説明

生物活性物質分析装置

【課題】異なる成分から成る試料を基板に静電噴霧して、塗布された基板から特定の成分を持つ試料のみを検出できる生物活性物質分析装置を提供する。
【解決手段】試料溶液を入れたノズルと、前記ノズルに対向する位置に配置され捕集電極と分析電極が形成された基板と、前記ノズルとアースとの間に第1の電圧を印加するための第1の電源と、前記分析電極とアースとの間に第2の電圧を印加するための第2の電源と、前記捕集電極とアースとの間に第3の電圧を印加するための第3の電源と、からなる生物活性物質分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物活性物質を検出する技術に関し、特に静電噴霧法を用いて生物活性物質を基板に塗布して生物活性物質の検出を行う生物活性物質分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電噴霧法は、帯電させた試料により生じる電気的な反発作用を利用して試料をノズル先端から基板に向かって噴霧する方法である。そのため、静電噴霧装置は、試料を吐出するためのノズルと試料を塗布すべき基板との間に高電圧を印加するための高電圧電源を備えている。このノズルに加えた高電圧により、ノズル内の試料溶液を帯電させ、基板表面に試料を塗布する(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ノズル先端に形成された溶液の液滴がもつ表面張力より帯電された液滴の電気的反発作用が打ち勝つ場合に、試料溶液が噴霧される。この時の液滴は、帯電状態や溶液の表面張力、粘度などに応じた運動エネルギーを持つ。特許文献1では、噴霧された液滴が持つ電荷の極性と反対の極性の電荷や電位を基板表面に与えることで、基板表面に所望の形状に生物活性物質を均一に塗布する技術を開示している。静電噴霧を行うために基板表面に電荷や電位を与える手段には、基板表面に電極を形成する方法が示されている。
【特許文献1】特表平11−509774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の構成では、同一成分の試料を静電噴霧することにより基板表面に均一に塗布できる技術を開示している。しかし、異なる成分から成る試料を静電噴霧して特定の成分を持つ試料を分離する技術は、開示も示唆もされていない。従って、異なる成分から成る試料を基板に静電噴霧し、塗布された基板から特定の成分を持つ試料のみを検出することが出来ないという課題を有していた。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、異なる成分から成る試料を基板に静電噴霧して、塗布された基板から特定の成分を持つ試料のみを検出できる生物活性物質分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明の生物活性物質分析装置は、試料溶液を入れたノズルと、前記ノズルに対向する位置に配置され捕集電極と分析電極が形成された基板と、前記ノズルとアースとの間に第1の電圧を印加するための第1の電源と、前記分析電極とアースとの間に第2の電圧を印加するための第2の電源と、前記捕集電極とアースとの間に第3の電圧を印加するための第3の電源と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の生物活性物質分析装置によれば、電極が形成された基板に対して血液等の生物活性物質を静電噴霧することで、基板の電極上に特定の生物活性物質を検出することが出来る。血液であれば、血液内の抗原の有無を用意に分析することができる。すなわち、既知の抗原による感染の有無を判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の生物活性物質分析装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0009】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における生物活性物質分析装置の構成を示す図である。図1において、001はノズルであり、ノズル001内には、静電噴霧する溶液016を入れる。002は、基板であり、その表面に分析電極003と捕集電極004が形成されている。005は、ノズル001とアース008との間に電圧を印加する高電圧電源であり、本実施の形態では、3.5kVの電圧を加えた。006は、捕集電極004とアース008との間に電圧を加える捕集電極用電源であり、007は分析電極003とアース008との間に電圧を加える分析電極用電源である。本実施例では、分析電極003に、+240Vを加え、捕集電極004に−100Vの電圧を加えた。ノズル001から基板002までの距離は50mmとした。
【0010】
本実施例で用いた溶液016は、2種類の蛍光色素を混合したものであり、1種類が、FITC(Fluorescein Isothiocianate)であり、もう1種類がCy5である。FITCは、波長495nmの励起光で、波長520nmの蛍光を発する蛍光物質であり、分子量はおよそ60万である。Cy5は波長630nmの励起光で、660nmの蛍光を発する。分子量はおよそ12万である。
【0011】
図2は図1のノズル周辺を拡大して示した図である。ノズル001から噴霧された溶液016は図2に示すように多数の液滴017となって空気中に放出される。図1に示されるスプレーフレーム010は多くの液滴017から構成されており、その大きさは、目で見ることができる場合もある。
【0012】
図3に、基板上の電極を示す。電極は、分析電極003と捕集電極004とから成り、その形状は図のように短冊形をしている。本実施例では、捕集電極004の幅014を1.5mmとし、長さを10mmとした。また、分析電極003の幅012は0.5mmとし、長さは10mmとした。本発明の特徴は、捕集電極004を分析電極003に挟まれるように配置したことである。本実施の形態では、捕集電極と分析電極の間の距離011を1mmとした。
【0013】
以上のように構成した生物活性物質分析装置を用いて、ノズル001に溶液016を入れて静電噴霧を行い、基板002上を蛍光顕微鏡で観察した。その結果、分析電極003上に波長520nmの蛍光を観察できたが、660nmの蛍光は観察されなかった。この結果は、溶液016中の成分FITCを分離して分析電極003上に集められることを示している。また、同様の条件で、捕集電極004に加える電圧を0Vにした場合でも、上記と同様の分離結果が得られた。
【0014】
なお、捕集電極004に加える電圧をプラスにすると、ノズル001からの噴霧が不安定になるという現象が観察された。これは、捕集電極004にプラス電圧を加えると、基板002上のすべての電極がプラス電位になるため、ノズル001と基板002の間の電位差が小さくなり、静電噴霧が安定して継続出来なくなるためと考えられる。
【0015】
図4は本発明の試料分離の原理を説明する図である。ノズル001に+3.5kVの電圧を加えて静電噴霧を行うと、溶液016はプラスに帯電した液滴状態でノズル001より噴霧される。ノズル001から基板002に向かって電位勾配があるため、プラスに帯電した液滴017は、基板002に向かって飛行する。液滴017は、基板002に向かって飛行中に、乾燥により体積が小さくなる。体積が減少しても、液滴自体のもつ電荷は変化しないため、飛行の途中で、液滴自体がもつ電荷により生じる反発作用により、液滴017はさらに小さな液滴へと分裂する。分裂すると体積に対する表面積の比率が大きくなり、分裂前より乾燥しやすい状態となる。そのため乾燥が進み、液滴の体積がさらに小さくなり、電荷の反発作用による分裂が生じる。噴霧された液滴017は、乾燥と分裂の過程を繰り返して、分子サイズの大きさになって基板002に付着する。そのため基板002付近では、分子サイズの液滴が分布している。本実施の形態では低分子成分018としてCy5、高分子成分019としてFITCの2種類を混合した試料016として用いたため、図4に示すように、基板002付近には、溶液中に含まれる低分子成分018と、高分子成分019が分離した状態で分布している。
【0016】
高分子成分019及び低分子成分018の両方とも大部分は、マイナスの電圧を印加した捕集電極004に引き寄せられて付着する。ただし、分析電極003付近に噴霧された低分子成分018及び高分子成分019は、それらが持つ慣性力のために、分析電極003のプラス電圧による反発力を受けながらも、分析電極003に向かって飛行する。特に、高分子成分019は大きな慣性力を持っているため、分析電極003に加えられているプラス電圧による反発力を受けても一部が分析電極003上に付着する。分子サイズまで分裂した液滴成分のうち低分子成分018は、慣性力が小さいために、分析電極003に付着する前に、分析電極に加えられたプラス電圧による反発作用でほぼすべてが反発され、捕集電極004上に付着する。
【0017】
分析電極003及び捕集電極004以外の基板002表面は絶縁性であり、静電噴霧の初期段階で、数百Vから数kVの高い電位に帯電するため、噴霧された液滴017はほとんど付着しない。実際、噴霧後の基板002表面を蛍光顕微鏡で観察しても、分析電極003及び捕集電極004以外の部分では蛍光は観察されなかった。基板002表面が帯電する理由としては、噴霧された溶液またはノズル周辺の空気が高電圧で帯電し、噴霧初期段階に、基板002表面に接触して基板002表面を帯電させているためである。
【0018】
本実施の形態では、図3のように、分析電極003を挟むように捕集電極004を配置したが、例えば、図5のように、分析電極003の周囲を捕集電極004で囲むように形成することで、分析電極003にノズルと同極性の電圧を加え、捕集電極004にノズルと異極性の電圧を加えれば、本実施の形態と同様の効果が得られることは容易に推測できる。図5以外の形状であっても、分析電極を捕集電極が囲む形状に形成すれば本実施の形態と同様の効果が得られる。
【0019】
また本発明の実施の形態と異なる溶液を用いる場合は、初めに、蛍光標識した低分子成分のみの溶液で噴霧を行い、分析電極003と捕集電極004に加える電圧を変更しながら、低分子成分が分析電極003に付着しない条件を見つける。低分子成分の付着の有無は、蛍光顕微鏡による観察で判断する。次に、低分子成分と高分子成分の混合溶液を、低分子成分が分析電極003に付着しない条件で噴霧して、分析電極003上に高分子成分が付着することを確認する。高分子成分も低分子成分と同様に蛍光標識しておく。
【0020】
以上のようにして決定した条件で、実際に分析対象となる溶液の噴霧を行えば、分析対象の溶液中の高分子成分の有無を評価することができる。つまり噴霧した溶液に高分子成分が含まれていなければ、分析電極003上で蛍光は観察されない。高分子成分が含まれていれば、分析電極003上に付着するため、蛍光が観察される。
【0021】
本実施の形態では、2種類の異なる蛍光色素を噴霧して高分子成分を分離可能なことを示したが、例えば、蛍光標識した抗体と抗体が特異的に結合する抗原の混合溶液を分析対象とした場合、上記方法によれば抗体が低分子成分となり、抗体と抗原が結合した高分子量の成分を検出することができる。つまり蛍光色素が1種類の場合でも、高分子成分を検出することができる。具体的には、ウィルスや細菌などの感染を調べる検査方法として応用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明にかかる生物活性物質分析装置は、簡単な構成で試料を分析できるという利点を有し、試料の分析技術として利用可能であり、特に、ウィルスや細菌に対する感染の有無を分析する手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1における静電噴霧装置の構成図
【図2】本発明の実施の形態1におけるノズル周辺の拡大図
【図3】本発明の実施の形態1における基板の構造図
【図4】本発明の実施の形態1における静電噴霧の原理の説明図
【図5】本発明のその他の実施の形態における基板の構造図
【符号の説明】
【0024】
001 ノズル
002 基板
003 分析電極
004 捕集電極
005 高電圧電源
006 捕集電極用電源
007 分析電極用電源
008 アース
009 装置筺体
010 スプレーフレーム
011 間隔
012 分析電極寸法
013 分析電極寸法
014 捕集電極寸法
015 捕集電極寸法
016 溶液
017 液滴
018 低分子成分
019 高分子成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液を入れたノズルと、
前記ノズルに対向する位置に配置され捕集電極と分析電極が形成された基板と、
前記ノズルとアースとの間に第1の電圧を印加するための第1の電源と、
前記分析電極とアースとの間に第2の電圧を印加するための第2の電源と、
前記捕集電極とアースとの間に第3の電圧を印加するための第3の電源と、
からなる生物活性物質分析装置。
【請求項2】
前記第1の電圧と前記第2の電圧は同極性であり、且つ前記第3の電圧は前記第1の電圧と逆極性である請求項1に記載の生物活性物質分析装置。
【請求項3】
前記第1の電圧は、前記第2の電圧より大きい請求項2に記載の生物活性物質分析装置。
【請求項4】
前記第3の電圧の絶対値は前記前記第2の電圧以下である請求項2に記載の生物活性物質分析装置。
【請求項5】
前記捕集電極と前記分析電極とは電気的に絶縁されている請求項1に記載の生物活性物質分析装置。
【請求項6】
前記捕集電極と前記分析電極との形状は方形であり、前記分析電極は二つの前記捕集電極の間に形成された請求項5に記載の生物活性物質分析装置。
【請求項7】
前記捕集電極は、前記分析電極を囲むように形成されている請求項1に記載の生物活性物質分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−103560(P2009−103560A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274992(P2007−274992)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】