説明

生物処理方法および生物処理装置

【課題】生物処理方法ならびに生物処理装置におけるメンテナンスに要する手間の抑制を課題としている。
【解決手段】被処理物を活性汚泥により生物学的に処理する生物処理工程が実施され、前記活性汚泥を含有する水を膜分離する膜分離工程が実施される生物処理方法であって、前記活性汚泥を含有する水に含まれている無機固形物の少なくとも一部を溶解して前記膜分離工程を実施することを特徴とする生物処理方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物を活性汚泥で生物処理する生物処理方法ならびに生物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒素化合物やそのイオンなどを含んだ有機性固形物や有機性廃水を活性汚泥(以下、単に「汚泥」ともいう)によって生物学的に処理する生物処理方法が実施されている。
例えば、畜産業において生じるし尿や食品工場などから排出される食品屑といった有機物を含んだ廃水を被処理水とした生物処理方法においては、メタン生成細菌等を含む汚泥、硝化細菌を含む汚泥、脱窒細菌等を含む汚泥などを用いた活性汚泥法による生物処理が実施されて前記廃水を清浄な処理水として河川等に放流することが行われている。
【0003】
このような汚泥による生物処理の工程は、通常、汚泥が分散された水中に固体状の被処理物や液体状の被処理物(以下「被処理水」ともいう)を導入させて実施されており、例えば、汚泥が担体に担持されて分散されている水を槽内に収容させたり、汚泥自体が水中に分散された活性汚泥混合液を槽内に収容させたりして実施されている。
【0004】
そして、通常、複数の生物処理工程を連続的に実施させるべく、複数の槽にそれぞれの工程に用いる汚泥を収容させて、槽内に被処理物を導入させるとともに槽内の水(以下「槽内水」ともいう)を次工程に流下させる生物処理方法が採用されている。
例えば、特許文献1には、被処理物に対してメタン発酵、硝化、脱窒の各生物処理工程を実施する生物処理方法が記載されている。
このとき、生物処理工程を実施する槽(以下「生物処理槽」ともいう)に収容されている活性汚泥混合液、あるいは、汚泥を沈降させた上澄み液などといった汚泥を含有する水が処理水として次工程の生物処理槽に流下されることとなる。
【0005】
そして、複数の生物処理工程を経過した後は、河川等といった系外に清浄な処理水を排出させるべく、最下流側の生物処理槽中の活性汚泥混合液や生物処理槽から流下される上澄み液などといった汚泥を含有する水を膜分離する膜分離工程が実施されたりしている(下記特許文献2参照)。
【0006】
この膜分離工程においては、通常、限外ろ過膜や精密ろ過膜などといった細孔を有する膜が用いられ、これらの膜を透過する透過液(膜分離工程の処理水)と、該透過液の除去により汚泥が濃縮された濃縮液とに膜分離がされている。
この膜分離は、通常、用いる膜を適宜選択することで透過液を所望の水質に調整することができ、一定レベル以上の水質を有する処理水を安定した量で得られやすいという利点を有している。
その一方で、膜分離工程においては、膜の細孔に目詰まりが生じたり、膜が破損したりすると処理水量が低下したり、処理水質を低下させたりするおそれがあることから定期的なメンテナンスを必要としている。
【0007】
しかし、この膜分離工程に用いられる膜の目詰まりや破損についてはその防止策が十分検討されておらず、その対策も確立されてはいない。
すなわち、被処理物を活性汚泥により生物学的に処理する生物処理工程が実施され、前記活性汚泥を含有する水を膜分離する膜分離工程が実施される生物処理方法においては、従来、メンテナンスに要する手間を抑制させることが困難であるという問題を有している。
また、活性汚泥が収容されて前記活性汚泥で被処理物が生物学的に処理される生物処理槽が備えられ、前記活性汚泥を含有する水が膜分離される膜分離装置が備えられている生物処理装置は、従来、メンテナンスに要する手間が十分抑制されていないという問題を有している。
【特許文献1】特開2003−71497号公報
【特許文献2】特開2005−118719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、生物処理方法ならびに生物処理装置におけるメンテナンスに要する手間の抑制を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、生物処理に供される被処理物には、通常、無機物粒子などの無機固形物が含有されており、さらには、被処理物の生物処理の過程で無機物粒子が新たに生じる場合があり、これらの無機物粒子などの生物処理装置内への蓄積が膜分離工程に用いられる膜の目詰まりや磨耗の主たる要因であることを見出した。
また、本発明者は、このような無機物粒子を溶解状態とすることで膜の目詰まりや磨耗を低減させうることを見出して本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明にかかる生物処理方法は、被処理物を活性汚泥により生物学的に処理する生物処理工程が実施され、前記活性汚泥を含有する水を膜分離する膜分離工程が実施される生物処理方法であって、前記活性汚泥を含有する水に含まれている無機固形物の少なくとも一部を溶解して前記膜分離工程を実施することを特徴としている。
【0011】
また、本発明にかかる生物処理装置は、活性汚泥が収容されて前記活性汚泥で被処理物が生物学的に処理される生物処理槽が備えられ、前記活性汚泥を含有する水が膜分離される膜分離装置が備えられている生物処理装置であって、前記膜分離される水に含まれている無機固形物を溶解する無機固形物溶解機構がさらに備えられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生物処理方法によれば、活性汚泥を含有する水に含有されている無機物粒子などの無機固形物の少なくとも一部を溶解して膜分離工程を実施することから無機物粒子による膜の目詰まりや無機物粒子による膜表面の磨耗を抑制させ得る。
すなわち、生物処理方法ならびに生物処理装置におけるメンテナンスに要する手間を抑制させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)、生ごみ処理などによって発生された有機性廃水を原水として、該原水を、メタン発酵工程、硝化工程、脱窒工程の各生物処理工程を実施して清浄な水として系外に排出させる生物処理方法を例に説明する。
【0014】
まず、本発明の生物処理方法を実施するための生物処理装置について説明する。
本実施形態の生物処理装置には、原水を導入して該原水に含有されている有機物をメタン発酵させるべくメタン生成細菌及び酸生成細菌等の嫌気性微生物を含むメタン発酵汚泥が収容されたメタン発酵槽が備えられている。
【0015】
また、本実施形態の生物処理装置には、該メタン発酵槽から流下される上澄み液(メタン発酵工程の処理水)が被処理水として導入され、前記上澄み液に第一回目の脱窒処理が実施されるべく亜硝酸還元細菌や硝酸還元細菌を含む脱窒汚泥が収容されている第一脱窒槽と、該第一脱窒槽から流下される活性汚泥混合液(第一回目の脱窒工程の処理水)が被処理水として導入されて硝化処理されるべくアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌などを含む硝化汚泥が収容されている硝化槽が備えられている。
【0016】
また、本実施形態の生物処理装置には、硝化槽から流下される活性汚泥混合液(硝化工程の処理水)が被処理水として導入されて第二回目の脱窒処理が実施されるべく脱窒汚泥が収容されている第二脱窒槽が備えられている。
また、本実施形態の生物処理装置には、前記第二脱窒槽から流下される活性汚泥混合液(第二回目の脱窒工程の処理水)が膜分離装置によって膜分離される膜分離槽と、該膜分離槽で膜分離された透過液(膜分離工程の処理水)が導入されて、該透過液に対して脱リンなどの仕上げ処理が実施される仕上げ処理槽とが備えられている。
さらに、本実施形態の生物処理装置には、前記膜分離槽における膜分離によって槽内に蓄積された汚泥を前記第一脱窒槽に返送する汚泥返送経路が備えられており、無機固形物を溶解させた状態で前記膜分離を実施させるための無機固形物溶解機構として前記膜分離槽の槽内水のpH値を調整するpH調整機構が備えられている。
【0017】
この本実施形態の生物処理装置について、図1を参照しつつ、より具体的に説明する。
図1は、本実施形態の生物処理装置の構成を表す概略側面図である。
【0018】
図1中の1は、メタン発酵槽を表しており、2は第一脱窒槽を表している。
また、図1中の3は、硝化槽を表し、4は、第二脱窒槽を表している。
また、図1中の5は、膜分離槽を表し、6は、仕上げ処理槽を表している。
さらに、図1中の7は、pH調整機構を表し、8は汚泥返送経路を表している。
【0019】
この図1にも示されているように、本実施形態の生物処理装置は、上流側からメタン発酵槽1、第一脱窒槽2、硝化槽3、第二脱窒槽4、膜分離槽5、仕上げ処理槽6の順に配置されている。
そして、原水がメタン発酵槽1に流入されてメタン発酵処理工程が実施された後にメタン発酵槽から処理水が第一脱窒槽2に流下され、該処理水の流入により第一脱窒槽2、硝化槽3、第二脱窒槽4の槽内水がそれぞれ溢流して下流側の槽に処理水として流入するよう配置されている。
前記硝化槽3の槽底部には、散気装置31が設けられており、本実施形態の生物処理装置には、前記散気装置31に酸素を含む気体(例えば、空気)を供給するためのブロア32が備えられている。
【0020】
前記第二脱窒槽4は、硝化槽3の槽内水の流入により槽内水を溢流させて膜分離槽5に流入させうるように本実施形態の生物処理装置に配置されている。
前記膜分離槽5は、後段において詳述するpH調整機構7により槽内水のpH値が、例えば、6.5以下に調整された状態で膜分離を実施し、該膜分離された透過液(処理水)を仕上げ処理槽6に導入させるように生物処理装置に配置されている。
また、膜分離槽5には、膜が露出状態で備えられている露出型の膜分離装置51が備えられており、該膜分離装置51は、膜分離槽5に貯留されている槽内水中に浸漬させた状態で備えられている。
そして、膜分離装置51は、膜分離後の透過液のみを膜分離槽5から仕上げ処理槽6に流下させ得るように備えられている。
なお、膜分離装置51に用いる膜としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)などのフッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂といった材質により形成された限外ろ過(UF)膜、精密ろ過(MF)膜などの種類の膜を中空糸膜、平膜の形式で用いることができる。
【0021】
なお、要すれば、上記のような露出型膜分離装置51に代えて、これらの膜がケーシング中に格納されたタイプのものを採用することができ、その場合には、膜分離装置を膜分離槽5の槽外に設置して、膜分離槽5に収容されている槽内水をポンプなどでこの膜分離装置に供給して、透過液を仕上げ処理槽6に送出させるとともに、汚泥が濃縮された濃縮液を膜分離槽5に返送するようにしてもよい。
【0022】
また、本実施形態の膜分離槽5には、槽内水に再曝気を実施するとともに、散気による上昇流ならびに気泡の打力によってこの露出型の膜分離装置51の膜面に汚泥などが堆積して汚泥ケーキ層が形成されることを抑制しうるように、膜分離装置51の下方において散気を実施する散気装置52がさらに備えられている。
そして、散気装置52にも前記ブロア32から酸素を含む気体(例えば、空気)を供給し得るように前記散気装置52と前記ブロア32との間に空気供給配管L1が備えられている。
【0023】
また、前記汚泥返送経路8は、この膜分離槽5の底部から汚泥を吸引して、メタン発酵処理工程の処理水とともに第一脱窒槽2に流入させ得るように配置されている。
【0024】
そして、本実施形態の生物処理装置には、第二脱窒槽4から膜分離槽5に流入される第二脱窒槽4の槽内水に含有されている無機物粒子などの無機固形物を溶解させるべく無機固形物溶解機構が備えられており、該無機固形物溶解機構として膜分離槽5の槽内水pHを調整するpH調整機構7が備えられている。
前記pH調整機構7としては、前記槽内水のpHを6.5以下に調整しうるものが好適であり、槽内水のpHを5.0〜6.5に調整しうるものがさらに好適である。
前記pH調整機構7としては、前記槽内水のpHが6.0を超え6.5以下の範囲内になるように調整可能なものが特に好適である。
前記pH調整機構7は、前記膜分離槽5の槽内水のpHを調整するためのpH調整剤を貯留するpH調整剤槽71と、該pH調整剤槽71からpH調整剤を膜分離槽5に供給するためのポンプなどのpH調整剤添加手段72(以下「pH調整剤添加ポンプ」ともいう)とを備えている。
また、本実施形態における前記pH調整機構7は、前記膜分離槽5の槽内水のpHを測定して前記pH調整剤添加ポンプ72の運転状況をフィードバックさせるためのpH計75(以下「膜分離槽pH計」ともいう)が備えられており、当該膜分離槽pH計75により得られる情報に基づいてpH調整剤添加ポンプ72の運転状況を制御するための制御装置76が備えられている。
【0025】
前記pH調整剤添加ポンプ72としては、定量吐出を実施させやすいダイヤフラムポンプなどを例示することができる。
前記制御装置76としては、制御方法としてPID制御などが採用されたものを例示することができる。
【0026】
なお、第二脱窒槽から流下される処理水のpHは、通常、アルカリ性を示していることから本実施形態における前記pH調整剤としては、硫酸や塩酸などの水溶液といった酸性液体を例示することができる。
また、要すれば、リン酸水溶液などをpH調整剤として使用する事も可能ではあるが、脱リンなどの仕上げ処理に対して負荷を与えるおそれを抑制させ得る点において、pH調整剤としては、硫酸水溶液を用いることが好適である。
【0027】
前記仕上げ処理槽6は、膜分離槽5から流入される透過液を、その水質に応じて仕上げ処理を実施して、該仕上げ処理した処理水を河川などの系外に放流し得るように配置されている。
【0028】
なお、ここでは詳述しないがメタン発酵槽や、第一脱窒槽、硝化槽、第二脱窒槽、膜分離槽、仕上げ処理槽などのその他の構成や、メタン発酵槽、第一脱窒槽、硝化槽、第二脱窒槽、膜分離槽、仕上げ処理槽以外に生物処理装置を構成する設備類などについては、従来公知の構成を採用することができる。
【0029】
次いで、このような生物処理装置を用いた生物処理方法について説明する。
まず、生ごみ処理によって発生した有機性廃水(原水)を前記メタン発酵槽1に流入させて槽内に収容されているメタン発酵汚泥を用いてメタン発酵工程を実施するとともに、この原水の流入によりメタン発酵槽1の槽内水を溢流させて第一脱窒槽2に流入させる。
このメタン発酵汚泥には、通常、メタン生成細菌などとともに酸生成細菌が含有されており、前記原水中の有機物は、これらの細菌によりメタン、炭酸などに分解され、有機態窒素は、アンモニア態窒素となる。
このとき生成された、メタン、炭酸、アンモニア態窒素の内、メタンはその多くがメタンガスとして除去されて燃料などとして利用される。
炭酸については、一部が炭酸ガスとして除去されるが、残りはメタン発酵槽の槽内水に溶解した状態となる。
また、アンモニア態窒素は、さらに、一部が酸化されて亜硝酸態窒素、硝酸態窒素となる。
したがって、通常、第一脱窒槽2に流下させる処理水には、僅かなメタン発酵汚泥とともに、未分解の有機物、炭酸、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素が含有されている。
【0030】
このメタン発酵槽1から流下された処理水を第一脱窒槽2に流入させ、第一脱窒槽2に収容されている脱窒汚泥中の脱窒細菌を用いた脱窒工程(以下「第一脱窒工程」ともいう)を実施するとともに第一脱窒槽2の槽内水(活性汚泥混合液)を溢流させて硝化槽3に流入させる。
この第一脱窒工程においては、脱窒細菌の嫌気呼吸によって亜硝酸態窒素、硝酸態窒素を窒素に還元させて除去させるとともに脱窒細菌に有機物を代謝させて分解させる。
したがって、通常、第一脱窒工程の処理水として硝化槽3に流下される第一脱窒槽2の槽内水に含まれている汚泥以外の有機物は、メタン発酵槽1から流入される処理水よりも低減されている。
【0031】
硝化槽3では、第一脱窒槽2から処理水を流入させるとともにこの硝化槽3の槽内水を溢流させて第二脱窒槽4に流入させる。
そして、この硝化槽3では散気を実施し、硝化槽3に収容されている硝化汚泥中のアンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌などの硝化細菌を用いた硝化工程を実施する。
この硝化工程においては、硝化細菌によってアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素や硝酸態窒素へと酸化させるとともに流入された処理水に含有されている炭酸を消費させる。
また、この硝化槽3では、第一脱窒槽2から処理水とともに流入された脱窒細菌により有機物の代謝が実施される。
したがって、第二脱窒槽4には、通常、第一脱窒槽2から流入された処理水よりもさらに有機物の濃度が低減された処理水を流下させることとなる。
【0032】
第二脱窒槽4においては、硝化槽3から流下された処理水を流入させて、第一脱窒槽2と同様に脱窒工程(以下「第二脱窒工程」ともいう)を実施させるとともにこの第二脱窒槽4の槽内水を溢流させて膜分離槽5に流入させる。
このとき、第二脱窒槽4に流入される硝化槽3の処理水中に脱窒細菌が利用可能な有機物が不足しており、第二脱窒槽4に収容されている脱窒細菌に十分な嫌気呼吸を実施させることが困難な場合には、例えば、メタノールなどを添加して第二脱窒工程を実施させることができる。
したがって、膜分離槽5に流入させる第二脱窒工程の処理水には、汚泥以外に、有機物が殆ど含有されておらず、通常、原水に含有されていた成分が無機化されて含有されているのみとなる。
【0033】
そして、本実施形態の生物処理方法においては、これらメタン発酵工程、第一脱窒工程、硝化工程、第二脱窒工程の各生物処理工程とともに膜分離槽5での膜分離工程を実施する。
すなわち、この膜分離槽5に流入された第二脱窒工程の処理水から汚泥を除去して仕上げ処理槽6に膜分離工程の処理水である透過液を流下させる。
【0034】
しかも、本実施形態の生物処理方法においては、膜分離槽5に収容され、膜分離装置51によって膜分離される槽内水のpHを前記pH調整機構により6.5以下に調整しつつ前記膜分離工程を実施する。
【0035】
より具体的には、以下のようにしてpH調整を実施する。
まず、pH調整機構7に備えられている膜分離槽pH計75により膜分離槽5の槽内水のpHを測定する。
このpH測定の結果を制御装置76に伝達して、これらの測定結果に基づいて膜分離槽5の槽内水のpHを6.5以下に維持させうるpH調整剤添加量を制御装置76で算出させて、制御信号をpH調整剤添加ポンプ72に伝達させる。
そして、この制御信号によって、pH調整剤添加ポンプ72を運転させて、pH調整剤槽71からpH調整剤を膜分離槽5に所定量添加させる。
このようにpH調整して膜分離工程を実施することにより膜分離装置51の膜の磨耗や目詰まりを抑制させることができる。
【0036】
このことについてさらに詳細に説明すると、生物処理方法によって処理される被処理物には、通常、カルシウム、リンなどの成分により形成された無機物粒子や、有機化合物のカルシウム塩や有機リン酸塩などが含有されている。
特に生ごみの成分を含有する被処理物には無機物粒子が多く含有されている。
【0037】
そして、前記第二脱窒槽の槽内水は、従来pHが6.5を超える状態で維持されており、通常、pH7〜8程度となっていることから被処理物に当初から含有されていた無機物粒子以外に、新たに、リン酸カルシウムなどの無機物粒子が形成されやすい状態となっている。
しかも、従来の生物処理方法においては、この脱窒工程の処理水がそのまま膜分離されており、リン酸カルシウム粒子などの無機物粒子が膜分離装置51の膜表面を擦過して膜を磨耗させたり、膜表面に付着して膜を目詰まりさせたりしている。
【0038】
しかし、本実施形態の生物処理方法においては、膜分離槽5の槽内水のpHを6.5以下に調整して膜分離工程を実施することにより、このリン酸カルシウム粒子などの無機物粒子を溶解させた状態で膜分離を実施させ得る。
したがって、膜の磨耗や目詰まりを抑制しつつ膜分離工程を実施させることができ、膜分離装置51のメンテナンス頻度を低減させることができる。
【0039】
このとき、膜分離槽5の槽内水のpHがより低い値となるように調整することで、より多くの無機物粒子を槽内水中に溶解させることができ、膜分離装置51の膜の磨耗や目詰まりをいっそう抑制させることができる。
【0040】
一方で、あまり膜分離槽5の槽内水のpHを低下させすぎると、膜分離槽5に収容されている汚泥中の細菌の活性を低下させてしまうおそれがあり、汚泥返送経路8を通じて第一脱窒槽2に返送される返送汚泥を有効活用できなくなるおそれがある。
このような点において、膜分離槽5の槽内水のpHは、5.0〜6.5の間となるように調整することが好ましい。
また、槽内水のpHが6.0以下になると、膜分離装置51の膜面にカルシウム分が析出して膜を硬化させるおそれがある。
このようなカルシウム分の付着による膜の硬化が生じると、膜分離装置51に衝撃が加えられた際にその振動などによって膜が破損するおそれを有する。
したがって、細菌の活性低下の防止ならびに装置寿命の長期化の観点からは、槽内水のpHが6.0を超え6.5以下の範囲の内のいずれかとなるように調整することが特に好ましい。
【0041】
このようにpH調整して膜分離工程を実施することにより、無機物粒子などの無機固形成分を透過液に含有させて膜分離装置51の膜を透過させることができ、仕上げ処理槽6から系外に排出させることができる。
【0042】
この仕上げ処理槽6での仕上げ処理工程においては、膜分離槽5から流入される処理水(透過液)を河川などに放流可能な水質レベルとすべく膜分離槽5から流入される処理水の水質に応じて脱リンなどの処理を実施する。
また、膜分離工程において低下されたpH値についても、この仕上げ処理工程において必要に応じた中和処理を実施して処理工程後の処理水を系外に放流させる。
【0043】
なお、本実施形態においては、膜分離槽5の槽内に硫酸水溶液などのpH調整剤を添加する場合を例に生物処理方法を説明しているが、例えば、図2に示すように、膜分離槽5と第二脱窒槽4との間に、膜分離槽よりも容積の小さなpH調整のための槽9(以下「pH調整槽」ともいう)を設けて、第二脱窒槽4から流下される処理水を当該pH調整槽9で予めpH調整した後に膜分離槽5に導入させる生物処理方法を採用することも可能である。
【0044】
この図2に例示の生物処理装置による生物処理方法においては、膜分離槽5よりも容積の小さなpH調整9にて第二脱窒槽4から流下される処理水にpH調整剤を添加することから、膜分離槽5の槽内水にpH調整剤を添加する場合に比べて、添加したpH調整剤をよりすばやく均一分散させることができる。
【0045】
また、例えば、図3に示すように、膜分離装置51の下方に設置された散気装置52に対する空気供給配管L1に、硫酸水溶液などのpH調整剤を供給して、pH調整剤をミスト状にし、該ミスト状のpH調整剤を含む気泡を散気装置52から放出させて膜分離槽5の槽内水のpHを調整する事も可能である。
さらには、これら図1〜3に例示している以外の方法でpHを調整して膜分離工程を実施する事もできる。
例えば、膜分離装置51を第二脱窒槽4などの生物処理槽内に浸漬させて、生物処理工程と膜分離工程とを一つの生物処理槽内で実施させることも可能である。
【0046】
また、本実施形態においては、生ごみなどを含む有機性廃水を原水とする場合を例に説明したことから、通常、このような原水中に多く含有されるリン酸カルシウム粒子の溶解性を向上させることを主たる目的として膜分離工程に供する水のpHを6.5以下の酸性に制御する場合を例に説明したが、本発明においては、無機固形物の溶解を、槽内水のpHを6.5以下に制御する場合に限定するものではない。
【0047】
さらには、本実施形態においては無機固形物の溶解性を容易に制御し得る点において膜分離される水のpHを調整するpH調整機構を無機固形物溶解機構に採用する場合を例示しているが、本発明においては無機固形物の溶解を実施させる無機固形物溶解機構を、pH調整機構を用いる場合に限定するものではなく、例えば、膜分離される活性汚泥を含有する水の温度を加熱あるいは冷却することにより活性汚泥を含有する水中の無機固形物を溶解させる温度調整機構などの機構を採用する場合も、本発明の意図する範囲である。
なお、前記pH調整機構と前記温度調整機構との両方を採用するなど、複数の無機固形物溶解機構を併用する場合も本願の意図する範囲である。
【0048】
また、本実施形態においては、生ごみ処理によって生じた有機性廃水を原水(メタン発酵工程における被処理物)とする生物処理方法について説明したが、本発明においては、生物処理方法により処理する被処理物をこのようなものに限定するものではなく、窒素成分やリン成分を多く含有する下水、工場排水などを被処理物とすることも可能である。
また、例えば、し尿、糞尿、生ごみ、焼酎かすなどの有機性廃棄物を含有した廃水、ごみ埋立地から発生する溶出水(埋立地浸出水)などを例示することができる。
さらには、この生物処理に伴い発生する余剰汚泥を含有する廃水などをも被処理物として採用することができる。
また、メタン発酵工程に供する被処理物をこれら例示のもののごとく液体状のものに限定するものではなく、生ごみ、焼酎かす、余剰汚泥などの固体状のものを生物処理する場合も本発明の意図する範囲である。
【0049】
さらには、本実施形態においては、生物処理方法として、メタン発酵工程、脱窒工程、硝化工程などの複数の生物処理工程を連続的に実施する場合を例示しているが、本発明においては、生物処理方法をこのような場合に限定するものではない。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定される
ものではない。
【0051】
(生物処理方法)
生ごみ、汚泥及び家畜糞尿を含む有機性廃棄物(被処理物)に対してメタン発酵工程、硝化工程、脱窒工程を実施するとともに、中空糸膜が露出状態で備えられている露出型膜分離装置が収容されている膜分離槽内に脱窒工程後の処理水(MLSS約20000mg/l)を収容させて、前記膜分離装置を前記処理水に浸漬させた状態で用いて膜分離工程を実施している実設備を用いて評価を実施した。
【0052】
(無機カルシウム塩粒子の定量)
この膜分離槽内の槽内水のカルシウム含有量(総Ca)、ならびに、槽内水に溶解状態で含有されているカルシウム量(溶解性Ca)を測定し、この“総Ca”の値から“溶解性Ca”の値を減じた値を“固形性Ca”(無機カルシウム塩粒子)の含有量として算定した。
なお、“総Ca”及び“溶解性Ca”は、JIS K0102(1998)50.2フレーム原子吸光法に従い測定した。
【0053】
(評価方法)
この無機カルシウム塩粒子の定量を開始した後の4ヶ月間は、膜分離槽の槽内水のpHを調整することなく成り行き状態として生物処理を実施した。
なお、この間の槽内水のpHは約7.2であった。
次いで、4ヶ月目以降は、槽内水のpH調整を実施した。
このとき、pH調整剤として硫酸水溶液を用いて、pH調整を開始した4ヶ月目から8ヶ月目を過ぎる頃までの期間は、槽内水のpHが6.2〜6.4の間となるようにpH調整を実施した。
続く、2ヶ月あまりの期間は、槽内水のpHが6.0となるようにpH調整を実施した。
さらにその後は、pHが6.4となるようにpH調整を実施した。
この生物処置装置の運転期間(生物処理方法実施期間)における槽内水中の無機カルシウム塩粒子の定量結果を図4に示す。
この図4からも、pH調整を実施することにより、無機カルシウム塩粒子の含有量を低減させ得ることがわかる。
また、このpH調整を実施していない期間を含めて、約1週間ごとに膜分離装置を引き上げて中空糸膜の磨耗状態を確認した。
この中空糸膜の磨耗状態は、引き上げた膜分離装置の中空糸膜の内部に水を充満させてわずかに加圧し、中空糸膜の表面側に異常な漏水が見られるかどうかによって判断した。
その結果、pH調整開始後1ヶ月目までは、次々と新たな箇所において中空糸膜磨耗によると見られる漏水が観察されたが、pH調整開始後1ヶ月目以降は、新たな箇所における漏水は観察されなかった。
このことからも、本発明によれば、膜分離装置のメンテナンスに要する手間を低減させ得ることがわかる。
なお、槽内水のpHが6.0となるようにpH調整している期間においては、中空糸膜の膜面にカルシウム分が付着して、膜が硬化する状況が発生した。
また、カルシウム分の付着による膜の硬化は、その後、槽内水のpHを6.4に調整することで進行が抑制される結果となった。
このことから、特に、槽内水のpHが6.0を超え6.5以下の範囲の内のいずれかとなるように調整することで膜分離装置のメンテナンスに要する手間をいっそう低減させることができるとともに装置寿命の長期化を図り得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明の生物処理装置の一実施態様を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の生物処理装置の一実施態様を示す概略図である。
【図3】図3は、本発明の生物処理装置の一実施態様を示す概略図である。
【図4】図4は、pH調整による槽内水の無機カルシウム塩含有量変化を観察したグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1 メタン発酵槽
2 第一脱窒槽
3 硝化槽
4 第二脱窒槽
5 膜分離槽
6 仕上げ処理槽
7 pH調整手段
8 汚泥返送経路
9 pH調整槽
31 散気装置
32 ブロア
51 膜分離装置
52 散気装置
71 pH調整剤槽
72 pH調整剤添加手段(pH調整剤添加ポンプ)
75 pH計(膜分離槽pH計)
76 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を活性汚泥により生物学的に処理する生物処理工程が実施され、前記活性汚泥を含有する水を膜分離する膜分離工程が実施される生物処理方法であって、
前記活性汚泥を含有する水に含まれている無機固形物の少なくとも一部を溶解して前記膜分離工程を実施することを特徴とする生物処理方法。
【請求項2】
前記活性汚泥を含有する水のpHを調整することにより前記無機固形物を溶解して膜分離工程を実施することを特徴とする請求項1記載の生物処理方法。
【請求項3】
前記pHを6.5以下に調整して膜分離工程を実施する請求項2記載の生物処理方法。
【請求項4】
前記pHを5.0〜6.5に調整して膜分離工程を実施する請求項3記載の生物処理方法。
【請求項5】
前記pHが6.0を超え6.5以下となるように調整して膜分離工程を実施する請求項3記載の生物処理方法。
【請求項6】
活性汚泥が収容されて前記活性汚泥で被処理物が生物学的に処理される生物処理槽が備えられ、前記活性汚泥を含有する水が膜分離される膜分離装置が備えられている生物処理装置であって、
前記膜分離される水に含まれている無機固形物を溶解する無機固形物溶解機構がさらに備えられていることを特徴とする生物処理装置。
【請求項7】
前記無機固形物溶解機構として、前記膜分離される水のpHを調整するpH調整機構が備えられている請求項6記載の生物処理装置。
【請求項8】
前記pHを6.5以下に調整するpH調整機構が備えられている請求項7記載の生物処理装置。
【請求項9】
前記pHを5.0〜6.5に調整するpH調整機構が備えられている請求項8記載の生物処理装置。
【請求項10】
前記pHが6.0を超え6.5以下となるようにpH調整するpH調整機構が備えられている請求項8記載の生物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−160567(P2009−160567A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128367(P2008−128367)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】