説明

物品搬送装置

【課題】 移動体の異常状態を的確に判別することができる物品搬送装置の提供。
【解決手段】 物品搬送用の移動体を駆動させる駆動手段の作動を制御する制御手段が、移動体を設定加速度で増速させる増速運転、移動速度を維持して移動させる定常移動運転、および、設定減速度で減速させる減速運転を行う形態で移動させるために定められる目標速度にて移動体を移動させるべく、駆動手段の作動を制御し、移動体の移動中における移動体の移動状態または駆動手段の作動状態を移動中データとして検出する移動中データ検出手段が設けられ、制御手段が、移動中データ検出手段の検出情報に基づいて、移動体の移動開始から移動停止までの移動期間を区分けした複数の分割区間A1〜A4,V1〜V3ごとに求めた移動中データの分割データと比較用データとを比較して、移動体の異常状態を判別する異常状態判別処理を実行するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品搬送用の移動体を駆動させる駆動手段と、前記駆動手段の作動を制御する制御手段とが設けられ、前記制御手段が、前記移動体を設定加速度で増速させる増速運転、移動速度を維持して移動させる定常移動運転、および、設定減速度で減速させる減速運転を行う形態で移動させるために定められる目標速度にて前記移動体を移動させるべく、前記駆動手段の作動を制御するように構成されている物品搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような物品搬送装置は、自動倉庫に用いられるスタッカークレーンや物品搬送設備に用いられる物品搬送車であり、制御手段が駆動手段の作動を制御して、増速運転、定常移動運転、減速運転を行う形態で物品搬送用の移動体を目的の物品移載箇所まで移動させて物品を搬送する。
【0003】
このような物品搬送装置は、従来、移動体を駆動させる駆動手段として、走行用電動モータと走行用電動モータの速度を制御するインバータとが設けられ、このインバータが、移動体の移動中における駆動手段の作動状態を移動中データとして検出し、制御手段が、インバータにて検出される移動中データと設定値とを比較して、移動体の異常状態を判別するように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
この従来の物品搬送装置では、インバータが、移動中データとして、走行用電動モータに出力する電流値、インバータより出力される回生電圧値、および、インバータへ供給される電源電圧値を検出し、制御手段が、走行用電動モータに出力する電流値が設定値よりも大きくなる、インバータより出力される回生電圧値が設定値よりも大きくなる、インバータへ供給される電源電圧値が設定値よりも小さくなるという三つの条件のいずれかが満たされると、移動体が異常状態であると判別する。
【0004】
【特許文献1】特開2002−211710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の物品搬送装置では、制御手段が、移動中データと設定値とを比較することにより、移動体の移動中における駆動手段の作動状態を捉えて、移動体の異常状態を判別している。
しかしながら、移動体の移動中には、増速運転から定常移動運転に切り換えるなど様々な要因によって駆動手段の作動状態が変化するので、単に、移動中データと設定値とを比較するだけでは、駆動手段の作動状態の変化を的確に捉えることができず、移動体の異常状態を的確に判別できない虞がある。
【0006】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、移動体の異常状態を的確に判別することができる物品搬送装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明にかかる物品搬送装置の第1特徴構成は、物品搬送用の移動体を駆動させる駆動手段と、前記駆動手段の作動を制御する制御手段とが設けられ、前記制御手段が、前記移動体を設定加速度で増速させる増速運転、移動速度を維持して移動させる定常移動運転、および、設定減速度で減速させる減速運転を行う形態で移動させるために定められる目標速度にて前記移動体を移動させるべく、前記駆動手段の作動を制御するように構成されている物品搬送装置において、
前記移動体の移動中における前記移動体の移動状態または前記駆動手段の作動状態を移動中データとして検出する移動中データ検出手段が設けられ、前記制御手段が、前記移動中データ検出手段の検出情報に基づいて、前記移動体の移動開始から移動停止までの移動期間を区分けした複数の分割区間ごとに求めた前記移動中データの分割データと比較用データとを比較して、前記移動体の異常状態を判別する異常状態判別処理を実行するように構成されている点にある。
【0008】
すなわち、移動体の移動開始から移動停止までの移動期間を複数の分割区間に区分けし、制御手段が、移動体の移動中に異常状態判別処理を実行することにより、複数の分割区間ごとに移動中データの分割データを求めて、その分割データと比較用データとを比較して、移動体の異常状態を判別できることになる。
このように複数の分割区間ごとに分割データと比較用データとを比較すると、移動体の移動状態または駆動手段の作動状態の変化を分割区間ごとに捉えることができ、移動体の移動状態または駆動手段の作動状態の変化を的確に捉えることができることになる。
また、分割区間については、例えば、増速運転から定常移動運転に切り換えると、別の分割区間となるようにして、運転の切り換えに対応させる状態で移動期間を複数の分割区間に区分けできることになる。このように移動期間を分割区間に区分けすると、運転の切り換えによる移動体の移動状態または駆動手段の作動状態の変化とは区別させた状態で、移動体の移動状態または駆動手段の作動状態の変化を捉えることができることになる。
【0009】
したがって、移動体の移動状態または駆動手段の作動状態の変化を分割区間ごとに捉え、その変化を的確に捉えることができることとなって、移動体の異常状態を的確に判別することができる物品搬送装置を提供できるに至った。
【0010】
本発明にかかる物品搬送装置の第2特徴構成は、前記制御手段が、前記異常状態判別処理において、正常状態の前記移動体についての正常用の前記分割データを前記比較用データとして用い、前記分割データと前記正常用の分割データとを比較して、前記移動体の異常状態を判別するように構成されている点にある。
【0011】
すなわち、制御手段が、分割データと正常用の分割データとを比較することにより、移動体の移動状態または駆動手段の作動状態について正常状態の移動体に対してどのように変化したかを捉えることができることになる。したがって、移動体の異常状態を精度よく判別できることになる。
【0012】
本発明にかかる物品搬送装置の第3特徴構成は、前記制御手段が、前記異常状態判別処理において、正常状態の前記移動体についての正常用の前記分割データ、および、複数種の異常状態を一つずつ順次発生させた異常状態の前記移動体についての複数の異常用の前記分割データを前記比較用データとして用い、前記複数の分割区間ごとに前記分割データと前記正常用の分割データとを比較して両分割データの間に差が有るか否かを判別した実パターンを求め、前記複数の分割区間ごとに前記複数の異常用の分割データと前記正常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別した複数種の異常状態の夫々における異常パターンと前記実パターンとを比較して、前記移動体の異常状態を判別するように構成されている点にある。
【0013】
すなわち、比較用データとして、正常用の分割データだけではなく、複数種の異常状態を一つずつ順次発生させた異常状態の移動体についての複数の異常用の分割データを用いることにより、正常状態の移動体に対して移動体の移動状態または駆動手段の作動状態がどのように変化したか、および、その変化が複数種の異常状態のうちどの異常状態に対応するものであるかを判別できることになる。
【0014】
前記異常状態判別処理を実行するに当たり、複数種の異常状態を一つずつ順次発生させた異常状態の移動体についての複数の異常用の分割データと正常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別して複数種の異常状態の夫々における異常パターンを予め求めておく。
そして、制御手段が、異常状態判別処理を実行することにより、分割データと正常用の分割データとを比較して複数の分割区間ごとに両分割データの間に差が有るか否かを判別した実パターンを求め、その実パターンと複数種の異常状態の夫々における異常パターンとを比較して、実パターンと一致する異常パターンが有るか否かによって、移動体が複数種の異常状態のうちどの異常状態であるかを判別できることになる。
【0015】
このようにして、移動体が異常状態であるか否かだけでなく、複数種の異常状態のうちどの異常状態であるかを判別できることになるので、移動体の異常状態について的確にかつ詳細に判別できることになる。
しかも、異常パターンを求めるときには、実際に各異常状態を発生させた異常状態の移動体についての異常用の分割データを用いて求めることから、実際に各異常状態を発生した移動体についての移動状態または駆動手段の作動状態と比較できることとなって、移動体が複数種の異常状態のうちどの異常状態であるかを精度よく判別できることになる。
【0016】
本発明にかかる物品搬送装置の第4特徴構成は、前記制御手段が、複数の移動サイクルにて前記移動体を移動させるべく、前記駆動手段の作動を制御可能であり、かつ、前記複数の移動サイクルごとに、前記異常状態判別処理を実行するように構成されている点にある。
【0017】
すなわち、制御手段が、複数の移動サイクルごとに、異常状態判別処理を実行することにより、移動サイクルに対応する状態で異常状態判別処理を実行できることになる。
前記移動サイクルが異なれば、移動体の移動状態または駆動手段の作動状態の変化の仕方も異なるが、移動サイクルに対応する状態で異常状態判別処理を実行することにより、その移動サイクルに応じた移動体の異常状態の判別を行うことができることとなり、移動体の異常状態を精度よく判別できることになる。
【0018】
本発明にかかる物品搬送装置の第5特徴構成は、前記制御手段が、前記分割区間における前記移動中データの平均値を前記分割データとして求めるように構成されている点にある。
【0019】
すなわち、制御手段が、分割区間における移動中データの平均値を分割データとして求め、その分割データと比較用データとを比較して、移動体の異常状態を判別することになる。したがって、分割データと比較用データとを比較するに当り、単に、分割区間における移動中データの平均値と比較用データとを比較するだけでよく、構成の簡素化を図りながら、移動体の異常状態を判別できることになる。
【0020】
本発明にかかる物品搬送装置の第6特徴構成は、前記制御手段が、前記異常状態判別処理において、前記分割データと前記比較用データとを比較するに当り、統計的に解析することにより前記分割データと前記比較用データとの間に差が有るか否かを判別するように構成されている点にある。
【0021】
すなわち、制御手段が、統計的に解析することにより分割データと比較用データとの間に差が有るか否かを判別して、移動体の異常状態を判別することになる。したがって、分割データと比較用データとの間に差が有るか否かを精度よく判別できることとなり、移動体の異常状態を精度よく判別できることになる。
【0022】
本発明にかかる物品搬送装置の第7特徴構成は、前記制御手段が、前記分割区間における前記移動中データの平均値、前記分割区間における前記移動中データの標準偏差、前記分割区間における前記移動中データのデータ数に基づいて、統計的に解析することにより前記分割データと前記比較用データとの間に差が有るか否かを判別するように構成されている点にある。
【0023】
すなわち、制御手段が、分割データと比較用データとの間に差が有るか否かの判別について、分割区間における移動中データの平均値、分割区間における移動中データの標準偏差、分割区間における移動中データのデータ数に基づいて、統計的に解析して行うことになる。したがって、統計的解析を的確に行うことができることとなって、分割データと比較用データとの間に差が有るか否かの判別をより精度よく行え、移動体の異常状態を精度よく判別できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明にかかる物品搬送装置を自動倉庫に適応した実施形態について図面に基づいて説明する。
この自動倉庫は、図1に示すように、物品出し入れ方向が互いに対向するように間隔を隔てて設置した二つの収納棚1と、それらの収納棚1どうしの間に形成した作業通路2を自動走行する物品搬送装置としてのスタッカークレーン3とが設けられ、各収納棚1には多数の物品収納部4が上下方向および左右方向に並設されている。
【0025】
前記作業通路2には、収納棚1の長手方向に沿って走行レール5が設置され、作業通路2の一端側には、スタッカークレーン3の運転を管理する制御手段としての地上側コントローラ7と、走行レール5を挟んで一対の荷載置台8とが設けられている。
【0026】
前記スタッカークレーン3は、図2に示すように、走行レール5に沿って走行自在な物品搬送用の移動体としての走行台車10と、その走行台車10に対して昇降自在な昇降台12と、その昇降台12に設けられて物品9を載せたパレットPごと移載可能な電動式のフォーク装置11とから構成されている。
そして、スタッカークレーン3は、走行台車10の走行、昇降台12の昇降、および、フォーク装置11の作動により、荷載置台8に載置されている物品9を物品収納部4に入庫したり、物品収納部4に収納されている物品9を荷載置台8に出庫するように構成されている。
【0027】
前記昇降台12は、走行台車10に立設された前後一対の昇降マスト13にて昇降自在に案内支持されており、その左右両側に連結した昇降用チェーン14にて吊下げ支持されている。
そして、前後一対の昇降マスト13の上端部が、上部フレーム15にて連結されており、この上部フレーム15に設けられた左右一対のガイドローラ15aがガイドレール6を左右から挟み込む状態でガイドレール6に沿って案内される。
【0028】
前記昇降用チェーン14は、上方側従動プーリ16、走行台車側従動プーリ17、昇降台側従動プーリ18、および、駆動プーリ19に巻き掛けられており、その端部が昇降台12の下面側に連結されている。
そして、走行台車10の走行方向において、上方側従動プーリ16が、上部フレーム15の両端部に設けられ、走行台車側従動プーリ17が、走行台車10の一端部および中央部に設けられている。また、昇降台側従動プーリ18が、昇降台12の中央下面部に設けられ、駆動プーリ19は、走行台車10の一端部に設けられている。
前記駆動プーリ19を駆動するインバータ式の昇降用電動モータ24が設けられ、この昇降用電動モータ24にて駆動プーリ19を正逆に回転駆動することにより、昇降用チェーン14を長手方向に移動させて昇降台12を昇降させる。
【0029】
前記走行台車10には、その走行方向に測距用のビーム光を投射する昇降用レーザ測距計20と、その昇降用レーザ測距計20にて投射されたビーム光の進路を鉛直上方に屈曲させて昇降台12の下面に設置された反射板21に照射するためのミラー22とが設けられている。
そして、昇降用レーザ測距計20は、昇降台12の昇降方向において、走行台車10に設けられたミラー22の配設位置を基準位置として、その基準位置と昇降台12との距離を検出することにより、昇降台12の昇降位置を検出するように構成されている。
【0030】
また、走行台車10には、走行レール5上を走行自在な前後二つの走行輪23が設けられている。二つの走行輪23のうちの車体前後方向の一端側の車輪が、インバータ式のモータである走行用電動モータ25にて駆動される推進用の駆動走行輪23aとして構成され、車体前後方向の他端側の車輪が、遊転自在な従動走行輪23bとして構成されている。
そして、走行用電動モータ25の作動により駆動走行輪23aを駆動して、走行台車10を走行レール5に沿って走行させるようにしている。
【0031】
また、走行台車10には、その走行方向に測距用のビーム光を投射する走行用レーザ測距計26が設けられている。
そして、走行用レーザ測距計26は、作業通路2において、走行レール5の端部を基準位置として、その基準位置に設置されている反射板30に向けて投射して、基準位置と走行台車10との距離を検出することにより、走行台車10の走行位置を検出するように構成されている。
【0032】
前記地上側コントローラ7は、図3に示すように、スタッカークレーン3を運転させるための各種情報を通信するための通信コントローラ7aを備えて、走行台車10の走行、昇降台12の昇降、および、フォーク装置11の作動を制御するように構成されている。
前記スタッカークレーン3には、走行用電動モータ25またはフォーク装置11を作動させる走行用インバータ27、昇降用電動モータ24を作動させる昇降用インバータ28、昇降用レーザ測距計20および走行用レーザ測距計26の検出情報を入出力可能な入出力装置29が設けられている。
【0033】
前記走行用インバータ27は、走行用電動モータ25に対して電流を出力して走行用電動モータ25を作動させる走行状態と、電動式のフォーク装置11に対して電流を出力してフォーク装置11を作動させる移載状態とに切換自在に構成されている。
そして、走行台車10を駆動する駆動手段として、走行用インバータ27と走行用電動モータ25とが設けられている。
また、昇降用インバータ28は、昇降用電動モータ24に対して電流を出力して昇降用電動モータ24を作動させるように構成されている。
【0034】
前記走行用インバータ27には、通信コントローラ27aが備えられ、昇降用インバータ28にも、通信コントローラ28aが備えられ、入出力装置29にも、通信コントローラ29aが備えられている。
前記スタッカークレーン3側の通信コントローラ27a,28a,29a、地上側コントローラ7側の通信コントローラ7a、光伝送装置31により、通信ネットワークが構成されている。そして、この通信ネットワークは、地上側コントローラ7をマスタとし、かつ、走行用インバータ27、昇降用インバータ28、入出力装置29をスレーブとする状態で、各種情報を通信自在に構成されている。
前記地上側コントローラ7は、この通信ネットワークにて各種情報を通信することにより、スタッカークレーン3についての各種情報を管理しながら、スタッカークレーン3の運転を制御するように構成されている。
【0035】
前記スタッカークレーン3の運転について説明を加えると、荷載置台8に載置されている物品Bを物品収納部4に入庫する場合と、物品収納部4に収納されている物品Bを荷載置台8に出庫する場合とがある。
【0036】
入庫する場合について説明すると、人為的な入力や上位コントローラからの指令により入庫指令が指令されると、地上側コントローラ7は、まず、荷載置台8に対応する目標停止位置を移載用停止位置と設定して、通信ネットワークにより各種情報を通信しながら、走行台車10を走行させおよび昇降台12を昇降させて、昇降台12を移載用停止位置に停止させたのち、フォーク装置11を作動させて、荷載置台8に載置されている物品9をパレットPごと掬い取る掬い動作を行うように構成されている。
そして、荷載置台8に載置されている物品9を掬うと、次に、地上側コントローラ7は、複数の物品収納部4のうちから、一つの物品収納部4を移載先として、その移載先の物品収納部4に対応する目標停止位置を移載用停止位置と設定して、通信ネットワークにより各種情報を通信しながら、走行台車10を走行させおよび昇降台12を昇降させて、昇降台12を移載用停止位置に停止させたのち、フォーク装置11を作動させて、移載先の物品収納部4に物品9をパレットPごと卸す卸し動作を行うように構成されている。
【0037】
ちなみに、目標停止位置については、フォーク装置11にて物品9をパレットPごと移載するために昇降台12を停止させるべき位置であり、荷載置台8や複数の物品収納部4の夫々に対して設定されている。
【0038】
また、出庫する場合には、人為的な入力や上位コントローラからの指令により出庫指令が指令されると、入庫する場合とは逆に、まず、出庫する物品9を収納している物品収納部4に対応する目標停止位置を移載用停止位置と設定して、掬い動作を行い、次に、荷載置台8に対応する目標停止位置を移載用停止位置と設定して、卸し動作を行う。
【0039】
以下、スタッカークレーン3の動作について説明を加える。
まず、走行台車10の走行について説明すると、地上側コントローラ7が、走行台車10を設定加速度で増速させる増速運転、走行速度を維持して走行させる定常移動運転、および、設定減速度で減速させる減速運転を行う形態で走行させるために定められる目標速度にて走行台車10を走行させるべく、走行用インバータ27および走行用電動モータ25の作動を制御するように構成されている。
そして、地上側コントローラ7は、走行指令情報を通信ネットワークにて走行用インバータ27に通信し、走行用インバータ27が、走行指令情報に基づいて、走行用電動モータ35に対して供給する電流量を調整して、走行台車10を走行させるように構成されている。
【0040】
まず、地上側コントローラ7は、走行方向をも指示する走行開始指令情報を通信ネットワークにて走行用インバータ27に通信する。そして、走行用インバータ27は、走行開始指令情報が指令されることにより、走行台車10の走行を開始させるべく、走行用電動モータ25に対して電流を供給する。
その後、地上側コントローラ7は、図4に示す走行速度カーブにしたがって走行台車10の走行速度が推移するように、設定時間が経過するごとまたは設定距離走行するごとに走行速度指令情報を通信ネットワークにて走行用インバータ27に通信する。そして、走行用インバータ27は、走行速度指令情報にて指令された走行速度で走行台車10を走行させるべく、走行用電動モータ25に対して供給する電流量を調整する。
【0041】
図4に基づいて、走行速度カーブについて説明を加える。
まず、地上側コントローラ7は、通信ネットワークによる入出力装置29との通信により走行用レーザ測距計26の検出情報を取得して、走行台車10の走行位置を管理しており、走行台車10を走行させるに当り、走行台車10の現在位置と移載用停止位置との距離に基づいて、走行速度カーブを設定する。
そして、地上側コントローラ7は、停止している走行台車10を設定走行速度まで走行速度を設定加速度αで増速させる増速運転を行い、走行速度を維持して走行させる定常移動運転を行う。その後、地上側コントローラ7は、設定走行速度から停止用低走行速度(クリープ速度)まで設定減速度βで減速させる減速運転を行う。
【0042】
前記設定加速度α、設定走行速度、設定減速度β、停止用低走行速度は、予め設定されている。
そして、地上側コントローラ7は、走行距離によって増速運転から定常走行運転に切り換えるタイミングや、定常走行運転から減速運転に切り換えるタイミングなどを求めて、図4に示すような走行速度カーブを設定する。
【0043】
前記地上側コントローラ7は、停止用低走行速度(クリープ速度)にて走行台車10を走行させている状態において、走行台車10の走行位置が移載用停止位置に達すると、走行停止指令情報を走行用インバータ27に通信する。そして、走行用インバータ27は、走行用電動モータ25への電流の供給を停止してブレーキをかけて、走行台車10を移載用停止位置に停止させる。
【0044】
このようにして、地上側コントローラ7は、走行速度カーブにしたがって走行台車10の走行速度が推移するように、走行台車10を走行させるわけであるが、複数の移動サイクルにて走行台車10を走行させるべく、走行用インバータ27および走行用電動モータ25の作動を制御可能に構成されている。
前記複数の移動サイクルとして、移載用停止位置までの走行台車10の走行距離が短距離となる短距離用移動サイクル、移載用停止位置までの走行台車10の走行距離が中距離となる中距離用移動サイクル、移載用停止位置までの走行台車10の走行距離が長距離となる長距離用移動サイクル、物品9を搬送する以外の用途で走行台車10を走行させるその他用移動サークルがある。
【0045】
前記地上側コントローラ7は、走行台車10を走行させるに当り、まず、物品搬送のための走行であるか、および、走行台車10の現在位置と移載用停止位置との距離に基づいて、移動サイクルを決定し、その移動サイクルにおける走行速度カーブを設定し、その走行速度カーブにしたがって走行台車10の走行速度が推移するように、走行台車10を走行させる。
【0046】
次に、昇降台12の昇降について説明するが、通信対象などが異なるだけで、走行台車10の走行と同様であるので、簡略して説明する。
前記地上側コントローラ7は、昇降台12を移載用停止位置に停止させるべく、昇降開始指令情報や昇降速度指令情報などの指令情報を通信ネットワークにて昇降用インバータ28に通信する。そして、昇降用インバータ28は、地上側コントローラ7からの指令情報に基づいて、昇降用電動モータ24に対して供給する電流量を調整する。
また、地上側コントローラ7は、通信ネットワークによる入出力装置29との通信により昇降用レーザ測距計20の検出情報を取得して、昇降台12の昇降位置を管理している。
【0047】
次に、フォーク装置11の作動について説明すると、地上側コントローラ7は、昇降台12を移載用停止位置に停止させた状態において、物品9の移載を行うべく、移載指令情報を通信ネットワークにて走行用インバータ27に通信する。そして、走行用インバータ27は、地上側コントローラ7からの移載指令情報に基づいて、物品収納部4との間または荷載置台8との間で物品9を移載させるべく、フォーク装置11を作動させる。
【0048】
前記地上側コントローラ7は、走行速度カーブにしたがって走行台車10の走行速度が推移するように、走行用インバータ27および走行用電動モータ25の作動を制御しているわけであるが、この走行台車10の走行中に走行台車10の異常状態を判別している。
【0049】
前記走行用インバータ27は、走行台車10の走行開始から走行停止までの移動期間に走行用電動モータ24へ出力している電流値と電圧値とを移動中データとして検出している。前記地上側コントローラ7は、図5および図6に示すように、通信ネットワークにて走行用インバータ27から移動中データを受信している。図5および図6において、(イ)が移動期間における電流値と走行台車10の走行速度を示しており、(ロ)が移動期間における電圧値と走行台車10の走行速度を示している。
このようにして、走行台車10の走行中における走行台車10の走行状態または走行用インバータ17および走行用電動モータ25の作動状態を移動中データとして検出する移動中データ検出手段が、走行用インバータ27にて構成されている。
【0050】
そして、地上側コントローラ7は、走行用インバータ27の検出情報に基づいて、走行台車10の走行開始から走行停止までの走行期間を区分けした複数の分割区間ごとに求めた移動中データの分割データと比較用データとを比較して、走行台車10の異常状態を判別する異常状態判別処理を実行するように構成されている。
【0051】
前記地上側コントローラ7は、異常状態判別処理において、分割区間における移動中データの平均値を分割データとして求め、正常状態の走行台車10についての正常用の分割データ、および、複数種の異常状態を一つずつ順次発生させた異常状態の走行台車10についての複数の異常用の分割データを比較用データとして用いる。
そして、地上側コントローラ7は、分割区間における移動中データの平均値、分割区間における移動中データの標準偏差、分割区間における移動中データのデータ数に基づいて、統計的に解析することにより分割データと比較用データとの間に差が有るか否かを判別して、走行台車10の異常状態を判別するように構成されている。
具体的には、地上側コントローラ7は、複数の分割区間ごとに分割データと正常用の分割データとを比較して両分割データの間に差が有るか否かを判別した実パターン(図8参照)を求め、複数の分割区間ごとに複数の異常用の分割データと正常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別した複数種の異常状態の夫々における異常パターン(図7参照)と実パターンとを比較して、走行台車10の異常状態を判別するように構成されている。
前記複数種の異常状態としては、図7に示すように、急減速および過積載による走行用インバータ27の異常、電圧不足による走行用インバータ27の異常、走行用インバータ27における回生ユニット未接続の異常、急減速の異常、過積載の異常、マスト振れの異常、ブレーキギャップの異常が4種類、上部フレーム15に設けた前方側のガイドローラ15aの固定異常、上部フレーム15に設けた後方側のガイドローラ15aの固定異常などである。
このようにして、地上側コントローラ7は、異常状態判別処理を実行するわけであるが、複数の移動サイクルごとに、異常状態判別処理を実行するように構成されている。
【0052】
以下、異常状態判別処理について説明を加える。
まず、分割データについて説明する。
前記地上側コントローラ7は、走行用インバータ27から移動中データとして、図5および図6に示すように、走行用電動モータ24へ出力している電流値と電圧値を受信している。
そして、分割区間として、電流値についての電流用分割区間と電圧値についての電圧用分割区間とが定められている。
ちなみに、図5は、正常状態の走行台車10を走行させたときのものを示し、図6は、異常状態の走行台車10を走行させたときのものを示している。
【0053】
前記電流用分割区間は、走行台車10の走行開始から走行停止までの移動期間を四つの分割区間に区分けしたものである。まず、増速運転において、走行台車10の加速度を一定とする区間を第一電流用分割区間A1とし、走行台車10の加速度を減少させる区間を第二電流用分割区間A2としている。そして、定常走行運転を行う区間を第三電流用分割区間A3とし、減速運転において、走行台車10の減速度を一定とする区間を第四電流用分割区間A4としている。
前記電圧用分割区間は、走行台車10の走行開始から走行停止までの走行期間を三つの分割区間に区分けしたものである。まず、増速運転において、走行台車10の加速度を減少させる区間を第一電圧用分割区間V1としている。そして、定常走行運転を行う区間を第二電圧用分割区間V2とし、減速運転において、走行台車10の減速度を一定とする区間を第三電圧用分割区間V3としている。
【0054】
このようにして、増速運転から定常移動運転に切り換えると、別の分割区間となるようにして、走行台車10についての運転の切り換えに対応させる状態で移動期間を複数の分割区間に区分けしている。
【0055】
そして、地上側コントローラ7は、第一電流用分割区間A1における移動中データの平均値を第一電流用分割区間用の分割データとし、同様に、各分割区間における移動中データの平均値をその分割区間用の分割データとして、電流値についての複数の分割区間ごとの分割データを求めて記憶する。
また、地上側コントローラ7は、電圧値についての複数の分割区間においても、電流値と同様に、各分割区間における移動中データの平均値をその分割区間用の分割データとして、電圧値についての複数の分割区間ごとの分割データを求めて記憶する。
ちなみに、地上側コントローラ7は、各分割区間について、分割データだけでなく、その分割区間における移動中データの標準偏差、および、その分割区間における移動中データのデータ数も求めて記憶する。
【0056】
次に、地上側コントローラ7の動作を示した図9に基づいて、複数種の異常状態の夫々における異常パターンの演算について説明する。
この複数種の異常状態の夫々における異常パターンの演算については、スタッカークレーン2を設計したときや稼動させる前などに行い、異常状態判別処理を実行する前提として、複数種の異常状態の夫々における異常パターンを予め求めている。
【0057】
まず、正常状態の走行台車10を走行させることにより、地上側コントローラ7が、正常用の分割データ(図5参照)を求めて記憶する。次に、複数種の異常状態を一つずつ順次発生させた異常状態の走行台車10を走行させることにより、地上側コントローラ7が、複数の異常用の分割データ(図6参照)を求めて記憶する。そして、地上側コントローラ7は、正常用の分割データと複数の異常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別して複数種の異常状態の夫々における異常パターン(図7参照)を求めて記憶する。
このようにして、地上側コントローラ7は、正常用の分割データ、複数の異常用の分割データ、複数種の異常状態の夫々における異常パターンを求めて記憶するわけであるが、複数の移動サイクルのすべてについて、正常用の分割データ、複数の異常用の分割データ、複数種の異常状態の夫々における異常パターンを求めて記憶する。
【0058】
次に、地上側コントローラ7の動作を示した図10に基づいて、異常状態判別処理における動作について説明する。
この異常状態判別処理は、物品搬送のためにスタッカークレーン2を稼動させるべく、走行台車10を走行させるときに行う。
【0059】
前記地上側コントローラ7は、まず、走行台車10の走行により求める分割データを稼動用の分割データとして求めて記憶し、その稼動用の分割データと記憶している正常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別して実パターン(図8参照)。次に、地上側コントローラ7は、実パターン(図8参照)と記憶している複数種の異常状態の夫々における異常パターン(図7参照)とから、走行台車10が異常状態であるか否かおよび異常状態であれば複数種の異常状態のうちどの異常状態であるかを判別する異常状態の判別を行う。
前記地上側コントローラ7は、複数の移動サイクルごとに、異常状態判別処理を実行するので、稼動用の分割データと正常用の分割データとから実パターンを求める際、および、実パターンと異常パターンとから異常状態の判別を行う際には、同じ移動サイクルにおける分割データを用いる。すなわち、稼動用の分割データを取得したときの移動サイクルが短距離用移動サイクルであれば、稼動用の分割データと短距離用移動サイクルにおける正常用の分割データとから実パターンを求め、かつ、その実パターンと短距離用移動サイクルにおける異常パターンとから異常状態の判別を行う。
【0060】
そして、地上側コントローラ7は、走行台車10が異常状態であると判別すると、複数種の異常状態のうちどの異常状態であるかを識別できる状態で、音声または表示により報知する。
【0061】
前記地上側コントローラ7の動作について、図11および図12のフローチャートにより説明する。
スタッカークレーン2を設計したときや稼動させる前などに、図11に示すように、地上側コントローラ7が、複数種の異常状態の夫々における異常パターンを求める。
まず、地上側コントローラ7は、正常状態の走行台車10を短距離用移動サイクルにて走行させることにより、短距離用移動サイクルにおける正常状態の走行台車10についての正常用の分割データを取得する(ステップ1)。次に、地上側コントローラ7が、複数種の異常状態を一つずつ順次発生させた異常状態の走行台車10を短距離用移動サイクルにて走行させることにより、短距離用移動サイクルにおける異常状態の走行台車10についての複数の異常用の分割データを取得する(ステップ2)。
そして、地上側コントローラ7は、複数種の異常状態の夫々における複数の異常用の分割データと正常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別することにより、短距離用移動サイクルにおける複数種の異常状態の夫々における異常パターンを求める(ステップ3)。
【0062】
前記地上側コントローラ7は、短距離用移動サイクルと同様にして、中距離用移動サイクルにおける正常用の分割データおよび異常用の分割データを取得して、中距離用移動サイクルにおける異常パターンを求める(ステップ4〜6)。
前記地上側コントローラ7は、長距離用移動サイクルについても、その他用移動サイクルについても、短距離用移動サイクルと同様にして、正常用の分割データおよび異常用の分割データを取得して、中距離用移動サイクルにおける異常パターンを求める(ステップ7〜10)。
【0063】
そして、地上側コントローラ7は、スタッカークレーン2を稼動させて物品9を搬送させている状態において、走行台車10を走行させるときに、異常状態判別処理を実行する。
前記地上側コントローラ7は、図12に示すように、走行台車10を走行させるに当り、走行台車10の現在位置と移載用停止位置との間の距離に基づいて、複数の移動サイクルのうちどの移動サイクルにて走行台車10を走行させるかを決定する(ステップ21)。
そして、地上側コントローラ7は、走行台車10を走行させることにより、稼動用の分割データを求め、記憶している複数の移動サイクルの夫々における正常用の分割データのうち、走行台車10を走行させた移動サイクルに該当する移動サイクルにおける正常用の分割データと稼動用の分割データとの間に差が有るか否かを判別して実パターンを求める(ステップ22,23)。
その後、地上側コントローラ7は、記憶している複数の移動サイクルの夫々における異常パターンのうち、走行台車10を走行させた移動サイクルに該当する移動サイクルにおける異常パターンと実パターンとを比較する(ステップ24)。
そして、地上側コントローラ7は、複数種の異常状態の夫々における異常パターンのいずれかが実パターンと一致すると、その異常パターンに対応する異常状態であると音声または表示により報知する異常状態報知を行う(ステップ25、26)。
【0064】
以下、地上側コントローラ7における夫々の動作について説明を加える。
まず、正常用の分割データの演算について説明する。
前記地上側コントローラ7が、正常状態の走行台車10を走行速度カーブにしたがって走行台車10の走行速度が推移するように、走行用インバータ27および走行用電動モータ25の作動を制御して、正常状態の走行台車10を走行させる。このとき、地上側コントローラ7が、図5に示すように、走行用インバータ27から移動期間の移動中データを取得するので、各分割区間における移動中データの平均値を正常用の分割データとして求めて記憶する。
【0065】
次に、異常用の分割データの演算について説明する。
前記地上側コントローラ7が、複数種の異常状態を一つずつ順次発生させた異常状態の走行台車10を走行速度カーブにしたがって走行台車10の走行速度が推移するように、走行用インバータ27および走行用電動モータ25の作動を制御して、異常状態の走行台車10を走行させる。このとき、地上側コントローラ7が、図6に示すように、走行用インバータ27から移動期間の移動中データを取得するので、各分割区間における移動中データの平均値を異常用の分割データとして求めて記憶する。
【0066】
説明を加えると、まず、正常状態の走行台車10に対して、急減速および過積載による走行用インバータ27の異常を強制的に発生させ、その異常状態の走行台車10を走行させる。すると、地上側コントローラ7が、急減速および過積載による走行用インバータ27の異常についての異常用の分割データを取得する。
このようにして、複数種の異常状態を一つずつ順次強制的に発生させた異常状態の走行台車10を走行させることにより、地上側コントローラ7が、複数種の異常状態の夫々についての複数の異常用の分割データを取得する。
ちなみに、図6は、マスト振れの異常を発生させた状態で走行台車10を走行させたときの移動中データを示している。
【0067】
次に、複数種の異常状態の夫々における異常パターンの演算について説明する。
前記地上側コントローラ7は、下記〔数1〕を用いて、分割区間における移動中データの平均値、分割区間における移動中データの標準偏差、分割区間における移動中データのデータ数に基づいて、統計的に解析することにより複数の分割区間ごとに正常用の分割データと異常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別する。ちなみに、正常用の分割データを母集団1とし、異常用の分割データを母集団2として、下記〔数1〕を用いる。
そして、地上側コントローラ7は、下記〔数1〕にて求めた|Z|>1.96であれば、両分割データの間に差が有ると判別し、かつ、|Z|≦1.96であれば、両分割データの間に差が無いと判別する。
【0068】
【数1】

【0069】
前記地上側コントローラ7は、例えば、急減速および過積載による走行用インバータ27の異常についての異常用の分割データと正常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別することにより、急減速および過積載による走行用インバータ27の異常についての異常パターンを求める。
このようにして、地上側コントローラ7は、複数種の異常状態の夫々について、異常用の分割データと正常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別することにより、図7に示すように、複数種の異常状態の夫々における異常パターンを求めて記憶する。
【0070】
次に、稼動用の分割データの演算について説明する。
このときには、地上側コントローラ7が、移載用停止位置に走行台車10を停止させるべく、走行速度カーブにしたがって走行台車10の走行速度が推移するように走行用インバータ27および走行用電動モータ25の作動を制御することになる。そして、地上側コントローラ7が、走行用インバータ27から移動期間の移動中データを受信するので、各分割区間における移動中データの平均値を稼動用の分割データとして求めて記憶する。
【0071】
次に、実パターンの演算について説明する。
前記地上側コントローラ7は、まず、記憶している複数の移動サイクルにおける正常用の分割データのうち、走行台車10を走行させた移動サイクルに該当する移動サイクルにおける正常用の分割データを選択する。例えば、走行台車10を短距離用移動サイクルにて走行させたときには、短距離用移動サイクルにおける正常用の分割データを選択する。
そして、地上側コントローラ7は、上記〔数1〕を用いて、分割区間における移動中データの平均値、分割区間における移動中データの標準偏差、分割区間における移動中データのデータ数に基づいて、統計的に解析することにより複数の分割区間ごとに正常用の分割データと稼動用の分割データとの間に差が有るか否かを判別する。ちなみに、正常用の分割データを母集団1とし、稼動用の分割データを母集団2として、上記〔数1〕を用いる。
前記地上側コントローラ7は、上記〔数1〕にて求めた|Z|>1.96であれば、両分割データの間に差が有ると判別し、かつ、|Z|≦1.96であれば、両分割データの間に差が無いと判別して、図8に示すように、実パターンを求める。
【0072】
次に、異常パターンと実パターンとの比較について説明する。
前記地上側コントローラ7は、まず、記憶している複数の移動サイクルにおける異常パターンのうち、走行台車10を走行させた移動サイクルに該当する移動サイクルにおける異常パターンを選択する。例えば、走行台車10を短距離用移動サイクルにて走行させたときには、短距離用移動サイクルにおける異常パターンを選択する。
そして、地上側コントローラ7は、選択した複数種の異常状態の夫々における異常パターン(図7参照)のうち、実パターン(図8参照)と一致する異常パターンが有るか否かを判別する。地上側コントローラ7は、実パターンと一致する異常パターンがあるときには、その異常パターンに対応する異常状態であると判別して、その異常状態である旨を音声または表示にて報知し、実パターンと一致する異常パターンがないときには、正常状態であると判別する。
ちなみに、図8に示す実パターンでは、回生ユニット未接続に対応する異常パターンと一致するので、走行台車10が回生ユニット未接続の異常であるとして報知する。
【0073】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、地上側コントローラ7が、異常状態判別処理において、正常用の分割データおよび複数の異常用の分割データを比較用データとして用いているが、正常用の分割データのみを用いて、走行台車10の異常状態を判別するようにしてもよい。
この場合には、分割データが正常用の分割データに対してどれぐらい変化しているかを分割区間ごとに捉えることができ、各分割区間における変化量によって、走行台車10が異常状態であるかおよび複数種の異常状態のうち、どの異常状態であるかを判別できる。
【0074】
(2)上記実施形態では、地上側コントローラ7が、複数の移動サイクルごとに、異常状態判別処理を実行するが、移動サイクルにかかわらず、異常状態判別処理を実行することもできる。
【0075】
(3)上記実施形態では、地上側コントローラ7が、異常状態判別処理において、分割区間における移動中データの平均値を分割データとして求めるようにしているが、分割区間における移動中データ自体を分割データとするなど、分割データをどのようにして求めるかは適宜変更が可能である。
【0076】
(4)上記実施形態では、地上側コントローラ7が、異常状態判別処理において、統計的に解析することにより分割データと比較用データとの間に差が有るか否かを判別しているが、例えば、分割データの基準値と比較用データの基準値とを単に比較するだけで分割データと比較用データとの間に差が有るか否かを判別することもでき、どのようにして分割データと比較用データとを比較するかは適宜変更が可能である。
【0077】
(5)上記実施形態では、地上側コントローラ7が、分割区間における移動中データの平均値、分割区間における移動中データの標準偏差、分割区間における移動中データのデータ数に基づいて、統計的に解析することにより分割データと比較用データとの間に差が有るか否かを判別しているが、分割区間における移動中データのどのような値に基づいて、統計的に解析するかは適宜変更が可能である。
【0078】
(6)上記実施形態では、統計的に解析するために、上記〔数1〕を用いているが、どのような数式を用いるかは適宜変更が可能であり、例えば、下記〔数2〕を用いることもできる。この場合、下記〔数2〕にて求めた|t|>t1であれば、両分割データの間に差が有ると判別し、かつ、|t|≦t1であれば、両分割データの間に差が無いと判別する。ちなみに、t1は、自由度(n1+n2−2)のt分布の片側2.5%の点の値とする。
【0079】
【数2】

【0080】
(7)上記実施形態では、地上側コントローラ7が異常状態判別処理を実行するようにしているが、例えば、地上側コントローラ7とは別に異常状態判別処理を実行するための異常状態判別用コンピュータを設け、この異常状態判別用コンピュータを地上側コントローラ7に接続して異常状態判別処理を行うことも可能である。
【0081】
(8)上記実施形態では、走行用インバータ27や昇降用インバータ28の作動を制御する地上側コントローラ7を地上側に設け、その地上側コントローラ7が、走行用インバータ27や昇降用インバータ28などと各種情報を直接通信することにより、スタッカークレーン3の運転を制御するようにしているが、スタッカークレーン3側に、制御手段として、走行用インバータ27や昇降用インバータ28の作動を制御するクレーン側コントローラを設け、地上側コントローラ7が、クレーン側コントローラに対して、入庫指令、出庫指令を指令するようにして実施することも可能である。
【0082】
(9)上記実施形態では、本発明にかかる物品搬送装置をスタッカークレーン3として自動倉庫に適応した例を示したが、例えば、本発明にかかる物品搬送装置を物品搬送車として物品搬送設備に適応することも可能であり、各種の物品搬送装置に適応することができる。
【0083】
(10)上記実施形態では、移動中データとして、走行用電動モータ24へ出力している電流値と電圧値とを検出しているが、例えば、移動中データとして、走行台車10の走行速度についての波形を検出するようにしてもよく、移動中データとしてどのようなデータを検出するかは適宜変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】自動倉庫の斜視図
【図2】スタッカークレーンの側面図
【図3】自動倉庫の制御ブロック図
【図4】走行速度カーブを示す図
【図5】移動中データとしての電流値を示すグラフ
【図6】移動中データとしての電圧値を示すグラフ
【図7】複数種の異常状態における異常パターンを示す表
【図8】実パターンを示す表
【図9】地上側コントローラの動作を示す図
【図10】地上側コントローラの動作を示す図
【図11】地上側コントローラの動作におけるフローチャート
【図12】地上側コントローラの動作におけるフローチャート
【符号の説明】
【0085】
7 制御手段
25,27 駆動手段
27 移動中データ検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品搬送用の移動体を駆動させる駆動手段と、前記駆動手段の作動を制御する制御手段とが設けられ、
前記制御手段が、前記移動体を設定加速度で増速させる増速運転、移動速度を維持して移動させる定常移動運転、および、設定減速度で減速させる減速運転を行う形態で移動させるために定められる目標速度にて前記移動体を移動させるべく、前記駆動手段の作動を制御するように構成されている物品搬送装置であって、
前記移動体の移動中における前記移動体の移動状態または前記駆動手段の作動状態を移動中データとして検出する移動中データ検出手段が設けられ、
前記制御手段が、前記移動中データ検出手段の検出情報に基づいて、前記移動体の移動開始から移動停止までの移動期間を区分けした複数の分割区間ごとに求めた前記移動中データの分割データと比較用データとを比較して、前記移動体の異常状態を判別する異常状態判別処理を実行するように構成されている物品搬送装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記異常状態判別処理において、正常状態の前記移動体についての正常用の前記分割データを前記比較用データとして用い、前記分割データと前記正常用の分割データとを比較して、前記移動体の異常状態を判別するように構成されている請求項1に記載の物品搬送装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記異常状態判別処理において、正常状態の前記移動体についての正常用の前記分割データ、および、複数種の異常状態を一つずつ順次発生させた異常状態の前記移動体についての複数の異常用の前記分割データを前記比較用データとして用い、前記複数の分割区間ごとに前記分割データと前記正常用の分割データとを比較して両分割データの間に差が有るか否かを判別した実パターンを求め、前記複数の分割区間ごとに前記複数の異常用の分割データと前記正常用の分割データとの間に差が有るか否かを判別した複数種の異常状態の夫々における異常パターンと前記実パターンとを比較して、前記移動体の異常状態を判別するように構成されている請求項1または2に記載の物品搬送装置。
【請求項4】
前記制御手段は、複数の移動サイクルにて前記移動体を移動させるべく、前記駆動手段の作動を制御可能であり、かつ、前記複数の移動サイクルごとに、前記異常状態判別処理を実行するように構成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の物品搬送装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記分割区間における前記移動中データの平均値を前記分割データとして求めるように構成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の物品搬送装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記異常状態判別処理において、前記分割データと前記比較用データとを比較するに当り、統計的に解析することにより前記分割データと前記比較用データとの間に差が有るか否かを判別するように構成されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の物品搬送装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記分割区間における前記移動中データの平均値、前記分割区間における前記移動中データの標準偏差、前記分割区間における前記移動中データのデータ数に基づいて、統計的に解析することにより前記分割データと前記比較用データとの間に差が有るか否かを判別するように構成されている請求項6に記載の物品搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−62941(P2007−62941A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251625(P2005−251625)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000003643)株式会社ダイフク (1,209)
【Fターム(参考)】