水素供給パイプ24及び水供給パイプ28aの材質、形状等も特に限定されず、その材質としては上記水素発生容器21と同様の材質を用いることができ、その形状としては断面が円形状のパイプ等を用いることができる。
【0035】
また、水素導出口21a又は水素供給パイプ24には、水素発生容器21内の水素発生材料23及び水が燃料電池100側に流出しないようにフィルターを設けることもできる。このフィルターとしては、気体は通すが液体及び固体は通しにくい特性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリプロピレン(PP)製の不織布等を用いることができる。
【0036】
水素発生容器21の外部にはさらに保温材を配置することが好ましい。水と水素発生材料23との反応は発熱反応であり、保温材により水素発生容器21内を発熱反応が維持できる温度に保持しやすくなり、外気温の影響も受け難くなるからである。保温材の材質は、断熱性が高い材質であれば特に限定されず、例えば、発泡スチロール、ポリウレタンフォーム等の多孔性断熱材、又は真空断熱構造を有する断熱材等を用いることができる。
【0037】
水素発生材料23としては、水と反応して水素を発生させる水素発生物質を含めば特に限定されないが、水素発生物質としてはアルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウム及びこれらの元素を主体とする合金からなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用できる。上記合金の主体となる元素以外の元素は特に限定されない。ここで、主体とは、その元素が合金全体に対して80重量%以上、より好ましくは90重量%以上含有されていることをいう。これらの水素発生物質は、常温では水と反応しにくいが、加熱することにより水との発熱反応が容易となる物質である。なお、本明細書において常温とは、20〜30℃の範囲の温度である。
【0038】
例えば、アルミニウムと水との反応は、下記式(1)〜(3)のいずれかによって進行していると考えられる。下記式(1)による発熱量は、419kJ/molである。
【0039】
(式1)
2Al+6H2O→Al23・3H2O+3H2 (1)
2Al+4H2O→Al23・H2O+3H2 (2)
2Al+3H2O→Al23+3H2 (3)
水素発生物質は、その平均粒径によって特に限定されないが、その平均粒径が0.1μm以上100μm以下とすることが好ましく、0.1μm以上50μm以下がより好ましい。水素発生物質は、一般に、表面に安定な酸化皮膜が形成されている。そのため、板状、ブロック状及び粒径1mm以上のバルク状等の水素発生物質は、加熱しても水との反応が進行せず、実質的に水素を発生させない場合もある。しかし、水素発生物質の平均粒径を100μm以下とすると、酸化皮膜による水との反応抑制作用が減少し、常温では水と反応しにくいものの、加熱すれば水との反応性が高まり、水素発生反応が持続するようになる。また、水素発生物質の平均粒径を50μm以下とすると、40℃程度の穏和な条件でも水と反応して水素を発生させることができる。一方、水素発生物質の平均粒径を0.1μm未満とすると、発火性が高くなって取り扱いが困難になったり、水素発生物質の充填密度が低下してエネルギー密度が低下しやすくなったりする。このため、水素発生物質の平均粒径は、上記範囲内とすることが望ましい。
【0040】
なお、本明細書でいう平均粒径は、体積基準の積算分率50%における粒子直径の値を意味する。平均粒径の測定方法としては、例えば、レーザー回折・散乱法等を用いることができる。具体的には、水等の液相に分散させた測定対象物質にレーザー光を照射することによって検出される散乱強度分布を利用した粒子径分布の測定方法である。レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置としては、例えば、日機装社製の「マイクロトラックHRA」等を用いることができる。
【0041】
また、水素発生物質の形状も特に限定されないが、平均粒径が上記範囲内の粒子状又はフレーク状とすることができる。
【0042】
水と水素発生物質との反応を容易に開始させるために、水素発生物質及び水の少なくとも一方を加熱することが望ましく、水素発生容器21の内部への水の供給と加熱とを同時に行ってもよい。
【0043】
上記水素発生物質及び水の少なくとも一方を加熱する温度は、40℃以上100℃以下が好ましく、60℃以上100℃以下がより好ましい。この発熱反応を維持できる温度は、前述のとおり通常は40℃以上であり、一旦発熱反応が開始して水素が発生すると、容器の内圧が上昇して水の沸点が上昇することもあり、容器内温度が120℃に達することもあるが、水素発生速度の制御の点から100℃以下とすることが好ましい。
【0044】
上記加熱は、上記発熱反応の開始時にのみ行えばよい。一旦、水と水素発生物質との発熱反応が開始されると、その発熱反応の熱によりその後の反応を継続できるからである。
【0045】
上記加熱の方法は特に限定されないが、抵抗体に通電することによる発熱を利用して加熱することができる。例えば、この抵抗体を水素発生容器21の外部に取り付けて発熱させ、水素発生容器21を外部から加熱することにより、水素発生物質及び水の少なくとも一方を加熱することができる。上記抵抗体の種類については特に限定されず、例えば、ニクロム線、白金線等の金属発熱体、炭化ケイ素、PTCサーミスタ等が使用できる。
【0046】
また、上記加熱は、発熱物質の化学反応による発熱により行うこともできる。この発熱物質は、水と発熱反応して水酸化物や水和物となる物質、水と発熱反応して水素を生成する物質等を用いることができる。上記水と発熱反応して水酸化物や水和物となる物質としては、例えばアルカリ金属の酸化物(例えば、酸化リチウム等。)、アルカリ土類金属の酸化物(例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等。)、アルカリ土類金属の塩化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等。)、アルカリ土類金属の硫酸化合物(例えば、硫酸カルシウム等。)等を用いることができる。上記水と発熱反応して水素を生成する物質としては、例えば、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム等。)、アルカリ金属水素化物(例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化リチウム等。)等を用いることができる。これらの物質は、単独又は組み合わせて用いることができる。
【0047】
上記発熱物質を水素発生物質と混合して水素発生材料23として水素発生容器21内に配置し、水を加えることにより水と発熱物質とを発熱反応させることにより、水素発生容器21の内部で水素発生物質及び水を直接加熱することができる。また、この発熱物質を水素発生容器21の外部に配置して発熱させ、水素発生容器21を外部から加熱することにより、水素発生物質及び水の少なくとも一方を加熱することができる。
【0048】
また、上記発熱物質としては、水以外の物質と発熱反応する物質、例えば、鉄粉のように酸素と発熱反応する物質も知られている。この発熱物質は、発熱反応のために酸素を導入しなければならいため、水素発生容器21の外部に配置して使用される。
【0049】
上記本発明の燃料電池発電システムによれば、条件により変化するものの、例えば、水素発生物質が全て反応したと仮定したときの理論水素発生量(アルミニウムの場合は、1gあたりの理論水素発生量は、25℃換算で約1360mlとなる。)に対し、実際に得られる水素発生量は、およそ50%以上、より好ましくは60%以上となり、効率的に水素を発生させることが可能となる。
【0050】
一方、水供給容器22の内部には、水27が収納されている。また、水供給容器22は、水導出口22aと大気導入口22bとを備えている。水導出口22aには、水供給パイプ28bが取り付けられている。また、水供給パイプ28bには、逆流防止弁29と流量制御部30とが設けられている。流量制御部30の具体的な構成は特に限定されないが、例えば流量調整弁、管径を細くしたしぼり管等を用いることができる。なお、逆流防止弁29は、水素発生容器21の水導入口21bに配置することもできる。
【0051】
水供給パイプ28a、28bは、前述とおり、水供給容器22と水素発生容器21とを連結している。
【0052】
大気導入口22bには、大気導入パイプ31が取り付けられている。また、大気導入パイプ31には、気液分離膜32が設置されている。気液分離膜32の材質は特に限定されないが、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の微多孔膜等を用いることができる。
【0053】
水供給容器22の材質、形状等は特に限定されない。前述の水素発生容器21と同様の材質、形状等とすればよい。また、水供給パイプ28a、28b及び大気導入パイプ31の材質、形状等も特に限定されず、その材質としては水供給容器22と同様の材質を用いることができ、その形状としては断面が円形状のパイプ等を用いることができる。但し、水供給容器22に大気導入口22b及び大気導入パイプ31を設けない場合には、水供給容器22の内部圧力を大気圧に維持するために、水供給容器22は大気圧により変形可能な材料、例えばPP等の樹脂で形成する必要がある。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
<燃料電池の作製>
図1に示した構造とほぼ同様の構造の燃料電池を次にようにして作製した。
【0056】
正極11及び負極12には、カーボンクロス上に白金(Pt)担持カーボンを塗布したE−TEK社製の燃料電池用電極“LT140E−W”(Pt量:0.5mg/cm2)を用いた。固体電解質膜13には、デュポン社製の固体電解質膜“ナフィオン112”(商品名)を用いた。これらの正極11、負極12及び固体電解質膜13は、積層されて一体化し、膜電極接合体10として用いた。この膜電極接合体10の電極面積は、10cm2とした。
【0057】
空気孔14aを有する正極集電板14、水素導入孔16aを有する負極集電板16、正極リード線15及び負極リード線17は、金メッキを施したステンレス鋼(SUS304)で形成した。
【0058】
シール材18にはシリコーンゴムを用い、圧力開放弁には開放圧0.1MPaの圧力のがし弁を用いた。
【0059】
<水素発生装置の作製>
図1に示した構造とほぼ同様の構造の水素発生装置を次のようにして作製した。
【0060】
水素発生容器21には、内容積5cm3のアルミニウム製の角柱状容器を用いた。水素供給パイプ24及び水供給パイプ28aには、内径2mm、外径3mmのアルミニウム製のパイプを用いた。水素発生材料23には、水素発生物質として平均粒径3μmのアルミニウム粉末2.2gを用い、発熱物質として酸化カルシウム0.3gを用いた。本体容器部に水素発生材料23を充填した後、水素供給パイプ24及び水供給パイプ28aを備えた蓋で密閉して水素発生容器21を作製した。
【0061】
水供給容器22には、内容積10cm3のアルミニウム製の角柱状容器を用いた。水供給パイプ28bには、内径2mm、外径3mmのアルミニウム製のパイプを用いた。大気導入パイプ31には、内径4mm、外径5mmのアルミニウム製のパイプを用いた。大気導入パイプ31から7gの水を水供給容器22に注液した後、PTFE製微多孔膜からなる気液分離膜32を大気導入パイプ31の外側端部に設置した。
【0062】
水供給パイプ28bの中間部には、内径0.1mmの樹脂チューブからなる流量制御部30を設けた。また、水供給パイプ28bの端部には、逆流防止弁29を配置した。逆流防止弁29には水素発生容器21の水供給パイプ28aが接続される。なお、本実施例では、冷却部26は設けなかった。
【0063】
<燃料電池発電システムによる発電>
水供給パイプ28aから、水素発生容器21に水1mLを注入した後、直ちに水供給パイプ28aと逆流防止弁29とを接続した。水の注入により水素発生容器21の温度が上昇していき、水素の発生が開始された。それに伴い、燃料電池が発電を開始した。発生した水素が燃料電池によって消費され、水素量が減少してくると、負極12の近傍から水素供給パイプ24及び水素発生容器21の内部圧力が大気圧より小さくなった。即ち、大気圧に維持されている水供給容器22の内部圧力に対して、水素発生容器21の内部圧力が負圧になった。その負圧により、水供給容器22内の水27が、水供給パイプ28a、28bを通って水素発生容器21内に流入し、再び水素の発生が開始された。これにより、水素発生容器21の内部圧力が上昇し、水供給容器22からの水の流入は停止した。発生した水素は連続的に燃料電池で消費されるため、水供給容器22から水素発生容器21への水の流入と停止を幾度も繰り返し、約60分間、ポンプ等の動力なしで、燃料電池の発電を維持できた。
【0064】
図2は、本実施例における燃料電池の出力及び水素発生容器の表面温度と、経過時間との関係を示した図である。図2から、本実施例の燃料電池発電システムでは、水素発生容器の表面温度がほぼ75℃以上に維持され、燃料電池の出力もほぼ1.5W以上に維持されていたことから、水と水素発生物質とが連続的に反応して、安定的に水素が燃料電池に供給されていたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように本発明の燃料電池発電システムは、水を供給する動力がなくても、連続的且つ安定的に燃料電池の発電を維持できるものであり、エネルギー効率の高い燃料電池発電システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の燃料電池発電システムの一例を示す概念図である。
【図2】本発明の実施例における燃料電池の出力及び水素発生容器の表面温度と、経過時間との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0067】
100 燃料電池
10 膜電極接合体
11 正極
11a 正極触媒層
11b 正極拡散層
12 負極
12a 負極触媒層
12b 負極拡散層
13 固体電解質膜
14 正極集電板
14a 空気孔
15 正極リード線
16 負極集電板
16a 水素導入孔
17 負極リード線
18 シール材
200 水素発生装置
21 水素発生容器
21a 水素導出口
21b 水導入口
22 水供給容器
22a 水導出口
22b 大気導入口
23 水素発生材料
24 水素供給パイプ
25 圧力開放弁
26 冷却部
27 水
28a、28b 水供給パイプ
29 逆流防止弁
30 流量制御部
31 大気導入パイプ
32 気液分離膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を還元する正極と、水素を酸化する負極と、前記正極と前記負極との間に配置された固体電解質とを含む燃料電池、及び、
水素発生材料を収容した水素発生容器と、水を収容した水供給容器とを含み、前記水素発生材料と前記水とが反応することにより、水素を発生させる水素発生装置を備えた燃料電池発電システムであって、
前記負極と前記水素発生容器とは、燃料供給流路により連結され、
前記水供給容器と前記水素発生容器とは、水供給流路により連結され、
前記水供給容器の内部圧力が、大気圧に維持され、
前記水素発生容器の内部圧力が、大気圧よりも負圧になったときに、前記負圧により前記水供給容器から前記水素発生容器に前記水を供給することを特徴とする燃料電池発電システム。
【請求項2】
前記水供給容器は、大気導入口を備える請求項1に記載の燃料電池発電システム。
【請求項3】
前記水供給容器は、大気圧により変形可能な材料で形成されている請求項1に記載の燃料電池発電システム。
【請求項4】
前記水供給流路は、逆流防止弁を備える請求項1に記載の燃料電池発電システム。
【請求項5】
前記水供給流路は、流量制御部を備える請求項1に記載の燃料電池発電システム。
【請求項6】
前記燃料供給流路は、圧力開放弁を備える請求項1に記載の燃料電池発電システム。
【請求項7】
前記大気導入口は、気液分離膜を備える請求項2に記載の燃料電池発電システム。
【請求項8】
前記水素発生材料は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウム及びこれらの元素を主体とする合金からなる群から選ばれる少なくとも1つの水素発生物質を含む請求項1に記載の燃料電池発電システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−317496(P2007−317496A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145562(P2006−145562)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】