説明

生体適合性架橋ゲル

【課題】生体適合性架橋ゲルの提供。
【解決手段】本発明は、ある量の架橋剤を添加することによって、所定量の少なくとも1種の液状生体適合性ポリマーを架橋させること、架橋反応を行うこと、更なる量の、500,000ダルトンより高分子量の液状ポリマーを添加すること、液状ポリマーの総濃度を低下させるような方法で反応混合物を溶解させること、架橋させること、及び、架橋剤を排出することによって架橋反応を停止させることからなる生体適合性架橋ゲルの製造方法に関する。本発明のゲル及びその使用も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性架橋ゲルの製造方法、前記ゲル及び少なくとも1種の分散された有効成分を含むマトリックスを構成するための、又は生物組織を分離、置換又は充填するための、又は前記組織の容量を増加させるための、あるいは生体液を補充又は置換するための前記ゲルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
組織容量の増加は、治療用途及び美容用途の両方の場合において望まれ得る。それは、恒久的な又は生体分解性の生成物ベースの粘弾性溶液を生物組織中に導入することによって行われ得る。
【0003】
恒久的な又は生体分解性の生成物ベースの粘弾性溶液の注入はまた、生体液の置換も想定される。
【0004】
例えば、それは、構成物質であるグリコサミノグリカンの量及び分子量の減少により、潤滑性及び衝撃吸収の軟骨保護機能をもはや果たさない関節症の患者の生来の滑液を置換するために使用される。しかし、この粘弾性溶液は、生体分解性生成物で構成される場合、滑液嚢から急速に排出される。
【0005】
他の治療用途の場合、この種の粘弾性溶液は、それらの機能を確実にするために容量を増すことを必要とする特定の組織のために使用される。例として、声帯、食道、括約筋又は尿道がある。
【0006】
美容用途の場合、この種の粘弾性溶液は、例えば、しわを埋めるために、傷跡を隠すために、又は唇のボリュームを増やすために使用される。これらの粘弾性溶液の注入は、美顔整形手術より危険性が少なくかつ困難ではない簡単で明確な方法である。
【0007】
恒久的な生成物ベースの粘弾性溶液の使用は、粘弾性溶液が注入される組織中に長期間とどまるという利点を有する。
【0008】
シリコーンの注入は長い間使用されてきた。しかしながら、皮膚の小瘤及び潰瘍の発生を特徴とする、この方法の望ましくない長期間の影響が認められ、この方法は次第に見捨てられている。
【0009】
懸濁液状態の固体微粒子の注入はまた、組織の容量を恒久的に増加させる。米国特許第5,344,452号明細書は、10μmないし200μmの直径の小さい粒子により構成され、かつ非常に平滑な表面を有する微粉状固体の使用を開示している。市販品であるアーテコル(登録商標:Artecoll)及びアーテプラスト(登録商標:Arteplast)は、コラーゲン溶液中のポリメタクリレート微小球の懸濁液により構成されている。
欧州特許出願公開第1091775号明細書は、ヒアルロネート溶液中のメタクリレートヒドロゲルのフラグメントの懸濁液を提案している。シリコーン、セラミック、カーボン又は金属の粒子(米国特許第5,451,406号明細書、米国特許第5,792,478号明細書及び米国特許出願第2002−151466号明細書)、及びポリテトラフルオロエチレンの、ガラス又は合成ポリマーのフラグメント(米国特許出願第2002−025340号明細書)もまた使用されたが、結果は期待外れのものだった。つまり、生分解性懸濁液の溶液の生分解及び炎症反応を引き起こし得る残留フラグメントの移行のた
め、副反応が発生し得る。更に、粒子が、粒子同士の凝集を生じさせ得る大き過ぎる直径又は不規則な形状を有する場合、細い針を通る粒子の注入は困難であり得る。更に、脆弱な粒子の注入は、それらの構造を損傷させ得り、そしてそれは隣接した細胞に接着せずに他の組織に移動する、又はマクロファージ及びリンパ系の他の構成要素により急速に消化される小さ過ぎる粒子の注入を導く。
【0010】
一般的に言えば、これらの生成物の恒久的性質は以下のより大きな欠点を生じさせる:マクロファージの活性化のおそれ、肉芽腫の発生さえも導き得る炎症作用を引き起こし得る、前記生成物を構成する合成フラグメントの移行(米国特許第6,436,424号明細書。)。これらの肉芽腫の治療は、ステロイド注入による治療処置又は切除術による外科治療を必要とするため、これらの治療は患者の健康又は生活の質に厳しい結果をもたらす。結果として、恒久的な生成物の副作用は、純粋な美的目的のためにこれらの生成物を使用することを思いとどまらせるほど非常に厄介である。更に、恒久的な生成物ベースの粘弾性溶液の注入は、修復が必要なときでも修復が可能でない。
【0011】
生分解性材料として、コラーゲン又は架橋されたヒアルロン酸の懸濁液がある。コラーゲン社(Collagen Corporation)は、米国特許第4,582,640号明細書に開示される、グルタルアルデヒドで架橋されたコラーゲンをベースとする製剤を開発した。しかしながら、この生成物は、注入されるところの組織において、マクロファージによって、又は、酵素又は化学作用によって急速に分解され、その後、リンパ系によって組織から排出される。
米国特許第5,137,875号明細書は、ヒアルロン酸を含むコラーゲンの水性懸濁液又は溶液の使用を提案しているが、この生成物もまた、急速に消化され、そしてその後、リンパ系によって排出されるため、長期間処置用の溶液を構成し得ない。そのため、処置を繰り返す必要があるので、かなりのコストがかかり、かつ患者の生活の質が低下する。
【0012】
欧州特許第0466300号明細書は、液相中に分散されたマトリックスからなる二相の粘弾性ゲルの注入を提案しているが、該二相は、動物起源の、架橋結合されており、そして抽出された高分子量のヒアルロネートであるヒラン(hyalan)からなる。
高分子量ポリマーの使用は、組織中に生分解性の粘弾性ゲルをより長くとどまらせることを可能にする。この技術は、接合組織の細胞間マトリックスの低下を補充するためのヒラフォーム(登録商標:Hylaform)又は関節炎の治療のための粘性補充生成物であるシンビスク(登録商標:Synvisc)等のいくつかの生成物を市場にもたらした。
【0013】
二相生分解性生成物として、レスタイレーン(登録商標:Restylane)、マクロレーン(登録商標:Macrolane)、ペレーン(登録商標:Perlane)又はデュロレーン(登録商標:Durolane)、液相(架橋されていないヒアルロネート)及び高度に架橋されたヒアルロン酸からなる相により構成された他の二相組成物も言及され得る。組織の容量(顔、胸)の増加又は関節炎の治療に合わせたこれらの生成物は、Q−Med社所有のNASHA技術に基づく。特定の状況下における、二相生成物の使用は、合成ポリマーベースのゲルの使用と比べて、炎症反応又は肉芽腫の発生が少ししか観られないとしても、炎症反応を誘発し得るか、又は肉芽腫の発生さえも引き起こし得ることも知られている(ラエスクケ K.Biocompatibility of microparticles into soft tissues fillers.Congress of Aesthetic Medicine and Dermatologic Surgery,パリ,2003年)。更に、液相は非常に急速に排出され、そしてそれは、該液相の容量に相当する材料の損失を引き起こす。結果として、組織の容量の増加を求める場合、最初の注入後に、多くの修復が必要であり、そしてそれは使
用者の生活の質を低下させる。
【0014】
最終的には、いくつかの単相の粘弾性ゲルが、ゲルにおける架橋量を均質化するために(米国特許出願第2003−148995号明細書)、又はゲルの生分解性を制御するために(米国特許第4,963,666号明細書)、又はゲルの粘弾性を制御するために(米国特許第5,827,937号明細書)提案されている。ポリマーの高い架橋度は、生分解性粘弾性ゲルが組織中に長くとどまることを可能にする。しかしながら、このような高度に架橋されたポリマーを含むゲルの注入は、非常に困難である。更に、このようなゲルの注入は、ポリマーの架橋されていない部位を機械的に脆くし、生化学的及び酵素的な攻撃をより受けやすくし、ゲルの急速な分解をうながす。
【特許文献1】米国特許第5,344,452号明細書。
【特許文献2】欧州特許出願公開第1091775号明細書。
【特許文献3】米国特許第5,451,406号明細書。
【特許文献4】米国特許第5,792,478号明細書。
【特許文献5】米国特許出願第2002−151466号明細書。
【特許文献6】米国特許出願第2002−025340号明細書。
【特許文献7】米国特許第6,436,424号明細書。
【特許文献8】米国特許第4,582,640号明細書。
【特許文献9】米国特許第5,137,875号明細書。
【特許文献10】欧州特許第0466300号明細書。
【非特許文献1】ラエスクケ K.Biocompatibility of microparticles into soft tissues fillers.Congress of Aesthetic Medicine and Dermatologic Surgery,パリ,2003年。
【特許文献11】米国特許出願第2003−148995号明細書
【特許文献12】米国特許第4,963,666号明細書
【特許文献13】米国特許第5,827,937号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、その対象として、上記した欠点を解消し、その臨床治療の利用において使用し易いとい共に、その機能がもはや必要とされない場合、生体適合性架橋ゲルは消滅するものの、内科的及び外科的治療における投与回数を抑制するのに充分な寿命を有する生体適合性架橋ゲルを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このために、本発明の対象は、以下の工程、
ある量の架橋剤を添加することによって、所定量の、溶液状態の少なくとも1種の生体適合性ポリマーの架橋を開始させる工程、
前記量のポリマーを架橋反応させる工程、
溶液状態のポリマーの総濃度を低下させるために、追加量の、500,000ダルトンより高分子量のポリマーを添加し、反応混合物を希釈する工程、及び架橋させる工程、及び、
架橋剤を排出することによって架橋反応を停止させる工程
を含む生体適合性架橋ゲルの製造方法である。
【0017】
追加量のポリマーを添加する工程は、新しい反応部位を提供することを可能にする。
【0018】
この方法は、単相で、多密度(polydensifie)で、凝集性であり、注入可能という特徴を有すると共に、長期持続性を有する生体適合性架橋ゲルを得ることを可能
とする。
【0019】
凝集性は、ゲルが再編され、広がらない又はバラバラにならない傾向にあることを意味する。そのため、凝集性は、ゲルが生体内において、高い適合性及び長期持続性を得ることを可能にする。
【0020】
多密度は、ゲルそのものにおいてさえ架橋度にばらつきがあることを意味する。ゲルの多密度特性は、組成物が小さな径の針を通るという注入性の利点及びゲルが生体内においてあらゆる持続性を得ることを可能にする。
【0021】
単相特性は、炎症反応のおそれ及び肉芽腫の発生を低下させる。
ゲルの長期持続性の効果は、医学的な治療の間隔をあけることを可能とし、そしてそれにより患者の生活の質を改善する。
【0022】
本発明の実施に従って得られるこのような凝集性の多密度単相ゲルは、注入が容易であり、かつ架橋量がゲル内において均一であるところの同様の組成の単相ゲルよりも長期間生体内にとどまるこことができるという特徴を有する。
【0023】
本発明の特定の態様に従って、架橋を開始させる工程は、塩基性媒体中で行われる。
【0024】
本発明の他の態様に従って、架橋を開始させる工程は、酸媒体中で行われる。
【0025】
本発明の変形に従って、追加量の架橋剤は、追加量のポリマーを添加する工程中に添加される。
【0026】
好ましくは、架橋を停止させる工程は、透析によって行われる。透析は、反応の最終停止を確実にする。それは、架橋剤及び反応しなかった短いポリマー鎖を排出する。
【0027】
望ましくは、ポリマーは天然由来のものである。天然由来のポリマーの使用は、より良好な生体適合性を可能にする。つまり、天然由来のポリマーの使用は、炎症反応のおそれを少なくする。
【0028】
好ましくは、天然由来のポリマーは、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、セルロース及びその誘導体、アルギネート、キサンタン、カラギニン、タンパク質又は核酸からなる群から選択される化合物である。
【0029】
更により望ましくは、少なくとも1種の天然由来のポリマーは、セルロース及びその誘導体、アルギネート、キサンタン、カラギニンからなる群から選択される人体中に生来存在しないポリマー、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、タンパク質又は核酸からなる群から選択される人体中に生来存在する少なくとも1種のポリマーで架橋されたポリマーである。
【0030】
望ましくは、架橋剤は、エポキシ、エピハロヒドリン及びジビニルスルホンからなる化合物群から選択される生体多官能性分子である。
【0031】
本発明はまた、上記の方法によって製造されるゲルも対象とする。
【0032】
好ましくは、ゲルは、少なくとも1種の分散された有効成分を含むマトリックスを構成する。その後、ゲルは、液体から前記有効成分を連続的に放出させるベクター又はそれが注入されるところの生物組織として使用され得る。
【0033】
最終的に、本発明は、生物組織を分離、置換又は充填するための、又は前記組織の容量を増加させるための、あるいは生体液を補充又は置換するためのゲルの使用をその対象とする。
【0034】
本発明及び本発明の他の対象、詳細、特徴及び利点は、純粋に説明するための例であり、制限することを意図しない本発明の態様の詳細な説明の記載により、より良く理解され得り、かつより明白になり得る。
【0035】
生体適合性架橋ゲルの製造方法は、以下の一連の工程、
所定量の、溶液状態の少なくとも1種の生体適合性ポリマーの架橋を開始させる工程、
前記量のポリマーを架橋させる工程、
溶液状態のポリマーの総濃度を低下させるために、追加量の、溶液状態の500,000ダルトンより高分子量のポリマーを添加し、反応混合物を希釈する工程、
架橋させる工程、及び、
架橋剤を排出することによって架橋反応を停止させる工程
を特徴とする。
【0036】
架橋を開始させる工程は、ある量の、エポキシ、エピハロヒドリン及びジビニルスルホンからなる化合物群から選択される二官能性分子又は多官能性分子である架橋剤を添加することによって行われる。好ましいエポキシは、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(また、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタンとも呼ばれる。)、1−(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エポキシシクロヘキサン及び1,2−エタンジオールジグリシジルエーテルからなる群から選択される化合物である。
【0037】
本発明の特定の態様に従って、架橋を開始させる工程は塩基性媒体中で行われる。塩基性媒体中で行われる架橋反応は非常に安定したエーテル結合の形成を特徴とする。エーテル化による架橋は、生体内におけるより長い持続性を可能にする。
【0038】
本発明の他の態様に従って、架橋を開始させる工程は酸媒体中で行われる。酸媒体中で行われる架橋反応は、上記したエーテル結合よりも不安定なエステル結合の形成を特徴とする。しかしながら、結合のより大きな不安定性はいくつかの利点を有し得る。特に、分散された有効成分を含むマトリックスとして使用されるこのようなゲルは、特定の用途においてより適当な前記有効成分の放出という他の動きが可能である。
【0039】
架橋反応は、ポリマー鎖同士の橋かけを確実にする反応である。それは、架橋量の決定によって定量化され得る。
【0040】
架橋量は、ポリマー鎖同士の橋かけを確実にする架橋剤のモル数とポリマー単位のモル数の比として定義される。
【0041】
架橋は、好ましくは、25℃ないし60℃の温度範囲で行われる。
架橋は、単一のポリマー又はポリマーの混合物を使用して行われ得る。
架橋反応に使用されるポリマーは、合成物であり得るが、好ましくは天然由来のものである。天然由来のポリマーの使用は、より良好な生体適合性を可能にする。つまり、天然由来のポリマーの使用は、炎症反応のおそれを少なくする。
好ましくは、上記した天然由来のポリマーが使用される。
しかしながら、本発明では、上記したポリマーに制限されず、様々な種類及び大きさのポリマーが使用され得ることが明らかである。
【0042】
追加量のポリマーを添加する工程は、溶液状態のポリマーの総濃度を低下させるような反応媒体の希釈によって行われる。
これらの条件下で、ポリマー鎖は、最初に架橋されたゲル上に固定することによって、残りの架橋剤及び/又は添加された少量の架橋剤と反応し得る新たな架橋部位を有し、そして架橋剤の量が減少しているために、ポリマー鎖と架橋剤の間により少量の架橋が生じる。
【0043】
最初の架橋工程中に形成されたゲルの鎖上の橋かけ数は、後者と添加された鎖間の橋かけ数及び添加された鎖間の橋かけ数よりも多い。そのため、架橋度は、次第に少なく架橋される(架橋量が徐々に減少し、1%に達し得るところの)ゲルによって相互に連結された強い架橋中心(noyaux fortement reticules)を構成する(例えば、25%の架橋量を有する)最終ゲルにおいて不均一化する。
【0044】
この特殊性は、ゲルが、多量の架橋を有することを可能にし、そしてそれにより、生体内において長期持続性を有し、凝集性(単一及び同様のゲル)があり、かつあらゆる種類の医療機器、特に細い針による注入が可能な優れた粘弾性をゲルに与える。
【0045】
追加のポリマーの添加は、最初の架橋反応のいかなる進行度においても、好ましくは最初の架橋反応の75%の進行度において行われる。
この工程は、連続法又は不連続法でポリマーを添加することによって行われ得る。
【0046】
追加のポリマーは、500,000ダルトンより高分子量を有さなければならない。それらはまた、合成物又は天然由来のものであり得る。それらは、ポリマー混合物の形態で添加され得る。それらは、天然由来のものであり得るか、又は、最初の架橋工程において使用されるものと同一又は異なるサイズのものであり得る。望ましくは、添加される追加のポリマーは、最初に存在するポリマーよりも長い鎖で構成される。これは、ゲルの外見上の機械構造を改善し、長鎖は短鎖よりも分解し難い。
【0047】
従って、この方法は、単相で、多密度で、凝集性であり、注入可能という特徴を有すると共に、長期持続性を有する生体適合性架橋ゲルを得ることを可能とする。
【0048】
本発明の特定の態様に従って、追加量の架橋剤は、追加量のポリマーを添加する工程中に添加される。該架橋剤は、反応の開始時に使用されるものと同一又は異なる天然由来のものであり得る。それは、好ましくは、上記成分群から選択される。添加量は、実質的には、最初の架橋において添加した量よりも少ない量である。
【0049】
架橋反応を停止させる工程は、反応の最終停止を確実にする。それは、例えば、架橋剤及び反応しなかった短鎖ポリマーを排出することが可能な透析によって行われる。上述したように、このような試薬を含むゲルの注入は、これらの試薬が吸収困難な化学化合物であり、かつ非常に反応性であるため、炎症反応をもたらす。
【0050】
好ましくは、ゲルは、少なくとも1種の分散された有効成分を含むマトリックスを構成する。その後、ゲルは、液体中に前記有効成分を連続的に放出することが可能なベクター又はそれが注入されるところの生物組織として使用される。有効成分は、薬理学的に有効な薬剤であり、例えば抗酸化剤であり得る。有効成分はまた、様々な天然由来のものでもあり得る。様々な天然由来の有効成分の混合物もまた、ゲル中に分散され得る。
【0051】
該ゲルは、好ましくは注入される。
つまり、ゲルは、望ましくは、生物組織を分離、置換又は充填するために、又は、例えば治療用途において前記組織の容量を増加させるために(声帯の、食道の、括約筋の、尿
道の又は他の組織の容量の増加)、又は美容目的において、しわを埋めるために、傷跡を隠すために、又は唇のボリュームを増やすために使用される。
それはまた、生体液、例えば生来の滑液を補充又は置換するためにも使用され得る。
【0052】
以下の実施例は、本発明を説明することを意図するものであり、本発明を制限することを意図したものではない。
【実施例】
【0053】
実施例1(比較例)
ヒアルロン酸10g(MW=2×106ダルトン)を1%のNaOH溶液100mLに希釈した。ヒアルロン酸を、架橋前のこの工程によって水酸化させた。その混合液を、透明な溶液が得られるまで均質化した。その後、溶液に1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)470μLを添加することによって、架橋反応を起こし、非酸素雰囲気中で、25℃において15時間混合した。pHを、1M HClを用いて生理的なpHに再調整した。容量を、pH=7の緩衝溶液を用いて400mLに調整した。
その後、得られたゲルを、pH=7の緩衝溶液に対して24時間透析した(再生セルロース、分離限界:MW=60kDa)(ゲルI)。
該ゲルは、ヒアルロン酸の総含有率が2.5質量%であった。
【0054】
実施例2(比較例)
より多量の架橋剤を添加したことを除いて、実施例1と同様の方法でゲルを製造した。ヒアルロン酸10g(MW=2×106ダルトン)を1%のNaOH溶液100mLに希釈した。その混合液を、透明な溶液が得られるまで均質化した。その後、溶液に1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)760μLを添加し、非酸素雰囲気中で、25℃において15時間混合した。pHを、1M HClを用いて生理的なpHに再調整した。容量を、pH=7の緩衝溶液を用いて400mLに調整した。
その後、得られたゲルを、pH=7の緩衝溶液に対して24時間透析した(再生セルロース、分離限界:MW=60kDa)(ゲルII)。
該ゲルは、ヒアルロン酸の総含有率が2.5質量%であった。
【0055】
実施例3(比較例)
更に多量の架橋剤を添加したことを除いて、実施例1又は2と同様の方法でゲルを製造した。ヒアルロン酸10g(MW=2×106ダルトン)を1%のNaOH溶液100mLに希釈した。その混合液を、透明な溶液が得られるまで均質化した。その後、溶液に1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)950μLを添加し、非酸素雰囲気中で、25℃において15時間混合した。pHを、1M HClを用いて生理的なpHに再調整した。容量を、pH=7の緩衝溶液を用いて400mLに調整し、そして均質化した。
その後、得られたゲルを、pH=7の緩衝溶液に対して24時間透析した(再生セルロース、分離限界:MW=60kDa)(ゲルIII)。
該ゲルは、ヒアルロン酸の総含有率が2.5質量%であった。
【0056】
実施例4(本発明に従った例)
ヒアルロン酸10g(MW=2×106ダルトン)を1%のNaOH溶液100mLに希釈した。その混合液を、透明な溶液が得られるまで均質化した。 1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)950μLを添加することによって架橋反応を起こし、非酸素雰囲気中で、25℃において9時間混合した。
その後、容量をpH=11の0.5%ヒアルロン酸溶液(MW=2×106ダルトン)を用いて300mLに調整する間に追加のポリマーが添加された。反応を更に6時間続けた。pHを、1M HClを用いて生理的なpHに再調整し、容量を400mLに調整し
た。
該溶液を均質化した。
その後、最終的な架橋反応を停止するために、得られたゲルを、pH=7の緩衝溶液に対して24時間透析した(再生セルロース、分離限界:MW=60kDa)(ゲルIV)。
この最後(実施例4)のゲルのみ本発明に従って製造されたものであり、3つ(実施例1〜3)の他のゲルは従来技術に従って製造されたもの、即ち均一な架橋を有するものである。
該ゲルは、ヒアルロン酸の総含有率が2.75質量%であった。
【0057】
実施例1ないし4のゲルについて、流動学的研究を行った。
該研究は、ゲルの押出し力(F)の限界、即ち、ゲルが押出され得るところの力を測定することにある。
この研究を行うため、ゲルを直径2.5cmのステンレス鋼製のシリンダーに入れ、直径0.2mmの孔から押出した。
得られた結果を以下の表に示す。
【表1】

σ:典型的な偏差
【0058】
ゲルI、II及びIIIは、架橋量がゲル全体に渡って一定のゲルである。ゲルIVのみ架橋量が不均一のゲルである。
この方法は、まず、架橋剤の添加量の増加がより大きな押出し力の限界をもたらすこと(IないしIIIのゲルから)、即ち、均一量の架橋を有するゲルにおいて、架橋量の増加と共に、ゲルを押出すために適用される力が増加することを示す。
2.75質量%のヒアルロン酸を有するゲルIV(本発明に従ったゲル)は、架橋量がより少量で均一な2.5質量%のヒアルロン酸を有するゲル(ゲルII)とほぼ同じくらい容易に注入され、かつ架橋量は同一だが均一な2.5質量%のヒアルロン酸を有するゲル(ゲルIII)よりも容易に(15%弱い力Fで)注入される。
結果として、この実施例は、高い架橋度を有し、それにより生体内に長期間とどまることができる架橋量が不均一な本発明に従ったゲルが、細い針型の機器により容易に押出され得ることを証明する。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程、
ある量の架橋剤を添加することによって、所定量の、溶液状態の少なくとも1種の生体適合性ポリマーの架橋を開始させる工程、
前記量のポリマーを架橋させる工程、
溶液状態のポリマーの総濃度を低下させるために、追加量の、500,000ダルトンより高分子量のポリマーを添加し、反応混合物を希釈する工程、及び架橋させる工程、及び、
架橋剤を排出することによって架橋反応を停止させる工程
を含む生体適合性架橋ゲルの製造方法。
【請求項2】
架橋を開始させる工程が、塩基性媒体中で行われることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
架橋を開始させる工程が、酸媒体中で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
追加量の架橋剤が、追加量のポリマーを添加する工程中に添加されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
架橋を停止させる工程が、透析によって行われることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ポリマーが天然由来のものであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
天然由来のポリマーがヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、セルロース及びその誘導体、アルギネート、キサンタン、カラギニン、タンパク質又は核酸からなる群から選択される化合物であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種の天然由来のポリマーが、セルロース及びその誘導体、アルギネート、キサンタン、カラギニンからなる群から選択される人体中に生来存在しないポリマー、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、タンパク質又は核酸からなる群から選択される人体中に生来存在する少なくとも1種のポリマーで架橋されたポリマーであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
架橋剤がエポキシ、エピハロヒドリン及びジビニルスルホンからなる成分群から選択される二官能性分子又は多官能性分子であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法によって製造されるゲル。
【請求項11】
少なくとも1種の分散された有効成分を含むゲルを構成することを特徴とする請求項10に記載のゲル。
【請求項12】
生物組織を分離、置換又は充填するための、又は前記組織の容量を増加させるための、あるいは生体液を補充又は置換するための請求項10又は11に記載のゲルの使用。

【公表番号】特表2007−520612(P2007−520612A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551875(P2006−551875)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/FR2005/000197
【国際公開番号】WO2005/085329
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(506032369)アンタイス エス.エイ. (6)
【Fターム(参考)】