説明

物体位置検出装置

【課題】 自車両の後方に存在する物体が位置する車線を精度良く推定できる物体位置検出装置を提供すること。
【解決手段】 自車両の後方に存在する他車両等の後方物体が位置する車線を推定する物体位置検出装置1であって、バッファ更新処理部82によって自車両の過去の走行位置を記憶し、他車両絶対位置演算部83によって後方物体の位置を検出し、自車両の過去の走行位置と後方物体の後方物体の位置との相対位置関係に基づいて、他車両車線推定部85によって後方物体が位置する車線を推定する。よって、自車両が走行した車線に対する後方物体の位置が推定できる。このため、後方物体が位置する車線を精度良く推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の後方に存在する物体が位置する車線を検出する物体位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車両の後方に存在する物体の位置を検出するものとして、例えば特開平8−185599号公報に記載された車両用後側方監視装置がある。この車両用後側方監視装置では、自車両の側方及び斜め後方の検出物標が自車両と同方向に移動する物標であるか否かを判定し、自車両と同方向に移動する物標である場合、その検出物標は自車両が走行する車線の隣接車線を走行する車両であると判断する。さらに、自車両が車線変更しようとする際にその車両が接近中であれば、車線変更は無理であるとして、接触回避のための警報を出力する。
【特許文献1】特開平8−185599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、自車両と同方向に移動する物標であっても、隣接車線を走行する車両ではない場合も考えられる。特許文献1に記載の監視装置にあっては、自車両と同方向に移動する物標は隣接車線を走行する車両であると判断するため、その車両がどの車線に位置するかについては考慮していない。このため、道路形状によっては、車線変更可否の判断を誤るおそれがある。例えばカーブ路等において、自車両と同一の車線を走行する車両や、自車両が車線変更しようとする側とは反対側の車線を走行する車両に対して接触可能性を判断し、車線変更は無理であると判断してしまう場合がある。
【0004】
そこで本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、自車両の後方に存在する物体が位置する車線を精度良く推定できる物体位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明に係る物体位置検出装置は、道路を走行する自車両の走行位置を記憶する記憶手段と、自車両の後方に存在する後方物体の位置を検出する検出手段と、記憶手段に記憶された自車両の過去の走行位置と検出手段によって検出された後方物体の位置との相対位置関係に基づいて、後方物体が位置する車線を推定する推定手段とを備えて構成されている。
【0006】
この発明によれば、自車両の過去の走行位置と後方物体の位置との相対位置関係に基づいて後方物体が位置する車線を推定するため、自車両が走行した車線に対する後方物体の位置が推定できる。このため、後方物体が位置する車線を精度良く推定することができる。
【0007】
また本発明に係る物体位置検出装置において、推定手段は、自車両の過去の走行位置から求められる走行軌跡と後方物体の位置との距離に基づいて後方物体が位置する車線を推定することが好ましい。
【0008】
この発明によれば、自車両の過去の走行位置から求められる走行軌跡と後方物体の位置との距離に基づいて後方物体が位置する車線を推定することにより、後方物体が自車両が走行した車線と同一車線に位置するか、隣接車線に位置するかを簡易に推定できる。
【0009】
また本発明に係る物体位置検出装置において、走行軌跡は、自車両の過去の走行位置のうち後方物体の位置に基づいて抽出される2つの走行位置を通る直線であることが好ましい。
【0010】
この発明によれば、自車両の過去の走行位置のうち後方物体の位置に基づいて抽出される2つの走行位置を通る直線を走行軌跡として求め、この直線と後方物体の位置との距離に基づいて後方物体が位置する車線を推定する。これにより、複雑な近似計算を行うことなく少ない計算量で、後方物体が位置する車線を精度良く推定することができる。
【0011】
また本発明に係る物体位置検出装置において、道路の曲率を取得する曲率取得手段を備え、記憶手段は、単位走行距離毎の自車両の走行位置を記憶するものであって、曲率取得手段によって取得された曲率が大きいほど単位走行距離を小さくすることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、自車両が走行する道路の曲率が大きいほど小さい単位走行距離毎に自車両の走行位置を記憶することにより、道路の曲率が大きい場合であっても自車両が走行した車線に対する後方物体の位置を精度良く推定できるため、後方物体が位置する車線の推定に必要な精度を確保できる。また、道路の曲率が小さい場合には、道路の曲率が大きい場合に比べて大きい単位走行距離毎に自車両の走行位置を記憶するため、後方物体が位置する車線の推定に必要な精度を確保しつつ、記憶手段に記憶する過去の走行位置の数を削減できる。
【0013】
また本発明に係る物体位置検出装置において、記憶手段は、単位走行距離毎に記憶された自車両の走行位置の数が所定数に達した場合、最も古い走行位置を消去して新たな走行位置を順次記憶することが好ましい。
【0014】
この発明によれば、単位走行距離毎に記憶された自車両の走行位置の数が所定数に達した場合、最も古い走行位置に上書きして新たな走行位置を順次記憶することにより、記憶手段に必要なメモリ容量を削減できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る物体位置検出装置によれば、自車両の後方に存在する物体が位置する車線を精度良く推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本実施形態において道路の「曲率」は、道路のカーブ半径の逆数とする。
【0017】
図1に本発明の実施形態に係る物体位置検出装置を示すブロック構成図を示す。
【0018】
本実施形態に係る物体位置検出装置1は、道路を走行する自車両に搭載されて、自車両の後方に存在する他車両等の後方物体が位置する車線を推定するものである。
【0019】
図1に示すように、物体位置検出装置1は、ミリ波レーダ2、レーダECU(Electronic Control Unit)3、操舵角センサ4、ヨーレートセンサ5、車輪速センサ6、ナビゲーションシステム7、システムECU8を備えて構成されている。
【0020】
ミリ波レーダ2は、自車両の後部に設けられて、自車両の後方に存在する後方物体の自車両からの方向及び距離を検出するものである。ミリ波レーダ2は、自車両後方の所定範囲においてミリ波を走査して、その反射波を受信することにより、反射波を検出したそれぞれの方向について、後方物体までの距離を検出する。このミリ波レーダ2による検出は所定時間ごとに行われる。ミリ波レーダ2は、検出した方向及び距離に応じた信号をレーダECU3へ逐次出力する。
【0021】
レーダECU3は、自車両の後方に存在する後方物体の自車両に対する位置を演算するものであり、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を含むコンピュータを主体として構成されている。レーダECU3は、他車両相対位置演算部31を備えている。
【0022】
他車両相対位置演算部31は、ミリ波レーダ2から出力される信号を逐次取得し、この信号に基づいて自車両の後方に存在する他車両を検出する。また、他車両相対位置演算部31は、検出した他車両の自車両に対する位置を演算する。他車両相対位置演算部31は、この演算結果に応じた位置信号をシステムECU8へ出力する。
【0023】
操舵角センサ4は、自車両のステアリングシャフト(図示せず)に設けられて、自車両のステアリング(図示せず)の操舵角を検出するセンサである。操舵角センサ3は、ロータリーエンコーダ等を備えており、自車両の運転者が入力した操舵角度の方向と大きさを検出する。また、操舵角センサ4は、検出した操舵角度の方向と大きさに応じた操舵角信号をシステムECU8へ出力する。
【0024】
ヨーレートセンサ5は、自車両の一部に設けられて、自車両のヨーレートを検出するセンサである。ヨーレートセンサ5は、自車両のヨーレートを検出し、検出したヨーレートに応じたヨーレート信号をシステムECU8へ出力する。
【0025】
車輪速センサ6は、各車輪に設けられて、車輪速パルスを検出するセンサである。車輪速センサ6は、各車輪における車輪速パルスをそれぞれ検出し、検出した車輪速パルスに応じた車輪速パルス信号をシステムECU8へ出力する。
【0026】
ナビゲーションシステム7は、自車両が走行する道路のカーブ半径を取得するものである。すなわち、ナビゲーションシステム7は、道路の曲率を取得する曲率取得手段として機能するものである。ナビゲーションシステム7は、道路の地図データ等を備えており、GPS(Global Positioning System)を用いて自車両の位置を検出するとともに、自車両が走行する道路のカーブ半径を取得する。また、ナビゲーションシステム7は、取得したカーブ半径に応じたカーブ半径信号をシステムECU8へ出力する。
【0027】
システムECU8は、自車両の後方に存在する後方物体が位置する車線を推定するものであり、例えばCPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されている。システムECU8は、レーダECU3、操舵角センサ4、ヨーレートセンサ5、車輪速センサ6、ナビゲーションシステム7のそれぞれから出力される信号を取得し、取得した各信号に基づいて所定の処理を実行することにより、後方物体が位置する車線を推定する。システムECU8は、自車両移動量演算部81、バッファ更新処理部82、他車両絶対位置演算部83、他車両横位置演算部84、他車両車線推定部85を備えている。
【0028】
自車両移動量演算部81は、車輪速パルス信号、操舵角信号、及びヨーレート信号に基づいて、道路を走行する自車両の単位時間ごとの移動量を演算する。
【0029】
バッファ更新処理部82は、自車両移動量演算部81によって演算された自車両の単位時間あたりの移動量に基づいて自車両の走行位置を演算し、所定の条件に従って保存する。すなわち、バッファ更新処理部82は、道路を走行する自車両の走行位置を記憶する記憶手段として機能するものである。ここで、自車両の走行位置とは、道路を基準とする位置(以下の説明において、「絶対位置」という。)である。
【0030】
また、バッファ更新処理部82は、保存単位走行距離毎の自車両の走行位置を逐次記憶する。バッファ更新処理部82は、ナビゲーションシステム7によって取得されるカーブ半径と保存単位走行距離とを対応させる所定のマップを有しており、このマップに基づいて、保存単位走行距離を適宜変更する。
【0031】
さらに、バッファ更新処理部82は、所定容量の信号を記憶するリングバッファ(以下の説明においては、単に「バッファ」という。)を有している。このため、バッファ更新処理部82に記憶される走行位置のデータ数は、バッファの記憶容量によって定まる所定のデータ数となる。
【0032】
他車両絶対位置演算部83は、他車両相対位置演算部31から出力された位置信号に基づいて、後方物体の絶対位置を演算する。すなわち、他車両絶対位置演算部83は、自車両の後方に存在する後方物体の位置を検出する検出手段として機能するものである。
【0033】
他車両横位置演算部84は、バッファ更新処理部82のバッファに保存された自車両の過去の走行位置(以下の説明において、「走行履歴」ともいう。)と他車両絶対位置演算部83によって演算された後方物体の絶対位置との相対位置関係を演算する。より具体的には、他車両横位置演算部84は、自車両の走行履歴から走行軌跡を求め、この走行軌跡に対する後方物体の横位置を、相対位置関係として演算する。ここで、横位置とは、後方物体の絶対位置と走行軌跡との距離である。
【0034】
他車両車線推定部85は、他車両横位置演算部84によって演算された後方物体の横位置に基づいて、後方物体が位置する車線を推定する。すなわち、他車両車線推定部85は、バッファ更新処理部82に記憶された走行履歴と他車両絶対位置演算部83によって検出された後方物体の位置との相対位置関係に基づいて、後方物体が位置する車線を推定する推定手段として機能するものである。
【0035】
次に、物体位置検出装置1の処理において使用される記号及びパラメータを説明する。図2及び図3は、以下の説明において使用する記号の定義についての説明図である。
【0036】
図2には、自車両20が右方向に曲がりながら走行する例を示している。ここで、自車両が走行する道路は図示していないが、図2に示す例では、右にカーブする道路上の車線を自車両20が走行している。
【0037】
図2に示すように、自車両20の走行位置は、道路を基準とするX−Y座標(以下の説明において、「地上固定座標」ともいう。)にて表される。また、自車両20の走行位置は、各時刻における自車両20の後輪軸の中点がX−Y座標における原点となるように、バッファ更新処理部82のバッファにおいて更新及び保存される。このようにしてバッファに保存される走行履歴は、式(1)に示す形式で表す。この形式では、(X(0),Y(0))は最新の走行履歴であり、番号が大きくなるほど走行履歴が古いことを示す。
【0038】
【数1】

【0039】
また、自車両の単位時間における移動量をΔL、自車両が単位時間に走行した道路のカーブ半径をRとする。また、単位時間における自車両20の移動成分は、図2に示すように(ΔX,ΔY,Δθ)とする。これらはそれぞれ、X成分、Y成分および偏向角の単位時間における変化量を表している。
【0040】
本実施形態の説明においては、図2に示す右方向のカーブ路を走行する場合、カーブ半径Rは正の値、偏向角Δθは負の値とする。言い換えれば、自車両20がX−Y座標の第1象限に移動する場合、R>0,Δθ<0である。一方、自車両20がX−Y座標の第2象限に移動する場合、R<0,Δθ>0である。また、いずれの場合も単位時間移動量ΔLは正の値である。
【0041】
上記の他に、自車両20に関する記号として、単位時間移動量ΔLを累積して得られる自車両移動量を記号Ltotal、バッファに保存する単位走行距離をα、バッファに保存された総走行距離をβとする。
【0042】
次に、自車両の後方に存在する後方物体に関する記号について説明する。後方物体は、自車両20の後部に設けられたミリ波レーダ2によって検出される。図3に示すように、ミリ波レーダ2は、自車両20の後輪軸の中点を原点として(T,T,φ)で表される位置及び向きに取り付けられる。
【0043】
さらに、後方物体は、ミリ波レーダ2が配置された位置を原点とするレーダ座標系における座標(x,y)で示される。このレーダ座標系は、上述したX−Y座標とは、ミリ波レーダ2の取り付け位置及び角度(T,T,φ)だけずれている。また、後方物体の位置は、地上固定座標系においては座標(X,Y)と表す。
【0044】
続いて、本実施形態に係る物体位置検出装置1の動作について説明する。図4は、物体位置検出装置1による動作を示すフローチャートである。図4における処理は、レーダECU3及びシステムECU8によって所定の周期で繰り返し実行される。また、以下の説明においては、自車両20の斜め後方に、自車両20と同方向に走行する他車両が存在する場合について説明する。
【0045】
まず、S1において、ミリ波レーダ2、操舵角センサ4、ヨーレートセンサ5、車輪速センサ6による各検出値が読み込まれる。ここで、ミリ波レーダ2によって、自車両20の後方に存在する後方物体として他車両が検出される。そして、その検出信号に基づきナビゲーションシステム7によってカーブ半径Rが取得される。これらのセンサ類は、検出または取得結果に応じた信号をレーダECU3またはシステムECU8に入力する。
【0046】
続いて、S2に移行し、バッファ更新処理部82は、システム作動条件が成立しているか否かを判断する。バッファ更新処理部82は、所定のシステム作動条件が成立していないと判断した場合、S4に移行する。所定のシステム作動条件は、例えば自車両20の車速等によって規定される。S4では、バッファ更新処理部82は、バッファに記憶されている走行履歴及び距離を式(2)によりリセットする。式(2)において、「nan」は無効値である。そして、自車両20の位置を演算することなく処理を終了する。
【0047】
【数2】

【0048】
S2においてシステム作動条件が成立していると判断した場合、S3に移行し、バッファ更新処理部82は、自車両20の初期位置をバッファに追加する。この追加処理では、バッファ更新処理部82は、地上固定座標系を生成し、次の式(3)により、バッファにおける最新の走行履歴(X(0),Y(0))に、現時刻tの自車両20の走行位置(原点)を代入する。式(3)において、「nan」は無効値である。
【0049】
【数3】

【0050】
なお、この初期位置の追加処理は、システム作動条件が初回に成立した場合にのみ実施される。
【0051】
次に、S5に移行し、自車両移動量演算部81は、自車両20の単位時間における移動量を演算する。この演算処理では、自車両移動量演算部81は、操舵角センサ4、ヨーレートセンサ5、及び車輪速センサ6のそれぞれから出力された、操舵角信号、ヨーレート信号、及び車輪速パルス信号を取得する。また、自車両移動量演算部81は、取得した各信号に基づいて、1ステップ前の時刻(t−1)から現時刻tまでの単位時間移動量ΔL及び現時刻tにおける偏向角Δθを算出し、次の式(4)により自車両20の移動成分(ΔX,ΔY)を演算する。
【0052】
【数4】

【0053】
さらに、自車両移動量演算部81は、自車両移動量Ltotalを次の式(5)により更新する。
【0054】
【数5】

【0055】
次に、S6に移行し、バッファ更新処理部82は、現時刻tにおける走行位置をバッファに保存するか否かを判断する。まず、バッファ更新処理部82は、ナビゲーションシステム7から出力されたカーブ半径信号を取得する。次に、現時刻tにおけるカーブ半径Rに対応する保存単位走行距離αを、バッファ更新処理部82が有するマップである次の表1に従って演算する。
【0056】
【表1】

【0057】
このS6における演算では、現時刻tにおけるカーブ半径Rが表1に示されるカーブ半径Rの中間値である場合、現時刻tにおけるカーブ半径Rの値に応じて、表1に示される保存単位走行距離αを補完して保存単位走行距離αを演算する。例えば、カーブ半径R=400(m)の場合、次の式(6)により保存単位走行距離αが求められる。
【0058】
【数6】

【0059】
そして、バッファ更新処理部82は、自車両位置演算部81によって更新された自車両移動量Ltotalが、演算した保存単位走行距離αよりも大きいか否かを判断することにより、今回の走行位置をバッファに保存するか否かを判断する。
【0060】
表1に示すように、バッファ更新処理部82は、ナビゲーションシステム7によって取得されるカーブ半径Rが小さいほど、すなわち道路の曲率が大きいほど、保存単位走行距離を小さくしている。
【0061】
S6において今回の走行位置をバッファに保存すると判断した場合、S7に移行し、バッファ更新処理部82は、走行履歴の新規保存及び原点シフトを行う。この処理では、まず、式(2)に示した走行履歴が新しい順の並びに更新するため、一時的な中間変数を用意し、この処理を行う前におけるバッファに記憶された走行履歴を次の式(7)により保存する。
【0062】
【数7】

【0063】
次に、バッファ更新処理部82は、次の式(8)により、最新の走行履歴点(図5(a)の白丸)に、現時刻tの自車両20の位置(原点)を代入する(図5(b)の(X(0),Y(0)))。
【0064】
【数8】

【0065】
次に、バッファ更新処理部82は、S5において演算した自車両20の移動成分(ΔX,ΔY)を用いて、保存されている走行履歴(図5(a)の黒丸)について、現時刻tの自車両20の位置が原点となるように、次の式(9)により原点をシフトする座標変換処理を行う(図5(b)参照)。
【0066】
【数9】

【0067】
このように、S7では、最新の走行履歴がバッファに新規保存される。ここで、バッファ更新処理部82が有するバッファは、所定容量の信号を記憶するリングバッファであるから、走行履歴がバッファに新規保存されると同時に、最も古い走行履歴はバッファから消去される。すなわち、バッファ更新処理部82は、単位走行距離毎に記憶された自車両20の走行位置の数が所定数に達した場合、最も古い走行位置を消去して新たな走行位置を順次記憶する。なお、バッファに保存される走行履歴の数は、保存総走行距離βを保存単位走行距離αで除した除算値である。
【0068】
次に、S8に移行し、バッファ更新処理部82は、自車両移動量Ltotalを次の式(10)によりリセットする。
【0069】
【数10】

【0070】
また、S6において現時刻tにおける走行位置をバッファに保存しないと判断した場合、S9に移行し、バッファ更新処理部82は、原点シフトのみを行う。この処理では、S7と同様に、一時的な中間変数を用意し、この処理を行う前におけるバッファに記憶された走行履歴を次の式(11)により保存する。
【0071】
【数11】

【0072】
次に、バッファ更新処理部82は、S5において演算した自車両20の移動成分(ΔX,ΔY)を用いて、保存されている走行履歴(図6(a)の黒丸)について、現時刻tの自車両20の位置が原点となるように、次の式(12)により原点をシフトする座標変換処理を行う(図6(b)参照)。
【0073】
【数12】

【0074】
このS9では、最新の走行履歴がバッファに新規保存されることがないため、バッファに記憶された走行履歴については、原点をシフトする座標変換が行われるだけである。このため、図6(b)に示すように、現時刻tの自車両20の位置には走行履歴が保存されていない。
【0075】
こうして、バッファ更新処理部82は、自車両20が走行する道路のカーブ半径Rが小さいほど、すなわち道路の曲率が大きいほど、小さい保存単位走行距離αにて走行履歴を保存していく。
【0076】
図7には、バッファ更新処理部82による走行履歴保存の例を示す。図7において、黒丸は保存された走行履歴であり、白丸は保存されなかった走行履歴である。図7に示すように、道路がカーブしている場合には小さい保存単位走行距離αにて走行履歴が保存されており、道路が比較的直線に近い場合には、大きい保存単位走行距離αにて走行履歴が保存されている。
【0077】
続いて、図4のS10に移行し、他車両相対位置演算部31は、車両の後方に存在する他車両の自車両に対する位置を演算する。S10では、他車両相対位置演算部31は、ミリ波レーダ2から出力される信号を逐次取得し、これらの信号に基づいて、自車両の斜め後方を走行する他車両を検出する。また、他車両相対位置演算部31は、検出した他車両の自車両に対する位置を、レーダ座標系における座標(x,y)として演算する。他車両相対位置演算部31は、この演算結果に応じた位置信号をシステムECU8へ出力する。
【0078】
次に、S11に移行し、他車両絶対位置演算部83は、他車両の絶対位置を演算する。この演算処理では、他車両絶対位置演算部83は、他車両相対位置演算部31から出力された他車両の位置信号を取得する。そして、他車両絶対位置演算部83は、ミリ波レーダ2の取り付け位置及び角度(T,T,φ)を用いて、次の式(13)により地上固定座標における自車両20後輪軸中点を原点とする他車両の絶対位置の座標(X,Y)を演算する(図8参照)。
【0079】
【数13】

【0080】
次に、図4のS12に移行し、他車両横位置演算部84は、S11で演算した他車両の絶対位置におけるY座標の絶対値(|Y|)が、バッファに保存された走行履歴におけるY座標の絶対値の最大値(max(|Y(k)|))よりも小さいか否かを判断する。
【0081】
S12において、他車両の絶対位置におけるY座標の絶対値(|Y|)が、走行履歴におけるY座標の絶対値の最大値(max(|Y(k)|))よりも小さいと判断した場合、S13に移行し、他車両横位置演算部84は、バッファ内探索処理を行う。この探索処理では、S7及びS9における原点シフトによって走行履歴が保存されたバッファ内の走行履歴(式(9)及び式(12)参照)と、S11において演算された他車両の絶対位置の座標とから、次の式(14)を満たす2点(X(k),Y(k))及び(X(k+1),Y(k+1))を探索する。
【0082】
【数14】

【0083】
図9には、S13における探索処理を示している。図9に示すように、この探索処理では、他車両横位置演算部84は、Y座標を基準として、他車両の絶対位置を間に含むような、互いに隣り合う2点の走行履歴を探索し、抽出する。すなわち、他車両横位置演算部84は、自車両20の過去の走行位置のうち2つの走行位置を、他車両の位置に基づいて抽出する。
【0084】
次に、図4のS14に移行し、他車両横位置演算部84は、車両の横位置を演算する。この演算処理では、まず、S13において探索及び抽出した2点の走行履歴を通る直線を、次の式(15)により算出する。
【0085】
【数15】

【0086】
次に、他車両横位置演算部84は、式(15)により算出した直線と他車両の絶対位置との距離を、次の式(16)により求めることにより、他車両の横位置dを演算する。この横位置dは、自車両20の走行履歴と他車両の位置との相対位置関係として演算される。
【0087】
【数16】

【0088】
図10には、S14における横位置の演算処理を示している。図10に示すように、この演算処理では、他車両横位置演算部84は、抽出した2つの走行履歴を通る直線lを引き、この直線lと他車両の絶対位置との距離dを求める。ここで求められる直線lは、2つの走行履歴を通る直線であるから、自車両20の走行軌跡の近似直線である。よって、このS14では、他車両横位置演算部84は、自車両20の走行履歴から走行軌跡を求め、この走行軌跡に対する後方物体の絶対位置との距離を演算する。
【0089】
本実施形態においては、バッファに保存される走行履歴は、単位走行距離毎に保存された離散的な値である。このため、他車両の横位置を演算する際には、近似式で各走行履歴の間を補完しなければならない。ここで、最小二乗法やカーブフィッティング等による近似式を算出すると、計算量が増えるという問題が生じる。そこで、自車両の進行方向、すなわちY座標を基準とする他車両までの距離に応じて2つの走行履歴のみを抽出し、これらから単純な四則演算のみで求められる直線lと他車両の位置とによって、他車両の横位置を算出している。
【0090】
そして、S15に移行し、他車両車線推定部85は、他車両が位置する車線を推定する。この推定処理では、他車両車線推定部85は、S14において演算された他車両の横位置dに基づいて、他車両が、自車両20が走行した車線と同一車線に位置するか、隣接車線に位置するかを推定する。すなわち、他車両車線推定部85は、バッファ更新処理部82に記憶された走行履歴と他車両絶対位置演算部83によって検出された後方物体の位置との相対位置関係に基づいて、後方物体が位置する車線を推定する。具体的には、他車両の横位置dと、道路車線幅に基づいて予め設定される閾値との比較により、他車両が自車両と同一車線に位置するか否かを判定する。例えば、横位置dが閾値未満のときは同一車線、横位置dが閾値以上のときは隣接車線と判定する。
【0091】
なお、S12において、他車両の絶対位置におけるY座標の絶対値|Y|が、走行履歴におけるY座標の絶対値の最大値max(|Y(k)|)以上であると判断した場合、S16に移行する。S16では、他車両横位置演算部84は、他車両の横位置を無効として、処理を終了する。
【0092】
以上のように、本実施形態に係る物体位置検出装置によれば、自車両の過去の走行位置と後方物体の位置との相対位置関係に基づいて後方物体が位置する車線を推定するため、自車両が走行した車線に対する後方物体の位置が推定できる。このため、後方物体が位置する車線を精度良く推定することができる。
【0093】
また、本実施形態に係る物体位置検出装置によれば、自車両の過去の走行位置から求められる走行軌跡と後方物体の位置との距離に基づいて後方物体が位置する車線を推定することにより、後方物体が自車両が走行した車線と同一車線に位置するか、隣接車線に位置するかを簡易に推定できる。
【0094】
また、本実施形態に係る物体位置検出装置によれば、自車両の過去の走行位置のうち後方物体の位置に基づいて抽出される2つの走行位置を通る直線を走行軌跡として求め、この直線と後方物体の位置との距離に基づいて後方物体が位置する車線を推定する。これにより、複雑な近似計算を行うことなく少ない計算量で、後方物体が位置する車線を精度良く推定することができる。
【0095】
また、本実施形態に係る物体位置検出装置によれば、自車両が走行する道路の曲率が大きいほど小さい単位走行距離毎に自車両の走行位置を記憶することにより、道路の曲率が大きい場合であっても自車両が走行した車線に対する後方物体の位置を精度良く推定できるため、後方物体が位置する車線の推定に必要な精度を確保できる。また、道路の曲率が小さい場合には、道路の曲率が大きい場合に比べて大きい単位走行距離毎に自車両の走行位置を記憶するため、後方物体が位置する車線の推定に必要な精度を確保しつつ、記憶手段に記憶する過去の走行位置の数を削減できる。
【0096】
さらに、本実施形態に係る物体位置検出装置によれば、単位走行距離毎に記憶された自車両の走行位置の数が所定数に達した場合、最も古い走行位置に上書きして新たな走行位置を順次記憶することにより、記憶手段に必要なメモリ容量を削減できる。
【0097】
本実施形態に係る物体位置検出装置による処理結果を以下に示す。図11には、物体位置検出装置による走行軌跡の推定精度を示している。図11に示すように、自車両の走行軌跡について、本発明と従来法を比較したところ、本発明においては、従来法に比べ、走行軌跡を精度良く推定することができた。本実施形態では、車輪速パルス、操舵角、ヨーレート等により演算される自車両の走行履歴を用いて走行軌跡を求め、この走行軌跡から他車両の位置を演算するため、遠距離においても横位置の演算精度を向上させることができている。
【0098】
また、図12には、物体位置検出装置による走行履歴の保存結果を示している。図12(a)は、時刻t〜t間に自車両が走行した時の走行軌跡である。また、図12(b)は、保存単位走行距離α=0.5(m)、保存総走行距離β=70(m)、バッファサイズn=139(70÷0.5=140)と設定した場合の、時刻tでバッファに保存されている走行履歴である。図12(b)に示すように、バッファに保存する走行履歴の数を最小限に削減できている。
【0099】
さらに、図13には、物体位置検出装置による他車両の車線推定精度を示している。図13に示す黒三角は、自車両の右車線を走行する他車両を示す。図13に示すように、従来法では、他車両が左車線に位置すると判定してしまうが、本発明では、右車線に位置すると判定することができ、車線の推定精度が向上している。
【0100】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明に係る物体位置検出装置は、上記実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、自車両の過去の走行位置と他車両の位置との相対位置関係を演算する際、走行履歴から求められる直線lを用いる場合について説明したが、走行履歴から求められる走行軌跡であればいかなるものでもよく、例えば曲線を用いてもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、後方物体までの方向及び距離を検出するものとしてミリ波レーダを用いる場合について説明したが、例えばレーザレーダや、他の距離センサであってもよい。また、上記実施形態では、バッファに記憶された走行履歴の座標変換を行う際(S7及びS9)、一時的な中間変数をn個用意したが、新たな走行履歴が保存される順番を0〜nの順に並べない場合には、n個よりも少ない中間変数を用意してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施形態に係る物体位置検出装置を示すブロック構成図である。
【図2】図1の物体位置検出装置による物体位置検出に用いられる記号の説明図である。
【図3】図1の物体位置検出装置が備えるミリ波レーダの取り付け位置の説明図である。
【図4】図1の物体位置検出装置による動作を示すフローチャートである。
【図5】図1の物体位置検出装置による走行履歴保存の説明図である。
【図6】図1の物体位置検出装置による走行履歴の新規保存及び原点シフトの説明図である。
【図7】図1の物体位置検出装置による原点シフトの説明図である。
【図8】図1の物体位置検出装置による他車両位置算出の説明図である。
【図9】図1の物体位置検出装置による他車両の横位置算出の説明図である。
【図10】図1の物体位置検出装置による他車両の横位置算出の説明図である。
【図11】図1の物体位置検出装置による走行軌跡の推定精度を示す図である。
【図12】図1の物体位置検出装置による走行履歴の保存結果を示す図である。
【図13】図1の物体位置検出装置による他車両の車線推定精度を示す図である。
【符号の説明】
【0103】
1…物体位置検出装置、7…ナビゲーションシステム(曲率取得手段)、20…自車両、82…バッファ更新処理部(記憶手段)、83…他車両絶対位置演算部(検出手段)、85…他車両車線推定部(推定手段)、d…距離、l…直線、R…カーブ半径、α…保存単位走行距離(単位走行距離)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路を走行する自車両の走行位置を記憶する記憶手段と、
前記自車両の後方に存在する後方物体の位置を検出する検出手段と、
前記記憶手段に記憶された前記自車両の過去の走行位置と前記検出手段によって検出された前記後方物体の位置との相対位置関係に基づいて、前記後方物体が位置する車線を推定する推定手段と、
を備える物体位置検出装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記自車両の過去の走行位置から求められる走行軌跡と前記後方物体の位置との距離に基づいて前記後方物体が位置する車線を推定する、
請求項1に記載の物体位置検出装置。
【請求項3】
前記走行軌跡は、前記自車両の過去の走行位置のうち前記後方物体の位置に基づいて抽出される2つの走行位置を通る直線であることを特徴とする、
請求項2に記載の物体位置検出装置。
【請求項4】
前記道路の曲率を取得する曲率取得手段を備え、
前記記憶手段は、単位走行距離毎の前記自車両の走行位置を記憶するものであって、前記曲率取得手段によって取得された前記曲率が大きいほど前記単位走行距離を小さくする、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の物体位置検出装置。
【請求項5】
前記記憶手段は、前記単位走行距離毎に記憶された前記自車両の走行位置の数が所定数に達した場合、最も古い走行位置を消去して新たな走行位置を順次記憶する、
請求項4に記載の物体位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−127908(P2010−127908A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306640(P2008−306640)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】