物質の硬さ分布表示システム及び物質の硬さ分布表示方法
【課題】比較的簡単な構成で、物質の硬さと硬さが測定された深さとを関連付けることを可能とすることである。
【解決手段】物質の硬さ分布表示システム10は、生体組織に振動を入射する振動子26、反射波を検出する振動検出センサ28を含む複数の探触素子22を2次元的に配置したプローブ部20を備え、各探触素子22は、切替回路50により順次選択されて硬さ算出部70と測定深さ算出部82に接続される。硬さ算出部70は、振動子26への入射波信号と振動検出センサ28からの反射波信号とについてそれぞれ周波数成分分析を行い、その結果に基いて生体組織の硬さを算出する。測定深さ算出部82は、入射波信号の時間的位置と、反射波信号の時間的位置とに基いて、硬さを測定した位置における生体組織の内部の測定深さを算出する。これらは探触素子22ごとに対応付けられている。
【解決手段】物質の硬さ分布表示システム10は、生体組織に振動を入射する振動子26、反射波を検出する振動検出センサ28を含む複数の探触素子22を2次元的に配置したプローブ部20を備え、各探触素子22は、切替回路50により順次選択されて硬さ算出部70と測定深さ算出部82に接続される。硬さ算出部70は、振動子26への入射波信号と振動検出センサ28からの反射波信号とについてそれぞれ周波数成分分析を行い、その結果に基いて生体組織の硬さを算出する。測定深さ算出部82は、入射波信号の時間的位置と、反射波信号の時間的位置とに基いて、硬さを測定した位置における生体組織の内部の測定深さを算出する。これらは探触素子22ごとに対応付けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の硬さ分布表示システム及び物質の硬さ分布表示方法に係り、特に、生体の硬さと硬さが測定された測定深さとの関係を表示できる物質の硬さ分布表示システム及び物質の硬さ分布表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の硬さを評価する技術として超音波を用いる方法が知られている。さらに本願発明者は、物質の硬さの相違は超音波の周波数の変化よりも位相の変化が大きいが、位相測定技術の精度が必ずしも高くないことを考慮し、位相変化を周波数変化に変換する仕組みを
考案し、特許文献1において開示した。この技術は、物質に超音波を入射する振動子と物質からの反射波を検出する振動検出センサと、振動検出センサの信号出力端に入力端が接続された増幅器と、増幅器の出力端と振動子の信号入力端との間に設けられ、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形との間に位相差が生じるときは、周波数を変化させて前記位相差をゼロにシフトする位相シフト回路と、位相差をゼロにシフトさせるための周波数変化量を検出する周波数変化量検出手段とを含む構成である。ここでは、周波数変化量検出手段において、硬さの相違による位相差をゼロにシフトさせてこれを周波数変化量に変換している。この変換は、周波数に対する反射波の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めておいてこれを用いている。
【0003】
また、この技術を発展させたものとして、特許文献2には物質の特性測定装置として、パルス入射手段、パルス受信手段からなるセンサを備え、その入射波、反射波の周波数分析を行い、その入射波、反射波のスペクトル分布を比較して、それぞれの周波数fxにおける入射波の位相と反射波の位相の差である位相差θxとを特定し、そのfxとθxを入力して予め求めておいた基準伝達特性曲線を用いて演算し、入力されたθxをゼロにするときの周波数の変化dfから物質の硬さを求めることが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、特許文献1,2の技術を応用した生体のしこり検査装置として、生体組織に振動を入射する振動子、反射波を検出する振動検出センサを含む複数の探触素子を備え、各探触素子は、硬さ算出切替回路により順次選択されて硬さ算出部に接続される構成が開示されている。そして、各探触素子に対応してそれぞれ圧力センサが設けられ、押し付け圧が所定の範囲にある探触素子の硬さデータが表示部に2次元的に表示されてしこりが検査されることが述べられている。
【0005】
また、本願発明者以外の考案として、特許文献4には、被検体の被観察部位に向けて超音波を照射し、被検体の被観察部位からのエコー信号を受信する超音波トランスデューサが配された超音波プローブを有し、エコー信号をディジタル化した音線データから超音波画像を生成しこれを表示する超音波診断装置において、被検体の心臓の動きに基いた心電図信号の1周期内の2点に同期したタイミング信号を用いて、その2点における2フレーム分の音線データを取得し、その時間差のある2フレーム分の音線データから生体組織の歪みを算出し、それに基く硬さを定量的に表す弾性画像を表示することが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−145691号公報
【特許文献2】特開2002−272743号公報
【特許文献3】特開2004−283547号公報
【特許文献4】特開2007−82725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、特許文献1,2を応用した特許文献3の技術によれば、物質の硬さの2次元的分布を精度よく得ることができる。しかしながら、特許文献1,2,3の技術のみでは、物質の硬さの3次元的分布を得ることができない。一方、特許文献4には、超音波技術と心電図技術を併用することで、心臓の硬さを示す弾性画像を表示することが開示されている。したがって、特許文献3の技術を用いれば、心臓の硬さの3次元的分布を求めることが可能である。しかしながら、特許文献3の技術では、心電図技術を用いているので、一般的な物質の硬さの3次元的分布を求めることができない。
【0008】
本発明の目的は、比較的簡単な構成で、物質の硬さと硬さが測定された深さとを関連付けることを可能とする物質の硬さ分布表示システム及び物質の硬さ分布表示方法を提供することである。他の目的は、比較的簡単な構成で、物質の硬さの3次元的分布を得ることを可能とする物質の硬さ分布表示システム及び物質の硬さ分布表示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る物質の硬さ分布表示システムは、被測定物質にパルス波を入射する振動子と、入射されたパルス波が被測定物質から反射されてくる反射波を受信する振動検出センサと、入射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める入射波周波数成分分析手段と、反射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める反射波周波数成分分析手段と、入射波のスペクトル分布と反射波のスペクトル分布とを比較し、分布を構成するそれぞれの周波数fxについて、その周波数fxの下の入射波の位相と反射波の位相との差である位相差θxを算出する周波数位相差算出手段と、周波数fxと位相差θxの組のデータに基いて被測定物質の硬さを算出する硬さ算出手段と、硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出する測定深さ算出手段と、硬さと測定深さとを対応付けて表示する表示手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示システムにおいて、振動子と振動検出センサとを1組とする探触素子が2次元的に配置され、硬さ算出手段は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における硬さをそれぞれ算出して硬さの2次元的分布を求め、測定深さ算出手段は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における測定深さをそれぞれ算出して測定深さの2次元的分布を求め、表示手段は、被測定物質について、硬さの2次元分布と測定深さの2次元分布とを対応付けて3次元的な硬さ分布を表示することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示システムにおいて、各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶する記憶手段を備え、硬さ算出手段は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、測定深さ算出手段は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、表示手段は、記憶手段から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示する測定深さ2次元表示手段と、読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示する硬さ2次元表示手段と、を含み、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示システムにおいて、硬さ算出手段は、任意の周波数の振動を入射したときの入射波の周波数に対する反射波の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めて記憶する記憶手段と、基準伝達関数を用いて、周波数fxと位相差θxとを入力し、位相差θxをゼロにするときの周波数のfxからの変化であるdfを求める周波数変化量検出部と、予め求められている硬さ−df特性に基いて、周波数変化量検出部によって求められたdfを硬さに換算する硬さ換算手段と、を含むことが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示システムにおいて、硬さ算出手段は、最大位相差θx(MAX)と、最大位相差のときの周波数fx(MAX)との組に基いて、被測定物質の硬さを算出することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示方法は、振動子によって被測定物質にパルスとして入射された入射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める入射波周波数成分分析工程と、振動検出センサによって検出された被測定物質からの反射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める反射波周波数成分分析工程と、入射波のスペクトル分布と反射波のスペクトル分布とを比較し、分布を構成するそれぞれの周波数fxについて、その周波数fxの下の入射波の位相と反射波の位相との差である位相差θxを算出する周波数位相差算出工程と、周波数fxと位相差θxの組のデータに基いて被測定物質の硬さを算出する硬さ算出工程と、硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出する測定深さ算出工程と、硬さと深さとを対応付けて表示する表示工程と、を含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示方法において、振動子と振動検出センサとを1組とする探触素子が2次元的に配置され、硬さ算出工程は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における硬さをそれぞれ算出して硬さの2次元的分布を求め、測定深さ算出工程は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における測定深さをそれぞれ算出して測定深さの2次元的分布を求め、表示工程は、被測定物質について、硬さの2次元分布と測定深さの2次元分布とを対応付けて3次元的な硬さ分布を表示することが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示方法において、各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶する記憶装置を用い、硬さ算出工程は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、測定深さ算出工程は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、表示工程は、記憶装置から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示する測定深さ2次元表示工程と、読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示する硬さ2次元表示工程と、を含み、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成により、物質の硬さ分布表示システムは、被測定物質にパルス波を入射し、反射されてくる反射波を受信し、入射波と反射周波数分析を行ない、その結果に基いて被測定物質の硬さを算出する。この技術は、特許文献2に開示されるものの応用である。そして、硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出し、硬さと測定深さとを対応付けて表示する。このようにして、比較的簡単な構成で、物質の硬さと硬さが測定された測定深さとを関連付けて表示することが可能となる。
【0018】
また、物質の硬さ分布表示システムにおいて、パルス入射手段とパルス受信手段とを1組とするパルス送受信手段が2次元的に配置されるので、硬さの2次元分布が得られる。そして、2次元的に配置されたパルス送受信手段による各入射波と各反射波とに基いて、硬さを測定した箇所の深さの2次元的分布が算出でき、これを硬さの2次元的分布と組み合わせて表示することで、硬さの3次元的分布を表示することができる。
【0019】
また、物質の硬さ分布表示システムにおいて、各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶し、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、そして、記憶手段から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示し、読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示し、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示する。このように、探触素子の識別アドレスを用いて対応付けを行うので、正確な硬さの3次元分布表示となる。
【0020】
また、物質の硬さ分布表示システムにおいて、硬さ算出手段は、任意の周波数の振動を入射したときの入射波の周波数に対する反射波の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めて記憶し、この基準伝達関数を用いて、周波数fxと位相差θxとを入力し、位相差θxをゼロにするときの周波数のfxからの変化であるdfを求める周波数変化量検出部と、予め求められている硬さ−df特性に基いて、周波数変化量検出部によって求められたdfを硬さに換算する。この技術は特許文献2に開示されるものの応用である。したがって、既に実績のある技術を用いて、硬さと深さとを精度よく関連付けて表示することができる。
【0021】
また、物質の硬さ分布表示システムにおいて、最大位相差θx(MAX)と、最大位相差のときの周波数fx(MAX)との組に基いて、被測定物質の硬さを算出する。fx(MAX)とθx(MAX)は、代表的な特性として考えられるので、算出された硬さは代表的な値として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、被測定物質として、生体組織、特に生体の内部における硬さの異なる異変部を説明するが、生体組織以外の一般的な物質であってもよい。以下で説明する材料、形状、寸法は例示であって、使用目的に応じ、これらの内容を適宜変更できる。
【0023】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0024】
図1は、物質の硬さ分布表示システム10の構成を示す図である。物質の硬さ分布表示システム10は、複数の探触素子22が2次元的に配置されたプローブ部20と、プローブ部20と接続されて、測定されたデータに基いて硬さの3次元的表示100を行う制御装置40とを含んで構成される。
【0025】
プローブ部20は、円板状のプローブ基体部と、プローブ基体部から延びて、手で把持されるつかみ部とから構成され、プローブ基体部には、生体の表面に圧接される複数の探触素子22が2次元的に配置される。図1の例では、探触素子22が合計37個2次元的に配置されている。勿論、探触素子22の数は、適当に2次元的配置を構成するものであれば、これ以外であっても構わない。
【0026】
探触素子22のそれぞれには識別アドレスとしての番号が付される。個々の識別アドレスは、プローブ部20に予め設定された2次元座標系についての座標位置値が求められていて、制御装置40における適当なメモリに記憶されている。2次元座標系としては、例えば、プローブ基体部からつかみ部に延びる中心線に平行な方向をY軸とし、これに直交する方向をX軸とし、その両軸で構成されるXY平面をプローブ基体部の探触素子22が配列される平面にとって、プローブ基体部の適当な位置をXY平面の原点とすることができる。原点位置は、予め目印マークをつけておくことが好ましい。例えば、探触素子22の特定の1つを原点位置として、その探触素子22に特別な色を付すものとできる。
【0027】
プローブ基体部の大きさの一例は、直径が約60mm、厚みが約20mm程度、つかみ部の大きさの一例は、プローブ基体部にあわせて、厚みを約20mmとし、取っ手部の幅を約45mm、長さを約100mm程度とすることができる。探触素子22を除いて、プローブ部20は、適当なプラスチック成形品を用いることができる。
【0028】
図2は、プローブ部20を被測定物質としての生体組織16に押し付けた状態を説明する図である。ここでは、生体組織16の内部に硬さの異なる異変部としてしこりの部分18があるものとして示されている。図2に示されるように、プローブ部20は、複数の探触素子22が生体組織16に適当に押し付けることで、プローブ基体部を移動させなくても、押し付けた状態のままで、プローブ基体部の広さの2次元的広がりの領域について測定を行うことができる。
【0029】
図2には、さらに、1つの探触素子22が生体組織16に押し付けられた状態の拡大図が示されている。探触素子22は、生体組織16内に振動を入射し、生体組織16内からの反射波を検出する機能を有する素子である。入射波と反射波は同じ弾性特性を有する部分を往復するときは、その往復する部分の弾性特性に対する応答が相殺されるので、生体組織16内で弾性特性の異なる部分、図2でしこりの部分18に対して振動が入射し、これから反射するときの応答のみが検出されることになる。
【0030】
その意味から、探触素子22は、生体組織16に押し付けられたときには、生体組織16の内部の異変部であるしこりの部分18に振動を入射し、底からの反射波を検出する機能を有するものとして働く。なお、探触素子22が生体組織16に接触しないときには、生体組織16までの空気の空間が同じ弾性特性を有する往復部分となるので、生体組織16そのものに振動を入射し、そこからの反射波を検出する機能を有することになる。
【0031】
探触素子22は、ベース部24と、振動子26と、振動検出センサ28と、接触ボール30が積層された構造を有する。ベース部24は、プローブ部20のプローブ基体部に各探触素子22を取り付けるための基台で、適当な大きさの円板を用いることができる。例えば直径10mm、厚さ数mm程度のプラスチック円板等を用いることができる。接触ボール30は、例えばナイロン樹脂等のプラスチック樹脂で成形され、その半球状の表面で生体組織にスムーズに圧接する機能を有する部材である。半球の半径は、例えば5mm程度を用いることができる。
【0032】
振動子26と、振動検出センサ28は、例えば圧電素子を用い、交流信号を印加することでその交流信号の周波数で機械的な振動を生じさせる電気−機械変換機能を振動子26として、振動を加えることでその振動の周波数の交流信号を生じさせる機械−電気変換機能を振動検出センサ28として利用することができる。具体的には、PZT等の圧電素子の円板に電極を設けたものをそれぞれ振動子26、振動検出センサ28として用いることができる。
【0033】
振動子26と振動検出センサ28を積層する場合、2個の圧電素子を直列に接続し、接続点を接地し、一方の圧電素子を振動子26として用い、他方の圧電素子を振動検出センサ28として用いることができる。図2では、この共通接続点である接地の図示が省略されている。振動子26には、信号線32が接続され、後述するように、制御装置40のパルス波発生器60からパルス駆動信号が供給される。これによって振動子26は超音波の入射波を発生し、生体組織16の内部に向けて入射される。振動検出センサ28は、生体組織16の内部からの反射波を検出し、信号線34に反射波信号として出力する。信号線32,34は、プローブ基体部とつかみ部の内部を通り、適当なケーブルで制御装置40に伝送される。
【0034】
図3は、物質の硬さ分布表示システム10の信号の流れを説明するブロック図である。硬さ分布表示システム10は、上記のようにプローブ部20と制御装置40とで構成され、これらの間は、各探触素子22ごとの信号線32,34によって接続される。
【0035】
制御装置40は、切替回路50と、切替回路50を作動させてプローブ部20の複数の探触素子22を順次選択する走査部54と、切替回路50を介して選択された1つの探触素子22の振動子26に駆動信号を供給するパルス波発生器60と、切替回路50を介して選択された1つの探触素子22についての入射波信号と反射波信号とに基いてしこりの部分18の硬さを算出する硬さ算出部70と、硬さを算出した部位の深さを算出する測定深さ算出部82とを含んで構成される。
【0036】
また、制御装置40は、硬さ算出部70から算出されたデータと、測定深さ算出部82から算出されたデータを収集して記憶するデータ収集部84と、収集されたデータに基いて、硬さの2次元的分布と深さの2次元的分布とを関連付けて3次元的に表示するように座標変換処理等の表示処理を行う表示処理部86と、これを硬さの3次元的表示100として表示する表示部88と、制御装置40を構成する各要素の動作を全体として統合して制御する統括制御部90を含んで構成される。
【0037】
かかる制御装置40は、適当なコンピュータで構成することができ、上記各構成要素のうち、パルス波発生器60と切替回路50を除いて、その他の機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、物質の硬さ分布表示プログラムを実行することで実現できる。勿論、ソフトウェアで実現される機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0038】
切替回路50は、パルス波発生器60と硬さ算出部70と測定深さ算出部82とに接続される探触素子22を選択する機能を有する選択スイッチ回路である。すなわち、各振動子26からの信号線32、各振動検出センサ28からの信号線34を、複数のスイッチ52により順次切り替えて、信号線32にはパルス波発生器60を接続し、信号線34と信号線32に硬さ算出部70と測定深さ算出部82とを接続する機能を有するスイッチ回路である。順次切替を容易にするために、各探触素子22には、探触素子アドレスが設けられる。
【0039】
パルス波発生器60は、市販のパルス波発生器を用いることができる。パルス波のパルス幅は、振動子26の1次固有振動数が1MHzとすると、1/400kHzの数倍程度を用いるのが好ましい。あるいは、400kHzを重畳した矩形パルスを用いてもよい。
【0040】
パルス波発生器60の出力は、信号線42に接続される。信号線42は、切替回路50を介し、各振動子26の入力端子に接続される。つまり、パルス波発生器60からのパルス波は、切替回路50による各探触素子22の順次選択に従って各振動子26から生体組織16の内部に入射されるとともに、図3に示されるように、硬さ算出部70と測定深さ算出部82に入力される。なお、生体組織16の内部からの反射波は、各振動検出センサ28により検出され、切替回路50を介し、信号線44により硬さ算出部70と測定深さ算出部82に入力される。このように、硬さ算出部70と、測定深さ算出部82には、生体組織16の内部に入射されるパルス波と、生体組織16の内部からの反射波とが入力される。
【0041】
パルス波発生器60の出力側に、パルス波の出力を規制するゲート回路等を設け、切替回路50の切り替えに連動させて、1個のパルス波を出力することが好ましい。また、パルス波発生器60より出力するパルス波の繰り返し周波数を、切替回路50の切り替え周波数と同じにして、ゲート回路等を省略することもできる。
【0042】
硬さ算出部70は、切替回路50により選択された各探触素子22について、振動子26の信号入力端の信号、すなわち信号線32または信号線42の信号、および、振動検出センサ28の信号出力端の信号、すなわち信号線34または信号線44の信号とに基づいて、その探触素子22が接触する生体組織16の内部の異変部であるしこりの部分18の硬さを算出する回路である。
【0043】
算出された硬さデータは、各探触素子22ごとに対応付けられてデータ収集部84に送られる。対応付けには、例えば上記の探触素子アドレスを用いることができる。硬さ算出部70の内部構成の詳細については後述する。
【0044】
測定深さ算出部82は、切替回路50により選択された各探触素子22について、振動子26の信号入力端の信号、すなわち信号線32または信号線42の信号、および、振動検出センサ28の信号出力端の信号、すなわち信号線34または信号線44の信号とに基づいて、硬さ算出部70が硬さを算出した位置の深さである測定深さを算出する回路である。硬さ算出部70が硬さを算出した位置とは、その探触素子22が接触する生体組織16の内部の異変部であるしこりの部分18であるので、測定深さ算出部82と硬さ算出部70とは、同じ位置について、その測定深さと、硬さとを同時的に算出していることになる。
【0045】
測定深さデータは、探触素子22からの距離で算出されるが、探触素子22の外形寸法は予め分かっているので、これを探触素子22が生体組織16に接触した位置からの深さデータに換算することができる。ここでは、測定深さデータは、生体組織16の表面からの距離を示すものとして説明を続ける。算出された測定深さデータは、各探触素子22ごとに対応付けられてデータ収集部84に送られる。対応付けには、上記のように、探触素子アドレスを用いることができる。測定深さ算出の内容の詳細については後述する。
【0046】
データ収集部84は、各探触素子22ごとに、その硬さデータと、測定深さデータとを対応付けて記憶する記憶装置である。対応付けには上記の探触素子アドレスを用い、探触素子アドレスごとにその硬さデータと測定深さデータとを配列して記憶することができる。
【0047】
表示処理部86は、データ収集部84から必要なデータを読み出し、硬さの3次元表示をするための信号処理を行う回路である。具体的には、硬さの2次元的分布データと、測定深さの2次元的データとに基づいて、同じ測定深さにおける硬さの2次元的データとして整理する。必ずしも同じ測定深さにおける硬さデータがないが、その前後の測定深さにおける硬さデータがある場合には、内挿または外挿による補間を行って、その測定深さにおける硬さデータを求めるものとしてよい。このようにして、例えば、測定深さの予め設定された間隔で、各測定深さにおける硬さデータがまとめられるので、これを画像としての表示に適した処理を施す。
【0048】
例えば、基準座標系に沿って硬さ分布を表示する処理を行う。これによってしこりの部分18の形状の表示に適したものとできる。例えば、硬さの等高線表示とし、あるいは硬さに応じた配色表示とし、あるいは硬さに応じた色の濃淡表示とする処理を行なうことができる。これらによって、しこりの部分18における異変の程度の表示に適したものとできる。また、深さごとの硬さの2次元的データを集約して、3次元座標で硬さの3次元的表示とすることができる。これによって、しこりの部分18の3次元的外形の表示および、3次元的に異変部の位置の表示に適したものとできる。また、適当な統計処理等を行って、硬さの平均値、硬さ分布グラフ等を表示するものとしてもよい。
【0049】
表示処理されたデータは、表示部88に出力される。表示部88は制御装置40のディスプレイまたはこれに接続されるプリンタ等である。図1には、測定深さごとの2次元硬さ分布の集合として、硬さの3次元的表示100が行われている様子が示されている。また、制御装置40に外部との信号伝達を行うインタフェイスを設け、表示処理されたデータを外部の診断装置等に出力し、さらに詳細な解析を進めるものとしてもよい。
【0050】
上記のように、硬さ算出部70と測定深さ算出部82には、いずれにも、各探触素子22における入射波のデータと反射波のデータが入力される。つまり、同じデータを用いて、一方で硬さを算出し、他方で測定深さを算出する。図4を用いてその様子を説明する。図4は、1つの探触素子22に入力された入射波信号92と、その入射波信号92が生体組織16の内部から反射された反射波信号94の様子を横軸に時間、縦軸に信号の大きさを示す電圧で示したものである。入射波信号92はパルス波として入射されるので、反射波が来るまで次のパルス波を入射しないことにすれば、入射波信号92と反射波信号94とを正確に対応付けできる。
【0051】
硬さ算出部70は、この入射波信号92と反射波信号94についてそれぞれ周波数fと位相θについての周波数分析を行い、その結果に基いて入射波が反射されて反射波として戻されたしこりの部分18の硬さを算出する。図4では、入射波信号92の波形の状態を(f,θ)1として示され、反射波信号94の波形の状態が(f,θ)2として示されているが、硬さ算出部70は、この(f,θ)1と(f,θ)2とに基いて、しこりの部分18の硬さを算出する。
【0052】
測定深さ算出部82は、この入射波信号92と反射波信号94についてそれぞれパルスの時間的位置を求め、その差から、しこりの部分18の測定深さを算出する。図4では、入射波信号92の時間的位置をt1とし、反射波信号94の時間的位置をt2として示されているが、測定深さ算出部82は、この時間的位置t1とt2とに基いて、しこりの部分18の測定深さを算出する。
【0053】
次に硬さ算出部70の詳細を説明する。図5は、硬さ算出部70のブロック図である。硬さ算出部70は、入力データとして、信号線42からの入射波信号92と、信号線44からの反射波信号94が与えられる。これらの信号は、増幅器72によって適切な信号レベルに増幅され、それぞれ周波数成分分析部74に入力される。
【0054】
周波数成分分析部74は、その入射波、反射波の周波数成分分析を行い、入射波、反射波それぞれにつき、複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析し、各正弦波成分の周波数と、その周波数における正弦波成分と余弦波成分との比率から定まる位相との関係を求める。この周波数に対する位相との関係が、いわゆる周波数に対する位相スペクトル分布である。したがって、周波数成分分析部74は、入射波信号92の周波数に対する位相スペクトル分布と、反射波信号94の周波数に対する位相スペクトル分布を求める機能を有する。周波数性分析は一般にフーリエ解析と呼ばれる手法を用いることができる。
【0055】
図6に、周波数成分分析を行って得られた入射波信号92および反射波信号94の周波数に対する位相スペクトル分布の例を示す。図6(a)は入射波信号92に対するもの、図6(b)は、反射波信号94に対するものであり、これらの図において横軸は周波数f、縦軸はゲインまたは位相θである。ゲインデータは線分の長さで示され、位相θのデータは丸印で示されている。図6(a)と(b)とは横軸の周波数の原点位置をそろえてあるが、このように、同じ周波数において、入射波信号92の位相と反射波信号94の位相とは異なった値を示している。この値の相違が、しこりの部分18の硬さを反映していることになる。このようにして求められた入射波信号92、反射波信号94の周波数に対する位相スペクトル分布は、位相差算出部76に入力される。
【0056】
位相差算出部76は、入射波信号92の位相スペクトル分布と反射波信号94の位相スペクトル分布とを比較し、入射波信号92と反射波信号94との間の周波数成分の変化を表すものとして、それぞれの周波数fxについて、その入射波信号92の位相と反射波信号94の位相の差である位相差θxを算出する機能を有する。
【0057】
図7に位相差θxを求める様子を示す。図7は、図6で得られた入射波信号92の位相スペクトル分布と反射波信号94の位相スペクトル分布のデータを、横軸に周波数fxをとり、縦軸に同じ周波数における反射波信号94の位相θ2と入射波信号92の位相θ1の差である位相差(θ2−θ1)である位相差θxをとったものである。このように、複数のfxとθxの組の集合自体を、そのまま、入射波信号92と反射波信号94との間の周波数成分の変化を表すものとして用いることができるが、分かりやすい指標としては、位相差θxが最大値θx(MAX)となる周波数fx(MAX)と、そのθx(MAX)との組を、しこりの部分18の硬さを表す入射波信号92と反射波信号94との間の周波数成分の変化を表す代表として用いることができる。以下では、このfx(MAX)とθx(MAX)とを用いるものとする。
【0058】
求められた周波数fx(MAX)と位相差θx(MAX)のデータは、周波数変化量検出部78に入力される。周波数変化量検出部78は、入射波信号92の周波数に対する反射波信号94の振幅ゲイン及び位相差の関係を表す基準伝達特性曲線を用い、周波数fx(MAX)における位相差θx(MAX)について、周波数を変化させることで位相差θx(MAX)をゼロにシフトさせるための周波数変化量dfを算出する機能を有する。周波数変化量算出の機能は、位相差を補償するのに要する周波数の変化をもとめるので、いわば位相差補償演算機能ということもできる。
【0059】
図8は、周波数変化量検出部78の作用を説明する図である。図8は、横軸が周波数、縦軸が振幅ゲインと位相を相対値で示すもので、基準伝達特性曲線として、共振周波数で振幅ゲインが最大となるバンドパス特性を示すものが示されている。かかる基準伝達特性曲線は、ハードウェアあるいはソフトウェアを用いてバンドパスを生成する技術で生成できる。基準伝達特性曲線は、位相の変化を周波数の変化に換算する換算曲線であり、その曲線自体は、位相と周波数の換算比をどの程度にしたいかで設計することができる。
【0060】
この基準伝達特性曲線を用いて位相差補償演算を行うには、まず、周波数fx(MAX)および位相差θx(MAX)をこの基準伝達特性曲線上に求め、ここから位相差θx(MAX)分を位相差特性曲線上で移動させてそれに対応する周波数変化量dfを求めるようにする。このようにすることで、位相差θx(MAX)をゼロにするときの周波数変化量がdfとして求められる。
【0061】
周波数と位相差のデータは、生体組織16の内部におけるしこりの部分18の硬さに対応する物質特性を反映している。そのなかで、最も位相差の変化が大きい周波数fx(MAX)とその最大位相差θx(MAX)は、測定対象である生体組織16の内部のしこりの部分18の硬さを特に代表しているものと考えられる。したがって、最大位相差θx(MAX)をゼロにシフトさせるための周波数変化量dfを算出し、これをもって生体組織16の内部のしこりの部分18の硬さを代表する特性値とすることができる。
【0062】
上記周波数成分分析部74、位相差算出部76(周波数位相差特定)、周波数変化量検出部78(位相差補償演算)のさらに詳細な内容については、特開2002−272743号公報に述べられている。
【0063】
硬さ変換器80は、周波数変化量dfを生体組織の硬さに変換する機能を有する。周波数変化量dfを生体組織の硬さに変換するには、較正テーブル等を用いることができる。較正テーブルは、硬さの基準とできる基準物質を探触素子22の接触ボール30の先端に押し当て、上記で述べた手順のように、パルス波を入射し、反射波を検出して周波数成分分析を行い、そのときの周波数変化を得ることで作成できる。
【0064】
図9は、硬さの基準として、硬さの異なる30mm厚みのゼラチンを用いて、せん断弾性係数Gとdfとの関係を求めた例を示すものである。図9に示されるように、硬さを表すGと図5で述べた手順で求められる周波数変化量dfとの間にきれいな線形関係があることが分かる。このような結果を、周波数変化量dfを硬さに換算するための較正特性線、あるいは較正テーブルとして用いることができる。
【0065】
硬さ変換器80の出力は、図3で述べたように、探触素子22のアドレスに対応付けてデータ収集部84に供給される。
【0066】
次に測定深さ算出部82の内容を説明する。測定深さ算出部82は、図4で説明したように、入射波信号92の時間的位置t1と反射波信号94の時間的位置t2とに基き、超音波の生体組織16の内部における伝播速度vを用いて、しこりの部分18の測定深さを求める。入射波信号92、反射波信号94のそれぞれの時間的位置t1,t2の検出は、例えば、図10の電圧−時間特性に示されるように、最大ピーク検出によって行うことができる。
【0067】
最大ピーク検出は、適当な電圧閾値と、信号の微分処理等を用いることで行うことができる。すなわち、入射波信号92、反射波信号94の振幅である電圧値に適当な閾値を設定することで、それぞれについて最大ピークのみを選び出すことができる。選び出された最大ピークの波形について微分処理を行い、ゼロクロス点を求めることでピーク検出を行うことができる。検出された時間を、入射波信号92の時間的位置t1と反射波信号94の時間的位置t2とすることができる。
【0068】
次に、硬さの3次元表示を具体的に得る手順について詳細に説明する。図11と図12は、3次元表示を行うときの手順を示すフローチャートである。これらの手順は、制御装置40のCPUによって実行される物質の硬さ分布表示プログラムの処理手順に相当する。図11は、硬さ算出部70、測定深さ算出部82、データ収集部84に関係する手順を示し、図12は、表示処理部86、表示部88に関係する手順を示す。
【0069】
硬さの3次元表示を行うには、プローブ部20を生体組織16に押し付け、各探触素子22のそれぞれについて硬さと測定深さとを順次測定することが実行される。順次測定は、探触素子22の識別アドレスを用いて行われる。図11において、探触素子22の識別アドレス番号をiとしたときに、このiを1から順に増加させ、iの最大値であるiMAX=37まで、硬さ測定と測定深さを測定する手順が示される。
【0070】
すなわち、i=1を初期状態として設定する(S10)。この設定で、切替回路50は、識別アドレスi=1の探触素子22をパルス波発生器60に接続する(S12)。これによって、その探触素子22の振動子26にパルス波が供給され、生体組織16の内部に向かって超音波のパルス波が入射される。また、その探触素子22は硬さ算出部70と測定深さ算出部82に接続されるので、図4から図10に関連して説明した方法で、入射波信号92と反射波信号94を用いて、硬さHiと測定深さZiとがそれぞれ測定される(S14,S16)。測定された結果は、識別アドレスi=1に対応付けられ、硬さH1と測定深さZ1としてデータ収集部84に伝送され記憶される。
【0071】
次に識別アドレスiの番号を1進ませ(S20)、進ませた番号がiMAX+1を超えないか否かを判断し(S22)、超えないときはまだ全部の探触素子22の測定が終了していないものとして、S12に戻り、上記の測定を繰り返す。このようにして、全部の探触素子22について、硬さと測定深さを順次測定される。そして、データ収集部84には、全部の探触素子22について、硬さHiと測定深さZiが識別アドレスiに対応付けて記憶される。
【0072】
図12には、データ収集部84に記憶されるデータに基いて生体組織16の内部のしこりの部分18についての硬さの3次元的分布を表示する手順が示されている。制御装置40には、予め、全部の探触素子22について、その識別アドレスiと、その探触素子22の2次元座標系における座標位置(Xi,Yi)との関係が適当なメモリに記憶される(S30)。この関係データは、物質の硬さ分布表示システム10において、プローブ部20を設定したときに制御装置40の入力部から予め入力されること等によって記憶されるものとできる。
【0073】
そして、3次元的硬さ分布表示を行うには、データ収集部84から、探触素子22の識別アドレスiを検索キーとして、硬さHiと測定深さZiとを読み出す(S32)。そして、制御装置40のメモリから、その識別アドレスiの2次元座標位置(Xi,Yi)を読み出す(S34)。これによって、2次元座標系の座標(Xi,Yi)と、その位置における硬さHiと測定深さZiが対応付けられて読み出されたことになる。
【0074】
次に、2次元座標系の座標(Xi,Yi)と、その位置における測定深さZiのデータを用い、iを1から37まで順に、2次元座標系でZiの分布をマップ化して画像で表示する処理を行う(S36)。この処理は、生体組織16の内部のしこりの部分18の外形を画像化することに相当する。図13には、37組の(Xi,Yi,Zi)を滑らかに結んで得られる測定深さ分布102が示されている。この例では、超音波パルスが生体組織16の内部に入射して反射してくる測定深さの分布が鞍形の面形状を有していることが示される。
【0075】
次に、2次元座標系の座標(Xi,Yi)と、その位置における硬さHiのデータを用い、iを1から37まで順に、2次元座標系でHiの分布をマップ化して画像で表示する処理を行う(S38)。この処理は、各探触素子22が生体組織16の内部のしこりの部分18の硬さを測定した結果をその探触素子22の位置と関係付けて画像化したものに相当する。硬さHiの大きさを画像化するには、例えばHiの大きさに応じて色相を変える、色の濃淡を変える等の方法を用いることができる。図13には、硬さHiを斜線の密度で表すこととして、37組の(Xi,Yi,Hi)を密度の異なる斜線の分布で表した硬さ分布104が示されている。
【0076】
このようにして、2次元座標系における測定深さ分布102と、同じ2次元座標系における硬さ分布104が得られると、この2つについて座標(Xi,Yi)を共通として重畳させてマップ化することで、硬さの3次元的分布が得られる(S40)。図13には、このようにして得られる硬さの3次元的分布106が示されている。
【0077】
なお、図13に示される硬さの3次元的分布106のデータを適当に加工することで、図1に示されるように、測定深さごとの2次元硬さ分布の集合として、硬さの3次元的表示100を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る実施の形態における物質の硬さ分布表示システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、プローブ部を生体組織に押し付けた状態を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態における物質の硬さ分布表示システム10の信号の流れを説明するブロック図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、同じ入射波信号と反射波信号とを用いて硬さと測定深さを求める様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態における硬さ算出部のブロック図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、周波数成分分析を行って得られた入射波信号および反射波信号の周波数に対する位相スペクトル分布の例を示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、位相差θxを求める様子を示す図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、周波数変化量検出部の作用を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、硬さを表すせん断弾性係数と周波数変化量との関係を求めた例を示す図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、測定深さ算出の様子を示す図である。
【図11】本発明に係る実施の形態において、硬さの3次元的表示を行うためのデータ収集の手順を示すフローチャートである。
【図12】本発明に係る実施の形態において、データ収集に基いて硬さの3次元的表示を行うための手順を示すフローチャートである。
【図13】本発明に係る実施の形態において、測定深さ分布、硬さ分布、硬さの3次元的分布を求める様子を説明する図である。
【符号の説明】
【0079】
10 物質の硬さ分布表示システム、16 生体組織、18 しこりの部分、20 プローブ部、22 探触素子、24 ベース部、26 振動子、28 振動検出センサ、30 接触ボール、32,34,42,44 信号線、40 制御装置、50 切替回路、52 スイッチ、54 走査部、60 パルス波発生器、70 硬さ算出部、72 増幅器、74 周波数成分分析部、76 位相差算出部、78 周波数変化量検出部、80 硬さ変換器、82 測定深さ算出部、84 データ収集部、86 表示処理部、88 表示部、90 統括制御部、92 入射波信号、94 反射波信号、100,106 硬さの3次元的表示、102 測定深さ分布、104 硬さ分布。
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の硬さ分布表示システム及び物質の硬さ分布表示方法に係り、特に、生体の硬さと硬さが測定された測定深さとの関係を表示できる物質の硬さ分布表示システム及び物質の硬さ分布表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の硬さを評価する技術として超音波を用いる方法が知られている。さらに本願発明者は、物質の硬さの相違は超音波の周波数の変化よりも位相の変化が大きいが、位相測定技術の精度が必ずしも高くないことを考慮し、位相変化を周波数変化に変換する仕組みを
考案し、特許文献1において開示した。この技術は、物質に超音波を入射する振動子と物質からの反射波を検出する振動検出センサと、振動検出センサの信号出力端に入力端が接続された増幅器と、増幅器の出力端と振動子の信号入力端との間に設けられ、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形との間に位相差が生じるときは、周波数を変化させて前記位相差をゼロにシフトする位相シフト回路と、位相差をゼロにシフトさせるための周波数変化量を検出する周波数変化量検出手段とを含む構成である。ここでは、周波数変化量検出手段において、硬さの相違による位相差をゼロにシフトさせてこれを周波数変化量に変換している。この変換は、周波数に対する反射波の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めておいてこれを用いている。
【0003】
また、この技術を発展させたものとして、特許文献2には物質の特性測定装置として、パルス入射手段、パルス受信手段からなるセンサを備え、その入射波、反射波の周波数分析を行い、その入射波、反射波のスペクトル分布を比較して、それぞれの周波数fxにおける入射波の位相と反射波の位相の差である位相差θxとを特定し、そのfxとθxを入力して予め求めておいた基準伝達特性曲線を用いて演算し、入力されたθxをゼロにするときの周波数の変化dfから物質の硬さを求めることが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、特許文献1,2の技術を応用した生体のしこり検査装置として、生体組織に振動を入射する振動子、反射波を検出する振動検出センサを含む複数の探触素子を備え、各探触素子は、硬さ算出切替回路により順次選択されて硬さ算出部に接続される構成が開示されている。そして、各探触素子に対応してそれぞれ圧力センサが設けられ、押し付け圧が所定の範囲にある探触素子の硬さデータが表示部に2次元的に表示されてしこりが検査されることが述べられている。
【0005】
また、本願発明者以外の考案として、特許文献4には、被検体の被観察部位に向けて超音波を照射し、被検体の被観察部位からのエコー信号を受信する超音波トランスデューサが配された超音波プローブを有し、エコー信号をディジタル化した音線データから超音波画像を生成しこれを表示する超音波診断装置において、被検体の心臓の動きに基いた心電図信号の1周期内の2点に同期したタイミング信号を用いて、その2点における2フレーム分の音線データを取得し、その時間差のある2フレーム分の音線データから生体組織の歪みを算出し、それに基く硬さを定量的に表す弾性画像を表示することが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−145691号公報
【特許文献2】特開2002−272743号公報
【特許文献3】特開2004−283547号公報
【特許文献4】特開2007−82725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、特許文献1,2を応用した特許文献3の技術によれば、物質の硬さの2次元的分布を精度よく得ることができる。しかしながら、特許文献1,2,3の技術のみでは、物質の硬さの3次元的分布を得ることができない。一方、特許文献4には、超音波技術と心電図技術を併用することで、心臓の硬さを示す弾性画像を表示することが開示されている。したがって、特許文献3の技術を用いれば、心臓の硬さの3次元的分布を求めることが可能である。しかしながら、特許文献3の技術では、心電図技術を用いているので、一般的な物質の硬さの3次元的分布を求めることができない。
【0008】
本発明の目的は、比較的簡単な構成で、物質の硬さと硬さが測定された深さとを関連付けることを可能とする物質の硬さ分布表示システム及び物質の硬さ分布表示方法を提供することである。他の目的は、比較的簡単な構成で、物質の硬さの3次元的分布を得ることを可能とする物質の硬さ分布表示システム及び物質の硬さ分布表示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る物質の硬さ分布表示システムは、被測定物質にパルス波を入射する振動子と、入射されたパルス波が被測定物質から反射されてくる反射波を受信する振動検出センサと、入射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める入射波周波数成分分析手段と、反射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める反射波周波数成分分析手段と、入射波のスペクトル分布と反射波のスペクトル分布とを比較し、分布を構成するそれぞれの周波数fxについて、その周波数fxの下の入射波の位相と反射波の位相との差である位相差θxを算出する周波数位相差算出手段と、周波数fxと位相差θxの組のデータに基いて被測定物質の硬さを算出する硬さ算出手段と、硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出する測定深さ算出手段と、硬さと測定深さとを対応付けて表示する表示手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示システムにおいて、振動子と振動検出センサとを1組とする探触素子が2次元的に配置され、硬さ算出手段は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における硬さをそれぞれ算出して硬さの2次元的分布を求め、測定深さ算出手段は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における測定深さをそれぞれ算出して測定深さの2次元的分布を求め、表示手段は、被測定物質について、硬さの2次元分布と測定深さの2次元分布とを対応付けて3次元的な硬さ分布を表示することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示システムにおいて、各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶する記憶手段を備え、硬さ算出手段は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、測定深さ算出手段は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、表示手段は、記憶手段から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示する測定深さ2次元表示手段と、読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示する硬さ2次元表示手段と、を含み、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示システムにおいて、硬さ算出手段は、任意の周波数の振動を入射したときの入射波の周波数に対する反射波の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めて記憶する記憶手段と、基準伝達関数を用いて、周波数fxと位相差θxとを入力し、位相差θxをゼロにするときの周波数のfxからの変化であるdfを求める周波数変化量検出部と、予め求められている硬さ−df特性に基いて、周波数変化量検出部によって求められたdfを硬さに換算する硬さ換算手段と、を含むことが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示システムにおいて、硬さ算出手段は、最大位相差θx(MAX)と、最大位相差のときの周波数fx(MAX)との組に基いて、被測定物質の硬さを算出することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示方法は、振動子によって被測定物質にパルスとして入射された入射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める入射波周波数成分分析工程と、振動検出センサによって検出された被測定物質からの反射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める反射波周波数成分分析工程と、入射波のスペクトル分布と反射波のスペクトル分布とを比較し、分布を構成するそれぞれの周波数fxについて、その周波数fxの下の入射波の位相と反射波の位相との差である位相差θxを算出する周波数位相差算出工程と、周波数fxと位相差θxの組のデータに基いて被測定物質の硬さを算出する硬さ算出工程と、硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出する測定深さ算出工程と、硬さと深さとを対応付けて表示する表示工程と、を含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示方法において、振動子と振動検出センサとを1組とする探触素子が2次元的に配置され、硬さ算出工程は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における硬さをそれぞれ算出して硬さの2次元的分布を求め、測定深さ算出工程は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における測定深さをそれぞれ算出して測定深さの2次元的分布を求め、表示工程は、被測定物質について、硬さの2次元分布と測定深さの2次元分布とを対応付けて3次元的な硬さ分布を表示することが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る物質の硬さ分布表示方法において、各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶する記憶装置を用い、硬さ算出工程は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、測定深さ算出工程は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、表示工程は、記憶装置から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示する測定深さ2次元表示工程と、読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示する硬さ2次元表示工程と、を含み、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成により、物質の硬さ分布表示システムは、被測定物質にパルス波を入射し、反射されてくる反射波を受信し、入射波と反射周波数分析を行ない、その結果に基いて被測定物質の硬さを算出する。この技術は、特許文献2に開示されるものの応用である。そして、硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出し、硬さと測定深さとを対応付けて表示する。このようにして、比較的簡単な構成で、物質の硬さと硬さが測定された測定深さとを関連付けて表示することが可能となる。
【0018】
また、物質の硬さ分布表示システムにおいて、パルス入射手段とパルス受信手段とを1組とするパルス送受信手段が2次元的に配置されるので、硬さの2次元分布が得られる。そして、2次元的に配置されたパルス送受信手段による各入射波と各反射波とに基いて、硬さを測定した箇所の深さの2次元的分布が算出でき、これを硬さの2次元的分布と組み合わせて表示することで、硬さの3次元的分布を表示することができる。
【0019】
また、物質の硬さ分布表示システムにおいて、各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶し、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、そして、記憶手段から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示し、読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示し、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示する。このように、探触素子の識別アドレスを用いて対応付けを行うので、正確な硬さの3次元分布表示となる。
【0020】
また、物質の硬さ分布表示システムにおいて、硬さ算出手段は、任意の周波数の振動を入射したときの入射波の周波数に対する反射波の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めて記憶し、この基準伝達関数を用いて、周波数fxと位相差θxとを入力し、位相差θxをゼロにするときの周波数のfxからの変化であるdfを求める周波数変化量検出部と、予め求められている硬さ−df特性に基いて、周波数変化量検出部によって求められたdfを硬さに換算する。この技術は特許文献2に開示されるものの応用である。したがって、既に実績のある技術を用いて、硬さと深さとを精度よく関連付けて表示することができる。
【0021】
また、物質の硬さ分布表示システムにおいて、最大位相差θx(MAX)と、最大位相差のときの周波数fx(MAX)との組に基いて、被測定物質の硬さを算出する。fx(MAX)とθx(MAX)は、代表的な特性として考えられるので、算出された硬さは代表的な値として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、被測定物質として、生体組織、特に生体の内部における硬さの異なる異変部を説明するが、生体組織以外の一般的な物質であってもよい。以下で説明する材料、形状、寸法は例示であって、使用目的に応じ、これらの内容を適宜変更できる。
【0023】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0024】
図1は、物質の硬さ分布表示システム10の構成を示す図である。物質の硬さ分布表示システム10は、複数の探触素子22が2次元的に配置されたプローブ部20と、プローブ部20と接続されて、測定されたデータに基いて硬さの3次元的表示100を行う制御装置40とを含んで構成される。
【0025】
プローブ部20は、円板状のプローブ基体部と、プローブ基体部から延びて、手で把持されるつかみ部とから構成され、プローブ基体部には、生体の表面に圧接される複数の探触素子22が2次元的に配置される。図1の例では、探触素子22が合計37個2次元的に配置されている。勿論、探触素子22の数は、適当に2次元的配置を構成するものであれば、これ以外であっても構わない。
【0026】
探触素子22のそれぞれには識別アドレスとしての番号が付される。個々の識別アドレスは、プローブ部20に予め設定された2次元座標系についての座標位置値が求められていて、制御装置40における適当なメモリに記憶されている。2次元座標系としては、例えば、プローブ基体部からつかみ部に延びる中心線に平行な方向をY軸とし、これに直交する方向をX軸とし、その両軸で構成されるXY平面をプローブ基体部の探触素子22が配列される平面にとって、プローブ基体部の適当な位置をXY平面の原点とすることができる。原点位置は、予め目印マークをつけておくことが好ましい。例えば、探触素子22の特定の1つを原点位置として、その探触素子22に特別な色を付すものとできる。
【0027】
プローブ基体部の大きさの一例は、直径が約60mm、厚みが約20mm程度、つかみ部の大きさの一例は、プローブ基体部にあわせて、厚みを約20mmとし、取っ手部の幅を約45mm、長さを約100mm程度とすることができる。探触素子22を除いて、プローブ部20は、適当なプラスチック成形品を用いることができる。
【0028】
図2は、プローブ部20を被測定物質としての生体組織16に押し付けた状態を説明する図である。ここでは、生体組織16の内部に硬さの異なる異変部としてしこりの部分18があるものとして示されている。図2に示されるように、プローブ部20は、複数の探触素子22が生体組織16に適当に押し付けることで、プローブ基体部を移動させなくても、押し付けた状態のままで、プローブ基体部の広さの2次元的広がりの領域について測定を行うことができる。
【0029】
図2には、さらに、1つの探触素子22が生体組織16に押し付けられた状態の拡大図が示されている。探触素子22は、生体組織16内に振動を入射し、生体組織16内からの反射波を検出する機能を有する素子である。入射波と反射波は同じ弾性特性を有する部分を往復するときは、その往復する部分の弾性特性に対する応答が相殺されるので、生体組織16内で弾性特性の異なる部分、図2でしこりの部分18に対して振動が入射し、これから反射するときの応答のみが検出されることになる。
【0030】
その意味から、探触素子22は、生体組織16に押し付けられたときには、生体組織16の内部の異変部であるしこりの部分18に振動を入射し、底からの反射波を検出する機能を有するものとして働く。なお、探触素子22が生体組織16に接触しないときには、生体組織16までの空気の空間が同じ弾性特性を有する往復部分となるので、生体組織16そのものに振動を入射し、そこからの反射波を検出する機能を有することになる。
【0031】
探触素子22は、ベース部24と、振動子26と、振動検出センサ28と、接触ボール30が積層された構造を有する。ベース部24は、プローブ部20のプローブ基体部に各探触素子22を取り付けるための基台で、適当な大きさの円板を用いることができる。例えば直径10mm、厚さ数mm程度のプラスチック円板等を用いることができる。接触ボール30は、例えばナイロン樹脂等のプラスチック樹脂で成形され、その半球状の表面で生体組織にスムーズに圧接する機能を有する部材である。半球の半径は、例えば5mm程度を用いることができる。
【0032】
振動子26と、振動検出センサ28は、例えば圧電素子を用い、交流信号を印加することでその交流信号の周波数で機械的な振動を生じさせる電気−機械変換機能を振動子26として、振動を加えることでその振動の周波数の交流信号を生じさせる機械−電気変換機能を振動検出センサ28として利用することができる。具体的には、PZT等の圧電素子の円板に電極を設けたものをそれぞれ振動子26、振動検出センサ28として用いることができる。
【0033】
振動子26と振動検出センサ28を積層する場合、2個の圧電素子を直列に接続し、接続点を接地し、一方の圧電素子を振動子26として用い、他方の圧電素子を振動検出センサ28として用いることができる。図2では、この共通接続点である接地の図示が省略されている。振動子26には、信号線32が接続され、後述するように、制御装置40のパルス波発生器60からパルス駆動信号が供給される。これによって振動子26は超音波の入射波を発生し、生体組織16の内部に向けて入射される。振動検出センサ28は、生体組織16の内部からの反射波を検出し、信号線34に反射波信号として出力する。信号線32,34は、プローブ基体部とつかみ部の内部を通り、適当なケーブルで制御装置40に伝送される。
【0034】
図3は、物質の硬さ分布表示システム10の信号の流れを説明するブロック図である。硬さ分布表示システム10は、上記のようにプローブ部20と制御装置40とで構成され、これらの間は、各探触素子22ごとの信号線32,34によって接続される。
【0035】
制御装置40は、切替回路50と、切替回路50を作動させてプローブ部20の複数の探触素子22を順次選択する走査部54と、切替回路50を介して選択された1つの探触素子22の振動子26に駆動信号を供給するパルス波発生器60と、切替回路50を介して選択された1つの探触素子22についての入射波信号と反射波信号とに基いてしこりの部分18の硬さを算出する硬さ算出部70と、硬さを算出した部位の深さを算出する測定深さ算出部82とを含んで構成される。
【0036】
また、制御装置40は、硬さ算出部70から算出されたデータと、測定深さ算出部82から算出されたデータを収集して記憶するデータ収集部84と、収集されたデータに基いて、硬さの2次元的分布と深さの2次元的分布とを関連付けて3次元的に表示するように座標変換処理等の表示処理を行う表示処理部86と、これを硬さの3次元的表示100として表示する表示部88と、制御装置40を構成する各要素の動作を全体として統合して制御する統括制御部90を含んで構成される。
【0037】
かかる制御装置40は、適当なコンピュータで構成することができ、上記各構成要素のうち、パルス波発生器60と切替回路50を除いて、その他の機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、物質の硬さ分布表示プログラムを実行することで実現できる。勿論、ソフトウェアで実現される機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0038】
切替回路50は、パルス波発生器60と硬さ算出部70と測定深さ算出部82とに接続される探触素子22を選択する機能を有する選択スイッチ回路である。すなわち、各振動子26からの信号線32、各振動検出センサ28からの信号線34を、複数のスイッチ52により順次切り替えて、信号線32にはパルス波発生器60を接続し、信号線34と信号線32に硬さ算出部70と測定深さ算出部82とを接続する機能を有するスイッチ回路である。順次切替を容易にするために、各探触素子22には、探触素子アドレスが設けられる。
【0039】
パルス波発生器60は、市販のパルス波発生器を用いることができる。パルス波のパルス幅は、振動子26の1次固有振動数が1MHzとすると、1/400kHzの数倍程度を用いるのが好ましい。あるいは、400kHzを重畳した矩形パルスを用いてもよい。
【0040】
パルス波発生器60の出力は、信号線42に接続される。信号線42は、切替回路50を介し、各振動子26の入力端子に接続される。つまり、パルス波発生器60からのパルス波は、切替回路50による各探触素子22の順次選択に従って各振動子26から生体組織16の内部に入射されるとともに、図3に示されるように、硬さ算出部70と測定深さ算出部82に入力される。なお、生体組織16の内部からの反射波は、各振動検出センサ28により検出され、切替回路50を介し、信号線44により硬さ算出部70と測定深さ算出部82に入力される。このように、硬さ算出部70と、測定深さ算出部82には、生体組織16の内部に入射されるパルス波と、生体組織16の内部からの反射波とが入力される。
【0041】
パルス波発生器60の出力側に、パルス波の出力を規制するゲート回路等を設け、切替回路50の切り替えに連動させて、1個のパルス波を出力することが好ましい。また、パルス波発生器60より出力するパルス波の繰り返し周波数を、切替回路50の切り替え周波数と同じにして、ゲート回路等を省略することもできる。
【0042】
硬さ算出部70は、切替回路50により選択された各探触素子22について、振動子26の信号入力端の信号、すなわち信号線32または信号線42の信号、および、振動検出センサ28の信号出力端の信号、すなわち信号線34または信号線44の信号とに基づいて、その探触素子22が接触する生体組織16の内部の異変部であるしこりの部分18の硬さを算出する回路である。
【0043】
算出された硬さデータは、各探触素子22ごとに対応付けられてデータ収集部84に送られる。対応付けには、例えば上記の探触素子アドレスを用いることができる。硬さ算出部70の内部構成の詳細については後述する。
【0044】
測定深さ算出部82は、切替回路50により選択された各探触素子22について、振動子26の信号入力端の信号、すなわち信号線32または信号線42の信号、および、振動検出センサ28の信号出力端の信号、すなわち信号線34または信号線44の信号とに基づいて、硬さ算出部70が硬さを算出した位置の深さである測定深さを算出する回路である。硬さ算出部70が硬さを算出した位置とは、その探触素子22が接触する生体組織16の内部の異変部であるしこりの部分18であるので、測定深さ算出部82と硬さ算出部70とは、同じ位置について、その測定深さと、硬さとを同時的に算出していることになる。
【0045】
測定深さデータは、探触素子22からの距離で算出されるが、探触素子22の外形寸法は予め分かっているので、これを探触素子22が生体組織16に接触した位置からの深さデータに換算することができる。ここでは、測定深さデータは、生体組織16の表面からの距離を示すものとして説明を続ける。算出された測定深さデータは、各探触素子22ごとに対応付けられてデータ収集部84に送られる。対応付けには、上記のように、探触素子アドレスを用いることができる。測定深さ算出の内容の詳細については後述する。
【0046】
データ収集部84は、各探触素子22ごとに、その硬さデータと、測定深さデータとを対応付けて記憶する記憶装置である。対応付けには上記の探触素子アドレスを用い、探触素子アドレスごとにその硬さデータと測定深さデータとを配列して記憶することができる。
【0047】
表示処理部86は、データ収集部84から必要なデータを読み出し、硬さの3次元表示をするための信号処理を行う回路である。具体的には、硬さの2次元的分布データと、測定深さの2次元的データとに基づいて、同じ測定深さにおける硬さの2次元的データとして整理する。必ずしも同じ測定深さにおける硬さデータがないが、その前後の測定深さにおける硬さデータがある場合には、内挿または外挿による補間を行って、その測定深さにおける硬さデータを求めるものとしてよい。このようにして、例えば、測定深さの予め設定された間隔で、各測定深さにおける硬さデータがまとめられるので、これを画像としての表示に適した処理を施す。
【0048】
例えば、基準座標系に沿って硬さ分布を表示する処理を行う。これによってしこりの部分18の形状の表示に適したものとできる。例えば、硬さの等高線表示とし、あるいは硬さに応じた配色表示とし、あるいは硬さに応じた色の濃淡表示とする処理を行なうことができる。これらによって、しこりの部分18における異変の程度の表示に適したものとできる。また、深さごとの硬さの2次元的データを集約して、3次元座標で硬さの3次元的表示とすることができる。これによって、しこりの部分18の3次元的外形の表示および、3次元的に異変部の位置の表示に適したものとできる。また、適当な統計処理等を行って、硬さの平均値、硬さ分布グラフ等を表示するものとしてもよい。
【0049】
表示処理されたデータは、表示部88に出力される。表示部88は制御装置40のディスプレイまたはこれに接続されるプリンタ等である。図1には、測定深さごとの2次元硬さ分布の集合として、硬さの3次元的表示100が行われている様子が示されている。また、制御装置40に外部との信号伝達を行うインタフェイスを設け、表示処理されたデータを外部の診断装置等に出力し、さらに詳細な解析を進めるものとしてもよい。
【0050】
上記のように、硬さ算出部70と測定深さ算出部82には、いずれにも、各探触素子22における入射波のデータと反射波のデータが入力される。つまり、同じデータを用いて、一方で硬さを算出し、他方で測定深さを算出する。図4を用いてその様子を説明する。図4は、1つの探触素子22に入力された入射波信号92と、その入射波信号92が生体組織16の内部から反射された反射波信号94の様子を横軸に時間、縦軸に信号の大きさを示す電圧で示したものである。入射波信号92はパルス波として入射されるので、反射波が来るまで次のパルス波を入射しないことにすれば、入射波信号92と反射波信号94とを正確に対応付けできる。
【0051】
硬さ算出部70は、この入射波信号92と反射波信号94についてそれぞれ周波数fと位相θについての周波数分析を行い、その結果に基いて入射波が反射されて反射波として戻されたしこりの部分18の硬さを算出する。図4では、入射波信号92の波形の状態を(f,θ)1として示され、反射波信号94の波形の状態が(f,θ)2として示されているが、硬さ算出部70は、この(f,θ)1と(f,θ)2とに基いて、しこりの部分18の硬さを算出する。
【0052】
測定深さ算出部82は、この入射波信号92と反射波信号94についてそれぞれパルスの時間的位置を求め、その差から、しこりの部分18の測定深さを算出する。図4では、入射波信号92の時間的位置をt1とし、反射波信号94の時間的位置をt2として示されているが、測定深さ算出部82は、この時間的位置t1とt2とに基いて、しこりの部分18の測定深さを算出する。
【0053】
次に硬さ算出部70の詳細を説明する。図5は、硬さ算出部70のブロック図である。硬さ算出部70は、入力データとして、信号線42からの入射波信号92と、信号線44からの反射波信号94が与えられる。これらの信号は、増幅器72によって適切な信号レベルに増幅され、それぞれ周波数成分分析部74に入力される。
【0054】
周波数成分分析部74は、その入射波、反射波の周波数成分分析を行い、入射波、反射波それぞれにつき、複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析し、各正弦波成分の周波数と、その周波数における正弦波成分と余弦波成分との比率から定まる位相との関係を求める。この周波数に対する位相との関係が、いわゆる周波数に対する位相スペクトル分布である。したがって、周波数成分分析部74は、入射波信号92の周波数に対する位相スペクトル分布と、反射波信号94の周波数に対する位相スペクトル分布を求める機能を有する。周波数性分析は一般にフーリエ解析と呼ばれる手法を用いることができる。
【0055】
図6に、周波数成分分析を行って得られた入射波信号92および反射波信号94の周波数に対する位相スペクトル分布の例を示す。図6(a)は入射波信号92に対するもの、図6(b)は、反射波信号94に対するものであり、これらの図において横軸は周波数f、縦軸はゲインまたは位相θである。ゲインデータは線分の長さで示され、位相θのデータは丸印で示されている。図6(a)と(b)とは横軸の周波数の原点位置をそろえてあるが、このように、同じ周波数において、入射波信号92の位相と反射波信号94の位相とは異なった値を示している。この値の相違が、しこりの部分18の硬さを反映していることになる。このようにして求められた入射波信号92、反射波信号94の周波数に対する位相スペクトル分布は、位相差算出部76に入力される。
【0056】
位相差算出部76は、入射波信号92の位相スペクトル分布と反射波信号94の位相スペクトル分布とを比較し、入射波信号92と反射波信号94との間の周波数成分の変化を表すものとして、それぞれの周波数fxについて、その入射波信号92の位相と反射波信号94の位相の差である位相差θxを算出する機能を有する。
【0057】
図7に位相差θxを求める様子を示す。図7は、図6で得られた入射波信号92の位相スペクトル分布と反射波信号94の位相スペクトル分布のデータを、横軸に周波数fxをとり、縦軸に同じ周波数における反射波信号94の位相θ2と入射波信号92の位相θ1の差である位相差(θ2−θ1)である位相差θxをとったものである。このように、複数のfxとθxの組の集合自体を、そのまま、入射波信号92と反射波信号94との間の周波数成分の変化を表すものとして用いることができるが、分かりやすい指標としては、位相差θxが最大値θx(MAX)となる周波数fx(MAX)と、そのθx(MAX)との組を、しこりの部分18の硬さを表す入射波信号92と反射波信号94との間の周波数成分の変化を表す代表として用いることができる。以下では、このfx(MAX)とθx(MAX)とを用いるものとする。
【0058】
求められた周波数fx(MAX)と位相差θx(MAX)のデータは、周波数変化量検出部78に入力される。周波数変化量検出部78は、入射波信号92の周波数に対する反射波信号94の振幅ゲイン及び位相差の関係を表す基準伝達特性曲線を用い、周波数fx(MAX)における位相差θx(MAX)について、周波数を変化させることで位相差θx(MAX)をゼロにシフトさせるための周波数変化量dfを算出する機能を有する。周波数変化量算出の機能は、位相差を補償するのに要する周波数の変化をもとめるので、いわば位相差補償演算機能ということもできる。
【0059】
図8は、周波数変化量検出部78の作用を説明する図である。図8は、横軸が周波数、縦軸が振幅ゲインと位相を相対値で示すもので、基準伝達特性曲線として、共振周波数で振幅ゲインが最大となるバンドパス特性を示すものが示されている。かかる基準伝達特性曲線は、ハードウェアあるいはソフトウェアを用いてバンドパスを生成する技術で生成できる。基準伝達特性曲線は、位相の変化を周波数の変化に換算する換算曲線であり、その曲線自体は、位相と周波数の換算比をどの程度にしたいかで設計することができる。
【0060】
この基準伝達特性曲線を用いて位相差補償演算を行うには、まず、周波数fx(MAX)および位相差θx(MAX)をこの基準伝達特性曲線上に求め、ここから位相差θx(MAX)分を位相差特性曲線上で移動させてそれに対応する周波数変化量dfを求めるようにする。このようにすることで、位相差θx(MAX)をゼロにするときの周波数変化量がdfとして求められる。
【0061】
周波数と位相差のデータは、生体組織16の内部におけるしこりの部分18の硬さに対応する物質特性を反映している。そのなかで、最も位相差の変化が大きい周波数fx(MAX)とその最大位相差θx(MAX)は、測定対象である生体組織16の内部のしこりの部分18の硬さを特に代表しているものと考えられる。したがって、最大位相差θx(MAX)をゼロにシフトさせるための周波数変化量dfを算出し、これをもって生体組織16の内部のしこりの部分18の硬さを代表する特性値とすることができる。
【0062】
上記周波数成分分析部74、位相差算出部76(周波数位相差特定)、周波数変化量検出部78(位相差補償演算)のさらに詳細な内容については、特開2002−272743号公報に述べられている。
【0063】
硬さ変換器80は、周波数変化量dfを生体組織の硬さに変換する機能を有する。周波数変化量dfを生体組織の硬さに変換するには、較正テーブル等を用いることができる。較正テーブルは、硬さの基準とできる基準物質を探触素子22の接触ボール30の先端に押し当て、上記で述べた手順のように、パルス波を入射し、反射波を検出して周波数成分分析を行い、そのときの周波数変化を得ることで作成できる。
【0064】
図9は、硬さの基準として、硬さの異なる30mm厚みのゼラチンを用いて、せん断弾性係数Gとdfとの関係を求めた例を示すものである。図9に示されるように、硬さを表すGと図5で述べた手順で求められる周波数変化量dfとの間にきれいな線形関係があることが分かる。このような結果を、周波数変化量dfを硬さに換算するための較正特性線、あるいは較正テーブルとして用いることができる。
【0065】
硬さ変換器80の出力は、図3で述べたように、探触素子22のアドレスに対応付けてデータ収集部84に供給される。
【0066】
次に測定深さ算出部82の内容を説明する。測定深さ算出部82は、図4で説明したように、入射波信号92の時間的位置t1と反射波信号94の時間的位置t2とに基き、超音波の生体組織16の内部における伝播速度vを用いて、しこりの部分18の測定深さを求める。入射波信号92、反射波信号94のそれぞれの時間的位置t1,t2の検出は、例えば、図10の電圧−時間特性に示されるように、最大ピーク検出によって行うことができる。
【0067】
最大ピーク検出は、適当な電圧閾値と、信号の微分処理等を用いることで行うことができる。すなわち、入射波信号92、反射波信号94の振幅である電圧値に適当な閾値を設定することで、それぞれについて最大ピークのみを選び出すことができる。選び出された最大ピークの波形について微分処理を行い、ゼロクロス点を求めることでピーク検出を行うことができる。検出された時間を、入射波信号92の時間的位置t1と反射波信号94の時間的位置t2とすることができる。
【0068】
次に、硬さの3次元表示を具体的に得る手順について詳細に説明する。図11と図12は、3次元表示を行うときの手順を示すフローチャートである。これらの手順は、制御装置40のCPUによって実行される物質の硬さ分布表示プログラムの処理手順に相当する。図11は、硬さ算出部70、測定深さ算出部82、データ収集部84に関係する手順を示し、図12は、表示処理部86、表示部88に関係する手順を示す。
【0069】
硬さの3次元表示を行うには、プローブ部20を生体組織16に押し付け、各探触素子22のそれぞれについて硬さと測定深さとを順次測定することが実行される。順次測定は、探触素子22の識別アドレスを用いて行われる。図11において、探触素子22の識別アドレス番号をiとしたときに、このiを1から順に増加させ、iの最大値であるiMAX=37まで、硬さ測定と測定深さを測定する手順が示される。
【0070】
すなわち、i=1を初期状態として設定する(S10)。この設定で、切替回路50は、識別アドレスi=1の探触素子22をパルス波発生器60に接続する(S12)。これによって、その探触素子22の振動子26にパルス波が供給され、生体組織16の内部に向かって超音波のパルス波が入射される。また、その探触素子22は硬さ算出部70と測定深さ算出部82に接続されるので、図4から図10に関連して説明した方法で、入射波信号92と反射波信号94を用いて、硬さHiと測定深さZiとがそれぞれ測定される(S14,S16)。測定された結果は、識別アドレスi=1に対応付けられ、硬さH1と測定深さZ1としてデータ収集部84に伝送され記憶される。
【0071】
次に識別アドレスiの番号を1進ませ(S20)、進ませた番号がiMAX+1を超えないか否かを判断し(S22)、超えないときはまだ全部の探触素子22の測定が終了していないものとして、S12に戻り、上記の測定を繰り返す。このようにして、全部の探触素子22について、硬さと測定深さを順次測定される。そして、データ収集部84には、全部の探触素子22について、硬さHiと測定深さZiが識別アドレスiに対応付けて記憶される。
【0072】
図12には、データ収集部84に記憶されるデータに基いて生体組織16の内部のしこりの部分18についての硬さの3次元的分布を表示する手順が示されている。制御装置40には、予め、全部の探触素子22について、その識別アドレスiと、その探触素子22の2次元座標系における座標位置(Xi,Yi)との関係が適当なメモリに記憶される(S30)。この関係データは、物質の硬さ分布表示システム10において、プローブ部20を設定したときに制御装置40の入力部から予め入力されること等によって記憶されるものとできる。
【0073】
そして、3次元的硬さ分布表示を行うには、データ収集部84から、探触素子22の識別アドレスiを検索キーとして、硬さHiと測定深さZiとを読み出す(S32)。そして、制御装置40のメモリから、その識別アドレスiの2次元座標位置(Xi,Yi)を読み出す(S34)。これによって、2次元座標系の座標(Xi,Yi)と、その位置における硬さHiと測定深さZiが対応付けられて読み出されたことになる。
【0074】
次に、2次元座標系の座標(Xi,Yi)と、その位置における測定深さZiのデータを用い、iを1から37まで順に、2次元座標系でZiの分布をマップ化して画像で表示する処理を行う(S36)。この処理は、生体組織16の内部のしこりの部分18の外形を画像化することに相当する。図13には、37組の(Xi,Yi,Zi)を滑らかに結んで得られる測定深さ分布102が示されている。この例では、超音波パルスが生体組織16の内部に入射して反射してくる測定深さの分布が鞍形の面形状を有していることが示される。
【0075】
次に、2次元座標系の座標(Xi,Yi)と、その位置における硬さHiのデータを用い、iを1から37まで順に、2次元座標系でHiの分布をマップ化して画像で表示する処理を行う(S38)。この処理は、各探触素子22が生体組織16の内部のしこりの部分18の硬さを測定した結果をその探触素子22の位置と関係付けて画像化したものに相当する。硬さHiの大きさを画像化するには、例えばHiの大きさに応じて色相を変える、色の濃淡を変える等の方法を用いることができる。図13には、硬さHiを斜線の密度で表すこととして、37組の(Xi,Yi,Hi)を密度の異なる斜線の分布で表した硬さ分布104が示されている。
【0076】
このようにして、2次元座標系における測定深さ分布102と、同じ2次元座標系における硬さ分布104が得られると、この2つについて座標(Xi,Yi)を共通として重畳させてマップ化することで、硬さの3次元的分布が得られる(S40)。図13には、このようにして得られる硬さの3次元的分布106が示されている。
【0077】
なお、図13に示される硬さの3次元的分布106のデータを適当に加工することで、図1に示されるように、測定深さごとの2次元硬さ分布の集合として、硬さの3次元的表示100を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る実施の形態における物質の硬さ分布表示システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、プローブ部を生体組織に押し付けた状態を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態における物質の硬さ分布表示システム10の信号の流れを説明するブロック図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、同じ入射波信号と反射波信号とを用いて硬さと測定深さを求める様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態における硬さ算出部のブロック図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、周波数成分分析を行って得られた入射波信号および反射波信号の周波数に対する位相スペクトル分布の例を示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、位相差θxを求める様子を示す図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、周波数変化量検出部の作用を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、硬さを表すせん断弾性係数と周波数変化量との関係を求めた例を示す図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、測定深さ算出の様子を示す図である。
【図11】本発明に係る実施の形態において、硬さの3次元的表示を行うためのデータ収集の手順を示すフローチャートである。
【図12】本発明に係る実施の形態において、データ収集に基いて硬さの3次元的表示を行うための手順を示すフローチャートである。
【図13】本発明に係る実施の形態において、測定深さ分布、硬さ分布、硬さの3次元的分布を求める様子を説明する図である。
【符号の説明】
【0079】
10 物質の硬さ分布表示システム、16 生体組織、18 しこりの部分、20 プローブ部、22 探触素子、24 ベース部、26 振動子、28 振動検出センサ、30 接触ボール、32,34,42,44 信号線、40 制御装置、50 切替回路、52 スイッチ、54 走査部、60 パルス波発生器、70 硬さ算出部、72 増幅器、74 周波数成分分析部、76 位相差算出部、78 周波数変化量検出部、80 硬さ変換器、82 測定深さ算出部、84 データ収集部、86 表示処理部、88 表示部、90 統括制御部、92 入射波信号、94 反射波信号、100,106 硬さの3次元的表示、102 測定深さ分布、104 硬さ分布。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物質にパルス波を入射する振動子と、
入射されたパルス波が被測定物質から反射されてくる反射波を受信する振動検出センサと、
入射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める入射波周波数成分分析手段と、
反射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める反射波周波数成分分析手段と、
入射波のスペクトル分布と反射波のスペクトル分布とを比較し、分布を構成するそれぞれの周波数fxについて、その周波数fxの下の入射波の位相と反射波の位相との差である位相差θxを算出する周波数位相差算出手段と、
周波数fxと位相差θxの組のデータに基いて被測定物質の硬さを算出する硬さ算出手段と、
硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出する測定深さ算出手段と、
硬さと測定深さとを対応付けて表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項2】
請求項1に記載の物質の硬さ分布表示システムにおいて、
振動子と振動検出センサとを1組とする探触素子が2次元的に配置され、
硬さ算出手段は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における硬さをそれぞれ算出して硬さの2次元的分布を求め、
測定深さ算出手段は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における測定深さをそれぞれ算出して測定深さの2次元的分布を求め、
表示手段は、被測定物質について、硬さの2次元分布と測定深さの2次元分布とを対応付けて3次元的な硬さ分布を表示することを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項3】
請求項2に記載の物質の硬さ分布表示システムにおいて、
各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶する記憶手段を備え、
硬さ算出手段は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、
測定深さ算出手段は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、
表示手段は、
記憶手段から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示する測定深さ2次元表示手段と、
読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示する硬さ2次元表示手段と、
を含み、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示することを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項4】
請求項1に記載の物質の硬さ分布表示システムにおいて、
硬さ算出手段は、
任意の周波数の振動を入射したときの入射波の周波数に対する反射波の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めて記憶する記憶手段と、
基準伝達関数を用いて、周波数fxと位相差θxとを入力し、位相差θxをゼロにするときの周波数のfxからの変化であるdfを求める周波数変化量検出部と、
予め求められている硬さ−df特性に基いて、周波数変化量検出部によって求められたdfを硬さに換算する硬さ換算手段と、
を含むことを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項5】
請求項1に記載の物質の硬さ分布表示システムにおいて、
硬さ算出手段は、最大位相差θx(MAX)と、最大位相差のときの周波数fx(MAX)との組に基いて、被測定物質の硬さを算出することを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項6】
振動子によって被測定物質にパルスとして入射された入射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める入射波周波数成分分析工程と、
振動検出センサによって検出された被測定物質からの反射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める反射波周波数成分分析工程と、
入射波のスペクトル分布と反射波のスペクトル分布とを比較し、分布を構成するそれぞれの周波数fxについて、その周波数fxの下の入射波の位相と反射波の位相との差である位相差θxを算出する周波数位相差算出工程と、
周波数fxと位相差θxの組のデータに基いて被測定物質の硬さを算出する硬さ算出工程と、
硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出する測定深さ算出工程と、
硬さと深さとを対応付けて表示する表示工程と、
を含むことを特徴とする物質の硬さ分布表示方法。
【請求項7】
請求項6に記載の物質の硬さ分布表示方法において、
振動子と振動検出センサとを1組とする探触素子が2次元的に配置され、
硬さ算出工程は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における硬さをそれぞれ算出して硬さの2次元的分布を求め、
測定深さ算出工程は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における測定深さをそれぞれ算出して測定深さの2次元的分布を求め、
表示工程は、被測定物質について、硬さの2次元分布と測定深さの2次元分布とを対応付けて3次元的な硬さ分布を表示することを特徴とする物質の硬さ分布表示方法。
【請求項8】
請求項7に記載の物質の硬さ分布表示方法において、
各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶する記憶装置を用い、
硬さ算出工程は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、
測定深さ算出工程は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、
表示工程は、
記憶装置から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示する測定深さ2次元表示工程と、
読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示する硬さ2次元表示工程と、
を含み、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示することを特徴とする物質の硬さ分布表示方法。
【請求項1】
被測定物質にパルス波を入射する振動子と、
入射されたパルス波が被測定物質から反射されてくる反射波を受信する振動検出センサと、
入射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める入射波周波数成分分析手段と、
反射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める反射波周波数成分分析手段と、
入射波のスペクトル分布と反射波のスペクトル分布とを比較し、分布を構成するそれぞれの周波数fxについて、その周波数fxの下の入射波の位相と反射波の位相との差である位相差θxを算出する周波数位相差算出手段と、
周波数fxと位相差θxの組のデータに基いて被測定物質の硬さを算出する硬さ算出手段と、
硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出する測定深さ算出手段と、
硬さと測定深さとを対応付けて表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項2】
請求項1に記載の物質の硬さ分布表示システムにおいて、
振動子と振動検出センサとを1組とする探触素子が2次元的に配置され、
硬さ算出手段は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における硬さをそれぞれ算出して硬さの2次元的分布を求め、
測定深さ算出手段は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における測定深さをそれぞれ算出して測定深さの2次元的分布を求め、
表示手段は、被測定物質について、硬さの2次元分布と測定深さの2次元分布とを対応付けて3次元的な硬さ分布を表示することを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項3】
請求項2に記載の物質の硬さ分布表示システムにおいて、
各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶する記憶手段を備え、
硬さ算出手段は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、
測定深さ算出手段は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、
表示手段は、
記憶手段から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示する測定深さ2次元表示手段と、
読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示する硬さ2次元表示手段と、
を含み、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示することを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項4】
請求項1に記載の物質の硬さ分布表示システムにおいて、
硬さ算出手段は、
任意の周波数の振動を入射したときの入射波の周波数に対する反射波の振幅ゲインと位相の関係を示す基準伝達関数を予め求めて記憶する記憶手段と、
基準伝達関数を用いて、周波数fxと位相差θxとを入力し、位相差θxをゼロにするときの周波数のfxからの変化であるdfを求める周波数変化量検出部と、
予め求められている硬さ−df特性に基いて、周波数変化量検出部によって求められたdfを硬さに換算する硬さ換算手段と、
を含むことを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項5】
請求項1に記載の物質の硬さ分布表示システムにおいて、
硬さ算出手段は、最大位相差θx(MAX)と、最大位相差のときの周波数fx(MAX)との組に基いて、被測定物質の硬さを算出することを特徴とする物質の硬さ分布表示システム。
【請求項6】
振動子によって被測定物質にパルスとして入射された入射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める入射波周波数成分分析工程と、
振動検出センサによって検出された被測定物質からの反射波を複数の正弦波成分と余弦波成分とに分析する周波数分析を行なって、各正弦波成分の周波数とその周波数における正弦波成分と余弦波成分とから求められる位相のスペクトル分布を求める反射波周波数成分分析工程と、
入射波のスペクトル分布と反射波のスペクトル分布とを比較し、分布を構成するそれぞれの周波数fxについて、その周波数fxの下の入射波の位相と反射波の位相との差である位相差θxを算出する周波数位相差算出工程と、
周波数fxと位相差θxの組のデータに基いて被測定物質の硬さを算出する硬さ算出工程と、
硬さを算出するために用いた入射波の入射時刻と反射波の受信時刻とに基いて、硬さを測定した位置の深さである測定深さを算出する測定深さ算出工程と、
硬さと深さとを対応付けて表示する表示工程と、
を含むことを特徴とする物質の硬さ分布表示方法。
【請求項7】
請求項6に記載の物質の硬さ分布表示方法において、
振動子と振動検出センサとを1組とする探触素子が2次元的に配置され、
硬さ算出工程は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における硬さをそれぞれ算出して硬さの2次元的分布を求め、
測定深さ算出工程は、2次元的に配置された各探触素子による入射波と反射波とに基いて、各探触素子の位置における測定深さをそれぞれ算出して測定深さの2次元的分布を求め、
表示工程は、被測定物質について、硬さの2次元分布と測定深さの2次元分布とを対応付けて3次元的な硬さ分布を表示することを特徴とする物質の硬さ分布表示方法。
【請求項8】
請求項7に記載の物質の硬さ分布表示方法において、
各探触素子が2次元的に配置されるときの各探触素子の2次元座標位置を各探触素子の識別アドレスに対応付けて記憶する記憶装置を用い、
硬さ算出工程は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における硬さを求め、
測定深さ算出工程は、各探触素子の識別アドレスに対応付けて各探触素子の位置における測定深さを求め、
表示工程は、
記憶装置から各探触素子の識別アドレスに対応する2次元座標位置を読み出し、その識別アドレスに対応する測定深さを用いて、2次元座標系における測定深さの分布を表示する測定深さ2次元表示工程と、
読み出された識別アドレスに対応する各探触素子の位置における硬さを用いて、2次元座標系における硬さの分布を表示する硬さ2次元表示工程と、
を含み、2次元座標系における測定深さの分布に、同じ2次元座標系における硬さの分布を重畳させて、3次元的な硬さ分布を表示することを特徴とする物質の硬さ分布表示方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−115344(P2010−115344A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290629(P2008−290629)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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