説明

燃料電池車両

【課題】燃料電池車両において、吸気ダクトを通して空気を吸入するとともに排気ダクトを通して空気を外部へ排出する燃料電池スタックをフロア下へ搭載する場合に、燃料電池スタックヘ十分な空気を供給することにある。
【解決手段】空気取入面(26)を車両上下方向で上側又は下側に向け、吸気ダクト(28)の吸気通路部(30)を空気取入面(26)と燃料電池スタック(11)の左右両端部の縦壁(31、32)とに沿わせるとともに吸気通路部(30)の左右両端部に一対の空気取入口(33、34)を開口し、排気ダクト(29)の排気通路部(39)を空気排出面(27)と燃料電池スタック(11)の前後両端部の縦壁(40、41)とに沿わせるとともに排気通路部(39)の前後両端部に一対の空気排出口(42、43)を開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池車両に係り、特に吸気ダクトと排気ダクトとを備えた燃料電池スタックを搭載する燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両においては、空気をコンプレッサで加圧して燃料電池スタックに供給する加圧式の空気供給装置と、冷却水によって燃料電池スタックを冷却する水冷式の冷却装置とを備えた燃料電池システムを搭載したものがある。
このような燃料電池システムでは、付属部品の数が多くなるため、車両へ搭載する際に大きな空間が必要になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−42828号公報
【0004】
特許文献1に係る燃料電池搭載車は、加圧式の空気供給装置と水冷式の冷却装置とを備える燃料電池システムを、リアシートの後方の空間に搭載したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1では、その構造上、多数の付属部品と燃料電池スタックとによってリアシートの後方の空間が占有され、荷物室が減少するという問題があった。
ところで、燃料電池システムには、空気を反応ガス兼冷却媒体として使用する空冷式の燃料電池システムがあり、このような燃料電池システムの場合、送風ファンによって吸引した空気を吸気ダクトによって燃料電池スタックヘ取り入れて発電と同時に燃料電池スタックの冷却を行い、その後、排気ダクトによって空気を燃料電池スタックから外部へ排出している。
このような空冷式の燃料電池システムおいては、付属部品が少なく、車両のフロア下に搭載することが可能であるが、吸気ダクトや排気ダクトを最適な形状にしないと通気抵抗が増加して、燃料電池スタックに十分な空気を供給できなくなるという不都合があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、吸気ダクトを通して空気を吸入するとともに排気ダクトを通して空気を外部へ排出する燃料電池スタックをフロア下へ搭載する場合に、燃料電池スタックヘ十分な空気を供給できる燃料電池車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、空気取入面と空気排出面とを互いに対向する位置に備える燃料電池スタックをフロアの下方に配置し、前記空気取入面の側に空気を吸入する吸気ダクトを配置し、前記空気排出面の側に空気を排出する排気ダクトを配置した燃料電池車両において、前記空気取入面を車両上下方向で上側又は下側に向けて配置し、前記吸気ダクトの吸気通路部を前記空気取入面と前記燃料電池スタックの左右両端部の縦壁とに沿わせるとともに前記吸気通路部の左右両端部に一対の空気取入口を開口し、前記排気ダクトの排気通路部を前記空気排出面と前記燃料電池スタックの前後両端部の縦壁とに沿わせるとともに前記排気通路部の前後両端部に一対の空気排出口を開口したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の燃料電池車両は、燃料電池スタックをフロア下へ搭載する場合、燃料電池スタックヘ十分な空気を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は車両後部の側面図である。(実施例)
【図2】図2は燃料電池システムのブロック図である。(実施例)
【図3】図3は吸気ダクト及び排気ダクトの分解斜視図である。(実施例)
【図4】図4は吸気ダクト及び排気ダクトを取り付けた燃料電池スタックの斜視図である。(実施例)
【図5】図5は燃料電池スタックの平面図である。(実施例)
【図6】図6は図5のVI−VI線による燃料電池スタックの断面図である。(
【図7】図7は燃料電池スタックの斜視図である。(実施例)実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、吸気ダクトと排気ダクトとを備えた燃料電池スタックを搭載した燃料電池車両において、吸気ダクト及び排気ダクトの形状を最適化して前記課題を解決するものである。
【実施例】
【0011】
図1〜図7は、この発明の実施例を示すものである。
図1において、1は四輪車である燃料電池車両(以下「車両」という)、2は後輪、3はリアアクスル、4はフロア、5はフロントフロア、6はリアフロア、7はリアシート、8はバックドア、9はリアバンパ、10は荷物室である。
車両1には、燃料電池スタック11を備える燃料電池システム12が搭載される。
この燃料電池システム12は、図2に示すように、燃料電池スタック11の供給側で、空気を供給する空気供給装置13と、水素を供給する水素供給装置14とを備える。
空気供給装置13は、空気フィルタ15で空気を浄化し、送風ファン16によって後述する吸気ダクト28内に吸引した空気を燃料電池スタック11ヘ供給し、発電と燃料電池スタック11の冷却とを行う。
水素供給装置14は、水素タンク17に貯蔵した高圧の圧縮水素ガスを減圧弁18によって減圧して燃料電池スタック11のアノード吸気部19に導入する。
そして、燃料電池システム12においては、発電と冷却とを終えた空気を、後述する排気ダクト29により外部へ排出している。この場合、燃料電池スタック11のアノード排気部20から排出される余剰の水素ガスは、パージ弁21を通して排気ダクト29に送られ、空気によって可燃限界濃度以下に希釈した上で、外部へ放出される。
【0012】
図1に示すように、車両1の後部において、フロア4はフロントフロア5とリアフロア6とがフロア縦壁部22を介して段差状となり、そして、リアフロア6がフロントフロア5よりも上方に配置され、リアフロア6の下方に空間部23を形成している。
リアフロア6の下方には、空間部23において、荷物室10の下方で燃料電池スタック11が配置され、また、この燃料電池スタック11の前方且つリアシート7の下方に水素タンク17が配置されている。
【0013】
燃料電池スタック11は、図3、図7に示すように、2つの左側燃料電池ユニット24と右側燃料電池ユニット25とを備えるとともに、空気取入面26と空気排出面27とを互いに対向する位置に備えている。空気取入面26は、車両上下方向で上側又は下側に向けて配置される。
また、燃料電池スタック11においては、図3〜図6に示すように、空気取入面26の側に空気を吸入する吸気ダクト28を配置し、また、空気排出面27の側に空気を排出する排気ダクト29を配置している。
吸気ダクト28は、図3に示すように、左側燃料電池ユニット24及び右側燃料電池ユニット25を下方から覆うような箱形状に形成されている。
吸気ダクト28の吸気側通路部30は、空気取入面26と燃料電池スタック11の左右両端部の縦壁としての左側縦壁31・右側縦壁32とに沿わせて配置される。この吸気側通路部30の左右両端部には、図4、図5に示すように、一対の空気取入口としての左側空気取入口33・右側空気取入口34を開口する。
排気ダクト29は、図3に示すように、フロント排気ダクト35と、リア排気ダクト36と、アッパー前側排気ダクト37と、アッパー後側排気ダクト38とからなる。
図6に示すように、排気ダクト29の排気側通路部39は、空気排出面27と燃料電池スタック11の前後両端部の前側縦壁40・後側縦壁41とに沿わせて配置される。この排気側通路部39の前後両端部には、図4に示すように、一対の空気排出口としての前側空気排出口42・後側空気排出口43を開口する。
【0014】
図3〜図5に示すように、左側空気取入口33は、アッパー前側排気ダクト37・アッパー後側排気ダクト38の左端に形成したアッパー左側フロント凹部44・アッパー左側リア凹部45と隣接している。右側空気取入口34は、アッパー前側排気ダクト37・アッパー後側排気ダクト38の右端に形成したアッパー右側フロント凹部46・アッパー左側リア凹部47と隣接している。
また、図5に示すように、前側空気排出口42は、吸気ダクト28よりも前側であり且つ吸気ダクト28の底面よりも低い位置に開口している。後側空気排出口43は、吸気ダクト28の後側であり且つ且つ吸気ダクト28の底面よりも高い位置に開口している。
【0015】
このような構造において、空気取入面26を車両上下方向で上側又は下側に向けることによって、空気取入面26と空気排出面27とを車両前後方向及び車両左右方向に拡大でき、燃料電池スタック11に多量の空気を取り入れることができる。
また、吸気ダクト28の空気取入口33、34を燃料電池スタック11の左右両側部に開口させたことで、空気取入口33、34の開口面積を増加させて燃料電池スタック11に十分な空気を供給することができるとともに、燃料電池スタック11の空気取入面26が車両左右方向に長い形状であっても空気を空気取入面26全体に均等に供給できる。
更に、排気ダクト29の空気排出口42、43を燃料電池スタック11の前後両側に開口させることによって、空気排出口42、43の開口面積を増加させることができるとともに、排気ダクト29の通路長を短くして通気抵抗を低減できる。
よって、フロア4の下に燃料電池スタック11を配置した場合であっても、吸気ダクト28と排気ダクト29の通気抵抗を低減でき、燃料電池スタック11に十分な空気を供給することができる。
また、吸気ダクト28吸気通路部30が燃料電池スタック11の左側縦壁31・右側縦壁32に沿い、且つ排気ダクト29の排気通路部39が燃料電池スタック11の前側縦壁40・後側縦壁41に沿う構造であるため、吸気ダクト28と排気ダクト29とを燃料電池スタック11と一体で車両1のリアフロア6の下方へ搭載することができる。
【0016】
図7に示すように、空気取入面26は、車両上下方向で下側に向いて配置されている。
このような構造により、吸気ダクト28の左側空気取入口33・右側空気取入口34をリアフロア6の近くで地上から離れた位置に開口できるため、吸気ダクト28内への水や埃の侵入を防止できる。
【0017】
燃料電池スタック11は、図3に示すように、複数個の燃料電池ユニットとして、2つの左側燃料電池ユニット24と右側燃料電池ユニット25とを、所定の隙間を隔てて車両左右方向に配置した構造である。左側燃料電池ユニット24・右側燃料電池ユニット25の空気排出面27には、複数個の前側空気吸出ファン48及び後側空気吸出ファン49が所定に配置されている。前側空気吸出ファン48は、アッパー前側排気ダクト37で上方から覆われる。後側空気吸出ファン49は、アッパー後側排気ダクト38で上方から覆われる。
また、吸気ダクト28は、左側燃料電池ユニット24と右側燃料電池ユニット25との間に、他の空気取入口としての中央側空気取入口50を備える。この中央側空気取入口50は、図3に示すように、アッパー前側排気ダクト37・アッパー後側排気ダクト38の中央部位に形成したアッパー中央側フロント凹部51・アッパー中央側リア凹部52によって形成される。
このような構造によって、燃料電池ユニット数の増加にあわせて、空気取入口の数を増加させ、燃料電池スクック11に十分な空気量を供給することができる。
【0018】
図1に示すように、燃料電池スタック11は、リアバンパ9の前側に配置されている。また、排気ダクト29の空気排出口のうちリアバンパ9の前側に配置される後側空気排出口43は、車両上下方向でリアバンパ9の下端よりも下方に開口している。
このよう構造により、排気ダクト29の後側空気排出口43から車外に排出された余剰の水素ガスがリアバンパ9内に滞留することを防止できる。
【0019】
図3、図4に示すように、吸気ダクト28と排気ダクト29とによって燃料電池スタック11の外側面全面を覆った。
このような構造では、吸気ダクト28及び排気ダクト29によって燃料電池スタック11を泥や飛び石から保護できる。
【0020】
図3、図6に示すように、燃料電池スタック11は、該燃料電池スタック11の前後両側と左右両側を囲む枠伏のフレーム53に固定されている。このフレーム53は、前側フレーム部54と後側フレーム部55と左側フレーム部56と右側フレーム部57とで、四角形状に形成されている。
また、このフレーム53の外側部には、吸気ダクト28と排気ダクト29とを取り付けている。
このような構造により、燃料電池スタック11の形状によらず、吸気ダクト28と排気ダクト29とを燃料電池スタック11と一体で車両へ搭載でき、これらの部品の車両1への搭載性を向上できる。
【0021】
なお、この発明において、吸気ダクト、排気ダクト、空気取入口、空気排出口の各形状は、適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この発明に係る吸気ダクト及び排気ダクトの構造を、各種車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 車両
4 フロア
6 リアフロア
11 燃料電池スタック
12 燃料電池システム
13 空気供給装置
14 水素供給装置
24 左側燃料電池ユニット
25 右側燃料電池ユニット
26 空気取入面
27 空気排出面
28 吸気ダクト
29 排気ダクト
30 吸気側通路部
31 左側縦壁
32 右側縦壁
33 左側空気取入口
34 右側空気取入口
39 排気側通路部
40 前側縦壁
41 後側縦壁
42 前側空気排出口
43 後側空気排出口
50 中央側空気取入口
53 フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気取入面と空気排出面とを互いに対向する位置に備える燃料電池スタックをフロアの下方に配置し、前記空気取入面の側に空気を吸入する吸気ダクトを配置し、前記空気排出面の側に空気を排出する排気ダクトを配置した燃料電池車両において、前記空気取入面を車両上下方向で上側又は下側に向けて配置し、前記吸気ダクトの吸気通路部を前記空気取入面と前記燃料電池スタックの左右両端部の縦壁とに沿わせるとともに前記吸気通路部の左右両端部に一対の空気取入口を開口し、前記排気ダクトの排気通路部を前記空気排出面と前記燃料電池スタックの前後両端部の縦壁とに沿わせるとともに前記排気通路部の前後両端部に一対の空気排出口を開口したことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項2】
前記空気取入面を、車両上下方向で下側に向けて配置したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両。
【請求項3】
前記燃料電池スタックは複数個の燃料電池ユニットを所定の隙間を隔てて車両左右方向に配置した構造であり、
前記吸気ダクトは前記燃料電池ユニットの間に他の空気取入口を備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両。
【請求項4】
前記燃料電池スタックを車両のリアバンパの前側に配置し、前記排気ダクトの空気排出口のうち前記リアバンパの前側に配置される空気排出口を車両上下方向で前記リアバンパの下端よりも下方に開口させたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両。
【請求項5】
前記吸気ダクトと前記排気ダクトとによって前記燃料電池スタックの外側面全面を覆ったことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両。
【請求項6】
前記燃料電池スタックを該燃料電池スタックの前後両側と左右両側を囲む枠伏のフレームに固定し、このフレームの外側部に前記吸気ダクトと前記排気ダクトとを取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−232626(P2012−232626A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100934(P2011−100934)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】