説明

物質移動等を行う装置内の気液接触機構

【課題】線条とスペーサーの交差部からの液の飛散を生じることなく処理量を増加できる気液接触機構を提供する。
【解決手段】各充填体構成要素(26)は、液分配器(21)の複数の液出口のそれぞれに1本ずつ懸架され、各充填体構成要素の下端は液集合器(23)に設けられた固定板(27)に1本ずつ結合され、液は固定板を介して液集合器に集められ、気体の出口(32)は液分配器(21)の上部にあり、気体の入り口(29)は規則充填体(26)の下端よりも下方にある気液接触機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の流路に区画された内部構造を有し、上部に配置された液分配器と下部に配置された液集合器を備え、気体と液体間の物質移動、熱交換または混合を行なう装置における気液接触機構に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の気液接触機構において、特許文献1の図1、図2に示す構造(本願添付図面の図10、図11)は、液分配器2のノズルに挿入されている多数の線条をアダプター4として下方に放射状に拡大延長し、隣の線条と一定の間隔を保つ為のスペーサー14(図11)に固定されていた。規則充填体本体の垂直性、及び隣との平行の維持は、最上部のスぺーサーから最下部のスペーサーに到る間の多数のスペーサーにより形状保持されていた。
【0003】
最下部のスペーサー部から液集合器3に到る間は逆放射状に閉じられ一定の長さで結合されていた。
【0004】
物質移動等の性能を上げる為には規則充填体を構成する多数の線条に均一に液を分配する事が大きな鍵となるが、上記従来の装置においては、一つのノズルから多数の線条へ均一に液を分配する事は至難であった。特にノズルの直下の垂直ワイヤーと最も外周側の大傾斜ワイヤーとは、その差が大であった。
【0005】
気液接触機構の処理量を増やす為には気体と液体の導入量を増やす必要がある。増加された気体の上昇速度に押されて線条から液体がはずれ上方へ飛び出す場所は、線条とスペーサーの交差部である。したがってこの交差部が処理量の限界を握っていた。
【0006】
更に、規則充填体最下部においては、の気体の導入口の不均一具合は、線条が液集合器に向かって逆放射状に閉じられている為、気体の導入口における分散の不均一が避けられなかった。
【0007】
又、製作、輸送、塔内への組み込みに於いても多数の線条の間隔を維持する為に設置されている多数箇所のスペーサーの保持が作業効率を悪化させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−44927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の気液接触機構の問題点にかんがみなされたものであって、規則充填体を構成する線条に均一に液を分配することができ、線条とスペーサーの交差部からの液の飛散を生じることなく気液接触機構の処理量を増加させることができ、製造も簡単な気液接触機構を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の物質移動等を行う装置内の気液接触装置は、次の構成を有する。
【0011】
構成1
装置の上部に配置された液分配器と装置の下部に設置された液集合器との間において多数の流路を区画する内部構造を有し、気体と液体間の物質移動、熱交換又は混合を行う装置において、
該内部構造は複数の充填体構成要素からなる規則充填体からなり、該充填体構成要素は、糸状および帯状のいずれかの形状を有し、装置の内壁および隣り合う規則充填体構成要素と非接触状態で延長し、各充填体構成要素は、該液分配器の複数の液出口のそれぞれに1本ずつ懸架され、各充填体構成要素の下端は該液集合器に設けられた固定板に1本ずつ結合され、液は各充填体構成要素から該固定板を介して該液集合器に集められ、気体の出口は該液分配器の上部にあり、気体の入り口は該規則充填体の下端よりも下方にあることを特徴とする気液接触機構。
【0012】
構成2
複数の該規則充填体構成要素を懸架した複数の液分配器が水平方向に並列に配置され、これ等複数の液分配器に液を供給する2次液分配器が該複数の液分配器に直角に配置され、該2次液分配器の複数の液出口の幅はそれぞれ下部の液分配器の長さに合わせて液が配分されるように調節され、液の各出口に下部の液分配器に液を供給する懸架ワイヤーを配置したことを特徴とする構成1記載の気液接触機構。
【0013】
構成3
該規則充填体構成要素を懸架した複数の液分配器は装置の上下方向にそれぞれ段差をなして配置され、各液分配器の水平方向断面に於いては、各液分配器を同一平面に配置した場合に比べて大きい開口率が得られることを特徴とする構成1または2記載の気液接触機構。
【0014】
構成4
装置の一方の壁側に上下方向に複数の液分配器を配列し、反対側の壁側に該固定板及び該液集合器を上下方向に各固定板および液集合器が前記液分配器のいずれか1つに対応し、かつ該対応する液分配器よりも下方に位置するように配列し、各対応する液分配器と液集合器を連結するようにして該規則充填体構成要素を傾斜して配置したことを特徴とする構成1〜3のいずれかに記載の気液接触機構。
【0015】
構成5
該装置は内部熱交換型蒸留塔であり、該内部熱交換型蒸留塔の濃縮部を構成する内塔の塔頂での液分配器の液出口における充填体構成要素の間隔を小さくすることにより規則充填体を高密度にし、塔底での固定板の充填体構成要素の固定間隔を大きくすることにより規則充填体を粗密度に構成する一方、回収部を構成する外塔の塔頂での液分配器の液出口における充填体構成要素の間隔を大きくすることにより規則充填体を粗密度にし、塔底での固定板の充填体構成要素の固定間隔を小さくすることにより規則充填体を高密度に構成し、内塔、外塔の塔頂から塔底までの各充填体構成要素は直線を成し、濃縮部から回収部への段差のない滑らかな熱移動を実現することを特徴とする構成1〜3のいずれかに記載の気液接触機構。
【0016】
構成6
該液分配器の液出口にそれぞれ充填体構成要素を懸架し、さらに、液出口の下端から一定の距離を置き水平の帯板を重ね合わせる構造にし、液の自然溢流を規制し液柱を作ることにより均等な液分配をさせることを特徴とする構成1〜5のいずれかに記載の気液接触機構。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の上記構成1によれば、各充填体構成要素は、糸状および帯状のいずれかの形状を有し、装置の内壁および隣り合う規則充填体構成要素と非接触状態で延長し、各充填体構成要素は、該液分配器の複数の液出口のそれぞれに1本ずつ懸架され、各充填体構成要素の下端は該液集合器に設けられた固定板に1本ずつ結合され、液は充填体構成要素から該固定板を介して該液集合器に集められ、気体の出口は該液分配器の上部にあり、気体の入り口は該規則充填体の下端よりも下方にあるので、各充填体構成要素は従来の気液接触装置のようにアダプター、コレクターにおいて放射状に拡散または逆放射状に集合することがなく、したがって、液分配器からの液は均一に各規則充填体構成要素に分配され、また気体の導入口における流れの不均一性も解消される。液の全充填体構成要素への均一な分配は気液の接触効果を高め物質移動等の性能の最適化に役立つことになる。
【0018】
また各充填体構成要素の下端は固定板に、最上部の液分配器の液出口の間隔と等しい間隔で結合されており、各構成要素に緩みが発生しても固定板を少し下方に引っ張り液集合器に固定する事により各構成要素は隣とは一定の距離を保ち平行を保持していることになる。このことにより、中間のスペーサー等は必要としない構造になっている。この構造は、水平方向のスペーサー等の液体の流れを遮断する物がない為、最大の上昇気体の速度を可能にする。即ち、最大の処理量が得られることになる。
【0019】
規則充填体の最下端は固定板に結合されており、この固定板は各構成要素の間に均一な間隔を保つ構造になっている。この構造により下部からの気体流の均一な導入を可能にし、均一な気液の接触を促進する。
また全体の構造が非常に単純化されているため、製作、輸送及び塔内への組み込み作業を容易くする。
【0020】
本発明の上記構成2によれば、複数の該規則充填体構成要素を懸架した複数の液分配器が水平方向に並列に配置され、これら複数の液分配器に液を供給する2次液分配器が該複数の液分配器に直角に配置され、該2次液分配器の複数の液出口の幅はそれぞれ下部の液分配器の長さに合わせて液が配分されるように調節され、液の各出口に下部の液分配器に液を供給する懸架ワイヤーを配置されている。
【0021】
通常気液接触装置は円筒の塔からなり、この塔内では、複数の液分配器を同一平面状に配置する場合、各液分配器の長さが相互に異なる。したがって、各液分配器の長さに適合した液量を供給する2次液分配器が求められる。構成2においては、2次液分配器の液出口の幅を下部の液分配器の長さにあわせて液が配分されるように調整し、必要によっては、この液出口に配置された懸架ワイヤーの幅も調整し最適化した液量を下段の各液分配器へ供給できるように、2次液分配器と下段の液分配器による多層構造化を可能にした。更に、塔径が大きくなると2次液分配器の多層化が必要になるが同じ要素を使うことによって多段の設計が可能になる。
【0022】
本発明の上記構成3によれば、規則充填体構成要素を懸架した複数の液分配器は装置の上下方向にそれぞれ段差をなして配置され、各液分配器の水平方向断面に於いては、各液分配器を同一平面に配置した場合に比べて大きい開口率が得られる。
【0023】
最下段の液分配器に合わせて各液分配器を普通の水平配列にした場合、装置断面における開口率は50%位となり、液分配器間を上昇する気体の速度は、約2倍となり充填体構成要素を流れる液体が上方へ吹き飛ばされる。この気体の上昇速度を大きく緩和するのが本発明である。即ち、構成3では、装置断面における各液分配器の開口率は約90%となり、液分配器間を上昇する気体の速度は大きくはならない。
【0024】
本発明の上記構成4によれば、装置の一方の壁側に上下方向に複数の液分配器を配列し、反対側の壁側に該固定板及び該液集合器を上下方向に各固定板および液集合器が前記液分配器のいずれか1つに対応し、かつ該対応する液分配器よりも下方に位置するように配列し、各対応する液分配器と液集合器を連結するようにして該規則充填体構成要素を傾斜して配置することにより、気液の接触効率を有意に促進させることができる。
【0025】
従来の構造のように、各充填体構成要素を垂直方向で隣の線条とは平行に配列されている場合、液は、構成要素に沿って垂直に流れ、気体は垂直に上昇し、従って、気液は触れ合って夫々上下に通過する。気体の流れは、平行の構成要素の液の流れを潜って斜めに上昇はしない。
【0026】
本構造4においては、全ての規則充填体構成要素は傾斜して装置内に配列されている。液の流れは構成要素を形成する線条の毛細管力のために構成要素を落下せず傾斜した構成要素上を流れる。一方の気体流は垂直方向に上昇する為、必ず、各構成要素の液流間を潜って突き進む為、激しい気液の接触効率が得られる。したがって、圧力損失は高くなるが、効率的な気液接触により効果的な物質移動等が得られる。
【0027】
本発明の上記構成5によれば、装置は内部熱交換型蒸留塔であり、該内部熱交換型蒸留塔の濃縮部を構成する内塔の塔頂での液分配器の液出口の間隔を小さくすることにより規則充填体を高密度にし、塔底での固定板の充填体構成要素の固定間隔を大きくすることにより規則充填体を粗密度に構成する一方、回収部を構成する外塔の塔頂での液分配器の液出口の間隔を大きくすることにより規則充填体を粗密度にし、塔底での固定板の充填体構成要素の固定間隔を小さくすることにより規則充填体を高密度に構成し、内塔、外塔の塔頂から塔底までの各充填体構成要素は直線を成すように構成することにより、濃縮部から回収部への段差のない滑らかな熱移動を実現することができる。
【0028】
本発明の構成6によれば、液分配器の液出口にそれぞ充填体構成要素を懸架し、さらに、液出口の下端から一定の距離を置き水平の帯板を重ね合わせる構造にし、液の自然溢流を規制し液柱を作ることにより、より均等な液分配をさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明にかかる気液接触機構の1実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】上記実施形態における固定板の固定方法を示す斜視図である。
【図3】本発明の他の実施形態を模式的に示す側面図および平面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を模式的に示す側面図である。
【図5】本発明の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図6】本発明の他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図7】従来の内部熱交換型蒸留塔を示す断面図である。
【図8】本発明の内部熱交換型蒸留塔を示す断面図である。
【図9】本発明の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図10】従来の気液接触装置を示す断面図である。
【図11】従来の気液接触装置を示す斜視図である。
【図12】本発明の他の実施形態を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1〜図6は本発明にかかる気液接触機構の1実施形態を示すものである。
【0031】
図1において、気体と液体間の物質移動等のために気液接触を行なう規則充填体を収容する充填塔20は上下方向に長い円筒状の塔で、その上部には気液接触の対象物である液体を下方の規則充填体に分配するためのトラフ状の液分配器21が配置されている。液分配器21には液供給管22を介して液体が供給される。充填塔20の下部には気液接触を完了した液体を収集する箱状の液集合器23が配置されている。液集合器23は液体取り出し口25に連通している。
【0032】
塔20の下部側壁には気液接触の対象となる気体の流入口29が開口しており、塔20の頂部には気液接触を完了した気体の流出口32が開口している。
【0033】
塔20内には、上から、液分配器21に連結された複数のワイヤー状の充填体構成要素26からなる規則充填体35が配置されている。
【0034】
規則充填体35は、多数の垂直方向に延長するワイヤー状充填体構成要素26が相互に所定間隔を維持した状態で、すなわち隣り合う充填体構成要素26どうしが非接触状態で平行に配置されている。各充填体構成要素26は塔20の内壁とも非接触状態を維持するように配置されている。
【0035】
ワイヤー状充填体構成要素26を形成するワイヤー材料としては、金属線のほかプラスチック繊維、カーボン繊維、セラミック繊維、綿等の植物繊維、羊毛等の動物繊維等あらゆる繊維が使用可能である。また、ワイヤーの態様としてはワイヤー、撚り線、結束線等の密着複線等特に限定はないが、複数本の細い鋼線を撚り合わせて作ったワイヤー等の撚り糸状または撚り線状のワイヤー材料は、液体が毛細管現象により撚り糸を構成する複数の糸または線材の間の空間を伝って流れることにより液体の保持を増進するので好ましい。本実施形態においては、好ましい1例として、直径0.25mmの鋼線を4本撚り合わせて作った鋼線を2本撚り合わせて1本の充填体構成要素26として使用することができる。
【0036】
各充填体構成要素26の下端は固定板27に、最上部の液分配器21の液出口27aの間隔と等しい間隔で溶接、接着そのた適宜の方法で結合されており、各構成要素26に緩みが発生しても固定板27を少し下方に引っ張り液集合器23に固定する事により各構成要素26は隣の構成要素とは一定の距離を保ち平行を保持していることになる。このことにより、中間のスペーサー等は必要としない。この構造は、水平方向のスペーサー等の液体の流れを遮断する物がない為、最大の上昇気体の速度を可能にする。
【0037】
充填体構成要素26の緩みをなくすために固定板27を下方に引っ張るためには、固定板は上下方向に移動可能に液集合器23に取り付けられていなければならない。固定板27を上下方向に移動可能に取り付けるには種々の公知の方法を採用することができるが、1例として、図2に示すように、固定板27の下端部の幅方向両側に取付け用の棒31、31を溶接し、一方液集合器23の内壁の幅方向両側に取り付け用棒31が遊嵌できる取り付け棒嵌合管32、32を溶接し、これら嵌会管32、32に取付け棒31、31を嵌合し、上下方向に適宜の複数箇所でねじ止めすることにより取付け棒31、31を嵌合管32、32に固定するように構成すればよい。
【0038】
なお、図1の実施形態においては、図示の便宜上1個の液分配器とこれに対応する1対の固定板のみを示したが、実際の気液接触機構においては、図3に示すように複数の液分配器を配置し各分配器から図1と同様に複数の充填体構成要素26が懸架されており、これに対応して複数対の固定板と複数の液集合器が設けられている。
【0039】
図3は本発明の上記構成2の実施形態を示すもので、(a)は装置の上部を示す側面図、(b)は平面図である。なお以下の各実施形態において、図1の実施形態と同一構成要素は同一符号で示し、その説明を省略する。
【0040】
この実施形態においては、複数の該規則充填体構成要素26(図示省略)を懸架した複数の液分配器21−1〜21−5が水平方向に並列に配置され、これら複数の液分配器21−1〜21−5に液を供給する2次液分配器33が複数の液分配器21−1〜21−5に直角に配置され、2次液分配器33の複数の液出口33aの幅Wはそれぞれ下部の液分配器22−1〜21−5の長さに合わせて下部の各液分配器に液が配分されるように調節されている。すなわち、最長の液分配器21−3に対応する2次液分配器33の液出口33aの幅Wは最大であり、最短の液分配器21−1および21−5に対応する液出口33aの幅Wは最小である。各液出口33aには、下部の液分配器に液を供給する懸架ワイヤー34が配置されている。これらワイヤー34の径も液出口33aの幅の大小に合わせて調節されている。すなわち液分配器21−3に液を供給するワイヤー34の径は最大であり、液分配器21−1,21−5に液を供給するワイヤー34の径は最小である。
【0041】
この実施形態においては、2次液分配器の液出口の幅を下部の液分配器の長さにあわせて均一に液が配分されるように調整し、必要によっては、この液出口に配置された懸架ワイヤーの幅も調整し最適化した液量を下段の各液分配器へ供給できるように、2次液分配器と下段の液分配器による多層構造化を可能にされている。
【0042】
図4は本発明の他の実施態様を示す。この実施態様は図3に示す実施態様の変更例である。この実施態様においては、懸架ワイヤー34の下部に複数の液分配器器21−A〜21−Eは装置の上下方向にそれぞれ段差をなして配置され、各液分配器の水平方向断面に於いては、各液分配器を同一平面に配置した場合に比べて大きい開口率が得られる。最下段の液分配器に合わせて各液分配器を普通の水平配列にした場合、塔断面における開口率は50%位となり、液分配器21間を上昇する気体の速度は、約2倍となり液分配器21の両側のワイヤー26(図示せず)を流れる液体が上方へ吹き飛ばされる。この気体の上昇速度を大きく緩和するのが本発明である。即ち、図4の例では、塔断面における各液分配器の塔断面における開口率は約90%となり、液分配器間を上昇する気体の速度は大きくはならない。
【0043】
図5は本発明の他の実施形態を示す。この実施形態においては、塔20の一方の壁側に上下方向に複数の液分配器21を配列し、反対側の壁側に固定板27及び液集合器23を上下方向に各固定板27および液集合器23が液分配器21のいずれか1つに対応し、かつ該対応する液分配器21よりも下方に位置するように配列し、各対応する液分配器21と液集合器23を連結するようにして規則充填体構成要素26を傾斜して配置する。
【0044】
各充填体構成要素を垂直方向で隣の線条とは平行に配列されている場合、液は、構成要素に沿って垂直に流れ、気体は垂直に上昇し、従って、気液は触れ合って夫々上下に通過する。気体の流れは、平行の構成要素の液の流れを潜って斜めに上昇はしないが、本構造においては、全ての規則充填体構成要素26は傾斜して装置内に配列されており、液の流れは構成要素を形成する線条の毛細管力のために構成要素を落下せず傾斜した構成要素上を流れる。一方の気体流は垂直方向に上昇する為、必ず、各構成要素の液流間を潜って突き進む為、激しい気液の接触効率が得られる。
【0045】
図6は本発明の他の実施形態を示す。この実施形態においては、装置の内部構造は、図1の実施形態と同様に複数の充填体構成要素26からなる規則充填体からなるものであるが、各充填体構成要素26に、水平方向に延長する撚り線状または密着線状の線条37を、垂直方向に一定の間隔で複数条結合させることにより、液体の保持を増進させるものである。水平方向に延長する線条37の具体的な態様は本出願人の出願にかかる特願2008−229597号に詳述したものを適宜使用することができる。すなわち、規則充填体は、複線の並列線、撚り線、組紐、2筋輪状線、3筋輪状線等あらゆる形状の垂直構造の線状及び、充填体構成要素に水平方向に延長する撚り線状又は密着線状の線状を垂直方向に一定の間隔で複数条結合させた構造、複数の縦線と複数の横線からなる織物状、編み物状およびあらゆる平面状の規則充填体とすることができる。
【0046】
図8は本発明を内部熱交換型蒸留塔に適用した実施形態を示す概略断面図である。
【0047】
内部熱交換型蒸留塔の詳細は、特許登録番号第2694425、第2732373に述べられている。現在の性能の実証プラントは、濃縮部、回収部には、シートメタル式規則充填物が使用されている。その詳細は図7示すとおりである。すなわち、塔は濃縮部を構成する内塔Aと回収部を構成する外塔Bからなりそれぞれ塔頂部、中間部、塔底部に分かれている。規則充填物は塔頂部においては、内塔が高密度に、外塔が粗密度に充填され、中間部においては、内塔、外塔とも中密度に充填され、塔底部においては内塔が粗密度に外塔が高密度に充填されている。この蒸留塔については、既に、省エネ効果は実証されている。しかし、問題点を解決し、製作コストを下げ、世界に広めるのは今からである。
【0048】
第一の問題点、濃縮部即ち内塔から、回収部即ち外塔への効率的な熱移動が本技術の根幹である。理論的には、塔底から塔頂までの外塔の容積に対する内塔の容積比を直線状に下げて行くことが要求されている。一方、内塔に充填される充填物の密度は塔底では、粗密度で、塔頂に向かっては、密度を直線状に増し塔頂では高密度、外塔に充填される充填物の密度は、塔底では、高密度で、塔頂に向かっては、密度を直線状に減じ、塔頂では粗密度が計算されていた。しかし、現実には、規則充填物で密度の構成を、高密度から粗密度までを直線状に変えられる技術が存在しなかったので、図示の如き3種類づつになっており、しかも結合のために2箇所の熱移動が出来ない空白部Cを残す構造となっている。
【0049】
第2の問題点、製作コスト。内塔が3種類、3段階に異なった径を結合する為、デフューザーを介して結合せざるを得ない為、管体のコストアップを免れない。一方、外塔に充填される、シートメタルの規則充填物は、環状に内側を削り取らざるを得ない為、大きなコストアップになる。
【0050】
図8に示す本発明の内部熱交換型蒸留塔においては、内部熱交換型蒸留塔40の濃縮部を構成する内塔41の塔頂での液分配器(図示省略)の液出口における充填体構成要素(線条)26の間隔を小さくすることにより規則充填体を高密度にし、塔底での固定板(図示省略)の充填体構成要素26の固定間隔を大きくすることにより規則充填体を粗密度に構成する一方、回収部を構成する外塔42の塔頂での液分配器(図示省略)の液出口における充填体構成要素26の間隔を大きくすることにより規則充填体を粗密度にし、塔底での固定板(図示省略)の充填体構成要素26の固定間隔を小さくすることにより規則充填体を高密度に構成し、内塔41、外塔42の塔頂から塔底までの各充填体構成要素26は直線を成し、濃縮部から回収部への段差のない滑らかな熱移動を実現する。
【0051】
本発明は、塔頂に設置された液分配器の均等液出口の懸架線条の間隔と、塔底に設置された固定板の結束線条の間隔を変えて、塔頂から塔底までの全ての線条は直線状を構成する為、塔頂から塔底までの規則充填物の密度は粗密度から高密度まで、反対に、高密度から粗密度までを直線状に変化させる事が出来る構成をもつ。従って、本発明技術は、内部熱交換型蒸留塔の,内塔、及び外塔用の規則充填物の諸要求に、完全に応えられる規則充填体を提供できる理想的な技術と言える。製作コストに於いては、内塔のテーパー管の製作技術は、既に存在するので、現在の3段階の内塔の複雑な組み立てコストを大幅に削減することができる。また規則充填物の製作に於いては、本技術は現在のシートメタルの製作に比べ形状のくり貫きロスを作らないので、大幅なコストダウンを実現することができる。また本技術のテーパー管への組み込みは、本技術の規則充填体自体が同じ角度のテーパー状に一体物として作られている為、簡単に、素早く組み込まれ、大幅なコストダウンになる。
【0052】
図9は本発明において使用する液分配器の1変更例を示す斜視図である。液分配器21の液出口にそれぞれ充填体構成要素26を懸架し、さらに、液出口の下端から一定の距離を置き水平の帯板39を重ね合わせる構造にし、液の自然溢流を規制し液柱を作ることにより均等な液分配をさせる。
【0053】
規則充填体の多数の線条を懸架した液分配器21に於いて、各液の出口から均等に液を分配するには、液分配器内の液面が水平を保っている事である、実際には、2次液分配器22からの液の落下により液面に波が起こる場合がある。液の自然溢流式では、液面の波打ちによる不均一は避けられない。これを防止するのが本技術である。即ち、液分配器21の液出口の下端から一定の距離を置き水平の帯板39を重ね合わせる構造の為、液の自然溢流が規制され液柱が作られる。従って液分配器21内に波打ちが起こっていても、液柱が作られているので、均等な液分配が可能になる。
【0054】
図12は規則充填体と液分配器の塔内への組み込み方法を示す実施態様である。
【0055】
従来の技術においては、規則充填体と液分配器の組み込みは次のように行われる、
先ず、規則充填体が組み込まれる。塔壁に溶接されたサポートリングの上にサポートグリッドを並べその上に規則充填物のブロック体を敷き並べ,更に上段へ、積上げられる
次に液分配器が組み込まれる。液分配器のトラフの取り付けは、塔壁に溶接されているサポートリング上に載せられ固定される。水平調節はサポートリングの低い方にライナープレート又はシムプレートを挿入し水平調節する方法で行われている。サポートリングは元の水平なフラットバーもベンディング加工で曲げられ水平度は妨げられ、塔壁に強固な溶接を強いられ、熱歪みが発生する。このように、塔壁に溶接されたサポートリングは水平でない為、取り付ける液分配器のトラフ個々の水平調節が余儀なくされる。
この水平調節作業は大変重要で、装置自体の物質移動等の性能に大きな影響を及ぼす。
【0056】
本発明は、上記従来の規則充填体と液分配器別々の組み込み、及び液分配器の個々の水平調節の問題点にかんがみなされたものであって、水平基準ビームの塔内への水平取り付けを優先し、ブロック体として既に合体されている、数本の液分配器、規則充填体、固定板及び直上の2次液分配器を塔内に持ち込み取り付け、液分配器の水平調節を排除し、全体の液分配器と規則充填体の水平設置を確保する技術を提供しようとするものである。
【0057】
課題を解決する為の手段は次のとおりである。
【0058】
塔内の全荷重を支える強度材の水平基準ビーム101は、複数本(図示の実施例では2本)を上面、下面及び高さを等しくする為、一括切削機械加工することを基本にする。これらを懸架するLビーム102の下面も切削機械加工とする。
【0059】
塔内の取り付けは、2本のLビーム102を塔壁に溶接固定されているラグ103にボルト104で仮締めをし、複数本の水平基準ビーム101をこれにUボルト105で懸架固定する。
【0060】
水平基準ビーム101に水準器を当て、Lビーム102の長穴とラグ103にて水平調節をし本締めを行う。固定された水平確認済み複数の水平基準ビーム101が、全液分配器106の水平設置を可能にする。
【0061】
水平基準ビーム101に懸架される液分配器106の接するのはトラフの上面108であり、液分配器106の液出口の下端線107と水平基準面であるトラフ上面108との間隔を製作公差0近くで作ることが求められる。
【0062】
水平基準ビーム101に上乗せされる2次液分配器109の接するのはトラフの下面111であり、液出口の下端線110と水平基準面であるトラフ下面111との間隔を製作公差0近くで作ることが求められる。
【0063】
塔内への組み込みは、ブロック体として既に合体されている、複数本の液分配器、規則充填体、固定板及び直上の2次液分配器を、塔の下部マンホールより挿入し、塔内で真上に引き上げられて懸架組み立てされる。
【0064】
全液分配器の水平基準ビームへの固定は、図示した2本のUボルトとプレートからなる懸架用具112が適している。全液分配器の固定は水平調節などの工程を排除され、Uボルトによる固定だけで、水平固定が得られる。
【0065】
本発明は、液分配器、規則充填体の水平の設置を確実なものにするだけではなく、塔内への組み込み作業も短縮させる
【符号の説明】
【0066】
20 充填塔
21 液分配器
23 液集合器
26 充填体構成要素
29 気体吸入口
32 気体流出口
36 規則充填体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の上部に配置された液分配器と装置の下部に設置された液集合器との間において多数の流路を区画する内部構造を有し、気体と液体間の物質移動、熱交換又は混合を行う装置において、
該内部構造は複数の充填体構成要素からなる規則充填体からなり、該充填体構成要素は、糸状および帯状のいずれかの形状を有し、装置の内壁および隣り合う規則充填体構成要素と非接触状態で延長し、各充填体構成要素は、該液分配器の複数の液出口のそれぞれに1本ずつ懸架され、各充填体構成要素の下端は該液集合器に設けられた固定板に1本ずつ結合され、液は該固定板を介して該液集合器に集められ、気体の出口は該液分配器の上部にあり、気体の入り口は該規則充填体の下端よりも下方にあることを特徴とする気液接触機構。
【請求項2】
複数の該規則充填体構成要素を懸架した複数の液分配器が水平方向に並列に配置され、これ等複数の液分配器に液を供給する2次液分配器が該複数の液分配器に直角に配置され、該2次液分配器の複数の液出口の幅はそれぞれ下部の液分配器の長さに合わせて液が配分されるように調節され、液の各出口に下部の液分配器に液を供給する懸架ワイヤーを配置したことを特徴とする請求項1記載の気液接触機構。
【請求項3】
該規則充填体構成要素を懸架した複数の液分配器は装置の上下方向にそれぞれ段差をなして配置され、各液分配器の水平方向断面に於いては、各液分配器を同一平面に配置した場合に比べて大きい開口率が得られることを特徴とする請求項1または2記載の気液接触機構。
【請求項4】
装置の一方の壁側に上下方向に複数の液分配器を配列し、反対側の壁側に該固定板及び該液集合器を上下方向に各固定板および液集合器が前記液分配器のいずれか1つに対応し、かつ該対応する液分配器よりも下方に位置するように配列し、各対応する液分配器と液集合器を連結するようにして該規則充填体構成要素を傾斜して配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の気液接触機構。
【請求項5】
装置は内部熱交換型蒸留塔であり、該内部熱交換型蒸留塔の濃縮部を構成する内塔の塔頂での液分配器の液出口の間隔を小さくすることにより規則充填体を高密度にし、塔底での固定板の充填体構成要素の固定間隔を大きくすることにより規則充填体を粗密度に構成する一方、回収部を構成する外塔の塔頂での液分配器の液出口の間隔を大きくすることにより規則充填体を粗密度にし、塔底での固定板の充填体構成要素の固定間隔を小さくすることにより規則充填体を高密度に構成し、内塔、外塔の塔頂から塔底までの各充填体構成要素は直線を成すように構成する請求項1〜3記載の気液接触機構。
【請求項6】
該液分配器の液出口にそれぞれ充填体構成要素を懸架し、さらに、液出口の下端から一定の距離を置き水平の帯板を重ね合わせる構造にし、液の自然溢流を規制し液柱を作ることにより均等な液分配をさせることを特徴とする請求項1〜5記載の気液接触機構。
【請求項7】
塔内に組み立てられる液分配器の全ての部品は、複数の水平基準ビームに、懸架及び上乗せ構造とし、懸架及び上乗せ部品の水平基準面と液分配器液出口の下端線の製作公差を0に近く作り、塔内への組み込みは高さの公差を0近くで作られた複数の水平基準ビームを先に行い、水平確認後塔に固定し、次に全ての液分配器の部品は、水平基準ビームに、懸架及び上乗せ固定を行い、部品毎の水平調節を排除し、全体の液分配器の水平度を確保することを特徴とする請求項1〜6記載の気液接触機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−183259(P2011−183259A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48732(P2010−48732)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(395014552)
【Fターム(参考)】