説明

画像処理装置、およびプログラム

【課題】一般的な画像の一部分について汎用的に適用して、人間の潜在感覚に沿って複数種類の画像特性を複合的に調整することにより、画像を通じた素材の質感を高められる画像処理装置を提供する。
【解決手段】画像特性をそれぞれ数値化した複数種類の画像特性パラメータを、画像を通じた素材ごとに異なる質感を数値化した高次感性量パラメータに変換可能な質感感知モデルを、画像特性を異ならせた評価用画像を対比観察させるアンケートにより構築する。画像領域分離処理部102は、入力画像から特定素材の画像領域を選択可能である。質感調整処理部106は、画像領域分離処理部102によって選択された画像領域に対して、質感感知モデル(数値変換式)を用いて出力画像の選択された画像領域から演算される高次感性量パラメータが、所定の関係を満たすそれぞれの数値に誘導されるように変換処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力画像の変換処理を行って画像の質感を異ならせた出力画像を形成する画像処理装置、詳しくは、表示媒体上に表示された画像の部分的な質感を改善する画像処理に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ、ビデオカメラ、テレビ、携帯電話、テレビゲーム装置、カラープリンタ等の画像表示装置には、入力画像全体の変換処理を行って画像の質感を異ならせた出力画像を形成する画像処理装置が組み込まれている。画像処理装置は、コンピュータであるマイコンや高速演算素子を用いて、肌色調整のような標準的な質感調整を行うプログラムを搭載している。
【0003】
また、パーソナルコンピュータに入力画像を取り込んで、画面を通じて種々のパラメータを手動設定することにより、原画像の物理的な画像特性を個別に変更、調整する画像処理プログラムが実用化されている。このような画像処理プログラムのいくつかは、モニタ画面に表示した処理画像から一部分を領域指定する機能を有する。そして、領域指定された一部分に限って画像特性(明度、色相、彩度、階調特性、周波数特性等)を変更して、種々のフィルタ効果や画像の質感の向上を実現することができる。
【0004】
しかし、領域指定した画像の一部分に対して個別の画像特性の変更やフィルタ処理の選択を行って所望の質感を得ることは、一般のユーザーにとっては容易ではない。1つならまだしも2つ以上の画像特性を複合的に変化させた場合、その相乗的な効果を推測することは難しく、画像処理の前後における画像の質感の変化量を想像することはさらに難しい。
【0005】
特許文献1には、感覚的な画像品質を高める画像処理装置が示される。ここでは、質感、柔らかさ、明るさといった感覚的な改善効果の種類ごとに予めパッケージ化した複数の画像特性を相互に関連付けて複合的に変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−243240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
画像を通じた素材ごとに異なる質感は、単純な物理量の画像特性ではなくて、光沢感、重厚感、鮮鋭感、無機質感等、人間の潜在感覚が深く関与している。複数種類の画像特性が単純に等しく再現された画像よりも、その素材に誘起される複数の潜在感覚が高まる方向へそれぞれの画像特性を少しシフトさせた画像のほうがより自然に観察されることがある。
【0008】
しかし、画像を通じた素材らしさを高めるために、どの画像特性とどの画像特性とをどれくらいずつ変化させれば最良の結果が得られるかは、試行錯誤を繰り返して、処理結果を観察比較する以外に求めようがない。このため、入力画像に写り込んだ素材の画像を通じた質感を高める画像処理は、高度の知識と経験を蓄えた専門家にとっても、個別の画像ごとに膨大な試行錯誤が繰り返されて終わりの見つけにくい作業となっている。一般的な画像について汎用的に適用して素材の質感を高め得るような画像処理の法則や判断手法が確立されていないからである。
【0009】
本発明は、一般的な画像の一部分について汎用的に適用して、人間の潜在感覚に沿って複数種類の画像特性を複合的に調整することにより、画像を通じた素材の質感を高められる画像処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の画像処理装置は、画像から抽出される複数種類の物理的な画像特性を個別に調整可能な調整手段を用いて、前記複数種類の物理的な画像特性を複合的に調整することにより、入力画像とは画像の質感が異なる出力画像を形成するように入力画像の変換処理を行うものである。そして、前記画像特性をそれぞれ数値化した複数種類の画像特性パラメータを、画像から人間が受け取る潜在感覚をそれぞれ数値化した複数種類の低次感性量パラメータに変換可能な第1の数値変換手段と、入力画像から特定素材の画像領域を選択可能な選択手段とを有し、前記選択手段によって選択された画像領域に対して、前記第1の数値変換手段を用いて出力画像の前記画像領域から演算される複数種類の前記低次感性量パラメータが、所定の関係を満たすそれぞれの数値に誘導されるように前記変換処理を行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明の画像処理装置では、人間が画像から無意識に複数種類の潜在感覚を読み取って質感を判断しているように、複数の画像特性を第1の数値変換手段によって複数種類の低次感性量パラメータに変換して数値演算的に質感を評価させる。最終的な画像の質感に比較すれば単純で、物理的な画像特性との関連性を理解し易い低次感性量パラメータを、複数の物理的な画像特性と最終的な画像の質感との間に介在させることで、変更すべき画像特性の組み合わせと画像の質感との関係が単純化される。
【0012】
複数種類の低次感性量パラメータが所定の関係を満たすような数値に誘導されるように方向性のある変換処理を行うので、質感を変更したい方向に逆行するような無意味な試行錯誤をしないで済む。低次感性量パラメータによって数値的に質感の変化を把握できるため、入力画像ごとに個別の画像特性の組み合わせと変更量とを異ならせて行う膨大な試行錯誤を排除できる。
【0013】
従って、一般的な画像の一部分について汎用的に適用して、人間の潜在感覚に沿って画像が持つ複数の物理的な画像特性を複合的に調整することにより、画像を通じた素材の質感を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】画像処理装置の構成の説明図である。
【図2】質感認知モデルの説明図である。
【図3】実施例1の画像処理装置の構成のブロック図である。
【図4】実施例1の画像処理のフローチャートである。
【図5】実施例1の前半処理における画面表示の説明図である。
【図6】実施例1の後半処理における画面表示の説明図である。
【図7】実施例2の画像処理装置の構成のブロック図である。
【図8】実施例2の画像処理のフローチャートである。
【図9】変更する画像特性及びその変化量の決定方法のフローチャートである。
【図10】実施例2における画面表示の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。本発明は、複数の低次感性量パラメータを用いて画像処理を行う限りにおいて、実施形態の構成の一部又は全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実施できる。
【0016】
本実施形態では、モニタ画面に画像を表示して画像処理を行うパーソナルコンピュータ用のプログラムを説明する。しかし、本発明は、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の撮像装置、画像読取装置(スキャナ)、テレビ、携帯電話、テレビゲーム装置等の映像機器、カラープリンタ等の画像形成装置としても実施できる。つまり画像を取り扱う機器全てに応用することが可能である。これらの装置のマイコンや高速演算素子に格納されたプログラムとして実施できる。画像の表示媒体としては、CRT、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、印刷媒体、プリント画像を含む。
【0017】
なお、特許文献1に示される画像処理装置の構成やフィルタ処理に関する一般的な事項については、図示を省略して重複する説明を省略する。
【0018】
<感覚的な素材らしさ>
近年、高精細度テレビジョン放送に伴い高精細度テレビ(HDTV)の普及が進み、画質主要素である解像度の高精細化が進んでいる。また、映画分野においてもデジタルシネマシステムのように投影画素数の高画素化が進み、物理的仕様の向上による映像の高画質化も一段落してきたため、より人間の感性に訴える画質というものが重要視されている。このため、解像度、階調数、表示可能色数の増加などについて画像表示装置の改良を行い、物理的仕様を向上しつつも、その性能を活用して人間の感性に訴える高画質化画像処理が実現されつつある。
【0019】
従来の高画質化を目的とする画像処理は、画像設計者が個人の主観により様々な画像処理パラメータを調整することで実現される。しかし、現実的には、個々の画像処理パラメータの変更は画像設計者の経験によって調整されているため、画像設計者の固有の経験や感覚等に大きく結果が左右される。
【0020】
このような問題を鑑みて、特許文献1では、画像設計者の固有の経験や感性等に左右されないように質感の調整を行う画像処理が提案されている。ここでは、入力画像に対してテクスチャの有無、色分布の解析、キャッチライトの有無の解析を行い、画像の特徴量を算出している。そして、ユーザーの調整指示に応じて画像の分類ルールを選択し、算出した画像特徴量を与えることで画像の分類を行っている。この分類結果に応じて画像処理オペレータおよびパラメータを決定している。
【0021】
しかし、特許文献1の場合、画像の特徴にあった画像処理を行っているが、画像の特徴と人間の感性とがどのように対応しているかには触れられていない。特定の画像設計者の主観に基づいて画像処理が選択されている場合、人間の質感認知に沿った処理になっているとは限らず、人間の感性に沿った質感向上結果になるとは限らない。
【0022】
また、画像全体に関する大まかな分類は可能であるが、画像の一部に含まれる対象物固有の材質(例えば、金属、肌、布など)の質感を分類することは難しい。よって、様々な質感の中から対象となる特定の質感(金属、肌、布など)を調整することができなかった。
【0023】
そこで、以下の実施例では、後述する質感認知モデルを使用して質感調整処理を行うことで画像設計者の固有の経験や感覚に左右されない画像処理を行っている。
【0024】
<画像処理装置>
図1は画像処理装置の構成の説明図である。図1の(a)に示すように、画像処理装置100は、コンピュータ100Aが画像処理のプログラムを実行して入力画像の変換処理を行う。コンピュータ100Aは、画像から抽出される複数種類の物理的な画像特性を個別に調整可能な調整手段(111a)を用いて、複数種類の物理的な画像特性を複合的に調整することにより、入力画像とは画像の質感が異なる出力画像を形成する。
【0025】
コンピュータ100Aは、各種のパラメータ操作画像111を重ね合わせた処理画像110をモニタ画面108に表示して、後述する質感認知モデルを用いた質感調整処理を実行する。
【0026】
図1の(b)に示すように、手動操作用のパラメータ操作画像111は、画像特性パラメータ111a、低次感性量パラメータ111b、及び高次感性量パラメータ111cを後述する質感認知モデルの演算式で連動させて表示する。パラメータは、それぞれの性質を相対評価するための無単位、無次元の目安の数値である。画像特性パラメータ111a、低次感性量パラメータ111b、及び高次感性量パラメータ111cのいずれかの階層でマウス109bを操作してポインタをドラッグすると、他の階層のパラメータが質感認知モデルの演算式で演算されて自動的に修正される。この演算式については後述する。
【0027】
処理画像110を見ながら、ユーザーがパラメータ操作画像111上でマウス109bを操作して高次感性量パラメータ111cを変更すると、変更した高次感性量パラメータ111cに従って後述する質感認知モデルを用いた演算が実行される。
【0028】
そして、演算結果が直ちに低次感性量パラメータ111b及び画像特性パラメータ111aに表示され、同時に、原画像に対して変更した画像特性パラメータ111aに基づく画像処理が実行されて、処理結果の処理画像110がモニタ画面108に表示される。
【0029】
画像特性パラメータは、複数種類の画像特性をそれぞれ数値化して求められる。低次感性量パラメータは、画像から人間が受け取る複数種類の潜在感覚をそれぞれ数値化したものになっている。高次感性量パラメータは、画像を通じた素材ごとに異なる質感を数値化したものになっている。
【0030】
コンピュータ100Aは、複数種類の低次感性量パラメータが、所定の関係を満たすそれぞれの数値に誘導されるように画像特性の変換処理を行う。より具体的には、特定の高次感性量パラメータが所定の数値に誘導されるように画像特性の変換処理を行う。
【0031】
画像処理装置100は、各階層のパラメータを連動表示するパラメータ操作画像111を用いることにより、画像を通じた特定の材質の質感を、人間の感性に近い形式で調整できる。パラメータ操作画像111を参照することで、従来は画像設計者が主観で変更すべき画像特性を決めることで行っていた高(感性)画質化を、より客観的かつ適応的に行うことが可能となる。少ない試行錯誤で人間の感性に沿った質感調整を行うことができ、人間の感性に訴える高質感な画像を得る画像処理が可能となる。
【0032】
<質感認知モデル>
図2は質感認知モデルの説明図である。図2に示すように、数値変換手段の一例である質感認知モデルは、人間が質感などを認知する際の構造をモデル化したもので、図1の(b)に示すパラメータ操作画像111の各階層のパラメータを連動させる方程式群のプログラムである。
【0033】
質感認知モデルには、物理的な画像特性(色相、彩度、明度、階調特性、周波数特性)と、画像から人間が感じ取る一般化された潜在感覚と、特定の素材の画像を見た際に人間が感じる素材固有の質感との関係が定量的に表現されている。質感認知モデルは、人間の質感認知過程に沿って三層で構成されており、左から右へ質感認知過程が進んでいくよう配置されている。
【0034】
第1の数値変換手段に相当するのは、画像特性と低次感性量との関係を規定する方程式群である。後述する方程式群によって、画像特性をそれぞれ数値化した複数種類の画像特性パラメータを、画像から人間が受け取る潜在感覚をそれぞれ数値化した複数種類の低次感性量パラメータに双方向に変換可能である。複数種類の画像特性パラメータと複数種類の低次感性量パラメータとは、実験的に準備された方程式群(第1の数値変換手段)によって相互変換可能である。
【0035】
第2の数値変換手段に相当するのは、低次感性量と高次感性量との関係を規定する方程式群である。後述する方程式群によって、複数種類の低次感性量パラメータを、画像を通じた素材ごとに異なる質感を数値化した高次感性量パラメータに双方向に変換可能である。複数種類の低次感性量パラメータと個別の高次感性量パラメータとは、実験的に準備された方程式群(第2の数値変換手段)によって相互変換可能である。
【0036】
ここでは、金属質感に関する質感認知モデルの一例が示され、このモデルでは、画像の物理特性と画像から感じる金属の素材らしさとの関係が、実験的に求めた多数の重み係数である定数αij、βijを用いて定量的に表現されている。
【0037】
ここで、簡単に人間の質感認知過程と質感認知モデルの各層の対応に関して説明する。人間が質感を認知する過程として、まず、視覚から画像の物理量が入力されることから始まる。具体的には、画像からの光が目に入射して網膜で受光され、視覚野において色、階調、解像度などの物理量が知覚される。これが質感認知モデルの下位層(画像特性)に対応する。画像特性を記述する物理量としては、明度、色相、彩度、階調特性、周波数特性などが代表的なものとして挙げられる。
【0038】
その後、脳の高次視覚野において知覚された物理量から、材質に依存しない一般性のある潜在感覚が無意識のうちに認識される。潜在感覚は、物体の材質を認知する過程として中間的に認知される汎用的な感性量である。汎用的であるため、個別の素材を意識することがない、潜在的に認知される感性である。これが図2の中位層である低次感性量に対応する。
【0039】
ただし、具体例からも分かるように、低次感性量は、物体の材質の質感の一部を構成する要素であるため、低次感性量を意識して認知することも可能である。そして、具体的に金属質感を認知する際に、潜在的に認知している低次感性量としては、光沢感、重厚感、鮮鋭感、鏡面感、なめらか感、無機質感などがある。
【0040】
そして、前述の低次感性量を統合して最終的に画像中の物体の材質に対応する質感(高次感性量)を認知すると考えられる。これが図2の上位層に対応する。高次感性量の具体例としては、金属質感、肌質感、繊維質感などである。
【0041】
画像特性、低次感性量、及び高次感性量はそれぞれ数値化されたパラメータとして扱われる。画像特性、低次感性量、及び高次感性量のパラメータ各層には、複数の特徴量があり、ある質感(高次感性量)を認知するためには、複数の画像特性パラメータ、複数の低次感性量パラメータが互いに影響を及ぼしあう。質感認知モデルは、特徴量をノードとして、各ノードがネットワーク状に接続されており、それぞれの相関(影響度)の大きさに応じた重み係数が付与されている。
【0042】
画像特性と低次感性量とは第1の数値変換手段である方程式群によって双方向に変換可能である。低次感性量と高次感性量とは第2の数値変換手段である別の方程式群によって双方向に変換可能である。
【0043】
これにより、物理量の画像特性と潜在感覚量と質感との関係を、画像特性と低次感性量と高次感性量とを用いて定量的に扱うことが可能になる。すなわち、画像特性パラメータ(画像特性の値)と低次感性量パラメータ(低次感性量の評価値)と高次感性量パラメータ(高次感性量の評価値)とを用いて、入力画像の質感を数値的に評価して、質感を演算式により高める処理が可能となる。
【0044】
なお、画像特性を表す物理量は、色相、彩度、明度、階調特性、周波数特性の組み合わせには限られない。質感の種類によっては、より少ない組み合わせでモデル化できるものもあり、さらに多くの物理量を組み合わせる場合もある。近似的には、影響度の少ない物理量を省略する場合もある。
【0045】
また、複数種類の画像特性は、後述する画像処理ソフトウエアによって画像処理効果を連続的又は段階的に変更可能な各種の画像処理に対応させて定義されている。
【0046】
<画像特性>
入力された画像の処理対象領域において、領域各画素のRGB信号を読み取り、HSV表色系やL*C*h表色系などに変換することで、明度・色相・彩度の色属性を算出する。
【0047】
具体的な変換方法としては、HSV表色系の場合、以下の変換式によって色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value)が決定される。
【0048】
【数1】

【0049】
HSV表色系は、RGB信号からの変換の簡便性からコンピュータ画像処理において一般に使われる表色系であるが、より人間の知覚均等性に優れた心理物理量であるL*C*h表色系を用いる事により、更に人間の感覚に近い色属性が導出される。RGB信号からL*C*h表色系への変換は、次の手順で行う。最初に、入力画像のRGB信号は、予め決められた変換式に従って、CIE XYZに変換される。具体例として、RGB信号の規格の1つであるsRGB信号からCIE XYZへの変換概略は次式のようになる。
【0050】
【数2】

【0051】
さらにXYZ値は、L*、a*、b*を介して、次式によりL*C*h表色系へと変換される。
【0052】
【数3】

【0053】
次に、階調特性の算出方法に関して述べる。階調特性は、前述した物理量である明度L*を用いて明度ヒストグラムを算出することで得られる。人間の知覚的に均一な明るさ知覚に対する頻度分布を得るためには、L*C*h表色系のL*信号でのヒストグラムを用いるのが好適である。
【0054】
次に、周波数特性の算出方法に関して述べる。周波数特性は、画像をフーリエ変換することで取得する。ここで、二次元の周波数特性を用いても良いが、簡単のためある方向の周波数特性を用いても良いし、すべての方向の平均的な周波数特性を用いても良い。人間の知覚に近い周波数特性を得るためには、L*C*h表色系のL*信号に変換された画像信号をフーリエ変換し、視覚の空間周波数特性を考慮してVTF(視覚伝達関数)を掛け合わせるのが好適である。
【0055】
このとき用いるVTF(視覚伝達関数)は、現在も様々な研究がなされている。例えば「視覚情報処理ハンドブック(日本視覚学会編)」5章「視覚の時空間特性」記載の図5.4「様々な平均網膜照度の刺激に対するコントラスト感度関数の変化」であらわされる特性を引用しても良い。
【0056】
本実施例では、上述したように、L*C*h表色系を用いるが、L*C*h表色系以外の表色系を用いて画像処理を行うことも可能である。HSV表色系を用いることも可能であり、RGB階調値をそのまま用いて質感モデルを構築することも不可能ではない。
【0057】
また、階調特性は、簡略にはG信号のヒストグラムであってもよく、RGB階調値をNTSC規格のYUV等の信号に変換して、物理量である輝度成分Yに関する輝度ヒストグラムとして用いてもよい。
【0058】
<重み係数の決定方法>
図2に示すように、実施例1では、人間の質感認知構造に即したモデルを作るために、評価グリッド法によるインタビュー調査を実施し、質感を認知する際の評価構造を作成した。評価構造は、評価項目の因果関係が構成する客観性のある構造であり、関係する評価項目がリンクで接続されたネットワーク状の構造をとる。評価項目は、インタビュー調査により得られた言葉を整理して、類似する言葉同士を統合・包含する言葉で表現することで抽出される。更に、上位概念や下位概念の抽出を行うことで階層構造を抽出することが可能となる。
【0059】
評価構造を形成したら、評価項目の因果関係の大きさを決定する必要がある。そのため、評定尺度法などを用いたアンケート調査を実施し、アンケート調査と評価構造を用いて共分散構造分析、又は重回帰分析などを行い、評価項目間の重み係数を算出する。
【0060】
次に、図2に示す質感認知モデルの重み係数の具体的な取得方法に関して述べる。質感認知モデルの製造方法は、準備の第1工程と、実験の第2工程と、統計処理の第3工程とを含む。
【0061】
第1工程では、特定の質感を持つ素材の画像を含む原画像に物理的な画像特性を異ならせる画像処理を施して、画像特性を個別的又は複合的にそれぞれ段階的に変化させた複数の評価用画像を作成する。第1工程では、出力画像が最終的に利用される表示媒体上に表示させる評価用画像を作成する。図1の(b)に示す画像特性パラメータ111aを個別に複数段階に変更して多数の評価用画像を準備した。
【0062】
具体的には、金属質感の質感認知モデルを構築するために金属光沢面を撮影した3種類の原画像を準備した。3種類の原画像に対して5種類の画像特性(明度、色相、彩度、周波数特性、階調特性)を複数段階に変化させる画像処理を施して、多数の評価用画像を作成した。明度・色相・彩度の場合は、ソフトウエア上で直接その値を変更することで調整後の値にすることができる。階調特性の場合は、例えばトーンカーブ処理等を行うことで変更し、周波数特性の場合は、エッジ強調処理やスムージング処理を行うことで変更するなど、ソフトウエア上に準備された各種のフィルタ機能を利用できる。
【0063】
第2工程では、多数の評価用画像を被験者に対比観察させて、複数種類の潜在感覚における感覚的な変化量と画像を通じた素材の質感の感覚的な変化量とを評価させ、前記質感に対する複数種類の潜在感覚の寄与度を測定する。
【0064】
第2工程は、出力画像が最終的に利用される表示媒体上に表示した評価用画像を用いて、複数の被験者に対して実行される。複数の被験者で同様に第2工程を実行することで、1つの質感に対する複数種類の潜在感覚の寄与度が、特定の被験者に偏らない一般的な形で採取される。図1の(b)に示す個別の画像特性パラメータ111aに関連付けた個別の評価用画像について、低次感性量及び高次感性量を人間に相対評価させるアンケートを行った。
【0065】
具体的には、液晶ディスプレイに原画像と1枚の評価用画像とを並べて表示させ、6種類の潜在感覚と1種類の素材質感とを5段階に評価させるアンケートを実施した。潜在感覚の評価項目は、重厚感、はっきり・くっきり感、無機質感、光沢感、なめらか感、鏡面感であり、素材質感の評価項目は、金属質感である。5段階評価は、評価項目に対して、個別の潜在感覚の印象の有無を、ある、ややある、どちらでもない、ややない、ないの5段階から1つを選択させた。
【0066】
第3工程では、第2工程で得られた測定結果を統計処理して、複数種類の潜在感覚をそれぞれ数値化した低次感性量パラメータと画像特性パラメータの変換式を求める。特定素材に関する低次感性量パラメータの演算に必要な重み係数を決定する。また、第3工程では、第2工程で得られた測定結果を統計処理して、素材ごとに異なる質感を数値化した高次感性量パラメータと低次感性量パラメータの変換式を求める。特定素材に関する高次感性量パラメータの演算に必要な重み係数を決定する。
【0067】
図1の(b)に示す個別の評価用画像に割り当てられる画像特性パラメータ111aの数値に対応させて、アンケートで得られた高次感性量パラメータ111cと低次感性量パラメータ111bの数値を割り当てる。統計処理を通じて、各層のパラメータ間の変換に用いる重み係数が具体的に決定され、具体的な重み係数を付与された方程式群によって図1の(b)に示す各層のパラメータが連動するようになる。
【0068】
このようにして構築した質感認知モデルを用いることで、人間の感性に沿った質感調整を行うことが可能となる。更には、質感調整を行うことでより感性に訴える画像表現が可能となる。画像特性を変化させるべきという主観的な判断を全く伴わず、変化させた画像特性を隠した評価用画像の客観的判断のみによって、質感認知モデルを構築するので、複数種類の画像特性の金属質感への個別の寄与度が正確に判断される。
【0069】
いずれにせよ、アンケートで評価用画像を用いて行われる試行錯誤の結果が、具体的な質感認知モデルの数値変換式として、ソフトウエアに組み込まれることで、ユーザーが行う個別の画像処理における無駄な試行錯誤が節約される。個別の画像処理の効果の方向性が、漏れなくソフトウエアに反映されているため、経験の浅いユーザーでも、画像処理の目的にふさわしい画像処理の種類と処理量とを直接的かつ容易に選択できる。
【0070】
そして、評価用画像の複数種類の画像特性は、画像処理ソフトウエアに準備された各種の画像処理(フィルタ処理)を用いて変化させるため、個別のアンケート評価が画像処理の種類と程度とに対応して取得される。アンケート評価を総合して得られた画像処理の組み合わせ効果が、個別の処理画像において、低次感性量及び高次感性量パラメータを介して再現される。
【0071】
また、複数の画像の専門家に対してインタビュー調査およびアンケート調査を行うことによって質感認知モデルを構築することで、一人の画像設計者のみの主観に依存することなく、かつ高精度な画像調整を行うことが可能となる。一方、質感認知モデルを多数の視聴者に対するインタビュー調査およびアンケート調査によって構築することで、一般的な視聴者の感性に沿った画像の調整を行うことも可能となる。
【0072】
なお、質感は、物体の材質によって異なるため、個別素材の質感毎に質感認知モデルを構築する必要がある。また、年齢による視覚特性の変化により因果関係も変化するため、重み係数も変化する。よって、用途に応じては、年齢ごとにセクタを分けて第2工程のアンケート調査を実施することも必要となる。
【0073】
また、評価グリッド法を紹介する文献としては、「レパートリー・グリッド発展手法による住環境評価構造の抽出」(讃井純一郎、乾正雄著、日本建築学会計画系論文報告集 第367号 昭和61年3月、15〜21頁)が挙げられる。
【0074】
また、評価グリッド法以外の手法としては、SD法を用いたアンケート調査を行い、その結果を因子分析することで質感に関連する因子を抽出して評価構造を構築することも可能である。
【0075】
また、共分散構造分析を紹介する文献としては、「共分散構造分析 入門編 ―構造方程式モデリング(豊田秀樹著、朝倉書店)」などが挙げられる。
【0076】
ところで、一般的には、1枚の入力画像中にも複数の材質が混在しており、画像全体に一様な質感調整処理を行う方法では、夫々の質感を活かしたきめ細かな高質感化には限界がある。
【0077】
そこで、以下の実施例では、画像の領域毎に最適な質感認知モデルを利用して質感を調整することで、より詳細に感性に訴える高質感な画像を生成することができる。
【0078】
そのため、以下の実施例では、画像の質感調整処理を行うに際して、入力画像を領域分割して、分割したそれぞれの領域に対して、引用する質感認知モデルを個別に選択して、当該領域に限って質感認知モデルを適用する。画像中に混在する複数の材質に対し、それぞれに最適な画像処理が行えるため、より効果的に高質感画像が得られるようになっている。
【0079】
<実施例1>
図3は実施例1の画像処理装置の構成のブロック図である。図4は実施例1の画像処理のフローチャートである。図5は実施例1の前半処理における画面表示の説明図である。図6は実施例1の後半処理における画面表示の説明図である。
【0080】
図1の(a)を参照して図3に示すように、画像入力部101は、質感を調整したい画像が入力される。画像領域分離処理部102(コンピュータ100A)は、ユーザーの操作に応じて入力画像中の質感の異なる領域を分離処理する。質感認知モデル記憶部103(コンピュータ100A)は、人間が質感を認知する際の構造をモデル化したデータが質感の種類別に複数記憶されている。質感認知モデル選択処理部105(コンピュータ100A)は、ユーザーの操作に応じて領域毎に引用する質感認知モデルを選択する。質感調整処理部106(コンピュータ100A)は、選択された質感認知モデルを引用して質感を向上させるなどの調整を行う。画像出力部107は、質感が調整された画像をモニタ画面108へ出力、または記憶媒体へ記憶保存などの処理を行う。
【0081】
図3を参照して図4の(a)に示すように、最初に画像入力部101に、特定の質感を調整するための画像が入力される(S1101)。図5の(a)に示すように、入力画像は、モニタ画面108に表示される。この例での入力画像には、異なる材質である金属G1と人の顔G2が混在しているため、それぞれの領域に異なる質感認知モデルを適用することになる。なお、入力画像は、静止画像だけでなく動画像も含み、画像入力部101は、様々な形式の画像・映像に対応するための処理手段を持つものとする。
【0082】
次に、選択手段の一例である画像領域分離処理部102は、入力画像から特定素材の画像領域を選択可能である。入力された画像データを、半自動的に調整したい質感領域を抽出することで、質感の種類ごとに領域分割する(S1102)。図5の(b)に示すように、分離したい画像領域(金属G1)を囲うようにポインタを動かしたり、画像領域(金属G1)の中でマウスクリックする等により領域が分離される。領域分離は、エッジ抽出による分離手法や類似色相などによる分離手法などの方法により領域を分割し、そこから質感を調整したい領域を自動的に分離抽出している。なお、領域分離の方法としては様々な手法が考えられるが、本実施例は領域分離手法を限定するものではない。
【0083】
また、マウスをドラッグして輪郭をトレースする等、完全手動により調整したい質感領域を抽出する方法をとっても良いし、精度を上げるため、文字などのキャラクタを事前に未処理領域として指定しておいても良い。
【0084】
次に、質感認知モデル選択処理部105は、領域分割された画像を入力され、それぞれの領域に適用する質感認知モデルを選択する(S1103)。図5の(c)に示すように、画像領域の分割結果がモニタ画面108に表示され、それぞれの領域について近接した位置で、適用する質感認知モデルをプルダウン選択することができる。領域分離された対象画像(金属G1)をマウスクリックすると、質感知覚モデル選択メニュー(処理選択画像)が近接した位置に表示される。ユーザーは、図5の(e)に示すように、質感知覚モデル選択メニュー上でポインタを移動させて、適用したい質感認知モデルを、メニューに従って階層の高いほうから順に選択する。
【0085】
質感認知モデル記憶部103は、各種質感に広範に対応するため、予め質感認知モデル記憶部103に複数の質感認知モデルを記憶している。ここで言う各種質感とは、金属、肌、繊維などの各種材質の違いや、同じ材質(例えば金属)でも光沢系や艶消し系といったテクスチャの違いを含んでいる。
【0086】
次に、質感調整処理部106は、選択された画像領域毎に適用する質感認知モデルの情報に応じて質感の調整を行う(S1104)。選択された質感認知モデルを領域に適用して質感調整処理を行い、図5の(d)に示すように、結果がその画像領域(金属G1)に反映されて表示される。
【0087】
図3を参照して図4の(b)に示すように、質感調整処理部106は、処理画像から画像領域分離処理部102によって選択された画像領域に対して、質感認知モデル(数値変換式)を用いて複数種類の低次感性量パラメータを演算する。そして、選択された画像領域から演算される複数種類の低次感性量パラメータが、所定の関係を満たすそれぞれの数値に誘導されるように処理画像の変換処理を行う。
【0088】
質感調整処理部106は、始めに入力された画像の領域毎の画像特性を算出する(S1201)。画像特性としては、前述したように明度、色相、彩度、階調特性、周波数特性などが挙げられる。
【0089】
質感調整処理部106は、画像領域毎に適用する質感認知モデルの情報を基に、質感認知モデル記憶部103から対応する質感認知モデルを取得し、指定された質感調整値に従って画像特性を変更する(S1202)。
【0090】
質感調整値に応じた画像特性の変更は次のように行う。画像特性の変更には、まず、質感を調整した場合の画像特性値がいくつになるか算出する必要がある。そのため、図2の質感認知モデルにおいて、右側の上層の値を変化させることで右側の高次感性量から低次感性量、画像特性へとリンクを辿りながら演算していく。
【0091】
高次感性量から低次感性量への演算は、式(1)で示される。
【0092】
【数4】

【0093】
ここで、係数αijは、高次感性量と低次感性量の相関を表す重み係数であり、係数εは、質感認知モデル構築の際に発生する個人差などを含む高次感性量における誤差を表す係数である。ここで、iは低次感性量の評価項目番号であり、jは高次感性量の評価項目番号を表している。Zは質感の調整値であり、Yは質感の調整値に対する低次感性量の値となる。
【0094】
続いて、低次感性量から画像特性値への演算は式(2)で示される。
【0095】
【数5】

【0096】
ここで、係数βijは、低次感性量と画像特性の相関を表す重み係数であり、係数εは、質感認知モデル構築の際に発生する個人差などを含む低次感性量における誤差を表す係数である。ここで、iは画像特性の評価項目番号であり、jは低次感性量の評価項目番号を表している。また、Yは質感調整値に対する低次感性量の値であり、Xは質感調整値に対する全ての低次感性量の値を考慮した画像特性の値となる。よって、Xは、質感の調整値に対する画像特性の調整値に対応する。
【0097】
このような演算操作によって質感調整後の画像特性値が算出される。なお、予め質感の調整値に対応した画像特性の値をLUT(ルックアップテーブル)に保持しておき、調整値に対応した画像特性値を選択するようにしても良い。
【0098】
画像特性値が算出されたら、その値に近づくように各画像特性を変更させる画像処理を行う。明度・色相・彩度の場合は、直接その値を変更することで調整後の値にすることができる。階調特性の場合は、例えばトーンカーブ処理等を行うことで変更し、周波数特性の場合は、エッジ強調処理やスムージング処理を行うことで変更するなど様々な手法が提案されている。なお、実施例1では、画像特性値を質感調整後の画像特性値に変更することが目的であり、画像特性を変更するための処理を限定するものではない。
【0099】
続いて、図6の(a)〜(c)に示すように、同様な操作及び処理が入力画像の未処理領域である人の顔G2について実行される。
【0100】
すべての質感調整処理を終えると、画像出力部107は、質感の調整が完了した画像を表示装置や画像出力装置、記憶媒体へと出力する(S1105)。全ての領域に対して、質感認知モデルの適用が終了したら、画像を保存または出力する。図6の(d)に示すように、操作は別途設けた保存ボタンBを操作して、あるいはプルダウンメニューから選択して実行する。
【0101】
実施例1では、画像について説明したが映像に対しても適用することが可能である。よって、実施例1の画像処理は、撮像装置・表示装置・画像出力装置などに組み込む事により、それぞれの装置において質感を調整した画像を得ることが可能となり、より広範囲な装置に活用できる。
【0102】
<実施例2>
図7は実施例2の画像処理装置の構成のブロック図である。図8は実施例2の画像処理のフローチャートである。図9は画像評価処理と質感調整処理のフローチャートである。図10は実施例2における画面表示の説明図である。
【0103】
図7に示すように、実施例2の画像処理装置の構成は、図3に示す実施例1の画像処理装置と略同一であるが、実施例1には無かった画像評価処理部204が追加された構成となっている。
【0104】
図7を参照して図8に示すように、最初に画像入力部201へ入力画像が入力される(S2101)。図5の(a)に示すように、入力画像がモニタ画面108に表示される。画像領域分離処理部202は、入力画像から調整したい質感領域を抽出して、質感の種類ごとに領域分割する(S2102)。図5の(b)に示すように、ユーザーが分離したい画像領域(金属G1)を指定することで、それぞれの領域が分離される。
【0105】
画像評価処理部204は、入力画像の選択された領域毎に質感評価を行う(S2103)。内部処理につき、画面表示上の変化はない。記憶している複数の質感認知モデルを用いて領域ごとの高次感性量(質感)の評価値を算出する。
【0106】
図7を参照して図9の(a)に示すように、画像評価処理部204は、実施例1のステップS1201での処理と同様にして入力画像の選択された領域毎の画像特性を算出する。次に、算出した画像特性の値と、質感認知モデル記憶部203に記憶されている各種質感に対応する複数の質感認知モデルを用いて、質感認知モデル毎の各入力画像領域の質感の評価値を算出する(S2202)。
【0107】
算出方法は、図2に示す質感認知モデルにおいて、左の画像特性から右側に向かって低次感性量、高次感性量へとリンクを辿りながら、式(3)のように演算を行い、各ノードにおける評価値を算出する。
【0108】
【数6】

【0109】
ここで、係数αijは各評価項目間の重みを表す係数であり、係数εは質感認知モデル構築の際に発生する個人差などを含む各評価項目における誤差を表す係数である。添え字のiは注目階層の評価項目番号を示し、jは注目階層の一段下層の評価項目番号を示している。Xは注目階層の一段下層の評価項目の評価値であり、Yは注目階層の評価値となる。
【0110】
例えば、注目階層を低次感性量にした場合、Xは図の左の階層の画像特性値に対応し、Yは低次感性量の評価値に対応する。同様に、注目階層が高次感性量の場合は、Xが低次感性量の評価値に対応し、Yは高次感性量である質感の評価値に対応する。
【0111】
よって、算出された物理特性である画像特性を用いて各低次感性量の評価値が算出され、各低次感性量の評価値を用いて最終的に高次感性量の評価値を得ることが可能となる。なお、ここでは、演算により評価値を求めたが、高速に評価値を算出するためには、予め様々な値について式(3)を演算しておき、LUT(ルックアップテーブル)として保持しておいてもよい。
【0112】
画像評価処理部204が全ての画像領域の質感認知モデル毎の高次感性量の評価値を算出したらステップS2103が終了する。
【0113】
次に、質感認知モデル選択処理部205は、画像評価処理部204がステップS2103で求めた評価値を基に、それぞれの領域に適用する質感認知モデルを選択する(S2104)。基本的には、高次感性量の評価値が最も高くなる質感認知モデルを、その画像領域に適合する質感認知モデルとして選択する。このとき、内部処理につき、画面表示上の変化は無い。
【0114】
ただし、高次感性量の評価値が以下の特定条件に合致した場合には、適合モデルなしと判断し、その画像領域については質感調整処理(S2105)を実施しない。これにより、誤った質感調整や、質感調整不要な領域への無駄な処理を回避する。
(1)どの質感認知モデルに適用しても評価値が低く、質感認知モデルとして記憶していない材質と判断した場合。
(2)どの質感認知モデルを適合しても評価値に差がなく、どの質感認知モデルを適用するか判定できないと判断した場合。
(3)文字などのキャラクタで質感調整処理が不要の場合。
【0115】
質感調整処理部206は、画像評価処理部204が算出した高次感性量の評価値および低次感性量の評価値を判定して調整する画像特性を選択する。質感調整処理部206は、そのために、まず、高次感性量の評価値から質感が高いか低いかを判定する。そして、質感が低い場合は、質感を高めるような処理を行い、反対に質感が高すぎる場合は、質感を抑えるような処理を行う。
【0116】
質感調整処理部206は、質感をどのように調整するかの方向性を決めると、次に、どの画像特性をどれだけ変化させればよいかを求める。
【0117】
この際、画像特性は、他の低次感性量の評価値にも影響するため、他の低次感性量の評価値も参照しながら、変更する画像特性および変化量を決定しなければならない。
【0118】
図7を参照して図9の(b)に示すように、質感調整処理部206は、変更する画像特性及び画像特性の変化量を決定する。質感調整処理部206は、最初に、高次感性量の評価値に影響を与える低次感性量の評価値のうち最も低い値を判定する(S2301)。次に、画像特性の中で選択された低次感性量への影響が最も大きい画像特性を重み係数から判断して選択する(S2302)。
【0119】
質感調整処理部206は、選択された画像特性を調整した場合の低次感性量の評価値を再算出して(S2303)、低次感性量の評価値が目標値に達しているか否かを判定する(S2304)。
【0120】
そして、低次感性量の評価値が目標値に満たない場合は、調整量を変更して目標値に届くように設定する。しかし、画像特性を大きく変更した場合、違和感のある画像になる恐れがあるので、調整可能な最大値を設定して、それ以上の調整は行わないようにしている。
【0121】
このため、調整可能な範囲で低次感性量が目標値に達しない場合(S2304のNO)、次に影響が大きい画像特性の値を変化させるため、ステップS2302に戻り、繰り返し処理する。目標値に達した場合(S2304のYES)は、ステップS2305に処理が移る。
【0122】
質感調整処理部206は、選択された低次感性量を調整した場合の高次感性量の評価値を再算出して(S2305)、高次感性量の評価値が目標値に達しているか判定する(S2306)。そして、目標値に満たない場合(S2306のNO)は、ステップS2301に戻り、次に影響の大きい低次感性量の調整を行うため、ステップS2301からステップS2306を繰り返す。一方、評価値が目標値に達した場合(S2306のYES)は、ステップS2307に処理が移る。
【0123】
質感調整処理部206は、ここまでの処理で決定された変更すべき画像特性に対してその変更量を満たすように実施例1と同様な画像処理を行い(S2307)、ステップS2105の処理を終了する。
【0124】
図10の(a)に示すように、質感調整処理部206は、選択された質感認知モデルを領域に適用して質感調整処理を行い、結果がその画像領域(金属)に反映されて表示される(S2105)。
【0125】
ユーザーが質感調整処理された領域上にポインタを当てると(またはクリックすると)、パラメータ表示画像の一例である質感認知モデル調整サブウインドウが表示される。質感認知モデル調整サブウインドウを通じて、ユーザーは、適用された質感認知モデルの種類や感性量評価値(スコア)の確認及び微調整が行える。
【0126】
図10の(b)に示すように、質感認知モデル調整サブウインドウには、現在の適用質感認知モデルM、各感性量の評価値P、各種の質感の微調整用のスライダQ等が表示される。
【0127】
自動処理で適用された質感認知モデルが不適切と判断した場合、ユーザーは、ボタンNをクリックして、図10の(c)に示す質感認知モデル選択メニュー(処理選択画像)を開くことができる。質感認知モデル選択メニューを辿って、適用する質感認知モデルを手動切り替え可能である。
【0128】
質感認知モデル選択メニューから「オリジナル」を選択した場合、質感認知モデルを適用しないオリジナルの入力画像の各感性量の評価値が表示される。
【0129】
スライダQを「低」、「高」どちらかに動かすことで、各感性量の微調整が可能である。各感性量の初期値は、総合質感の評価値(スコア)が最も高くなる位置に設定されているため、各感性量のスライダを個別に調整すると、「低」、「高」どちらに動かしても総合質感のスコアは下がる。
【0130】
総合質感のスライダQは、初期値が最大値なので、それ以上「高」の方向へスライドする(総合質感を上げる)ことはできない。
【0131】
他の個別の感性量のスライダも、適用モデルや画像領域の特徴などにより、調整可能範囲は異なる。
【0132】
図10の(d)に示すように、選択された質感認知モデルを人の顔の画像領域に適用して質感調整処理を行い、結果がその画像領域に反映されて表示される。
【0133】
質感調整処理された領域上にポインタを当てることで、その領域に近接した位置に適用した質感認知モデルの階層表示画像が示される。階層表示画像を通じて適用された質感認知モデルを確認できる。
【0134】
画像出力部207は、実施例1と同様に画像を出力する(S2106)。図6の(d)に示すように、保存ボタンBを操作することで、一連の画像処理が終了して、画像出力が実行される。
【0135】
実施例2の画像処理では、質感を調整する画像処理を行うので、人間の感性に沿った質感調整を行った画像を提供することが可能となる。その際、質感評価処理を加える事により、ユーザーが質感調整量を入力する必要がなくなり、自動で選択したその画像領域により適合する質感認知モデルに従った最適な質感調整を行うことが可能となる。
【0136】
また、全ての低次感性量に対して調整するのではなく、質感評価を行うことで、不足している低次感性量を調整することが可能になり、より人間の感性に沿った質感調整を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0137】
100 画像処理装置
100A コンピュータ
101 画像入力部
102 画像領域分離処理部
103 質感認知モデル記憶部
105 質感認知モデル選択処理部
106 質感調整処理部
107 画像出力部
110 処理画像
111 パラメータ操作画像
111a 画像特性パラメータ
111b 低次感性量パラメータ
111c 高次感性量パラメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像から抽出される複数種類の物理的な画像特性を個別に調整可能な調整手段を用いて、前記複数種類の物理的な画像特性を複合的に調整することにより、入力画像とは画像の質感が異なる出力画像を形成するように入力画像の変換処理を行う画像処理装置において、
前記画像特性をそれぞれ数値化した複数種類の画像特性パラメータを、画像から人間が受け取る潜在感覚をそれぞれ数値化した複数種類の低次感性量パラメータに変換可能な第1の数値変換手段と、入力画像から特定素材の画像領域を選択可能な選択手段と、を有し、
前記選択手段によって選択された画像領域に対して、前記第1の数値変換手段を用いて出力画像の前記画像領域から演算される前記複数種類の低次感性量パラメータが、所定の関係を満たすそれぞれの数値に誘導されるように前記変換処理を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記複数種類の低次感性量パラメータを、画像を通じた素材ごとに異なる質感を数値化した高次感性量パラメータに変換可能な第2の数値変換手段を有し、
前記選択手段によって選択された画像領域に対して、前記第1の数値変換手段及び前記第2の数値変換手段を用いて出力画像の前記画像領域から演算される前記高次感性量パラメータが所定の数値に誘導されるように前記変換処理を行うことを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
画像から抽出される複数種類の物理的な画像特性を個別に調整可能な調整手段を用いて、前記複数種類の物理的な画像特性を複合的に調整することにより、入力画像とは画像の質感が異なる出力画像を形成するように入力画像の変換処理を行う画像処理装置において、
前記画像特性をそれぞれ数値化した複数種類の画像特性パラメータを、画像から人間が受け取る潜在感覚をそれぞれ数値化した複数種類の低次感性量パラメータに変換可能な第1の数値変換手段と、入力画像から特定素材の画像領域を選択可能な選択手段と、を有し、
前記選択手段によって選択された画像領域に対して、前記第1の数値変換手段を用いて出力画像の前記画像領域から演算される前記低次感性量パラメータが、所定の数値に誘導されるように前記変換処理を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
画像から抽出される複数種類の物理的な画像特性を個別に調整可能な調整手段を用いて、前記複数種類の物理的な画像特性を複合的に調整することにより、入力画像とは画像の質感が異なる出力画像を形成するように入力画像の変換処理を行う画像処理装置において、
前記画像特性をそれぞれ数値化した複数種類の画像特性パラメータを、画像を通じた素材ごとに異なる質感を数値化した高次感性量パラメータに変換可能な数値変換手段と、入力画像から特定素材の画像領域を選択可能な選択手段と、を有し、
前記数値変換手段を用いて出力画像の前記画像領域から演算される前記高次感性量パラメータが所定の数値に誘導されるように前記変換処理を行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
前記入力画像と前記出力画像の少なくとも一方を表示可能な表示装置を備え、
前記表示装置に表示された前記画像領域に近接した位置に前記低次感性量パラメータを表示することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記入力画像と前記出力画像の少なくとも一方を表示可能な表示装置を備え、
前記表示装置に表示された前記画像領域に近接した位置に前記高次感性量パラメータを表示することを特徴とする請求項2又は4に記載の画像処理装置。
【請求項7】
画像から抽出される複数種類の物理的な画像特性を個別に調整可能な調整手段を用いて、前記複数種類の物理的な画像特性を複合的に調整することにより、入力画像とは画像の質感が異なる出力画像を形成するように入力画像の変換処理をコンピュータに行わせるプログラムにおいて、
前記画像特性をそれぞれ数値化した複数種類の画像特性パラメータを、画像から人間が受け取る潜在感覚をそれぞれ数値化した複数種類の低次感性量パラメータに変換可能な第1の数値変換手段と、入力画像から特定素材の画像領域を選択可能な選択手段と、を有し、
前記選択手段によって選択された画像領域に対して、前記第1の数値変換手段を用いて出力画像の前記画像領域から演算される前記複数種類の低次感性量パラメータが、所定の関係を満たすそれぞれの数値に誘導されるように前記変換処理を行うことを特徴とするプログラム。
【請求項8】
前記複数種類の低次感性量パラメータを、画像を通じた素材ごとに異なる質感を数値化した高次感性量パラメータに変換可能な第2の数値変換手段を有し、
前記選択手段によって選択された画像領域に対して、前記第1の数値変換手段及び前記第2の数値変換手段を用いて出力画像の前記画像領域から演算される前記高次感性量パラメータが所定の数値に誘導されるように前記変換処理を行うことを特徴とする請求項7記載のプログラム。
【請求項9】
画像から抽出される複数種類の物理的な画像特性を個別に調整可能な調整手段を用いて、前記複数種類の物理的な画像特性を複合的に調整することにより、入力画像とは画像の質感が異なる出力画像を形成するように入力画像の変換処理をコンピュータに行わせるプログラムにおいて、
前記画像特性をそれぞれ数値化した複数種類の画像特性パラメータを、画像から人間が受け取る潜在感覚をそれぞれ数値化した複数種類の低次感性量パラメータに変換可能な第1の数値変換手段と、入力画像から特定素材の画像領域を選択可能な選択手段と、を有し、
前記選択手段によって選択された画像領域に対して、前記第1の数値変換手段を用いて出力画像の前記画像領域から演算される前記低次感性量パラメータが、所定の数値に誘導されるように前記変換処理を行うことを特徴とするプログラム。
【請求項10】
画像から抽出される複数種類の物理的な画像特性を個別に調整可能な調整手段を用いて、前記複数種類の物理的な画像特性を複合的に調整することにより、入力画像とは画像の質感が異なる出力画像を形成するように入力画像の変換処理をコンピュータに行わせるプログラムにおいて、
前記画像特性をそれぞれ数値化した複数種類の画像特性パラメータを、画像を通じた素材ごとに異なる質感を数値化した高次感性量パラメータに変換可能な数値変換手段と、入力画像から特定素材の画像領域を選択可能な選択手段と、を有し、
前記選択手段によって選択された画像領域に対して、前記数値変換手段を用いて出力画像の前記画像領域から演算される前記高次感性量パラメータが所定の数値に誘導されるように前記変換処理を行うことを特徴とするプログラム。
【請求項11】
前記入力画像と前記出力画像の少なくとも一方を表示装置に表示するとともに、
前記表示装置に表示された前記画像領域に近接した位置に前記低次感性量パラメータを表示することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項12】
前記入力画像と前記出力画像の少なくとも一方を表示装置に表示するとともに、
前記表示装置に表示された前記画像領域に近接した位置に前記高次感性量パラメータを表示することを特徴とする請求項8又は10に記載のプログラム。
【請求項13】
特定の質感を持つ素材の原画像に物理的な画像特性を異ならせる画像処理を施して、複数種類の画像特性を個別又は複合的に異ならせた複数の評価用画像を作成する第1工程と、
前記複数の評価用画像を被験者に対比観察させて、画像から人間が受け取る複数種類の潜在感覚について感覚的な変化量を評価させることにより、複数種類の潜在感覚に対する個別の画像特性の寄与度を測定する第2工程と、
前記複数種類の潜在感覚に対する個別の画像特性の寄与度の測定結果を統計処理して、前記第1の数値変換手段を求める第3工程とを有することを特徴とする請求項7、8、9、11、12のいずれか1項に記載のプログラムの製造方法。
【請求項14】
特定の質感を持つ素材の原画像に物理的な画像特性を異ならせる画像処理を施して、複数種類の画像特性を個別又は複合的に異ならせた複数の評価用画像を作成する第1工程と、
前記複数の評価用画像を被験者に対比観察させて、画像を通じた素材ごとに異なる質感について感覚的な変化量を評価させることにより、前記質感に対する個別の画像特性の寄与度を測定する第2工程と、
前記質感に対する個別の画像特性の寄与度の測定結果を統計処理して、前記数値変換手段を求める第3工程とを有することを特徴とする請求項10に記載のプログラムの製造方法。
【請求項15】
前記第2工程は、複数の被験者に対して実行されることを特徴とする請求項13又は14に記載のプログラムの製造方法。
【請求項16】
前記第1工程は、前記出力画像が表示される表示媒体上に表示される前記評価用画像を作成し、
前記第2工程は、前記表示媒体上に表示させた前記評価用画像を用いて実行されることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか1項に記載のプログラムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−171807(P2011−171807A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31186(P2010−31186)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】