説明

生物学的細胞における多価不飽和脂肪酸の含有量を変更するための組成物および方法

本発明は、組成物(例えば、恒常的に活性な、または組織に特異的なプロモーターもしくは他の制御配列に任意選択で操作可能に結合している、fat−1をコードする核酸、およびその核酸または生物学的に活性なその変種を含む薬学的に許容できる製剤)、ならびに動物細胞(すなわち、シー・エレガンス(C.elegans)の細胞以外の細胞、例えば、筋肉細胞、ニューロン(末梢神経系でも中枢神経系でも)、脂肪細胞、内皮細胞、および癌細胞など、鳥類または魚類の細胞)におけるPUFAの含有量を効果的に変更するために用いることができる方法を特徴とする。組成物および方法は、少なくとも1つの最適化されたコドンを含むように変更されたfat−1遺伝子を含む。改変された細胞は、インビボでもイクスビボ(例えば、組織培養物中で)でも、それらを含むトランスジェニック動物(特に、魚類および鳥類)、ならびにそれらの動物から得られた食品(例えば、肉、または動物の他の可食部(例えば、肝臓、腎臓、またはスイートブレッド))も、本発明の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2004年2月4日出願の米国仮特許出願第60/542098号、および2004年3月22日出願の米国仮特許出願第60/555422号の利権を主張するものである。この両出願の内容は、その全文が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
(政府支援)
本明細書に提示した研究のいくつかは、国立衛生研究所(National Institutes of Health)からの許可により支援されたものである(CA79553)。したがって、米国政府は、本発明においてある種の権利を有する。
【0003】
(技術分野)
本発明は、動物細胞における多価不飽和脂肪酸の含有量を変更するための組成物および方法に関する。
【0004】
(従来技術)
多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、18個以上の炭素原子、および2個以上の二重結合を有する脂肪酸である。これは、脂肪酸のメチル末端に最も近い二重結合の位置(n)に応じて、n−6またはn−3の2グループに分類することができる(GillおよびValivety、Trends Biotechnol.、15巻、401〜409頁、1997年;Brounら、Annu.Rev.Nutr.、19巻、197〜216頁、1999年;Napierら、Curr.Opin.Plant Biol.、2巻、123〜127頁、1999年)。n−6およびn−3PUFAは、それぞれリノール酸(LA、18:2n6)またはリノレン酸(ALA、18:3n3)のいずれかで始まり、交替に連なる不飽和化および伸長により合成される(GillおよびValivety、前掲;Brounら、前掲;Napierら、前掲)。動物におけるn−6経路の主要な終点の1つは、アラキドン酸(AA、20:4n6)であり、n−3経路の主要な終点はエイコサペンタエン酸(EPA、20:5n3)およびドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n3)である。
【0005】
PUFAの合成に関与する重要なクラスの酵素は、脂肪酸不飽和化酵素のクラスである。これらの酵素は、酵素の特異性により決定される位置で、炭化水素鎖に二重結合を導入する。しかし、ほとんどの場合、動物は、LA(18:2n6)およびALA(18:3n3)をより長い鎖のPUFAに転換する酵素活性を含む(この場合、転換の比率が限定的である)が、前駆物質(親)のPUFAである、LA、およびALAを合成するのに必要な12−および15不飽和化活性を欠く(Knutzonら、J.Biol.Chem.273巻、29360〜29366頁、1998年)。さらに、n−3およびn−6PUFAは、哺乳動物の細胞では相互転換可能ではない(Goodnightら、Blood、58巻、880〜885頁、1981年)。したがって、LAもALAも、これらの伸長、不飽和化の産物も、ヒトの食事に不可欠な脂肪酸であると考えられている。哺乳動物の細胞膜のPUFA組成物は、食餌による摂取に大いに依存している(Clandininら、Can.J.Physiol.Pharmacol.、63巻、546〜556頁、1985年;McLennanら、Am.Heart J.、116巻、709〜717頁、1988年)。
【0006】
それとは対照的にある種の植物および微生物には、色素体でも小胞体でもグリセロ脂質の基質に対して作用する、膜結合した12−および15−(n−3)不飽和化酵素があるので、ALA(18:3n−3)などのn−3脂肪酸を合成することができる(BrowseおよびSomerville、Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.、42巻、467〜506頁、1991年)。遺伝子技術により、シロイヌナズナおよび他の高等植物種から12−および15−不飽和化酵素をコードする遺伝子の同定がもたらされている(Okuleyら、Plant Cell、6巻、147〜158頁、1994年;Arondelら、Science、258巻、1353〜1355頁、1992年)。最近、シノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)から、n−3脂肪酸不飽和化酵素をコードするfat−1遺伝子がクローンされた(Spychallaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、94巻、1142〜1147頁、1997年;米国特許第6194167号も参照されたい)。
【0007】
(発明の開示)
本発明は、一部には、シー・エレガンス(C.elegans)のn−3不飽和化酵素遺伝子であるfat−1を他のタイプの動物細胞(例えば、哺乳動物、鳥類、および魚類)中に首尾よく導入することができ、そこでその遺伝子は迅速にかつ効果的に細胞のn−3PUFA含有量を増加させ、劇的にn−6:n−3PUFAの比のバランスをとるという知見に基づくものである。本発明者らは、改変されたシー・エレガンスのfat−1核酸配列も見出した。本発明者らは、アミノ酸配列をコードする天然に存在するコドンの1つまたは複数が変更されているが依然として同じアミノ酸配列をコードする場合に、これらの配列を「最適化された」と呼ぶ。例えば、アミノ酸残基のバリンをコードする「GTT」と表される1つまたは複数のコドンは、やはりバリンをコードするCTGで置き換えることができ、アミノ酸残基のアルギニンをコードする「CGT」と表される1つまたは複数のコドンは、やはりアルギニンをコードするCGCで置き換えることができる、などである。コドンは、組換えDNAが挿入される生物体に好ましいコドンを含むように変更される。したがって、最初の、または天然に存在する状態からコドンの使用頻度を最適化することにより改変された核酸を含めた、オメガ−6脂肪酸を対応するオメガ−3脂肪酸に不飽和化する酵素的に活性なタンパク質をコードする配列を含む核酸、ならびにトランスジェニック動物(例えば、哺乳動物、鳥類、または魚類)を生成し、様々な疾患または状態を処置しまたは予防する手助けをするためのこれらの配列を用いる方法は、本発明の範囲内である。最適化された配列は、以下に記載するあらゆるベクターおよび細胞に組み込むことができ、野生型の配列(例えば、fat−1遺伝子)を用いることができるあらゆる方法で用いることができる。ある場合には(例えば、トランスジェニック動物の産生では)、コドンが最適化された配列を使用することが好ましいことがある。最適化は、核酸配列を改変することができる唯一の方法ではない。本発明には、生物学的に活性なフラグメント、またはオメガ−3(すなわちn−3)不飽和化酵素もしくは最適化されたオメガ−3(すなわちn−3)不飽和化酵素の他の変異体をコードする配列の使用が含まれる。酵素的に活性なタンパク質、またはオメガ−3不飽和化酵素活性を有する酵素は、細胞で発現される場合に、細胞内でn−6PUFAをn−3PUFAに転換するタンパク質である。これらのタンパク質または酵素は、その長さおよび含有量が、天然に存在するタンパク質(例えば、fat−1がコードするタンパク質)に一致してもよく、あるいは本明細書に記載する1つまたは複数の方法に有用な酵素活性を十分に保持するそのフラグメントまたは他の変異体であってもよい。
【0008】
より詳しく述べると、ラットの心筋細胞におけるfat−1遺伝子の非相同発現により、これらの細胞が様々なn−6PUFAを対応するn−3PUFAに転換することができるようになり、n−6:n−3比を約15:1(望ましくない比)から約1:1(望ましい比)に変えたことを、本発明者らの研究は実証した。所与の細胞内の配列がその細胞で通常発現される配列ではないことを示すのに、本発明者らは「非相同発現」の語を使用する。異なる種の配列であるので配列が「非相同」であってよい。さらに、本発明者らは、n−6PUFA由来のエイコサノイド(すなわち、アラキドン酸)が、トランスジェニック細胞で著しく減少することを見出した。さらに下記するように、アラキドン酸のレベルを評価して、所与の核酸がオメガ−3不飽和化酵素活性を有する酵素をコードするか否かを決定することができ、同様に、n−6PUFAのレベル、n−3PUFAのレベル、および/またはn−6:n−3PUFAの比を評価することができる。したがって、本発明は、恒常的に活性なまたは組織に特異的なプロモーターに任意選択で、かつ操作可能に結合する組成物(例えば、オメガ−3不飽和化酵素活性(例えば、fat−1)を有するポリペプチドをコードする核酸)、および動物細胞でPUFAの含有量を効果的に変更するのに用いることができる方法を特徴とする。細胞は、哺乳類、鳥類、または魚類の細胞であってよく、n−6PUFAを含むあらゆるタイプの細胞であってよい。例えば、細胞は、筋細胞、(末梢神経系または中枢神経系の)ニューロン、脂肪細胞、内皮細胞、肝細胞、または結腸、乳房、肝臓、前立腺、卵巣、および子宮頸部の癌細胞を含む癌細胞であってよい。以下に記載する実験は、主にシー・エレガンスのfat−1配列で行ったが、本発明はそれだけに限定されず、本発明の組成物および方法は、オメガ−3不飽和化酵素活性を有するポリペプチド(すなわち、天然に存在するものであってもなくても、シー・エレガンスのものであってもなくても、オメガ−6脂肪酸を対応するオメガ−3脂肪酸に不飽和化するあらゆるポリペプチド)をコードするあらゆる核酸を含む(または使用する)ものを含む。したがって、具体的な実施形態では、本発明は、動物でn−3脂肪酸不飽和化酵素(すなわち、オメガ−3不飽和化酵素活性)を産生することにより、動物でn−6脂肪酸からn−3脂肪酸を産生する方法を特徴とする。n−3脂肪酸不飽和化酵素の産生は、n−3脂肪酸不飽和化酵素または生物学的に活性なその変種をコードする核酸を、動物に以下のように投与することに続いて開始することができる。このような核酸の詳しい例を本明細書に提供し、同様の機能的な配列は、特に本明細書に提供される手引きにより当業者であれば容易に同定することができる。動物は、本明細書で述べるあらゆる種であってよく(例えば、哺乳動物、鳥類、または魚類のクラスの範囲内の種)、n−3脂肪酸不飽和化酵素を産生する平均的の、または「正常の」能力を有しても、有さなくてもよい。例えば、本発明の方法は、不飽和化酵素を投与するより前に、n−3脂肪酸を産生する望ましくなく限られた能力を有する動物(例えば、ヒト)で行ってもよい。
【0009】
核酸(例えば、fat−1配列、または生物学的に活性なその変種)を、制御配列に操作可能に結合させることができる。制御配列は、プロモーターだけではなく、エンハンサー、またはポリアデニル化シグナルなど、改変された細胞で核酸の発現を促進する他の発現制御配列も含む。このような改変された細胞を、インビボに置き、またはイクスビボ(例えば、組織培養中)に維持することができる。その天然の環境から取り除かれた細胞は、「単離されて」おり、本明細書に記載された核酸配列を有する場合は本発明の範囲内である(非相同の細胞内にある核酸は、同様に「単離された」と記載してもよい)。本明細書に記載された核酸または改変された細胞を有するヒト以外のトランスジェニック動物も、本発明の範囲内であり、これらの動物から得られる食品(例えば、肉、または動物の他の食用部分(例えば、肝臓、腎臓、皮膚、脂肪、もしくはスイートブレッド))、あるいは動物の部分を用いて産生される食品(例えば、ブロス、肉汁、スプレッド、またはトランスジェニックの部分(例えば、牛肉もしくは鶏肉の部分)で作られるあらゆる加工食品)も、本発明の範囲内である。食品はヒトが摂取するために、またはペットもしくは家畜用の餌として調製されてもよい。
【0010】
トランスジェニック動物についてはさらに以下で論じるが、動物(またはそのあらゆる所与の組織)は、オメガ−3不飽和化酵素を天然に発現するものであってもなくてもよいことに本発明者らはここで注目し、本発明は、通常はその能力を欠く動物に、遺伝子導入によりn−3脂肪酸不飽和化酵素を提供することにより、その動物でn−6脂肪酸からn−3脂肪酸を生成する方法を含む。記載した方法および組成物は、動物(例えば、哺乳動物、鳥類、または魚類)でn−3脂肪酸不飽和化酵素活性を増強しまたは補足するためにも用いることができる。一実施形態では、本発明は、シー・エレガンスのfat−1タンパク質(例えば、図18に示した変種)をコードする変種を含む、n−3不飽和化酵素(例えば、シー・エレガンスのn−3不飽和化酵素)または生物学的に活性なその変種(例えば、フラグメントもしくは他の変異体)をコードする、最適化されていてもされていなくてもよい核酸配列を含む哺乳類、トリ(鳥類)のまたはサカナ(魚類)の細胞を特徴とする。述べたように、n−3不飽和化酵素の生物学的に活性な変種は、治療上または臨床上有効であるのに十分な野生型のn−3不飽和化酵素の生物学的活性を保持する変種(すなわち、患者を処置し、トランスジェニック動物を生成し、または診断検査もしくは他の臨床検査を行うのに有用な変種)である。例えば、n−3不飽和化酵素の変種は、野生型n−3不飽和化酵素の生物学的活性の少なくとも5〜25%を保持する酵素の変異体またはフラグメントであってよい。例えば、n−3不飽和化酵素のフラグメントが、同じ条件下で対応する野生型の酵素の少なくとも5〜25%効率的に(例えば、野生型のn−3不飽和化酵素の5、10、20、30、40、50、75、80、90、95、または99%効率的に)n−6脂肪酸をn−3脂肪酸に転換する場合、フラグメントは生物学的に活性な全長の酵素の変種である。n−6脂肪酸からn−3脂肪酸への転換を用いて、コドンの最適化により変更された配列を評価するのを助けることもできる(例えば、この転換を用いて、これらの配列が生物学的活性を保持しているのか生物学的活性を増強したかを決定することができる)。
【0011】
変種は、また1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、または付加を含んでもよい(例えば、野生型酵素の配列における1%、5%、10%、20%、25%、またはそれを超えるアミノ酸残基が、別のアミノ酸残基で置き換わり、または欠失してもよい)。換言すれば、本発明の範囲内の核酸の変種は、野生型のn−3不飽和化酵素遺伝子(例えば、シー・エレガンスのfat−1)に少なくとも75%、80%、90%、95%、または99%一致する配列を有してもよく、または配列を含んでもよい。同様に、本発明の範囲内である核酸の変種は、野生型のn−3不飽和化酵素(例えば、シー・エレガンスのfat−1)に少なくとも75%、80%、90%、95%、または99%一致する配列を有するタンパク質をコードしてもよい。変種が置換を含む場合、置換は当技術分野でよく知られている保存的アミノ酸置換を構成してもよい。野生型からここに記載する程度に変化する核酸の配列は、生物学的に活性であり続け、かつ/または生物学的に活性なタンパク質をコードする限り本発明の方法に有用である。
【0012】
(任意選択で、恒常的に活性なもしくは組織に特異的なプロモーター、および/または他の調節要素に操作可能に結合した)fat−1配列を発現する細胞は、fat−1遺伝子およびその産物の機能上の性質を特徴づける都合のよいシステムを提供するので貴重である。組織培養細胞も特に便利であるが、本発明はそれだけに限定されない。fat−1で変更した細胞により、現在必要とされている細胞または動物を飼育する長々しい手順なしに、n−3脂肪酸が媒介するあらゆる細胞メカニズムが研究できるようにもなっている。細胞は、例えば、既存の方法を評価するため、またn−3不飽和化酵素をコードする配列をインビボで細胞内に効果的に導入するための新しい方法をデザインするために用いることができるモデルシステムとしても役立つことができる。
【0013】
本明細書に記載したあらゆる文脈(例えば、本発明の組成物(例えば、核酸構築物)が患者を処置するために、トランスジェニック動物を産生するために、または細胞培養アッセイで使用する際に用いられるか否か)において、オメガ−3不飽和化酵素活性を有するポリペプチドをコードする核酸(例えば、fat−1)を別の(すなわち「第2の」)遺伝子と(同一のベクターにより、または同一もしくは異なるタイプの別個のベクターを用いて)共発現させることができる。第2の遺伝子(fat−1遺伝子が第1の遺伝子として)は、例えば、別の治療用の遺伝子(例えば、小分子もしくは化学療法剤に対する受容体)、またはマーカー遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)または増強されたGFP(EGFP)などの蛍光タンパク質をコードする配列)であってよい。最適化されたfat−1核酸を含む変種のfat−1核酸は、その野生型の対応物に勝るある種の有利点を示すタンパク質をコードすることがある。例えば、変種の配列は、(培養のまたはインビボの細胞で)不飽和化酵素を発現するのにより効果的であることがある。
【0014】
本発明のあらゆる核酸分子は「単離された」ものであってよい(すなわち、それらが天然に存在する環境と異なる環境で)(コドンが最適化された配列に関する修飾語である「単離された」の使用についての下記の本発明者らのコメントを参照されたい)。例えば、核酸はプラスミドまたは他のベクター中に組み入れられ、または、プロモーターおよびエンハンサーなどの調節要素を含む1つまたは複数の非相同配列に結合してもよい。核酸分子は、また、非相同の細胞(すなわち、それらが通常発現されない細胞)内に含まれる場合に単離される。例えば、哺乳動物の細胞(例えば、ヒト、ウシ、またはブタの細胞)、鳥類の細胞(例えば、ニワトリ、アヒル、またはガチョウの細胞)、または魚類の細胞(例えば、サケ、マス、またはマグロの細胞)で、シー・エレガンスのfat−1遺伝子(またはその変種)を含む核酸は、単離された核酸である。ここに記載するfat−1を含む細胞は、本発明の範囲内である。
【0015】
本発明の核酸は、患者に投与するために配合することもできる。例えば、患者に経口でまたは非経口的に(例えば、静脈内、筋肉内、皮膚内、経粘膜、経皮、または皮下の注射)投与するために滅菌水または滅菌した生理的バッファー(例えば、リン酸緩衝食塩水)にそれらを懸濁してもよい。製剤は、また、組織または臓器の表面に適用するために調製してもよい(例えば、溶液剤、ゲル剤、またはパスタ剤として)。患者が腫瘍を有する場合には、組成物を腫瘍内に注入し、または腫瘍を取り除いた部位の周囲の組織に投与してもよい。
【0016】
本発明は、シー・エレガンスのn−3不飽和化酵素遺伝子または生物学的に活性なその変種を発現するトランスジェニック動物(家畜として飼われ、または食料源として用いられるあらゆる動物(例えば、魚類もしくは他の水生動物(例えば、イカ、タコ、甲殻類の動物(例えば、ロブスター、カニ、マキガイ、およびエビ)、または他の食用の水生動物(例えば、ウナギ)を含む)も特徴とする。シー・エレガンスのfat−1遺伝子が動物細胞に送達されると効果的に発現できるという発見を考慮して、当技術分野でよく知られた方法により、この遺伝子、その変種、および他のfat−1遺伝子を用いてトランスジェニックマウス、またはより大型のトランスジェニック動物(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、またはあらゆる他の家畜、もしくは飼育された動物)、あらゆる食鳥(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、ガチョウ、アヒル、または猟鳥)、ならびに貝類および甲殻類を含む魚類を産生することができる。より詳しく述べると、本発明は、導入遺伝子がオメガ−3不飽和化酵素または生物学的に活性なその変種(例えば、少なくとも1つの最適化されたコドンを含むことができるシー・エレガンスのfat−1遺伝子)である、タラ(またはタラ目タラ科の任意の魚類(例えばハドック))、オヒョウ(オヒョウ属のカレイ類の2種のいずれかに対する一般名)、ニシン(アンチョビも含む、ニシン目のいくつかの魚類の一般名)、サバ(サバ科の輸入食用魚の様々な種類の一般名、サケ(または、マスを含めたサケ科の任意の魚類)、スズキ(またはスズキ科の任意の魚類)、シャッド(またはニシン科の任意の魚類)、ガンギエイ(またはガンギエイ科の任意の魚類)、スメルト(またはキュウリウオ科の任意の魚類)、シタビラメ(またはササウシノシタ科の任意の魚類)、およびマグロ(またはサバ科の任意の魚類)を含むトランスジェニック魚類を産生するための組成物および方法を含む。
【0017】
用いた構築物が恒常的に活性なプロモーターを含むか組織に特異的なプロモーターを含むかに応じて、オメガ−3不飽和化酵素遺伝子(例えば、fat−1遺伝子)は全体に発現されても、組織に特異的な方法で発現されてもよい。遺伝子を恒常的に活性なプロモーターの制御下に置くと多くの組織のタイプで発現されることがあり、または遺伝子を組織に特異的なプロモーター(例えば、骨格筋、心筋、または平滑筋、乳房組織、結腸、前立腺、ニューロン、網膜細胞、膵臓細胞(例えば、島細胞)、他の内分泌細胞、内皮細胞、皮膚細胞、脂肪細胞などの中の細胞のタイプなどの、特定の細胞のタイプで選択的に活性のあるプロモーター)の制御下に置くと特定の組織または細胞のタイプで発現されることがある。
【0018】
トランスジェニック動物の細胞は、変更されたPUFA含有量を含み、さらに下記に記載するように、摂取するのにより望ましい。したがって、fat−1遺伝子がコードする不飽和化酵素を発現するトランスジェニックの家畜または食用に屠殺されるあらゆる動物(例えば、魚類および猟獣)は、より優れた(すなわち、より健康的な)食料源である。これらの動物から得た食品、またはこれらの動物を用いて製造した食品(例えば、加工食品およびペットフード)は、健常対象、または本明細書に記載する1つまたは複数の状態に罹患している対象に提供することができる。
【0019】
述べたように、本発明は、n−3PUFAの不足またはn−3:n−6PUFAの比の不均衡に関連する状態を有し、または発症する可能性のある患者(ヒトおよび他の哺乳動物を含む)を、n−3不飽和化酵素または生物学的に活性なその変種(例えば、フラグメント、変異体、またはコドンが最適化された配列)をコードする核酸を投与することにより処置する方法を特徴とする。あるいは、核酸または生物学的に活性な変種がコードするタンパク質を投与することができる。処置方法を、不整脈または心臓血管疾患(例えば、高レベルの血漿トリグリセリドまたは高血圧によって証明されるもの)、癌(例えば、乳癌または結腸癌)、炎症性疾患または自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、多発性硬化症、炎症性腸疾患(IBD)、喘息、慢性閉塞性肺疾患、狼瘡、糖尿病、シェーグレン症候群移植術、強直性脊椎炎、結節性多発性動脈炎、ライター症候群、もしくは強皮症)、あるいは網膜または脳の形成異常(もしくは未熟児に起こる切迫形成異常)を有する患者に適用することができる。好適な患者には、糖尿病、肥満、皮膚障害、腎臓疾患、潰瘍性大腸炎、またはクローン病を有する者、または有すると診断される者も含まれる。他の適切な患者には、移植された臓器を拒絶する危険性のある患者が含まれる。fat−1の発現は、ニューロンなどの細胞における細胞死(そのような死が起こる場合はアポトーシスによると本発明者らは考える)を阻害することができ、したがって、本発明の方法は、神経変性疾患を処置しまたは予防する(例えば、その可能性、またはその期間もしくは重症度を阻害する)ために用いることができる。したがって、本発明は、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病(HD)、脊髄延髄性筋萎縮症(SBMA;ケネディー病としても知られる)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、SCA2、SCA6、SCA7、またはマシャドジョセフ病(MJD/SCA3)などの神経変性疾患を発症し、または発症する可能性のある患者を処置する方法を特徴とする(Reddyら、Trends Neurosc.、22巻、248〜255頁、1999年)。
【0020】
fat−1の発現により癌細胞の細胞死が増加することもあり、したがって、本発明が特徴とする方法を用いて、乳房、結腸、前立腺、肝臓、子宮頸、肺、脳、皮膚、胃、頭頸部、膵臓、血液(例えば、白血病およびリンパ腫)、ならびに卵巣の癌を含む癌を処置し、または予防する(例えば、可能性を阻害し、または重症度もしくは拡散を阻害する)ことができる。特に、これらの方法は、最適化されたシー・エレガンスのfat−1遺伝子、および任意選択で第2のタンパク質(例えば、化学療法のタンパク質)をコードする配列を含む核酸構築物で行うことができる。構築物は、調節配列(例えば、恒常的に活性な、または細胞型に特異的なプロモーター)も含むことができる。癌の処置または予防を意図する核酸を、患者に投与するために配合してもよい。例えば、核酸を、滅菌した生理的に許容される希釈剤と組み合わせてもよい。腫瘍がすでに発症している場合には、核酸を注入可能な溶液に配合してもよい。
【0021】
バランスのとれた、またはより望ましくバランスのとれたn−6:n−3比は、通常の増殖および発達に重要であり、上記で述べたように、本発明の方法は、PUFAに関連する識別できる疾患または状態のない患者に適用すると有利であり得る。
【0022】
本明細書に用いられる略語には以下のものが含まれる:AAはアラキドン酸(20:4n−6)。DHAはドコサヘキサエン酸(22:6n−3)、EPAはエイコサペンタエン酸(20:5n−3)、GFPは緑色蛍光タンパク質、Ad.GFPはGFP遺伝子を有するアデノウィルス、AD.GFP.fat−1はfat−1遺伝子およびGFP遺伝子の両方を有するアデノウィルス、およびPUFAは多価不飽和脂肪酸である。
【0023】
本明細書に記載したものと同様の、または同等の方法および材料を、本発明を実践し、または試験するのに用いることができるが、有用な方法および材料は以下に記載する。本出願から発行することができるあらゆる米国特許の目的では、本明細書に引用されるすべての出版物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全文が参照として組み入れられる。
【0024】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な記載、図、および実施例から明らかになるであろう。
【0025】
(図面の簡単な記載)
図1は、遺伝子導入効率を示す4枚の顕微鏡写真を集めた図である。ラット心筋細胞に、Ad.GFP(左パネル、対照)またはAd.GFP.fat−1(右パネル)を感染させた。感染48時間後、心筋細胞を高輝度(上パネル)および510nmの青色光(下パネル)で可視化した。GFPの共発現により、導入遺伝子が細胞で高い効率で発現されていることが肉眼的に説明される。
図2は、Ad.GFPに感染した心筋細胞(対照)、およびAd.GFP.fat−1に感染した心筋細胞におけるfat−1転写物レベルのリボヌクレアーゼ(RNase)プロテクションアッセイのオートラジオグラムを表す図である。心筋細胞から単離された全RNA(10μg)をアンチセンスのRNAプローブとハイブリダイズし、RNaseで消化し、変性ポリアクリルアミドゲルによる電気泳動により単離した。fat−1mRNAをオートラジオグラフィーにより可視化した。β−アクチン遺伝子を標的にするプローブを対照として用いた。
図3は、Ad.GFPに感染した対照の心筋細胞、およびAd.GFP.fat−1に感染した心筋細胞から抽出した全細胞脂質の脂肪酸プロファイルを示す、1対の部分的なガスクロマトグラフのパターンを表す図である。
図4は、対照の心筋細胞およびfat−1遺伝子を発現する心筋細胞におけるプロスタグランジンEレベル(酵素免疫法で測定した)を示す棒グラフである。値は3回の実験の平均±SDであり、対照の%で表される。p<0.01。
図5は、対照の心筋細胞およびシー・エレガンスのfat−1cDNAを発現するトランスジェニックの心筋細胞からの全細胞脂質の多価不飽和脂肪酸組成を示す表である。
図6は、実験のプロトコールのフローチャートを示す図である。
図7は、実験のプロトコールのフローチャートを示す図である。
図8は、実験のプロトコールのフローチャートを示す図である。
図9は、対照のニューロンおよびAd−GFP−fat−1に感染したニューロンから抽出した全細胞脂質の脂肪酸プロファイルを示す、1対の部分的なガスクロマトグラフのパターンである。
図10は、ラットの皮質ニューロン(対照)およびシー・エレガンスのfat−1cDNA(fat−1)を発現するトランスジェニック細胞からの全細胞脂質のPUFA組成を比較する表である。
図11は、対照のニューロンおよびfat−1遺伝子を発現するニューロンにおけるプロスタグランジンEレベルの酵素免疫法の結果を示す棒グラフである。Ad−GFP−fat−1に感染したニューロンは、対照に比べてPGEのレベルが低い。値は、3回の実験の平均±SDであり、対照のパーセント値で示してある。p<0.01。
図12は、対照およびfat−1を発現する培養物における細胞生存度のMTTアッセイの結果を表す棒グラフである。増殖因子中止24時間後、fat−1遺伝子を発現するニューロンの細胞生存度は、対照細胞よりも50%高い(p<0.01)。
図13は、Ad.GFPに感染した筋細胞およびAd.GFP.fat−1に感染した筋細胞の、細胞外カルシウム7.5mMに対する特異的な反応を示す1対の軌跡である。
図14は、経時的(ウィルス注入後0〜4週間)の腫瘍体積、すなわち遺伝子導入の腫瘍の増殖に対する効果を示す折れ線グラフである。ヌードマウスの背部に、乳癌細胞(MDA−MB−231)を皮下移植した。3週間後、マウスを腫瘍内注射により、Ad.GFP−fat−1またはAd.GFP(対照、50μl、1012VP/m)で処置した。
図15は、対照のMCF−7細胞、およびシー・エレガンスのfat−1cDNAを発現するトランスジェニックのMCF−7細胞からの全細胞脂質のPUFA組成を示す表である。
図16は、対照のMCF−7細胞およびfat−1遺伝子を発現するMCF−7細胞におけるプロスタグランジンEレベルの酵素免疫測定法の結果を表す棒グラフである。値は、3回の実験の平均±SEであり、対照のパーセント値で示してある(P<0.05)。
図17Aおよび17Bは、シー・エレガンスのfat−1cDNAのヌクレオチド配列、およびFat−1ポリペプチドの推定アミノ酸配列を表す。
図18は、最適化したfat−1核酸配列を表す。
図19は、野生型マウスの骨格筋(WT、上パネル)およびfat−1トランスジェニックマウス(TG、下パネル)の骨格筋から抽出した全脂質の特異的な多価不飽和脂肪酸プロファイルを示す、1対の部分的なガスクロマトグラフのパターンである。野生型マウスもトランスジェニックマウスも、8週齢のメスマウスであり、同じ食餌を与えた。トランスジェニックの筋肉(下パネル)では、野生型の筋肉(上パネル)と比べて、n−6の多価不飽和酸(18:2n−6、20:4n−6、22:4n−6、および22:5n−6)のレベルは低いが、n−3脂肪酸(で示した)は豊富である。野生型の動物では、組織に見られる多価不飽和脂肪酸は、主に(98%)n−6リノール酸(LA、18:n−6)およびアラキドン酸(AA、20:4n−6)、ならびにパターン(または検出不可能な)量のn−3脂肪酸である。それとは対照的に、トランスジェニックマウスの組織には、リノレン酸(ALA、18:3n−3)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5n−3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5n−3)、およびドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n−3)を含む、大量のn−3多価不飽和脂肪酸が存在する。したがって、トランスジェニックの組織におけるn−6脂肪酸であるLAおよびAAのレベルは大幅に減少し、n−6からn−3脂肪酸への転換を示している。トランスジェニック動物の組織におけるn−6のn−3脂肪酸に対する得られた比は1に近かった。n−6対n−3比のバランスがとれ、AA/(EPA+DPA+DHA)のバランスがよりとれたこのn−3に富む脂肪のプロファイルは、表1に列挙したすべての試験を行った臓器/組織で観察することができた。
図20は、実施例8に記載したように変更した、野生型、およびfat−1遺伝子を発現するトランスジェニックのゼブラフィッシュの筋肉組織から抽出した全脂質の、特異的な多価不飽和脂肪酸プロファイルを示す1対の部分的なガスクロマトグラフのパターンを示す図である。
図21は、実施例8に記載したように変更した、野生型、およびfat−1遺伝子を発現するトランスジェニック豚の尾部組織から抽出した全脂質の、特異的な多価不飽和脂肪酸プロファイルを示す1対の部分的ガスクロマトグラフパターンである。
【0026】
(詳細な記載)
下記に記載する研究は、とりわけ、n−3不飽和化酵素をコードする核酸分子は様々な動物細胞のタイプで効率的に発現することができ、結果として、これらの細胞は相当な量のn−3PUFAを内因性のn−6PUFAから生成し、n−6のn−3PUFAに対する比はよりバランスがとれている(1:1)ことを説明するものである。研究は、インビボまたはインビトロで遺伝子導入を媒介することができる組換えアデノウィルスの発現ベクターを用いて行った。オメガ−3不飽和化酵素(例えば、fat−1)または生物学的に活性なその変種(例えば、コドンが最適化された配列)を発現するアデノウィルスのベクター、ならびに他のタイプのウィルスおよび非ウィルスの発現ベクターは、本発明の範囲内である。
【0027】
より詳しく述べると、本発明は、n−6を対応するn−3脂肪酸に不飽和化する酵素をコードする配列を含む核酸分子を特徴とする。本発明者らの研究は、シー・エレガンスのfat−1遺伝子がコードする不飽和化酵素に重点を置いているが、他の不飽和化酵素をコードする配列も本発明の核酸構築物に含むことができ、本発明の方法に用いることができる。例えば、コードされる不飽和化酵素は植物、シー・エレガンス以外の線虫、シアノバクテリア、またはEPAに富む真菌類(例えば、ミズカビ(Saprolegnia diclina))のものであってもよい。不飽和化酵素配列を供給することができる他の菌類には、サッカロミセス クリヴェリ(Saccharomyces kluyveri)、およびミズカビ(Saprolegnia diclina)が含まれる。したがって、本発明は調節要素(例えば、恒常的に活性な、または組織に特異的なプロモーター)に操作可能に結合しているn−3不飽和化酵素をコードする配列を含む核酸分子を特徴とする。特異的なプロモーターは当技術分野では知られており、さらに以下に記載する。
【0028】
n−3不飽和化酵素をコードする配列は、少なくとも1つの最適化されたコドンを含むことができる。最適化されたコドンの数は、変化してもよい。その数は、発現のいくつかの局面(例えば、転写するコピー数)を改善し、その他の方法では配列の有用性を高めるのに十分であることが好ましい。ある場合には、ほんの少数(例えば、1〜5個)のコドンを変更することで配列を改善することができる。他の場合には、より多数(例えば、少なくとも5から150個まで)のコドンを最適化することができる。詳しい実施形態では、不飽和化酵素をコードする配列の最初の供給源に関係なく、核酸分子は5〜10、10〜15、15〜20、20〜25、25〜30、30〜35、35〜40、40〜45、45〜50、50〜55、55〜60、60〜65、65〜70、70〜75、75〜80、80〜85、85〜90、90〜95、95〜100、100〜105、105〜110、110〜115、115〜120、120〜125、125〜130、130〜135、135〜140、140〜145、145〜150、10〜125、25〜100、30〜90、40〜80、50〜70、または約60個の最適化されたコドンを含むことができる。一実施形態では、核酸分子は、図18に示した核酸の配列を含むことができる。
【0029】
さらに、最適化されたコドンの位置は変化することができる。シー・エレガンスのfat−1遺伝子に関しては、最適化されたコドンは6、9、18、20、22、24、28〜30、33〜36、47、49、52、54、58、60、61、64、67、69〜71、73、77、79、81、86、89、92、94〜95、100、101、105、106、112、115、118、124、127、128、131、146、151、154、161、163、164、169、178、187、188、195、197、200、202、206、210、214、217、221、223、225、227、228、232、234、241、245、255、271、280〜282、284、285、301、303、310、312、327、362、または370の位置の1つまたは複数に見出すことができる。シー・エレガンスのfat−1の遺伝子以外の不飽和化酵素をコードする遺伝子を用いる場合は、これらと同じ位置の1つまたは複数(すべてを含む)でコドンを最適化することができる。相同遺伝子(例えば、植物または菌類のn−3不飽和化酵素遺伝子)では、最適化される位置は、上記に列挙した位置に対応する位置であることができる。
【0030】
上記に述べたように、本発明の核酸分子のいくつかは「単離されている」と言ってもよい。しかし、核酸配列が天然に存在する配列ではない場合には、この修飾語は必要ではないと考えられる。最適化されている配列(特にいくつかのコドンが最適化されているもの)が天然に存在する可能性があまりない場合には、これらの配列を「単離されている」と述べる必要はないと考える。したがって、天然に存在する配列である核酸分子は「単離されて」(その天然の環境においてそれが関連する成分のいくつか、ほとんど、またはすべてから分けられて)いなければならないが、天然に存在しない核酸分子(例えば、非天然の最適化された配列を有する核酸)は単離されていると表す必要はない。
【0031】
調節要素および不飽和化酵素をコードする配列の他に、核酸分子は、それ(例えば、治療用のポリペプチド)が投与される対象に利益を与え、またはアッセイ(例えば、第2の配列がマーカータンパク質をコードすることができる)で分子の有用性を改善するポリペプチドをコードする配列を含むことができる。本明細書では、蛍光の例(例えば、GFPおよびEGFP)を提供し、非蛍光マーカー(例えば、β−ガラクトシダーゼ)の例も提供する。他のマーカーまたは「レポーター」タンパク質は、当技術分野で知られており、日常的に使用されており、本明細書に記載する核酸構築物に組み入れることもできる。
【0032】
核酸分子は、ベクター(例えば、発現ベクター)であってよく、またはベクターの一部であってもよい。本発明者らは、本発明者らがアデノウィルスのベクターを使用したことを上記で述べた(実施例も参照されたい)。本発明で発現構築物として用いることができる他のウィルスベクターには、ワクシニアウィルス(例えば、ポックスウィルス、もしくは変更ワクシニアウィルス アンカラ株(ankara)(MVA))、アデノ随伴ウィルス(AAV)、またはヘルペスウィルスなどのウィルスに由来するベクターが含まれる。これらのウィルスには、ヒトの細胞を含む動物細胞に関して使用するためのいくつかの魅力的な特徴がある。例えば、単純ヘルペスウィルス(例えば、HSV−1)を、ニューロンに不飽和化酵素(例えば、fat−1またはその相同体(もしくはコドンが最適化されている変種を含む、生物学的に活性の変種)を送達するために選択することができる。このようなベクターは、例えば、神経変性疾患を処置し、または予防するのに有用である。
【0033】
レトロウィルス、リポソーム、およびプラスミドベクターも、当技術分野でよく知られており、n−3不飽和化酵素をコードする配列を細胞に送達するのにも用いてもよい(例えば、不飽和化酵素をコードする(例えば、fat−1)配列をlacZ遺伝子に融合したい場合に、発現ベクターのpUR278を用いることができ、lacZは検出可能なマーカーであるβ−ガラクトシダーゼをコードしている(例えば、Rutherら、EMBO J.、2巻、1791頁、1983年を参照されたい))。
【0034】
述べたように、不飽和化酵素をコードする配列(例えば、fat−1配列)または生物学的に活性なその変種(コドンが最適化される配列を含む)は、発現された場合に、融合タンパク質の量または質(例えば、可溶性、または循環半減期)を改善する別の治療用の遺伝子または配列をコードする配列などの、他のタイプの非相同配列に融合することもできる。例えば、pGEXベクターを用いて、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)に融合した本発明のタンパク質を発現させることができる。一般に、このような融合タンパク質は可溶性であり、グルタチオン−アガロースビーズへ吸着させ、次いで遊離のグルタチオンの存在下で溶離することにより溶解した細胞から容易に精製することができる。pGEXベクター(Pharmacia Biotech Inc;SmithおよびJohnson、Gene、67巻、31〜40頁、1988年)は、クローンされた標的の遺伝子産物がGST部分から放出できるように、トロンビンまたはファクターXaプロテアーゼ切断部位を含むようにデザインされている。他の融合パートナーには、アルブミン、および免疫グロブリン分子(例えば、IgG、IgA、IgM、またはIgE)の領域(例えば、ヒンジ領域のある、またはないFc領域)が含まれる。他の有用なベクターには、pMAL(マサチューセッツ州、Beverly、New England Biolabs)およびpRIT5(ニュージャージー州、Picataway、Pharmacia)が含まれ、それぞれマルトースE結合性タンパク質、およびタンパク質Aを、n−3不飽和化酵素に融合させる。
【0035】
導入遺伝子の発現は、あらゆる所与の発現ベクターをその導入遺伝子とともに再投与することが必要ないようにエピソーム系から十分に延長することができる。あるいは、ベクターは、好ましくは部位特異的位置において、宿主ゲノムへの組込みを促進するようにデザインすることができ、細胞の生存期間中に導入遺伝子が確実に失われないようにするのを助ける。送達の手段が何であっても、転写の制御は、宿主細胞が行い、組織特異性を促進し導入遺伝子の発現を調節する。したがって、本発明の核酸分子は、不飽和化酵素をコードする配列の宿主ゲノムへの組込みを促進する配列を含むことができる。
【0036】
発現ベクターは、例えば、形質転換される宿主細胞のタイプ、および望まれるタンパク質発現のレベルに応じて選択し、またはデザインする。例えば、宿主細胞が哺乳動物の細胞の場合、発現ベクターは、ポリオーマ、アデノウィルス2、サイトメガロウィルス、およびシミアンウィルス40由来のプロモーターなどのウィルスの調節要素を含むことができる。これらの調節要素を、非哺乳動物の(例えば、鳥類または魚類の)細胞でも用いることができる。挿入された核酸(すなわち発現されるべき配列、ここではfat−1がコードするもののようなn−3不飽和化酵素)は、大腸菌(E.coli)で優先的に利用される残基をコードするように変更することもできる(Wadaら、Nucleic Acid Res.、20巻、2111〜2118頁、1992年)。同様に、必要に応じ、または所望により、大腸菌以外の生物でコドンを優先的に変更することができる。これらのような変更(例えば、様々な調節要素の組入れおよびコドンの最適化)は、標準の組換え技術により実現することができる。より一般的には、本発明の発現ベクターを、原核生物の、または真核生物の細胞でタンパク質を発現するようにデザインすることができる。例えば、本発明のポリペプチドを、細菌の細胞(例えば、大腸菌)、真菌、酵母菌、または昆虫の細胞で(例えば、バキュロウィルスの発現ベクターを用いて)発現させることができる。例えば、オートグラファカリフォルニカ核多角体ウィルス(AcNPV)などのバキュロウィルスは、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)の細胞で増殖し、n−3不飽和化酵素を発現するベクターとして用いることができる。本発明はそれだけに限定されないが、発現の主要な目的がオメガ−3不飽和化酵素の生成および精製である場合は、大腸菌、酵母菌、および昆虫細胞が宿主細胞として働くと、本発明者らは予想している。本明細書で述べたように、本発明は、広範囲の様々なタイプのトランスジェニック動物内におけるものを含む、より高等な目(もく)の細胞におけるオメガ−3不飽和化酵素の発現も含む。
【0037】
上記したように、宿主細胞が多細胞動物から得られ、または多細胞生物の細胞である場合は、不飽和化酵素を発現するために用いられる発現ベクターおよび核酸(例えば、fat−1核酸配列)は、組織に特異的なプロモーターも含むことができる。このようなプロモーターは当技術分野では知られており、それだけには限定されないが、肝臓に特異的なプロモーター(例えば、アルブミン;Miyatakeら、J.Virol.、71巻、5124〜5132頁、1997年)、筋肉に特異的なプロモーター(例えば、ミオシン軽鎖1(Shiら、Hum.Gene Ther.、8巻、403〜410頁、1997年)またはα−アクチン)、膵臓に特異的なプロモーター(例えば、インスリンまたはグルカゴンのプロモーター)、神経に特異的なプロモーター(例えば、チロシンヒドロキシラーゼのプロモーター、またはニューロンに特異的なエノラーゼプロモーター)、内皮細胞に特異的なプロモーター(例えば、von Willebrandt;Ozakiら、Hum Gene Ther.、7巻、1483〜1490頁、1996年)、および平滑筋細胞に特異的なプロモーター(例えば、22a)が含まれる。腫瘍に特異的なプロモーターは癌治療を開発するのにも使用されており、B16メラノーマに対するチロシンキナーゼ特異的プロモーター(Diazら、J.Virol.、72巻、789〜795頁、1998年)、ある種の乳癌に対するDF3/MUC1(Wenら、Cancer Res.、53巻、641〜651頁、1993年;乳癌には、ヒトアロマターゼチトクロームp450(p450arom)の脂肪に特異的なプロモーター領域も用いることができる(米国特許第5446143号;Mahendrooら、J.Biol.Chem.、268巻、19463〜19470頁、1993年;およびSimpsonら、Clin.Chem.、39巻、317〜324頁、1993年を参照されたい)が含まれる。α−フェトプロテインのプロモーターは、肝細胞癌で直接発現させるために用いることができる(Chenら、Cancer Res.、55巻、5283〜5287頁、1995年)。組織に特異的な発現が必要とされず、または望まれない場合、n−3不飽和化酵素をコードする配列は、恒常的に活性なプロモーター(例えば、β−アクチンのプロモーター)の制御下におく(すなわち操作可能に結合する)ことができる。他の恒常的に活性なプロモーターは、当技術分野で知られており使用されている。
【0038】
本発明のベクターおよび他の核酸分子(例えば、fat−1cDNA自身)は、導入遺伝子の一時的発現を制限する配列も含むことができる。例えば、導入遺伝子は、例えば、プロモーターにcAMP応答要素(CRE)のエンハンサーを含むことにより、また、形質移入されまたは感染した細胞をcAMP変調性の薬物で処置することにより、薬物誘導性のプロモーターにより制御され得る(Suzukiら、Hum.Gene Ther.、7巻、1883〜1893、1996年)。あるいは、リプレッサー因子は、薬物の存在下で転写を防止することができる(Huら、Cancer Res.、57巻、3339〜3343頁、1997年)。発現の空間的制御は、また、電離放射線(放射線治療)をerg1遺伝子のプロモーターと組み合わせて用いて実現することができている。このような制御配列を含む構築物は、本発明の範囲内である。
【0039】
発現ベクターを含めた、本明細書に記載する核酸分子を含む宿主細胞も、本発明の範囲内である。細胞は原核生物でも真核生物でもよい。適切な原核生物細胞は細菌の細胞を含み、適切な真核生物細胞は哺乳動物、鳥類、および魚類の細胞を含む。細胞系は、確立され公共の保管場所に保管されているものを含み、宿主細胞として用いることもできる。これらのあらゆる細胞を、特に核酸配列を最適化する過程で使用することができる。細胞は、健常であるとも疾患を有するとも考えることができる(例えば、細胞が炎症により影響を受けることもあり、あるいは望ましくない(例えば、望ましくなく早い)速度で形質転換され、かつ/または増殖するものであってもよい。
【0040】
本明細書に記載する核酸、およびそれらがコードするタンパク質を、医薬組成物に含むことができる。例えば、組成物は、本明細書に記載する発現ベクター、および生理的に許容される希釈剤(例えば、通常の食塩水、またはリン酸緩衝食塩水などの生理的に許容されるバッファー)を含むことができる。確かに治療上または予防上の方策にヒト対象が意図されるが、本発明はそれだけに限定されない。医薬組成物を、家畜、ペット、動物園もしくはサーカスの動物、または野生で負傷しもしくは病んで見出された動物のために、配合し、投与してもよい。対象に関係なく、根底をなす疾患または状態を処置が完全に根治しなくても、処置は成功であるとみなすことができる。疾患の徴候あるいは症状の1つまたは複数を改善し、または疾患(例えば、神経変性疾患または癌)の進行を遅延することも有益であり、本明細書に記載した組成物を用いて実現することができる。核酸分子は、濃縮された形態で、または対象に投与するのに適する量(例えば、治療上有効な量)で存在できる。対象に投与する際に、対象で細胞のn−3PUFA含有量が増加し、かつ/またはn−6:n−3PUFAの比がより好ましくバランスがとれる程度まで、核酸がn−3不飽和化酵素を発現する場合に、投与した量が治療上有効であるとみなされる。
【0041】
本発明は、本明細書に記載する核酸分子を含むヒト以外のトランスジェニック動物(例えば、哺乳動物、鳥類、または魚類)も含む。動物は、食用(例えば、ヒトまたは他の動物(例えば、家畜もしくはペット)による摂取)に飼われ、飼育され、捕獲され、または狩猟されるものであってよい。述べたように、哺乳動物はウシ、ブタ、またはヒツジであってよく、鳥類はニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、または猟鳥であってよく、魚類はサケ、マス、またはマグロであってよい。
【0042】
これらのヒト以外のトランスジェニック動物、またはその組織もしくは加工された部分を含む食品または栄養補助食品も、本発明の範囲内である。製品は、(動物全体、または動物の部分すべて(例えば、関節、指関節、もしくは臓器)の場合のように)非加工でもよく、屠殺した動物またはその部分(例えば、骨、脂肪、皮膚、もしくはそれらから得た油)から加工してもよい。栄養補助食品(例えば、魚油カプセル)を製造する方法は、当技術分野では知られており、本発明の遺伝子を変更したあらゆる動物の使用に応用することができる。本発明は、本明細書に記載した動物(例えば、トランスジェニックの哺乳動物、鳥類、または魚類)から食品または栄養補助食品を製造する方法も含む。これらの方法は、現在知られているあらゆるプロセスを含むあらゆる方法で行うことができ、その供給源は、単に、本明細書に記載したように生成されたヒト以外のトランスジェニック動物(もしくはその部分)であり、またはそれを含む。
【0043】
本発明の他の方法は、上記した食品または栄養補助食品を対象に投与することにより、対象の食餌におけるn−3脂肪酸の含有量を改善することを含む。対象は、明らかに健康であってもよく、あるいは癌(例えば、乳癌、結腸癌、前立腺癌、肝臓癌、子宮頸癌、肺癌、脳腫瘍、皮膚癌、胃癌、頭頸部癌、膵臓癌、血液癌、または卵巣癌)を有すると診断されていてもよい。本明細書に記載した組成物を、例えば、本明細書に記載した核酸分子の治療上有効な量を対象に投与することにより、対象におけるニューロンの細胞死を阻害する方法に用いることもできる。したがって、対象は、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、またはハンチントン病)を有すると診断された者であってよい。他の処置可能な、または予防可能な状態には、不整脈、心臓血管疾患、癌、炎症性疾患、自己免疫疾患、網膜または脳の形成異常または切迫形成異常、糖尿病、肥満、皮膚障害、腎臓疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、または慢性閉塞性肺疾患が含まれる。対象が、生物学的な臓器、組織、または細胞を含む移植体を受け、または受ける予定であるものであってもよい。対象または移植体のいずれかに、本明細書に記載した核酸分子を投与することにより、この方法を行うことができる。
【0044】
述べたように、本明細書に記載した核酸分子(コドン使用頻度が宿主に最適化されたものを含めて)を用いて、ヒト以外のトランスジェニック動物を産生することができる。本発明はそれだけに限定されないが、核酸は、飼育され、または他には食料源とみなされる動物を遺伝的に変更するために最も頻繁に用いられるであろうと、本発明者らは予想している。動物は、当技術分野で知られている技術を用いて産生することができる。より詳しくは、哺乳動物および魚類は、以下の実施例に記載した方法を用いて産生することができる。
【0045】
詳しい実施形態では、本発明は、n−6脂肪酸を対応するn−3脂肪酸に不飽和化する酵素をコードする核酸配列を含むトランスジェニック魚類またはトランスジェニック鳥類を特徴とする。トランスジェニック魚類は、タラ目タラ科のタラまたは任意の魚類、オヒョウ、ニシン目のニシンまたは任意の魚類、サバ科のサバまたは任意の魚類、マスを含めたサケ科のサケまたは任意の魚類、スズキ科のスズキまたは任意の魚類、ニシン科のシャッドまたは任意の魚類、ガンギエイ科のガンギエイまたは任意の魚類、キュウリウオ科のスメルトまたは任意の魚類、ササウシノシタ科のシタビラメまたは任意の魚類、およびサバ科のマグロまたは任意の魚類であることができる。他の魚類は、上記したものであり、当業者に知られている。
【0046】
トランスジェニック魚類またはトランスジェニック鳥類を生成する際に、シー・エレガンスのfat−1遺伝子を含む核酸配列を含む、本明細書に記載したあらゆる核酸配列を用いることができる。あらゆる核酸配列は、少なくとも1つの最適化されたコドンを含むことができる。例えば、配列は少なくとも5個から150個までの最適化されたコドンを含むことができる。詳しい実施形態では、不飽和化酵素をコードする配列の最初の供給源に関係なく、トランスジェニック鳥類またはトランスジェニック魚類を産生するために用いられる核酸分子は、5〜10、10〜15、15〜20、20〜25、25〜30、30〜35、35〜40、40〜45、45〜50、50〜55、55〜60、60〜65、65〜70、70〜75、75〜80、80〜85、85〜90、90〜95、95〜100、100〜105、105〜110、110〜115、115〜120、120〜125、125〜130、130〜135、135〜140、140〜145、145〜150、10〜125、25〜100、30〜90、40〜80、50〜70、または約60個の最適化されたコドンを含むことができる。一実施形態では、魚類または鳥類の中の導入遺伝子は、図18に示した核酸の配列を含む核酸分子を含むことができる。
【0047】
他に示されるように、最適化されたコドンの位置は、ヒト以外のトランスジェニック動物(例えば、本明細書に記載した哺乳動物、鳥類、および魚類)を生成するのに用いられる構築物で変化することがある。シー・エレガンスのfat−1遺伝子に関しては、最適化されたコドンは、6、9、18、20、22、24、28〜30、33〜36、47、49、52、54、58、60、61、64、67、69〜71、73、77、79、81、86、89、92、94〜95、100、101、105、106、112、115、118、124、127、128、131、146、151、154、161、163、164、169、178、187、188、195、197、200、202、206、210、214、217、221、223、225、227、228、232、234、241、245、255、271、280〜282、284、285、301、303、310、312、327、362、または370の位置の1つまたは複数に見出すことができる。シー・エレガンスのfat−1遺伝子以外の不飽和化酵素をコードする遺伝子を用いる場合、コドンはこれらの同じ位置の1つまたは複数(すべてを含む)で最適化され得る。相同遺伝子を用いる場合には(例えば、植物または菌類のn−3不飽和化酵素遺伝子)、最適化する位置は上記に列挙した位置に対応するものであってよい。
【0048】
以下の実施例では、RNA分析および酵素アッセイを行って遺伝子発現を評価し、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて脂肪酸プロファイルを決定した(これらは、fat−1配列のあらゆる変種の生物学的活性を評価するために当業者が用いることができる標準的な技術であり、またはfat−1を発現させるために患者から得たサンプルを評価するあらゆる方法を含んでいる)。
【0049】
以下に記載した試験のいくつかは、皮質ニューロンを用いて行った。fat−1の発現は、細胞のn−3:n−6脂肪酸比、およびこれらのニューロンにおけるエイコサノイドプロファイルを変更しただけではなく、細胞をアポトーシスから保護し、その結果細胞の生存度を上昇させもした。より詳しく述べると、fat−1の発現は、外因性のn−3PUFAの補足なしに、脂肪酸比を変更し、増殖因子の投与中止が誘発するアポトーシスからラットの皮質ニューロンを保護した。したがって、本明細書に記載した核酸分子(および他の組成物)、をあらゆる神経変性疾患を有する未熟児に、および年長の患者に投与することができる(あるいは、その部分をその後患者が摂取する分子または他の組成物を動物に送達することができる)神経保護薬として用いることができる。ニューロンのアポトーシスに対する遺伝子導入の保護効果は、n−3脂肪酸の補足の保護効果を模倣するものである。
【0050】
n−3PUFAが欠乏すると、特に未熟児で網膜および脳の異常な発達がもたらされ(Uauyら、Lipids、36巻、885〜895頁、2001年)、n−3PUFAの欠乏した動物は記憶、空間および脈絡に依存する学習の欠損を示し、ならびに視覚の鋭敏さを欠く(Carrieら、Neurosci.Lett.、266巻、69〜72頁、1999年;Yehudaら、J.Neurosci.Res.、56巻、565〜70頁、1999年)ので、ニューロンで得られた前向きな結果は特に励みとなる。ヒトにおける様々な神経学的な疾患の状態が、n−3欠乏状態に関連するという指摘もある(Vancasselら、Prost.Leuk.Ess.Fatt.Acids、65巻、1〜7頁、2001年;HoffmanおよびBirch、World Rev.Nutr.Diet、83巻、52〜69頁、1998年)。
【0051】
PUFAの生物学的機能は、本明細書に記載する核酸分子(および他の組成物)での処置に敏感に反応する状態のタイプに効果があるので、これらの機能をさらにここに記載する。PUFAは、膜のリン脂質の重要な構造上の構成成分であり、プロスタグランジン、トロンボキサン、およびロイコトリエンを含むシグナリング分子(エイコサノイド)のファミリーの前駆物質である(Needlemanら、Ann.Rev.Biochem.、55巻、69〜102頁、1986年;SmithおよびBorgeat、「Biochemistry of Lipids and Membranes」、D.E.VanceおよびJ.E.Vance編集、Benjamin/Cummings、カリフォルニア州、Menlo Park、00325〜360頁、1986年)。PUFA由来のエイコサノイドは、炎症、サイトカインの放出、免疫反応、血小板凝集、脈管反応性、血栓症、およびアレルギー現象を変調する上で重要な役割を果たす(Dyerbergら、Lancet、2巻、117〜119頁、1978年;CyerbergおよびBang、Lancet、2巻、433〜435頁、1979年;Jamesら、Am.J.Clin.Nutr.、7巻、343S〜3438S頁、2000年;Calder、Ann.Nutr.Metab.、41巻、203〜234頁、1997年)。これらのシグナリング化合物の主要な脂肪酸前駆物質は、シリーズ2化合物の主要な合成を担うn−6基質を提供するアラキドン酸(AA、20:4n6)、およびさらなる二重結合を有する多くのシリーズ3のエイコサノイドのパラレル合成を担うn−3基質であるエイコサペンタエン酸(EPA、20:5n3)である。リン脂質におけるn−6:n−3比は、AAおよびEPAに由来する2および3シリーズのエイコサノイド間のバランスを調節する。AA(シリーズ2)およびEPA(シリーズ3)由来のエイコサノイドは、機能的に異なり、いくつかの重要な対立する生理学的機能を有する(Dyerbergら、Lancet、2巻、117〜119頁、1978年;CyerbergおよびBang、Lancet、2巻、433〜435頁、1979年;Jamesら、Am.J.Clin.Nutr.、7巻、343S〜3438S頁、2000年;Calder、Ann.Nutr.Metab.、41巻、203〜234頁、1997年)。シリーズ3のエイコサノイドは弱い作動物質であり、または、ある場合には、シリーズ2エイコサノイドの拮抗物質である。例えば、2シリーズのエイコサノイドは炎症および血小板凝集を促進し、免疫反応を活性化するが、シリーズ3のエイコサノイドはこれらの作用を回復させる傾向がある。さらに、遊離脂肪酸の形態のPUFAは、遺伝子の発現および細胞間の細胞間情報交換に関与する(Priceら、Curr.Opin.Lipidol、11巻、3〜7頁、2000年;Sellmayerら、Lipids、31巻、追補S37〜S40頁、1996年;vonSchacky、J.Lab.Clin.Med.、128巻、5〜6頁、1996年)。このように、PUFAは、多くの様々な生物学的効果を表すことができる。
【0052】
本明細書に記載した組成物および方法を、様々な特定の状態を処置し、また最初の健康状態(例えば、不良、平均、または良好)に関係なく一般的な健康を増進するために用いることができる。n−3PUFAの投与による処置に敏感に反応するあらゆる状態は、n−3不飽和化酵素をコードする遺伝子(例えば、シー・エレガンスのfat−1遺伝子)の投与を含めた、本発明の方法による処置に敏感に反応する。処置に敏感に反応する状態のいくつかを、本明細書に記載してある。
【0053】
n−3PUFAは、薬物および栄養補助化合物として、かなりの注目を集めている(Connor、Am.J.Clin.Nutr.、70巻、560S〜569S頁、1999年;Simopoulos、Am.J.Clin.Nutr.、70巻、562S〜569S頁、1999年;Salemら、Lipids、31巻、S1〜S326頁、1996年)。過去25年の間に、4500を超える研究で、n−3脂肪酸がヒトの代謝および健康(例えば、心臓血管上の健康)に及ぼす効果が探索されている。疫学から細胞培養まで、および動物試験から無作為の対照試験まで、オメガ−3脂肪酸の心臓保護効果が認められている(LeafおよびKang、World Rev.Nutr.Diet.、83巻、24〜37頁、1998年;De Caterinaら編集、「n−3 Fatty Acids and Vascular Disease」、Springer−Verlag、London、1999年、166頁;O’KeefeおよびHarris、Mayo Clin.Proc.、75巻、607〜614頁、2000年)。優れた有益な効果には、突然死の減少(Albertら、JAMA、279巻、23〜28頁、1998年;Siscovickら、JAMA、274巻、1363〜1367頁、1995年)、不整脈の危険性の減少(KangおよびLeaf、Circulation、94巻、1774〜1780頁、1996年)、血漿トリグリセリドレベルの低下(Harris、Am.J.Clin.Nutr.、65巻、1645S〜1654S、1997年)、ならびに血液凝固傾向の低下(Agrenら、Prostagland.Leukot.Essent.Fatty Acids、57巻、419〜421頁、1997年;Moriら、Arterioscler.Throm.Basc.Biol.、17巻、279〜286頁、1997年)が含まれる。疫学上の研究からの証拠が示すのは、別のn−3脂肪酸であるα−リノレン酸が心筋梗塞の危険性を低下させ(Guallarら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.、19巻、1111〜1118頁、1999年)、および女性における死にいたる虚血性心疾患の危険性を低下させることである(Huら、Am.J.Clin.Nutr.、69巻、890〜897頁、1999年)。いくつかの無作為対照試験により、最近、冠状動脈疾患を有する患者における冠状動脈の罹患率および死亡率両方に対する、α−リノレン酸(de Lorgerilら、Circulation、99巻、779〜785頁、1999年)および海洋のオメガ−3脂肪酸(Singhら、Cardiovasc.Drugs Ther.、11巻、485〜491頁、1997年;Von Schackyら、Ann.Intern.Med.、130巻、554〜562頁、1999年;GISSI−Prevenzione Investigators、Lancet、354巻、447〜455頁、1999年)両方の有益な効果が説明されている。n−3脂肪酸であるEPAは、インビトロおよび実験的な癌の動物モデルで抗癌活性を発揮している(Bougnoux、Curr.Opin.Clin.Nutr.Metab.Care、2巻、121〜126頁、1999年;Cave、Breast Cancer Res.Treat.、46巻、239〜246頁、1997年)。ヒトでの研究では、EPAに富む食事を摂取している集団は、著しく低い癌の発病率を示すことが示されている(RoseおよびConnolly、Pharmacol.Ther.、83巻、217〜244頁、1999年)。n−3PUFAの補足により、関節炎などの炎症性疾患および自己免疫疾患に対する治療効果が示され(Kremer、Am.J.Clin.Nutr.、71巻、349S〜351S頁、2000年;Ariza−Arizaら、Semin.Arthritis Rheum.、27巻、366〜370頁、1998年;Jamesら、Am.J.Clin.Nutr.、71巻、343S〜348S頁)、ヒト以外の霊長類での研究(Neuringerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、83巻、4021〜4025頁、1986年)およびヒト新生児での研究(Uauyら、Proc.Nutr.Soc.、59巻、3〜15頁、2000年;Uauyら、Lipids、31巻、S167〜176頁、1996年)は、n−3脂肪酸であるDHAが、特に未熟児の網膜および脳の正常の機能の発達に不可欠であることを指摘している。さらに、n−3PUFAは、高血圧(Appelら、Arch.Intern.Med.、153巻、1429〜1438頁、1993年)、糖尿病(Rahejaら、Ann.N.Y.Acad.Sci.、683巻、258〜271頁、1993年)、肥満(Clarke、Br.J.Nutr.、83巻、S59〜66頁、2000年)、皮膚障害(Ziboh、World Rev.Nutr.Diet.、66巻、425〜435頁、1991年)、腎臓疾患(De Caterinaら、Kidney Int.、44巻、843〜850頁、1993年)、潰瘍性大腸炎(Stensonら、Ann.Intern.Med.、116巻、609〜614頁、1992年)、クローン病(Belluzziら、N.Engl.J.Med.、334巻、1557〜1560頁、1996年)、慢性閉塞性肺疾患(Shaharら、N.Engl.J.Med.、331巻、228〜233頁、1994年)、および移植臓器の拒絶反応(Ottoら、Transplantation、50巻、193〜198頁、1990年)など、多くの他の臨床上の問題に有益な効果があることが示されている。一般に、身体の脂質のバランスのとれたn−6:n−3の比は、正常の増殖および発達に不可欠であり、多くの臨床上の問題の予防および処置で重要な役割を果たしている。上記した疾患、障害、および状態は、本明細書に記載した核酸分子(および他の組成物)での処置に敏感に反応する。例えば、これらの疾患、障害、および状態は、n−3不飽和化酵素をコードする発現ベクター(例えば、fat−1遺伝子配列を含む発現ベクター)(例えば、上記したもの)を対象に投与することにより、処置し、または予防することができる。この疾患、障害、または状態は、処置し、または予防することができる。
【0054】
最近の研究によれば(Simopoulous、Poultry Science、79巻、961〜970頁、2000年)、今日の食事におけるn−6のn−3に対する必須脂肪酸の比は、約10〜20:1である。これは、現在の西欧の食事は、ヒトが進化しヒトの遺伝子パターンが確立された食事(n−6/n−3=1:1)に比べてn−3脂肪酸が欠乏していることを示している(LeafおよびWeber、Am.J.Clin Nutr.、45巻、1048〜1053頁、1987年)。n−6およびn−3脂肪酸は、代謝上および機能上異なり、対立する重要な生理学的機能を有するので、これらのバランスは恒常性、および正常の発達に重要である。しかし、哺乳動物の細胞は酵素のn−3不飽和化酵素を欠くので、ヒトの体ではn−3およびn−6PUFAは相互転換可能ではない。したがって、生物学的な膜におけるn−6とn−3PUFAの間のバランスは、食事による供給をもとに調節される。ヒト対象または動物でn−3脂肪酸の組織濃度を上昇させることは、n−3PUFAを富ませた食品またはn−3PUFAサプリメントの摂取を増加することによる。n−3PUFAの潜在的な治療上の作用を仮定して、国際科学ワーキンググループは、n−6脂肪酸の摂取が減少しn−3脂肪酸の摂取が増加した食事を推薦している(Simopoulou、Food Australia、51巻、332〜333頁、1999年)。米国心臓協会(The American Heart Association)も、最近このような食事の勧告を作成した(AHA Dietary Guidelines:2000年改訂、Circulation、102巻、2284〜2299頁、2000年)。
【0055】
n−3PUFAで食事を補足することは安全な介入であるが、数々の制限がある。例えば、インビボでn−3PUFAの組織濃度の大幅な上昇を実現するには、少なくとも2〜3カ月の期間、高用量のn−3PUFAを長期間摂取することを必要とする。食事から細胞への脂肪酸のバイオアベイラビリティには、脂肪の消化、吸収、輸送、および代謝を含む一連の生理学的過程が関与する。したがって、食事介入の有効性は、個体の生理学的状態および健康状態に依存する。危険な状態にある患者、または消化器障害を有する患者は、脂肪の多い食事またはn−3PUFAサプリメントを消化し、または吸収することができない可能性がある。さらに、カプセル化した魚油サプリメントは、カロリー含有量が高いので、ヒトの生涯を通した日常の使用に適する可能性がない。さらに、沿岸水および湖水由来のある種類の魚を摂取すると、有毒となる量の水銀または有機毒素が含まれることがあり、有効な食事介入には、ある者にとっては耐えることができないことがある、食習慣の厳しい変更が必要となる。前述のことを考慮すると、魚または魚油サプリメントの長期摂取にたよらずに細胞のn−3PUFA含有量を迅速かつ効果的に上昇させ、n−6:n−3比のバランスを取る手段が大いに必要とされている。この必要性は、(その細胞が非トランスジェニック動物よりも実質的に多くのn−3PUFAを含むトランスジェニックの家畜により)代替の食料源を作り出し、またはn−3不飽和化酵素をコードする遺伝子を患者(例えば、ヒト患者)に投与することをもたらす本発明の方法により満たされる。本方法の特定の利点は、n−3PUFAの組織濃度を上昇させるだけではなく、同時に過剰の外因性n−6PUFAのレベルも低下させることでもある。
【0056】
実施例
実施例1:組換えアデノウィルスの構築
Heらが記載した方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95巻、2509〜2514頁、1998年)と同様の以下の手順で、fat−1遺伝子を有する組換えアデノウィルスを構築した。pCE8中のn−3脂肪酸不飽和化酵素cDNA(fat−1遺伝子)は、J.Browse博士(ワシントン州立大学)の好意により提供された(しかし、当業者に入手可能の情報および技術を用いて合成し、またはクローニングすることができる。Spychallaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、94巻、1142〜1147頁、1997年;米国特許第6194167号;図17Aおよび17Bを参照されたい)。pCE8のcDNA挿入断片を、EcoRI/KpnIで二重切断してプラスミドから切り出し、シャトルベクター(shuttler vector)に挿入し、次いでHeら(前掲)の方法にしたがってアデノウィルスのバックボーンとの組換えを行った。2つの第1世代のタイプ5の組換えアデノウィルス、すなわちサイトメガロウィルス(CMV)プロモーターの制御下の緑色蛍光タンパク質(GFP、レポーター遺伝子として)を有するAd.GFPおよびそれぞれ別々のCMVプロモーターの制御下のfat−1遺伝子およびGFP遺伝子の両方を有するAd.GFP.fat−1が生じた。組換えウィルスを、先に記載したように(Hajjarら、Circulation、95巻、423〜429頁、1997年)、293細胞で増殖させることにより高力価保存株として調製した。構築物を、酵素消化およびDNA配列分析により確認した。Hajjarら、Circulation、95巻、4230429頁、1997年、およびHajjarら、Circ.Res.、81巻、145〜153頁、1997年も参照されたい。
【0057】
野生型アデノウィルスの汚染を評価することができ、PCRで検出可能なE1配列が存在せず、かつ非許容のA549細胞系に対する細胞変性効果が存在しないことにより汚染が除外されることを示すことができる。必要または所望であれば、他のプロモーターを有する代替のアデノウィルスベクターまたはアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターを構築することができる。
【0058】
実施例2:心筋細胞のアデノウィルスとの培養および感染
国際心筋細胞単離システム(National Cardiomyocyte Isolation System)(ニュージャージー州、Freehold、Worthington Biochemical Corp.)を用いて、心筋細胞を1日齢のラットから単離した。単離した細胞を、6ウェルプレートに配置し、5%ウシ胎児血清および10%ウマ血清を含むF−10培地で、37℃で組織培養インキュベーター中5%CO、相対湿度98%で培養した。2〜3日培養後、細胞を実験に使用した。2%ウシ胎児血清(FBS)を含む培地に様々な濃度(5×10〜1010pfu)のウィルス粒子を加えてウィルス感染を行った。24時間インキュベーション後、感染培地を、10μMの18:2n−6および20:4n−6を補足した通常の(15%血清)培地で置き換えた。感染約48時間後に細胞を使用することができる(例えば、次いで遺伝子の発現、脂肪酸の組成、生存度、または成長(例えば、増殖または分裂速度)を分析することができる)。
【0059】
実施例3:蛍光顕微鏡およびRNA分析によるfat−1発現の検出
遺伝子発現は、分子生物学の分野で知られている多くの方法により評価することができる。ここでは、上記したように感染させた心筋細胞におけるfat−1の発現を、感染細胞の肉眼検査およびリボヌクレアーゼ(RNase)プロテクションアッセイにより評価した。
【0060】
より詳しく述べると、GFPの共発現により、本発明者らは感染し導入遺伝子を発現する細胞を同定できるようになった。感染約48時間後に、ほとんどすべての細胞(>90%)が明るい蛍光を示し、遺伝子導入の効率が高く、導入遺伝子の発現レベルが高いことを示していた(図1を参照されたい)。fat−1転写物の発現は、また、RPAIII(登録商標)キット(Ambion)を用いてRNaseプロテクションアッセイにより測定した。手短に述べると、RNA単離キット(Qiagen)を用い製造元のプロトコールに従い、全RNAを培養細胞から抽出した。fat−1遺伝子を含むプラスミドであるpCE8を線状化し、転写テンプレートとして使用した。アンチセンスのRNAプローブを33P−UTPを用いてインビトロで転写し、筋細胞から抽出した全RNAとハイブリダイズし、RNaseで消化し、ハイブリダイズされなかったRNAおよびプローブを除去した。保護されたRNA:RNAを条件付きバッファーによる電気泳動により単離し、オートラジオグラフィーにかけた。対照として、β−アクチン遺伝子を標的とするプローブを用いた。fat−1のmRNAは、AD.GFP(やはり対照として使用した)に感染した細胞では検出されなかったが、Ad.GFP.fat−1に感染した細胞では豊富であった(図2)。この結果は、アデノウィルスを介した遺伝子導入は、通常その遺伝子を欠くラット心筋細胞にfat−1遺伝子の非常に高い発現を付与することを示している。
【0061】
実施例4:脂質分析;n−3不飽和化酵素の脂肪酸組成に及ぼす効果
脂質分析により、心筋細胞(またはあらゆる他の細胞型)におけるfat−1遺伝子の発現によりn−6脂肪酸がn−3脂肪酸に転換されるか否か、またそれにより、細胞の脂肪酸組成が変化するか否かを決定することができる。上記したアデノウィルスでの感染の後、細胞をn−6脂肪酸(10μM18:2n−6および10μM20:4n−6)を補足した培地中で2〜3日間インキュベートした。インキュベート後、全細胞脂質の脂肪酸組成を先に記載されている(Kangら、Biochim.Biophys.Acta.、1128巻、267〜274頁、1992年;Weylandtら、Lipids、31巻、977〜982頁、1996年)ように分析した。
【0062】
0.005%ブチル化ヒドロキシトルエン(抗酸化剤として)を含むクロロホルム/メタノール(2:1、v/v)で脂質を抽出した。14%BF3/メタノール試薬を用いて脂肪酸メチルエステルを調製した。脂肪酸メチルエステルは、SupelcowaxSP−10キャピラリーカラムを装着したHP5890シリーズIIガスクロマトグラフにHP−5971質量分析計を接続したものを用いて、GC/MSにより定量する。注入部および検出部は、それぞれ260℃および280℃に維持する。オーブンのプログラムは、最初150℃で2分間維持し、次いで10℃/分で200℃まで上げ4分間保持し、5℃/分で240℃まで再度上げ3分間保持し、最後に10℃/分で270℃まで上げ5分間維持する。キャリアガス流量は終始、一定の0.8mL/分で維持する。50〜550原子質量単位の質量範囲を含めて全イオン検出を行う。様々な分析した脂肪酸の面積を、内部標準の一定濃度の面積と比較することにより、脂肪酸の質量を決定する。
【0063】
Ad.GFPに感染した対照細胞とAd.GFP.fat−1に感染した細胞との間で、脂肪酸のプロファイルは著しく異なっていた(図3)。さらに、Ad.GFPに感染した細胞では、非感染細胞と比較して、それらの脂肪酸プロファイルに変化は表れなかった。fat−1遺伝子(n−3不飽和化酵素)を発現した細胞では、ほとんどすべての種類のn−6脂肪酸が対応するn−3脂肪酸に、すなわち18:2n−6から18:3n−3に、20:2n−6から20:3n−3に、20:3n−6から20:4n−3に、20:4n−6から20:5n−3に、および22:4n−6から22:5n−3に概ね転換された。結果として、fat−1を発現する細胞の脂肪酸組成は、Ad.GFPに感染した対照細胞の脂肪酸組成に対して大幅に変化した(図5)。重要なことは、n−6:n−3の比が、対照細胞における15:1から、n−3脂肪酸不飽和化酵素を発現する細胞における1:1.2に減少したことである。
【0064】
実施例5:fat−1発現に続くエイコサノイドの測定
20:4n−6(AA)および20:5n−3(EPA)は、それぞれ2−シリーズおよび3−シリーズのエイコサノイドの前駆物質であるため、AAおよびEPAの含有量の違いが細胞におけるエイコサノイドの産生の違いをもたらすことがある。したがって、本発明者らは、カルシウムイオノフォアA23187で刺激した後、感染細胞におけるエイコサノイドの産生を、プロスタグランジンE3との交差反応性16%でプロスタグランジンEを特異的に検出するEIAキットを用いることにより測定した。より詳しく述べると、プロスタグランジンEを、酵素免疫測定法キット(Assay Designs社)を用いて製造元のプロトコールに従い測定した(PGE3との交差反応性は16%である)。培養細胞を洗浄し、カルシウムイオノフォアA23187(5μM)を含む無血清培地中でインキュベートした。10分間インキュベート後、順化培地を回収し、エイコサノイドの測定を行った。対照細胞が産生したプロスタグランジンEの量は、fat−1がコードするn−3不飽和化酵素を発現する細胞が産生したプロスタグランジンよりも有意に多かった(図4)。
【0065】
実施例6:培養動物細胞の分析
この実施例および後の2つの実施例では、本発明者らは3つの異なる実験用のモデル:培養細胞(他のタイプの培養細胞はさらに下記で試験する)、成熟ラット、およびトランスジェニックマウスについて述べる。上記したように、培養細胞のモデルを用いて、n−3不飽和化酵素がインビトロの哺乳動物細胞で発現された場合の酵素特性および生化学的効果を特徴づけることができ、成熟ラットモデルを用いて伝達されたfat−1遺伝子がインビボでn−3PUFAの組織濃度を増加させることができる効力を評価することができ、トランスジェニックマウスモデルを用いてインビボで様々な組織または臓器の脂質組成に及ぼす導入遺伝子の長期効果および全身効果を評価することができる。最初の2つのモデルでは、fat−1遺伝子の哺乳動物細胞/組織中への導入を、(組換えアデノウィルスが媒介する)アデノウィルスの遺伝子導入により行う。最後のモデルでは、遺伝子導入を、マウス受精卵中に導入遺伝子をマイクロインジェクションすることにより行う。遺伝子導入の後、導入された遺伝子の発現プロファイルを、mRNAおよび/またはタンパク質分析により特徴づけることができ(例えば、上記実施例3を参照されたい)、主に細胞または組織の脂肪酸組成である生化学的効果はGC−MS技術により決定する(例えば、上記実施例4を参照されたい)。エイコサノイドは酵素免疫測定法により測定する(例えば、実施例5を参照されたい)。fat−1を発現する細胞から得たデータを、同じ(または、同様の)ウィルスに感染しているがfat−1を導入していない対照細胞または組織から得たデータと比べることにより変化を確認する。これらの試験の終点は、細胞の脂肪酸組成およびエイコサノイドプロファイルにおける生化学的変化である。
【0066】
実質的にあらゆる動物細胞(ヒト細胞系を含む)の培養物に、組換えアデノウィルス(Ad.GFP.fat−1、またはAd.GFP)を感染させることができ、その後、導入された遺伝子の発現は、RNAまたはタンパク質の分析により評価することができる。実験手順および関連する方法を、上記の実施例に記載し、図6に略述する。心筋、ニューロン、肝細胞、内皮細胞、およびマクロファージを含む様々な細胞型が、n−3脂肪酸の試験に用いられている。
【0067】
心筋細胞を上記したように(実施例2を参照されたい)単離し、培養することができ、小脳顆粒ニューロンおよび肝細胞などの他の細胞型を、Schousboeらが記載した以下の方法で1〜5日齢のラットから調製することができる(「A Dissection and Tissue Culture Manual of the Nervous System」、Shaharら編集、Alan R.Liss、ニューヨーク州ニューヨーク、203〜206頁、1989年)。乳癌細胞系および白血病細胞系を含むヒト細胞系を、10%ウシ胎児血清(FBS)を補足したMEN培地またはRPMI1640で、37℃/5%COインキュベーター中で培養することができる。
【0068】
ウィルス感染は、FBSを含まない培地または2%FBSを含む培地にウィルス粒子を様々な濃度で(例えば、2×10〜2×1010pfu)加えることにより行うことができる(実施例2も参照されたい)。24時間インキュベーション後、感染培地を通常の(10%FBS)培地に置き換える。感染48時間後に、細胞を遺伝子発現または脂肪酸組成の分析に用いることができる。導入遺伝子の発現は、蛍光タグが導入遺伝子中に含まれる場合は蛍光顕微鏡により(実施例1、および図1を参照されたい。同様に、タグは蛍光抗体により検出される抗原タンパク質であることができる)、または標準のRNAアッセイ(例えば、ノーザンブロット、またはRNaseプロテクションアッセイ)により評価することができる。fat−1遺伝子は、通常は対照細胞中に存在しないので、対照細胞とfat−1を発現する細胞との間のfat−1mRNAの差を明らかにするのは難しくない。
【0069】
n−3不飽和化酵素は、n−3二重結合のn−6脂肪酸への導入を触媒し、それらの前駆物質のn−6脂肪酸より1つ多い二重結合を有するn−3脂肪酸の形成をもたらす(例えば、18:2n−6→18:3n−3、20:4n−6→20:5n−3)。基質を産物に転換する速度(所与の時間中に形成される産物の量)は、不飽和化酵素の発現/活性に直接比例すると考えられている。したがって、動物から得たサンプル(例えば、組織サンプル)から、または培養細胞で以下の方法を用い転換(産物の量)を測定することにより、この酵素の機能活性を決定することができる。
【0070】
基質として放射能標識したn−6脂肪酸を用いた脂肪酸不飽和化アッセイ
アッセイは、Kangらが記載した以下のプロトコールを行うことができる(Biochim.Biophys.Acta.、1128巻、267〜274頁、1992年)。手短に述べると、BSAに結合している様々に標識したn−6脂肪酸(例えば、[14C]18:2n−6、[14C]20:4n−6)を、無血清培地に加え、細胞とともに4〜6時間インキュベートする。その後、細胞および培地を回収する。脂質を抽出しメチル化する(下記を参照されたい)。AgNOを含浸させたシリカゲルTLCプレート上で、不飽和の程度(すなわち、二重結合の数)にしたがって、標識した脂肪酸メチルエステルを単離する。標準と比較して、様々な二重結合を有する脂肪酸を含むバンドを同定することができる。標識した脂肪酸の量をシンチレーション計数により測定し、対照細胞とfat−1遺伝子発現細胞との間でデータを比較する。
【0071】
ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸の分析
脂肪酸の転換は、ガスクロマトグラフィー質量分析を用いて脂肪酸組成を分析することにより、より正確に測定することができる(下記を参照されたい)。この方法を用いれば、放射標識した脂肪酸は必要とされない。n−3不飽和化酵素遺伝子を発現する培養細胞の脂肪酸含有量を、様々な基質の存在下で分析することができる。対照細胞とfat−1遺伝子を発現する細胞との間の脂肪酸のプロファイルを比較することにより、各脂肪酸の転換を測定することができる。
【0072】
細胞のすべての脂質またはリン脂質の脂肪酸組成を、先に記載したように分析することができる(Kangら、Biochim.Biophys.Acta.、1128巻、267〜274頁、1992年;Weylandtら、Lipids、31巻、977〜982頁、1996年)。手順は以下の通りである。
【0073】
脂質の抽出(実施例4も参照されたい)
0.005%ブチル化ヒドロキシトルエン(抗酸化剤として)を含むクロロホルム/メタノール(2:1、v/v)5mlを、洗浄した細胞ペレットに加え、1分間激しくボルテックスにかけ、次いで4℃で一夜放置する。0.88%NaCl 1mlを加え、再び混和する。脂質を含むクロロホルム相を回収する。残渣をもう1度、2mlのクロロホルムで抽出する。クロロホルムをプールし、窒素下で乾燥させ、密封した試験管中−70℃で貯蔵する。
【0074】
薄層クロマトグラフィー(TLC)による脂質の単離
TLCプレートを、100℃で60分間活性化する。TLC展開槽を、使用の少なくとも1時間前に溶媒で平衡にする。石油エーテル/ジエチルエーテル/酢酸(体積で80:20:1)からなる溶媒系を用いて、30〜35分間シリカゲルGプレート上にサンプルを流して、すべてのリン脂質およびトリアシルグリセロールを単離する。個々のリン脂質をTLCにより、以下の溶媒系を用いてシリカゲルHプレート上で単離する。クロロホルム/メタノール/2−プロパノール/0.25%KCl/トリエチルアミン(体積で、30:9:25:6:18)。脂質を含むバンドを、0.01%8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸で可視化し、各脂質分画のゲルを掻き取ったものをメチル化用に回収する。
【0075】
脂肪酸のメチル化
14%BF/メタノール試薬を用いて、脂肪酸メチルエステルを調製する。ヘキサン1または2mlおよびBF/メタノール試薬1mlを、テフロン加工のキャップ付ガラス試験管中の脂質サンプルに加える。窒素を流した後、サンプルを100℃で1時間加熱し、室温に冷却し、メチルエステルをヘキサン相中に抽出し、続けてHO 1mlを加える。サンプルを20〜30分間静置し、上部のヘキサン層を除去し、GC分析用に窒素下で濃縮する。
【0076】
ガスクロマトグラフィー質量分析
メチル化したサンプルを、100〜200μlのヘキサンまたはイソオクタン中で再構成し、その1〜2μlをガスクロマトグラフィーにより分析する。Hewlett−Packard5890Aガスクロマトグラフ(ペンシルバニア州、Avondage、Hewlett−Packard)で、Omegawasカラム(30m;ペンシルバニア州、Bellefonte、Supelco)を用いる。キャリアガスは水素(2.39ml/分)で、分割比1:31で注入する。温度は最初165℃で5分間、次いで2.5℃/分で195℃に上げ、そこから5℃/分で220℃まで上げる。温度を10.5分間保持し、次いで27.5℃/分で165℃まで下げる。ピークは、脂肪酸標準物質(ミネソタ州、Elysian、Nu−Chek−Prep)と比較して同定し、解析したすべてのピークに対する面積のパーセント値を、Parkin−ElmerM1インテグレータを用いて分析する(コネチカット州、Norwood、Parkin−Elmer)。これらの分析条件で、鎖長における炭素C14からC25までのすべての飽和、モノ、ジ、および多価不飽和脂肪酸を単離する。サンプルを加えるときに、外部標準をもとにサンプルサイズを計算する。さらに、Hewlett−Packard質量選択検出器(モデル5972)を用い、イオン化電圧70eV、スキャンレンジ20〜500Daで操作して、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)を実施する。得られたあらゆる新しいピークのマススペクトルを、データベースNBS75K.L(National Bureau of Standards)における標準(ミネソタ州、Elysian、Nu Chek Prep)のマススペクトルと比較する。
【0077】
実施例7:インビボにおけるn−3不飽和化酵素遺伝子導入の評価
ここに記載する実施例により、fat−1遺伝子を動物の組織または臓器(例えば、心臓)に導入できるようになり、そこで酵素の産物は、n−3PUFAの含有量を増加させn−6PUFAの含有量を減少させることにより、脂肪酸のプロファイルを速やかに最適化することができる。心臓を遺伝子導入のための実験の標的として選択するのは、心臓はn−3脂肪酸に関して十分に研究されており、生命維持に必要な臓器であるからである。
【0078】
2カ月間通常の食餌またはn−6PUFAの高い食餌を与えた成熟ラットを無作為化して、fat−1遺伝子を有するアデノウィルス(Ad.GFP.fat−1)またはレポーター遺伝子のGFPを有するアデノウィルス(Ad.GFP、対照として)のいずれかを与えた。アデノウィルスは、カテーテルベースの技術を用いて生存動物の心臓に送達され、これは心臓全体で非常に均一な発現パターンを生成することができる(Hajjarら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95巻、525105256、1998年)。感染(遺伝子導入)2日後、4日後、10日後、30日後、および60日後に、動物を屠殺し、その心臓を回収し、導入遺伝子の発現の測定および脂肪酸組成の分析のために使用する。別のグループのラットは、遺伝子導入を行わずにn−3脂肪酸に富む(n−6/n−3比の低い)食餌を2カ月間与え、参照として用いる。これらの実験(動物に異なる食餌を与え、様々な時間点でサンプルを回収する)は、fat−1遺伝子の導入が食餌の介入(すなわち、n−3FAの補足)により引き起こされるものと同様、またはそれに勝る望ましい生化学的効果(n−6/n−3比、エイコサノイドプロファイル)を生じることができるか否か、脂肪酸組成の著しい変化をどれほど速やかに実現することができるか、また変化がどのくらい長く続くことができるかを決定するためにデザインされている。レポーター(GFP)遺伝子を注入したラットを対照として用いる(本発明者らの予備試験ではGFPの遺伝子導入は脂肪酸の組成に効果がないことを示していた)。実験のフローチャートを図7に示す。
【0079】
動物および食餌
体重をマッチさせたスプレーグ−ドーリー成熟ラットを、無作為に3グループに割り当てる。各グループに、3つの異なる食餌の1つを与える。通常(ベース)食、高n−6食、または高n−3食。これらの食餌は以下のように調製する。
【0080】
ベース食:市販の無脂肪ラット食(ニューヨーク州、Syracuse、Agway Inc.C.G.)に2%(w/w)トウモロコシ油を加える。高n−6食:ベース食にさらなる13%(w/w)トウモロコシ油またはベニバナ油(n−6脂肪酸に富む)を添加して補足し、最終の食餌を全脂肪分15%とする。高n−3食:ベース食に13%(w/w)魚油(30%EPA、20%DHA、65%全n−3PUFA)(オスロ、Pronova Biocare A/S)を補足し、最終の食餌を全脂肪分15%とする。このグループはこの試験の対照グループの役割を果たす。
【0081】
食餌は、毎週小さなバッチで調製し、−20℃で保存し、必要量を毎日解凍する。長鎖多価不飽和脂肪酸の酸化を防ぐために、ビタミンE(脂肪100gあたり100mg)およびブチル化ヒドロキシトルエン(最終濃度0.05%)を加える(BHTは、調製および貯蔵の間中不飽和脂肪酸の自動酸化を防ぐ作用をする)。動物が確実に十分な栄養を得るために、全グループのラットの体重を毎週測定する。食餌開始8週間後、動物に遺伝子導入を受けさせる。
【0082】
アデノウィルス送達プロトコール
アデノウィルスの心臓への送達は、Hajjarらが記載した(前掲)技術と同様のカテーテルベースの技術を用いて行う。手短に述べると、ラットに腹腔内のペントバルビタール(60mg/kg)で麻酔し、人工呼吸器上に置く。左側から第3肋間腔を通して胸に入る。心膜を開き、左室心尖部に7〜0縫合を配置する。大動脈と肺動脈を確認する。アデノウィルス200μL(9〜10×1010pfu/ml)を含む22ゲージのカテーテルを左室(LV)心尖部から大動脈起始部に進める。大動脈および肺動脈をカテーテルの部位の遠位でクランプ固定し、溶液を注入する。心臓が閉鎖系に(同体積に)対して拍動する間10秒間、クランプを維持する。10秒後、大動脈および肺動脈上のクランプを開放し、胸を閉じ、動物から抜管し、ケージに戻す。
【0083】
遺伝子導入の2、4、10、30、および60日後に、動物を屠殺し、ウィルスに感染したこれらの心臓を取り出し、食塩水で灌流または洗浄して血液をすべて除き、組織の部分を脂質分析およびエイコサノイド測定用に−80℃で速やかに凍結する。残りの組織をmRNAレベルおよび/またはn−3不飽和化酵素のタンパク質レベルの測定のために用いる。
【0084】
脳および肝臓などの他の臓器も、血流に入ったアデノウィルスにより高レベルで感染している可能性がある。したがって、他の臓器も、心臓に加えて、導入遺伝子発現および脂質プロファイルの分析用に回収する。
【0085】
培養細胞の意味合いで上記したように、導入遺伝子発現の評価を含む他の方法(ノーザンブロット、RNaseプロテクションアッセイ、またはインサイチュハイブリダイゼーションによる)、脂肪酸組成の分析、エイコサノイドの測定、および統計学的分析を行う。
【0086】
実施例8:トランスジェニック動物
ここに記載する試験は、fat−1遺伝子を全体的に発現するトランスジェニックマウスを産生するために、また、これらの動物の組織および臓器の脂質プロファイルを特徴づけるためにデザインされている。トランスジェニックマウスは、インビボで、ある遺伝子の生理学的意義を評価するための価値あるモデルとなっている。トランスジェニックマウスが入手可能であることから、本発明者らは、ある動物の寿命の様々な段階において、様々な細胞型における導入遺伝子の効果が研究できる。このn−3トランスジェニックマウスのモデルは、成長および細胞生物学における、n−3PUFAおよびそれに由来する化合物の役割を解明する新しい機会を提供する。
【0087】
fat−1遺伝子を全体的に発現することができるトランスジェニック動物を産生するために、fat−1遺伝子およびニワトリβ−アクチンプロモーターを、広範囲の細胞型で高度に活性であり、したがって導入遺伝子が高レベルで広範に発現できるようにするCMVエンハンサー(CAGプロモーター)とともに含む発現ベクターを使用することができる(Niwaら、Gene、108巻、193〜199頁、1991年;Okabeら、FEBS Lett.、407巻、313〜319頁、1997年)(トランスジェニック魚類を、以下に詳しく記載する)。トランスジェニックマウスを産生するために、発現構築物をC57BL/6XC3Hマウスの1細胞胚の前核中にマイクロインジェクションする。マウスを飼育し、トランスジェニックマウス系統を確立する。離乳仔マウスに、通常食または高n−6PUFA食のいずれかを与える。導入遺伝子の発現レベルを評価し、脂肪酸の組成を決定するために、様々な齢の(新生仔、1カ月までの離乳、6カ月までの成体、および12カ月までの老齢、1時点あたり3〜5匹のマウスを用いる)これらの動物から、様々な組織を回収する。血漿および様々な組織におけるエイコサノイドのレベルも測定する。同じ食餌(通常食または高n−6食のいずれか)を与えた野生型マウス(C57BL/6)のグループを、対照として用いる。結果を、同じ食餌を与えた野生型の動物から得た結果と比較する。手順を図8に図示する。
【0088】
導入遺伝子は、Okabeら(前掲)が記載した方法と同様の方法により調製する。手短に述べると、fat−1遺伝子をコードするcDNAをPCRにより5−agaattcggcacgagccaa gtttgaggt−3’(配列番号1)および5’−gcctgaggctttatgcattcaacgcact−3’(配列番号2)のプライマーで、テンプレートとしてpCE−fat1(ワシントン州立大学、J.Browse博士より提供)を用いて増幅する。fat−1のどちら側にもさらなるアミノ酸配列は付加されない。PCR産物をDNAシークエンシングにより確認する。PCRプライマーに含まれるEcoR1およびBgl−IIの部位を用いて、増幅したfat−1cDNAを、ニワトリのβ−アクチンのプロモーターおよびサイトメガロウィルスのエンハンサー、β−アクチンのイントロンおよびウシグロビンのポリアデニレーションシグナル(大阪大学医学部、Miyazaki博士より提供)を含む、pCAGGS発現ベクターに導入する。プロモーターおよびコード配列を有する全挿入断片を、BamHIおよびSal1で切り出しゲルで精製する。
【0089】
精製したBamHIおよびSalIフラグメントを、C57BL/6XC3H受精卵中に注入することにより、トランスジェニックマウス系を産生する。DNAを注入した卵を、偽妊娠したマウス(B6C3F1)に移植してトランスジェニックマウスを産生する。ファウンダートランスジェニックマウスは、尾部DNAのPCR分析およびサザンブロッティング分析により同定し、C57BL/6Jマウスと交配させる。子孫(ヘテロ接合体またはホモ接合体のいずれか)を、導入遺伝子または表現型の発現レベルに応じて用いる。
【0090】
離乳期のトランスジェニックマウスに、通常食または高n−6PUFA食のいずれかを与える(上記を参照されたい)。動物を様々な齢(新生仔、1カ月までの離乳仔、6カ月までの成体、および12カ月までの老齢、1時点あたり3〜5匹のマウスを用いる)で屠殺し、様々な組織を回収して導入遺伝子の発現レベルを評価し、脂肪酸組成を決定する。結果を、同じ食餌を与えた野生型の動物からの結果と比べる。
【0091】
導入遺伝子の発現の評価(ノーザンブロット、RNaseプロテクションアッセイ、またはインサイチュハイブリダイゼーション)、脂肪酸の組成の分析、エイコサノイドの測定、および統計学的分析を含めた他の方法を、上記したように行う。
【0092】
上記に提供した教示に概ね従い、本発明者らは、n−3脂肪酸不飽和化酵素をコードするシー・エレガンスのfat−1遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを産生した。これらのマウスは、n−6脂肪酸からn−3脂肪酸を産生することができ、筋肉およびミルクを含むほとんどすべての臓器および組織で、n−3脂肪酸が豊富になりn−6脂肪酸のレベルが減少することになり、食餌のn−3脂肪酸を提供する必要がない。この業績は、このような動物(すなわち、fat−1核酸配列の産物を効果的に発現し、または過剰発現するあらゆる動物)は独特の研究手段であり、ヒトおよび他の動物の栄養上の必要満たすために用いることができるn−3脂肪酸の新しく理想的な供給源であるという本発明者らの理論を支持している。
【0093】
マウスでシー・エレガンスのn−3脂肪酸不飽和化酵素を非相同に発現させるために、このタンパク質をコードするfat−1遺伝子を、原型から哺乳動物の細胞にコドンの使用頻度を最適化することにより改変し、広範囲の細胞型で高度に活性でありその結果マウスにおける導入遺伝子の高レベルで広範な発現を可能にする、ニワトリのβ−アクチンのプロモーターおよびサイトメガロウィルスのエンハンサーと結合させる(Niwaら、Gene、108巻、193〜199頁、1991年;Okabeら、FEBS Lett.、407巻、313〜319頁、1997年)。
【0094】
トランスジェニックファウンダーマウスおよびその子孫からのF1仔におけるfat−1の発現を、尾部DNAのリアルタイムPCRにより、および尾部脂質の分析により試験した。トランスジェニックマウスは、正常かつ非常に健康に見受けられた。トランスジェニックマウスも、野生型マウスも、オメガ−6脂肪酸(主にリノール酸)に富みオメガ−3脂肪酸が非常に少ない(供給された全脂質の約0.1%)食餌で維持した。このn−3の欠乏した食餌を与えることで、本発明者らは表現型を容易に区別することができた。この食餌レジメンでは、野生型のマウスは生来n−6脂肪酸からn−3脂肪酸を産生することができないのでこの動物の組織にはn−3脂肪酸がほとんどまたはまったくないが、導入遺伝子がインビボで機能しうる場合にはfat−1導入遺伝子マウスはその組織中にかなりの量の(n−6脂肪酸に由来する)n−3脂肪酸を有するはずである。
【0095】
トランスジェニックマウス系の表現型は主に脂質プロファイルに反映されるので、本発明者らは、様々な年齢のトランスジェニックマウスの様々な臓器の脂肪酸組成を、ガスクロマトグラフィー質量分析計により分析した。
【0096】
興味深いことに、トランスジェニック動物の筋肉がこれらの比で最も顕著な変化を有し、この組織の酵素活性が最も高いことを示している。現在まで、トランスジェニックマウス系の4世代(ホモ接合体またはヘテロ接合体のいずれか)を試験したが、これらの組織の脂肪酸プロファイルはn−3脂肪酸が常に高レベルであることを示し、導入遺伝子がインビボで機能的に活性であり遺伝可能であることを指摘した。本発明者らのデータは、fat−1遺伝子を発現するトランスジェニックマウスはn−6脂肪酸からn−3脂肪酸を産生することができ、結果として食餌によるn−3の供給を必要としないでそれらの臓器/組織におけるn−3脂肪酸を豊富にするが、これは野生型の哺乳動物では不可能であることを明確に示している。
【0097】
本発明者らの発見は、n−3不飽和化酵素遺伝子を有する、大型のトランスジェニック動物(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、シカ、ニワトリ、および他の家禽(例えば、ガチョウ、アヒル、キジ、および猟鳥))、および/またはトランスジェニック魚類、または飼育されもしくは川、湖水、小川、もしくは海に住む他の食用動物を産生することにより、n−3PUFAに富む食料品(例えば、肉、ミルク、および卵)を生成するための新規の方策を提供する。
【0098】
動物を産生するのに用いる方法を、下記により詳しく記載する。
【0099】
発現ベクター
n−3脂肪酸不飽和化酵素をコードするcDNAを、シー・エレガンスからクローニングしたfat−1の配列に基づいて(Spychallaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、94巻、1142〜1147頁、1997年)、参照としてマウスのコドン頻度を用いてコドン使用頻度を変更して合成した。合成したfat−1cDNAを、DNAシークエンシングにより確認し、次いでニワトリβ−アクチンのプロモーターおよびサイトメガロウィルスのエンハンサー、β−アクチンイントロンおよびウシグロビンのポリアデニレーションシグナルを含むpCAGGS発現ベクター中にクローニングした。プロモーターおよびコード配列を含む全挿入部分を、SspIおよびSfiIで切り出し、ゲルで精製した。
【0100】
トランスジェニックマウスの作製
精製したSspIおよびSfiフラグメントをC57BL/6XC3H受精卵中に注入することにより、トランスジェニックマウス系を作製した。DNAを注入した卵を、偽妊娠したマウス(B6C3F1)に移植してトランスジェニックマウスを産生した。ファウンダートランスジェニックマウスを、尾部DNAのリアルタイムPCRおよび尾部組織の脂質分析により同定し、C57BL/6Jマウスと交配した。本発明者らは、7匹のトランスジェニックファウンダーを得た。それらのうち3匹を選択して、トランスジェニック系の雄親とした。それぞれ、現在まで3世代である。
【0101】
動物の食餌
トランスジェニックマウスも野生型(C57BL/6J)マウスも、ベニバナ油5%(w/w)を含むAIN−76ベースのげっ歯類食で維持した。ベニバナ油の脂肪酸組成は以下の通りである。10%飽和脂肪酸、14%モノ不飽和脂肪酸、76%n−6多価不飽和リノール酸、および〜0.1%n−3多価不飽和α−リノレン酸。
【0102】
脂質分析
全組織脂肪の脂肪酸組成を、先に記載したように分析した(Kangら、Biochim.Biophys.Acta.、1128巻、267〜274頁、1992年)。脂質を、0.005%ブチル化ヒドロキシトルエン(抗酸化剤として)を含むクロロホルム/メタノール(2:1、v/v)で抽出した。脂肪酸メチルエステルを、14%BF/メタノール試薬を用いて調製した。脂肪酸メチルエステルを、水素炎イオン化検出器を装備した全自動のHP5890システムを用いてガスクロマトグラフィーにより分析した。クロマトグラフィーは、Omegawax250キャピラリーカラム(30m×0.25mmI.D.)を利用した。オーブンプログラムは、最初180℃で5分間維持し、次いで2℃/分で200℃まで上げ、48分間保持する。ピークを脂肪酸標準物質(ミネソタ州、Elysian、Nu−chek−Prep)と比較して同定し、すべての解析したピークの面積のパーセント値をPerkin−Elmer M1インテグレータを用いて分析した。脂肪酸の質量を、分析した様々な脂肪酸の面積を、外部標準を添加したときの定濃度の面積と比較して決定した。
【0103】
【表1】

【0104】
実施例9:ニューロンの細胞死の阻害
組換えアデノウィルス(Ad)の構築
fat−1遺伝子を有する組換えAdを、先に記載したように構築した(Kangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98巻、4050〜4054頁、2001年、上記も参照されたい)。使用したn−3脂肪酸不飽和化酵素のcDNA(fat−1遺伝子)は、上記したものであり、プラスミドpCE8中に供給された。fat−1cDNAを、EcoRI/KpnIの消化でプラスミドから切り出し、pAdTrack−CMVベクター中に挿入した。構築物を引き続き、アデノウィルスのバックボーンベクター(pAdEasy1)で相同に組み換えて、それぞれ別々のCMVプロモーターの制御下で2つのクローン、すなわちレポーターまたはマーカーとしてGFPを発現するAd−GFP、およびfat−1もGFP遺伝子も有するAd−GFP−fat−1を生成した。組換えアデノウィルスベクターのDNAを、PacIで消化した。線状化したベクターのDNAをSuperFect(登録商標)(QIAGEN)と混合し、293細胞に感染させるのに使用した。組換えウィルスを、293細胞で増殖させることにより高力保存価株として調製した。構築物の完全さを酵素消化(すなわち、制限酵素地図作成)およびDNAシークエンシングにより確認した。精製したウィルスを点検し、その配列を再びPCR分析により確認した。
【0105】
組織培養およびAdでの感染
ラットの皮質ニューロンを、標準の技法を用いて調製した。手短に述べると、出生前胎仔17日目(E17)ラットの皮質ニューロンを解離し、ポリリジンでコートしたウェルに、2×10細胞/ウェルで接種した。細胞を、25mMグルタミン酸(ミズーリ州、St.Louis、Sigma Chemical社)、0.5mMグルタミン、1%抗生物質−抗真菌性物質溶液、および2%B27(Life Technologies)を補足したNeurobasal(登録商標)培地(NBM、Life Technologies)で増殖させた。培養物を、5%COおよび相対湿度98%の空気中、37℃に保った。培地を4日ごとに交換した。8〜10日後の培養物に、細胞は、Ad−GFPプラスミド(対照)またはAd−GFP−fat−1のプラスミドのいずれかに形質移入した。培地にウィルス粒子を加えて、ウィルス感染を行った。48時間インキュベート後、細胞を、遺伝子発現、脂肪酸組成、エイコサノイド産生、およびアポトーシス誘発の分析に使用した。
【0106】
RNA分析
RNaseプロテクションアッセイでRPAIII(登録商標)キット(テキサス州、Austin、Ambion)を用いて、mRNA転写物をプローブしてfat−1発現のレベルを測定した。手短に述べると、全RNA単離試薬(TRIzol、GIBco BRL)を用いて製造元のプロトコールに従い、培養細胞から全RNAを抽出した。fat−1遺伝子を含むプラスミドであるpCE8を線状化し、転写テンプレートとして使用した。アンチセンスRNAプローブを、インビトロで[33P]−UTP、T7ポリメラーゼ(Riboprobe System(登録商標)T7キット、Promega)を用いて転写し、ニューロンから抽出した全RNA(15μg)でハイブリダイズし、リボヌクレアーゼで消化してハイブリダイズしなかったRNAおよびプローブを除去した。保護されているRNA−RNAハイブリッドを、変性5%シークエンスゲルに溶解し、オートラジオグラフィーにかけた。β−アクチン遺伝子を標的とするプローブを内部標準として使用した。fat−1mRNAはAd−GFPに感染した細胞(対照)では検出されなかったが、Ad−GFP−fat−1に感染した細胞中では非常に豊富であった。
【0107】
細胞は、蛍光顕微鏡でも試験した。fat−1遺伝子を発現する感染した細胞は、GFPを共発現するので容易に同定可能であった。感染48時間後、ニューロンの30〜40%が感染し、GFPを発現した。この結果は、Adが媒介する遺伝子導入は、通常fat−1遺伝子を欠くラットの皮質ニューロンにfat−1遺伝子の高度な発現を付与することを説明している。
【0108】
脂質分析
全細胞脂質の脂肪酸組成を、Kangらの記載した(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98巻、4050〜4054頁、2001年)ように分析した。脂質を、0.005%ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT、抗酸化剤として)を含むクロロホルム:メタノール(2:1、体積:体積)で抽出した。脂肪酸メチルエステルを、14%(重量/体積)BF3/メタノール試薬を用いて調製した。脂肪酸メチルエステルを、Supelcowax(登録商標)SP−10キャピラリーカラム(ペンシルベニア州、Bellefonte、Supelco)を装着したHP−5890シリーズIIガスクロマトグラフをHP−5971質量分析計に接続したものを用いてGC/MSで定量した。注入部および検出部は、それぞれ260℃および280℃に維持する。オーブンプログラムは、最初150℃で2分間維持し、次いで10℃/分で200℃まで上げ、4分間保持し、再び5℃/分で240℃まで上げ、3分間保持し、10℃/分で最終的に270℃まで上げ、5分間維持する。キャリアガス流量は、終始0.8ml/分の一定に維持する。50〜550原子質量単位からの質量範囲を含めて全イオン検出を行う。脂肪酸の質量は、分析した様々な脂肪酸の面積を内部標準の一定濃度の面積と比べることにより決定する。
【0109】
fat−1の発現は、n−6脂肪酸からn−3脂肪酸への転換をもたらし、したがって、n−6:n−3脂肪酸の比の著しい変化をもたらした。対照細胞から得られた脂肪酸プロファイルは、Ad−GFP−fat−1に感染した細胞のものとは著しく異なっている(図9。図10も参照されたい)。Ad−GFPに感染した細胞は、非感染の細胞と比較した場合に脂肪酸組成に変化を示さなかった。n−3不飽和化酵素を発現する細胞では、ほとんどすべてのタイプのn−6脂肪酸が対応するn−3脂肪酸に、すなわち、18:2n−6から18:3n−3に、20:4n−6から20:5n−3に、22:4n−6から22:5n−3に、および22:5n−6から22:6n−3に転換された。fat−1遺伝子を発現する細胞の脂肪酸組成の変化は、n−6:n−3比を対照細胞における6.4:1からn−3不飽和化酵素を発現する細胞における1.7:1に減少させる結果になった。シー・エレガンスのn−3脂肪酸不飽和化酵素の発現は、形質移入した細胞でDHAレベルの大幅な上昇をもたらした。EPAおよびALAのレベルの上昇が観察され、それに伴いAAおよびLAが低下し、これはPGEの産生の減少はn−6:n−3脂肪酸比の変化、およびDHAが媒介するAAの加水分解の阻害の両方に起因することを示唆している。
【0110】
エイコサノイドの測定
2−シリーズのエイコサノイドは、年齢に随伴する神経変性疾患、および虚血などの急性興奮毒性発作におけるニューロンのアポトーシスに関連することがある(Sanzgiriら、J.Neurobiol.、41巻、221〜229頁、1999年;DrachmanおよびRothstein、Ann.Neurol.、48巻、792〜795頁、2000年;Bezziら、Nature、391巻、281〜285頁、1998年)。アラキドン酸(AA、20:4n−6)およびエイコサペンタエン酸(EPA、20:5n−3)は、それぞれ2−シリーズおよび3−シリーズのエイコサノイドの前駆物質である。遺伝子導入が媒介するAAおよびEPAの含有量の変更が細胞におけるエイコサノイドの産生における相違をもたらすことがあるか否かを決定するために、カルシウムイオノフォアA23187で刺激した後の感染細胞で、AA由来の主要なエイコサノイドの1つであるプロスタグランジンEの産生を測定した。より詳しく述べると、プロスタグランジンEを酵素免疫測定法キット(ミシガン州、Ann Arbor、Cayman Chemical)を用いて製造元のプロトコールに従い測定した。(プロスタグランジンE3との交差反応性は16%である)培養細胞をLHバッファー(1%BSAを含む)で洗浄し、カルシウムイオノフォアA23187(5μM)を含む同バッファーでインキュベートした。10分間インキュベート後、順化バッファーを回収し、エイコサノイド測定にかけた。fat−1発現細胞が産生するプロスタグランジンEの量は、対照細胞が産生した量よりも20%低かった(図11)。
【0111】
アポトーシスの誘導と、細胞増殖および細胞生存度の決定
増殖因子を取り除くことによりアポトーシスを誘導した。ニューロンに形質移入した48時間後、培地を、25mMグルタミン酸(ミズーリ州、St.Louis、Sigma Chemical社)、および0.5mMグルタミンを補足したNeurobasal(登録商標)培地に変更した。増殖因子を取り除いた24時間後に、Vybrant(登録商標)Apoptosis Assay(オレゴン州、Eugene、Molecular Probes)を用いて、細胞毒性を測定した。手短に述べると、細胞を、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、引き続き氷中で20〜30分間、Hoechst33342溶液(1ml/ml)およびPI溶液(1ml/ml)を含む氷冷したPBS中でインキュベートした。インキュベーション時間の終了時に、写真を撮った。
【0112】
細胞増殖および細胞生存度
細胞増殖および細胞生存度を、MTT細胞増殖キット(Roche Diagnostic Corporation)を用いて決定した。MTT標識試薬(100μl)を各ウェルに加えた。4時間インキュベート後、各ウェル中に可溶化溶液1.0mlを加えた。次いで、細胞を37℃で一夜インキュベートし、600nmにおける分光光度計の溶液の吸光度を測定した。
【0113】
fat−1遺伝子の発現は、ラットの皮質ニューロンにおけるアポトーシスに対する強力な保護をもたらした。アポトーシス誘導の24時間後の皮質培養物のHoest33625およびPI染色では、Ad−GFP−fat−1に感染した培養物はAd−GFPに感染した培養物よりもアポトーシスを少なく受けることが示された。MTT分析により、Ad−GFP−fat−1細胞の生存度は、Ad−GFPに感染した細胞の生存度よりも有意に(p<0.05)高いことが指摘された(図12)。これらの結果は、fat−1の発現が、ニューロンのアポトーシスを阻害し、細胞の生存度を促進することができることを示している。シー・エレガンスのn−3脂肪酸不飽和化酵素がニューロン細胞のアポトーシスを阻害する能力により、神経保護におけるn−6:n−3脂肪酸比の重要性が強調される。したがって、fat−1配列、または生物学的に活性なその変種をニューロンに送達する技術は、細胞のn−6:n−3脂肪酸比を速やかにかつ劇的にバランスをとり、外因性のn−3PUFAを補足する必要なしにエイコサノイドのプロファイルを変更(し、それによりニューロン細胞に抗アポトーシス効果を発揮)する手段を提供する。食餌の介入に比べると、この取組みは、同時に組織のn−3PUFA濃度を上昇させ内因性n−6PUFAのレベルを低下させるので、n−6:n−3比のバランスをとる上でより効果的である。この方法は新規であり、ニューロン細胞における脂肪酸組成を変更する効果的な取組みであり、独立型の遺伝子治療として、または補助療法もしくは化学的予防手順として(例えば、卒中患者に)応用することができる。
【0114】
データ分析、統計学的分析
細胞生存度のデータ(MTT)、ならびに脂肪酸組成およびエイコサノイドレベルを、Studentのt検定を用いて比較した。分析には1グループあたり6ウェルが含まれ(脂質分析を除く。1グループあたり4ウェル)、各実験は3回繰り返した。有意レベルは、p<0.05に設定した。
【0115】
実施例10:ヒト内皮細胞におけるfat−1発現および炎症の阻害
n−6からn−3PUFAの転換は、初期のヒト血管内皮細胞に遺伝的に与えられ得るか否かを決定するために、またサイトカイン刺激後の内皮の活性化に対する潜在的な保護作用を研究するために、CMVプロモーターの制御下でGFP発現カセットと一続きになってfat−1導入遺伝子を含む(Ad.fat−1)第1世代(タイプ5)の組換えアデノウィルスベクター(Ad)を構築した。GFP/β−galアデノウィルスが、対照ベクターとして働いた(Ad.GFP/β−gal)。単分子層の初期のヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、Ad.fat−1または対照のAdで36時間感染させ、10mMアラキドン酸に24時間曝露し、ガスクロマトグラフィーによる脂質分析、免疫測定法による表面接着分子分析、および単球細胞系であるTHP−1との内皮の相互作用を研究するためのビデオ顕微鏡に、層流条件下で行った。
【0116】
fat−1の発現により、ヒト内皮細胞の脂質組成は劇的に変化し、n−6のn−3PUFAに対する全体的な比は8.5から1.4に変化した。さらに、サイトカインに曝露した後(TNF−α、5μ/mlを4時間適用)、fat−1発現は接着分子および炎症のマーカーの表面発現を有意に(E−セレクチン、ICAM−1、およびVCAM−1をそれぞれ42%、43%、および57%(p<0.001))減少させた。
【0117】
本発明者らは次に、接着分子プロファイルの変化は、アテローム硬化性病変部位に見られる最も優勢な白血球のタイプである単球と内皮の相互作用を変化させるのに十分であるか否かを問う。層流下、規定の約2ダイン/cmのせん断応力下で、fat−1に感染したHUVECは、対照ベクターに感染したHUVECに比べて、約50%弱い接着を支え、THP−1細胞との回転相互作用にはほとんど効果がなかった。したがって、シー・エレガンスの不飽和化酵素であるfat−1の非相同の発現は、ヒト内皮細胞がn−6をn−3PUFAに転換する能力を付与する。この効果は、擬似的な生理学的流動条件下で、内皮の炎症反応のサイトカインの誘導および単球細胞系であるTHP−1の堅い接着を著しく抑制した。したがって、fat−1の発現は、アテローム性動脈硬化などの炎症性血管疾患を処置するための、可能性のある治療上の取組みを表わす。
【0118】
実施例11:抗不整脈薬としてのn−3不飽和化酵素
fat−1発現が抗不整脈効果をもたらし得るか否かを決定するために、n−3不飽和化酵素を発現する筋細胞の、催不整脈性物質により引き起こされる不整脈に対する感受性を試験した。カバーガラス上で増殖させた自発拍動可能な新生仔ラット心筋細胞を、Ad.GFP.fat−1またはAd.GFPに感染させた。感染2日後、細胞を灌流系に移し、カルシウムを高濃度(5〜10mM)含む無血清培地で還流した。この培地は、催不整脈性である。灌流プロセスの間中、筋細胞の収縮を位相差顕微鏡およびビデオモニターエッジ検出器を用いてモニターした。高[Ca2+](7.5mM)誘発後、Ad.GFPに感染した対照細胞は、速やかに拍動速度の増加を示した後痙攣性の収縮または細動を示したが、Ad.GFP.fat−1に感染した細胞は規則正しい拍動を続けることができた。したがって、n−3不飽和化酵素を発現する筋細胞は、催不整脈性の刺激に対し、あるとしてもほとんど感受性を示さない(図13)。
【0119】
実施例12:fat−1発現および腫瘍の増殖の阻害
インビボの腫瘍増殖に対する遺伝子導入の効果を試験するために、ヒト乳癌異種移植片を有する2匹のヌードマウス(MDA−MB−231)でパイロット実験を行った。1匹のマウスに、1日おきに2回ずつ、50mlのAd.GFP.fat−1(1012粒子/ml)を腫瘍内注射した。他方には、対照ベクター(Ad.GFP)を注射した。腫瘍の増殖速度を、4週間モニターした。Ad.GFP.fat−1で処置した腫瘍の増殖速度は、対照の腫瘍の増殖速度より遅い様子であった(図14)。
【0120】
実施例13:脂肪酸組成および培養物中のヒト乳癌細胞の増殖に対するfat−1発現の効果
組換えアデノウィルス(Ad)の構築
fat−1cDNAを有する組換えAdを、先に記載したように構築した(Kangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98巻、4050〜4054頁、2001年)。手短に述べると、pCE8中のfat−1cDNA(上記)を、プラスミドからEcoRI/KpnIで二重切断して切り出し、シャトルベクター中に挿入し、次いでHeらの方法にしたがってアデノウィルスのバックボーンとの相同的組換えを行った(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95巻、2509〜2514頁、1998年)。2つの、第1世代のタイプ5組換えアデノウィルス、すなわちCMVプロモーターの制御下でレポーター遺伝子としてGFPを有するAd.GFP、ならびにfat−1遺伝子およびGFP遺伝子の両方をそれぞれ別々のCMVプロモーターの制御下で有するAd.GFP.fat−1を産生した。組換えウィルスは、先に記載したように、293細胞における増殖により高力保存価株として調製した(Kangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98巻、4050〜4054頁、2001年)。構築物の完全さを、酵素消化により、およびDNAシークエンシングにより確認した。
【0121】
細胞培養およびAd.での感染
MCF−7細胞は、日常的に、5%ウシ胎児血清(FBS)および抗生物質溶液(ペニシリン50U/ml、ストレプトマイシン50μg/ml)を補足したDMEMおよびHamのF12培地の1:1(v/v)の混合物中で、CO5%および相対湿度98%の組織培養インキュベーターで37℃で維持した。無血清培地にウィルス粒子を加えることにより(3〜5×10粒子/ml)細胞が約70%のコンフルエンスまで増殖したら、実験用に細胞にAdを感染させた。最初に、高い遺伝子発現と細胞毒性を最小にするためのウィルスの低い力価の最適のバランスを達成するために、Ad.GFPを用いて、最適のウィルス濃度を決定した。24時間インキュベート後、感染培地を、10μMの18:2n6および20:4n6を補足した通常の培地で置き換えた。感染48時間後、遺伝子発現、脂肪酸組成、エイコサノイド産生、ならびに細胞の増殖およびアポトーシスの分析に細胞を使用した。
【0122】
RNA分析
fat−1転写物は、RPAIII(登録商標)キット(テキサス州、Austin、Ambion)を用いてリボヌクレアーゼプロテクションアッセイにより試験した。手短に述べると、全RNAを、RNA単離キット(Qiagen)を使用し、製造元のプロトコールに従い、培養細胞から抽出した。fat−1を含むプラスミドであるpCE8を線状化し、転写テンプレートとして用いた。アンチセンスRNAプローブを、33P−UTPおよびT7ポリメラーゼ(Riboprobe(登録商標)システムT7キット、Promega)を用いてインビトロで転写し、癌細胞から抽出した全RNAとハイブリダイズし、RNaseで消化してハイブリダイズしなかったRNAおよびプローブを除去した。保護されたRNA:RNAを変性シーケンスゲル中で単離し、オートラジオグラフィーにかけた。GAPDH遺伝子を標的にするプローブを内部標準として用いた。
【0123】
感染し、導入遺伝子を発現する細胞は、GFP(鮮やかな蛍光を示す)を共発現するので、蛍光顕微鏡により容易に同定することができる。感染3日後、約60〜70%の細胞が感染し、導入遺伝子を発現することが観察された。リボヌクレアーゼプロテクションアッセイを用いたmRNAの分析により、Ad.GFP.fat−1に感染した細胞中にfat−1mRNAが非常に豊富であることが示されたが、Ad.GFPに感染した細胞(対照)では検出されなかった。この結果より、Adが媒介する遺伝子導入は、通常fat−1遺伝子を欠くMCF−7細胞におけるfat−1遺伝子の高度な発現を付与することができることが指摘されている。
【0124】
脂質分析
ヒトMCF−7細胞の脂肪酸組成を変更する際の遺伝子導入の有効性を試験するために、Adに感染させn−6脂肪酸で2〜3日間インキュベートした後、全細胞脂質を抽出しガスクロマトグラフにより分析した。全細胞脂質の脂肪酸組成を、記載された(Kangら、前掲)ように分析した。脂質を、0.005%ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT、抗酸化剤として)を含むクロロホルム/メタノール(2:1、体積/体積)で抽出した。脂肪酸メチルエステルを、14%(重量/体積)BF3/メタノール試薬を用いて調製した。脂肪酸メチルエステルを、SupelcowaxSP−10キャピラリーカラム(ペンシルベニア州、Bellefonte、Supelco)を装着したHP−5890シリーズIIガスクロマトグラフをHP−5971質量分析計に接続したものを用いてGC/MSで定量した。注入部および検出部は、それぞれ260℃および280℃に維持する。オーブンプログラムは、最初150℃で2分間維持し、次いで10℃/分で200℃まで上げ、4分間保持し、再び5℃/分で240℃まで上げ、3分間保持し、10℃/分で最終的に270℃まで上げ、5分間維持する。キャリアガス流量は、終始0.8ml/分の一定に維持する。50〜550原子質量単位からの質量範囲を含めて全イオンのモニタリングを行う。脂肪酸の質量は、分析した様々な脂肪酸の面積を内部標準の定濃度の面積と比較することにより決定する。
【0125】
MCF−7細胞におけるfat−1cDNAの発現は、n−6脂肪酸からn−3脂肪酸への転換をもたらし、n−6/n−3脂肪酸の比に著しい変化をもたらした。脂肪酸プロファイルは、Ad.GFPのみに感染した対照細胞とAd.GFP.fat−1に感染した細胞との間では著しく異なる(図15)。Ad.GFPに感染した細胞は、非感染の細胞と比較した場合にそれらの脂肪酸プロファイルで変化がなかった。fat−1cDNA(n−3脂肪酸不飽和化酵素)を発現する細胞では、様々なn−6脂肪酸が対応するn−3脂肪酸に、例えば、18:2n6から18:3n3に、20:4n6から20:5n3に、および22:4n6から22:5n3に概ね転換された。結果として、fat−1遺伝子を発現する細胞の脂肪酸組成は、Ad.GFPに感染した対照細胞の脂肪酸組成と比べると大幅に変化し(図15)、n−6/n−3比を対照細胞における12から、n−3脂肪酸不飽和化酵素を発現する対照細胞における0.8に大きく低下した。
【0126】
エイコサノイドの測定
20:4n6(アラキドン酸)に由来する主要なエイコサノイドの1つであるプロスタグランジンE2(PGE2)は癌の発症に関連があることが、以前に示されている(RoseおよびConnolly、Pharmacol.ther.、83巻、217〜244頁、1999年;cave、Breast Cancer Res.Treat.、46巻、239〜246頁、1997年)。遺伝子導入が誘導する、アラキドン酸およびエイコサペンタエン酸の含有量の変更が細胞におけるエイコサノイドの産生を変えることができるか否かを決定するために、本発明者らはカルシウムイオノフォアA23187で刺激した後の感染細胞におけるPEG2の産生を、AAに由来するプロスタグランジンE2を、EPAからのプロスタグランジンE3と16%の交差反応性で特異的に検出する酵素免疫測定法キットを用いて測定した。より詳しくは、プロスタグランジンEを酵素免疫アッセイキット(Assay Designs社)を用いて、製造元のプロトコールにしたがって測定した。(PGEとの交差反応性は16%である。)培養細胞を、1%BSAを含むPBSで洗浄し、カルシウムイオノフォアA23187(5μM)を含む無血清培地でインキュベートした。10分間インキュベート後、順化培地を回収し、エイコサノイド測定にかけた。fat−1細胞が産生するプロスタグランジンEの量は、対照細胞が産生した量よりも有意に低かった(図16)。
【0127】
細胞の増殖およびアポトーシスの分析
fat−1遺伝子の発現のMCF−7細胞の増殖に対する効果を決定するために、遺伝子導入後の細胞増殖およびアポトーシスを評価した。日常的に、細胞の形態を顕微鏡により観察し(死細胞は解離し、丸型で小型に見える)、生存細胞を血球計数器を用いて計数することにより、各ウェルにおける細胞の総数を決定した。さらに、細胞の増殖を、MTT Proliferation KitI(Roche Diagnostics Corporataion)を用いて評価した。アポトーシス細胞は、Vybrant(登録商標)Apoptosis Kit #5(Molecular Probes)で、製造元のプロトコールに従い染色して決定した。
【0128】
形態学的変化(丸形の小型または断片化)および核染色(鮮青色)により示されるように、fat−1遺伝子を発現する細胞の多数が、アポトーシスを起こしていた。アポトーシス細胞計数を統計学的に分析すると、Ad.GFP.fat−1に感染した細胞の30〜50%がアポトーシスであったが、対照細胞(Ad.GFPに感染した)では10%にすぎない死細胞しか見受けられなかった。MTT分析では、Ad.GFP.fat−1に感染した細胞の増殖活性は、Ad.GFPに感染した細胞の増殖活性よりも大幅に低いことが指摘された。したがって、Ad.GFP.fat−1に感染した細胞における生存細胞の総数は、対照細胞における生存細胞よりも約30%少なかった。これらの結果は、fat−1発現物が、抗癌剤として作用することができるという提案と一致する。
【0129】
データ分析、統計学的分析
データは、平均±SEで示した。StudentのT検定を用いて、2つの値の間の差異を評価した。有意レベルは、結果のp<0.05に設定した。
【0130】
実施例14:トランスジェニック魚類の製造
n−3脂肪酸不飽和化酵素をコードする遺伝子(野生型遺伝子、最適化した配列、または他の生物学的に活性なフラグメントもしくはその変種のいずれか)を、変更したn−6脂肪酸含有物を有するトランスジェニック魚類を産生するために用いることができる。不飽和化酵素遺伝子およびプロモーターを含む構築物を、Jesuthasanら(Dev.Biol.、242巻、88〜95.3頁、2002年)により記載されたゼブラフィッシュで用いられる方法など(精子核移植により)、従来の遺伝子導入方法により魚に導入することができる。Jesuthasan法は、以下のように行った。
【0131】
精子核調製
氷水に浸漬して屠殺した成年オスゼブラフィッシュ(Danio rerio)から精巣を切開した。精巣は、うきぶくろの片側に位置し、細いピンセットで取り出す。脱膜化した精子核を、KrollおよびAmayaが実質的に記載したように(Development、122巻、3173〜3183頁、1996年)、いくつか修正して(例えば、プロテアーゼ阻害物質の省略)調製する。脱膜化に、リゾレシチン(Sigma L4129)またはジギチオン(digition)(Sigma D5628)のいずれかを用いた。洗浄後の濃度を確認するために、核をHoechstまたはSyto11(Molecular Probes)でラベルし、ヘマサイトメーター(hemacytometer)で計数した。1nlあたり核約100個の濃度のアリコートの10μlを、液体窒素中に速やかに凍結し、−80℃で貯蔵した。核を凍結−溶解により脱膜化する代替の手順も用いることができた。核を、5%BSAを加えた核単離培地9mlで2回洗浄し、1回は1mlで洗浄し、最終的に250μlに再懸濁し、その後等分し、凍結保護せずに速やかに凍結する。
【0132】
導入遺伝子混合物
プラスミドDNAを適切な制限酵素で線状化し、Qiaquickカラム(Qiagen)で精製し、滅菌水中に希釈して70ng/μlの濃度にした。精子のアリコートを氷上で溶解し、次いで切断した白チップ付きピペットで吸い上げ排出することにより混合した。精子懸濁液の5μlを1.5mlEppendorf試験管に移し、1μlの線状化したDNAを加えた。多量のDNAでの実験では、ストックの濃度を増加させることができるが、添加する体積は1μlに保たれる。この組合せをピペッティングにより混合し、室温で1、5、または20分間保ち、次いで精子希釈用バッファー(SDB)で希釈した。ショ糖250mM、KCl 75mM、スペルミジン三塩酸塩0.5mM、精子の四塩酸塩0.2mM、pH7.4またはMOHバッファー溶液(KPO 10mM、pH7.2、グルコン酸カリウム125mM、NaCl 5mM、MgCl 0.5mM、ショ糖250mM、スペルミジン三塩酸塩0.25mM、スペルミン四塩酸塩0.125mM)で最終体積を500μlにする。希釈した混合物は、使用まで氷中に保つ。
【0133】
精子核の注入
メスゼブラフィッシュをトリカイン(Sigma A5040)で麻酔し、ペトリ皿上の清浄な1枚のパラフィルム上に置き、優しく圧搾して成熟卵を放出させる。卵をマウンド状に保ち、皿は脱水を防ぐために直ちに蓋をした。パスツールピペットを用いて卵(1回に約50個)を注入チャンバーに移すが、注入チャンバーは、1.2%アガロースのHanks溶液に形成されるv型の槽からなり、活性化を遅らせるために0.5%BSAを含むHanksの食塩水で満たされている。槽は卵がちょうど浸漬するように満たされ、つまり卵の上端とメニスカスの下端との間の距離は1mm未満である。これにより卵は食塩水の帳面張力により戻されるので、卵から注入針を効果的に引き抜くのが確実になる。
【0134】
注入針は、薄い壁のキャピラリーをピペットプラー上で引いて製造し、先端をピンセットで割って外径を10〜15μmにする(精子核の直径は約5μmである)。針をホルダーに装着し、メカニカルマニピュレーターに接続し、先端からマイクロインジェクターを用いて充填する。精子核は暗視野照明法で目に見えるので、充填は解剖顕微鏡でモニターした。バックフィリングとして、20μlのピペットを用いて黄色チップに接続したタイゴン製の管材料内に混合物を引いた。次いで、管材料をキャピラリーに接続し、精子懸濁液をキャピラリー中に押し出し、200μlピペットを用いてチップ中に押し込んだ。
【0135】
注入は、3〜5psiの圧力および100分の時間を用いてインジェクターで行った。精子核を、卵の動物極領域中に注入した。卵は、明視野照明法のもとで目に見える卵門から約50〜100μm貫通させ、次いで注入前にチップが卵門付近にあるように回転させた。1バッチの卵が注入された後、それをパスツールピペットでE3(NaCl 5mM、KCl 0.17mM、CaCl 0.33mM、MgSO 0.33mM)を20ml含む9cmペトリ皿に移し、次いで28℃のインキュベーター中に置いた。いくつかの受精卵は成体に成長し、野生型の魚と交配させると、n−3脂肪酸不飽和化酵素を発現する子孫を生じた。
【0136】
遺伝子型の決定および表現型の決定は、それぞれRT−PCRおよびガスクロマトグラフィー(脂質分析)で、トランスジェニックマウスの分析で記載したように行った。
【0137】
野生型およびfat−1遺伝子を発現するトランスジェニックのゼブラフィッシュの筋肉組織から抽出し、実施例8に記載したように変更した全脂質の特異的な多価不飽和脂肪酸プロファイルを示す部分的なガスクロマトグラフのパターンを図20に示す。トランスジェニック魚類の組織におけるオメガ−3脂肪酸のレベルは、野生型の魚に比べると大幅に高く、オメガ−6脂肪酸のレベルは明らかに低かった。トランスジェニック魚類を製造するために用いたDNA構築物は、実施例8に記載したものと同じであった。
【0138】
外来の遺伝子をゼブラフィッシュの生殖細胞系に導入するための、他の方法を用いることができる。これには、プラスミドDNAの初期胚の中への注入、トランスポゾンが媒介する遺伝子挿入、またはレトロウィルスが媒介する遺伝子導入が含まれる(Udvadia AJおよびLinneyE.、Windows into development:historic,current,and future perspectives on transgenic zebrafish、Developmental Biology、2003年、256巻、1〜17頁;Detrich H.I.、Westerfield,M.、Zon,L.I.(編集)、The zebrafish.「Methods in Cell Biology」、1999年、59および60巻)。
【0139】
ここに記載した方法は、サケ(例えば、タイセイヨウサケ(Atlantic salmon)、Salmo salar)を含む他の硬骨魚類に応用できる。
【0140】
当業者が調べることのできるさらなる情報は:SimopoulosおよびCleland、World Rev.Nutr.Diet(Basel,Karger)、92巻、2003年;Simopoulosら(編集)、World.Rev.Nutr.Diet(Basel,Karger)、83巻、1998年;Connor、Am.J.Clin.Nutr.、71巻、171S〜175S頁、2000年;Simopoulos、Am.J.Clin.Nutr.、70巻、560S〜569S頁、1999年;Salemら、Lipids、31巻、S1〜S326、1996年;LeafおよびWeber、Am.J.Clin.Nutr.、45巻、1048〜1053頁、1987年)。
【0141】
実施例15:トランスジェニック豚の製造
本発明者らは、トランスジェニックマウスの製造で上記したのと同様の方法を用いて、トランスジェニック豚を製造した。トランスジェニック豚は、実施例8に記載したように変更されたfat−1遺伝子を発現した。野生型およびトランスジェニック豚の尾部組織から抽出した全脂質の特異的な多価不飽和脂肪酸プロファイルを示す部分的なガスクロマトグラフの痕跡を、図21に示す。トランスジェニック豚の組織におけるオメガ−3脂肪酸のレベルは、野生型の豚と比べると大幅に高く、オメガ−6脂肪酸のレベルは明らかに低かった。トランスジェニック豚を製造するために用いたDNA構築物は、実施例8に記載したものと同じであった。
【0142】
本発明の多くの実施形態を記載した。それでも、本発明の精神および範囲から逸脱することなしに、様々な変更形態が可能であることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】遺伝子導入効率を示す4枚の顕微鏡写真を集めた図である。
【図2】Ad.GFPに感染した心筋細胞(対照)、およびAd.GFP.fat−1に感染した心筋細胞におけるfat−1転写物レベルのリボヌクレアーゼ(RNase)プロテクションアッセイのオートラジオグラムを表す図である。
【図3】Ad.GFPに感染した対照の心筋細胞、およびAd.GFP.fat−1に感染した心筋細胞から抽出した全細胞脂質の脂肪酸プロファイルを示す、1対の部分的なガスクロマトグラフのパターンを表す図である。
【図4】対照の心筋細胞およびfat−1遺伝子を発現する心筋細胞におけるプロスタグランジンEレベル(酵素免疫法で測定した)を示す棒グラフである。
【図5】対照の心筋細胞およびシー・エレガンスのfat−1cDNAを発現するトランスジェニックの心筋細胞からの全細胞脂質の多価不飽和脂肪酸組成を示す表である。
【図6】実験のプロトコールのフローチャートを示す図である。
【図7】実験のプロトコールのフローチャートを示す図である。
【図8】実験のプロトコールのフローチャートを示す図である。
【図9】対照のニューロンおよびAd−GFP−fat−1に感染したニューロンから抽出した全細胞脂質の脂肪酸プロファイルを示す、1対の部分的なガスクロマトグラフのパターンである。
【図10】ラットの皮質ニューロン(対照)およびシー・エレガンスのfat−1cDNA(fat−1)を発現するトランスジェニック細胞からの全細胞脂質のPUFA組成を比較する表である。
【図11】対照のニューロンおよびfat−1遺伝子を発現するニューロンにおけるプロスタグランジンEレベルの酵素免疫法の結果を示す棒グラフである。
【図12】対照およびfat−1を発現する培養物における細胞生存度のMTTアッセイの結果を表す棒グラフである。
【図13】Ad.GFPに感染した筋細胞およびAd.GFP.fat−1に感染した筋細胞の、細胞外カルシウム7.5mMに対する特異的な反応を示す1対の軌跡である。
【図14】経時的(ウィルス注入後0〜4週間)の腫瘍体積、すなわち遺伝子導入の腫瘍の増殖に対する効果を示す折れ線グラフである。
【図15】対照のMCF−7細胞、およびシー・エレガンスのfat−1cDNAを発現するトランスジェニックのMCF−7細胞からの全細胞脂質のPUFA組成を示す表である。
【図16】対照のMCF−7細胞およびfat−1遺伝子を発現するMCF−7細胞におけるプロスタグランジンEレベルの酵素免疫測定法の結果を表す棒グラフである。
【図17A】シー・エレガンスのfat−1cDNAのヌクレオチド配列、およびFat−1ポリペプチドの推定アミノ酸配列を表す。
【図17B】シー・エレガンスのfat−1cDNAのヌクレオチド配列、およびFat−1ポリペプチドの推定アミノ酸配列を表す。
【図18】最適化したfat−1核酸配列を表す。
【図19】野生型マウスの骨格筋(WT、上パネル)およびfat−1トランスジェニックマウス(TG、下パネル)の骨格筋から抽出した全脂質の特異的な多価不飽和脂肪酸プロファイルを示す、1対の部分的なガスクロマトグラフのパターンである。
【図20】実施例8に記載したように変更した、野生型、およびfat−1遺伝子を発現するトランスジェニックのゼブラフィッシュの筋肉組織から抽出した全脂質の、特異的な多価不飽和脂肪酸プロファイルを示す1対の部分的なガスクロマトグラフのパターンを示す図である。
【図21】実施例8に記載したように変更した、野生型、およびfat−1遺伝子を発現するトランスジェニック豚の尾部組織から抽出した全脂質の、特異的な多価不飽和脂肪酸プロファイルを示す1対の部分的ガスクロマトグラフパターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n−6脂肪酸を対応するn−3脂肪酸に不飽和化する酵素をコードする配列を含み、前記配列が少なくとも1つの最適化されたコドンを含む、単離された核酸分子。
【請求項2】
前記配列がシノラブディス・エレガンスのfat−1遺伝子である、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項3】
前記配列が少なくとも5個から150個までの最適化されたコドンを含む、請求項2に記載の単離された核酸分子。
【請求項4】
前記コドンの5〜10、10〜15、15〜20、20〜25、25〜30、30〜35、35〜40、40〜45、45〜50、50〜55、55〜60、60〜65、65〜70、70〜75、75〜80、80〜85、85〜90、90〜95、95〜100、100〜105、105〜110、110〜115、115〜120、120〜125、125〜130、130〜135、135〜140、140〜145、または145〜150個が最適化されている、請求項2に記載の単離された核酸分子。
【請求項5】
6、9、18、20、22、24、28〜30、33〜36、47、49、52、54、58、60、61、64、67、69〜71、73、77、79、81、86、89、92、94〜95、100、101、105、106、112、115、118、124、127、128、131、146、151、154、161、163、164、169、178、187、188、195、197、200、202、206、210、214、217、221、223、225、227、228、232、234、241、245、255、271、280〜282、284、285、301、303、310、312、327、362、または370の位置に最適化されたコドンを含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項6】
図18に示した核酸の配列を含む、請求項2に記載の単離された核酸分子。
【請求項7】
治療用のポリペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項8】
調節要素またはマーカーをコードする核酸配列をさらに含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項9】
前記調節要素が組織に特異的なプロモーターである、請求項8に記載の単離された核酸分子。
【請求項10】
請求項1に記載の核酸配列を含む発現ベクター。
【請求項11】
前記ベクターがウィルスのベクターである、請求項10に記載の発現ベクター。
【請求項12】
前記ウィルスのベクターがレトロウィルスまたはアデノウィルスのベクターである、請求項11に記載の発現ベクター。
【請求項13】
前記ベクターがプラスミドである、請求項10に記載の発現ベクター。
【請求項14】
請求項1に記載の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項15】
請求項10に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
請求項10に記載の発現ベクターおよび生理的に許容できる希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の核酸分子を含む、ヒト以外のトランスジェニック動物。
【請求項18】
前記動物が哺乳動物、鳥類、または魚類である、請求項17に記載のヒト以外のトランスジェニック動物。
【請求項19】
前記哺乳動物がウシ、ブタ、またはヒツジであり、前記鳥類がニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、または猟鳥であり、前記魚類がサケ、マス、またはマグロである、請求項18に記載のヒト以外のトランスジェニック動物。
【請求項20】
請求項17に記載のヒト以外のトランスジェニック動物、またはその組織もしくは加工された部分を含む、食品または栄養補助食品。
【請求項21】
対象に請求項20に記載の食品または栄養補助食品を投与することを含む、対象の食事におけるn−3脂肪酸の含有量を改善する方法。
【請求項22】
請求項1に記載の核酸分子の治療上有効な量を患者に投与することを含む、癌と診断された患者を処置する方法。
【請求項23】
前記癌が、乳癌、大腸癌、前立腺癌、肝臓癌、子宮頸癌、肺癌、脳腫瘍、皮膚癌、胃癌、頭頸部癌、膵臓癌、血液癌、または卵巣癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1に記載の核酸分子の治療上有効な量を対象に投与することを含む、対象における神経細胞死を阻害する方法。
【請求項25】
前記対象が神経変性疾患を有すると診断された、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病、またはハンチントン病である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項1に記載の核酸分子を対象に投与することを含む、n−3多価不飽和脂肪酸(PUFA)の不足またはn−3:n−6PUFAの比の不均衡に関連する状態を有する、または発症する可能性のある対象を処置する方法。
【請求項28】
前記状態が、不整脈、心臓血管疾患、癌、炎症性疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症などの炎症性血管疾患、または再狭窄などの血管の状態)、自己免疫疾患、網膜または脳の形成異常または切迫形成異常、糖尿病、肥満、皮膚障害、腎臓疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、または慢性閉塞性肺疾患である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項1に記載の核酸分子を、対象または移植体のいずれかに投与することを含む、生物学的臓器、組織、または細胞を含む移植体を受け、または受ける予定である対象を処置する方法。
【請求項30】
n−6脂肪酸を対応するn−3脂肪酸に不飽和化する酵素をコードする核酸配列を含むトランスジェニック魚類。
【請求項31】
前記魚類が、タラ目タラ科のタラまたは任意の魚類、オヒョウ、ニシン目のニシンまたは任意の魚類、サバ科のサバまたは任意の魚類、マスを含めたサケ科のサケまたは任意の魚類、スズキ科のスズキまたは任意の魚類、ニシン科のシャッドまたは任意の魚類、ガンギエイ科のガンギエイまたは任意の魚類、キュウリウオ科のスメルトまたは任意の魚類、ササウシノシタ科のシタビラメまたは任意の魚類、およびサバ科のマグロまたは任意の魚類である、請求項30に記載のトランスジェニック魚類。
【請求項32】
前記核酸配列がシー・エレガンスのfat−1遺伝子を含む、請求項30に記載のトランスジェニック魚類。
【請求項33】
前記シー・エレガンスのfat−1遺伝子が少なくとも1つの最適化されたコドンを含む、請求項32に記載のトランスジェニック魚類。
【請求項34】
前記配列が少なくとも5個から150個までの最適化されたコドンを含む、請求項33に記載のトランスジェニック魚類。
【請求項35】
前記コドンの5〜10、10〜15、15〜20、20〜25、25〜30、30〜35、35〜40、40〜45、45〜50、50〜55、55〜60、60〜65、65〜70、70〜75、75〜80、80〜85、85〜90、90〜95、95〜100、100〜105、105〜110、110〜115、115〜120、120〜125、125〜130、130〜135、135〜140、140〜145、または145〜150個が最適化されている、請求項33に記載のトランスジェニック魚類。
【請求項36】
前記核酸が6、9、18、20、22、24、28〜30、33〜36、47、49、52、54、58、60、61、64、67、69〜71、73、77、79、81、86、89、92、94〜95、100、101、105、106、112、115、118、124、127、128、131、146、151、154、161、163、164、169、178、187、188、195、197、200、202、206、210、214、217、221、223、225、227、228、232、234、241、245、255、271、280〜282、284、285、301、303、310、312、327、362、または370の位置に最適化されたコドンを含む、請求項33に記載のトランスジェニック魚類。
【請求項37】
前記核酸が図18に示した核酸の配列を含む、請求項33に記載のトランスジェニック魚類。
【請求項38】
n−6脂肪酸を対応するn−3脂肪酸に不飽和化する酵素をコードする核酸配列を含み、鳥類が摂取用に飼育されている、トランスジェニック鳥類。
【請求項39】
前記鳥類が、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、または猟鳥である、請求項38に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項40】
前記核酸配列がシー・エレガンスのfat−1遺伝子を含む、請求項38に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項41】
前記シー・エレガンスのfat−1遺伝子が少なくとも1つの最適化されたコドンを含む、請求項40に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項42】
前記シー・エレガンスのfat−1遺伝子が、が少なくとも5個から150個までの最適化されたコドンを含む、請求項41に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項43】
前記コドンの5〜10、10〜15、15〜20、20〜25、25〜30、30〜35、35〜40、40〜45、45〜50、50〜55、55〜60、60〜65、65〜70、70〜75、75〜80、80〜85、85〜90、90〜95、95〜100、100〜105、105〜110、110〜115、115〜120、120〜125、125〜130、130〜135、135〜140、140〜145、または145〜150個が最適化されている、請求項42に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項44】
シー・エレガンスのfat−1遺伝子が、6、9、18、20、22、24、28〜30、33〜36、47、49、52、54、58、60、61、64、67、69〜71、73、77、79、81、86、89、92、94〜95、100、101、105、106、112、115、118、124、127、128、131、146、151、154、161、163、164、169、178、187、188、195、197、200、202、206、210、214、217、221、223、225、227、228、232、234、241、245、255、271、280〜282、284、285、301、303、310、312、327、362、または370の位置に最適化されたコドンを含む、請求項41に記載のトランスジェニック鳥類。
【請求項45】
前記シー・エレガンスのfat−1遺伝子が図18に示した配列を含む、請求項41に記載のトランスジェニック鳥類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2007−527711(P2007−527711A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552345(P2006−552345)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/003917
【国際公開番号】WO2005/077022
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(392015468)ザ・ジェネラル・ホスピタル・コーポレイション (14)
【氏名又は名称原語表記】THE GENERAL HOSPITAL CORPORATION
【Fターム(参考)】