説明

環状オレフィン系開環共重合体、環状オレフィン系開環共重合体からなる光学部品、フィルムおよびその用途

【解決手段】本発明の環状オレフィン系開環重合体は、下記式(1)で表される構造単位(1)と、下記式(2)で表される構造単位(2)および下記式(3)で表される構造単位(3)よりなる群から選ばれる少なくとも2種の構造単位とを有することを特徴としている。


【効果】本発明に係る環状オレフィン系開環共重合体は、容易に製造可能で、得られる重合体は透明性、耐熱性、有機溶剤への溶解性、強度、および加工性に優れる、その組成比を適切に調整することで、屈折率の異方性や波長分散性、さらにはガラス転移温度を容易にコントロールすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率の異方性をコントロールできる、スピロ骨格を有する環状オレフィン系構造単位を有する環状オレフィン系開環共重合体、該共重合体から得られるフィルムまたは延伸フィルムならびにその用途に関する。詳しくは、本発明は、透明性、耐熱性、有機溶媒への溶解性、強度および加工性に優れ、特異な複屈折性および波長依存性を有するノルボルネン系開環共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、一般に複屈折が比較的小さいため、偏光板保護フィルム、液晶基板材料、光ディスク、各種光学レンズ、光ファイバーなどへの利用が近年検討されている。また環状オレフィン系樹脂は、加工条件をコントロールすることにより適度な複屈折を発現するため、これを積極的に利用した光学補償フィルムが実際に使用されている。たとえば、特許文献1〜4には、環状オレフィン系樹脂のフィルムを用いた位相差板が記載されている。また、特許文献5〜7には、環状オレフィン系樹脂のフィルムを、偏光板の保護フィルムに使用することが記載されている。さらに、特許文献8には、環状オレフィン系樹脂のフィルムからなる液晶表示素子用基板が記載されている。
【0003】
一般的に位相差フィルムは、延伸配向により、透過光に位相差(複屈折)を与える機能が付与されているが、多くの樹脂フィルムでは透過光の波長が長波長になるにつれて透過光の位相差(複屈折)の絶対値は小さくなる傾向を有するため、可視光領域全域(400〜800nm)において、たとえば1/4λなどの特定の位相差を透過光に与えることは非常に困難であった。
【0004】
しかしながら現在では、反射型や半透過型の液晶ディスプレイや、光ディスク用ピックアップなどの用途においては、実際に、可視光領域全域(400〜800nm)などの広範な波長領域において、1/4λの位相差を与える逆波長分散性位相差フィルムが必要とされており、さらに、液晶プロジェクターなどの用途では、1/2λの位相差が求められている。この他にも、種々の要求に応じ、複屈折の値の正負、その絶対値の大小、位相差の波長依存性の大小等、更に多様な光学的特性を有する樹脂の開発が望まれている。
【0005】
このため、従来の環状オレフィン系樹脂からなる光学フィルムでは、前記の高度な要求に対応できず、そのような光学特性を達成するには複数のフィルムを積層したり、光学特性改良のために各種コーティング剤を塗布したり、さらには複数の延伸フィルムを配向方向を交えて貼合したりして所望の光学特性を得ることが行われている。しかしながら、このような方法で得られる光学フィルムでは、切り出し、フィルム貼合、接着など、製造工程が複雑であるため高コスト、低歩留まり、およびフィルム厚み低減が困難であるといった問題がある。
【0006】
このような状況において、広範な波長領域において、所望の位相差を有する、単層の光学フィルムの実現が望まれており、このような光学フィルムを製造し得る樹脂の出現が強く求められている。特許文献9には特定のノルボルネン系開環共重合体からなるフィルムが複屈折および波長分散性のコントロール性に優れることが示されているが、該重合体はガラス転移温度が必要以上に高く、強度および加工性が低いという問題があった。
【特許文献1】特開平4−245202号公報
【特許文献2】特開平4−36120号公報
【特許文献3】特開平5−2108号公報
【特許文献4】特開平5−64865号公報
【特許文献5】特開平5−212828号公報
【特許文献6】特開平6−51117号公報
【特許文献7】特開平7−77608号公報
【特許文献8】特開平5−61026号公報
【特許文献9】特開2005−36201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、透明性、耐熱性、有機溶媒への溶解性、強度、および加工性に優れ、特異な複屈折性および波長依存性を有するフィルムを製造し得る、環状オレフィン系開環共重合体、それから得られるフィルムならびにその用途を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、特定の構造単位を有する3元以上の共重合体である環状オレフィン系共重合体が、上記課題を達成し得ることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の環状オレフィン系開環重合体は、
下記式(1)で表される構造単位(1)と、
下記式(2)で表される構造単位(2)および下記式(3)で表される構造単位(3)よりなる群から選ばれる少なくとも2種の構造単位と
を有することを特徴としている。
【0010】
【化1】

【0011】
(式(1)中、aは0または1を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。Xは−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)
【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
(式(2)および式(3)中、aは0または1を表し、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。XおよびYは、それぞれ独立に、−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)。
【0015】
このような本発明の開環共重合体は、前記式(1)、(2)および(3)中の複数存在するXの合計を100mol%として、Xの80mol%以上が−CH2CH2−で表され
る基であることが好ましい。
【0016】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、前記構造単位(1)、(2)および(3)の合計量100モル%中、構造単位(1)が5〜50mol%であることが好ましい。
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、前記構造単位(2)が、前記一般式(2)中のR1およびR2が水素原子であり、R3が水素原子またはメチル基であり、R4が水素原子、アルコキシカルボニル基またはフェニル基である構造単位であることが好ましく、前記構造単位(2)が、下記式(2−1)〜(2−5)で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
(式(2−1)〜(2−5)中、Xは一般式(2)で定義のとおり。)
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、前記構造単位(3)が、下記式(3−1)および(3−2)で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
【化9】

【0024】
【化10】

【0025】
(式(3−1)および(3−2)中、Xは一般式(3)で定義のとおり。)
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、日本工業規格K7121に従って測定した補外ガラス転移開始温度が110〜180℃であることが好ましい。
【0026】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、ウッベローデ型粘度計を用いて、クロロホルム中、試料濃度0.5g/dL、温度30℃で測定した対数粘度が0.4〜0.8dL
/gであることが好ましい。
【0027】
本発明の光学部品は、上記本発明の環状オレフィン系開環共重合体を成型して得られることを特徴としている。
本発明のフィルムは、上記本発明の環状オレフィン系開環共重合体をキャスト法または押出し法により製膜して得られることを特徴としている。
【0028】
本発明の延伸フィルムは、上記本発明の環状オレフィン系開環共重合体をキャスト法または押出し法により製膜し、得られたフィルムを延伸して得られることを特徴としている。
【0029】
本発明の偏光板あるいは液晶表示装置は、上記本発明の延伸フィルムを含む。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る環状オレフィン系開環共重合体は、特定のシクロオレフィン類を共重合することにより容易に製造可能で、得られる重合体は透明性、耐熱性、有機溶剤への溶解性、強度、および加工性に優れる。また、本発明に係る環状オレフィン系開環重合体は、その組成比を適切に調整することで、屈折率の異方性や波長分散性を自在にコントロールすることができるばかりでなく、環状オレフィン系開環重合体またはその成形品の製造において、生産性や品質に係る重要な因子となるガラス転移温度を容易にコントロールすることができる。
【0031】
本発明に係る環状オレフィン系開環共重合体は、光学材料として非常に有用であり、光ディスク、光磁気ディスク、光学レンズ(Fθレンズ、ピックアップレンズ、レーザープリンター用レンズ、カメラレンズ等)、眼鏡レンズ、光学フィルム/シート(ディスプレイ用フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、拡散フィルム、反射防止フィルム、液晶基板、EL基板、電子ペーパー用基板、タッチパネル基板、PDP前面板等)、透明導電性フィルム用基板、光ファイバー、導光板、光カード、光ミラー、IC、LSI、LED封止材等、非常に高精度の光学設計が必要とされている光学材料への応用が可能である。
【0032】
特に本発明に係る環状オレフィン系開環共重合体は、光学フィルムの用途に用いることができ、キャスト法または押出し法により製膜したフィルム、それを延伸した延伸フィルムの製造に適している。延伸フィルムは、位相差フィルムとして好適であり、偏光板や液晶表示装置などの用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明について具体的に説明する。
本明細書において、複屈折との用語は通常の意味で用いられる。また、複屈折の値(これを、Δnとする)とは、重合体から成形されたフィルムを一軸または二軸延伸し、重合体分子鎖を一方向に配向させた延伸フィルムにおいて、延伸方向(二軸延伸においては延伸倍率の大きい方向)をx軸、これに対して面内垂直方向をy軸とし、x軸方向の屈折率をnx、Y軸方向の屈折率をnyとして、下記式:
Δn=nx−ny
で定義される正ないし負の値であり、その絶対値は入射光の波長によって異なる。
【0034】
そして、正(または、負)の複屈折性とは、前記Δnが正(または、負)である場合の上記延伸フィルムの性質を意味する。
次に、位相差(Retardation、これをReとする)とは、下記式:
Re=Δn×d (式中、dは、透過光の光路長(nm)であり、通常、上記延伸フィルムの厚さである。)
で定義される正〜負の値であり、その絶対値は入射光の波長によって異なる。また、「位相差が1/4λ」とは入射光波長(λ)の1/4に相当する位相差を発現することを意味する。
【0035】
そして、位相差の波長依存性とは、前記Reの値と入射光の波長との相関性を意味し、「位相差の波長依存性が大きい」とは、短波長の入射光に対するReの絶対値と、長波長の入射光に対するReの絶対値との差異が大きいことを意味する。また、「通常の波長分散性」とは入射光波長が長波長になるに従い位相差が小さくなる特性を意味し、「逆波長分散性」とは入射光波長が長波長になるに従い位相差が大きくなる特性を意味する。
<環状オレフィン系開環共重合体>
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、前記式(1)で表される構造単位(1)を必須の構成単位として含有するとともに、前記式(2)で表される構造単位(2)および前記式(3)で表される構造単位(3)よりなる群から選ばれる少なくとも2種の構造単位を必須の構造単位として含有する。本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、これらの構造単位(1)と、構造単位(2)および/または(3)のみから構成されていてもよいし、さらにこれら以外の構造単位を有していてもよい。
【0036】
ここで、前記式(1)におけるR並びに前記式(2)および(3)におけるR1〜R4で表される、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基について説明する。
【0037】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が挙げられる。
炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチリデン基、プロピリデン基等のアルキリデン基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の芳香族基等が挙げられる。これらの基中の炭素原子に結合した水素原子は、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、フェニルスルホニル基、シアノ基等で置換されていてもよい。
【0038】
上記の置換または非置換の炭化水素基は直接環構造に結合していてもよいし、或いは連結基を介して結合していてもよい。前記連結基としては、例えば、炭素原子数1〜10の2価炭化水素基(例えば、−(CH2m−(式中、mは1〜10の整数)で表されるアルキレン基);酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む連結基(例えば、カルボニル基(−CO−)、カルボニルオキシ基(−COO−)、スルホニル基(−SO2
−)、スルホニルオキシ基(−SO2−O−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル
結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−)、シロキサン結合(−Si(R)2O−)(式中、Rはメチル基、エチル基等のアルキル基である);或い
はこれらの2種以上が組み合わさって連なったものが挙げられる。
【0039】
極性基としては、例えば、水酸基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アミド基、イミノ基(=NH)、トリオルガノシロ
キシ基、トリオルガノシリル基、アミノ基、アシル基、アルコキシシリル基、スルフィノ基(−SO2H)、カルボキシル基等が挙げられる。
【0040】
更に具体的には、上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ;アルキルカルボニルオキシ基としては、例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等が挙げられ;アリールカルボニルオキシ基としては、例えば、ベンゾイルオキシ基等が挙げられ;アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられ;アリーロキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等が挙げられ;トリオルガノシロキシ基としては、例えば、トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等が挙げられ;トリオルガノシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等が挙げられ;アミノ基としては、例えば、第1級アミノ基等が挙げられ;アルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
【0041】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体では、構造単位(2)としては、前記式(2)中のR1およびR2が水素原子であり、R3が水素原子またはメチル基であり、R4が水素原子、アルコキシカルボニル基またはフェニル基である構造単位が好ましい。このような構造単位(2)としては、下記式(2−1)〜(2−5)で表される構造単位が特に好ましい。
【0042】
【化11】

【0043】
【化12】

【0044】
また、本発明の環状オレフィン系開環共重合体では、構造単位(3)としては、前記式(3)中のR1およびR2が水素原子である構造単位であることが好ましい。このような構造単位(3)としては、下記式(3−1)および(3−2)で表される構造単位が挙げられる。
【0045】
【化13】

【0046】
なお、これらの式中、Xは式(2)あるいは(3)で定義のとおりであって、−CH=CH−または−CH2CH2−を表し、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。
本発明の環状オレフィン系開環共重合体では、上記のように構成単位(1)、(2)および(3)中のXが、−CH=CH−または−CH2CH2−であって、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。すなわち本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、構造単位(1)、(2)および(3)を形成し得る環状オレフィン系単量体を共重合した共重合体であってもよく、さらに水素添加したものであってもよい。環状オレフィン系単量体を共重合しただけの共重合体は、Xが−CH=CH−で表されるオレフィン性不飽和基の状態であるが、耐熱安定性の観点から、このような不飽和基が水素添加されて、前記Xが−CH2CH2−で表される基に転換された基であることが好ましい。本発明の環状オレフィン系共重合体においては、構造単位(1)、(2)および(3)中のXの合計を100mol%として、通常80mol%以上、好ましくは90mol%以上、より好ましくは95mol%以上が、−CH2CH2−であることが望ましい。Xが−CH2CH2−である割合が高いほど、すなわち共重合体の水素転化率が高いほど、安定な共重合体となり、熱による着色や劣化が抑制されるため好ましい。
【0047】
また、構成単位(3)中のYは、−CH=CH−または−CH2CH2−であって、−CH=CH−であることがより好ましい。
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、前記構造単位(1)と、前記構造単位(2)および(3)よりなる群から選ばれる少なくとも2種の構造単位とを有する。すなわち
、前記構造単位(1)の1種以上とともに、前記構造単位(2)を2種以上有していてもよく、前記構造単位(3)を2種以上有していてもよく、前記構造単位(2)の1種以上と前記構造単位(3)の1種以上とを有していてもよい。
【0048】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、前記構造単位(1)、(2)および(3)の合計量100モル%中、構造単位(1)が5〜50mol%の範囲で構成されていることが好ましく、構造単位(1)が10〜50mol%の範囲で構成されていることがさらに好ましい。また、本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、全構造単位中、前記構造単位(1)、(2)および(3)の合計が70モル%以上、好ましくは80モル%以上であることが望ましい。構造単位(1)、(2)および(3)以外の構造単位としては、後述する単量体(1)、(2)、(3)以外の環状オレフィン系単量体を開環重合して形成される構造単位が挙げられる。
【0049】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、日本工業規格K7121に従って測定した補外ガラス転移開始温度が、好ましくは110〜180℃、より好ましくは112〜178℃、さらに好ましくは114〜176℃であって、充分な耐熱性を有するとともに、押出し成形等の溶融成形も可能な優れた成形性を有する。
【0050】
また、本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、ウッベローデ型粘度計を用いて、クロロホルム中、試料濃度0.5g/dL、温度30℃で測定した対数粘度が、好ましくは
0.4〜0.8dL/g、より好ましくは0.41〜0.78dL/g、さらに好ましくは0.42〜0.76dL/gである。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、テトラヒドロフラン溶媒、ポリスチレン換算値)による平均分子量の測定では、前記開環重合体の数平均分子量(Mn)は、通常、1000〜50万、好ましくは2000〜30万、更に好ましくは5000〜30万であり、重量平均分子量(Mw)は、通常、5000〜200万、好ましくは1万〜100万、更に好ましくは3万〜50万である。
【0051】
上記対数粘度(ηinh)が0.4未満であるか、数平均分子量(Mn)が1000未満
であるか、或いは、重量平均分子量(Mw)が5000未満であると、本発明のノルボルネン系開環重合体から得られる成形物の強度が著しく低下する場合がある。一方、対数粘度(ηinh) が0.81以上であるか、数平均分子量(Mn)が50万以上であるか、或いは、重量平均分子量(Mw)が200万以上であると、前記開環重合体の溶融粘度または溶液粘度が高くなりすぎて、所望の成形品を得ることが困難になる場合がある。
<環状オレフィン系開環共重合体の製造方法>
このような本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、例えば以下のようにして製造することができる。
開環共重合
・単量体
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、下記式(1m)で表される単量体(1m)と、下記式(2m)で表される単量体(2m)および下記式(3m)で表される単量体(3m)から選ばれる少なくとも2種の単量体とを含む単量体組成物を、開環共重合し、所望により水素添加することにより製造することができる。
【0052】
【化14】

【0053】
(式(1m)中、aおよびRは式(1)に関して定義のとおりである。)
【0054】
【化15】

【0055】
【化16】

【0056】
(式(2m)および(3m)中、a、YおよびR1〜R4は式(2)または(3)に関して定義のとおりである。)
本発明の環状オレフィン系開環重合体の構成単位(1)は単量体(1m)から、構造単位(2)は単量体(2m)から、構造単位(3)は単量体(3m)からそれぞれ誘導されるものである。
【0057】
構造単位(1)を誘導する単量体(1m)としては、たとえば、以下のようなものを挙げることができる。
スピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0058】
【化17】

【0059】
スピロ[2,7−ジフルオロフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0060】
【化18】

【0061】
スピロ[2,7−ジクロロフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0062】
【化19】

【0063】
スピロ[2,7−ジブロモフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0064】
【化20】

【0065】
スピロ[2−メトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0066】
【化21】

【0067】
スピロ[2−エトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0068】
【化22】

【0069】
スピロ[2−フェノキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0070】
【化23】

【0071】
スピロ[2,7−ジメトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0072】
【化24】

【0073】
スピロ[2,7−ジエトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0074】
【化25】

【0075】
スピロ[2,7−ジフェノキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0076】
【化26】

【0077】
スピロ[3,6−ジメトキシフルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12',5'][3]デセン]
【0078】
【化27】

【0079】
スピロ[フルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0080】
【化28】

【0081】
スピロ[2,7−ジフルオロフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0082】
【化29】

【0083】
スピロ[2,7−ジクロロフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0084】
【化30】

【0085】
スピロ[2,7−ジブロモフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0086】
【化31】

【0087】
スピロ[2−メトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0088】
【化32】

【0089】
スピロ[2−エトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0090】
【化33】

【0091】
スピロ[2−フェノキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',1
3'][4]ペンタデセン]
【0092】
【化34】

【0093】
スピロ[2,7−ジメトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0094】
【化35】

【0095】
スピロ[2,7−ジエトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0096】
【化36】

【0097】
スピロ[2,7−ジフェノキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0098】
【化37】

【0099】
スピロ[3,6−ジメトキシフルオレン−9,11'−ペンタシクロ[6.5.1.13',6' .02',7'.09',13'][4]ペンタデセン]
【0100】
【化38】

【0101】
単量体(1m)としては、これらのうち特に
【0102】
【化39】

【0103】
が好ましい。
構造単位(2)を誘導する単量体(2m)としては、たとえば、以下のようなものを挙げることができる。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0104】
【化40】

【0105】
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0106】
【化41】

【0107】
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0108】
【化42】

【0109】
5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0110】
【化43】

【0111】
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0112】
【化44】

【0113】
5−(ビフェニル−4−イル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0114】
【化45】

【0115】
5−(ナフタレン−2−イル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0116】
【化46】

【0117】
5−(ナフタレン−1−イル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0118】
【化47】

【0119】
5−シクロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0120】
【化48】

【0121】
5−(シクロヘキセン−4−イル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0122】
【化49】

【0123】
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0124】
【化50】

【0125】
5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0126】
【化51】

【0127】
5−ブトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0128】
【化52】

【0129】
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0130】
【化53】

【0131】
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0132】
【化54】

【0133】
5−メチル−5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0134】
【化55】

【0135】
5−メチル−5−フェノキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0136】
【化56】

【0137】
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0138】
【化57】

【0139】
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【0140】
【化58】

【0141】
テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン
【0142】
【化59】

【0143】
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0144】
【化60】

【0145】
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0146】
【化61】

【0147】
8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0148】
【化62】

【0149】
8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデ
セン
【0150】
【化63】

【0151】
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデ
セン
【0152】
【化64】

【0153】
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセ

【0154】
【化65】

【0155】
8−フェノキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0156】
【化66】

【0157】
8−(1−ナフトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−
ドデセン
【0158】
【化67】

【0159】
8−(2−ナフトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−
ドデセン
【0160】
【化68】

【0161】
8−(4−フェニルフェノキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
]−3−ドデセン
【0162】
【化69】

【0163】
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3
−ドデセン
【0164】
【化70】

【0165】
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3
−ドデセン
【0166】
【化71】

【0167】
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
]−3−ドデセン
【0168】
【化72】

【0169】
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
]−3−ドデセン
【0170】
【化73】

【0171】
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
−3−ドデセン
【0172】
【化74】

【0173】
8−メチル−8−フェノキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−
3−ドデセン
【0174】
【化75】

【0175】
8−メチル−8−(1−ナフトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0176】
【化76】

【0177】
8−メチル−8−(2−ナフトキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0178】
【化77】

【0179】
8−メチル−8−(4−フェニルフェノキシ)カルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0180】
【化78】

【0181】
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0182】
【化79】

【0183】
8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0184】
【化80】

【0185】
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0186】
【化81】

【0187】
8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0188】
【化82】

【0189】
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
【0190】
【化83】

【0191】
8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3
−ドデセン
【0192】
【化84】

【0193】
単量体(2m)としては、これらのうち、前記式(2m)中のR1およびR2が水素原子であり、R3が水素原子またはメチル基であり、R4が水素原子、アルコキシカルボニル基またはフェニル基である化合物が好ましく、これらのうち特に、
【0194】
【化85】

【0195】
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
構造単位(3)を誘導する単量体(3m)としては、たとえば、以下のようなものを挙げることができる。
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン
【0196】
【化86】

【0197】
トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−8−デセン
【0198】
【化87】

【0199】
トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−デカ−3,8−ジエン
【0200】
【化88】

【0201】
単量体(3m)としては、これらのうち特に
【0202】
【化89】

【0203】
であることが好ましい。
本発明に係る環状オレフィン系開環共重合体を製造するに当たっては、単量体組成物中の単量体(1m)、単量体(2m)および単量体(3m)の合計量を100mol%として、単量体(1m)が5〜50mol%の範囲であるのが好ましく、10〜50mol%の範囲であるのがより好ましい。単量体(1m)をこのような共重合比で用いることにより、得られる本発明の環状オレフィン系開環共重合体が有する屈折率の異方性や波長分散性などの光学的特性、およびガラス転移温度などの物理的特性を容易にコントロールする
ことができる。
【0204】
単量体組成物は、上述の単量体(1m)、単量体(2m)および単量体(3m)の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の共重合可能な単量体を含有していてもよい。共重合可能な単量体としては、たとえば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン等の環状オレフィン;1,4−シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロドデカトリエン等の非共役環状ポリエンが挙げられる。前記共重合可能な単量体は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。本発明では、単量体組成物中の共重合可能な単量体は、30モル%以下であるのが好ましく、20モル%以下であるのがより好ましい。
・開環重合触媒
本発明の環状オレフィン系開環共重合体を製造するのに好適に用いることのできる、開環重合用の触媒としては、例えば、
(I)Olefin Metathesis and Metathesis Polymerization(K.J.IVIN, J.C.MOL, Academic Press 1997)に記載されている触媒が好ましく用いられる。このような触媒としては
、例えば、(a)W、Mo、Re、VおよびTiの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)アルカリ金属元素(例えば、Li、Na、K)、アルカリ土類金属元素(例えば、Mg、Ca)、第12族元素(例えば、Zn、Cd、Hg)、第13族元素(例えば、B、Al)、第14族元素(例えば、Si、Sn、Pd)等の化合物であって、少なくとも1つの当該元素−炭素結合または当該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組み合わせからなるメタセシス触媒が挙げられる。該触媒の活性を高めるために、後述の(c)添加剤が添加されたものであってもよい。
【0205】
上記(a)成分の具体例としては、例えば、WCl6、MoCl5、ReOCl3、VO
Cl3、TiCl4等の特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0206】
上記(b)成分の具体例としては、例えば、n−C49Li、(C253Al、(C252AlCl、(C251.5AlCl1.5、(C25)AlCl2、メチルアルモキサ
ン、LiH等の特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0207】
上記(c)成分の添加剤としては、例えば、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類等を好適に用いることができ、更に、特開平1−240517号公報に記載の化合物を使用することができる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0208】
上記(a)成分等を組み合わせてなるメタセシス触媒の使用量は、上記(a)成分と、全単量体(上述した単量体(1m)、(2m)、(3m)および他の共重合可能な単量体の総計、以下同じ)との、「(a)成分:全単量体」のモル比が、通常、1:500〜1:500,000となる範囲、好ましくは1:1,000〜1:100,000となる範囲である。更に、上記(a)成分と(b)成分との割合は、「(a):(b)」の金属原子(モル)比が、通常、1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30の範囲である。このメタセシス触媒に上記(c)添加剤を添加する場合、(a)成分と(c)成分との割合は、「(c):(a)」のモル比が、通常0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1の範囲である。
【0209】
また、その他の触媒として、
(II)周期表第4族〜第8族の遷移金属−カルベン錯体やメタラシクロブタン錯体等からなるメタセシス触媒を用いることができる。
【0210】
上記触媒(II)の具体例としては、例えば、W(=N−2,6−C63iPr2)(=CHtBu)(OtBu)2、Mo(=N−2,6−C63iPr2)(=CHtBu)(Ot
Bu)2、Ru(=CHCH=CPh2)(PPh32Cl2、Ru(=CHPh2)[P(C61132Cl2等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0211】
上記触媒(II)の使用量は、「触媒(II):全単量体」のモル比が、通常1:500〜1:50,000となる範囲、好ましくは1:100〜1:10,000となる範囲である。
【0212】
なお、上記触媒(I)と(II)とを組み合わせて用いても差し支えない。
・分子量調節剤
本発明に係る環状オレフィン系開環共重合体の分子量の調節は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類等を調整することによっても行うことができるが、分子量調節剤を開環共重合の反応系に共存させることにより調節することが好ましい。分子量調節剤としては、例えば、エチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィン類およびスチレンが好ましく、これらのうち、1−ブテンおよび1−ヘキセンが特に好ましい。これらの分子量調節剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。この分子量調節剤の使用量は、全単量体1モル当り、通常、0.005〜0.6モル、好ましくは0.02〜0.5モルである。
・開環重合反応溶媒
開環共重合反応において用いられる溶媒(即ち、単量体、開環重合触媒、分子量調節剤等を溶解する溶媒)としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等のアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナン等のシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等の芳香族炭化水素;クロロブタン、ブロムヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレン等のハロゲン化アルカン、ハロゲン化アリール等の化合物;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチル等の飽和カルボン酸エステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類が挙げられ、これらの中では芳香族炭化水素が好ましい。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。この開環重合反応用溶媒の使用量は、「溶媒:全単量体」の重量比が、通常、1:1〜10:1となる量であり、好ましくは1:1〜5:1となる量であるのが望ましい。
・重合温度
開環共重合反応は、通常発熱反応であり、重合反応中に反応温度を必ずしも一定に保つ必要はないが、重合開始時の温度、すなわち触媒を添加する時のモノマー溶液の温度を制御することが好ましい。触媒を添加する時のモノマー溶液の温度は、30〜200℃が好ましく、より好ましくは50℃〜180℃である。30℃未満の場合は重合体の収率が低下することがあり、200℃を超える場合は分子量コントロールが困難になることがある。
水素添加
上記開環共重合により得られる環状オレフィン系開環共重合体は、構造単位(1)〜(3)中のXが、式:−CH=CH−で表されるオレフィン性不飽和基の構造を有するものである。この開環重合体は、そのまま使用することができるが、耐熱安定性をより向上させるために、上記オレフィン性不飽和基を水素添加して式:−CH2−CH2−で表される基に変換させ、水素添加された開環重合体(水素添加物)として得ることが好ましい。ただし、本発明でいう水素添加物とは、開環共重合により生じる前記オレフィン性不飽和基
が水素添加されたものであって、単量体構造に由来するベンゼン環などの芳香環骨格中の管ない共役二重結合は、実質的に水素添加されていないものであることが好ましい。
【0213】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体の水素添加率、すなわち構造単位(1)〜(3)中のXが、式:−CH2−CH2−で表される基に変換される割合は、複数存在する上記Xの合計の80モル%以上、好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上である。この水素添加率が高いほど、環状オレフィン系共重合体の高温条件下における着色や劣化の発生が抑制されるので好ましい。
【0214】
水素添加反応は、上記芳香環骨格中の環内共役二重結合が実質的に水素添加されない条件で行われるのが望ましい。例えば、開環重合体の溶液に水素添加反応触媒を添加し、これに、通常、常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを加えて、通常、0〜200℃、好ましくは50〜200℃で反応させることによって行うことができる。
【0215】
水素添加反応触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用することができ、不均一系触媒および均一系触媒が公知である。不均一系触媒としては、例えば、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウム等の貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニア等の担体に担持させた固体触媒が挙げられる。均一系触媒としては、例えば、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等が挙げられる。これら触媒の形態は粉末状でも粒状でもよい。また、この水素添加反応触は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0216】
これらの水素添加反応触媒は、上記芳香環骨格中の環内共役二重結合が実質的に水素添加されないようにするために、その添加量を調整する必要があり、「開環共重合体:水素添加反応触媒」の重量比が、通常、1:1×10-6〜1:2となる割合で使用される。
【0217】
<成形>
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、押出し成形および射出成形などの溶融成形、溶液流延法(キャスト法)による成形のいずれによっても好適に所望の形状に成形することができる。
【0218】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体の物理的物性値は共重合組成比や分子量調節剤の使用量によりコントロールすることができるが、本発明の環状オレフィン共重合体の特性を失わない範囲で各種添加剤を添加しても良い。また、本発明の環状オレフィン系開環重合体には、これ以外の目的でも、公知の各種添加剤を添加することができる。
【0219】
添加剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリトール・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒ
ドキシフェニル)プロピオネート]、4,4'−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、オクタデシル・3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール等のフェノール系、ヒドロキノン系酸化防止剤;トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)
ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系
酸化防止剤が挙げられる。これらの酸化防止剤の1種または2種以上を添加することにより、開環共重合体の耐酸化劣化性を向上することができる。また、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリ
アゾール−2−イル)フェノール]]等の紫外線吸収剤を添加することによって耐光性を
向上することもできる。更に、加工性を向上させる目的で滑剤等の添加剤を添加することもできる。これらの添加剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0220】
本発明の環状オレフィン系開環重合体は、所望の形状に成形することができるが、光学特性に優れるため、各種光学材料の用途に有用である。なかでも、フィルムまたはシート(本発明ではこれらを総称してフィルムという)への成形が好ましく、各種光学フィルムの用途に好適に使用することができる。
・光学フィルム
本発明の環状オレフィン系開環重合体は、単量体(1m)の置換基R、単量体(2m)、単量体(3m)の置換基R1〜R4の構造・種類、共重合組成比などを設定することにより、得られるフィルムなどの成形品の複屈折の絶対値や位相差の波長依存性を調製することができる。また、本発明の環状オレフィン系開環重合体と公知の環状オレフィン系樹脂等とを適宜配合することによっても、得られる樹脂組成物から成形された重合体フィルム等の複屈折の値の正負、複屈折の絶対値や位相差の波長依存性を調整することができる。
【0221】
本発明の環状オレフィン系開環重合体を選択して用いると、複屈折の値の正負、その絶対値の大小、位相差の波長依存性の大小等を容易にコントロールできるため、本発明の共重合体から得られたフィルムは光学補償フィルムとして好適に利用できる。このため、本発明の環状オレフィン系開環共重合体またはそれを含む組成物を、キャスト法または押し出し法により製膜して、光学フィルムとすることが好ましい。さらに、上記光学フィルムは延伸加工によりその性能を十分に発現することから、自由幅一軸延伸、幅拘束一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸または光学フィルムに収縮性フィルムを延伸時または延伸後に貼付してフィルム厚み方向の屈折率を調整するいわゆるZ軸配向(Z軸延伸)を行って延伸フィルムとすることが好ましい。
【0222】
本発明の光学フィルムは、押出し成形またはキャスト成形により製膜したフィルムでは優れた透明性を示すため、各種保護フィルムなどとして好適に用いることができる。また、製膜して得たフィルムをさらに延伸した延伸フィルムでは、独自の波長依存性を示すため、位相差板や液晶表示装置を構成するフィルムとして好適に用いることができる。
【0223】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体あるいはそれを含む樹脂組成物から製膜して得られた光学フィルムを、延伸して得られたフィルム、特に自由幅一軸延伸して得られたフィルムは、共重合体の種類および樹脂組成を選択することによって、可視光領域において、透過する波長が大きくなるほど位相差Reが大きくなる、逆波長分散性を有するフィルムとすることができる。このようなフィルムは位相差フィルムとして好適に用いることができ、1/4λ板などとして利用可能である。このようなフィルムは、偏光板や液晶表示装置を構成するフィルムとして好適である。
【0224】
特に、本発明の環状オレフィン系開環共重合体からなる光学フィルムを1〜150Kgf/cm2の応力で熱延伸して得られる自由幅一軸延伸フィルムは、好ましくは下記光学
特性(1)〜(4)を同時に満足することができる。
(1)0≦Re550≦300nm
(2)0.5≦Re450/Re550≦1.0
(3)1.0≦Re650/Re550≦1.3
(4)10000≦d≦250000
(上記式中、Re450、Re550、Re650は、それぞれ波長450nm、550nm、650nmにおけるフィルム面内の位相差Reを示し、Re=(nx−ny)×dで表される。ここで、nxおよびnyは延伸方向をx軸、これに対してフィルム面内垂直方向をy軸としたときのx軸方向およびy軸方向の屈折率をそれぞれ表し、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
本発明に係る延伸フィルムが、上記(1)〜(4)の光学特性を同時に満たす場合には、各種仕様のモニター、テレビ、またはモバイル機器等の光学補償材料として特に好適に使用できる。
【0225】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」及び「%」は、特に断りのない限り「重量部」および「重量%」を意味する。また、室温とは25℃である。
【0226】
本発明における各種物性値の測定方法を以下に示す。
・ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、商品名:DSC6200)を用いて、日本工業規格K7121に従って補外ガラス転移開始温度を求めた。以下、単にガラス転移温度(Tg)という。
・重量平均分子量および分子量分布
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、商品名:HLC-8020)を用い、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、ポリスチレ
ン換算の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を測定した。なお、前記Mnは数平均分子量である。
・重合体分子構造
超伝導核磁気共鳴吸収装置(NMR、Bruker社製、商品名:AVANCE500)を用い、重水素化クロロホルム中で1H−NMRを測定し、共重合組成比および水素添
加率を算出した。
・位相差、複屈折評価
開環重合体のトルエン乃至塩化メチレン溶液(濃度:25%)を平滑なガラス板上にキャストし、乾燥後、厚さ100μm、残留溶媒0.5〜0.8%の無色透明なフィルムを得た。このフィルムのガラス転移温度(Tg)よりも5〜10℃高い温度で、1.2〜2.0倍に一軸延伸した。この延伸フィルムの位相差および複屈折の値を、レターデーション測定器(王子計測機器製、商品名:KOBRA21DH)を用いて測定した。
・対数粘度
ウッベローデ型粘度計を用いて、クロロホルム中、試料濃度0.5g/dL、温度30
℃で測定した。
・引き裂き強度
株式会社東洋精機製作所製エレメンドルフ引き裂き試験装置3200型を用いて測定した。
合成例1
<スピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5][3]デセン]の合成>
水素化リチウムアルミニウム 39.0g(1.03mol)をテトラヒドロフラン1000mL中に分散させ、テトラヒドロフラン 600mLに溶解した無水ハイミック酸 100g(0.61mol)を反応溶液温度が35℃以下となるように温度調整しながら滴下した。滴下終了後、反応温度を室温に上げ20時間反応させた。反応後、氷冷して水171mL、続いて15%水酸化ナトリウム水溶液 39mLを加えた。次に析出物を濾別し、
濾液に水400mLを加え、ジエチルエーテル 300mLで3回、酢酸エチル400m
Lで2回抽出した。抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥したのち濃縮・乾燥して白色固体の5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン83g(収率88%)を得た。
【0227】
p−トルエンスルホニルクロリド 99g(0.0.51mol)をテトラヒドロフラ
ン129mLに溶解させ、8℃に冷却した。この溶液にピリジン162mLに溶解した5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン36g(0.234mol)を反応温度10℃以下を保ちながら滴下した。滴下終了後、反応温度を室温に上げ20時間反応させた。反応混合物に水900mLを加え、酢酸エチル900mLで1回抽出した。抽出液を0.1N塩酸600mLで1回、水600mLで1回洗浄し、無水
硫酸マグネシウムで乾燥した。濃縮・乾燥後、塩化メチレンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して白色固体の5,6−ジ(p−トルエンスルホニルオキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン66g(収率63%)を得た。
【0228】
フルオレン36g(0.217mol)をテトラヒドロフラン380mLに溶解し、−60℃に冷却した。この溶液に−50℃以下を保ちながら1.6mol/Lのn−ブチルリチウム/n−ヘキサン溶液270mL(0.432mol)を徐々に加え1時間程度反応させた。これにテトラヒドロフラン1200mLに溶解した5,6−ジ(p−トルエンスルホニルオキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン 50g(0.108
mol)を反応温度−50℃以下を保ちながら滴下した。滴下終了後、反応温度を室温に上げ15時間反応させた。その後、食塩水140mLを加えて攪拌した後、テトラヒドロフランを減圧留去した。残留物に水300mLを加えシクロヘキサン300mLで3回抽出した後、抽出液を水1000mLで3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。濃縮・乾燥後、塩化メチレンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して黄色固体を得た。この粗体をメタノールで再結晶し、下記構造式で示される白色針状結晶のスピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.12.5][3]デセン]11g(収率36%)を得た。
【0229】
【化90】

【0230】
[実施例1]
単量体として、合成例1で得たスピロ[フルオレン−9,8'−トリシクロ[4.3.0.
2.5][3]デセン](以下単量体A)30g(0.1055mol)、下記式(B)で
表される8−メトキシカルボニル−8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(以下単量体B)66g(0.2841mol)、下記式(C)で表
されるビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(以下単量体C)4g(0.0425mol)、分子量調節剤として1−へキセン51g(0.0605mol)、およびトルエン250gを窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウムのトルエン溶液(トリエチルアルミニウム濃度0.61mol/L)0.57mL、メタノール変性WCl6のトルエン溶液(メタノール変性WCl6濃度0.025mol/L)1.73mLを加え、80℃のオイルバス浴条件下で1時間反応させることにより重合体を得た。
【0231】
【化91】

【0232】
ここで得られた重合体溶液をオートクレーブに入れ、さらにトルエンを150g加えた。水素添加反応触媒としてRuHCl(CO)[P(C6533を0.040g添加し、水素ガスを10MPaのゲージ圧となるように添加し、 160〜165℃に加熱して
3時間の反応を行った。反応終了後多量のメタノールに沈殿させることにより水素添加体を回収し、100℃の真空乾燥機で12時間乾燥した。得られた水素添加体の重量平均分子量(Mw)=83,237、分子量分布(Mw/Mn)=4.33であり、対数粘度(ηinh)=0.61、補外ガラス転移開始温度(Tg)=168.0℃、収量80g(収
率80%)であった。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.8%であり、芳香環残存率は100%であった。また、NMRにより求めた単量体A、単量体B、および単量体C由来の構造単位含有率(共重合組成比)はそれぞれ21、71、および8重量%であった。得られた開環重合水添体の1H−NMRスペクトルを図1に示す。
【0233】
得られた開環重合水添体18gを塩化メチレン162gに溶解し、減圧濾過(ろ剤:ADVANTEC製GA200)した溶液を平滑な硝子製浴槽(内寸:幅260x奥行38
0x深さ5mm)にキャストした。このフィルムを浴槽から剥離後、100℃の真空乾燥
機で12時間乾燥して厚さ140μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は500ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は50gfであった。
【0234】
このフィルムを幅10x長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。176℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は67Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚
は101μmであり、位相差を測定したところR450=126、R550=156、R650=168nmであった。ここでR450、R550、およびR650はそれぞれ波長450、550、および650nmにおける位相差を表す。
【0235】
結果をまとめて表1に示した。
[実施例2]
単量体として、単量体A 30g(0.1055mol)、単量体B 66g(0.2841mol)、単量体C 4g(0.0425mol)、分子量調節剤として1−へキセン51g(0.0605mol)、およびトルエン250gを窒素置換した反応容器に仕込み、90℃に加熱して触媒を添加し、90℃のオイルバス浴条件下で開環共重合反応を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、重合体を得た。この重合体を、実施例1と同様に水添し、その後メタノールで沈殿し、乾燥することで、開環重合水添体を得た。得られた水素添加体の重量平均分子量(Mw)=88010、分子量分布(Mw/Mn)=5.10であり、対数粘度(ηinh)=0.63、補外ガラス転移開始温度(Tg)=1
69℃、収量77g(収率77%)であった。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.9%であり、芳香環残存率は100%であった。また、NMRにより求めた単量体A、単量体B、および単量体C由来の構造単位含有率(共重合組成比)はそれぞれ22、70、および8重量%であった。
【0236】
得られた開環重合体を用いる以外は実施例1と同様にして、厚さ141μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は550ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は52gfであった。
【0237】
このフィルムを幅10x長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。177℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は68Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚
は103μmであり、位相差を測定したところR450=125、R550=156、R650=169nmであった。
【0238】
[比較例1]
単量体(C)を使用しないこと以外は実施例1と同様にして開環重合反応、水素添加反応、水素添加体回収および乾燥を行い、重量平均分子量(Mw)=100,003、分子量分布(Mw/Mn)=5.29、対数粘度(ηinh)=0.66、補外ガラス転移開始
温度(Tg)=188.0℃の開環重合水添体を収率84%で得た。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.9%であり、芳香環残存率は100%であった。また、NMRにより求めた単量体Aおよび単量体B由来の構造単位含有率(共重合組成比)は27および73重量%であった。
【0239】
得られた開環重合水添体を実施例1と同様に製膜して140μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は550ppmであった。このフィルムの引き裂き強度測定を試みたところ、測定範囲以下の強度であり有効値を得ることは出来なかった。
【0240】
このフィルムを幅10x長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。193℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は70Kgf/cm2であった。得られたフィルムの膜厚
は100μmであり、位相差を測定したところR450=105、R550=138、R650=151nmであった。
【0241】
結果をまとめて表1に示した。
[比較例2]
単量体(A)および(C)を使用せず、単量体(B)100gおよび分子量調節剤として1−へキセン4.6gを使用したこと以外は実施例1と同様にして開環重合反応、水素添加反応、水素添加体回収および乾燥を行い、重量平均分子量(Mw)=135,000、分子量分布(Mw/Mn)=3.06、対数粘度(ηinh)=0.78、補外ガラス転
移開始温度(Tg)=167.0℃の開環重合水添体を収率90%で得た。NMR測定により求めたこの水素添加体の水素添加率は99.8%であった。
【0242】
得られた開環重合水添体を実施例1と同様に製膜して140μmのフィルムを得た。得られたフィルム中の残留溶媒量は530ppmであった。このフィルムの引き裂き強度は21gfであった。
【0243】
このフィルムを幅10mm×長さ70mmに切り出し、恒温層を備えた引っ張り試験機で加熱延伸して延伸フィルムを作成した。177℃において220%/分の速度で2倍に延伸したところ、延伸時の最大応力は40Kgf/cm2であった。得られたフィルムの
膜厚は100μmであり、位相差を測定したところR450=105、R550=138、R650=151nmであった。
【0244】
結果をまとめて表1に示した。
【0245】
【表1】

【0246】
表1に示されるように、単量体Aを含有する開環共重合体水素添加物から得られた実施例1の延伸フィルムでは、短波長ほど位相差が小さくなる「逆波長分散性」を示し、さらに実施例1では単量体Cを含有することで補外ガラス転移開始温度が低くなることに起因して、比較例1と同等の応力で同等の光学特性を発現する延伸温度(加工温度)を低くできることがわかる。また、実施例1のフィルムでは、重合体の分子量が比較例に比して小さいにも関わらず引き裂き強度が強いことが判明した。このように、本発明の環状オレフィン系開環共重合体が、加工性および強度に優れ、且つそれから得られる延伸フィルムが「逆波長分散性」を有することが示されている。このような逆波長分散性、強度、および加工性は用いる単量体の種類およびその組成比を変えることにより調節することができる。
【産業上の利用可能性】
【0247】
本発明の環状オレフィン系開環共重合体は、光学材料として有用であり、光ディスク、光磁気ディスク、光学レンズ(Fθレンズ、ピックアップレンズ、レーザープリンター用レンズ、カメラレンズ等)、眼鏡レンズ、光学フィルム/シート(ディスプレイ用フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、拡散フィルム、反射防止フィルム、液晶基板、EL基板、電子ペーパー用基板、タッチパネル基板、PDP前面板等)、透明導電性フィルム用基板、光ファイバー、導光板、光カード、光ミラー、IC、LSI、LED封止材等、高精度の光学設計が必要とされている光学材料への応用が可能である。本発明の位相差フィルムは、偏光板あるいは液晶表示装置の部材として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0248】
【図1】図1は、実施例1で得た開環共重合体水素添加物の1H−NMRスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位(1)と、
下記式(2)で表される構造単位(2)および下記式(3)で表される構造単位(3)よりなる群から選ばれる少なくとも2種の構造単位と
を有することを特徴とする環状オレフィン系開環共重合体;
【化1】

(式(1)中、aは0または1を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。Xは−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)
【化2】

【化3】

(式(2)および式(3)中、aは0または1を表し、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、硫黄原子、窒素原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有してもよい、置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;または極性基を表す。XおよびYは、それぞれ独立に、−CH=CH−または−CH2CH2−を表す。複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。)。
【請求項2】
前記式(1)、(2)および(3)中の複数存在するXの合計を100mol%として、Xの80mol%以上が−CH2CH2−で表される基であることを特徴とする請求項1に記載の環状オレフィン系開環共重合体。
【請求項3】
前記構造単位(1)、(2)および(3)の合計量100モル%中、構造単位(1)が
5〜50mol%であることを特徴とする請求項1または2に記載の環状オレフィン系開環共重合体。
【請求項4】
前記構造単位(2)が、前記一般式(2)中のR1およびR2が水素原子であり、R3
水素原子またはメチル基であり、R4が水素原子、アルコキシカルボニル基またはフェニ
ル基である構造単位であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体。
【請求項5】
前記構造単位(2)が、下記式(2−1)〜(2−5)で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体。
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

(式(2−1)〜(2−5)中、Xは一般式(2)で定義のとおり。)
【請求項6】
前記構造単位(3)が、下記式(3−1)および(3−2)で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体。
【化9】

【化10】

(式(3−1)および(3−2)中、Xは一般式(3)で定義のとおり。)
【請求項7】
日本工業規格K7121に従って測定した補外ガラス転移開始温度が110〜180℃であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体。
【請求項8】
ウッベローデ型粘度計を用いて、クロロホルム中、試料濃度0.5g/dL、温度30
℃で測定した対数粘度が0.4〜0.8dL/gであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体を成型して得られる光学部品。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体をキャスト法または押出し法により製膜して得られることを特徴とするフィルム。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の環状オレフィン系開環共重合体をキャスト法または押出し法により製膜し、得られたフィルムを延伸して得られることを特徴とする延伸フィルム。
【請求項12】
請求項11に記載の延伸フィルムを含む偏光板。
【請求項13】
請求項11に記載の延伸フィルムを含む液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−204731(P2007−204731A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254919(P2006−254919)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】